説明

反射体および反射体の製造方法

【課題】反射膜と透光膜の適切な組合せにより、これらの成膜条件の変更に基づいて、様々な色相を呈することができる反射体および反射体の製造方法を提供する。
【解決手段】反射体Rは、基板20と、基板20上の窒化チタンからなる反射膜22と、反射膜22上の酸化チタンからなる透光膜23と、を備え、透光膜23の厚み、窒化チタンの組成割合、および、酸化チタンの組成割合、に基づいて、反射膜22により反射される光の色相を変更可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射体および反射体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空成膜技術は、工業製品の機能膜形成に良く用いられるが、これに限らず、個人向け製品の装飾膜の形成にも利用できる。
【0003】
例えば、アルミ膜(反射膜)に酸化チタンからなる装飾膜を真空プロセスにより形成して、この装飾膜の厚みや酸化チタンの酸化度(組成割合)の変更により、様々な色相を作ることを記載した従来技術がある(特許文献1や特許文献2参照)。
【0004】
また、真空プロセスにより形成された窒化チタン膜および酸化チタン膜の積層体から透過する光の色相を、これらの膜の厚みにより調整できることを記載した従来技術もある(特許文献3参照)。
【0005】
また、チタン反射膜やクロム反射膜上に酸化チタン膜(透光膜)を真空プロセスにより形成して、この透光膜の厚みにより、様々な色相を作ることを記載した従来技術もある(特許文献4参照)
また、窒化チタン膜を真空プロセスにより形成する際の、窒化チタン中のチタンおよび窒素の組成割合を変えることにより、熱処理後の窒化チタン膜を様々な色調にできることを記載した従来技術もある(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2001−337212号公報
【特許文献2】特開2001−262316号公報
【特許文献3】特開平2−44046号公報
【特許文献4】特開2002−274101号公報
【特許文献5】特開平7−207446公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、窒化チタンからなる反射膜(以下、「窒化チタン膜」と略す)と酸化チタンからなる透光膜(以下、「酸化チタン膜」と略す)とを組み合わせると、上述の従来技術よりも色相の範囲を大幅に拡大する反射体を効率的に得られることに気がついた。例えば、このような反射体によれば、窒化チタン膜の反射特性および酸素欠損型の酸化チタン膜の反射特性の相互作用により、オレンジ系から赤系の鮮やかな色相を容易に出せることが分かった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、反射膜と透光膜の適切な組合せにより、これらの成膜条件の変更に基づいて、様々な色相を呈することができる反射体および反射体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、窒化チタン膜や酸化チタン膜の分光反射率を評価した結果について述べる。なお、以下に述べる各種の反射率のデータは、分光光度計(日立製の「U−4100」)により測定されている。
【0009】
図1は、窒化チタン膜の反射特性について、チタン膜の反射特性と比較した図である。図1では、窒化チタン膜の分光反射率が実線により示され、チタン膜の分光反射率が破線により示されている。
【0010】
図1に示すように、銀色の金属光沢を呈するチタン膜では、可視域での反射率は一定であるのに対し、金色を呈する窒化チタン膜では、可視域中の短波長側での反射率が低くなっている。
【0011】
図2は、窒化チタン膜(反射膜)と酸化チタン膜(透光膜)からなる反射体(TiN/TiOX反射体)の、酸化チタン膜の様々な厚みに基づいた反射特性を例示した図である。
【0012】
