半導体式薄膜ガスセンサ及びその製造方法
【課題】半導体式薄膜ガスセンサにおいて、ガス検知の性能を十分に発揮させることである。
【解決手段】薄膜ガスセンサ10は、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体と、薄膜メンブレン構造体上に形成される薄膜ヒータ30と、感ガス膜70と、ヒータ電極用中間膜層42,43と薄膜ヒータ電極40,41とを含む薄膜ヒータ電極部と、感ガス膜電極用中間膜層52,53と感ガス膜電極50,51を含む感ガス膜電極部と、薄膜ヒータ電極40,41を覆う酸化防止保護膜60と、酸化防止保護膜60と薄膜ヒータ電極40,41との間にTiNを含む保護膜用中間膜層80,81を有して構成される。ここで、ヒータ電極用中間膜層42,43はTiNまたはTaNを含み、感ガス膜電極用中間膜層52,53は、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つを含む。
【解決手段】薄膜ガスセンサ10は、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体と、薄膜メンブレン構造体上に形成される薄膜ヒータ30と、感ガス膜70と、ヒータ電極用中間膜層42,43と薄膜ヒータ電極40,41とを含む薄膜ヒータ電極部と、感ガス膜電極用中間膜層52,53と感ガス膜電極50,51を含む感ガス膜電極部と、薄膜ヒータ電極40,41を覆う酸化防止保護膜60と、酸化防止保護膜60と薄膜ヒータ電極40,41との間にTiNを含む保護膜用中間膜層80,81を有して構成される。ここで、ヒータ電極用中間膜層42,43はTiNまたはTaNを含み、感ガス膜電極用中間膜層52,53は、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体式薄膜ガスセンサ及びその製造方法に係り、特に、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設ける半導体式薄膜ガスセンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス検知装置としては、家庭用のガス漏れ検知のための他、燃焼機器の不完全燃焼の検出、車両の排気ガスの成分の検出等広く用いられている。ガス検知には、ガス吸着の酸化還元反応による抵抗変化の大きい酸化物半導体薄膜であるSnOX、TiOX、WOX等が用いられる。そして、ガス吸着の酸化還元反応を効率的に進めるため、これらの酸化物半導体薄膜を加熱することが行われる。
【0003】
加熱動作のための消費電力を抑制するため、ヒータを含むガス検出センサ部の熱容量を低減する構造として、ダイアフラムあるいは薄膜メンブレンと呼ばれる構造が用いられる。これは、Si基板の中央部に薄膜メンブレンを形成し、その薄膜メンブレン上にヒータを含むガス検出センサ部を設けるものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、ダイアフラム構造の薄膜ガスセンサとして、ヒータ層に従来用いられているPtに比べ比抵抗が5倍以上の50μΩ以上で、熱膨張係数が10×10-6/℃以下の材料を用い、低消費電力化を図ることが述べられている。ここでは、両面に熱酸化膜が付いたSi基板上に、ダイアフラム構造の支持膜および熱絶縁膜となるSiNとSiO2膜を順次プラズマCVD法で形成し、その上に、上記特性を有するヒータ層としてTiSi2膜を0.5μm形成し、さらにSiO2絶縁膜を介してヒータ電極とガス感応膜電極をPt/Taにより同時形成し、スパッタリング法によりガス感応膜となるSnO2膜を形成し、最後に基板裏面からエッチングによりSiを除去してダイアフラム構造とすることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−214119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に述べられているように、ヒータ電極、ガス感応膜電極として、Pt/Taの積層構造が用いられる。このPtは電極金属層で、Taは、電極金属層が配線される下地材料と電極金属層との間の密着性向上のためと、下地材料からの不純物が電極金属層であるPtに拡散することを防止するためなどのために用いられる中間膜層である。
【0007】
電極金属層と下地材料との間に中間膜層を設けることは、半導体装置において広く行われる。ところで、ガス検知装置の場合、例えばSnOXの酸化還元反応を利用する場合、その反応を促進させるために、センサ製造工程中で約700℃程度の酸素雰囲気でアニール処理することが行われ、また実際のガス検知の際には、ヒータによって約400℃程度に加熱され、さらに検知対象自体が活性ガスである。一般的な半導体装置では、高温下であっても不活性ガス雰囲気であり、活性ガス雰囲気で使用されることはあまり例がない。
【0008】
したがって、ガス検知装置に用いられる中間膜層のバリア性は、一般的な半導体装置に用いられる中間膜層のバリア性とかなり異なることがある。場合によっては、下地材料の拡散が進行して、電極金属層の組成が変化し、高抵抗となることが生じ得る。また、Ptはガス検知において一種の触媒的作用を奏しているが、Ptの組成が変化すると、ガス検知の能力にも影響が生じ得る。このように、中間膜層によって、ガス検知の性能が左右されることが生じ得る。
【0009】
また、中間膜層の材料によっては、上記の酸素雰囲気中のアニール処理や、ガス検出の際の加熱によって酸化等を生じ、コンタクト抵抗が増加することがある。このように、中間膜層の選択や配置については、酸素雰囲気中のアニールやガス検出の際の加熱による下地材料の拡散を防止するバリア機能と共に、中間膜層自身の酸化等の変質の抑制を考慮することが必要である。
【0010】
本発明の目的は、ガス検知の性能を十分に発揮させることを可能とする半導体式薄膜ガスセンサ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサは、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設け、アニール熱処理を経て得られる半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータの両端の電極接続部に接続され、Ptで構成される薄膜ヒータ電極と、少なくとも薄膜ヒータの電極接続部と薄膜ヒータ電極との間に設けられ、TiNまたはTaNを含むヒータ電極用中間膜層と、感ガス膜の両端の電極接続部に接続され、Ptで構成される感ガス膜電極と、少なくとも感ガス膜の電極接続部と感ガス膜電極との間に設けられ、TiO2またはTa2O3またはAl2O3の少なくとも1つを含む感ガス膜電極用中間膜層と、少なくとも薄膜ヒータ電極を覆う酸化防止保護膜であって、薄膜ヒータ電極との間にTiNを含む保護膜用中間膜層を有する酸化防止保護膜と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータの電極接続部は、Ptである薄膜ヒータ電極の電極接続部側にTiNを含むヒータ電極用中間膜層が積層され、薄膜ヒータ電極の電極接続側と反対側にTiNを含む保護膜用中間膜層が積層される積層構造を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、ヒータ電極用中間膜層は、TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層であり、保護膜用中間膜層は、TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータ電極側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータ電極側となる積層膜層であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、感ガス膜電極用中間膜層は、TiO2とTiONの積層構造でTiO2層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはTa2O5とTaONの積層構造でTa2O5層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはAl2O3とAlONの積層構造でAl2O3層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、酸化防止保護膜は、SiO2,SiN,SiONの少なくとも1つを含んで構成されることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極との間の接触抵抗値が、10-4Ω/cm-2以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータ電極と感ガス膜電極との間に設けられる中間絶縁膜を有することが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサの製造方法は、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設け、アニール熱処理を経て得られる半導体式薄膜ガスセンサの製造方法であって、Si基板を両面研摩する工程と、Si基板の一方側である表面に、メンブレン層となる薄膜絶縁膜層を形成する工程と、薄膜絶縁膜層の上に、所定の抵抗率を有するポリシリコン膜を形成し、所定のヒータ形状に成形する薄膜ヒータ形成工程と、薄膜ヒータを覆って層間絶縁膜となる絶縁膜層を形成する工程と、層間絶縁膜において、薄膜ヒータの両端の電極接続部に対応する箇所を一対のヒータ用コンタクトホールとして開口する工程と、TiNまたはTaNを含むヒータ電極用中間膜層と、その上のPt層と、Pt層の上のTiNまたはTaNを含む保護膜用中間膜層とを連続的に積層してヒータ電極積層膜を形成する工程と、ヒータ電極積層膜について、一対のヒータ用コンタクトホールを覆って一対の所定の薄膜ヒータ電極形状に成形するヒータ電極部形成工程と、層間絶縁膜の上に、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つを含む感ガス膜電極用中間膜層と、その上のPt層とを連続的に積層して感ガス膜電極積層膜を形成する工程と、感ガス膜電極積層膜について、一対の所定の感ガス膜電極形状に成形する感ガス膜電極部形成工程と、感ガス膜電極部を覆う酸化防止保護膜を形成する工程と、酸化防止保護膜を部分的に除去して感ガス膜電極部を露出させ、また保護膜用中間膜層と酸化防止保護膜を部分的に除去して一対の薄膜ヒータ電極部の末端側の引出部を露出させる工程と、リフトオフ用薄膜層を全面に形成し、一対の感ガス膜電極部のそれぞれの先端の電極接続部に相当する箇所を少なくとも露出させながら、所定の感ガス膜形状に相当する部分を除去する工程と、感ガス膜層を全面に形成し、リフトオフ薄膜をリフトオフ法によって除去して、両端の電極接続部が感ガス膜電極部に接続された感ガス膜を形成し、同時に、一対の薄膜ヒータ電極部と、一対の感ガス膜電極部の末端側の引出部を露出させる工程と、所定のアニーリング条件でアニール熱処理する工程と、Si基板の両面をレジストで覆い、Si基板の他方側である裏面において、表面側に形成された各要素のパターンに対し裏面エッチング箇所に相当する部分を位置合わせし、裏面エッチング箇所に相当する部分のレジストを除去する工程と、Si基板の裏面について、レジストを用いて裏面エッチング箇所のSiをメンブレン層が露出するまで除去してSi基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記構成により、半導体式薄膜ガスセンサは、薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極であるPtとの間の中間膜層としてTiNまたはTaNが用いられ、感ガス膜と感ガス膜電極であるPtとの間の中間膜層として、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つが用いられる。従来技術では、特許文献1に述べられているように、中間膜層は、ヒータ用も感ガス膜用もTaである。ここでは、薄膜ヒータ電極の下地材料はポリシリコンであり、感ガス膜電極の下地材料は絶縁膜である。このように下地材料が異なるので、Pt電極に及ぼす影響も異なる。ここでは、ポリシリコンヒータからのSi拡散防止に効果的な中間膜層を実験で調べた結果として、TiNまたはTaNが用いられ、絶縁膜からのSiO2拡散防止に効果的な中間膜層を実験で調べた結果として、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つが用いられる。これによって、薄膜ヒータとの接続、感ガス膜との接続を良好にでき、ガス検知の性能を十分に発揮させることができる。
【0020】
また、薄膜ヒータ電極を覆って酸化防止保護膜が設けられる。この酸化防止保護膜は、薄膜ヒータ電極との間にTiNを含む保護膜用中間膜層を有する。酸化防止保護膜は、適切な膜厚を設定することで、酸素雰囲気中のアニール処理のように、高温酸化雰囲気によって、TiNまたはTaNのヒータ電極用中間膜層が酸化されないように機能する。また、保護膜用中間膜層を設けることで、酸化防止保護膜と薄膜ヒータ電極との間の密着性を向上させることができる。このように、薄膜ヒータ電極を覆って酸化防止保護膜を設けることで、ヒータ電極用中間膜層のバリア機能を確保し、ガス検知の性能を十分に発揮させることができる。
