説明

双安定素子

【課題】 双安定素子、特に半導体双安定レーザーには、(1)安定した動作条件が得られにくい、(2)小型化が難しい、という課題があった。
【解決手段】 基板上に、多モード干渉光導波路と、前記多モード干渉光導波路の前後に、前記多モード干渉光導波路より幅の細い第一の光導波路と、前記多モード干渉光導波路より幅の細い第二の光導波路と、前記多モード干渉光導波路より幅の細い第三の光導波路とが接続され、前記第一の光導波路が、1次モード許容導波路であることを特徴とし、前記第二の光導波路において、0次モードと1次モードとが定在波として存在できることを特徴とする双安定素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双安定素子に関し、特に小型で安定した動作が得られる双安定素子の光導波路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全光ルータの実現などに必要な光メモリ機能を有する素子として、双安定素子、中でも半導体双安定素子が検討されている。半導体双安定素子と一口に言っても、様々な原理がこれまでに報告されているが、中でも、特に比較的安定した双安定動作が実現される代表例としては、多モード干渉光導波路中における異なる2つの光導波経路を有する構造を利用した双安定素子が、中野らによって特許文献1及び非特許文献1に報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の半導体双安定素子は、双安定素子として優れた動作が報告されているが、(1)動作電流条件が狭い(設定電流値の数%以内に電流設定しないと双安定動作が得られない)、(2)素子全長が長く集積化にはあまり適さない、という課題があった。
【0004】
本発明の目的は、上述の双安定素子の課題であった、(1)動作条件が比較的広い、(2)集積に適した小型化が可能、という2つの目的を達成することにある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−84327号公報
【非特許文献1】IEEE Photonics Technology Letters, Vol. 15, No.8, pp.1035-1037
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明の双安定素子は、基板上に、多モード干渉光導波路と、前記多モード干渉光導波路の前後に、前記多モード干渉光導波路より幅の細い光導波路が複数個接続され、前記多モード干渉光導波路より幅の細い光導波路の少なくとも1つが、0次モードと1次モードとを許容する光導波路であることを特徴とする。
【0007】
また、前記幅の細い光導波路が、3個接続されていることを特徴とする。
【0008】
また、前記幅の細い光導波路のうち少なくとも1つが、0次モードと1次モードとが定在波として存在できることを特徴とする。
【0009】
また、前記基板が、半導体基板であることを特徴とする。
【0010】
また、前記双安定素子の光導波路が、能動光導波路であることを特徴とする。
【0011】
また、前記双安定素子の光導波路が、過飽和吸収領域を有することを特徴とする。
【0012】
あるいは、本発明の双安定素子は、基板上に、多モード干渉光導波路と、前記多モード干渉光導波路の前後に、前記多モード干渉光導波路より幅の細い光導波路が複数個接続され、前記多モード干渉光導波路より幅の細い光導波路の少なくとも1つが、0次モードと1次モードとを許容する光導波路であることを特徴とし、前記幅の細い光導波路が、4個接続されていることを特徴とする。
【0013】
また、前記幅の細い光導波路のうち少なくとも1つが、0次モードと1次モードとが定在波として存在できることを特徴とする。
【0014】
また、前記基板が、半導体基板であることを特徴とする。
【0015】
また、前記双安定素子の光導波路が、能動光導波路であることを特徴とする。
【0016】
また、前記双安定素子の光導波路が、過飽和吸収領域を有することを特徴とする。
【0017】
また、前記幅の細い光導波路のうち少なくとも1つが、不要光除去機能を有する光導波路であることを特徴とする。
【0018】
また、前記不要光除去機能が、光吸収領域であることを特徴とする。
【0019】
また、前記不要光除去機能が、曲線導波路であることを特徴とする。
【0020】
本発明による双安定素子は、多モード光干渉領域内において長い利得相互作用領域が得られるよう作用する。
【発明の効果】
【0021】
本発明による第1の効果は、安定した双安定動作範囲が得られることである。第2の効果は、小型化が得られることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の第1の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1を参照すると、本発明の第1の実施形態として、双安定素子の光導波路構成概要図が示されている。基板100上に、第一の光導波路101と、多モード干渉光導波路102と、第二の光導波路103と、第三の光導波路104とが集積されている。
