説明

可動構造体及びそれを用いた光走査ミラー

【課題】可動構造体において、外部から衝撃が加わっても櫛歯電極が破損しないようにし、耐衝撃性を高める。
【解決手段】光走査ミラー1は、可動板2と、可動板2の両側部に一端部がそれぞれ接続されており、可動板2の1つの揺動軸を構成する一対のヒンジ3と、可動板2の周囲を囲むように配され各ヒンジ3の他端部を支持する固定フレーム4と、可動板2と固定フレーム4との間に設けられた櫛歯電極5と、可動板2のうち櫛歯電極5の近傍部位に形成されたストッパ部6を備えている。ストッパ部6は、固定フレーム4に向けて突設されており、可動板2が側方に変位すると、ストッパ部6が固定フレーム4に接触し、可動板2の側方への変位が制限される。従って、外部から衝撃が加わっても、櫛歯電極5の破損が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒンジに軸支され、フレーム部との間に設けられた櫛歯電極により駆動されて揺動する可動板を有する可動構造体とそれを用いた光走査ミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばバーコードリーダやプロジェクタ等の光学機器として、ミラー面が設けられた可動板を揺動させて、そのミラー面に入射した光ビーム等をスキャンする光走査ミラーを用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。光走査ミラーとしては、例えば、マイクロマシニング技術を用いて成形される可動構造体を有する小型のものが知られている。このような可動構造体は、光走査ミラーとして用いられるときにミラー面が形成される可動板と、可動板を支持する固定フレームとを有している。可動板と固定フレームとは互いにヒンジにより連結されている。可動板は、可動板に駆動力が加えられることにより、ヒンジを捻りながら固定フレームに対し回動し、ヒンジを軸として揺動する。駆動力としては、例えば、可動板と固定フレームとの間に形成された互いに噛み合う一対の櫛歯電極に電圧が印加されて発生する静電力が用いられる。
【0003】
ところで、このような光走査ミラーに用いられる櫛歯電極は、大きな静電力を発生させるために、極めて細く形成された多くの櫛歯で構成されている。光走査ミラーに外部から振動や衝撃等が加わり、可動板の側方への変位量が大きくなると、可動板に設けられている櫛歯が固定フレーム等に接触したり、固定フレームに設けられている櫛歯が可動板等に接触したりする。各櫛歯は、細く脆弱であるため、このように固定フレームや可動板等に接触すると、破損するおそれがある。
【特許文献1】特開2004−13099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、容易に製造可能であり、且つ、外部から衝撃が加わっても櫛歯電極が破損しにくく、高い耐衝撃性を有する可動構造体及びそれを用いた光走査ミラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、可動板と、それぞれ前記可動板に一端部が接続され前記可動板の1つの揺動軸を構成する一対のヒンジと、前記可動板の周囲に配置され、前記一対のヒンジのそれぞれの他端部が接続されており、前記ヒンジを支持するフレーム部と、前記可動板の一部及びそれと対向する前記フレーム部の一部に互いに噛み合うように形成され前記可動板を前記フレーム部に対し揺動させる櫛歯電極とを備えた可動構造体において、前記可動板が側方へ変位するときに、前記櫛歯電極を除く可動構造体の他の部位に接触するように配置されたストッパ部をさらに備え、それにより、前記可動板の側方への変位量が制限されているものである。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ストッパ部は、前記可動板又はフレーム部に一体に形成されているものである。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、前記ストッパ部の角部には、R面取り形状の面取部が形成されているものである。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項の発明において、前記ストッパ部は、前記可動板が側方へ変位するときに当該ストッパ部に接触する可動構造体の他の部位と同電位になるように構成されているものである。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項の発明において、前記ストッパ部の少なくとも一部には、当該ストッパ部に接触したものとの間でスティッキングが発生しないように、スティッキング防止膜又は突起部が形成されているものである。
