説明

半導体装置の製造方法および差圧印刷装置

【課題】 基板に形成される孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する際、塗布材の未塗布部の発生を容易に防止することができる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】 大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部をキャップ状に塞ぐように塗布材を供給した後、チャンバ内の圧力を、たとえば参照符52で示すように段階的に高くすることによって、塗布材が破断しないように調整しながら高め、孔部の開口部をキャップ状に塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する。このようにして、吸引される塗布材を破断させることなく孔部に臨む基板の内壁に塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法および差圧印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、通信機器などの電子機器には、多数のトランジスタ、抵抗などの素子が半導体基板上に集積形成される半導体装置が搭載される。このような半導体装置の性能は、電子機器全体としての性能に大きく影響する。
【0003】
近年では、半導体装置は携帯電話機などの携帯情報機器に代表される電子機器にも搭載される。このような携帯情報機器などの電子機器は、小型化および軽量化が要求されており、電子機器に搭載される半導体装置についても、小型化および高密度化が図られている。半導体装置を小型化および高密度化するために、複数の半導体装置を積層したマルチチップ半導体装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。マルチチップ半導体装置は、平面面積が小さく、構造が単純で、かつ厚さが薄いので、さらに開発が進められている。
【0004】
図8は、マルチチップ半導体装置1の構成の一例を簡略化して示す断面図である。マルチチップ半導体装置1は、複数(図8においては3つ)のチップ2が積層されて構成される。各チップ2は、それぞれ、表面に不図示の素子が集積形成された半導体基板3と、半導体基板3上に集積形成された素子の表面に形成される層間絶縁膜4と、半導体基板3を貫通する貫通孔内に形成され、チップ2同士を電気的に接続する埋込み電極5とを含む。半導体基板3と埋込み電極5との間には、側壁絶縁膜6が形成され、半導体基板3と埋込み電極5とが絶縁されるようになっている。半導体基板3の層間絶縁膜4が設けられる側と反対側には、裏面絶縁膜7および不図示の裏面配線が形成される。このようなマルチチップ半導体装置1では、各チップ2に設けられる埋込み電極5と、埋込み電極5同士を接続するバンプ電極8とによって、チップ2同士が電気的に接続される。
【0005】
図9は、マルチチップ半導体装置1に含まれるチップ2の製造手順を示すフローチャートである。手順s1では、ウエーハ状の半導体基板3表面に素子を集積形成し、該集積形成された素子の表面に層間絶縁膜4を形成する。手順s2では、半導体基板3の素子が形成される側の面(以後、主面と呼ぶことがある)に、半導体基板3を貫通しない非貫通孔を形成する。手順s3では、半導体基板3の非貫通孔に臨む内壁に側壁絶縁膜6を形成する。手順s4では、側壁絶縁膜6が形成された非貫通孔内部に埋込み電極5を形成する。手順s5では、半導体基板3の主面と反対側の面(以後、裏面と呼ぶことがある)を機械研削などにより研磨して後退させ、埋込み電極5を半導体基板3の裏面において外方に露出させる。手順s6では、半導体基板3の裏面に裏面絶縁膜7および裏面配線を形成する。手順s7では、上記のようなウエーハ状の半導体基板3を切断し、チップ2を切り出す。
【0006】
手順s3において側壁絶縁膜6は、たとえば、CVD法(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着法)によりシリコン酸化膜またはシリコン窒化膜を半導体基板3の非貫通孔に臨む内壁に成膜することによって形成される。しかしながら、このようなCVD法による側壁絶縁膜6の形成は、成膜に時間がかかり、製造原価の増加につながる。したがって、低コストで容易に側壁絶縁膜6を形成する方法として、孔版印刷法を用いて絶縁材料を半導体基板3の非貫通孔に臨む内壁に塗布する方法が適用可能であると期待され、開発が進められている。
【0007】
また、手順s4において埋込み電極5は、たとえば、側壁絶縁膜6が形成された非貫通孔内に導電ペーストを充填し、めっき膜を形成することによって形成される。なお埋込み電極5についても、側壁絶縁膜6の形成と同様に、孔版印刷法を用いることによってより低コストで容易に形成することができると期待されている。
【0008】
このような孔版印刷法は、電子部品の樹脂封止などに好ましく用いられている。孔版印刷法によって電子部品の樹脂封止を行う好適な方法として、真空雰囲気中で孔版印刷を行う方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。特許文献2に開示される方法では、まずチャンバ内に基板を載置し、基板上に開口部を有する孔版を載せ、チャンバ内の圧力を1kPa以下の真空にする。なお孔版の開口部が基板上に搭載したベアチップなどの電子部品の部分と一致するように、孔版を配置する。この真空雰囲気中において孔版印刷法によって樹脂封止を行う。具体的には、孔版に樹脂を供給し、該供給された樹脂を、スキージの移動によって移動させ、孔版の開口部を通して電子部品上に供給する。その後、雰囲気を大気圧に戻して供給された樹脂を硬化させ、電子部品の樹脂封止を完了する。以上のような特許文献2に開示の方法では、真空雰囲気中で孔版印刷を行うことによって、スキージによる樹脂の移動中に、樹脂に空気が巻き込まれることを防止でき、気泡を含まず、かつ形崩れのない封止樹脂層を形成することができるとされている。このような樹脂封止方法は、基板上に搭載された電子部品の封止だけでなく、たとえば、非貫通孔への樹脂の充填などにも適用可能である。しかしながら、特許文献2に開示の方法には、次のような問題がある。
【0009】