【0021】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータの電極接続部は、TiN−Pt−TiNの積層構造を有するので、連続的成膜工程を利用できる。
【0022】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、ヒータ電極用中間膜層は、TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層である。TiとTaは下地材料との密着性向上を図ることができる中間膜層として従来から広く用いられている。高温活性化ガス雰囲気下でこれらを用いると、下地材料のSi、SiO2のバリア性が低下する。上記構成によれば、TiとPtの間にTiNが配置され、TaとPtの間にTaNが配置されるので、中間膜層として、密着性の向上と、バリア性の向上とを共に図ることが可能になる。
【0023】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、感ガス膜電極用中間膜層は、TiO2とTiONの積層構造でTiO2層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはTa2O5とTaONの積層構造でTa2O5層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはAl2O3とAlONの積層構造でAl2O3層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層である。このように、下地材料側にTiON、TaON、AlONが配置されるので、中間膜層として、密着性の向上と、バリア性の向上とを共に図ることが可能になる。
【0024】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、酸化防止保護膜は、SiO2,SiN,SiONの少なくとも1つを含むので、酸素に対するバリア膜として機能することができる。
【0025】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極との間の接触抵抗値が、10-4Ω/cm-2以下であるので、薄膜ヒータとの接続を良好なものとでき、ガス検知の性能を十分に発揮させることができる。
【0026】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータ電極と感ガス膜電極との間に設けられる中間絶縁膜を有する。このようにすることで、薄膜ヒータ電極の下地材料と、感ガス膜電極の下地材料とが異なる場合、中間膜層を、薄膜ヒータ電極用と、感ガス膜電極用とで、異ならせることが容易になる。これによって、薄膜ヒータとの接続も、感ガス膜との接続も良好にすることが容易となる。
【0027】
また、半導体式薄膜ガスセンサの製造方法は、薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極との接続工程と、感ガス膜と感ガス膜電極との接続工程とを別々に行う。これによって、薄膜ヒータとの接続も、感ガス膜との接続も良好にすることが容易となる。また、薄膜ヒータ電極を覆って酸化防止保護膜を設けることで、ヒータ電極用中間膜層のバリア機能を確保し、ガス検知の性能を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る実施の形態の半導体式薄膜ガスセンサの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータの電極周辺の構造を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、感ガス膜の電極周辺の構造を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の半導体式薄膜ガスセンサの製造工程を示す図の1つで、Si基板に薄膜層を形成する工程を示す図である。
【図5】図4のあと、薄膜ヒータを形成する工程を示す図である。
【図6】図5のあと、薄膜ヒータの電極接続部側のコンタクトホールを形成する工程を示す図である。
【図7】図6のあと、ヒータ電極用中間膜層と薄膜ヒータ電極と保護膜用中間膜層とを形成する工程を示す図である。
【図8】図7のあと、感ガス膜電極用中間膜層と感ガス膜電極とを形成する工程を示す図である。
【図9】図8のあと、酸化防止保護膜を形成する工程を示す図である。
【図10】図9のあと、薄膜ヒータ電極の一部、感ガス膜電極の一部を露出する工程を示す図である。
【図11】図10のあと、リフトオフ法を用いるためにリフトオフ用のレジストを形成する工程を示す図である。
【図12】図11のあと、リフトオフ法によって、感ガス膜層を形成し、薄膜ヒータ電極の一部、感ガス膜電極の一部も現れるように処理する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、半導体式薄膜ガスセンサの感ガス膜として、SnO2膜を説明するが、これ以外の組成の感ガス膜であってもよい。一般的にSnOXの組成であってもよく、また、アニール処理を経て得られる感ガス膜であれば、TiOX、WOX等の組成であってもよい。
【0030】
以下で説明する寸法、膜厚、材質、製造条件等は、説明の一例であり、半導体式薄膜ガスセンサの仕様に応じ、適宜変更が可能である。
【0031】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0032】
図1は、半導体式薄膜ガスセンサ10の構造を説明する図である。半導体式とは、薄膜ガスセンサを作り出すために、LSI等の半導体デバイスの製造方法として広く知られている薄膜形成技術、フォトリソグラフィ技術、Si等の半導体基板の深溝エッチング技術等を用いているためである。以下では、特に断らない限り、半導体式薄膜ガスセンサ10のことを、単に、薄膜ガスセンサ10と呼ぶことにする。
【0033】
図1は、薄膜ガスセンサ10の平面図と、2方向からの断面図が示されている。薄膜ガスセンサ10は、平面図で分かるように、感ガス膜電極50,51と、薄膜ヒータ電極40,41が互いに直交する配置関係となっている。そのために、断面図として、感ガス膜70に関する構造が分かる方向のものと、薄膜ヒータ30に関する構造が分かる方向のものと2つ示してある。
【0034】
薄膜ガスセンサ10は、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体と、薄膜メンブレン構造体上に形成される薄膜ヒータ30と、感ガス膜70と、ヒータ電極用中間膜層42,43と薄膜ヒータ電極40,41とを含む薄膜ヒータ電極部と、感ガス膜電極用中間膜層52,53と感ガス膜電極50,51を含む感ガス膜電極部と、薄膜ヒータ電極40,41のパッド部と感ガス膜電極50,51のパッド部と感ガス膜70の領域を除いて全体を覆う酸化防止保護膜60と、酸化防止保護膜60と薄膜ヒータ電極40,41の間に設けられる保護膜用中間膜層80,81とを有して構成される。
【0035】
薄膜メンブレン構造体は、薄膜メンブレンの周囲がSi基板で保持されている構造体である。図1では、3層構造の薄膜メンブレン20の周囲を、中央部16がエッチングで除去された形態の角型の支持部14で支持された薄膜メンブレン構造体が示されている。
【0036】
支持部14は、上記のように、中央部16がエッチングで除去された形態の角型のSi基板であるが、このような支持部14を薄膜メンブレン20と別体でつくって、その上に薄膜メンブレン20を貼付したものではない。後述する製造工程の説明で示されるように、実際には、Si基板の上に3層構造の薄膜を形成し、その薄膜付きSi基板の裏側から、中央部16をエッチングし、ちょうど薄膜に達したところでエッチングを止める方法で薄膜メンブレン構造が形成される。
【0037】
支持部14が形成される元のSi基板としては、面方位(100)、比抵抗が約1Ω・cmで、厚さが約0.3mmのものを用いることができる。以下も含めて、これらの数値は、あくまで説明のための例示である。
【0038】
薄膜メンブレン20は、上記のように、予めSi基板の上に、順次に3層の薄膜が形成されたものである。薄膜メンブレン20は、支持部14の側から順に、熱酸化膜22、減圧下のCVD(Chemical Vapor Deposition)法によるSiN膜24、常圧下のCVD法による酸化膜26で構成される。このように、薄膜メンブレン20は、絶縁膜積層体である。薄膜メンブレン20が複数層の絶縁膜で構成されるのは、支持部14を形成するときのSiエッチングのストッパと、支持部14のエッチング保護膜として機能させるためと、メンブレンとして、適当な膜張力を有するように、複数層の応力が合計で引張応力となるようにするためである。
【0039】
薄膜メンブレン20を構成する各層の厚さは、熱酸化膜22が約400nm、SiN膜24が約200nm、酸化膜26が約200nmである。
【0040】
薄膜ヒータ30は、薄膜メンブレン20の上に形成されるヒータ抵抗体で、ここでは高抵抗ポリシリコン層を適当な薄膜抵抗の形状に形成したものが用いられる。高抵抗ポリシリコン層は、減圧下のCVD法でポリシリコン層を形成し、その後イオン注入によって適当な不純物濃度とされる。ポリシリコン層の厚さは、約300nmである。イオン注入は、3族元素であるBを、約60kVのイオン注入電圧で、6×1015/cm2程度の不純物濃度とする。イオン注入の後、導電性を持たせるために、N2雰囲気で約1000℃、60minの活性化熱処理が行われる。
【0041】
薄膜ヒータ30は、上記のようにして形成された高抵抗ポリシリコン層を、図1の例では、短冊状の形状とし、その両端を電極接続部としたものである。その両端の電極接続部には、それぞれ薄膜ヒータ電極部が接続されるので、その一対の薄膜ヒータ電極部の間に電流を流して発熱させることができる。薄膜ヒータ30を所定の形状にするには、RIE(Reactive Ion Etching)法が用いられる。
【0042】
感ガス膜70は、薄膜ヒータ30との間に層間絶縁膜32等を挟んで、その上に形成されるガス感応膜で、ここではSnO2薄膜を適当な形状に形成したものが用いられる。SnO2薄膜は、まずSn薄膜をスパッタリング法で形成し、その後、酸素雰囲気で約700℃、30minのアニールが行われ、SnO2薄膜とする。感ガス膜70の厚さは、約200nmである。なお、薄膜ヒータ30の上に設けられる層間絶縁膜32は、減圧下のCVD法により形成されたSiO2である。その厚さは、約400nmである。
【0043】
薄膜ヒータ電極部は、薄膜ヒータ30の両端の電極接続部に接続される一対の電極部である。薄膜ヒータ電極部は、薄膜ヒータ30の上に形成される層間絶縁膜32に電極接続部に対応するコンタクトホールを開け、その上に、TiNのヒータ電極用中間膜層42,43とPtの薄膜ヒータ電極40,41とTiNの保護膜用中間膜層80,81をスパッタリング法で連続的に積層し、これを一対の電極形状に成形したものである。図1では、その成形後の一対の電極部を、ヒータ電極用中間膜層42,43と薄膜ヒータ電極40,41と保護膜用中間膜層80,81の積層構造として示してある。
【0044】
TiNのヒータ電極用中間膜層42,43の厚さは、約20nm、Ptの薄膜ヒータ電極40,41の厚さは、約200nm、TiNの保護膜用中間膜層80,81の厚さは、約20nmである。これらの積層層を一対のヒータ電極部の形状に成形するには、RIE法を用いることができる。なお、TiNのヒータ電極用中間膜層42,43とPtの薄膜ヒータ電極40,41は、以後の工程でも同じ形状のままであるが、TiNの保護膜用中間膜層80,81は、酸化防止保護膜において薄膜ヒータ電極40,41のパッド部を露出させる際に、そのパッド部の部分が酸化防止保護膜60と共に除去される。
【0045】
図2は、図1のA部の拡大断面図である。ここでは、薄膜ヒータ30の上に、ヒータ電極用中間膜層42と薄膜ヒータ電極40が積層されている様子が示されている。また、薄膜ヒータ電極40の上に保護膜用中間膜層80が積層され、その上に中間絶縁膜48と酸化防止保護膜60が設けられている様子が示されている。
【0046】
上記のように、薄膜ヒータ30はポリシリコン層で、ヒータ電極用中間膜層42はTiNで、薄膜ヒータ電極40はPtであるので、Pt/TiN/Siの積層構造になっていることになる。このように、TiNは、ポリシリコン層とPt電極層との間の中間膜層となっている。
【0047】
このように、ここでの中間膜層とは、ポリシリコン層とPt層との間に設けられる中間膜としての層で、以後の加熱工程等で、ポリシリコン層を構成するSiがPt層に拡散等をしないように阻止するバリア層としての機能を有する層である。このような中間膜層の材料としては、従来からTiが知られている。TiはSiと反応して低抵抗のチタンシリサイドを形成することから、ポリシリコン層とPt層との間の中間膜層の材料として適する反面、例えばさらに高温下、あるいは活性ガス雰囲気の高温下のような状況では、Tiを通ってSiがPt層に入り込むことが生じる。Pt層にSiが入り込むと、白金シリサイドを形成するが、これは同じシリサイドでもチタンシリサイドとは異なって高抵抗である。したがって、ガスセンサのように、以後の加熱工程等がある場合には、Tiは、ポリシリコン層とPt層との間の中間膜層の材料として必ずしも最適のものではない。