【0025】
第一の光導波路101、第二の光導波路103、及び第三の光導波路104の導波路幅は4μm程度、多モード干渉光導波路102の導波路幅は10μm程度としている。
【0026】
第一の光導波路101の長さは50μm程度、多モード干渉光導波路102の長さは280μm程度、第二の光導波路103及び第三の光導波路104の長さは50μm程度としている。
【0027】
また、図1のA−A’で示される光導波路断面構造は、図2で示されるような、通常の多重量子井戸からなる発光層を用いたリッジ構造となっている。
【0028】
また、第一の光導波路101と、多モード干渉光導波路102と、第二の光導波路103と、第三の光導波路104とは、層構造は同一で、差異はその導波路幅のみである。
【0029】
その断面構造は、n−InP基板201上に、n−InPバッファ層202、InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203、第一のp−InPクラッド層204、p−InGaAsPエッチングストッパ層205、第二のp−InPクラッド層206、p−InGaAsコンタクト層207から構成されている。前記InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203は、SCH(Separate Confinement Hetero-structure)と多重量子井戸からなる通常の発光層である。
【0030】
また、各層の厚さは、n−InPバッファ層202が100nm程度、InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203が100nm程度、第一のp−InPクラッド層204が200nm程度、p−InGaAsPエッチングストッパ層205が10nm程度、第二のp−InPクラッド層206が800nm程度、p−InGaAsコンタクト層207が150nm程度、それぞれ積層された構造となっている。
【0031】
リッジ構造とするため、図2に示されるように、非導波領域においては、p−InGaAsコンタクト層207及び第二のp−InPクラッド層206がエッチングにより除去された構造となっている。
【0032】
以下、本発明による第1の実施形態の双安定素子によって、安定した双安定動作範囲が得られ、更には小型化が得られる原理を説明する。
【0033】
図3は一般的な多モード干渉光導波路型双安定素子の動作原理を説明する図で、その双安定動作原理は、一般的に、多モード干渉光導波路302中において、(1)2つの同時に発振可能な経路(図3の経路311及び経路312)を有すること、(2)前記2つの経路間での相互利得差によって、どちらかの経路での発振が選択されること、による。例えば、ある一定の電流を能動光導波路に予め注入したうえで、外部から入力ポート321に光を入力すると、入力された経路311がレーザー発振経路として選択され、この際多モード干渉光導波路302内での経路311に対する利得が、経路312に対する利得に比較して集中することとなり、結果として経路311のみでの発振が得られることとなる。この状態で、今度は入力ポート322に光を入射すると、入力された経路312がレーザー発振経路として選択され、この際多モード干渉光導波路302内での経路312に対する利得が、経路311に対する利得に比較して集中することとなり、結果として経路312のみでの発振が得られ、代わりに経路311でのレーザー発振が停止することとなる。このようにして、2つの双安定状態が作り出される。
【0034】
しかしながらこの図3を見ると、2つの経路311と312とが交差する領域331は、多モード干渉光導波路302の中でわずかであり、このわずかな領域における相互利得差を利用しているために、(1)安定した双安定状態(すなわち、片側の経路のみがレーザー発振する条件)が得られにくい、(2)相互利得差をある程度確保するために、比較的長い多モード干渉光導波路長が必要となり、結果として素子サイズが大きくなってしまう、という課題があった。
【0035】
一方本発明の多モード干渉光導波路型双安定素子の原理は、下記のような原理による。
【0036】
図1及び図4を参照してその動作原理を説明すると、図1及び図4に示す多モード干渉光導波路型双安定素子は、平面視において矩形状に形成された多モード干渉光導波路102と、この多モード干渉光導波路102に結合された第一の光導波路101、第二の光導波路103及び第三の光導波路104とを備える。第一の光導波路101及び第二の光導波路103は、多モード干渉光導波路102の一辺に結合している。第三の光導波路104は、多モード干渉光導波路102の上記一辺と対向する辺に結合している。第二の光導波路103及び第三の光導波路104は、ほぼ同一直線上に位置しており、第一の光導波路101は、これらと平行に設けられている。この多モード干渉光導波路型双安定素子は、以下の2つの安定モードを有する。
