説明

可変容量型排気ターボ過給機及び可変ノズル機構構成部材の製造方法

【課題】 レバープレートまたはドライブリングの母材と一体成形した連結ピン部及び連結ピン部係合用の溝の摩耗を防止する手段、及びドライブリングのノズルマウントからレバープレート側への抜出しを防止して可変ノズル機構の作動不良の発生可能性を皆無とする手段をそなえた可変容量型排気ターボ過給機を提供する。
【解決手段】 可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、可変ノズル機構のドライブリングとレバープレートとを連結する連結ピン部を、レバープレートまたはドライブリングのいずれか一方を押出し成形、精密鋳造等の一体成形によって母材と一体に形成し、少なくとも前記連結ピン部と該連結ピン部が係合される溝部との接触部分に、拡散浸透処理を含む表面硬化処理を施したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ターボ過給機に用いられ、複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機におけるドライブリング及びレバープレートの構造、並びに、該可変ノズル機構の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機におけるドライブリング及びレバープレートの構造に関する技術の一つとして、本件出願人の発明に係る特許文献1(特開2002−285804号公報)の技術が提供されている。
【0003】
かかる技術においては、タービンケーシングに固定されたノズルマウントに回動可能に支持される複数のノズルベーンと、アクチュエータに連動される環状のドライブリングと、円周方向に沿って前記ノズルベーンと同数配設され、一端側を該ドライブリングに連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される溝部を介して連結されるとともに、他端側を前記ノズルベーンに連結されるレバープレートとをそなえ、前記ドライブリングの回動により前記各レバープレートを揺動させ、該レバープレートの揺動により前記複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備え、前記連結ピン部を、前記各レバープレートまたはドライブリングのいずれか一方を押出し成形、精密鋳造等の一体成形によって母材と一体に形成している。
【0004】
【特許文献1】特開2002−285804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1(特開2002−285804号公報)の技術にあっては、ドライブリングと各レバープレートとを連結する連結ピン部を、各レバープレートまたはドライブリングのいずれか一方を押出し成形、精密鋳造等の一体成形によって母材と一体に形成しているにとどまり、該連結ピン部及び相手部材の連結ピン部係合用の溝の摩耗への対処については開示されていない。
【0006】
また、かかる技術にあっては、レバープレートの側面とノズルマウントの側面との間に、ドライブリングを該レバープレート及びノズルマウントと軸方向に並設した形態で配置可能となっているが、ドライブリングのノズルマウントからレバープレート側への抜出し防止手段については開示されていない。
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、前記特許文献1(特開2002−285804号公報)の技術にさらに改良を加え、各レバープレートまたはドライブリングの母材と一体成形した連結ピン部及び連結ピン部係合用の溝の摩耗を防止する手段、及びドライブリングのノズルマウントからレバープレート側への抜出しを防止して可変ノズル機構の作動不良の発生可能性を皆無とする手段をそなえた可変容量型排気ターボ過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、タービンケーシングを含むケースに固定されたノズルマウントに回動可能に支持される複数のノズルベーンと、アクチュエータに連動される環状のドライブリングと、円周方向に沿って前記ノズルベーンと同数配設され、一端側を該ドライブリングに連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される溝部を介して連結されるとともに他端側を前記ノズルベーンに連結されるレバープレートとをそなえ、前記ドライブリングの回動により前記各レバープレートを揺動させ、該レバープレートの揺動により前記複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、
