説明

合金形態の半導体結晶、その製造方法及び有機電界発光素子

【課題】合金形態の半導体結晶、その製造方法及び有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る半導体結晶の製造方法は、(a)1種以上の12族金属前駆体を分散剤及び溶媒と混合し、これを加熱して12族金属前駆体溶液を得る段階と、(b)1種以上の16族元素前駆体をこれと配位可能な溶媒に溶解して16族元素前駆体溶液を得る段階と、(c)前記1種以上の12族金属前駆体溶液と1種以上の16族元素前駆体溶液とを混合して反応させた後、結晶を成長させる段階と、を含み、前記結晶のサイズ分布を表す光励起発光スペクトルの半値幅が50nm以下、かつ、発光効率が30%以上であり、前記12族金属前駆体溶液、及び前記16族元素前駆体溶液の濃度は0.001Mないし2Mであり、前記(a)段階において、加熱が100ないし400℃であり、前記(c)段階において、反応温度は50℃ないし400℃であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合金形態の半導体ナノ結晶及びその製造方法に係り、さらに詳細には可視光領域において高い効率で発光する12族−16族の化合物半導体の合金形態のナノ結晶、その半導体ナノ結晶を湿式合成法によって製造する方法及び有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体物質をナノメートルサイズの結晶に製造すれば、その物質のバルク励起子のボーア半径より小さな領域で量子閉じ込め効果を現し、このような量子閉じ込め効果によって、半導体物質の特性として現れたバンドギャップエネルギーが変化する。可視光領域で発光する化合物半導体物質をナノ結晶として製造する場合に、ナノ結晶が特定のサイズ以下となると、バンドギャップエネルギーが変化し始めてエネルギーが次第に増加し、発光領域が青色領域に移動するブルーシフトが観察される。このような量子点物質の特性を利用して、物質自体の特性、構造、形態、サイズを調節し、当該バンドギャップを調節して多様なエネルギー準位を作り出せる。
【0003】
量子点成長制御技術は、新概念の未来半導体素子の開発技術のうち最も重要な技術として注目されている。特に、従来の気相蒸着方法であるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;有機金属気相成長法)、MBE(Molecular Beam Epitaxy;分子線エピタキシ法)などは、半導体薄膜を単一原子層レベルで制御でき、量子点を成長させかつ制御できる優れた技術といえる。しかし、気相法を用いて主に格子不整合によって形成された量子点は、量子点自体の結晶性は良いものの、気相法にはサイズ、均一度、密度などを調節するのに致命的な欠陥があるため、これまでこの技術では商用化できる素子を製造することが困難であった。
【0004】
気相法によって薄膜上で量子点を成長させる技術の短所と限界とを克服するために、化学的な湿式法で量子点を合成しようとする試みがあった。このような化学的湿式合成法では、配位可能な有機溶媒中において、量子点結晶の前駆体物質を塗布して量子点結晶を成長させる。そして、有機溶媒が自然に量子点結晶の表面に配位されて分散剤の役割を果たし、ナノメートルサイズの量子点を調節することができる。
【0005】
特許文献1には、12、16族化合物半導体量子点を合成する方法が開示されている。このような合成方法によれば、12族の前駆体である12族金属(Zn,Cd,Hg)を含む物質を第一分散剤溶液に溶解させ、16族前駆体である16族元素(S,Se,Te)を含む物質を第2分散剤溶液に溶解させる。そして、前記2つの前駆体を溶解させることができる溶媒を前記2つの分散剤の混合液に添加した後、12、16族化合物半導体結晶の成長を促進させる温度を維持して、化合物半導体結晶のサイズが所望の大きさに達したら結晶を分離する。
【0006】
