説明

可変容量圧縮機の容量制御システム

【課題】フィードバック制御の頻度を最小化し、吐出容量が安定に制御される可変容量圧縮機の容量制御システムを提供する。
【解決手段】可変容量圧縮機の容量制御システム(A)は、蒸発器出口空気温度を検知する蒸発器温度センサ(402)と、開閉作動によって制御圧力を調整可能な電磁制御弁と、演算式に基づいて蒸発器目標出口空気温度から吐出容量制御信号を演算し、吐出容量制御信号に対応した制御電流を電磁制御弁に供給する制御装置(400A)とを具備する。制御装置(400A)は、判定基準が満たされたときのみ蒸発器温度センサ(402)によって検知された蒸発器出口空気温度と蒸発器目標出口空気温度との偏差に基づいて演算式を補正する。判定基準は、可変容量圧縮機の吐出容量が最大吐出容量よりも閾値時間以上の間連続して小さいという条件を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムに適用される可変容量圧縮機の容量制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
可変容量圧縮機の吐出容量制御には、フィードバック制御、又は、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを組み合わせたものがあるが、通常、吐出容量制御の安定化のために後者が選択される。
フィードバック制御はPI制御あるいはPID制御によって代表され、フィードバック制御では、例えば蒸発器の出口空気温度等の制御量が設定された目標値に近付くように、制御量と目標値との偏差に基づいて容量制御弁に供給される制御電流(制御出力値)が演算される。
【0003】
また、フィードフォワード制御では、制御量が設定された目標値に近付くように、目標値とその他のパラメータから制御出力値が演算される。
より詳しくは、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを組み合わせた制御として、例えば特許文献1が開示する可変容量圧縮機の制御方法が知られている。当該制御方法によれば、蒸発器の風量設定手段の切換設定時又は吹き出し温度設定手段の切換設定時には、これらの切換設定に連動してデューティ比制御量に切換補償量が加算される。
【特許文献1】特開平1-121572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可変容量圧縮機の吐出容量のフィードバック制御は、制御量を検知してから、検知した制御量に基づいて容量制御弁に供給される制御電流を操作して、制御量を目標値に近付けるものである。このためフィードバック制御では、制御を乱す外的要因(外乱)が発生しても、その影響が制御量に現れてからでなければ、外乱に対応して制御出力値を調整若しくは修正することができない。
【0005】
そして、フィードバック制御においては、顕在化した外乱の影響を修正すべく制御出力値を操作することによって、制御出力値が変動して収束しない状態、いわゆるハンチング状態が発生することがある。かくしてフィードバック制御においては、外乱によって、吐出容量の制御が不安定になることがある。
なお、たとえフィードバック制御とフィードフォワード制御とを組み合わせても、フィードバック制御を行っている以上、外乱によって吐出容量の制御は不安定になってしまう。
【0006】
本発明は上述した事情に基づいてなされたもので、その目的は、フィードバック制御の頻度を最小化し、吐出容量が安定に制御される可変容量圧縮機の容量制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するべく、本発明によれば、空調システムの冷凍サイクルを構成すべく冷媒が循環する循環路に放熱器、膨張器及び蒸発器とともに介挿される可変容量圧縮機に適用され、前記空調システムの制御量が目標値に近付くように、前記可変容量圧縮機の吐出容量を制御圧力の調整により制御する容量制御システムにおいて、前記制御量を検知する制御対象検知手段と、開閉作動によって前記制御圧力を調整可能な電磁制御弁と、演算式に基づいて前記目標値から吐出容量制御信号を演算し、前記吐出容量制御信号に対応した制御電流を前記電磁制御弁に供給する制御装置とを具備し、前記制御装置は、判定基準が満たされたときのみ前記制御対象検知手段によって検知された制御量と前記目標値との偏差に基づいて前記演算式を補正し、前記判定基準は、前記可変容量圧縮機の吐出容量が最大吐出容量よりも閾値時間以上の間連続して小さいという条件を含むことを特徴とする可変容量圧縮機の容量制御システムが提供される(請求項1)。
【0008】
好ましくは、前記判定基準は、前記制御対象検知手段で検知される制御量の前記閾値時間の間における平均変化率が上限値以下であるという条件を更に含む(請求項2)。
好ましくは、前記蒸発器に対する送風量を検知する蒸発器送風量検知手段を更に具備し、前記判定基準は、前記蒸発器送風量検知手段で検知される蒸発器の送風量が上限値以下であるという条件を更に含む(請求項3)。
【0009】
好ましくは、前記判定基準は、前記制御目標設定手段で設定された目標値と、前記制御対象検知手段で検知された制御量との偏差の前記閾値時間における平均値が下限値以上であるという条件を更に含む(請求項4)。
好ましくは、前記冷凍サイクルの熱負荷を検知する熱負荷検知手段を更に備え、
前記制御装置は、前記目標値及び前記熱負荷検知手段で検知された熱負荷に基づいて、吸入圧力の目標である目標吸入圧力を設定する目標吸入圧力設定手段と、前記目標吸入圧力設定手段で設定された目標吸入圧力から前記吐出容量制御信号を演算するための演算式を前記演算式として記憶した記憶手段と、前記制御対象検知手段によって検知された制御量に基づいて前記記憶手段に記憶されている演算式を補正する補正手段とを備える(請求項5)。
【0010】
好ましくは、前記可変容量圧縮機の回転数に相当する物理量を検知する回転数検知手段を更に備え、前記目標吸入圧力設定手段は、前記目標値、前記熱負荷、及び、前記回転数検知手段で検知された物理量に基づいて前記目標吸入圧力を設定する(請求項6)。
好ましくは、前記記憶手段に記憶されている演算式は、前記補正手段によって補正された演算式によって更新される(請求項7)。
【0011】
好ましくは、前記閾値時間は、前記演算式が補正される毎に増大され(請求項8)。
好ましくは、前記補正手段による前記演算式の補正量は、最初の演算式を基準として設定される範囲内に制限される(請求項9)。
好ましくは、前記電磁制御弁は、吸入圧力に応答して前記制御圧力を機械的に制御する感圧器を有する(請求項10)。
【0012】
好ましくは、前記電磁制御弁は、吐出圧力が吸入圧力及びソレノイドユニットの電磁力に対して対向する方向に作用する弁体を有する(請求項11)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、制御装置が、可変容量圧縮機の吐出容量が最大吐出容量よりも閾値時間以上の間連続して小さいときに、制御対象検知手段によって検知された制御量と目標値との偏差に基づいて演算式を補正する。つまり、所定の条件が満たされたときのみ吐出容量がフィードバック制御され、フィードバック制御の頻度が低減される。この結果として、この容量制御システムによれば、吐出容量の不安定化が抑制され、吐出容量が安定に制御される。
【0014】
また、吐出容量が最大吐出容量よりも閾値時間以上の間連続して小さいときは、吐出容量は比較的安定に制御されている。このときに検知した制御量と目標値との偏差に基づいて制御電流を調整すれば、制御量と目標値との偏差が低減され、容量制御の精度が向上する。
請求項2の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、判定基準が、制御対象検知手段で検知される制御量の閾値時間における平均変化率が上限値以下であるという条件を更に含む。このため、更に限定された条件下でのみ吐出容量がフィードバック制御され、フィードバック制御の頻度がより一層低減される。この結果として、この容量制御システムによれば、吐出容量の不安定化が更に抑制され、吐出容量がより一層安定に制御される。
【0015】
また、制御量の閾値時間における平均変化率が上限値以下のときも、吐出容量は比較的安定に制御されている。このときに検知した制御量と目標値との偏差に基づいて制御電流を調整すれば、制御量と目標値との偏差が低減され、容量制御の精度が向上する。
請求項3の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、判定基準が、蒸発器送風量検知手段で検知される蒸発器への送風量が上限値以下であるという条件を更に含む。従って、更に限定された条件下でのみ吐出容量がフィードバック制御され、フィードバック制御の頻度がより一層低減される。この結果として、この容量制御システムによれば、吐出容量の不安定化が更に抑制され、吐出容量がより一層安定に制御される。
【0016】
また、蒸発器への送風量が上限値以下のときは、制御量が目標値に十分に近付いたときであり、吐出容量は比較的安定に制御されている。このときに検知した制御量と目標値との偏差に基づいて制御電流を調整すれば、制御量と目標値との偏差が低減され、容量制御の精度が向上する。
