説明

半導体発光装置、並びに画像表示装置及び照明装置

【課題】 発光特性に優れているものの、化学的安定性に問題のある蛍光体を実用化可能とする半導体発光装置と、この半導体発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置を提供する。
【解決手段】 光源と、該光源からの光の少なくとも一部を吸収し、該光源からの光とは異なる波長を有する光を発する蛍光体とを備える発光装置において、該光源として導電性を有する基板上に形成された半導体発光素子を備え、かつ、該蛍光体としてMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を備えることを特徴とする、半導体発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子と蛍光体を用いた発光装置、並びにその発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置に関する。より詳しくは、半導体発光素子と、当該半導体発光素子からの光の照射によって異なる波長の光を発生する、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を有する発光装置、並びにその発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、窒化ガリウム(GaN)系半導体発光素子と、波長変換材料としての蛍光体とを組み合わせて構成される白色発光装置が、消費電力が小さく長寿命であるという特徴を活かして画像表示装置や照明装置の発光源として注目されている。例えば、In添加GaN系青色LEDと、Ce付活イットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた白色発光装置が代表的な発光装置として挙げられる。このような白色発光装置は、近年、ディスプレイ用バックライトなどの新たな用途への使用が期待されており、それに伴い、半導体発光素子と組み合わせる蛍光体の研究開発も進められている。
【0003】
半導体発光素子を有する発光装置(以下、「半導体発光装置」と称する場合がある。)は、半導体発光素子の周囲を、蛍光体を含む樹脂で封止する形態が多く採用されている。このような形態では、蛍光体が半導体発光素子から発せられる熱などの影響を受けやすい状態にある。そのため、これまで半導体発光装置に使用する蛍光体は、水分など使用環境の影響を受けにくく、化学的に安定であることを第一優先として選定されることが多かった。
【0004】
一方で、近年、半導体発光装置は、表示用、照明用などの用途に加え、ディスプレイ用などの新たな用途への使用が期待されるに至り、従来の物質の範囲内では所望の発光特性を有する蛍光体が得られず、従来範囲を超えた物質の使用が検討されている。
この中で、Mn4+付活フッ素錯体蛍光体を使用した発光装置が知られており、例えば、(1)半導体発光素子直上に蛍光体を堆積し、封止部材を用いて封止する方法、(2)封止部材中に蛍光体を均一に分散させる方法、及び(3)封止カプセルの表面、または内壁に蛍光体を塗布する方法等が例示されている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
また、蛍光体の劣化を防ぐために、蛍光体の表面に化学気相反応法(CVD法)や溶液中で蛍光体の粒子表面に被覆層を析出させる等により、被覆層を形成させる方法が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公開2006/0071589号公報
【特許文献2】米国特許公開2006/0169998号公報
【特許文献3】米国特許公開2007/0205712号公報
【特許文献4】特開2005−82788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの前述の特許文献に記載の方法を用いて半導体発光装置を作成した場合、経時劣化が激しく実用に耐えないものであることが発明者らの検討により明らかとなった。
加えて、特許文献4に記載の、CVD法により蛍光体をコーティングする方法は、特殊な装置を必要とするものである。また、特許文献4に、もう一つの方法として、溶液中で蛍光体の粒子表面に被覆層を析出させることによりコーティングする方法も開示されているが、耐水性の低い蛍光体には不向きであったり、すべての蛍光体に適用することは難しい。
【0008】
さらに、本発明者らが予備的な検討を行なったところ、付活元素であるMn4+を含有していない、蛍光体の母体結晶を用いて発光装置を作製しても、時間の経過と共に半導体発光装置の性能が低下することが分かった。この現象をより詳細に検討したところ、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用した半導体発光装置では、半導体発光素子自身の劣化と、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体自身の劣化という二つの要因があることが分かった。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、発光特性に優れているものの、化学的安定性に問題のある蛍光体を実用化可能とする半導体発光装置と、この半導体発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題に鑑み、半導体発光素子自体の構造と、Mn4+付活フッ素錯体蛍光体との関係を詳細に検討した。その結果、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用する場合には、半導体発光素子の中でも、導電性を有する基板上に形成されたものを使用することにより、半導体発光装置の耐久性を向上させることができることを見出した。
【0011】
また、本発明者等は、前記半導体発光装置が、表示装置、照明装置等の用途に好適に使用できることを見出して、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、次の(1)〜(9)に存する。
(1)光源と、該光源からの光の少なくとも一部を吸収し、該光源からの光とは異なる波長を有する光を発する蛍光体とを備える発光装置において、該光源として導電性を有する基板上に形成された半導体発光素子を備え、かつ、該蛍光体としてMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を備えることを特徴とする、半導体発光装置。
(2)前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が、200℃における、蛍光体1gあたりの加熱発生フッ素量が0.01μg/分以上のものであることを特徴とする、(1)に記載の半導体発光装置。
(3)前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が、20℃における、100gの水に対する溶解度が0.005g以上、7g以下のものであることを特徴とする、(1)または(2)に記載の半導体発光装置。
(4)前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体蛍光体が、610nm以上、650nm以下の波長範囲に主発光ピークを有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の半導体発光装置。
(5)前記主発光ピークの半値幅が、10nm以下であることを特徴とする、(4)に記載の半導体発光装置。
(6)前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が、励起光の波長が455nmの場合の、25℃のときの発光ピーク強度に対する100℃における発光ピーク強度の変化率が、40%以下であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の半導体発光装置。
(7)前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が、下記式[1]〜[8]のいずれかで表される化学組成を有する結晶相を含有するものであることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の半導体発光装置。
【0012】
[MIV1−x] ・・・[1]
[MIII1−x] ・・・[2]
II[MIV1−x] ・・・[3]
[MIV1−x] ・・・[4]
[MIII1−x] ・・・[5]
Zn[MIII1−x] ・・・[6]
[MIII2−2x2x] ・・・[7]
Ba0.65Zr0.352.70:Mn4+ ・・・[8]
(但し、前記式[1]〜[8]において、MはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHからなる群より選ばれる1種以上の1価の基を表わし、MIIはアルカリ土類金属元素を表し、MIIIは周期律表第3族及び第13族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、MIVは周期律表第4族及び第14族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、Rは、少なくともMnを含有する付活元素を表す。xは、0<x<1で表される範囲の数値である。)
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の発光装置を備えることを特徴とする、画像表示装置。
(9)(1)〜(7)のいずれかに記載の発光装置を備えることを特徴とする、照明装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を用いた場合であっても、耐久性に優れた半導体発光装置を提供することができる。
また、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体の発光特性を活かして、高演色性の半導体発光装置を提供することができる。
さらに、本発明の半導体発光装置を用いて、耐久性に優れた画像表示装置、及び照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)は縦型半導体発光素子の断面図である。図1(b)は横型半導体発光素子の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態(縦型構造)による発光素子の断面図である。
【図3】本発明の半導体発光装置の一実施例を示す模式的斜視図である。
【図4】図4(a)は、本発明の砲弾型発光装置の一実施例を示す模式的断面図であり、図4(b)は、本発明の表面実装型発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の照明装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
1)なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
2)また、明細書における色名と色度座標との関係は、すべてJIS規格に基づく(JISZ8110)。
3)なお、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ba,Sr,Ca)Al:Eu」という組成式は、「BaAl:Eu」と、「SrAl:Eu」と、「CaAl:Eu」と、「Ba1−xSrAl:Eu」と、「Ba1−xCaAl:Eu」と、「Sr1−xCaAl:Eu」と、「Ba1−x−ySrCaAl:E
u」とを全て包括的に示しているものとする(但し、前記式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)。
