説明

反応性難燃剤及びそれを用いた難燃性樹脂加工品

【課題】難燃性に優れ、ブリードアウトを防止できる反応性難燃剤を用いた難燃性樹脂加工品を提供する。
【解決手段】樹脂と、該樹脂に結合可能な反応性難燃剤とを含有する樹脂組成物を成形又は塗膜化した後、加熱又は放射線の照射によって前記樹脂と前記反応性難燃剤とを反応させて得られる。前記反応性難燃剤は、ハイオルソノボラック樹脂から誘導され、末端にアリル基を有する置換基と(A)で表わされる基とを含有する有機リン化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、樹脂成形品等に利用される難燃剤及びそれを用いた難燃性樹脂加工品に関し、更に詳しくは、ハロゲンを含有しない非ハロゲン系の難燃剤及びそれを用いた難燃性樹脂加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミド等の熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂は、汎用樹脂、エンジニアリングプラスチックとして優れた成形加工性、機械的強度、電気特性を有していることから、電気、電子分野等を始めとして広く用いられている。そして、これらを加工・成形した樹脂加工品等は、高温による火災防止を目的とした安全上の観点から難燃性が要求されており、例えば、難燃グレードとしてUL94のような規格が設けられている。
【0003】
一般に、このような樹脂加工品等の難燃化には、ハロゲン物質が有効であることが知られており、ハロゲン系難燃剤を樹脂に添加して樹脂加工品等に難燃性を付与している。このハロゲン系難燃剤による難燃化のメカニズムは、主に熱分解によりハロゲン化ラジカルが生成し、この生成したハロゲン化ラジカルが燃焼源である有機ラジカルを捕捉することで、燃焼の連鎖反応を停止させ、高難燃性を発現させると言われている。
【0004】
しかし、ハロゲン化合物を大量に含む難燃剤は、燃焼条件によってはダイオキシン類が発生する可能性があり、環境への負荷を低減する観点から、近年ハロゲン量を低減させる要求が高まっている。したがって、ハロゲン物質を含有しない非ハロゲン系難燃剤が各種検討されている。
【0005】
このような非ハロゲン系難燃剤としては、金属水和物や赤リン等の無機難燃剤、尿素から誘導されるトリアジン系難燃剤、リン酸エステル等の有機リン系難燃剤等が検討されているが、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムといった金属水和物の場合、難燃性付与効果があまり高くないので、樹脂に多量に配合する必要がある。したがって、樹脂の成形性が悪くなったり、得られる成形品等の機械的強度が低下しやすく、使用可能な樹脂加工品等の用途が限定されるという問題がある。また、赤リンは、難燃効果は高いが、分散不良により電気特性を阻害したり、危険ガスが発生したり、成形性を低下するとともにブリード現象を起こしやすい。
【0006】
一方、リン酸エステル等の有機リン系難燃剤としては、例えば、下記特許文献1には、ホスホリナン構造を有する酸性リン酸エステルのピペラジン塩もしくは炭素数1〜6のアルキレンジアミン塩を難燃剤として使用することが開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、リン酸モノフェニル、リン酸モノトリル等の芳香族リン酸エステルとピペラジン等の脂肪族アミンとからなる塩を主成分とする樹脂用難燃剤が開示されている。
【0008】
更に、下記特許文献3には、ハロゲンフリーの難燃処方として優れた難燃効果を発現させると共に、成形品の耐熱性、耐水性の物性に優れ、また電気積層板用途における密着性に優れる難燃エポキシ樹脂を得るための難燃剤として、リン含有フェノール化合物を用いることが開示されている。
【0009】
更にまた、下記特許文献4には、特に高分子化合物の安定剤、難燃剤として有用である、2官能ヒドロキシル基を有する有機環状リン化合物が開示されている。
【特許文献1】特開2002−20394号公報
【特許文献2】特開2002−80633号公報
【特許文献3】特開2002−138096号公報
【特許文献4】特開平5−331179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1〜4に開示されているように、有機リン系難燃剤については種々の検討がなされ様々なものがあるが、難燃性が不充分であるため高濃度で配合する必要があった。
【0011】
引例1〜3の有機リン系難燃剤は、分子内に樹脂成分と反応するための反応基を有していないために、難燃剤成分が樹脂中を移行しやすく、成型時に難燃剤成分が揮発して金型を汚染したり、また、樹脂加工品の表面に難燃剤がブリードアウトしやすいものであった。
【0012】
また、上記特許文献4に開示されている有機リン系難燃剤は、エポキシ樹脂のようなヒドロキシル基と結合できるような反応基を有する樹脂においては反応性難燃剤として機能するが、例えば、通常のオレフィン樹脂のようにヒドロキシル基と結合できるような反応基を有しない樹脂においては架橋を形成できないので、やはり難燃剤成分が樹脂中を移行しやすく、成型時に難燃剤成分が揮発して金型を汚染したり、樹脂加工品の表面に難燃剤がブリードアウトしやすいものであった。
【0013】
したがって、本発明の目的は、樹脂への少量の添加でも難燃性、耐熱性に優れるとともに難燃剤のブリードアウト等を防止でき、加えて、成形品の機械特性、電気特性、寸法安定性、成形性にも優れる、反応性難燃剤及びそれを用いた難燃性樹脂加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、本発明の反応性難燃剤は、下記の一般式(I)で示される、ハイオルソノボラック樹脂から誘導された末端に不飽和基を有する有機リン化合物を含有することを特徴とする。
【0015】
【化1】

【0016】
(式(I)中、X〜Xはそれぞれ独立に‐OH、又は下記式(A)で表される基であって、nは1〜18の整数である。nが2以上の時は、X同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。X〜Xの1つ以上は末端にアリル基を含む基であり、かつ、X〜Xの30%以上は下記式(A)で表される基である。)
【0017】
【化2】