【0010】
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の可動構造体を有し、前記可動板の上面に、入射した光を反射するミラー面を設けたものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、例えば外部からの衝撃が可動構造体に加わって可動板が側方に変位しても、ストッパ部が他の部位に接触することより可動板の側方への変位量が制限される。従って、櫛歯電極の櫛歯が、可動板やフレーム部などに接触することがなくなるので、櫛歯電極の破損が防止され、可動構造体の耐衝撃性を向上させることができる。ストッパ部を櫛歯電極の近傍に設けるだけで耐衝撃性を向上させることができるので、比較的容易に可動構造体を製造可能である。
【0012】
請求項2の発明によれば、可動板又はフレーム部を構成する部材を加工して、可動板又はフレーム部を形成する際にストッパ部を容易に形成することができるので、可動構造体をより容易に製造可能である。
【0013】
請求項3の発明によれば、可動板の変位時に可動構造体の他の部位に接触するストッパ部の部位に尖り形状が無くなるので、ストッパ部とストッパ部に接触する部位とが接触したときにこれらの部位に応力が集中しにくくなる。従って、ストッパ部や可動構造体のストッパ部に接触する部位の破損を防止することができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、可動板が側方へ変位してストッパ部が可動構造体の他の部位に接触しても、静電引力によるスティッキングが発生し可動板が揺動不能になることを防止することができる。
【0015】
請求項5の発明によれば、可動板が側方へ変位してストッパ部が可動構造体の他の部位に接触しても、スティッキング防止膜又は突起部によりスティッキングの発生が防止されるので、可動板が揺動不能になることを防止することができる。
【0016】
請求項6の発明によれば、光走査ミラーの耐衝撃性を向上させ、且つ、光走査ミラーを容易に製造可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1、図2、及び図3は、本実施形態に係る光走査ミラー(可動構造体)の一例を示す。光走査ミラー1は、例えば、バーコードリーダ、外部のスクリーン等に画像を投影するプロジェクタ装置、又は光スイッチ等の光学機器に搭載される小型のものであり、外部の光源等(図示せず)から入射する光ビーム等をスキャンする機能を有している。
【0018】
先ず、光走査ミラー1の構成について以下に説明する。光走査ミラー1は、SOI(Silicon on Insulator)基板200をいわゆるマイクロマシニング技術等を用いて加工することにより作製されたMEMS(Micro Electro Mechanical System)素子である。図1に示すように、SOI基板200は、例えば、導電性を有する第1シリコン層(活性層)200aと第2シリコン層(基板層)200bとをシリコンの酸化膜(BOX(Buried OXide)層)220を介して接合して成る、3層構成の基板である。酸化膜220は絶縁性を有しているので、第1シリコン層200aと第2シリコン層200bとは互いに絶縁されている。第1シリコン層200aの厚みは、例えば30μm程度であり、第2シリコン層200bの厚みは、例えば400μm程度である。図2に示すように、光走査ミラー1は、例えば、上面視で一辺が数mm程度の略正方形又は略矩形である直方体状の素子である。
【0019】