【0016】
[1.半導体発光素子]
半導体発光素子の発光波長は使用する蛍光体の吸収波長と重複するものであれば、特に制限されず、幅広い発光波長領域の発光体を使用することができるが、通常200nm以上が望ましい。このうち、青色光を励起光として用いる場合には、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、更に好ましくは450nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下、さらに好ましくは460nm以下の発光ピーク波長を有する発光体を使用することが望ましい。一方、近紫外光、又は紫外光を励起光として用いる場合には、通常300nm以上、好ましくは330nm以上、より好ましくは360nm以上、また、通常420nm以下、好ましくは410nm以下、より好ましくは400nm以下の発光ピーク波長を有する発光体を使用することが望ましい。
【0017】
尚、本発明で用いられるMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体(以下、単に「フッ素錯体蛍光体」と称する場合がある。)は通常青色光で励起される。従って、近紫外光又は紫外光を用いる場合には、前記フッ素錯体蛍光体は、通常これらの光により励起される青色蛍光体が発する青色光で励起(間接励起)されることとなるので、当該青色蛍光体の励起帯に合うような波長を有する励起光を選ぶことが好ましい。
【0018】
半導体発光素子としては、例えば、シリコンカーバイドやサファイア、窒化ガリウム等の基板にMOCVD法等で結晶成長されたInGaN系、GaAlN系、InGaAlN系、ZnSeS系の半導体発光素子等を好適に用いることができる。高出力にするには、光源サイズを大型化したり、光源の数を複数にしたりすればよい。また、端面発光型や面発光型のレーザーダイオードであっても良い。青色又は近紫外LEDは、蛍光体を効率良く励起できる波長を有しているため、光量の大きい光源を得ることができる点で、好適に用いられる。
【0019】
中でも、半導体発光素子としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系発光ダイオード(以下、「LED」と称する場合がある。)やLD(レーザーダイオード)が好ましい。なぜなら、GaN系LEDやLDは、この領域の光を発するSiC系LED等に比し、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、前記蛍光体と組み合わせることによって、低電力で非常に明るい発光が得られるからである。例えば、20mAの電流負荷に対し、通常GaN系LEDやLDはSiC系の100倍以上の発光強度を有する。GaN系LEDやLDとしては、AlGaN発光層、GaN発光層又はInGaN発光層を有しているものが好ましい。中でも、発光強度が非常に高いことから、GaN系LEDとしては、InGaN発光層を有するものが特に好ましく、InGaN層とGaN層との多重量子井戸構造のものがさらに好ましい。
【0020】
なお、上記において、「」は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましいものである。
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlGaN層、GaN層、又はInGaN層等でサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高くて好ましく、更にヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率が更に高いため、より好ましい。
【0021】
なお、半導体発光素子は、1個のみを用いてもよく、2個以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上記半導体発光素子は、図1(a)及び図1(b)に示すように縦型素子構造を有するものと横型素子構造を有するものとがある。このうち、導電性を有する基板上に形成された縦型素子構造を有する半導体発光素子を用いた場合、フッ素錯体蛍光体を用いた場合に、発光装置の耐久性向上、具体的には温度85℃、湿度85%における発光装置の経時劣化が抑えられるという点で好ましい。
【0022】
ここで、縦型素子構造とは、導電性を有する基板の上に所望の発光素子構造をエピタキシャル成長させ、当該基板に一方の電極を形成し、当該エピタキシャル成長層の上にもさらに一方の電極を形成することで、エピタキシャル成長方向に電流を流す、いわゆる上下導通型(縦型)の発光素子の構造をいう。
pn接合型素子を用いて半導体発光装置を作製する場合について、以下に図を用いて説明する。図1(a)に、縦型素子構造とその電流分布を示し、図1(b)に、横型素子構造とその電流分布を示す。
【0023】
図1(a)に示す縦型素子構造は、導電性基板(105)上にn型層(104)、p型層(103)が積層され、p型層(103)にp型電極(101)、及び導電性基板(105)にn型電極(102)が形成された構造となっている。この場合、各層間の界面に垂直な方向を縦方向とすると、電流は導電性基板(105)、n型層(104)、p型層(103)内を縦方向にのみ流れる。
【0024】
図1(b)に示す横型素子構造は、サファイア等の絶縁性基板上に素子を作製する場合にとられる構造である。絶縁性基板(106)上にn型層(104)、p型層(103)が積層され、p型層(103)にp型電極(101)、及びドライエッチング等により露出されたn型層(104)にn型電極(102)が形成された構造となっている。この場合、各層間の界面と水平な方向を横方向とすると、電流がn型層(104)中を横方向に流れるため素子抵抗が増加し、かつ、電界がn型電極(102)側に集中して電流分布が不均一になる傾向にある。
【0025】
以下、縦型素子構造の代表的な一例を示す。
本発明の実施形態による半導体発光素子(20)は、図2に示すように、基板(21)と、基板(21)の一方に積層された化合物半導体薄膜結晶層(以下、単に薄膜結晶層ともいう)とを有する。薄膜結晶層は、例えばバッファ層(22)、第一導電型クラッド層(24)を含む第一導電型半導体層、活性層構造(25)、第二導電型クラッド層(26)を含む第二導電型半導体層、及びコンタクト層(23)が基板(21)側からこの順番に積層されて構成されている。
【0026】
コンタクト層(23)の表面の一部に、電流注入用の第二導電型側電極(27)が配置されており、コンタクト層(23)と第二導電型側電極(27)の接触している部分が、第二導電型半導体層に電流を注入する第二電流注入領域(29)となっている。
また、基板(21)の前記薄膜結晶層と反対側の面、即ち裏面には第一導電型側電極(28)が配置されている。
【0027】
第二導電型側電極(27)及び第一導電型側電極(28)が上記のように配置されることによって、両者は基板(21)を挟んで、反対側に配置され、半導体発光素子(20)は、いわゆる縦型の半導体発光素子として構成されている。
基板(21)は、導電性基板か、絶縁性の基板の一部に導電性材料を貫通したものを用いることができる。導電性基板を用いる場合は、SiC基板のほかに、GaN基板、ZnO基板等が挙げられる。特に、電気抵抗を低く抑え導電性を高くできるので、SiC基板とGaN基板が好ましい。
【0028】
Mn4+付活フッ素錯体蛍光体を含有する発光装置に用いる半導体発光素子として、縦型素子構造が好ましい理由は明らかではないが、耐久試験後の電極面を顕微鏡観察すると横型素子構造と比較して、縦型素子構造のLEDチップは電極面の変色が少ないことが観測されている。
半導体発光装置に通電していると、Mn4+付活フッ素錯体蛍光体から腐食性の物質(フッ素を含むもの)が発生し、ワイヤーにダメージを与え、ダメージのあったワイヤーは、抵抗が大きくなるものと考えられる。縦型素子構造を有する半導体発光素子は、横型素子構造と比較して、上側にある電極が1個なので、ワイヤーや電極へのダメージが小さく、電気伝導度の変化が少ないので好ましいと推測される。
【0029】
さらに、通電時にMn4+付活フッ素錯体蛍光体から発生する腐食性の物質には、イオン伝導性のものが含まれていると考えられる。横型素子構造を有するものでは、2つの電極間の距離が短いので電極間に漏れ電流が流れてしまう可能性が高くなるが、縦型素子構造を有する半導体発光素子では、2つの電極間の距離が長いのでその可能性が小さいと考えられる。
【0030】
[2.Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体]
本発明の半導体発光装置は、前記半導体発光素子が発する光により、直接的又は間接的に励起されて発光する蛍光体を備えるものである。本発明の半導体発光装置は、該蛍光体として、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を必須とする。
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体は、化学的安定性が劣る傾向にあるので、従来公知の半導体発光素子の構成においては、長時間使用した場合に色ズレなどの諸問題を生じることがあった。これに対し、本発明の半導体発光装置は、このようなMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体であっても、半導体発光素子と共に半導体発光装置を構成する蛍光体として好適に用いることができるものである。
本発明の半導体発光装置は、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体の中でも、以下の特性を有するような蛍光体に好適に用いることができる。
【0031】
[2−1.加熱発生フッ素量]
フッ素錯体蛍光体は、200℃における蛍光体1g当たりの加熱発生フッ素量(以下、「加熱発生F量」と称する場合がある。)が0.01μg/分以上、中でも0.1μg/分以上、さらには1μg/分以上となる場合があるが、前述の通り、縦型素子構造を有する半導体発光素子と組み合わせることにより、高温、かつ、高湿度(例えば、温度85℃、湿度85%)の状態で発光装置を保管又は点灯したときの経時劣化を抑えることが可能となる。なお、蛍光体1gあたりの加熱発生F量としては、環境基準から好ましくは2μg/分以下である。また、蛍光体周辺へのダメージを小さくするために、1.5μg/分以下の蛍光体の方が、好適に用いることができる。
【0032】
上記加熱発生F量は、下記の方法で測定することができる。
一定量の蛍光体を精秤後、白金ボートに入れ、横型電気炉のアルミナ製炉心管中にセットする。次いで、流量400ml/分でアルゴンガスを流通させながら、炉内温度を昇温させて蛍光体の温度が200℃になったところで2時間保持する。ここで、炉内を流通していたアルゴンガス全量をKOH水溶液(濃度67mM)に吸収させ、吸収液を液体クロマトグラフィー法により分析し、蛍光体1g当たりの毎分の加熱発生F量を求める。
【0033】
[2−2. 水に対する溶解度]
さらに、フッ素錯体蛍光体は、室温20℃における100gの水に対する溶解度が、通常0.005g以上、好ましくは0.010g以上、より好ましくは0.015g以上であり、また、通常7g以下、好ましくは2g以下のものである。このように、水に対する
溶解度が比較的高い蛍光体であっても、前述の通り、縦型素子構造を有する半導体発光素
子と組み合わせることにより、高温、かつ、高湿度(例えば、温度85℃、湿度85%)の状態で発光装置を保管又は点灯したときの経時劣化が抑えることが可能となる。
尚、参考として下記表にヘキサフルオロ錯体の溶解度を示す。また、当該表に記載の値は、森田化学社製の試薬に添付されていた製品安全データシート(MSDS)に基づく。
【0034】
【表1】

