説明

印刷物検査方法及び印刷物検査システム

【課題】 既に印刷物の検査を行った印刷物を2回目以降の検査においてもマスタ印刷物の検査を行う必要性のない印刷物検査方法及び印刷物検査システムを提供することを目的とする。
【解決手段】 複数のマスタ画像2を第1マスタ画像記録媒体5に記録し、前記第1マスタ画像記録媒体5に記録されたマスタ画像2を読み出し、前記第1マスタ画像記録媒体5より高速に読み出し可能な第2マスタ画像記録媒体10に記録し、前記第2マスタ画像記録媒体10から読み出したマスタ画像のエリア画像の濃度レベルと、当該エリア画像に対応する印刷物画像のエリア画像の濃度レベルとを比較し、比較した濃度レベルの差が予め設定した許容値以上であれば、当該部分を欠陥箇所として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、マスタ画像に基づいて印刷物の良否判定を行う印刷物検査方法及ぶ印刷物検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、印刷物の良否判定を行う場合、数枚程度をテスト印刷し、これらの中から良否判定の基準となるマスタ印刷物を目視検査を行って選択し、選択したマスタ印刷物を撮像したマスタ画像を検査装置の検査メモリに記録させ、撮像手段で撮像した被検査対象物の印刷物画像のエリア画像の濃度レベルと、当該エリア画像に対応するマスタ画像の濃度レベルとを比較し、両画像の濃度レベルの差が許容値を超える部分があれば、当該部分を欠陥箇所として判定し、さらに当該欠陥箇所の形状及び面積を解析し、重欠陥もしくは軽欠陥であるかを判定している(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上述の方法では、例えば、1ロット目の印刷物の検査の数ヶ月後に2ロット目の印刷物の検査を行うときには、1ロット目の検査と同じく、目視によってマスタ印刷物として適切な印刷物を選択し、選択したマスタ印刷物からマスタ画像を得て2ロット目の検査を行っていた。
【0004】
なお、2ロット目以降のマスタ印刷物を選択する手間を省くために、1ロット目のマスタ印刷物を保存し、2ロット目の検査を行うときに保存しておいたマスタ印刷物を用いてマスタ画像を得る方法も考えられるが、1ロットのみの印刷も多くマスタ印刷物を全て保管することは、保管場所や保存状態の管理等の問題があり、現実的ではなかった。
【特許文献1】特開平6−201611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、同じ印刷デザインの印刷物の検査であってもロットが異なったときには、改めて印刷物を目視によって検査しマスタ印刷物を選択する必要性があった。つまり、過去に一度同じデザインの印刷物の検査を行ったにもかかわらず印刷不良の有無を目視で確認するという繁雑な作業が必要であるだけでなく、目視による検査が不十分なときには印刷不良がある印刷物をマスタ印刷物として選択することもあった。
【0006】
また、印刷物の検査装置は、印刷速度と同じもしくはそれよりも高速に処理する必要性があるため、マスタ画像を記録するメモリは記録しているデータを高速読出可能なメモリでなければならないが、高速処理可能なメモリは非常に高額であり、コスト的な問題から必要以上にメモリを搭載することは現実的ではなかった。
【0007】
本願発明は係る問題に鑑み、既に印刷物の検査を行った印刷物を2回目以降の検査においてもマスタ印刷物の検査を行う必要性のない印刷物検査方法及び印刷物検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明に係る印刷物検査方法は、印刷物の良否判定の基準となるマスタ画像と、撮像手段によって撮像された印刷物の画像とに基づいて良否判定を行う印刷物検査方法であって、複数の前記マスタ画像を第1マスタ画像記録媒体に記録し、前記第1マスタ画像記録媒体に記録されたマスタ画像を読み出し、前記第1マスタ画像記録媒体より高速に読み出し可能な第2マスタ画像記録媒体に記録し、前記第2マスタ画像記録媒体から読み出したマスタ画像のエリア画像の濃度レベルと、当該エリア画像に対応する印刷物画像のエリア画像の濃度レベルとを比較し、比較した濃度レベルの差が予め設定した許容値以上であれば、当該部分を欠陥箇所として検出することを特徴とする。
