説明

可変容量型タービン

【課題】流入容積を絞り込んだ場合のタービン効率を従来よりも向上させる。
【解決手段】タービンインペラ4の回転軸方向に軸支された複数のノズルベーン5cによってスクロール流路R1からタービンインペラ4に流入する駆動ガスの流入容積を可変設定する可変容量型タービンAであって、ノズルベーン5cをタービンインペラ4の先端方向に押圧する付勢手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量型タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、一般にはVGS(Variable Geometry System)と称する機能が搭載された可変容量型タービンが開示されている。この可変容量型タービンは、渦巻室と羽根車との間に設けられたノズル室に複数の可動ノズルを設け、該可動ノズルによって渦巻室から羽根車に流入するガス(羽根車を回転駆動するためのガス)の入口容積(流入容積)を可変設定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−229815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の可変容量型タービンは、可動ノズルによって流入容積を絞り込んだ場合のタービン効率が、流入容積を開けた場合のタービン効率よりも低下するという問題点がある。このような問題は、より広いレンジで可変容量型タービンを運転させる場合に特に重要な技術課題である。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、流入容積を絞り込んだ場合のタービン効率を従来よりも向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の解決手段として、タービンインペラの回転軸方向に軸支された複数のノズルベーンによってスクロール流路からタービンインペラに流入する駆動ガスの流入容積を可変設定する可変容量型タービンであって、ノズルベーンをタービンインペラの先端方向に押圧する付勢手段を備える、という手段を採用する。
【0007】
第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、付勢手段は、複数のノズルベーンを駆動するリンク機構が収容されると共にノズルベーンに対してタービンインペラの基端側に設けられるリンク室に、付勢用ガスを流入させることによってノズルベーンをタービンインペラの先端方向に押圧する、という手段を採用する。
【0008】
第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、付勢用ガスは、スクロール流路から分離して得られる駆動ガスの一部である、という手段を採用する。
【0009】
第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、スクロール流路とリンク室との間に設けられたシールド部材に開口を設けて駆動ガスの一部を付勢用ガスとしてリンク室に取り込む、という手段を採用する。
【0010】
第5の解決手段として、上記第2〜第4のいずれかの解決手段において、スクロール流路を形成するタービンハウジングと第1支持板との隙間を介してリンク室に付勢用ガスを流入させる、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、付勢用ガスを流入させることによってノズルベーンをタービンインペラの先端方向に押圧するので、流入容積を絞り込んだ場合のタービン効率を従来よりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るラジアルタービンA(可変容量型タービン)の要部構成を示す断面図である。
【図2】図1におけるX線矢視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るラジアルタービンA(可変容量型タービン)におけるノズルベーン5cの位置を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態において、ノズルベーン5cの位置に応じたタービン効率の変化を示すグラフ(実験結果)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るラジアルタービンAは、図1に示すように、軸受ハウジング1、タービンハウジング2、回転軸3、タービンインペラ4、ノズルユニット5、シールド部材6〜8及び支持部材9によって構成されている。また、ノズルユニット5は、第1支持板5a、第2支持板5b、複数のノズルベーン5c及びリンク板5d等から構成されている。
【0014】
軸受ハウジング1は、回転軸3を回転自在に支持する鋳造部品であり、ボルトによってタービンハウジング2を連結固定されている。タービンハウジング2は、内部に駆動ガスGが流通すると共にタービンインペラ4が収納された流路が形成された鋳造部品である。この流路は、図示するように、スクロール流路R1、駆動流路R2及び排気流路R3から構成されている。スクロール流路R1は、タービンインペラ4の周りにスクロール状に形成された領域である。駆動流路R2は、上記スクロール流路R1を通過した駆動ガスGがタービンインペラ4に作用する領域である。排気流路R3は、タービンインペラ4に作用した駆動ガスG(排ガス)を外部に排出するための領域である。
【0015】