図10は、特許文献2に記載の樹脂封止方法を用いて非貫通孔に樹脂を充填した状態を示す断面図である。真空雰囲気中で孔版印刷によって非貫通孔11に樹脂12を供給する際、スキージによる押圧力不足、樹脂表面に生じる残留空気の存在などによって図10に示すような未充填部13が発生することがある。樹脂12を非貫通孔11へ充填した後、雰囲気を真空状態から大気圧に戻すときに未充填部13と雰囲気とに圧力差が生じ、この圧力差によって樹脂12が未充填部13に押し込まれるので、このような未充填部13は最終的には樹脂で充填される。しかしながら孔版上に供給された樹脂12の量は、大気圧に戻す際に未充填部13に押し込まれる分の樹脂の量が考慮されていない。このような樹脂12が圧力差によって未充填部13に押し込まれると、押し込まれた分だけ樹脂12の量が不足するという問題が生じる。また、未充填部13の形状によっては、チャンバ内の圧力を大気圧に戻しても樹脂12が充填されないという問題が生じることがある。
【0010】
そこで、上記のような問題を解決する樹脂封止方法が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。特許文献3に開示の方法は、真空雰囲気中において樹脂を孔版印刷する際に、樹脂を孔版の厚みよりも過剰に印刷すること、大気圧に戻した後に、過剰に供給された樹脂を除去することが特許文献2に開示の方法と異なる。特許文献3に開示の方法によれば、樹脂量の不足の問題を解決できるとともに、過剰に供給された樹脂の自重によって、特許文献2に開示の方法では充填されなかった形状の未充填部13にも充分に樹脂を供給できるとされる。
【0011】
特許文献3に開示の真空雰囲気中で孔版印刷法を用いる方法は、非貫通孔に樹脂、導電材料などを充填して樹脂封止、埋込み電極の形成を行う際に非常に好適に用いられる。しかしながら、前述した側壁絶縁膜を形成する場合などのように、非貫通孔に完全に樹脂を充填するのではなく、基板に形成される非貫通孔に臨む基板の内壁のみに樹脂を塗布する場合にこのような方法を用いると、次のような問題が発生する。
【0012】
図11は、真空雰囲気中で孔版印刷法を用いて非貫通孔に樹脂を塗布する際の各工程における状態を示す断面図である。図11A(a)に示す工程では、不図示の孔版およびスキージによって、1kPa以下の圧力であるチャンバ内に載置された基板21に形成される非貫通孔22の開口部を塞ぐように、絶縁材料である樹脂23を供給する樹脂供給工程を行う。図11A(b)に示す工程では、チャンバ内の圧力を大気圧まで高め、チャンバ内の圧力と樹脂23によって封止された非貫通孔内部24の圧力との差を利用して、樹脂23を非貫通孔22の内部に吸引する。
【0013】
図12は、従来技術による側壁絶縁膜の形成時におけるチャンバ内の圧力変化を示す図である。従来の方法では、図11A(b)に示す工程において、図12のようにチャンバ内の圧力が急激に大気圧まで戻される。このようにチャンバ内の圧力が急激に大気圧まで戻されると、基板に形成される非貫通孔に臨む基板の内壁に塗布する程度に供給される量の樹脂23では、非貫通孔22の開口部を塞ぐ樹脂23の層が薄くなり、特に圧力を変化させはじめた初期の段階において急激に変化するチャンバ内と非貫通孔内部24との圧力差によって破断してしまう。
【0014】
図11B(c)は非貫通孔22の開口部を塞いでいた樹脂23が破断する瞬間の状態を示す図であり、図11B(d)は破断した樹脂23の非貫通孔22への塗布状態を示す図である。このように、非貫通孔22の開口部を塞いでいた樹脂23が破断すると、非貫通孔22の底部にまで樹脂23を塗布することができないという問題が発生する。したがって低コストかつ容易として期待される孔版印刷法を側壁絶縁膜の形成に用いるためには、このような樹脂の未塗布部の発生を防止することが不可欠である。
【0015】
【特許文献1】特開平10−223833号公報(第5−6頁、第1図)
【特許文献2】特公平6−66350号公報
【特許文献3】特許3292923号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、基板に形成される孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する際、塗布材の未塗布部の発生を容易に防止することができる半導体装置の製造方法および差圧印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、基板に形成される孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する工程を含む半導体装置の製造方法において、
大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部をキャップ状に塞ぐように塗布材を供給する塗布材供給工程と、
チャンバ内の圧力を塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力よりも高くし、孔部の開口部をキャップ状に塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する塗布工程とからなる差圧印刷工程を含み、
前記塗布工程では、
孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないように、チャンバ内の圧力が調整されることを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0018】
また本発明は、前記塗布工程では、
チャンバ内の圧力が、段階的に高められることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記塗布工程におけるチャンバ内の圧力変化量は、
チャンバ内の圧力が前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力から前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍になるまでの方が、前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍から大気圧になるまでよりも小さいことを特徴とする。
【0020】
また本発明は、前記塗布工程では、
チャンバ内の圧力が前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力から前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍になるまでの時間が3秒以上であることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、前記塗布材供給工程では、