また、本願発明に係る印刷物検査システムは、印刷物の良否判定の基準となるマスタ画像と、撮像手段によって撮像された印刷物の画像とに基づいて良否判定を行う印刷物検査システムであって、複数の前記マスタ画像を第1マスタ画像記録媒体に記録するマスタ画像記録手段と、前記第1マスタ画像記録媒体に記録されている複数のマスタ画像の中から1つのマスタ画像を読み出し、前記第1マスタ画像記録媒体より高速に読み出し可能な第2マスタ画像記録媒体へ記録する読出記録手段と、前記記録媒体から読み出したマスタ画像のエリア画像の濃度レベルと、当該エリア画像に対応する印刷物画像のエリア画像の濃度レベルとを比較するエリア画像比較手段と、前記エリア画像比較手段によって比較された濃度レベルの差が、予め設定した許容値以上であれば、当該部分を欠陥箇所として検出する欠陥検出手段とを備えることを特徴とするものである。
したがって、第1マスタ画像記録媒体にマスタ画像を記録させておき、検査を行う印刷物に対応したマスタ画像を高速読み出し可能な第2マスタ画像記録媒体に記録させ、当該第2マスタ画像記録媒体に記録したマスタ画像と、印刷物画像とを比較して欠陥箇所を検出するので、2ロット目以降の印刷物の検査であっても、マスタ印刷物の目視検査を行う必要がなくなる。また、目視検査を行う必要性が無くなるので、2ロット目以降の検査ミスがなくなる。
【0009】
また、前記第1マスタ画像記録媒体に記録されるマスタ画像は、印刷物のデザイン毎にマスタ画像を記録し、第1マスタ画像記録媒体に多くのマスタ画像を記録してもよい。
【0010】
また、前記マスタ画像と前記印刷物画像のいずれか一方又は双方に、位置補正又は明度補正もしくは歪み補正のいずれか1つ又はそれらを組み合わせた補正処理をした後に、他方の画像と比較してもよい。
【0011】
また、前記撮像手段によって撮像された印刷物の画像を第2マスタ画像記録媒体に記録し、前記第2マスタ画像記録媒体に記録された画像をマスタ画像として第1マスタ画像記録媒体に記録してもよい。
【0012】
また、前記撮像手段によって撮像された印刷物画像と前記マスタ画像のいずれか一方又は双方に、予め設定された領域を検査不要領域としてマスク処理をしてもよい。
【0013】
前記印刷物画像の検査領域を、検査精度の重要度に基づいて複数の領域に区分けし、当該重要度に対応した判定レベルで比較してもよい。
【0014】
また、前記第2マスタ画像記録媒体は複数のマスタ画像を同時に記録し、前記撮像手段によって撮像された印刷物画像に対応させて前記マスタ画像を選択し、前記印刷物画像と当該印刷物画像に対応するマスタ画像とを比較してもよい。
【0015】
また、被検査対象の印刷物の印刷処理に特有の誤差因子と前記撮像手段に特有の誤差因子とコンピュータで作成されたデザインデータとに基づき、前記デザインデータを印刷処理したものを前記撮像手段で撮像した状態を想定した画像データを作成し、当該画像データをマスタ画像のデータとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
第1マスタ画像記録媒体に記録されているマスタ画像の中から、検査を行う印刷物のマスタ画像を読み出し、高速読み出し可能な第2マスタ画像記録媒体に記録させているので、第1マスタ画像記録媒体にマスタ画像が記録されている印刷物の検査では、目視によるマスタ画像の検査を行う必要性が無く、繁雑な作業を省略することができ作業効率を上げることができる。加えて、不良箇所が存在する印刷物をマスタ印刷物として選択する検査ミスを防止することもできるので、不良箇所が存在する印刷物を良品と判定することもなく、不良な印刷物を良品として大量に印刷することを防止することができる。
また、マスタ画像データを記録する記録媒体を、多数のマスタ画像データを記録可能な第1マスタ画像記録媒体と、高速に読み出し可能な第2マスタ画像記録媒体の2つの記録媒体とによって構成することにより、記録容量当たりの価格が高い第2マスタ画像記録媒体の搭載量を少なくすることができ、コストパフォーマンスに優れた印刷物検査装置を得ることができる。
【0017】
第1マスタ画像記録媒体には、異なったデザインのマスタ画像を記録するので、当該第1マスタ画像記録媒体に記録されている多数のマスタ画像に読み出し、検査を行うことができる。
【0018】
マスタ画像と印刷物画像のいずれか一方又は双方に、位置補正、明度補正、歪み補正の補正処理を行うので、位置ずれ、照明手段の明度や色等の違い、撮像手段によって生じる歪みを補正することができる。したがって、これらの誤差要因を除外したマスタ画像と印刷物画像との相違点に基づいき、検査精度の高い印刷物の検査を行うことができる。
【0019】
第2マスタ画像記録媒体に記録されているマスタ画像を第1マスタ画像記録媒体に記録するので、新たに選択したマスタ画像に基づいて検査を行うことができ、かつ、当該マスタ画像を第1マスタ画像記録媒体に記録させておくことができる。
【0020】