光走査ミラー1は、上面視で略矩形形状であり上面にミラー面10が形成された可動板2と、可動板2の両側部に一端部がそれぞれ接続され、可動板2の1つの揺動軸を構成する一対のヒンジ3と、可動板2の周囲を囲むように配され各ヒンジ3の他端部を支持する固定フレーム(フレーム部)4と、可動板2の一部の電極2a及び固定フレーム4の一部の電極4aを有する櫛歯電極5と、可動板2に形成されたストッパ部6を備えている。図3に示すように、可動板2の下方には空隙が設けられており、可動板2は、一対のヒンジ3をねじりながら、そのヒンジ3を揺動軸として固定フレーム4に対して揺動可能に、そのヒンジ3を介して支持されている。一対のヒンジ3は、それらが成す軸が、上面視で可動板2の重心位置を通過するように形成されている。ヒンジ3の幅寸法は、例えば、数マイクロメートル乃至数十マイクロメートル程度である。固定フレーム4の上面には、例えば金属膜である電圧印加部10a,10bが形成されている。なお、可動板2やミラー面10等の形状は、矩形に限られず、円形等、他の形状であってもよい。光走査ミラー1は、例えば、ガラス基板110などが固定フレーム4の下面に接合され、回路基板B等に実装される。
【0020】
図3に示すように、可動板2及びヒンジ3は、第1シリコン層200aに形成されている。ミラー面10は、例えばアルミニウム製の薄膜であり、可動板2の上面に外部から入射する光ビームを反射可能に形成されている。可動板2は、可動板2に対し垂直でヒンジ3を通る平面に対し略対称形状に形成されており、ヒンジ3回りにスムーズに揺動するように構成されている。
【0021】
固定フレーム4は、第1シリコン層200a、酸化膜220、及び第2シリコン層200bにより構成されている。本実施形態において、固定フレーム4には、例えば、第1シリコン層200aを互いに絶縁された3つの部位に分割するように、トレンチ101が形成されている。トレンチ101は、第1シリコン層200aに、第1シリコン層200aの上端から下端まで連通し酸化膜220に到達するように溝形状に形成された空隙である。トレンチ101は第1シリコン層200aにのみ形成されているので、固定フレーム4全体は一体に構成されている。トレンチ101は、固定フレーム4のうち、一対のヒンジ3とそれぞれ接続される2つの支持部4bが他の部位から絶縁されるように、2つの櫛歯電極5それぞれの側部に、計4箇所に形成されている。2つの支持部4bは、可動板2のうち、後述するように電極2aが形成されている部位を除く周縁部に対向する部位に位置するように形成されている。
【0022】
このようにトレンチ101が形成されていることにより、固定フレーム4は、一対のヒンジ3それぞれに接続され可動板2と同電位となり、上面に電圧印加部10aが形成された2つの支持部4bと、上面にそれぞれ電圧印加部10bが形成され電極4aを有する2つの部位とに分割されている。トレンチ101は、第1シリコン層200aを分離しているので、これらの部位は、互いに絶縁されている。すなわち、図2にそれぞれの部位に模様を付して示すように、可動板2、ヒンジ3、及び固定フレーム4は、互いに絶縁された3つの部位で構成されている。
【0023】
櫛歯電極5の電極2aは、可動板2のうちヒンジ3が接続されていない自由端側の側縁部に形成されており、電極4aは、固定フレーム4のうち当該可動板2の側縁部に対向する部分に形成されている。電極2a及び電極4aは、それぞれ、複数の櫛歯を有している。電極2a及び電極4aの各櫛歯は、櫛歯電極5を設けるための限られたスペースにできるだけ多く配置することができるように薄く形成されている。電極2a及び電極4aは、互いに櫛歯が噛み合うように形成されている。電極2a,4a間の隙間は、例えば、2μm乃至5μm程度である。
【0024】
ストッパ部6は、可動板2の側方、すなわちヒンジ3で構成される揺動軸に略垂直でSOI基板200の上面に略平行な方向への変位量を制限するために設けられている。図2に示すように、ストッパ部6は、第1シリコン層200aに可動板2と一体に形成されている。本実施形態において、ストッパ部6は、櫛歯電極5の配列方向よりも外側に位置する可動板2の四隅から、可動板2の当該部位に対向する固定フレーム4に向けて突設されている。ストッパ部6は、その固定フレーム4に近い先端部が、固定フレーム4の支持部4bに近接するように形成されている。ストッパ部6は、光走査ミラー1に外部から衝撃等が加わっていない平常時において、可動板2の揺動を妨げないように形成されている。ストッパ部6は、固定フレーム4のうち支持部4bに向けて突設されており、可動板2、ヒンジ3、及びストッパ部6は互いに同電位となるように構成されている。
【0025】