孔版印刷によって、塗布材を供給することを特徴とする。
【0022】
また本発明は、大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部を塞ぐように塗布材を供給し、チャンバ内の圧力を高めることによって孔部の開口部を塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する差圧印刷装置において、
開口量を変化させることによってチャンバ内の圧力を変化させる圧力調整バルブと、
チャンバ内の圧力を検出する圧力検出手段と、
圧力検出手段によって検出される圧力に応じて圧力調整バルブの開口量を調整して圧力変化量を制御する制御手段とを含むことを特徴とする差圧印刷装置である。
【0023】
また本発明は、大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部を塞ぐように塗布材を供給し、チャンバ内の圧力を高めることによって孔部の開口部を塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する差圧印刷装置において、
開口量を変化させることによってチャンバ内の圧力を変化させる圧力調整バルブと、
時間を計測する計時手段と、
計時手段により計測される圧力調整バルブの開放開始からの経過時間に応じて圧力調整バルブの開口量を調整して圧力変化量を制御する制御手段とを含むことを特徴とする差圧印刷装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、塗布材供給工程において、大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部をキャップ状に塞ぐように塗布材を供給した後、塗布工程において、チャンバ内の圧力を、塗布材が破断しないように調整しながら塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力よりも高くし、孔部の開口部をキャップ状に塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する。このようにチャンバ内の圧力を変化させて塗布材を塗布する塗布工程では、孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないように、チャンバ内の圧力が調整されるので、孔部の内部に吸引される塗布材が破断しない。したがって、塗布材が孔部に臨む基板の内壁全面に塗布され、塗布材の未塗布部の発生を容易に防止することができる。
【0025】
また本発明によれば、塗布工程では、チャンバ内の圧力が段階的に高められる。このように段階的に少しずつチャンバ内の圧力を高めることによって、孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないようなチャンバ内の圧力調整を実現することができる。
【0026】
また本発明によれば、塗布工程におけるチャンバ内の圧力変化量は、チャンバ内の圧力が前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力から前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍になるまでの方が、前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍から大気圧になるまでよりも小さい。このようにしてチャンバ内の圧力を調整すると、チャンバ内の圧力が塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力から塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍になるまでの間は、チャンバ内の圧力と塗布材によって塞がれた孔部内部の圧力との差を比較的緩やかに変化させることができ、塗布材を破断させず孔部に臨む基板の内壁全面に塗布することができる。その後、チャンバ内の圧力が塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍から大気圧になるまでの間は、比較的大きくチャンバ内の圧力を変化させるので、塗布材と孔部に臨む基板の内壁との間に空隙が生じても、チャンバ内の圧力変化によって該空隙にも充分に塗布材を供給することができる。
【0027】
また本発明によれば、塗布工程では、チャンバ内の圧力が塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力から前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍になるまでの時間を3秒以上とする。このようにゆっくりとチャンバ内の圧力を高めることによって、孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないようなチャンバ内の圧力調整を実現することができる。
【0028】
また本発明によれば、塗布材供給工程では、孔版印刷によって、塗布材が供給される。孔版印刷法による塗布材の供給は、容易に行えるとともに経済的である。また、塗布材の供給量を制御しやすいので、塗布材が孔部に臨む基板の内壁に塗布されて形成される塗布材層の厚みの精度を向上させることができる。
【0029】
また本発明によれば、大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部を塞ぐように塗布材を供給し、チャンバ内の圧力を高めることによって孔部の開口部を塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する差圧印刷装置は、圧力検出手段によって検出されるチャンバ内の圧力に応じて圧力調整バルブの開口量が調整され、チャンバ内の圧力変化量が制御される。このようにチャンバ内の圧力に応じて圧力変化量が制御できる差圧印刷装置を用いることによって、孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないように、チャンバ内の圧力調整を行うことができる。したがって孔部の内部に吸引される塗布材が破断せず、塗布材が孔部に臨む基板の内壁全面に塗布されるので、塗布材の未塗布部の発生を容易に防止することができる。
【0030】
