説明

印刷方法およびそのための装置

【課題】 非接触式の孔版印刷方法であって、印刷剤として任意の材料から成る粒状物を使用しつつ、非画像部との境目が明瞭な印刷画像を形成することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 複数の孔3aが所定のパターンで設けられた版3を被印刷物1に対して離間して配置し、版の孔3aを通じて印刷剤を被印刷物1上に供給することを含む印刷方法において、印刷剤として粒状物7を用い、版3の下面にスクリーン5を重ねて、版の孔3aおよびスクリーン5の目(図示せず)を通じて粒状物7を被印刷物1上に落下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷方法、特に粒状物を孔版印刷する方法およびそのための装置、ならびに粒状物が被印刷物に印刷された印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷方式の1つとして孔版印刷が一般的に知られている。孔版印刷とは、スクリーン印刷に代表されるように、貫通孔と印刷剤を通さない膜とが所望の図柄に従って配された版を用い、版の上面から印刷剤を押し出して、通過した印刷剤を版の下の被印刷物に印刷する方式を言う。
【0003】
孔版印刷では、従来、孔版と被印刷物とを接触させる必要があったが、非接触で印刷可能な方法および装置が提案されている(特許文献1を参照のこと)。より詳細には、離間して配置したスクリーン版と被印刷物との間に静電場を形成し、ブラシなどで帯電させた着色樹脂粒子の印刷剤を版の孔を通じて被印刷物上に降下させ、静電場により付着させるものである。このような方法によれば、深い溝や凹凸を有する被印刷物であっても、着色樹脂粒子を静電力により選択的に付着させ、緻密で均一な印刷画像を形成することができるとされている。
【0004】
一方、外壁用の建材の分野では、その建材に意匠を付与するために、ドラム等に納められた砂を建材の表面に一定の距離から落下させて均一に塗布している。しかし、このような従来の技術は、建材表面に砂を均一に塗布することにより砂による質感を建材表面に亘って付与し得るが、砂を何らかのパターンで塗布して砂による模様を建材表面に表現しようとするものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−182024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような静電力を利用した非接触式孔版印刷によれば、従来から一般的に使用されている液状またはペースト状の印刷剤(いわゆるインキ)ではなく、固体の着色樹脂粒子を印刷剤として使用することができる。しかしながら、この着色樹脂粒子は帯電可能なものに限定されるので、使用可能な印刷剤は材料面で制約を受けることとなる。また、その大きさも、静電力の作用を効果的に受け得るような程度に小さいもの(例えば粉体程度の小さい粒径のもの)であることを要するので、使用可能な印刷剤は大きさの面でも制約を受けることとなる。
【0007】
仮に、上述のような非接触式孔版印刷において帯電しない粒状物を印刷剤として用いたとすると、静電力の作用が働かないために印刷画像と非画像部との境目が不明瞭になり、緻密な画像を印刷することが困難となるという新たな課題が生じることを本発明者らは認識した。
【0008】
例えば砂岩調の外壁用建材が要求される場合、起伏のある岩肌を模した基材に対し、帯電可能な粉体塗料を印刷剤として用いて砂岩調の色彩や模様を印刷することはできるが、帯電しない砂岩そのものを印刷剤として用いることはできず、天然の砂岩が持つ質感、より詳細には砂粒の凹凸による触感および陰影などを再現して所望の通りに印刷画像を形成することは困難である。
【0009】
本発明の目的は、非接触式の孔版印刷方法および装置であって、印刷剤として任意の材料から成る粒状物を使用しつつ、非画像部との境目が明瞭な印刷画像を形成することが可能な方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの要旨によれば、複数の孔が所定のパターンで設けられた版を被印刷物に対して離間して配置し、版の孔を通じて印刷剤を被印刷物上に供給することを含む印刷方法において、
印刷剤として粒状物を用い、
版の下面にスクリーンを重ねて、版の孔およびスクリーンの目を通じて粒状物を被印刷物上に落下させる
ことを特徴とする方法が提供される。
【0011】
本発明において、用語「印刷」は広く解釈し、固体であってよい印刷剤を被印刷物上に供給して、その表面に印刷剤により印刷画像を形成することを意味するものとする。また、用語「スクリーン」は当該技術分野においてメッシュまたは網とも呼ばれ得るものである。また、用語「粒状物」は比較的小さい物質の集合物を意味し、その「最大粒径」は当該集合物を構成する物質のうちで最大の粒径を言うものとする。例えばこの集合物の粒度分布があるピークを有して分散している場合はその上限値であり、粒度分布の上方端がカットされている場合は上限カットオフ値であり、粒度分布がピークを有さずに所定の粒径を有している場合(例えば樹脂ビーズのように粒径分布図が矩形になる場合)はその上端値である。また、「上」および「下」なる概念は少なくとも粒状物の印刷部およびその近傍にて略鉛直方向について言うものとする。従って、例えばドラム(円筒)状の版を用いる場合には、版の「下面」とは版の外側の面を意味し、版の「上面」とは版の内側の面を意味し、版の「上方」とは版の内側を意味するものである。
【0012】
このような本発明の印刷方法によれば、版の下面にスクリーンを重ねて、粒状物を版の孔およびスクリーンの目を通じて被印刷物上に落下させている。粒状物を版の孔に加えてスクリーンの目を通して落下させることによって、スクリーンを用いずに版の孔のみを通して落下させた場合に比べて非画像部との境目がより明瞭で、より緻密な印刷画像を形成することが可能となる。これは、スクリーンの目を通ることによって、粒状物の落下方向を真下に向けて制御でき、およびこの結果、粒状物が被印刷物表面と衝突して散乱することが効果的に抑制されるためであると考えられる。よって、本発明によれば、従来の非接触式孔版印刷のように静電力を利用することなく、十分鮮明な印刷画像を形成することが可能となる。
【0013】
