説明

反応炉及び磁性材料用粉末の製造方法

【課題】HDDR法を用いた磁性材料用の粉末の製造に適した反応炉及び磁性材料用粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】反応炉1は、HDDR反応により磁性材料用粉末を製造するものである。反応炉1は、外容器10と、外容器冷却手段である本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Ccと、内容器20と、内容器駆動手段である内容器駆動装置18と、加熱器2と、気体導入口12I及び気体排出口12Eと、気体流れ制御手段である導風体15と、を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDDR(Hydrogenation Decomposition Desorption Recombination)法で磁性材料用粉末を製造する際に用いる反応炉及び磁性材料用粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵用粉体、窒化等粉体等の処理には、真空加熱炉が用いられる。例えば、特許文献1には、真空容器と、この真空容器中に回転軸が水平方向である被処理物を入れるための回転容器と、回転容器を軸回転させる駆動手段と、真空容器内の空気と被処理物を反応させる反応気体とを置換する置換手段と、を具備し、回転容器は真空容器に対し軸部で固定されない構造で真空容器中に設置されるとともに、回転容器の円筒形状曲面部に回転力を伝達する駆動部を、回転容器の回転軸よりも下方部にのみ設ける真空炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−255070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、磁性材料用粉末を製造する方法として、HDDR法(水素化分解・脱水素再結合法)が知られている。HDDR法とは、水素中で原料(出発合金)を加熱することにより、原料を水素化・分解(HD:Hydrogenation Decomposition)し、その後、脱水素・再結合(DR:Desorption Recombination)させることにより、結晶を微細化させるプロセスである。HDDR反応は、水素を反応炉内に閉じ込めながら高温を保つことが要求される。また、HDDR反応は、水素化・分解において原料が水素を吸蔵し、また、脱水素・再結合において原料から水素が放出されるが、HDDR反応における水素の吸蔵、脱離速度は速く、また、その量も多い。さらに、HDDR反応においては、熱の出入りも大きく、大量の磁性材料用粉末を製造する場合には、温度制御が難しくなる。
【0005】
特許文献1に開示されている真空加熱炉は、真空容器中に配置される回転容器が密閉されている。このため、HDDR法のように、密閉された炉内の気体濃度、温度や圧力が急激に変化する反応に用いると、回転容器が膨張又は収縮により変形してしまうおそれがある。また、特許文献1に開示されている真空加熱炉は、真空容器の冷却手段がないため、高温により水素が炉外へ漏れるおそれもあり、水素を炉内に閉じ込めながら高温を保つことは困難である。
【0006】
さらに、特許文献1の図2(b)や図3に開示されている真空加熱炉は、真空回転容器を回転可能に支持するベアリングから水素が漏れるおそれが高く、水素を炉内に閉じ込めながら高温を保つことは困難である。このため、特許文献1に開示された真空炉を、HDDR法による磁性材料用粉末の製造に適用することは困難である。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、HDDR法を用いた磁性材料用の粉末の製造に適した反応炉及び磁性材料用粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る反応炉は、外容器と、当該外容器を冷却する外容器冷却手段と、前記外容器の内部に配置されて、原料を保持する筒状の容器であり、当該容器の両端面と交差する軸を中心として回転又は揺動できるように前記外容器の内部に支持されるとともに、前記両端面にそれぞれ開口を有する内容器と、当該内容器を回転又は揺動させる内容器駆動手段と、前記内容器の外側と、内側との少なくとも一方に配置されるヒーターと、前記外容器の内部に気体を導入する気体導入口、及び前記外容器の内部の気体を前記外容器の外部へ排出する気体排出口と、前記気体導入口から供給された気体を、前記内容器の内部へ導く気体流れ制御手段と、を含むことを特徴とする。
【0008】
この反応炉は、原料を保持する内容器の両端面に開口を設けているので、HDDR反応において原料が急激に多量の水素を吸蔵したり、原料から急激に多量の水素が放出されたりした場合でも、前記開口から水素が出入りする。これによって、内容器の変形を回避できる。また、HDDR反応が終了した後に原料を冷却する場合、一方の開口から他方の開口へ冷却用の不活性ガスを流すことによって、効率よく原料を冷却できる。
【0009】
また、HDDR反応は、発熱や吸熱をともなうが、原料全体を均一に反応させるためには、発熱や吸熱によって原料の固まりの内部温度と原料の固まりの外側温度とに差が生ずることを回避する必要がある。このため、HDDR反応における発熱時及び吸熱時には、原料全体の温度を均一に制御する必要がある。これは、原料全体の温度の不均一は、特に大量の原料から磁性材料用粉末を製造する場合に顕著になる。本発明に係る反応炉は、HDDR反応中に内容器を回転又は揺動させることにより原料を攪拌させ、原料全体の温度分布を均一にしたり、水素を均一に吸蔵又は放出させたりすることができる。その結果、原料全体を均一に反応させ、製造された磁性材料用粉末の品質を向上させることができる。このように、本発明に係る反応炉は、大量の原料から磁性材料用粉末を製造する場合でも、原料の攪拌により原料全体を均一の温度に制御することが比較的容易になる。その結果、本発明の反応炉を用いれば、高品質の磁性材料用粉末を安定して大量に製造できる。
【0010】
また、粉末の原料をHDDR反応させる場合、原料の固まりの表面のみ反応が進行し、固まりの内部は反応が進行しないことがある。これは、特に大量の原料から磁性材料用粉末を製造する場合に顕著になる。本発明に係る反応炉は、内容器の回転又は揺動によって原料を攪拌することにより、原料全体を均一に反応させて、原料の固まりの表面のみ反応が進行することを回避できる。
【0011】
さらに、外容器を冷却することにより、金属製の外容器からの水素の漏洩を低減できるので、水素を反応炉内に閉じ込めながら反応炉内を高温を保ってHDDR反応を進行させることができる。このように、本発明に係る反応炉は、HDDR法を用いて磁性材料用の粉末を製造すること、特に大量の高品質の磁性材料用粉末を安定して製造することに適したものである。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、前記内容器の内部には、温度センサが配置されることが好ましい。内容器の内部には原料が保持されており、温度センサを内容器の内部に配置することによって温度センサを原料の近傍に配置できる。これによって、反応雰囲気温度をより正確に計測できるので、この温度センサによって計測した温度を用いることにより、HDDR反応を高精度で制御できる。
【0013】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、前記内容器の内部には、前記内容器内の前記原料を攪拌する攪拌手段が配置されることが好ましい。内容器を回転又は揺動させることによっても原料は攪拌されるが、内容器の内部に攪拌手段を配置することにより、さらに原料が攪拌される。これによって、さらに原料全体を均一に反応させることができる。
【0014】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、前記攪拌手段は、前記内容器の内壁から突出する部材であることが好ましい。このように、内容器の内壁から部材を突出させることにより、内容器の回転又は揺動との相乗効果で、高い攪拌効果が得られる。また、内容器の内壁から部材を突出させることにより、原料と内容器との伝熱面積を増加させることもできる。
【0015】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、少なくとも一つの前記開口から前記内容器の内部へ挿入される部材を有することが好ましい。このような部材に各種の機能を有する器具や装置を開口から内容器の内部へ挿入することにより、HDDR反応におけるより高度な制御が可能になる。
【0016】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、前記部材は、前記内容器の内部に温度センサを支持することが好ましい。これによって、内容器の内部へ、温度センサを容易に配置できる。また、部材で支持した温度センサを内容器内の原料へ接触させることにより、原料の温度をより正確に計測することができる。