【0035】
[2−3. 発光スペクトル]
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、ピーク波長455nmの光で励起して発光スペクトルを測定した場合に、以下の特徴を有することが好ましい。
【0036】
上述の発光スペクトルにおけるピーク波長λp(nm)が、通常600nmより大きく、中でも605nm以上、さらには610nm以上、また、通常660nm以下、中でも650nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長λpが短過ぎると黄味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると暗赤味を帯びる傾向があり、何れも橙色ないし赤色光としての特性が低下する場合がある。
【0037】
また、本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅(Full width at half maximum。以下適宜「FWHM」と略称する。)が、通常1nmより大きく、中でも2nm以上、更には3nm以上、また、通常50nm未満、中でも30nm以下、更には10nm以下、また更には8nm以下であり、この中でも7nm以下の範囲であることが好ましい。この半値幅(FWHM)が狭過ぎると発光ピーク強度が低下する場合があり、広過ぎると色純度が低下する場合がある。
【0038】
なお、上記の蛍光体をピーク波長455nmの光で励起するには、例えば、キセノン光源を用いることができる。また、本発明の蛍光体の発光スペクトルの測定は、例えば、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)等を用いて行うことができる。発光ピーク波長、及び発光ピークの半値幅は、得られる発光スペクトルから算出することができる。
【0039】
[2−4.量子効率・吸収効率]
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、その内部量子効率が高いほど好ましい。その値は、通常50%以上、好ましくは75%以上、更に好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。内部量子効率が低いと発光効率が低下する傾向にある。
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、その外部量子効率が高いほど好ましい。その値は、通常20%以上、好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上、特に好ましくは35%以上である。外部量子効率が低いと発光効率が低下する傾向にある。
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、その吸収効率も高いほど好ましい。その値は通常25%以上、好ましくは30%以上、更に好ましくは42%以上、特に好ましくは50%以上である。吸収効率が低いと発光効率が低下する傾向にある。
なお、上記内部量子効率、外部量子効率、及び吸収効率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0040】
[2−5.フッ素錯体蛍光体粒子の粒径、及び形状]
<重量メジアン径D50
本発明に用いられる蛍光体の粒径には特に制限はないが、蛍光体の粒径が大きいほど、比表面積が小さく、水分との反応が少なくなる傾向にあるため、好ましい。本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体の重量メジアン径D50は、通常3μm以上、中でも10μm以上、また、通常50μm以下、中でも30μm以下であることが好ましい。重量メジアン径D50が小さすぎると、輝度が低下する場合や、蛍光体粒子が凝集してしまう場合がある。一方、重量メジアン径D50が大きすぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
なお、本発明における蛍光体の重量メジアン径D50は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等の装置を用いて測定することができる。
【0041】
<比表面積>
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体の比表面積は、通常1.3m/g以下、好ましくは1.1m/g以下、特に好ましくは1.0m/g以下であり、また、通常0.05m/g以上、中でも0.1m/g以上であることが好ましい。蛍光体の比表面積が小さすぎると蛍光体粒子が大きいことから、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞を生じる傾向にあり、大きすぎると蛍光体粒子が小さいことから外部との接触面積が大きくなり、耐久性に劣るものとなる。
なお、本発明において蛍光体の比表面積は、BET1点法により、例えば、大倉理研社製全自動比表面積測定装置(流動法)(AMS1000A)を用いて測定される。
【0042】
<粒度分布>
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、その粒度分布において、ピーク値が一つであることが好ましい。
ピーク値が2以上あることは、単粒子によるピーク値と、その凝集体によるピーク値とがあることを示す。そのため、ピーク値が2以上あることは、単粒子が非常に小さいことを意味する。
従って、その粒度分布のピーク値が一つである蛍光体は、単粒子が大きく、凝集体が非常に少ないものである。これにより、輝度が向上するという効果や、また、単粒子が大きく成長できたことに起因して比表面積が小さくなり、耐久性が向上するという効果を有する。
【0043】
なお、本発明においては、蛍光体の粒度分布は、例えば、堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−300)により測定することができる。測定にあたっては、分散溶媒としてエタノールを用い、蛍光体を分散させてから、光軸上の初期透過率を90%前後に調整し、マグネット回転子で分散溶媒を攪拌しながら凝集による影響を最小限に抑えて測定することが好ましい。
【0044】
また、上記粒度分布のピークの幅は、狭い方が好ましい。具体的には、蛍光体粒子の粒度分布の四分偏差(QD)が、通常0.18以上、好ましくは0.20以上であり、また
通常0.60以下であり、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.30以下、特に好ましくは0.25である。
なお、粒度分布の四分偏差とは、蛍光体粒子の粒径が揃っているほど、小さくなる。即ち、粒径分布の四分偏差が小さいということは、粒度分布のピークの幅が狭く、蛍光体粒子の大きさが揃っていることを意味する。
また、粒度分布の四分偏差は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布曲線を用いて算出することができる。
【0045】
<粒子形状>
走査型顕微鏡(以下、「SEM」と称する場合がある。)写真の観察から認められる本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体の粒子形状は、3軸方向に均等に成長した粒状であることが好ましい。粒子形状が3軸方向に均等に成長すると比表面積が小さくなり、外部との接触面積が小さいので耐久性に優れる。
なお、このSEM写真は例えば日立製作所社製SEM(S−3400N)により撮影することができる。
【0046】
[2−6.発光ピーク強度の温度依存性]
本発明で用いられるフッ素錯体蛍光体は、発光ピーク強度の変化率が小さいことが好ましい。具体的には、励起光の波長が455nmの場合の、蛍光体の温度が25℃のときの発光ピーク強度に対する100℃における発光ピーク強度の変化率が、通常40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは22%以下、特に好ましくは18%以下、最も好ましくは15%以下のものを用いる。
【0047】
半導体発光素子から発せられた光は、蛍光体及び蛍光体を保持しているバインダに吸収される。これによってバインダが発熱し、蛍光体を加熱する。また、半導体発光素子から発せられた光が蛍光体に吸収されることによって蛍光体自身も発熱する。更には、半導体発光素子が通電され発光する際には、半導体発光素子内部の電気抵抗により発光素子が発熱し、その温度が上昇することにより、伝熱により蛍光体が加熱される。これらの加熱作用により蛍光体の温度は100℃程度に到達する。蛍光体の発光ピーク強度は温度に依存し、蛍光体が高温になるほど発光ピーク強度は低下する傾向にある。
【0048】
一方、本発明の半導体発光装置は、通常の場合、赤色領域に発光ピークを有するフッ素錯体蛍光体と共に、他種の蛍光体(例えば、後述する緑色蛍光体や青色蛍光体)を組み合わせて所望の発光色を有する発光装置とすることができる。
よって、半導体発光素子から光が発せられ続けた状態においても全体としての色調が変わらないようにするためには、温度上昇によって各色蛍光体の発光ピーク強度が変化したとしても、そのバランスが大きく崩れないようにすることが重要である。
【0049】
フッ素錯体蛍光体と共に用いる他種の蛍光体も、励起光の波長が400nm又は455nmの場合において、25℃での発光ピーク強度に対する100℃での発光ピーク強度の変化率が上記範囲であるように組成等を調製することが好ましい。これにより、各色蛍光体の温度上昇によって各色蛍光体の発光ピーク強度が変化しても、その変化が各色蛍光体間で比較的小さくなるので、本発明の半導体発光装置から発せられる光の色調は全体として変化が小さくなる。
ここで、蛍光体の温度依存性は、具体的には、例えば以下のように測定することができる。
【0050】
[温度依存性の測定例]
温度依存性の測定は、発光スペクトル測定装置として、例えば大塚電子社製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、輝度測定装置として、例えば色彩輝度計BM5A、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を用いて、下記手順で行なう。
【0051】
ステージに蛍光体のサンプルを入れたセルを載せ、温度を25℃、及び100℃と変化させ、蛍光体の表面温度を確認し、次いで、光源から回折格子で分光して取り出した波長400nm又は455nmの光で蛍光体を励起して、輝度値及び発光スペクトルを測定する。測定された発光スペクトルから、発光ピーク強度を求める。ここで、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値としては、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いる。
【0052】
[2−7.Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体の組成]
本発明の半導体発光装置に用いられるMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体としては、好ましくは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素と、周期律表第3族、第4族、第13族、及び第14族からなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素と、ハロゲン元素から選ばれる少なくとも1種類の元素とを含有する蛍光体が挙げられる。
【0053】
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体としては、下記の式[1]〜[8]で示される蛍光体であることが好ましい。
[MIV1−x] ・・・[1]
[MIII1−x] ・・・[2]
II[MIV1−x] ・・・[3]
[MIV1−x] ・・・[4]
[MIII1−x] ・・・[5]
Zn[MIII1−x] ・・・[6]
[MIII2−2x2x] ・・・[7]
Ba0.65Zr0.352.70:Mn4+ ・・・[8]
(但し、前記式[1]〜[8]において、MはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHからなる群より選ばれる1種以上の1価の基を表わし、MIIはアルカリ土類金属元素を表し、MIIIは周期律表(以下、周期律表の記載は省略する場合がある。)第3族及び第13族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、MIVは第4族及び第14族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、Rは、少なくともMnを含有する付活元素を表す。xは、0<x<1で表される範囲の数値である。)
としては、K及びNaからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有することが特に好ましい。
【0054】
IIとしては、少なくともBaを含有することが好ましく、特に好ましくはBaである。
IIIの好ましい具体例としては、Al、Ga、In、Y、及びScからなる群より選ばれる1種以上の金属元素が挙げられ、このうち、Al、Ga、及びInからなる群より選ばれる1種以上の金属元素が好ましく、さらには、少なくともAlを含有することがより好ましく、特にはAlが好ましい。
【0055】
IVの好ましい具体例としては、Si、Ge、Sn、Ti、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属元素が挙げられ、中でもSi、Ge、Ti、Zrが好ましく、このうち、少なくともSiを含有することが好ましく、特にはSiが好ましい。
xとしては、好ましくは0.004以上、より好ましくは0.010以上、特に好ましくは0.020以上であり、また、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.25以下、更に好ましくは0.08以下、特に好ましくは0.06以下である。
【0056】
上記式[1]〜[8]で表される化合物の好ましい具体例としては、K[AlF]:Mn4+、K[AlF]:Mn4+、K[GaF]:Mn4+、Zn[AlF]:Mn4+、K[In]:Mn4+、K[SiF]:Mn4+、Na[SiF]:Mn4+、K[TiF]:Mn4+、K[ZrF]:Mn4+、Ba[TiF]:Mn4+、K[SnF]:Mn4+、Na[TiF]:Mn4+、Na[ZrF]:Mn4+、KRb[TiF]:Mn4+、K[Si0.5Ge0.5]:Mn4+を挙げることができる。