【0048】
ヒータ電極用中間膜層42,43は、TiNをその材料として用いる。これは、Siに対するバリア性があることと、以後の約700℃の加熱工程でもPt層との間の接続抵抗が低抵抗を維持することから選択されたものである。
【0049】
なお、図1の例では、ヒータ電極用中間膜層42,43と、薄膜ヒータ電極40,41は、同一の形状としたが、ヒータ電極用中間膜層42,43は、少なくとも、電極接続部のところで、ポリシリコン層の薄膜ヒータ30とPt層の薄膜ヒータ電極40,41との間に設けられていれば足りる。
【0050】
ポリシリコン層とPt層との間の中間膜層としては、TiN以外にTaNを用いることもできる。また、TiNとポリシリコン層との間にTiを設け、Pt/TiN/Tiの3層構造としてもよい。TaNを用いる場合は、Pt/TaN/Taとすることができる。このようにすることで、チタンシリサイド、またはタンタルシリサイドをポリシリコン層側に形成し、低抵抗で密着性を向上させることができる。
【0051】
例えば、実験的に同一パターンで、同一加熱履歴条件の下でコンタクト抵抗を比較してみると、Pt/TiNは、1.4Ω、Pt/TiN/Tiは、0.8Ω、Pt/Tiは、154Ωとなった。
【0052】
図2において、酸化防止保護膜60は、中間絶縁膜48と共に薄膜ヒータ電極40を覆っている。中間絶縁膜48も酸化防止保護膜60もプラズマCVDで生成される絶縁膜である。絶縁膜としては、SiO2、SiN、SiON等を用いることができる。SiNを含むSiONとすることもできる。これらの絶縁膜は適当な厚さを有することで、酸素に対するバリア層として働く。後述するように、中間絶縁膜48は、薄膜ヒータ30と薄膜ヒータ電極部とを形成した後に、成膜され、その上に感ガス膜電極部と感ガス膜が形成される中間層的な絶縁膜であるので、膜厚は適当である。したがって、酸素に対するバリア性を確保するには、酸化防止保護膜60の膜厚を適当な厚さに設定する必要がある。
【0053】
薄膜ガスセンサ10における酸素雰囲気中のアニール処理は、約700℃であるので、この温度での酸素のバリア性を確保するには、400nm程度の膜厚がよい。膜厚が厚いほど、酸素に対するバリア性が高まるが、あまり厚いと、膜応力で膜が破損する。したがって、1000nm以下の膜厚が好ましい。膜厚があまり薄いと、酸素のバリア性が低下する。このことから、100nm以上の膜厚がよい。
【0054】
保護膜用中間膜層80は、薄膜ヒータ電極40と酸化防止保護膜60との密着性を向上させるために設けられる膜である。図2では、保護膜用中間膜層80の上は酸化防止保護膜60ではなくて、中間絶縁膜48であるが、上記のように、中間絶縁膜48も酸化防止保護膜60もプラズマCVDで生成される絶縁膜であるので、これらの絶縁膜の間の密着性に問題はない。密着性が問題になるのは、薄膜ヒータ電極40と絶縁膜との間である。したがって、図2では、保護膜用中間膜層80は、中間絶縁膜48を介して、酸化防止保護膜60と薄膜ヒータ電極40との間の密着性に寄与する。
【0055】
金属電極と絶縁膜との間の密着性改善の中間膜層としては、Ti、TiN,TaN等、様々な材料が知られている。ここでは、ヒータ電極用中間膜層42と同じ材料を用いることがよい。同じ材料を用いることにすれば、薄膜ヒータ30を形成した後、ヒータ電極用中間膜層42を成膜し、その次に薄膜ヒータ電極としてPtを成膜し、その次に再び、ヒータ電極用中間膜層42と同じ材料を用いて成膜すれば、容易に、ヒータ電極用中間膜層42−薄膜ヒータ電極40−保護膜用中間膜層80の積層構造を連続成膜で得ることができる。
【0056】
再び図1に戻り、感ガス膜電極部は、感ガス膜70の両端の電極接続部に接続される一対の電極部である。薄膜ヒータ電極部は、薄膜ヒータ30の上方に積層するように形成されたが、感ガス膜電極部は、感ガス膜70の下方に積層するように形成される。すなわち、感ガス膜電極部の上方に感ガス膜70が積層される構成となる。
【0057】
感ガス膜電極部は、薄膜ヒータ電極部と別々に形成するために薄膜ヒータ電極部の上に設けられる中間絶縁膜48の上に、TiO2の中間膜層とPtの電極層とをスパッタリング法で連続的に積層し、これを一対の電極形状に成形したものである。中間絶縁膜48は、層間絶縁膜32と同様に、減圧下のCVD法によって形成されるSiO2である。図1では、その成形後の一対の電極部を、感ガス膜電極用中間膜層52,53と感ガス膜電極50,51として示してある。
【0058】
TiO2の中間膜層の厚さは、約20nm、Ptの電極層の厚さは、約200nmである。これらの積層層を一対の感ガス膜電極用中間膜層52,53と感ガス膜電極50,51の形状に成形するには、RIE法を用いることができる。
【0059】
図3は、図1のB部の拡大断面図である。ここでは、層間絶縁膜32、中間絶縁膜48の上に、感ガス膜電極用中間膜層52と感ガス膜電極50が積層され、その上に感ガス膜70が形成されている。また、感ガス膜70が形成されない感ガス膜電極50の上は、酸化防止保護膜60で覆われている。
【0060】
なお、図2と比較して、感ガス膜電極50と酸化防止保護膜60との間には保護膜用中間膜層80が設けられていない。これは、実験によると、薄膜ガスセンサ10における酸素雰囲気中のアニール処理によって特性が変化するのは、ヒータ電極用中間膜層42,43の方が大きいことがわかったためである。したがって、酸化防止保護膜60は、少なくとも薄膜ヒータ電極40を覆っていればよく、酸化防止保護膜60は、ヒータ電極用中間膜層42の酸化防止のための保護膜である。
【0061】
上記のように、層間絶縁膜32、中間絶縁膜48は、SiO2で構成でき、感ガス膜電極用中間膜層52はTiO2で、感ガス膜電極50はPtで、感ガス膜70はSnO2であるので、SnO2/Pt/TiO2/SiO2の積層構造になっていることになる。ここで、SnO2に接続される電極材料にPtが用いられるのは、SnO2がガス検知を行う酸化還元作用に対する触媒金属としての機能があるからである。このように、TiNは、SnO2に接続されるPt層とSiO2との間の中間膜層となっている。
【0062】
このように、ここでの感ガス膜電極用中間膜層52とは、SnO2に接続されるPt層とSiO2との間に設けられる中間膜としての層で、以後の加熱工程等で、SiO2を構成するSiがPt層に拡散してPt層を変質させないように阻止するバリア層としての機能を有する層である。薄膜ヒータ電極部で説明したように、このような中間膜層の材料としては、従来からTiが知られているが、高温下、あるいは活性ガス雰囲気の高温下のような状況では、Tiを通ってSiがPt層に入り込むことが生じる。Pt層にSiが入り込むと、Pt層が純Ptと異なる組成となり、感ガス膜であるSnO2に対する触媒作用が阻害される。ガスセンサのように、以後の加熱工程等がある場合には、Tiは、SnO2に接続されるPt層とSiO2との間の中間膜層の材料として必ずしも最適のものではない。
【0063】
感ガス膜電極用中間膜層52,53は、TiO2をその材料として用いる。これは、Siに対してバリア性があり、以後の約700℃の加熱工程でもやはりSiに対してバリア性を維持することから選択されたものである。なお、図1の例では、感ガス膜電極用中間膜層52,53と、感ガス膜電極50,51は、同一の形状としたが、感ガス膜電極用中間膜層52,53は、少なくとも、電極接続部のところで、SiO2である中間絶縁膜48、層間絶縁膜32と、Pt層の感ガス膜電極50,51との間に設けられていれば足りる。
【0064】
SiO2とPt層との間の中間膜層としては、TiO2以外に、Ta2O5またはAl2O3を用いることもできる。また、TiO2とSiO2の間にTiONを設け、Pt/TiO2/TiONの3層構造としてもよい。これによって、下地のSiO2との密着性が向上する。また、Ta2O5を用いる場合は、Pt/Ta2O5/TaONとすることができる。また、Al2O3を用いる場合は、Pt/Al2O3/AlONとすることができる。
【0065】
次に、上記構成の薄膜ガスセンサ10を製造する手順について、図4から図11を用いて説明する。
【0066】
図4は、最初にSi基板12を準備して、その上に薄膜メンブレン20を形成する様子を示す図である。Si基板としては、両面研摩された面方位(100)の直径が約100mm、厚さが約0.3mm、比抵抗が約1Ω・cmのものを用いることができる。
【0067】
次に、このSi基板の全面を熱酸化法により、厚さ400nmのSiO2を成長させる。この熱酸化膜22の上に、厚さ200nmのSiN膜24を減圧下のCVD法で形成する。さらにその上に、厚さ200nmの酸化膜26をプラズマCVD法で形成する。この3層構造の薄膜が薄膜メンブレン20となる。図4では、Si基板12の両面に3層構造の薄膜が示されているが、Si基板12の側面にも3層構造の薄膜が形成される。薄膜メンブレン20の形成に当っては、上記で説明したように、3層構造の薄膜の応力が全体として引張応力となるように応力制御される。
【0068】
なお、CVD法において、反応台の上に熱酸化膜22を形成した後のSi基板12を置いて薄膜を形成するものとするときは、反応台側には薄膜はほとんど形成されない。その場合には、Si基板12の表面側に3層構造の薄膜メンブレン20が形成され、裏面側には熱酸化膜22が形成される構造となる。このように、Si基板12の裏面側は、製造方法によって構造が異なるので、以下では、Si基板12の裏面側に形成された膜の図示を省略する。
【0069】
図5は、次に、薄膜ヒータ30を形成する様子を示す図である。この図は、上段に断面図、下段に平面図が示されている。薄膜ヒータ30は、薄膜メンブレン20の上に、平面図でその中央部に配置されるように形成される。
【0070】
薄膜ヒータ30の形成は、次の手順で行われる。まず、減圧下のCVD法で、厚さ約300nmのポリシリコン層を形成する。その後イオン注入によって3族元素であるBが、約60kVのイオン注入電圧で、6×1015/cm2程度の不純物濃度となるように打ち込まれる。そして、イオン注入の後、導電性を持たせるために、N2雰囲気で約1000℃、60minの活性化熱処理が行われる。このようにして高抵抗ポリシリコン層が、薄膜メンブレン20の上面の全面に形成される。この高抵抗ポリシリコン層が、RIE法によって、図5に示されるように、短冊状の形状に形成される。この短冊状の高抵抗ポリシリコン層が、薄膜ヒータ30となる。
【0071】
図6は、次に、薄膜ヒータ30の上を覆って、層間絶縁膜32が形成され、その層間絶縁膜32において、薄膜ヒータ30の両端の電極接続部に対応する箇所に、コンタクトホール34,35を形成する様子を説明する図である。
【0072】
層間絶縁膜32は、厚さが約400nmで、プラズマCVD法により形成されたSiO2である。コンタクトホール34,35は、RIE法によって、上記のように、薄膜ヒータ30の両端の電極接続部に対応する箇所の層間絶縁膜32を除去することで形成される。
【0073】
図7は、次に、薄膜ヒータ電極部を形成する様子を説明する図である。薄膜ヒータ電極部の形成は、次の手順で行われる。すなわち、スパッタリング法で、厚さが約20nmのTiNのヒータ電極用中間膜層と、厚さが約200nmのPtのヒータ電極層と、厚さが約20nmのTiNの保護膜用中間膜層とを連続的に成膜して、積層膜とする。このようにして、層間絶縁膜32の上に全面的にTiN/Pt/TiNの積層膜が形成されると、RIE法によって、所定の一対の電極形状に成形され、これらが、一対の薄膜ヒータ電極部となる。
【0074】
図7の断面図では、TiNのヒータ電極用中間膜層42,43、Pt層の薄膜ヒータ電極40,41、TiNの保護膜用中間膜層80,81が示されている。平面図では、上層である保護膜用中間膜層80,81で覆われた薄膜ヒータ電極40,41が示され、その下層であるヒータ電極用中間膜層42,43が図示されていない。平面図で示されるように、薄膜ヒータ電極40,41の薄膜ヒータ30の側は、図6で説明したコンタクトホール34,35に対応する形状に形成され、この部分が、薄膜ヒータ30における電極接続部に対応する。
【0075】
図8は、次に、薄膜ヒータ電極部を覆う中間絶縁膜48を形成し、その上に感ガス膜電極部を形成する様子を示す図である。中間絶縁膜48は、プラズマCVD法によって適当な厚さで形成されたSiO2である。このように、中間絶縁膜48は、薄膜ヒータ電極部と感ガス膜電極部とを絶縁層で分離する機能を有する。このようにすることで、薄膜ヒータ電極40,41の下地材料と、感ガス膜電極50,51の下地材料とが異なる場合、ヒータ電極用中間膜層42,43と、感ガス膜電極用中間膜層52,53とで、異ならせることが容易になる。これによって、薄膜ヒータとの接続も、感ガス膜との接続も良好にすることが容易となる。場合によっては、中間絶縁膜48を省略してもよい。
【0076】
感ガス膜電極部の形成は、次の手順で行われる。すなわち、スパッタリング法で、厚さが約20nmのTiO2の感ガス膜電極用中間膜層と、厚さが約200nmのPtの感ガス膜電極とを連続的に成膜して、積層膜とする。このようにして、中間絶縁膜48の上に全面的にPt/TiO2の積層膜が形成されると、RIE法によって、所定の一対の電極形状に成形され、これらが、一対の感ガス膜電極部となる。
【0077】