【0017】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、前記部材は、前記内容器内の前記原料を攪拌する攪拌手段であることが好ましい。このように、開口から部材を挿入して原料を攪拌するので、部材を動かすこともできる。これによって、内容器内の任意の位置で原料を攪拌できるので、攪拌が不足している部分へ部材を移動させて原料全体を均一に攪拌できる。
【0018】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、部材は、前記原料に接するように動く可動部を有することが好ましい。例えば、部材を攪拌手段として使用する場合、部材を原料に接しない状態で開口から内容器の内部へ挿入し、その後、部材の可動部を動かして原料に接触させて原料を攪拌する。これによって、開口の大きさを無闇に大きくしなくとも、部材を内容器の内部へ挿入して原料を攪拌できる。そして、可動部を原料に接しない状態とすることで、部材による攪拌が不要になった場合にも対応できる。また、部材に温度センサを取り付けることにより、原料へ温度センサを接触させて、原料の温度をより正確に計測することができる。
【0019】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、前記内容器の内部には、前記原料に添加物を供給する添加物供給手段が配置されることが好ましい。このように、添加物供給手段を備えることにより、HDDR反応中においても反応を中断することなく原料へ添加物を供給できるので、作業効率が向上する。
【0020】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、前記内容器は、前記開口部同士の間に、両端が開口した筒状の軸部材を有するとともに、当該軸部材は、側面に孔を有することが好ましい。この軸部材によって、原料の飛散(特に原料の冷却時)を抑制できる。
【0021】
本発明の望ましい態様としては、前記反応炉において、前記内容器の回転軸は、少なくとも一つの前記開口を貫通することが好ましい。これによって、内容器の回転軸が貫通する開口から温度センサや攪拌手段等を挿入することにより、内容器と温度センサや攪拌手段等との干渉を回避できる。
【0022】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る磁性材料用粉末の製造方法は、水素化分解・脱水素再結合法によって磁性材料用粉末を製造するにあたり、前記磁性材料用粉末の原料を反応炉内の容器へ投入する工程と、前記反応炉内へ水素を供給するとともに前記反応炉内を加熱しつつ、前記容器を回転又は揺動させることにより、前記原料を攪拌する工程と、前記反応炉内の水素を前記反応炉の外へ排出させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0023】
この磁性材料用粉末の製造方法は、HDDR反応中に原料を攪拌するので、原料の温度分布を均一にしたり、水素を均一に吸蔵又は放出させたりすることができ、その結果、原料全体を均一に反応させることができる。このため、大量の原料から磁性材料用粉末を製造する場合でも、原料の攪拌により原料の温度制御が比較的容易になる。このように、本発明に係る反応炉は、HDDR法を用いて磁性材料用の粉末を製造すること、特に大量の高品質の磁性材料用粉末を安定して製造することに適したものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、HDDR法を用いた磁性材料用の粉末の製造に適した反応炉及び磁性材料用粉末の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本実施形態に係る反応炉の構造を示す説明図である。
【図2】図2は、図1のA−A矢視図である。
【図3】図3は、内容器が有する軸部材を示す斜視図である。
【図4】図4は、内容器の他の例を示す斜視図である。
【図5−1】図5−1は、導風体の変形例を示す模式図である。
【図5−2】図5−2は、導風体の変形例を示す模式図である。
【図6】図6は、攪拌手段を備えた内容器の一例を示す図である。
【図7−1】図7−1は、攪拌手段を備えた内容器の一例を示す図である。
【図7−2】図7−2は、攪拌手段を備えた内容器の一例を示す図である。
【図8】図8は、攪拌手段の他の例を示す模式図である。
【図9】図9は、攪拌棒の変形例を示す説明図である。
【図10】図10は、反応炉の蓋を閉じた状態で、内容器の内部へ添加物を供給する手段の構成を示す説明図である。
【図11】図11は、内容器が備える軸部材の他の構成例を示す図である。
【図12】図12は、内容器が備える軸部材の他の構成例を示す斜視図である。
【図13】図13は、図12に示す軸部材の支持構造の模式図である。
【図14】図14は、内容器の内側に加熱器を配置した例を示す説明図である。
【図15】図15は、本実施形態に係る磁性材料用粉末の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態で開示する構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。本発明に係る反応炉は、HDDR反応によって磁性材料用粉末(特に、磁石用の合金粉末)を製造する際に用いるものであり、製造しようとする磁性体材料用粉末の原料を加熱する機能、炉内へ気体を供給する機能、炉内を真空引きする機能を有している。また、本発明に係る磁性材料用粉末の製造方法は、本発明に係る反応炉を用いたHDDR反応により磁性材料用粉末を製造することに適している。なお、本発明に係る反応炉以外に対して本発明に係る磁性材料用粉末の製造方法を適用することを除外するものではない。
【0027】
図1は、本実施形態に係る反応炉の構造を示す説明図である。図2は、図1のA−A矢視図である。反応炉1は、HDDR反応により磁性材料用粉末を製造するものであり、炉内を真空引き及び加熱できる。反応炉1は、外容器10と、外容器冷却手段である本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Ccと、内容器20と、内容器駆動手段である内容器駆動装置18と、加熱器2と、気体導入口12I及び気体排出口12Eと、気体流れ制御手段である導風体15と、を含んで構成される。
【0028】
外容器10は、外殻10oと、外殻10oの内部に配置される外殻10oと同形状かつ外殻10oよりも小さい内殻10iとで構成される二重構造の外容器本体10Bと、蓋10Cとで構成される。外容器本体10Bには、複数の脚19が取り付けられており、これらの脚19によって反応炉1が支持される。外容器本体10Bを構成する外殻10oは、筒状(本実施形態では円筒形状)の外殻側部10osと、その一端部に設けられる外殻底部10obとで構成される底付きの容器である。また、内殻10iは、筒状(本実施形態では円筒形状)の内殻側部10isと、その一端部に設けられる内殻底部10ibとで構成される底付きの容器である。外殻底部10ob及び内殻底部10ibは、本実施形態においては外殻側部10os及び内殻側部10isが円筒形状であるため、いずれも平面視が円形の板材であるが、外殻側部10os及び内殻側部10isの形状に合わせて形状を異ならせる。
【0029】
外容器本体10Bは、外殻10oの内側に内殻10iを配置するとともに、外殻10oの他方の端部(開口部側)と内殻10iの他方の端部(開口部側)とを環状かつ板状の端部封止部材10tで連結して構成される。このように構成することにより、外容器本体10Bは、外殻側部10osと外殻底部10obと内殻側部10isと内殻底部10ibと端部封止部材10tとで囲まれる空間を有する二重構造の容器となる。そして、外容器本体10Bが有する前記空間が、本体側冷却媒体通路10Bcとなる。また、外容器本体10Bは、一端部が底部10Bbによって閉じられ、他端部が開口したコップ状の容器となる。
【0030】
蓋10Cは、筒状(本実施形態では円筒形状)の蓋側部10Csと、蓋側部10Csの両端部にそれぞれ取り付けられる端版10Ctとで構成される。これによって、蓋10Cは、蓋側部10Csとそれぞれの端版10Ctとで囲まれる空間を有する中空構造の構造体となる。そして、前記空間が、蓋側冷却媒体通路10Ccとなる。蓋10Cは、例えば、蝶番によって、外容器本体10Bの開口部に開閉自在に取り付けられる。蓋10Cと外容器本体10Bの端部封止部材10tとの間には、例えば、耐熱性のシール部材が配置されており、蓋10Cを閉じると、外容器本体10Bと蓋10Cとで囲まれる空間が密封されるように構成される。
【0031】