また、本発明の印刷方法によれば、粒状物を単に落下させることにより被印刷物上に供給しており、従来の非接触式孔版印刷のように静電力を利用していないので、印刷剤として任意の材料から成る粒状物を使用することができる。特に限定されるものではないが、例えば砂、硅砂、カラーサンド;ビーズ状、チップ状、粒子状またはフレーク状の樹脂、鉱物、ガラス、木材および金属(一般的にビーズおよびカラーチップと称されるもの、より詳細には透明なもしくは着色された樹脂ビーズ、樹脂チップおよび樹脂粒子、熱溶融性、熱発泡性および/または熱発色性を有する樹脂ビーズ、樹脂チップおよび樹脂粒子や、鉱物チップ、ガラスチップおよび木質チップなどを含む);ならびに顔料、トナーおよび光輝材(光輝材はマイカ粉、偏光マイカ、およびアルミニウムなどの金属片などを含み、例えばフレーク状などであってよい)からなる群より選択される少なくとも1種の粒状物を用いてよい。このような粒状物を用いることによって、様々な質感(より詳細には粒状物による凹凸など)を被印刷物に付与することができる。
【0014】
更に、本発明の印刷方法によれば、複数の孔が所定のパターンで設けられた版を被印刷物に対して離間して配置しているので、凹凸表面を有する被印刷物に印刷することができる。
【0015】
本発明のもう1つの要旨によれば、粒状物を被印刷物上に供給するための装置であって、
複数の孔が所定のパターンで設けられ、および被印刷物の上方で被印刷物に対して離間して位置合わせされる版と、
版の下面に重ねられたスクリーンと、
版の上方に配置され、版および被印刷物に対して相対的に移動しながら粒状物を排出するユニットと
を備え、ユニットから排出される粒状物は版の孔およびスクリーンの目を通じて落下することにより被印刷物上に供給される装置が提供される。
【0016】
このような本発明の装置は、本発明の上記印刷方法を実施するために好適に用いることができ、これと同様の効果を奏する。
【0017】
本発明の装置において使用する版については、非画像部との境目がより明瞭な印刷画像を形成するためにはより厚いほうが好ましいが、材料、孔形成の容易さおよび機械的強度なども考慮して適宜設計されるであろう。金属板を版として用いる場合、版の厚みは、例えば約0.1〜10mmとし得る。しかし、本発明はこれに限定されず、金属以外の材料、例えば木、塩化ビニル樹脂またはアクリル樹脂などから成る版を用いてよい。
【0018】
版の孔径は使用する粒状物の最大粒径に対して、例えば約2〜20倍とし得る。これにより、粒状物の質感を被印刷物に効果的に付与することができる。孔径がより小さいと粒状物が孔に詰まり易く、また、より大きいと粒状物による質感が弱くなる。版の孔径は版内の複数の孔の間で同一であっても、異なっていてもよい。
【0019】
また、スクリーンの目開きは使用する粒状物の最大粒径に対して、例えば約1.0〜15倍とし得る。これにより、十分明瞭な印刷画像を形成することができる。スクリーンの目開きがより小さいと粒状物が目に詰まり易く、また、より大きいと印刷画像と非画像部との境目が不明瞭になる。
【0020】
スクリーンと被印刷物との間の距離は、より明瞭な印刷画像を形成するためにはより小さいほうが好ましいが、装置構成の精度なども考慮して、例えば約5〜50mmの範囲で設定され得る。
【0021】
本発明の装置において使用するユニットは、版の上面と接する先端部にてスリット状の排出口を形成するように配置された一対のドクターを含み、ドクターの先端部がブラシ状またはスポンジ状の部材から成ることが好ましい。ユニットと接する版の上面の摩耗は、より詳細には、版の孔の移動方向後方側に生じた筋状の跡として認められ、これは版の孔を通じて落下する粒状物が版の上面とドクターの先端部との間に挟まれ、ドクターの先端部が粒状物を版の上面に対して押圧した状態で相対的に移動することに起因するものである。しかしながら、ドクターの先端部にブラシ状またはスポンジ状の部材を用いることにより、版の上面とドクターの先端部との間に挟まれ得る粒状物に対し、ブラシ状またはスポンジ状の部材の屈曲性または伸縮性により強い押圧力が加わることを防止して摩耗を効果的に低減することができ、該部材の隙間および復元力により版の上面上に粒状物が残らないように効率的に掻き取ることができる。従って、ユニット(より詳細にはドクターの先端部)と接する版の寿命を延ばすことができ、また、高い画像再現性を得ることができる。
【0022】
また、本発明の装置において使用するユニットは、版の上面と接する先端部にてスリット状の排出口を形成するように配置された一対のドクターを含み、スリット状の排出口の長手方向が、ユニットと版および被印刷物との間の相対的移動方向に対して略垂直となっているものであってよい。このようなユニット(以下、ドクターユニットとも言う)により、ユニットが版および被印刷物に対して相対的に移動するにつれて、一対のドクター間に保持される粒状物が排出口と順次連通する孔から版の孔およびスクリーンの目を通じて落下し、ユニットが通過した後の版の上面上に粒状物が残らないようにして印刷できる。
【0023】
本発明のもう1つの要旨によれば、粒状物が基材に印刷された印刷物の製造方法であって、
基材上にその表面を被覆するシーラー層および水性ベース塗膜を順次形成して被印刷物とし、
被印刷物の水性ベース塗膜上に粒状物を本発明の印刷方法により印刷し、および
水性ベース塗膜およびその上に印刷された粒状物を被覆する水性クリヤー塗膜を形成することにより、粒状物が基材に印刷および固着されて成る印刷物を得る
ことを含む製造方法が提供される。
【0024】
このような本発明の印刷物の製造方法によれば、十分明瞭な印刷画像を形成した状態で粒状物を基材に固着させることができ、これにより、取扱いが容易で耐久性(例えば耐候性および耐傷性など)に優れた印刷物であって、用いる粒状物によって様々な質感が付与され、粒状物による印刷画像と非画像部との境目が明瞭な印刷物を製造することができる。換言すれば、本発明の製造方法によれば、より意匠性に優れた印刷物を提供することが可能となる。
【0025】
例えば砂岩調の外壁用建材が所望される場合、本発明の製造方法によれば、起伏のある岩肌を模した基材に対し、砂または砂様の粒状物を印刷剤として用いて、天然の砂岩が持つ質感(例えば砂粒の凹凸による触感および陰影など)を再現しつつ、粒状物が所望の通りに(例えばいわゆる目地などの非画像部を明瞭に残して)印刷された印刷物を得ることが可能となる。
【0026】