【0037】
(i)0次モード光
0次モード光は、第一の光導波路101から多モード干渉光導波路102へ入射し、多モード干渉光導波路102内をクランク状に導波した後、第三の光導波路104から出射する。
【0038】
(ii)1次モード光
1次モード光は、第三の光導波路104から多モード干渉光導波路102へ入射し、多モード干渉光導波路102内を直線状に導波した後、第二の光導波路103から出射する。
【0039】
上述のように、第二の光導波路103は、0次モードと1次モードとが定在波として存在できるように構成されている。多モード干渉光導波路102は、0次モード光と1次モード光が一体となる領域431を備えている。
【0040】
以下、図4を参照して、本実施形態に係る多モード干渉光導波路型双安定素子の原理を説明する。
【0041】
上述のように、本実施形態に係る多モード干渉光導波路型双安定素子の原理は、(1)2つの同時に発振可能な経路として411、412という経路を利用する、(2)前記2つの経路間での相互利得差によって、どちらかの経路での発振が選択されること、ということによる。特に2つの経路411、412との重なり領域431は、互いに半分近い領域で重なることを利用している。これは、本発明の多モード干渉光導波路において、ビート長:Lπ、実効導波路幅:W、n: 導波領域の屈折率、λ:波長とした時、多モード干渉光導波路長LMMIを下記計算式:
【0042】
【数1】

【0043】
とすると、0次モードに対してはクロス方向、1次モードに対してはバー方向に自己干渉像が生じる現象を利用している結果による。
【0044】
図5はこの動作原理を説明するもので、図5(a)0次モードの、図5(b)1次モードの、それぞれに対する自己干渉の様子をビーム伝搬法によってシミュレーションした結果である。
【0045】
図5を見てわかるように、0次モード光に対してはクロス方向に、1次モード光に対してはバー方向に自己干渉像が得られることがわかる。
【0046】
この原理を利用し、本発明では、例えば、ある一定の電流を能動光導波路に予め注入したうえで、外部からポート421に0次モード光を入力すると、経路411がレーザー発振経路として選択され、この際、経路411に対する利得が、経路412に対する利得に比較して集中することとなり、結果として経路411のみでの発振が得られることとなる。この状態で、今度はポート422に1次モード光を入射すると、経路412がレーザー発振経路として選択され、この際、経路412に対する利得が、経路411に対する利得に比較して集中することとなり、結果として経路412のみでの発振が得られ、代わりに経路411でのレーザー発振が停止することとなる。ここで2つの経路411、412との重なり領域は、互いに半分近い領域で重なっている。このため、設定注入電流値が従来に比べて広い電流範囲で設定できる(即ち、双安定状態が比較的安定的に作り出すことができる)うえ、MMI領域長も比較的短く設定することができる。
【0047】
なお、本発明では多モード干渉光導波路102(図1参照)の長さを数1に従って設定したが、必ずしも正確にこの長さを設定する必要は無く、数1の±10%程度以内に多モード干渉光導波路102の長さが設定されていれば、本発明は適用可能である。
【0048】
また本発明では、発光層203をSCH(Separate Confinement Hetero-structure)と多重量子井戸からなる通常の発光層としたが、必ずしもこれに限るわけではなく、例えばひずみ多重量子井戸としても良いし、バルク発光層としても適用可能である。
【0049】
また、波長を1.55μm帯としているが、必ずしもこれに限るわけではなく、例えば1.3μm帯でも良いし、可視光帯であっても本発明は適用可能である。
【0050】
また材料系をInGaAsP/InPとしているが、もちろんこれに限るわけではなく、InGaAlAsとしても良いし、波長帯に合わせて自由に材料系を設定したとしても本発明は適用可能である。
【0051】
また、光導波路構造としてリッジ構造としたが、これに限るわけではなく、例えば埋め込み構造やハイメサ構造としても本発明は適用可能である。
【0052】
また、0次モードの入力ポートを421、1次モードの入力ポートを422としたが、これに限るわけではなく、例えば0次モードの入力ポートをポート422、1次モードの入力ポートをポート423としても本発明は適用可能である。
【0053】
次に、図6及び図7を参照して第1の実施形態の製造方法を説明する。
【0054】
始めに、通常のn−InP基板601上に、MOCVD法を用いてn−InPバッファ層202、InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203、第一のp−InPクラッド層204、p−InGaAsPエッチングストッパ層205、第二のp−InPクラッド層206、p−InGaAsコンタクト層207を成長する(図6(a))。
【0055】