【0057】
上記式[1]〜[8]で表される蛍光体の中でも、式[1]で表される化学組成を有する結晶相を含有することが特に好ましい。式[1]で表される化学組成を有する結晶相を含有する蛍光体は、結晶欠陥を生じにくく、安定性に優れるからである。また、Mn4+錯イオン[MnF2−を含むKMnFと、母体のKTiF、KSiF、KGeF、KZrFとは類似した結晶構造をとっており、これらの母体には[MnF2−錯イオンの状態で置換されやすいからである。
【0058】
上記式[1]で表される化合物の中でも、下記式[1’]で表される化学組成を有する結晶相を含有し、MIV’とMnとの合計モル数に対するMnの割合が0.1モル%以上40モル%以下であり、かつ、比表面積が1.3m/g以下であるものを用いると、得られる半導体発光装置の輝度の点で好ましい。
IV’F:R ・・・[1’]
(但し、前記式[1’]中、M’は、K、及びNaからなる群から選ばれる1種以上の元素を含有し、MIV’は、少なくともSiを含有する周期律表第4族及び第14族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、Rは、少なくともMnを含有する付活元素を表す。)
前記式[1’]において、M’は、K及びNaからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する。これらの元素のうち何れか一方を単独で含有していてもよく、二種を任意の比率で併有していてもよい。また、上記のほかにその性能に影響を与えない限りにおいて、Li、Rb、Cs等のアルカリ金属元素や、(NH)を一部含有していても良い。Li、Rb、Cs、又は(NH)の含有量としては通常全M’量に対して10モル%以下である。
【0059】
このうちM’としては、少なくともKを含有しているのが好ましく、通常、全M’量に対してKが90モル%以上、好ましくは97モル%以上、より好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上を占める場合であり、Kのみを用いることが特に好ましい。
上記式[1’]において、MIV’は、少なくともSiを含有する。通常、全MIV’量に対してSiが90モル%以上、好ましくは97モル%以上、より好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上を占める場合であり、Siのみを用いることが特に好ましい。即ち、下記式[1’’]で表される化学組成を有する結晶相を含有することが特に好ましい。
【0060】
SiF:R …[1’’]
(前記式[1’’]中、M’、及びRは、上記式[1’]と同義である。)
Rは、少なくともMnを含有する付活元素であり、RとしてMn以外に含まれていても良い付活元素としては、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、及びAgよりなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
Rは、Mnを通常全R量に対して90モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは95モル%以上、特に98モル%以上含むことが好ましく、Mnのみを含むことが特に好ましい。
【0061】
本発明の蛍光体は、MIV’とMnとの合計モル数に対するMnの割合(本発明において、この割合を以下「Mn濃度」と称す。)が0.1モル%以上40モル%以下であることを特徴とする。このMn濃度が少な過ぎると、蛍光体による励起光の吸収効率が小さくなるので、輝度が低下する傾向にあり、多過ぎると、吸収効率は大きくなるものの、濃度消光により内部量子効率及び輝度が低下する傾向にある。より好ましいMn濃度は、0.4モル以上、更に好ましくは1モル%以上、特に好ましくは2モル%以上、また、30モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、またさらに好ましくは8モル%以下、特に好ましくは6モル%以下である。
【0062】
また、本発明の蛍光体は、好ましくは、後述の蛍光体の製造方法に記載される方法により製造されるが、当該蛍光体の製造方法において、以下の理由により、蛍光体原料の仕込み組成と得られる蛍光体の組成とに若干のずれが生じる。本発明の蛍光体は、蛍光体製造時の原料の仕込み組成ではなく、得られる蛍光体の組成として、上記の特定の組成を有することを特徴とする。
【0063】
ここで、Mn4+のイオン半径(0.53Å)はSi4+のイオン半径(0.4Å)に比べて大きく、Mn4+は、KSiFに全固溶せず、部分固溶するので、本発明の蛍光体においては仕込み組成に比べて、実質的に付活されるMn4+濃度は制限され、少なくなる。ただし、蛍光体中に含有されるMn4+の濃度が低い場合でも、本発明の製造方法によれば、粒子成長が促進されるので十分な吸収効率及び輝度を提供することができる。
【0064】
なお、本発明における蛍光体中に含まれるMn濃度の化学組成分析は、例えば、SEM−EDXにより測定することができる。この方法は、走査型電子顕微鏡(SEM)測定において、蛍光体に電子線(例えば、加速電圧20kV)を照射し、蛍光体中に含まれる各元素から放出される特性X線を検出して元素分析を行うものである。測定装置としては、例えば、日立製作所社製SEM(S−3400N)と、堀場製作所社製エネルギー分散X線分析装置(EDX)(EX−250x−act)とを用いて行うことができる。
また、上記蛍光体には、上述の蛍光体を構成する元素以外にAl、Ga、B、In、Nb、Mo、Zn、Ta、W、Re及びMgよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素が、上記蛍光体の性能に悪影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
【0065】
[2−8.Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体の製造方法]
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、各構成元素を含有する原料を混合し、公知の方法に準じて製造することができる。具体的には、各試薬をフッ化水素酸に溶解させてから、溶液を加熱して蛍光体を蒸発乾固させて得る方法(J. Electrochem. Soc. Vol. 120,
No.7, (1973), 942-947, US 2006169998A1)や、各試薬をフッ化水素酸に溶解させてか
ら、貧溶媒を添加することにより、蛍光体を析出させる貧溶媒析出法(米国特許第357
6756号参照)などを用いることができる。
【0066】
また、上記式[1’]で表される蛍光体の場合には、上記のような貧溶媒析出法より、下記のような貧溶媒を用いない方法により製造されるものが好ましい。以下に、MIV’がSiの場合を代表例として、貧溶媒を用いない方法について説明する。
貧溶媒を用いない方法とは、「K、Na、Si、Mn、及びFからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む溶液の2種以上を混合した後、混合により析出した析出物(蛍光体)を得る方法」が挙げられ、本方法では、混合する溶液に、目的とする蛍光体を構成する元素の全ての元素が含まれていることが好ましい。混合する溶液の組み合わせとしては、具体的には以下の2−1)と以下の2−2)が挙げられる。
【0067】
2−1) 少なくともSiとFとを含有する溶液と、少なくともK(及び/又はNa)
とMnとFとを含有する溶液とを混合する方法。
2−2) 少なくともSiとMnとFとを含有する溶液と、少なくともK(及び/又はNa)とFとを含有する溶液とを混合する方法。
【0068】
上記「少なくともSiとFとを含有する溶液」としては、SiF源を含有するフッ化水素酸(以下、「HF水溶液」と称する。)が挙げられ、上記「少なくともK(及び/又はNa)とMnとFとを含有する溶液」としてはK(及び/又はNa)源とMn源とを含むHF水溶液が挙げられる。
【0069】
また、上記「少なくともSiとMnとFとを含有する溶液」としては、SiF源とMn源とを含むHF水溶液が挙げられ、上記「少なくともK(及び/又はNa)とFとを含有する溶液」としては、K(及び/又はNa)源を含むHF水溶液が挙げられる。
ここで、SiF源としては、SiとFとを含む化合物であって、溶液への溶解性に優れるものであればよく、HSiF、NaSiF、(NHSiF、RbSiF、CsSiFを用いることができ、これらのうち、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、HSiFが好ましい。これらのSiF源は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
K源としては、KF、KHF、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、KCO等の水溶性カリウム塩を用いることができるが、中でも溶液中のHF濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さいために安全性が高いことによりKHFが好ましい。
Mn源としては、KMnF、KMnO、KMnCl等を用いることができ、中でも、結晶格子を歪ませて不安定化させる傾向にあるCl元素を含まないこと等から、付活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF錯イオンとしてHF酸水溶液中に安定して存在することができることによりKMnFが好ましい。なお、Mn源のうち、Kを含むものは、K源を兼ねるものとなる。
【0071】
これらHF水溶液のHF濃度は、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下であることが好ましい。
SiF源濃度は、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、また、通常60重量%以下、好ましくは40重量%以下であることが好ましい。
【0072】
K源及びMn源濃度は、合計で通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、また、通常45重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは35重量%以下であることが好ましい。
反応後、目的とする蛍光体の結晶が析出するため、この結晶を濾過等により固液分離して回収し、エタノール、水、アセトン等の溶媒で洗浄した後、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下で乾燥することが好ましい。乾燥する時間としては、蛍光体に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はないが、例えば、1〜2時間程度乾燥する。
【0073】
上記の貧溶媒を用いない方法によって上記式[1’]で表される蛍光体を製造すると、その比表面積が、小さくなる傾向にあり、好ましい。また、上記の貧溶媒を用いない方法によって製造された上記式[1’]で表される蛍光体は、さらに、粒度分布のピーク値が一つとなる傾向もあり、その粒度分布のピークの幅が狭くなる傾向もある。この場合の比表面積、粒度分布等の具体的な数値範囲は、[2−5.フッ素錯体蛍光体粒子の粒径、及び形状]に記載したのと同様である。
【0074】
[2−9.蛍光体の表面処理]
本発明に使用される蛍光体は、蛍光体粒子の不要な凝集を防ぐ目的で、公知の手法を適用し、表面処理が行われていてもよい。ただし、かかる表面処理によって蛍光体を劣化させることがないように留意する必要がある。
【0075】
[3.フッ素錯体蛍光体と共に用いることのできる蛍光体]
本発明の半導体発光装置には、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を単独で使用してもよく、2種以上のフッ素錯体蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、本発明の効果を著しく損なわない限り、フッ素錯体蛍光体に、他種の蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。即ち、用いる蛍光体の組み合わせ及びその比率等は、半導体発光装置の用途等に応じて任意に設定すればよい。
【0076】
具体的には、所望の発光色が得られるように、半導体発光素子と、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体と、当該フッ素錯体蛍光体とは異なる発光ピーク波長を有する蛍光体とを適切に組み合わせることが好ましい。
例えば、本発明の半導体発光装置を赤色発光としたい場合には、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を少なくとも1種以上使用すればよい。
【0077】
また、例えば、本発明の半導体発光装置を白色発光としたい場合には、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が通常赤色発光であるので、近紫外発光の半導体発光素子を用いる場合には、青色蛍光体、及び緑色蛍光体を組み合わせればよく、青色発光の半導体発光素子を用いる場合には、緑色蛍光体を組み合わせればよい。
なお、後述するように、必要に応じて、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体以外の橙色ないし赤色蛍光体(同色併用蛍光体)を併用してもよい。
本発明の半導体発光装置において、用いることのできる蛍光体を以下に例示する。
【0078】
<青色蛍光体>
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体に加えて青色蛍光体を使用する場合、当該青色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、青色蛍光体の発光ピーク波長は、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下、更に好ましくは460nm以下の波長範囲にあることが好適である。使用する青色蛍光体の発光ピーク波長がこの範囲にあると、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体の励起帯と重なり、当該青色蛍光体からの青色光により、本発明の蛍光体を効率良く励起することができるからである。
このような青色蛍光体として使用できる蛍光体を下表に示す。
【0079】
【表2】

