説明

受信回路、及びレーザレーダ装置

【課題】加算処理によって生じるSN比の低下を防ぐことができ、より適切にSN比の改善を図ることができる受信回路、及びレーザレーダ装置を提供する。
【解決手段】比較器4A,4Bは、それぞれ増幅器2A,2Bから出力される信号振幅の変動状況を監視している。比較器4A,4Bは、閾値電圧と、増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧とを比較する。比較器4A,4Bは、それぞれ増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧が閾値電圧よりも高い場合には、HIGHレベルの信号をスイッチ3A,3Bへ出力し、増幅器2A,2Bと加算回路5とを電気的に繋ぐ。他方、比較器4A,4Bは、それぞれ増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧が閾値電圧よりも低い場合には、LOWレベルの信号をスイッチ3A,3Bへ出力し、増幅器2A,2Bと加算回路5とを電気的に分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、電磁波を照射するレーダ装置やレーザ光を照射するレーザレーダ装置等に用いられる受信回路、及びレーザレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばパルスレーダ等のレーダシステムでは、ターゲット(目標)の反射波を受信回路で信号処理することによって、演算部がターゲットまでの距離や反射波の強度の情報を取得する。ここで、ターゲットからの反射波の強度が弱い場合等、ノイズの影響を低減させるために、2つのアナログ信号を加算回路で加算し、その加算回路から出力された信号を演算部が信号処理する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−64627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来技術における問題点を、図面を参照して説明する。図11は、特許文献1に示すような加算方式を使用した従来の受信回路を示す構成図である。図11において、従来の受信回路は、受信部(信号入力部)101A,101Bと、増幅器102A,102Bと、加算回路105とを有している。受信部101A,101Bは、互いに同一のものである。増幅器102A,102Bも、互いに同一のものである。即ち、増幅器102A,102Bの利得は同一であり、また、増幅器102A,102Bは、同一の雑音特性を持つ。加算回路105は、増幅器102A,102Bのそれぞれから出力された信号の振幅を加算する。
【0005】
受信部101A,101Bのそれぞれが同強度の信号を受信する場合には、信号振幅をS1とし、増幅器102A,102Bによる雑音振幅をN1とすると、加算回路105によって、信号振幅S1は2倍とされ、雑音振幅N1は√2倍とされるため、SN比が向上する。
【0006】
他方、受信部101Aが振幅S1の信号を受信し、受信部101Bが信号を受信しない場合を考えると、図12に示すように、加算回路105から出力された信号振幅はS1となり、その信号に含まれる雑音振幅は√2・N1となる。このため、加算する前の信号振幅S1及び雑音振幅N1のSN比に対して、加算回路105から出力された信号及び雑音のSN比が低下(劣化)してしまう。
【0007】
このように従来の受信回路では、複数の受信部が同等の強度の信号を受信する場合には、SN比を向上させることができる。しかしながら、複数の受信部のうちの一部の受信部のみが信号を受信する場合や、複数の受信部のそれぞれが受信した信号の強度に偏りが生じている場合等には、受信部が単数の受信回路よりもSN比が低下してしまうことがあった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、加算処理によって生じるSN比の低下を防ぐことができ、より適切にSN比の改善を図ることができる受信回路、及びレーザレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の受信回路は、外部から信号がそれぞれ入力される複数の信号入力部と、前記複数の信号入力部