回転軸3は、一端がタービンインペラ4の基端部に固着した棒状部材であり、一点鎖線で示す回転中心周りに回転可能なように、上記軸受ハウジング1に支持されている。タービンインペラ4は、所定枚数の翼4aが所定間隔で放射状に設けられた羽根車である。ノズルユニット5は、図示するように、上記スクロール流路R1と駆動流路R2との境界に位置する箇所(駆動流路R2の入口)に設けられており、ノズルベーン5cの回動角によってスクロール流路R1から駆動流路R2(タービンインペラ4)に流入する駆動ガスGの流入容積を可変設定するものである。
【0016】
すなわち、本ラジアルタービンAを回転軸3(タービンインペラ4)の回転中心方向から見ると、本ラジアルタービンAは、中央部にタービンインペラ4が位置し、該タービンインペラ4の外周に略リング形状のノズルユニット5が位置し、このノズルユニット5の外周にスクロール状のスクロール流路R1が位置するように構成されている。
【0017】
上記ノズルユニット5についてさらに詳しく説明ると、当該ノズルユニット5を構成する各構成要素のうち、第1支持板5a及び第2支持板5bは、複数のノズルベーン5cを回動自在に挟持する略リング形状の板部材である。第1支持板5aは、外形及び内径ともに円形な平板部材であり、図示するようにスクロール流路R1と面一な状態でタービンインペラ4の基端部側(回転軸3)に配置される。これに対して、第2支持板5bは、外形及び内径ともに円形であるものの、断面形状が図示するようにL字型の部材であり、タービンインペラ4の先端部側(回転軸3の反対側)に配置されている。
【0018】
ノズルベーン5cは、第1支持板5aあるいは第2支持板5bに嵌め合う軸部5e、5fが両側にそれぞれ形成された翼体である。このノズルベーン5cは、一対の軸部5e、5fによって形成される軸芯が一点鎖線で示すタービンインペラ4(回転軸3)の回転中心と同一方向であり、所定数が所定間隔を隔てて円環状に配置されている。
【0019】
リンク板5dは、図示するように、軸受ハウジング1、タービンハウジング2及び第1支持板5aによって形成される空間(リンク室K)に収納されるリング形状の板部材である。このリンク板5dは、各ノズルベーン5cに備えられた一対の軸部5e、5fのうち、タービンインペラ4の基端側に位置する各軸部5eに係合すると共に図示しないアクチュエータに係合し、当該アクチュエータの作動によってタービンインペラ4(回転軸3)の回転中心周りに回動することによりノズルベーン5cの軸部5e、5f周りの回動角を可変する。
【0020】
すなわち、このように構成されたノズルユニット5は、リンク板5dの回動によって複数のノズルベーン5cの回動角が可変されることにより、互いに隣り合う複数のノズルベーン5cによって形成される駆動ガスGの通過面積(流入容積)を可変設定する。
【0021】
シールド部材6は、図示する断面形状に成型された略リング形状の金属ガスケットである。このシールド部材6は、軸受ハウジング1とタービンハウジング2との機密性を確保するために、内周端部が第1支持板5aの裏面側(ノズルベーン5cの反対側)に固定され、また外周端部が軸受ハウジング1とタービンハウジング2とによって挟持されている。なお、後述するが、シールド部材6は、内周端部と外周端部との間の中間部位がリンク板5dの表面(第1支持板5a側の面)に当接しており、支持部材9とともにリンク板5dを支持する機能をも負う。
【0022】
シールド部材7は、図示する断面形状に成型された略リング形状の金属ガスケットである。このシールド部材7は、図示するように、軸受ハウジング1と第1支持板5aとの間に介在し、軸受ハウジング1と第1支持板5aとの間の機密性を確保する。シールド部材8は、図示するように第2支持板5bに嵌め込まれたOリングであり、第2支持板5bとタービンハウジング2との間の機密性を確保する。
【0023】
支持部材9は、図示する断面形状に成型された略リング形状の金属部品である。支持部材9は、内周端部が上記シールド部材6の内周端部と一緒に第1支持板5aの裏面に固定され、また外周端部がリンク板5dに形成された開口を介してリンク板5dの裏面(シールド部材6の反対側面)に抜けることにより当該リンク板5dの裏面に当接している。このような支持部材9と上記シールド部材6とは、両側から挟み込むようにしてリンク板5dを支持している。
【0024】
また、本ラジアルタービンAの特徴的構成(付勢手段)についてさらに説明する。
本ラジアルタービンAでは、図2に示すように、第1支持板5aに円形の貫通孔Sが所定間隔で環状に形成されている。この貫通孔Sは、駆動ガスGの一部をリンク室Kに取り込むために積極的に設けられたものである。また、シールド部材6には、図1に示すように上記貫通孔Sに符合する位置に開口6a(丸穴)が所定間隔を隔てて設けられている。すなわち、本ラジアルタービンAでは、図1の矢印で示すように、駆動流路R1から駆動流路R2に流れる駆動ガスGの一部を貫通孔S及び開口6aを介してリンク室K内に取り入れ、さらにリンク板5dとシールド部材6との間を介してリンク板5dの裏面側に積極的に取り込むように構成されている。このような貫通孔S及び開口6aは、本実施形態における付勢手段を構成するものである。
【0025】
次に、このように構成された本ラジアルタービンAの動作について、図1、図3及び図4をも参照して詳しく説明する。
【0026】
なお、図3は、第1支持板5aと第2支持板5bとの間のノズルベーン5cの位置関係を示す図である。この図では、第2支持板5bとノズルベーン5cの側面との距離をX1とし、第1支持板5aとそれに対向するノズルベーン5cの側面との距離をX2としている。
【0027】
本ラジアルタービンAでは、外部から供給された駆動ガスGの殆ど(主流)は、スクロール流路R1から駆動流路R2を経由して排気流路R3に流れる。このような駆動ガスGは、駆動流路R2を通過する際にタービンインペラ4に空力的に作用して回転軸3に回転動力を与える。
【0028】
