説明

半導体装置およびその製造方法

【課題】Al電極の表面上に、無電界めっき法により、均一な膜厚のNi層を形成する。
【解決手段】半導体基板15の表面上に、Al金属層19を形成する工程と、Al金属層19上にNi層20を無電解めっき法により形成する工程と、半導体基板15をチップ化することで、半導体チップ2を形成する工程と、半田により、導体部材とNi層20とを接合する工程とを有する半導体装置の製造方法において、Al金属層19を形成する工程では、半導体基板15の表面上に、AlもしくはAl合金からなる第1の層19aを形成した後、第1の層19aの表面に、Al金属層19の導電性を確保しつつ、第1の層中のAl結晶の連続性を断ち切るように、第1の層とは材質が異なる異種材質層19bを形成し、その後、異種材質層19bの面に、第1の層19aと同一材料からなる第2の層19cを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップのAl電極が形成された面に、半田を介して導体部材が接合された構成の半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップのAl電極が形成された面に、半田を介して導体部材が接合された構成の半導体装置として以下のものがある。図5に、このような構成の半導体装置の断面図を示す。
【0003】
図5に示す半導体装置1は、例えば、パワー半導体素子が形成されている半導体チップ2と、下側ヒートシンク3と、上側ヒートシンク4と、導体部材としてのヒートシンクブロック5とを備えている。半導体チップ2の下面と下側ヒートシンク3の上面との間は、半田6aによって接合されており、半導体チップ2の上面とヒートシンクブロック5の下面との間も、半田6bによって接合されている。さらに、ヒートシンクブロック5の上面と上側ヒートシンク4の下面との間も、半田6cによって接合されている(特許文献1参照)。
【0004】
この半導体装置では、半導体チップ2の上面(表面)と下面(裏面)の両方が、導体部材としてのヒートシンク3、4と接合されているので、半導体チップ2から発生した熱を、半導体チップ2の両面から放熱できるようになっている。
【0005】
ここで、図6に、従来の半導体装置1における半導体チップ2とその表面に接合されている半田6bの拡大図を示す。
【0006】
図6に示すように、半導体チップ2には、パワー半導体素子として、例えば、トレンチゲート型のIGBTが形成されている。具体的には、この半導体チップ2は、P型層11と、ドリフト層としてのN型層12と、ベース層としてのP型層13と、エミッタ層としてのN型層14とを備える半導体基板15を有している。
【0007】
そして、半導体基板15の表面(上面)15a側には、半導体基板15の表面15aからP型層13を貫通し、N型層12に到達する深さのトレンチの内壁にゲート絶縁膜(図示せず)を介して、ゲート電極16が形成されている。
【0008】
ゲート電極16上を含む半導体基板15の表面15a上には、層間絶縁膜17を介してエミッタ電極としてのAl電極19が形成されており、層間絶縁膜17に形成されたコンタクトホール18を介してN型層14とAl電極19とが電気的に接続されている。このAl電極19は、Al単体金属もしくはAl合金で構成されたAl金属層であり、Al電極19の厚さは、通常、1〜2μmである。
【0009】
また、Al電極19の表面上には、無電解めっき法により形成されたNi層20が存在し、このNi層20が半田6bと接合されており、このNi層20および半田6bを介して、Al電極19がヒートシンクブロック5と接続されている(図5参照)。ここで、Ni金属はAl金属と半田の両方と接合可能な金属材料であることから、半導体チップ2の表面電極19と半田6bとの接合を可能とするために、Al電極19の表面上にNi層20が形成されている。
【0010】
また、半導体基板15の裏面側にはコレクタ電極21が形成されている。
【0011】
ところで、無電解めっき法により、Al金属の表面上にNi層を形成することに関して、Ni層が形成されるAl金属表面での結晶面の違いが、Ni層の成長に影響することが、非特許文献1に記載されている。具体的には、結晶方位が(100)面、(110)面、(111)面であるAl単結晶表面に対して、ジンケート処理を施した後に、無電解Ni−Pめっき処理を施した場合では、Al単結晶表面の結晶方位が(111)面のとき、最も均質なNi層が得られ、(110)面および(100)面のときは、(111)面のときよりもNi層の成長度合いが低いと報告されている。
【特許文献1】特開2003−110064号公報
【非特許文献1】中田 毅 著「Al単結晶表面上へのジンケート処理と無電解Ni−Pめっき」,表面技術,VOL.48,No.8,1997年,p70−75