例えば、図2では、酸化チタン膜の厚みが150Å(太い破線;茶色系)、450Å(太い実線;水色系)、750Å(細い破線;淡い灰色系)、1050Å(細い点線;淡い橙色系)、1350Å(太い2点鎖線;紫色系)、1650Å(太い一点鎖線;淡い緑色系)、2000Å(細い実線;肌色系)についての、TiN/TiOX反射体の分光反射率が例示されている。
【0013】
図2から容易に理解できるとおり、酸化チタン膜の厚みを調整することにより、反射体の分光反射特性を変えることができる。なお、上述の窒化チタン膜の反射特性の効果により、図2に示した反射体の分光反射率のピークは、可視域中の長波長側から短波長側に行くほど、低くなっている。
【0014】
図3は、酸化チタン膜の厚みが150Åである場合(図3の破線参照)のTiN/TiOX反射体(150Å)の反射特性を、チタン反射膜の反射体(Ti/TiOX反射体)の反射特性と比較した図である。
【0015】
図3では、酸化チタン膜の厚みが150Åである場合のTi/TiOX(150Å)反射体の分光反射率が実線で示されている。また、酸化チタン膜の厚みが300Åである場合のTi/TiOX(300Å)の分光反射率が一点鎖線で示されている。
【0016】
図3によれば、TiN/TiOX(150Å)反射体と、Ti/TiOX(150Å)反射体とが、全く異なる色相を呈するのに対し、TiN/TiOX(150Å)反射体と、Ti/TiOX(300Å)反射体とが、類似の色相(ここでは茶色系)を呈することが分かる。このため、TiN/TiOX(150Å)反射体での酸化チタン膜の厚みは、茶色系の色相を出すには、Ti/TiOX(300Å)反射体での酸化チタン膜の厚みの半分で済む。なお、ここでは、説明を省略するが、茶色系以外の色相であっても、同様の傾向がある。
【0017】
以上に列挙した反射特性の評価結果を総括すると、次のような結論が得られる。
【0018】
第一に、チタン膜に代えて、窒化チタン膜を反射膜に用いると、紫から緑系の色相の反射率が低めに抑えられ、オレンジ系から赤系の鮮やかな色相を容易に出せると判断できる。
【0019】
ここで、酸化チタン膜の組成割合を酸素欠損型した酸化チタンからなる透光膜「以下、「酸素欠損型の酸化チタン膜」と略す」についても、短波長側の反射率を低めになるとされている(上述の特許文献1参照)。このため、窒化チタン膜上に酸素欠損型の酸化チタン膜を形成すると、両者の反射特性の相互作用により、短波長側の反射率が適切かつ充分に低くできる。その結果、装飾用の用途として、オレンジ系から赤系の鮮やかな色相を呈する反射体を適切に作れて好適である。なお、本明細書において、「酸素欠損型の酸化チタン」とは、その組成式「TiOX」中の、チタンに対する酸素の組成比「x」の値が「2」未満(x<2)である酸化チタン材料を指すものとする。
【0020】
第二に、窒化チタン膜を反射膜に用いた場合において、酸化チタン膜の厚みの変更により、異なる色相を呈する反射体を効率的に得られると判断できる。つまり、窒化チタン膜を反射膜に用いた場合の酸化チタン膜の厚みは、チタン膜を反射膜に用いた場合の酸化チタン膜の厚みよりも薄くでき、これにより、酸化チタン膜の製造プロセスの効率化が図れる。
【0021】
ここで、窒化チタン中のチタン(Ti)と窒素(N)との間の組成割合が変わると、金色系色相、銅色系色相、または、紫から黒に近い色相など異なる色相を、反射体に作り出せるとされている(上述の特許文献5参照)。このため、酸化チタン膜の厚みの調整と窒化チタンの組成割合の調整との間の協働により、様々な色相を呈することができる反射体が得られ好適である。
【0022】
本発明は、以上に述べた知見を契機にして案出されたものであり、基板と、前記基板上に形成された窒化チタンからなる反射膜と、前記反射膜上に形成された酸化チタンからなる透光膜と、を備え、前記透光膜の厚み、前記窒化チタンの組成割合、および、前記透光膜の組成割合、に基づいて、前記反射膜により反射される光の色相を変更可能に構成された反射体を提供する。
【0023】
これにより、透光膜の厚み、窒化チタンの組成割合、および、透光膜の組成割合といった成膜条件の選択により、色相の範囲を大幅に拡大する反射体が得られる。