外容器本体10Bを構成する外殻10oには、外殻10oの外側と本体側冷却媒体通路10Bcとを連通する本体側冷却媒体供給口13IB、及び本体側冷却媒体通路10Bcと外殻10oの外側とを連通する本体側冷却媒体排出口13EBとが設けられる。本体側冷却媒体供給口13IBには、冷却媒体供給手段である冷却用ポンプ5の吐出口が接続されており、冷却用ポンプ5から吐出された冷却媒体(本実施形態では水)Wが供給される。本体側冷却媒体供給口13IBへ供給された冷却媒体Wは、本体側冷却媒体通路10Bc全体を流れる過程で外容器本体10Bを冷却して、本体側冷却媒体排出口13EBから排出される。
【0032】
蓋10Cには、蓋10Cの外側と蓋側冷却媒体通路10Ccとを連通する蓋側冷却媒体供給口13IC、蓋側冷却媒体通路10Ccと蓋10Cの外側とを連通する蓋側冷却媒体排出口13ECとが設けられる。蓋側冷却媒体供給口13ICには、冷却用ポンプ5の吐出口が接続されており、冷却用ポンプ5から吐出された冷却媒体Wが供給される。この冷却媒体Wは、蓋側冷却媒体通路10Cc全体を流れる過程で蓋10Cを冷却して、蓋側冷却媒体排出口13ECから排出される。
【0033】
本体側冷却媒体排出口13EB及び蓋側冷却媒体排出口13ECから排出された冷却媒体Wは、冷却媒体冷却器4によって冷却された後、冷却用ポンプ5の吸入口から吸入される。そして、冷却用ポンプ5によって再び本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Ccへ供給される。このように、本実施形態において、冷却媒体Wは、冷却用ポンプ5によって、本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Ccと冷却媒体冷却器4との間を循環する。
【0034】
本実施形態において、外容器本体10B及び蓋10Cは、金属、例えば、ステンレス鋼で構成される。HDDR反応中において、反応炉1の外容器10の内部空間10I、すなわち、外容器本体10Bと蓋10Cとで囲まれる空間に水素が供給されるとともに、外容器本体10Bの内部に配置される加熱器2によって内部空間10Iの雰囲気温度が600℃〜1000℃程度まで昇温する。このため、HDDR反応中において、外容器10は高温になる。上述したように、外容器10はステンレス鋼等の金属で構成されるので、外容器10が昇温すると、内部空間10Iに存在する水素が外容器10を透過して外部に漏れてしまう。
【0035】
このため、本実施形態では、外容器10の外容器本体10B及び蓋10Cにそれぞれ本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Ccを設け、HDDR反応中に冷却媒体Wを本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Ccへ流すことにより、外容器本体10B及び蓋10Cを冷却する。これによって、HDDR反応中における外容器10の昇温を抑制して、内部空間10Iから外容器10を透過して外部へ漏れる水素の量を低減する。また、本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Ccを設けることにより、直接冷却媒体Wを外容器本体10B等へ噴射する場合と比較して、冷却に供されない冷却媒体Wの量を低減できるので、冷却媒体Wを有効に利用できる。
【0036】
なお、水素透過率の低い材料(例えば、ガラス)で本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Cc側における外容器本体10B及び蓋10Cの表面を被覆してもよい。このようにすれば、水素透過率の低い材料が水素の透過を抑えるので、内部空間10Iから外容器10を透過して外部へ漏れる水素の量をさらに低減できる。なお、水素透過率の低い材料とステンレス鋼とで線膨張係数が異なる場合、HDDR反応中に外容器10が昇温すると、線膨張係数の相違に起因して水素透過率の低い材料が割れたり外容器10から剥離したりするおそれがある。しかし、本実施形態では、冷却媒体Wによって外容器10を冷却するので、ステンレス鋼で構成される外容器10の昇温を抑制できる。その結果、水素透過率の低い材料とステンレス鋼とで線膨張係数が異なる場合でも、外容器10の膨張を抑制できるので、水素透過率の低い材料の割れや剥離を抑制できる。
【0037】
また、本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Cc側における外容器本体10B及び蓋10Cの表面に、伝熱性能を向上させる部材、例えば、フィンを設けてもよい。これによって、本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Cc内の伝熱面積を増加させることができるので、より効率的に外容器本体10Bや蓋10Cを冷却することができる。なお、外容器冷却手段は、本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Ccに限定されるものではない。例えば、本体側冷却媒体通路10Bc及び蓋側冷却媒体通路10Ccを設けず、直接外容器に冷却媒体を噴射してもよい。このようにすれば、外容器の構造を簡略化できる。また、冷却媒体Wは水以外でもよい。
【0038】
内容器20は、外容器10の内部、すなわち、内部空間10Iに配置される。内容器20は、筒状(本実施形態では円筒形状)の内容器側部21と、その一端部に設けられる内容器蓋部材22Tと、他端部に設けられる内容器底部材22Bとで構成されており、HDDR反応中に、内部に磁性材料粉末の原料(磁性粉原料)Sを保持する筒状の容器である。内容器側部21と、内容器底部材22Bと、内容器蓋部材22Tとは金属材料(本実施形態ではステンレス鋼)で構成される。
【0039】
内容器蓋部材22T及び内容器底部材22Bは、開口としてそれぞれ第1開口23T及び第2開口23Bを有する。第1開口23T及び第2開口23Bを設けることにより、HDDR反応においては、HD(水素化・分解)反応で水素が第1開口23Tあるいは第2開口23Bを通って内容器20内に保持された原料Sへ確実に供給される。また、DR(脱水素・再結合)反応で原料Sから放出される水素が第1開口23Tあるいは第2開口23Bから内容器20の外部へ確実に放出される。これによって、HDDR反応を確実に実現できるとともに、内容器20が膨張して変形することもない。
【0040】
さらに、第1開口23T及び第2開口23Bを設けることにより、内容器20の内部へ計測器具や各種の機能を有する器具を挿入し、配置したり、加熱器2を内容器20の内部へ配置したりすることもできる。なお、本実施形態において、第1開口23T及び第2開口23Bの形状は、平面視が円形であるが、第1開口23T及び第2開口23Bの形状は、これに限定されるものではない。また、第1開口23T及び第2開口23Bは、それぞれ複数設けてもよい。
【0041】
本実施形態においては、第1開口23T及び第2開口23Bが円形であり、また内容器側部21が円筒形状なので、内容器底部材22B及び内容器蓋部材22Tの形状は、それぞれ環状である。また、内容器底部材22B及び内容器蓋部材22Tは板状の部材である。そして、内容器底部材22B及び内容器蓋部材22Tは、それぞれ内容器20の両方の端面となる。内容器底部材22Bと内容器蓋部材22Tとは、対向して配置されるとともに、両者の板面が平行になるように配置される。なお、内容器底部材22B及び内容器蓋部材22Tは、内容器側部21の形状に合わせて形状を異ならせる。
【0042】
本実施形態において、内容器蓋部材22Tは、内容器側部21に対して取り外しできるように構成されることが好ましい。これによって、原料Sを内容器20の内部へ投入しやすくなるので、作業性が向上する。なお、内容器蓋部材22Tを内容器側部21に固定した場合でも、第1開口23T又は第2開口23Bから原料Sを投入することができる。内容器20の第2開口23Bから内容器20の内部へは、温度センサ支持体3が差し込まれている。温度センサ支持体3は、内容器20の内部に差し込まれた先端部に温度検出手段である温度センサ8が取り付けられている。温度センサ8は、例えば、熱電対等が用いられる。温度センサ8によって、内容器20の内部に保持されている原料Sの反応雰囲気温度が計測される。このように、温度センサ8は、内容器20の内部に差し込まれて、原料Sの近傍に配置されるので、反応雰囲気温度をより正確に計測できる。これによって、HDDR反応を高精度で制御できる。
【0043】
図3は、内容器が有する軸部材を示す斜視図である。本実施形態において、内容器20は、両端が開口した筒状(本実施形態では円筒形状)の軸部材24を有する。軸部材24は、金属材料(本実施形態ではステンレス鋼)で構成されており、図1に示すように、内容器蓋部材22Tと内容器底部材22Bとを、それぞれ第1開口23Tの部分と第2開口23Bの部分とで接続している。これによって、軸部材24は、内容器20とともに回転又は揺動する。
【0044】