請求項4の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、判定基準が、目標値と制御量との偏差の閾値時間における平均値が下限値以上であるという条件を更に含む。このため、更に限定された条件下でのみ吐出容量がフィードバック制御され、フィードバック制御の頻度がより一層低減される。この結果として、この容量制御システムによれば、吐出容量の不安定化が更に抑制され、吐出容量がより一層安定に制御される。
【0017】
また、目標値と制御量との偏差の閾値時間における平均値が下限値を下回っているときにフィードバック制御を行わないことで、偏差をそれ以上小さくしようとして却って吐出容量が不安定になるという事態が回避される。この結果としても、この容量制御システムによれば、吐出容量の不安定化が抑制され、吐出容量が安定に制御される。
請求項5の可変容量圧縮機の容量制御システムは、目標吸入圧力に吸入圧力が近付くように吐出容量を制御する吸入圧力制御方式を採用しているけれども、目標値及び冷凍サイクルにかかる熱負荷に基づいて目標吸入圧力が設定されている。このため、フィードバック制御の頻度が少なくても、目標吸入圧力が吸入圧力に近付くことにより、制御量が目標値に確実に近付く。
【0018】
請求項6の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、目標値、熱負荷、及び、可変容量圧縮機の回転数に相当する物理量に基づいて目標吸入圧力が的確に設定される結果、制御量と目標値の偏差が一層低減される。
請求項7の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、演算式が補正される毎に更新されることによって、フィードバック制御の頻度が少なくても、偏差が確実に低減される。
【0019】
請求項8の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、演算式が補正される毎に閾値時間が長くなる。この結果として、この容量制御システムによれば、フィードバック制御の頻度が更に低減され、吐出容量がより一層安定に制御される。
請求項9の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、演算式の補正量が制限されることによって、例えば容量制御システムに何らかの異常が発生したとしても、演算式が初期のものから大きく変更されることが防止される。
【0020】
請求項10の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、制御装置によるフィードバック制御の頻度が低減されるけれども、感圧器によって吐出容量が機械的にフィードバック制御されることで、制御量と目標値の偏差が確実に低減される。
請求項11の可変容量圧縮機の容量制御システムによれば、吸入圧力についてみたときに広い範囲に渡って、吐出容量が安定に制御される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の第1実施形態の可変容量圧縮機の容量制御システムAについて説明する。
図1は、容量制御システムAが適用された車両用空調システムの冷凍サイクル10を示し、冷凍サイクル10は、作動流体としての冷媒が循環する循環路12を備える。循環路12には、冷媒の流動方向でみて、圧縮機100、放熱器(凝縮器又はガスクーラ)14、膨張器16及び蒸発器18が順次介挿され、圧縮機100が作動すると、圧縮機100の吐出容量に応じて循環路12を冷媒が循環する。
【0022】
すなわち、圧縮機100は、冷媒の吸入工程、吸入した冷媒の圧縮工程及び圧縮した冷媒の吐出工程からなる一連のプロセスを行う。
放熱器14は、圧縮機100から吐出された冷媒を冷却する機能を有し、冷却された冷媒は、膨張器16を通過することによって膨張させられる。膨張した冷媒は蒸発器18内で気化し、気化した冷媒は圧縮機100に吸入される。
【0023】
蒸発器18は、車両用空調システムの空気回路の一部も構成しており、蒸発器18を通過する空気流は、蒸発器18内の冷媒によって気化熱を奪われることによって冷却される。気化した冷媒は、蒸発器18の出口において過熱度を有するが、過熱度は膨張器16によって所定値に略保たれる。
容量制御システムAが適用される圧縮機100は可変容量圧縮機であり、例えば斜板式のクラッチレス圧縮機である。圧縮機100はシリンダーブロック101を備え、シリンダーブロック101には、複数のシリンダボア101aが形成されている。シリンダーブロック101の一端にはフロントハウジング102が連結され、シリンダーブロック101の他端には、バルブプレート103を介してリアハウジング(シリンダヘッド)104が連結されている。
【0024】
シリンダーブロック101及びフロントハウジング102はクランク室105を規定し、クランク室105内を縦断して駆動軸106が延びている。駆動軸106は、クランク室105内に配置された環状の斜板107を貫通し、斜板107は、駆動軸106に固定されたロータ108と連結部109を介してヒンジ結合されている。従って、斜板107は、駆動軸106に沿って移動しながら傾動可能である。
【0025】
ロータ108と斜板107との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最小傾角に向けて付勢するコイルばね110が装着され、斜板107を挟んで反対側の部分、即ち斜板107とシリンダーブロック101との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最大傾角に向けて付勢するコイルばね111が装着されている。
駆動軸106は、フロントハウジング102の外側に突出したボス部102a内を貫通し、駆動軸106の外端には、動力伝達装置としてのプーリ112に連結されている。プーリ112は、ボール軸受113を介してボス部102aによって回転自在に支持され、外部駆動源としてのエンジン114のプーリとの間にベルト115が架け回される。
【0026】
ボス部102aの内側には軸封装置116が配置され、フロントハウジング102の内部と外部とを遮断している。駆動軸106はラジアル方向及びスラスト方向にベアリング117,118,119,120によって回転自在に支持され、エンジン114からの動力がプーリ112に伝達され、プーリ112の回転と同期して回転可能である。
シリンダボア101a内にはピストン130が配置され、ピストン130には、クランク室105内に突出したテール部が一体に形成されている。テール部に形成された凹所130a内には一対のシュー132が配置され、シュー132は斜板107の外周部に対し挟み込むように摺接している。従って、シュー132を介して、ピストン130と斜板107とは互いに連動し、駆動軸106の回転によりピストン130がシリンダボア101a内を往復動する。
【0027】
リアハウジング104の内部には、吸入室140及び吐出室142が区画形成され、吸入室140は、バルブプレート103に設けられた吸入孔103aを介してシリンダボア101aと連通可能である。吐出室142は、バルブプレート103に設けられた吐出孔103bを介してシリンダボア101aと連通している。なお、吸入孔103a及び吐出孔103bは、図示しない吸入弁及び吐出弁によってそれぞれ開閉される。
【0028】
シリンダーブロック101の外側にはマフラ150が設けられ、マフラケーシング152は、シリンダーブロック101に一体に形成されたマフラベース101bに図示しないシール部材を介して接合されている。マフラケーシング152及びマフラベース101bはマフラ空間154を規定し、マフラ空間154は、リアハウジング104、バルブプレート103及びマフラベース101bを貫通する吐出通路156を介して吐出室142と連通している。
【0029】
マフラケーシング152には吐出ポート152aが形成され、マフラ空間154には、吐出通路156と吐出ポート152aとの間を遮るように逆止弁170が配置されている。具体的には、逆止弁170は、吐出通路156側の圧力とマフラ空間154側の圧力との圧力差に応じて開閉し、圧力差が所定値より小さい場合閉作動し、圧力差が所定値より大きい場合開作動する。
【0030】
したがって吐出室142は、吐出通路156、マフラ空間154及び吐出ポート152aを介して循環路12の往路部分と連通可能であり、マフラ空間154は逆止弁170によって断続される。一方、吸入室140は、リアハウジング104に形成された吸入ポート104aを介して循環路12の復路部分と連通している。
リアハウジング104には、容量制御弁(電磁制御弁)200が収容され、容量制御弁200は給気通路160に介挿されている。給気通路160は、吐出室142とクランク室105との間を連通するようにリアハウジング104からバルブプレート103を経てシリンダーブロック101にまで亘っている。
【0031】
一方、吸入室140は、クランク室105と抽気通路162を介して連通している。抽気通路162は、駆動軸106とベアリング119,120との隙間、空間164及びバルブプレート103に形成された固定オリフィス103cからなる。
また、吸入室140は、リアハウジング104に形成された感圧通路166を通じて、給気通路160とは独立して容量制御弁200に接続されている。
【0032】
より詳しくは、図2に示すように、容量制御弁200は、弁ユニットとソレノイドユニットとからなる。弁ユニットは、円筒状の弁ハウジング202を有し、弁ハウジング202の内部には弁孔204が形成されている。弁孔204は、弁ハウジング202の軸線方向に延び、弁孔204の一端は出口ポート206に繋がっている。出口ポート206は、弁ハウジング202を径方向に貫通しており、弁孔204は出口ポート206及び給気通路160の下流側部分を介してクランク室105と連通している。