【0024】
前記透光膜は、酸素欠損型の酸化チタンにより構成されてもよい。
【0025】
これにより、窒化チタン膜の反射特性と酸素欠損型の酸化チタン膜の反射特性との相互作用により、反射体は、オレンジ系から赤系の鮮やかな色相を適切に呈するようになる。
【0026】
また、本発明は、真空槽内に配置された基板と、前記基板上に形成された窒化チタンからなる反射膜と、前記反射膜上に形成された酸化チタンからなる透光膜と、を備え、前記透光膜の厚み、前記窒化チタンの組成割合、および、前記酸化チタンの組成割合、に基づいて、前記反射膜により反射される光の色相を変更可能に構成された反射体の製造方法であって、前記真空槽内に放電プラズマを形成する工程と、前記真空槽内に窒素ガスを添加することにより、前記真空槽内のターゲットからスパッタリングされたチタンと窒素ガスとの間の放電プラズマ反応に基づいて、前記基板上に前記反射膜を形成する工程と、前記真空槽内に酸素ガスを添加することにより、前記チタンと酸素ガスとの間の放電プラズマ反応に基づいて、前記反射膜上に前記透光膜を形成する工程と、を含む反射体の製造方法を提供する。
【0027】
これにより、透光膜の厚み、窒化チタンの組成割合、および、酸化チタンの組成割合といった成膜条件の選択により、色相の範囲を大幅に拡大する反射体の製造方法が得られる。
【0028】
なお、前記透光膜を形成する工程において、前記スパッタリングの放電状態を遷移領域に制御させてもよい。
【0029】
これにより、スパッタリングによる透光膜形成の高速化が図れる。
【0030】
また、前記酸素ガスの添加量を、前記遷移領域における放電プラズマ中のチタンから発せられるスペクトルの光強度に基づいて調整してもよい。
【0031】
これにより、反応性スパッタリングの遷移領域において、透光膜の膜質の安定化を図れる。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、以上に説明した構成を有し、反射膜と透光膜の適切な組合せにより、これらの成膜条件の変更に基づいて、様々な色相を呈することができる反射体および反射体の製造方法を提供するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
まず、本実施形態の反射板を製造するための真空成膜装置(スパッタリング装置)の概略構成について、図面を用いて説明する。
【0034】
図4は、本発明の実施形態の反射体の製造に用いるスパッタリング装置の要部を示した模式図である。なお、図4では、スパッタリング装置100の真空槽10の内部の様子が、重力の作用方向から平面視されている。
【0035】
本実施形態のスパッタリング装置100は、減圧可能な空間Pを有する真空槽10を備える。この真空槽10の壁部の開口(図示せず)を介して真空槽10の内部Pを真空引きする真空ポンプ(図示せず)が配置されている。そして、適宜のリークバルブ(図示せず)により、真空状態にある真空槽10の内部を大気開放すれば、扉12の開閉により、真空槽10の内部Pにアクセスできる。
【0036】
また、スパッタリング装置100は、図4に示すように、真空槽10の内部Pに放電ガスとしてのアルゴンガス(Arガス)を導くことができるアルゴンガス供給手段(例えばアルゴンガス供給元弁;図示せず)と、真空槽10の内部Pに第1の反応ガスとしての酸素ガス(O2ガス)を導くことができる酸素ガス供給手段16(例えば酸素ガス供給元弁)と、真空槽10の内部Pに第2の反応ガスとしての窒素ガス(N2ガス)を導くことができる窒素ガス供給手段17(例えば窒素ガス供給元弁)と、を備える。なお、図4では、扉12に対向する中央のターゲット11(後述)用の酸素ガス供給手段16および窒素ガス供給手段17を図示しているが、実際には、左右の2つのターゲット11用の、図示しないガス供給手段も設けられている。
【0037】