本発明の上記製造方法によれば、基材上にシーラー層、水性ベース塗膜、粒状物による印刷画像の層および水性クリヤー塗膜を順次形成している。水性ベース塗膜の上に粒状物を落下させて印刷することにより、粒状物が水性ベース塗膜に部分的に埋没し、その表面で散乱することが効果的に抑制される。また、印刷した粒状物および水性ベース塗膜を水性クリヤー塗膜で覆うことにより、粒状物を固着することができる。従って、とりわけ凹凸表面を有する基材ひいては被印刷物に対しても、より緻密な印刷画像を形成すること、および取扱いが容易で耐久性に優れた印刷物を提供することが可能となる。
【0027】
本発明の製造方法においてシーラー層を形成するため、基材と水性ベース塗膜との間でこれらの密着性を高めることができる任意のシーラー材料を用いてよい。シーラー材料は、対象とする基材および水性ベース塗膜の組合せによって適宜選択され得る。
【0028】
また、水性ベース塗膜を形成するため、任意の適切な水性ベース塗料を用いてよいが、粒状物の粒子の少なくとも1/10の体積部分が水性ベース塗膜中に埋没する水性ベース塗料を用いることが好ましい。このような水性ベース塗料は、好ましくは、アクリルエマルションおよびアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂と、チクソトロピーインデックスを1.5以上5以下に調整する粘性制御剤とを含む組成物であり得る。
【0029】
水性クリヤー塗膜を形成するため、該塗膜を通じて粒状物による印刷画像を見ることができる程度に透明な任意の適切な水性クリヤー塗料を用いてよい。このような水性クリヤー塗料は、好ましくは、アクリルエマルションおよびアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂を含む組成物であり得る。水性クリヤー塗膜は保護膜として機能し得るものであるが、印刷物の表面に位置してその外観に直接影響するものでもあるので、所望により光輝材、染料、顔料および意匠性添加剤からなる群より選択される少なくとも一種を更に含有する組成物を用いてよい。
【0030】
本発明の製造方法において、基材およびこれを被覆するシーラー層および水性ベース塗膜で構成される被印刷物上に粒状物を印刷するために本発明の上記印刷方法が適用される。しかしながら、本発明の印刷方法は他の方法にも広く適用可能であることに留意されるべきである。
【0031】
また、本発明の製造方法に対し、例えばグラビア印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷およびロール印刷などによる意匠性を付与する工程を更に追加してもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、非接触式の孔版印刷方法および装置であって、印刷剤として任意の材料から成る粒状物を使用しつつ、非画像部との境目が明瞭な印刷画像を形成することが可能な方法および装置が提供される。更に、本発明によればこのような印刷方法を利用した印刷物の製造方法もまた提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明のいくつかの実施形態について、以下図面を参照しながら説明する。
【0034】
(実施形態1)
本実施形態は粒状物を被印刷物に印刷するために平板タイプの版を用いた方法および装置に関する。
【0035】
図1に示すように、本実施形態の印刷装置20は、被印刷物1の上方に離間して配置される版3と、被印刷物1および版3との間で版3の下面に重ねられるスクリーン5と、版3の上方に配置され、粒状物7を収容するユニット9とを備える。
【0036】
使用する粒状物7は、被印刷物1に付与すべき所望の質感に応じて任意の材料からなる粒状物から選択することができ、例えば砂、硅砂、カラーサンド;ビーズ状、チップ状、粒子状またはフレーク状の樹脂、鉱物、ガラス、木材および金属(一般的にビーズおよびカラーチップと称されるもの、より詳細には透明なもしくは着色された樹脂ビーズ、樹脂チップおよび樹脂粒子、熱溶融性、熱発泡性および/または熱発色性を有する樹脂ビーズ、樹脂チップおよび樹脂粒子や、鉱物チップ、ガラスチップおよび木質チップなどを含む);顔料、トナーおよび光輝材(光輝材はマイカ粉、偏光マイカ、およびアルミニウムなどの金属片などを含み、例えばフレーク状などであってよい);ならびにそれら2種以上の混合物であってよい。代表的には、粒状物7の粒径分布は約5〜600μmの範囲内にあるが、これら範囲に限定されるものではない。
【0037】
被印刷物1は特に限定されず、任意の材料および大きさのものであってよく、凹凸表面(または起伏)を有していてよく、また平滑表面を有していてもよい。被印刷物1は静置されていてもよく、コンベヤなどで搬送してもよい。
【0038】
版3はステンレス鋼、アルミニウム、銅、鉄などの金属平板であってよい。版3の厚みは、約0.1〜10mm、好ましくは約0.3〜6mmである。版3には複数の孔3aが所望の図柄に従って所定のパターンで設けられる。孔3aは一般的に円形断面を有し、その孔径(直径)は使用する粒状物7の最大粒径に対して例えば約2〜20倍、好ましくは約3〜10倍となるように設計され得る。複数の孔3aの孔径は版3にて同一であっても、異なっていてもよい。孔3aはエッチングまたはパンチングなど任意の化学的、光学的および/または機械的方法により版3に設けることができる。本実施形態においては1つの版3を用いているが、2つ以上の版を組み合わせて用いてもよく、各版に設けられる孔のパターンならびに各版の材料および厚さなどは適宜設計可能である。
【0039】
スクリーン5は版3の下面に接して、例えば版3の縁部にて一緒に固定されて重ねられている。版3およびスクリーン5は重ね合わせた状態で、例えば磁力を用いた部材、ホットメルトまたはリベットなどにより固定することができる。スクリーン5は、例えばポリアミド系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ステンレス鋼などの織物であってよい。スクリーン5の目開きは粒状物7の最大粒径に対して例えば約1〜20倍、好ましくは約1〜15倍、より好ましくは約2〜15倍となるように選択され得る。粒状物7の粒度分布にもよるが、代表的には約1.0〜2.0mmの目開きとされる。スクリーン5の線径および厚さなどについては特に限定されず、適宜選択してよい。
【0040】
上記版3の孔3aの孔径は、このようなスクリーン5の目開きの約1.5〜30倍、好ましくは約2〜10倍であってよい。
【0041】
スクリーン5と被印刷物1との間の距離は例えば約5〜50mm、好ましくは約15〜30mmに設定され得る。被印刷物1が凹凸表面(または起伏)を有する場合、スクリーン5と被印刷物1とが接触しないことを確保すべく、これらの間の距離は例えば少なくとも約5mmとする。
