原子発振器
【課題】従来よりも周波数精度を向上させることができる原子発振器を提供する。
【解決手段】磁場発生部40は、アルカリ金属原子20の第1基底準位と第2基底準位にゼーマン分裂を生じさせる磁場を発生させる。周波数制御部50は、光検出部30の検出信号32に基づいて、光源10が出射する第1の光と第2の光が、順に、複数の所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替える。磁場制御部60は、検出信号32に基づいて、第1の光と第2の光が、所定の磁気量子数の各々に対応する共鳴光対となるときの第1基底準位と第2基底準位のエネルギー差を特定可能なプロファイル情報を順に取得し、アルカリ金属原子20にかかる磁場の強度が一定になるように磁場発生部40が発生させる磁場の強度を制御する。
【解決手段】磁場発生部40は、アルカリ金属原子20の第1基底準位と第2基底準位にゼーマン分裂を生じさせる磁場を発生させる。周波数制御部50は、光検出部30の検出信号32に基づいて、光源10が出射する第1の光と第2の光が、順に、複数の所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替える。磁場制御部60は、検出信号32に基づいて、第1の光と第2の光が、所定の磁気量子数の各々に対応する共鳴光対となるときの第1基底準位と第2基底準位のエネルギー差を特定可能なプロファイル情報を順に取得し、アルカリ金属原子20にかかる磁場の強度が一定になるように磁場発生部40が発生させる磁場の強度を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘起透過(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)方式(CPT(Coherent Population Trapping)方式と呼ばれることもある)による原子発振器は、アルカリ金属原子に、可干渉性(コヒーレント性)を有し、かつ、互いに異なる特定の波長(周波数)を有する2種類の共鳴光を同時に照射すると共鳴光の吸収が停止する現象を利用した発振器である。
【0003】
アルカリ金属原子と2種類の共鳴光との相互作用機構は、図14に示すように、Λ型3準位系モデルで説明できることが知られている。アルカリ金属原子は2つの基底準位を有し、基底準位1と励起準位とのエネルギー差に相当する周波数を有する共鳴光1、あるいは基底準位2と励起準位とのエネルギー差に相当する周波数を有する共鳴光2を、それぞれ単独でアルカリ金属原子に照射すると、よく知られているように光吸収が起きる。ところが、このアルカリ金属原子に共鳴光1と共鳴光2を同時に照射すると、2つの基底準位の重ね合わせ状態、即ち量子干渉状態になり、励起準位への励起が停止して共鳴光1と共鳴光2がアルカリ金属原子を透過する透明化現象(EIT現象)が起きる。例えば、セシウム原子は、D2線(波長は852.1nm)の基底状態が超微細構造によってF=3、4の準位を有する2つの状態に分裂しており、F=3の基底準位1とF=4の基底準位2のエネルギー差に相当する周波数は9.192631770GHzである。従って、セシウム原子に、波長が852.1nm付近で周波数差が9.192631770GHzの2種類のレーザー光が同時に照射されると、これら2種類のレーザー光が共鳴光対となってEIT現象が起こる。
【0004】
そして、アルカリ金属原子に周波数の異なる2種類の光を照射したとき、この2種類の光が共鳴光対となってアルカリ金属原子がEIT現象を起こすか否かで光吸収挙動が急峻に変化する。この急峻に変化する光吸収挙動を示す信号はEIT信号と呼ばれ、共鳴光対の周波数差が2つの基底準位のエネルギー差ΔE12に相当する周波数(例えば、セシウム原子であれば9.192631770GHz)と正確に一致するときにEIT信号のレベルがピーク値を示す。そこで、EIT信号のピーク値を検出し、アルカリ金属原子に照射する2種類の光が共鳴光対となるように、すなわち、この2種類の光の周波数差がΔE12に相当する周波数と正確に一致するように周波数制御することで、高精度な発振器を実現することができる。
【0005】
ところで、アルカリ金属原子に磁場がかかると、2つの基底準位がそれぞれ磁気量子数に応じて複数の準位に分裂(ゼーマン分裂と呼ばれる)することが知られている。すなわち、2つの基底準位のエネルギー差ΔE12は磁気量子数毎に異なるため、共鳴光対の周波数差を変化させると複数のEIT信号が出現する。このとき、磁場の強度が微小であればこれら複数のEIT信号が重なり合って線幅の広い1つのEIT信号となるため、このピーク値を正確に検出することが難しくなり、周波数精度が劣化する。しかしながら、外乱による磁場の影響を完全に無くすことは極めて難しい。そこで、弱磁場では磁場の強度が変動しても磁気量子数0に対する2つの基底準位のエネルギー差ΔE12がほぼ一定と見なせることに着目し、複数のEIT信号が完全に分離する程度の弱磁場をアルカリ金属原子に印加して磁気量子数0に対するEIT信号のピーク値を検出することで周波数精度を向上させる原子発振器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6265945号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、外乱の影響をキャンセルして弱磁場を安定制御するのは非常に困難である。さらに、弱磁場であっても厳密には2つの基底準位のエネルギー差ΔE12は微妙に変動するため、従来の方式では周波数精度をさらに向上させることは難しい。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、従来よりも周波数精度を向上させることができる原子発振器を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、気体状のアルカリ金属原子と、可干渉性を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させて前記アルカリ金属原子に照射する光源と、前記アルカリ金属原子の第1基底準位と第2基底準位にゼーマン分裂を生じさせる磁場を発生させる磁場発生部と、前記アルカリ金属原子を透過した光を受け取り、受け取った光の強度に応じた検出信号を生成する光検出部と、前記検出信号に基づいて、前記第1の光と前記第2の光が、前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を起こさせる共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う周波数制御部と、前記検出信号に基づいて、前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する磁場制御部と、を含み、前記周波数制御部は、前記第1の光と前記第2の光が、順に、ゼーマン分裂により生じた複数の前記第1基底準位と複数の前記第2基底準位のうちの複数の所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、前記磁場制御部は、前記第1の光と前記第2の光が、前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差を特定可能なプロファイル情報を順に取得し、取得した複数の前記プロファイル情報に基づいて、前記アルカリ金属原子にかかる磁場の強度が一定になるように前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する。
【0010】
「アルカリ金属」とは、元素周期律表の第一列にある第1族に属する元素(Na,K,Rb,Cs,・・・)のことをいう。
【0011】
一般に、アルカリ金属原子にかかる磁場の強度が一定であれば、アルカリ金属原子の任意の磁気量子数に対応する2つの基底準位のエネルギー差は一定である。従って、磁場の強度が変わらなければ、温度変化等の要因で原子発振器の周波数が変化して光検出強度が一時的に下がっても、いずれか1つの磁気量子数に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こすEIT現象が継続されるようにフィードバック制御をかけることで高い周波数精度の原子発振器を実現することができる。磁場の強度を一定に保つには、アルカリ金属原子を透過する光の検出強度の変化を検出して磁場の変化量を特定することが考えられるが、単純に光検出強度の変化を検出しても、磁場の強度が変化したために光検出強度が変化したのか温度変化等の影響で発振周波数がずれたために光検出強度が変化したのか判断することができない。
【0012】
そこで、本発明では、磁場強度の変化に対するアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差の変化の度合いが磁気量子数毎に特有であることに着目し、複数の所定の磁気量子数の各々に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対を順番に発生させ、検出信号に基づいて各々の磁気量子数に対応する2つの基底準位のエネルギー差を特定可能な複数のプロファイル情報を順に取得し、取得した複数のプロファイル情報に基づいて磁場強度の変化量を特定し、磁場の強度が一定になるように制御する。このような構成の本発明に係る原子発振器によれば、アルカリ金属原子にかかる磁場強度の変化量を確実に捉えて磁場強度の変動を微小な幅に抑えることができるので、従来よりも周波数精度を向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係る原子発振器によれば、従来のようにアルカリ金属原子に弱磁場をかける必要はなく、従来よりも外乱による磁場の変化量を相対的に低減させることができるので磁場の安定制御が容易であり、そのため周波数安定性を高めることができる。
【0014】
(2)この原子発振器において、前記光源は、所定の周波数の変調信号によって周波数変調がかけられることにより、前記第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させ、前記周波数制御部は、前記検出信号に基づく発振制御電圧に応じた周波数で発振する発振信号を生成する電圧制御発振器と、前記発振信号を所与の周波数変換率で周波数変換して前記変調信号を生成する周波数変換部と、前記第1の光と前記第2の光が、順に、前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記切り替えタイミングで前記周波数変換率を切り替える周波数切替制御部と、を含むようにしてもよい。
【0015】
このようにすれば、周波数変換部が生成する変調信号の周波数(変調周波数)を切り替えて光源に変調をかけることで、複数の磁気量子数の各々に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こすEIT現象を順番に発生させることが容易になる。
【0016】
(3)この原子発振器において、前記磁場制御部は、前記第1の光と前記第2の光が前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの前記発振制御電圧の値を前記プロファイル情報として順に取得するようにしてもよい。
【0017】
(4)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記第1の光と前記第2の光が第1の磁気量子数、第2の磁気量子数及び第3の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、前記磁場制御部は、前記第1の光と前記第2の光が前記第1の磁気量子数、第2の磁気量子数及び第3の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときに、第1の前記プロファイル情報、第2の前記プロファイル情報及び第3の前記プロファイル情報をそれぞれ取得し、前記第1のプロファイル情報、前記第2のプロファイル情報及び前記第3のプロファイル情報に基づいて、前記第1の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差と、前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第3の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差との比を計算し、計算結果に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御するようにしてもよい。
【0018】
磁場強度の変化に対して、アルカリ金属原子の3つの磁気量子数m1,m2,m3の各々に対応する2つの基底準位のエネルギー差の変化の度合はそれぞれ異なるので、磁気量子数m1に対応する2つの基底準位のエネルギー差と磁気量子数m2に対応する2つの基底準位のエネルギー差の差と、磁気量子数m2に対応する2つの基底準位のエネルギー差と磁気量子数m3に対応する2つの基底準位のエネルギー差の差との比の値によって磁場の強度を一意に特定することができる。従って、この原子発振器によれば、この比の値を計算することで磁場の強度が一定になるようにフィードバック制御することができる。
【0019】
(5)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記第1の光と前記第2の光が第1の磁気量子数及び第2の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、前記磁場制御部は、前記第1の光と前記第2の光が前記第1の磁気量子数及び第2の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときに、第1の前記プロファイル情報及び第2の前記プロファイル情報をそれぞれ取得し、前記第1のプロファイル情報及び前記第2のプロファイル情報に基づいて、前記第1の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差を計算し、計算結果に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御するようにしてもよい。
【0020】
磁場強度の変化に対して、アルカリ金属原子の3つの磁気量子数m1,m2の各々に対応する2つの基底準位のエネルギー差の変化の度合はそれぞれ異なるので、磁気量子数m1に対応する2つの基底準位のエネルギー差と磁気量子数m2に対応する2つの基底準位のエネルギー差の差の値によって磁場の強度を一意に特定することができる。従って、この原子発振器によれば、この差の値を計算することで磁場の強度が一定になるようにフィードバック制御することができる。
【0021】
(6)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記磁場発生部が発生させる磁場の強度変動の程度に応じて、前記切り替えタイミングの周期を変更するようにしてもよい。
【0022】
(7)この原子発振器は、前記プロファイル情報又は前記プロファイル情報に基づく磁場の強度を特定可能な磁場強度情報を記憶する記憶部を含み、前記周波数制御部は、前記記憶部に記憶された前記プロファイル情報又は前記磁場強度情報に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度変動の程度を判定し、判定結果に基づいて前記切り替えタイミングの周期を変更するようにしてもよい。
【0023】
このようにすれば、例えば、頻繁に磁場が変動する場合や磁場の変動量が大きい場合には切り替えタイミングの周期を短くすることで磁場の調整周期を短くし、磁場がほとんど変動しない場合には切り替えタイミングの周期を長くすることで磁場の調整周期を長くするといったより細かい磁場制御が可能になり、周波数安定度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態の原子発振器の機能ブロック図。
【図2】第1実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図3】半導体レーザーの出射光の周波数スペクトルを示す概略図。
【図4】セシウム原子のゼーマン分裂した基底準位と共鳴光の関係について説明するための図。
【図5】セシウム原子に磁場をかけたときの磁束密度と各磁気量子数mに対するf12(m,m)の関係を示す図。
【図6】セシウム原子にかかる磁場の強度変化に伴うEIT信号の変化の様子の一例を示す図。
【図7】セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2)又はR−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(0,−1)の関係を示す図。
【図8】セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(+1,0)/ΔE(0,−1)又はR−1=ΔE(0,−1)/ΔE(+1,0)の関係を示す図。
【図9】セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(+1,0)/ΔE(−1,−2)又はR−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(+1,0)の関係を示す図。
【図10】第1実施形態の原子発振器の変形例の構成を示す図。
【図11】セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)の関係を示す図。