真空槽10の内側の側壁面の適所には、チタン(Ti)製の複数(ここでは3個)の板状のターゲット11が配置されている。また、真空槽10の内側の底壁には、基板20を載せて回転できる回転台14(基板ホルダ)が配置されている。上述のターゲット11は、基板20に堆積させる薄膜の母材であり、放電プラズマ中のイオン(Ar+)を引き付ける電界を形成する目的で、直流の定電力電源(図示せず)により陰極になるように、一定の電力を供給されている。なお、接地状態の真空槽10が、定電力電源の陽極側に接続されている。
【0038】
また、図示を省略しているが、ターゲット11の裏面に、複数の磁石からなる磁界発生手段が配置され、これらの磁石の作る磁力線により、ターゲット11の表面近傍に所定の漏れ磁界が形成されている。この状態で、アルゴンガス供給手段により、真空槽10の内部Pへのアルゴンガスの導入がなれると、放電プラズマ閉じ込め用のトンネル状の漏れ磁界および上述の電界の作用から、Arガス放電(マグネトロン放電)が発生する。このため、ターゲット11の表面付近に多数の荷電粒子(Ar+および電子)からなる高密度の放電プラズマ13が形成される。
【0039】
更に、スパッタリング装置100は、反応性スパッタリングにより窒化チタン膜22や酸化チタン膜23(何れも後述)を基板20に堆積する際に、放電プラズマ13中のチタンから発光される光強度を、光ファイバ32を用いて検知できる分光器31を備える。なお、図4では、扉12に対向する中央のターゲット11用の光ファイバ32および分光器31を図示しているが、実際には、左右の2つのターゲット11用の、図示しない光ファイバや分光器も設けられている。
【0040】
スパッタリング装置100の制御装置30は、例えば、マイクロプロセッサによって構成されており、CPUからなる演算処理部、ROMやRAMなどのメモリからなる記憶部、表示モニタなどの出力部、および、キーボードなどの操作入力部を有する(いずれも図示せず)。演算処理部は、記憶部に格納された所定の制御プログラムを読み出し、この制御プラグラムに基づいてスパッタリング装置100に関する各種の制御を行う。
【0041】
例えば、制御装置30は、酸素ガス供給手段16を用いて、スパッタリング装置100に供給される酸素ガスの流量(添加量)を適切に調整することにより、酸化チタン膜23を高速に堆積できるよう、スパッタリング装置100の動作を制御できる。スパッタリング装置100の詳細な動作内容については、後述する。
【0042】
本明細書において、制御装置とは、単独の制御装置だけでなく、複数の制御装置が協働して成膜装置の制御を実行する制御装置群をも意味する。このため、制御装置は、単独の制御装置から構成される必要はなく、複数の制御装置が分散配置され、それらが協働して成膜装置を制御するように構成されていてもよい。
【0043】
次に、本実施形態のスパッタリング装置100の動作について図4および図5を参照しながら説明する。
【0044】
図5は、本実施形態の反射板の一構成例を示した断面図である。図5によれば、基板20上には、窒化チタン膜22と、酸化チタン膜23と、が、この順番に形成されている。
【0045】
まず、真空槽10内に放電プラズマ13が形成されている状態において、窒素ガス供給手段17により、真空槽10の内部Pへの窒素ガスの導入がなされ、真空槽10の内部Pが所望の真空状態となる。
【0046】
そうなると、Ar+が、定電力電源からターゲット11に印加された定電力の電界の作用によりターゲット11に引き付けられる。これにより、ターゲット11の構成原子(ここではチタン)が、Ar+の衝突エネルギーによりターゲット11の表面から叩き出される。このチタンは、放電プラズマ13により活性化された窒素ガスと反応した後、窒化チタンとなる。そして、窒化チタン膜22が、その反射機能を適切に発揮できる所望の厚みにまで、基板20上に堆積される。窒化チタン膜22の厚みは、成膜時間により制御されている。
【0047】
このスパッタリングの過程において、窒素ガス供給手段17により、真空槽10の内部Pへの窒素ガスの添加量の調整により、窒化チタン中のチタン(Ti)と窒素(N)との間の組成割合を変えることができる。
【0048】