打ち抜きによって切り取られる領域の検査をマスク処理するので、切り取られる箇所の印刷不良の有無にかかわらず印刷物の良否を判定することができる。また、マスク処理された領域の検査を行わないので、良否判定を高速処理することが可能となる。
【0021】
検査領域を検査精度の重要度に基づいて複数の領域に区分けし、当該重要度に対応した判定レベルで比較するので、例えば印刷の後に組み立てて箱体となる印刷物においては、箱体となったときに外部から視認可能な領域の検査精度を強く設定し、視認不可能な領域の検査精度を弱く設定することができる。
【0022】
複数のマスタ画像データを第2マスタ画像記録媒体に記憶することができるので、例えば、表裏をほぼ同時に検査することができる。
【0023】
コンピュータでデザインされたデザインデータに基づき、マスタ画像を作成し、このマスタ画像に基づいて印刷物の良否を判定するので、目視検査による検査を行うことなくマスタ画像を得ることができるので、繁雑な作業が不要なだけでなく目視検査によるミスの影響もなくなり、精度の高い検査を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本願発明に係る印刷物検査方法及び印刷物検査システムの実施例を図面に基づいて説明する。本願発明に係る印刷物検査方法及び印刷物検査システムは、過去に同じデザインの印刷物の検査のときに用いたマスタ画像に基づいて、新たに印刷した印刷物の検査を行うものである。
【0025】
具体的には、図3(b)に示すような箱体を印刷するために、図3(a)で示した図柄17,…,17、文字18,…,18を用紙に印刷した印刷物を検査する。なお、図3(b)に示す、切取線20,…,20や折り線21,…,21は、印刷物の理解の補助を目的として示しているが、実際に印刷されるものではなく、被検査対象物は、図3(a)で示した印刷物16である。
【0026】
図1は印刷物検査システムの概要を説明したブロック図である。印刷物検査システム1は、マスタ画像記録手段4、第1マスタ画像記録媒体5、読出記録手段6、第1補正手段7、マスク領域設定手段8、判定レベル設定手段9、第2マスタ画像記録媒体10、撮像手段11、第2補正手段12、印刷物画像記録媒体13、エリア画像比較手段14、欠陥検出手段15等を備えている。
【0027】
前記マスタ画像記録手段4は、印刷物の良否判定の基準となるマスタ画像2を前記第1マスタ画像記録媒体5に記録させる手段である。
【0028】
前記第1マスタ画像記録媒体5は、複数のマスタ画像2を記録する記録媒体であり、大容量の記録媒体である。第1マスタ画像記録媒体5の具体例としては、磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等の記録媒体であり、大容量記録媒体であればよく、当該記録媒体からマスタ画像データ2の読み出し速度が高速でなくてもよい。また、第1マスタ画像記録媒体5は、印刷物検査装置が備えている記録媒体であってもよいが、リムーバブル媒体、又はそれらを組み合わせて全体として大容量な記録媒体となるように構成してもよい。第1マスタ画像記録媒体5のマスタ画像データの記録期間としては、例えば数ヶ月間又は数年間のように長期間記録することが好ましいが、数週間もしくは数日間であってもよい。なお、第1マスタ画像記録媒体5に記録するマスタ画像データは、デザイン毎に少なくとも1つのマスタ画像データを記録するが、1つのデザインに対して複数のマスタ画像データを対応させて記録してもよい。
【0029】
前記読出記録手段6は、前記第1マスタ画像記録媒体5に記録されている複数のマスタ画像データの中から操作者が選択したマスタ画像データを読み出し、前記第2マスタ画像記録媒体10に記録させる手段である。
【0030】
前記第1補正手段7は、前記読出記録手段6によって読み出されたマスタ画像データに、位置補正、明度補正、歪み補正の中の1以上の補正処理を行う手段である。
位置補正処理とは縦横方向のズレ及び回転方向のズレを補正するものである。この位置補正処理は、マスタ画像と印刷物画像との特徴点を単又は複数検出し、一方の画像の特徴点と一致する他方の特徴点を検出し、当該2つの特徴点を一致させるための上下方向(x軸方向)、左右方向(y軸方向)、回転方向(θ方向)の変化量を演算し、マスタ画像又は印刷物画像を当該変化量ずつ移動させる。したがって、マスタ画像と印刷物画像との位置ずれの誤差を解消し、印刷物の良否を判定することができる。