【0042】
ユニット9は被印刷物1およびスクリーン5付きの版3に対して図中点線矢印にて示すように水平方向左右に相対的に移動可能である。より詳細には、ユニット9は一対のドクター9aおよび9bを含むドクターユニットであり、版3の上面と接するドクター9aおよび9bの先端部にてスリット状の排出口9cを形成し、排出口9cの長手方向(紙面に垂直な方向)がユニット9の移動方向(紙面に平行な方向)に対して略垂直になっている。このドクター9aおよび9bは、その間に粒状物7を収容するホッパー構造を形成するように版3に対してある角度で接する。ドクター9aおよび9bによるスリット状の排出口9cのスリット幅および版3に対する角度はいずれも調節可能である。また、本発明に必須ではないが、排出口9cから粒状物7を均等に排出するように粒状物7を均すための部材9dがユニット9の内部に備えられていてよい。均し部材9dにより、流動性の悪い粉体を粒状物7として用いる場合でもユニット9のホッパー構造内でのブリッジやラットホールを防止することができる。
【0043】
ドクター9aおよび9bの先端部はブラシ状またはスポンジ状の部材から成ることが好ましい。ブラシ状またはスポンジ状の部材は、版3の上面との間に空隙を有し、屈曲性または伸縮性と復元性とを兼ね備えるので、版3の上面とドクターの先端部との間に挟まれ得る粒状物7に対して強い押圧力が加わることを防止して版3の摩耗を効果的に低減しながら、版3の上面上に粒状物7が残らないように効率的に掻き取ることができる。これにより、印刷画像にムラを生じるなどの悪影響を低減でき、また、高い画像再現性を得ることができる。更に、ドクター9aおよび9bの先端部にブラシ状またはスポンジ状の部材を適用することにより、先端部自身が版3の上面との接触によって(また特に版3およびスクリーン5を固定するために用いたリベットなどが版3の上面に突出しているときはリベットなどとの接触によって)、摩耗することを効果的に低減することもできる。
【0044】
ドクター先端部につき耐久性(耐摩耗性)が要求される場合はブラシ状部材がより好ましい。ブラシ状部材としては、例えば図2(a)に示すようなブラシ毛が全体として直線状に配置されたブラシ9eや、ブラシ毛が全体として曲線状(または波形)に配置されたブラシ、ブラシ毛が放射線状に延びたロールブラシなどを用いることができる。ブラシ毛は植え込み型およびチャンネル型などの任意の適切な方法でブラシ台部に取り付けられ得る。植え込み型ブラシの場合、ブラシ毛の毛束の配置は特に限定されず、ちどり型および並列型、ロールブラシでは更にV字型およびスパイラル型などのいずれであってもよい。ブラシ毛はナイロン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリブチレンテレフタレートおよびポリフェニレンサルファイドなどの合成繊維、あるいは馬、豚、山羊および猪などの動物またはパキン、シダおよびパームなどの植物に由来する天然繊維から成っていてよい。合成繊維は天然繊維より耐摩耗性が一層高く、特に好ましい。ブラシの全体形状、タイプ、配置、ブラシ毛の材質、線径、毛丈、チャンネル幅などは、印刷画像および使用する粒状物7の特性に応じて、所望の掻き取り性および摩耗低減作用が得られるように適宜選択され得る。
【0045】
スポンジ状部材としては、例えば図2(b)に示すようなスポンジロール9fや、直方体形のスポンジなどを用いることができる。スポンジ材料は、重合性モノマーの重合物またはクロロプレンゴム、エチレン−クロロプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、多硫化ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、これらのゴムの発泡体またはこれらのゴム成分と光重合性モノマーとの反応物などであってよい。スポンジ材料、形状および寸法などは、印刷画像および使用する粒状物7の特性に応じて、所望の掻き取り性および摩耗低減作用が得られるように適宜選択され得る。
【0046】
しかしながら、ドクター9aおよび9bの先端部はブラシ状またはスポンジ状の部材に限定されず、好ましさは劣るが、例えば図2(c)に示すようなフェルト9gなどを用いることも可能である。フェルト9gは版3の上面に対して面接触(または密着)し、版3の上面とドクターの先端部との間に挟まれ得る粒状物7に対して強い押圧力が加わって版3が摩耗し易く、また、フェルト9gは版3の上面に対して若干傾斜していると押圧力が均等でなくなって粒状物7の掻き取り性が十分でないことがある。また、フェルト9gは、版3の上面(また特に版3およびスクリーン5を固定するために用いたリベットなどが版3の上面に突出しているときはリベットなど)との接触によって擦れてそれ自身が摩耗し得る。しかしながら、これらのことは場合によっては許容可能であり得るであろう。
【0047】
次に、本実施形態の印刷装置20を用いた印刷方法について説明する。
【0048】
まず、例えば磁力を用いた部材、ホットメルトまたはリベットなどにより固定してスクリーン5が重ねられた版3と被印刷物1とを離間して位置合わせし、粒状物7を収容したユニット9が版3の左右方向の一方の端部側に位置し、版3の上面で排出口9cを閉じるように配置する。
【0049】
そして、ユニット9が版3の左右方向の他方の端部側に位置するように、ユニット9と被印刷物1およびスクリーン5付きの版3とを図中点線矢印にて示すように相対的に移動させる。この相対的移動は、ユニット9を固定しながら、被印刷物1およびスクリーン5付きの版3を位置合わせした状態で同期して移動させること、あるいは、被印刷物1およびスクリーン5付きの版3を位置合わせした状態で固定しながら、ユニット9を移動させることにより実施してよい。
【0050】
上記の移動につれて、ユニット9の排出口9cが版3の上面を滑って版3に設けられた複数の孔3aと順次連通し、粒状物7が排出口9cから孔3aへ排出され、そして孔3aおよびスクリーン5の目(図示せず)を通じて被印刷物1上に落下する。
【0051】
このとき、粒状物7は版3の孔3aに加えてスクリーン5の目を通るので、粒状物7の落下方向を鉛直方向真下に向けて制御でき、およびこの結果、粒状物7が被印刷物1の表面と衝突して散乱することが効果的に抑制される。これにより、スクリーンを用いない場合に比べて非画像部との境目がより明瞭で、より緻密な印刷画像を形成することが可能となる。
【0052】
