説明

半導体装置

【課題】ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内での動作が均一化され、信号増幅用として用いた場合に、その利得の低下および電力効率の低下を防止し、トランジスタ素子としての特性劣化および破壊をなくすことができる半導体装置を提供する。
【解決手段】単一のヘテロバイポーラトランジスタに複数存在するベース1、2を配線5により短絡して実効Vbeを共通化することにより、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内に発生する熱的な粗密によるコラプス現象を完全に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上に電力増幅器及び電力増幅器用バイアス回路などの信号増幅用としてヘテロバイポーラトランジスタが形成された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器の発達とともに高周波高出力用半導体装置の需要が大幅に伸びている。特に、最近の携帯電話などのモバイル通信機器では、電池駆動で高出力動作かつ長時間通話を行うため、高効率で動作する高出力用の半導体装置が必要になっている。即ち、半導体内部での電力損失を極力少なくし、印加する直流電力を効率良く高周波電力に変換する高出力用の半導体装置が要求されている。
【0003】
このような需要を満たす高出力用半導体装置として、従来からGaAs半導体を用いた電界効果トランジスタが広く用いられているが、近年では、化合物半導体のヘテロ接合を利用したヘテロバイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor:通常、HBTと略す)が、その優れた高周波特性と高電流駆動能力から、高出力用半導体装置として注目されている。
【0004】
このような高出力用半導体装置では、高周波の大電力を取り扱うため、半導体基板上に複数のヘテロバイポーラトランジスタを配置し、これらを互いに並列動作するように並列接続することで、高出力化を図っている。
【0005】
以上のように、複数のヘテロバイポーラトランジスタが形成された従来の半導体装置(例えば、特許文献1を参照)について、図面を用いて以下に説明する。
図5は従来の半導体装置を成す複数のヘテロバイポーラトランジスタを用いた高周波用で高出力用の信号増幅器(電力増幅器)の一構成例を示す回路図である。図5に示すように、従来の半導体装置を成す複数のヘテロバイポーラトランジスタを用いた信号増幅器では、3つのヘテロバイポーラトランジスタ(Q1)17、(Q2)18、(Q3)19は、それぞれのベースが、コンデンサ(CB1)12、(CB2)14、(CB3)16を介してRF入力10に接続されている。また、バイアス回路に関しても、それぞれのベースが、抵抗(RB1)11、(RB2)13、(RB3)15を介してバイアス電源9に接続されている。
【0006】
このような構成を取っているのは、半導体チップ上で複数のヘテロバイポーラトランジスタを並列接続した場合には、電源として投入された直流電力の一部、あるいは信号としての高周波電力の一部が電力損失として熱に変換される際に、隣接するヘテロバイポーラトランジスタの熱的干渉により熱的な粗密分布が生じ、このうち熱が集中したヘテロバイポーラトランジスタにコレクタ電流も集中するようになり、このような状態になることを防ぐためである。
【0007】
このように、半導体チップ上で熱的な粗密分布により熱が集中したヘテロバイポーラトランジスタにコレクタ電流が集中する現象をコラプス現象と呼ぶが、このコラプス現象によって、全ヘテロバイポーラトランジスタの均一な動作ができなくなり、信号増幅器としての利得の低下および電力効率の低下が生じ、場合によっては、トランジスタ素子の特性劣化および破壊の原因にもなる。
【0008】
以上説明したように、従来の半導体装置を成す複数のヘテロバイポーラトランジスタを用いた電力増幅器では、各ヘテロバイポーラトランジスタを均一に動作させるために、各ヘテロバイポーラトランジスタのベース電極と電源回路の間に抵抗を挿入し、熱暴走を防ぐような手法を取っている。
【特許文献1】USP5629648
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記のような従来の半導体装置を成す複数のヘテロバイポーラトランジスタにおいても、個々のヘテロバイポーラトランジスタの構成が、図4に示すように、ベース1、2及びコレクタ3及びエミッタ4の電極が複数存在しているため、この単一のヘテロバイポーラトランジスタ(通常、個セルと呼ぶ)においても、熱的な粗密によるコラプス現象が生じることになる。
【0010】