図2に示すように、ストッパ部6の先端部近傍部位の角部には、R面取り形状に形成された面取部6aが設けられている。ストッパ部6は、電極2aと固定フレーム4との間の隙間や、電極4aと可動板2との間の隙間よりも、ストッパ部6と支持部4bとの間の隙間のほうが狭くなるように形成されている。なお、ストッパ部6のうち、可動板2に面する部位には、スティッキング防止膜(図示せず)が形成されている。スティッキング防止膜は、例えば、DLC(Diamond Like Carbon)膜や、SAM(Self-assembled Monolayer)を、ストッパ部6の可動板2に面する部位に形成させることにより設けられる。
【0026】
次に、上記のように構成された光走査ミラー1の動作について説明する。光走査ミラー1の可動板2は、櫛歯電極5が所定の駆動周波数で駆動力を発生することにより駆動される。櫛歯電極5は、例えば、支持部4bに配された電圧印加部10aがグランド電位に接続され、可動板2の電極2aが基準電位である状態で、電極4aと同電位となる電圧印加部10bの電位を周期的に変化させて、電極2a,4a間に所定の駆動周波数の電圧を印加することにより駆動される。櫛歯電極5のうち2つの電極4aの電位が、同時に所定の駆動電位(例えば、数十ボルト)まで変化することにより、可動板2の両端部に設けられた2つの電極2aが、それぞれと対向する電極4aに、静電気力により同時に引き寄せられる。この光走査ミラー1において、櫛歯電極5には、例えば矩形波形状のパルス電圧が印加され、櫛歯電極5による駆動力が周期的に発生するように構成されている。
【0027】
本実施形態において、光走査ミラー1は、例えば静電力を駆動力として可動板2を揺動させるように構成されている。電極2a,4aの間に周期的に電圧が印加されると、両電極2a,4a間に互いに引き合う方向に作用する静電引力が発生し、この静電引力が可動板2の自由端部に、可動板2の上面に対し略垂直方向に作用する。すなわち、電圧印加部10a,10bの電位を変更して外部から櫛歯電極5に駆動電圧が印加されると、静電力により、ヒンジ3まわりのトルクが可動板2に発生する。
【0028】
このような光走査ミラー1において、一般に多くの場合、その成型時に内部応力等が生じることにより、静止状態でも可動板2が水平姿勢ではなく、きわめて僅かであるが傾いている。そのため、静止状態からであっても、櫛歯電極5が駆動されると、可動板2にそれに略垂直な方向の駆動力が加わり、可動板2がヒンジ3を回転軸として回動する。そして、櫛歯電極5の駆動力を、可動板2が電極2a,4aが完全に重なりあうような姿勢となったときに解除すると、可動板2は、その慣性力により、ヒンジ3を捻りながら回動を継続する。そして、可動板2の回動方向への慣性力と、ヒンジ3の復元力とが等しくなると、可動板2のその方向への回動が止まる。このとき、櫛歯電極5が再び駆動され、可動板2は、ヒンジ3の復元力と櫛歯電極5の駆動力により、それまでとは逆の方向への回動を開始する。可動板2は、このような櫛歯電極5の駆動力とヒンジ3の復元力による回動を繰り返して揺動する。櫛歯電極5は、可動板2とヒンジ3により構成される振動系の共振周波数の略2倍の周波数の電圧が印加されて駆動され、可動板2が共振現象を伴って駆動され、その揺動角が大きくなるように構成されている。なお、櫛歯電極5の電圧の印加態様や駆動周波数は、上述に限られるものではなく、例えば、駆動電圧が正弦波形で印加されるように構成されていても、また、電極2a,4aの電位が互いに逆位相で変化するように構成されていてもよい。
【0029】
ここで、光走査ミラー1は、ストッパ部6が設けられていることにより、ストッパ部6が設けられていない場合と比較して高い耐衝撃性を有している。図4は、ストッパ部6の近傍部位を示す。光走査ミラー1に外部から衝撃等が加わっていない平常時においては、各ストッパ部6とそれらそれぞれに対向する支持部4bとの間には空隙がある状態が保たれている。このとき、例えば光走査ミラー1に外部からの振動や衝撃等が加わると、図に示すように、可動板2が、ヒンジ3を変形させながら、平常時よりも側方すなわち揺動軸に略垂直でSOI基板200の上面に略平行な方向(図の矢印方向)に向けて変位することがある。可動板2の側方への変位量が大きくなると、ストッパ部6が支持部4bの側縁部に接触するので、可動板2のその方向への変位が妨げられ、それ以上変位量が大きくなることがなくなる。ストッパ部6が支持部4bの側縁部に接触した状態では、電極2aの櫛歯は固定フレーム4に接触せず、電極4aの櫛歯は可動板2に接触しないので、櫛歯電極5が保護される。