また、軸部材24は、側面に複数の孔25を有する。この孔25から、水素やアルゴンが内容器20の内部へ流入し、内容器20の内部に保持されている原料Sに供給される。軸部材24を設けることで、原料Sの飛散(特に、HDDR反応終了後における原料Sの冷却時)を抑制できる。また、内容器20の内部へ供給される水素やアルゴンは、軸部材24が有する複数の孔25を通過する際に整流されるので、乱れた流れが原料に流れる場合と比較して、原料の飛散を抑制できる。なお、本実施形態において、内容器20は、第1開口23T及び第2開口23Bを備えていればよく、軸部材24を必ずしも設ける必要はない。
【0045】
内容器20は、内容器20の両端面、すなわち、内容器底部材22B及び内容器蓋部材22Tと交差(本実施形態では直交)する軸(内容器回転軸)Zrを中心として回転又は揺動できるように、外容器本体10Bの内部に配置される。次に、この構造を説明する。外容器10を構成する外容器本体10Bの内殻10iには、複数(本実施形態では4本)の内容器支持部材16が設けられる。内容器支持部材16は柱状の部材であって、一端部が内殻10iに取り付けられる。内容器支持部材16は、内容器回転軸Zrと平行な方向において、内容器20のそれぞれの端面よりも外側に2本ずつ配置される。すなわち、内容器回転軸Zrと平行な方向において、内容器20は、それぞれ2本の内容器支持部材16によって挟まれることになる。
【0046】
内容器回転軸Zrと平行な方向において、内容器蓋部材22Tの外側に配置された2本の内容器支持部材16、及び内容器底部材22Bの外側に配置された2本の内容器支持部材16は、それぞれ対向して配置される。そして、内容器20のそれぞれの端面よりも外側において対向して配置される内容器支持部材16同士の間隔は、内容器20の外径よりも小さい。また、内容器回転軸Zrと平行な方向においては、内容器回転軸Zrを挟んでそれぞれ2本の内容器支持部材16が内容器回転軸Zrと平行な直線上に配置される。
【0047】
内容器回転軸Zrと平行な直線上に配置される2本の内容器支持部材16は、それぞれの他端部、すなわち、内殻10iへの取付側端部とは反対側の端部で、内容器回転軸Zrと平行な軸を中心として支持ローラー17が回転できるように両持ちで支持する。支持ローラー17は、側部17Sが内容器側部21と接触している。これによって、内容器20は、2本の支持ローラー17及び内容器支持部材16を介して外容器10の外容器本体10Bに支持されており、内容器支持部材16及び支持ローラー17が内容器支持手段として機能する。
【0048】
内容器20は、内容器駆動手段である内容器駆動装置18によって、内容器回転軸Zrを中心に回転又は揺動させられる。内容器駆動装置18は、支持体18Sと、動力伝達部材である回転体18Rと、動力発生手段である電動機18Mとで構成される。電動機18Mは、制御装置50によって制御される。回転体18Rは、電動機18Mからの動力を歯車やチェーン等の動力伝達機構を介して伝達されて、内容器回転軸Zrと平行な軸を中心として回転する。回転体18Rの外周部は内容器20の内容器側部21の外周部と接しているので、回転体18Rが回転すると、内容器20は回転体18Rが回転する方向とは反対方向に回転する。内容器20は、回転のみならず、制御装置50によって、内容器20の回転角が360度以内で回転方向を切り替えるように電動機18Mを制御することにより、内容器20を揺動させてもよい。
【0049】
図4は、内容器の他の例を示す斜視図である。図4に示す内容器20aは、上述した内容器20と同様に、内容器側部21aと、内容器側部21aの一端部に設けられる内容器蓋部材22Taと、内容器側部21aの他端部に設けられる内容器底部材22Baとで構成される。内容器側部21aは、筒状の構造体の一部を切り取った形状であり、側部開口21Haを有する。内容器20aは、この側部開口21Haから内容器20a内に原料を供給したり、取り出したりすることができる。また、側部開口21Haから内容器20aの内部へ水素やアルゴンが流入し、原料から放出される水素は、側部開口21Haから流出する。なお、原料の飛散を抑制するため、側部開口21Haに複数の孔を有する蓋を取り付け及び取り外し可能に設けてもよい。
【0050】
内容器20aは、側部開口21Haを有するので、回転させることはできない。このため、内容器20aは揺動のみ可能である。内容器20aは、側部開口21Haを有するので、上述した第1開口23T及び第2開口23Bを、それぞれ内容器蓋部材22Ta及び内容器底部材22Baに設けなくてもよい(設けてもよい)。このため、内容器蓋部材22Ta及び内容器底部材22Baの加工が容易になるとともに、第1開口23T及び第2開口23Bを設けない分、内容器20a内において、原料Sを保持する容積を大きくすることができる。これによって、大量の磁性材料用粉末を製造しやすくなる。さらに、側部開口21Haから温度センサ8を先端部に有する温度センサ支持体3を内容器20a内に差し込めばよいので、温度センサ支持体3を必ずしも内容器回転軸Zr上に設ける必要はない。これによって、反応炉1の設計の自由度が向上する。
【0051】
反応炉1は、HDDR反応中に、内容器駆動手段によって原料Sが内部に保持された内容器20を回転又は揺動させることによって、原料Sを攪拌したり粉砕したりすることができる。なお、内容器駆動手段は、このような構造に限定されるものではなく、例えば、回転体18Rの外周部に歯車を設けるとともに、内容器側部21の外周部に前記歯車と噛み合う歯車を設けて、両方の歯車を噛み合わせることにより、回転体18Rの回転力を内容器側部21へ伝達するようにしてもよい。また、内容器駆動手段は、支持ローラー17を動力発生手段によって回転させることにより、内容器20を回転させるものであってもよい。
【0052】
このように、内容器20は外容器10の内部で回転又は揺動する。このため、第2開口23Bから内容器20の内部へ差し込まれた温度センサ支持体3は、前記回転や揺動によって内容器底部材22Bと干渉しないように構成する必要がある。したがって、温度センサ支持体3が差し込まれる第2開口23Bは、少なくとも内容器回転軸Zrを含んで形成されることが好ましい。このようにすれば、内容器20が1回転した場合に第2開口23Bと内容器回転軸Zrとが接触しない部分を形成できる。このため、第2開口23Bと内容器回転軸Zrとが最も接近する部分よりも内容器回転軸Zrの領域(例えば、前記回転軸上)に温度センサ支持体3を配置すれば、内容器20が回転又は揺動しても、温度センサ支持体3と内容器底部材22Bとが干渉しないようにすることができる。本実施形態では、内容器回転軸Zr上に第2開口23Bの中心を配置するとともに、内容器回転軸Zr上に温度センサ支持体3を配置する。これによって、内容器20が回転又は揺動した場合に、温度センサ支持体3と内容器底部材22Bとが干渉しないようにしている。
【0053】
反応炉1は、筒状の内容器20を横置き、すなわち、内容器回転軸Zrが鉛直方向(重力の作用方向)と直交するように配置して、原料Sを内容器20の内部に保持させる。したがって、原料Sは、内容器20の内部であって、第1開口23T及び第2開口23Bよりも下(鉛直方向側)の領域に保持されることになる。このため、第1開口23T及び第2開口23Bが内容器回転軸Zrから離れた位置に配置されていたり、第1開口23T及び第2開口23Bが内容器回転軸Zrを含むが、これよりも偏心して配置されていたりすると、内容器20内において、原料Sを保持する容積は小さくなる。したがって、第1開口23T及び第2開口23Bを円形とするとともに、第1開口23T及び第2開口23Bが内容器回転軸Zrを含み、かつ内容器回転軸Zr上に第1開口23T及び第2開口23Bの中心を配置することが好ましい。このようにすれば、原料Sを保持する容積を内容器20内に確保しやすくなるので、大量の磁性材料用粉末を製造するのに適した構造を構成しやすくなる。
【0054】
反応炉1は、内容器20の外側かつ外容器10の内側、すなわち、内容器20を構成する内容器側部21と外容器10を構成する外容器本体10Bの内殻10iとの間に、加熱器2が配置される。加熱器2を内容器20の外側に配置することにより、加熱器2の配置の自由度が向上するという利点がある。加熱器2は、例えば、電気ヒーターであり、制御装置50によって制御される。HDDR反応においては、加熱器2によって、内容器20を介して内容器20内に保持された原料Sを加熱する。なお、後述するように、加熱器2は、内容器20の内側に配置してもよい。また、加熱器2と外容器10を構成する外容器本体10Bの内殻10iとの間には、断熱材を配置することが好ましい。このようにすることで、加熱器2から放出される熱やHDDR反応時に発生する熱が外容器本体10Bへ伝わることを断熱材によって抑制できるので、外容器本体10Bの昇温をより効果的に抑制できる。
【0055】