のそれぞれに接続され、前記複数の信号入力部からの信号をそれぞれ増幅する複数の増幅器と、前記複数の増幅器のそれぞれの出力端に接続された複数のスイッチと、前記複数のスイッチを介して前記複数の増幅器に接続され、前記複数のスイッチから受けた信号に対して加算処理を行う加算処理部と、前記複数のスイッチのON・OFFを制御し、前記複数の増幅器のそれぞれから出力された信号の振幅の変動状況を監視して、前記複数の増幅器のそれぞれから出力された信号の振幅と所定の閾値とを比較し、前記増幅器から出力された信号の振幅が前記閾値以上である場合に、当該増幅器と前記加算処理部とを電気的に繋ぎ、前記増幅器から出力された信号の振幅が前記閾値未満である場合に、当該増幅器と前記加算処理部とを電気的に分離するスイッチ制御部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明の受信回路によれば、スイッチ制御部が、複数の増幅器のそれぞれの信号の振幅と所定の閾値とを比較し、増幅器から出力された信号の振幅が閾値以上である場合に当該増幅器と加算処理部とを電気的に繋ぎ、増幅器から出力された信号の振幅が閾値以上である場合に当該増幅器と加算処理部とを電気的に分離するので、増幅器から出力された信号の振幅が閾値未満であれば、その信号に含まれる雑音は加算処理部による加算処理を受けないことから、加算処理によって生じるSN比の低下を防ぐことができ、より適切にSN比の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1による受信回路を示す構成図である。
【図2】図1の受信回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1による受信回路の他の例を示す構成図である。
【図4】図3の指数変換回路の入力波形及び出力波形を示すグラフである。
【図5】指数変換回路無しの場合と有りの場合とのそれぞれの場合で設定可能な閾値最小値を説明するためのグラフである。
【図6】図3の増幅器の出力端でのSN比の関係を説明するためのグラフである。
【図7】この発明の実施の形態2による受信回路を示す構成図である。
【図8】図7の論理演算部の真理値表である。
【図9】図7の受信回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図10】この発明の実施の形態3によるレーザレーダ装置を示す構成図である。
【図11】特許文献1に示すような加算方式を使用した従来の受信回路を示す構成図である。
【図12】図11の受信回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による受信回路を示す構成図である。ここで、実施の形態1の受信回路は、第1及び第2の信号受信系の2つの信号受信系(信号入力系)を持ち、実施の形態1では、第1の信号受信系に用いられる構成要素については符号の末尾に「A」を付し、第2の信号受信系に用いられる構成要素については符号の末尾に「B」を付して説明する。これは、実施の形態2でも同様である。
【0013】
図1において、実施の形態1の受信回路は、例えば受信アンテナ等である受信部(信号入力部)1A,1Bと、増幅器2A,2Bと、スイッチ3A,3Bと、比較器(スイッチ制御部)4A,4Bと、加算回路(加算処理部)5と、出力端子(信号出力部)6とを有している。
【0014】
受信部1A,1Bは、外部からの信号(例えばパルスレーザのパルス信号等)を受信する。増幅器2A,2Bの入力端は、それぞれ受信部1A,1Bの出力端に接続されている。スイッチ3A,3Bの一端は、それぞれ増幅器2A,2Bの出力端に接続されている。比較器4A,4Bは、それぞれ増幅器2A,2Bの出力端に、スイッチ3A,3Bと並列になるように接続されている。また、比較器4A,4Bは、それぞれ増幅器2A,2Bから出力される信号振幅の変動状況を監視(モニタ)している。
【0015】
また、スイッチ3A,3Bの他端は、加算回路5の入力端に接続されている。加算回路5の出力端は、出力端子6に接続されている。加算回路5には、それぞれスイッチ3A,3Bを介して、増幅器2A,2Bから出力された信号が入力される。加算回路5は、増幅器2A,2Bから出力された信号の振幅(信号レベル)を加算して、その加算後の信号を出力端子6へ出力する。