次に、ステッパ(縮小投影露光)によるフォトリソグラフィ法を用いて導波路形状にSiOマスク602を形成する(図6(b))。
【0056】
このマスクを用いて、誘導結合プラズマ(ICP)法によりエッチングを施し、リッジ703を形成する(図7(a))。
【0057】
この後、熱CVD法により全面にSiO膜704を堆積し、ステッパ(縮小投影露光)によるフォトリソグラフィ法を用いてリッジ直上のSiO膜を除去し(図7(b))、Ti/Pt/Auからなる上面電極材料を電子ビーム蒸着法により形成する。
【0058】
この後、ウェハ裏面を研磨しTi/Auからなる裏面電極を形成し、端面位置にて劈開を行い、素子の製造を終了する。
【0059】
なお、本実施の形態では、フォトリソグラフィにステッパを用いているが、これに限るわけではなく、例えば電子ビーム露光であっても適用可能である。またSiO膜704形成法に熱CVDを用いているが、例えばプラズマCVD法であっても、スパッタ法であっても適用可能である。また、メサ形成工程方法についてもICP法に限るわけではなく、例えばRIE法であっても適用可能であるし、ウェットエッチング法を適用しても良い。
【実施例2】
【0060】
次に本発明の第2の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0061】
図8を参照すると、本発明の第2の実施形態として、双安定素子の光導波路構成概要図が示されている。第1の実施例と同様に、基板800上に、第一の光導波路801と、多モード干渉光導波路802と、第二の光導波路803と、第三の光導波路804とが集積されている。
【0062】
また、第三の光導波路804の一部は、過飽和吸収領域851となっている。
【0063】
第一の光導波路801、第二の光導波路803、及び第三の光導波路804の導波路幅は4μm程度、多モード干渉光導波路の導波路幅は10μm程度としている。
【0064】
第一の光導波路801及び第二の光導波路803の長さは50μm程度、多モード干渉光導波路802の長さは280μm程度としている。第三の光導波路804の長さは100μm程度とし、その内ポート422側50μm程度を過飽和吸収領域851としている。
【0065】
第1の実施例との差異は、過飽和吸収領域851を設けている点であり、その他は第1の実施例と同様である。
【0066】
また、図8のA−A’ で示される光導波路断面構造は、第1の実施例と同様に図2で示されるような、通常の多重量子井戸からなる発光層を用いたリッジ構造となっている。
【0067】
また、第一の光導波路801と、多モード干渉光導波路802と、第二の光導波路803と、第三の光導波路804とは、層構造は同一で、差異はその導波路幅のみである。
【0068】
その断面構造は、n−InP基板201上に、n−InPバッファ層202、InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203、第一のp−InPクラッド層204、p−InGaAsPエッチングストッパ層205、第二のp−InPクラッド層206、p−InGaAsコンタクト層207から構成されている。前記InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203は、SCH(Separate Confinement Hetero-structure)と多重量子井戸からなる通常の発光層である。
【0069】
また、各層の厚さは、n−InPバッファ層202が100nm程度、InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203が100nm程度、第一のp−InPクラッド層204が200nm程度、p−InGaAsPエッチングストッパ層205が10nm程度、第二のp−InPクラッド層206が800nm程度、p−InGaAsコンタクト層207が150nm程度、それぞれ積層された構造となっている。
【0070】
リッジ構造とするため、図2に示されるように、非導波領域においては、p−InGaAsコンタクト層207及び第二のp−InPクラッド層206がエッチングにより除去された構造となっている。
【0071】
以下、本発明による第2の実施形態の双安定素子によって、安定した双安定動作範囲が得られ、更には小型化が得られる原理を説明する。
【0072】
第2の実施例の動作原理も基本的には第1の実施例と同様である。図5はこの動作原理を説明するもので、図5(a)0次モードの、図5(b)1次モードの、それぞれに対する自己干渉の様子をビーム伝搬法によってシミュレーションした結果である。
【0073】
図5を見てわかるように、0次モード光に対してはクロス方向に、1次モード光に対してはバー方向に経路が設定される。
【0074】