明度補正とは、照明手段(図示しない)の照度や気温等の影響により撮像手段11が撮像した印刷物画像の明度とマスタ画像の明度とを略同一になるようにする補正処理であり、例えばホワイトバランス処理等の補正処理が挙げられる。前記明度補正を行うことにより、照明手段の経時劣化、照明手段の違い、照明手段周辺の気温等の様々な要因によって生じる誤差を補正する。したがって、マスタ画像を取得したときの照明手段や気温等の状態と、印刷物3を検査するときの照明手段や気温等の状態が異なっていても、明度補正によりこれらの誤差要因を解消することができるので、これらの誤差要因に関係することなくマスタ画像2と印刷物3との良否検査を行うことができる。
歪み補正とは、撮像手段によって撮像された画像の歪みを補正する手段であり、撮像手段等の特性に基づいて決定される補正処理である。前記歪み補正を行うことにより、撮像手段によって撮影された画像の中心付近に比べて端部付近が歪む現象を解消することができ、この誤差要因に関係することなく良否検査を行うことができる。
なお、第1補正手段7の補正処理としては、前記位置補正、前記明度補正、前記歪み補正以外の補正処理であってもよい。
【0031】
前記マスク領域設定手段8は、検査不要領域を設定する手段である。マスク領域は、印刷物が製品になる過程で木枠で打ち抜かれる不使用部分の領域や製品になったときに目立たない領域等の印刷不良が生じていても不良品としない領域をマスク領域として設定する。これによって、製品としては不使用部分のみに印刷不良があったとしても、当該不使用部分の検査を行わないので、当該印刷物を良品として判断する。
マスク処理は、マスタ画像と印刷物画像の双方に対してマスク領域を設定してもよいが、いずれか一方にのみマスク領域を設定してもよい。なお、一方のみにマスク領域を設定するときは、印刷物画像にマスク領域を設定すると印刷物の検査回数と同じ回数のマスク領域の設定処理が必要になるが、マスタ画像にマスク領域を設定すると1回で設定することができるので、マスタ画像にマスク領域を設定する方が、印刷物検査システム1の負荷を軽減することができる。
【0032】
前記判定レベル設定手段9は、図3(c)に示しているように、検査領域を複数の区分けし、区分けされた領域毎に予め設定された判定レベルを設定する手段である。具体的には、図3(c)に示しているように、箱体として組み立てたときに直接視認可能な領域22aと、直接視認不可能な領域23a,24a,25aとの検査精度の判定レベルを異なるように設定する。図3(b)の差込片23、折込片24、貼着片25は、箱体となったときに、直接視認しない領域なので、当該領域に対応する領域23a,24a,25aの検査精度を低くし、当該領域に僅かな小さなシミがあったときでも良品と判定するようにする。また、図柄17,…,17や文字18,…,18については、直接視認することができるので、検査精度を高くし、当該領域に僅かなシミがあったときには不良品と判定することができるようにする。
【0033】
第2マスタ画像記録媒体10は、前記読出記録手段6によって読み出されたマスタ画像データを記録する手段である。なお、図1に示すように、読出記録手段6によって読み出されたマスタ画像データを第1補正手段7によって補正処理を行い、更にマスク領域設定手段8によって検査不要領域のマスク処理を行い、前記判定レベル設定手段9によって判定レベルを設定したマスタ画像データを記録してもよい。
第2マスタ画像記録媒体10は、前記第1マスタ画像記録媒体5よりも高速に読み出し可能な記録媒体であり、半導体メモリ等の記録媒体から構成される。第2マスタ画像記録媒体10の記録容量は、検査実行時に必要なマスタ画像データが記録できる容量とすることで、高価格な第2マスタ画像記録媒体10に必要なコストを低くすることができ、コストパフォーマンスに優れた印刷物検査システムとすることができる。
印刷物の一面のみを検査するときには、当該検査面のマスタ画像データを記録するが、印刷物の両面を連続して検査するときには、表面のマスタ画像データと裏面のマスタ画像データとの双方を記録することにより、高速に両面の検査を行ってもよい。
【0034】
前記撮像手段11は、印刷物3やマスタ印刷物を撮像する手段であり、当該撮像手段11によって印刷物3の印刷物画像を得る。当該撮像手段11は、デジタルカメラや、ラインセンサ等の撮像機能を備えている機器である。撮像手段11は複数のカメラやラインセンサから構成してもよく、この場合には、撮像した画像の所定の領域を合成することで、1つの印刷物画像を得ることができる。
【0035】