【0016】
ここで、増幅器2A,2Bと加算回路5との間の電路は、それぞれスイッチ3A,3Bによって開閉される。スイッチ3A,3BがON状態のときに、増幅器2A,2Bと加算回路5との間の電路が閉じられ、増幅器2A,2Bと加算回路5とが電気的に繋がる。他方、スイッチ3A,3BがOFF状態のときに、増幅器2A,2Bと加算回路5との間の電路が開かれ、増幅器2A,2Bと加算回路5とが電気的に分離される。スイッチ3A,3BのON・OFFの切換は、それぞれ比較器4A,4Bによって制御される。
【0017】
比較器4A,4Bのそれぞれには、予め設定された任意の閾値電圧(所定の閾値)が入力されている(あるいは比較器4A,4Bは、閾値電圧を記憶する記憶部を有している)。また、比較器4A,4Bは、閾値電圧と、増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧(振幅)とを比較する。
【0018】
さらに、比較器4A,4Bは、それぞれ増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧が閾値電圧よりも高い場合には、HIGHレベルの信号をスイッチ3A,3Bへ出力する。他方、比較器4A,4Bは、それぞれ増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧が閾値電圧よりも低い場合には、LOWレベルの信号をスイッチ3A,3Bへ出力する。
【0019】
スイッチ3A,3Bは、それぞれ比較器4A,4BからHIGHレベルの信号を受けると、ON状態となり、増幅器2A,2Bと加算回路5とが電気的に繋がる。他方、スイッチ3A,3Bは、それぞれ比較器4A,4BからLOWレベルの信号を受けると、OFF状態となり、増幅器2A,2Bと加算回路5とが電気的に分離される。
【0020】
次に、実施の形態1の受信回路の動作について説明する。まず、基本動作として、受信部1A,1Bのそれぞれが同強度の信号を受信する場合には、信号振幅をS1とし、増幅器2A,2Bによる雑音振幅をN1とすると、加算回路5によって、信号振幅S1は2倍とされ、雑音振幅N1は√2倍とされる。
【0021】
次に、受信部1Aのみが信号を受信する場合を想定して動作を説明する。増幅器2Aの出力端の信号振幅をS1とする。また、増幅器2A,2Bの出力端の雑音の振幅を、N1とする。さらに、スイッチ3A,3BのアイソレーションをI1とする。
【0022】
図2は、図1の受信回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。図2では、上から順に、増幅器2Aの出力と、増幅器2Bの出力と、比較器4Aの出力と、比較器4Bの出力と、加算回路5の出力とを示す。図2において、t〜tの時間帯、及びt〜tの時間帯では、増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧が閾値電圧よりも低いため、比較器4A,4Bから出力された信号はともにLOWレベルであり、スイッチ3A,3BはOFF状態である。よって、加算回路5から出力された信号は、√2N1/I1の振幅の雑音のみとなる。
【0023】
次に、受信部1Aのみが信号を受信し、増幅器2Aから振幅S1の信号が出力された時間帯であるt〜tについて説明する。t〜tの時間帯では、増幅器2Aから出力された信号の電圧が比較器4Aの閾値電圧よりも高くなった時刻tから、比較器4Aは、HIGHレベルの信号を出力する。これにより、スイッチ3AがON状態となる。そして、増幅器2Aから出力された信号の電圧が比較器4aの閾値電圧よりも低くなる時刻tまで、スイッチ3Aは、ON状態を維持する。
【0024】
また、t〜tの時間帯において、スイッチ3aはON状態であるため、加算回路5からは、振幅S1の信号と、振幅N1+(N1/I1)の2乗根の雑音との双方が出力される。ここで、スイッチ3A,3BのアイソレーションI1が十分大きいとすると、加算回路5の出力端での雑音振幅はN1となる。この結果、加算回路5の出力端の信号及び雑音のSN比は、増幅器2Aの出力端の信号及び雑音のSN比と等しくなる。
【0025】