前記連結ピン部を、前記各レバープレートまたは前記ドライブリングのいずれか一方を押出し成形、精密鋳造等の一体成形によって母材と一体に形成し、少なくとも前記連結ピン部と前記溝部のいずれか一方の接触部分に、拡散浸透処理を含む表面硬化処理を施したことを特徴とする(請求項1)。
かかる発明において、具体的には、前記レバープレートの側面と前記ノズルマウントの側面との間に、前記ドライブリングを前記レバープレート及びノズルマウントと軸方向に並設した形態で配置し、前記各レバープレートまたは前記ドライブリングのいずれか一方側の部材の側面から母材と一体に前記連結ピン部を突設して、他方側の部材の側部に形成された前記溝部に該連結ピン部が係合するように構成するのが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、前記のように構成された可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機の製造方法の発明は、
前記各レバープレートまたは前記ドライブリングのいずれか一方について、側面の一方側を押圧し反対側を突出せしめて前記連結ピン部を押出し成形し、あるいは精密鋳造により側面の一方側に前記連結ピン部を突設することにより、前記連結ピン部を母材と一体形成し、次いで少なくとも前記連結ピン部と前記溝部のいずれか一方の接触部分に、拡散浸透処理を含む表面硬化処理を施こすことを特徴とする(請求項3)。
【0010】
かかる発明によれば、連結ピン部を、各レバープレートまたはドライブリングのいずれか一方を押出し成形、精密鋳造等の一体成形によって母材と一体に形成するので、各レバープレートまたはドライブリングを、高い靭性を有するが比較的軟質で押出し成形加工が容易な鋼材、あるいは精密鋳造材で構成することによって、前記連結ピン部を各レバープレートあるいはドライブリングと容易に一体成形できるとともに、少なくとも連結ピン部と該連結ピン部が嵌合される溝部との接触部分に拡散浸透処理を含む表面硬化処理を施すことにより該接触部分の硬度を増大できて、該連結ピン部と溝部との接触部分の摩耗を低減することができる。
【0011】
これにより、連結ピン部と該連結ピン部が嵌合される溝部との接触部分の硬度を増大することによって、該接触部分の摩耗を抑制して高い耐久性を保持しつつ、連結ピン部を1工程の押出し成形加工あるいは精密鋳造によってレバープレートあるいはドライブリングと一体成形にて容易に製作できることとなって、連結ピン部を別個に製作してレバープレートとドライブリングとを連結するものに比べて、組立工数及び組立コストを低減できるとともに、部品数及び部品コストを低減できる。
【0012】
また本発明は、前記可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、
前記レバープレートの側面と前記ノズルマウントの側面との間に、前記ドライブリングを前記レバープレート及びノズルマウントと軸方向に並設した形態で配置し、前記ドライブリングの外側面に当接可能にされて該ドライブリングの軸方向移動を阻止する鋲を前記ノズルマウントの側部に固定したことを特徴とする(請求項4)。
かかる発明において、好ましくは、前記ドライブリングの外側面及び前記ノズルマウントの側部に溝を形成し、該溝内に前記鋲の頭部を嵌め込む(請求項5)。
【0013】
かかる発明によれば、前記鋲を前記ノズルマウントの側部の円周方向複数箇所に固定するという、きわめて簡単な構造で低コストの手段で以って、ドライブリングの軸方向への抜出しを確実に回避でき、かかるドライブリングの軸方向への抜出しに伴なう可変ノズル機構の作動不良の発生を防止できる。
【0014】
また本発明は、前記可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、
前記レバープレートの側面と前記ノズルマウントの側面との間に、前記ドライブリングを前記レバープレート及びノズルマウントと軸方向に並設した形態で配置し、前記ノズルマウントの側部に円周方向に沿って環状の溝を設け、該溝内に前記ドライブリングを嵌合して該溝の側面により該前記ドライブリングの軸方向移動を阻止するように構成したことを特徴とする(請求項6)。
かかる発明に加えて、好ましくは、前記ドライブリング及びノズルマウントに、該ドライブリングあるいはノズルマウントのいずれか一方に形成した係合凸部と他方に形成した係合凹部とを該ドライブリング及びノズルマウントの軸方向相対移動により係合して、該ドライブリングを前記ノズルマウントに設けられた環状の溝に嵌合する係合部を設ける(請求項7)。