【図12】第2実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図13】第3実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図14】アルカリ金属原子のエネルギー準位を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0026】
図1は、本実施形態の原子発振器の機能ブロック図である。
【0027】
本実施形態の原子発振器1は、光源10、アルカリ金属原子20、光検出部30、磁場発生部40、周波数制御部50及び磁場制御部60を含んで構成されている。
【0028】
光源10は、可干渉性(コヒーレント性)を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光12を発生させて気体状のアルカリ金属原子20(ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等)に照射する。例えば、レーザー光は可干渉性(コヒーレント性)を有する光である。
【0029】
光検出部30は、アルカリ金属原子20を透過した光(透過光)22を受け取り、受け取った光の強度に応じた検出信号32を生成する。
【0030】
ここで、例えば、気体状のアルカリ金属原子20を密閉容器に封入したガスセルを光源10と光検出部30の間に配置するような形態でもよい。また、密閉容器内に光源10、気体状のアルカリ金属20、光検出部30を共に封入し、光源10と光検出部30を対向させて配置するような形態でもよい。
【0031】
磁場発生部40は、アルカリ金属原子20の第1基底準位と第2基底準位にゼーマン分裂を生じさせる磁場を発生させる。磁場発生部40は、例えば、コイルによって実現することができる。
【0032】
磁場制御部60は、光検出部30の検出信号32に基づいて、磁場発生部40が発生させる磁場の強度を制御する。具体的には、磁場制御部60は、光源10が発生させる第1の光と第2の光が、所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの当該第1基底準位と当該第2基底準位のエネルギー差を特定可能なプロファイル情報を順に取得し、取得した複数の当該プロファイル情報に基づいて、アルカリ金属原子20にかかる磁場の強度が一定になるように磁場発生部40が発生させる磁場の強度を制御する。例えば、磁場発生部40がコイルであれば、磁場制御部60は、取得した複数のプロファイル情報に基づいて当該コイルに流れる電流量を制御することにより磁場の強度を一定に制御することができる。
【0033】
周波数制御部50は、光検出部30の検出信号32に基づいて、光源10が発生させる第1の光と第2の光が、アルカリ金属原子20にEIT現象を起こさせる共鳴光対となるように、第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う。具体的には、周波数制御部50は、光源10が発生させる第1の光と第2の光が、順に、ゼーマン分裂により生じたアルカリ金属原子20の複数の第1基底準位と複数の第2基底準位のうちの複数の所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替える。なお、第1の光と第2の光が共鳴光対となるのは、その周波数差がアルカリ金属原子20の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と正確に一致する場合だけでなく、アルカリ金属原子20がEIT現象を起こす範囲の微小な誤差を有する場合も含まれる。
【0034】
周波数制御部50は、例えば、電圧制御発振器52、周波数変換部54、周波数切替制御部56を含んで構成することができる。ここで、電圧制御発振器52は、光検出部30の検出信号32に基づく発振制御電圧に応じた周波数で発振する発振信号を生成する。また、周波数変換部54は、電圧制御発振器52の発振信号を所与の周波数変換率で周波数変換して所定の周波数の変調信号を生成する。また、周波数切替制御部56は、光源10が発生させる第1の光と前記第2の光が、順に、所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで周波数変換部54の周波数変換率を切り替える。そして、光源10は、周波数変換部54が生成する変調信号によって周波数変調がかけられることにより、第1の光と第2の光を含む複数の光12を発生させる。この場合、磁場制御部60は、光源10が発生させた第1の光と第2の光が所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの電圧制御発振器52の発振制御電圧の値をプロファイル情報として順に取得するようにしてもよい。
【0035】
周波数制御部50は、例えば、磁場発生部40が発生させる磁場の強度変動の程度に応じて、切り替えタイミング(第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替えるタイミング)の周期を変更するようにしてもよい。具体的には、原子発振器1が、磁場制御部60が取得した複数のプロファイル情報又は当該プロファイル情報に基づく磁場の強度を特定可能な磁場強度情報を記憶する記憶部70を含み、周波数制御部50は、記憶部70に記憶されたプロファイル情報又は磁場強度情報に基づいて磁場発生部40が発生させる磁場の強度変動の程度を判定し、判定結果に基づいて、切り替えタイミングの周期を変更するようにしてもよい。
【0036】
以下、本実施形態の原子発振器のより具体的な構成について説明する。
【0037】
(1)第1実施形態
図2は、第1実施形態の原子発振器の構成を示す図である。
【0038】
図2に示すように、第1実施形態の原子発振器100Aは、半導体レーザー110、ガスセル120、光検出器130、磁場発生部140、増幅回路150、検波回路160、電流駆動回路170、低周波発振器180、検波回路190、電圧制御水晶発振器(VCXO)200、変調回路210、低周波発振器220、周波数変換回路230、演算回路240、比較回路250、磁場制御回路260、周波数切替制御回路270を含んで構成されている。
【0039】
半導体レーザー110は、周波数の異なる複数の光を発生させてガスセル120に照射する。具体的には、電流駆動回路170が出力する駆動電流によって、半導体レーザー110の出射光の中心波長λ0(中心周波数はf0)がアルカリ金属原子の所定の輝線(例えば、セシウム原子のD2線)の波長と一致するように制御される。そして、半導体レーザー110は、周波数変換回路230の出力信号を変調信号(変調周波数fm)として変調がかけられる。すなわち、電流駆動回路170による駆動電流に、周波数変換回路230の出力信号(変調信号)を重畳することにより、半導体レーザー110は変調がかかった光を発生させる。このような半導体レーザー110は、例えば、端面発光レーザー(Edge Emitting Laser)や、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)等の面発光レーザーなどで実現することができる。
【0040】
図3は、半導体レーザー110の出射光の周波数スペクトルを示す概略図である。図3において、横軸は光の周波数であり、縦軸は光の強度である。図3に示すように、半導体レーザー110の出射光には、中心周波数f0(=v/λ0:vは光の速度、λ0は光の波長)を有する光と、その両側にfm間隔の周波数をそれぞれ有する複数種類の光が含まれる。
【0041】
ガスセル120は、容器中に気体状のアルカリ金属原子(ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等)が封入されたものである。
【0042】
磁場発生部140は、ガスセル120と隣接して配置されており、ガスセル120に対して磁場を発生させる。磁場発生部140が発生させる磁場の強度は、磁場制御回路260によって制御される。磁場発生部140は、例えば、コイルを用いて実現することができ、磁場制御回路260によりコイルを流れる電流の大きさを制御することで、発生する磁場の強度を調整することができる。
【0043】
ガスセル120に含まれるアルカリ金属原子に磁場がかかると、アルカリ金属原子の2つの基底準位は、磁場によるエネルギー分裂(ゼーマン分裂)によって、磁気量子数が異なる複数の準位(ゼーマン分裂準位)に分かれる。ここで、ゼーマン分裂準位の数はアルカリ金属原子の種類によって異なることが知られている。例えば、セシウム原子であれば、図4に示すように、基底準位1は、エネルギーが高い順に磁気量子数m=−3,−2,−1,0,+1,+2,+3の7つのゼーマン分裂準位に分かれる。一方、基底準位2は、エネルギーが高い順に磁気量子数m’=+4,+3,+2,+1,0,−1,−2,−3,−4の9つのゼーマン分裂準位に分かれる。従って、(m,m’)=(+3,+3),(+2,+2),(+1,+1),(0,0),(−1,−1),(−2,−2),(−3,−3)の各々に対する基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12はそれぞれ異なる。そのため、(m,m’)=(+3,+3),(+2,+2),(+1,+1),(0,0),(−1,−1),(−2,−2),(−3,−3)のいずれかに対するΔE12に相当する周波数と一致する周波数差を有する2種類の光が共鳴光対(共鳴光1、共鳴光2)となり、セシウム原子にEIT現象を生じさせる。なお、以下では、磁気量子数mの基底準位1と磁気量子数m’の基底準位2のエネルギー差をΔE12(m,m’)と表記する。また、ΔE12(m,m’)に相当する周波数をf12(m,m’)と表記する。なお、ΔE12(m,m’)=h・f12(m,m’)(h:プランク定数)の関係を満たす。
【0044】
光検出器130は、ガスセル120を透過した光(透過光)を検出し、光の強度に応じた検出信号を出力する。EIT現象を起こすアルカリ金属原子の数が多いほどガスセル120を透過する光(透過光)の強度が増大し、光検出器130の出力信号(検出信号)の電圧レベルが高くなる。
【0045】
光検出器130の出力信号は増幅回路150で増幅され、検波回路160及び検波回路190に入力される。検波回路160は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器180の発振信号を用いて増幅回路150の出力信号を同期検波する。
【0046】
電流駆動回路170は、検波回路160の出力信号に応じた大きさの駆動電流を発生して半導体レーザー110に供給し、半導体レーザー110の出射光の中心周波数f0(中心波長λ0)を制御する。なお、検波回路160による同期検波を可能とするために、電流駆動回路170が発生する駆動電流には低周波発振器180の発振信号(検波回路160に供給される発振信号と同じ信号)が重畳される。
【0047】
半導体レーザー110、ガスセル120、光検出器130、増幅回路150、検波回路160、電流駆動回路170を通るフィードバックループにより、半導体レーザー110が発生させる光の中心周波数f0(中心波長λ0)がアルカリ金属原子の所定の輝線(例えば、セシウム原子のD2線)の波長と一致するように微調整される。
【0048】
検波回路190は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器220の発振信号を用いて増幅回路150の出力信号を同期検波する。そして、検波回路190の出力信号の大きさに応じて、電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振周波数が微調整される。電圧制御水晶発振器(VCXO)200は、例えば、数MHz程度で発振するようにしてもよい。
【0049】
変調回路210は、検波回路190による同期検波を可能とするために、低周波発振器220の発振信号(検波回路190に供給される発振信号と同じ)を変調信号として電圧制御水晶発振器(VCXO)200の出力信号を変調する。変調回路210は、周波数混合器(ミキサー)、周波数変調(FM:Frequency Modulation)回路、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)回路等により実現することができる。
【0050】
周波数変換回路230は、設定された周波数変換率に応じて、変調回路210の出力信号を周波数変換する。周波数変換回路230は、例えば、設定した逓倍率で、変調回路210の出力信号の周波数を逓倍するPLL(Phase Locked Loop)回路により実現することができる。
【0051】
そして、電流駆動回路170による駆動電流に周波数変換回路230の出力信号を重畳することにより、半導体レーザー110は、周波数変換回路230の出力信号を変調信号(変調周波数fm)として変調がかけられ、図3に示したような周波数スペクトラムを有する出射光を発生させる。
【0052】
本実施形態では、半導体レーザー110、ガスセル120、光検出器130、増幅回路150、検波回路190、電圧制御水晶発振器(VCXO)200、変調回路210、周波数変換回路230を通るフィードバックループにより、周波数変換回路230の出力信号(変調信号)の周波数(変調周波数fm)が、通常は(m,m’)=(0,0)に対する2つの基底準位のエネルギー差ΔE12(0,0)に相当する周波数f12(0,0)の1/2の周波数と正確に一致するように微調整される。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、f12(0,0)=9.192631770GHzなので、変調周波数fmは4.596315885GHzになる。すなわち、図3に示したような半導体レーザー110が出射する複数の光のうち、周波数差が2×fmの2種類の光、例えば1次のサイドバンドの2種類の光(周波数がf1=f0+fmの光とf2=f0−fmの光)が共鳴光対となり、アルカリ金属原子にEIT現象を生じさせるようにフィードバック制御がかかる。
【0053】
ところで、アルカリ金属原子にかかる磁場の強度が変化すると基底準位1と基底準位2の各ゼーマン分裂準位が変化し、2つの基底準位のエネルギー差ΔE12(m,m’)に相当する周波数f12(m,m’)も磁場の強度に応じて変化する。一例として、セシウム原子に磁場をかけたときの磁束密度とf12(m,m’)の関係を図5に示す。図5において、横軸は磁束密度を表し、縦軸は周波数を表す。磁束密度が0の時(セシウム原子に磁場がかかっていない時)は、ゼーマン分裂が生じないため、基底準位1と基底準位2はそれぞれ1つのレベルに縮退している。そのため、f12(+3,+3),f12(+2,+2),f12(+1,+1),f12(0,0),f12(−1,−1),f12(−2,−2),f12(−3,−3)はすべて同じ値(9.192631770GHz)である。一方、セシウム原子に磁場がかかるとゼーマン分裂が生じ、f12(+3,+3),f12(+2,+2),f12(+1,+1),f12(0,0),f12(−1,−1),f12(−2,−2),f12(−3,−3)は、磁束密度に応じてそれぞれ変化する。従って、共鳴光対の周波数差がf12(+3,+3),f12(+2,+2),f12(+1,+1),f12(0,0),f12(−1,−1),f12(−2,−2),f12(−3,−3)のいずれかと一致するようにフィードバック制御をかける場合、正確に一定の強度の磁場を発生させていたとしても、外乱による磁場が加わることにより、共鳴光対の周波数差が変動し、周波数精度を劣化させる要因となる。
【0054】
図6(A)〜図6(C)は、セシウム原子にかかる磁場の強度変化に伴うEIT信号の変化の様子の一例を示す図である。図6(A)〜図6(C)において、横軸は周波数を表し、縦軸は信号強度を表す。なお、以下では、磁気量子数m=m1の基底準位1と磁気量子数m’=m1の基底準位2のエネルギー差ΔE12(m1,m1)と磁気量子数m=m2の基底準位1と磁気量子数m’=m2の基底準位2のエネルギー差ΔE12(m2,m2)との差(ΔE12(m1,m1)−ΔE12(m2,m2))をΔE(m1,m2)と表記する。また、ΔE(m1,m2)に相当する周波数をf(m1,m2)と表記する。
【0055】
図6(A)は、セシウム原子に図5の実線で示す磁束密度の磁場がかかった場合の(m,m’)=(−2,−2),(−1,−1),(0,0)に対するEIT信号を左から順に示している。図6(A)に示すように、(m,m’)=(−1,−1)に対するEIT信号がピークとなる周波数と(m,m’)=(−2,−2)に対するEIT信号がピークとなる周波数の差は、ΔE(−1,−2)に相当する周波数f(−1,−2)と一致する。また、(m,m’)=(0,0)に対するEIT信号がピークとなる周波数と(m,m’)=(−1,−1)に対するEIT信号がピークとなる周波数の差は、ΔE(0,−1)に相当する周波数f(0,−1)と一致する。
【0056】
図6(B)は、セシウム原子に図5の破線で示す磁束密度の磁場がかかった場合(図6(A)よりも磁場が弱い場合)の(m,m’)=(−2,−2),(−1,−1),(0,0)に対するEIT信号を左から順に示している。図6(B)では、(m,m’)=(−2,−2)に対するEIT信号がピークとなる周波数が図6(A)の場合よりも高くなり、(m,m’)=(−1,−1),(0,0)に対する各EIT信号がピークとなる周波数がいずれも図6(A)の場合よりも低くなる。結果的に、f(0,−1)とf(−1,−2)の比、すなわちΔE(0,−1)とΔE(−1,−2)の比R(R=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2))は、図6(A)の場合よりも大きくなる。
【0057】
