説明

半導体素子

【課題】簡易な構成で高速性能を備えた半導体素子を提供することを課題とする。
【解決手段】絶縁層10に面接合された上層Siと、絶縁層10とで挟むように上層Siに面接合された下層Siとを同じ(100)面で面接合し、下層Siを上層Siに対して(接合面に垂直な軸に関して)相対的に45度回転することで上層Siの4重縮退バレーの電子に対して層厚方向に空間的に閉じ込めるような構造を作製すると共に、上層Siの層厚を4重縮退バレーの電子に対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄層化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア特性を利用した半導体素子の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、結晶Siを伝導領域に用いた電界効果トランジスタ(Si−MOSFET)が世界中で広く利用され、その性能向上についての研究が継続的に行われている。例えば、結晶Siの(100)面を伝導領域に用いたnチャネルMOSFETにおける反転層2次元電子の伝導エネルギーバンドは、2重に縮退したバレー(以降、「2重縮退バレー」と称する)と4重に縮退したバレー(以降、「4重縮退バレー」と称する)とで構成される。その実効的な伝導特性は、これら2種類の縮退バレーの電子についてのある種の平均値となることが知られている。各バレーはそれぞれ複数のサブバンドから構成されるが、フォノン散乱移動度を緩和時間近似で取扱う場合、サブバンド毎の移動度を各サブバンドに存在する電子の割合で加重平均したものが実効的移動度となる。すなわち、各サブバンドの移動度をμとし、各サブバンドに存在する電子の割合をfとした場合には式(1)が成立する。移動度が大きい程、高性能の伝導特性を有するnチャネルMOSFETとなる(非特許文献1参照)。
【数1】

【0003】
このような移動度は、結晶Si若しくは結晶Siを用いた電界効果トランジスタ(Si−MOSFET)等の伝導特性を表す指標として用いられており、Si(100)面のnチャネルMOSFETにおいては、バレーの移動度としては4重縮退バレーよりも2重縮退バレーの方が高いことが知られている。故に、伝導特性を向上するため、2重縮退バレーの特性のみを選択的に取り出すことが検討されている。
【0004】
例えば、素子形成のための活性層に歪みを印加する技術が注目されている。活性層に歪みを印加すると、そのエネルギーバンド構造が変化し、2重縮退バレーの電子の割合が増大する効果とキャリア散乱の抑制効果とによって、移動度の向上が期待できる。具体的には、Si基板上にSiよりも格子定数の大きな材料からなる混晶層、例えばGe濃度20%の歪み緩和SiGe混晶層(以降、単に「SiGe層」と称する)を形成し、このSiGe層上にSi層を形成すると、格子定数の差によって歪みが印加された歪みSi層が形成される。このような歪みSi層を半導体デバイスのチャネルに用いると、無歪みSi層を用いた場合の約1.76倍と大幅な電子移動度の向上を達成できることが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3790238号
【非特許文献1】Masanari Shoji、外1名、「Phonon-limited inversion layer electron mobility in extremely thin Si layer of silicon-on-insulator metal-oxide-semiconductor field-effect transistor」、American Institute of Physics、1997年12月15日、p.6096-6101
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような歪みSi層を形成する方法は、所望の格子定数を持つSiGe層をSi基板上に作成し、対象となるSi層を化学気層成長法等で積層するなどの複数の製造過程を経由するため、多大な時間や多額の費用が必要であるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で高速性能を備えた半導体素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明は、絶縁層に面接合された結晶層と、前記絶縁層とで挟むように前記結晶層に面接合された物質層とを有する半導体素子において、前記結晶層は、キャリア(電子又は正孔)が存在するエネルギーの範囲に含まれ、前記物質層との接合面方向の運動量が互いに異なる少なくとも第1のエネルギーバンド及び第2のエネルギーバンドを有する結晶で形成され、前記物質層は、前記第1のエネルギーバンドと同じエネルギーの領域にあり、前記結晶層との接合面方向の運動量に関して前記第1のエネルギーバンドと同じ運動量を持つ第3のエネルギーバンドを有し、且つ、前記第2のエネルギーバンドにおけるエネルギー及び当該接合面方向の運動量に関して同じエネルギー及び/又は同じ運動量を持つエネルギーバンドを有しないものであって、前記結晶層の層厚を、前記第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くしたことを要旨とする。
【0008】
本発明にあっては、絶縁層に面接合された結晶層と、絶縁層とで挟むように結晶層に面接合された物質層とを有する半導体素子において、結晶層は、キャリア(電子又は正孔)が存在するエネルギーの範囲に含まれ、物質層との接合面方向の運動量が互いに異なる少なくとも第1のエネルギーバンド及び第2のエネルギーバンドを有する結晶で形成され、物質層は、第1のエネルギーバンドと同じエネルギーの領域にあり、結晶層との接合面方向の運動量に関して第1のエネルギーバンドと同じ運動量を持つ第3のエネルギーバンドを有し、且つ、第2のエネルギーバンドにおけるエネルギー及び接合面方向の運動量に関して同じエネルギー及び/又は同じ運動量を持つエネルギーバンドを有しないものであって、結晶層の層厚を、第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くしたため、簡易な構成で高速性能を備えた半導体素子を提供することができる。