【0030】
なお、光走査ミラー1は、例えば次のようにして製造される。すなわち、先ず、第1シリコン層200aに酸化膜220を形成して第2シリコン層200bを貼り合わせてSOI基板200を作成する。次に、そのSOI基板200のうち第1シリコン層200a側に、フォトリゾグラフィやエッチング等、いわゆるバルクマイクロマシニング技術による加工を施すことにより、可動板2、ヒンジ3、固定フレーム4、櫛歯電極5、ストッパ部6となる形状を形成する(第1工程)。このように、バルクマイクロマシニング技術を用いることにより、光走査ミラー1の各部を微細な形状も含めて容易に形成することができる。その後、例えばスパッタリング等の方法を用いることによって、SOI基板200の第1シリコン層200aの上面に金属膜を形成する。この金属膜をパターニングすることにより、可動板2の上面にミラー面10を形成し、固定フレーム4の上面に電圧印加部10a,10bを形成する。
【0031】
次に、第2シリコン層200bに、同様にバルクマイクロマシニング技術による加工を施し、固定フレーム4となる形状を形成する(第2工程)。第1シリコン層200a、第2シリコン層200bに加工を行った後、酸化膜220のエッチングを行う。例えば、光走査ミラー1の下面側からエッチングを行うことにより、固定フレーム4以外の部位の酸化膜220が除去される(第3工程)。これにより、可動板2がヒンジ3を介して固定フレーム4に軸支され、固定フレーム4に対し揺動可能な状態になる。上記第1工程乃至第3工程を経ると、SOI基板200に複数の光走査ミラー1が形成される。第3工程の後、SOI基板200上に形成された複数の光走査ミラー1を個々に切り分ける。この一連の工程により、複数の光走査ミラー1を同時に製造し、光走査ミラー1の製造コストを低減させることが可能である。なお、光走査ミラー1の製造工程はこれに限られるものではなく、例えば、レーザ加工や超音波加工等により成形したり、1つずつ成形してもよい。また、第2シリコン層200bの加工を第1シリコン層200aの加工に先立ち行うようにしてもよい。
【0032】
上記説明したように、本実施形態では、ストッパ部6が設けられていることにより、可動板2の変位量が制限され、櫛歯電極5の破損が防止されるので、光走査ミラー1の耐衝撃性を向上させることができる。なお、可動板2は、ヒンジ3に軸支されているため、ヒンジ3で構成される揺動軸の長手方向には変位しにくい。従って、SOI基板200の上面に平行な面内の方向での可動板2の変位量は、このようなストッパ部6を設けることによりほぼ制限することができ、効果的に櫛歯電極5の破損を防止することができる。また、ストッパ部6にはR面取り形状の面取部6aが設けられ、固定フレーム4に接触しうる部位は尖り形状ではないので、ストッパ部6と固定フレーム4との接触部位に応力が集中しにくくなり、ストッパ部6や固定フレーム4の破損を防止することができる。
【0033】
また、ストッパ部6と固定フレーム4の支持部4bとは、互いに同電位であって、さらに、ストッパ部6のうち支持部4bに当接しうる部位にはスティッキング防止膜が配されている。従って、ストッパ部6と支持部4bとが接触したとき、静電引力によるスティッキングが発生しにくくなり、可動板2が揺動不能になることをより確実に防止することができる。さらにまた、ストッパ部6は、可動板2と一体に形成することができるので、比較的容易に光走査ミラー1を製造可能である。特に、本実施形態においては、第1シリコン層200aを加工して可動板2を形成する工程において同時にストッパ部6を形成するので、ストッパ部6と固定フレーム4との適正な間隔を容易に確保することができ、容易に製造可能である。
【0034】