また本発明によれば、大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部を塞ぐように塗布材を供給し、チャンバ内の圧力を高めることによって孔部の開口部を塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する差圧印刷装置は、計時手段により計測されるバルブの開放開始からの経過時間に応じて圧力調整バルブの開口量が調整され、チャンバ内の圧力変化量が制御される。このように経過時間に応じて圧力変化量が制御できる差圧印刷装置を用いることによって、孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないようにチャンバ内の圧力調整を行うことができる。したがって孔部の内部に吸引される塗布材が破断せず、塗布材が孔部に臨む基板の内壁全面に塗布されるので、塗布材の未塗布部の発生を容易に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、基板に形成される孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する工程を含む半導体装置の製造方法において、大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部をキャップ状に塞ぐように塗布材を供給する塗布材供給工程と、チャンバ内の圧力を塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力よりも高くし、孔部の開口部をキャップ状に塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する塗布工程とからなる差圧印刷工程を含み、前記塗布工程では、孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないように、チャンバ内の圧力が調整されることを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0032】
本発明の半導体装置の製造方法は、たとえば、孔部である非貫通孔が形成された半導体基板の非貫通孔に臨む内壁に、側壁絶縁膜を形成する場合に用いられる。
【0033】
図1は、本発明の半導体装置の製造方法に含まれる塗布材供給工程の概要を説明する図である。塗布材供給工程では、まず不図示のチャンバ内に設けられる印刷用ステージ上に半導体基板31が固定載置される。
【0034】
半導体基板31は、たとえば単結晶ケイ素であり、特にその面方位は限定されるものではない。半導体基板31の厚さとしては、たとえば、700μmのものが用いられる。この半導体基板31の一方の面には、不図示の半導体素子が集積され、半導体回路が形成される。以後、この不図示の半導体素子が集積される側の面を主面と呼ぶことがある。半導体基板31の主面には、パシベーション膜34が形成され、その表面には表面電極35が形成される。
【0035】
パシベーション膜34は、たとえば二酸化ケイ素で構成され、半導体基板31および半導体基板31に形成される半導体回路と、表面電極35とを絶縁するために設けられる。表面電極35は、たとえば、銅−アルミニウム合金膜、チタン膜、窒化チタン膜などで構成され、半導体回路と外部装置との接続端子として設けられる。
【0036】
上記のように不図示の半導体素子、パシベーション膜34および表面電極35が主面に形成された半導体基板31には、半導体基板31の主面に開口部を有する非貫通孔32が形成される。非貫通孔32は、たとえば反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion
Etching)法によって、半導体基板31の主面と反対側の面(以後、裏面と呼ぶことがある)を貫通しないように形成される。以下、非貫通孔32の形成方法について説明する。
【0037】
パシベーション膜34および表面電極35が形成された半導体基板31に、フォトレジスト液を塗布して露光現像を行い、ハードベークを行うことによって、非貫通孔32の形成位置に対応する位置にレジスト開口部を有するレジストパターン36を得る。レジストパターン36を形成するためのフォトレジスト液には、一般的なポジ型レジストを用いることができる。ポジ型レジストとしては、たとえば、ノボラック・ジアゾナフトキノン系のものが挙げられる。フォトレジスト液は、半導体基板31にスピンコート法などを用いて塗布される。スピンコート法などで塗布されて形成されるレジストパターン36は、たとえば8μm程度の厚みを有する。レジスト開口部は、たとえば直径75μmの円形に形成される。
【0038】
レジストパターン36のレジスト開口部に臨む周縁部分は、テーパを有するように、または曲率を有するように形成される。このような形状は、露光し現像した後のレジストに対して、追加の熱処理を行う、いわゆるレジストリフロー処理を行うことによって実現される。または、露光時に直進光ではなく若干の拡散光を用いることによって、フォトレジスト液のレジストパターン36の厚み方向の露光量が異なるようになり、現像後においてテーパ形状を形成することができる。
【0039】
このようなレジストパターン36を形成後、表面電極35のエッチングを行う。レジストパターン36のレジスト開口部を介して露出する部分の表面電極35が、ウエットエッチングによって除去される。ウエットエッチングでは、たとえば、銅−アルミニウム合金膜の除去には、一般的なリン酸、酢酸、硝酸の混合水溶液を用いることができる。チタン膜および窒化チタン膜の除去には、一般的な過酸化水素とフッ酸との混合液を用いることができる。なお窒化チタン膜の除去については、水酸化ナトリウム、過酸化水素および有機化合物の混合水溶液を用いてもよい。また、表面電極35のエッチングは、上記のウエットエッチングに限定されることなく、ドライエッチングの手法を用いることも可能である。
【0040】
レジスト開口部を介して露出する部分の表面電極35を除去すると、次いでレジスト開口部を介して露出する部分のパシベーション膜34の除去を行う。パシベーション膜34の除去は、ドライエッチングまたはウエットエッチングなど公知の手法で実現することができ、たとえばフッ酸緩衝溶液を用いたウエットエッチングなどが好適に用いられる。パシベーション膜34の除去によって、レジスト開口部を通して半導体基板31が露出される。
【0041】
次に半導体基板31に非貫通孔32の形成が行われる。半導体基板31に対する非貫通孔32の形成は、反応性イオンエッチング法などのドライエッチング法で行うことができる。反応性イオンエッチングに用いるエッチングガスとしては、フッ化物を含むガスを用いることが好ましい。フッ化物を含むガスとしては、たとえば六フッ化硫黄と酸素との混合ガスが好適に用いられる。また六フッ化硫黄と酸素との混合ガスにアルゴンを混合したものを用いてもよい。