上記のような実施の形態1の受信回路によれば、比較器4A,4Bが、増幅器2A,2Bのそれぞれの信号の電圧と閾値電圧とを比較する。また、比較器4A,4Bが、増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧が閾値電圧以上である場合に増幅器2A,2Bに接続されたスイッチ3A,3BをON状態とし、増幅器2A,2Bと加算回路5とを電気的に繋ぐ。さらに、比較器4A,4Bが、増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧が閾値電圧未満である場合に増幅器2A,2Bに接続されたスイッチ3A,3BをOFF状態とし、増幅器2A,2Bと加算回路5とを電気的に分離する。この構成により、増幅器2A,2Bから出力された信号の電圧が閾値電圧未満であれば、その信号に含まれる雑音は加算回路5による加算処理を受けないことから、受信部1A,1Bのうちの一方のみが信号を受信した場合に、加算処理によって生じるSN比の低下を防ぐことができる。
【0026】
従って、閾値電圧以上の信号は、加算処理によってSN比を向上させることが可能となり、閾値電圧未満の信号は、加算処理を行わないため、SN比の低下(劣化)を防ぐことが可能となる。この結果、従来にない効果的な加算処理の実現が可能となり、より適切にSN比の改善を図ることができる。
【0027】
なお、実施の形態1では、受信部1A,1Bの2つの受信部を用いた例について説明した。しかしながら、この例に限定するものではなく、3つ以上の受信部(信号入力部)を用いてもよい。つまり、信号受信系(信号入力系)のアレイ数が3以上であってもよい。この場合、複数の受信部のうち、どの受信部が信号を受信するか不明な場合や、いくつの受信部が信号を受信するか不明な場合における加算処理において、特に有効であり、加算処理対象とする信号と、加算処理対象外の信号とを自動的に選別できるという効果も得られる。
【0028】
次に、実施の形態1の受信回路の他の例について説明する。図1に示す受信回路では、増幅器2A,2Bから出力される信号の変動状況を直接比較器4A,4Bが監視することによって、スイッチ制御を行った。しかしながら、図3に示すように、比較器4A,4Bの前段に指数変換回路11A,11Bを設けることによって、閾値の設定が容易となる。
【0029】
図3において、例えば、増幅器2A,2Bの出力端で、信号振幅2V、雑音信号振幅0.5Vが出力されたとする。ここで、指数変換回路11A,11Bは理想なものとして、指数変換回路11A,11Bの乗数を3とすると、指数変換回路11A,11Bの入力波形及び出力波形は、図4に示すようになる。また、指数変換回路11A,11B無しの場合と有りの場合とのそれぞれの場合で設定可能な閾値最小値を図5に示す。
【0030】
このように、増幅器2A,2Bの雑音性能を考慮し、そのレベルに合う指数変換回路11A,11Bを設けることによって、指数変換回路無しの場合と比較して閾値を低くすることができるため、閾値の選択範囲を広げることが可能となる。また、同じ閾値に設定する場合でも、直後の比較器4A,4Bの動作を安定させることができるため、閾値の設定が容易となる。その他の動作は、図2を用いて説明した動作と同様のため、説明を省略する。
【0031】
また、2つの信号を加算する場合にSN比を向上させる条件は、増幅器2A,2Bの出力端での信号振幅をS,Sとし、増幅器2A,2Bの出力端での雑音振幅をN,Nとしたときに、1+S/S>[√(N+N)]/Nが成立する場合である。図6に示すように、増幅器2A,2Bの一方の出力端(図6の入力1)でのSN比を1としたときに、増幅器2A,2Bの他方の出力端(図6の入力2)のSN比は√2−1以上である。指数変換回路11A,11Bによって、SN比√2−1以下の信号は利得を少なくし√2−1以上の信号は大きくすることで、増幅器2A,2Bから出力される雑音の影響を低減することが可能となる。
【0032】
実施の形態2.
実施の形態1では、1つの増幅器2A又は2Bに対して、1つの比較器4A又は4Bを用いた構成について説明した。これに対して、実施の形態2では、1つの増幅器2A又は2Bに対して、互いに異なる値の閾値電圧が予め設定された3つの比較器31A〜33A又は31B〜33Bが用いられる。また、実施の形態1では、比較器4A又は4Bが、スイッチ3A又は3BのON・OFFを切り換えた。これに対して、実施の形態2では、論理演算部34A又は34Bが、比較器31A〜33A,31B〜33Bから出力される信号レベルに応じて、スイッチ3A又は3BのON・OFFを切り換える。
