説明

反射防止膜、反射防止膜の形成方法、及び透光部材

【課題】最表面の硬度が高く耐磨耗性に優れると共に、反射率が低い反射防止膜、及び透光部材、並びに反射防止膜の形成方法を提供する。
【解決手段】反射防止膜は、可視光が透過可能な部材の表面に形成された反射防止膜であって、反射防止膜の最表面を構成する膜が、Hを添加したDLCであるH−DLC膜である。反射防止膜の形成方法は、可視光が透過する部材の表面に反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、反射防止膜の最表面を構成する膜として、Hを添加したDLCであるH−DLC膜を形成する最表面形成工程を有し、当該最表面形成工程において、H−DLC膜を、ECRプラズマ励起方式を用いたECRプラズマCVDによって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光が透過可能な部材などに形成する反射防止膜、反射防止膜の形成方法、及び可視光が透過可能な透光部材に関する。
【背景技術】
【0002】
時計やFPD(Flat Panel Display:フラットパネルディスプレイ)などの装置において、表示部を保護するために、可視光が透過可能なカバーガラスが設けられている。カバーガラスは、それらを介して表示を見るため、透過率が高いことが求められる。また、外光が反射されることによる映りこみが少ないことが望ましい。
カバーガラスの素材の屈折率が高いことに起因して反射率が高いことを改善するために、カバーガラスの表面に、屈折率の低い材料を用いて反射膜をコーティングすることが行われている。カバーガラスは表示部を保護するためのものであるため、反射膜の最表面は、硬度が高く耐磨耗性に優れることが必要である。特許文献1には、最表面に硬度が高く耐磨耗性に優れるDLC(Diamond like Carbon:ダイヤモンドライクカーボン)を被覆した反射防止膜が開示されている。特許文献1に開示された技術では、DLCの透明性を向上させるために、B,N,F,Si,Ge,P,Asの中から選択される1種類以上の元素を添加することも開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−93437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、DLCにB,N,F,Si,Ge,P,Asの中から選択される1種類以上の元素を添加しても、屈折率は2.2程度であり、屈折率が高いという課題があった。表面の層の屈折率が高いことから反射率が高くなり、反射防止膜としての機能が必ずしも充分ではないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる反射防止膜は、可視光が透過可能な部材の表面に形成された反射防止膜であって、前記反射防止膜の最表面を構成する膜が、Hを添加したDLCであるH−DLC膜であることを特徴とする。
【0007】
この反射防止膜によれば、最表面がH−DLC膜となる。本願の発明者は、Hを添加することによってDLCの屈折率を低下させることが可能であることを見出した。反射防止膜の最表面をH−DLC膜とすることで、最表面の硬度が高いことから耐磨耗性に優れると共に、最表面層の屈折率が低いことから反射率が低い反射防止膜を形成することができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる反射防止膜は、前記H−DLC膜と、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜と、を備えることが好ましい。
【0009】
この反射防止膜によれば、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜の上にH−DLC膜が形成された2層構造を有する。これにより、単層のH−DLC膜に比べて反射率をさらに低くすることができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる反射防止膜は、前記H−DLC膜と、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜と、を備えることが好ましい。
【0011】
この反射防止膜によれば、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜の上にH−DLC膜が形成された3層以上の膜からなる構造を有する。これにより、単層のH−DLC膜に比べて反射率をさらに低くすることができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかる反射防止膜において、前記H−DLC膜におけるHの含有量が20at%以上70at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下であることが好ましい。
【0013】