【0018】
(式(A)中、Rは、アリル基、炭素数12以下のアリール基、又は炭素数12以下のアラルキル基を表し、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アリル基、炭素数12以下のアリール基、又は炭素数12以下のアラルキル基を表し、Yは単結合、−NH−、又は−O−を表す。)
【0019】
本発明の反応性難燃剤によれば、1分子内に少なくとも1つの末端不飽和結合を有している有機リン化合物を用いたので、この末端不飽和結合を、熱又は放射線によって樹脂と結合して反応させることができる。これにより、難燃剤成分が樹脂中に安定して存在するので、難燃剤のブリードアウトを防止して、少量の添加でも難燃性を長期間付与できる。
【0020】
また、本発明の有機リン化合物は、1分子内に1個以上リン原子を含んでいるので、難燃効果の高いPラジカルを発生しやすく、さらに、解離しやすいP‐C結合を含んでいるものでは、難燃効果の高いPラジカルをより発生しやすい。したがって難燃性を向上できる。
【0021】
そして、分子量が高く、エネルギー的にも安定しているため、熱分解温度を向上することができる。よって、樹脂への混練、成形時における難燃剤の気化や、成形時の熱や剪断による難燃剤の分解を防止でき、成形性が向上する。更には、炭素を多く含有することで、樹脂分解時にスス成分が生成、堆積することによって難燃性が向上する、いわゆるチャー効果も得られる。
【0022】
一方、本発明の難燃性樹脂加工品は、上記の反応性難燃剤と、樹脂とを含有する樹脂組成物を成形又は塗膜化した後、加熱又は放射線の照射によって前記樹脂と前記反応性難燃剤とを反応させて得られる難燃性樹脂加工品であって、前記難燃性樹脂加工品全体に対して、前記反応性難燃剤を1〜20質量%含有することを特徴とする。
【0023】
本発明の難燃性樹脂加工品によれば、上記の有機リン化合物の末端不飽和結合を、加熱又は放射線の照射によって樹脂と反応させたので、難燃剤成分が樹脂中に安定して存在する。これにより難燃剤のブリードアウトを防止して難燃性効果が向上するので、難燃性樹脂加工品全体に対する反応性難燃剤の添加量が1〜20質量%と少量であっても、難燃性を長期間付与できる。
【0024】
また、難燃剤と樹脂との結合によって、樹脂が3次元網目構造に架橋化するので、得られる樹脂加工品の化学的安定性、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れる樹脂成形品を得ることができ、特に耐熱性と機械強度を向上させることができる。更に薄肉成形加工も可能になる。
【0025】
上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、前記反応性難燃剤を2種類以上含有し、少なくとも1種類が多官能性の前記反応性難燃剤であることが好ましい。
【0026】
この態様によれば、反応性の異なる難燃剤の併用によって架橋に要する反応速度を制御できるので、急激な架橋反応の進行による樹脂の収縮等を防止することができる。また、多官能性の難燃剤の含有によって、上記の有機リン化合物による均一な3次元網目構造が形成されるので、耐熱性、難燃性が向上するとともに、より安定した樹脂物性が得られる。
【0027】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、前記反応性難燃剤以外の末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物である難燃剤を更に含有するものであることが好ましい。
【0028】
この態様によれば、末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物によっても、難燃剤と樹脂との結合によって樹脂が3次元網目構造に架橋できるので、併用によって難燃剤全体のコストダウンを図りつつ、得られる樹脂加工品の化学的安定性、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れる樹脂成形品を得ることができる。また、窒素を含有するので、特に樹脂としてポリアミド系樹脂を用いた場合に樹脂との相溶性がより向上する。
【0029】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、反応性を有しない添加型の難燃剤である前記反応性難燃剤以外の難燃剤を更に含有するものであっても良く、前記樹脂組成物が、前記添加型の難燃剤を高分子マトリック中に含有し、熱・機械特性へ影響しなく、更にブリードしない範囲内で併用含有すると良い。
【0030】
この態様によれば、上記の反応性難燃剤に、例えば、リン酸エステル系、メラミン系、水酸化金属、シリコン系等の反応性を有しない添加型の難燃剤を併用することによって、相乗効果により反応性難燃剤単独の場合に比べて難燃性を更に向上でき、また、難燃剤のコストダウンを図ることができる。
【0031】
更に、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーである架橋剤を更に含有するものであることが好ましい。
【0032】
この態様によっても、架橋剤と樹脂との結合によって、樹脂が3次元網目構造に架橋できるので、得られる樹脂加工品の化学的安定性、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れる樹脂成形品を得ることができる。
【0033】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記難燃性樹脂加工品全体に対して1〜45質量%の無機充填剤を含有することが好ましい。なかでも、前記無機充填剤としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有し、前記層状のクレーを前記難燃性樹脂加工品全体に対して1〜10質量%含有することが好ましい。この態様によれば、架橋に伴う収縮や分解を抑え、寸法安定性に優れる樹脂加工品を得ることができる。また、無機充填剤としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有した場合には、ナノオーダーで層状のクレーが樹脂中に分散することにより樹脂とのハイブリット構造を形成する。これによって、得られる難燃性樹脂加工品の耐熱性、機械強度等が向上する。
【0034】
更に、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記難燃性樹脂加工品全体に対して5〜50質量%の強化繊維を含有することが好ましい。この態様によれば、強化繊維の含有により、樹脂加工品の引張り、圧縮、曲げ、衝撃等の機械的強度を向上させることができ、更に水分や温度に対する物性低下を防止することができる。
【0035】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂と前記反応性難燃剤とが、線量10kGy以上の電子線又はγ線の照射によって反応して得られることが好ましい。この態様によれば、樹脂を成形等によって固化した後に、放射線によって架橋できるので、樹脂加工品を生産性よく製造できる。また、上記範囲の線量とすることにより、線量不足による3次元網目構造の不均一な形成や、未反応の架橋剤残留によるブリードアウトを防止できる。また、特に、照射線量を10〜45kGyとすれば、線量過剰によって生じる酸化分解生成物に起因する、樹脂加工品の内部歪みによる変形や収縮等も防止できる。
【0036】
更に、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂と前記反応性難燃剤とが、前記樹脂組成物を成形する温度より5℃以上高い温度で反応して得られることも好ましい。この態様によれば、放射線照射装置等が不要であり、特に熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物において好適に用いることができる。
【0037】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記難燃性樹脂加工品が、成形品、塗膜、封止剤より選択される1つであることが好ましい。本発明の難燃性樹脂加工品は、上記のように優れた難燃性を有し、しかもブリードアウトを防止できるので、通常の樹脂成形品のみならず、コーティング剤等として塗膜化したり、半導体や液晶材料等の封止剤としても好適に用いられる。
【0038】
更に、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記難燃性樹脂加工品が、電気部品又は電子部品として用いられるものであることが好ましい。本発明の難燃性樹脂加工品は、上記のように、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れるので、特に上記の物性が厳密に要求される、電気部品、電子部品として特に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、樹脂への少量の添加でも難燃性に優れ、更に、ブリードアウト等を防止できる、非ハロゲン系の反応性難燃剤及びそれを用いた難燃性樹脂加工品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明の反応性難燃剤について説明する。
【0041】
本発明の反応性難燃剤は、樹脂との反応性を有し、該反応により前記樹脂と結合することによって難燃性を付与する反応性難燃剤であって、下記の一般式(I)で示される反応性有機リン化合物であることを特徴としている。
【0042】
【化3】