【0009】
請求項2に記載の本発明は、第n−1の前記結晶層とで挟むように第nの前記結晶層を第n−1の前記物質層に面接合し、当該第n−1の物質層とで挟むように第nの前記物質層を前記第nの結晶層に面接合することを交互に繰り返す積層構造において、前記第nの結晶層における前記第1のエネルギーバンド及び前記第2のエネルギーバンドは、前記第n−1の物質層におけるエネルギーバンドに対して、前記エネルギー及び前記接合面方向の運動量に関する前記結晶層と前記物質層との間のエネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有し、前記第nの物質層におけるエネルギーバンドは、前記第nの結晶層における前記第1のエネルギーバンド及び前記第2のエネルギーバンドに対して、前記エネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有するものであって、前記積層構造を構成する複数の結晶層のうち少なくとも1つの前記第nの結晶層の層厚を、前記第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くしたことを要旨とする。
【0010】
請求項3に記載の本発明は、前記物質層が、前記第3のエネルギーバンドと、前記エネルギー範囲と同じエネルギー範囲に含まれ、前記結晶層との接合面方向の運動量に関して前記第3のエネルギーバンドと異なる運動量を持つ第4のエネルギーバンドとを有する結晶で形成されるものであって、前記第1のエネルギーバンド及び当該第3のエネルギーバンドについては互いの接合面方向の運動量が一致し、前記第2のエネルギーバンド及び前記第4のエネルギーバンドについては、エネルギー及び/又は互いの接合面方向の運動量が異なることを要旨とする。
【0011】
請求項4に記載の本発明は、前記物質層が、前記結晶層と同じ物質であり、且つ、前記結晶層及び当該物質層は、同一の面方位を互いの接合面として選択するものであって、前記結晶層の第1のエネルギーバンドについては当該接合面方向の運動量が一致し、前記結晶層の第2のエネルギーバンドについては、当該接合面方向の運動量が一致するようなエネルギーバンドが当該物質層に存在しないように相対的な回転角度(接合面に垂直な軸に対する回転角度)を選択して接合したことを要旨とする。
【0012】
請求項5に記載の本発明は、第n−1の前記結晶層とで挟むように第nの前記結晶層を第n−1の前記物質層に面接合し、当該第n−1の物質層とで挟むように第nの前記物質層を前記第nの結晶層に面接合することを交互に繰り返す積層構造において、前記第nの結晶層における前記第1のエネルギーバンド及び前記第2のエネルギーバンドは、前記第n−1の物質層における前記第3のエネルギーバンド及び前記第4のエネルギーバンドに対して、前記エネルギー及び前記接合面方向の運動量に関する前記結晶層と前記物質層との間のエネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有し、前記第nの物質層における前記第3のエネルギーバンド及び前記第4のエネルギーバンドは、前記第nの結晶層における前記第1のエネルギーバンド及び前記第2のエネルギーバンドに対して、前記エネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有するものであって、前記積層構造を構成する複数の結晶層のうち少なくとも1つの前記第nの結晶層の層厚を、前記第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くし、更に、前記積層構造を構成する複数の物質層のうち少なくとも1つの前記第nの物質層の層厚を、前記第4のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くしたことを要旨とする。
【0013】
請求項6に記載の本発明は、前記結晶層の層厚に対する水平方向の幅を、前記第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で更に薄くし、当該結晶層の両側面に絶縁層を接合配置することを要旨とする。
【0014】
請求項7に記載の本発明は、前記結晶層の両側面に接合配置された前記絶縁層の少なくとも一部が、前記物質層であることを要旨とする。
【0015】
請求項8に記載の本発明は、前記絶縁層が、前記物質層であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構成で高速性能を備えた半導体素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0018】
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る半導体素子の構成を示す構成図である。この半導体素子は、絶縁層10と、絶縁層10における下側の表面に面接合されたSi層20(以降、「上層Si」と称する場合もある)と、絶縁層10とで挟むようにSi層20における下側の表面に面接合されたSi層30(以降、「下層Si」と称する場合もある)とで構成されている。このような構成を備えた半導体素子に加えて、同図には、絶縁層10における上側の表面に面接合されたゲート電極50と、Si層20及びSi層30の一方の側面に接合配置されたソース電極60と、他方の側面に接合配置されたドレイン電極70とが合わせて記載されている。
【0019】
絶縁層10は、絶縁性を有する材料で作製されているので、絶縁層10とSi層20との間は連続性の無い結晶の積層状態となり、上層Siにおける全てのエネルギーバンドの電子に対して絶縁的に作用する。このような絶縁層の一例として、SiOを挙げることができる。
【0020】
Si層20(上層Si)は、結晶Siで形成されるものであって、(100)面で絶縁層10及び下層Siに面接合しており、その反転層2次元電子の存在するエネルギーバンドは、2重縮退バレー及び4重縮退バレーで構成されている。
【0021】
Si層30(下層Si)は、上層Siと同様に結晶Siで形成されるものであって、(100)面で上層Siに面接合しており、反転層2次元電子の存在するエネルギーバンドは、2重縮退バレー及び4重縮退バレーで構成されている。また、下層Siは、上層Siとの接合面に垂直な軸に関して45度回転した位置関係となっている。なお、この回転角度が0度の場合には、上層Siと下層Siとは等価な位置関係、即ち、結晶格子が平行移動によってお互いに重ね合わすことができる位置関係となっているものとする。