図8の断面図では、Pt層の感ガス膜電極50,51、TiO2の感ガス膜電極用中間膜層52,53が示されている。平面図では、上層である感ガス膜電極50,51が示され、その下層である感ガス膜電極用中間膜層52,53が図示されていない。平面図で示されるように、感ガス膜電極50,51の向かい合う部分が幅広とされ、この部分が次に形成される感ガス膜70における電極接続部に対応する。
【0078】
図9は、次に、全面に酸化防止保護膜60が形成された様子を示す図である。酸化防止保護膜60は、プラズマCVD法によって、約400nmの厚さで成膜される。薄膜ヒータ電極40,41の上には、保護膜用中間膜層80,81が形成されているので、中間絶縁膜48を介して、酸化防止保護膜60は、薄膜ヒータ電極40,41と密着性良く成膜される。
【0079】
図10は、次に、酸化防止保護膜60について、所定の箇所を開口する工程を示す図である。開口は、場所によって、酸化防止保護膜60であるSiO2を除去し、場所によってはさらに、ヒータ電極用中間膜層42,43であるTiNを除去して行われる。SiO2の除去は、CHF3を用いるRIE法を用い、TiNの除去は、BCl3を用いるRIE法を用いることができる。
【0080】
開口部は、複数ある。1つは、後に感ガス膜70が配置される箇所に設けられる開口部84である。この開口部84は、酸化防止保護膜60が除去され、感ガス膜電極50,51が一部露出する。この露出部が感ガス膜と電気的に接続される接続箇所となる。他の2つの開口部86,87は、薄膜ヒータ電極40,41のそれぞれのパッド部に相当する箇所に設けられる。この開口部86,87は、酸化防止保護膜60であるSiO2を除去し、さらに、ヒータ電極用中間膜層42,43であるTiNが除去され、Ptが露出する。残りの2つの開口部88,89は、感ガス膜電極50,51のそれぞれのパッド部に相当する箇所に設けられる。この開口部88,89は、酸化防止保護膜60が除去され、Ptが露出する。
【0081】
図11と図12は、感ガス膜70の形成の手順を示す図である。感ガス膜70は、一対の感ガス膜電極部の上にリフトオフ法によって配置される。リフトオフ法は、レジスト膜のように、剥離が容易な膜に開口部を設け、その上に全面に目的の薄膜を形成し、その後にレジスト膜を剥離すると、開口部のところは下地に密着して残り、その他の部分がレジスト剥離と共に除去されることを利用して、開口部の形状に目的の薄膜を成形する技術である。
【0082】
図10は、リフトオフ法を用いるために、酸化防止保護膜60の上に、全面にレジスト膜66を塗布し、感ガス膜70を形成したい箇所だけ、レジスト膜を除去して、開口部68を形成する工程を示す図である。図10では、開口部68に、感ガス膜電極50,51の電極接続部に相当する部分が露出している様子が示されている。レジスト膜66は、スピンナを用いて適当な感光性レジストを一様厚さに塗布したものを用いることができ、開口部68は、その形状のマスクを用いて、レジスト膜66を露光し、その後現像して、その形状を除去することで形成することができる。
【0083】
図12は、感ガス膜70を形成する様子を説明する図である。感ガス膜70の形成は、次の手順で行われる。まずレジスト膜66の上の全面に、厚さが約200nmのSn薄膜をスパッタリング法で形成する。そして、レジスト膜66を剥離する。このときに、リフトオフによって、図11で説明した開口部68の部分のみ、Sn薄膜が残り、他の部分は、レジスト剥離と共に除去される。こうして、開口部68の形状と同じ形状のSn薄膜が形成されるので、その後、酸素雰囲気で約700℃、30minのアニールを行う。これにより、SnO2薄膜が、一対の感ガス膜電極部にまたがって形成される。これが感ガス膜70となる。このとき、図11で示されるように、感ガス膜電極50,51のパッド部と、薄膜ヒータ電極40,41のパッド部も、レジスト除去によって現れる。
【0084】
その後に、薄膜メンブレン構造体が形成される。具体的には、Si基板12の両面をレジストで覆い、Si基板12の裏面において、表面側に形成された各要素のパターンに対し裏面エッチング箇所に相当する部分を位置合わせし、裏面エッチング箇所に相当する部分のレジストを除去する。そして、残されたレジストで他の部分を保護しながら、裏面エッチング箇所のSiを薄膜メンブレン20が露出するまで除去して、Si基板12の中央部16に、熱絶縁された薄膜メンブレン構造体を形成する。このようにして、図1で説明した薄膜ガスセンサ10が得られる。
【0085】
次に図1で説明した構成の薄膜ガスセンサ10の性能について述べる。性能評価は、薄膜ヒータの加熱特性と、400℃に加熱したときのエタノールに対するガス検出能で行った。図1の構成を実施例とし、比較例として、図1の構成において、ヒータ電極用中間膜層と感ガス膜電極用中間膜層をいずれもTiとし、薄膜ヒータ電極部と感ガス膜電極部の構成をいずれもPt/Tiとし、その他の基本的構成は図1と同じものとする薄膜ガスセンサを用いた。薄膜ガスセンサの大きさは、実施例、比較例共に1mm×1mmの薄膜メンブレン構造体で、薄膜ヒータは、実施例、比較例共に0.4mm×0.25mmのポリシリコン薄膜ヒータで、感ガス膜は、実施例、比較例共に、0.2mm×0.2mmである。
【0086】
薄膜ヒータの加熱特性の評価は、薄膜ヒータの一対の電極部の間に通電し、その投入電力とヒータ温度の関係の測定で行った。その結果、400℃のヒータ温度のときの投入電力は、実施例が47mWで済んだところ、比較例は86mWであった。
【0087】
比較例が実施例よりも大きな投入電力を要しているのは、比較例の電極部のPt/Ti/Siの構造におけるコンタクト抵抗が増大し、同じ電流を通電するのに高い電圧が必要になったからである。これに対し、実施例の投入電力が少なくて済んだのは、TiNの中間膜層が酸素雰囲気中の700℃のアニールにおいても、Ptに対するSiの拡散バリアとして機能し、また、酸化防止保護膜60によって電極接続部の酸化が抑制されたために、Pt/TiN/Siのコンタクト抵抗が4×10-5Ω/cm2以下と低く、効率よくポリシリコン薄膜ヒータに通電できたためである。
【0088】
次に、ガス検出能の評価は、乾燥空気中にエタノールを0.1ppmから100ppmの範囲で導入し、400℃に加熱した状態において行った。ここで、ガス検出能は、エタノール導入による感ガス膜の抵抗変化値がノイズレベルの2倍の大きさとなるエタノール濃度で定義した。その結果、実施例は、ガス検出能が0.5ppmであるのに対し、比較例は2ppmであった。実施例が比較例と比べて良好なガス検出能を有するのは、感ガス膜の電極部の中間膜層であるTiO2が、700℃のアニールにおいても、Pt/TiO2/SiO2における相互拡散を抑制し、特性劣化を及ぼすPt電極へのSi析出を防止したためである。
【0089】
また、参考例として、図1と同一の構成で、酸化防止保護膜60を形成しないものを制作し、比較した。参考例では、ガスセンサの特性と、薄膜ヒータ形成直後の薄膜ヒータの消費電力は同一であったが、酸素雰囲気中の700℃アニールで、消費電力が68mWに上昇した。これは、酸化防止保護膜60でヒータ電極接続部が被覆されていないと、ヒータ電極接続部の酸化が促進され、コンタクト抵抗が上昇したためである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサは、家庭用のガス漏れ検知、燃焼機器の不完全燃焼の検出、車両の排気ガスの成分の検出等に利用できる。
【符号の説明】
【0091】
10 (半導体式)薄膜ガスセンサ、12 Si基板、14 支持部、16 中央部、20 薄膜メンブレン、22 熱酸化膜、24 SiN膜、26 酸化膜、30 薄膜ヒータ、32 層間絶縁膜、34,35 コンタクトホール、40,41 薄膜ヒータ電極、42,43 ヒータ電極用中間膜層、48 中間絶縁膜、50,51 感ガス膜電極、52,53 感ガス膜電極用中間膜層、60 酸化防止保護膜、66 レジスト膜、68,84,86,87,88,89 開口部、70 感ガス膜、80,81 保護膜用中間膜層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体式薄膜ガスセンサ及びその製造方法に係り、特に、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設ける半導体式薄膜ガスセンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス検知装置としては、家庭用のガス漏れ検知のための他、燃焼機器の不完全燃焼の検出、車両の排気ガスの成分の検出等広く用いられている。ガス検知には、ガス吸着の酸化還元反応による抵抗変化の大きい酸化物半導体薄膜であるSnOX、TiOX、WOX等が用いられる。そして、ガス吸着の酸化還元反応を効率的に進めるため、これらの酸化物半導体薄膜を加熱することが行われる。
【0003】
加熱動作のための消費電力を抑制するため、ヒータを含むガス検出センサ部の熱容量を低減する構造として、ダイアフラムあるいは薄膜メンブレンと呼ばれる構造が用いられる。これは、Si基板の中央部に薄膜メンブレンを形成し、その薄膜メンブレン上にヒータを含むガス検出センサ部を設けるものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、ダイアフラム構造の薄膜ガスセンサとして、ヒータ層に従来用いられているPtに比べ比抵抗が5倍以上の50μΩ以上で、熱膨張係数が10×10-6/℃以下の材料を用い、低消費電力化を図ることが述べられている。ここでは、両面に熱酸化膜が付いたSi基板上に、ダイアフラム構造の支持膜および熱絶縁膜となるSiNとSiO2膜を順次プラズマCVD法で形成し、その上に、上記特性を有するヒータ層としてTiSi2膜を0.5μm形成し、さらにSiO2絶縁膜を介してヒータ電極とガス感応膜電極をPt/Taにより同時形成し、スパッタリング法によりガス感応膜となるSnO2膜を形成し、最後に基板裏面からエッチングによりSiを除去してダイアフラム構造とすることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−214119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に述べられているように、ヒータ電極、ガス感応膜電極として、Pt/Taの積層構造が用いられる。このPtは電極金属層で、Taは、電極金属層が配線される下地材料と電極金属層との間の密着性向上のためと、下地材料からの不純物が電極金属層であるPtに拡散することを防止するためなどのために用いられる中間膜層である。
【0007】
電極金属層と下地材料との間に中間膜層を設けることは、半導体装置において広く行われる。ところで、ガス検知装置の場合、例えばSnOXの酸化還元反応を利用する場合、その反応を促進させるために、センサ製造工程中で約700℃程度の酸素雰囲気でアニール処理することが行われ、また実際のガス検知の際には、ヒータによって約400℃程度に加熱され、さらに検知対象自体が活性ガスである。一般的な半導体装置では、高温下であっても不活性ガス雰囲気であり、活性ガス雰囲気で使用されることはあまり例がない。
【0008】
したがって、ガス検知装置に用いられる中間膜層のバリア性は、一般的な半導体装置に用いられる中間膜層のバリア性とかなり異なることがある。場合によっては、下地材料の拡散が進行して、電極金属層の組成が変化し、高抵抗となることが生じ得る。また、Ptはガス検知において一種の触媒的作用を奏しているが、Ptの組成が変化すると、ガス検知の能力にも影響が生じ得る。このように、中間膜層によって、ガス検知の性能が左右されることが生じ得る。
【0009】
また、中間膜層の材料によっては、上記の酸素雰囲気中のアニール処理や、ガス検出の際の加熱によって酸化等を生じ、コンタクト抵抗が増加することがある。このように、中間膜層の選択や配置については、酸素雰囲気中のアニールやガス検出の際の加熱による下地材料の拡散を防止するバリア機能と共に、中間膜層自身の酸化等の変質の抑制を考慮することが必要である。
【0010】