図4を参照すると、この原理を利用し、本発明では例えば、ある一定の電流を能動光導波路に予め注入したうえで、外部からポート421に0次モード光を入力すると、経路411がレーザー発振経路として選択され、この際、経路411に対する利得が、経路412に対する利得に比較して集中することとなり、結果として経路411のみでの発振が得られることとなる。この状態で、今度はポート422に光を入射すると、経路412がレーザー発振経路として選択され、この際、経路412に対する利得が、経路411に対する利得に比較して集中することとなり、結果として経路412のみでの発振が得られ、代わりに経路411でのレーザー発振が停止することとなる。ここで2つの経路411、412との重なり領域は、互いに半分近い領域で重なっている。このため、設定注入電流値が従来に比べて広い電流範囲で設定できる(即ち、双安定状態が比較的安定的に作り出すことができる)うえ、MMI領域長も比較的短く設定することができる。
【0075】
加えて、本実施例では過飽和吸収領域851(図8参照)が設けてあるため、第1の実施例と比べてより広い電流範囲で設定注入電流値が設定できる
【0076】
なお、本発明では多モード干渉光導波路802の長さを数1に従って設定したが、必ずしも正確にこの長さを設定する必要は無く、数1の±10%程度以内に多モード干渉光導波路802の長さが設定されていれば、本発明は適用可能である。
【0077】
また本発明では、発光層203をSCH( Separate Confinement Hetero-structure)と多重量子井戸からなる通常の発光層としたが、必ずしもこれに限るわけではなく、例えばひずみ多重量子井戸としても良いし、バルク発光層としても適用可能である。
【0078】
また、波長を1.55μm帯としているが、必ずしもこれに限るわけではなく、例えば1.3μm帯でも良いし、可視光帯であっても本発明は適用可能である。
【0079】
また材料系をInGaAsP/InPとしているが、もちろんこれに限るわけではなく、InGaAlAsとしても良いし、波長帯に合わせて自由に材料系を設定したとしても本発明は適用可能である。
【0080】
また光導波路構造としてリッジ構造としたが、これに限るわけではなく、例えば埋め込み構造やハイメサ構造としても本発明は適用可能である。
【0081】
また、過飽和吸収領域851の長さを50μmとしているが、もちろんこの長さに限定するものではない。さらに、過飽和吸収領域851をポート422側に設定しているが、もちろんポート421及びポート423側に設定したとしても、本発明は適用可能である。
【0082】
次に、図6、図7、及び図9、図10を参照して第2の実施形態の製造方法を説明する。
【0083】
第1の実施形態と同様に、始めに、通常のn−InP基板601上に、MOCVD法を用いてn−InPバッファ層202、InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203、第一のp−InPクラッド層204、p−InGaAsPエッチングストッパ層205、第二のp−InPクラッド層206、p−InGaAsコンタクト層207を成長する(図6(a))。
【0084】
次に、ステッパ(縮小投影露光)によるフォトリソグラフィ法を用いて導波路形状にマスク602を形成する(図6(b))。
【0085】
このマスクを用いて、誘導結合プラズマ(ICP)法によりエッチングを施し、リッジ703を形成する(図7(a))。
【0086】
この後、熱CVD法により全面にSiO膜704を堆積し、ステッパ(縮小投影露光)によるフォトリソグラフィ法を用いてリッジ直上のSiO膜を除去し(図7(b))マスクを除去する。
【0087】
次に、第1の実施例とは異なり、導波方向でのリッジ直上断面を見ながら、図9及び図10にてレーザー発振用電流注入領域941及び過飽和吸収領域851の製造方法を説明する。
【0088】
ステッパ(縮小投影露光)によるフォトリソグラフィ法を用いて電気的分離溝形成用のマスク901を形成する(図9(a))。
【0089】
この際、分離溝領域942の長さは4μm程度としている。この後、硫酸系エッチング液を用いて、分離溝領域942のコンタクト層207を除去する(図9(b))。
【0090】
次にマスク901を除去した後、熱CVD法によりSiO膜1001を全面に形成し、ステッパによるフォトリソグラフィ法を用いて分離溝領域942以外のリッジ直上のSiOを除去するようマスク1002を形成する(図10(a))。
【0091】
この後、分離溝領域942以外のリッジ直上のSiO膜を除去し(図10(b))、Ti/Pt/Auからなる上面電極材料を電子ビーム蒸着法により形成し、ステッパによるフォトリソグラフィ法により、941及び851とが導通しないよう電極パターニングを行う。
【0092】
この後、ウェハ裏面を研磨しTi/Auからなる裏面電極を形成し、端面位置にて劈開を行い、素子の製造を終了する。
【0093】
なお、本実施の形態では、フォトリソグラフィにステッパを用いているが、これに限るわけではなく、例えば電子ビーム露光であっても適用可能である。またSiO膜1001形成法に熱CVDを用いているが、例えばプラズマCVD法であっても、スパッタ法であっても適用可能である。また、メサ形成工程方法についてもICP法に限るわけではなく、例えばRIE法であっても適用可能であるし、ウェットエッチング法を適用しても良い。