この反射防止膜によれば、最表面のH−DLC層のHの含有量が20at%以上70at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下である。DLCは、Hを20at%以上添加することによって、無色透明にすることができる。Hの添加量を70at%以下にすることによって、高い硬度を維持することができる。厚さが50nm以上150nm以下であることによって、可視光の反射率を小さくすることができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかる反射防止膜において、前記H−DLC膜におけるHの含有量が30at%以上60at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下であることが好ましい。
【0015】
この反射防止膜によれば、最表面のH−DLC層のHの含有量が30at%以上60at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下である。DLCは、Hを30at%以上添加することによって、屈折率を小さくすることができる。Hの添加量を60at%以下にすることによって、高い硬度を維持することができる。厚さが50nm以上150nm以下であることによって、可視光の反射率を小さくすることができる。
【0016】
[適用例6]本適用例にかかる反射防止膜の形成方法は、可視光が透過する部材の表面に反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、前記反射防止膜の最表面を構成する膜として、Hを添加したDLCであるH−DLC膜を形成する最表面形成工程を有することを特徴とする。
【0017】
この反射防止膜の形成方法によれば、形成される反射防止膜の最表面がH−DLC膜となる。本願の発明者は、Hを添加することによってDLCの屈折率を低下させることが可能であることを見出した。反射防止膜の最表面をH−DLC膜とすることで、最表面の硬度が高いことから耐磨耗性に優れると共に、最表面層の屈折率が低いことから反射率が低い反射防止膜を形成することができる。
【0018】
[適用例7]上記適用例にかかる反射防止膜の形成方法において、前記最表面形成工程において、前記H−DLC膜を、ECRプラズマCVDによって形成することが好ましい。
【0019】
この反射防止膜の形成方法によれば、ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)プラズマ励起方式を用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって、最表面のH−DLC膜が形成される。ECRプラズマCVDによって最表面のH−DLC膜を形成することで、他の方法で形成したH−DLC膜に比べて硬度が高いH−DLC膜を形成することができる。
【0020】
[適用例8]本適用例にかかる透光部材は、可視光が透過可能な透光部材であって、最表面を構成する膜が、Hを添加したDLCであるH−DLC膜である反射防止膜を備えることを特徴とする。
【0021】
この透光部材によれば、透光部材に形成された反射防止膜の最表面がH−DLC膜となる。本願の発明者は、Hを添加することによってDLCの屈折率を低下させることが可能であることを見出した。反射防止膜の最表面をH−DLC膜とすることで、最表面の硬度が高いことから耐磨耗性に優れると共に、最表面層の屈折率が低いことから反射率が低い反射防止膜を有する透光部材を形成することができる。
【0022】
[適用例9]上記適用例にかかる透光部材において、前記反射防止膜は、前記H−DLC膜と、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜と、を備えることが好ましい。
【0023】
この透光部材によれば、透光部材が備える反射防止膜は、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜の上にH−DLC膜が形成された2層構造を有することで、単層のH−DLC膜に比べて反射率を低くすることができる。このため、反射率が低い反射防止膜を有することで反射率が低い透光部材を実現することができる。
【0024】
[適用例10]上記適用例にかかる透光部材において、前記反射防止膜は、前記H−DLC膜と、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜と、を備えることが好ましい。
【0025】
この透光部材によれば、透光部材が備える反射防止膜は、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜の上にH−DLC膜が形成された3層以上の膜からなる構造を有することで、単層のH−DLC膜に比べて反射率を低くすることができる。このため、反射率が低い反射防止膜を有することで反射率が低い透光部材を実現することができる。
【0026】
[適用例11]上記適用例にかかる透光部材において、前記反射防止膜は、前記H−DLC膜におけるHの含有量が20at%以上70at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下であることが好ましい。