図6(C)は、セシウム原子に図5の一点鎖線で示す磁束密度の磁場がかかった場合(図6(A)よりも磁場が強い場合)の(m,m’)=(−2,−2),(−1,−1),(0,0)に対するEIT信号を左から順に示している。図6(C)では、(m,m’)=(−2,−2),(−1,−1),(0,0)に対する各EIT信号がピークとなる周波数がいずれも図6(A)の場合よりも高くなる。結果的に、f(0,−1)とf(−1,−2)の比、すなわちΔE(0,−1)とΔE(−1,−2)の比R(R=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2))は、図6(A)の場合よりも小さくなる。
【0058】
図7(A)は、セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2)の関係を示す図である。図7(A)において、横軸は磁束密度を表し、縦軸はRの値を表す。図7(A)に示すように、Rは、磁束密度が約0.3Tよりも小さい範囲では単調減少し、磁束密度が0.3T付近で最小となり、磁束密度が約0.3Tよりも大きい範囲では単調増加する。従って、磁場が0.3Tよりも小さい所定の範囲か0.3Tよりも大きい所定の範囲のいずれか一方でのみ変化するのであれば、磁場の強度はRに対して一義的に定まる。すなわち、Rを求めればその時の磁場の強度がわかるので、磁場の強度が所定の大きさになるようにフィードバック制御をかけることができる。
【0059】
また、図7(A)から明らかなように、磁束密度が約0.1T〜約0.2Tの範囲では磁束密度の変化に対してRの変化が特に大きいため、磁場強度のフィードバック制御が容易である。そこで、本実施形態では、例えば、ΔE(0,−1)とΔE(−1,−2)の比Rを求めて、磁束密度が常に約0.1T〜約0.2Tの範囲内の所定の値(例えば0.15T)になるようにフィードバック制御をかける。
【0060】
具体的には、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対を順番に発生させるために、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率を所定のタイミングでN0,N1,N2の3通りに切り替える。例えば、通常動作時は(m,m’)=(0,0)に対する共鳴光対を発生させておき、磁場強度の調整時は(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対を順番に発生させる。例えば、周波数切替制御回路270に一定周期でカウント動作を繰り返す自走カウンターを持たせることで、磁場強度の調整を行うためのタイミング信号を定期的に発生させることができる。
【0061】
演算回路240は、現在の磁場の強度の情報を得るために、周波数切替制御回路270からのタイミング信号に基づいてΔE(0,−1)とΔE(−1,−2)の比R(R=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2))を計算する処理を行う。R=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2)は次式(1)のように変形することができる。
【0062】
【数1】
【0063】
そして、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)に対して、安定状態(ロック状態)での電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振周波数をそれぞれfV0,fV1,fV2とすると、f12(0,0)=2×N0×fV0,f12(−1,−1)=2×N1×fV1,f12(−2,−2)=2×N2×fV2なので、式(1)は次式(2)のように変形することができる。
【0064】
【数2】
【0065】
さらに、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)に対して、安定状態(ロック状態)での電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振制御電圧をそれぞれVc0,Vc1,Vc2とすると、係数αを用いてfV0=α×Vc0,fV1=α×Vc1,fV1=α×Vc1と表せるから、式(2)は次式(3)のように変形することができる。
【0066】
【数3】
【0067】
式(3)において、N0,N1,N2は、例えばPLLの逓倍率であるから固定値である。従って、電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振制御電圧Vc0,Vc1,Vc2がわかればRを計算することができる。
【0068】
そこで、演算回路240は、まず、周波数変換回路230の周波数変換率がN0の時に発振制御電圧Vc0(第1のプロファイル情報の一例)を所定のタイミングで取得する。次に、演算回路240は、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率をN0からN1に切り替えるタイミングに同期する所定のタイミングで発振制御電圧Vc1(第2のプロファイル情報の一例)を取得する。次に、演算回路240は、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率をN1からN2に切り替えるタイミングに同期する所定のタイミングで発振制御電圧Vc2(第3のプロファイル情報の一例)を取得する。ここで、所定のタイミングは、周波数変換回路230の周波数変換率がN0,N1,N2の各々の設定において安定状態(ロック状態)に達した後であればよい。例えば、周波数変換回路230の周波数変換率を切り替えてから所定時間が経過すれば安定状態(ロック状態)に達したとみなしてもよいし、電圧制御水晶発振器(VCXO)200の制御電圧の変動幅が所定範囲に収束すれば安定状態(ロック状態)に達したとみなしてもよい。このようにして、演算回路240は、式(3)におけるVc0,Vc1,Vc2を取得し、式(3)に基づいてRを計算する。
【0069】
比較回路250は、演算回路240が計算したRを基準値R0と比較し、比較結果(差分)を磁場制御回路260に供給する。ここで、本実施形態では、基準値R0は、例えば、外乱により加えられる磁場が0の状態での、磁束密度が0.15TにおけるΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2)の値であり、あらかじめ計算により求められた値である。
【0070】
そして、磁場制御回路260は、比較回路250の比較結果に基づいて、演算回路240の計算結果がR0と一致するように、磁場発生部140が発生させる磁場の強度を制御する。例えば、磁場発生部140がコイルであれば、磁場制御回路260はそのコイルを流れる電流量を変化させることで磁場の強度を制御することができる。ここで、演算回路240の計算結果のRがR0よりも大きい場合、磁場制御回路260は、磁場発生部140が発生させる磁場の強度をR−R0に応じた分だけ大きくする。一方、演算回路240の計算結果のRがR0よりも小さい場合、磁場制御回路260は、磁場発生部140が発生させる磁場の強度をR0−Rに応じた分だけ小さくする。R−R0と磁場強度の制御量の対応テーブルを記憶しておき、磁場制御回路260がこのテーブルを参照して計算結果のRに応じた制御を行うようにしてもよい。このようにして、ガスセル120にかかる磁場の強度が常に一定になるように制御することができる。
【0071】
なお、ΔE(−1,−2)とΔE(0,−1)の比、すなわち、R−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(0,−1)を計算して(図7(B))、磁場強度のフィードバック制御をすることもできる。
【0072】
なお、半導体レーザー110、磁場発生部140は、それぞれ図1の光源10、磁場発生部40に対応する。また、光検出器130と増幅回路150による構成は、図1の光検出部30に対応する。また、検波回路160、電流駆動回路170、低周波発振器180、検波回路190、電圧制御水晶発振器(VCXO)200、変調回路210、低周波発振器220、周波数変換回路230、周波数切替制御回路270による構成は、図1の周波数制御部50に対応する。また、電圧制御水晶発振器(VCXO)200、周波数変換回路230、周波数切替制御回路270は、それぞれ図1の電圧制御発振器52、周波数変換部54、周波数切替制御部56に対応する。また、演算回路240、比較回路250、磁場制御回路260による構成は、図1の磁場制御部60に対応する。
【0073】
以上に説明したように、第1実施形態の原子発振器では、例えば図5に示したように、磁場強度の変化に対して、異なる3つの磁気量子数m1,m2,m3に対する2つの基底準位のエネルギー差、すなわちΔE12(m1,m1),ΔE12(m2,m2),ΔE12(m3,m3)の変化の度合いが互いに異なることに着目し、所定の範囲(例えば、セシウム原子であれば約0.1T〜約0.2Tの範囲)の磁場の強度とR={ΔE12(m1,m1)−ΔE12(m2,m2)}/{ΔE12(m2,m2)−ΔE12(m3,m3)}の値が1対1に対応することに着目し、磁場強度の調整を行う。具体的には、半導体レーザー110に、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対を順番に発生させ、光検出器130の検出信号に基づいてΔE12(0,0),ΔE12(−1,−1),ΔE12(−2,−2)をそれぞれ特定可能な発振制御電圧Vc0,Vc1,Vc2を順番に取得して{ΔE12(0,0)−ΔE12(−1,−1)}/R={ΔE12(−1,−1)−ΔE12(−2,−2)}を計算し、計算結果のRを基準値R0と比較することで磁場強度の変化量を特定し、磁場の強度が一定になるように制御する。このような構成の第1実施形態の原子発振器によれば、アルカリ金属原子にかかる磁場強度の変化量を確実に捉えて磁場強度の変動を微小な幅に抑えることができるので、従来よりも周波数精度を向上させることができる。
【0074】
また、第1実施形態の原子発振器によれば、従来のようにアルカリ金属原子に弱磁場をかける必要はなく、従来よりも外乱による磁場の変化量を相対的に低減させることができるので磁場の安定制御が容易であり、そのため周波数安定性を高めることができる。
【0075】
[変形例]
第1実施形態では、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)を選択してRを計算しているが、任意の3組の(m,m’)(ただしm=m’)を選択してRを計算することができる。例えば、周波数切替制御回路270は、(m,m’)=(+1,+1),(0,0),(−1,−1)の各々に対する共鳴光対を発生させるように周波数変換回路230の周波数変換率を3通りに切り替え、演算回路240は、R=ΔE(+1,0)/ΔE(0,−1)やR−1=ΔE(0,−1)/ΔE(+1,0)を計算するように変形してもよい(図8(A)、図8(B))。
【0076】
また、第1実施形態では、3組の(m,m)を選択してRを計算しているが、4組以上の(m,m’)(ただしm=m’)を選択してRを計算することもできる。例えば、周波数切替制御回路270は、(m,m’)=(+1,+1),(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対を発生させるように周波数変換回路230の周波数変換率を4通りに切り替え、演算回路240は、R=ΔE(+1,0)/ΔE(−1,−2)やR−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(+1,0)を計算するように変形してもよい(図9(A)、図9(B))。このようにすれば、ガスセル120にかかる磁場の磁束密度が約0.1T〜約0.2Tの範囲におけるRやR−1の変化がさらに大きくなるので、磁場強度のフィードバック制御をより安定化させることができる。
【0077】
また、第1実施形態の原子発振器100Aを図10に示すような構成に変形することもできる。図10に示す変形例の原子発振器100Bは、図2に示した原子発振器100Aに対して、電気光学変調器(EOM:Electro-Optic Modulator)280が追加されている。図10に示すように、原子発振器100Bでは、半導体レーザー110は、周波数変換回路230の出力信号(変調信号)による変調がかけられず、単一周波数f0の光を発生させる。この周波数f0の光は、電気光学変調器(EOM)280に入射し、周波数変換回路230の出力信号(変調信号)によって変調がかけられる。その結果、図3と同様の周波数スペクトルを有する光を発生させることができる。図10に示す原子発振器100Bにおけるその他の構成は、図2に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。なお、半導体レーザー110と電気光学変調器(EOM)280による構成が図1の光源10に対応する。その他の対応関係は、図2に示した原子発振器100Aと同じである。なお、電気光学変調器(EOM)280の代わりに、音響光学変調器(AOM:Acousto-Optic Modulator)を用いてもよい。
【0078】
これらの変形例の構成によっても、原子発振器100Aと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0079】
(2)第2実施形態
図11は、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対するΔE12に相当する周波数f12(0,0),f12(−1,−1),f12(−2,−2)が図5の関係にある場合における磁束密度とΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)の関係を示す図である。図11において、横軸は磁束密度を表し、縦軸はエネルギーの大きさを表す。また、ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)は、それぞれ実線、破線、一点鎖線で表されている。
【0080】
図11に示すように、ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)は、すべて磁束密度に対して単調増加する。従って、磁場の強度は、ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)のいずれに対しても一義的に定まる。すなわち、所定の時刻でΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)のいずれかを求めればその時の磁場の強度がわかるので、磁場の強度が所定の大きさで一定になるようにフィードバック制御をかけることができる。
【0081】
なお、図11から明らかなように、磁束密度が約0.1T〜約0.2Tの範囲では磁束密度の強度の変化に対して、ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)の変化が特に大きいため、磁場強度のフィードバック制御が容易である。さらに、磁束密度が約0.1T〜約0.2Tの範囲では、ΔE(−1,−2)の変化率がΔE(0,−1)やΔE(+1,0)の変化率よりも大きい。そこで、第2実施形態では、ΔE(−1,−2)を求めて、磁束密度が常に約0.1T〜約0.2Tの範囲内の所定の値(例えば0.15T)になるようにフィードバック制御をかける。
【0082】
図12は、第2実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図12において、図2と同じ構成には同じ番号を付しており、その説明を省略又は簡略する。
【0083】
図12に示すように、第2実施形態の原子発振器100Cでは、図2に示した第1実施形態の原子発振器100Aに対して演算回路240が演算回路290に置き換わっている。
【0084】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、周波数切替制御回路270は、周波数変換回路230の周波数変換率を所定のタイミングでN0,N1,N2の3通りに切り替え、半導体レーザー110に、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対のいずれかを発生させる。本実施形態では、通常動作時は(m,m’)=(0,0)に対する共鳴光対を発生させておき、磁場強度の調整時は(m,m’)=(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対を順番に発生させる。
【0085】
演算回路290は、現在の磁場の強度の情報を得るために、周波数切替制御回路270からのタイミング信号に基づいて、ΔE12(−1,−1)とΔE12(−2,−2)の差R(R=ΔE(−1,−2))を計算する処理を行う。演算回路290は、磁気量子数m=−1,−2の各々に対する共鳴光対に基づくEIT現象によるロック状態での制御電圧Vcを取得し、Rを計算する。R=ΔE(−1,−2)は次式(4)のように変形することができる。
【0086】
【数4】
【0087】
式(4)において、N1,N2は、例えばPLLの逓倍率であるから固定値である。従って、電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振制御電圧Vc1,Vc2がわかればRを計算することができる。
【0088】