【0043】
(式(I)中、X〜Xはそれぞれ独立に‐OH、又は下記式(A)で表される基であって、nは1〜18の整数である。nが2以上の時は、X同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。X〜Xの1つ以上は末端にアリル基を含む基であり、かつ、X〜Xの30%以上は下記式(A)で表される基である。)
【0044】
【化4】

【0045】
(式(A)中、Rはアリル基、炭素数12以下のアリール基、又は炭素数12以下のアラルキル基を表し、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アリル基、炭素数12以下のアリール基、又は炭素数12以下のアラルキル基を表し、Yは単結合、−NH−、又は−O−を表す。)
【0046】
上記一般式(I)に示す本発明の有機リン化合物は、ハイオルソノボラック樹脂から誘導されたリンが5価の化合物であり、また、末端に不飽和結合であるアリル基(CH=CH‐CH−)を一つ以上有している。ここで、アリル基は、後述する加熱、又は放射線等の照射によって樹脂と結合するための官能基である。そして、アリル基は1分子中に1つ以上有していることが好ましく、2つ以上が特に好ましい。また、一般式(I)における1分子中のリンの含有率としては6〜20質量%であることが好ましい。
【0047】
また、上記一般式(I)において、炭素数12以下のアリール基としては、例えば、−C(フェニル基)、−COH(ヒドロキシフェニル基)、−C−COH(ヒドロキシビフェニル基)、−α-C10(α-ナフチル基)、−β-C10(β-ナフチル基)等が挙げられる。
【0048】
また、炭素数12以下のアラルキル基としては、−CH−C(ベンジル基)等が挙げられる。
【0049】
上記の一般式(I)で示される有機リン化合物の具体例としては、下記に示す(I−1)〜(I−5)、(I−6a)〜(I−6i)等の化合物が例示できる。これらの化合物は、例えば、ハイオルソノボラック樹脂と、上記式(A)で表される構造を有する酸クロリド化合物との反応などにより合成することができる。なお、具体的な合成例については、後述する実施例をもって説明する。





























【0050】
【化5】



















【0051】
【化6】

【0052】
次に、上記の反応性難燃剤を用いた難燃性樹脂加工品について説明する。
【0053】
本発明の難燃性樹脂加工品は、樹脂と、上記の一般式(I)で示される有機リン化合物とを含有する樹脂組成物を成形又は塗膜化した後、加熱又は放射線の照射によって前記樹脂と前記反応性難燃剤とを反応させて得られ、樹脂組成物全体に対して、上記の反応性難燃剤を1〜20質量%含有することを特徴としている。
【0054】
まず、本発明に用いる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも使用可能であり特に限定されない。
【0055】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂等が挙げられる。なかでも、機械特性や耐熱性等の点から、ポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂を用いることが好ましい。
【0056】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ケイ素樹脂等が挙げられる。なかでも、機械特性や耐熱性等の点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂を用いることが好ましい。
【0057】
上記反応性難燃剤の含有量は、前記樹脂組成物全体に対して、前記反応性難燃剤を1〜20質量%含有することが好ましく、1〜15質量%含有することがより好ましい。反応性難燃剤の含有量が1質量%未満の場合、反応による架橋が不充分であり、得られる樹脂加工品の機械的物性、熱的物性、電気的物性が好ましくなく難燃性が得られない。また、20質量%を超えると、反応性難燃剤が過剰となり、反応性難燃剤の未反応のモノマーや分解ガスが発生したり、オリゴマー化したものがブリードアウトし、また、樹脂加工品の機械的特性が低下するので好ましくない。
【0058】
本発明においては、上記の一般式(I)で示される有機リン化合物のうち、反応性の異なる2種類以上の化合物、すなわち、1分子中の上記官能基の数が異なる化合物を2種類以上併用することが好ましい。これによって、架橋に要する反応速度を制御できるので、急激な架橋反応の進行による樹脂組成物の収縮を防止することができる。
【0059】
そして、多官能性の反応性難燃剤を少なくとも1種類以上含有することが好ましい。これによって、上記の有機リン化合物による均一な3次元網目構造が形成される。
【0060】
また、本発明においては、難燃剤として上記反応性難燃剤以外に、反応性を有しない添加型の難燃剤(以下単に「添加型難燃剤」とする)を含有していてもよい。このような添加型難燃剤としては、非ハロゲン系難燃剤が好ましく、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等に代表される金属水和物や、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのモノリン酸エステル、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェートなどの縮合リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、赤リン、リン酸グアニジン等、シアヌル酸又はイソシアヌル酸の誘導体、メラミン誘導体等が挙げられる。
【0061】
これらの添加型難燃剤は単独で用いてもよく、また2種類以上併用することも可能である。この添加型難燃剤の含有量は、ブリードアウトの発生や機械特性の低下を防止するため、前記樹脂組成物全体に対して、前記添加型難燃剤を1〜20質量%含有することが好ましく、3〜15質量%含有することがより好ましい。
【0062】
また、本発明の反応性難燃剤1質量部に対して、前記反応性難燃剤以外の反応性を有する難燃剤として、末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物を0.5〜10質量部含有することがより好ましい。
【0063】
上記の末端に不飽和基を有する基としては、具体的にはジアクリレート、ジメタクリレート、ジアリレート、トリアクリレート、トリメタクリレート、トリアリレート、テトラアクリレート、テトラメタクリレート、テトラアリレート等が挙げられるが、反応性の点からはジアクリレート、トリアクリレート、テトラアクリレート等のアクリレートであることがより好ましい。また、環状の含窒素化合物としては、イソシアヌル環、シアヌル環等が挙げられる。
【0064】
上記の末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物の具体例としては、上記のシアヌル酸又はイソシアヌル酸の誘導体が挙げられ、例えば、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、トリイソシアヌールトリアクリレート等の多官能性モノマー又はオリゴマーが例示できる。
【0065】
また、本発明においては、難燃性を有しないが前記樹脂との反応性を有する架橋剤を更に含有してもよい。このような架橋剤としては、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーを用いることができる。なお、本発明における難燃性を有しないが前記樹脂との反応性を有する架橋剤とは、架橋性(反応性)を有するが、それ自身は難燃性を有しないものを意味し、上記の末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物のように、架橋性と難燃性とを同時に有する反応性難燃剤を除くものである。
【0066】
このような架橋剤としては、以下の一般式(a)〜(c)で表される2〜4官能性の化合物が挙げられる。ここで、Mは主骨格であり、R10〜R13は末端に不飽和基を有する官能性基であって、(a)は2官能性化合物、(b)は3官能性化合物、(c)は4官能性化合物である。
【0067】
【化7】

【0068】
具体的には、以下に示すような一般式の、主骨格Mが、グリセリン、ペンタエリストール誘導体等の脂肪族アルキルや、トリメリット、ピロメリット、テトラヒドロフラン、トリメチレントリオキサン等の芳香族環、ビスフェノール等である構造が挙げられる。