このような主流に対して、駆動ガスGの一部は、駆動流路R2の上流側に設けられた貫通孔Sを介してリンク室Kに流れ込み、さらにシールド部材6の開口6aを経由してリンク室K内を与圧状態にする。リンク室Kは、駆動ガスGの一部が流入する貫通孔Sを除いて気密が確保されているので、リンク板5d、シールド部材6及び一方の軸部5eは、駆動ガスGの圧力によってタービンインペラ4の先端部側(回転軸3の反対側)に押し付ける押圧力(付勢力)を受ける。
【0029】
そして、このような押圧力(付勢力)がリンク板5d及び一方の軸部5eに作用することによって、ノズルベーン5cは、図2に示すように第1支持板5aと第2支持板5bとの間の中間位置から第2支持板5b側に変位する。すなわち、従来のように、駆動ガスGの一部をリンク室Kに取り込まず、上記押圧力(付勢力)を作用させない場合、ノズルベーン5cは第1支持板5aと第2支持板5bとの間の中間に位置する(X1=X2)が、本実施形態では上記押圧力(付勢力)が作用することによって、ノズルベーン5cは、第1支持板5aよりも第2支持板5b(タービンインペラ4の先端部側)に近いところに位置する(X2>X1)。
【0030】
図4は、CL=X1/(X1+X2)とした変位量CLに対するタービン効率変化量を示す図である。この図3に示すように、ノズルベーン5cが第1支持板5aよりも第2支持板5b(タービンインペラ4の先端部側)に近いところに位置した場合のタービン効率は、ノズルベーン5cによって駆動ガスGの流入容積を最小に絞り込んだ状態においては、ノズルベーン5cが第1支持板5aと第2支持板5bとの中間に位置した場合のタービン効率よりも高い値となる。
【0031】
すなわち、タービン効率の変化量をノズルベーン5cが第1支持板5aと第2支持板5bとの中間に位置する場合(CL=0.5)のタービン効率を基準(変化量=0)として見ると、タービン効率は、CL値が大きくなる(ノズルベーン5cが第2支持板5bから離れる)と変化量がマイナスの値となり、CL値が小さくなる(ノズルベーン5cが第2支持板5bに近づく)と変化量がプラスの値となる。
【0032】
したがって、本実施形態によれば、駆動ガスGの一部をリンク室Kに取り込むことによって発生する押圧力(付勢力)によってノズルベーン5cを第1支持板5aよりも第2支持板5b(タービンインペラ4の先端部側)に近いところに位置させるので、従来よりもタービン効率を向上させることができる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、駆動ガスGの一部をリンク室Kに取り込むことによって押圧力(付勢力)を発生させる付勢手段を採用したが、本発明の付勢手段はこれに限定されない。上記押圧力(付勢力)を発生させるための手段としては、種々のものが考えられる。例えば、一方の軸部5eと軸受ハウジング1との間に圧縮バネを介装して押圧力を発生させるようにしても良く、また過給機に本願発明を適用する場合にはラジアルタービンに軸結合する圧縮機の吐出ガスをリンク室Kに取り込んで押圧力(付勢力)を発生させるようにしても良い。
【0034】
(2)また、上記実施形態では、シールド部材6に開口6a(丸穴)を設けることによって、駆動ガスGの一部をリンク板5dの裏面側に取り込んで上記押圧力(付勢力)を発生させるようにしたが、本発明はこれに限定されない。リンク室Kに収容されるシールド部材6及びリンク板5dの形状や配置態様には種々のものが考えられるので、シールド部材6及びリンク板5dに開口(丸穴)を形成することにより、駆動ガスGの一部をリンク板5dの裏面側に取り込むことも考えられる。
【符号の説明】
【0035】
A…ラジアルタービン(可変容量型タービン)、1…軸受ハウジング、2…タービンハウジング、3…回転軸、4…タービンインペラ、5…ノズルユニット、5a…第1支持板、5b…第2支持板、5c…ノズルベーン、5d…リンク板、5e、5f…軸部、6〜8…シールド部材、9…支持部材、G…駆動ガス、R1…スクロール流路、R2…駆動流路、R3…排気流路、K…リンク室、S…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンインペラの回転軸方向に軸支された複数のノズルベーンによってスクロール流路からタービンインペラに流入する駆動ガスの流入容積を可変設定する可変容量型タービンであって、
ノズルベーンをタービンインペラの先端方向に押圧する付勢手段を備えることを特徴とする可変容量型タービン。
【請求項2】
付勢手段は、複数のノズルベーンを駆動するリンク機構が収容されると共にノズルベーンに対してタービンインペラの基端側に設けられるリンク室に、付勢用ガスを流入させることによってノズルベーンをタービンインペラの先端方向に押圧することを特徴とする請求項1記載の可変容量型タービン。
【請求項3】
付勢用ガスは、スクロール流路から分離して得られる駆動ガスの一部であることを特徴とする請求項2記載の可変容量型タービン。
【請求項4】
スクロール流路とリンク室との間に設けられたシールド部材に開口を設けて駆動ガスの一部を付勢用ガスとしてリンク室に取り込むことを特徴とする請求項3記載の可変容量型タービン。
【請求項5】
スクロール流路を形成するタービンハウジングと第1支持板との隙間を介してリンク室に付勢用ガスを流入させることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の可変容量型タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256720(P2011−256720A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129183(P2010−129183)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】