そこで、演算回路290は、まず、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率をN0からN1に切り替えるタイミングに同期する所定のタイミングで発振制御電圧Vc1(第1のプロファイル情報の一例)を取得する。次に、演算回路240は、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率をN1からN2に切り替えるタイミングに同期する所定のタイミングで発振制御電圧Vc2(第2のプロファイル情報の一例)を取得する。ここで、所定のタイミングは、周波数変換回路230の周波数変換率がN1,N2の各々の設定において安定状態(ロック状態)に達した後であればよい。このようにして、演算回路290は、式(4)におけるVc1,Vc2を取得し、式(4)に基づいてRを計算する。
【0089】
比較回路250は、演算回路290が計算したRを基準値R0と比較し、比較結果(差分)を磁場制御回路260に供給する。ここで、基準値R0は、例えば、例えば、外乱により加えられる磁場が0の状態でのΔE(−1,−2)であり、あらかじめ計算により求められた値である。
【0090】
そして、磁場制御回路260は、比較回路250の比較結果に基づいて、演算回路290の計算結果がR0と一致するように、磁場発生部140が発生させる磁場の強度を制御する。ここで、演算回路240の計算結果のRがR0よりも大きい場合、磁場制御回路260は、磁場発生部140が発生させる磁場の強度をR−R0に応じた分だけ小さくする。一方、演算回路240の計算結果のRがR0よりも小さい場合、磁場制御回路260は、磁場発生部140が発生させる磁場の強度をR0−Rに応じた分だけ大きくする。このようにして、ガスセル120にかかる磁場の強度が常に一定になるように制御することができる。
【0091】
なお、演算回路290、比較回路250、磁場制御回路260による構成は、図1の磁場制御部60に対応する。その他の対応関係は、図2に示した原子発振器100Aと同じである。
【0092】
以上に説明したように、第2実施形態の原子発振器では、例えば図5に示したように、磁場強度の変化に対して、異なる2つの磁気量子数m1,m2に対する2つの基底準位のエネルギー差、すなわちΔE12(m1,m1),ΔE12(m2,m2)の変化の度合いが互いに異なることに着目し、所定の範囲(例えば、セシウム原子であれば約0.1T〜約0.2Tの範囲)の磁場の強度とR=ΔE12(m1,m1)−ΔE12(m2,m2)の値が1対1に対応することに着目し、磁場強度の調整を行う。具体的には、半導体レーザー110に、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対を順番に発生させ、光検出器130の検出信号に基づいてΔE12(−1,−1),ΔE12(−2,−2)をそれぞれ特定可能な発振制御電圧Vc1,Vc2を順番に取得してR=E12(−1,−1)−ΔE12(−2,−2)を計算し、計算結果のRを基準値R0と比較することで磁場強度の変化量を特定し、磁場の強度が一定になるように制御する。このような構成の第2実施形態の原子発振器によれば、アルカリ金属原子にかかる磁場強度の変化量を確実に捉えて磁場強度の変動を微小な幅に抑えることができるので、従来よりも周波数精度を向上させることができる。
【0093】
また、第2実施形態の原子発振器によれば、従来のようにアルカリ金属原子に弱磁場をかける必要はなく、従来よりも外乱による磁場の変化量を相対的に低減させることができるので磁場の安定制御が容易であり、そのため周波数安定性を高めることができる。
【0094】
[変形例]
例えば、周波数切替制御回路270は、(m,m’)=(0,0),(−1,−1)の各々に対する共鳴光対を発生させるように周波数変換回路230の周波数変換率を2通りに切り替え、演算回路290は、図11に示したR=ΔE(0,−1)を計算するように変形してもよい。
【0095】
また、例えば、周波数切替制御回路270は、(m,m’)=(+1,+1),(0,0)の各々に対する共鳴光対を発生させるように周波数変換回路230の周波数変換率を2通りに切り替え、演算回路290は、図11に示したR=ΔE(+1,0)を計算するように変形してもよい。
【0096】
また、図10に示した第1実施形態の原子発振器の変形例の構成と同様に、第2実施形態においても、半導体レーザー110は変調がかけられずに単一周波数f0の光を発生させ、電気光学変調器(EOM)や音響光学変調器(AOM)で周波数変換回路230の出力信号(変調信号)によって半導体レーザー110の出射光に変調をかけて図3と同様の周波数スペクトルを有する光を発生させるようにしてもよい。
【0097】
これらの変形例の構成によっても、原子発振器100Cと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0098】
(3)第3実施形態
第1実施形態の原子発振器100Aでは、周波数変換回路230の周波数変換率を現在の磁場の状態によらずに一定のタイミングで切り替え、一定周期で磁場強度の調整を行っている。これに対して、第3実施形態では、磁場の状態に合わせて、周波数変換回路230の周波数変換率を切り替えるタイミングを変化させる。具体的には、磁場強度の変動に応じて磁場強度の調整周期を変化させる。
【0099】
図13は、第3実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図13において、図2と同じ構成には同じ番号を付しており、その説明を省略又は簡略する。
【0100】
図13に示すように、第3実施形態の原子発振器100Dでは、図2に示した第1実施形態の原子発振器100Aに対して履歴情報記憶部300が追加されている。
【0101】
履歴情報記憶部300は、演算回路240が新たにRの計算をするたびにその計算結果のRの値(磁場強度情報の一例)を履歴情報として記憶する。履歴情報記憶部300は、種々のメモリー素子を用いてRAM(Random Access Memory)やFIFO(First In First Out)等として実現することができる。
【0102】
周波数切替制御回路270は、例えば、履歴情報記憶部300に前回記憶したRの値と演算回路240が今回計算したRの値(履歴情報記憶部300に今回記憶するRの値)の差の絶対値が所定の閾値よりも大きければ磁場強度の調整周期が長すぎると判断し、周波数変換回路230の周波数変換率の切り替え周期(演算回路240によるRの計算周期)を短く設定する。さらに、周波数切替制御回路は、例えば、計算周期が所定の閾値よりも短い場合に、履歴情報記憶部300に前回記憶したRの値と演算回路240が今回計算したRの値(履歴情報記憶部300に今回記憶するRの値)の差の絶対値が所定の閾値よりも小さければ磁場強度の調整周期が短すぎると判断し、周波数変換回路230の周波数変換率の切り替え周期(演算回路240によるRの計算周期)を長く設定する。
【0103】
このように第3実施形態によれば、磁場強度の変動が激しいほど磁場強度の調整周期を短くすることができるので、磁場強度の変動に伴う周波数安定精度の劣化を低減することができる。また、磁場強度の変動が緩やかであれば磁場強度の調整周期を所定の長さにすることができるので、周波数安定精度を保持しながら消費電力を最適化することができる。
【0104】
なお、履歴情報記憶部300は、図1の記憶部70に対応する。その他の対応関係は、図2に示した原子発振器100Aと同じである。
【0105】
第3実施形態の原子発振器によれば、第1実施形態の原子発振器と同様の効果に加えて、頻繁に磁場が変動する場合や磁場の変動量が大きい場合には切り替えタイミングの周期を短くすることで磁場の調整周期を短くし、磁場がほとんど変動しない場合には切り替えタイミングの周期を長くすることで磁場の調整周期を長くするといったより細かい磁場制御が可能になり、周波数安定度を向上させることができる。
【0106】
[変形例]
例えば、履歴情報記憶部300は、演算回路240が計算したRの値の代わりに、演算回路240が取得した電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振制御電圧Vc0,Vc1,Vc2の各値(プロファイル情報の一例)を履歴情報として記憶するようにしてもよい。この場合、周波数切替制御回路270は、履歴情報記憶部300に前回記憶した発振制御電圧Vc0,Vc1,Vc2の各値と演算回路240が今回取得したVc0,Vc1,Vc2の各値(履歴情報記憶部300に今回記憶するVc0,Vc1,Vc2の各値)のそれぞれの差の絶対値の少なくとも1つが所定の閾値よりも大きいか小さいかによって磁場強度の調整周期が長すぎるか短すぎるかを判断し、周波数変換回路230の周波数変換率の切り替え周期(演算回路240によるRの計算周期)を調整するようにしてもよい。
【0107】
また、例えば、履歴情報記憶部300に、前回の履歴情報だけでなく複数回の履歴情報を記憶するようにし、周波数切替制御回路270は、3つ以上(例えば、前々回、前回、今回)の履歴情報に基づいて、周波数変換回路230の周波数変換率の切り替え周期(演算回路240によるRの計算周期)を調整するようにしてもよい。
【0108】
また、例えば、第1実施形態の原子発振器の変形例と同様に、演算回路240がR=ΔE(+1,0)/ΔE(0,−1)やR=ΔE(+1,0)/ΔE(−1,−2)又はR−1=ΔE(0,−1)/ΔE(+1,0)やR−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(+1,0)を計算するように変形してもよい。
【0109】
また、図10に示した第1実施形態の原子発振器の変形例の構成と同様に、第3実施形態においても、半導体レーザー110は変調がかけられずに単一周波数f0の光を発生させ、電気光学変調器(EOM)や音響光学変調器(AOM)で周波数変換回路230の出力信号(変調信号)によって半導体レーザー110の出射光に変調をかけて図3と同様の周波数スペクトルを有する光を発生させるようにしてもよい。
【0110】
これらの変形例の構成によっても、原子発振器100Dと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0111】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0112】
例えば、第1実施形態〜第3実施形態では、半導体レーザー110の出射光の1次のサイドバンドの2種類の光(周波数f0±fm)が共鳴光対となるように制御していたが、これに限られない。例えば、中心周波数f0の光と周波数がf0+fmの光が共鳴光対となるとともに、中心周波数f0の光と周波数がf0−fmの光が共鳴光対となるように制御してもよい。
【0113】
また、例えば、第1実施形態〜第3実施形態では、1つの半導体レーザーに変調をかけることで共鳴光対を発生させているが、より単純に、2つの半導体レーザーを別々の駆動電流で駆動して共鳴光対を発生させるようにしてもよい。
【0114】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0115】
1 原子発振器、10 光源、12 出射光、20 アルカリ金属原子、22 透過光、30 光検出部、32 検出信号、40 磁場発生部、50 周波数制御部、52 電圧制御発振器、54 周波数変換部、56 周波数切替制御部、60 磁場制御部、70 記憶部、100A〜100D 原子発振器、110 半導体レーザー、120 ガスセル、130 光検出器、140 磁場発生部、150 増幅回路、160 検波回路、170 電流駆動回路、180 低周波発振器、190 検波回路、200 電圧制御水晶発振器(VCXO)、210 変調回路、220 低周波発振器、230 周波数変換回路、240 演算回路、250 比較回路、260 磁場制御回路、270 周波数切替制御回路、280 電気光学変調器(EOM)、290 演算回路、300 履歴情報記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘起透過(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)方式(CPT(Coherent Population Trapping)方式と呼ばれることもある)による原子発振器は、アルカリ金属原子に、可干渉性(コヒーレント性)を有し、かつ、互いに異なる特定の波長(周波数)を有する2種類の共鳴光を同時に照射すると共鳴光の吸収が停止する現象を利用した発振器である。
【0003】
アルカリ金属原子と2種類の共鳴光との相互作用機構は、図14に示すように、Λ型3準位系モデルで説明できることが知られている。アルカリ金属原子は2つの基底準位を有し、基底準位1と励起準位とのエネルギー差に相当する周波数を有する共鳴光1、あるいは基底準位2と励起準位とのエネルギー差に相当する周波数を有する共鳴光2を、それぞれ単独でアルカリ金属原子に照射すると、よく知られているように光吸収が起きる。ところが、このアルカリ金属原子に共鳴光1と共鳴光2を同時に照射すると、2つの基底準位の重ね合わせ状態、即ち量子干渉状態になり、励起準位への励起が停止して共鳴光1と共鳴光2がアルカリ金属原子を透過する透明化現象(EIT現象)が起きる。例えば、セシウム原子は、D2線(波長は852.1nm)の基底状態が超微細構造によってF=3、4の準位を有する2つの状態に分裂しており、F=3の基底準位1とF=4の基底準位2のエネルギー差に相当する周波数は9.192631770GHzである。従って、セシウム原子に、波長が852.1nm付近で周波数差が9.192631770GHzの2種類のレーザー光が同時に照射されると、これら2種類のレーザー光が共鳴光対となってEIT現象が起こる。
【0004】
そして、アルカリ金属原子に周波数の異なる2種類の光を照射したとき、この2種類の光が共鳴光対となってアルカリ金属原子がEIT現象を起こすか否かで光吸収挙動が急峻に変化する。この急峻に変化する光吸収挙動を示す信号はEIT信号と呼ばれ、共鳴光対の周波数差が2つの基底準位のエネルギー差ΔE12に相当する周波数(例えば、セシウム原子であれば9.192631770GHz)と正確に一致するときにEIT信号のレベルがピーク値を示す。そこで、EIT信号のピーク値を検出し、アルカリ金属原子に照射する2種類の光が共鳴光対となるように、すなわち、この2種類の光の周波数差がΔE12に相当する周波数と正確に一致するように周波数制御することで、高精度な発振器を実現することができる。
【0005】
ところで、アルカリ金属原子に磁場がかかると、2つの基底準位がそれぞれ磁気量子数に応じて複数の準位に分裂(ゼーマン分裂と呼ばれる)することが知られている。すなわち、2つの基底準位のエネルギー差ΔE12は磁気量子数毎に異なるため、共鳴光対の周波数差を変化させると複数のEIT信号が出現する。このとき、磁場の強度が微小であればこれら複数のEIT信号が重なり合って線幅の広い1つのEIT信号となるため、このピーク値を正確に検出することが難しくなり、周波数精度が劣化する。しかしながら、外乱による磁場の影響を完全に無くすことは極めて難しい。そこで、弱磁場では磁場の強度が変動しても磁気量子数0に対する2つの基底準位のエネルギー差ΔE12がほぼ一定と見なせることに着目し、複数のEIT信号が完全に分離する程度の弱磁場をアルカリ金属原子に印加して磁気量子数0に対するEIT信号のピーク値を検出することで周波数精度を向上させる原子発振器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6265945号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、外乱の影響をキャンセルして弱磁場を安定制御するのは非常に困難である。さらに、弱磁場であっても厳密には2つの基底準位のエネルギー差ΔE12は微妙に変動するため、従来の方式では周波数精度をさらに向上させることは難しい。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、従来よりも周波数精度を向上させることができる原子発振器を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、気体状のアルカリ金属原子と、可干渉性を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させて前記アルカリ金属原子に照射する光源と、前記アルカリ金属原子の第1基底準位と第2基底準位にゼーマン分裂を生じさせる磁場を発生させる磁場発生部と、前記アルカリ金属原子を透過した光を受け取り、受け取った光の強度に応じた検出信号を生成する光検出部と、前記検出信号に基づいて、前記第1の光と前記第2の光が、前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を起こさせる共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う周波数制御部と、前記検出信号に基づいて、前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する磁場制御部と、を含み、前記周波数制御部は、前記第1の光と前記第2の光が、順に、ゼーマン分裂により生じた複数の前記第1基底準位と複数の前記第2基底準位のうちの複数の所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、前記磁場制御部は、前記第1の光と前記第2の光が、前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差を特定可能なプロファイル情報を順に取得し、取得した複数の前記プロファイル情報に基づいて、前記アルカリ金属原子にかかる磁場の強度が一定になるように前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する。