【0033】
図7は、この発明の実施の形態2による受信回路を示す構成図である。実施の形態2の受信回路の構成の概要は、実施の形態1の受信回路の構成と同様である。また、実施の形態2の受信回路は、実施の形態1における比較器4A,4Bに代えて、比較器31A〜33A,31B〜33Bを有している。また、実施の形態2の受信回路は、論理演算部(論理演算回路)34A,34Bをさらに有している。ここで、比較器31A〜33A,31B〜33B及び論理演算部34A,34Bは、スイッチ制御部をなしている。
【0034】
比較器31A〜33Aは、増幅器2Aの出力端にそれぞれ並列に接続されている。また、比較器31A〜33Aは、増幅器2Aから出力される信号振幅を監視している。さらに、比較器31A〜33Aには、それぞれ異なる値の閾値電圧が予め設定されている。比較器31B〜33Bは、増幅器2Bの出力端にそれぞれ並列に接続されている。また、比較器31B〜33Bは、増幅器2Bから出力される信号振幅を監視している。さらに、比較器31B〜33Bには、それぞれ異なる値の閾値電圧が予め設定されている。
【0035】
論理演算部34Aは、比較器31A〜33A,31B〜33Bのそれぞれの出力端が接続されたポートa〜fを有し、比較器31A〜33A,31B〜33Bの全てから出力される信号を受ける。また、論理演算部34Aは、比較器31A〜33A,31B〜33Bの信号レベルに応じて、スイッチ3AのON・OFFの切換を制御する。論理演算部34Bの構成は、論理演算部34Aの構成と同様であり、比較器31A〜33A,31B〜33Bの信号レベルに応じて、スイッチ3BのON・OFFの切換を制御する。つまり、実施の形態3の受信回路は、複数の値の閾値処理を行う複数の閾値処理回路を実現している。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0036】
次に、実施の形態2の受信回路の動作について説明する。ここでは、一例として、比較器31A,31Bの閾値電圧を0.2Vとし、比較器32A,32Bの閾値電圧を0.4Vとし、比較器33A,33Bの閾値電圧を1.0Vとして説明する。また、論理演算部34Aは、図8(a)に示す真理値表に従って動作するものとし、論理演算部34Bは、図8(b)に示す真理値表に従って動作するものとする。なお、図8の真理値表は、現実的にあり得る事象のもののみを示している。
【0037】
図9は、図7の受信回路の動作を示すタイミングチャートである。図9において、受信部1A,1Bがともに信号を受信していない時間帯である時間帯t〜t及び時間帯t〜tでは、増幅器2A,2Bから出力される電圧は、雑音振幅0.1Vのみである。このことから、増幅器2A,2Bから出力される電圧が、比較器31A,31Bの閾値電圧0.2V以下であるため、全ての比較器31A〜33A,31B〜33BからLOWレベルの信号が出力される。
【0038】
これにより、論理演算部34A,34Bから出力される信号は、ともにLOWレベルである。このように、論理演算部34A,34Bの信号がともにLOWレベルであるため、スイッチ3A,3Bは、ともにOFF状態である。この結果、加算回路5からは、雑音振幅√2×0.1/I1のみが出力される。
【0039】
次に、時間帯t〜tでは、増幅器2Aから最大振幅0.9Vの信号が出力され、これとともに、増幅器2Bから最大振幅0.3Vの信号が出力される場合を考える。受信部1A側では、増幅器2Aの信号振幅が上昇し、0.2Vを超える時刻tにおいて、比較器31Aの信号レベルがHIGHレベルとなる。これと同時に、図8(a)に示す論理演算回路34Aの真理値表(上から6行目:aのみが「1」の行)に従い、論理演算回路34Aの信号レベルがHIGHレベルとなり、スイッチ3AがON状態となる。この結果、増幅器2Aと加算回路5とが電気的に繋がる。
【0040】
これと同様に、増幅器2Aの出力電圧が0.4V,0.75Vを超える時刻t,tでは、それぞれ比較器32A,33Aの信号レベルがHIGHレベルとなる。これによって、論理演算部34Aの信号レベルは、時間帯t〜tにおいて、HIGHレベルであり、スイッチ3AはON状態を維持する。
【0041】