そのため、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内での動作が不均一になり、信号増幅用として用いた場合に、その利得の低下および電力効率の低下が起こり、場合によっては、トランジスタ素子としての特性が劣化したり破壊されたりするという問題点を有していた。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点を解決するもので、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内での動作が均一化され、信号増幅用として用いた場合に、その利得の低下および電力効率の低下を防止し、トランジスタ素子としての特性劣化および破壊をなくすことができる半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の半導体装置は、半導体基板上に信号増幅用として複数のベース電極を有するヘテロバイポーラトランジスタを形成し、前記へテロバイポーラトランジスタの各々のベース電極をヘテロ接合の上方で接続したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項2に記載の半導体装置は、請求項1記載の半導体装置であって、各々のベース電極をヘテロ接合の上方で金属抵抗を介して接続したことを特徴とする。
また、本発明の請求項3に記載の半導体装置は、請求項2記載の半導体装置であって、各々のベース電極を接続する金属抵抗として、WSiN抵抗を用いたことを特徴とする。
【0014】
以上により、単一のヘテロバイポーラトランジスタに複数存在するベースを短絡して実効Vbeを共通化することにより、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内に発生する熱的な粗密によるコラプス現象を完全に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、単一のヘテロバイポーラトランジスタに複数存在するベースを短絡して実効Vbeを共通化することにより、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内に発生する熱的な粗密によるコラプス現象を完全に抑制することができる。
【0016】
そのため、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内での動作が均一化され、信号増幅用として用いた場合に、その利得の低下および電力効率の低下を防止し、トランジスタ素子としての特性劣化および破壊をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を示す半導体装置について、図面を参照しながら具体的に説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1の半導体装置を説明する。
【0018】
図1は本実施の形態1の半導体装置を成す各ヘテロバイポーラトランジスタの構造を示す概念図である。図1において、1は第一のベース電極、2は第二のベース電極、3はコレクタ電極、4はエミッタ電極、5は第一のベース電極1と第二のベース電極2とをヘテロ接合の上方で電気的に接続するための配線である。
【0019】
このヘテロバイポーラトランジスタは、二つのpn接合を薄い半導体層(ベース)を介して接続したnpn接合構造を持つデバイスである。p型ベース層にキャリア(電子)を注入するn層をエミッタ、ベースからキャリア(電子)を吸収するもう一方のn層をコレクタと呼ぶ。エミッタ・ベース間に順方向電流、ベース・コレクタ間に逆方向電流をかけた状態では、エミッタからベースに電子が注入され、ベース層が電子の拡散距離より十分短い場合、電子はベース領域でほとんど結合することなく拡散およびドリフトによりコレクタに達してベース・コレクタ接合に吸収されコレクタ電流が流れる。ここで、同時にベースからエミッタへ正孔が注入される。
【0020】
通常、高出力動作をさせるために、ヘテロバイポーラトランジスタでは、エミッタ電極を複数設置してエミッタ面積を大きくし、寄生抵抗を小さくするなどの理由でコレクタ電極、ベース電極を同時に形成する。
【0021】
また通常、I−Vコラプス現象は、多セル構造で発生することが知られているが、単一のセル内においても、ベース本数が複数存在するセル構造の場合に発生する。このコラプス現象では、動作時の接合温度にベースごとの違いが生じ、接合温度の高くなったベースでは温度の低いセルよりΦb(ショットキー障壁)が小さくなり、Ibが増加し、その結果Icも増加する。これにより更に接合温度が高くなり正のフィードバックがかかる。このような原理でヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内においてもコラプス現象が発生する。
【0022】
このコラプス現象に対して、従来の技術では、各ユニットセルごとにベースバラストを挿入することでコラプス現象の発生を抑制している。接合温度の上昇したセルにおいてIbが上昇すると、ベースバラストによって実効Vbeがその分低下し、Ic増加とそれによる温度上昇を抑制できるからである。
【0023】