次に、窒素ガス供給手段17により、真空槽10の内部Pへの窒素ガスの導入が停止され、酸素ガス供給手段16により、真空槽10の内部Pへの酸素ガスの導入がなされ、真空槽10の内部Pが所望の真空状態となる。例えば、制御装置30は、酸素ガス供給手段16を用いて、反応性スパッタリングの放電状態が遷移領域(後述)になるように、酸素ガスの添加量を制御している。これにより、酸化チタン膜23のスパッタリングプロセスを高速化できる。なお、反応性スパッタリングにおいては、酸素ガスの添加量の増加に連れて、金属膜が堆積される高速レートのメタルモードから、酸化膜が堆積される低速レートの反応性モードに移行することが知られている。このようなメタルモードと反応性モードとの間の存在する膜質の変化し易いモードのことを遷移領域という。つまり、本実施形態では、酸化チタン膜23の反応性スパッタリングの成膜速度の高速化を目的として、このような遷移領域でのスパッタリングを積極的に利用している。
【0049】
上述のチタンは、反応性スパッタリングの遷移領域において、放電プラズマ13により活性化された酸素ガスと反応した後、酸化チタンとなる。これにより、酸化チタン膜23を、所望の色相に対応する所望の厚みにまで、基板20(正確には窒化チタン膜22上)に高速で堆積できる。なお、酸化チタン膜23の厚みは、成膜時間により制御されている。
【0050】
このスパッタリングの過程において、分光器31により、チタンから発せられる光の分光スペクトルが得られる。制御装置30は、分光器31により分光されたスペクトルのうちの、酸化チタン膜23の特性を支配する波長のスペクトルの光強度に基づいて、この光強度が一定になるように、酸素ガス供給手段16を用いて酸素ガスの添加量を制御している。これにより、反応性スパッタリングの遷移領域において、酸化チタン膜23の膜質の安定化を図れる。
【0051】
また、反応性スパッタリングの遷移領域においては、酸化チタンの組成割合を容易に変更できる。これにより、酸素欠損型の酸化チタン膜を基板20上に形成することができる。
【0052】
なお、ここでは、窒化チタン膜22に比べて成膜速度が極端に遅い酸化チタン膜23の反応性スパッタリングについて、遷移領域で行うことを例示したが、窒化チタン膜22の反応性スパッタリングについても、以上に述べた方法により、遷移領域で行ってもよい。
【0053】
このようにして、基板20上に形成された窒化チタン膜22(反射膜)と、この窒化チタン膜22上に形成された酸化チタン膜23(透光膜)と、からなる反射体Rが得られる。
【0054】
これにより、本実施の形態では、酸化チタン膜23の厚みに基づいて、反射体Rの色相の変更を行うことができる。また、窒化チタンの組成割合に基づいて、反射体Rの色相の変更も行うことができる。また、酸化チタンの組成割合に基づいて、反射体Rの色相の変更も行うことができる。よって、反射体Rに、これらの成膜条件の変更に基づいて、様々な色相を作り出せる。特に、上述のとおり、窒化チタン膜22の反射特性と酸素欠損型の酸化チタン膜の反射特性との相互作用により、反射体Rは、オレンジ系から赤系の鮮やかな色相を呈することができ、装飾用の用途として好適である。
(変形例)
本実施の形態の反射体Rは、基板20上に形成された窒化チタン膜22(反射膜)と、この窒化チタン膜22上に形成された酸化チタン膜23(透光膜)と、からなる積層構造を有するが、これは飽くまで一例に過ぎない。この反射体は、様々な積層構造に改変できる。
【0055】
例えば、図6に示すように、本変形例の反射体R1は、基板20上に形成されたチタンおよび酸化チタンからなる混合膜21(Ti/TiOx混合膜21)と、このTi/TiOx混合膜21上に形成されたチタン膜24と、このチタン膜24上に形成された窒化チタン膜22(反射膜)と、この窒化チタン膜22上に形成された酸化チタン膜23(透光膜)と、を備えてもよい。
【0056】
このような反射体R1によれば、Ti/TiOx混合膜21の作用により、基板20と、チタン膜24や窒化チタン膜22との間の密着性が改善され有益な場合がある。
【0057】