他方、受信部1B側では、時刻tにおいて増幅器2Bの出力電圧が0.2Vを超える。これによって、比較器31Bの信号レベルがHIGHレベルとなる。また、増幅器2Bの出力電圧は、全時間帯t〜tにおいて、比較器32B,33Bの閾値電圧を超えないため、比較器32B,33Bの信号レベルは、ともにLOWレベルである。また、論理演算回路34Bの信号レベルは、図8(b)に示す論理演算回路34Bの真理値表(上から11,15行目)に従い、LOWレベルであり、スイッチ3BはOFF状態を維持する。つまり、増幅器2Bと加算回路5とが電気的に分離された状態が維持される。
【0042】
このように、時間帯t〜tにおいて、スイッチ3AのみがON状態であるため、加算回路5の出力端の信号振幅は、最大0.9Vであり、加算回路5の出力端の雑音振幅は、√[0.1+(0.1/I1)]である。ここで、スイッチ3A,3BのアイソレーションI1が十分大きいとすると、加算回路5の出力端の雑音振幅は、0.1Vであり、加算回路5の出力端のSN比は、受信部1Aの出力端のSN比と同じ0.9/0.1=9dBである。
【0043】
また、仮に増幅器2A,2Bの双方の信号を加算した場合には、信号振幅は0.9+0.3=1.2Vであり、雑音信号は、√(0.1+0.1)=0.14Vである。このため、加算回路5の出力端のSN比が1.2/0.14=8.6dBであり、加算前の増幅器2Aの出力端のSN比9dBよりも低下(劣化)してしまう。
【0044】
上記のような実施の形態2の受信回路によれば、比較器31A〜33A,31B〜33Bが、増幅器2A,2Bのそれぞれから出力された信号の振幅の変動状況を監視して、増幅器2A,2Bのそれぞれから出力された信号の振幅と、互いに異なる値の複数の所定の閾値とを比較する。そして、論理演算部34A,34Bが増幅器2A,2Bの全てについての比較結果を用いて、加算回路5による加算処理後のSN比がその加算処理前のSN比以上となるように、スイッチ3A,3BのそれぞれのON・OFFを切り換える。この構成により、増幅器2A,2Bから出力された信号に対して加算回路5が加算処理を行うと、加算回路5の出力端のSN比が加算処理前のSN比よりも低下する場合には、その信号が加算処理の対象から除外されることにより、加算処理によって生じるSN比の低下を防ぐことができる。
【0045】
また、増幅器2A,2Bから出力された信号に対して加算回路5が加算処理を行うと、加算回路5の出力端のSN比が加算処理前のSN比よりも上昇する場合には、その信号に対して加算処理を高速に行うことができる。従って、効果的な加算処理を実現することができ、より適切にSN比の改善を図ることができる。
【0046】
なお、実施の形態2では、受信部1A,1Bの2つの受信部を用いた例について説明した。しかしながら、この例に限定するものではなく、3つ以上の受信部(信号入力部)を用いてもよい。つまり、信号受信系(信号入力系)のアレイ数が3以上であってもよい。この場合、複数の受信部のうち、どの受信部が信号を受信するか不明な場合や、いくつの受信部が信号を受信するか不明な場合における加算処理において、特に有効であり、加算処理対象とする信号と、加算処理対象外の信号とを自動的に選別できるという効果も得られる。
【0047】
また、実施の形態2では、増幅器2A,2Bの信号に対して、3種類の閾値が用いられた。しかしながら、この例に限定するものではなく、2種類又は4種類以上の閾値を用いてもよい。
【0048】
さらに、実施の形態2では、入力信号を4レベルとし、またAD変換器は2ビットとした。しかしながら、AD変換器のビット数を変更することによって、分解能の高い閾値検出が可能となる。
【0049】
また、実施の形態1,2では、信号入力部として受信部を用いた。しかしながら、この例に限定するものではなく、信号入力部として入力端子を用いて、その入力端子にアンテナや受光装置等の受信部を接続してもよい。即ち、受信部と受信回路とが別々に構成されていてもよい。
【0050】
さらに、実施の形態1における比較器4A,4Bの機能や、実施の形態2における比較器31A〜33A,31B〜33B及び論理演算部34A,34Bの機能、即ちスイッチ制御部の機能を、演算処理部(CPU)と、記憶部と、信号入出力部とを有するコンピュータの演算処理によって実現してもよい。
【0051】
実施の形態3.