【実施例3】
【0094】
本発明の第3の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0095】
図11を参照すると、本発明の第3の実施形態として、双安定素子の光導波路構成概要図が示されている。基板1100上に、第一の光導波路1101と、多モード干渉光導波路1102と、第二の光導波路1103と、第三の光導波路1104と、第四の光導波路1110とが集積されている。
【0096】
第一の光導波路1101、第二の光導波路1103、第三の光導波路1104、及び第四の光導波路1110の導波路幅は4μm程度、多モード干渉光導波路1102の導波路幅は10μm程度としている。
【0097】
第一の光導波路1101及び第二の光導波路1103の長さは50μm程度、多モード干渉光導波路1102の長さは280μm程度、第三の光導波路1104及び第四の光導波路1110の長さは50μm程度としている。
【0098】
また、図11のA−A’で示される光導波路断面構造は、図2で示されるような、通常の多重量子井戸からなる発光層を用いたリッジ構造となっている。
【0099】
また、第一の光導波路1101と、多モード干渉光導波路1102と、第二の光導波路1103と、第三の光導波路1104と、第四の光導波路1110は、層構造は同一で、差異はその導波路幅のみである。
【0100】
その断面構造は、n−InP基板201上に、n−InPバッファ層202、InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203、第一のp−InPクラッド層204、p−InGaAsPエッチングストッパ層205、第二のp−InPクラッド層206、p−InGaAsコンタクト層207から構成されている。前記InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203は、SCH(Separate Confinement Hetero-structure)と多重量子井戸からなる通常の発光層である。
【0101】
また、各層の厚さは、n−InPバッファ層202が100nm程度、InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203が100nm程度、第一のp−InPクラッド層204が200nm程度、p−InGaAsPエッチングストッパ層205が10nm程度、第二のp−InPクラッド層206が800nm程度、p−InGaAsコンタクト層207が150nm程度、それぞれ積層された構造となっている。
【0102】
リッジ構造とするため、図2に示されるように、非導波領域においては、p−InGaAsコンタクト層207及び第二のp−InPクラッド層206がエッチングにより除去された構造となっている。また、第四の光導波路1110には電流が流れないようになっている。
【0103】
以下、本発明による第1の実施形態の双安定素子によって、安定した双安定動作範囲が得られ、更には小型化が得られる原理を説明する。
【0104】
第3の実施例の動作原理も基本的には第1の実施例と同様である。図12はこの動作を説明するもので、本発明では例えば、ある一定の電流を能動光導波路に予め注入したうえで、外部からポート1221に光を入力すると、経路1211がレーザー発振経路として選択され、この際、経路1211に対する利得が、経路1212に対する利得に比較して集中することとなり、結果として経路1211のみでの発振が得られることとなる。この状態で、今度は入力ポート1223に光を入射すると、入力された経路1212がレーザー発振経路として選択され、この際、経路1212に対する利得が、経路1211に対する利得に比較して集中することとなり、結果として経路1212のみでの発振が得られ、代わりに経路1211でのレーザー発振が停止することとなる。ここで2つの経路1211、1212との重なり領域1231は、互いに半分近い領域で重なっている。このため、設定注入電流値が従来に比べて広い電流範囲で設定できる(即ち、双安定状態が比較的安定的に作り出すことができる)うえ、MMI領域長も比較的短く設定することができる。
【0105】
加えて、本実施例では第四の光導波路1110(図11参照)が設定されている。この第四の光導波路1110は、不要光除去用光導波路として機能する。一般に、入力光として1次モード光のみを入力ポートへ入射するのは容易ではない。そのため簡便な方法としては、入力ポート中心からかなりずらした位置から光入射することにより、少なくとも0次モードと1次モードを励振させることができる。そこで図12のポート1223の中心から導波路幅の1/4程度の距離を横方向にずらした位置から0次モード光を入力する。この際、1次モードが励振され、経路1212に沿って伝搬し、この経路のレーザー発振に寄与する。しかしながら、同時に経路1213に沿って0次モードが伝搬することになり、場合によっては経路1212の発振を阻害することがある。この現象を抑制するため、ポート1224に接続されている第四の光導波路1110には、電流を注入せずに、光を吸収させる領域として機能させている。これにより、経路1213での定在波が存在できなくなるため、ポート1223から入力される光のうち不要光が除去され、より安定した双安定状態が実現される。