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
最近では、例えば、インバータに用いられるIGBTやFWD(フリーホイールダイオード)等のパワー半導体素子に対して、従来よりも大きな電流を流すことが要求されてきたため、Al電極19の厚さを従来よりも厚くする必要がある。具体的には、Al電極19の厚さを、2μmよりも大きくする必要がある。
【0013】
ところが、このような従来よりも厚いAl電極を形成したときでは、以下に説明するように、そのAl電極の表面上に形成したNi層の膜厚が均一にならず、Al電極と半田とを十分に接合させるのに必要な膜厚のNi層が得られないという問題が発生することがわかった。
【0014】
ここで、図7に、従来よりも厚いAl電極19の表面上に、無電解めっき法により、従来と同程度の厚さのNi層20を形成したときの半導体チップの断面図を示す。なお、図7では、図6と同様の構成部に、図6と同一の符号を付している。
【0015】
本発明者がNi層の膜厚が均一にならなかった原因を調査した結果、第1に、図7に示すように、Al電極19を構成する複数のAlからなる結晶粒(Al結晶粒)31、32が従来よりも粗大化していることと、第2に、特定のAl結晶粒31の上だけ、成長したNi層20が薄かったり、図7に示すように、Ni層20が形成されておらず、半導体基板表面に対して真上の方向からNi層を見たとき、ピンホール状にAl電極19が露出してしまう現象が生じたりしていること、すなわち、結晶粒単位で、Ni層20の未成長が生じていることがわかった。
【0016】
ここで、図8に、このときのAl電極19の表面を、図7中の矢印のように、真上方向から電子顕微鏡で観察したときの図を示す。図8に示すように、各結晶粒31、32は、それぞれ、結晶粒内で結晶面方位が同じであり、表面上にNi層20が形成されていない、もしくは、表面上に形成されたNi層20が薄い部分のAl結晶粒31の結晶面方位を調べたところ、非特許文献1で指摘されている(100)面のほか、(111)面と(100)面の中間である(321)面や(311)面であることがわかった。一方、Ni層20が均一に成長していた結晶粒32の結晶面方位は、主に(111)面であった。
【0017】
なお、従来においても、Al電極19は複数の結晶粒により構成されており、これらの結晶粒の中には、Al電極19の表面における結晶面方位が、(111)面だけでなく、(100)面等のNi層20が成長し難い結晶粒31も存在していた。
【0018】
しかしながら、従来では、Al電極19が1〜2μm薄く、図7、8に示す場合と比較して、各結晶粒31、32が小さかったことから、Ni層20が成長し難い結晶粒31の表面上に直接Ni層が成長しなくても、その結晶粒31の周囲で形成されたNi層が、Al電極表面に平行な方向(横方向)に成長することで、Ni層20が成長し難い結晶粒31の表面がNi層で覆われることで、均一なNi層20が得られていたと推測される。
【0019】
これに対して、従来よりも厚いAl電極を形成したときでは、Al金属層を厚く形成するにつれ、Al金属層を構成する結晶粒の粒径は大きくなる傾向があるため、Al結晶粒が従来よりも粗大になり、Al電極19の表面を真上から見たときのNi層が成長し難い結晶粒31の領域(面積)が従来よりも大きくなった。このため、Ni層が成長し難い結晶粒31の隣の結晶粒32の表面上で形成されたNi層が横方向に成長しても、Ni層が成長し難い結晶粒31を覆いきれず、Ni層20を均一に形成できないという問題が生じたものと考えられる。
【0020】
このように、Al金属層を構成する結晶粒が大きくなったことが上記問題の発生原因であることから、特に、表面が平坦化されたAl電極を有するIGBTを製造する場合や、大面積のFWDを製造する場合に、上記問題が発生する。
【0021】
これは、IGBTの製造においては、層間絶縁膜の上にAl電極19を形成する際、コンタクトホール上でのカバレッジを確保するため、Al電極19の表面が平坦になるように、Alが流動しやすい温度でスパッタリングを行う高温スパッタや、スパッタリングを行った後、Alが流動する温度で加熱するリフロスパッタ等によって、Al電極19が形成されるが、この温度での加熱によって、結晶粒も大きく成長することから、この場合に、結晶粒の粗大化が顕著となるためである。同様に、FWDにおいては、Si半導体基板上に形成されたAl金属層は平坦であるが、大面積(例えば、7mm×7mm)であることからも、結晶粒が粗大化しやすいからである。
【0022】