なお、反射体R1の積層構造の最上層が、酸化チタン膜23であることから、反射体R1の製造終了時の、チタン製のターゲット11の表面には、不純物(酸化膜)として酸化チタンが堆積されていると考えられる。このため、反射体R1の次回製造におけるスパッタリング装置100のプレスパッタ(ターゲット11の不純物除去工程)を上手く利用すると、スパッタリング装置100の真空槽10に酸素ガスを投入しなくても、基板20上にTi/TiOx混合膜21を容易に形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の反射体は、反射膜と透光膜の適切な組合せにより、これらの成膜条件の変更に基づいて、様々な色相を呈することができ、例えば、製品の装飾用の用途として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】窒化チタン膜の反射特性について、チタン膜の反射特性と比較した図である。
【図2】窒化チタン膜(反射膜)と酸化チタン膜(透光膜)との組合せからなる反射体の、酸化チタン膜の様々な厚みに基づいた反射特性を例示した図である。
【図3】酸化チタン膜の厚みが150Åの図2中の反射体の反射特性を、チタン膜(反射膜)に用いた反射体の反射特性と比較した図である。
【図4】本発明の実施形態の反射体の製造に用いるスパッタリング装置の要部を示した模式図である。
【図5】本実施形態の反射板の一構成例を示した断面図である。
【図6】本実施形態の反射板の他の構成例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0060】
10 真空槽
11 ターゲット
12 扉
13 放電プラズマ
14 回転台
16 酸素ガス供給手段
17 窒素ガス供給手段
20 基板
22 窒化チタン膜
23 酸化チタン膜
30 制御装置
31 分光器
32 光ファイバ
100 スパッタリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された窒化チタンからなる反射膜と、前記反射膜上に形成された酸化チタンからなる透光膜と、を備え、
前記透光膜の厚み、前記窒化チタンの組成割合、および、前記酸化チタンの組成割合、に基づいて、前記反射膜により反射される光の色相を変更可能に構成された反射体。
【請求項2】
前記透光膜は、酸素欠損型の酸化チタンにより構成されている、請求項1記載の反射体。
【請求項3】
真空槽内に配置された基板と、前記基板上に形成された窒化チタンからなる反射膜と、前記反射膜上に形成された酸化チタンからなる透光膜と、を備え、前記透光膜の厚み、前記窒化チタンの組成割合、および、前記酸化チタンの組成割合、に基づいて、前記反射膜により反射される光の色相を変更可能に構成された反射体の製造方法であって、
前記真空槽内に放電プラズマを形成する工程と、
前記真空槽内に窒素ガスを添加することにより、前記真空槽内のターゲットからスパッタリングされたチタンと窒素ガスとの間の放電プラズマ反応に基づいて、前記基板上に前記反射膜を形成する工程と、
前記真空槽内に酸素ガスを添加することにより、前記チタンと酸素ガスとの間の放電プラズマ反応に基づいて、前記反射膜上に前記透光膜を形成する工程と、
を含む反射体の製造方法。
【請求項4】
前記透光膜を形成する工程において、前記スパッタリングの放電状態が遷移領域に制御されている、請求項3記載の反射体の製造方法。
【請求項5】
前記酸素ガスの添加量が、前記遷移領域における放電プラズマ中のチタンから発せられるスペクトルの光強度に基づいて調整されている、請求項4記載の反射体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−240093(P2008−240093A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84140(P2007−84140)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】