【0022】
図2は、運動量空間(k空間)における上層Si及び下層Siの結晶Siの伝導エネルギーバンド端の等エネルギー面を示した図である。同図の上側には、上層Siにおける各バレーの等エネルギー面が示されており、同図の下側には、下層Siにおける各バレーの等エネルギー面が示されている。通常、結晶Siとしての電子的特性を担うSiの伝導エネルギーバンドの電子は、この運動量空間において、それぞれkx軸方向とky軸方向とkz軸方向とに位置する合計6個のバレー付近に存在している。
【0023】
同図によれば、本実施の形態に係る半導体素子は、上層Siと下層Siとが互いに(100)面で接合されているので、2重縮退バレーの電子にとっては上層Si及び下層Siが一続きの単一結晶となるように構成されることになる。即ち、互いの接合面に垂直な方向の運動量を表すkz軸方向にある上層Siの2重縮退バレーについては、下層Siを45度回転した場合であっても相対的な位置関係の変化は無く、上層Si及び下層Siの2重縮退バレーは、互いの運動量空間で同一の等価な位置に存在することになる。これは、各縮退バレーの等エネルギー面をkx−ky平面に投影した場合、上層Si及び下層Siにおける全ての2重縮退バレーが、図3に示すように同じ位置に配置されることになる。従って、上層Si及び下層Siにおける全ての2重縮退バレーは、接合面方向(kx軸及びky軸方向成分)に関して同じ運動量を持つことになる。これによって、上層Siの2重縮退バレーの電子にとっては、同一のSi層が下の層に連続しているように振舞うことができる(第1の作用)。
【0024】
一方、上層Si及び下層Siの4重縮退バレーの電子は、下層Siが上層Siに対して45度回転した位置関係にあるため、より具体的には、結晶の実空間の回転によって運動量空間における4重縮退バレーの位置関係が相対的に45度ずれるため、接合面方向に関してお互いに異なる運動量を持つことになる。これによって、上層Siの4重縮退バレーの電子にとっては、下層Siが絶縁体として作用することになる(第2の作用)。なお、上層Siにおける上側の表面には絶縁層10が面接合されているので、上層Siの4重縮退バレーの電子にとっては、上下を絶縁体で挟まれた構造となっている。
【0025】
更に、上層Siの層厚を、上層Siの4重縮退バレーの電子に対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くした際には、この4重縮退バレーの電子にとって層厚方向の自由度に関して取り得るエネルギーが離散化し、最低状態のエネルギーが上昇することになる(第3の作用)。一方、上層Siの2重縮退バレーにおける電子については、この閉じ込め効果が生じることはない。即ち、上層Siでは、2重縮退バレーの最低状態のエネルギーと4重縮退バレーの最低状態のエネルギーとの差が大きくなり、2重縮退バレーに存在する電子の割合が増大することとなる。また、4重縮退バレー電子エネルギーの離散化と上昇とによって、2重縮退バレーと4重縮退バレーとの間の電子のバレー間散乱を抑制するという効果も得ることができる。
【0026】
以上のように、第1の作用と第2の作用と第3の作用とから、本実施の形態における半導体素子は、反転層2次元電子において、各バレーの電子移動度を向上し、更に4重縮退バレーよりも伝導特性の高い2重縮退バレーの特性を相対的に取り出すことによって、高い移動度特性を可能とする効果を得ることができる。(なお、第1の作用と第2の作用とは、より正確に言えば、第3の作用、即ち、4重縮退バレーの電子のみ層厚方向の自由度に関してエネルギーを離散化、上昇させて、バレー間の散乱を抑制すると共に4重縮退バレーに存在する電子の数を減らすことを実現するための手段となっている。)
従って、絶縁層10に面接合された上層Siと、絶縁層10とで挟むように上層Siに面接合された下層Siとを同じ(100)面で面接合し、下層Siを上層Siに対して相対的に45度回転することで上層Siの4重縮退バレーの電子に対して層厚方向に空間的に閉じ込めるような構造を作製すると共に、上層Siの層厚を4重縮退バレーの電子に対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄層化することにより、電子の移動度を向上可能な半導体素子を提供することができる。
【0027】
なお、上下共にSiOで挟まれた構造における上層Siの(100)面の反転層において、4重縮退バレーの電子における基底状態のエネルギーが上昇するような層厚方向の厚さは、約5[nm]以下であることが非特許文献1に開示されているので、本実施の形態に係る上層Siの膜厚方向の厚さについても、同様に約5[nm]以下にすることで、上記の効果を得ることができる。
【0028】
このような半導体素子をチャネルとして図1に示すようなnチャネルMOSFETを作製した場合、上層Siの層厚やゲート電極50に印加する電圧等の様々なパラメータによって2重縮退バレーの電子と4重縮退バレーの電子との割合が変化するものの、その反転層の電子の流れは主に2重縮退バレーの電子によって担われることになる。そして、このようなnチャネルMOSFETは、通常のバルクSiで作製されたMOSFETと比べて、その反転層における2重縮退バレーの電子の割合を増加させるため、従来よりも移動度を高くすることができる。また、一般的には、2重縮退バレーの電子における反転層の空間的な層厚は、4重縮退バレーの電子における反転層の空間的な層厚よりも薄いので、反転層の容量が従来のバルクSiの場合よりも大きくなり、反転層の容量等の改善効果も得ることができる。
【0029】
なお、一般的には、構造作製の技術上の必要性から上層Siと下層Siとの間に薄い絶縁領域(SiO)を挟む場合があるが、このような場合であってもこのSiOを非常に薄くして電子が十分に透過するようにすることで、上記と同様の効果が得られることは言うまでも無い。
【0030】
本実施の形態では、半導体素子を構成する各Si層が共に結晶Siであることを一例として説明したがSiに限られることはない。また、上層Siと下層Siとにおける相対角度は45度以外であってもよい。