【0106】
なお、本発明では多モード干渉光導波路1102の長さを数1に従って設定したが、必ずしも正確に長さを設定する必要は無く、数1の±10%程度以内に多モード干渉光導波路1102の長さが設定されていれば、本発明は適用可能である。
【0107】
また本発明では、発光層203をSCH(Separate Confinement Hetero-structure)と多重量子井戸からなる通常の発光層としたが、必ずしもこれに限るわけではなく、例えばひずみ多重量子井戸としても良いし、バルク発光層としても適用可能である。
【0108】
また、波長を1.55μm帯としているが、必ずしもこれに限るわけではなく、例えば1.3μm帯でも良いし、可視光帯であっても本発明は適用可能である。
【0109】
また材料系をInGaAsP/InPとしているが、もちろんこれに限るわけではなく、InGaAlAsとしても良いし、波長帯に合わせて自由に材料系を設定したとしても本発明は適用可能である。
【0110】
また光導波路構造としてリッジ構造としたが、これに限るわけではなく、例えば埋め込み構造やハイメサ構造としても本発明は適用可能である。
【0111】
また、第四の光導波路を光吸収領域としたが、必ずしもこれに限るわけではなく、たとえば曲線導波路として直線方向からずらすことによって不要光除外しても、本発明は適用可能である。また1次モード光を励振する方法として、ポート1223の中心から導波路幅の1/4程度の距離を横方向にずらした位置から0次モード光を入力しているが、必ずしも1/4程度とする必要は無く、仮に中心から入力したとしても1次モード励振は可能であるし、0次モード光の代わりに1次モード光を入射しても問題ない。
【0112】
また、本実施例では過飽和吸収領域を設けていないが、更に第2の実施例のように、ポート1222側、若しくはポート1221及び1223側に過飽和吸収領域を設けても、本発明は適用可能である。
【0113】
次に、図6、図7、及び図13を参照して第2の実施形態の製造方法を説明する。
【0114】
第1の実施形態と同様に、始めに、通常のn−InP基板601上に、MOCVD法を用いてn−InPバッファ層202、InGaAsP/InGaAsP−1.55μm帯発光層203、第一のp−InPクラッド層204、p−InGaAsPエッチングストッパ層205、第二のp−InPクラッド層206、p−InGaAsコンタクト層207を成長する(図6(a))。
【0115】
次に、ステッパ(縮小投影露光)によるフォトリソグラフィ法を用いて導波路形状にマスク602を形成する(図6(b))。
【0116】
このマスクを用いて、誘導結合プラズマ(ICP)法によりエッチングを施し、リッジ703を形成する(図7(a))。
【0117】
この後、熱CVD法により全面にSiO膜704を堆積する。
【0118】
次に、第1の実施例とは異なり、導波方向でのリッジ直上断面を見ながら、図13にてレーザー発振用電流注入領域1341及び光吸収領域1351の製造方法を説明する。
【0119】
ステッパ(縮小投影露光)によるフォトリソグラフィ法を用いて、光吸収領域1351以外のリッジ直上のSiO膜を除去する(図13)。
【0120】
この後、Ti/Pt/Auからなる上面電極材料を電子ビーム蒸着法により形成し、ウェハ裏面を研磨しTi/Auからなる裏面電極を形成し、端面位置にて劈開を行い、素子の製造を終了する。
【0121】
なお、本実施の形態では、フォトリソグラフィにステッパを用いているが、これに限るわけではなく、例えば電子ビーム露光であっても適用可能である。またSiO膜704形成法に熱CVDを用いているが、例えばプラズマCVD法であっても、スパッタ法であっても適用可能である。また、メサ形成工程方法についてもICP法に限るわけではなく、例えばRIE法であっても適用可能であるし、ウェットエッチング法を適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す、双安定素子の光導波路構成概要図。
【図2】図1のA−A’ で示される光導波路断面構造図。
【図3】一般的な双安定素子の動作を説明する図。
【図4】本発明の第1の実施形態の双安定素子の動作を説明する図。
【図5】本発明の第1の実施形態の双安定素子の動作原理を説明するシミュレーション結果の図。
【図6】本発明の第1、第2、及び第3の実施形態の双安定素子の製造方法を示す工程図で、(a)はMOCVD工程後の断面図、(b)はマスク形成後の断面図。
【図7】本発明の第1、第2、及び第3の実施形態の双安定素子の製造方法を示す工程図で、(a)はICPエッチング工程後の断面図、(b)はマスク除去後の断面図。
