説明

半導体集積回路

【課題】制御電圧対発振周波数特性が調整可能なVCOを含む半導体集積回路を提供する。
【解決手段】この半導体集積回路は、リング状に直列に接続された複数のインバータと、バイアス電圧VBP1に従って電源電位VDDから複数のインバータに向けてそれぞれ電源電流を流す第1群のPチャネルトランジスタQP11等と、バイアス電圧VBN1に従って複数のインバータから電源電位VSSに向けてそれぞれ電源電流を流す第1群のNチャネルトランジスタQN11等と、バイアス電圧VBP2に従って電源電位VDDから複数のインバータに向けてそれぞれ電源電流を流す第2群のPチャネルトランジスタQP21等と、バイアス電圧VBN2に従って複数のインバータから電源電位VSSに向けてそれぞれ電源電流を流す第2群のNチャネルトランジスタQN21等とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電圧制御発振回路(VCO:Voltage Controlled Oscillator)を含む半導体集積回路に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体集積回路に組み込み可能な電圧制御発振回路(VCO)としては、図4に示すように、奇数段のインバータをリング状に直列接続することにより構成されるリングオシレータ形式のものが使用されることが多い。1つのインバータから出力された信号は、遅延を伴ってリングを1周して、同じインバータに逆相で入力される。従って、VCOは、これらのインバータの遅延時間で定まる周波数で発振する。
【0003】
図4に示すVCOは、nを自然数として、リング状に直列接続された(2n+1)段のインバータINV1、INV2、・・・と、これらのインバータに電流を供給する電流源としてのPチャネルMOSトランジスタQP1、QP2、・・・及びNチャネルMOSトランジスタQN1、QN2、・・・とを含んでいる。
【0004】
電流源のPチャネルMOSトランジスタ及びNチャネルMOSトランジスタは、それぞれのゲート・ソース間に供給されるバイアス電圧VBP及びVBNに従って、インバータに流れる電源電流を制御する。ここで、バイアス電圧VBP及びVBNの絶対値が大きくなるほど、インバータに流れる電源電流が増加して、VCOの発振周波数fOUTが高くなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来のリングオシレータ形式のVCOにおいては、目標とする発振周波数の中心値を、インバータの段数によって合わせ込んでいた。しかしながら、電流源の各トランジスタの電流供給能力には限界があるため、VCOの制御電圧対発振周波数特性(V−f特性)の自由度が狭く、様々なアプリケーションに対して柔軟に対応できないという問題があった。
【0006】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、制御電圧対発振周波数特性が調整可能なVCOを含む半導体集積回路を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するため、本発明に係る半導体集積回路は、リング状に直列に接続された複数のインバータと、ゲート・ソース間に供給される第1のバイアス電圧に従って、第1の電源電位から複数のインバータに向けてそれぞれ電源電流を流す第1群のPチャネルトランジスタと、ゲート・ソース間に供給される第2のバイアス電圧に従って、複数のインバータから第2の電源電位に向けてそれぞれ電源電流を流す第1群のNチャネルトランジスタと、ゲート・ソース間に供給される第3のバイアス電圧に従って、第1の電源電位から複数のインバータに向けてそれぞれ電源電流を流す第2群のPチャネルトランジスタと、ゲート・ソース間に供給される第4のバイアス電圧に従って、複数のインバータから第2の電源電位に向けてそれぞれ電源電流を流す第2群のNチャネルトランジスタとを具備する。
【0008】
ここで、第1群又は第2群のPチャネルトランジスタの各々が、並列接続された複数のPチャネルトランジスタによって構成され、第1群又は第2群のNチャネルトランジスタの各々が、並列接続された複数のNチャネルトランジスタによって構成されるようにしても良い。
【0009】
また、半導体集積回路が、複数のインバータにおける発振周波数を制御するために用いられる制御電圧に基づいて、第1〜第4のバイアス電圧を生成するバイアス電圧生成回路をさらに具備するようにしても良い。このバイアス電圧生成回路において、第1群のPチャネルトランジスタと第1群のNチャネルトランジスタとを活性化する第1のモードと、第2群のPチャネルトランジスタと第2群のNチャネルトランジスタとを活性化する第2のモードと、第1群及び第2群のPチャネルトランジスタと第1群及び第2群のNチャネルトランジスタとを活性化する第3のモードとが設定可能であることが望ましい。
【0010】
このように構成した本発明によれば、電流源の第1群のトランジスタと第2群のトランジスタとを選択的に活性化することにより、同一の制御電圧に対するインバータの遅延時間を変化させて、制御電圧対発振周波数特性が調整可能なVCOを提供することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体集積回路に含まれている電圧制御発振回路(VCO)の構成を示す図である。図1に示すように、VCO10は、nを自然数として、リング状に直列接続された(2n+1)段のインバータINV1、INV2、・・・と、ゲート・ソース間に供給されるバイアス電圧VBP1に従って、電源電位VDDから複数のインバータに向けてそれぞれ電源電流を流す第1群のPチャネルトランジスタQP11、QP12、・・・と、ゲート・ソース間に供給されるバイアス電圧VBN1に従って、複数のインバータから電源電位VSSに向けてそれぞれ電源電流を流す第1群のNチャネルトランジスタQN11、QN12、・・・とを含んでいる。
【0012】
さらに、VCO10は、ゲート・ソース間に供給されるバイアス電圧VBP2に従って、電源電位VDDから複数のインバータに向けてそれぞれ電源電流を流す第2群のPチャネルトランジスタQP21、QP22、・・・と、ゲート・ソース間に供給されるバイアス電圧VBN2に従って、複数のインバータから電源電位VSSに向けてそれぞれ電源電流を流す第2群のNチャネルトランジスタQN21、QN22、・・・と、制御電圧Vに基づいて、バイアス電圧VBP1、VBN1、VBP2、VBN2を生成するバイアス電圧生成回路1と、最終段のインバータの出力に接続されたバッファ回路2とを含んでいる。
【0013】
バイアス電圧生成回路1は、モード切換信号に従って、第1群のPチャネル及びNチャネルトランジスタを活性化する第1のモードと、第2群のPチャネル及びNチャネルトランジスタを活性化する第2のモードと、第1群及び第2群のPチャネル及びNチャネルトランジスタを活性化する第3のモードとの内のいずれかを設定する。
【0014】
ここで、MOSトランジスタにおけるバイアス電圧とドレイン電流との関係について説明する。MOSトランジスタが飽和動作する場合と不飽和動作する場合におけるトランジスタの形状とドレイン電流Iとの関係は、それぞれ、式(1)、及び、式(2)で表される。
【数1】