【0015】
また、前記のように構成された可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機の製造方法の発明は、
前記レバープレートの側面と側部に環状の溝を設けた前記ノズルマウントの側面との間に、前記ドライブリングを前記レバープレート及びノズルマウントと軸方向に並設した形態で配置し、前記ドライブリングあるいはノズルマウントのいずれか一方に形成した係合凸部と他方に形成した係合凹部とを該ドライブリング及びノズルマウントを軸方向に相対移動させて該係合凸部と係合凹部とを係合して該ドライブリングを前記ノズルマウントの溝に嵌合した後、該ドライブリングを円周方向に所定量回動させて該ドライブリングの前記溝からの抜出しを阻止し、次いで前記レバープレートを前記ドライブリングの側部に組付けて、レバープレートを前記ノズルベーンに固定することを特徴とする(請求項8)。
【0016】
かかる発明によれば、ノズルマウントの側部に円周方向に沿って設けた環状の溝にドライブリングを嵌合するという、格別な部材を追設せず部品数の増加及び部品コストの増加を伴うことのない手段で以って、ドライブリングの軸方向への抜出しを確実に回避でき、かかるドライブリングの軸方向への抜出しに伴なう可変ノズル機構の作動不良の発生を防止できる。
【0017】
また本発明は、前記可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、
前記連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される前記溝部の、少なくとも該連結ピン部と溝部のいずれか一方の接触部分に、PVD処理(物理的イオン吸着処理)による被膜またはCVD処理(化学的イオン吸着処理)による被膜を形成したことを特徴とする(請求項9)。
かかる発明によれば、連結ピン部と溝部との接触部分にPVD処理による硬質被膜形成、あるいはCVD処理による硬質被膜形成をなすことにより、連結ピン部と溝部との接触部分の摩耗低減効果をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、連結ピン部と該連結ピン部が嵌合される溝部との接触部分に拡散浸透処理を含む表面硬化処理を施すことにより該接触部分の硬度を増大することができて、該接触部分の摩耗を抑制して高い耐久性を保持しつつ、各レバープレートまたはドライブリングのいずれか一方を押出し成形、精密鋳造等の一体成形によって母材と一体に形成することにより、連結ピン部を1工程の押出し成形加工あるいは精密鋳造によってレバープレートあるいはドライブリングと一体成形にて容易に製作できることとなり、該連結ピン部を別個に製作してレバープレートとドライブリングとを連結するものに比べて組立工数及び組立コストを低減できるとともに、部品数及び部品コストを低減できる。
なお、表面硬化処理に関して、例えば鋼同士のような金属同士の組み合わせを用いると、両者の材料同士が凝着することにより発生する摩耗(凝着摩耗)により大きな摩耗が発生することが懸念されるが、一方の表面に処理を施すと表面がセラミックス化、ないしは金属間化合物の生成により硬化され、凝着摩耗を緩和できる。また、表面処理により硬化すると摺動にともなう面あれが防止できるため、相手面に表面処理を施していない場合でも面あれによる引っかき摩耗(アブレシブ摩耗)の発生を緩和できる。以上のような理由から、一方に表面処理を施工しただけでも摩耗低減効果が期待できる。
【0019】
また本発明によれば、鋲をノズルマウントの側部の円周方向複数箇所に固定するという、きわめて簡単な構造で低コストの手段で、あるいはノズルマウントの側部に円周方向に沿って設けた環状の溝にドライブリングを嵌合するという格別な部材を追設せず部品数の増加及び部品コストの増加を伴うことのない手段で、ドライブリングの軸方向への抜出しを確実に回避でき、かかるドライブリングの軸方向への抜出しに伴なう可変ノズル機構の作動不良の発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0021】
図5は本発明に係る可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機の要部縦断面図である。
図5において、30はタービンケーシング、38は該タービンケーシング30の外周部に渦巻状に形成されたスクロールである。34はラジアル流型のタービンロータ、35はコンプレッサ、32は該タービンロータ34とコンプレッサ35とを連結するタービンシャフト、31はコンプレッサハウジング、36は軸受ハウジングである。