【図8】本発明の第2の実施形態を示す、双安定素子の光導波路構成概要図。
【図9】本発明の第2の実施形態の双安定素子の製造方法を示す工程図で、(a)は分離溝形成用マスク形成後の断面図、(b)は分離溝形成後の断面図。
【図10】本発明の第2の実施形態の双安定素子の製造方法を示す工程図で、(a)は分離溝カバー用マスク形成後の断面図、(b)はカバー後の断面図。
【図11】本発明の第3の実施形態を示す、双安定素子の光導波路構成概要図。
【図12】本発明の第3の実施形態の双安定素子の動作を説明する図。
【図13】本発明の第3の実施形態の双安定素子の製造方法を示す工程図で、光吸収領域カバー後の断面図。
【符号の説明】
【0123】
100 基板
101 第一の光導波路
102 多モード干渉光導波路
103 第二の光導波路
104 第三の光導波路

201 n−InP基板
202 n−InPバッファ層
203 InGaAsP/InGaAsP−1.55mm帯発光層
204 第一のp−InPクラッド層
205 p−InGaAsPエッチングストッパ層
206 第二のp−InPクラッド層
207 p−InGaAsコンタクト層

302 多モード干渉光導波路
311 ポート321から入力された経路
312 ポート322から入力された経路
321 ポート
322 ポート
331 相互利得領域

411 ポート421から入力された経路
412 ポート422から入力された経路
421 ポート
422 ポート
423 ポート
431 相互利得領域

601 n−InP基板
602 マスク

703 リッジ
704 SiO

800 基板
801 第一の光導波路
802 多モード干渉光導波路
803 第二の光導波路
804 第三の光導波路
851 過飽和吸収領域

901 マスク
941 レーザー発振用電流注入領域
942 分離溝領域

1001 SiO
1002 マスク

1100 基板
1101 第一の光導波路
1102 多モード干渉光導波路
1103 第二の光導波路
1104 第三の光導波路
1110 第四の光導波路

1202 多モード干渉光導波路
1211 ポート1221から入力された経路
1212 ポート1223から入力された経路
1213 ポート1223から入力された経路
1221 ポート
1222 ポート
1223 ポート
1224 ポート
1231 相互利得領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、多モード干渉光導波路と、前記多モード干渉光導波路の前後に、前記多モード干渉光導波路より幅の細い光導波路が複数個接続され、前記多モード干渉光導波路より幅の細い光導波路の少なくとも1つが、0次モードと1次モードとを許容する光導波路であることを特徴とする双安定素子。
【請求項2】
請求項1記載の幅の細い光導波路が、3個接続されていることを特徴とする双安定素子。
【請求項3】
請求項2記載の幅の細い光導波路のうち少なくとも1つが、0次モードと1次モードとが定在波として存在できることを特徴とする双安定素子。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の基板が、半導体基板であることを特徴とする双安定素子。
【請求項5】
請求項4記載の双安定素子の光導波路が、能動光導波路であることを特徴とする双安定素子。
【請求項6】
請求項5記載の双安定素子の光導波路が、過飽和吸収領域を有することを特徴とする双安定素子。
【請求項7】
請求項1乃至6記載の幅の細い光導波路が、4個接続されていることを特徴とする双安定素子。
【請求項8】
請求項7記載の幅の細い光導波路のうち少なくとも1つが、0次モードと1次モードとが定在波として存在できることを特徴とする双安定素子。
【請求項9】
請求項7乃至8記載の双安定素子の光導波路が、能動光導波路であることを特徴とする双安定素子。
【請求項10】
請求項9記載の双安定素子の光導波路が、過飽和吸収領域を有することを特徴とする双安定素子。
【請求項11】
請求項7記載の幅の細い導波路のうち少なくとも1つが、不要光除去機能を有する光導波路であることを特徴とする双安定素子。
【請求項12】
請求項11記載の不要光除去機能が、光吸収領域であることを特徴とする双安定素子。
【請求項13】
請求項11記載の不要光除去機能が、曲線導波路であることを特徴とする双安定素子。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−250110(P2008−250110A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92977(P2007−92977)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人情報通信研究機構、「全光パケットルータ実現のための光RAMサブシステムの研究開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】