実施の形態1,2では、受信回路について説明した。これに対して、実施の形態3では、実施の形態1の受信回路を適用したレーザレーダ装置について説明する。
【0052】
図10は、この発明の実施の形態3によるレーザレーダ装置を示す構成図である。図10において、実施の形態3のレーザレーダ装置は、レーザ光源51と、スキャナ52と、受信レンズ53と、長尺受光素子アレイ54と、受信回路55と、距離検出回路56と、信号処理部57とを有している。
【0053】
信号処理部57とレーザ光源51との間、信号処理部57とスキャナ52との間、長尺受光素子アレイ54と受信回路55との間、受信回路55と距離検出回路56との間、及び距離検出回路56と信号処理部57との間は、それぞれ電線ケーブルを介して電気的に接続されている。
【0054】
ここで、レーザ光源51及びスキャナ52は、ターゲット(例えば車両等)へ向けて光信号を送信する光送信部をなしている。受信レンズ53及び長尺受光素子アレイ54は、ターゲットに当って反射した光信号を受信信号として受信する光受信部をなしている。受信回路55の構成の概要は、実施の形態1,2における受信回路の構成と同様であり、受信部1A,1Bに代えて入力端子(図示せず)を信号入力部として有する点と、信号入力系の数とが実施の形態1,2とは異なる。距離検出回路56及び信号処理部57は、受信回路55から出力された信号を用いて、ターゲットに関する演算を行うレーダ演算部をなしている。
【0055】
レーザ光源51は、信号処理部57からのトリガ信号に応じてパルスレーザ光を生成し、このパルスレーザ光を送信パルスとしてスキャナ52へ送る。スキャナ52は、信号処理部57によって駆動され、送信パルスの送信ビームを2次元スキャンしながらターゲットへ向けて送信する。また、スキャナ52は、スキャン角度情報を信号処理部57に送る。
【0056】
受信レンズ53は、送信パルスがターゲットに当って反射・散乱し到来した受信光を受け、その受信光を長尺受光素子アレイ54へ導く。長尺受光素子アレイ54のうちの1つ以上の素子は、受信レンズ53からの受信光を、電気信号領域である受信信号に変換(光電変換)し、この受信信号を受信回路55に出力する。
【0057】
受信回路55は、実施の形態1又は実施の形態2のようにSN比の向上を図るべく、長尺受光素子アレイ54における1つ以上の素子からの受信信号に対して、受信処理を行う。この受信処理とは、実施の形態1又は2における受信回路の動作に相当する処理である。また、受信回路55は、受信処理後の信号を距離検出回路56に出力する。
【0058】
距離検出回路56は、受信回路55から出力された信号に基づいて、ターゲットまでの光往復時間を計測し、その計測結果を信号処理部57に送る。なお、距離検出回路56における光往復時間を計測するための回路構成には、非特許文献「平井他、“パルス方式3D Imaging LADARの開発”、第27回レーザセンシングシンポジウム予稿集、2009年、pp.90-91」に示すような回路構成を用いることができる。
【0059】
信号処理部57は、レーザ光源51、スキャナ52及び距離検出回路56のそれぞれの動作を制御する。また、信号処理部57は、ターゲットまでの光往復時間と、スキャナの角度情報とを対応させながら、スキャナ52の2次元スキャン動作を制御し、ターゲット上の多点までの距離情報を得て、その距離情報を用いてターゲットの3次元形状を計測する。
【0060】
ここで、長尺受光素子アレイ54における1つの素子は、短いパルスに応答できる程度に小さい素子サイズであるが、アスペクト比の大きいものである。これにより、長尺方向に関しては、この1素子分のみでも広いライン視野を実現している。また、長尺受光素子アレイ54において、各素子をライン方向と直交する方向にアレイ状に並べることによって、ライン方向と直交する方向に関しても広い視野を実現している。
【0061】
次に、実施の形態3のレーザレーダ装置の動作について説明する。まず、信号処理部57からのトリガ信号がレーザ光源51に入力され、レーザ光源51によってパルスレーザ光が送信パルスとして生成される。また、信号処理部57は、スキャナ52を駆動し、送信パルスの送信ビームを2次元スキャンしながら、ターゲットへ向けて送信パルスの送信ビームを送信する。
【0062】
この際に、送信ビームの形状は、ターゲット上での照射スポットサイズが所望の画素分解能以下となるように、ペンシル状とされている。送信パルスは、ターゲットに当って反射・散乱する。そして、レーザレーダ装置へ到来した受信光が受信レンズ53によって長尺受光素子アレイ54上へ導かれる。
【0063】
次に、長尺受光素子アレイ54は、受信光を電気信号領域からなる受信信号に変換し、この受信信号を受信回路55に出力する。そして、受信回路55は、受信信号に対して受信処理を行い、その受信処理後の信号を距離検出回路56に出力する。距離検出回路56は、受信回路55から出力された信号を用いて、ターゲットまでの光往復時間を計測し、その計測結果を信号処理部57に出力する。