【0033】
弁ハウジング202のソレノイドユニット側には弁室208が区画され、弁孔204の他端は弁室208の端壁にて開口している。弁室208内には、円柱状の弁体210が収容され、弁体210は、弁室208内を弁ハウジング202の軸線方向に移動可能である。弁体210の一端が弁室208の端壁に当接することにより、弁体210は弁孔204を閉塞可能であり、弁室208の端壁は弁座として機能する。
【0034】
また、弁ハウジング202には入口ポート212が形成され、入口ポート212も弁ハウジング202を径方向に貫通している。入口ポート212は、給気通路160の上流側部分を介して吐出室142と連通している。入口ポート212は、弁室208の周壁にて開口しており、入口ポート212、弁室208、弁孔204及び出口ポート206を通じて、吐出室142とクランク室105とは連通可能となっている。
【0035】
更に、弁ハウジング202には、ソレノイドユニットと反対側に感圧室214が区画され、感圧室214の周壁には感圧ポート216が形成されている。感圧ポート216及び感圧通路166を通じて、感圧室214は吸入室140と連通している。また、感圧室214と弁孔204との間には軸方向孔218が設けられ、軸方向孔218は、弁孔204と同軸上を延びている。
【0036】
弁体210の他端には、感圧ロッド220が一体且つ同軸に連結されている。感圧ロッド220は、弁孔204及び軸方向孔218内を延び、感圧ロッド220の先端部は、感圧室214内に突出している。感圧ロッド220は先端側に大径部を有しており、感圧ロッド220の大径部は、軸方向孔218の内周面によって摺動可能に支持されている。従って、感圧ロッド220の大径部によって、感圧室214と弁孔204との間の気密性が確保されている。
【0037】
感圧室214の端壁は、弁ハウジング202の端部に圧入されたキャップ222により形成され、キャップ222は段付きの有底円筒状をなす。キャップ222の小径部には、支持部材224の筒部が摺動自在に嵌合され、キャップ222の底壁と支持部材224との間には強制開放ばね226が配置されている。
感圧室214内には感圧器228が収容され、感圧器228の一端が支持部材224に固定されている。従って、キャップ222は、支持部材224を介して感圧器228を支持している。
【0038】
感圧器228はベローズ230を有し、ベローズ230は、弁ハウジング202の軸線方向に伸縮可能である。ベローズ230の両端はキャップ232,234によって気密に閉塞され、ベローズ230の内部は、真空状態(減圧状態)に保たれている。また、ベローズ230の内部には、圧縮コイルばね236が配置され、圧縮コイルばね236は、ベローズ230が伸張するように、キャップ232,234を相互に離間する方向に付勢している。
【0039】
感圧器228のキャップ234は、アダプタ238を介して感圧ロッド220に当接可能であり、感圧室214内の圧力が低下して感圧器228が伸張した場合、感圧ロッド220を介して弁体210が開弁方向に付勢される。
なお、弁ハウジング202に対するキャップ222の圧入量は、容量制御弁200が所定の動作をするように調整される。
【0040】
一方、ソレノイドユニットは、弁ハウジング202に同軸的に連結された円筒状のソレノイドハウジング240を有し、ソレノイドハウジング240内には、同心上に円筒状の固定コア242が配置されている。固定コア242の一端部は、弁ハウジング202の端部に嵌合して弁室208を区画するとともに、弁体210を摺動自在に支持している。
固定コア242の中央部から他端部に亘る部分には、有底のスリーブ244が嵌合されている。スリーブ244の底壁と固定コア242の他端との間には、コア収容空間246が区画され、コア収容空間246には可動コア248が配置されている。可動コア248は、スリーブ244によって摺動自在に支持され、ソレノイドハウジング240の軸線方向に往復動可能である。
【0041】
弁体210の他端には、固定コア242内を延びるソレノイドロッド250の一端が当接し、ソレノイドロッド250の他端部は、可動コア248と一体に固定されている。従って、弁体210は、可動コア248に連動して閉弁方向に移動する。可動コア248とスリーブ244の底壁との間には、圧縮コイルばね252が配置され、圧縮コイルばね252は、可動コア248及びソレノイドロッド250を介して弁体210を閉弁方向に常時付勢する。
【0042】
スリーブ244の周囲には、ボビン253に巻回された状態で円筒形のコイル(ソレノイドコイル)254が配置され、ボビン253及びコイル254は、一体に成型された樹脂部材255によって囲まれている。ソレノイドハウジング240、固定コア242及び可動コア248はいずれも磁性材料で形成されて磁気回路を構成し、一方、スリーブ244は非磁性のステンレス系材料で形成されている。
【0043】
ここで、固定コア242の先端部の根元には、径方向孔256が形成され、弁ハウジング202には、径方向孔256と感圧室214とを連通する連通孔258が形成されている。また、固定コア242の中央部及び他端部の内径は、弁体210及びソレノイドロッド250の外径よりも大きく、感圧室214とコア収容空間246との間は、固定コア242の中央部及び他端部の内側、径方向孔256及び連通孔258を介して連通している。
【0044】
従って、弁体210の一端面には、クランク室105の圧力(クランク圧力Pc)が開弁方向の力として作用し、一方、弁体210の他端面には吸入室140の圧力(吸入圧力Ps)が閉弁方向の力として作用する。
なお、弁孔204の面積と、固定コア242の先端部に支持される弁体210の部分の断面積とを同等に設定することによって、弁体210の開閉動作には、弁室208内の圧力、換言すれば、吐出室142の圧力(吐出圧力Pd)は関与しない。この場合、容量制御弁200の吸入圧力制御特性は、吐出圧力Pdの影響を受けない。
【0045】
また、弁孔204の面積と、軸方向孔218と摺動する感圧ロッド220の部分の段面積とを同等に設定することによって、弁体210の開閉動作には、弁孔204内の圧力、換言すれば、クランク室105の圧力(クランク圧力Pc)は関与しない。
これらの結果として、容量制御弁200の吸入圧力制御特性は、吐出圧力Pd及びクランク圧力Pcの影響を実質的に受けない。このため、図3、式(1)及び式(2)に示すように、コイル254に供給する電流(制御電流I)に基づいて、制御対象となる吸入圧力Psの目標値(目標吸入圧力Pss)が一義的に決定される。
【0046】
【数1】

【0047】
なお、式(1)中のF(I)は、コイル254に通電することによって可動コア248に作用する電磁力であり、Sbは、ベローズ230の有効面積である。また、fs1は圧縮コイルばね252の付勢力であり、fs2は、感圧器228の圧縮コイルばね236の付勢力である。F(I)=A・I(ただし、Aは定数である。)と表すことができ、この関係を考慮して式(1)を変形すると式(2)が得られる。
【0048】
コイル254には圧縮機100の外部に設けられた制御装置400Aが接続され、制御装置400Aからコイル254に制御電流Iが供給されると、可動コア248に電磁力F(I)が作用する。電磁力F(I)によって、可動コア248は固定コア242に向けて吸引され、これにより弁体210が閉弁方向に付勢される。
図4は、制御装置400Aを含む容量制御システムAの概略構成を示したブロック図である。
【0049】
容量制御システムAは、1つ以上の外部情報を検知する外部情報検知手段を有し、外部情報検知手段は、蒸発器目標温度設定手段401及び蒸発器出口空気温度検知手段としての蒸発器温度センサ402を含む。
蒸発器目標温度設定手段401は、車室内温度設定を含む種々の外部情報に基づいて、空気回路における蒸発器18の出口での空気の温度(蒸発器出口空気温度Te)の目標値(蒸発器目標出口空気温度Tes)を設定する。蒸発器出口空気温度Teは、車両用空調システムの制御対象(制御量)であり、蒸発器温度センサ402は制御対象を検知する手段(制御対象検知手段)である。
【0050】
蒸発器目標出口空気温度Tesは、車両用空調システムの目標値であり、容量制御システムAの最終的な目標値でもある。蒸発器目標温度設定手段401は、設定した蒸発器目標出口空気温度Tesを外部情報の1つとして制御装置400Aに入力する。
蒸発器温度センサ402は、空気回路における蒸発器18の出口に設置され(図1参照)、蒸発器出口空気温度Teを検知する。検知された蒸発器出口空気温度Teは、外部情報の1つとして制御装置400Aに入力される。
【0051】
また、外部情報検知手段は、冷凍サイクル10にかかる熱負荷を検知するための熱負荷検知手段を含み、熱負荷検知手段は、外気温度センサ403、日射センサ404及び蒸発器ファン電圧検知手段405を有する。
外気温度センサ403は、車両の外気取り入れ口に配置され、車両用空調システムの空気回路に導入される外気の温度Taを検知する。
【0052】
日射センサ404は、車室内のダッシュボード上に配置され、車両のフロントガラスを透過する日射量Wsを検知する。
蒸発器ファン電圧検知手段405は、空気回路における空気の流れを生成するファンに供給される電圧(ファン電圧)VLを検知する。ファン電圧VLは、蒸発器18に対する送風量に対応する物理量であり、ファン電圧VLに基づいて、蒸発器18に対するファン送風量が間接的に検知される。