【0027】
この透光部材によれば、透光部材が備える反射防止膜は、最表面のH−DLC層のHの含有量が20at%以上70at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下である。DLCは、Hを20at%以上添加することによって、無色透明にすることができる。Hの添加量を70at%以下にすることによって、高い硬度を維持することができる。厚さが50nm以上150nm以下であることによって、可視光の反射率を小さくすることができる。
【0028】
[適用例12]上記適用例にかかる透光部材において、前記反射防止膜は、前記H−DLC膜におけるHの含有量が30at%以上60at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下であることが好ましい。
【0029】
この透光部材によれば、透光部材が備える反射防止膜は、最表面のH−DLC層のHの含有量が30at%以上60at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下である。DLCは、Hを30at%以上添加することによって、屈折率を小さくすることができる。Hの添加量を60at%以下にすることによって、高い硬度を維持することができる。厚さが50nm以上150nm以下であることによって、可視光の反射率を小さくすることができる。
【0030】
[適用例13]本適用例にかかるフラットパネルディスプレイは、上記適用例にかかる透光部材が、表示部のカバーガラスとして用いられていることを特徴とする。
【0031】
このフラットパネルディスプレイによれば、上記適用例にかかる透光部材をカバーガラスとして用いることによって、耐磨耗性に優れると共に、反射率が低い表示部のカバーガラスを有するフラットパネルディスプレイを構成することができる。
【0032】
[適用例14]本適用例にかかる眼鏡は、上記適用例にかかる透光部材が、眼鏡レンズとして用いられていることを特徴とする。
【0033】
この眼鏡によれば、上記適用例にかかる透光部材を眼鏡レンズとして用いることによって、耐磨耗性に優れると共に、反射率が低い眼鏡レンズを備えた眼鏡を構成することができる。
【0034】
[適用例15]本適用例にかかる時計は、上記適用例にかかる透光部材が、表示部のカバーガラスとして用いられていることを特徴とする。
【0035】
この時計によれば、上記適用例にかかる透光部材を表示部のカバーガラスとして用いることによって、耐磨耗性に優れると共に、反射率が低い表示部のカバーガラスを備えた時計を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、反射防止膜、反射防止膜の形成方法、及び透光部材の一実施形態について図面を参照して、説明する。実施形態は、透光部材の一例である時計用のカバーガラスを例に説明する。
【0037】
<Hの濃度とH−DLCの特性>
最初に、H−DLCに含まれるHの濃度とH−DLCの特性との関係を、図1を参照して説明する。図1(a)は、Hの濃度とH−DLCの特性との関係の測定結果を示す表であり、図1(b)は、Hの濃度とH−DLCの特性との関係の測定結果を示すグラフである。
【0038】
図1(a)に示すように、Hを添加することによって、黒色のDLCを透明にすることができる。DLCは、Hを20at%以上添加することによって、無色透明になる。
Hを添加することによって、DLCの屈折率を低下させることができる。表示部を保護するために用いられるカバーガラスは、当該カバーガラスを介して表示部を視認する場合には、反射率をより低くするために、屈折率は2.0未満であることが好ましい。このため、カバーガラスの表面に形成するDLCの膜には、Hを20at%以上添加することが好ましい。さらに反射率を小さくするために、Hを30at%以上添加することが、より好ましい。
Hを添加することによって、DLCは硬度が低下する。表示部を保護するために用いられるカバーガラスなどとしての耐擦性を維持するためには、Hの添加量は70at%以下であることが好ましい。時計のカバーガラスのように頻繁に触れられる可能性が高いものにおいては、Hの添加量は60at%以下であることがより好ましい。
Hの添加量は、反射防止膜を形成する部材に要求される特性に応じて、耐擦性が高いことが必要な部材においては少なくし、耐擦性より反射の少ないことが優先される部材においては、多くすることが好ましい。
【0039】
<2層反射防止膜>
次に、2層構造の反射防止膜について、図2を参照して説明する。図2(a)は、H−DLC膜を有する2層構造の反射防止膜が形成されたカバーガラスの断面を示す模式図であり、図2(b)は、H−DLC膜を有する2層構造の反射防止膜の特性を示す表である。
【0040】
図2(a)に示すように、カバーガラス1は、サファイヤガラス10の表面に、反射防止膜20が形成されている。反射防止膜20は、表層膜21及び第2層膜22の、2層の膜を有している。図2(a)に示した反射防止膜20の第2層膜22は、ZrO2からなり、厚さが約122.3nmである。反射防止膜20の表層膜21は、Hを50at%添加したH−DLCからなり、厚さが約83.5nmである。