しかし、特に、この反応系では、使用できる溶媒がトリオクチルホスホン酸(Tri−Octyl Phosphonic acid、以下、TOPOという)に限定される。現在市販されているTOPOは、約90%純度のテクニカルグレードのみであり、不純物が多く含まれた溶媒では、再現性良く均一なサイズの量子構造を製造することが困難であると報告されている。また、純度90%のTOPOに含まれる不純物は、調節できない反応変数となって反応に決定的な影響を及ぼし、望ましくない結果を生むと報告されている。このような問題を解決するために、TOPOを約99%の純度まで精製して使用すると、TOPOの結合特性が変化して所望の結晶に成長させられない。特許文献2には、前述した12、16族化合物半導体の量子点の合成方法と同じ工程を3族、5族化合物半導体の量子点の合成に適用したものが開示されている。
【0007】
特許文献3には、発光効率が向上したコア・シェル構造を有する量子点物質が、特許文献4には、コア・シェル構造を有する量子点物質を製造する方法が記載されている。このように形成されたコア・シェル構造の化合物半導体の量子点は、発光効率が30%〜50%まで向上すると報告された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,225,198号明細書
【特許文献2】米国特許第6,306,736号明細書
【特許文献3】米国特許第6,322,901号明細書
【特許文献4】米国特許第6,207,229号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする技術的課題は、サイズと形態とが均一であり、量子効率が高く、安定的な合金形態の12族、16族化合物半導体ナノ結晶を提供することである。
【0010】
本発明が解決しようとする他の技術的課題は、前記合金形態の12族、16族化合物半導体ナノ結晶を化学的湿式法によって単純でかつ再現性良く製造できる方法を提供することである。
【0011】
本発明が解決しようとするさらに他の技術的課題は、前記半導体ナノ結晶を採用して発光特性に優れる有機電界発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題及び他の課題を達成するために本発明では、(a)1種以上の12族金属前駆体を分散剤及び溶媒と混合し、これを加熱して12族金属前駆体溶液を得る段階と、(b)1種以上の16族元素前駆体をこれと配位可能な溶媒に溶解して16族元素前駆体溶液を得る段階と、(c)前記1種以上の12族金属前駆体溶液と1種以上の16族元素前駆体溶液とを混合して反応させた後、結晶を成長させる段階と、を含み、前記(a)12族金属前駆体溶液を得る段階において1種の12族金属前駆体を分散剤及び溶媒と混合した場合には、前記(b)段階で少なくとも2種以上の16族元素前駆体をこれと配位可能な溶媒に溶解して少なくとも2種以上の16族元素前駆体溶液を得て、前記(a)12族金属前駆体溶液を得る段階において2種の12族金属前駆体を分散剤及び溶媒と混合した場合には、前記(b)段階で少なくとも1種以上の16族元素前駆体をこれと配位可能な溶媒に溶解して少なくとも1種以上の16族元素前駆体溶液を得て、前記(c)段階において、成長する前記結晶が1種以上の12族金属と1種以上の16族元素とより構成される3成分系以上の合金形態を有し、前記結晶のサイズ分布を表す光励起発光スペクトルの半値幅が50nm以下、かつ、発光効率が30%以上であり、前記12族金属前駆体溶液の濃度は0.001Mないし2Mであり、前記16族元素前駆体溶液の濃度は0.001Mないし2Mであり、前記(a)段階において、加熱が100ないし400℃であり、前記(c)段階において、反応温度は50℃ないし400℃であることを特徴とする半導体結晶の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明における半導体結晶の例として、ZnSSe、CdSSe、ZnCdS、ZnCdSe、またはZnCdSSeが挙げられる。
【0014】