反応炉1は、外容器10の内部に気体を導入する気体導入口12I、及び外容器10の内部の気体を外容器10の外部へ排出する気体排出口12Eを有する。気体導入口12I及び気体排出口12Eは、外容器10を構成する外容器本体10Bの外殻10oと内殻10iとを貫通して、外容器本体10Bの外側と内側とを連通する。気体導入口12Iには外容器10の内部空間10Iの圧力を検出する圧力検出手段として、圧力センサ9が設けられる。これによって、例えば、磁性材料用粉末の製造時において、内部空間10Iの圧力を検出し、必要な圧力に制御する。なお、圧力センサ9は、内部空間10Iの圧力が検出できればよいので、その取付箇所は気体導入口12Iに限定されるものではない。
【0056】
気体導入口12Iには、気体供給通路30が接続されている。気体供給通路30には、気体供給手段である気体供給ポンプ6が設けられている。気体供給ポンプ6の吐出口は気体供給通路30を介して気体導入口12Iと接続され、吸入口は気体供給通路30を介して開閉弁32、33と接続される。また、気体供給ポンプ6の吐出口と気体導入口12Iとの間には、開閉弁36が設けられる。開閉弁32の気体供給ポンプ6とは反対側には水素を貯蔵する水素タンク34が接続され、開閉弁33の気体供給ポンプ6とは反対側には不活性ガスであるアルゴンを貯蔵するアルゴンタンク35が接続される。このような構成により、気体供給ポンプ6は、気体供給通路30及び気体導入口12Iを介して内部空間10Iへ気体(本実施形態では水素又はアルゴン)を供給する。なお、水素は、HDDR反応に用いられ、アルゴンは、HDDR反応後における原料Sを冷却する際に用いられる。水素及びアルゴンは、いずれも気体の状態で内部空間10Iへ供給される。
【0057】
気体排出口12Eには、気体排出通路31が接続されている。気体排出通路31には、気体排出手段である排気ポンプ7が設けられている。排気ポンプ7は、制御装置50によって制御される。排気ポンプ7の吸入口と気体排出口12Eとの間には、開閉弁37が接続される。このような構成により、排気ポンプ7は、気体排出口12E及び気体排出通路31を介して内部空間10Iの気体を外容器10の外部へ排出する。なお、本実施形態において、気体供給ポンプ6、排気ポンプ7、開閉弁32、33、36、37は、制御装置50によって制御される。
【0058】
外容器10の内部空間10Iへ水素を供給する場合には、開閉弁32及び開閉弁36を開き、開閉弁33及び開閉弁37を閉じて気体供給ポンプ6を駆動する。また、内部空間10Iへアルゴンを供給する場合には、開閉弁33及び開閉弁36を開き、開閉弁32及び開閉弁37を閉じて気体供給ポンプ6を駆動する。内部空間10Iの気体を排出する場合には、開閉弁37を開き、開閉弁36を閉じて排気ポンプ7を駆動する。
【0059】
反応炉1は、気体導入口12Iから供給された気体を、内容器20の内部へ導く気体流れ制御手段として、導風体15を有する。導風体15は、内容器20の第1開口23Tと対向する位置に開口(以下、導入口)15Hが設けられた、環状の板状部材である。本実施形態において、導風体15は、気体導入口12Iと気体排出口12Eとの間、かつ内容器20の第1開口23Tと気体導入口12Iとの間に設けられており、導入口15Hを介して気体導入口12Iから流入した気体を内容器20の内部へ導入する。なお、本実施形態においては、導風体15と第1開口23Tとの距離が離れているため、導入口15Hに筒状の構造体である導入筒15Sを取り付けているが、導風体15と第1開口23Tとの距離が近い場合、導入口15Hは単なる孔であってもよい。
【0060】
この導風体15によって、気体導入口12Iと気体排出口12Eとを仕切り、気体導入口12Iから流入した水素やアルゴンが内容器20の外部を通って気体排出口12Eから排出される現象を抑制する。これによって、磁性材料用粉末の製造時においては、気体導入口12Iから流入した水素やアルゴンが、内容器20の内部に保持されている原料Sへ効率よく供給される。また、内容器20の第1開口23Tと気体導入口12Iとの間に導風体15を設けることにより、導入口15Hと第1開口23Tとの距離を小さくでき、また、気体導入口12I側における外容器10の内部空間10Iの容積を気体排出口12E側よりも小さくできる。これによって、水素やアルゴンを効率よく内容器20の内部に保持されている原料Sへ供給できる。
【0061】
本実施形態において、導入口15Hの形状は円形であるが、これに限定されるものではない。なお、導入口15Hが第1開口23Tよりも大きいと、第1開口23Tから流入せず内容器20の外部へ流れる水素やアルゴンが増加し、また、導入口15Hが第1開口23Tよりも小さいと、導入口15Hを通過する水素やアルゴンの流量が低減する結果、内容器20の内部への水素やアルゴンの流入効率が低下することが考えられる。このため、導入口15Hの形状及び大きさを内容器20の第1開口23Tと同じとすることにより、内容器20の外部へ流れる水素やアルゴンの量を抑制しつつ、前記流入効率の低下を抑制できる。
【0062】
内容器支持部材16や支持ローラー17と導風体15とが干渉する場合には、これらと導風体15とが干渉しないように、導入口15H以外の開口を導風体15に設けてもよい。本実施形態において、導風体15は、外容器10の蓋10Cに取り付けられており、蓋10Cを開くと蓋10Cとともに移動する。これによって、蓋10Cを開き、内容器20を外容器10の内部空間10Iに配置したり、内容器20を内部空間10Iから取り出したりする際の作業効率の低下を抑制できる。なお、導風体15は、外容器本体10Bの内殻10iの内側に、取り付け及び取り外し自在に設けてもよい。
【0063】
図5−1、図5−2は、導風体の変形例を示す模式図である。導風体15は、気体導入口12Iと気体排出口12Eとの間に配置されていればよく、内容器20の第1開口23Tと気体導入口12Iとの間に配置される構成に限定されるものではない。例えば、図5−1に示すように、内容器20の周囲に導風体15aを設けてもよい。この場合、貫通口15Haを導風体15aに設け、内容器20をこの貫通口15Haに貫通させる。
【0064】
このようにしても、導風体15aによって気体導入口12Iと気体排出口12Eとが仕切られるので、内容器20の外部を通って気体排出口12Eから排出される水素やアルゴンの量を低減できる。その結果、磁性材料用粉末の製造時においては、気体導入口12Iから流入した水素やアルゴンが、内容器20の内部に保持されている原料Sへ効率よく供給される。また、図5−1に示す導風体15aは、外容器本体10Bの内殻10iに固定してよいので、内殻10iに対して取り付け及び取り外しできる構造にする必要はない。これによって、前記取り付け、取り外しできる構造が不要になるので、反応炉1の構成を簡単にすることができる。
【0065】
さらに、図5−2に示す導風体15bのように、筒状の構造体である導入筒15Sを導入口15Hに取り付けるとともに、導入口15Hに取り付けられる端部とは反対側の端部が内容器20の第1開口23T内に配置される。このようにすれば、導入口15Hを通過した水素やアルゴンを、内容器20の内部に保持されている原料Sへ効率よく供給できる。なお、気体流れ制御手段は、導風体15、15a、15bに限定されるものではない。例えば、気体導入口12Iに第1開口23Tへ導くダクトを取り付けたり、気体導入口12Iから流出した水素やアルゴンを、送風手段(例えば、ファン)で第1開口23Tへ導いたりしてもよい。
【0066】
なお、本実施形態において、反応炉1は、磁性材料用粉末の原料Sを攪拌する攪拌手段を有していてもよい。HDDR反応中に、内容器20の回転又は揺動に加えて、攪拌手段によって原料Sを攪拌すると、原料Sがさらに均一になり、磁性材料用粉末の品質がより向上する。次に、攪拌手段について説明する。
【0067】
図6、図7−1、図7−2は、攪拌手段を備えた内容器の一例を示す図である。図6に示す内容器20bは、攪拌手段として、内容器20bの内壁20iwbから突出する部材(内容器突起部)26を有する。この内容器突起部26により、内容器20bが回転又は揺動する過程で、内容器20b内に保持された原料Sを攪拌する。これによって、より原料Sが攪拌され、かつ粉砕されて微細化されるので、原料Sの外側のみならず内部まで均一に反応が進行して、磁性材料用粉末の品質が向上する。また、内容器突起部26により、原料Sの塊を粉砕することもできる。さらに、内容器突起部26により、内容器20bの伝熱面積が大きくなるので、内容器20bから原料S、あるいは原料Sから内容器20bへ効率的に熱を伝えることもできる。
【0068】
図7−1、図7−2に示す内容器20c、20dは、内容器回転軸Zrと直交する断面の内形状を多角形(この例では六角形)として、攪拌手段としている。このようにすると、多角形の角部によって原料が粉砕され、攪拌される効果により、内容器回転軸Zrと直交する断面の内形状が円形である内容器20と比較して、より原料が攪拌され、かつ微細化されるので、より原料の内部まで均一に反応が進行して、磁性材料用粉末の品質が向上する。
【0069】