本発明は上記点に鑑みて、Al電極の表面上に、無電界めっき法により、均一な膜厚のNi層を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、本発明に係る半導体装置の製造方法では、Al金属層(19)を形成する工程は、半導体基板(15)の表面(15a)上に、AlもしくはAl合金からなる第1の層(19a)を形成する工程と、第1の層(19a)の表面に、Al金属層(19)の導電性を確保しつつ、第1の層中のAl結晶の連続性を断ち切るように、第1の層とは材質が異なる異種材質層(19b)を形成する工程と、異種材質層(19b)の表面に、第1の層(19a)と同一材料からなる第2の層(19c)を形成する工程とを有することを特徴としている。
【0024】
本発明では、このように、AlもしくはAl合金からなるAl金属層を成長させる途中で、異種材質層を形成することで、Al結晶の連続性を断ち切った後、新たに、AlもしくはAl合金からなる層を成長させるようにしている。
【0025】
これにより、本発明とは異なり、単に、連続してAlもしくはAl合金からなる層を成長させてAl金属層を形成した場合と比較して、Al金属層の最表面に位置するAl結晶粒を小さくでき、Al金属層の最表面で露出しているAl結晶粒のうち、Al金属層の表面での結晶面方位が、(100)面等のNi層が形成され難い結晶面方位であるAl結晶粒のAl金属層表面での範囲(1つの結晶粒の大きさ)を小さくできる。
【0026】
この結果、Al金属層を形成した後、Ni層を形成するときにおいて、本発明とは異なり、単に、連続してAlもしくはAl合金からなる層を成長させてAl金属層を形成した場合と比較して、Ni層が形成され難い結晶面方位であるAl結晶粒上に、Ni層が直接形成されなくても、そのAl結晶粒の周囲からのNi層の成長により、この領域をNi層で覆うことが可能となり、均一の膜厚のNi層を形成しやすくなる。
【0027】
なお、AlもしくはAl合金からなるAl金属層には、Al単体金属もしくはAl合金のみからなるだけでなく、Al単体金属もしくはAl合金が主成分であって、その他の材料が含まれる場合も含まれる。
【0028】
具体的には、異種材質層(19b)を形成する工程では、主としてAlとは異なる金属で構成される金属層を形成することができ、例えば、Ti、W等の金属層を採用できる。
【0029】
また、別の例として、異種材質層(19b)を形成する工程では、第1の層(19a)と第2の層(19c)との間での導電性を確保できる厚さであって、Alを主成分とする酸化物からなるAl酸化物層を形成することができる。この場合、例えば、第1の層の表面を酸化したり、第1の層の表面上に酸化物を堆積させたりする方法を採用できる。さらに、第1の層の表面を酸化する方法としては、第1の層(19a)の表面に対して、酸素プラズマ処理を施したり、自然酸化させたりする方法を採用できる。
【0030】
また、第2の層(19c)を形成する工程では、例えば、第1の層(19a)を形成するときの温度よりも低温下で、第2の層(19c)を形成したり、第2の層(19c)を、第1の層(19a)よりも薄く形成したりすることが好ましい。
【0031】
また、本発明の半導体装置は、本発明に係る製造方法によって製造されるものであり、Al金属層(19)は、半導体基板表面に垂直な方向で、半導体基板表面に近い側の第1の層(19a)と半導体基板表面から遠い側第2の層(19c)に分かれ、第1の層(19a)と第2の層(19c)の間に、第1の層(19a)と第2の層(19c)の間での導電性を確保できており、AlもしくはAl合金とは材質が異なる異種材質層(19b)が配置されており、 第1の層(19a)中に存在するAl結晶粒(51、52)と、第2の層(19c)中に存在するAl結晶粒(41、42)は、不連続であることを特徴としている。
【0032】
具体的には、第2の層(19c)は、例えば、第1の層(19a)よりも薄くなっており、記第2の層(19c)中に存在するAl結晶粒(41、42)は、第1の層(19a)中に存在するAl結晶粒(51、52)よりも粒径が小さくなっていることが好ましい。
【0033】
また、本発明では、第1の層(19a)と第2の層(19c)の間における結晶界面は、半導体基板表面に略平行となっている。
【0034】
また、異種材質層(19b)としては、例えば、主としてAlとは異なる金属の単体もしくは合金で構成される金属層、もしくは、第1の層(19a)と第2の層(19c)との間での導電性を確保できる厚さであって、Alを主成分とする酸化物からなるAl酸化物層を採用できる。
【0035】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
(第1実施形態)