さらに、本発明の有機電界発光素子は、一対の電極間に有機膜を含む有機電界発光素子において、前記有機膜が前述した半導体結晶を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、化学的湿式合成法によって、サイズと形態とが均一であり、量子効率が高く、安定的な合金形態の12、16族化合物半導体ナノ結晶を製造できる。また、1種以上の12族金属あるいは12族金属前駆体、または、1種以上の16族元素あるいは16族元素前駆体を混合して反応させることによって、単純な1回の工程でも所望の特性を有する量子構造の多元系半導体ナノ結晶を合成でき、これにより、バンドギャップを調節して発光効率を向上させることができる。このように合成された半導体ナノ結晶は、発光領域が300nmないし1300nmの範囲において発光効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1によって得られたCdSeSナノ結晶の高解像度のTEM写真(スケールバー=5nm)を表す。
【図2】本発明の実施例1によって得られたCdSeSナノ結晶のSTEM/EDS写真(スケールバー=50nm)を表す。
【図3】本発明の実施例1によって得られたCdSeSナノ結晶のX線回折スペクトルを表す。
【図4】本発明の実施例1によって得られたCdSeSナノ結晶の紫外線分光吸収スペクトルである。
【図5】本発明の実施例1、2、3によって得られたCdSeSナノ結晶、ZnCdSeナノ結晶、CdSe/CdSナノ結晶の光励起発光スペクトルを表す図面である。
【図6】本発明の実施例4によって製作された有機EL素子のELスペクトルを表す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、1種以上の12族金属または12族金属前駆体を分散剤及び反応溶媒と混合し、これを所定温度範囲で加熱して均一な溶液を作り、また、1種以上の16族元素またはその前駆体をそれと配位結合力が適当な溶媒に溶解させて、この溶液を所定温度に維持されている12族金属が含まれた反応溶媒内に注入して半導体結晶を成長させる方法を提供する。このように簡単な製造工程で、サイズ分布が非常に狭く(半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)<30nm)、発光効率が高く(>50%)、再現性が非常に良い12、16族化合物半導体の量子構造を合成でき、特に、3成分系以上の結晶性が極めて良く、別途の選択的な分離過程を経ずとも均一なサイズを有する化合物半導体量子点を製造できる。
【0018】
3成分系以上の化合物半導体は、1種以上の12族金属またはその前駆体を反応溶媒と分散剤とに溶解させて12族金属前駆体溶液を得て、ここに2種以上の16族元素またはその前駆体を溶媒に溶解してそれぞれ得た16族元素前駆体溶液を同時に注入するか、または順次に注入する方法によって製造できる。この時に生成される化合物半導体のナノ結晶構造は、他の種類の元素を使用する時、元素の種類による反応速度の差や、混合される比率によって特定の構造を有し、使われる物質によってバンドギャップ及び発光効率などを調節できる特徴がある。
【0019】
以下、本発明による半導体ナノ結晶の製造方法をさらに詳細に説明する。
まず、1種以上の12族金属または1種以上の12族金属前駆体を分散剤及び溶媒と混合し、これを所定温度範囲となるように加熱して12族金属前駆体溶液を得る。
【0020】
前記12族金属は、Zn、Cd、Hgまたはその混合物である。また、前記12族金属の前駆体は、空気中で比較的安定し、かつ、前駆体注入過程で有毒なガスを発生させない物質であり、例えば、12族金属の酸化物、12族金属のハロゲン化合物、12族金属の有機錯体などである。その具体的な例としては、酢酸亜鉛、アセチルアセトン酸(acetylacetonate)亜鉛、ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、炭酸亜鉛、シアン化亜鉛、硝酸亜鉛、酸化亜鉛、過酸化亜鉛、過塩素酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸カドミウム、アセチルアセトン酸カドミウム、ヨウ化カドミウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、フッ化カドミウム、炭酸カドミウム、硝酸カドミウム、酸化カドミウム、過塩素酸カドミウム、リン化カドミウム、硫酸カドミウム、酢酸水銀、ヨウ化水銀、臭化水銀、塩化水銀、フッ化水銀、シアン化水銀、硝酸水銀、酸化水銀、過塩素酸水銀、硫酸水銀またはその混合物が挙げられる。
【0021】