図7−2に示す内容器20dは、内容器回転軸Zrと直交する断面の外形状も、内形状と相似形状の多角形としたものである。この場合、内容器20dは、図1に示すように、2本の支持ローラー17及び内容器支持部材16を介して外容器10の外容器本体10Bに支持されるため、内容器20dの一部に、外形状が円形の支持部20dhを設けることにより、内容器20dを滑らかに回転又は揺動させることができる。
【0070】
図8は、攪拌手段の他の例を示す模式図である。図8に示す攪拌手段は、内容器20の両端面にそれぞれ設けられる2つの開口のうち少なくとも一つの開口(この例では、第2開口23B)から、内容器20の内部へ挿入される部材(攪拌棒)40である。この攪拌棒40を、第2開口23Bから回転又は揺動している内容器20の内部へ挿入する。このとき、攪拌棒40は、内容器回転軸Zrと交差して内容器20の内部へ挿入される。そして、内容器20に保持されている原料Sに接触させて原料Sを攪拌する。原料Sを攪拌する際には、攪拌棒40を振動させて、攪拌を促進させてもよい。また、攪拌棒40を内容器回転軸Zrと平行な方向に往復させてもよい。このようにすれば、内容器回転軸Zrと平行な方向の全体にわたって原料Sを攪拌できるので、原料Sをより均一に攪拌して、より均一な品質の磁性材料用粉末を製造できる。
【0071】
図9は、攪拌棒の変形例を示す説明図である。この攪拌棒40aは、第1腕41と第2腕42とを、揺動中心軸となるピン43で揺動できるように連結したリンク機構で構成される。そして、原料Sを攪拌する部分(攪拌用具47)が原料Sに接するように動くことができるようになっている。第1腕41には、第1腕41と交差するように、かつ前記揺動中心軸と直交するように入力レバー44が取り付けられ、この入力レバー44に連結棒45が揺動できるように連結される。このような構造により、連結棒45を第2腕42と平行な方向に移動させると、第1腕41が前記揺動中心軸を中心として揺動する。すなわち、第1腕41が可動部となる。第1腕41の先端部、すなわち、前記揺動中心軸とは反対側の端部には、攪拌用具47が取り付けられている。
【0072】
攪拌棒40aを使用する際には、内容器20の両端面にそれぞれ設けられる2つの開口のうち少なくとも一つの開口(例えば、第2開口23B)から、連結棒45と原料Sとの間に第2腕42が存在する状態で、攪拌棒40aを挿入する。そして、原料Sを攪拌する際には、内容器20が回転又は揺動しているときに、連結棒45を第2腕42から第1腕41に向かう方向に押し込む。すると、第1腕41は、ピン43の位置で折れ曲がり、攪拌用具47が原料Sに向かって移動する。攪拌用具47が原料Sと接触したら、連結棒45をその位置で固定して、原料Sを攪拌する。原料Sの攪拌を終了する場合、連結棒45を第1腕41から第2腕42へ向かう方向に引き出す。すると、第1腕41は、ピン43の位置を中心として原料Sから離れるように回転し、その結果、攪拌用具47が原料Sから離れる。これによって、原料Sの攪拌が終了する。
【0073】
この攪拌棒40aは、内容器20の内部に挿入する際に、攪拌棒40aを内容器回転軸Zrと交差させる必要はない。図8に示す例のように、攪拌棒40を内容器回転軸Zrと交差させると、図1に示す外容器本体10Bの内径にある程度の余裕がないと攪拌棒40を内容器20の内部に挿入できない。しかし、図9に示す攪拌棒40aは、攪拌棒40aを内容器回転軸Zrと交差させる必要はないので、図1に示す外容器本体10Bの内径に余裕がない場合であっても、攪拌棒40aを内容器20の内部に挿入して、原料Sを攪拌できる。なお、攪拌棒40aに取り付けられる攪拌用具47を交換可能に構成して、攪拌用具47の代わりに反応中の原料Sを採集するための治具や各種のセンサ類等を取り付けてもよい。このようにすれば、HDDR反応の進行具合を確認したり、反応雰囲気中の温度の他にも様々な物理量を計測したりすることができる。例えば、上述した温度センサ8を攪拌用具47の代わりに攪拌棒40aへ取り付け、温度センサ8を原料Sに接触させることにより、原料Sの温度を直接測定することもできる。これにより、さらに精度よくHDDR反応を制御できる。なお、図8に示す攪拌棒40にも、反応中の原料Sを採集するための治具等を取り付けてもよい。
【0074】
図10は、反応炉の蓋を閉じた状態で、内容器の内部へ添加物を供給する手段の構成を示す説明図である。HDDR反応中に、原料SへDyやTb等の添加物を供給する場合がある。このため、図1に示す反応炉1は、内容器の内部へ添加物を供給する手段(添加物供給手段)60を有していてもよい。添加物供給手段60を用いれば、HDDR反応を中断させることなく原料Sへ添加物を供給できるので、磁性材料用粉末を製造する際の作業効率が向上する。
【0075】
図10に示すように、添加物供給手段60は、内容器20の内部に配置される。より具体的には、添加物供給手段60は、内容器20の両端面にそれぞれ設けられる2つの開口のうち少なくとも一つの開口(この例では、第2開口23B)から、内容器20の内部へ挿入されて、内容器20の内部へ配置される。添加物供給手段60は、例えば、管で構成される添加物通路61と、添加物通路61の添加物投入口62側に設けられて添加物通路61を開閉する第1扉63と、添加物通路61の添加物投入口64側に設けられて添加物通路61を開閉する第2扉65と、第1扉63と第2扉65とで区画される空間66とを含んで構成される。添加物通路61は、図1に示す外容器本体10Bから内部空間10Iへ挿入され、添加物通路61が第2開口23Bから内容器20の内部へ挿入されて添加物投入口64が内容器20の内部に配置されるとともに、第1扉63及び第2扉65が外容器本体10Bの外部に配置される。
【0076】
添加物を原料Sへ供給する場合、第1扉63を開き、第2扉65を閉じた状態で添加物投入口62から添加物を投入する。投入された添加物は、第1扉63を通って空間66内へ送り込まれる。空間66へ添加物が送り込まれたら、第1扉63を閉じて第2扉65を開く。すると、空間66内の添加物は、添加物通路61を通って添加物投入口64から内容器20内の原料Sへ供給される。このようにして、HDDR反応中に、添加物を原料Sへ投入できる。また、添加物供給手段60の添加物通路61が第2開口23Bから内容器20の内部へ挿入されているので、第2開口23Bが内容器回転軸Zrを含んだ所定の領域に形成されており、かつ添加物通路61が第2開口23Bに接しないように挿入されていれば、内容器20が回転又は揺動していても、添加物を原料Sへ供給できる。
【0077】
図11は、内容器が備える軸部材の他の構成例を示す図である。図11に示す軸部材24aは、側面に複数設けられる孔は省略している。図1、図3に示す軸部材24は内容器蓋部材22Tと内容器底部材22Bとを接続しているので、内容器20が回転又は揺動すると、軸部材24も内容器20とともに回転又は揺動する。このため、図1に示す反応炉1が上述した攪拌棒40、40aや添加物供給手段60を備える場合、軸部材24を用いないという構成がある。また、図11に示す軸部材24aのように、第1軸部材24a1と第2軸部材24a2とで軸部材24aを構成し、第1軸部材24a1と第2軸部材24a2とを内容器回転軸Zrと平行な方向に向かって所定の間隔だけ離して配置する。ここで、第1軸部材24a1と第2軸部材24a2とのそれぞれの一端部は、それぞれ内容器蓋部材22Tと内容器底部材22Bとに接続されており、第1軸部材24a1と第2軸部材24a2とのそれぞれの他端部には、それぞれ内容器側部21との間に所定の間隔を保持するスペーサー27が設けられる。
【0078】
このような構成により、第1軸部材24a1と第2軸部材24a2との間に隙間28が形成される。この隙間28は、軸部材24aの周方向に向かって1周分形成される。この隙間28に、攪拌棒40、40aや添加物供給手段60を差し込むことにより、内容器20が回転又は揺動した場合において、攪拌棒40、40aや添加物供給手段60と軸部材24aとの干渉を回避できる。なお、内容器20の動きが揺動のみである場合、隙間28は、軸部材24aの周方向に向かって1周分形成される必要はない。
【0079】
図12は、内容器が備える軸部材の他の構成例を示す斜視図である。図13は、図12に示す軸部材の支持構造の模式図である。図12、図13に示す軸部材24bは、側面に複数設けられる孔は省略している。この軸部材24bは、側面に切り欠き28bを有しており、この切り欠き28bから攪拌棒40、40aや添加物供給手段60が差し込まれ、軸部材24bの内側から外側に向かって攪拌棒40、40aや添加物供給手段60が貫通する。
【0080】
図13に示すように、内容器20eの内容器蓋部材22Teに設けられる第1開口23Teと内容器底部材22Beに設けられる第2開口23Beとには、それぞれ軸部材24bの両端部を支持する軸受29T、29Bが設けられる。この軸受29T、29Bによって、軸部材24bは、内容器20eを構成する内容器蓋部材22Teと内容器底部材22Bとに回転可能に支持されて、内容器20eとは独立して回転できるように構成される。