より詳細には、図3(a)に示すような輪郭の図柄Aを目地Bを残して形成したい場合、図3(b)に示すように複数の孔3aが形成された版3にスクリーン(図3に示さず)を重ねて本実施形態に従って印刷した場合、図3(c)に示す印刷画像A’が粒状物7により被印刷物上に形成される。これにより得られる印刷画像A’の輪郭、即ち、印刷画像A’と非画像部B’との境目は明瞭であり、目地Bの部分に粒状物が散らばることが効果的に抑制される。これに対して、同一の版3であってもスクリーンを用いない場合には、印刷画像A’と非画像部B’との境目が不明瞭となり、本来画像を印刷したくない目地Bの部分にまで粒状物7が散らばることとなる。
【0053】
このような印刷画像に対するスクリーン5の作用は粒状物7の粒径に対するスクリーン5の目開きおよびスクリーン5と被印刷物1との間の距離に依存する。また、粒状物7の粒径に対する孔3aの孔径、孔3aの間隔(またはピッチ)および版3の厚さ、排出口9cのスリット幅および移動速度などにより印刷画像の表現は異なり得るので、所望の印刷画像が得られるようにこれらを適宜設定してよい。
【0054】
例えば、版3の孔3aに対応するドット形状を再現した印刷画像を得たい場合には、印刷画像に対するスクリーン5による作用を増強するためにスクリーン5(ひいては版3)と被印刷物1との間の距離を比較的小さくすることにより、ドット再現性のある印刷画像を得ることができる。また例えば、版3の孔3aに対応するドット形状をぼかした印刷画像を得たい場合には、印刷画像に対するスクリーン5による作用を低減するためにスクリーン5(ひいては版3)と被印刷物1との間の距離を比較的大きくすることにより、ドット形状がぼかされた印刷画像を得ることができる。尚、後者の場合において、印刷画像と非画像部との境目を明瞭にしつつ、印刷画像内では所望のぼかし効果が得られるように印刷条件を適宜設定し得る。
【0055】
ユニット9が版3の左右方向の他方の端部側に位置すると、粒状物7による印刷画像が被印刷物1上に形成され、印刷が終了する。
【0056】
これに続けて別の被印刷物に同じ図柄で印刷する場合は、印刷画像を形成した被印刷物1を新たな被印刷物で置換し、ユニット9が上記他方の端部側から上記一方の端部側に戻るように、ユニット9と新たな被印刷物およびスクリーン5付きの版3とを逆方向に相対的に移動させればよい。本実施形態はこのような連続印刷に適し、特にドクター9aおよび9bの先端部にブラシ状またはスポンジ状の部材を用いる場合にはドクター9aおよび9bの先端部と接する版3の摩耗を一層低減できて版3の寿命を延ばすことができると共に高い画像再現性を得ることができ、また、ドクター9aおよび9bの先端部自身の寿命も延ばすことができる。
【0057】
以上、本実施形態の印刷方法および装置によれば、被印刷物と版とを接触させず、印刷剤として任意の材料から成る粒状物を使用して、非画像部との境目が明瞭な印刷画像を形成することができる。
【0058】
(実施形態2)
本実施形態は粒状物を被印刷物に印刷するためにベルトタイプの版を用いた方法および装置に関する。
【0059】
図4に示す本実施形態の印刷装置22は、シームレスなベルト状の版13およびスクリーン15を用いた点において図1に示す実施形態1の印刷装置20と相違し、特に説明のない限り実施形態1と同様の構成である。
【0060】
印刷装置22においては版13の外側にスクリーン15が重ねられ、これらは一対のプーリ11aおよび11bによって図中点線矢印にて示すように一体的に回転する。版13の内側にはユニット9が固定して配置され、ユニット9の排出口が位置する印刷部において版13の下面にスクリーン15が位置することとなる。
【0061】
このような印刷装置22を用いた印刷方法では、スクリーン15付きの版13が回転することにより、これらとユニット9とが相対的に移動する。このとき、スクリーン15付きの版13は被印刷物1に対して位置合わせした状態で、コンベヤなどによる被印刷物1の搬送と同期して回転させる。
【0062】
以上のような本実施形態によっても、実施形態1と同様の作用および効果が得られる。
【0063】
(実施形態3)
本実施形態は粒状物を被印刷物に印刷するためにドラムタイプの版を用いた方法および装置に関する。
【0064】
図5に示す本実施形態の印刷装置24は、ドラム(または円筒)状の版13’およびスクリーン15’を用いた点において図1に示す実施形態1の印刷装置20と相違し、特に説明のない限り実施形態1と同様の構成である。
【0065】
印刷装置24においては版13’の外側にスクリーン15’が重ねられ、これらは回転支持体(図示せず)によって、図中点線矢印にて示すように版13’の中心軸の周りで一体的に回転する。版13’の内側にはユニット9が固定して配置され、ユニット9の排出口が位置する印刷部において版13’の下面にスクリーン15’が位置することとなる。
【0066】
このような印刷装置24を用いた印刷方法では、実施形態2と同様に、スクリーン15’付きの版13’が回転することにより、これらとユニット9とが相対的に移動する。このとき、スクリーン15’付きの版13’は被印刷物1に対して位置合わせした状態で、コンベヤなどによる被印刷物1の搬送と同期して回転させる。
【0067】
以上のような本実施形態によっても、実施形態1と同様の作用および効果が得られる。
【0068】
加えて、本発明に必須ではないが、印刷装置24は、版13’およびスクリーン15’の外側を覆うカバー17と、ユニット9の上方にて版13’の外側に配置されるエアーノズル19とを更に備えていてよい。カバー17は版13’の回転方向でユニット9より下流にて版13’を包むように設けられ、これにより、版13’の孔3aに詰まり得る粒状物7が周囲に飛散することを防止できる。また、エアーノズル19により、版13’の孔3aに詰まり得る粒状物7をエアー圧で吹き出し、ユニット9の上部が開口したホッパー構造へ落し入れることができる。あるいは、カバー17およびエアーノズル19に代えて、サクション口(図示せず)を版13’の回転方向でユニット9より下流の適当な位置に設け、これにより、版13’の孔3aに詰まり得る粒状物7を吸引および回収してよく、回収した粒状物7はユニット9に戻して再利用することが好ましい。
【0069】