前記分散剤としては、12族金属またはその前駆体と反応して12族金属と錯体を形成できる物質を使用する。ここで、分散剤はその種類と濃度とによって分散剤の配位能力と特定結晶面の成長速度とが制御されるため、最終的に得られる半導体ナノ結晶のサイズ及び形態に非常に重要な影響を及ぼす因子の一つである。
【0022】
前記分散剤の具体的な例としては、弱酸性の有機物であって、末端にCOOH基を有する炭素数2ないし18のアルキルカルボン酸、末端にPOH基を有する炭素数2ないし18のアルケニルカルボン酸、末端にSOH基を有する炭素数2ないし18のアルキルスルホン酸、炭素数2ないし18のアルケニルスルホン酸などを挙げられる。また、前記分散剤は弱塩基性の有機物であってもよく、末端にNH基を有する炭素数2ないし18のアルキルアミンまたは末端にNH基を有する炭素数2ないし18のアルケニルアミンを使用する。このような分散剤の具体的な例として、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、へキシルホスホン酸(hexyl phophonic acid)、n−オクチルホスホン酸(n−octyl phosphonic acid)、テトラデシルホスホン酸(tetradecyl phosphonic acid)、オクタデシルホスホン酸(octadecyl phosphonic acid)、n−オクチルアミン、へキシルデシルアミンを挙げられる。
【0023】
前記12族金属または12族金属前駆体と分散剤との比率は1:0.1から1:100モル比であることが望ましく、さらに望ましくは1:1ないし1:20モル比、さらに望ましくは1:2ないし1:8モル比である。もし、分散剤の含量が前記範囲未満であれば、金属または金属前駆体を安定化させられず、前記範囲を超えれば、反応速度の調節が難しく、ナノ結晶のサイズ分布が大きくなる。
【0024】
前記溶媒としては、不純物が少なく、常温では液状で存在し、配位能力が適当であるものを使用する。このような溶媒としては、炭素数6ないし22個の第1級アルキルアミン、炭素数6ないし22個の第2級アルキルアミン、炭素数6ないし22個の第3級アルキルアミン、炭素数6ないし22個の含窒素ヘテロ環化合物(nitrogen−containing hetero ring compound)、炭素数6ないし22個の含硫黄ヘテロ環化合物(sulfur−containing hetero ring compound)、炭素数6ないし22個のアルカン、炭素数6ないし22個のアルケン、炭素数6ないし22個のアルキンなどを使用する。
【0025】
前記第1級アルキルアミンの具体的な例としては、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ジメチルドデシルアミンなどがあり、前記第2級アルキルアミンの具体的な例としてはジオクチルアミンがあり、前記第3級アルキルアミンの例としてはトリオクチルアミンがある。そして、前記含窒素ヘテロ環化合物の例としてはイソプロピル−2,3−ジフェニルアジリジンがあり、前記含硫黄ヘテロ環化合物の例としてはジメチルスルホランがあり、前記アルカンの例としてはオクタデカンがあり、前記アルケンの例としてはオクタデセンがあり、前記アルキンの例としてはドデシンがある。
【0026】
前記溶媒は、適切な配位能力と結晶核の分散能力とを有するとともに、高温の反応温度でも安定的に存在しなければならないので、所定の長さ以上の炭素−炭素結合を有することがさらに望ましく、6−18個程度の炭素数を有することが望ましい。また、この溶媒は、化合物半導体を構成する物質の前駆体を溶解させられなければならない。
【0027】
前記12族金属または12族金属前駆体と溶媒との混合比は0.1:1ないし1:100であり、望ましくは0.5:1ないし1:40であり、さらに望ましくは1:1ないし1:20である。
前記12族金属前駆体溶液の濃度は0.001ないし2Mであり、望ましくは0.005ないし0.5Mであり、さらに望ましくは0.01ないし0.1Mである。
【0028】
次いで、1種以上の16族元素または1種以上の16族元素前駆体をそれと配位されうる溶媒に溶解して16族元素前駆体溶液を得る。