本発明の目的は、ガス検知の性能を十分に発揮させることを可能とする半導体式薄膜ガスセンサ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサは、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設け、アニール熱処理を経て得られる半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータの両端の電極接続部に接続され、Ptで構成される薄膜ヒータ電極と、少なくとも薄膜ヒータの電極接続部と薄膜ヒータ電極との間に設けられ、TiNまたはTaNを含むヒータ電極用中間膜層と、感ガス膜の両端の電極接続部に接続され、Ptで構成される感ガス膜電極と、少なくとも感ガス膜の電極接続部と感ガス膜電極との間に設けられ、TiO2またはTa2O3またはAl2O3の少なくとも1つを含む感ガス膜電極用中間膜層と、少なくとも薄膜ヒータ電極を覆う酸化防止保護膜であって、薄膜ヒータ電極との間にTiNを含む保護膜用中間膜層を有する酸化防止保護膜と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータの電極接続部は、Ptである薄膜ヒータ電極の電極接続部側にTiNを含むヒータ電極用中間膜層が積層され、薄膜ヒータ電極の電極接続側と反対側にTiNを含む保護膜用中間膜層が積層される積層構造を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、ヒータ電極用中間膜層は、TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層であり、保護膜用中間膜層は、TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータ電極側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータ電極側となる積層膜層であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、感ガス膜電極用中間膜層は、TiO2とTiONの積層構造でTiO2層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはTa2O5とTaONの積層構造でTa2O5層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはAl2O3とAlONの積層構造でAl2O3層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、酸化防止保護膜は、SiO2,SiN,SiONの少なくとも1つを含んで構成されることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極との間の接触抵抗値が、10-4Ω/cm-2以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータ電極と感ガス膜電極との間に設けられる中間絶縁膜を有することが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサの製造方法は、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設け、アニール熱処理を経て得られる半導体式薄膜ガスセンサの製造方法であって、Si基板を両面研摩する工程と、Si基板の一方側である表面に、メンブレン層となる薄膜絶縁膜層を形成する工程と、薄膜絶縁膜層の上に、所定の抵抗率を有するポリシリコン膜を形成し、所定のヒータ形状に成形する薄膜ヒータ形成工程と、薄膜ヒータを覆って層間絶縁膜となる絶縁膜層を形成する工程と、層間絶縁膜において、薄膜ヒータの両端の電極接続部に対応する箇所を一対のヒータ用コンタクトホールとして開口する工程と、TiNまたはTaNを含むヒータ電極用中間膜層と、その上のPt層と、Pt層の上のTiNまたはTaNを含む保護膜用中間膜層とを連続的に積層してヒータ電極積層膜を形成する工程と、ヒータ電極積層膜について、一対のヒータ用コンタクトホールを覆って一対の所定の薄膜ヒータ電極形状に成形するヒータ電極部形成工程と、層間絶縁膜の上に、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つを含む感ガス膜電極用中間膜層と、その上のPt層とを連続的に積層して感ガス膜電極積層膜を形成する工程と、感ガス膜電極積層膜について、一対の所定の感ガス膜電極形状に成形する感ガス膜電極部形成工程と、感ガス膜電極部を覆う酸化防止保護膜を形成する工程と、酸化防止保護膜を部分的に除去して感ガス膜電極部を露出させ、また保護膜用中間膜層と酸化防止保護膜を部分的に除去して一対の薄膜ヒータ電極部の末端側の引出部を露出させる工程と、リフトオフ用薄膜層を全面に形成し、一対の感ガス膜電極部のそれぞれの先端の電極接続部に相当する箇所を少なくとも露出させながら、所定の感ガス膜形状に相当する部分を除去する工程と、感ガス膜層を全面に形成し、リフトオフ薄膜をリフトオフ法によって除去して、両端の電極接続部が感ガス膜電極部に接続された感ガス膜を形成し、同時に、一対の薄膜ヒータ電極部と、一対の感ガス膜電極部の末端側の引出部を露出させる工程と、所定のアニーリング条件でアニール熱処理する工程と、Si基板の両面をレジストで覆い、Si基板の他方側である裏面において、表面側に形成された各要素のパターンに対し裏面エッチング箇所に相当する部分を位置合わせし、裏面エッチング箇所に相当する部分のレジストを除去する工程と、Si基板の裏面について、レジストを用いて裏面エッチング箇所のSiをメンブレン層が露出するまで除去してSi基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記構成により、半導体式薄膜ガスセンサは、薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極であるPtとの間の中間膜層としてTiNまたはTaNが用いられ、感ガス膜と感ガス膜電極であるPtとの間の中間膜層として、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つが用いられる。従来技術では、特許文献1に述べられているように、中間膜層は、ヒータ用も感ガス膜用もTaである。ここでは、薄膜ヒータ電極の下地材料はポリシリコンであり、感ガス膜電極の下地材料は絶縁膜である。このように下地材料が異なるので、Pt電極に及ぼす影響も異なる。ここでは、ポリシリコンヒータからのSi拡散防止に効果的な中間膜層を実験で調べた結果として、TiNまたはTaNが用いられ、絶縁膜からのSiO2拡散防止に効果的な中間膜層を実験で調べた結果として、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つが用いられる。これによって、薄膜ヒータとの接続、感ガス膜との接続を良好にでき、ガス検知の性能を十分に発揮させることができる。
【0020】
また、薄膜ヒータ電極を覆って酸化防止保護膜が設けられる。この酸化防止保護膜は、薄膜ヒータ電極との間にTiNを含む保護膜用中間膜層を有する。酸化防止保護膜は、適切な膜厚を設定することで、酸素雰囲気中のアニール処理のように、高温酸化雰囲気によって、TiNまたはTaNのヒータ電極用中間膜層が酸化されないように機能する。また、保護膜用中間膜層を設けることで、酸化防止保護膜と薄膜ヒータ電極との間の密着性を向上させることができる。このように、薄膜ヒータ電極を覆って酸化防止保護膜を設けることで、ヒータ電極用中間膜層のバリア機能を確保し、ガス検知の性能を十分に発揮させることができる。
【0021】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータの電極接続部は、TiN−Pt−TiNの積層構造を有するので、連続的成膜工程を利用できる。
【0022】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、ヒータ電極用中間膜層は、TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層である。TiとTaは下地材料との密着性向上を図ることができる中間膜層として従来から広く用いられている。高温活性化ガス雰囲気下でこれらを用いると、下地材料のSi、SiO2のバリア性が低下する。上記構成によれば、TiとPtの間にTiNが配置され、TaとPtの間にTaNが配置されるので、中間膜層として、密着性の向上と、バリア性の向上とを共に図ることが可能になる。
【0023】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、感ガス膜電極用中間膜層は、TiO2とTiONの積層構造でTiO2層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはTa2O5とTaONの積層構造でTa2O5層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはAl2O3とAlONの積層構造でAl2O3層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層である。このように、下地材料側にTiON、TaON、AlONが配置されるので、中間膜層として、密着性の向上と、バリア性の向上とを共に図ることが可能になる。
【0024】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、酸化防止保護膜は、SiO2,SiN,SiONの少なくとも1つを含むので、酸素に対するバリア膜として機能することができる。
【0025】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極との間の接触抵抗値が、10-4Ω/cm-2以下であるので、薄膜ヒータとの接続を良好なものとでき、ガス検知の性能を十分に発揮させることができる。
【0026】
また、半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータ電極と感ガス膜電極との間に設けられる中間絶縁膜を有する。このようにすることで、薄膜ヒータ電極の下地材料と、感ガス膜電極の下地材料とが異なる場合、中間膜層を、薄膜ヒータ電極用と、感ガス膜電極用とで、異ならせることが容易になる。これによって、薄膜ヒータとの接続も、感ガス膜との接続も良好にすることが容易となる。
【0027】
また、半導体式薄膜ガスセンサの製造方法は、薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極との接続工程と、感ガス膜と感ガス膜電極との接続工程とを別々に行う。これによって、薄膜ヒータとの接続も、感ガス膜との接続も良好にすることが容易となる。また、薄膜ヒータ電極を覆って酸化防止保護膜を設けることで、ヒータ電極用中間膜層のバリア機能を確保し、ガス検知の性能を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る実施の形態の半導体式薄膜ガスセンサの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ヒータの電極周辺の構造を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、感ガス膜の電極周辺の構造を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の半導体式薄膜ガスセンサの製造工程を示す図の1つで、Si基板に薄膜層を形成する工程を示す図である。
【図5】図4のあと、薄膜ヒータを形成する工程を示す図である。
【図6】図5のあと、薄膜ヒータの電極接続部側のコンタクトホールを形成する工程を示す図である。
【図7】図6のあと、ヒータ電極用中間膜層と薄膜ヒータ電極と保護膜用中間膜層とを形成する工程を示す図である。
【図8】図7のあと、感ガス膜電極用中間膜層と感ガス膜電極とを形成する工程を示す図である。
【図9】図8のあと、酸化防止保護膜を形成する工程を示す図である。
【図10】図9のあと、薄膜ヒータ電極の一部、感ガス膜電極の一部を露出する工程を示す図である。
【図11】図10のあと、リフトオフ法を用いるためにリフトオフ用のレジストを形成する工程を示す図である。
【図12】図11のあと、リフトオフ法によって、感ガス膜層を形成し、薄膜ヒータ電極の一部、感ガス膜電極の一部も現れるように処理する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、半導体式薄膜ガスセンサの感ガス膜として、SnO2膜を説明するが、これ以外の組成の感ガス膜であってもよい。一般的にSnOXの組成であってもよく、また、アニール処理を経て得られる感ガス膜であれば、TiOX、WOX等の組成であってもよい。
【0030】
以下で説明する寸法、膜厚、材質、製造条件等は、説明の一例であり、半導体式薄膜ガスセンサの仕様に応じ、適宜変更が可能である。
【0031】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0032】
図1は、半導体式薄膜ガスセンサ10の構造を説明する図である。半導体式とは、薄膜ガスセンサを作り出すために、LSI等の半導体デバイスの製造方法として広く知られている薄膜形成技術、フォトリソグラフィ技術、Si等の半導体基板の深溝エッチング技術等を用いているためである。以下では、特に断らない限り、半導体式薄膜ガスセンサ10のことを、単に、薄膜ガスセンサ10と呼ぶことにする。
【0033】
図1は、薄膜ガスセンサ10の平面図と、2方向からの断面図が示されている。薄膜ガスセンサ10は、平面図で分かるように、感ガス膜電極50,51と、薄膜ヒータ電極40,41が互いに直交する配置関係となっている。そのために、断面図として、感ガス膜70に関する構造が分かる方向のものと、薄膜ヒータ30に関する構造が分かる方向のものと2つ示してある。
【0034】
薄膜ガスセンサ10は、Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体と、薄膜メンブレン構造体上に形成される薄膜ヒータ30と、感ガス膜70と、ヒータ電極用中間膜層42,43と薄膜ヒータ電極40,41とを含む薄膜ヒータ電極部と、感ガス膜電極用中間膜層52,53と感ガス膜電極50,51を含む感ガス膜電極部と、薄膜ヒータ電極40,41のパッド部と感ガス膜電極50,51のパッド部と感ガス膜70の領域を除いて全体を覆う酸化防止保護膜60と、酸化防止保護膜60と薄膜ヒータ電極40,41の間に設けられる保護膜用中間膜層80,81とを有して構成される。