また、本発明に必須ではないが、印刷装置24は、印刷部にて飛散し得る粒状物7を回収するため粒状物回収部材27および29を更に備えていてよい。粒状物回収部材27は版13’およびスクリーン15’と被印刷物1との間にて、ユニット9の排出口を下方に投射した左右または周囲に配置され得る。このような粒状物回収部材27により、不要な粒状物7が被印刷物1上に飛散するのを防止できると共に、これを回収することができる。他方、粒状物回収部材29は、ユニット9の排出口を下方に投射した左右に配置されるコンベヤ10aおよび10bの下方に配置され得る。このような粒状物回収部材29により、被印刷物1上に載らずに飛散した粒状物7を回収することができる。これら粒状物回収部材27および29は単なる板状部材であってもよいが、回収した粒状物をユニット9へ自動的に戻すようにコンベヤ(図示せず)などで構成された装置であってもよい。このような粒状物回収部材27および29はいずれか一方のみとしてもよい。また、これらは本実施形態のみならず、上述の実施形態1および2と組み合わせて用いることもできる。
【0070】
(実施形態4)
本実施形態は粒状物が被印刷物に印刷された印刷物の製造方法およびそれにより得られる印刷物に関する。
【0071】
本実施形態の製造方法においては、まず、図6を参照して、基材31の上にその表面を被覆するシーラー層33を形成し、次に、シーラー層33の上にその表面を被覆する水性ベース塗膜35を形成する。これにより得られた積層体は被印刷物1に相当する。シーラー層33および水性ベース塗膜35は、それぞれシーラー材料および水性ベース塗料を、例えばエアーレススプレーを用いてスプレーコートすることにより形成できる。また、スプレーコートに代えてカーテンコートまたはロールコートなどの他の塗装法を適用することもできる。
【0072】
基材31は特に限定されず、例えば窯業サイディング材など、凹凸表面を有する基材であってよい。
【0073】
シーラー材料には、シーラーとして既知の組成物を用いることができ、例えば日本ペイント株式会社製アクリルエマルションシーラー「オーデタイト126シーラー」を用いることができる。
【0074】
水性ベース塗料には、アクリルエマルションおよびアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂と、チクソトロピーインデックス(TI値)を1.5以上5以下に調整する粘性制御剤とを含む組成物が好ましく用いられる。
【0075】
アクリルエマルションとしては既知のものを用いてよく、例えばアクリル系モノマーと必要に応じて他のエチレン性不飽和モノマーとを共重合させたものを用いることができる。具体的には、アクリル系モノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、n−ブチルエステル、i−ブチルエステル、t−ブチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、ラウリルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、2−ヒドロキシエチルエステル、2−ヒドロキシプロピルエステルの他、プラクセルFM−1(メタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステルのポリカプロラクタン付加物、ダイセル化学工業株式会社製)、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0076】
アクリルシリコンエマルションについても既知のものを用いてよい。具体的には、上記のアクリルエマルションにオルガノポリシロキサンをグラフト重合したものや、エチレン性不飽和基を有するアルコキシシランモノマーとエチレン性不飽和モノマーとを共重合させたものの他に、アルコキシシランまたはその加水分解縮合物の存在下でアルコキシシリル基と反応する官能基を有するアクリルモノマーとエチレン性不飽和モノマーとを共重合させて得られたものなどが挙げられる。エチレン性不飽和基を有するアルコキシシランモノマーとしては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシブチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0077】
また、粘性制御剤についても既知のものを用いてよい。具体的には、ヒドロキシエチルセルロース等の繊維素誘導体系、変性ポリアクリルスルホン酸塩などのポリアクリル酸系、ポリエーテルウレタン変性物等のポリエーテル系、有機ベントナイト系などを用いることができる。
【0078】
このような粘性制御剤は、水性ベース塗料組成物のチクソトロピーインデックスを約1.5〜5に調整するように適当な量で含まれることが好ましい。チクソトロピーインデックスが1.5未満である場合には、水性ベース塗膜35を形成した後、粒状物7を印刷するまでに、凹凸表面を有し得る被印刷物の凸部から水性ベース塗料が流下し、粒状物の埋没が不十分になるため好ましくない。また、チクソトロピーインデックスが5を越える場合には、水性ベース塗膜に凹凸が発生するため好ましくない。本明細書においてチクソトロピーインデックス(TI値)とは、一般的に知られているように揺変性(チクソトロピー)を示す指標であり、揺変性とは温度一定下で撹拌するとゾル状になり、これを放置すると再びゲル状に戻る性質を意味する。チクソトロピーインデックスは、(旧)JIS−K−5400.4.5.3の参考試験「回転粘度計による非ニュートン性の評価」に準拠した方法により測定することができる。
【0079】
以上のようにして基材31の上にその表面を被覆するシーラー層33および水性ベース塗膜35が順次形成された被印刷物1が得られるが、シーラー層33を形成した後、水性ベース塗膜35を形成する前に、これら層33および35の間に一層または複数層の着色層を形成してもよい。
【0080】
次に、このようにして得られた被印刷物1に対して、水性ベース塗膜35上に粒状物7を印刷する。印刷方法およびそのための装置については実施形態1〜3にて上述したもののいずれを適用してもよい。尚、粒状物7の印刷は、被印刷物1を印刷装置内に複数回通して同一または異なる画像を印刷するものとしてもよく、あるいは、粒状物の材質、形状、色相および量などの条件を適切な組合せにて複数設置した印刷装置に被印刷物1を通して各装置にて画像を印刷するようにしてもよく、これにより、多様な意匠印刷が可能となる。
【0081】
尚、水性ベース塗膜35を形成した後で粒状物7を印刷する前、および/または粒状物7を印刷した後に、例えばグラビア印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷およびロール印刷などを実施することもでき、この際に水性ベース塗膜35が乾燥または硬化してしまう場合には、粒状物を印刷する直前に透明タイプの水性ベース塗膜を更に追加形成してもよい。