該タービンロータ34とコンプレッサ35とを連結するタービンシャフト32は、2個の軸受37,37を介して軸受ハウジング36に回転自在に支持されている。8は排ガス出口、40は該排気ターボ過給機の回転軸心である。
【0022】
2はノズルベーンで、前記スクロール38の内周側にタービンの円周方向等間隔に複数枚配置されるとともに、これの翼端部に形成されたノズル軸2aが前記タービンケーシング30に固定されたノズルマウント5に回動可能に支持されている。
41はアクチュエータ、33はアクチュエータロッド、39は該アクチュエータロッド33と前記ドライブリング3とを連結する駆動機構で、該アクチュエータロッド33の往復運動をドライブリング3の回転運動に変換する。
100は前記ノズルベーン2の翼角を変化せしめる可変ノズル機構である。
【0023】
図5のように構成された可変ノズル機構付き可変容量型排気ターボ過給機の運転時において、内燃機関(図示省略)からの排ガスは前記スクロール38に入り、該スクロール38の渦巻きに沿って周回しながらノズルベーン2に流入する。そして、該排ガスは、前記ノズルベーン2の翼間を流過して前記タービンロータ34にその外周側から流入し、中心側に向かい半径方向に流れて該タービンロータ34に膨張仕事をなした後、軸方向に流出して排ガス出口8に案内されて機外に送出される。
【0024】
かかる可変容量タービンの容量を制御するにあたっては、前記アクチュエータ41に対し、前記ノズルベーン2を流れる排ガスの流量が所要の流量になるような該ノズルベーン2の翼角を、翼角制御手段(図示省略)により設定する。かかる翼角に対応するアクチュエータ41の往復変位は駆動機構39を介してドライブリング3に伝達され、該ドライブリング3が回転駆動される。
該ドライブリング3の回転により、後述する連結ピン部10(あるいは11)を介してレバープレート1が前記ノズル軸2a廻りに回動せしめられ、該ノズル軸2aの回動によりノズルベーン2が回動して前記アクチュエータ41にて設定された翼角に変化せしめられる。
本発明はかかる可変容量タービンの容量を制御する可変ノズル機構100の改良に係るものである。
【実施例1】
【0025】
図1は本発明の第1実施例にかかる可変ノズル機構を示し、(A)はレバープレート側から視た正面図、(B)は(A)におけるA−A線断面図である。
100は前記ノズルベーン2の翼角を変化せしめる可変ノズル機構100で、次のように構成されている。
3は円盤状に形成されたドライブリングで、前記ノズルマウント5に回転可能に支持されるとともに、外周側に後述する連結ピン部10が係合される溝3yが円周方向等間隔に形成されている。3zは前記駆動機構39のリンクが係合する駆動溝である。
1はレバープレートで、前記ドライブリング3の溝3yと同数円周方向等間隔に設置されている。各レバープレート1の外周側には連結ピン部10が形成され、内周側には前記ノズルベーン2のノズル軸2aが固定されている。
6は環状に形成された支持プレート、7は該支持プレート6と前記ノズルマウント5とを連結する複数のノズルサポートである。
【0026】
前記可変ノズル機構100においては、図1(B)のように、前記レバープレート1を軸方向外側(図5における排ガス出口8側)に配置し、該レバープレート1の側面と前記ノズルマウント5の側面との間に、前記ドライブリング3を前記レバープレート1及びノズルマウント5と軸方向に並設した形態で配置している。
前記連結ピン部10は、前記各レバープレート1の一側面をプレスによって加圧して、該一側面側に円状の凹部10aを形成するとともに、反対側の側面を円柱状に突出させる押出し成形によって母材と一体で形成される。
また、前記各レバープレート1を精密鋳造品で構成する場合には、鋳造時に前記連結ピン部10をレバープレート1母材と一体成形する。
そして、該連結ピン部10の外周面及び該連結ピン部10が係合する前記ドライブリング3の溝3yの一方ないしは両方に、クロム拡散浸透処理、アルミニウム拡散浸透処理、バナジウム拡散浸透処理、ニオブ拡散浸透処理、ボロン拡散浸透処理等の拡散浸透処理、あるいは窒化処理、前記拡散浸透処理と浸炭処理との併合処理、等の表面硬化処理を施す。
【0027】
前記のように構成された可変ノズル機構100を製作するにあたっては、前記各レバープレート1の一側面をプレスによって加圧して、該一側面側に円状の凹部10aを形成することにより、各レバープレート1に前記連結ピン部10を母材と一体に突設する。一方前記ドライブリング3には溝3yを機械加工、あるいは該ドライブリング3が精密鋳造品の場合は精密鋳造により形成する。