【0035】
薄膜メンブレン構造体は、薄膜メンブレンの周囲がSi基板で保持されている構造体である。図1では、3層構造の薄膜メンブレン20の周囲を、中央部16がエッチングで除去された形態の角型の支持部14で支持された薄膜メンブレン構造体が示されている。
【0036】
支持部14は、上記のように、中央部16がエッチングで除去された形態の角型のSi基板であるが、このような支持部14を薄膜メンブレン20と別体でつくって、その上に薄膜メンブレン20を貼付したものではない。後述する製造工程の説明で示されるように、実際には、Si基板の上に3層構造の薄膜を形成し、その薄膜付きSi基板の裏側から、中央部16をエッチングし、ちょうど薄膜に達したところでエッチングを止める方法で薄膜メンブレン構造が形成される。
【0037】
支持部14が形成される元のSi基板としては、面方位(100)、比抵抗が約1Ω・cmで、厚さが約0.3mmのものを用いることができる。以下も含めて、これらの数値は、あくまで説明のための例示である。
【0038】
薄膜メンブレン20は、上記のように、予めSi基板の上に、順次に3層の薄膜が形成されたものである。薄膜メンブレン20は、支持部14の側から順に、熱酸化膜22、減圧下のCVD(Chemical Vapor Deposition)法によるSiN膜24、常圧下のCVD法による酸化膜26で構成される。このように、薄膜メンブレン20は、絶縁膜積層体である。薄膜メンブレン20が複数層の絶縁膜で構成されるのは、支持部14を形成するときのSiエッチングのストッパと、支持部14のエッチング保護膜として機能させるためと、メンブレンとして、適当な膜張力を有するように、複数層の応力が合計で引張応力となるようにするためである。
【0039】
薄膜メンブレン20を構成する各層の厚さは、熱酸化膜22が約400nm、SiN膜24が約200nm、酸化膜26が約200nmである。
【0040】
薄膜ヒータ30は、薄膜メンブレン20の上に形成されるヒータ抵抗体で、ここでは高抵抗ポリシリコン層を適当な薄膜抵抗の形状に形成したものが用いられる。高抵抗ポリシリコン層は、減圧下のCVD法でポリシリコン層を形成し、その後イオン注入によって適当な不純物濃度とされる。ポリシリコン層の厚さは、約300nmである。イオン注入は、3族元素であるBを、約60kVのイオン注入電圧で、6×1015/cm2程度の不純物濃度とする。イオン注入の後、導電性を持たせるために、N2雰囲気で約1000℃、60minの活性化熱処理が行われる。
【0041】
薄膜ヒータ30は、上記のようにして形成された高抵抗ポリシリコン層を、図1の例では、短冊状の形状とし、その両端を電極接続部としたものである。その両端の電極接続部には、それぞれ薄膜ヒータ電極部が接続されるので、その一対の薄膜ヒータ電極部の間に電流を流して発熱させることができる。薄膜ヒータ30を所定の形状にするには、RIE(Reactive Ion Etching)法が用いられる。
【0042】
感ガス膜70は、薄膜ヒータ30との間に層間絶縁膜32等を挟んで、その上に形成されるガス感応膜で、ここではSnO2薄膜を適当な形状に形成したものが用いられる。SnO2薄膜は、まずSn薄膜をスパッタリング法で形成し、その後、酸素雰囲気で約700℃、30minのアニールが行われ、SnO2薄膜とする。感ガス膜70の厚さは、約200nmである。なお、薄膜ヒータ30の上に設けられる層間絶縁膜32は、減圧下のCVD法により形成されたSiO2である。その厚さは、約400nmである。
【0043】
薄膜ヒータ電極部は、薄膜ヒータ30の両端の電極接続部に接続される一対の電極部である。薄膜ヒータ電極部は、薄膜ヒータ30の上に形成される層間絶縁膜32に電極接続部に対応するコンタクトホールを開け、その上に、TiNのヒータ電極用中間膜層42,43とPtの薄膜ヒータ電極40,41とTiNの保護膜用中間膜層80,81をスパッタリング法で連続的に積層し、これを一対の電極形状に成形したものである。図1では、その成形後の一対の電極部を、ヒータ電極用中間膜層42,43と薄膜ヒータ電極40,41と保護膜用中間膜層80,81の積層構造として示してある。
【0044】
TiNのヒータ電極用中間膜層42,43の厚さは、約20nm、Ptの薄膜ヒータ電極40,41の厚さは、約200nm、TiNの保護膜用中間膜層80,81の厚さは、約20nmである。これらの積層層を一対のヒータ電極部の形状に成形するには、RIE法を用いることができる。なお、TiNのヒータ電極用中間膜層42,43とPtの薄膜ヒータ電極40,41は、以後の工程でも同じ形状のままであるが、TiNの保護膜用中間膜層80,81は、酸化防止保護膜において薄膜ヒータ電極40,41のパッド部を露出させる際に、そのパッド部の部分が酸化防止保護膜60と共に除去される。
【0045】
図2は、図1のA部の拡大断面図である。ここでは、薄膜ヒータ30の上に、ヒータ電極用中間膜層42と薄膜ヒータ電極40が積層されている様子が示されている。また、薄膜ヒータ電極40の上に保護膜用中間膜層80が積層され、その上に中間絶縁膜48と酸化防止保護膜60が設けられている様子が示されている。
【0046】
上記のように、薄膜ヒータ30はポリシリコン層で、ヒータ電極用中間膜層42はTiNで、薄膜ヒータ電極40はPtであるので、Pt/TiN/Siの積層構造になっていることになる。このように、TiNは、ポリシリコン層とPt電極層との間の中間膜層となっている。
【0047】
このように、ここでの中間膜層とは、ポリシリコン層とPt層との間に設けられる中間膜としての層で、以後の加熱工程等で、ポリシリコン層を構成するSiがPt層に拡散等をしないように阻止するバリア層としての機能を有する層である。このような中間膜層の材料としては、従来からTiが知られている。TiはSiと反応して低抵抗のチタンシリサイドを形成することから、ポリシリコン層とPt層との間の中間膜層の材料として適する反面、例えばさらに高温下、あるいは活性ガス雰囲気の高温下のような状況では、Tiを通ってSiがPt層に入り込むことが生じる。Pt層にSiが入り込むと、白金シリサイドを形成するが、これは同じシリサイドでもチタンシリサイドとは異なって高抵抗である。したがって、ガスセンサのように、以後の加熱工程等がある場合には、Tiは、ポリシリコン層とPt層との間の中間膜層の材料として必ずしも最適のものではない。
【0048】
ヒータ電極用中間膜層42,43は、TiNをその材料として用いる。これは、Siに対するバリア性があることと、以後の約700℃の加熱工程でもPt層との間の接続抵抗が低抵抗を維持することから選択されたものである。
【0049】
なお、図1の例では、ヒータ電極用中間膜層42,43と、薄膜ヒータ電極40,41は、同一の形状としたが、ヒータ電極用中間膜層42,43は、少なくとも、電極接続部のところで、ポリシリコン層の薄膜ヒータ30とPt層の薄膜ヒータ電極40,41との間に設けられていれば足りる。
【0050】
ポリシリコン層とPt層との間の中間膜層としては、TiN以外にTaNを用いることもできる。また、TiNとポリシリコン層との間にTiを設け、Pt/TiN/Tiの3層構造としてもよい。TaNを用いる場合は、Pt/TaN/Taとすることができる。このようにすることで、チタンシリサイド、またはタンタルシリサイドをポリシリコン層側に形成し、低抵抗で密着性を向上させることができる。
【0051】
例えば、実験的に同一パターンで、同一加熱履歴条件の下でコンタクト抵抗を比較してみると、Pt/TiNは、1.4Ω、Pt/TiN/Tiは、0.8Ω、Pt/Tiは、154Ωとなった。
【0052】
図2において、酸化防止保護膜60は、中間絶縁膜48と共に薄膜ヒータ電極40を覆っている。中間絶縁膜48も酸化防止保護膜60もプラズマCVDで生成される絶縁膜である。絶縁膜としては、SiO2、SiN、SiON等を用いることができる。SiNを含むSiONとすることもできる。これらの絶縁膜は適当な厚さを有することで、酸素に対するバリア層として働く。後述するように、中間絶縁膜48は、薄膜ヒータ30と薄膜ヒータ電極部とを形成した後に、成膜され、その上に感ガス膜電極部と感ガス膜が形成される中間層的な絶縁膜であるので、膜厚は適当である。したがって、酸素に対するバリア性を確保するには、酸化防止保護膜60の膜厚を適当な厚さに設定する必要がある。
【0053】
薄膜ガスセンサ10における酸素雰囲気中のアニール処理は、約700℃であるので、この温度での酸素のバリア性を確保するには、400nm程度の膜厚がよい。膜厚が厚いほど、酸素に対するバリア性が高まるが、あまり厚いと、膜応力で膜が破損する。したがって、1000nm以下の膜厚が好ましい。膜厚があまり薄いと、酸素のバリア性が低下する。このことから、100nm以上の膜厚がよい。
【0054】
保護膜用中間膜層80は、薄膜ヒータ電極40と酸化防止保護膜60との密着性を向上させるために設けられる膜である。図2では、保護膜用中間膜層80の上は酸化防止保護膜60ではなくて、中間絶縁膜48であるが、上記のように、中間絶縁膜48も酸化防止保護膜60もプラズマCVDで生成される絶縁膜であるので、これらの絶縁膜の間の密着性に問題はない。密着性が問題になるのは、薄膜ヒータ電極40と絶縁膜との間である。したがって、図2では、保護膜用中間膜層80は、中間絶縁膜48を介して、酸化防止保護膜60と薄膜ヒータ電極40との間の密着性に寄与する。
【0055】
金属電極と絶縁膜との間の密着性改善の中間膜層としては、Ti、TiN,TaN等、様々な材料が知られている。ここでは、ヒータ電極用中間膜層42と同じ材料を用いることがよい。同じ材料を用いることにすれば、薄膜ヒータ30を形成した後、ヒータ電極用中間膜層42を成膜し、その次に薄膜ヒータ電極としてPtを成膜し、その次に再び、ヒータ電極用中間膜層42と同じ材料を用いて成膜すれば、容易に、ヒータ電極用中間膜層42−薄膜ヒータ電極40−保護膜用中間膜層80の積層構造を連続成膜で得ることができる。
【0056】
再び図1に戻り、感ガス膜電極部は、感ガス膜70の両端の電極接続部に接続される一対の電極部である。薄膜ヒータ電極部は、薄膜ヒータ30の上方に積層するように形成されたが、感ガス膜電極部は、感ガス膜70の下方に積層するように形成される。すなわち、感ガス膜電極部の上方に感ガス膜70が積層される構成となる。
【0057】
感ガス膜電極部は、薄膜ヒータ電極部と別々に形成するために薄膜ヒータ電極部の上に設けられる中間絶縁膜48の上に、TiO2の中間膜層とPtの電極層とをスパッタリング法で連続的に積層し、これを一対の電極形状に成形したものである。中間絶縁膜48は、層間絶縁膜32と同様に、減圧下のCVD法によって形成されるSiO2である。図1では、その成形後の一対の電極部を、感ガス膜電極用中間膜層52,53と感ガス膜電極50,51として示してある。
【0058】
TiO2の中間膜層の厚さは、約20nm、Ptの電極層の厚さは、約200nmである。これらの積層層を一対の感ガス膜電極用中間膜層52,53と感ガス膜電極50,51の形状に成形するには、RIE法を用いることができる。
【0059】
図3は、図1のB部の拡大断面図である。ここでは、層間絶縁膜32、中間絶縁膜48の上に、感ガス膜電極用中間膜層52と感ガス膜電極50が積層され、その上に感ガス膜70が形成されている。また、感ガス膜70が形成されない感ガス膜電極50の上は、酸化防止保護膜60で覆われている。
【0060】
なお、図2と比較して、感ガス膜電極50と酸化防止保護膜60との間には保護膜用中間膜層80が設けられていない。これは、実験によると、薄膜ガスセンサ10における酸素雰囲気中のアニール処理によって特性が変化するのは、ヒータ電極用中間膜層42,43の方が大きいことがわかったためである。したがって、酸化防止保護膜60は、少なくとも薄膜ヒータ電極40を覆っていればよく、酸化防止保護膜60は、ヒータ電極用中間膜層42の酸化防止のための保護膜である。
【0061】
上記のように、層間絶縁膜32、中間絶縁膜48は、SiO2で構成でき、感ガス膜電極用中間膜層52はTiO2で、感ガス膜電極50はPtで、感ガス膜70はSnO2であるので、SnO2/Pt/TiO2/SiO2の積層構造になっていることになる。ここで、SnO2に接続される電極材料にPtが用いられるのは、SnO2がガス検知を行う酸化還元作用に対する触媒金属としての機能があるからである。このように、TiNは、SnO2に接続されるPt層とSiO2との間の中間膜層となっている。
【0062】
このように、ここでの感ガス膜電極用中間膜層52とは、SnO2に接続されるPt層とSiO2との間に設けられる中間膜としての層で、以後の加熱工程等で、SiO2を構成するSiがPt層に拡散してPt層を変質させないように阻止するバリア層としての機能を有する層である。薄膜ヒータ電極部で説明したように、このような中間膜層の材料としては、従来からTiが知られているが、高温下、あるいは活性ガス雰囲気の高温下のような状況では、Tiを通ってSiがPt層に入り込むことが生じる。Pt層にSiが入り込むと、Pt層が純Ptと異なる組成となり、感ガス膜であるSnO2に対する触媒作用が阻害される。ガスセンサのように、以後の加熱工程等がある場合には、Tiは、SnO2に接続されるPt層とSiO2との間の中間膜層の材料として必ずしも最適のものではない。
【0063】