【0042】
半導体基板31に形成される非貫通孔32の半導体基板31主面からの深さを例示すると、たとえば150μmである。非貫通孔32の形成時、レジストパターン36は、プラズマによるダメージによって膜厚が減少するとともに、曲率を有する形状またはテーパ形状の一部が失われてレジスト開口部に臨む周縁部が後退し、レジスト開口部の直径が拡大して、たとえば90μmの円形となる。
【0043】
表面電極35は、たとえば、銅−アルミニウム合金膜であるので、六フッ化硫黄を含んだガスを用いたドライエッチングによって侵されることがない。したがって表面電極35の開口部は、直径75μmの円形となる。
【0044】
このようにして非貫通孔32が形成され、非貫通孔32に印刷マスク33を用いる孔版印刷法によって塗布材である樹脂37を供給する塗布材供給工程が行われる。塗布材供給工程ではまず、チャンバ内に固定載置される半導体基板31に形成される非貫通孔32の中心が、孔版である印刷マスク33の開口部の中心と略一致するように、印刷マスク33と印刷用ステージとの位置を調整する。
【0045】
印刷マスク33は、たとえば厚さ60μmのステンレス鋼製であり、テープとスクリーンとを介して、ステンレス鋼の版枠に取り付けられた構造であるので、弾性変形が可能である。印刷マスク33は、上記のようなステンレス鋼からなるメタルマスクに限定されることなく、スクリーンマスクであってもよい。
【0046】
印刷マスク33は、半導体基板31上のレジストパターン36と接触せず、10〜200μmの間隔が得られるように印刷用ステージの高さを調整して配置される。樹脂37の供給はチャンバ内で行われ、このときのチャンバ内の圧力は、大気圧(101.3kPa)よりも低い0.5kPa以上2kPa以下とすることが好ましい。この理由については、後ほど詳述する。
【0047】
印刷には、ペースト状の樹脂37が用いられる。樹脂37としては、側壁絶縁膜の形成においては、絶縁材料であるアミン系樹脂、酸無水系樹脂などを用いることができる。
【0048】
このような塗布材である樹脂37は、スキージ38によって印刷マスク33の開口部に移動される。スキージ38は、たとえばウレタンゴムからなり、印刷マスク33に臨む先端部と印刷マスク33とが成す角度である傾斜角度θ1が45°になるように設けられる。なおスキージ38は、ウレタンゴム製のものに限定されることなく、他の材料からなるものであってもよい。またスキージ38の印刷マスク33を臨む側の先端部の傾斜角度θ1は、45°に限定されることなく、塗布材である樹脂37の種類などに応じて適宜変更できる。
【0049】
以下、図1を用いて塗布材である樹脂37を非貫通孔32に供給する塗布材供給工程について説明する。
【0050】
樹脂37は、図1A(a)に示すように印刷マスク33上に供給される。印刷マスク33上に樹脂37が供給されると、図1A(b)に示すように、印刷マスク33は、スキージ38による押圧力によって半導体基板31に向かって下降して半導体基板31上のレジストパターン36に接触する。さらにスキージ38によって樹脂37を印刷マスク33の開口部に向かって移動させると、図1A(c)に示すように、非貫通孔32の開口部とその周囲に樹脂37が印刷される。
【0051】
スキージ38が非貫通孔32の開口部を通過すると、弾性変形可能な印刷マスク33は、図1B(d)に示すように上昇して半導体基板31から離反する。樹脂37の印刷が終了すると、印刷用ステージを下降させる。このとき樹脂37は、図1B(e)に示すように、表面張力の作用によって非貫通孔32の開口部に残留し、非貫通孔32の開口部をキャップ状に閉塞する。ここで、キャップ状に塞がれた非貫通孔32の内部空間39は、塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力と等しく、大気圧よりも低い圧力となる。
【0052】
なお塗布材供給工程は、非貫通孔32の開口部を塞ぐように塗布材が供給されればよいので、孔版印刷法を用いる方法だけに限定されることなく、たとえば、インクジェット法などによる塗布材の滴下などの方法によって行われてもよい。ただし、塗布材供給工程において孔版印刷法が用いられると、開口部が100μm以下の直径である微細な非貫通孔32への樹脂37の供給が、容易かつ経済的に行える。また、樹脂37の供給量を制御しやすいので、形成する側壁絶縁膜の膜厚の精度を高くすることができる。したがって、塗布材供給工程では孔版印刷法を用いることが好ましい。
【0053】
次に、前述の塗布材供給工程時におけるチャンバ内の圧力範囲の限定理由について説明する。図2は、塗布材供給工程時におけるチャンバ内の圧力が0.5kPa未満であるときの樹脂の状態を概略的に示す断面図である。
【0054】
チャンバ内の圧力を0.5kPa未満にして、非貫通孔32の開口部を塞ぐように樹脂37を供給すると、ペースト状の樹脂37のレジストパターン36に対する接触角θ2が小さくなり、半導体基板31上のレジストパターン36上に樹脂37が濡れ広がる恐れがある。樹脂37がこのように供給されると、開口部を塞ぐ樹脂37の量が、レジストパターン36上に濡れ広がった分だけ減少してしまう。また、半導体基板31上のレジストパターン36上に樹脂37の残渣が生じる。
【0055】
一方、圧力が2.0kPaを超えるチャンバ内で樹脂37を印刷すると、スキージ38による押圧力不足、樹脂37の非貫通孔32に臨む側の表面に生じる残留空気の存在などによって、最終的に樹脂37を半導体基板31の非貫通孔32に臨む内壁に塗布したときに、該内壁と樹脂37との間に空隙を発生してしまう恐れがある。このことから、塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力は、0.5kPa以上2.0kPa以下が望ましい。
【0056】
塗布材供給工程の後、チャンバ内の圧力を塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力よりも高くし、非貫通孔32の開口部をキャップ状に塞ぐ塗布材である樹脂37を非貫通孔32の内部に吸引して、非貫通孔32に臨む半導体基板31の内壁(以後、非貫通孔32の内壁と呼ぶことがある)に樹脂37を塗布する差圧印刷工程が行われる。なお、非貫通孔32の内壁へ樹脂37を塗布する差圧印刷工程は、1つの非貫通孔32のみに供給された樹脂37を、該1つの非貫通孔32の内壁へ塗布するために行われるものであってもよく、複数の非貫通孔32にそれぞれ供給された樹脂37を、複数の非貫通孔32の内壁にまとめて塗布するために行われるものであってもよい。