図1に本発明の一実施形態における半導体装置の部分断面図を示す。図1は、図5中の領域Aの拡大図であり、半導体基板15の表面上に形成されているAl電極19、Ni層20を拡大した図である。また、図1では、図6と同様の構成部に、図6と同一の符号を付している。
【0037】
本実施形態の半導体装置は、上記背景技術の欄および発明が解決しようとする課題の欄で説明した図5、6に示される半導体装置1に対して、Al電極19の構成および製造方法が異なっているものであり、その他については上記した半導体装置1と同様である。
【0038】
具体的には、本実施形態の半導体装置は、図5に示すように、半導体チップ2と、下側ヒートシンク3と、上側ヒートシンク4と、ヒートシンクブロック5と、半導体チップ2と電気的に接続されるリードフレーム9と、半導体チップ2とリードフレーム9とを接続するボンディングワイヤ10と、これらを封止する封止樹脂7とを備えている。なお、封止用樹脂7は、半導体チップ2、下側ヒートシンク3の半導体チップ2と接合している面3a、上側ヒートシンク4の半導体チップ2と接合している面4a、ヒートシンクブロック5、ボンディングワイヤ10およびリードフレーム9の一部を一括して封止している。
【0039】
半導体チップ2には、パワー半導体素子として、例えば、トレンチゲート型のIGBTが形成されている。
【0040】
半導体チップ2は、図1に示すように、半導体基板15の表面15a上に、層間絶縁膜17を介して、Al金属層としてのAl電極19が形成されている。Al電極19は、層間絶縁膜17に形成されたコンタクトホール18を介してP型層13およびN型層14と電気的に接続されている。Al電極19の上にはNi層20が形成されている。また、図1中には示されていないが、このNi層20に半田6b(図5参照)が接合されている。
【0041】
ここで、Al電極19は、半導体基板表面15aに垂直な方向(図中上下方向)で、半導体基板表面15aに近い側(図中下側)の第1のAl金属層19aと、半導体基板表面15aに遠い側(図中上側)の第2のAl金属層19cとに分かれており、これらの間に、第1、第2のAl金属層19a、19cよりも薄い異種材質層19bが配置されている。なお、第1、第2のAl金属層19a、19cが、それぞれ、特許請求の範囲に記載の第1、第2の層に相当する。
【0042】
第1、第2のAl金属層19a、19cは、Al単体金属もしくはAl−Si、Al−Si−Cu等のAl合金で構成されており、同じ材料で構成されている。なお、Al単体金属もしくはAl合金が主成分であれば、これらの金属材料に他の材料が含まれていても良い。
【0043】
また、図中上側の第2のAl金属層19cは、図中下側の第1のAl金属層19aよりも薄く、第2のAl金属層19c中に存在するAl結晶粒41、42の粒径は、第1のAl金属層19a中に存在する結晶粒51、52の粒径よりも小さくなっている。また、第1のAl金属層19aと第2のAl金属層19cとの間における結晶界面は、コンタクトホール18を含む層間絶縁膜17の表面と比較して、平坦であり、半導体基板表面15aに略平行となっている。
【0044】
異種材質層19bは、Al電極19を構成するAl単体金属もしくはAl合金とは異なる材質、例えば、TiやW等の金属で構成されたものである。本実施形態では、金属材料で構成されているので、第1、第2のAl金属層19a、19c間での導電性が確保されている。
【0045】
また、本実施形態では、Al電極19の厚さは、2μmよりも厚く、例えば、Al電極19の層間絶縁膜17上での総厚さが5μm程度に対して、第1、第2のAl金属層19a、19cは、それぞれ、3μm、2μmであり、異種材質層19bは、10〜100nmである。また、Ni層20の厚さは、平均5μm程度(3〜7μmの範囲)であり、半田6bの厚さは、100μm程度である。
【0046】
次に、上記した構造の半導体装置1の製造方法を説明する。図2(a)〜(d)、図3(a)、(b)、(c)に本実施形態の半導体装置の製造工程を示す。
【0047】
まず、半導体チップ2を形成する工程を行う。この工程では、図6を参照して説明すると、P型層11と、N型層12と、P型層13と、N型層14とを備える半導体基板15を用意する。そして、半導体基板15の表面15aからP型層13を貫通し、N型層12に到達する深さのトレンチを形成し、トレンチ内にゲート絶縁膜を介して、ゲート電極16を形成する。その後、半導体基板15の表面上に層間絶縁膜17を形成する。層間絶縁膜17を形成した後、図2(a)に示すように、層間絶縁膜17にコンタクトホール18を形成する。
【0048】
続いて、図2(b)に示すように、リフロスパッタもしくは高温スパッタにより、半導体基板15(層間絶縁膜17)の表面上に、主としてAl単体金属もしくはAl合金からなる第1のAl金属層19aを、層間絶縁膜17上での膜厚が3μmとなるように、形成する工程を行う。