以上の中でも、青色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、(Ba,Ca,Mg,Sr)SiO:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、(Ba,Ca,Sr)MgSi:Euが好ましく、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu、(Ca,Sr,Ba)10(PO(Cl,F):Eu、BaMgSi:Euがより好ましく、Sr10(POCl:Eu、BaMgAl1017:Euが特に好ましい。
【0080】
<緑色蛍光体>
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体に加えて緑色蛍光体を使用する場合、当該緑色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、緑色蛍光体の発光ピーク波長は、通常500nmより大きく、中でも510nm以上、更には515nm以上、また、通常550nm以下、中でも542nm以下、更には535nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長が短過ぎると青味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると黄味を帯びる傾向があり、何れも緑色光としての特性が低下する場合がある。
このような緑色蛍光体として利用できる蛍光体を下表に示す。
【0081】
【表3】

以上の中でも、緑色蛍光体としては、Y(Al,Ga)12:Ce、CaSc:Ce、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Si,Al)(O,N):Eu(β−sialon)、(Ba,Sr)Si12:N:Eu、SrGa:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mnが好ましい。
【0082】
得られる発光装置を照明装置に用いる場合には、Y(Al,Ga)12:Ce、CaSc:Ce、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Si,Al)(O,N):Eu(β−sialon)、(Ba,Sr)Si12:N:Euが好ましい。
また、得られる発光装置を画像表示装置に用いる場合には、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Si,Al)(O,N):Eu(β−sialon)、(Ba,Sr)Si12:N:Eu、SrGa:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mnが好ましい。
【0083】
<黄色蛍光体>
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体に加えて黄色蛍光体を使用する場合、当該黄色
蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、黄色蛍光体の発光ピーク波長は、通常530nm以上、好ましくは540nm以上、より好ましくは550nm以上、また、通常620nm以下、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下の波長範囲にあることが好適である。
このような黄色蛍光体として利用できる蛍光体を下表に示す。
【0084】
【表4】


以上の中でも、黄色蛍光体としては、YAl12:Ce、(Y,Gd)Al12:Ce、(Sr,Ca,Ba,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr)Si:Euが好ましい。
【0085】
<橙色ないし赤色蛍光体>
必要に応じて、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体以外の橙色ないし赤色蛍光体(同色併用蛍光体)を併用してもよい。Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体と併用し得る橙色ないし赤色蛍光体としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。
【0086】
この際、同色併用蛍光体である橙色ないし赤色蛍光体の発光ピーク波長は、通常570nm以上、好ましくは580nm以上、より好ましくは585nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは680nm以下の波長範囲にあることが好適である。
このような橙色ないし赤色蛍光体として使用できる蛍光体を下表に示す。
【0087】
【表5】