【0031】
本実施の形態では、各層が結晶Si、接合面が全て(100)面の場合について一例として説明したが、各接合面が必ずしも(100)面である必要はないし、各層が必ずしも結晶Siである必要もない(また、上層と下層とが異なる結晶であっても良い)。即ち、絶縁層に面接合された結晶層(本実施の形態で説明した上層Siに相当)と、絶縁層とで挟むように結晶層に面接合された物質層(本実施の形態で説明した下層Siに相当)とを有する半導体素子において、結晶層が、キャリア(電子又は正孔)が存在するエネルギーの範囲に含まれ、物質層との接合面方向の運動量が互いに異なる少なくとも第1のエネルギーバンド(本実施の形態で説明した2重縮退バレーに相当)及び第2のエネルギーバンド(本実施の形態で説明した4重縮退バレーに相当)を有する結晶で形成され、物質層が、そのエネルギーの範囲と同じエネルギーの領域にあり、物質層との接合面方向の運動量に関して第1のエネルギーバンドと同じ運動量を持つエネルギーバンドを有し、且つ、第2のエネルギーバンドにおけるエネルギー及び物質層との接合面方向の運動量に関して同じエネルギー及び/又は同じ運動量を持つエネルギーバンドを有しない構成のものであって、結晶層の層厚を、第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄く満たした構成であれば良い。
【0032】
〔第2の実施の形態〕
図4は、第2の実施の形態に係る半導体素子の構成を示す構成図である。この半導体素子は、絶縁層10と、絶縁層10における下側の表面に面接合されたSi層20(以降、「上層Si」と称する場合もある)と、絶縁層10とで挟むようにSi層20における下側の表面に面接合されたSi層30(以降、「下層Si」と称する場合もある)と、Si層30の下側の表面と絶縁層90との間に形成されたSi層80(以降、「最下層Si」と称する場合もある)とで構成されている。このような構成を備えた半導体素子に加えて、同図には、絶縁層10における上側の表面に面接合されたゲート電極50と、Si層20とSi層30とSi層80との一方の側面に接合配置されたソース電極60と、他方の側面に接合配置されたドレイン電極70とが合わせて記載されている。
【0033】
絶縁層10は、第1の実施の形態と同様に、絶縁性を有する材料で作製されているので、絶縁層10とSi層20との間は連続性の無い結晶の積層状態となり、上層Siにおける全ての伝導エネルギーバンドの電子に対して絶縁的に作用する。このような絶縁層の一例として、SiOを挙げることができる。
【0034】
Si層20(上層Si)は、第1の実施の形態と同様に、結晶Siで形成されるものであって、(100)面で絶縁層10及び下層Siに面接合しており、その反転層2次元電子は、2重縮退バレー及び4重縮退バレーで構成されている。
【0035】
Si層30(下層Si)は、第1の実施の形態と同様に、上層Siと同様に結晶Siで形成されるものであって、(100)面で上層Si及び最下層Siに面接合しており、その反転層2次元電子は、2重縮退バレー及び4重縮退バレーで構成されている。
【0036】
Si層80(最下層Si)は、結晶Siで形成されるものであって、(100)面で下層Siに面接合しており、その反転層2次元電子は、2重縮退バレー及び4重縮退バレーで構成されている。
【0037】
そして、下層Siのみ、上層Siとの接合面及び下層Siとの接合面に垂直な軸に関して45度回転した位置関係となっている。なお、この回転角度が0度の場合には、上層Siと下層Siと最下層Siとは等価な位置関係、即ち、結晶格子が平行移動によってお互いに重ね合わすことができる位置関係となっているものとする。
【0038】
図5は、運動量空間(k空間)における上層Siと下層Siと最下層Siとの結晶Siの伝導エネルギーバンド端の等エネルギー面を示した図である。同図の上側には、上層Siにおける各バレーの等エネルギー面が示されており、同図の中央には、下層Siにおける各バレーの等エネルギー面が示されており、同図の下側には、最下層Siにおける各バレーの等エネルギー面が示されている。通常、結晶Siとしての電子的特性を担うSiの伝導エネルギーバンドの電子は、この運動量空間において、各層それぞれkx軸方向とky軸方向とkz軸方向とに位置する合計6個のバレー付近に存在している。
【0039】
同図によれば、本実施の形態に係る半導体素子は、上層Siと下層Siとが互いに(100)面で接合されると共に下層Siと最下層Siとが互いに(100)面で接合されているので、2重縮退バレーの電子にとっては上層Siと下層Siと最下層Siとが一続きの単一結晶となるように構成されることになる。即ち、上層Siと下層Siとの接合面及び下層Siと最下層Siとの接合面に垂直な方向の運動量を表すkz軸方向にある2重縮退バレーについては、下層Siを45度回転した場合であっても相対的な位置関係の変化は無く、上層Siと下層Siと最下層Siとにおける2重縮退バレーは、各運動量空間で同一の等価な位置に存在することになる。従って、全てのSi層における2重縮退バレーは、接合面方向(kx軸及びky軸方向)に関して同じ運動量を持つことになる。これは、上層Siの2重縮退バレーの電子にとっては、同一のSi層が下の層に連続しているように振舞うことができ、下層Siの2重縮退バレーの電子にとっては、同一のSi層が上と下の層に連続しているように振舞うことができ、最下層Siの2重縮退バレーの電子にとっては、同一のSi層が上の層に連続しているように振舞うことができる(第1の作用)。
【0040】
一方、上層Si及び下層Siの4重縮退バレーは、下層Siが上層Siに対して45度回転した位置関係にあるため、より具体的には、結晶の実空間の回転によって運動量空間における4重縮退バレーの位置関係が相対的に45度ずれるため、接合面方向に関してお互いに異なる運動量を持つことになる。同様に、下層Si及び最下層Siの4重縮退バレーの電子は、下層Siが最下層Siに対して45度回転した位置関係にあるため、接合面方向に関してお互いに異なる運動量を持つことになる。これは、各層の4重縮退バレーの電子にとっては、面接合している他のSi層が絶縁体として作用することになる(第2の作用)。なお、上層Siにおける上側の表面には絶縁層10が面接合され、最下層Siにおける下側の表面には絶縁層90が面接合されているので、全ての層の4重縮退バレーの電子にとっては、上下を絶縁体で挟まれた構造となっている。