【0049】
リフロスパッタの場合では、スパッタリングにより、第1のAl金属層19aを形成した後、第1のAl金属層19aを加熱することで、第1のAl金属層19aを平坦化する。このとき、スパッタリング条件を、例えば、Ar雰囲気下で、Ar圧を0.9Pa、温度を150℃とする。また、その後の加熱では、例えば、415℃、180秒とする。
【0050】
一方、高温スパッタの場合では、第1のAl金属層19aを平坦化させながら堆積させる。このとき、スパッタリング条件を、例えば、Ar雰囲気下で、Ar圧を0.9Pa、温度を300〜350℃とする。
【0051】
続いて、図2(c)に示すように、第1のAl金属層19aの表面に、直接、スパッタリングにより、TiもしくはW等の金属を薄く堆積させることで、膜厚が10〜100nmである異種材質層19bを形成する工程を行う。このとき、スパッタリング条件を、例えば、Ar雰囲気下で、Ar圧を0.9Pa、温度を270℃とする。このように、TiもしくはWのスパッタ時では、第1のAl金属層19aの形成時の圧力を保ったまま、連続的にスパッタする。
【0052】
続いて、図2(d)に示すように、異種材質層19bの表面に、直接、スパッタリングにより、第1のAl金属層19aと同じ材料からなる第2のAl金属層19cを形成する工程を行う。このとき、スパッタリング条件を、例えば、Ar雰囲気下で、Ar圧を0.9Pa、温度を150℃とする。
【0053】
このように、第2のAl金属層19cを形成するときでは、形成時の温度を、第1のAl金属層19aを形成するときよりも、低くする。これは、第1のAl金属層19aを平坦化しているので、この上に形成する第2のAl金属層19cに対して、特に、平坦化処理を施す必要がないことと、形成時の温度が低いほど、結晶粒の成長が起こりにくく、結晶粒の粗大化を抑制できるからである。なお、第2のAl金属層19cを形成するときの温度を、第1のAl金属層19aを形成するときと同じ高温としても良い。
【0054】
また、この工程では、異種材質層19bによって、第1のAl金属層19a中に存在するAl結晶粒と遮断されるため、異種材質層19bの表面上でAl結晶粒が新たに形成されることとなるので、第2のAl金属層19c中に存在するAl結晶粒41、42は、第1のAl金属層19a中に存在するAl結晶粒51、52よりも粒径が小さい。
【0055】
このようにして、第1のAl金属層19aと、異種材質層19bと、第2のAl金属層19cとが積層された構造のAl電極19が形成される。
【0056】
続いて、図1に示すように、Al電極19上に、無電界めっき法により、Ni層20を形成する。その後、ダイシング工程等を経ることで、半導体チップ2が完成する。
【0057】
続いて、半導体チップ2をヒートシンク3、4およびヒートシンクブロック5と接合し、封止用樹脂7により封止する工程を行う。
【0058】
すなわち、図3(a)に示すように、下側ヒートシンク3の上面に、半導体チップ2とヒートシンクブロック5とを半田付けする工程を行う。この場合、下側ヒートシンク3の上面に半田箔8を介してチップ2を積層すると共に、このチップ2の上に半田箔8を介してヒートシンクブロック5を積層する。この後、加熱装置(リフロー装置)によって半田箔8を溶融させてから、硬化させる。なお、半田としては、例えばSn系Pbフリー半田を用いることができる。
【0059】
続いて、図3(b)に示すように、チップ2の制御電極とリードフレーム9とをワイヤーボンディングする工程を行う。これにより、例えばAlやAu等製のワイヤー10によってチップ2の制御電極とリードフレーム9とが接続される。
【0060】
次いで、図3(c)に示すように、ヒートシンクブロック5の上に上側ヒートシンク4を半田付けする工程を行う。ヒートシンクブロック5の上に半田箔8を介して上側ヒートシンク4を載せる。そして、加熱装置によって半田箔8を溶融させてから、硬化させる。
【0061】
そして、図示しない成形型を使用して、ヒートシンク3、4の隙間および外周部に封止用樹脂7を充填する工程(モールド工程)を行う。これにより、図5に示すように、ヒートシンク3、4の隙間および外周部等が樹脂7で充填封止され、半導体装置1が完成する。
【0062】
次に、本実施形態の主な特徴について説明する。
【0063】
本実施形態では、Al電極19を形成する際、図2(b)に示す工程で、第1のAl金属層19aを形成した後、図2(c)に示す工程で、異種材質層19bを形成し、図2(d)に示す工程で、第2のAl金属層19cを形成することで、Al電極19を形成するようにしている。
【0064】