【0057】
図3は、塗布工程の概要を説明する図である。図3A(a)に示す工程では、チャンバ内の圧力を大気圧に徐々に戻し、樹脂37によって閉塞された非貫通孔32の内部空間39の圧力が、チャンバ内の圧力よりも小さくなることで生じるチャンバ内と内部空間39との圧力差を利用して、図3A(b)および図3B(c)に示すように樹脂37を非貫通孔32の底部に向かって吸引する。このように樹脂37が非貫通孔32の内部へ吸引されることによって、図3B(d)のように、非貫通孔32の内壁全体に樹脂37が塗布される。
【0058】
以上のような塗布工程においては、樹脂37が非貫通孔32の内部空間39へ吸引される際、チャンバ内と非貫通孔32の内部空間39との圧力差の変化によって樹脂37が変形し、その圧力差の変化が大きいと、樹脂37の変形量も大きくなる。したがって、急激な圧力差の変化が生じると、樹脂37の変形が追いつかず、樹脂37が破断してしまう。このような樹脂37の破断を防止するために、特に樹脂37が非貫通孔32の底部に吸引される速度が大きい塗布工程の初期段階において、非貫通孔32の内部空間39に吸引される樹脂37が破断しないように、チャンバ内の圧力が調整されることが必要である。このような調整は、たとえば、チャンバ内の圧力を段階的に変化させて高めることによって実現可能である。
【0059】
図4は、チャンバ内の圧力が段階的に高められる場合のチャンバ内の圧力変化を示す図である。横軸はチャンバ内に半導体基板31を載置してからの経過時間を示し、横軸はチャンバ内の圧力を示す。
【0060】
チャンバ内に半導体基板31を載置した後、チャンバ内の圧力は、大気圧から、0.5kPa以上2.0kPa以下の大気圧よりも低い圧力、たとえば2.0kPaまで低くされる。このような大気圧よりも低い圧力のチャンバ内において、前述の塗布材供給工程が行われる。塗布材供給工程を終えると、チャンバ内の圧力を塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力よりも高くする塗布工程が行われる。この塗布工程において、圧力変化量の調整を行わずにチャンバ内の圧力を高めたときの圧力変化を図4に破線51で示す。また塗布工程において、たとえば圧力調整バルブの開閉を複数回繰返すことによって、チャンバ内の圧力を段階的に高めたときの圧力変化を実線52で示す。
【0061】
チャンバ内の圧力を調整する圧力調整バルブは、通常チャンバ内の圧力変化量を調整する手段を有していないけれども、このように圧力調整バルブの開閉を短時間に複数回繰返すことによって、段階的にチャンバ内の圧力を高めることができる。実線52で示すように段階的に圧力を高めることができると、塗布工程の初期段階における圧力変化量が小さくなり、非貫通孔32の内部に吸引される樹脂37の変形がゆっくりと行われる。また、段階的に圧力を高めることによって樹脂37が変形しやすくなり、より効果的に樹脂37の破断を防止することができる。
【0062】
なお、非貫通孔32の内部空間39に吸引される樹脂37が破断しないように、チャンバ内の圧力を調整する方法は、上記のようにチャンバ内の圧力を段階的に高める方法に加え、以下のような調整が行われることが好ましい。
【0063】
チャンバ内の圧力を調整する方法の例としては、たとえば、チャンバ内の圧力が、塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力(以後、圧力P1と呼ぶことがある)から塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍(以後、圧力P2と呼ぶことがある)になるまでのチャンバ内の圧力変化量を、チャンバ内の圧力が塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍(圧力P2)から大気圧(以後、圧力Pnと呼ぶことがある)になるまでのチャンバ内の圧力変化量よりも小さくする方法がある。このような方法を用いると、チャンバ内の圧力が、圧力P1から圧力P1の5倍の圧力である圧力P2になるまでの間は、チャンバ内の圧力と樹脂37によって塞がれた非貫通孔32の内部空間39の圧力との差を比較的緩やかに変化させることができ、樹脂37を破断させずに非貫通孔32に臨む半導体基板31の内壁全面に塗布することができる。
【0064】
さらにチャンバ内の圧力が圧力P2からPnになるまでの間は、比較的大きくチャンバ内の圧力を変化させるので、チャンバ内の圧力と樹脂37によって塞がれた非貫通孔32の内部空間39の圧力との差を比較的大きく変化させることができる。したがって、樹脂37と非貫通孔32の内壁との間に、スキージ38による押圧力不足、樹脂37表面に生じる残留空気の存在などによって空隙が生じても、該空隙に樹脂37を充分に塗布することができる。
【0065】
ここで、チャンバ内の圧力が、圧力P1から圧力P1の5倍である圧力P2になるまでの時間を2秒、2.5秒、3秒とした場合の、樹脂37が破断する割合を調べた結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果から、チャンバ内の圧力が、圧力P1から圧力P1の5倍である圧力P2になるまでの時間を3秒以上とすると、樹脂37の破断が発生しないことが確認された。したがって、チャンバ内の圧力が圧力P1から圧力P2になるまでの時間は、3秒以上であることが好ましい。
【0068】
図5は、チャンバ内の圧力が調整されつつ高められる場合のチャンバ内の圧力変化を示す図である。図5に示すようなチャンバ内の圧力を調整する方法では、塗布工程において、チャンバ内の圧力が圧力P1から圧力P1の5倍である圧力P2になるまでの時間を3秒とした。このようにゆっくりとチャンバ内の圧力を高めることによって、非貫通孔32の内部空間39に吸引される樹脂37が破断しないようなチャンバ内の圧力調整を実現することができる。
【0069】
以下、非貫通孔32の内部空間39に吸引される樹脂37が破断しないように、チャンバ内の圧力を調整する差圧印刷工程を行う場合に好適に用いられる差圧印刷装置の例を示す。
【0070】