【0053】
更に、外部情報検知手段は、車両の運転状態を検知するための車両運転状態検知手段を含み、車両運転状態検知手段は、車速センサ406を有する。車速センサ406は、車両の走行速度VSを検知する。なお車速センサ406によれば、エンジン114の回転数又は圧縮機100の回転数を検知することができ、車速センサ406は、熱負荷検知手段としても機能する。
【0054】
制御装置400Aは、例えば独立したECU(電子制御ユニット)によって構成され、目標吸入圧力設定手段410、制御信号演算手段411及びソレノイド駆動手段412を有する。
目標吸入圧力設定手段410は目標吸入圧力Pssを演算して設定する。目標吸入圧力Pssは、制御目標となる吸入圧力Psの目標値である。
【0055】
本実施形態では、目標吸入圧力設定手段410は、蒸発器目標温度設定手段401によって設定された蒸発器目標出口空気温度Tesと、外気温度センサ403で検知された外気温度Taと、日射センサ404で検知された日射量Wsと、蒸発器ファン電圧検知手段で検知されたファン電圧VLと、車速センサ406で検知された車両の走行速度VSとに基づいて、目標吸入圧力Pssを設定する。
【0056】
具体的には、目標吸入圧力Pssは、基準圧力Peから第1補正量P1を減算するとともに後述する第2補正量P2を加算することにより演算される。つまり、目標吸入圧力Pssは、演算式:Pss=Pe―P1+P2によって演算される。
ここで基準圧力Peは、蒸発器目標出口空気温度Tesを変数として含む関数:Pe=f(Tes)によって演算される。より詳しくは、基準圧力Peは、蒸発器目標出口空気温度Tesでの冷媒の飽和圧力に等しくなるように設定される。
【0057】
第1補正量P1は、冷凍サイクル10にかかる熱負荷に基づいて決定される。すなわち、第1補正量P1は、外気温度Ta、日射量Ws、ファン電圧VL及び車両の走行速度VSを変数として含む関数:P1=g(Ta,Ws,VL,VS)によって演算される。
図5に示したように、熱負荷が大きければ第1補正量P1も大きく、熱負荷が小さければ第1補正量P1はゼロに設定される。従って、熱負荷が小さく第1補正量P1がゼロのときには、目標吸入圧力Pssは、基準圧力Peに第2補正量P2を加えた値に等しくなる。
【0058】
制御信号演算手段411は、目標吸入圧力設定手段410で設定された目標吸入圧力Pssを上述した式(2)に代入することによって、制御電流Iを演算する。演算された制御電流Iは、吐出容量制御信号として、ソレノイド駆動手段412に入力される。
ソレノイド駆動手段412は、制御信号演算手段411で演算された制御電流Iに等しくなるよう、容量制御弁200のコイル254に供給される電流を調整する。制御電流Iの調整は、所定の駆動周波数(例えば400〜500Hz)のPWM(パルス幅変調)において、デューティ比を変更することにより行われる。
【0059】
図6は、ソレノイド駆動手段412の構成を示す。ソレノイド駆動手段412は、スイッチング素子430を有し、スイッチング素子430は、電源450とアースとの間を延びる電源ラインに、容量制御弁200のコイル254と直列に介挿されている。スイッチング素子430は、電源ラインを電気的に断続可能であり、スイッチング素子430の動作によって、所定の駆動周波数のPWMにてコイル254に制御電流Iが供給される。
【0060】
なお、フライホイール回路を形成すべく、コイル254と並列にダイオード432が接続される。
スイッチング素子430には、制御信号発生手段434から所定の駆動信号が入力され、この信号に対応して、PWMにおけるデューティ比が変更される。
また、電源ラインには、電流センサ436が介挿され、電流センサ436は、コイル254を流れる制御電流Iを検知する。
【0061】
電流センサ436は、制御電流比較判定手段438に検知した制御電流Iを入力し、制御電流比較判定手段438は、制御信号演算手段411から吐出容量制御信号として入力された制御電流Iと、電流センサ436によって検知された制御電流Iとを比較する。そして、制御電流比較判定手段438は、比較結果に基づいて、検知された制御電流Iが入力された制御電流Iに近付くように、制御信号発生手段434が発生する駆動信号を変更する。
【0062】
なお、ソレノイド駆動手段412がデューティ比で制御電流Iを調整する場合、制御信号演算手段411は、制御電流Iと関連を有するパラメータとしてデューティ比を演算してもよく、この場合、制御信号演算手段411によって生成される吐出容量制御信号は、ソレノイド駆動手段412に所定のデューティ比で制御電流Iを供給させるための信号である。
【0063】
つまり、吐出容量制御信号は、制御電流Iに対応する信号であってもよいし、制御電流Iと関連のあるデューティ比等のパラメータに対応する信号であってもよい。
また、制御装置400Aは、記憶手段413を有し、記憶手段413は、目標吸入圧力設定手段410が目標吸入圧力Pssを演算するために使用する演算式、並びに、基準圧力Pe及び第1補正量P1を演算するために使用する演算式をそれぞれ記憶している。目標吸入圧力設定手段410は、目標吸入圧力Pssを演算するたびに、記憶手段413に記憶された演算式を読み込む。
【0064】
更に、制御装置400Aは、吐出容量判定手段414及び補正手段415を有する。
吐出容量判定手段414は、圧縮機100の吐出容量が最大吐出容量であるか、最大吐出容量よりも小さいかを判定し、判定結果を補正手段415に入力する。
吐出容量の判定は、蒸発器目標出口空気温度Tes、外気温度Ta、日射量Ws、ファン電圧VL及び車両の走行速度VSを入力値として、予め準備されているマップと照合することによって行われる。
【0065】
なお、吐出容量が最大吐出容量のときは、通常、コイル254には過大な制御電流Iが供給されており、制御電流Iと吐出容量との間に相関がない。このため、吐出容量が最大吐出容量であるときには、実質的には吐出容量が制御されているとはいえない。従って、吐出容量判定手段が、圧縮機100の吐出容量が最大吐出容量であるか、最大吐出容量よりも小さいかを判定するということは、吐出容量が制御状態にないか、制御状態にあるかを判定するということである。
【0066】
補正手段415は、蒸発器目標温度設定手段401で設定された蒸発器目標出口空気温度Tesと蒸発器温度センサ402で検知された蒸発器出口空気温度Teとの温度偏差ΔTを演算し、そして、所定の閾値時間taの間における温度偏差ΔTの平均値(平均温度偏差ΔTm)を演算する。
また、補正手段415は、閾値時間taの間における、蒸発器温度センサ402で検知された蒸発器出口空気温度Teの平均変化率αを演算する。この平均変化率αとは、閾値時間taの間における蒸発器出口空気温度Teの変化量ΔTeを閾値時間taで除した値である。
【0067】
一方、補正手段415には、吐出容量判定手段414の判定結果が入力されている。
補正手段415は、所定の判定基準が満たされたときにのみ、記憶手段413に記憶された目標吸入圧力Pssの演算式を補正して更新する。具体的には、所定の判定基準が満たされたときにのみ、演算式に含まれる第2補正量P2を変更量ΔP2だけ変更する。変更量ΔP2は、偏差ΔT若しくは平均温度偏差ΔTmが縮小するように決定され、例えば、平均温度偏差ΔTmを変数として含む関数:ΔP2=h(ΔTm)により演算される。この関数:ΔP2=h(ΔTm)は、予め求めておくことができる。
【0068】
判定基準には、以下の(i)〜(iii)の3つの条件が含まれる。
(i)吐出容量判定手段414の判定の結果、閾値時間ta以上の間、継続して吐出容量が最大吐出容量よりも小さい。
(ii)閾値時間taの間における蒸発器出口空気温度Teの平均変化率αが所定の上限値β以下である。
(iii)閾値時間taの間における平均温度偏差ΔTmが所定の下限値γ以上である。
【0069】
これら(i)〜(iii)の条件が全て満たされたときにのみ、変更量ΔP2だけ第2補正量P2が変更されることにより、目標吸入圧力Pssの演算式が補正及び更新される。
更新とは、記憶手段413に記憶されている演算式が、補正されるごとに補正後の演算式に書き換えられることである。つまり、第2補正量P2を変更量ΔP2で変更した後の値が、最新の第2補正量P2として記憶される。
【0070】
なお第2補正量P2の絶対値は、所定の上限値σ以下に制限される。上限値σは、例えば、第2補正量P2がゼロであるときの目標吸入圧力Pssを基準として設定される。
上記、補正された演算式は、例えば補正が2回行われ、それぞれの変更量がΔP2、ΔP2であったとすると、Pss=Pe―P1+ΔP2+ΔP2と表すことができる。従って、演算式は次式(3)のように表すこともできる。なお、第2補正量P2の初期値はゼロであり、式(3)における変更量ΔP2の初期値ΔP2も0である。
【0071】
【数2】

【0072】
式(3)からわかるように、第2補正量P2は、各補正の変更量ΔP2の総和として規定することができる。
以下、上述した車両用空調システムの動作(使用方法)を説明する。
図7は、制御装置400Aが実行するプログラムのメインルーチンを示している。メインルーチンは、例えば車両のエンジンキーがオン状態になると起動され、オフ状態になると停止される。
【0073】