以上の中でも、赤色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、(La,Y)S:Eu、Eu(ジベンゾイルメタン)・1,10−フェナントロリン錯体等のβ−ジケトン系Eu錯体、カルボン酸系Eu錯体、KSiF:Mnが好ましく、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Sr,Ca)AlSi(N,O):Eu、(La,Y)S:Eu、KSiF:Mnがより好ましい。
また、橙色蛍光体としては、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Ceが好ましい。
【0088】
具体的に、本発明の半導体発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合における、半導体発光素子と、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体と、他の蛍光体との好ましい組み合わせの例としては、以下の(A)〜(C)の組み合わせが挙げられる。
(A)半導体発光素子として青色発光体(青色LED等)を使用し、赤色蛍光体としてMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用し、他の蛍光体として緑色蛍光体または黄色蛍光体を使用する。緑色蛍光体としては、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu系蛍光体、(Ca,Sr)Sc:Ce系蛍光体、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce系蛍光体、SrGa:Eu系蛍光体、Eu付活β−サイアロン系蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si:Eu系蛍光体、及びMSi12:Eu(但し、Mはアルカリ土類金属元素を表わす。)からなる群より選ばれる一種又は二種以上の緑色蛍光体が好ましい。黄色蛍光体としてはYAl12:Ce系蛍光体、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu系蛍光体、及びα−サイアロン系蛍光体からなる群より選ばれる一種又は二種以上の黄色蛍光体が好ましい。なお、緑色蛍光体と黄色蛍光体を併用してもよい。
【0089】
(B)半導体発光素子として近紫外発光体(近紫外LED等)を使用し、赤色蛍光体としてMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用し、他の蛍光体として青色蛍光体及び緑色蛍光体を使用する。この場合、青色蛍光体としては、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu、(Sr,Ba)MgSi:Eu、及び(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の青色蛍光体が好ましい。また、緑色蛍光体としては、前述の(A)の項で例示した緑色蛍光体に加え、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca)Al1425:Eu、及び(Ba,Sr,Ca)Al:Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の緑色蛍光体が好ましい。
(C)半導体発光素子として青色発光体(青色LED等)を使用し、赤色蛍光体としてMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用し、さらに橙色蛍光体を使用する。この場合、橙色蛍光体としては(Sr,Ba)SiO:Euが好ましい。
【0090】
なお、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体としては、前述したように、好ましくは前記式[1]で表される蛍光体を、より好ましくは前記式[1’]で表される蛍光体を、さらに好ましくは前記式[1’’]で表される蛍光体を組み合わせる。
また、上述した蛍光体の組み合わせについて、以下により具体的に説明する。
半導体発光素子として青色LED等の青色発光のものを使用し、画像表示装置のバックライトに用いるときは、下表に示す組み合わせとすることが好ましい。
【0091】
【表6】