表層膜21及び第2層膜22の膜厚は、当該膜の一方の面で反射した光ともう一方の面で反射した光とが1/2波長ずれるような厚さに設定することが好ましい。表層膜21及び第2層膜22の膜厚は、H−DLC又はZrO2の屈折率を考慮して、可視光の波長領域のほぼ中央の波長である600nmの光において、反射防止膜として好ましい厚さに設定してある。
【0041】
図2(b)に示すように、表層膜21としてH−DLCの膜を有する2層構造の反射防止膜20を備えたカバーガラス1は、表層膜21の屈折率が1.55であり、硬度が2210Hvである。反射率は、1.2%であった。
表層膜としてSiO2の膜を有する2層構造の反射防止膜を備えたカバーガラスは、表層膜の屈折率が1.46であり、硬度が800Hvである。反射率は、0.8%であった。800Hvの硬度は、カバーガラスとしては、必要な最低限度の硬度である。表層膜としてAl23の膜を有する2層構造の反射防止膜を備えたカバーガラスは、表層膜の屈折率が1.63であり、硬度が2400Hvである。反射率は、3.0%であった。3.0%の反射率は、カバーガラスの反射率としては、好ましくない反射率である。
カバーガラス1の表層膜21の硬度2210Hvは、サファイヤガラスの硬度1800Hvを超えており、直接触れられる可能性が高いことから、FPDなどのカバーガラスより硬度が高いことが必要である時計用のカバーガラスとしても充分な硬度である。
反射率は、分光光度計を用いて、400nmから800nmの波長の光について、入射角5°における反射光の強度を測定し、視感感度補正をかけて求めた。
【0042】
<3層反射防止膜>
次に、3層構造の反射防止膜について、図3を参照して説明する。図3(a)は、H−DLC膜を有する3層構造の反射防止膜が形成されたカバーガラスの断面を示す模式図であり、図3(b)は、H−DLC膜を有する3層構造の反射防止膜の特性を示す表である。
【0043】
図3(a)に示すように、カバーガラス2は、サファイヤガラス10の表面に、反射防止膜30が形成されている。反射防止膜30は、表層膜31、第2層膜32、及び第3層膜33の、3層の膜を有している。図3(a)に示した反射防止膜30の第3層膜33は、ThO2からなり、厚さが約80.0nmである。第2層膜32は、TiO2からなり、厚さが約118.0nmである。反射防止膜30の表層膜31は、Hを50at%添加したH−DLCからなり、厚さが約83.4nmである。
表層膜31、第2層膜32、及び第3層膜33の膜厚は、当該膜の一方の面で反射した光ともう一方の面で反射した光とが1/2波長ずれるような厚さに設定することが好ましい。表層膜31、第2層膜32、及び第3層膜33の膜厚は、H−DLC、TiO2又はThO2の屈折率を考慮して、可視光の波長領域のほぼ中央の波長である600nmの光において、反射防止膜として好ましい厚さに設定してある。
【0044】
図3(b)に示すように、表層膜31としてH−DLCの膜を有する3層構造の反射防止膜30を備えたカバーガラス2は、表層膜31の屈折率が1.55であり、硬度が2210Hvである。反射率は、0.6%であった。表層膜としてSiO2の膜を有する3層構造の反射防止膜を備えたカバーガラスは、表層膜の屈折率が1.46であり、硬度が800Hvである。反射率は、0.5%であった。800Hvの硬度は、カバーガラスとしては、必要な最低限度の硬度である。表層膜としてAl23の膜を有する3層構造の反射防止膜を備えたカバーガラスは、表層膜の屈折率が1.63であり、硬度が2400Hvである。反射率は、2.0%であった。2.0%の反射率は、カバーガラスの反射率としては、許容可能な最低限度の反射率である。
カバーガラス2の硬度2210Hvは、サファイヤガラスの硬度1800Hvを超えており、直接触れられる可能性が高いことから、FPDなどより硬度が高いことが必要である時計用のカバーガラスとしても充分な硬度である。
反射率は、分光光度計を用いて、400nmから800nmの波長の光について、入射角5°における反射光の強度を測定し、視感感度補正をかけて求めた。
【0045】
<H−DLC膜の形成>
次に、H−DLC膜の形成方法について、図4及び図5を参照して説明する。ここでは、ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)プラズマ励起方式を用いたECRプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によってH−DLC膜を形成する場合について説明する。
【0046】
図4は、ECRプラズマCVD装置の構成を示す模式図である。図4に示すように、ECRプラズマCVD装置50は、成膜する基材を載置する載置台56が中に配設されたチャンバ51を備えている。チャンバ51の一端には、載置台56に臨むようにECRプラズマ源52が配設されている。ECRプラズマ源52から載置台56方向の空間に発生する電場に直交する磁場を形成できる位置に磁石54が配設されている。チャンバ51には、チャンバ51内に反応気体を導入するための2個所の気体導入路57と、チャンバ51内から反応済みの反応気体を排出するための排気路58と、が結合されている。