メインルーチンでは、起動すると先ず、初期条件が設定される(S10)。具体的には、フラグFがゼロに設定され、コイル254に供給されるべき制御電流Iが、初期値Iに設定される。初期値Iが供給されている間、容量制御弁200は開いた状態にあり、圧縮機100の容量は、機械的に決定される最小容量になる。初期値Iはゼロであってもよい。
【0074】
なお、圧縮機100の容量が最小であるとき、逆止弁170の前後の圧力差は所定値よりも低く、圧縮機100は冷凍サイクル10に冷媒を吐出することができない。このため、最小の吐出容量でシリンダボア101aから吐出室142に吐出された冷媒は、吐出室142から給気経路160を経てクランク室105に流入し、次いで、クランク室105から抽気通路162を経て吸入室140に戻る。つまり、圧縮機100の容量が最小であるとき、冷媒は圧縮機100の内部を循環する。
【0075】
S10の後、車両用空調システムのエアコンスイッチ(A/Cスイッチ)がオンであるか否かが判定される(S12)。即ち、乗員が、車室の冷房又は除湿を要求しているか否かが判定される。エアコンスイッチがオンの場合(Yesの場合)、外部情報検知手段によって検知された外部情報が読み込まれる(S14)。則ち、蒸発器目標温度設定手段401で設定された蒸発器目標出口空気温度Tes、蒸発器温度センサ402で検知された蒸発器出口空気温度Te、外気温度センサ403で検知された外気温度Ta、日射センサ404で検知された日射量Ws、蒸発器ファン電圧検知手段405によって検知されたファン電圧VL、及び、車速センサ406によって検知された車速VSが読み込まれる。
【0076】
S14で読み込まれた外部情報に基づいて、目標吸入圧力設定手段410は、基準圧力Pe及び第1補正量P1を演算し(S16)、この後、目標吸入圧力設定ルーチンS18を実行して目標吸入圧力Pssを演算する。
目標吸入圧力設定ルーチンS18で演算された目標吸入圧力Pssに基づいて、制御信号演算手段411は、コイル254に供給されるべき制御電流Iを演算する(S20)。そして、制御信号演算手段411は、演算した制御電流Iが所定の下限値Imin以上であるか否か比較・判定する(S22)。制御電流Iが下限値Iminよりも小さい場合、制御信号演算手段411は、下限値Iminを制御電流Iとして読み込み(S24)、下限値Iminを制御電流Iとして出力する(S26)。S26で出力された制御電流Iは、ソレノイド駆動手段412に入力され、ソレノイド駆動手段412によって、コイル254に供給される制御電流Iが調整される。
【0077】
一方、S22の判定結果において、演算された制御電流Iが下限値Imin以上である場合、制御信号演算手段411は、演算した制御電流Iが所定の上限値Imax以下であるか否か比較・判定する(S28)。制御電流Iが上限値Imaxを超えている場合、制御信号演算手段411は、上限値Imaxを制御電流Iとして読み込み(S30)、上限値Imaxを制御電流Iとして出力する(S26)。
【0078】
S28の判定結果において、演算された制御電流Iが上限値Imax以下である場合、制御信号演算手段411は、S20で演算された制御電流Iを出力する(S26)。
S26の後、プログラムはS12に戻るが、S12でエアコンスイッチがオフの場合(Noの場合)、フラグFが1であるか否か判定される(S32)。S32でフラグFが1である場合、フラグFがゼロに設定されるとともに、タイマがリセットされる(S34)。また、S32でフラグFが1である場合、制御電流Iとして初期値Iが再び読み込まれ(S36)、初期値Iが制御電流Iとして出力される(S26)。
【0079】
一方、S32でフラグFが1ではなくゼロである場合には、制御電流Iは初期値Iのままであり、初期値Iが制御電流Iとして出力される(S26)。
図8は、目標吸入圧力演算ルーチンS18の詳細を示すフローチャートである。
目標吸入圧力演算ルーチンS18では、まずフラグFが1であるか否か判定される(S100)。フラグFの初期値はゼロであるため、1回目のS100の判定結果は必ずNoとなる。S100の判定結果がNoの場合、タイマがスタートされて経過時間tが計測され(S102)、フラグFが1に設定される(S104)。
【0080】
この後、蒸発器目標温度設定手段401で設定された蒸発器目標出口空気温度Tesと蒸発器温度センサ402で検知された蒸発器出口空気温度Teとの差(温度偏差ΔT)が演算される(S106)。また、吐出容量判定手段414によって、圧縮機100の吐出容量が最大吐出容量であるか否か判定される(S108)。
なお、S108での吐出容量の判定ついては、吐出容量判定手段414が、自身に入力された蒸発器目標出口空気温度Tes、外気温度Ta、日射量Ws、蒸発器ファン電圧VL及び車速VSを、マップと照合することによって行う。
【0081】
それから、S102のタイマのスタートからの経過時間tが所定の閾値時間ta未満であるか否か、即ちタイムアップしたか否かが判定され(S110)、経過時間tが閾値時間ta未満である場合、目標吸入圧力Pssが所定の演算式:Pss=Pe―P1+P2によって演算される(S112)。なお、第2補正量P2の初期値はゼロである。S112で目標吸入圧力Pssが演算されると、目標吸入圧力演算ルーチンS18からメインルーチンのS20に戻る。
【0082】
一方、S110において、経過時間tが閾値時間ta以上でありタイムアップしている場合、タイマがリセットされる(S113)とともに、フラグFがゼロに設定される(S114)。また、閾値時間taの間における温度偏差ΔTの平均値として、平均温度偏差ΔTmが演算されるとともに(S116)、閾値時間taの間における蒸発器出口空気温度Teの平均変化率αが演算される(S118)。
【0083】
より詳しくは、目標吸入圧力演算ルーチンS18が繰り返し実行され、その度にS105で温度偏差ΔTが演算される。平均温度偏差ΔTmは、閾値時間taの間に繰り返し演算された温度偏差ΔTの相加平均である。
一方、平均変化率αは、S102のタイマスタートの直前にS12で読み込まれた蒸発器出口空気温度Teと、S110でタイムアップする直前にS12で読み込まれた蒸発器出口空気温度Teとの差を、閾値時間taで除して得られる値である。
【0084】
S118の後、目標吸入圧力Pssの演算式を補正するか否かが判定される(S120)。本実施形態では、判定基準が満たされたとき、則ち前述の(i)〜(iii)の3つの条件が全て揃ったときにのみ、演算式が補正される。
S120で目標吸入圧力Pssの演算式を補正することが決定されると、補正手段415は、演算式中の第2補正量P2の変更量ΔP2を演算する(S122)。具体的には、補正手段415は、平均温度偏差ΔTmが縮小するように、平均温度偏差ΔTmを変数として含む関数:ΔP2=h(ΔTm)に基づいて変更量ΔP2を演算する。
【0085】
そして、補正手段415は、好ましくは、記憶手段413に記憶されている現在の第2補正量P2に変更量ΔP2を足した暫定値が、所定の下限値−σ未満であるか、所定の上限値σを超えているか、下限値―σ以上上限値σ以下であるか判定する(S124)。S124の判定の結果、暫定値が下限値―σ以上で且つ上限値σ以下である場合、記憶手段413に記憶されている第2補正量P2が、S122で演算された暫定値へと更新され(S126)、更新後の演算式に基づいて目標吸入圧力Pssが演算される(S112)。
【0086】
一方、S124の判定の結果、暫定値が下限値−σ未満の場合には、記憶手段413に記憶されている第2補正量P2が下限値−σへと更新され(S128)、暫定値が上限値σを超えている場合には記憶手段413に記憶されている第2補正量P2が上限値σへと更新される(S130)。
つまり、第2補正量P2は下限値−σ以上且つ上限値σ以下の範囲内に制限されるのが好ましい。ここで、上限値σのσは正の値であり、好ましくは、基準圧力Peと第1補正量P1との和に基づいて設定される。
【0087】
なお、更新された第2補正量P2は、制御装置400Aの電源がオフ状態にされてメインルーチンが停止されても記憶手段413にて維持され、メインルーチンが再開されたときに用いられる。
以下、本発明の第2実施形態の容量制御システムBについて説明する。
容量制御システムBは、容量制御弁200に代えて、図9に示された容量制御弁300を用いて圧縮機100の吐出容量を制御する。
【0088】
より詳しくは、容量制御弁300は、弁ユニットと弁ユニットを開閉作動させる駆動ユニットとからなる。弁ユニットは、円筒状の弁ハウジング301を有し、弁ハウジング301の一端には入口ポート(弁孔301a)が形成されている。弁孔301aは、給気通路160の上流側部分を介して吐出室142と連通し、且つ、弁ハウジング301の内部に区画された弁室303に開口している。
【0089】
弁室303内には、円柱状の弁体304が収容されている。弁体304は、弁室303内を弁ハウジング301の軸線方向に移動可能であり、弁ハウジング301の端面に当接することで弁孔301aを閉塞可能である。すなわち、弁ハウジング301の端面は弁座として機能する。
また、弁ハウジング301の外周面には出口ポート301bが形成され、出口ポート301bは、給気通路160の下流側部分を介してクランク室105と連通する。出口ポート301bも弁室303に開口しており、弁孔301a、弁室303及び出口ポート301bを通じて、吐出室142とクランク室105とは連通可能である。
【0090】
駆動ユニットは円筒状のソレノイドハウジング310を有し、ソレノイドハウジング310は弁ハウジング301の他端に同軸的に連結されている。ソレノイドハウジング310の開口端は、エンドキャップ312によって閉塞され、ソレノイドハウジング310内には、ボビン314に巻回された円筒形のコイル(ソレノイドコイル)316が収容されている。