【数2】



但し、βは次式(3)で表されるMOSトランジスタの利得係数であり、VGSはゲート・ソース間電圧、VTHはしきい電圧、VDSはドレイン・ソース間電圧である。
【数3】



式(3)において、μは電子易動度(NチャネルMOSトランジスタの場合)若しくは正孔易動度(PチャネルMOSトランジスタの場合)、Cは単位面積当たりのゲート絶縁膜の容量、WはMOSトランジスタのチャネル幅、LはMOSトランジスタのチャネル長である。
【0015】
2個のMOSトランジスタを並列接続することは、式(3)においてMOSトランジスタのチャネル幅Wを2倍に変化させることに相当する。式(3)により、利得係数βはチャネル幅Wに比例して変化するので、利得係数βも2倍となり、式(1)、又は、式(2)に従って、ドレイン電流が2倍となる。
【0016】
例えば、第1群のトランジスタQP11、QP12、・・・及びQN11、QN12、・・・の各々を1個の単位トランジスタによって構成し、第2群のトランジスタQP21、QP22、・・・及びQN21、QN22、・・・の各々を並列接続された2個の単位トランジスタによって構成することにより、第1のモード〜第3のモードにおいて、各段のドレイン電流を1:2:3の3段階に変化させることができる。
【0017】
さらに多くの群のトランジスタを設ける場合には、それぞれの群に含まれる各々のトランジスタを構成する単位トランジスタの数を1:2:4:8のように2個とすると(m=0、1、2、・・・)、Mビットのモード切換信号を用いることにより、同一のバイアス電圧に対して(2−1)種類のドレイン電流を設定することができる。
【0018】
VCO10における各段のドレイン電流と発振周波数とは、ほぼ比例関係にある。従って、図2に示すように、第1のモードにおけるバイアス電圧と発振周波数との比をμとし、第2のモードにおけるバイアス電圧と発振周波数との比をμとすると、第3のモードにおけるバイアス電圧と発振周波数との比は、約(μ+μ)となる。上記のように、第1群のトランジスタQP11、QP12、・・・及びQN11、QN12、・・・の各々を1個の単位トランジスタによって構成し、第2群のトランジスタQP21、QP22、・・・及びQN21、QN22、・・・の各々を並列接続された2個の単位トランジスタによって構成した場合には、μ:μ:(μ+μ)≒1:2:3の関係が成立する。
【0019】
次に、図1に示すVCOを用いたPLL回路について説明する。
図3は、図1に示すVCOを用いたPLL回路の構成を示すブロック図である。このPLL回路は、周波数fINを有する入力信号が供給されて、その入力信号と位相同期し、周波数fINの整数倍の周波数fOUTを有する出力信号を生成する。
【0020】
VCO10の出力信号は、分周回路20によって、周波数fOUTの整数分の1の周波数を有するように分周される。位相比較回路30は、この分周信号の位相と周波数fINを有する入力信号の位相とを比較する。例えば、位相比較回路30は、入力信号の位相が進んでいる場合には、その位相差に応じたパルス幅を有するパルス信号Pを生成し、逆に、入力信号の位相が遅れている場合には、その位相差に応じたパルス幅を有するパルス信号Pを生成する。
【0021】
ループフィルタ40は、ローパス特性を有しており、パルス信号P及びPに応じた制御電圧Vを生成する。例えば、ループフィルタ40は、パルス信号Pが供給された場合には、そのパルス幅の期間において一定電流により負荷容量を充電し、制御電圧Vをそのパルス幅に応じた電位差だけ上昇させる。一方、ループフィルタ40は、パルス信号Pが供給された場合には、そのパルス幅の期間において一定電流により負荷容量を放電し、制御電圧Vをそのパルス幅に応じた電位差だけ下降させる。
【0022】
VCO10は、制御電圧Vに応じた周波数fOUTで発振する。これにより、入力信号の位相が分周信号の位相よりも進んでいる場合には、制御電圧Vが上昇し、インバータに流れる電流が大きくなり、VCO10の出力信号の位相が進む。一方、入力信号の位相が分周信号の位相よりも遅れている場合には、制御電圧Vが下降し、インバータに流れる電流が小さくなり、VCO10の出力信号の位相が遅れる。
【0023】