図6は、本発明の半導体装置の製造方法に含まれる差圧印刷工程に好適に用いられる差圧印刷装置61を概略的に示す系統図である。差圧印刷装置61は、開口量を変化させることによってチャンバ62内の圧力を変化させる圧力調整バルブ63と、チャンバ62内の圧力を検出する圧力検出手段64と、圧力検出手段64によって検出される圧力に応じて圧力調整バルブ63の開口量を調整して圧力変化量を制御する制御手段65とを含むことを特徴とする。また差圧印刷装置61には、導管67を介してチャンバ62に接続され、チャンバ62を大気圧よりも低い圧力とする真空発生装置66が備えられる。
【0071】
差圧印刷装置61に備えられる制御手段65は、たとえば、チャンバ62内の圧力が、圧力P1から圧力P1の5倍である圧力P2になるまでは圧力調整バルブ63の開口量を小さくして圧力変化量を小さくするように制御する。チャンバ62内の圧力が圧力P2に達すると、圧力調整バルブ63の開口量を大きくしてチャンバ62内の圧力変化量を大きくするように制御し、チャンバ62内の圧力を大気圧である圧力Pnに戻す。
【0072】
このようにチャンバ62内の圧力に応じて圧力変化量が制御できる制御手段65を備える差圧印刷装置61を用いると、孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないようなチャンバ62内の圧力調整を、圧力調整バルブ63の開閉で調整する場合に比べて容易に行うことができる。したがって非貫通孔32の内部に吸引される樹脂37が破断せず、非貫通孔32の内壁全面に樹脂37が塗布されるので、樹脂37の未塗布部の発生を容易に防止することができる。
【0073】
図7は、本発明の半導体装置の製造方法に含まれる差圧印刷工程に好適に用いられるもう1つの例である差圧印刷装置71を概略的に示す系統図である。差圧印刷装置71は、前述の図6に示す差圧印刷装置61に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0074】
差圧印刷装置71は、圧力調整バルブ63の開放開始からの時間を計測する計時手段72と、計時手段72により計測される圧力調整バルブ63の開放開始からの経過時間に応じて圧力調整バルブ63の開口量を調整して圧力変化量を制御する制御手段73とを含むことを特徴とする。
【0075】
差圧印刷装置71に備えられる制御手段73は、たとえば、3秒以上の時間であるt秒が圧力調整バルブ63の開放開始から経過したときにチャンバ62内の圧力が圧力P2となるように、圧力調整バルブ63の開口量を調整して圧力変化量を制御する。t秒経過後は、圧力調整バルブ63の開口量を大きくしてチャンバ62内の圧力変化量を大きくするように制御し、チャンバ62内の圧力を大気圧である圧力Pnまで戻す。
【0076】
このように経過時間に応じて圧力変化量が制御できる制御手段73を備える差圧印刷装置71を用いることによっても、孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないようなチャンバ62内の圧力調整を実現することができる。
【0077】
上記のようにして塗布材供給工程と塗布工程とからなる差圧印刷工程が行われると、塗布された樹脂37を硬化する塗布材硬化工程が行われる。塗布材硬化工程においては、非貫通孔32の内壁に樹脂37が塗布された半導体基板31を、たとえば160℃に加熱したオーブンに投入し、1時間加熱して樹脂37を硬化する。以上のようにして、半導体基板31に側壁絶縁膜が形成される。塗布材硬化工程の後、必要に応じて、他の非貫通孔に側壁絶縁膜を形成するために、再度塗布材供給工程、塗布工程および塗布材硬化工程の一連の工程を行う。これによって、半導体基板31に形成される複数の非貫通孔32の内壁に側壁絶縁膜が形成される。
【0078】
以上のようにして側壁絶縁膜が形成された非貫通孔32には、図示しないけれども、埋込み電極が形成される。埋込み電極の形成は公知の方法で行うことができる。たとえば、側壁絶縁膜が形成された非貫通孔32の内部へ導電材料を孔版印刷などによって充填し、160℃程度の温度で加熱硬化を行うことによって埋込み電極を形成する。導電材料としては、たとえば数μmから数十μm程度の粒径を有する銀粒子を含有する銀ペーストが用いられる。
【0079】
埋込み電極を形成した後、レジストパターン36を剥離し、埋込み電極とバンプ電極とを接続するためのキャップ金属層を形成し、さらにパターニングを実施する。これらは、公知の方法によって実現することができる。このような方法としては、たとえば、市販のレジスト剥離液を用いてレジストパターン36の剥離を行った後、スパッタ法を用いて、アルミニウムなどの金属層を付着させ、さらにレジストを形成してウエットエッチング法で必要箇所以外の金属層を除去し、次いでレジストを除去することによって、キャップ金属層を形成する方法が用いられる。
【0080】
このキャップ金属層まで形成された半導体基板31は、埋込み電極が外方に露出するまで裏面を後退させる貫通配線形成工程に供される。この貫通配線形成工程は、公知の方法を用いて実行することができる。貫通配線形成工程では、たとえば、非貫通孔32の深さが150μm程度である場合には、裏面研削によって半導体基板31の厚さを100μm程度にする。貫通配線形成工程を行った後、裏面絶縁膜形成、裏面配線形成、裏面バンプ電極形成などの裏面工程が行われ、半導体装置を得ることができる。さらにこのようにして得た半導体基板31を切断して、チップ状の半導体装置を得る。
【0081】
このようにして得られたチップを積層接続して、前述の図8に示すものと同様のマルチチップ半導体装置を得る。このマルチチップ半導体装置は、100μm程度にまで薄くした半導体基板を有する半導体装置が複数個積層されたものであるので、電子機器の小型化に大きく寄与できる。
【0082】
本発明の半導体装置の製造方法を用いると、半導体基板31に形成される非貫通孔32の内壁全体に絶縁膜を形成することができるので、埋込み電極と半導体基板31との短絡が生じることを防止でき、電子機器の性能を向上させることができる。
【0083】
本発明の半導体装置の製造方法は、非貫通孔32に供給される塗布材である絶縁材料の樹脂37の代わりに、たとえば、導電材料である金属ペーストなどを用い、導電膜の形成などに用いることもできる。
【0084】
また本発明の半導体装置の製造方法は、非貫通孔への側壁絶縁膜の形成に用いられることに限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。本発明の半導体装置の製造方法は、たとえば、半導体基板上に搭載される電子部品の樹脂封止、半導体基板に形成されるスルーホール、多層基板のバイアホールなどに、導電性樹脂、導電体などを充填する場合などにも適用することができる。ただし、スルーホールなどの貫通孔に塗布材を塗布する場合、チャンバ内と貫通孔内部との圧力差を形成するために、供給された塗布材によって塞がれる一方の開口部と反対側の開口部を封止する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1A】本発明の半導体装置の製造方法に含まれる塗布材供給工程の概要を説明する図である。