【0041】
更に、全てのSi層の層厚を、各Si層の4重縮退バレーの電子に対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くした際には、各Si層の4重縮退バレーの電子にとって層厚方向の自由度に関して取り得るエネルギーが離散化し、最低状態のエネルギーが上昇することになる(第3の作用)。一方、各Si層の2重縮退バレーにおける電子のエネルギーについては、この閉じ込め効果が生じることはない。即ち、全てのSi層において、2重縮退バレー電子の最低状態のエネルギーと4重縮退バレー電子の状態のエネルギーとの差が大きくなり、2重縮退バレーに存在する電子の割合が増大することとなる。また、4重縮退バレー電子エネルギーの離散化と上昇とによって、2重縮退バレーと4重縮退バレーとの間の電子のバレー間散乱を抑制するという効果も得ることができる。
【0042】
以上のように、第1の作用と第2の作用と第3の作用とから、本実施の形態における半導体素子は、反転層2次元電子において、各バレーの電子移動度を向上し、更に4重縮退バレーよりも伝導特性の高い2重縮退バレーの特性を相対的に取り出すことによって、高い移動度特性を可能とする効果を得ることができる。(なお、第1の作用と第2の作用とは、より正確に言えば、第3の作用、即ち、4重縮退バレーの電子のみ層厚方向の自由度に関してエネルギーを離散化、上昇させて、バレー間の散乱を抑制すると共に4重縮退バレーに存在する電子の数を減らすことを実現するための手段となっている。)
従って、絶縁層10に面接合された上層Siと、絶縁層10とで挟むように上層Siに面接合された下層Siとを同じ(100)面で面接合し、この下層Siと、上層Siとで挟むように下層Siに面接合された最下層Siとを(100)面で面接合して、下層Siのみを上層Si及び最下層Siに対して相対的に45度回転することで全てのSi層における4重縮退バレーの電子に対して層厚方向に空間的な閉じ込め構造を作製すると共に、各Si層の層厚を4重縮退バレーの電子に対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄層化することにより、電子の移動度を向上可能な半導体素子を提供することができる。
【0043】
なお、上下共にSiOで挟まれた構造の場合における各Si層の(100)面の反転層において、4重縮退バレーの電子における基底状態のエネルギーが上昇するような層厚方向の厚さは、約5[nm]以下であることが非特許文献1に開示されているので、本実施の形態に係る各層の膜厚方向の厚さについても、同様に約5[nm]以下にすることで、上記の効果を得ることができる。
【0044】
このような半導体素子をチャネルとして図4に示すようなnチャネルMOSFETを作製した場合、各層の層厚やゲート電極50に印加する電圧等の様々なパラメータによって2重縮退バレーの電子と4重縮退バレーの電子との割合が変化するものの、その反転層の電子の流れは主に2重縮退バレーの電子によって担われることになる。そして、このようなnチャネルMOSFETは、通常のバルクSiで作製されたMOSFETと比べて、その反転層における2重縮退バレーの電子の割合を増加させるため、従来よりも移動度を高くすることができる。また、一般的には、2重縮退バレーの電子における反転層の空間的な層厚は、4重縮退バレーの電子における反転層の空間的な層厚よりも薄いので、反転層の容量が従来のバルクSiの場合よりも大きくなり、反転層の容量等の改善効果も得ることができる。
【0045】
本実施の形態では、各層が全て結晶Si、接合面が全て(100)面の場合について一例として説明したが、各接合面が必ずしも(100)面である必要はないし、各層が必ずしも結晶Siである必要もない(また、各層が異なる結晶であっても良い)。また、下層Siと上層Si及び最下層Siとにおける相対角度は45度以外であってもよい。更に、絶縁層90の代わりに、(100)面を接合面とするSi層を接合面に垂直な軸に関して最下層Siに対して相対的に45度回転させた層、即ち、下層Siと等価な層を用いた場合であっても同様の効果を得ることができることは言うまでも無い。
【0046】
本実施の形態では、Si層が3つの場合について説明したが、4つ以上のSi層を用いた場合であっても同様の効果を得ることができる。即ち、本実施の形態で説明した各Si層を結晶層と称する場合、絶縁層10に第1の結晶層(本実施の形態で説明した上層Siに相当)を面接合し、絶縁層10とで挟むように第2の結晶層(本実施の形態で説明した下層Siに相当)を第1の結晶層に面接合し、第1の結晶層とで挟むように第3の結晶層(本実施の形態で説明した最下層Siに相当)を第2の結晶層に面接合し、第2の結晶層とで挟むように第4の結晶層を第3の結晶層に面接合することを繰り返すことによって、最終的に、「絶縁層/第1の結晶層/第2の結晶層/第3の結晶層/第4の結晶層/…/第nの結晶層」の積層構造を形成する。そして、各結晶層の第1のエネルギーバンド(本実施の形態で説明した2重縮退バレーに相当)及び第2のエネルギーバンド(本実施の形態で説明した4重縮退バレーに相当)が、面接合されている上の結晶層の各エネルギーバンドに対して、接合面方向の運動量及びエネルギーに関する第1の結晶層と第2の結晶層との間のエネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンドの関係を有し、少なくとも1つの結晶層の層厚を、第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くした構成であればよい。勿論、全ての結晶層を薄くしたものであってもよい。
【0047】
本実施の形態では、下層SiがSi結晶であることを一例として説明したが、上層Si若しくは最下層Siを形成する結晶と異なる物質で形成されていた場合であっても良いし、層の数が4つ以上であっても同様の効果を得ることができる。より具体的には、本実施の形態で説明した上層Siと最下層Siとを結晶層と称し、下層Siを物質層と称する場合、絶縁層10に第1の結晶層(本実施の形態で説明した上層Siに相当)を面接合し、絶縁層10とで挟むように第1の物質層を第1の結晶層に面接合し、第1の結晶層とで挟むように第2の結晶層(本実施の形態で説明した最下層Siに相当)を第1の物質層に面接合し、第1の物質層とで挟むように第2の物質層を第2の結晶層に面接合することを繰り返すことによって、最終的に、「絶縁層/第1の結晶層/第1の物質層/第2の結晶層/第2の物質層/…/第nの結晶層/第nの物質層」の積層構造を形成する。