【0069】
【化8】

【0070】
【化9】

【0071】
【化10】

【0072】
上記の架橋剤の具体例としては、2官能性のモノマー又はオリゴマーとしては、ビスフェノールF−EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA−EO変性ジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート等のジアクリレートや、それらのジメタクリレート、ジアリレートが挙げられる。
【0073】
3官能性のモノマー又はオリゴマーとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート等のトリアクリレートや、それらのトリメタクリレート、トリアリレートが挙げられる。
【0074】
4官能性のモノマー又はオリゴマーとしては、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
【0075】
上記の架橋剤は、主骨格Mとなる、トリメリット酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、グリセリン、ペンタエリストール、2,4,6−トリス(クロロメチル)−1,3,5−トリオキサン等より選ばれる1種に、末端に不飽和基を有する官能性基となる、臭化アリル、アリルアルコール、アリルアミン、臭化メタリル、メタリルアルコール、メタリルアミン等より選ばれる1種を反応させて得られる。
【0076】
そして、上記の架橋剤は、前記反応性難燃剤1質量部に対して、0.5〜10質量部含有することが好ましい。
【0077】
また、本発明に用いる樹脂組成物には、上記の樹脂と難燃剤の他、無機充填剤、強化繊維、各種添加剤等を含有していてもよい。
【0078】
無機充填剤を含有することによって、樹脂加工品の機械的強度が向上するとともに、寸法安定性を向上させることができる。また、反応性難燃剤を吸着させる基体となって、反応性難燃剤の分散を均一化にできる。
【0079】
無機充填剤としては、従来公知のものが使用可能であり、代表的なものとしては、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、錫、ステンレス鋼、アルミニウム、金、銀等の金属粉末、ヒュームドシリカ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸、含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、ガラスビーズ、カーボンブラック、石英粉末、雲母、タルク、マイカ、クレー、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ケイソウ土等が挙げられる。これらの充填剤は、単独でも、2種以上を併用して用いてもよく、また、公知の表面処理剤で処理されたものでもよい。
【0080】
無機充填剤の含有量は、難燃性樹脂加工品全体に対して1〜45質量%であることが好ましく、1〜20質量%がより好ましい。含有量が1質量%より少ないと、難燃性樹脂加工品の機械的強度が不足し、寸法安定性が不充分であり、更に反応性難燃剤の吸着が不充分となるので好ましくない。また、45質量%を超えると、難燃性樹脂加工品が脆くなるので好ましくない。
【0081】
上記の無機充填剤のうち、シリケート層が積層してなる層状のクレーを用いることが特に好ましい。シリケート層が積層してなる層状のクレーとは、厚さが約1nm、一辺の長さが約100nmのシリケート層が積層された構造を有しているクレーである。したがって、この層状のクレーはナノオーダーで樹脂中に分散されて樹脂とのハイブリット構造を形成し、これによって、得られる難燃性樹脂加工品の耐熱性、機械強度等が向上する。層状のクレーの平均粒径は100nm以下であることが好ましい。
【0082】
層状のクレーとしては、モンモリロナイト、カオリナイト、マイカ等が挙げられるが、分散性に優れる点からモンモリロナイトが好ましい。また、層状のクレーは、樹脂への分散性を向上させるために表面処理されていてもよい。このような層状のクレーは市販されているものを用いてもよく、例えば「ナノマー」(商品名、日商岩井ベントナイト株式会社製)や、「ソマシフ」(商品名、コーポケミカル社製)などが使用できる。
【0083】
層状のクレーの含有量は、難燃性樹脂加工品全体に対して1〜10質量%が好ましい。なお、層状のクレーは単独で使用してもよく、他の無機充填剤と併用してもよい。
【0084】
また、強化繊維を含有することによって、例えば成形品の場合には機械的強度が向上するとともに、寸法安定性を向上させることができる。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維が挙げられ、強度、及び樹脂や無機充填剤との密着性の点からガラス繊維を用いることが好ましい。これらの強化繊維は、単独でも、2種以上を併用して用いてもよく、また、シランカップリング剤等の公知の表面処理剤で処理されたものでもよい。
【0085】
また、ガラス繊維は、表面処理されており、更に樹脂で被覆されていることが好ましい。これにより、熱可塑性ポリマーとの密着性を更に向上することができる。
【0086】
表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができ、具体的には、メトキシ基及びエトキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシ基と、アミノ基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、イソシアネート基よりなる群から選択される少なくとも一種の反応性官能基を有するシランカップリング剤が例示できる。
【0087】
また、被覆樹脂としても特に限定されず、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0088】
強化繊維の配合量は、難燃性樹脂加工品全体に対して5〜50質量%含有することが好ましく、10〜40質量%がより好ましい。含有量が5質量%より少ないと、難燃性樹脂加工品の機械的強度が低下するとともに、寸法安定性が不充分であるので好ましくなく、また、50質量%を超えると、樹脂の加工が困難になるので好ましくない。
【0089】
なお、本発明に用いる樹脂組成物には、本発明の目的である耐熱性、耐候性、耐衝撃性等の物性を著しく損わない範囲で、上記以外の常用の各種添加成分、例えば結晶核剤、着色剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤などの添加剤を添加することができる。また、後述するように、例えば紫外線によって樹脂と反応性難燃剤とを反応させる場合には、紫外線開始剤等を用いることができる。
【0090】
着色剤としては特に限定されないが、後述する放射線照射によって褪色しないものが好ましく、例えば、無機顔料である、ベンガラ、鉄黒、カーボン、黄鉛等や、フタロシアニン等の金属錯体が好ましく用いられる。
【0091】
本発明の難燃性樹脂加工品は、上記の樹脂組成物を成形又は塗膜化した後、加熱又は放射線の照射によって前記樹脂と前記反応性難燃剤とを反応させて得られる。
【0092】