【0082】
粒状物7を被印刷物1に印刷した後、水性ベース塗膜35および粒状物7を被覆するように水性クリヤー塗膜39を形成する。水性クリヤー塗膜39は水性クリヤー塗料を、例えばエアーレススプレーを用いてスプレーコートすることにより形成できる。また、スプレーコートに代えてカーテンコートまたはロールコートなどの他の塗装法を適用することもできる。
【0083】
水性クリヤー塗料には、アクリルエマルションおよびアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂を含む組成物が好ましく用いられる。アクリルエマルションおよびアクリルシリコンエマルションは、水性ベース塗膜35について上記で例示したものを用い得る。
【0084】
また、水性クリヤー塗料組成物は、光輝材、染料、顔料および意匠性添加剤からなる群より選択される少なくとも一種を更に含むことが好ましい。これらは水性クリヤー塗膜39が透明性を維持できる範囲内で配合することができ、いずれも既知のものを用いてよい。例えば、光輝材としてはカラーマイカ、樹脂フレークおよびガラスフレークの金属コート品などを用いることができる。また、顔料としては一般的に使用される塗料用顔料を用いてよいが、粒状物7による印刷画像が水性クリヤー塗膜39を通して見えるように約3体積%以下の含有量とすることが好ましい。意匠性添加剤としては樹脂ビーズ、樹脂カラービーズおよびガラスフレークなどを用いることができる。
【0085】
その後、必要に応じて乾燥、加熱、光照射などの後処理に付して、粒状物7が基材31に印刷および固着されて成る印刷物30が得られる。尚、このような後処理はシーラー層33および水性ベース塗膜35の各形成工程の際にも必要に応じて適宜実施され得る。
【0086】
本実施形態によれば、基材31に粒状物7を十分明瞭な印刷画像を形成した状態で固着させることができ、これにより、取扱いが容易で耐久性に優れた印刷物30であって、用いる粒状物7によって様々な質感が付与され、粒状物による印刷画像と非画像部との境目が明瞭な印刷物30を製造することができる。
【0087】
以上、本発明のいくつかの実施形態について詳述してきたが、本発明はこれら実施形態に限定されず、種々の改変が可能である。
【0088】
例えば、本発明の印刷方法は、粒状物が基材に印刷された印刷物の製造方法であって、
粘着性材料が予め塗布された被印刷物上に粒状物を印刷し、および
これにより得られた被印刷物にて粘着性材料を実質的に非粘着性の固着材料とすることによって粒状物が被印刷物に固着されてなる印刷物を得る
ことを含む製造方法にも適用可能である。
【0089】
この製造方法に使用する粘着性材料には、例えば上述のような水性ベース塗料および水性クリヤー塗料や、溶媒蒸発、湿気、熱または光(例えば紫外線)などで硬化する接着剤などを用いることができる。このような粘着性材料は乾燥、加熱または光照射することにより実質的に非粘着性となり、固着材料として粒状物を被印刷物に固着することができる。
【0090】
また、上記製造方法は必要に応じて、粒状物が印刷された被印刷物の表面を被覆する保護膜を形成することを含んでいてよい。この保護膜は、例えば上述のような水性クリヤー塗料を塗布して形成することができる。
【0091】
上記製造方法によれば、粘着性材料が予め塗布された被印刷物上に粒状物を印刷するので、被印刷物上に落下した粒状物が粘着性材料と接触および付着することにより被印刷物表面で散乱することが効果的に抑制される。従って、とりわけ凹凸表面を有する被印刷物に対しても、緻密な印刷画像を形成することが可能となる。
【実施例】
【0092】
実施形態1にて上述した印刷方法および装置を用いて粒状物を被印刷物上に方形の図柄を描くように印刷した。
【0093】
印刷条件は以下の通りとした。
粒状物:硅砂 67規格(0.45mm〜0.15mm) 新東陶料株式会社製
版:商品名 タキロンプレート
材質 発泡塩化ビニル樹脂
厚さ 約3.0mm
孔径 約1.5、2.0および2.5mm(図7を参照して、各孔径の孔は集まって、図面に対して上段、中段、下段部分に3つの方形の図柄を描くように配置されている)
孔ピッチ 縦横約6.0mm(図7を参照のこと)
被印刷物:スレート平板(厚さ約4mm) 日本テストパネル株式会社製
版と被印刷物との間の距離:約15または30mm
スクリーン:ポリエステルスクリーン TNo 15(ポリエステルモノフィラメント糸、線径 400μm、目開き 1293μm、厚さ 776μm(いずれもメーカー公称値)) 日本特殊織物株式会社製
ユニット:移動速度 約100cm/秒
スリット幅 約0.3cm
【0094】
印刷は、版および被印刷物を約15mmの距離で離間させて水平に固定したまま、粒状物を収容したユニットを版上でこれに沿わせて、図7に示す孔に対して左側から右側へ移動させて実施した(実施例1)。また、版と被印刷物との間の距離を約30mmに変えたこと以外は同様にして印刷を実施した(実施例2)。
【0095】
また、比較のために、スクリーンを用いなかったこと以外は上記と同様の印刷条件として粒状物を被印刷物上に印刷した(比較例1、2)。
【0096】
被印刷物上に形成された粒状物の印刷画像を本出願人による外装建材の色彩測定方法に準じて3m離れたところから目視観察し、溝制御について下記の基準に従って評価した。
溝制御(粒状物の飛散を低減して非画像部(溝部)への印刷はみ出しを抑制すること)
○:印刷画像と非画像部との境目が明瞭である
△:印刷画像と非画像部との境目がやや不明瞭である
×:印刷画像と非画像部との境目が著しく不明瞭である
結果を表1に示す。尚、表1には3種の孔径を用いた場合の平均的な評価を示す。
また、実施例1、2および比較例1、2にて得られた印刷画像の写真をそれぞれ図8および図9に示す。図8および図9中、印刷画像と非画像部との境目とすべきラインを破線にて示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1および図8を参照して、実施例1および2では方形の印刷画像と非画像部との境目が認められ、良好な溝制御が実現された。これに対して、表1および図9を参照して、比較例1および2では境目が著しく不明瞭で、本来画像を印刷したくない領域にまで粒状物が散らばって印刷画像の輪郭が認められず、溝制御ができなかった。よって、本発明のようにスクリーンを版に重ねて用いることにより、印刷画像と非画像部との境目を明瞭にすること(溝制御)が可能であることが確認された。