【0047】
H−DLC膜の形成は、図4に示すように、載置台56に、サファイヤガラス10、又は第2層膜22などが形成されたサファイヤガラス10をセットする。2個所の気体導入路57の一方から、H2を、気体導入路57のもう一方から、アセチレン(C22)をチャンバ51内に導入する。ECRプラズマ源52から発生されたマイクロ波と、磁石54によって形成された磁場とによる電子サイクロトロン共鳴によって、ECRプラズマが発生する。マイクロ波からエネルギをもらった電子がH2やC22に衝突して荷電粒子が発生し、これらの荷電粒子が載置台56にセットされたサファイヤガラス10などの表面に到達して化学反応を起こし、H−DLCが形成される。
【0048】
図5は、形成されたH−DLCの膜の特性を示す表である。図5に示したように、ECRプラズマCVDを用いて形成したH−DLCは、屈折率が1.56であり、硬度が2400Hvである。プラズマCVDを用いて形成したH−DLCは、屈折率が1.55であり、硬度が2210Hvであり、ECRプラズマCVDを用いることで、硬度の改善がみられる。
【0049】
以上、添付図面を参照して好適な実施形態について説明したが、好適な実施形態は、前記実施形態に限らない。要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論であり、以下のように実施することもできる。
【0050】
(変形例1)前記実施形態においては、反射防止膜20の第2層膜22は、ZrO2からなる膜であったが、表層膜がH−DLCである2層構造の反射防止膜において、第2層膜がZrO2からなる膜であることは必須ではない。2層構造の反射防止膜においては、反射防止膜の反射率を低くするために、表層膜と第2層膜と基材とのそれぞれの屈折率が、この順番で「低」、「高」、「中」の関係になることが好ましい。第2層膜の材料としては、表層膜のH−DLC膜及び基材に対して、この屈折率の関係を保てる屈折率であって、可視光に対して透明な膜を形成可能な材料であればよい。このような材料としては、例えば、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、AlNなどが挙げられる。
【0051】
(変形例2)前記実施形態においては、反射防止膜30の第2層膜32は、TiO2からなる膜であり、第3層膜33は、ThO2からなる膜であったが、表層膜がH−DLCである3層構造の反射防止膜において、第2層膜がTiO2からなる膜であり、第3層膜がThO2からなる膜であることは必須ではない。3層構造の反射防止膜においては、反射防止膜の反射率を低くするために、表層膜と第2層膜と第3層膜と基材とのそれぞれの屈折率が、この順番で「低」、「高」、「中」、「中」の関係になることが好ましい。第2層膜及び第3層膜の材料としては、表層膜のH−DLC膜及び基材に対して、この屈折率の関係を保てる屈折率であって、可視光に対して透明な膜を形成可能な材料であればよい。このような材料としては、例えば、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、Si34、ZrO2、AlNなどが挙げられる。
【0052】
(変形例3)前記実施形態においては、2層構造の反射防止膜20及び3層構造の反射防止膜30について説明したが、反射防止膜が2層構造又は3層構造であることは必須ではない。反射防止膜は、H−DLCの単層膜であってもよい。また、4層以上の膜が積層した反射防止膜であってもよい。4層以上の膜が積層した反射防止膜の第2層膜以降の各膜を形成する好適な材料としては、例えば、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNなどが挙げられる。
【0053】
(変形例4)前記実施形態においては、反射防止膜20が形成された時計用のカバーガラス1及び反射防止膜30が形成された時計用のカバーガラス2について説明したが、反射防止膜を形成する対象は時計用のカバーガラスに限らない。FPDにおける表示部を保護するためのカバーガラスや、眼鏡レンズや、車の窓ガラスや、各種計測器における表示部を保護するためのカバーガラスにおいても、上述したような表層膜がH−DLCである膜を形成することで、好適な反射防止膜を形成することができる。
【0054】
(変形例5)前記実施形態においては、カバーガラス1及びカバーガラス2の基材はサファイヤガラスであったが、反射防止膜を形成する基材がサファイヤガラスであることは必須ではない。時計のカバーガラスや、FPDの表示部のカバーガラスや、眼鏡レンズや、車の窓ガラスや、各種計測器の表示部のカバーガラスとして用いられる各種材料においても、上述したような表層膜がH−DLCである膜を形成することで、好適な反射防止膜を形成することができる。
【0055】