次いで、前記連結ピン部10の外周面及び該連結ピン部10が係合する前記ドライブリング3の溝3yの一方ないしは両方に、前記のような表面硬化処理を施す。
【実施例2】
【0028】
図2は本発明の第2実施例に係る可変ノズル機構を示し、(A)はレバープレート側から視た正面図、(B)は(A)におけるA−A線断面図である。
この第2実施例においては、前記ドライブリング3側に、円周方向等間隔に、該ドライブリング3の一側面をプレスによって加圧して、該一側面側に、前記第1実施例と同様な円状の凹部3aを形成するとともに反対側の側面を円柱状に突出させる押出し成形によって連結ピン部11を母材と一体で形成している。また、各レバープレート1の外周部を二股状に形成して、前記連結ピン部11が係合される溝1bを設けている。
その他の構成は前記第1実施例と同様であり、これと同一の部材は同一の符号で示す。
【0029】
かかる第1、第2実施例によれば、ドライブリング3と各レバープレート1とを連結する連結ピン部10(11)を、各レバープレート1またはドライブリング3のいずれか一方を押出し成形、精密鋳造等の一体成形によって母材と一体に形成するので、各レバープレート1またはドライブリング3を、高い靭性を有するが比較的軟質で押出し成形加工が容易な鋼材、あるいは精密鋳造材で構成することによって、前記連結ピン部10を各レバープレート1あるいはドライブリング3と容易に一体成形できる。
それとともに、前記連結ピン部10(あるいは11)と該連結ピン部が嵌合される溝3y(あるいは1b)との接触部分の一方ないしは両方に拡散浸透処理を含む表面硬化処理を施すことにより、該接触部分の硬度を増大、ないしは材料間の凝着防止ができて、該連結ピン部(あるいは11)と溝3y(あるいは1b)との接触部分の摩耗を低減することができる。
【0030】
これにより、前記連結ピン部10(あるいは11)と該連結ピン部が嵌合される溝3y(あるいは1b)との接触部分の硬度を増大することによって、該接触部分の摩耗を抑制して高い耐久性を保持しつつ、連結ピン部10(あるいは11)を1工程の押出し成形加工あるいは精密鋳造によってレバープレート1あるいはドライブリング3と一体成形にて容易に製作できることとなって、連結ピン部を別個に製作してレバープレート1とドライブリング3とを連結するものに比べて、組立工数及び組立コストを低減できるとともに、部品数及び部品コストを低減できる。
【実施例3】
【0031】
図3は本発明の第3実施例に係る可変ノズル機構を示し、(A)はレバープレート側から視た正面図、(B)は(A)におけるC−C線断面図である。また(C)は変形例を示す前記C−C線断面相当図である。尚、この第3実施例における図3のA−A線断面図は図1(B)と同様である。
この第3実施例においては、前記第1、第2実施例と同様に、前記レバープレート1の側面と前記ノズルマウント5の側面との間に、前記ドライブリング3を前記レバープレート1及びノズルマウント5と軸方向に並設した形態で配置し、前記ドライブリング3の外側面3aに当接可能にされて該ドライブリング3の軸方向移動つまり前記レバープレート1側への抜出しを阻止する複数個(この例では円周方向等間隔に4個)の鋲12を前記ノズルマウント5の側部に固定している。
【0032】
また、この第3実施例において、図3(C)のように、前記ドライブリング3の外側面3c及び前記ノズルマウント5の側面5cに溝13を形成し、該溝13内に前記鋲12の頭部を嵌め込み、該鋲12がレバープレート1側に突出しないようにして、コンパクトな構造とすることもできる。
【0033】
かかる第3実施例によれば、前記鋲12を前記ノズルマウント5の側部の円周方向複数箇所(この例では4箇所)に固定するという、きわめて簡単な構造で且つ低コストの手段で以って、ドライブリング3の軸方向への抜出しを確実に回避でき、かかるドライブリング3の軸方向への抜出しに伴なう可変ノズル機構100の作動不良の発生を防止できる。
その他の構成は前記第1実施例と同様であり、これと同一の部材は同一の符号で示す。
【実施例4】
【0034】
図4は本発明の第4実施例に係る可変ノズル機構を示し、(A)はレバープレート側から視た正面図、(B)は(A)におけるD−D線断面図である。尚、この第4実施例における図4のA−A線断面図は図1(B)と同様である。
この第3実施例においては、前記第1、第2実施例と同様に、前記レバープレート1の側面と前記ノズルマウント5の側面との間に、前記ドライブリング3を前記レバープレート1及びノズルマウント5と軸方向に並設した形態で配置し、前記ノズルマウント5の側部に円周方向に沿って環状の溝15を設け、該溝15内に前記ドライブリング3を嵌合して、該溝15の側面により該前記ドライブリング3のレバープレート1側への抜出しを阻止している。