【0099】
また参考として、ドット形状の再現性についても検討した。図8および図9を参照して、孔ピッチが同じ場合、版と被印刷物との間の距離が小さいほど(実施例2より実施例1で)、また、孔径が小さいほど(孔径2.5mmより孔径2.0mm、より更に孔径1.5mmで)、高いドット再現性が得られることが確認された。逆に、版と被印刷物との間の距離が大きいほど、また、孔径が大きいほど、印刷画像にぼかし効果を与えられることが確認された。この結果から、印刷条件を適宜設定することにより、所望の場合には、ドット再現およびぼかしのいずれかの効果を印刷画像に与えることが可能であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の1つの実施形態における印刷装置を示す概略模式図である。
【図2】図1の印刷装置のユニットのドクター先端部の拡大模式図であり、図2(a)〜図2(c)はドクター先端部のバリエーションを示す。
【図3】図1の実施形態における印刷方法を説明するための模式上面図であって、図3(a)は所望の図柄を示し、図3(b)は図3(a)の図柄に従って所定のパターンで孔が設けられた版を示し、図3(c)は図3(b)の版を用いて得られる印刷画像を示す。
【図4】本発明のもう1つの実施形態における印刷装置を示す概略模式図である。
【図5】本発明のもう1つの実施形態における印刷装置を示す概略模式図である。
【図6】本発明の1つの実施形態における製造方法により得られる印刷物の模式断面図である。
【図7】本発明の実施例1、2および比較例1、2にて用いた版の上面図であり、図面に対して上段、中段、下段部分に孔径約1.5、2.0および2.5mmの孔がそれぞれ方形の図柄を描くように配置された版を示す。
【図8】図7に示す版を用いて実施例1、2にて得られた印刷画像写真を示す。
【図9】図7に示す版を用いて比較例1、2にて得られた印刷画像写真を示す。
【符号の説明】
【0101】
1 被印刷物
3、13、13’ 版
3a 孔
5、15、15’ スクリーン
7 粒状物(印刷剤)
9 ユニット
9a、9b ドクター
9c 排出口
9d 均し部材
9e ブラシ
9f スポンジロール
9g フェルト
10a、10b コンベヤ
11a、11b プーリ
17 カバー
19 エアーノズル
20、22、24 印刷装置
27、29 粒状物回収部材
30 印刷物
31 基材
33 シーラー層
35 水性ベース塗膜
39 水性クリヤー塗膜
A 図柄
B 目地
A’ 印刷画像
B’ 非画像部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔が所定のパターンで設けられた版を被印刷物に対して離間して配置し、版の孔を通じて印刷剤を被印刷物上に供給することを含む印刷方法において、
印刷剤として粒状物を用い、
版の下面にスクリーンを重ねて、版の孔およびスクリーンの目を通じて粒状物を被印刷物上に落下させる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
粒状物は砂、硅砂、カラーサンド;ビーズ状、チップ状、粒子状またはフレーク状の樹脂、鉱物、ガラス、木材および金属;ならびに顔料、トナーおよび光輝材からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被印刷物は凹凸表面を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
粒状物を被印刷物上に供給するための装置であって、
複数の孔が所定のパターンで設けられ、および被印刷物の上方で被印刷物に対して離間して位置合わせされる版と、
版の下面に重ねられたスクリーンと、
版の上方に配置され、版および被印刷物に対して相対的に移動しながら粒状物を排出するユニットと
を備え、ユニットから排出される粒状物は版の孔およびスクリーンの目を通じて落下することにより被印刷物上に供給される装置。
【請求項5】
版は0.1〜10mmの厚みを有する金属板である、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
孔は粒状物の最大粒径に対して2〜20倍の孔径を有する、請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
スクリーンは粒状物の最大粒径に対して1.0〜15倍の目開きを有する、請求項4〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
スクリーンと被印刷物との間の距離は5〜50mmである、請求項4〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
ユニットは、版の上面と接する先端部にてスリット状の排出口を形成するように配置された一対のドクターを含み、ドクターの先端部がブラシ状またはスポンジ状の部材から成る、請求項4〜8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
ユニットは、版の上面と接する先端部にてスリット状の排出口を形成するように配置された一対のドクターを含み、スリット状の排出口の長手方向が前記移動の方向に対して略垂直となっている、請求項4〜9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
粒状物が基材に印刷された印刷物の製造方法であって、
基材上にその表面を被覆するシーラー層および水性ベース塗膜を順次形成して被印刷物とし、
被印刷物の水性ベース塗膜上に粒状物を請求項1〜3のいずれかに記載の方法により印刷し、および
水性ベース塗膜およびその上に印刷された粒状物を被覆する水性クリヤー塗膜を形成することにより、粒状物が基材に印刷および固着されて成る印刷物を得る
ことを含む製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法により製造された印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−106102(P2007−106102A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109634(P2006−109634)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】