樹脂組成物の成形は従来公知の方法が用いられ、例えば、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の場合には、熱可塑性樹脂と反応性難燃剤とを溶融混練してペレット化した後、従来公知の射出成形、押出成形、真空成形、インフレーション成形等によって成形することができる。溶融混練は、単軸或いは二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの通常の溶融混練加工機を使用して行うことができる。混練温度は熱可塑性樹脂の種類によって適宜選択可能であり、例えばポリアミド系樹脂の場合には240〜280℃で行うことが好ましい。また、成形条件も樹脂により適宜設定可能であり特に限定されない。なお、この段階では全く架橋は進行していないので、成形時の余分のスプール部は、熱可塑性樹脂としてのリサイクルが可能である。
【0093】
一方、熱硬化性樹脂の場合には、上記と同様に、熱硬化性樹脂と反応性難燃剤とを溶融混練してペレット化した後、例えば、従来公知の射出成形、圧縮成形、トランスファー成形等を用いて成形することができる。
【0094】
また、塗膜化する場合には、樹脂組成物をそのまま塗布してもよく、適宜溶剤等で希釈して塗布可能な溶液又は懸濁液とした後、従来公知の方法によって乾燥、塗膜化してもよい。塗膜化の方法としては、ローラー塗り、吹き付け、浸漬、スピンコート等のコーティング方法等を用いることができ特に限定されない。
【0095】
上記の樹脂組成物は、加熱又は放射線の照射によって、反応性難燃剤の末端の不飽和結合が、樹脂と反応して架橋反応し、樹脂中に安定に存在する。
【0096】
反応性難燃剤と樹脂とを反応させる手段として加熱を用いる場合、反応させる温度は、樹脂の成形温度より5℃以上高い温度とすることが好ましく、10℃以上高い温度とすることがより好ましい。
【0097】
また、架橋の手段として放射線を用いる場合には、電子線、α線、γ線、X線、紫外線等が利用できる。なお、本発明における放射線とは広義の放射線を意味し、具体的には、電子線やα線等の粒子線の他、X線や紫外線等の電磁波までを含む意味である。
【0098】
上記のうち、電子線又はγ線の照射が好ましい。電子線照射は公知の電子加速器等が使用でき、加速エネルギーとしては、2.5MeV以上であることが好ましい。γ線照射は、公知のコバルト60線源等による照射装置を用いることができる。
【0099】
γ線照射は、公知のコバルト60線源等による照射装置を用いることができる。γ線は電子線に比べて透過性が強いために照射が均一となり好ましいが、照射強度が強いため、過剰の照射を防止するために線量の制御が必要である。
【0100】
放射線の照射線量は10kGy以上であることが好ましく、10〜45kGyがより好ましい。この範囲であれば、架橋によって上記の物性に優れる樹脂加工品が得られる。照射線量が10kGy未満では、架橋による3次元網目構造の形成が不均一となり、未反応の架橋剤がブリードアウトする可能性があるので好ましくない。また、45kGyを超えると、酸化分解生成物による樹脂加工品の内部歪みが残留し、これによって変形や収縮等が発生するので好ましくない。
【0101】
このようにして得られた本発明の難燃性樹脂加工品は、耐熱性、難燃性に加えて、機械特性、電気特性、寸法安定性、及び成形性に優れる。したがって、高度な耐熱性、難燃性が要求される電気部品又は電子部品、更には自動車部品や光学部品、例えば、電磁開閉器やブレーカーなどの接点支持等のための部材、プリント基板等の基板、集積回路のパッケージ、電気部品のハウジング等として好適に用いることができる。
【0102】
電気部品又は電子部品の具体例としては、受電盤、配電盤、電磁開閉器、遮断器、変圧器、電磁接触器、サーキットプロテクタ、リレー、トランス、各種センサ類、各種モーター類、ダイオード、トランジスタ、集積回路等の半導体デバイス等が挙げられる。
【0103】
また、冷却ファン、バンパー、ブレーキカバー、パネル等の内装品、摺動部品、センサ、モーター等の自動車部品としても好適に用いることができる。
【0104】
更に、成形品のみならず、上記の成形品や繊維等への難燃性コーティング塗膜としても用いることもできる。
【0105】
また、上記の半導体デバイス等の電子部品又は電気部品の封止、被覆、絶縁等として用いれば、優れた耐熱性、難燃性を付与させることができる。すなわち、例えば、上記の樹脂組成物を封止して樹脂を硬化させ、更に上記の加熱又は放射線照射による反応を行なうことにより、半導体チップやセラミックコンデンサ等の電子部品や電気素子を封止する難燃性封止剤として用いることができる。封止の方法としては、注入成形、ポッティング、トランスファー成形、射出成形、圧縮成形等による封止が可能である。また、封止対象となる電子部品、電気部品としては特に限定されないが、例えば、液晶、集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、コンデンサ等が挙げられる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0107】
(合成例1)〔化合物(I-1)の合成〕
乾燥管付き還流管、滴下ロート、窒素ガス導入管及び機械攪拌装置を備えた500mlの四つ口フラスコに、フェニルリン酸ジクロリド43.28g(205mmol)と、蒸留酢酸エチル200mlを入れて窒素下に置き、0〜5℃にて攪拌しながら、滴下ロートよりジアリルアミン19.89g(205mmol)とトリエチルアミン41.52g(410mmol)の混合液をゆっくり加えた。滴下終了後、常温で3時間、70℃で12時間反応させた。冷却後トリエチルアミン塩酸塩をろ去し、溶液を減圧濃縮して溶媒と過剰のアミンを取り除いた後、減圧蒸留して、144〜146℃/5mmHgの留分を採取し、フェニルリン酸モノ(N,N‐ジアリル)アミドモノクロリド(以下、POPACとする)を47.73g(85%)得た。なお、赤外吸収スペクトル、NMR及びTOF−Massスペクトルの測定により、この化合物がPOPACであることを確認した。
赤外吸収スペクトル(cm-1):ν(C=C)1635、ν(ring)1604,1495、ν(P=O,POC)1280,1195,1040、ν(CN)945
H−NMRスペクトル(δ、ppm):フェニル-H 7.15(2H),7.35(3H)、‐CH= 5.55(2H)、‐CH‐ 5.10(4H)、 =CH 3.50(4H)
TOF−Massスペクトル(M/Z):273(分子量計算値=271.7)
次に、上記と同様の装置を備えた500ml四つ口フラスコに、ジメチルホルムアミド(以下、DMFとする)250mlと、下記式(d)のハイオルソノボラック樹脂41.25g(100mmol)と、水素化ナトリウム9.6g(400mmol)を入れて窒素気流下にかき混ぜ、発生する水素の泡が殆ど見られなくなってから80℃に昇温し、2時間反応させた。その後、0〜5℃に冷却しながら、滴下ロートより、POPAC108.7g(400mmol)と、DMF100mlの混合液をゆっくり加え、同温度で3時間、60℃にて12時間反応させた。約1/3の体積になるまで溶媒を減圧留去し、得られた粘調液体を激しく攪拌している3Lの水中に滴下し、沈殿する淡黄色ワックス状物質を集めた。水洗後、60℃にて減圧加熱乾燥して、目的の化合物を115.3g(収率85.2%)得た。
この化合物の赤外吸収スペクトル、NMR、TOF−Massスペクトルの測定結果は以下の通りであり、下記式(d)のハイオルソノボラック樹脂のOH基の4個全てが下記式(A−1)に示す基に置換された構造、すなわち上記化合物(I−1)の構造であることが確認できた。
【0108】
【化11】