【0048】
そして、各結晶層の第1のエネルギーバンド(本実施の形態で説明した2重縮退バレーに相当)及び第2のエネルギーバンド(本実施の形態で説明した4重縮退バレーに相当)が、面接合されている上の物質層の各エネルギーバンドに対して、接合面方向の運動量及びエネルギーに関する第1の結晶層と第1の物質層との間のエネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有すると共に、各物質層の第1のエネルギーバンド(本実施の形態で説明した2重縮退バレーに相当)及び第2のエネルギーバンド(本実施の形態で説明した4重縮退バレーに相当)が、面接合されている上の結晶層の各エネルギーバンドに対して、接合面方向の運動量及びエネルギーに関する第1の結晶層と第1の物質層との間のエネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有し、少なくとも1つの結晶層及び/又は物質層の層厚を、第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くした構成であればよい。勿論、全ての結晶層及び/又は物質層を薄くしたものであってもよい。また、最後に積層される層は、第nの物質層ではなく第nの結晶層であってもよく、必ずしも薄層化する必要は無い。
【0049】
〔第3の実施の形態〕
図6は、第3の実施の形態に係る半導体素子の構成を示す構成図である。この半導体素子は、絶縁層10と、絶縁層10における下側の表面に面接合され、両側面にも絶縁層10が接合配置されたSi層20(以降、「細線型上層Si」と称する場合もある)と、絶縁層10とで閉じ込めるようにSi層20における下側の表面に面接合され、Si基板40の上に形成されたSi層30(以降、「下層Si」と称する場合もある)とで構成されている。このような構成を備えた半導体素子に加えて、同図には、絶縁層10における上側の表面に面接合されたゲート電極50と、Si層20及びSi層30の片端(同図の手前側)に接合配置されたソース電極60と、Si層20及びSi層30の他端(同図の奥側)に接合配置されたドレイン電極70とが合わせて記載されている。
【0050】
絶縁層10は、第1の実施の形態と同様に、絶縁性を有する材料で作製されているので、絶縁層10とSi層20との間は連続性の無い結晶の積層状態となり、細線型上層Siにおける全てのエネルギーバンドの電子に対して絶縁的に作用する。このような絶縁層の一例として、SiOを挙げることができる。
【0051】
Si層20(細線型上層Si)は、第1の実施の形態と同様に、結晶Siで形成されるものであって、(100)面で絶縁層10の下側の表面と下層Siとに面接合している。
【0052】
Si層30(下層Si)は、第1の実施の形態と同様に、細線型上層Siと同様に結晶Siで形成されるものであって、(100)面で細線型上層Siに面接合している。また、下層Siは、細線型上層Siとの接合面に垂直な軸に関して45度回転した位置関係となっている。なお、この回転角度が0度の場合には、細線型上層Siと下層Siとは等価な位置関係、即ち、結晶格子が平行移動によってお互いに重ね合わすことができる位置関係となっているものとする。
【0053】
図7は、運動量空間(k空間)における細線型上層Si及び下層Siの結晶Siの伝導エネルギーバンド端の等エネルギー面を示した図である。同図の上側には、細線型上層Siにおける各縮退バレーの等エネルギー面が示されており、同図の下側には、下層Siにおける各縮退バレーの等エネルギー面が示されている。通常、結晶Siとしての電子的特性を担うSiの伝導エネルギーバンドの電子は、この運動量空間において、それぞれkx軸方向、ky軸方向、kz軸方向に位置する合計6個の等エネルギー面で表されるようなバレー端付近に存在している。
【0054】
同図によれば、本実施の形態に係る半導体素子は、kz軸方向にある2つのバレーの電子にとっては、細線型上層Si及び下層Siが一続きの単一結晶となるように構成されることになる。即ち、互いの接合面に垂直な方向の波数kz軸方向にある2つのバレーについては、上下層Siを実空間で相対的に45度回転した場合であっても位置関係に変化は無く、細線型上層Si及び下層Siにおいて、運動量空間で同一の等価な位置に存在することになる。これは、各バレーの等エネルギー面をkx−ky平面に投影した場合、細線型上層Si及び下層Siにおける該当のバレーが、図8に示すように同じ位置に配置されることになる。従って、細線型上層Si及び下層Siにおける全てのkz軸方向にあるバレーは、接合面方向(kx軸及びky軸方向)に関して同じ運動量を持つことになる。これは、細線型上層Siの2重縮退バレーの電子にとっては、同一のSi層が下の層に連続しているように振舞うことができる(第1の作用)。
【0055】
一方、細線型上層Si及び下層Siにおいてそれぞれkx軸方向、ky軸方向に位置する合計4個バレーの電子は、下層Siが細線型上層Siに対して45度回転した位置関係にあるため、より具体的には、結晶の実空間の回転によって運動量空間におけるこれら4つのバレーの位置関係が相対的に45度ずれるため、接合面方向に関してお互いに異なる運動量を持つことになる。これは、細線型上層Siのkx軸方向、ky軸方向に位置する4つのバレーの電子にとっては、下層Siが絶縁体として作用することになる(第2の作用)。なお、細線型上層Siにおける上側の表面及び左右の両側面には絶縁層10が面接合されているので、細線型上層Siのkx軸方向、ky軸方向に位置する4つのバレーの電子にとっては、上下左右を絶縁体で囲まれた構造となっている。
【0056】