なお、第1実施形態において、ストッパ部に突起部を形成することによりスティッキングの発生を防止してもよい。図5は、突起部を有するストッパ部の一例を示す。ストッパ部16のうち、可動板2が側方に変位したときに固定フレーム4に接触しうる部位には、鋸歯状の突起部16aが形成されている。このようにストッパ部16に突起部16aが設けられているので、ストッパ部16と固定フレーム4とが接触したとき、互いの接触面積が少なくなる。これにより、ストッパ部16と固定フレーム4との間で静電引力の影響が小さくなるため、スティッキングの発生が防止される。なお、突起部16aの形状は鋸歯形状に限られるものではない。突起部16aは、ストッパ部16と固定フレーム4とが接触したときにその接触部位に応力が集中しすぎないような形状に形成されるのが望ましい。また、このようにストッパ部16に突起部16aを設ける場合に、さらに、ストッパ部16と固定フレーム4とが接触しうる部分にスティッキング防止膜を形成してもよく、これにより、スティッキングの発生をより確実に防止することができる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図6は、第2実施形態に係る光走査ミラー21を示す。以下、上述の第1実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、上述の第1実施形態と相違する部分についてのみ説明する。光走査ミラー21は、円形状の可動板22と、可動板22を囲むように形成された固定フレーム24を有しており、また、可動板22の自由端部の略中央部にそれぞれ形成された2つのストッパ部26を有している。固定フレーム24は、トレンチ101が形成されることにより3つの互いに絶縁された部位に分離されているが、第1実施形態とは異なり、ストッパ部26に対向する固定フレーム4は、ストッパ部26と同電位となるようにはされていない。固定フレーム24の支持部24bは、ヒンジ3を支持する部位にのみ配置されており、可動板22に対向する部位には位置していない。なお、トレンチ101のや電圧印加部10b等の配置を変更し、ストッパ部26に対向する部位の固定フレーム4がストッパ部26と同電位となるようにしてもよい。光走査ミラー21のその他の構成は、第1実施形態の光走査ミラー1と同様である。この光走査ミラー21も、第1シリコン層200aにバルクマイクロマシニング技術による加工を施すことにより可動板22にストッパ部26が設けられた形状を形成し、容易に製造することができる。
【0036】
図に示すように、櫛歯電極5は、可動板22の自由端略中央部に形成されたストッパ部26の両側部に、可動板22の端縁部に沿うように配置されている。換言すると、ストッパ部26は、櫛歯電極5の側方近傍に配置されている。第1実施形態と同様に、ストッパ部26は、平常時においては、固定フレーム24との間の隙間が、櫛歯電極5の電極2aと固定フレーム24との間の隙間や、電極4aと可動板22との間の隙間よりも若干狭くなるように形成されている。また、ストッパ部26のうち、固定フレーム24に当接しうる部位には、スティッキング防止膜が形成されており、その角部には、R面取形状の面取部26aが形成されている。
【0037】
第2実施形態においても、外部から衝撃や振動等が加わり、可動板22が側方に変位すると、一方のストッパ部26が固定フレーム24に接触し、それ以上可動板22が変位しない。従って、本実施形態においても、上述の第1実施形態と同様に、櫛歯電極5の破損を防止し、光走査ミラー21の耐衝撃性を向上させることができる。ストッパ部26には、スティッキング防止膜が設けられているので、ストッパ部26が固定フレーム24に接触したときにスティッキングが発生しにくい。また、ストッパ部26に面取部26aが形成されているので、ストッパ部26や固定フレーム24の破損を防止することができる。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨を変更しない範囲で適宜に種々の変形が可能である。例えば、ストッパ部は、可動板と一体に設けられているものに限られず、例えば、櫛歯電極の近傍部位に固定フレームから可動板に向けて突出するように形成された、固定フレームと一体のものであってもよい。この場合であっても、可動板が側方に変位したとき、可動板に当該ストッパ部が当接して可動板の変位量が制限され、櫛歯電極を保護することができる。
【0039】