【0091】
またソレノイドハウジング310内には、同心上に円筒状の固定コア318が収容され、固定コア318は、弁ハウジング301からエンドキャップ312に向けてコイル316の中央まで延びている。固定コア318のエンドキャップ312側はスリーブ320によって囲まれ、スリーブ320は、エンドキャップ312側に閉塞端を有する。
固定コア318は、中央に挿通孔318aを有し、挿通孔318aの一端は弁室303に開口している。また、固定コア318とスリーブ320の閉塞端との間には、円筒状の可動コア322を収容する可動コア収容空間324が規定され、挿通孔318aの他端は、可動コア収容空間324に開口している。
【0092】
挿通孔318aには、ソレノイドロッド326が摺動可能に挿通され、ソレノイドロッド326の一端に弁体304が一体且つ同軸的に連結されている。ソレノイドロッド326の他端は可動コア収容空間324内に突出し、ソレノイドロッド326の他端部は、可動コア322に形成された貫通孔に嵌合され、ソレノイドロッド326と可動コア322とは一体化されている。また、可動コア322の段差面と固定コア318の端面との間には、開放ばね328が配置され、可動コア322と固定コア318との間には所定の隙間が確保されている。
【0093】
可動コア322、固定コア318、ソレノイドハウジング310及びエンドキャップ312は磁性材料で形成され、磁気回路を構成する。スリーブ320は非磁性材料のステンレス系材料で形成されている。
ソレノイドハウジング310には感圧ポート310aが形成され、感圧ポート310aには、感圧通路166を介して吸入室140が接続されている。固定コア318の外周面には、軸線方向に延びる感圧溝318bが形成され、感圧ポート310aと感圧溝318bとは互いに連通している。従って、感圧ポート310a及び感圧溝318bを通じて、吸入室140と可動コア収容空間324とが連通し、ソレノイドロッド326を介して、弁体304の背面側には、閉弁方向に吸入室140の圧力、則ち吸入圧力Psが作用する。
【0094】
コイル316には、圧縮機100の外部に設けられた制御装置400Bが接続され、制御装置400Bから制御電流Iが供給されると、コイル316は電磁力G(I)を発生する。コイル316の電磁力G(I)は、可動コア322を固定コア318に向けて吸引し、弁体304に対して閉弁方向に作用する。
容量制御弁300にあっては、好ましくは、弁体304が弁孔301aを閉じた時に吐出室142の圧力、則ち吐出圧力Pdが作用する弁体304の受圧面積(シール面積Svと呼ぶ)と、吸入圧力Psが作用する弁体304の面積、即ちソレノイドロッド326の断面積とが同等に形成される。
【0095】
この場合、弁体304には、開閉方向にクランク室105の圧力、則ちクランク圧力Pcは、実質的にほとんど作用しない。従って、弁体304に作用する力は、吐出圧力Pdと、吸入圧力Psと、コイル316の電磁力G(I)と、開放ばね328の付勢力fs3であり、吐出圧力Pd及び開放ばね328の付勢力fs3は開弁方向、それ以外の吸入圧力Ps及びコイル316の電磁力G(I)は、開弁方向とは対抗する閉弁方向に作用する。
【0096】
この関係は、式(4)で示され、式(4)を変形すると式(5)となる。これらの式(4)、(5)から、吐出圧力Pdと、電磁力G(I)即ち制御電流Iが決まれば、吸入圧力Psが決まることがわかる。なお、G(I)=B・I(ただし、Bは定数)とした。
【0097】
【数3】

【0098】
このような関係に基づけば、図10及び式(6)に示したように、吸入圧力Psの目標値として目標吸入圧力Pssを予め決定し、変動する吐出圧力Pdの情報がわかれば、発生させるべき電磁力G(I)つまり制御電流Iを演算できる。そして、コイル316に供給される制御電流Iをこの演算された制御電流Iに等しくなるよう調整すれば、吸入圧力Psが目標吸入圧力Pssに近付くように弁体304が動作し、クランク圧力Pcが調整される。すなわち、吸入圧力Psが目標吸入圧力Pssに近付くように吐出容量が制御される。
【0099】
このように吸入圧力Psを目標吸入圧力Pssに近付けるような制御では、図10を参照すれば、最小の吐出圧力Pdminから最大の吐出圧力Pdmaxに渡る吐出圧力Pdの高低に応じて、目標吸入圧力Pssの設定範囲、換言すれば吸入圧力Psの制御範囲を高低スライド可能である。すなわち、任意の吐出圧力Pd1のときの吸入圧力Psの制御範囲は、吐出圧力Pd1よりも低い吐出圧力Pd2のときの吸入圧力Psの制御範囲よりも高圧側にスライドさせられる。このため容量制御システムBによれば、熱負荷が高い領域であっても、吐出容量制御が可能となる。
【0100】
また式(5)から、シール面積Svを小さく設定すれば、小さな電磁力G(I)で、任意の吐出圧力Pdにおける目標吸入圧力Pssの制御範囲を拡大可能であることがわかる。上記目標吸入圧力Pssの制御範囲のスライドと、この制御範囲の拡大との相乗効果を発揮させれば、目標吸入圧力Pssの制御範囲が大幅に拡大される。このため容量制御システムBによれば、熱負荷が高い領域であっても、圧縮機100の起動直後から吐出容量制御が可能となる。
【0101】
なお、コイル316への通電量を増加させると、吸入圧力Psを低下させることができる。一方、コイル316への通電量をゼロとすれば、開放ばね328の付勢力fs3により弁体304が離間して弁孔301aが強制開放される。これにより吐出室142からクランク室105に冷媒が導入され、吐出容量は最小に維持される。
図11は、制御装置400Bを含む容量制御システムBの概略構成を示したブロック図である。
【0102】
容量制御システムBは、圧力センサ451及び圧力補正手段452を有し、且つ、制御信号演算手段411に代えて制御信号演算手段453を有する点において、容量制御システムAとは異なる。よって、以下では、圧力センサ451、圧力補正手段452及び制御信号演算手段453について説明する。
容量制御システムBでは、外部情報検知手段が吐出圧力検知手段を含み、吐出圧力検知手段は、その一部を構成する圧力センサ451を有する。吐出圧力検知手段は、吐出室142の冷媒の圧力である吐出圧力Pdを検知するための手段である。圧力センサ451は、放熱器14の入口側に装着され(図1参照)、当該部位における冷媒の圧力(以下、検知圧力Phという)を検知し、制御装置400Bの圧力補正手段452に入力する。
【0103】
なお、吐出圧力Pd及び検知圧力Phは、冷凍サイクル10の吐出圧力領域の圧力という一般的な意味においては、いずれも吐出圧力である。冷凍サイクル10の吐出圧力領域とは、吐出室142から放熱器14の入口までの領域をさす。また、冷凍サイクル10の高圧領域とは、吐出室142から膨張器16の入口までの領域をさす。圧力センサ451は、高圧領域のいずれかの部位で冷媒の圧力を検知することができればよい。
【0104】
これに対し、冷凍サイクル10の吸入圧力領域とは、蒸発器18の出口から吸入室140に亘る領域をさす。また、吐出圧力領域及び高圧領域には、圧縮工程にあるシリンダボア101aも含まれ、吸入圧力領域には、吸入工程にあるシリンダボア101aも含まれる。
圧力補正手段452は、圧力センサ451とともに吐出圧力検知手段を構成しており、圧力センサ451によって検知された検知圧力Phを補正することにより、吐出圧力Pdを演算により求める。そして、圧力補正手段452は、演算した吐出圧力Pdを制御信号演算手段453に入力する。
【0105】
このように検知圧力Phを補正するのは、吐出室142と放熱器14の入口との間では、同じ吐出圧力領域であっても、特に熱負荷が大きいときには、冷媒の圧力に差が生じるためである。吐出圧力Pdは、検知圧力Phを変数とする関数Pd=j(Ph)によって演算することができる。関数j(Ph)は予め求めておくことができる。
制御信号演算手段453は、目標吸入圧力設定手段410によって設定された目標吸入圧力Pssと、圧力補正手段452によって演算された吐出圧力Pdとに基づいて、制御電流Iを演算する。このとき制御信号演算手段453は、前述した式(6)に基づいて、制御電流Iを演算することができる。
【0106】
図12は、容量制御システムBが実行するメインルーチンを示している。容量制御システムBのメインルーチンにおいて、容量制御システムAのメインルーチンと同一のステップについては、目標吸入圧力演算ルーチンS18を含め、同じ符号を付して説明を省略する。
容量制御システムBのメインルーチンでは、センサ入力等読込ステップS37において、圧力センサ451で検知された検知圧力Phが更に読み込まれる。そして、圧力補正手段452が検知圧力Phから吐出圧力Pdを演算する(S38)。なお、吐出圧力演算ステップ(S38)は、センサ入力等読込ステップS37と制御電流演算ステップS44との間に実行されればよい。
【0107】
また、容量制御システムBのメインルーチンでは、目標吸入圧力演算ルーチンS18で演算された目標吸入圧力Pssが、所定の下限値PssL以上であるか否か比較・判定される(S40)。目標吸入圧力Pssが下限値PssL未満の場合、下限値PssLが目標吸入圧力Pssとして読み込まれ(S42)、制御信号演算手段453が、目標吸入圧力Pss及び吐出圧力Pdを演算式に代入して制御電流Iを演算する(S44)。
【0108】