【0081】
したがって、軸部材24bが静止していても、内容器20eは回転又は揺動することができる。このため、切り欠き28bに攪拌棒40、40aや添加物供給手段60を差し込んだ状態において、軸部材24bは攪拌棒40、40aや添加物供給手段60とともに静止した状態で、内容器20eは回転又は揺動することができる。その結果、切り欠き28bに攪拌棒40、40aや添加物供給手段60を差し込んだ状態で、内容器20eを回転又は揺動させることができる。
【0082】
図14は、内容器の内側に加熱器を配置した例を示す説明図である。上記説明においては、図1に示すように、加熱器2を内容器20の外側に配置したが、図14に示すように、加熱器2は、内容器20の内側に配置されてもよい。この場合、加熱器2は、図1に示す外容器本体10Bの内殻10iに設けた加熱器支持体2Hによって支持される。そして、内容器20の開口(この例では、第2開口23B)から内容器20の内部へ挿入される。加熱器2を内容器20の内側に配置する場合、内容器20の外側と比較してスペースが小さいため、加熱器2を配置するスペースを確保する必要はあるが、より効率的に原料Sを加熱できるという利点がある。次に、磁性材料用粉末の製造方法を説明する。
【0083】
図15は、本実施形態に係る磁性材料用粉末の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態に係る磁性材料用粉末の製造方法は、上述した反応炉1で実現できる。次の説明においては、図1、図2に示す反応炉1を用いて本実施形態に係る磁性材料用粉末の製造方法を実現する例を説明する。次においては、磁性材料用粉末として、希土類合金粉末であるNdFe14Bの粉末を製造する例を説明する。ステップS101において、作業者は、反応炉1の電源を投入し、制御装置50を操作して冷却用ポンプ5を駆動することにより、冷却媒体Wの循環を開始する。
【0084】
次に、ステップS102へ進み、作業者は、外容器10の蓋10Cを開いて、外容器本体10Bの中から内容器20を取り出す。そして、ステップS103へ進み、作業者は、内容器20の内容器蓋部材22Tを開き、内容器20の内部に予め準備した所定量の磁性材料用粉末の原料S(被処理物であり、本実施形態ではNdFe14B合金)を投入してから内容器蓋部材22Tを閉じて、内容器蓋部材22Tを内容器側部21に取り付ける。ここで、原料SであるNdFe14B合金の結晶の寸法は、10μm〜100μmである。
【0085】
その後、ステップS104へ進み、作業者は、内容器20を外容器本体10B内部に設けられている2本の支持ローラー17の間に搭載して、外容器10の蓋10Cを閉じる。そして、ステップS105へ進み、作業者は、制御装置50を操作して、開閉弁36を閉じ、開閉弁37を開いてから排気ポンプ7を駆動することにより、外容器10の内部空間10Iの気体を排気して真空引きする。内部空間10Iの圧力が予め設定した所定の圧力に到達したら、作業者は制御装置50を操作して、開閉弁37を閉じてから排気ポンプ7を停止することにより、排気を終了する。
【0086】
次に、ステップS106へ進み、作業者は、制御装置50を操作して、開閉弁32及び開閉弁36を開き、開閉弁33及び開閉弁37を閉じて気体供給ポンプ6を駆動することにより、水素タンク34から内部空間10Iへ水素を供給する。そして、ステップS107で、内部空間10Iの圧力を所定の圧力P1(例えば、100kPa)に保持する。この場合、制御装置50は、例えば、圧力センサ9が検出した内部空間10Iの実際の圧力Pと、所定の圧力P1の目標値P1pとの偏差が0になるように気体供給ポンプ6の動作をフィードバック制御する。
【0087】
次に、ステップS108へ進み、作業者は、制御装置50を操作して電動機18Mを駆動することにより、内容器20を回転又は揺動させる。そして、ステップS109へ進み、作業者は、制御装置50を操作して、加熱器2による加熱を開始する。ステップS109において、制御装置50は、温度センサ8が検出した温度(すなわち、内部空間10Iの温度)Tが予め定めた所定の温度T1(例えば、100℃)になるまで加熱を継続する。
【0088】
その後、ステップS110へ進み、制御装置50は、所定の時間τ1(例えば、120分)の間、内部空間10Iを所定の温度T1かつ所定の圧力P1に保持する。この場合、制御装置50は、例えば、温度センサ8が検出した内部空間10Iの温度Tと、所定の温度T1の目標値T1pとの偏差が0になるように、加熱器2へ供給する電力をフィードバック制御する。なお、制御装置50は、上述した内部空間10Iの圧力を所定の圧力P1に保持する制御も継続する。ステップS110において、内容器20に保持されている原料Sは、内容器20の内部の水素を吸蔵する。このとき、内容器20が回転又は揺動して原料Sが攪拌されるので、原料S全体が水素をまんべんなく吸蔵して、不均一な水素吸蔵状態は低減される。
【0089】
所定の時間τ1が経過したら、ステップS111へ進む。ステップS111において、作業者は制御装置50を操作して、内部空間10Iの圧力を所定の圧力P2(例えば、40kPa)に保持する。この場合、制御装置50は、例えば、開閉弁37を開いて内部空間10Iの圧力を減圧する。その後、制御装置50は、圧力センサ9が検出した内部空間10Iの実際の圧力Pと、所定の圧力P2の目標値P2pとの偏差が0になるように気体供給ポンプ6の動作をフィードバック制御し、必要に応じて開閉弁37の動作もフィードバック制御する。
【0090】
次に、ステップS112へ進み、作業者は、制御装置50を操作して、温度センサ8が検出した温度Tが予め定めた所定の温度T2(例えば、800℃)になるまで加熱を継続する。その後、ステップS113へ進み、制御装置50は、所定の時間τ2(例えば、360分)の間、内部空間10Iを所定の温度T2かつ所定の圧力P2に保持する。この場合、制御装置50は、例えば、温度センサ8が検出した内部空間10Iの温度Tと、所定の温度T2の目標値T2pとの偏差が0になるように、加熱器2へ供給する電力をフィードバック制御する。なお、制御装置50は、上述した内部空間10Iの圧力を所定の圧力P2に保持する制御も継続する。
【0091】
ステップS113において、内容器20に保持されている原料Sには、水素化・分解して100nmオーダーの微細なマトリックス(NdHx、α−Fe、FeBのマトリックス)が生成される反応、すなわち、HD反応が起こっている。このとき、原料Sは発熱するが、この熱は、内容器20が吸収する。また、内容器20が回転又は揺動して原料Sが攪拌されるので、原料Sの温度分布が低減される。
【0092】
所定の時間τ2が経過したら、ステップS114へ進む。ステップS114において、作業者は、制御装置50を操作して、温度センサ8が検出した温度Tが予め定めた所定の温度T3(例えば、850℃)になるまで加熱する。そして、ステップS115へ進み、作業者は、制御装置50を操作して、内部空間10Iへの水素の供給を停止する。この場合、制御装置50は、開閉弁36及び開閉弁32を閉じ、かつ気体供給ポンプ6の動作を停止する。次に、ステップS116へ進み、作業者は、内部空間10Iの気体を排気させて、内部空間10Iを所定の排気終了圧力Pfまで減圧させる。この場合、制御装置50は、開閉弁37を開いて排気ポンプ7を駆動する。
【0093】
内部空間10Iを減圧するにあたり、制御装置50は、まず、所定の速度V1(例えば、4kPa/min)で、所定の圧力P3(例えば、6kPa)まで減圧する。その後、制御装置50は、所定の速度V2(例えば、0.1kPa/min)で、所定の排気終了圧力Pf(例えば、1kPa)まで減圧する。そして、内部空間10Iの圧力が所定の排気終了圧力Pfになったら、制御装置50を操作して、内部空間10Iの気体の排気を終了する。この場合、制御装置50は、開閉弁37を閉じるとともに排気ポンプ7を停止する。
【0094】
ステップS116において、内容器20に保持されている原料Sには、脱水素・再結合してNdFe14B相が生成される反応、すなわち、DR反応が起こっている。このとき、原料Sは吸熱する。DR反応において生成されるNdFe14Bは、結晶の寸法が100nm〜500nmである。DR反応において原料Sから放出された水素、すなわち、反応炉1の外容器10の内部空間10Iに存在する水素は、外容器本体10Bに設けられた気体排出口12Eから外部へ排出される。DR反応が進行している間、内容器20が回転又は揺動して原料Sが攪拌されるので、原料Sの全体で均一にHD反応を進行させることができる。また、DR反応において原料Sから放出された水素は、図1に示す内容器20の第2開口23Bを通って、内容器20の内部から確実に排出される。
【0095】