ここで、主としてAl単体金属もしくはAl合金からなるAl金属層を徐々に成長させて所望の厚さのAl電極19を形成する場合では、Al金属層を厚くするにつれ、Al金属層を構成するAl結晶粒が成長する。このため、単に、連続してAl金属層を成長させることで、従来よりも厚いAl電極19を形成した場合では、Al結晶粒が粗大化してしまう。
【0065】
これに対して、本実施形態では、Al金属層を形成する途中で、異種材質層19bを形成することで、第1のAl金属層19a中のAl結晶の連続性を断ち切っている。すなわち、結晶粒51、52の成長を止めている。その後、改めて、第2のAl金属層19cを形成しているので、異種材質層19bの表面上でAl結晶粒を新たに形成させることができる。なお、単に、Al金属層の形成を止めて、再び、形成を開始するだけでは、結晶粒の成長を止めることはできない。
【0066】
このとき、第2のAl金属層19cは、Al電極19全体の厚さよりも薄く、例えば、2μmである。したがって、本実施形態によれば、単に、連続してAl金属層を成長させて、本実施形態と同じ厚さのAl電極を形成した場合と比較して、Al電極19の最表面に位置するAl結晶粒41、42を小さくできる。図4に、図2(d)に示す工程を行った後の第2のAl金属層19cの表面を示す。なお、図4が示す領域の広さは、図8に示す領域の広さと同程度である。
【0067】
このため、本実施形態では、図4に示すように、第2のAl金属層19cの表面を真上から見たときにおいて、第2のAl金属層19cの表面での結晶面方位が、(100)面、(321)面、または、(311)面等のNi層が形成され難い結晶面方位であるAl結晶粒41(図中の斜線領域)の1つの大きさが、図8に示される、単に、連続してAl金属層を成長させたときのAl結晶粒31と比較して小さくなっている。
【0068】
この結果、Al電極19を形成した後のNi層20を形成するときでは、Ni層が形成され難い結晶面方位であるAl結晶粒41上に、Ni層が直接形成されなくても、そのAl結晶粒42の周囲からのNi層の成長により、この領域41をNi層20で覆うことが可能となるため、均一の膜厚のNi層20を形成できる。
【0069】
要するに、本実施形態では、第2のAl金属層19cの厚さを、従来におけるAl電極の厚さと同じ大きさにしているので、第2のAl金属層19c中に存在するAl結晶粒を、従来の結晶粒と同程度の大きさにすることができる。すなわち、Al電極19の最表面に存在する結晶粒の大きさを、結晶面方位によるNi層の形成し難さの影響を無視できる大きさにできる。この結果、無電解めっき法により、Al電極19の表面に、均一な膜厚のNi層20を形成することができる。
【0070】
(他の実施形態)
(1)第1実施形態では、異種材質層19bとして、TiやW等の金属で構成された金属層を形成する場合を例として説明したが、この代わりに、Alを主成分とするAl酸化膜を形成することもできる。ただし、この場合、Al酸化膜の膜厚を、第1、第2Al金属層19a、19c間の導電性を確保できるように、きわめて薄くする。例えば、膜厚を20〜30nmとする。
【0071】
また、Al酸化膜の形成方法としては、例えば、第1のAl金属層19aの表面に対して、酸素プラズマ処理を施すことで、第1のAl金属層19aの表面を酸化させる方法や、第1のAl金属層19aの表面を自然酸化させる方法を採用できる。
【0072】
酸素プラズマ処理を施す場合では、第1のAl金属層19aをスパッタリングで形成した後、同じスパッタ装置内で、例えば、酸素と窒素の混合雰囲気下で、酸素と窒素の混合圧を0.9Paとして、第1のAl金属層19aの形成時の圧力を保ったまま、酸素プラズマ処理を施せば良い。
【0073】
また、自然酸化させる場合では、第1のAl金属層19aをスパッタリングで形成した後、スパッタ装置内に、大気を導入することで、第1のAl金属層19aの表面を大気暴露させればよい。
【0074】
なお、スパッタ装置内を、例えば150℃の高温にした状態で酸素を導入すること、並びに、低圧に保ったまま、酸素を導入することで、第1のAl金属層19aの表面を自然酸化させても良い。また、第1のAl金属層19aの表面を酸化させる方法の代わりに、第1のAl金属層19aの表面に、Al酸化膜を堆積させても良い。
【0075】
(2)第1実施形態では、第2のAl金属層19cを第1のAl金属層19aよりも薄く形成していたが、均一な膜厚のNi層20が形成できれば、両者を同じ厚さにしたり、反対に、第1のAl金属層19aを第2のAl金属層19cよりも薄く形成したりすることもできる。どちらの場合においても、単に、Al金属層を連続的に成長させてAl電極19を形成するときと比較して、Al電極の最表面に存在する結晶粒の粒径を小さくできるからである。
【0076】