S40において、目標吸入圧力演算ルーチンS18で演算された目標吸入圧力Pssが下限値PssL以上の場合、演算された目標吸入圧力Pssが所定の上限値PssH以下であるか否か比較・判定される(S46)。S46において、目標吸入圧力Pssが上限値PssHを超えている場合、上限値PssHが目標吸入圧力Pssとして読み込まれ(S48)、制御信号演算手段453が、目標吸入圧力Pss及び吐出圧力Pdを演算式に代入して制御電流Iを演算する(S44)。
【0109】
またS46において、目標吸入圧力演算ルーチンS18で演算された目標吸入圧力Pssが上限値PssH以下の場合、目標吸入圧力演算ルーチンS18で演算された目標吸入圧力Pss及び吐出圧力演算ステップS38で演算された吐出圧力Pdを演算式に代入して制御電流Iが演算される(S44)。
上述した可変容量圧縮機100の容量制御システムA,Bでは、制御装置400A,400Bが、判定基準が満たされたときのみ、蒸発器温度センサ402によって検知された蒸発器出口空気温度Teに基づいて目標吸入圧力Pssの演算式を補正する。つまり、吐出容量は、基本的にはフィードフォワード制御され、判定基準が満たされたときのみフィードバック制御される。
【0110】
この結果として、容量制御システムA,Bによれば、フィードバック制御の頻度が低減されて吐出容量の不安定化が抑制され、吐出容量が安定に制御される。
また、判定基準に含まれる1つの条件(i)として、吐出容量が最大吐出容量よりも閾値時間ta以上の間連続して小さいときは、吐出容量は比較的安定に制御されている。このときに検知した蒸発器出口空気温度Teと蒸発器目標出口空気温度Tesとの偏差ΔTに基づいて制御電流Iを調整すれば、偏差ΔTが低減され、容量制御の精度が向上する。
【0111】
上述した容量制御システムA,Bでは、判定基準が、蒸発器温度センサ402で検知される蒸発器出口空気温度Teの閾値時間taにおける平均変化率αが上限値以下であるという条件(ii)を更に含む。このため、判定基準が1つの条件(i)のみを含むときに比べ、更に限定された条件下でのみ吐出容量がフィードバック制御され、フィードバック制御の頻度がより一層低減される。
【0112】
この結果として、容量制御システムA,Bによれば、吐出容量の不安定化が更に抑制され、吐出容量がより一層安定に制御される。
また、蒸発器出口空気温度Teの閾値時間taにおける平均変化率αが上限値β以下のときも、吐出容量は比較的安定に制御されている。このときに検知した蒸発器出口空気温度Teと蒸発器目標出口空気温度Tesとの偏差ΔTに基づいて制御電流Iを調整すれば、偏差ΔTが低減され、容量制御の精度が向上する。
【0113】
上述した容量制御システムA,Bでは、判定基準が、蒸発器目標出口空気温度Tesと蒸発器出口空気温度Teとの偏差Δの閾値時間taにおける平均値ΔTmが下限値γ以上であるという条件(iii)を更に含む。このため、更に限定された条件下でのみ吐出容量がフィードバック制御され、フィードバック制御の頻度がより一層低減される。
この結果として、容量制御システムA,Bによれば、吐出容量の不安定化が更に抑制され、吐出容量がより一層安定に制御される。
【0114】
また、偏差ΔTの閾値時間taにおける平均値、則ち平均温度偏差ΔTmが下限値γを下回っているときにフィードバック制御を行わないことで、偏差ΔTをそれ以上小さくしようとして却って吐出容量が不安定になるという事態が回避される。この結果としても、容量制御システムA,Bによれば、吐出容量の不安定化が抑制され、吐出容量が安定に制御される。
【0115】
上述した容量制御システムA,Bは、目標吸入圧力Pssに吸入圧力Psが近付くように吐出容量を制御する吸入圧力制御方式を採用しているけれども、蒸発器目標出口空気温度Tes及び冷凍サイクル10にかかる熱負荷に基づいて目標吸入圧力Pssが設定されている。このため、フィードバック制御の頻度が少なくても、目標吸入圧力Pssが吸入圧力Psに近付くことにより、蒸発器出口空気温度Teが蒸発器目標出口空気温度Tesに確実に近付く。
【0116】
また、容量制御システムA,Bでは、蒸発器目標出口空気温度Tes及び冷凍サイクル10にかかる熱負荷に加えて、圧縮機100の回転数に相当する物理量としての車速VSにも基づいて目標吸入圧力Pssが的確に設定されている。この結果として、偏差ΔTが一層低減される。
上述した容量制御システムA,Bでは、演算式が補正される毎に更新されることによって、フィードバック制御の頻度が少なくても、偏差ΔTが確実に低減される。
【0117】
上述した容量制御システムA,Bでは、第2補正量P2が所定の範囲内に制限されることによって、例えば容量制御システムA,Bに何らかの異常が発生したとしても、演算式が初期のものから大きく変更されることが防止される。
上述した容量制御システムAでは、フィードバック制御の頻度が低減されるけれども、感圧器228によって吐出容量が機械的にフィードバック制御されることで、偏差ΔTが確実に低減される。
【0118】
上述した容量制御システムBによれば、吸入圧力Psについてみたときに広い範囲に渡って、吐出容量が安定に制御される。すなわち、容量制御システムBでは、弁体304に作用する吐出圧力Pdに対し、吸入圧力Psとコイル316の電磁力G(I)とが対抗する方向に作用するため、吸入圧力Psの制御範囲が広い。
本発明は、上述した第1実施形態及び第2実施形態に限定されることはなく、種々の変形が可能である。
【0119】
第1実施形態及び第2実施形態では、目標吸入圧力演算ルーチンS18の演算式更新判定ステップS120において、演算式を更新するか否かの判定基準に、前述の(i)〜(iii)の条件が含まれていたが、少なくとも(i)の条件が含まれていればよい。
従って、判定基準には、(i)単独、(i)と(ii)との組み合わせ、(i)と(iii)との組み合わせ、及び、(i)と(ii)と(iii)との組み合わせの4通りがある。これら4通りの判定基準のそれぞれに、更に、蒸発器ファン電圧検知手段405で検知されたファン電圧VLが所定の上限値以下であるという条件を含ませてもよい。
【0120】
蒸発器ファン電圧VLが上限値以下であるという条件は、蒸発器18への送風量が上限値以下、若しくは少ないときという条件と同じであり、蒸発器18への送風量が上限値以下であるという条件を判定基準に含ませてもよい。蒸発器18への送風量が少ないときは、冷凍サイクル10に対する熱負荷が小さく、第1補正量P1の演算誤差も小さくなる。このため、第2補正量P2を更新することによって目標吸入圧力Pssに吸入圧力Psを的確に近付けることができる。
【0121】
第1実施形態及び第2実施形態では、目標吸入圧力Pssの演算式を更新するか否かは、所定の閾値時間ta毎に判定されるが、演算式が更新されるたびに、閾値時間taを長くしてもよい。演算式を更新することにより、目標値である蒸発器目標出口空気温度Tesと制御対象である蒸発器出口空気温度Teとのオフセットが縮小され、蒸発器目標出口空気温度Tesに蒸発器出口空気温度Teが良く一致するようになる。このため、頻繁に更新の判定を行う必要がなく、閾値時間taを長くしてフィードバック制御の頻度を更に減少させることで、吐出容量がより一層安定する。
【0122】
第1実施形態及び第2実施形態では、制御対象が蒸発器出口空気温度Teであったけれども、制御対象はこれに限定されることはない。例えば、制御対象を、冷凍回路10の高圧領域の冷媒の圧力、高圧領域の冷媒の温度、圧縮機100のシリンダーブロック101、フロントハウジング102又はリアハウジング104の温度(ハウジング温度)、圧縮機100の駆動トルクとしてもよい。
【0123】
第1実施形態及び第2実施形態では、冷凍サイクル10にかかる熱負荷についての情報(熱負荷情報)として、外気温度Ta、日射量Ws及び蒸発器ファン電圧VLを検知したけれども、熱負荷情報はこれらに限定されない。
例えば、熱負荷情報として、外気湿度、車両用空調システムの各種設定(内外気切換ドア位置、車内温度設定、吹き出し口位置、エアミックスドア位置)、車内温度、車内湿度、蒸発器入口空気温度、蒸発器入口空気湿度、車室内各部表面温度、高圧領域又は低圧領域の圧力又は湿度、車両の乗員数等を検知してもよい。ただし、熱負荷を精度良く検知するために、熱負荷検知手段は、外気温度センサ403と蒸発器ファン電圧検知手段405とを少なくとも有するのが好ましい。
【0124】
第1実施形態及び第2実施形態では、エンジン114又は圧縮機100の回転数を検知する手段として車速センサ406を使用したが、エンジン114又は圧縮機100の回転数を直接検知する手段を用いてもよい。
第1実施形態及び第2実施形態において、ソレノイド駆動手段412は、コイル254,316に供給されている制御電流Iを検知すべく、電流センサ436を有していたが、電流センサ436の配置は、制御電流Iを検知可能であれば特に限定されない。また、制御電流Iを検知可能であれば、電流センサ436に代えて、電圧計等の他の手段を用いてもよい。
【0125】
また、ソレノイド駆動手段412は、制御電流Iを検知するための手段を有していなくてもよい。この場合、目標吸入圧力Pss又は制御電流Iとスイッチング素子430を駆動するデューティ比との相関を予め求めておけばよい。そして、当該相関に基づいて、制御信号演算手段411が目標吸入圧力Pss又は制御電流Iからデューティ比を演算し、演算したデューティ比をソレノイド駆動手段412に入力すればよい。
【0126】