(変形例6)前記実施形態においては、カバーガラス1又はカバーガラス2において、反射防止膜20又は反射防止膜30を、それぞれサファイヤガラス10の片面に形成していたが、反射防止膜を形成するのはカバーガラスの基材の片面に限らない。基材の両面にそれぞれ反射防止膜を形成してもよい。基材の両面に反射防止膜を形成することによって、より透過率が高い透光部材を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は、Hの濃度とH−DLCの特性との関係の測定結果を示す表。(b)は、Hの濃度とH−DLCの特性との関係の測定結果を示すグラフ。
【図2】(a)は、H−DLC膜を有する2層構造の反射防止膜が形成されたカバーガラスの断面を示す模式図。(b)は、H−DLC膜を有する2層構造の反射防止膜の特性を示す表。
【図3】(a)は、H−DLC膜を有する3層構造の反射防止膜が形成されたカバーガラスの断面を示す模式図。(b)は、H−DLC膜を有する3層構造の反射防止膜の特性を示す表。
【図4】ECRプラズマCVD装置の構成を示す模式図。
【図5】形成されたH−DLCの膜の特性を示す表。
【符号の説明】
【0057】
1,2…カバーガラス、10…サファイヤガラス、20,30…反射防止膜、21,31…表層膜、22,32…第2層膜、33…第3層膜、50…ECRプラズマCVD装置、52…ECRプラズマ源、54…磁石、57…気体導入路、58…排気路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光が透過可能な部材の表面に形成された反射防止膜であって、前記反射防止膜の最表面を構成する膜が、Hを添加したDLCであるH−DLC膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
前記H−DLC膜と、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
前記H−DLC膜と、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項4】
前記H−DLC膜におけるHの含有量が20at%以上70at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項5】
前記H−DLC膜におけるHの含有量が30at%以上60at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項6】
可視光が透過する部材の表面に反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、
前記反射防止膜の最表面を構成する膜として、Hを添加したDLCであるH−DLC膜を形成する最表面形成工程を有することを特徴とする反射防止膜の形成方法。
【請求項7】
前記最表面形成工程において、前記H−DLC膜を、ECRプラズマCVDによって形成することを特徴とする、請求項6に記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項8】
可視光が透過可能な透光部材であって、
最表面を構成する膜が、Hを添加したDLCであるH−DLC膜である反射防止膜を備えることを特徴とする透光部材。
【請求項9】
前記反射防止膜は、前記H−DLC膜と、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜と、を備えることを特徴とする、請求項8に記載の透光部材。
【請求項10】
前記反射防止膜は、前記H−DLC膜と、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜と、を備えることを特徴とする、請求項8に記載の透光部材。
【請求項11】
前記反射防止膜は、前記H−DLC膜におけるHの含有量が20at%以上70at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下であることを特徴とする、請求項8乃至10のいずれか一項に記載の透光部材。
【請求項12】
前記反射防止膜は、前記H−DLC膜におけるHの含有量が30at%以上60at%以下であり、厚さが50nm以上150nm以下であることを特徴とする、請求項8乃至10のいずれか一項に記載の透光部材。
【請求項13】
請求項8乃至12のいずれか一項に記載の透光部材が、表示部のカバーガラスとして用いられていることを特徴とするフラットパネルディスプレイ。
【請求項14】
請求項8乃至12のいずれか一項に記載の透光部材が、眼鏡レンズとして用いられていることを特徴とする、眼鏡。
【請求項15】
請求項8乃至12のいずれか一項に記載の透光部材が、表示部のカバーガラスとして用いられていることを特徴とする、時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−116219(P2009−116219A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291609(P2007−291609)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】