前記第2補正手段12は、前記撮像手段11によって撮像された印刷物画像に対して補正処理を行う手段である。第2補正手段12は、前記位置補正、前記歪み補正、前記明度補正等の補正処理を行う。位置補正処理は、前記第1補正手段7と第2補正手段12のどちらか一方のみが行うようにする方が検査装置の処理負担を軽減することができ好ましいが、検査精度を高めるために双方の補正手段7,12で位置補正を行ってもよい。また、歪み補正処理は、前記撮像手段11によって発生する歪み量を予め測定しておき、撮像した画像から当該歪みが略無い状態に補正処理を行う。また、印刷物画像記録媒体13に印刷物画像を記録する前に明度補正を行ってもよく、例えば、印刷物3の近辺に照度センサを備えさせ、撮像中の照度に対応させて明度補正を行うことにより、検査精度を高めてもよい。
【0036】
前記印刷物画像記録媒体13は、前記撮像手段11によって撮像された印刷物3の印刷物画像データを記録する媒体である。印刷物画像記録媒体13は、前記第2マスタ画像記録媒体10と略同じ速度で読み出し可能な記録媒体である。印刷物の一面のみを検査するときは、被検査面のみの画像を記録するが、印刷物の両面を略同時に検査するときには、表面の印刷物画像データと裏面の印刷物画像データとを記録してもよいし、表面側(裏面側)の画像データを記録し、当該表面側(裏面側)の良否検査を行った後に、裏面側(表面側)の画像データを記録し、当該裏面側(表面側)の良否検査を行ってもよい。
なお、当該印刷物の検査終了後の印刷物画像データは、次の被検査対象物の印刷物画像データによって上書き処理される。
【0037】
前記エリア画像比較手段14は、前記第2マスタ画像記録媒体10に記録されているマスタ画像と前記印刷物画像記録媒体13に記録されている印刷物画像とを予め設定されたエリアに区分し、当該区分されたマスタ画像のエリア画像の濃度レベルと、当該エリア画像に対応する印刷物画像のエリア画像の濃度レベルとを比較する手段である。
【0038】
前記欠陥検出手段15は、前記エリア画像比較手段14によって比較された濃度レベルの差が、予め設定した許容値以上であれば、当該部分を欠陥箇所として検出する手段である。前記許容値は、前記判定レベル設定手段9によって判定レベルが設定されているときには、当該判定レベルに基づいて欠陥検出を行う。つまり、図3(c)の判定レベルの強度が高い22aの検査では、小さなシミや欠けでも欠陥箇所として検出し、判定レベルの強度が低い23a,24a,25aの検査では、小さなシミや欠けが存在しても欠陥箇所として検出しない。
【0039】
以下に、印刷物検査方法の処理について説明する。
ここで説明する一実施例では、1ロット目に図3(a)で示したマスタ画像を第1マスタ画像記録媒体5に記憶させ、2ロット目以降に第1マスタ画像記録媒体5に記録させたマスタ画像データに基づいて、印刷物の良否検査を行う。
【0040】
まず、1ロット目の印刷物の良否検査を行うときに、目視検査を行ってマスタ印刷物を選択する。そして、マスタ印刷物を撮像手段11で撮像し、マスタ画像を第1マスタ画像記録媒体5に前記マスタ画像記録手段4が記録する。前記第1マスタ画像記録媒体5には、印刷物のデザイン毎にマスタ画像データを記憶させる。そして、1ロット目の印刷物の良否検査を行う。
【0041】
つぎに前記第1マスタ画像記録媒体5に記録されたマスタ画像データに基づいて、2ロット目以降の印刷物の良否検査を図2のフロー図に基づいて説明する。
操作者は、第1マスタ画像記録媒体5に記録されているマスタ画像データの中から、今回検査を行う印刷物のデザインに対応したマスタ画像データを選択する(S1)。
選択されたマスタ画像データは、前記読出記録手段6によって前記第1マスタ画像記録媒体5から読み出される(S2)。
読み出されたマスタ画像データは、前記第1補正手段7によって、明度補正等の補正処理が行われる(S3)。この明度補正処理により、印刷物3を照明する照明手段の経時劣化に伴う照度や色合いの変化や、照明手段の交換や違いによる照度や色合いの変化や、周辺気温の違いによる照度や色合いの変化等の変化を補正することができる。また、前記補正処理としては明度補正の他に、位置補正、歪み補正等の補正処理を行ってもよい。
補正処理を行ったマスタ画像データは、前記マスク領域設定手段8によって、検査対象となる検査領域と、検査対象とならない検査不要領域とに区分けし、検査不要領域をマスク処理する(S4)。このマスク処理は、検査者が操作部(図示しない)を操作して手作業で検査領域と被検査領域とを区分けしてもよいが、印刷物が書籍の場合には、検査領域が略矩形状であるので、用紙幅の端部から所定領域を検査不要領域として設定するためのデータをマスク処理データ記憶部(図示しない)に記憶させておき、該マスク処理データに基づいて前記マスク領域設定手段8が自動的にマスク処理を行うようにすることもできる。
マスク処理が行われた後は、前記検査領域を検査精度の重要度に基づいて複数の領域に区分けし、図3(c)に示すように、判定レベルを設定する(S5)。