【0010】
「アルカリ金属」とは、元素周期律表の第一列にある第1族に属する元素(Na,K,Rb,Cs,・・・)のことをいう。
【0011】
一般に、アルカリ金属原子にかかる磁場の強度が一定であれば、アルカリ金属原子の任意の磁気量子数に対応する2つの基底準位のエネルギー差は一定である。従って、磁場の強度が変わらなければ、温度変化等の要因で原子発振器の周波数が変化して光検出強度が一時的に下がっても、いずれか1つの磁気量子数に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こすEIT現象が継続されるようにフィードバック制御をかけることで高い周波数精度の原子発振器を実現することができる。磁場の強度を一定に保つには、アルカリ金属原子を透過する光の検出強度の変化を検出して磁場の変化量を特定することが考えられるが、単純に光検出強度の変化を検出しても、磁場の強度が変化したために光検出強度が変化したのか温度変化等の影響で発振周波数がずれたために光検出強度が変化したのか判断することができない。
【0012】
そこで、本発明では、磁場強度の変化に対するアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差の変化の度合いが磁気量子数毎に特有であることに着目し、複数の所定の磁気量子数の各々に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対を順番に発生させ、検出信号に基づいて各々の磁気量子数に対応する2つの基底準位のエネルギー差を特定可能な複数のプロファイル情報を順に取得し、取得した複数のプロファイル情報に基づいて磁場強度の変化量を特定し、磁場の強度が一定になるように制御する。このような構成の本発明に係る原子発振器によれば、アルカリ金属原子にかかる磁場強度の変化量を確実に捉えて磁場強度の変動を微小な幅に抑えることができるので、従来よりも周波数精度を向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係る原子発振器によれば、従来のようにアルカリ金属原子に弱磁場をかける必要はなく、従来よりも外乱による磁場の変化量を相対的に低減させることができるので磁場の安定制御が容易であり、そのため周波数安定性を高めることができる。
【0014】
(2)この原子発振器において、前記光源は、所定の周波数の変調信号によって周波数変調がかけられることにより、前記第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させ、前記周波数制御部は、前記検出信号に基づく発振制御電圧に応じた周波数で発振する発振信号を生成する電圧制御発振器と、前記発振信号を所与の周波数変換率で周波数変換して前記変調信号を生成する周波数変換部と、前記第1の光と前記第2の光が、順に、前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記切り替えタイミングで前記周波数変換率を切り替える周波数切替制御部と、を含むようにしてもよい。
【0015】
このようにすれば、周波数変換部が生成する変調信号の周波数(変調周波数)を切り替えて光源に変調をかけることで、複数の磁気量子数の各々に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こすEIT現象を順番に発生させることが容易になる。
【0016】
(3)この原子発振器において、前記磁場制御部は、前記第1の光と前記第2の光が前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの前記発振制御電圧の値を前記プロファイル情報として順に取得するようにしてもよい。
【0017】
(4)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記第1の光と前記第2の光が第1の磁気量子数、第2の磁気量子数及び第3の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、前記磁場制御部は、前記第1の光と前記第2の光が前記第1の磁気量子数、第2の磁気量子数及び第3の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときに、第1の前記プロファイル情報、第2の前記プロファイル情報及び第3の前記プロファイル情報をそれぞれ取得し、前記第1のプロファイル情報、前記第2のプロファイル情報及び前記第3のプロファイル情報に基づいて、前記第1の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差と、前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第3の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差との比を計算し、計算結果に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御するようにしてもよい。
【0018】
磁場強度の変化に対して、アルカリ金属原子の3つの磁気量子数m1,m2,m3の各々に対応する2つの基底準位のエネルギー差の変化の度合はそれぞれ異なるので、磁気量子数m1に対応する2つの基底準位のエネルギー差と磁気量子数m2に対応する2つの基底準位のエネルギー差の差と、磁気量子数m2に対応する2つの基底準位のエネルギー差と磁気量子数m3に対応する2つの基底準位のエネルギー差の差との比の値によって磁場の強度を一意に特定することができる。従って、この原子発振器によれば、この比の値を計算することで磁場の強度が一定になるようにフィードバック制御することができる。
【0019】
(5)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記第1の光と前記第2の光が第1の磁気量子数及び第2の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、前記磁場制御部は、前記第1の光と前記第2の光が前記第1の磁気量子数及び第2の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときに、第1の前記プロファイル情報及び第2の前記プロファイル情報をそれぞれ取得し、前記第1のプロファイル情報及び前記第2のプロファイル情報に基づいて、前記第1の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差を計算し、計算結果に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御するようにしてもよい。
【0020】
磁場強度の変化に対して、アルカリ金属原子の3つの磁気量子数m1,m2の各々に対応する2つの基底準位のエネルギー差の変化の度合はそれぞれ異なるので、磁気量子数m1に対応する2つの基底準位のエネルギー差と磁気量子数m2に対応する2つの基底準位のエネルギー差の差の値によって磁場の強度を一意に特定することができる。従って、この原子発振器によれば、この差の値を計算することで磁場の強度が一定になるようにフィードバック制御することができる。
【0021】
(6)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記磁場発生部が発生させる磁場の強度変動の程度に応じて、前記切り替えタイミングの周期を変更するようにしてもよい。
【0022】
(7)この原子発振器は、前記プロファイル情報又は前記プロファイル情報に基づく磁場の強度を特定可能な磁場強度情報を記憶する記憶部を含み、前記周波数制御部は、前記記憶部に記憶された前記プロファイル情報又は前記磁場強度情報に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度変動の程度を判定し、判定結果に基づいて前記切り替えタイミングの周期を変更するようにしてもよい。
【0023】
このようにすれば、例えば、頻繁に磁場が変動する場合や磁場の変動量が大きい場合には切り替えタイミングの周期を短くすることで磁場の調整周期を短くし、磁場がほとんど変動しない場合には切り替えタイミングの周期を長くすることで磁場の調整周期を長くするといったより細かい磁場制御が可能になり、周波数安定度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態の原子発振器の機能ブロック図。
【図2】第1実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図3】半導体レーザーの出射光の周波数スペクトルを示す概略図。
【図4】セシウム原子のゼーマン分裂した基底準位と共鳴光の関係について説明するための図。
【図5】セシウム原子に磁場をかけたときの磁束密度と各磁気量子数mに対するf12(m,m)の関係を示す図。
【図6】セシウム原子にかかる磁場の強度変化に伴うEIT信号の変化の様子の一例を示す図。
【図7】セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2)又はR−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(0,−1)の関係を示す図。
【図8】セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(+1,0)/ΔE(0,−1)又はR−1=ΔE(0,−1)/ΔE(+1,0)の関係を示す図。
【図9】セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(+1,0)/ΔE(−1,−2)又はR−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(+1,0)の関係を示す図。
【図10】第1実施形態の原子発振器の変形例の構成を示す図。
【図11】セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)の関係を示す図。
【図12】第2実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図13】第3実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図14】アルカリ金属原子のエネルギー準位を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0026】
図1は、本実施形態の原子発振器の機能ブロック図である。
【0027】
本実施形態の原子発振器1は、光源10、アルカリ金属原子20、光検出部30、磁場発生部40、周波数制御部50及び磁場制御部60を含んで構成されている。
【0028】
光源10は、可干渉性(コヒーレント性)を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光12を発生させて気体状のアルカリ金属原子20(ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等)に照射する。例えば、レーザー光は可干渉性(コヒーレント性)を有する光である。
【0029】
光検出部30は、アルカリ金属原子20を透過した光(透過光)22を受け取り、受け取った光の強度に応じた検出信号32を生成する。
【0030】
ここで、例えば、気体状のアルカリ金属原子20を密閉容器に封入したガスセルを光源10と光検出部30の間に配置するような形態でもよい。また、密閉容器内に光源10、気体状のアルカリ金属20、光検出部30を共に封入し、光源10と光検出部30を対向させて配置するような形態でもよい。
【0031】
磁場発生部40は、アルカリ金属原子20の第1基底準位と第2基底準位にゼーマン分裂を生じさせる磁場を発生させる。磁場発生部40は、例えば、コイルによって実現することができる。
【0032】
磁場制御部60は、光検出部30の検出信号32に基づいて、磁場発生部40が発生させる磁場の強度を制御する。具体的には、磁場制御部60は、光源10が発生させる第1の光と第2の光が、所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの当該第1基底準位と当該第2基底準位のエネルギー差を特定可能なプロファイル情報を順に取得し、取得した複数の当該プロファイル情報に基づいて、アルカリ金属原子20にかかる磁場の強度が一定になるように磁場発生部40が発生させる磁場の強度を制御する。例えば、磁場発生部40がコイルであれば、磁場制御部60は、取得した複数のプロファイル情報に基づいて当該コイルに流れる電流量を制御することにより磁場の強度を一定に制御することができる。
【0033】
周波数制御部50は、光検出部30の検出信号32に基づいて、光源10が発生させる第1の光と第2の光が、アルカリ金属原子20にEIT現象を起こさせる共鳴光対となるように、第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う。具体的には、周波数制御部50は、光源10が発生させる第1の光と第2の光が、順に、ゼーマン分裂により生じたアルカリ金属原子20の複数の第1基底準位と複数の第2基底準位のうちの複数の所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替える。なお、第1の光と第2の光が共鳴光対となるのは、その周波数差がアルカリ金属原子20の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と正確に一致する場合だけでなく、アルカリ金属原子20がEIT現象を起こす範囲の微小な誤差を有する場合も含まれる。
【0034】
周波数制御部50は、例えば、電圧制御発振器52、周波数変換部54、周波数切替制御部56を含んで構成することができる。ここで、電圧制御発振器52は、光検出部30の検出信号32に基づく発振制御電圧に応じた周波数で発振する発振信号を生成する。また、周波数変換部54は、電圧制御発振器52の発振信号を所与の周波数変換率で周波数変換して所定の周波数の変調信号を生成する。また、周波数切替制御部56は、光源10が発生させる第1の光と前記第2の光が、順に、所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで周波数変換部54の周波数変換率を切り替える。そして、光源10は、周波数変換部54が生成する変調信号によって周波数変調がかけられることにより、第1の光と第2の光を含む複数の光12を発生させる。この場合、磁場制御部60は、光源10が発生させた第1の光と第2の光が所定の磁気量子数の各々に対応する第1基底準位と第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの電圧制御発振器52の発振制御電圧の値をプロファイル情報として順に取得するようにしてもよい。
【0035】
周波数制御部50は、例えば、磁場発生部40が発生させる磁場の強度変動の程度に応じて、切り替えタイミング(第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替えるタイミング)の周期を変更するようにしてもよい。具体的には、原子発振器1が、磁場制御部60が取得した複数のプロファイル情報又は当該プロファイル情報に基づく磁場の強度を特定可能な磁場強度情報を記憶する記憶部70を含み、周波数制御部50は、記憶部70に記憶されたプロファイル情報又は磁場強度情報に基づいて磁場発生部40が発生させる磁場の強度変動の程度を判定し、判定結果に基づいて、切り替えタイミングの周期を変更するようにしてもよい。
【0036】
以下、本実施形態の原子発振器のより具体的な構成について説明する。
【0037】
(1)第1実施形態
図2は、第1実施形態の原子発振器の構成を示す図である。
【0038】
図2に示すように、第1実施形態の原子発振器100Aは、半導体レーザー110、ガスセル120、光検出器130、磁場発生部140、増幅回路150、検波回路160、電流駆動回路170、低周波発振器180、検波回路190、電圧制御水晶発振器(VCXO)200、変調回路210、低周波発振器220、周波数変換回路230、演算回路240、比較回路250、磁場制御回路260、周波数切替制御回路270を含んで構成されている。
【0039】
半導体レーザー110は、周波数の異なる複数の光を発生させてガスセル120に照射する。具体的には、電流駆動回路170が出力する駆動電流によって、半導体レーザー110の出射光の中心波長λ0(中心周波数はf0)がアルカリ金属原子の所定の輝線(例えば、セシウム原子のD2線)の波長と一致するように制御される。そして、半導体レーザー110は、周波数変換回路230の出力信号を変調信号(変調周波数fm)として変調がかけられる。すなわち、電流駆動回路170による駆動電流に、周波数変換回路230の出力信号(変調信号)を重畳することにより、半導体レーザー110は変調がかかった光を発生させる。このような半導体レーザー110は、例えば、端面発光レーザー(Edge Emitting Laser)や、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)等の面発光レーザーなどで実現することができる。
【0040】
図3は、半導体レーザー110の出射光の周波数スペクトルを示す概略図である。図3において、横軸は光の周波数であり、縦軸は光の強度である。図3に示すように、半導体レーザー110の出射光には、中心周波数f0(=v/λ0:vは光の速度、λ0は光の波長)を有する光と、その両側にfm間隔の周波数をそれぞれ有する複数種類の光が含まれる。