【0109】
赤外吸収スペクトル(cm-1):ν(C=C)1635、ν(ring)1604,1495、ν(P=O,POC)1280,1195,1040、ν(CN)945
H−NMRスペクトル(δ、ppm):フェニル‐H 6.85〜7.55(34H)、 ‐CH= 5.60(8H)、 アリル‐CH‐ 5.15(16H)、 フェニル基‐CH‐フェニル基 3.8付近(6H)、 =CH 3.50(16H)
TOF−Massスペクトル(M/Z):1355,1356(分子量計算値=1353.41)
【0110】
(合成例2)〔化合物(I‐2)の合成〕
合成例1と同様の装置を備えた500mlの四つ口フラスコに、オキシ塩化リン153.32g(1.00mol)と、蒸留クロロホルム200mlを入れて窒素下に置き、0〜5℃にて攪拌しながら、滴下ロートより、クロロホルム100mlに下記式(d)のハイオルソノボラック樹脂10.31g(25mmol)と、トリエチルアミン41.52g(410mmol)を溶解させた混合液をゆっくり加えた。滴下終了後、常温で3時間、70℃で12時間反応させた。冷却後トリエチルアミン塩酸塩をろ去し、溶液を減圧留去して溶媒と過剰のアミンを取り除いた後、テトラヒドロフラン(以下、THFとする)200mlを加えて溶液とし、先ほどの反応装置に戻した。
次に、滴下ロートよりカリウムα-ナフトキシド18.31g(100mmol)のTHF溶液200mlをゆっくり加え、常温で3時間、沸点還流下で6時間反応させた。常温に戻した後、滴下ロートよりアリルアミン11.41g(200mmol)とトリエチルアミン20.25g(200mmol)との混合液をゆっくり加え、常温で3時間、沸点還流下で12時間反応させた。減圧濃縮して容積を1/3程度とした後、得られた粘調液体を激しく攪拌している3Lの水中に滴下し、沈殿する淡黄色ワックス状物質を集めた。水洗後、60℃にて減圧加熱乾燥して、目的の化合物を31.1g(収率89.2%)得た。
この化合物の赤外吸収スペクトル、NMR、TOF−Massスペクトルの測定結果は以下の通りであり、下記式(d)のハイオルソノボラック樹脂のOH基の4個全てが下式(A−2)に示す基に置換された構造、すなわち上記化合物(I−2)の構造であることが確認できた。
【0111】
【化12】

【0112】
赤外吸収スペクトル(cm-1):ν(NH)3360,1620、ν(C=C)1635、ν(ring)1604,1495、ν(P=O,POC)1280,1195,1040、ν(CN)945
H−NMRスペクトル(δ、ppm):アリール‐H 6.85〜7.55(42H)、 ‐CH= 5.60(4H)、 アリル‐CH‐ 5.15(8H)、 フェニル基‐CH‐フェニル基 3.8付近(6H)、>NH 3.65(4H), =CH 3.50(8H)
TOF−Massスペクトル(M/Z): 1397,1398(分子量計算値=1395.38)
【0113】
(合成例3)〔化合物(I−3)の合成〕
合成例1と同様の装置を備えた1000mlの四つ口フラスコに、オキシ塩化リン76.67g(0.50mol)と、THF200mlを入れて窒素下に置き、0〜5℃にて攪拌しながら、滴下ロートより塩化アリルマグネシウムの1.0mol/l濃度のTHF溶液500mlをゆっくり加え、常温で3時間、60℃にて10時間反応させた。その後常温以下で溶媒を減圧留去し、生じる塩化マグネシウムの沈殿をろ去、減圧濃縮して全量を300mlとし、先ほどの反応装置に戻した。
次に、クロロホルム200mlに下記式(f)のハイオルソノボラック樹脂21.10g(10mmol)と、トリエチルアミン40.51g(400mmol)を溶解させた混合液をゆっくり加え、室温で3時間、60℃で12時間反応させた。冷却後、沈殿をろ去し、溶液を減圧乾固して過剰の試薬と溶媒を除去した。残渣の全量を400mlのクロロホルムに溶解して先ほどと同様の反応装置に戻し、クロロホルム200mlにベンジルアミン53.57g(500mmol)とトリエチルアミン50.64g(500mmol)とを溶解させた混合液を滴下ロートよりゆっくり加え、室温で3時間、60℃で12時間反応させた。過剰の試薬と溶媒を減圧留去して得たワックス状物質を3Lの水に分散してかき混ぜ、沈殿する淡黄色固体をろ集、水洗、乾燥して目的の化合物を55.7g(収率93.2%)得た。
この化合物の赤外吸収スペクトル、NMR、TOF−Massスペクトルの測定結果は以下の通りであり、下記式(f)のハイオルソノボラック樹脂のOH基の20個全てが下式(A−3)に示す基に置換された構造、すなわち上記の化合物(I−3)の構造であることが確認できた。
【0114】
【化13】

【0115】
赤外吸収スペクトル(cm-1):ν(NH)3360,1620、ν(C=C)1635、ν(ring)1604,1495、ν(P=O,POC)1280,1195,1040、ν(CN)945
H−NMRスペクトル(δ、ppm):アリール‐H 6.85〜7.55(162H)、 ‐CH= 5.60(20H)、 アリル‐CH‐ 5.15(40H)、 ベンジル‐CH 4.3(40H)、 フェニル基‐CH‐フェニル基 3.8付近(38H)、 >NH 3.65(20H)、 =CH 3.50(40H)
TOF−Massスペクトル(M/Z):5977,5978,5979(分子量計算値=5974.19)
【0116】
(合成例4)〔化合物(I‐6a)〜(I−6i)の合成〕 フェニルリン酸ジクロリドのかわりにフェニルホスホン酸ジクロリド39.97g(205mmol)を用い、減圧蒸留で122〜124℃/5mmHgの留分を採取した以外は合成例1と同様の操作を行い、フェニルホスホン酸モノ(N,N‐ジアリル)アミドモノクロリド(以下、PPACとする)を43.50g(83%)得た。なお、赤外吸収スペクトル、NMR及びTOF−Massスペクトルの測定により、この化合物がPPACであることを確認した。
赤外吸収スペクトル(cm-1):ν(C=C)1635、ν(ring)1604,1495、ν(P=O,POC)1280、ν(CN)945
H−NMRスペクトル(δ、ppm):フェニル‐H 6.85(2H),7.10(3H)、 ‐CH= 5.45(2H)、 ‐CH‐ 4.95(4H)、 =CH 3.35(4H)
TOF−Massスペクトル(M/Z):257(分子量計算値=255.7)
次に、上記と同様の装置を備えた500ml四つ口フラスコに、DMF250ml、下記式(e)のハイオルソノボラック樹脂62.47g(100mmol)、水素化ナトリウム9.4g(400mmol)を入れて窒素下に置き、かき混ぜ、発生する水素の泡が殆ど見られなくなってから80℃に昇温して2時間反応させた。その後、0〜5℃に冷却しながら、滴下ロートより、PPAC102.3g(400mmol)とDMF100mlの混合液をゆっくり加え、同温度で3時間、60℃にて12時間反応させた。約1/3の体積になるまで溶媒を減圧留去し、得られた粘調液体を激しく攪拌している3Lの水中に滴下し、沈殿する淡黄色ワックス状物質を集めた。水洗後、60℃にて減圧加熱乾燥して、目的の化合物(化合物(I−6a)、(I−6b)、(I−6c)、(I−6d)、(I−6e)、(I−6f)、(I−6g)、(I−6h)、及び(I−6i)の混合物)を142.2g(収率94.7%)得た。
この化合物の赤外吸収スペクトル、NMR、TOF−Massスペクトルの測定結果は以下の通りであり、下記式(e)のハイオルソノボラック樹脂のOH基6個のうち、4個が下式(A−4)に示す基に置換された構造、すなわち、上記の化合物化合物(I−6a)、(I−6b)、(I−6c)、(I−6d)、(I−6e)、(I−6f)、(I−6g)、(I−6h)、及び(I−6i)の構造であることが確認できた。
【0117】
【化14】