【0064】
また、距離検出回路56は、信号処理部57からレーザ光源51を駆動するためのトリガ信号に同期したゲート信号が入力されると、光往復時間に比例したアナログ電圧を出力する。次に、信号処理部57は、ターゲットまでの光往復時間を、距離検出回路56から出力されるアナログ電圧値をAD変換することにより求める。そして、信号処理部57は、光往復時間と光速とから、ターゲットまでの距離を計測する。この際、送信ビームを細いペンシル状としているため、計測しているターゲット上の領域は1点のみであり、この点までの距離が計測される。
【0065】
次に、信号処理部57は、スキャナ52の角度情報、つまり送信ビームの送信方向と、距離計測領域とを対応させながら、スキャナ52に2次元スキャン動作をさせる。これにより、信号処理部57は、ターゲット上の多点までの距離情報を得ることができ、結果としてターゲットの3次元形状を計測することが可能となる。
【0066】
上記のような実施の形態3のレーザレーダ装置によれば、実施の形態1又は2における受信回路と同等の受信回路55を有している。この構成により、実施の形態1又は2の受信回路をレーザレーダ装置に適用することによって、長尺受光素子アレイ54における複数の受講素子からの信号のSN比を低下させることなく、後段の距離検出回路56に伝達することが可能となり、従来のレーザレーダに比べて、SN比を向上させることができる。これに加えて、距離検出回路56の距離の検出精度は、入力される信号のSN比に依存するため、従来のレーザレーダに比べて、距離の検出精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0067】
1A,1B 受信部(信号入力部)、2A,2B 増幅器、3A,3B スイッチ、4A,4B,31A〜33A,31B〜33B 比較器(スイッチ制御部)、5 加算回路(加算処理部)、6 出力端子、11A,11B 指数変換回路、34A,34B 論理演算部(スイッチ制御部)、51 レーザ光源、52 スキャナ、53 受信レンズ、54 長尺受光素子アレイ、55 受信回路、56 距離検出回路、57 信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から信号がそれぞれ入力される複数の信号入力部と、
前記複数の信号入力部のそれぞれに接続され、前記複数の信号入力部からの信号をそれぞれ増幅する複数の増幅器と、
前記複数の増幅器のそれぞれの出力端に接続された複数のスイッチと、
前記複数のスイッチを介して前記複数の増幅器に接続され、前記複数のスイッチから受けた信号に対して加算処理を行う加算処理部と、
前記複数のスイッチのON・OFFを制御し、前記複数の増幅器のそれぞれから出力された信号の振幅の変動状況を監視して、前記複数の増幅器のそれぞれから出力された信号の振幅と所定の閾値とを比較し、前記増幅器から出力された信号の振幅が前記閾値以上である場合に、当該増幅器と前記加算処理部とを電気的に繋ぎ、前記増幅器から出力された信号の振幅が前記閾値未満である場合に、当該増幅器と前記加算処理部とを電気的に分離するスイッチ制御部と
を備えることを特徴とする受信回路。
【請求項2】
外部から信号がそれぞれ入力される複数の信号入力部と、
前記複数の信号入力部のそれぞれに接続され、前記複数の信号入力部からの信号をそれぞれ増幅する複数の増幅器と、
前記複数の増幅器のそれぞれの出力端に接続された複数のスイッチと、
前記複数のスイッチを介して前記複数の増幅器に接続され、前記複数のスイッチから受けた信号に対して加算処理を行う加算処理部と、
前記複数のスイッチのON・OFFを制御し、前記複数の増幅器のそれぞれから出力された信号の振幅の変動状況を監視して、前記複数の増幅器のそれぞれから出力された信号の振幅と、互いに異なる値の複数の所定の閾値とを比較し、前記複数の増幅器の全てについての比較結果を用いて、前記加算処理部による加算処理後のSN比がその加算処理前のSN比以上となるように、前記複数のスイッチのそれぞれのON・OFFを切り換えるスイッチ制御部と
を備えることを特徴とする受信回路。
【請求項3】
ターゲットへ向けて光信号を送信する光送信部と、
前記ターゲットに当って反射した前記光信号を受信信号として受信する光受信部と、
前記光受信部から前記受信信号が入力される請求項1又は請求項2に記載の受信回路と、
前記受信回路から出力された信号を用いて、前記ターゲットに関する演算を行うレーダ演算部と
を備えることを特徴とするレーザレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−239329(P2011−239329A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111036(P2010−111036)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】