第1実施形態及び第2実施形態では、容量制御システムA,Bの制御装置400A,Bが独立していたけれども、制御装置400A,Bを、空調システム全体の動作を制御するエアコン用ECUの一部として構成してもよい。
第1実施形態では、容量制御弁200の弁体210に対して開閉方向に吐出圧力Pd及びクランク圧力Pcが作用していなかったが、弁体に対して開閉方向に吐出圧力Pd又はクランク圧力Pcが作用する容量制御弁を用いてもよい。
【0127】
第2実施形態では、容量制御弁300の弁体304に対して開閉方向に吐出圧力Pd及び吸入圧力Psが作用していたが、弁体に対して更にクランク圧力Pcが作用する容量制御弁を用いてもよい。
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bが適用された圧縮機100は、クラッチレス圧縮機であったが、容量制御システムA,Bは、電磁クラッチを装着した圧縮機にも適用可能である。圧縮機100は斜板式の往復動圧縮機であったけれども、揺動板式の往復動圧縮機であってもよい。揺動板式の圧縮機は、揺動板を揺動させるための要素を有し、斜板107及びこの要素をまとめて斜板要素という。圧縮機100は、電動モータで駆動されるものであってもよい。
【0128】
更に、容量制御システムA,Bは、スクロール式やベーン式の可変容量圧縮機にも適用可能である。すなわち、弁体にソレノイドユニットの電磁力が作用する容量制御弁を用いて、吐出容量を変化させるための制御圧力を容量制御弁の弁開度によって変化させることができれば、あらゆる可変容量圧縮機に適用可能である。
なお、制御圧力とは、往復動圧縮機の場合には、クランク室の圧力(クランク圧力Pc)である。
【0129】
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bが適用された圧縮機100では、抽気通路162の流量を規制してクランク圧力Pcを昇圧するために、抽気通路162に絞り要素として固定オリフィス103cを配置したが、絞り要素として、流量可変の絞りを用いてもよく、また、弁を配置して弁開度を調整してもよい。
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bでは、容量制御弁200,300は、吐出室142とクランク室105との間を繋ぐ給気通路160に配置されていたけれども、圧縮機100が斜板式又は揺動板式の場合、給気通路160に容量制御弁200,300を配置せずに、クランク室105と吸入室140との間を繋ぐ抽気通路162に容量制御弁を配置してもよい。即ち、給気通路160の開度を制御する入口制御に限定されず、抽気通路162の開度を制御する出口制御であってもよい。
【0130】
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bが適用される冷凍サイクル10では、冷媒はR134aや二酸化炭素に限定されず、その他の新冷媒を使用してもよい。つまり、容量制御システムA,Bは、従来の空調システムにも適用可能である。
最後に、本発明に係る可変容量圧縮機の容量制御システムは、車両用空調システム以外の室内用空調システム等、空調システム全般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】第1実施形態の容量制御システムを適用した車両用空調システムの冷凍サイクルの概略構成を可変容量縮機の縦断面とともに示す図である。
【図2】図1の冷凍サイクルに用いられた容量制御弁の概略構成を、圧縮機における容量制御弁の接続状態とともに説明するための図である。
【図3】図1の冷凍サイクルにおける、容量制御弁の制御電流と目標吸入圧力との関係を示すグラフである。
【図4】第1実施形態の容量制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【図5】図1の冷凍サイクルにおける、熱負荷と目標吸入圧力との関係を示すグラフである。
【図6】図4中のソレノイド駆動手段の詳細を示すブロック図である。
【図7】図4の容量制御システムが実行するメインルーチンを示す制御フローチャートである。
【図8】図7のメインルーチンに含まれる目標吸入圧力演算ルーチンの制御フローチャートである。
【図9】第2実施形態の容量制御システムに用いられる容量制御弁の概略構成を、圧縮機における容量制御弁の接続状態とともに説明するための図である。
【図10】図11の容量制御弁における、制御電流、目標吸入圧力及び吐出圧力の関係を示すグラフである。
【図11】第2実施形態の容量制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【図12】図11の容量制御システムが実行するメインルーチンを示す制御フローチャートである。
【符号の説明】
【0132】
254 コイル
400A 制御装置
402 蒸発器温度センサ(制御対象検知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調システムの冷凍サイクルを構成すべく冷媒が循環する循環路に放熱器、膨張器及び蒸発器とともに介挿される可変容量圧縮機に適用され、前記空調システムの制御量が目標値に近付くように、前記可変容量圧縮機の吐出容量を制御圧力の調整により制御する容量制御システムにおいて、
前記制御量を検知する制御対象検知手段と、
開閉作動によって前記制御圧力を調整可能な電磁制御弁と、
演算式に基づいて前記目標値から吐出容量制御信号を演算し、前記吐出容量制御信号に対応した制御電流を前記電磁制御弁に供給する制御装置とを具備し、
前記制御装置は、判定基準が満たされたときのみ前記制御対象検知手段によって検知された制御量と前記目標値との偏差に基づいて前記演算式を補正し、
前記判定基準は、前記可変容量圧縮機の吐出容量が最大吐出容量よりも閾値時間以上の間連続して小さいという条件を含む
ことを特徴とする可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項2】
前記判定基準は、前記制御対象検知手段で検知される制御量の前記閾値時間の間における平均変化率が上限値以下であるという条件を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項3】
前記蒸発器に対する送風量を検知する蒸発器送風量検知手段を更に具備し、
前記判定基準は、前記蒸発器送風量検知手段で検知される蒸発器の送風量が上限値以下であるという条件を更に含む
ことを特徴とする請求項2に記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項4】
前記判定基準は、前記制御目標設定手段で設定された目標値と、前記制御対象検知手段で検知された制御量との偏差の前記閾値時間における平均値が下限値以上であるという条件を更に含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項5】
前記冷凍サイクルの熱負荷を検知する熱負荷検知手段を更に備え、
前記制御装置は、
前記目標値及び前記熱負荷検知手段で検知された熱負荷に基づいて、吸入圧力の目標である目標吸入圧力を設定する目標吸入圧力設定手段と、
前記目標吸入圧力設定手段で設定された目標吸入圧力から前記吐出容量制御信号を演算するための演算式を前記演算式として記憶した記憶手段と、
前記制御対象検知手段によって検知された制御量に基づいて前記記憶手段に記憶されている演算式を補正する補正手段と
を備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項6】
前記可変容量圧縮機の回転数に相当する物理量を検知する回転数検知手段を更に備え、
前記目標吸入圧力設定手段は、前記目標値、前記熱負荷、及び、前記回転数検知手段で検知された物理量に基づいて前記目標吸入圧力を設定する
ことを特徴とする請求項5に記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項7】
前記記憶手段に記憶されている演算式は、前記補正手段によって補正された演算式によって更新されることを特徴とする請求項5又は6に記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項8】
前記閾値時間は、前記演算式が補正される毎に増大されることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項9】
前記補正手段による前記演算式の補正量は、最初の演算式を基準として設定される範囲内に制限されることを特徴とする請求項5乃至8の何れかに記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項10】
前記電磁制御弁は、吸入圧力に応答して前記制御圧力を機械的に制御する感圧器を有することを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。
【請求項11】
前記電磁制御弁は、吐出圧力が吸入圧力及びソレノイドユニットの電磁力に対して対向する方向に作用する弁体を有することを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−156130(P2009−156130A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334210(P2007−334210)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】