そして、図4(A)のように、前記ドライブリング3及びノズルマウント5の側部5zに、該ドライブリング3に形成した係合凹部14aと該ノズルマウント5の側部5zに形成した係合凸部14bとを係合する係合部14を設けている。
【0035】
従って、この第4実施例における可変ノズル機構100を組立てるにあたっては、前記レバープレート1の側面と側部に環状の溝15を設けた前記ノズルマウント5の側面との間に、前記ドライブリング3を前記レバープレート1及びノズルマウント5と軸方向に並設した形態で配置し、前記ドライブリング3を軸方向にノズルマウント5側に移動させて、係合凹部14aとノズルマウント5の側部5zの係合凸部14bとを係合して該ドライブリング3を前記ノズルマウント5の溝15内に嵌合する。
次いで、該ドライブリング3を円周方向に所定量回動させて、前記係合凹部14aと係合凸部14bとを円周方向にずらして、該ドライブリング3の前記溝15からの抜出しを阻止する。さらに、前記レバープレート1を前記ドライブリング3の側部に組付けて、該レバープレート1を前記ノズルベーン2に固定する。
その他の構成は前記第1実施例と同様であり、これと同一の部材は同一の符号で示す。
【0036】
かかる第4実施例によれば、ノズルマウント5の側部5zに円周方向に沿って設けた環状の溝15にドライブリング3を嵌合するという、格別な部材を追設せず部品数の増加及び部品コストの増加を伴うことの無い手段で以って、ドライブリング3の軸方向への抜出しを確実に回避でき、かかるドライブリング3の軸方向への抜出しに伴なう可変ノズル機構100の作動不良の発生を防止できる。
【実施例5】
【0037】
本発明の第5実施例においては、図1〜図4に示されるような可変ノズル機構100を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、前記連結ピン部10(あるいは11)及び該連結ピン部が嵌合される前記溝3y(あるいは1b)の一方ないしは両方の接触部分(連結ピン部10(あるいは11)及び溝3y(あるいは1b)の全体でもよい)に、PVD処理(物理的イオン吸着処理)による被膜またはCVD処理(化学的イオン吸着処理)による被膜を形成している。
かかる第5実施例によれば、連結ピン部10(あるいは11)と溝3y(あるいは1b)との接触部分にPVD処理による硬質被膜形成、あるいはCVD処理による硬質被膜形成をなすことにより、がい連結ピン部10(あるいは11)と溝3y(あるいは1b)との接触部分の摩耗低減効果をさらに向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、各レバープレートまたはドライブリングの母材と一体成形した連結ピン部及び連結ピン部係合用の溝の摩耗を防止する手段、及びドライブリングのノズルマウントからレバープレート側への抜出しを防止して可変ノズル機構の作動不良の発生可能性を皆無とする手段をそなえた可変容量型排気ターボ過給機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施例にかかる可変ノズル機構を示し、(A)はレバープレート側から視た正面図、(B)は(A)におけるA−A線断面図である。
【図2】本発明の第2実施例に係る可変ノズル機構を示し、(A)はレバープレート側から視た正面図、(B)は(A)におけるA−A線断面図である。
【図3】本発明の第3実施例に係る可変ノズル機構を示し、(A)はレバープレート側から視た正面図、(B)は(A)におけるC−C線断面図、(C)は変形例を示す前記C−C線断面相当図である。
【図4】本発明の第4実施例に係る可変ノズル機構を示し、(A)はレバープレート側から視た正面図、(B)は(A)におけるD−D線断面図である。
【図5】本発明に係る可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機の要部縦断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 レバープレート
2 ノズルベーン
2a ノズル軸
3 ドライブリング
3y、1b 溝
5 ノズルマウント
10、11 連結ピン部
12 鋲
14 係合部
15 溝
30 タービンケーシング
34 タービンロータ
35 コンプレッサ
41 アクチュエータ