【0041】
ガスセル120は、容器中に気体状のアルカリ金属原子(ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等)が封入されたものである。
【0042】
磁場発生部140は、ガスセル120と隣接して配置されており、ガスセル120に対して磁場を発生させる。磁場発生部140が発生させる磁場の強度は、磁場制御回路260によって制御される。磁場発生部140は、例えば、コイルを用いて実現することができ、磁場制御回路260によりコイルを流れる電流の大きさを制御することで、発生する磁場の強度を調整することができる。
【0043】
ガスセル120に含まれるアルカリ金属原子に磁場がかかると、アルカリ金属原子の2つの基底準位は、磁場によるエネルギー分裂(ゼーマン分裂)によって、磁気量子数が異なる複数の準位(ゼーマン分裂準位)に分かれる。ここで、ゼーマン分裂準位の数はアルカリ金属原子の種類によって異なることが知られている。例えば、セシウム原子であれば、図4に示すように、基底準位1は、エネルギーが高い順に磁気量子数m=−3,−2,−1,0,+1,+2,+3の7つのゼーマン分裂準位に分かれる。一方、基底準位2は、エネルギーが高い順に磁気量子数m’=+4,+3,+2,+1,0,−1,−2,−3,−4の9つのゼーマン分裂準位に分かれる。従って、(m,m’)=(+3,+3),(+2,+2),(+1,+1),(0,0),(−1,−1),(−2,−2),(−3,−3)の各々に対する基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12はそれぞれ異なる。そのため、(m,m’)=(+3,+3),(+2,+2),(+1,+1),(0,0),(−1,−1),(−2,−2),(−3,−3)のいずれかに対するΔE12に相当する周波数と一致する周波数差を有する2種類の光が共鳴光対(共鳴光1、共鳴光2)となり、セシウム原子にEIT現象を生じさせる。なお、以下では、磁気量子数mの基底準位1と磁気量子数m’の基底準位2のエネルギー差をΔE12(m,m’)と表記する。また、ΔE12(m,m’)に相当する周波数をf12(m,m’)と表記する。なお、ΔE12(m,m’)=h・f12(m,m’)(h:プランク定数)の関係を満たす。
【0044】
光検出器130は、ガスセル120を透過した光(透過光)を検出し、光の強度に応じた検出信号を出力する。EIT現象を起こすアルカリ金属原子の数が多いほどガスセル120を透過する光(透過光)の強度が増大し、光検出器130の出力信号(検出信号)の電圧レベルが高くなる。
【0045】
光検出器130の出力信号は増幅回路150で増幅され、検波回路160及び検波回路190に入力される。検波回路160は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器180の発振信号を用いて増幅回路150の出力信号を同期検波する。
【0046】
電流駆動回路170は、検波回路160の出力信号に応じた大きさの駆動電流を発生して半導体レーザー110に供給し、半導体レーザー110の出射光の中心周波数f0(中心波長λ0)を制御する。なお、検波回路160による同期検波を可能とするために、電流駆動回路170が発生する駆動電流には低周波発振器180の発振信号(検波回路160に供給される発振信号と同じ信号)が重畳される。
【0047】
半導体レーザー110、ガスセル120、光検出器130、増幅回路150、検波回路160、電流駆動回路170を通るフィードバックループにより、半導体レーザー110が発生させる光の中心周波数f0(中心波長λ0)がアルカリ金属原子の所定の輝線(例えば、セシウム原子のD2線)の波長と一致するように微調整される。
【0048】
検波回路190は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器220の発振信号を用いて増幅回路150の出力信号を同期検波する。そして、検波回路190の出力信号の大きさに応じて、電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振周波数が微調整される。電圧制御水晶発振器(VCXO)200は、例えば、数MHz程度で発振するようにしてもよい。
【0049】
変調回路210は、検波回路190による同期検波を可能とするために、低周波発振器220の発振信号(検波回路190に供給される発振信号と同じ)を変調信号として電圧制御水晶発振器(VCXO)200の出力信号を変調する。変調回路210は、周波数混合器(ミキサー)、周波数変調(FM:Frequency Modulation)回路、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)回路等により実現することができる。
【0050】
周波数変換回路230は、設定された周波数変換率に応じて、変調回路210の出力信号を周波数変換する。周波数変換回路230は、例えば、設定した逓倍率で、変調回路210の出力信号の周波数を逓倍するPLL(Phase Locked Loop)回路により実現することができる。
【0051】
そして、電流駆動回路170による駆動電流に周波数変換回路230の出力信号を重畳することにより、半導体レーザー110は、周波数変換回路230の出力信号を変調信号(変調周波数fm)として変調がかけられ、図3に示したような周波数スペクトラムを有する出射光を発生させる。
【0052】
本実施形態では、半導体レーザー110、ガスセル120、光検出器130、増幅回路150、検波回路190、電圧制御水晶発振器(VCXO)200、変調回路210、周波数変換回路230を通るフィードバックループにより、周波数変換回路230の出力信号(変調信号)の周波数(変調周波数fm)が、通常は(m,m’)=(0,0)に対する2つの基底準位のエネルギー差ΔE12(0,0)に相当する周波数f12(0,0)の1/2の周波数と正確に一致するように微調整される。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、f12(0,0)=9.192631770GHzなので、変調周波数fmは4.596315885GHzになる。すなわち、図3に示したような半導体レーザー110が出射する複数の光のうち、周波数差が2×fmの2種類の光、例えば1次のサイドバンドの2種類の光(周波数がf1=f0+fmの光とf2=f0−fmの光)が共鳴光対となり、アルカリ金属原子にEIT現象を生じさせるようにフィードバック制御がかかる。
【0053】
ところで、アルカリ金属原子にかかる磁場の強度が変化すると基底準位1と基底準位2の各ゼーマン分裂準位が変化し、2つの基底準位のエネルギー差ΔE12(m,m’)に相当する周波数f12(m,m’)も磁場の強度に応じて変化する。一例として、セシウム原子に磁場をかけたときの磁束密度とf12(m,m’)の関係を図5に示す。図5において、横軸は磁束密度を表し、縦軸は周波数を表す。磁束密度が0の時(セシウム原子に磁場がかかっていない時)は、ゼーマン分裂が生じないため、基底準位1と基底準位2はそれぞれ1つのレベルに縮退している。そのため、f12(+3,+3),f12(+2,+2),f12(+1,+1),f12(0,0),f12(−1,−1),f12(−2,−2),f12(−3,−3)はすべて同じ値(9.192631770GHz)である。一方、セシウム原子に磁場がかかるとゼーマン分裂が生じ、f12(+3,+3),f12(+2,+2),f12(+1,+1),f12(0,0),f12(−1,−1),f12(−2,−2),f12(−3,−3)は、磁束密度に応じてそれぞれ変化する。従って、共鳴光対の周波数差がf12(+3,+3),f12(+2,+2),f12(+1,+1),f12(0,0),f12(−1,−1),f12(−2,−2),f12(−3,−3)のいずれかと一致するようにフィードバック制御をかける場合、正確に一定の強度の磁場を発生させていたとしても、外乱による磁場が加わることにより、共鳴光対の周波数差が変動し、周波数精度を劣化させる要因となる。
【0054】
図6(A)〜図6(C)は、セシウム原子にかかる磁場の強度変化に伴うEIT信号の変化の様子の一例を示す図である。図6(A)〜図6(C)において、横軸は周波数を表し、縦軸は信号強度を表す。なお、以下では、磁気量子数m=m1の基底準位1と磁気量子数m’=m1の基底準位2のエネルギー差ΔE12(m1,m1)と磁気量子数m=m2の基底準位1と磁気量子数m’=m2の基底準位2のエネルギー差ΔE12(m2,m2)との差(ΔE12(m1,m1)−ΔE12(m2,m2))をΔE(m1,m2)と表記する。また、ΔE(m1,m2)に相当する周波数をf(m1,m2)と表記する。
【0055】
図6(A)は、セシウム原子に図5の実線で示す磁束密度の磁場がかかった場合の(m,m’)=(−2,−2),(−1,−1),(0,0)に対するEIT信号を左から順に示している。図6(A)に示すように、(m,m’)=(−1,−1)に対するEIT信号がピークとなる周波数と(m,m’)=(−2,−2)に対するEIT信号がピークとなる周波数の差は、ΔE(−1,−2)に相当する周波数f(−1,−2)と一致する。また、(m,m’)=(0,0)に対するEIT信号がピークとなる周波数と(m,m’)=(−1,−1)に対するEIT信号がピークとなる周波数の差は、ΔE(0,−1)に相当する周波数f(0,−1)と一致する。
【0056】
図6(B)は、セシウム原子に図5の破線で示す磁束密度の磁場がかかった場合(図6(A)よりも磁場が弱い場合)の(m,m’)=(−2,−2),(−1,−1),(0,0)に対するEIT信号を左から順に示している。図6(B)では、(m,m’)=(−2,−2)に対するEIT信号がピークとなる周波数が図6(A)の場合よりも高くなり、(m,m’)=(−1,−1),(0,0)に対する各EIT信号がピークとなる周波数がいずれも図6(A)の場合よりも低くなる。結果的に、f(0,−1)とf(−1,−2)の比、すなわちΔE(0,−1)とΔE(−1,−2)の比R(R=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2))は、図6(A)の場合よりも大きくなる。
【0057】
図6(C)は、セシウム原子に図5の一点鎖線で示す磁束密度の磁場がかかった場合(図6(A)よりも磁場が強い場合)の(m,m’)=(−2,−2),(−1,−1),(0,0)に対するEIT信号を左から順に示している。図6(C)では、(m,m’)=(−2,−2),(−1,−1),(0,0)に対する各EIT信号がピークとなる周波数がいずれも図6(A)の場合よりも高くなる。結果的に、f(0,−1)とf(−1,−2)の比、すなわちΔE(0,−1)とΔE(−1,−2)の比R(R=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2))は、図6(A)の場合よりも小さくなる。
【0058】
図7(A)は、セシウム原子にかかる磁束密度とR=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2)の関係を示す図である。図7(A)において、横軸は磁束密度を表し、縦軸はRの値を表す。図7(A)に示すように、Rは、磁束密度が約0.3Tよりも小さい範囲では単調減少し、磁束密度が0.3T付近で最小となり、磁束密度が約0.3Tよりも大きい範囲では単調増加する。従って、磁場が0.3Tよりも小さい所定の範囲か0.3Tよりも大きい所定の範囲のいずれか一方でのみ変化するのであれば、磁場の強度はRに対して一義的に定まる。すなわち、Rを求めればその時の磁場の強度がわかるので、磁場の強度が所定の大きさになるようにフィードバック制御をかけることができる。
【0059】
また、図7(A)から明らかなように、磁束密度が約0.1T〜約0.2Tの範囲では磁束密度の変化に対してRの変化が特に大きいため、磁場強度のフィードバック制御が容易である。そこで、本実施形態では、例えば、ΔE(0,−1)とΔE(−1,−2)の比Rを求めて、磁束密度が常に約0.1T〜約0.2Tの範囲内の所定の値(例えば0.15T)になるようにフィードバック制御をかける。
【0060】
具体的には、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対を順番に発生させるために、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率を所定のタイミングでN0,N1,N2の3通りに切り替える。例えば、通常動作時は(m,m’)=(0,0)に対する共鳴光対を発生させておき、磁場強度の調整時は(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対を順番に発生させる。例えば、周波数切替制御回路270に一定周期でカウント動作を繰り返す自走カウンターを持たせることで、磁場強度の調整を行うためのタイミング信号を定期的に発生させることができる。
【0061】
演算回路240は、現在の磁場の強度の情報を得るために、周波数切替制御回路270からのタイミング信号に基づいてΔE(0,−1)とΔE(−1,−2)の比R(R=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2))を計算する処理を行う。R=ΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2)は次式(1)のように変形することができる。
【0062】
【数1】
【0063】
そして、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)に対して、安定状態(ロック状態)での電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振周波数をそれぞれfV0,fV1,fV2とすると、f12(0,0)=2×N0×fV0,f12(−1,−1)=2×N1×fV1,f12(−2,−2)=2×N2×fV2なので、式(1)は次式(2)のように変形することができる。
【0064】
【数2】
【0065】
さらに、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)に対して、安定状態(ロック状態)での電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振制御電圧をそれぞれVc0,Vc1,Vc2とすると、係数αを用いてfV0=α×Vc0,fV1=α×Vc1,fV1=α×Vc1と表せるから、式(2)は次式(3)のように変形することができる。
【0066】
【数3】
【0067】
式(3)において、N0,N1,N2は、例えばPLLの逓倍率であるから固定値である。従って、電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振制御電圧Vc0,Vc1,Vc2がわかればRを計算することができる。
【0068】
そこで、演算回路240は、まず、周波数変換回路230の周波数変換率がN0の時に発振制御電圧Vc0(第1のプロファイル情報の一例)を所定のタイミングで取得する。次に、演算回路240は、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率をN0からN1に切り替えるタイミングに同期する所定のタイミングで発振制御電圧Vc1(第2のプロファイル情報の一例)を取得する。次に、演算回路240は、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率をN1からN2に切り替えるタイミングに同期する所定のタイミングで発振制御電圧Vc2(第3のプロファイル情報の一例)を取得する。ここで、所定のタイミングは、周波数変換回路230の周波数変換率がN0,N1,N2の各々の設定において安定状態(ロック状態)に達した後であればよい。例えば、周波数変換回路230の周波数変換率を切り替えてから所定時間が経過すれば安定状態(ロック状態)に達したとみなしてもよいし、電圧制御水晶発振器(VCXO)200の制御電圧の変動幅が所定範囲に収束すれば安定状態(ロック状態)に達したとみなしてもよい。このようにして、演算回路240は、式(3)におけるVc0,Vc1,Vc2を取得し、式(3)に基づいてRを計算する。
【0069】
比較回路250は、演算回路240が計算したRを基準値R0と比較し、比較結果(差分)を磁場制御回路260に供給する。ここで、本実施形態では、基準値R0は、例えば、外乱により加えられる磁場が0の状態での、磁束密度が0.15TにおけるΔE(0,−1)/ΔE(−1,−2)の値であり、あらかじめ計算により求められた値である。
【0070】
そして、磁場制御回路260は、比較回路250の比較結果に基づいて、演算回路240の計算結果がR0と一致するように、磁場発生部140が発生させる磁場の強度を制御する。例えば、磁場発生部140がコイルであれば、磁場制御回路260はそのコイルを流れる電流量を変化させることで磁場の強度を制御することができる。ここで、演算回路240の計算結果のRがR0よりも大きい場合、磁場制御回路260は、磁場発生部140が発生させる磁場の強度をR−R0に応じた分だけ大きくする。一方、演算回路240の計算結果のRがR0よりも小さい場合、磁場制御回路260は、磁場発生部140が発生させる磁場の強度をR0−Rに応じた分だけ小さくする。R−R0と磁場強度の制御量の対応テーブルを記憶しておき、磁場制御回路260がこのテーブルを参照して計算結果のRに応じた制御を行うようにしてもよい。このようにして、ガスセル120にかかる磁場の強度が常に一定になるように制御することができる。
【0071】