【0118】
赤外吸収スペクトル(cm-1):ν(C=C)1635、ν(ring)1604,1495、ν(P=O,POC)1280,1195,1040、ν(CN)945、ν(OH)3280〜3420
H−NMRスペクトル(δ、ppm):フェニル‐H 6.85〜7.55(40H)、 ‐CH= 5.60(8H)、 アリル‐CH‐ 5.15(16H)、 フェニル基‐CH‐フェニル基 3.8付近(10H)、 =CH 3.50(16H)、−OH 9.3(2H)
TOF−Massスペクトル(M/Z):1503,1504(分子量計算値=1501.6)
【0119】
<使用したハイオルソノボラック樹脂>
【化15】

【0120】
(実施例1)
熱可塑性樹脂として6/66ナイロンコポリマー(宇部興産社製:2123B)を50.3質量部、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)を30質量部、着色剤としてカーボンブラックを0.5質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)を0.2質量部、無機充填剤として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)を5質量部及びナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)を4質量部、難燃剤として上記式(I‐1)の反応性難燃剤を10質量部配合し、サイドフロー型2軸押出機(日本製鋼社製)で280℃で混練して樹脂ペレットを得て105℃、4時間乾燥した後、上記ペレットを射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件で成形した。
その後、上記成形品に、コバルト60を線源としたγ線を25kGy照射して実施例1の樹脂加工品を得た。
【0121】
(実施例2)
熱可塑性樹脂として66ナイロン(宇部興産社製:2020B)を53.3質量部、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)を25質量部、難燃剤として上記式(I‐4)の反応性難燃剤を12質量部用いた以外は、実施例1と同様の混合組成・成形加工条件で実施例2の樹脂加工品を得た。
【0122】
(実施例3)
熱可塑性樹脂として66ナイロン(宇部興産社製:2020B)を46.3質量部、無機充填剤として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)を10質量部及びナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)を4質量部、着色剤としてカーボンブラック0.5質量部、難燃剤として上記式(I‐1)の反応性難燃剤を6質量部及び上記式(I‐3)の反応性難燃剤を8質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)0.2質量部を加えて混合した。
280℃に設定したサイドフロー型2軸押出し機を用いて上記の混合物を溶融し、更に、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)25質量部を、押出し混練を用いてサイドから溶融した上記の混合物に混ぜ込み樹脂ペレットを得た後、該樹脂ペレットを105℃で4時間乾燥させたのち、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度280℃、金型温度80℃、射出圧力78.4MPa、射出速度120mm/s、冷却時間15秒の一般的な条件で、電気・電子部品並びに自動車用の成形品を成形した。
その後、上記成形品に、コバルト60を線源としたγ線を25kGy照射して実施例3の樹脂加工品を得た。
【0123】
(実施例4)
熱可塑性樹脂として66ナイロン(宇部興産社製:2020B)44.3質量部、難燃剤として上記式(I‐5)の反応性難燃剤を11質量部及び有機リン系の添加型難燃剤(三光株社製:BCA)を5質量部用いた以外は実施例3と同様の混合組成・成形加工条件で、実施例4の樹脂加工品を得た。
【0124】
(実施例5)
熱可塑性樹脂として66ナイロン(宇部興産社製:2020B)51.2質量部、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)を20質量部、着色剤としてカーボンブラック0.5質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)0.3質量部、無機充填剤として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)5質量部及びナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)4質量部、難燃剤として上記式(I‐6a)の反応性難燃剤を10質量部、多官能環状化合物(日本化成社製:TAIC)を2質量部及び有機リン系の添加型難燃剤(クライアント社製:EXOLIT OP 1230)を7質量部用いた以外は実施例3と同様の成形加工条件で、実施例5の樹脂加工品を得た。
【0125】
(実施例6)
熱可塑性樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ株式会社製:トレコン1401X06)を53.3質量部、難燃剤として上記式(I‐1)の反応性難燃剤を10質量部、有機リン系の添加型難燃剤(三光化学社製:BCA)を5質量部、多官能環状化合物(東亜合成社製:M‐315)を2質量部、無機充填剤として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)5質量部及びナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)4質量部、着色剤としてカーボンブラック0.5質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)0.2質量部を加えて混合した。
245℃に設定したサイドフロー型2軸押出し機を用いて上記の混合物を溶融し、更に、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)20質量部を、押出し混練を用いてサイドから溶融した上記の混合物に混ぜ込み樹脂ペレットを得た後、該樹脂ペレットを130℃で3時間乾燥させたのち、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度250℃、金型温度80℃、射出圧力78.4MPa、射出速度120mm/s、冷却時間15秒の一般的な条件で、電気・電子部品並びに自動車用の成形品を成形した。
その後、上記成形品に、住友重機社製の加速器を用い、加速電圧4.8MeVで、照射線量40kGyの電子線を照射して実施例6の樹脂加工品を得た。
【0126】
(実施例7)
実施例3の系に熱触媒(日本油脂社製:ノフマーBC)3質量部を更に添加した以外は実施例3と同様の条件で成形品を成形した。
その後、上記成形品を、245℃、8時間加熱によって反応して実施例7の樹脂加工品を得た。
【0127】
(実施例8)
実施例5の系に、紫外線開始剤(チバガイギー社製イルガノックス651とイルガノックス369とを2:1で併用)7質量部を更に添加した以外は実施例5と同様の条件で薄肉(t:0.6mm厚)成形品を成形した。
その後、上記成形品を、超高圧水銀灯で365nmの波長で150mW/cmの照度で2分間照射して実施例8の樹脂加工品を得た。
【0128】
(実施例9)
主剤(長瀬ケミカル社製:XNR4012)100質量部に、硬化剤(長瀬ケミカル社製:XNH4012)50質量部及び硬化促進剤(長瀬ケミカル社製:FD400)1質量部を混合して得られた熱硬化性エポキシ系モールド樹脂の45質量部に、シリカ(富士シリシア社製 サイリア530)45質量部を分散させ、難燃剤として上記式(I‐3)の反応性難燃剤を10質量部添加してモールド成形品を得た。
その後、上記成形品を、100℃、1時間反応させて実施例9の樹脂加工品(封止剤)を得た。
【0129】
(実施例10)
半導体封止用エポキシ樹脂(信越化学社製:セミコート115)92質量部に、難燃剤として上記式(I‐3)の反応性難燃剤を8質量部添加してモールド成形品を得た。
その後、上記成形品を150℃、4時間反応させて実施例10の樹脂加工品(封止剤)を得た。
【0130】
(比較例1〜10)
実施例1〜10において、本発明の反応性難燃剤を配合しなかった以外は、実施例1〜10と同様の混合・加工成形条件で、それぞれ比較例1〜10の樹脂加工品を得た。
【0131】
(比較例11)
実施例5に対して、難燃剤として、有機リン系の添加型難燃剤(三光化学社製:BCA)20質量部のみを添加した以外は、実施例5と同様の混合・成形加工条件で比較例11の樹脂加工品を得た。
【0132】
<試験例>
実施例1〜10、比較例1〜11の樹脂加工品について、難燃性試験であるUL−94に準拠した試験片(長さ5インチ、幅1/2インチ、厚さ3.2mm)と、IEC60695−2法(GWFI)に準拠したグローワイヤ試験片(60mm角、厚さ1.6mm)を作製し、UL94試験、グローワイヤ試験(IEC準拠)、はんだ耐熱試験を行った。また、すべての樹脂加工品について300℃×3時間のブリードアウト試験を行った。その結果をまとめて表1に示す。
【0133】
なお、UL94試験は、試験片を垂直に取りつけ,ブンゼンバーナーで10秒間接炎後の燃焼時間を記録した。更に、消火後2回目の10秒間接炎し再び接炎後の燃焼時間を記録し、燃焼時間の合計と2回目消火後の赤熱燃焼(グローイング)時間と綿を発火させる滴下物の有無で判定した。
【0134】
また、グローワイヤ試験は、グローワイヤとして先端が割けないように曲げた直径4mmのニクロム線(成分:ニッケル80%、クロム20%)、温度測定用熱電対として直径0.5mmのタイプK(クロメル−アルメル)を用い、熱電対圧着荷重1.0±0.2N、温度850℃で行った。なお、30秒接触後の燃焼時間が30秒以内のこと、サンプルの下のティッシュペーパーが発火しないことをもって燃焼性(GWFI)の判定基準とした。
【0135】
また、はんだ耐熱試験は、350℃のはんだ浴に10秒浸漬後の寸法変形率を示した。
【0136】
【表1】