100 可変ノズル機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンケーシングを含むケースに固定されたノズルマウントに回動可能に支持される複数のノズルベーンと、アクチュエータに連動される環状のドライブリングと、円周方向に沿って前記ノズルベーンと同数配設され、一端側を該ドライブリングに連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される溝部を介して連結されるとともに他端側を前記ノズルベーンに連結されるレバープレートとをそなえ、前記ドライブリングの回動により前記各レバープレートを揺動させ、該レバープレートの揺動により前記複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、
前記連結ピン部を、前記各レバープレートまたは前記ドライブリングのいずれか一方を押出し成形、精密鋳造等の一体成形によって母材と一体に形成し、少なくとも前記連結ピン部と前記溝部のいずれか一方の接触部分に、拡散浸透処理を含む表面硬化処理を施したことを特徴とする可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機。
【請求項2】
前記レバープレートの側面と前記ノズルマウントの側面との間に、前記ドライブリングを前記レバープレート及びノズルマウントと軸方向に並設した形態で配置し、前記各レバープレートまたは前記ドライブリングのいずれか一方側の部材の側面から母材と一体に前記連結ピン部を突設して、他方側の部材の側部に形成された前記溝部に該連結ピン部が係合するように構成したことを特徴とする請求項1記載の可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機。
【請求項3】
タービンケーシングを含むケースに固定されたノズルマウントに回動可能に支持される複数のノズルベーンと、アクチュエータに連動される環状のドライブリングと、円周方向に沿って前記ノズルベーンと同数配設され、一端側を該ドライブリングに連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される溝部を介して連結されるとともに他端側を前記ノズルベーンに連結されるレバープレートとをそなえ、前記ドライブリングの回動により前記各レバープレートを揺動させ、該レバープレートの揺動により前記複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機の製造方法であって、
前記各レバープレートまたは前記ドライブリングのいずれか一方について、側面の一方側を押圧し反対側を突出せしめて前記連結ピン部を押出し成形し、あるいは精密鋳造により側面の一方側に前記連結ピン部を突設することにより、前記連結ピン部を母材と一体形成し、次いで少なくとも前記連結ピン部と前記溝部のいずれか一方の接触部分に、拡散浸透処理を含む表面硬化処理を施こすことを特徴とする可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機の製造方法。
【請求項4】
タービンケーシングを含むケースに固定されたノズルマウントに回動可能に支持される複数のノズルベーンと、アクチュエータに連動される環状のドライブリングと、円周方向に沿って前記ノズルベーンと同数配設され、一端側を該ドライブリングに連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される溝部を介して連結されるとともに他端側を前記ノズルベーンに連結されるレバープレートとをそなえ、前記ドライブリングの回動により前記各レバープレートを揺動させ、該レバープレートの揺動により前記複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、
前記レバープレートの側面と前記ノズルマウントの側面との間に、前記ドライブリングを前記レバープレート及びノズルマウントと軸方向に並設した形態で配置し、前記ドライブリングの外側面に当接可能にされて該ドライブリングの軸方向移動を阻止する鋲を前記ノズルマウントの側部に固定したことを特徴とする可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機。
【請求項5】
前記ドライブリングの外側面及び前記ノズルマウントの側部に溝を形成し、該溝内に前記鋲の頭部を嵌め込んだことを特徴とする請求項4記載の可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機。
【請求項6】