判定レベルが設定されたマスタ画像データは、検査用の第2マスタ画像記録媒体10に記録される(S6)。
【0042】
そして、印刷装置によって印刷された印刷物3を前記撮像手段11で撮像し、印刷物画像データを取得する(S7)。
印刷物画像データは、前記第2補正手段12によって補正処理が行われる(S8)。補正処理の一例としては、前記撮像手段11によって生じる画像の歪みを補正する歪み補正を行った後に、当該補正処理を行った印刷物画像データとマスタ画像データとに基づき、位置補正処理を行う。
前記第2補正手段12によって補正処理が行われた印刷物画像データは、前記印刷物画像記録媒体13に記録される(S9)。
【0043】
そして、第2マスタ画像記録媒体に記録されているマスタ画像のエリア画像の濃度レベルと当該エリア画像に対応する印刷物画像のエリア画像の濃度レベルとを検査領域全てについて比較する(S10)。
比較されたエリア画像の濃度レベルが、前記判定レベル設定手段9によって設定された判定レベルに基づき、許容値の範囲内か否かを判定する(S11)。そして、許容値を超える濃度レベルのエリア画像が存在したときには、印刷物を不良品として排出し(S13)、許容値の範囲内であれば当該印刷物を良品とする(S12)。
そして、次に印刷された印刷物3が存在するときには、前記ステップ7(S7)に戻り、ステップ7(S7)からステップ14(S14)までの処理を繰り返し実行する。
【0044】
上述のように、1ロット目に記録媒体に記録していたマスタ画像データに基づいて、2ロット目以降の印刷物の良否判定を行うので、ロット毎に目視検査を行ってマスタとなる印刷物を選択する必要性がなく、繁雑な作業を省略することができる。さらに、不良箇所を備えた印刷物をマスタとする検査ミスを防止することができるので、不良箇所が存在する印刷物を良品と判定することもなくなり、不良な印刷物を良品として大量に印刷することを防止することができる。
【0045】
また、マスタ画像データを記録する記録媒体を、第1マスタ画像記録媒体5と、当該第1マスタ画像記録媒体5より高速に読み出し可能な第2マスタ画像記録媒体10とから構成させ、検査対象となる印刷物のマスタ画像データのみを第2マスタ画像記録媒体10に記録させることにより当該マスタ画像データを高速読み出し可能とし、第1マスタ画像記録媒体5には、検査した印刷物のマスタ画像データの多数を記録しておくことで、高価格な第2マスタ画像記録媒体の搭載量を少なくすることができ、コストパフォーマンスに優れた印刷物検査装置を得ることができる、。
【0046】
また、前記第1補正手段7及び第2補正手段12によって、明度補正、位置補正、歪み補正等の補正処理をマスタ画像データ及び印刷物画像データに対して行った後に比較し、良否判定を行うので、検査精度の高い良否判定を行うことができる。
【0047】
上述の実施例では、印刷物の一面のみを検査していたが、両面印刷された印刷物の良否判定を行うときには、前記第1マスタ画像記録媒体5から表面側のマスタ画像と、裏面側のマスタ画像とを選択し、選択した2つのマスタ画像に対して、補正処理やマスク領域の設定、判定レベルの設定等の処理を行った後に、前記第2マスタ画像記録媒体10に2つの当該マスタ画像データを記録し、前記撮像手段11によって表面側の印刷物画像と裏面側の印刷物画像とを撮像し、表面側のマスタ画像と表面側の印刷物画像、裏面側のマスタ画像と裏面側の印刷物画像とを比較することにより、印刷物の両面をほぼ同時に(連続して)検査することが可能となる。
【0048】
なお、印刷用紙の地色が白色であったり、印刷によって塗りつぶされる場合には、1ロット目のマスタ画像データを用いて印刷物検査を行うことができるが、例えば、段ボール紙の地色を残した印刷物の検査においては、段ボール紙のロットの違いによって地色が異なることが少なからずあり、1ロット目で選択したマスタ画像データを2ロット目以降の印刷物検査に用いると、当該地色の違いや夾雑物等の影響により、当該ロットの違いにより殆どが不良印刷と判定されることが少なからずあった。そこで、2ロット目以降のロットで簡単な目視検査を行って選択したマスタ印刷物を前記撮像手段11で撮像し、撮像されたマスタ画像データを補正処理等を行った後に前記第2マスタ画像記録媒体10に記録させ、当該第2マスタ画像記録媒体10に記録されているマスタ画像データと、前記印刷物画像記録媒体13に記録されている印刷物画像データとを比較して良否判定を行い、適宜の枚数(例えば、20枚程度)の印刷検査を行う。そして、不良印刷が存在しないときには、当該ロットにおけるマスタ画像データとして第1マスタ画像記録媒体5に記録させてもよい。このようにすることによって、用紙の地色の変化に対応させてマスタ画像データを得ることができる。