なお、ΔE(−1,−2)とΔE(0,−1)の比、すなわち、R−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(0,−1)を計算して(図7(B))、磁場強度のフィードバック制御をすることもできる。
【0072】
なお、半導体レーザー110、磁場発生部140は、それぞれ図1の光源10、磁場発生部40に対応する。また、光検出器130と増幅回路150による構成は、図1の光検出部30に対応する。また、検波回路160、電流駆動回路170、低周波発振器180、検波回路190、電圧制御水晶発振器(VCXO)200、変調回路210、低周波発振器220、周波数変換回路230、周波数切替制御回路270による構成は、図1の周波数制御部50に対応する。また、電圧制御水晶発振器(VCXO)200、周波数変換回路230、周波数切替制御回路270は、それぞれ図1の電圧制御発振器52、周波数変換部54、周波数切替制御部56に対応する。また、演算回路240、比較回路250、磁場制御回路260による構成は、図1の磁場制御部60に対応する。
【0073】
以上に説明したように、第1実施形態の原子発振器では、例えば図5に示したように、磁場強度の変化に対して、異なる3つの磁気量子数m1,m2,m3に対する2つの基底準位のエネルギー差、すなわちΔE12(m1,m1),ΔE12(m2,m2),ΔE12(m3,m3)の変化の度合いが互いに異なることに着目し、所定の範囲(例えば、セシウム原子であれば約0.1T〜約0.2Tの範囲)の磁場の強度とR={ΔE12(m1,m1)−ΔE12(m2,m2)}/{ΔE12(m2,m2)−ΔE12(m3,m3)}の値が1対1に対応することに着目し、磁場強度の調整を行う。具体的には、半導体レーザー110に、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対を順番に発生させ、光検出器130の検出信号に基づいてΔE12(0,0),ΔE12(−1,−1),ΔE12(−2,−2)をそれぞれ特定可能な発振制御電圧Vc0,Vc1,Vc2を順番に取得して{ΔE12(0,0)−ΔE12(−1,−1)}/R={ΔE12(−1,−1)−ΔE12(−2,−2)}を計算し、計算結果のRを基準値R0と比較することで磁場強度の変化量を特定し、磁場の強度が一定になるように制御する。このような構成の第1実施形態の原子発振器によれば、アルカリ金属原子にかかる磁場強度の変化量を確実に捉えて磁場強度の変動を微小な幅に抑えることができるので、従来よりも周波数精度を向上させることができる。
【0074】
また、第1実施形態の原子発振器によれば、従来のようにアルカリ金属原子に弱磁場をかける必要はなく、従来よりも外乱による磁場の変化量を相対的に低減させることができるので磁場の安定制御が容易であり、そのため周波数安定性を高めることができる。
【0075】
[変形例]
第1実施形態では、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)を選択してRを計算しているが、任意の3組の(m,m’)(ただしm=m’)を選択してRを計算することができる。例えば、周波数切替制御回路270は、(m,m’)=(+1,+1),(0,0),(−1,−1)の各々に対する共鳴光対を発生させるように周波数変換回路230の周波数変換率を3通りに切り替え、演算回路240は、R=ΔE(+1,0)/ΔE(0,−1)やR−1=ΔE(0,−1)/ΔE(+1,0)を計算するように変形してもよい(図8(A)、図8(B))。
【0076】
また、第1実施形態では、3組の(m,m)を選択してRを計算しているが、4組以上の(m,m’)(ただしm=m’)を選択してRを計算することもできる。例えば、周波数切替制御回路270は、(m,m’)=(+1,+1),(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対を発生させるように周波数変換回路230の周波数変換率を4通りに切り替え、演算回路240は、R=ΔE(+1,0)/ΔE(−1,−2)やR−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(+1,0)を計算するように変形してもよい(図9(A)、図9(B))。このようにすれば、ガスセル120にかかる磁場の磁束密度が約0.1T〜約0.2Tの範囲におけるRやR−1の変化がさらに大きくなるので、磁場強度のフィードバック制御をより安定化させることができる。
【0077】
また、第1実施形態の原子発振器100Aを図10に示すような構成に変形することもできる。図10に示す変形例の原子発振器100Bは、図2に示した原子発振器100Aに対して、電気光学変調器(EOM:Electro-Optic Modulator)280が追加されている。図10に示すように、原子発振器100Bでは、半導体レーザー110は、周波数変換回路230の出力信号(変調信号)による変調がかけられず、単一周波数f0の光を発生させる。この周波数f0の光は、電気光学変調器(EOM)280に入射し、周波数変換回路230の出力信号(変調信号)によって変調がかけられる。その結果、図3と同様の周波数スペクトルを有する光を発生させることができる。図10に示す原子発振器100Bにおけるその他の構成は、図2に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。なお、半導体レーザー110と電気光学変調器(EOM)280による構成が図1の光源10に対応する。その他の対応関係は、図2に示した原子発振器100Aと同じである。なお、電気光学変調器(EOM)280の代わりに、音響光学変調器(AOM:Acousto-Optic Modulator)を用いてもよい。
【0078】
これらの変形例の構成によっても、原子発振器100Aと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0079】
(2)第2実施形態
図11は、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対するΔE12に相当する周波数f12(0,0),f12(−1,−1),f12(−2,−2)が図5の関係にある場合における磁束密度とΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)の関係を示す図である。図11において、横軸は磁束密度を表し、縦軸はエネルギーの大きさを表す。また、ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)は、それぞれ実線、破線、一点鎖線で表されている。
【0080】
図11に示すように、ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)は、すべて磁束密度に対して単調増加する。従って、磁場の強度は、ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)のいずれに対しても一義的に定まる。すなわち、所定の時刻でΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)のいずれかを求めればその時の磁場の強度がわかるので、磁場の強度が所定の大きさで一定になるようにフィードバック制御をかけることができる。
【0081】
なお、図11から明らかなように、磁束密度が約0.1T〜約0.2Tの範囲では磁束密度の強度の変化に対して、ΔE(−1,−2),ΔE(0,−1),ΔE(+1,0)の変化が特に大きいため、磁場強度のフィードバック制御が容易である。さらに、磁束密度が約0.1T〜約0.2Tの範囲では、ΔE(−1,−2)の変化率がΔE(0,−1)やΔE(+1,0)の変化率よりも大きい。そこで、第2実施形態では、ΔE(−1,−2)を求めて、磁束密度が常に約0.1T〜約0.2Tの範囲内の所定の値(例えば0.15T)になるようにフィードバック制御をかける。
【0082】
図12は、第2実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図12において、図2と同じ構成には同じ番号を付しており、その説明を省略又は簡略する。
【0083】
図12に示すように、第2実施形態の原子発振器100Cでは、図2に示した第1実施形態の原子発振器100Aに対して演算回路240が演算回路290に置き換わっている。
【0084】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、周波数切替制御回路270は、周波数変換回路230の周波数変換率を所定のタイミングでN0,N1,N2の3通りに切り替え、半導体レーザー110に、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対のいずれかを発生させる。本実施形態では、通常動作時は(m,m’)=(0,0)に対する共鳴光対を発生させておき、磁場強度の調整時は(m,m’)=(−1,−1),(−2,−2)の各々に対する共鳴光対を順番に発生させる。
【0085】
演算回路290は、現在の磁場の強度の情報を得るために、周波数切替制御回路270からのタイミング信号に基づいて、ΔE12(−1,−1)とΔE12(−2,−2)の差R(R=ΔE(−1,−2))を計算する処理を行う。演算回路290は、磁気量子数m=−1,−2の各々に対する共鳴光対に基づくEIT現象によるロック状態での制御電圧Vcを取得し、Rを計算する。R=ΔE(−1,−2)は次式(4)のように変形することができる。
【0086】
【数4】
【0087】
式(4)において、N1,N2は、例えばPLLの逓倍率であるから固定値である。従って、電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振制御電圧Vc1,Vc2がわかればRを計算することができる。
【0088】
そこで、演算回路290は、まず、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率をN0からN1に切り替えるタイミングに同期する所定のタイミングで発振制御電圧Vc1(第1のプロファイル情報の一例)を取得する。次に、演算回路240は、周波数切替制御回路270が周波数変換回路230の周波数変換率をN1からN2に切り替えるタイミングに同期する所定のタイミングで発振制御電圧Vc2(第2のプロファイル情報の一例)を取得する。ここで、所定のタイミングは、周波数変換回路230の周波数変換率がN1,N2の各々の設定において安定状態(ロック状態)に達した後であればよい。このようにして、演算回路290は、式(4)におけるVc1,Vc2を取得し、式(4)に基づいてRを計算する。
【0089】
比較回路250は、演算回路290が計算したRを基準値R0と比較し、比較結果(差分)を磁場制御回路260に供給する。ここで、基準値R0は、例えば、例えば、外乱により加えられる磁場が0の状態でのΔE(−1,−2)であり、あらかじめ計算により求められた値である。
【0090】
そして、磁場制御回路260は、比較回路250の比較結果に基づいて、演算回路290の計算結果がR0と一致するように、磁場発生部140が発生させる磁場の強度を制御する。ここで、演算回路240の計算結果のRがR0よりも大きい場合、磁場制御回路260は、磁場発生部140が発生させる磁場の強度をR−R0に応じた分だけ小さくする。一方、演算回路240の計算結果のRがR0よりも小さい場合、磁場制御回路260は、磁場発生部140が発生させる磁場の強度をR0−Rに応じた分だけ大きくする。このようにして、ガスセル120にかかる磁場の強度が常に一定になるように制御することができる。
【0091】
なお、演算回路290、比較回路250、磁場制御回路260による構成は、図1の磁場制御部60に対応する。その他の対応関係は、図2に示した原子発振器100Aと同じである。
【0092】
以上に説明したように、第2実施形態の原子発振器では、例えば図5に示したように、磁場強度の変化に対して、異なる2つの磁気量子数m1,m2に対する2つの基底準位のエネルギー差、すなわちΔE12(m1,m1),ΔE12(m2,m2)の変化の度合いが互いに異なることに着目し、所定の範囲(例えば、セシウム原子であれば約0.1T〜約0.2Tの範囲)の磁場の強度とR=ΔE12(m1,m1)−ΔE12(m2,m2)の値が1対1に対応することに着目し、磁場強度の調整を行う。具体的には、半導体レーザー110に、(m,m’)=(0,0),(−1,−1),(−2,−2)の各々に対応する2つの基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対を順番に発生させ、光検出器130の検出信号に基づいてΔE12(−1,−1),ΔE12(−2,−2)をそれぞれ特定可能な発振制御電圧Vc1,Vc2を順番に取得してR=E12(−1,−1)−ΔE12(−2,−2)を計算し、計算結果のRを基準値R0と比較することで磁場強度の変化量を特定し、磁場の強度が一定になるように制御する。このような構成の第2実施形態の原子発振器によれば、アルカリ金属原子にかかる磁場強度の変化量を確実に捉えて磁場強度の変動を微小な幅に抑えることができるので、従来よりも周波数精度を向上させることができる。
【0093】
また、第2実施形態の原子発振器によれば、従来のようにアルカリ金属原子に弱磁場をかける必要はなく、従来よりも外乱による磁場の変化量を相対的に低減させることができるので磁場の安定制御が容易であり、そのため周波数安定性を高めることができる。
【0094】
[変形例]
例えば、周波数切替制御回路270は、(m,m’)=(0,0),(−1,−1)の各々に対する共鳴光対を発生させるように周波数変換回路230の周波数変換率を2通りに切り替え、演算回路290は、図11に示したR=ΔE(0,−1)を計算するように変形してもよい。
【0095】
また、例えば、周波数切替制御回路270は、(m,m’)=(+1,+1),(0,0)の各々に対する共鳴光対を発生させるように周波数変換回路230の周波数変換率を2通りに切り替え、演算回路290は、図11に示したR=ΔE(+1,0)を計算するように変形してもよい。
【0096】
また、図10に示した第1実施形態の原子発振器の変形例の構成と同様に、第2実施形態においても、半導体レーザー110は変調がかけられずに単一周波数f0の光を発生させ、電気光学変調器(EOM)や音響光学変調器(AOM)で周波数変換回路230の出力信号(変調信号)によって半導体レーザー110の出射光に変調をかけて図3と同様の周波数スペクトルを有する光を発生させるようにしてもよい。
【0097】
これらの変形例の構成によっても、原子発振器100Cと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0098】
(3)第3実施形態
第1実施形態の原子発振器100Aでは、周波数変換回路230の周波数変換率を現在の磁場の状態によらずに一定のタイミングで切り替え、一定周期で磁場強度の調整を行っている。これに対して、第3実施形態では、磁場の状態に合わせて、周波数変換回路230の周波数変換率を切り替えるタイミングを変化させる。具体的には、磁場強度の変動に応じて磁場強度の調整周期を変化させる。
【0099】
図13は、第3実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図13において、図2と同じ構成には同じ番号を付しており、その説明を省略又は簡略する。
【0100】
図13に示すように、第3実施形態の原子発振器100Dでは、図2に示した第1実施形態の原子発振器100Aに対して履歴情報記憶部300が追加されている。
【0101】
履歴情報記憶部300は、演算回路240が新たにRの計算をするたびにその計算結果のRの値(磁場強度情報の一例)を履歴情報として記憶する。履歴情報記憶部300は、種々のメモリー素子を用いてRAM(Random Access Memory)やFIFO(First In First Out)等として実現することができる。
【0102】
周波数切替制御回路270は、例えば、履歴情報記憶部300に前回記憶したRの値と演算回路240が今回計算したRの値(履歴情報記憶部300に今回記憶するRの値)の差の絶対値が所定の閾値よりも大きければ磁場強度の調整周期が長すぎると判断し、周波数変換回路230の周波数変換率の切り替え周期(演算回路240によるRの計算周期)を短く設定する。さらに、周波数切替制御回路は、例えば、計算周期が所定の閾値よりも短い場合に、履歴情報記憶部300に前回記憶したRの値と演算回路240が今回計算したRの値(履歴情報記憶部300に今回記憶するRの値)の差の絶対値が所定の閾値よりも小さければ磁場強度の調整周期が短すぎると判断し、周波数変換回路230の周波数変換率の切り替え周期(演算回路240によるRの計算周期)を長く設定する。
【0103】
このように第3実施形態によれば、磁場強度の変動が激しいほど磁場強度の調整周期を短くすることができるので、磁場強度の変動に伴う周波数安定精度の劣化を低減することができる。また、磁場強度の変動が緩やかであれば磁場強度の調整周期を所定の長さにすることができるので、周波数安定精度を保持しながら消費電力を最適化することができる。
【0104】
なお、履歴情報記憶部300は、図1の記憶部70に対応する。その他の対応関係は、図2に示した原子発振器100Aと同じである。
【0105】
第3実施形態の原子発振器によれば、第1実施形態の原子発振器と同様の効果に加えて、頻繁に磁場が変動する場合や磁場の変動量が大きい場合には切り替えタイミングの周期を短くすることで磁場の調整周期を短くし、磁場がほとんど変動しない場合には切り替えタイミングの周期を長くすることで磁場の調整周期を長くするといったより細かい磁場制御が可能になり、周波数安定度を向上させることができる。