タービンケーシングを含むケースに固定されたノズルマウントに回動可能に支持される複数のノズルベーンと、アクチュエータに連動される環状のドライブリングと、円周方向に沿って前記ノズルベーンと同数配設され、一端側を該ドライブリングに連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される溝部を介して連結されるとともに他端側を前記ノズルベーンに連結されるレバープレートとをそなえ、前記ドライブリングの回動により前記各レバープレートを揺動させ、該レバープレートの揺動により前記複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、
前記レバープレートの側面と前記ノズルマウントの側面との間に、前記ドライブリングを前記レバープレート及びノズルマウントと軸方向に並設した形態で配置し、前記ノズルマウントの側部に円周方向に沿って環状の溝を設け、該溝内に前記ドライブリングを嵌合して該溝の側面により該前記ドライブリングの軸方向移動を阻止するように構成したことを特徴とする可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機。
【請求項7】
前記ドライブリング及びノズルマウントに、該ドライブリングあるいはノズルマウントのいずれか一方に形成した係合凸部と他方に形成した係合凹部とを該ドライブリング及びノズルマウントの軸方向相対移動により係合して、該ドライブリングを前記ノズルマウントに設けられた環状の溝に嵌合する係合部を設けたことを特徴とする請求項6記載の可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機。
【請求項8】
タービンケーシングを含むケースに固定されたノズルマウントに回動可能に支持される複数のノズルベーンと、アクチュエータに連動される環状のドライブリングと、円周方向に沿って前記ノズルベーンと同数配設され、一端側を該ドライブリングに連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される溝部を介して連結されるとともに他端側を前記ノズルベーンに連結されるレバープレートとをそなえ、前記ドライブリングの回動により前記各レバープレートを揺動させ、該レバープレートの揺動により前記複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機の製造方法であって、
前記レバープレートの側面と側部に環状の溝を設けた前記ノズルマウントの側面との間に、前記ドライブリングを前記レバープレート及びノズルマウントと軸方向に並設した形態で配置し、前記ドライブリングあるいはノズルマウントのいずれか一方に形成した係合凸部と他方に形成した係合凹部とを該ドライブリング及びノズルマウントを軸方向に相対移動させて該係合凸部と係合凹部とを係合し、該ドライブリングを前記ノズルマウントの溝に嵌合した後、該ドライブリングを円周方向に所定量回動させて該ドライブリングの前記溝からの抜出しを阻止し、次いで前記レバープレートを前記ドライブリングの側部に組付けて、レバープレートを前記ノズルベーンに固定することを特徴とする可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機の製造方法。
【請求項9】
タービンケーシングを含むケースに固定されたノズルマウントに回動可能に支持される複数のノズルベーンと、アクチュエータに連動される環状のドライブリングと、円周方向に沿って前記ノズルベーンと同数配設され、一端側を該ドライブリングに連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される溝部を介して連結されるとともに他端側を前記ノズルベーンに連結されるレバープレートとをそなえ、前記ドライブリングの回動により前記各レバープレートを揺動させ、該レバープレートの揺動により前記複数のノズルベーンの翼角を変化せしめる可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機において、
前記連結ピン部及び該連結ピン部が嵌合される前記溝部の、少なくとも該連結ピン部と溝部のいずれか一方の接触部分に、PVD処理(物理的イオン吸着処理)による被膜またはCVD処理化学的イオン吸着処理)による被膜を形成したことを特徴とする可変ノズル機構を備えた可変容量型排気ターボ過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−56791(P2007−56791A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243829(P2005−243829)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】