前記16族元素としては、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)またはその混合物を使用し、16族元素前駆体としては硫黄粉末、セレン粉末、テルル粉末またはトリメチルシリル硫黄(S(TMS(TriMethylSilyl)))、トリメチルシリルセレン(Se(TMS))、トリメチルシリルテルル(Te(TMS))を使用する。
【0029】
前記溶媒としては、前述した12族金属前駆体溶液の製造時に使用した溶媒のうち16族元素に配位されるものを使用すれば良い。前記した溶媒のうちアルカン、アルケン、アルキンは、16族元素に配位される能力がほとんどなく、アルキルアミン、アルキルホスホン酸(alkyl phosphonic acid)、含窒素ヘテロ環、含硫黄ヘテロ環は16族元素に弱く配位される。
【0030】
前記16族元素または16族元素前駆体と溶媒との混合比は0.1:1ないし1:100であり、望ましくは0.5:1ないし1:40であり、さらに望ましくは1:1ないし1:20である。
前記16族元素前駆体溶液の濃度は0.001ないし2Mであり、望ましくは0.01ないし0.5Mである。前記16族元素前駆体溶液の濃度が0.01M未満の場合、ナノ結晶を反応溶液から分離するのが困難であるので望ましくなく、逆に、0.5Mを超えた場合には、結晶のサイズの分布が広くなって望ましくない。
【0031】
前記過程によって12族金属前駆体溶液に16族元素前駆体溶液を注入して反応させた後、結晶を成長させて12族−16族化合物半導体ナノ結晶を得られる。
【0032】
16族元素前駆体溶液が2種以上の16族元素前駆体を含む場合、16族元素前駆体溶液の添加方法として下記の2つの方法を挙げることができる。
第一の方法は、2種以上の16族元素またはその前駆体を含有する2以上の前駆体溶液をそれぞれ製造し、複数の16族元素前駆体溶液を12族金属前駆体溶液に同時に添加する方法である。
第二の方法は、2種以上の16族元素前駆体を含有する2以上の前駆体溶液をそれぞれ製造し、これらを12族金属前駆体溶液に順次に添加する方法である。
【0033】
前記第一の方法によれば、ナノ結晶の中心部分と外側部の構造がほとんど同じ状態の合金形態である1種以上の12族金属と2種以上の16族元素とより構成される3成分系以上の多元系半導体ナノ結晶が得られる。このような化合物半導体ナノ結晶の具体的な例として、ZnSSe、ZnSeTe、ZnSTe、CdSSe、CdSeTe、CdSTe、HgSSe、HgSeTe、HgSTe、ZnCdS、ZnCdSe、ZnCdTe、ZnHgS、ZnHgSe、ZnHgTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、ZnCdSSe、ZnHgSSe、ZnCdSeTe、ZnHgSeTe、CdHgSSe、CdHgSeTeなどがある。
【0034】
前記第二の方法によれば、最初に添加される16族元素と溶媒内に存在していた12族金属との化合物が中心部を構成し、順次に添加される16族元素と溶媒内にある12族金属との化合物が外側部を構成する分離された形態のナノ結晶であって、CdSe/CdS、CdTe/CdS、CdS/CdSe、CdS/CdTe、ZnSe/ZnS、ZnTe/ZnS、ZnS/ZnSe、ZnS/ZnTe、ZnSe/ZnSなどのような半導体ナノ結晶を得られる。
【0035】
前記加熱温度は100℃ないし400℃、望ましくは200℃ないし350℃、さらに望ましくは300℃ないし350℃である。この時、加熱温度が100℃未満であれば結晶の成長が難しく、400℃を超えれば安定的な溶媒が検索し難く、結晶の成長速度が調節し難くて望ましくない。
【0036】
前記12族金属前駆体溶液と16族元素前駆体溶液との反応によって得られた結晶を成長させる時間は1秒ないし10時間である。望ましくは10秒ないし5時間であり、さらに望ましくは30秒ないし2時間である。もし、結晶成長時間が前記範囲を超えれば、反応速度が調節し難くなって望ましくない。
【0037】
もし、12族金属前駆体溶液が1種以上の12族金属またはその前駆体を含んでいる場合、16族元素前駆体溶液と混合する時、次の2つの方法が何れも可能である。
【0038】
第一の方法は、前記1種以上の12族金属前駆体を含有する前駆体溶液をそれぞれ製造し、この前駆体溶液を16族元素前駆体溶液と順次に混合する。
第二の方法は、1種以上の12族金属前駆体を含有する前駆体溶液をそれぞれ製造し、この前駆体溶液を16族元素前駆体溶液に同時に添加する。