【図1B】本発明の半導体装置の製造方法に含まれる塗布材供給工程の概要を説明する図である。
【図2】塗布材供給工程時におけるチャンバ内の圧力が0.5kPa未満であるときの樹脂の状態を概略的に示す断面図である。
【図3A】塗布工程の概要を説明する図である。
【図3B】塗布工程の概要を説明する図である。
【図4】チャンバ内の圧力が段階的に高められる場合のチャンバ内の圧力変化を示す図である。
【図5】チャンバ内の圧力が調整されつつ高められる場合のチャンバ内の圧力変化を示す図である。
【図6】本発明の半導体装置の製造方法に含まれる差圧印刷工程に好適に用いられる差圧印刷装置61を概略的に示す系統図である。
【図7】本発明の半導体装置の製造方法に含まれる差圧印刷工程に好適に用いられるもう1つの例である差圧印刷装置71を概略的に示す系統図である。
【図8】マルチチップ半導体装置1の構成の一例を簡略化して示す断面図である。
【図9】マルチチップ半導体装置1に含まれるチップ2の製造手順を示すフローチャートである。
【図10】特許文献2に記載の樹脂封止方法を用いて非貫通孔に樹脂を充填した状態を示す断面図である。
【図11A】真空雰囲気中で孔版印刷法を用いて非貫通孔に樹脂を塗布する際の各工程における状態を示す断面図である。
【図11B】真空雰囲気中で孔版印刷法を用いて非貫通孔に樹脂を塗布する際の各工程における状態を示す断面図である。
【図12】従来技術による側壁絶縁膜の形成時におけるチャンバ内の圧力変化を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
31 半導体基板
32 非貫通孔
33 印刷マスク
34 パシベーション膜
35 表面電極
36 レジストパターン
37 樹脂
38 スキージ
39 内部空間
51 圧力変化量の調整を行わずに圧力を高めたときのチャンバ内の圧力変化
52 圧力を段階的に高めたときのチャンバ内の圧力変化
61,71 差圧印刷装置
62 チャンバ
63 圧力調整バルブ
64 圧力検出手段
65,73 制御手段
66 真空発生装置
67 導管
72 計時手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成される孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する工程を含む半導体装置の製造方法において、
大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部をキャップ状に塞ぐように塗布材を供給する塗布材供給工程と、
チャンバ内の圧力を塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力よりも高くし、孔部の開口部をキャップ状に塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する塗布工程とからなる差圧印刷工程を含み、
前記塗布工程では、
孔部の内部に吸引される塗布材が破断しないように、チャンバ内の圧力が調整されることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程では、
チャンバ内の圧力が、段階的に高められることを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程におけるチャンバ内の圧力変化量は、
チャンバ内の圧力が前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力から前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍になるまでの方が、前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍から大気圧になるまでよりも小さいことを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程では、
チャンバ内の圧力が前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力から前記塗布材供給工程におけるチャンバ内の圧力の5倍になるまでの時間が3秒以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記塗布材供給工程では、
孔版印刷によって、塗布材を供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部を塞ぐように塗布材を供給し、チャンバ内の圧力を高めることによって孔部の開口部を塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する差圧印刷装置において、
開口量を変化させることによってチャンバ内の圧力を変化させる圧力調整バルブと、
チャンバ内の圧力を検出する圧力検出手段と、
圧力検出手段によって検出される圧力に応じて圧力調整バルブの開口量を調整して圧力変化量を制御する制御手段とを含むことを特徴とする差圧印刷装置。
【請求項7】
大気圧よりも低い圧力を有するチャンバ内に載置される基板の孔部の開口部を塞ぐように塗布材を供給し、チャンバ内の圧力を高めることによって孔部の開口部を塞ぐ塗布材を孔部の内部に吸引して孔部に臨む基板の内壁に塗布材を塗布する差圧印刷装置において、
開口量を変化させることによってチャンバ内の圧力を変化させる圧力調整バルブと、
時間を計測する計時手段と、
計時手段により計測される圧力調整バルブの開放開始からの経過時間に応じて圧力調整バルブの開口量を調整して圧力変化量を制御する制御手段とを含むことを特徴とする差圧印刷装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−156566(P2006−156566A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342522(P2004−342522)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】