更に、細線型上層Siのkx軸方向、ky軸方向に位置する4つのバレーの電子に対して、細線型上層Siの層厚及び水平方向の幅を量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で微小にした際には、この4つのバレーの電子にとって層厚方向及び水平方向(以降、「断面方向」と称する)の自由度に関して取り得るエネルギーが離散化し、最低状態のエネルギーが上昇することになる(第3の作用)。一方、細線型上層Siのkz軸方向に位置する2つのバレーにおける電子については、膜厚方向の閉じ込めが生じないためにこの閉じ込め効果は相対的に小さなものとなる。即ち、細線型上層Siでは、kz軸方向に位置する2つのバレーにおける電子の最低のエネルギーとkx軸方向、ky軸方向に位置する4つのバレーの電子の最低エネルギーとの差が大きくなり、kz軸方向のバレーに存在する電子の割合が増大することとなる。また、kx軸方向、ky軸方向のバレー電子エネルギーの離散化と上昇とによって、各バレーの電子についてバレー間散乱を抑制するという効果も得ることができる。
【0057】
以上のように、第1の作用と第2の作用と第3の作用とから、本実施の形態における半導体素子は、細線型上層Siにおいて、各バレーに存在する電子の移動度を増大し、更に相対的に高い移動度特性を持つkz軸方向バレー電子の特性を選択的に取り出すことを可能とする効果を得ることができる。(なお、第1の作用と第2の作用とは、より正確に言えば、第3の作用、即ち、kx軸方向、ky軸方向バレーの電子について細線の断面方向の自由度に関してエネルギーをより大きく離散化、上昇させて、kz軸方向のバレーとの間でのバレー間の散乱を抑制すると共にkx軸方向、ky軸方向バレーに存在する電子の数を減らすことを実現するための手段となっている。)
従って、絶縁層10に面接合され、両側面にも絶縁層10が接合配置された細線型上層Siと、絶縁層10とで囲むように細線型上層Siに面接合された下層Siとを同じ(100)面で面接合し、下層Siを細線型上層Siに対して接合面に垂直な軸に関して相対的に45度回転することで細線型上層Siのkx軸方向、ky軸方向のバレーの電子に対して断面方向に空間的に閉じ込めるような構造を作製すると共に、細線型上層Siの断面のサイズをkx軸方向、ky軸方向のバレーの電子に対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で微小化することにより、電子の移動度を向上可能な半導体素子を提供することができる。なお、第1の実施の形態若しくは第2の実施の形態は、層厚方向(z軸方向)のみ閉じ込め構造とする1次元的な閉じ込めの場合について説明するものであるが、本実施の形態は、細線の断面方向を閉じ込め構造とする2次元的な閉じ込めの場合について説明するものである。
【0058】
このような半導体素子をチャネルとして図6に示すようなnチャネルMOSFETを作製した場合、細線型上層Siの層厚やゲート電極50に印加する電圧等の様々なパラメータによって各バレーの電子の割合が変化するものの、その反転層の電子の流れは主にkz軸方向に位置するバレーの電子によって担われることとなる。そして、このようなnチャネルMOSFETは、層厚方向(z軸方向)に上層Siの層厚を制限しないような通常のSi細線で作製されたMOSFETと比べて、kz軸方向バレーの電子の割合を増加させるため、従来よりも移動度を高くすることができる。また、一般的には、kz軸方向バレー電子による反転層の空間的な層厚は、kx軸方向、ky軸方向の4つのバレーの電子による反転層の空間的な層厚よりも薄いので、反転層の容量が上層Siの層厚を制限しないような通常のSi細線の場合よりも大きくなり、反転層の容量等の改善効果も得ることができる。
【0059】
なお、細線領域ではない絶縁層10とSi層30との界面部分に反転層が形成されることが素子特性上問題となる場合には、Si層30とSi基板40との間に絶縁層を形成し、更にSi層30の膜厚を各バレーの電子にとって量子力学的閉じ込め効果(絶縁層10とSi層30下面の絶縁層との間で挟まれた領域に関しての閉じ込め効果)を呈する範囲で薄くした構成とすることにより、この反転層を排除し、純粋に細線のみの特性を得ることができる。
【0060】
本実施の形態では、各層が結晶Si、接合面が(100)面の場合について一例として説明したが、各接合面が必ずしも(100)面である必要はないし、各層が必ずしも結晶Siである必要もない。また、上層Siと下層Siとにおける相対角度は45度以外であってもよい。
【0061】
本実施の形態では、下層がSi結晶であることを一例として説明したが、上層Siを形成する結晶と異なる物質で形成されていた場合であっても同様の効果を得ることができる。また、本実施の形態で説明した細線型上層Siを、第2の実施の形態で説明したような積層構造の半導体素子に適用可能であることは言うまでも無い。更に、Si層20の両側面には絶縁層10が接合配置された場合について説明したが、この絶縁層の少なくとも一部を上記物質層とした場合であっても良い。
【0062】
最後に、第1の実施の形態乃至第3の実施の形態によれば、異方的バンド構造を持つ結晶Siを利用して適切な接合構造を持つ半導体素子を作製し、各層の層厚を適切に設定することによって、量子力学的閉じ込め効果を利用して各結晶のエネルギーバンドの状態密度を変化させ、特定のエネルギーバンドに存在するキャリアの割合を増加させると共に、各エネルギーバンド間のキャリアの散乱を変化させることにより、従来のバルクSiよりも伝導特性や容量特性等の物理特性を向上することが可能となる。また、このような半導体素子は、半導体装置や電子素子や光エレクトロニクス素子などの各分野で応用可能であることを付言しておく。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1の実施の形態に係る半導体素子の構成を示す構成図である。
【図2】運動量空間(k空間)における上層Si及び下層Siの結晶Siの伝導バンド端の等エネルギー面を示した図である。
【図3】図2に示す各縮退バレーの等エネルギー面をkx−ky平面に投影した投影図である。
【図4】第2の実施の形態に係る半導体素子の構成を示す構成図である。
【図5】運動量空間(k空間)における上層Siと下層Siと最下層Siとの結晶Siの伝導バンド端の等エネルギー面を示した図である。
【図6】第3の実施の形態に係る半導体素子の構成を示す構成図である。
【図7】運動量空間(k空間)における細線型上層Si及び下層Siの結晶Siの伝導バンド端の等エネルギー面を示した図である。
【図8】図7に示す各縮退バレーの等エネルギー面をkx−ky平面に投影した投影図である。