感ガス膜電極用中間膜層52,53は、TiO2をその材料として用いる。これは、Siに対してバリア性があり、以後の約700℃の加熱工程でもやはりSiに対してバリア性を維持することから選択されたものである。なお、図1の例では、感ガス膜電極用中間膜層52,53と、感ガス膜電極50,51は、同一の形状としたが、感ガス膜電極用中間膜層52,53は、少なくとも、電極接続部のところで、SiO2である中間絶縁膜48、層間絶縁膜32と、Pt層の感ガス膜電極50,51との間に設けられていれば足りる。
【0064】
SiO2とPt層との間の中間膜層としては、TiO2以外に、Ta2O5またはAl2O3を用いることもできる。また、TiO2とSiO2の間にTiONを設け、Pt/TiO2/TiONの3層構造としてもよい。これによって、下地のSiO2との密着性が向上する。また、Ta2O5を用いる場合は、Pt/Ta2O5/TaONとすることができる。また、Al2O3を用いる場合は、Pt/Al2O3/AlONとすることができる。
【0065】
次に、上記構成の薄膜ガスセンサ10を製造する手順について、図4から図11を用いて説明する。
【0066】
図4は、最初にSi基板12を準備して、その上に薄膜メンブレン20を形成する様子を示す図である。Si基板としては、両面研摩された面方位(100)の直径が約100mm、厚さが約0.3mm、比抵抗が約1Ω・cmのものを用いることができる。
【0067】
次に、このSi基板の全面を熱酸化法により、厚さ400nmのSiO2を成長させる。この熱酸化膜22の上に、厚さ200nmのSiN膜24を減圧下のCVD法で形成する。さらにその上に、厚さ200nmの酸化膜26をプラズマCVD法で形成する。この3層構造の薄膜が薄膜メンブレン20となる。図4では、Si基板12の両面に3層構造の薄膜が示されているが、Si基板12の側面にも3層構造の薄膜が形成される。薄膜メンブレン20の形成に当っては、上記で説明したように、3層構造の薄膜の応力が全体として引張応力となるように応力制御される。
【0068】
なお、CVD法において、反応台の上に熱酸化膜22を形成した後のSi基板12を置いて薄膜を形成するものとするときは、反応台側には薄膜はほとんど形成されない。その場合には、Si基板12の表面側に3層構造の薄膜メンブレン20が形成され、裏面側には熱酸化膜22が形成される構造となる。このように、Si基板12の裏面側は、製造方法によって構造が異なるので、以下では、Si基板12の裏面側に形成された膜の図示を省略する。
【0069】
図5は、次に、薄膜ヒータ30を形成する様子を示す図である。この図は、上段に断面図、下段に平面図が示されている。薄膜ヒータ30は、薄膜メンブレン20の上に、平面図でその中央部に配置されるように形成される。
【0070】
薄膜ヒータ30の形成は、次の手順で行われる。まず、減圧下のCVD法で、厚さ約300nmのポリシリコン層を形成する。その後イオン注入によって3族元素であるBが、約60kVのイオン注入電圧で、6×1015/cm2程度の不純物濃度となるように打ち込まれる。そして、イオン注入の後、導電性を持たせるために、N2雰囲気で約1000℃、60minの活性化熱処理が行われる。このようにして高抵抗ポリシリコン層が、薄膜メンブレン20の上面の全面に形成される。この高抵抗ポリシリコン層が、RIE法によって、図5に示されるように、短冊状の形状に形成される。この短冊状の高抵抗ポリシリコン層が、薄膜ヒータ30となる。
【0071】
図6は、次に、薄膜ヒータ30の上を覆って、層間絶縁膜32が形成され、その層間絶縁膜32において、薄膜ヒータ30の両端の電極接続部に対応する箇所に、コンタクトホール34,35を形成する様子を説明する図である。
【0072】
層間絶縁膜32は、厚さが約400nmで、プラズマCVD法により形成されたSiO2である。コンタクトホール34,35は、RIE法によって、上記のように、薄膜ヒータ30の両端の電極接続部に対応する箇所の層間絶縁膜32を除去することで形成される。
【0073】
図7は、次に、薄膜ヒータ電極部を形成する様子を説明する図である。薄膜ヒータ電極部の形成は、次の手順で行われる。すなわち、スパッタリング法で、厚さが約20nmのTiNのヒータ電極用中間膜層と、厚さが約200nmのPtのヒータ電極層と、厚さが約20nmのTiNの保護膜用中間膜層とを連続的に成膜して、積層膜とする。このようにして、層間絶縁膜32の上に全面的にTiN/Pt/TiNの積層膜が形成されると、RIE法によって、所定の一対の電極形状に成形され、これらが、一対の薄膜ヒータ電極部となる。
【0074】
図7の断面図では、TiNのヒータ電極用中間膜層42,43、Pt層の薄膜ヒータ電極40,41、TiNの保護膜用中間膜層80,81が示されている。平面図では、上層である保護膜用中間膜層80,81で覆われた薄膜ヒータ電極40,41が示され、その下層であるヒータ電極用中間膜層42,43が図示されていない。平面図で示されるように、薄膜ヒータ電極40,41の薄膜ヒータ30の側は、図6で説明したコンタクトホール34,35に対応する形状に形成され、この部分が、薄膜ヒータ30における電極接続部に対応する。
【0075】
図8は、次に、薄膜ヒータ電極部を覆う中間絶縁膜48を形成し、その上に感ガス膜電極部を形成する様子を示す図である。中間絶縁膜48は、プラズマCVD法によって適当な厚さで形成されたSiO2である。このように、中間絶縁膜48は、薄膜ヒータ電極部と感ガス膜電極部とを絶縁層で分離する機能を有する。このようにすることで、薄膜ヒータ電極40,41の下地材料と、感ガス膜電極50,51の下地材料とが異なる場合、ヒータ電極用中間膜層42,43と、感ガス膜電極用中間膜層52,53とで、異ならせることが容易になる。これによって、薄膜ヒータとの接続も、感ガス膜との接続も良好にすることが容易となる。場合によっては、中間絶縁膜48を省略してもよい。
【0076】
感ガス膜電極部の形成は、次の手順で行われる。すなわち、スパッタリング法で、厚さが約20nmのTiO2の感ガス膜電極用中間膜層と、厚さが約200nmのPtの感ガス膜電極とを連続的に成膜して、積層膜とする。このようにして、中間絶縁膜48の上に全面的にPt/TiO2の積層膜が形成されると、RIE法によって、所定の一対の電極形状に成形され、これらが、一対の感ガス膜電極部となる。
【0077】
図8の断面図では、Pt層の感ガス膜電極50,51、TiO2の感ガス膜電極用中間膜層52,53が示されている。平面図では、上層である感ガス膜電極50,51が示され、その下層である感ガス膜電極用中間膜層52,53が図示されていない。平面図で示されるように、感ガス膜電極50,51の向かい合う部分が幅広とされ、この部分が次に形成される感ガス膜70における電極接続部に対応する。
【0078】
図9は、次に、全面に酸化防止保護膜60が形成された様子を示す図である。酸化防止保護膜60は、プラズマCVD法によって、約400nmの厚さで成膜される。薄膜ヒータ電極40,41の上には、保護膜用中間膜層80,81が形成されているので、中間絶縁膜48を介して、酸化防止保護膜60は、薄膜ヒータ電極40,41と密着性良く成膜される。
【0079】
図10は、次に、酸化防止保護膜60について、所定の箇所を開口する工程を示す図である。開口は、場所によって、酸化防止保護膜60であるSiO2を除去し、場所によってはさらに、ヒータ電極用中間膜層42,43であるTiNを除去して行われる。SiO2の除去は、CHF3を用いるRIE法を用い、TiNの除去は、BCl3を用いるRIE法を用いることができる。
【0080】
開口部は、複数ある。1つは、後に感ガス膜70が配置される箇所に設けられる開口部84である。この開口部84は、酸化防止保護膜60が除去され、感ガス膜電極50,51が一部露出する。この露出部が感ガス膜と電気的に接続される接続箇所となる。他の2つの開口部86,87は、薄膜ヒータ電極40,41のそれぞれのパッド部に相当する箇所に設けられる。この開口部86,87は、酸化防止保護膜60であるSiO2を除去し、さらに、ヒータ電極用中間膜層42,43であるTiNが除去され、Ptが露出する。残りの2つの開口部88,89は、感ガス膜電極50,51のそれぞれのパッド部に相当する箇所に設けられる。この開口部88,89は、酸化防止保護膜60が除去され、Ptが露出する。
【0081】
図11と図12は、感ガス膜70の形成の手順を示す図である。感ガス膜70は、一対の感ガス膜電極部の上にリフトオフ法によって配置される。リフトオフ法は、レジスト膜のように、剥離が容易な膜に開口部を設け、その上に全面に目的の薄膜を形成し、その後にレジスト膜を剥離すると、開口部のところは下地に密着して残り、その他の部分がレジスト剥離と共に除去されることを利用して、開口部の形状に目的の薄膜を成形する技術である。
【0082】
図10は、リフトオフ法を用いるために、酸化防止保護膜60の上に、全面にレジスト膜66を塗布し、感ガス膜70を形成したい箇所だけ、レジスト膜を除去して、開口部68を形成する工程を示す図である。図10では、開口部68に、感ガス膜電極50,51の電極接続部に相当する部分が露出している様子が示されている。レジスト膜66は、スピンナを用いて適当な感光性レジストを一様厚さに塗布したものを用いることができ、開口部68は、その形状のマスクを用いて、レジスト膜66を露光し、その後現像して、その形状を除去することで形成することができる。
【0083】
図12は、感ガス膜70を形成する様子を説明する図である。感ガス膜70の形成は、次の手順で行われる。まずレジスト膜66の上の全面に、厚さが約200nmのSn薄膜をスパッタリング法で形成する。そして、レジスト膜66を剥離する。このときに、リフトオフによって、図11で説明した開口部68の部分のみ、Sn薄膜が残り、他の部分は、レジスト剥離と共に除去される。こうして、開口部68の形状と同じ形状のSn薄膜が形成されるので、その後、酸素雰囲気で約700℃、30minのアニールを行う。これにより、SnO2薄膜が、一対の感ガス膜電極部にまたがって形成される。これが感ガス膜70となる。このとき、図11で示されるように、感ガス膜電極50,51のパッド部と、薄膜ヒータ電極40,41のパッド部も、レジスト除去によって現れる。
【0084】
その後に、薄膜メンブレン構造体が形成される。具体的には、Si基板12の両面をレジストで覆い、Si基板12の裏面において、表面側に形成された各要素のパターンに対し裏面エッチング箇所に相当する部分を位置合わせし、裏面エッチング箇所に相当する部分のレジストを除去する。そして、残されたレジストで他の部分を保護しながら、裏面エッチング箇所のSiを薄膜メンブレン20が露出するまで除去して、Si基板12の中央部16に、熱絶縁された薄膜メンブレン構造体を形成する。このようにして、図1で説明した薄膜ガスセンサ10が得られる。
【0085】
次に図1で説明した構成の薄膜ガスセンサ10の性能について述べる。性能評価は、薄膜ヒータの加熱特性と、400℃に加熱したときのエタノールに対するガス検出能で行った。図1の構成を実施例とし、比較例として、図1の構成において、ヒータ電極用中間膜層と感ガス膜電極用中間膜層をいずれもTiとし、薄膜ヒータ電極部と感ガス膜電極部の構成をいずれもPt/Tiとし、その他の基本的構成は図1と同じものとする薄膜ガスセンサを用いた。薄膜ガスセンサの大きさは、実施例、比較例共に1mm×1mmの薄膜メンブレン構造体で、薄膜ヒータは、実施例、比較例共に0.4mm×0.25mmのポリシリコン薄膜ヒータで、感ガス膜は、実施例、比較例共に、0.2mm×0.2mmである。
【0086】
薄膜ヒータの加熱特性の評価は、薄膜ヒータの一対の電極部の間に通電し、その投入電力とヒータ温度の関係の測定で行った。その結果、400℃のヒータ温度のときの投入電力は、実施例が47mWで済んだところ、比較例は86mWであった。
【0087】
比較例が実施例よりも大きな投入電力を要しているのは、比較例の電極部のPt/Ti/Siの構造におけるコンタクト抵抗が増大し、同じ電流を通電するのに高い電圧が必要になったからである。これに対し、実施例の投入電力が少なくて済んだのは、TiNの中間膜層が酸素雰囲気中の700℃のアニールにおいても、Ptに対するSiの拡散バリアとして機能し、また、酸化防止保護膜60によって電極接続部の酸化が抑制されたために、Pt/TiN/Siのコンタクト抵抗が4×10-5Ω/cm2以下と低く、効率よくポリシリコン薄膜ヒータに通電できたためである。
【0088】
次に、ガス検出能の評価は、乾燥空気中にエタノールを0.1ppmから100ppmの範囲で導入し、400℃に加熱した状態において行った。ここで、ガス検出能は、エタノール導入による感ガス膜の抵抗変化値がノイズレベルの2倍の大きさとなるエタノール濃度で定義した。その結果、実施例は、ガス検出能が0.5ppmであるのに対し、比較例は2ppmであった。実施例が比較例と比べて良好なガス検出能を有するのは、感ガス膜の電極部の中間膜層であるTiO2が、700℃のアニールにおいても、Pt/TiO2/SiO2における相互拡散を抑制し、特性劣化を及ぼすPt電極へのSi析出を防止したためである。
【0089】
また、参考例として、図1と同一の構成で、酸化防止保護膜60を形成しないものを制作し、比較した。参考例では、ガスセンサの特性と、薄膜ヒータ形成直後の薄膜ヒータの消費電力は同一であったが、酸素雰囲気中の700℃アニールで、消費電力が68mWに上昇した。これは、酸化防止保護膜60でヒータ電極接続部が被覆されていないと、ヒータ電極接続部の酸化が促進され、コンタクト抵抗が上昇したためである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る半導体式薄膜ガスセンサは、家庭用のガス漏れ検知、燃焼機器の不完全燃焼の検出、車両の排気ガスの成分の検出等に利用できる。