また、表6に示した組み合わせの中でもより好ましい組み合わせを表7に示す。
【0092】
【表7】


さらに、特に好ましい組み合わせを表8に示す。
【0093】
【表8】


表6〜8に示す各色蛍光体は、青色領域の光で励起され、それぞれ赤色領域、および緑色領域の中でも狭帯域で発光し、かつ温度変化による発光ピーク強度の変化が少ないという優れた温度特性を有している。
【0094】
よって、青色領域の光を発する半導体発光素子にこれら各色蛍光体を含む2種以上の蛍光体を組み合わせることで、発光効率を従来よりも高く設定しうる、本発明のカラー画像表示装置用のバックライトに用いる光源に適した半導体発光装置とすることができる。
また、近紫外ないし紫外領域の光を発する固体発光素子と蛍光体とを組み合わせて用いる場合は、上記表6〜8に記載の蛍光体の組み合わせにさらに(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、及び(Sr,Ba)MgSi:Eu、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Euからなる群から選ばれる1種以上の青色蛍光体を組み合わせることが好ましく、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、又は(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Euを組み合わせることがより好ましい。この際、緑色蛍光体としては、BaMgAl1017:Eu,Mnを組み合わせることが好ましい。
【0095】
[4.封止材料]
[4−1.硬化材料]
半導体発光素子は、封止材によって封止されることが好ましい。半導体発光素子を封止材で封止する場合、蛍光体はこの封止材に含有されていてもよく、この封止材がバインダを兼ねていてもよい。
封止材の種類は特に限定されず、通常、半導体発光素子を覆ってモールディングすることのできる硬化性材料を用いることができる。硬化性材料とは、流体状の材料であって、何らかの硬化処理を施すことにより硬化する材料のことをいう。ここで、流体状とは、例えば液状又はゲル状のことをいう。硬化性材料は、固体発光素子から発せられた光を蛍光体へ導く役割を担保するものであれば、具体的な種類に制限は無い。また、硬化性材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。したがって、硬化性材料としては、無機系材料及び有機系材料並びに両者の混合物のいずれを用いることも可能である。
【0096】
無機系材料としては、例えば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液、またはこれらの組み合わせを固化した無機系材料(例えばシロキサン結合を有する無機系材料)等を挙げることができる。
一方、有機系材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。具
体例を挙げると、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0097】
本発明の半導体発光装置は、フッ素錯体蛍光体を有するので、これら硬化性材料の中では、半導体発光素子からの発光に対して劣化が少なく、耐アルカリ性、耐酸性、耐熱性にも優れる珪素含有化合物を使用することが好ましい。珪素含有化合物とは分子中に珪素原子を有する化合物をいい、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系化合物)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料を挙げることができる。中でも、透明性、接着性、ハンドリングの容易さ、機械的、熱適応力の緩和特性に優れる等の点から、シリコーン系材料が好ましい。
【0098】
シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば、縮合型、付加型、改良ゾルゲル型、光硬化型等のシリコーン系材料を用いることができる。
縮合型シリコーン系材料としては、例えば、特開2007−112973〜112975号公報、特開2007−19459号公報、特開2008−34833号公報等に記載の半導体発光デバイス用部材を用いることができる。縮合型シリコーン系材料は半導体発光デバイスに用いられるパッケージや電極、発光素子などの部材との接着性に優れるため、密着向上成分の添加を最低限とすることが出来、架橋はシロキサン結合主体のため耐熱性・耐光性に優れる利点がある。
【0099】
付加型シリコーン系材料としては、例えば、特開2004−186168号公報、特開2004−221308号公報、特開2005−327777号公報等に記載のポッティング用シリコーン材料、特開2003−183881号公報、特開2006−206919号公報等に記載のポッティング用有機変性シリコーン材料、特開2006−324596号公報に記載の射出成型用シリコーン材料、特開2007−231173号公報に記載のトランスファー成型用シリコーン材料等を好適に用いることができる。付加型シリコーン材料は、硬化速度や硬化物の硬度などの選択の自由度が高い、硬化時に脱離する成分が無く硬化収縮しにくい、深部硬化性に優れるなどの利点がある。
【0100】
また、縮合型の一つである改良ゾルゲル型シリコーン系材料としては、例えば、特開2006−077234号公報、特開2006−291018号公報、特開2007−119569号公報等に記載のシリコーン材料を好適に用いることができる。改良ゾルゲル型のシリコーン材料は高架橋度で耐熱性・耐光性高く耐久性に優れ、ガス透過性低く耐湿性の低い蛍光体の保護機能にも優れる利点がある。
【0101】
光硬化型シリコーン系材料としては、例えば特開2007−131812号公報、特開2007−214543号公報等に記載のシリコーン材料を好適に用いることが出来る。紫外硬化方シリコーン材料は、短時間に硬化するため生産性に優れる、硬化に高い温度をかける必要が無く発光素子の劣化が起こりにくいなどの利点がある。
これらのシリコーン系材料は単独で使用してもよいし、混合することにより硬化阻害が起きなければ複数のシリコーン系材料を混合して用いてもよい。
【0102】
[4−3.蛍光体の含有率]
本発明の半導体発光装置における蛍光体の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、その適用形態により自由に選定できる。
蛍光体含有部の総重量に対する、蛍光体の総重量の割合としては、通常3重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは28重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。
なお、前記硬化性材料が溶媒等を含有している場合など、硬化性材料が硬化工程において重量変化する場合は、硬化工程後における硬化性材料と蛍光体との総重量に対する、蛍光体の含有率が、蛍光体含有部における蛍光体の含有率と同様になるようにすればよい。
【0103】
前記の蛍光体の含有率は、特に白色の光を得る場合に好適なものである。したがって、具体的な蛍光体含有率は目的色、蛍光体の発光効率、混色形式、蛍光体比重、塗布膜厚、光学部材の形状により多様であり、この限りではない。
【0104】
[5.半導体発光装置]
以下、本発明の発光装置について、具体的な実施の形態を挙げて、より詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0105】
本発明の発光装置の一例における、励起光源となる半導体発光素子(以下、「第1の発光体」と称する場合がある。)と、蛍光体を有する蛍光体含有部として構成された第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図を図3に示す。図3中の符号1は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号2は励起光源(第1の発光体)としての面発光型GaN系LD、符号3は基板を表す。相互に接触した状態をつくるために、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とそれぞれ別個に作製し、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させてもよいし、LD(2)の発光面上に蛍光体含有部(第2の発光体)を製膜(成型)させてもよい。これらの結果、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とを接触した状態とすることができる。
【0106】
このような装置構成をとった場合には、励起光源(第1の発光体)からの光が蛍光体含有部(第2の発光体)の膜面で反射されて外にしみ出るという光量損失を避けることができるので、装置全体の発光効率を良くすることができる。
図4(a)は、一般的に砲弾型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する半導体発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。該半導体発光装置(4)において、符号5はマウントリード、符号6はインナーリード、符号7は励起光源である半導体発光素子(第1の発光体)、符号8は蛍光体含有部、符号9は導電性ワイヤー、符号10はモールド部材をそれぞれ指す。
【0107】
また、図4(b)は、表面実装型と言われる形態の半導体発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。図中、符号7は励起光源(第1の発光体)、符号8は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号15はフレーム、符号16は導電性ワイヤー、符号17及び符号18は電極をそれぞれ指す。
【0108】
[6.半導体発光装置の用途]
本発明の半導体発光装置の用途は特に制限されず、通常の半導体発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、演色性が高い、及び色再現範囲が広いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
<6−1.照明装置>
本発明の発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、図5に示されるような、前述の半導体発光装置(4)を組み込んだ面発光照明装置(11)を挙げることができる。
【0109】
図5は、本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。この図5に示すように、該面発光照明装置は、内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース(12)の底面に、多数の発光装置(13)(前述の半導体発光装置(4)に相当)を、その外側に発光装置(13)の駆動のための電源及び回路等(図示せず。)を設けて配置し、保持ケース(12)の蓋部に相当する箇所に、乳白色としたアクリル板等の拡散板(14)を発光の均一化のために固定してなる。
【0110】
そして、面発光照明装置(11)を駆動して、発光装置(13)の励起光源(第1の発光体)に電圧を印加することにより光を発光させ、その発光の一部を、蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部における前記蛍光体が吸収し、可視光を発光し、一方、蛍光体に吸収されなかった青色光等との混色により演色性の高い発光が得られ、この光が拡散板(14)を透過して、図面上方に出射され、保持ケース(12)の拡散板(14)面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【0111】
<6−2.画像表示装置>
本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に詳説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の半導体発光素子、蛍光体、蛍光体含有層形成液を用いて、後述する各実施例及び各比較例の半導体発光装置を作製し、点灯試験によりその耐久性評価を行った。
【0113】
<半導体発光素子>
(製造例1−1) 縦型半導体発光素子
半導体発光素子(A)として、クリー社製の290μm角チップ「C460EZ290」をシリコーン樹脂ベースの透明ダイボンドペーストで、3528SMD型PPA樹脂パッケージの凹部の底の端子に接着した。このとき、ボンディングワイヤは1本とした。
(製造例1−2) 横型半導体発光素子
半導体発光素子(A)として、昭和電工社製の350μm角チップ「GU35R460T」をシリコーン樹脂ベースの透明ダイボンドペーストで、3528SMD型PPA樹脂パッケージの凹部の底の端子に接着した。このとき、ボンディングワイヤは2本とした。
【0114】
<蛍光体>
(合成例1) 赤色蛍光体KTiF:Mn4+
蛍光体の仕込み組成がKTi0.95Mn0.05となるように、原料化合物として、KTiFを4.743g、及びKMnFを0.2596g用いた。大気圧、室温の条件下、フッ化水素酸(濃度47.3重量%) 40mlに、これらの原料化合物を添加し、攪拌して溶解させた。各原料化合物が全部溶解したことを確認した後、溶液を攪拌しながら、アセトン60mlを240ml/時の速度で添加することにより、蛍光体を貧溶媒析出させた。得られた蛍光体を、アセトンで洗浄後、100℃で1時間乾燥させた。
【0115】
得られた蛍光体のX線回折パターンより、KTi1−xMnが合成されていることが確認できた。また、得られた赤色蛍光体主発光ピークのピーク波長は631nm、
主発光ピークの半値幅は7nmであり、また、以下に記載の方法で測定した内部量子効率は65%であった。
また、この蛍光体の加熱発生F量、及び発光ピーク強度の変化率を以下に記載の方法で測定し、その結果を表9に示す。
【0116】
<量子効率の測定方法>
量子効率(吸収効率α、内部量子効率η及び外部量子効率η)を求めるに際し、まず、測定対象となる蛍光体サンプル(例えば蛍光体の粉末等)を、測定精度が保たれるように、十分に表面を平滑にしてセルに詰め、積分球等の集光装置に取り付けた。
該集光装置に、蛍光体サンプルを励起するための発光源として、Xeランプを取り付けた。また、発光源の発光ピーク波長が455nmの単色光となるように、フィルターやモノクロメーター(回折格子分光器)等を用いて調整を行なった。
この発光ピーク波長が調整された発光源からの光を、測定対象の蛍光体サンプルに照射し、発光(蛍光)及び反射光を含むスペクトルを分光測定装置(大塚電子社製 MCPD7000)で測定した。
【0117】
(吸収効率α
吸収効率αは、蛍光体サンプルによって吸収された励起光のフォトン数Nabsを、励起光の全フォトン数Nで割った値として算出した。
具体的な算出手順は以下の通りである。
まず、後者の励起光の全フォトン数Nを、次のようにして求めた。
すなわち、励起光に対してほぼ100%の反射率Rを持つ物質、例えばLabsphere製「Spectralon」(455nmの励起光に対して98%の反射率Rを持つ)等の白色反射板を測定対象として、蛍光体サンプルと同様の配置で上述の集光装置に取り付け、該分光測定装置を用いて反射スペクトルを測定した(この反射スペクトルを以下「Iref(λ)」とする)。
【0118】
この反射スペクトルIref(λ)から、下記(式I)で表わされる数値を求めた。なお、下記(式I)の積分区間は、435nm〜465nmとした。下記(式I)で表わされる数値は、励起光の全フォトン数Nに比例する。
【0119】
【数1】

【0120】
また、吸収効率αの測定対象となる蛍光体サンプルを集光装置に取り付けたときの反射スペクトルI(λ)から、下記(式II)で表わされる数値を求めた。なお、上記(式II)の積分区間は、上記(式I)で定めた積分区間と同じとした。下記(式II)で求められる数値は、蛍光体サンプルによって吸収された励起光のフォトン数Nabsに比例する。
【0121】
【数2】

【0122】
以上より、吸収効率αを次の式により算出した。
吸収効率α = Nabs/N =(式II)/(式I)
(内部量子効率η
内部量子効率ηは、蛍光現象に由来するフォトンの数NPLを、蛍光体サンプルが吸収したフォトンの数Nabsで割った値として算出した。
【0123】
上記のI(λ)から、下記式(III)で表わされる数値を求めた。なお、(式III)の積分区間の下限は、466nm〜780nmとした。下記(式III)で求められる数値は、蛍光現象に由来するフォトンの数NPLに比例する。
【0124】
【数3】