ただし、Al電極19の最表面に位置するAl結晶粒41、42をより小さくするという観点では、第2のAl金属層19cを第1のAl金属層19aよりも薄く形成することが好ましい。
【0077】
(3)上記した各実施形態では、スパッタ法により、Al電極19を形成する場合を例として説明したが、スパッタ法の代わりに蒸着法によりAl電極19を形成することもできる。
【0078】
(4)上記した各実施形態では、Al電極19を2層に分けた場合を例として説明したが、2層に限らず、3層以上に分けても良い。
【0079】
(5)上記した各実施形態では、パワー半導体素子としてのIGBTが半導体チップ2に形成されている半導体装置において、本発明を適用する場合を例として説明したが、IGBTの代わりに、パワー半導体素子としてのダイオードが半導体チップ2に形成されている半導体装置においてにも本発明を適用できる。
【0080】
また、上記した各実施形態では、ヒートシンク3、4間に半導体チップ2を1個挟むように構成したが、これに限られるものではなく、2個以上のチップ(または2種類以上のチップ)を挟んだ構成とすることもできる。また、上記した各実施形態では、モールド樹脂7を備える半導体装置を例として説明したが、モールド樹脂7は省略されていても良い。
【0081】
すなわち、本発明は、半導体素子が形成された半導体基板の表面上に、半導体素子と電気的に接続されたAl金属層およびNi層が順に形成されている半導体チップと、半導体チップのNi層上に配置され、半田を介して、Ni層と接合された導体部材とを備え、Al金属層を厚くした場合に、Al金属層中のAl結晶粒が粗大化することで、Ni層の形成のしやすさに結晶異方性が生じる半導体装置全般において、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施形態における半導体装置の部分断面図である。
【図2】図1に示す半導体装置の製造工程を示す図である。
【図3】図2に続く半導体装置の製造工程を示す図である。
【図4】図1中の半導体装置におけるAl電極19の表面を真上から見たときの図である。
【図5】従来および本発明の各実施形態における半導体装置の断面図である。
【図6】従来における半導体装置の部分拡大断面図である。
【図7】課題を説明するための半導体装置の部分断面図である。
【図8】課題を説明するための半導体装置中のAl電極の平面図である。
【符号の説明】
【0083】
1…半導体装置、2…半導体チップ、3…下側ヒートシンク、
4…上側ヒートシンク、5…ヒートシンクブロック、6…半田、
7…封止用樹脂、9…リードフレーム、10…ボンディングワイヤ、
11…P型基板、12…N型層、13…P型層、14…N型層、
15…半導体基板、16…ゲート電極、17…層間絶縁膜、
18…コンタクトホール、19…Al電極、
19a…第1のAl金属層、19b…異種材質層、19c…第2のAl金属層、
20…Niメッキ層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子が形成された半導体基板(15)の表面(15a)上に、前記半導体素子と電気的に接続され、AlもしくはAl合金からなるAl金属層(19)およびNi層(20)が順に形成されている半導体チップ(2)と、
前記半導体チップ(2)の前記Ni層(20)上に配置され、半田(6b)を介して、前記Ni層(20)と接合された導体部材(5)とを備える半導体装置の製造方法であって、
前記半導体素子が形成された半導体基板(15)を用意し、前記半導体基板(15)の表面(15a)上に、前記半導体素子と電気的に接続された前記Al金属層(19)を形成する工程と、
前記Al金属層(19)上に前記Ni層(20)を無電解めっき法により形成する工程と、
前記半導体基板(15)をチップ化することで、半導体チップ(2)を形成する工程と、
前記半導体チップ(2)、前記半田(6b)および前記導体部材(5)を用意して、前記半田(6b)により、前記導体部材(5)と前記Ni層(20)とを接合する工程とを有する半導体装置の製造方法において、
前記Al金属層(19)を形成する工程は、前記半導体基板(15)の表面(15a)上に、AlもしくはAl合金からなる第1の層(19a)を形成する工程と、
前記第1の層(19a)の表面に、前記Al金属層(19)の導電性を確保しつつ、前記第1の層中のAl結晶の連続性を断ち切るように、前記第1の層とは材質が異なる異種材質層(19b)を形成する工程と、