【0106】
[変形例]
例えば、履歴情報記憶部300は、演算回路240が計算したRの値の代わりに、演算回路240が取得した電圧制御水晶発振器(VCXO)200の発振制御電圧Vc0,Vc1,Vc2の各値(プロファイル情報の一例)を履歴情報として記憶するようにしてもよい。この場合、周波数切替制御回路270は、履歴情報記憶部300に前回記憶した発振制御電圧Vc0,Vc1,Vc2の各値と演算回路240が今回取得したVc0,Vc1,Vc2の各値(履歴情報記憶部300に今回記憶するVc0,Vc1,Vc2の各値)のそれぞれの差の絶対値の少なくとも1つが所定の閾値よりも大きいか小さいかによって磁場強度の調整周期が長すぎるか短すぎるかを判断し、周波数変換回路230の周波数変換率の切り替え周期(演算回路240によるRの計算周期)を調整するようにしてもよい。
【0107】
また、例えば、履歴情報記憶部300に、前回の履歴情報だけでなく複数回の履歴情報を記憶するようにし、周波数切替制御回路270は、3つ以上(例えば、前々回、前回、今回)の履歴情報に基づいて、周波数変換回路230の周波数変換率の切り替え周期(演算回路240によるRの計算周期)を調整するようにしてもよい。
【0108】
また、例えば、第1実施形態の原子発振器の変形例と同様に、演算回路240がR=ΔE(+1,0)/ΔE(0,−1)やR=ΔE(+1,0)/ΔE(−1,−2)又はR−1=ΔE(0,−1)/ΔE(+1,0)やR−1=ΔE(−1,−2)/ΔE(+1,0)を計算するように変形してもよい。
【0109】
また、図10に示した第1実施形態の原子発振器の変形例の構成と同様に、第3実施形態においても、半導体レーザー110は変調がかけられずに単一周波数f0の光を発生させ、電気光学変調器(EOM)や音響光学変調器(AOM)で周波数変換回路230の出力信号(変調信号)によって半導体レーザー110の出射光に変調をかけて図3と同様の周波数スペクトルを有する光を発生させるようにしてもよい。
【0110】
これらの変形例の構成によっても、原子発振器100Dと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0111】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0112】
例えば、第1実施形態〜第3実施形態では、半導体レーザー110の出射光の1次のサイドバンドの2種類の光(周波数f0±fm)が共鳴光対となるように制御していたが、これに限られない。例えば、中心周波数f0の光と周波数がf0+fmの光が共鳴光対となるとともに、中心周波数f0の光と周波数がf0−fmの光が共鳴光対となるように制御してもよい。
【0113】
また、例えば、第1実施形態〜第3実施形態では、1つの半導体レーザーに変調をかけることで共鳴光対を発生させているが、より単純に、2つの半導体レーザーを別々の駆動電流で駆動して共鳴光対を発生させるようにしてもよい。
【0114】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0115】
1 原子発振器、10 光源、12 出射光、20 アルカリ金属原子、22 透過光、30 光検出部、32 検出信号、40 磁場発生部、50 周波数制御部、52 電圧制御発振器、54 周波数変換部、56 周波数切替制御部、60 磁場制御部、70 記憶部、100A〜100D 原子発振器、110 半導体レーザー、120 ガスセル、130 光検出器、140 磁場発生部、150 増幅回路、160 検波回路、170 電流駆動回路、180 低周波発振器、190 検波回路、200 電圧制御水晶発振器(VCXO)、210 変調回路、220 低周波発振器、230 周波数変換回路、240 演算回路、250 比較回路、260 磁場制御回路、270 周波数切替制御回路、280 電気光学変調器(EOM)、290 演算回路、300 履歴情報記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、
気体状のアルカリ金属原子と、
可干渉性を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させて前記アルカリ金属原子に照射する光源と、
前記アルカリ金属原子の第1基底準位と第2基底準位にゼーマン分裂を生じさせる磁場を発生させる磁場発生部と、
前記アルカリ金属原子を透過した光を受け取り、受け取った光の強度に応じた検出信号を生成する光検出部と、
前記検出信号に基づいて、前記第1の光と前記第2の光が、前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を起こさせる共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う周波数制御部と、
前記検出信号に基づいて、前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する磁場制御部と、を含み、
前記周波数制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が、順に、ゼーマン分裂により生じた複数の前記第1基底準位と複数の前記第2基底準位のうちの複数の所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、
前記磁場制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が、前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差を特定可能なプロファイル情報を順に取得し、取得した複数の前記プロファイル情報に基づいて、前記アルカリ金属原子にかかる磁場の強度が一定になるように前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する、原子発振器。
【請求項2】
請求項1において、
前記光源は、
所定の周波数の変調信号によって周波数変調がかけられることにより、前記第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させ、
前記周波数制御部は、
前記検出信号に基づく発振制御電圧に応じた周波数で発振する発振信号を生成する電圧制御発振器と、
前記発振信号を所与の周波数変換率で周波数変換して前記変調信号を生成する周波数変換部と、
前記第1の光と前記第2の光が、順に、前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記切り替えタイミングで前記周波数変換率を切り替える周波数切替制御部と、を含む、原子発振器。
【請求項3】
請求項2において、
前記磁場制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの前記発振制御電圧の値を前記プロファイル情報として順に取得する、原子発振器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記周波数制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が第1の磁気量子数、第2の磁気量子数及び第3の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、
前記磁場制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が前記第1の磁気量子数、第2の磁気量子数及び第3の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときに、第1の前記プロファイル情報、第2の前記プロファイル情報及び第3の前記プロファイル情報をそれぞれ取得し、前記第1のプロファイル情報、前記第2のプロファイル情報及び前記第3のプロファイル情報に基づいて、前記第1の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差と、前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第3の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差との比を計算し、計算結果に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する、原子発振器。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記周波数制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が第1の磁気量子数及び第2の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、
前記磁場制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が前記第1の磁気量子数及び第2の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときに、第1の前記プロファイル情報及び第2の前記プロファイル情報をそれぞれ取得し、前記第1のプロファイル情報及び前記第2のプロファイル情報に基づいて、前記第1の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差を計算し、計算結果に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する、原子発振器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記周波数制御部は、
前記磁場発生部が発生させる磁場の強度変動の程度に応じて、前記切り替えタイミングの周期を変更する、原子発振器。
【請求項7】
請求項6において、
前記プロファイル情報又は前記プロファイル情報に基づく磁場の強度を特定可能な磁場強度情報を記憶する記憶部を含み、
前記周波数制御部は、
前記記憶部に記憶された前記プロファイル情報又は前記磁場強度情報に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度変動の程度を判定し、判定結果に基づいて前記切り替えタイミングの周期を変更する、原子発振器。
【請求項1】
アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、
気体状のアルカリ金属原子と、
可干渉性を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させて前記アルカリ金属原子に照射する光源と、
前記アルカリ金属原子の第1基底準位と第2基底準位にゼーマン分裂を生じさせる磁場を発生させる磁場発生部と、
前記アルカリ金属原子を透過した光を受け取り、受け取った光の強度に応じた検出信号を生成する光検出部と、
前記検出信号に基づいて、前記第1の光と前記第2の光が、前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を起こさせる共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う周波数制御部と、
前記検出信号に基づいて、前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する磁場制御部と、を含み、
前記周波数制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が、順に、ゼーマン分裂により生じた複数の前記第1基底準位と複数の前記第2基底準位のうちの複数の所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、所定の切り替えタイミングで前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、
前記磁場制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が、前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差を特定可能なプロファイル情報を順に取得し、取得した複数の前記プロファイル情報に基づいて、前記アルカリ金属原子にかかる磁場の強度が一定になるように前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する、原子発振器。
【請求項2】
請求項1において、
前記光源は、
所定の周波数の変調信号によって周波数変調がかけられることにより、前記第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させ、
前記周波数制御部は、
前記検出信号に基づく発振制御電圧に応じた周波数で発振する発振信号を生成する電圧制御発振器と、
前記発振信号を所与の周波数変換率で周波数変換して前記変調信号を生成する周波数変換部と、
前記第1の光と前記第2の光が、順に、前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記切り替えタイミングで前記周波数変換率を切り替える周波数切替制御部と、を含む、原子発振器。
【請求項3】
請求項2において、
前記磁場制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が前記所定の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときの前記発振制御電圧の値を前記プロファイル情報として順に取得する、原子発振器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記周波数制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が第1の磁気量子数、第2の磁気量子数及び第3の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、
前記磁場制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が前記第1の磁気量子数、第2の磁気量子数及び第3の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときに、第1の前記プロファイル情報、第2の前記プロファイル情報及び第3の前記プロファイル情報をそれぞれ取得し、前記第1のプロファイル情報、前記第2のプロファイル情報及び前記第3のプロファイル情報に基づいて、前記第1の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差と、前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第3の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差との比を計算し、計算結果に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する、原子発振器。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記周波数制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が第1の磁気量子数及び第2の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数を切り替え、
前記磁場制御部は、
前記第1の光と前記第2の光が前記第1の磁気量子数及び第2の磁気量子数の各々に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位の間で遷移を引き起こす共鳴光対となるときに、第1の前記プロファイル情報及び第2の前記プロファイル情報をそれぞれ取得し、前記第1のプロファイル情報及び前記第2のプロファイル情報に基づいて、前記第1の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差と前記第2の磁気量子数に対応する前記第1基底準位と前記第2基底準位のエネルギー差との差を計算し、計算結果に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度を制御する、原子発振器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記周波数制御部は、
前記磁場発生部が発生させる磁場の強度変動の程度に応じて、前記切り替えタイミングの周期を変更する、原子発振器。
【請求項7】
請求項6において、
前記プロファイル情報又は前記プロファイル情報に基づく磁場の強度を特定可能な磁場強度情報を記憶する記憶部を含み、
前記周波数制御部は、
前記記憶部に記憶された前記プロファイル情報又は前記磁場強度情報に基づいて前記磁場発生部が発生させる磁場の強度変動の程度を判定し、判定結果に基づいて前記切り替えタイミングの周期を変更する、原子発振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−182215(P2011−182215A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45081(P2010−45081)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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