これに対して、本実施の形態では、図1に示すように、単一のヘテロバイポーラトランジスタにベース電極として複数存在するベース電極1およびベース電極2を、ヘテロ接合の上方で配線5により電気的に短絡して実効Vbeを共通化することにより、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内に発生する熱的な粗密によるコラプス現象を完全に抑制するようにしている。
【0024】
その結果、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内での動作が均一化され、電力増幅器など信号増幅用として用いた場合に、その利得の低下および電力効率の低下を防止し、トランジスタ素子としての特性劣化および破壊をなくすことができる。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の半導体装置を説明する。
【0025】
図2は本実施の形態2の半導体装置を成す各ヘテロバイポーラトランジスタの構造を示す概念図である。本実施の形態の半導体装置におけるヘテロバイポーラトランジスタの特徴は、図1に示す実施の形態1の半導体装置におけるヘテロバイポーラトランジスタの二本のベース電極1、2がヘテロ接合の上方で配線5により短絡される代わりに、図2に示すように、例えば、WSiN抵抗6などの金属抵抗を介して、ヘテロ接合の上方でベース電極1、2間が接続されていることである。
【0026】
このWSiN抵抗6は、温度が上昇すると抵抗値が下がるという特徴を持っているため、高注入状態で特にコラプス現象により急激に熱が発生した場合にのみ、各々のベース電極1、2間で、それらの電位を共通にする構成になっている。
【0027】
本実施の形態においても、実施の形態1の場合と同様に、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内での動作が均一化され、電力増幅器など信号増幅用として用いた場合に、その利得の低下および電力効率の低下を防止し、トランジスタ素子としての特性劣化および破壊をなくすことができる。
【0028】
なお、上記の各実施の形態では、各ヘテロバイポーラトランジスタのベースの本数を二本とした場合について説明したが、図3に示すように、各ヘテロバイポーラトランジスタのベースの本数が二本以上の複数本(例えば、第一のベース電極1、第二のベース電極2、第三のベース電極7、第四のベース電極8)存在していても、それらを全て、ヘテロ接合の上方で配線5あるいはWSiN抵抗6などの金属抵抗によって電気的に短絡することにより、同様に構成して同様の効果が得られるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の半導体装置は、ヘテロバイポーラトランジスタの単一セル内での動作が均一化され、信号増幅用として用いた場合に、その利得の低下および電力効率の低下を防止し、トランジスタ素子としての特性劣化および破壊をなくすことができるもので、携帯電話機などのモバイル通信機器等に使用される半導体装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1の半導体装置を成す各HBTの構造を示す概念図
【図2】本発明の実施の形態2の半導体装置を成す各HBTの構造を示す概念図
【図3】本発明の実施の形態の半導体装置を成す各HBTの他の構造を示す概念図
【図4】従来の半導体装置を成す各HBTの構造を示す概念図および模式図
【図5】同従来例のHBTを用いた高出力用信号増幅器の構成を示す回路図
【符号の説明】
【0031】
1 第一のベース電極
2 第二のベース電極
3 コレクタ電極
4 エミッタ電極
5 配線
6 WSiN抵抗(金属抵抗)
7 第三のベース電極
8 第四のベース電極
9 バイアス電源
10 RF入力
11 抵抗(RB1)
12 コンデンサ(CB1)
13 抵抗(RB2)
14 コンデンサ(CB2)
15 抵抗(RB3)
16 コンデンサ(CB3)
17 第一のトランジスタ(Q1)
18 第二のトランジスタ(Q2)
19 第三のトランジスタ(Q3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に信号増幅用として複数のベース電極を有するヘテロバイポーラトランジスタを形成し、前記へテロバイポーラトランジスタの各々のベース電極をヘテロ接合の上方で接続したことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置であって、各々のベース電極をヘテロ接合の上方で金属抵抗を介して接続したことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項2記載の半導体装置であって、各々のベース電極を接続する金属抵抗として、WSiN抵抗を用いたことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−120806(P2006−120806A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306271(P2004−306271)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】