前記異種材質層(19b)の表面に、前記第1の層(19a)と同一材料からなる第2の層(19c)を形成する工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記異種材質層(19b)を形成する工程では、主としてAlとは異なる金属で構成される金属層を形成することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記異種材質層(19b)を形成する工程では、前記第1の層(19a)と前記第2の層(19c)との間での導電性を確保できる厚さであって、Alを主成分とする酸化物からなるAl酸化物層を形成することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1の層(19a)を形成する工程では、スパッタリング法により、第1の層(19a)を形成し、
前記異種材質層(19b)を形成する工程では、第1の層(19a)の表面に対して、酸素プラズマ処理を施すことにより、前記Al酸化物層を形成し、
前記第2の層(19c)を形成する工程では、スパッタリング法により、前記第2の層(19c)を形成することを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1の層(19a)を形成する工程では、スパッタリング法により、第1の層(19a)を形成し、
前記異種材質層(19b)を形成する工程では、前記第1の層(19a)の表面を酸素に触れさせて、前記表面を自然酸化させることにより、前記Al酸化物層を形成し、
前記第2の層(19c)を形成する工程では、スパッタリング法により、前記第2の層(19c)を形成することを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第2の層(19c)を形成する工程では、前記第1の層(19a)を形成するときの温度よりも低温下で、前記第2の層(19c)を形成することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記第2の層(19c)を形成する工程では、前記第2の層(19c)を、前記第1の層(19a)よりも薄く形成することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
半導体素子が形成された半導体基板(15)の表面(15a)上に、前記半導体素子と電気的に接続され、AlもしくはAl合金からなるAl金属層(19)およびNi層(20)が順に形成されている半導体チップ(2)と、
前記半導体チップ(2)の前記Ni層(20)上に配置され、半田(6b)を介して、前記Ni層(20)と接合された導体部材(5)とを備える半導体装置において、
前記Al金属層(19)は、前記半導体基板表面に垂直な方向で、前記半導体基板表面に近い側の第1の層(19a)と前記半導体基板表面から遠い側第2の層(19c)に分かれ、前記第1の層(19a)と前記第2の層(19c)の間に、前記第1の層(19a)と前記第2の層(19c)の間での導電性を確保できており、AlもしくはAl合金とは材質が異なる異種材質層(19b)が配置されており、
前記第1の層(19a)中に存在するAl結晶粒(51、52)と、前記第2の層(19c)中に存在するAl結晶粒(41、42)は、不連続であることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
前記第2の層(19c)は、前記第1の層(19a)よりも薄くなっており、記第2の層(19c)中に存在するAl結晶粒(41、42)は、前記第1の層(19a)中に存在するAl結晶粒(51、52)よりも粒径が小さいことを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第1の層(19a)と前記第2の層(19c)の間における結晶界面は、前記半導体基板表面に略平行であることを特徴とする請求項8または9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記異種材質層(19b)は、Alとは異なる金属の単体もしくは合金で構成される金属層あることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項12】
前記異種材質層(19b)は、前記第1の層(19a)と前記第2の層(19c)との間での導電性を確保できる厚さであって、Alを主成分とする酸化物からなるAl酸化物層あることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1つに記載の半導体装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−28079(P2008−28079A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197967(P2006−197967)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】