【0049】
また、前記第1マスタ画像記録媒体5に記録されるマスタ画像データは、上述したように、撮像手段11によって撮像されたマスタ画像でなくてもよい。例えば、DTP(Desk Top Publishing)や、CTP(Computer To Plate)によって作成されたデザインデータ(デジタルデータ)に基づいて、マスタ画像データを得るようにしてもよい。
しかしながら、印刷における、紙の種類、紙の製造メーカ、インクの種類、インクの製造メーカ、印刷機、印圧、温度、湿度、印刷速度等の要因によって印刷色が異なることや、デザインデータの色空間と印刷物の色空間とが異なっている等から、デザインデータの画像と完全に一致する印刷物を印刷することは不可能であった。したがって、前記デザインデータをそのままマスタ画像データとして使用すると、良品と判定する印刷物を不良と判定することとなり、デジタルデータをマスタ画像データとして使用することはできなかった。
【0050】
そこで、図4に示すように、補正要素記憶手段28とマスタ画像データ作成手段29とを前記印刷物検査システム1(図1参照)に備えさせ、検査対象の印刷物に対応するデザインデータ27を選択すると、印刷処理による誤差要因や、撮像処理による誤差要因等に基づいて、マスタ画像データ30を作成する。
【0051】
前記補正要素記憶手段28は、予め単又は複数の補正要素データを記憶する手段である。補正要素データとは、印刷処理によって発生する印刷誤差データ、撮像処理によって発生する撮像誤差データである。印刷誤差データとは、予め設定された印刷時の条件(例えば、印刷時に使用する紙の種類、紙の製造メーカ、インクの種類、インクの製造メーカ、印刷機、印圧等)で印刷したときに、印刷前の状態から印刷後の状態を導くことができるデータである。具体的な一例としては、印刷前のデータと印刷後のデータとを対応させたルックアップテーブル(Look Up Table(LUT))のデータである。なお、印刷がカラー印刷のときには、カラープロファイルと呼ばれるデータがこの印刷誤差データに含まれる。
また、撮像誤差データとは前記撮像手段11により印刷物を撮像したときに、撮像前の状態から撮像後の状態を導くことができるデータである。このデータの具体的な一例としては、撮像前の状態と撮像後の状態を対応させたルックアップテーブルのデータである。
【0052】
前記マスタ画像データ作成手段29は、図5に示すように、前記デザインデータと、前記補正要素記憶手段28に記憶されている補正要素データ(印刷誤差データと撮像誤差データ)に基づき、デザインデータを予め設定された印刷条件で印刷した状態を想定した後に、前記撮像手段11で撮像した状態を想定した第1想定画像データを作成する手段である。このマスタ画像データ作成手段29で作成されるデータは、前記印刷物画像記録媒体13に記憶されるデータ形式(例えば、1bit画像(モノクロ)、多階調モノクロ画像(グレースケール)、多階調カラー画像等)と同じ形式のデータに変換される。
つまり、図5に示すように、デザインデータ27に基づいてDTP等で印刷物3を印刷する。一方、当該デザインデータ27と前記印刷誤差データとに基づき、当該デザインデータに基づいて印刷した状態を想定したデータを作成し、当該想定した後のデータと前記撮像誤差データとに基づき、印刷処理を行った後に撮像した状態を想定したデータを作成し、当該データをマスタ画像データ30とし、前記第1マスタ画像記録媒体5に記録させる。そして、図1及び図2に示したように、印刷物3を撮像手段11で撮影し、当該マスタ画像データと比較し良否判定を行うことができる。
【0053】
このように、印刷誤差データ及び撮像誤差データに基づいて、マスタ画像データを得ることができるので、1ロット目における目視検査の繁雑な作業も省略することができ、作業効率を高めることができる。また、目視検査を行わず、DTPで使用されるデータに基づいて、マスタ画像データを得ているので、目視による検査ミスがなくなり、検査精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】印刷物検査システムの概要を説明したブロック図である。
【図2】印刷物検査方法のフロー図である。
【図3】(a)は印刷物の説明図であり、(b)は印刷物に切取線と折り線を示した説明図であり、(c)は印刷物の判定レベルの説明図である。
【図4】デザインデータからマスタ画像データを作成することを説明したブロック図である。
【図5】デザインデータに基づいく印刷物検査を説明した図である。
【符号の説明】
【0055】
1 印刷物検査システム
2 マスタ画像
3 印刷物