このようにして、PLL回路は、入力信号の位相と分周信号の位相とが一致した状態でロックするように動作するのであるが、VCO10において制御電圧に対する発振周波数の比が小さい場合には、入力信号に対する分周信号の位相ずれが大きくなってしまう。そこで、入力信号に対する分周信号の位相ずれを小さくする必要がある場合には、モード切換信号によりVCO10の動作モードを切り換えて、制御電圧に対する発振周波数の比を大きくすることにより、PLL回路の周波数追従性(ロック精度)を向上させることが可能である。
【0024】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、電流源の第1群のトランジスタと第2群のトランジスタとを選択的に活性化することにより、同一の制御電圧に対するインバータの遅延時間を変化させて、制御電圧対発振周波数特性が調整可能なVCOを提供することができる。さらに、このようなVCOを用いてPLL回路を構成することにより、PLL回路の周波数追従性を必要に応じて調整することが可能となる。
【0025】
なお、このVCOにおいては、インバータの段数が固定されているので、インバータの段数を変更するタイプと異なり、電源投入から発振開始までの時間が長くなることはない。また、電流源は重み付け設定も可能であり、設計の自由度が大きいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体集積回路に含まれている電圧制御発振回路(VCO)の構成を示す図である。
【図2】図1に示すVCOにおけるバイアス電圧と発振周波数との関係を示す図である。
【図3】図1に示すVCOを用いたPLL回路の構成を示すブロック図である。
【図4】従来の電圧制御発振回路の構成を示す図である。
【符号の説明】
1 バイアス電圧生成回路
2 バッファ回路
10 電圧制御発振回路(VCO)
20 分周回路
30 位相比較回路
40 ループフィルタ
QP11、QP12、QP21、QP22、・・・ Pチャネルトランジスタ
QN11、QN12、QN21、QN22、・・・ Nチャネルトランジスタ
INV1、INV2、・・・ インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状に直列に接続された複数のインバータと、
ゲート・ソース間に供給される第1のバイアス電圧に従って、第1の電源電位から前記複数のインバータに向けてそれぞれ電源電流を流す第1群のPチャネルトランジスタと、
ゲート・ソース間に供給される第2のバイアス電圧に従って、前記複数のインバータから第2の電源電位に向けてそれぞれ電源電流を流す第1群のNチャネルトランジスタと、
ゲート・ソース間に供給される第3のバイアス電圧に従って、第1の電源電位から前記複数のインバータに向けてそれぞれ電源電流を流す第2群のPチャネルトランジスタと、
ゲート・ソース間に供給される第4のバイアス電圧に従って、前記複数のインバータから第2の電源電位に向けてそれぞれ電源電流を流す第2群のNチャネルトランジスタと、
を具備する半導体集積回路。
【請求項2】
前記第1群又は第2群のPチャネルトランジスタの各々が、並列接続された複数のPチャネルトランジスタによって構成されており、
前記第1群又は第2群のNチャネルトランジスタの各々が、並列接続された複数のNチャネルトランジスタによって構成されている、
請求項1記載の半導体集積回路。
【請求項3】
前記複数のインバータにおける発振周波数を制御するために用いられる制御電圧に基づいて、第1〜第4のバイアス電圧を生成するバイアス電圧生成回路をさらに具備する請求項1又は2記載の半導体集積回路。
【請求項4】
前記バイアス電圧生成回路において、前記第1群のPチャネルトランジスタと前記第1群のNチャネルトランジスタとを活性化する第1のモードと、前記第2群のPチャネルトランジスタと前記第2群のNチャネルトランジスタとを活性化する第2のモードと、前記第1群及び第2群のPチャネルトランジスタと前記第1群及び第2群のNチャネルトランジスタとを活性化する第3のモードとが設定可能である、請求項3記載の半導体集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2004−56434(P2004−56434A)
【公開日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−210708(P2002−210708)
【出願日】平成14年7月19日(2002.7.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】