【0125】
以上より、内部量子効率ηを次の式により算出した。
η = (式III)/(式II)
(外部量子効率η
外部量子効率ηは、上記の手順により求めた吸収効率αと内部量子効率ηとの積をとることで算出した。
【0126】
<加熱発生F量の測定方法>
蛍光体1gを精秤後、白金ボートに入れ、横型電気炉のアルミナ製炉心管中にセットした。次いで、流量400ml/分でアルゴンガスを流通させながら、炉内温度を昇温させて蛍光体の温度が200℃になったところで2時間保持した。
ここで、炉内を流通していたアルゴンガス全量をKOH水溶液(濃度67mM)に吸収させ、吸収液を液体クロマトグラフィー法により分析し、蛍光体1g当たりの毎分の加熱発生F量を求めた。
【0127】
<発光ピーク強度の変化率の測定方法>
発光ピーク強度の変化率の測定は、発光スペクトル測定装置として大塚電子製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を用いて、下記手順で行なった。
【0128】
蛍光体のサンプルを入れたセルをステージに載せ、温度を25℃から150℃へと変化させ、蛍光体の表面温度を確認し、次いで、光源から回折格子で分光して取り出した波長455nmの光で蛍光体を励起して、発光スペクトルを測定した。測定された発光スペクトルから、25℃における発光ピーク強度と100℃における発光ピーク強度を求め、下記式[A]より発光ピーク強度の変化率(%)を求めた。
{1−(100℃における発光ピーク強度)/(25℃における発光ピーク強度)}×100 ・・・[A]
なお、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値としては、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いた。
(合成例2) 赤色蛍光体KSiF:Mn4+
蛍光体の仕込み組成がKSi0.9Mn0.1となるように、原料化合物として、KSiFを1.7783g、KMnFを0.2217g用いた。大気圧、室温の条件下、これらの原料化合物を、フッ化水素酸(47.3重量%) 70mlに添加し
、攪拌して溶解させた。各原料化合物が全部溶解したことを確認後、溶液を攪拌しながら、アセトン70mlを240ml/時の速度で添加して蛍光体を貧溶媒析出させた。
【0129】
得られた蛍光体をエタノールで洗浄後、130℃で1時間乾燥し、蛍光体1.7gを得た。得られた蛍光体のX線回折パターンよりKSiF:Mnが合成されていることが確認できた。また、得られた赤色蛍光体主発光ピークのピーク波長は630nm、主発光ピークの半値幅は7nmであり、また、前述した方法で測定した内部量子効率は94%であった。
【0130】
また、この蛍光体の加熱発生F量、及び発光ピーク強度の変化率を表9に示す。
【0131】
【表9】


(製造例2) フッ素錯体蛍光体含有層形成液の製造
信越化学社製シリコーン樹脂SCR1016を100重量部と、前述の合成例1又は合成例2で合成した蛍光体それぞれ12重量部とを、シンキー社製攪拌脱泡装置AR−100にて混合して、蛍光体含有層形成液(1)及び(2)を製造した。
[実施例1] 半導体発光装置の作製
手動ピペットを用いて、上述の製造例2で得られた蛍光体含有層形成液(1)を4μl計量し、上述の製造例1−1に記載の縦型半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液した。この半導体発光装置を、減圧することができるデシケーターボックス中、25℃、1kPaの条件下で5分間保持することにより、注液時に生じた巻き込み気泡や溶存空気・水分を除去した。その後、この半導体発光装置を、70℃で1時間保持し、次いで、150℃で5時間保持することにより形成液を硬化させ、半導体発光装置を得た。得られた半導体発光装置について以下に記載の方法で点灯試験を行うことにより、耐久性の評価を行った。
[比較例1]
半導体発光素子を上述の製造例1−2に記載の横型半導体発光素子に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作で半導体発光装置を得、耐久性の評価を行った。
[実施例2]
蛍光体含有層形成液(1)の代わりに、蛍光体含有層形成液(2)を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作で半導体発光装置を得、耐久性の評価を行った。
[比較例2]
半導体発光素子を上述の製造例1−2に記載の横型半導体発光素子に変更したこと以外は、実施例2と同様の操作で半導体発光装置を得、耐久性の評価を行った。
【0132】
<点灯試験>
半導体発光装置に20mAの電流を通電し、点灯開始直後(この時点を以下「0時間」という。)に、ファイバマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス社製USB2000(積算波長範囲:200nm〜1100nm、受光方式:積分球(直径1.5インチ))を用いて、発光スペクトルを測定した。
【0133】
次いで、エージング装置、LED AGING SYSTEM 100ch LED環境試験装置(山勝電子工業社製、YEL−51005)を用いて、85℃、相対湿度85%の条件下、半導体発光装置を駆動電流20mAで連続通電し、通電開始から50時間、100時間、150時間、200時間の各時点において、前記0時間の場合と同様にして発光スペクトルを測定した。これと同時に、85℃、相対湿度85%の条件下で、半導体発光装置を通電せずに保管して、通電開始後、50時間、100時間、150時間、200時間の各時点において、測定時のみ通電して、前記0時間の場合と同様にして発光スペクトルを測定した。
【0134】
200時間後に得られた発光スペクトルより算出された各種発光特性の値(全光束、輝度、色度座標Cx、Cy)を、0時間の測定値を100%とした相対値で表10に示す。
なお、点灯試験の際、発光スペクトルの測定には、分光器本体の温度変化によるデータ外乱を防ぐため、分光器を25℃恒温槽内に保持して測定した。
【0135】
【表10】

【0136】
縦型半導体発光素子を使用した実施例1、及び実施例2は、横型半導体発光素子を使用した比較例1、及び比較例2よりも全光束、及び輝度の低下が小さく、色ずれも少なかった。
また、実施例1と実施例2とを比較すると、蛍光体としてKSi0.9Mn0.1は、KTi0.95Mn0.05より耐久性に優れることがわかった。KSi0.9Mn0.1の方が、水に対する溶解度が低いことと、加熱発生F量が少ないためと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は光を用いる任意の分野において用いることができ、例えば屋内及び屋外用の照明などのほか、携帯電話、家庭用電化製品、屋外設置用ディスプレイ等の各種電子機器の画像表示装置などに用いて好適である。
【符号の説明】
【0138】
1 蛍光体含有部(第2の発光体)
2 励起光源(第1の発光体)(LD)
3 基板
4 半導体発光装置
5 マウントリード
6 インナーリード
7 励起光源(第1の発光体)
8 蛍光体含有部
9 導電性ワイヤー
10 モールド部材
11 面発光照明装置
12 保持ケース
13 半導体発光装置
14 拡散板
15 フレーム
16 導電性ワイヤー
17 電極
18 電極
20 半導体発光装置
21 基板
22 バッファ層
23 コンタクト層
24 第一導電型クラッド層
25 活性層構造
26 第二導電型クラッド層
27 第二導電型側電極
28 第一導電型側電極
29 第二電流注入領域
101 p型電極
102 n型電極
103 p型層
104 n型層
105 導電性基板
106 絶縁性基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、該光源からの光の少なくとも一部を吸収し、該光源からの光とは異なる波長を有する光を発する蛍光体とを備える発光装置において、
該光源として導電性を有する基板上に形成された半導体発光素子を備え、かつ、
該蛍光体としてMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を備える
ことを特徴とする、半導体発光装置。
【請求項2】
前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が、200℃における、蛍光体1gあたりの加熱発生フッ素量が0.01μg/分以上のものである
ことを特徴とする、請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が、20℃における、100gの水に対する溶解度が0.005g以上、7g以下のものである
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体蛍光体が、610nm以上、650nm以下の波長範囲に主発光ピークを有する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記主発光ピークの半値幅が、10nm以下である
ことを特徴とする、請求項4に記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が、
励起光の波長が455nmの場合の、25℃のときの発光ピーク強度に対する100℃における発光ピーク強度の変化率が、40%以下である
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
【請求項7】
前記Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が、下記式[1]〜[8]のいずれかで表される化学組成を有する結晶相を含有するものである
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
[MIV1−x] ・・・[1]
[MIII1−x] ・・・[2]
II[MIV1−x] ・・・[3]
[MIV1−x] ・・・[4]
[MIII1−x] ・・・[5]
Zn[MIII1−x] ・・・[6]
[MIII2−2x2x] ・・・[7]
Ba0.65Zr0.352.70:Mn4+ ・・・[8]
(但し、前記式[1]〜[8]において、MはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHからなる群より選ばれる1種以上の1価の基を表わし、MIIはアルカリ土類金属元素を表し、MIIIは周期律表第3族及び第13族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、MIVは周期律表第4族及び第14族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、Rは、少なくともMnを含有する付活元素を表す。xは、0<x<1で表される範囲の数値である。)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の発光装置を備える
ことを特徴とする、画像表示装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の発光装置を備える
ことを特徴とする、照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−232381(P2010−232381A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77598(P2009−77598)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】