ステップS116の減圧が終了したら、ステップS117へ進み、作業者は、制御装置50を操作して、加熱器2への電力供給を終了する。次に、ステップS118へ進み、作業者は、制御装置50を操作して、内部空間10Iへ原料を冷却する冷却用の不活性ガスとしてアルゴンを供給して、HDDR反応後の原料Sを冷却する。アルゴンを供給する場合、制御装置50は、開閉弁33及び開閉弁36を開き、開閉弁32及び開閉弁37を閉じて気体供給ポンプ6を駆動することにより、アルゴンタンク35から内部空間10Iへアルゴンが供給される。次に、ステップS119へ進み、内部空間10Iの温度が所定の温度T4(例えば、30℃)になるまで冷却を継続する。
【0096】
温度センサ8によって検出される温度Tが所定の温度T4になったら、ステップS120へ進み、作業者は、制御装置50を操作して内容器20の回転又は揺動を終了させてから、アルゴンの供給を停止させる。この場合、制御装置50は、電動機18Mの駆動を停止するとともに、開閉弁33及び開閉弁36を閉じるとともに気体供給ポンプ6を停止する。そして、ステップS121へ進み、作業者は、外容器10の蓋10Cを開き、内部空間10Iから内容器20を取り出す。そして、ステップS122へ進み、作業者は、内容器20の内容器蓋部材22Tを開いてHDDR反応が終了した後の原料S、すなわち、完成した磁性材料用粉末を取り出す。なお、完成した磁性材料用粉末は、着磁することにより磁石となる。
【0097】
続いて処理を実行する場合には(ステップS123、Yes)、ステップS103へ戻り、以降のステップを実行する。続いて処理を実行しない場合には(ステップS123、No)、ステップS124へ進む。ステップS124において、作業者は、終了作業を実行する。すなわち、作業者は、内容器20に内容器蓋部材22Tを取り付けてから内部空間10Iに戻して蓋10Cを閉じる。そして、制御装置50を操作して冷却用ポンプ5の駆動を停止した後、反応炉1の電源を切る。
【0098】
以上、本実施形態において、反応炉1は、内容器20に第1開口23T及び第2開口23Bが設けられるので、HDDR反応においては、原料Sへ確実に水素を供給し、また、原料Sから放出された水素を内容器20の外部へ確実に放出できる。これによって、水素の吸蔵、放出速度が大きく、かつ量も多い結果、内容器20内における圧力変化が大きいHDDR反応において、内容器20の変形等を回避して、確実に磁性材料用粉末を製造できる。また、HDDR反応が終了した後に供給する冷却用の不活性ガス(例えば、アルゴン)も、確実に原料Sへ供給されるので、原料Sを確実に冷却できる。また、反応炉1は、外容器10を冷却するので、反応過程で大きな熱の出入りがあるHDDR反応において、外容器10からの水素の漏洩を抑制できる。
【0099】
ここで、原料を直置きしてHDDR反応させる方法では、原料の集まりの表面のみ反応が進行し、原料の集まりの内部は反応が中途で終了してしまうということがあった。しかし、反応炉1は、内容器20を回転又は揺動させ、原料Sを攪拌するので、原料S全体のHDDR反応を確実に進行させることができる。また、反応炉1は、内容器20の回転又は揺動による原料Sの攪拌によって、原料Sの温度分布や水素の吸蔵・放出の均一化を図り、原料Sの全体を均一に反応させることができる。これらの結果、製造された磁性材料用粉末の品質が向上する。
【0100】
また、反応炉1は、原料Sを攪拌することによって原料S全体の温度を迅速に均一にできるので、反応過程で大きな熱の出入りがあるHDDR反応において、原料Sの温度を制御しやすくなるという利点がある。大量の原料SをHDDR反応させる場合、反応過程における熱の出入りはより大きくなり、原料Sの温度制御はより難しくなるが、反応炉1は、このような場合でも、比較的容易に原料Sの温度を制御できる。このように、反応炉1は、HDDR法によって、特に大量の磁性材料用粉末を製造することに適している。
【0101】
また、原料Sが大きい塊であっても、内容器20を回転又は揺動させることによりこれを粉砕し、微細化できるので、塊の表面だけHDDR反応が進行するという事態を回避できる。また、大きい塊の原料Sを内容器20の回転又は揺動によって粉砕できるので、予め原料を細かく砕く必要はない。これによって、磁性材料用粉末を製造する際の作業性が向上する。
【0102】
また、反応炉1が備える内容器20は、両方の端面に設けた開口から温度センサ8を挿入して内容器20内における原料Sの近傍の温度を計測するので、よりHDDR反応場に近い雰囲気温度が計測できる。その結果、HDDR反応における温度制御の精度が向上し、製造される磁性材料用粉末の品質が向上する。さらに、様々な機能を有する器具を内容器20の開口から内容器20の内部へ配置することもできるので、実際の操業においては、反応炉1に大きな改造を加えることなく、臨機応変に対応できる。また、反応炉1は、内容器20の開口から加熱器2を内容器20内に配置することもできるので、将来の設計変更に対しても柔軟に対応できる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上のように、本発明に係る反応炉は、HDDR反応を用いて磁性材料用粉末を製造することに有用である。
【符号の説明】
【0104】
1 反応炉
2 加熱器
3 温度センサ支持体
4 冷却媒体冷却器
5 冷却用ポンプ
6 気体供給ポンプ
7 排気ポンプ
8 温度センサ
9 圧力センサ
10 外容器
10B 外容器本体
10Bc 本体側冷却媒体通路
10C 蓋
10Cc 蓋側冷却媒体通路
10I 内部空間
10i 内殻
10o 外殻
12I 気体導入口
12E 気体排出口
13IB 本体側冷却媒体供給口
13IC 蓋側冷却媒体供給口
13EB 本体側冷却媒体排出口
13EC 蓋側冷却媒体排出口
15、15a、15b 導風体
16 内容器支持部材
17 支持ローラー
18 内容器駆動装置
20、20a、20b、20c、20d、20e 内容器
22T、22Ta、22Te 内容器蓋部材
22B、22Ba、22Be 内容器底部材
23T、23Te 第1開口
23B、23Be 第2開口
24、24a、24b 軸部材
25 孔
26 内容器突起部
40、40a 攪拌棒
47 攪拌用具
50 制御装置
60 添加物供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外容器と、
当該外容器を冷却する外容器冷却手段と、
前記外容器の内部に配置されて、原料を保持する筒状の容器であり、当該容器の両端面と交差する軸を中心として回転又は揺動できるように前記外容器の内部に支持されるとともに、前記両端面にそれぞれ開口を有する内容器と、
当該内容器を回転又は揺動させる内容器駆動手段と、
前記内容器の外側と、内側との少なくとも一方に配置されるヒーターと、
前記外容器の内部に気体を導入する気体導入口、及び前記外容器の内部の気体を前記外容器の外部へ排出する気体排出口と、
前記気体導入口から供給された気体を、前記内容器の内部へ導く気体流れ制御手段と、
を含むことを特徴とする反応炉。
【請求項2】
前記内容器の内部には、温度センサが配置される請求項1に記載の反応炉。
【請求項3】
前記内容器の内部には、前記内容器内の前記原料を攪拌する攪拌手段が配置される請求項1に記載の反応炉。
【請求項4】
前記攪拌手段は、前記内容器の内壁から突出する部材である請求項3に記載の反応炉。
【請求項5】
少なくとも一つの前記開口から前記内容器の内部へ挿入される部材を有する請求項1に記載の反応炉。
【請求項6】
前記部材は、前記内容器の内部に温度センサを支持する請求項5に記載の反応炉。
【請求項7】
前記部材は、前記内容器内の前記原料を攪拌する攪拌手段である請求項5に記載の反応炉。
【請求項8】
前記部材は、前記原料に接するように動く可動部を有する請求項5に記載の反応炉。
【請求項9】
前記内容器の内部には、前記原料に添加物を供給する添加物供給手段が配置される請求項1に記載の反応炉。
【請求項10】
前記内容器は、前記開口部同士の間に、両端が開口した筒状の軸部材を有するとともに、当該軸部材は、側面に孔を有する請求項1から9のいずれか1項に記載の反応炉。
【請求項11】
前記内容器の回転軸は、少なくとも一つの前記開口を貫通する請求項1から10のいずれか1項に記載の反応炉。
【請求項12】
水素化分解・脱水素再結合法によって磁性材料用粉末を製造するにあたり、
前記磁性材料用粉末の原料を反応炉内の容器へ投入する工程と、
前記反応炉内へ水素を供給するとともに前記反応炉内を加熱しつつ、前記容器を回転又は揺動させることにより、前記原料を攪拌する工程と、
前記反応炉内の水素を前記反応炉の外へ排出させる工程と、
を含むことを特徴とする磁性材料用粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−75155(P2011−75155A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224916(P2009−224916)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】