【0137】
表1の結果より、実施例の樹脂加工品においては、難燃性はいずれもV−0と優れ、グローワイヤ試験においてもすべて合格しており、更に、はんだ耐熱試験後の寸法変形率も26%以下であることがわかる。また、300℃×3時間後においても難燃剤のブリードアウトは認められなかった。
【0138】
一方、本発明の反応性難燃剤を含有しない比較例1〜10においては、難燃性はHBと不充分であり、グローワイヤ試験においてもすべて不合格、更に、はんだ耐熱試験後の寸法変形率も実施例に比べて劣ることがわかる。
【0139】
また、難燃剤として添加型(非反応型)の有機リン系難燃剤を用いた比較例11においては、難燃性はV−2で不充分であり、300℃×3時間後において難燃剤のブリードアウトが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は、ハロゲンを含有しない、非ハロゲン系の難燃剤及び難燃性樹脂加工品として、電気部品や電子部品等の樹脂成形品や、半導体等の封止剤、コーティング塗膜等に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で示される、ハイオルソノボラック樹脂から誘導された末端に不飽和基を有する有機リン化合物を含有することを特徴とする反応性難燃剤。
【化1】


(式(I)中、X〜Xはそれぞれ独立に‐OH、又は下記式(A)で表される基であって、nは1〜18の整数である。nが2以上の時は、X同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。X〜Xの1つ以上は末端にアリル基を含む基であり、かつ、X〜Xの30%以上は下記式(A)で表される基である。)
【化2】


(式(A)中、Rは、アリル基、炭素数12以下のアリール基、又は炭素数12以下のアラルキル基を表し、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アリル基、炭素数12以下のアリール基、又は炭素数12以下のアラルキル基を表し、Yは単結合、−NH−、又は−O−を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の反応性難燃剤と、樹脂とを含有する樹脂組成物を成形又は塗膜化した後、加熱又は放射線の照射によって前記樹脂と前記反応性難燃剤とを反応させて得られる難燃性樹脂加工品であって、前記難燃性樹脂加工品全体に対して、前記反応性難燃剤を1〜20質量%含有することを特徴とする難燃性樹脂加工品。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、前記反応性難燃剤を2種類以上含有し、少なくとも1種類が多官能性の前記反応性難燃剤である請求項2に記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、前記反応性難燃剤以外の末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物である難燃剤を更に含有する請求項2又は3に記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、反応性を有しない添加型の難燃剤を更に含有する請求項2〜4のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーである架橋剤を更に含有する請求項2〜5のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項7】
前記難燃性樹脂加工品全体に対して1〜45質量%の無機充填剤を含有する請求項2〜6のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項8】
前記無機充填剤としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有し、前記層状のクレーを前記難燃性樹脂加工品全体に対して1〜10質量%含有する請求項7に記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項9】
前記難燃性樹脂加工品全体に対して5〜50質量%の強化繊維を含有する請求項2〜8のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項10】
前記樹脂と前記反応性難燃剤とを、線量10kGy以上の電子線又はγ線の照射によって反応させて得られる請求項2〜9のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項11】
前記樹脂と前記反応性難燃剤とを、前記樹脂組成物を成形する温度より5℃以上高い温度で反応させて得られる請求項2〜9のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項12】
前記難燃性樹脂加工品が、成形品、塗膜、封止剤より選択される1つである請求項2〜11のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項13】
前記難燃性樹脂加工品が、電気部品又は電子部品として用いられるものである請求項2〜12のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。

【公開番号】特開2006−225587(P2006−225587A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43853(P2005−43853)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】