4 マスタ画像記録手段
5 第1マスタ画像記録媒体
6 読出記録手段
7 第1補正手段
8 マスク領域設定手段
9 判定レベル設定手段
10 第2マスタ画像記録媒体
11 撮像手段
12 第2補正手段
13 印刷物画像記録媒体
14 エリア画像比較手段
15 欠陥検出手段
16 印刷物
17 図柄
18 文字
20 切取線
21 折り線
22a 検査領域
23 差込片
24 折込片
25 貼着片
23a,24a,25a 検査不要領域
27 デザインデータ
28 補正要素記憶手段
29 マスタ画像データ作成手段
30 マスタ画像データ
31 印刷物画像データ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷物の良否判定の基準となるマスタ画像と、撮像手段によって撮像された印刷物の画像とに基づいて良否判定を行う印刷物検査方法であって、
複数の前記マスタ画像を第1マスタ画像記録媒体に記録し、
前記第1マスタ画像記録媒体に記録されたマスタ画像を読み出し、前記第1マスタ画像記録媒体より高速に読み出し可能な第2マスタ画像記録媒体に記録し、
前記第2マスタ画像記録媒体から読み出したマスタ画像のエリア画像の濃度レベルと、当該エリア画像に対応する印刷物画像のエリア画像の濃度レベルとを比較し、
比較した濃度レベルの差が予め設定した許容値以上であれば、当該部分を欠陥箇所として検出する印刷物検査方法。
【請求項2】
前記第1マスタ画像記録媒体に記録されるマスタ画像は、印刷物のデザイン毎にマスタ画像を記録してなる請求項1記載の印刷物検査方法。
【請求項3】
前記マスタ画像と前記印刷物画像のいずれか一方又は双方に、位置補正又は明度補正もしくは歪み補正のいずれか1つ又はそれらを組み合わせた補正処理をした後に、他方の画像と比較してなる請求項1又は2記載の印刷物検査方法。
【請求項4】
前記撮像手段によって撮像された印刷物の画像を第2マスタ画像記録媒体に記録し、前記第2マスタ画像記録媒体に記録された画像をマスタ画像として第1マスタ画像記録媒体に記録してなる請求項1〜3のいずれかに記載の印刷物検査方法。
【請求項5】
前記撮像手段によって撮像された印刷物画像と前記マスタ画像のいずれか一方又は双方に、予め設定された領域を検査不要領域としてマスク処理する請求項1〜4のいずれかに記載の印刷物検査方法。
【請求項6】
前記印刷物画像の検査領域を、検査精度の重要度に基づいて複数の領域に区分けし、当該重要度に対応した判定レベルで比較する請求項5記載の印刷物検査方法。
【請求項7】
前記第2マスタ画像記録媒体は複数のマスタ画像を同時に記録し、
前記撮像手段によって撮像された印刷物画像に対応させて前記マスタ画像を選択し、前記印刷物画像と当該印刷物画像に対応するマスタ画像とを比較してなる請求項1〜6のいずれかに記載の印刷物検査方法。
【請求項8】
被検査対象の印刷物の印刷処理に特有の誤差因子と前記撮像手段に特有の誤差因子とコンピュータで作成されたデザインデータとに基づき、
前記デザインデータを印刷処理したものを前記撮像手段で撮像した状態を想定した画像データを作成し、当該画像データをマスタ画像のデータとする請求項1〜7のいずれかに記載の印刷物検査方法。
【請求項9】
印刷物の良否判定の基準となるマスタ画像と、撮像手段によって撮像された印刷物の画像とに基づいて良否判定を行う印刷物検査システムであって、
複数の前記マスタ画像を第1マスタ画像記録媒体に記録するマスタ画像記録手段と、
前記第1マスタ画像記録媒体に記録されている複数のマスタ画像の中から1つのマスタ画像を読み出し、前記第1マスタ画像記録媒体より高速に読み出し可能な第2マスタ画像記録媒体へ記録する読出記録手段と、
前記記録媒体から読み出したマスタ画像のエリア画像の濃度レベルと、当該エリア画像に対応する印刷物画像のエリア画像の濃度レベルとを比較するエリア画像比較手段と、
前記エリア画像比較手段によって比較された濃度レベルの差が、予め設定した許容値以上であれば、当該部分を欠陥箇所として検出する欠陥検出手段とを備えることを特徴とする印刷物検査システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−8841(P2008−8841A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181537(P2006−181537)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000109200)ダックエンジニアリング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】