【符号の説明】
【0064】
10…絶縁層
20…Si層(上層Si,細線型上層Si)
30…Si層(下層Si)
40…Si基板
50…ゲート電極
60…ソース電極
70…ドレイン電極
80…Si層(最下層Si)
90…絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層に面接合された結晶層と、前記絶縁層とで挟むように前記結晶層に面接合された物質層とを有する半導体素子において、
前記結晶層は、キャリア(電子又は正孔)が存在するエネルギーの範囲に含まれ、前記物質層との接合面方向の運動量が互いに異なる少なくとも第1のエネルギーバンド及び第2のエネルギーバンドを有する結晶で形成され、
前記物質層は、前記第1のエネルギーバンドと同じエネルギーの領域にあり、前記結晶層との接合面方向の運動量に関して前記第1のエネルギーバンドと同じ運動量を持つ第3のエネルギーバンドを有し、且つ、前記第2のエネルギーバンドにおけるエネルギー及び当該接合面方向の運動量に関して同じエネルギー及び/又は同じ運動量を持つエネルギーバンドを有しないものであって、
前記結晶層の層厚を、前記第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くしたことを特徴とする半導体素子。
【請求項2】
第n−1の前記結晶層とで挟むように第nの前記結晶層を第n−1の前記物質層に面接合し、当該第n−1の物質層とで挟むように第nの前記物質層を前記第nの結晶層に面接合することを交互に繰り返す積層構造において、
前記第nの結晶層における前記第1のエネルギーバンド及び前記第2のエネルギーバンドは、前記第n−1の物質層におけるエネルギーバンドに対して、前記エネルギー及び前記接合面方向の運動量に関する前記結晶層と前記物質層との間のエネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有し、
前記第nの物質層におけるエネルギーバンドは、前記第nの結晶層における前記第1のエネルギーバンド及び前記第2のエネルギーバンドに対して、前記エネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有するものであって、
前記積層構造を構成する複数の結晶層のうち少なくとも1つの前記第nの結晶層の層厚を、前記第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くしたことを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記物質層は、前記第3のエネルギーバンドと、前記エネルギー範囲と同じエネルギー範囲に含まれ、前記結晶層との接合面方向の運動量に関して前記第3のエネルギーバンドと異なる運動量を持つ第4のエネルギーバンドとを有する結晶で形成されるものであって、
前記第1のエネルギーバンド及び当該第3のエネルギーバンドについては互いの接合面方向の運動量が一致し、前記第2のエネルギーバンド及び前記第4のエネルギーバンドについては、エネルギー及び/又は互いの接合面方向の運動量が異なることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記物質層は、前記結晶層と同じ物質であり、且つ、前記結晶層及び当該物質層は、同一の面方位を互いの接合面として選択するものであって、
前記結晶層の第1のエネルギーバンドについては当該接合面方向の運動量が一致し、前記結晶層の第2のエネルギーバンドについては、当該接合面方向の運動量が一致するようなエネルギーバンドが当該物質層に存在しないように相対的な回転角度(接合面に垂直な軸に対する回転角度)を選択して接合したことを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項5】
第n−1の前記結晶層とで挟むように第nの前記結晶層を第n−1の前記物質層に面接合し、当該第n−1の物質層とで挟むように第nの前記物質層を前記第nの結晶層に面接合することを交互に繰り返す積層構造において、
前記第nの結晶層における前記第1のエネルギーバンド及び前記第2のエネルギーバンドは、前記第n−1の物質層における前記第3のエネルギーバンド及び前記第4のエネルギーバンドに対して、前記エネルギー及び前記接合面方向の運動量に関する前記結晶層と前記物質層との間のエネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有し、
前記第nの物質層における前記第3のエネルギーバンド及び前記第4のエネルギーバンドは、前記第nの結晶層における前記第1のエネルギーバンド及び前記第2のエネルギーバンドに対して、前記エネルギーバンド関係と同様のエネルギーバンド関係を有するものであって、
前記積層構造を構成する複数の結晶層のうち少なくとも1つの前記第nの結晶層の層厚を、前記第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くし、更に、前記積層構造を構成する複数の物質層のうち少なくとも1つの前記第nの物質層の層厚を、前記第4のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で薄くしたことを特徴とする請求項3に記載の半導体素子。
【請求項6】
前記結晶層の層厚に対する水平方向の幅を、前記第2のエネルギーバンドのキャリアに対して量子力学的閉じ込め効果を呈する範囲で更に薄くし、当該結晶層の両側面に絶縁層を接合配置することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項7】
前記結晶層の両側面に接合配置された前記絶縁層の少なくとも一部は、前記物質層であることを特徴とする請求項6に記載の半導体素子。
【請求項8】
前記絶縁層は、前記物質層であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−188130(P2009−188130A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25606(P2008−25606)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】