【符号の説明】
【0091】
10 (半導体式)薄膜ガスセンサ、12 Si基板、14 支持部、16 中央部、20 薄膜メンブレン、22 熱酸化膜、24 SiN膜、26 酸化膜、30 薄膜ヒータ、32 層間絶縁膜、34,35 コンタクトホール、40,41 薄膜ヒータ電極、42,43 ヒータ電極用中間膜層、48 中間絶縁膜、50,51 感ガス膜電極、52,53 感ガス膜電極用中間膜層、60 酸化防止保護膜、66 レジスト膜、68,84,86,87,88,89 開口部、70 感ガス膜、80,81 保護膜用中間膜層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設け、アニール熱処理を経て得られる半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
薄膜ヒータの両端の電極接続部に接続され、Ptで構成される薄膜ヒータ電極と、
少なくとも薄膜ヒータの電極接続部と薄膜ヒータ電極との間に設けられ、TiNまたはTaNを含むヒータ電極用中間膜層と、
感ガス膜の両端の電極接続部に接続され、Ptで構成される感ガス膜電極と、
少なくとも感ガス膜の電極接続部と感ガス膜電極との間に設けられ、TiO2またはTa2O3またはAl2O3の少なくとも1つを含む感ガス膜電極用中間膜層と、
少なくとも薄膜ヒータ電極を覆う酸化防止保護膜であって、薄膜ヒータ電極との間にTiNを含む保護膜用中間膜層を有する酸化防止保護膜と、
を有することを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
薄膜ヒータの電極接続部は、
Ptである薄膜ヒータ電極の電極接続部側にTiNを含むヒータ電極用中間膜層が積層され、薄膜ヒータ電極の電極接続側と反対側にTiNを含む保護膜用中間膜層が積層される積層構造を有することを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
ヒータ電極用中間膜層は、
TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層であり、
保護膜用中間膜層は、
TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータ電極側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータ電極側となる積層膜層であることを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
感ガス膜電極用中間膜層は、
TiO2とTiONの積層構造でTiO2層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはTa2O5とTaONの積層構造でTa2O5層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはAl2O3とAlONの積層構造でAl2O3層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層であることを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
酸化防止保護膜は、SiO2,SiN,SiONの少なくとも1つを含んで構成されることを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極との間の接触抵抗値が、10-4Ω/cm-2以下であることを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
薄膜ヒータ電極と感ガス膜電極との間に設けられる中間絶縁膜を有することを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項8】
Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設け、アニール熱処理を経て得られる半導体式薄膜ガスセンサの製造方法であって、
Si基板を両面研摩する工程と、
Si基板の一方側である表面に、メンブレン層となる薄膜絶縁膜層を形成する工程と、
薄膜絶縁膜層の上に、所定の抵抗率を有するポリシリコン膜を形成し、所定のヒータ形状に成形する薄膜ヒータ形成工程と、
薄膜ヒータを覆って層間絶縁膜となる絶縁膜層を形成する工程と、
層間絶縁膜において、薄膜ヒータの両端の電極接続部に対応する箇所を一対のヒータ用コンタクトホールとして開口する工程と、
TiNまたはTaNを含むヒータ電極用中間膜層と、その上のPt層と、Pt層の上のTiNまたはTaNを含む保護膜用中間膜層とを連続的に積層してヒータ電極積層膜を形成する工程と、
ヒータ電極積層膜について、一対のヒータ用コンタクトホールを覆って一対の所定の薄膜ヒータ電極形状に成形するヒータ電極部形成工程と、
層間絶縁膜の上に、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つを含む感ガス膜電極用中間膜層と、その上のPt層とを連続的に積層して感ガス膜電極積層膜を形成する工程と、
感ガス膜電極積層膜について、一対の所定の感ガス膜電極形状に成形する感ガス膜電極部形成工程と、
感ガス膜電極部を覆う酸化防止保護膜を形成する工程と、
酸化防止保護膜を部分的に除去して感ガス膜電極部を露出させ、また保護膜用中間膜層と酸化防止保護膜を部分的に除去して一対の薄膜ヒータ電極部の末端側の引出部を露出させる工程と、
リフトオフ用薄膜層を全面に形成し、一対の感ガス膜電極部のそれぞれの先端の電極接続部に相当する箇所を少なくとも露出させながら、所定の感ガス膜形状に相当する部分を除去する工程と、
感ガス膜層を全面に形成し、リフトオフ薄膜をリフトオフ法によって除去して、両端の電極接続部が感ガス膜電極部に接続された感ガス膜を形成し、同時に、一対の薄膜ヒータ電極部と、一対の感ガス膜電極部の末端側の引出部を露出させる工程と、
所定のアニーリング条件でアニール熱処理する工程と、
Si基板の両面をレジストで覆い、Si基板の他方側である裏面において、表面側に形成された各要素のパターンに対し裏面エッチング箇所に相当する部分を位置合わせし、裏面エッチング箇所に相当する部分のレジストを除去する工程と、
Si基板の裏面について、レジストを用いて裏面エッチング箇所のSiをメンブレン層が露出するまで除去してSi基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体を形成する工程と、
を含むことを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサの製造方法。
【請求項1】
Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設け、アニール熱処理を経て得られる半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
薄膜ヒータの両端の電極接続部に接続され、Ptで構成される薄膜ヒータ電極と、
少なくとも薄膜ヒータの電極接続部と薄膜ヒータ電極との間に設けられ、TiNまたはTaNを含むヒータ電極用中間膜層と、
感ガス膜の両端の電極接続部に接続され、Ptで構成される感ガス膜電極と、
少なくとも感ガス膜の電極接続部と感ガス膜電極との間に設けられ、TiO2またはTa2O3またはAl2O3の少なくとも1つを含む感ガス膜電極用中間膜層と、
少なくとも薄膜ヒータ電極を覆う酸化防止保護膜であって、薄膜ヒータ電極との間にTiNを含む保護膜用中間膜層を有する酸化防止保護膜と、
を有することを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
薄膜ヒータの電極接続部は、
Ptである薄膜ヒータ電極の電極接続部側にTiNを含むヒータ電極用中間膜層が積層され、薄膜ヒータ電極の電極接続側と反対側にTiNを含む保護膜用中間膜層が積層される積層構造を有することを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
ヒータ電極用中間膜層は、
TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータの電極接続部側となる積層膜層であり、
保護膜用中間膜層は、
TiNとTiの積層構造でTi層が薄膜ヒータ電極側となる積層膜層、またはTaNとTaの積層構造でTa層が薄膜ヒータ電極側となる積層膜層であることを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
感ガス膜電極用中間膜層は、
TiO2とTiONの積層構造でTiO2層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはTa2O5とTaONの積層構造でTa2O5層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層、またはAl2O3とAlONの積層構造でAl2O3層が感ガス膜の電極接続部側となる積層膜層であることを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
酸化防止保護膜は、SiO2,SiN,SiONの少なくとも1つを含んで構成されることを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
薄膜ヒータと薄膜ヒータ電極との間の接触抵抗値が、10-4Ω/cm-2以下であることを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の半導体式薄膜ガスセンサにおいて、
薄膜ヒータ電極と感ガス膜電極との間に設けられる中間絶縁膜を有することを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサ。
【請求項8】
Si基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体上に薄膜ヒータと感ガス膜を設け、アニール熱処理を経て得られる半導体式薄膜ガスセンサの製造方法であって、
Si基板を両面研摩する工程と、
Si基板の一方側である表面に、メンブレン層となる薄膜絶縁膜層を形成する工程と、
薄膜絶縁膜層の上に、所定の抵抗率を有するポリシリコン膜を形成し、所定のヒータ形状に成形する薄膜ヒータ形成工程と、
薄膜ヒータを覆って層間絶縁膜となる絶縁膜層を形成する工程と、
層間絶縁膜において、薄膜ヒータの両端の電極接続部に対応する箇所を一対のヒータ用コンタクトホールとして開口する工程と、
TiNまたはTaNを含むヒータ電極用中間膜層と、その上のPt層と、Pt層の上のTiNまたはTaNを含む保護膜用中間膜層とを連続的に積層してヒータ電極積層膜を形成する工程と、
ヒータ電極積層膜について、一対のヒータ用コンタクトホールを覆って一対の所定の薄膜ヒータ電極形状に成形するヒータ電極部形成工程と、
層間絶縁膜の上に、TiO2またはTa2O5またはAl2O3の少なくとも1つを含む感ガス膜電極用中間膜層と、その上のPt層とを連続的に積層して感ガス膜電極積層膜を形成する工程と、
感ガス膜電極積層膜について、一対の所定の感ガス膜電極形状に成形する感ガス膜電極部形成工程と、
感ガス膜電極部を覆う酸化防止保護膜を形成する工程と、
酸化防止保護膜を部分的に除去して感ガス膜電極部を露出させ、また保護膜用中間膜層と酸化防止保護膜を部分的に除去して一対の薄膜ヒータ電極部の末端側の引出部を露出させる工程と、
リフトオフ用薄膜層を全面に形成し、一対の感ガス膜電極部のそれぞれの先端の電極接続部に相当する箇所を少なくとも露出させながら、所定の感ガス膜形状に相当する部分を除去する工程と、
感ガス膜層を全面に形成し、リフトオフ薄膜をリフトオフ法によって除去して、両端の電極接続部が感ガス膜電極部に接続された感ガス膜を形成し、同時に、一対の薄膜ヒータ電極部と、一対の感ガス膜電極部の末端側の引出部を露出させる工程と、
所定のアニーリング条件でアニール熱処理する工程と、
Si基板の両面をレジストで覆い、Si基板の他方側である裏面において、表面側に形成された各要素のパターンに対し裏面エッチング箇所に相当する部分を位置合わせし、裏面エッチング箇所に相当する部分のレジストを除去する工程と、
Si基板の裏面について、レジストを用いて裏面エッチング箇所のSiをメンブレン層が露出するまで除去してSi基板の中央部に熱絶縁された薄膜メンブレン構造体を形成する工程と、
を含むことを特徴とする半導体式薄膜ガスセンサの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−15401(P2013−15401A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148100(P2011−148100)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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