また、例えば、光走査ミラーは、上記実施形態のような1軸に揺動可能なものではなく、例えば固定フレームに対し揺動可能に軸支された可動フレーム(フレーム部)を有し、可動フレームに対して揺動可能にミラー面が設けられたミラー部が軸支されている2軸ジンバル型のものであってもよい。この場合、ストッパ部を、可動フレームと固定フレームとの間の櫛歯電極の近傍に配置することにより、可動フレーム及びミラー部を含む可動板の変位量を制限し、その櫛歯電極を保護することができる。同様に、ストッパ部を、ミラー部と可動フレームとの間の櫛歯電極の近傍に形成することにより、可動板としてのミラー部の、可動フレームに対する変位量を制限し、その櫛歯電極を保護することができる。また、光走査ミラーは、SOI基板でなく、単一のシリコン基板や金属板から構成されていてもよい。さらにまた、ストッパ部は、可動板やフレーム部に一体に形成されていなくてもよく、可動板やフレーム部とは離れて、可動板の変位量を制限可能に配置されていてもよい。この場合も、ストッパ部を、可動板とその周囲のフレーム部との間の櫛歯電極の近傍部位に形成することにより、可動板の側方への変位を制限することができ、櫛歯電極の破損を防止し、光走査ミラーの耐衝撃性を向上させることができる。
【0040】
さらにまた、本発明は、ミラー面を有し光を走査する光走査ミラーに限られず、一対のヒンジにより固定フレームに対し揺動可能に構成された可動板が半導体基板に形成されてなる可動構造体に広く適用可能である。すなわち、ストッパ部を、可動板とフレーム部との間の櫛歯電極の近傍部位に形成することにより、可動構造体の耐衝撃性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態に係る可動構造体である光走査ミラーを示す斜視図。
【図2】上記光走査ミラーの平面図。
【図3】図2のA−A線断面図。
【図4】上記光走査ミラーのストッパ部近傍部位を示す平面図。
【図5】上記光走査ミラーの1変形例のストッパ部を示す平面図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る光走査ミラーを示す斜視図。
【符号の説明】
【0042】
1,21 光走査ミラー(可動構造体)
2,22 可動板
3 ヒンジ
4,24 固定フレーム(フレーム部)
5 櫛歯電極
6,16,26 ストッパ部
6a,26a 面取部
10 ミラー面
16c 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動板と、
それぞれ前記可動板に一端部が接続され前記可動板の1つの揺動軸を構成する一対のヒンジと、
前記可動板の周囲に配置され、前記一対のヒンジのそれぞれの他端部が接続されており、前記ヒンジを支持するフレーム部と、
前記可動板の一部及びそれと対向する前記フレーム部の一部に互いに噛み合うように形成され前記可動板を前記フレーム部に対し揺動させる櫛歯電極とを備えた可動構造体において、
前記可動板が側方へ変位するときに、前記櫛歯電極を除く可動構造体の他の部位に接触するように配置されたストッパ部をさらに備え、それにより、前記可動板の側方への変位量が制限されていることを特徴とする可動構造体。
【請求項2】
前記ストッパ部は、前記可動板又はフレーム部に一体に形成されていることを特徴とする請求項1記載の可動構造体。
【請求項3】
前記ストッパ部の角部には、R面取り形状の面取部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可動構造体。
【請求項4】
前記ストッパ部は、前記可動板が側方へ変位するときに当該ストッパ部に接触する可動構造体の他の部位と同電位になるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の可動構造体。
【請求項5】
前記ストッパ部の少なくとも一部には、当該ストッパ部に接触したものとの間でスティッキングが発生しないように、スティッキング防止膜又は突起部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の可動構造体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の可動構造体を有し、
前記可動板の上面に、入射した光を反射するミラー面を設けたことを特徴とする光走査ミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−26162(P2010−26162A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186189(P2008−186189)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】