【0039】
前述した製造方法によって得られた半導体ナノ結晶の量子構造は、特別には制限されず、球型、棒型、三脚型、四脚型、立方体型、ボックス型またはスター型でありうる。
【0040】
本発明の製造方法によって得た3成分系以上の化合物半導体ナノ結晶は、その発光領域が300nmないし1300nmである。そして、このような化合物半導体の量子構造の発光効率が30%以上であり、望ましくは50%以上である。
【0041】
前記3成分系以上の化合物半導体は、量子構造のサイズ分布を表す光励起発光スペクトルのFWHMが50nm以下であり、望ましくは30nm以下であって、均一なサイズ分布を有するナノ粒子である。
【0042】
一方、前述した1種以上の12族金属と1種以上の16族元素とより構成される3成分系またはそれ以上の合金形態の多元系半導体ナノ結晶は、ディスプレイ、センサー、エネルギー分野のような分野に多様に応用され、特に有機電界発光素子の有機膜、特に発光層の形成時に有用である。このような半導体ナノ結晶を発光層に導入しようとする場合には、真空蒸着法、スパッタリング法、プリンティング法、コーティング法、インクジェット方法、電子ビームを利用した方法などを利用できる。ここで、有機膜の厚さは50ないし100nmであることが望ましい。ここで、前記有機膜とは、発光層以外に電子輸送層、正孔輸送層のように、有機電界発光素子で一対の電極間に形成される有機化合物よりなる膜を指称する。
【0043】
このような有機電界発光素子は、通常的に知られた陽極/発光層/陰極、陽極/バッファ層/発光層/陰極、陽極/正孔輸送層/発光層/陰極、陽極/バッファ層/正孔輸送層/発光層/陰極、陽極/バッファ層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、陽極/バッファ層/正孔輸送層/発光層/ホールブロッキング層/陰極などの構造に形成されうるが、これに限定されない。
【0044】
この時、前記バッファ層の素材としては、バッファ層の素材として一般的に使用される物質を使用でき、望ましくはCuフタロシアニン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、またはこれらの誘導体を使用できるが、これに限定されない。
前記正孔輸送層の素材としては、正孔輸送層の素材として一般的に使用される物質を使用でき、望ましくはポリトリフェニルアミンを使用できるが、これに限定されない。
【0045】
前記電子輸送層の素材としては、電子輸送層の素材として一般的に使用される物質を使用でき、望ましくはポリオキサジアゾールを使用できるが、これに限定されない。
前記ホールブロッキング層の素材としては、ホールブロッキング層の素材として一般的に使用される物質を使用でき、望ましくはLiF、BaFまたはMgFなどを使用できるが、これに限定されない。
【0046】
本発明の有機電界発光素子の製作は、特別な装置や方法を用いることなく、通常の発光材料を利用した有機電界発光素子の製作方法によって製作することができる。
以下、本発明を下記実施例をさらに詳細に説明するものの、本発明が下記実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
[CdSeSナノ結晶の合成]
トリオクチルアミン(Trioctylamine、以下、TOA)16gと、オレイン酸0.5gと、酸化カドミウム0.4mmolとを同時に、還流コンデンサー(還流冷却器)が設置されている100mlのフラスコに入れ、これを攪拌しながら反応温度を300℃に調節してカドミウム前駆体溶液を形成した。
【0048】
これと別途にSe粉末を、トリオクチルホスフィン(Trioctylphosphine、以下、TOP)に溶かして、Se濃度が約0.1MのSe−TOP錯体溶液を作り、S粉末をTOPに溶かしてS濃度が約4MのS−TOP錯体溶液を準備した。
【0049】
前記カドミウム前駆体溶液にS−TOP錯体溶液0.5mlとSe−TOP錯体溶液0.5mlとの混合物を迅速に注入して4分ほどさらに攪拌した。
【0050】
前記反応混合物の反応が終了した後に、反応混合物の温度を可能な限り速く常温に下げ、非溶媒としてエタノールを添加して遠心分離を実施した。遠心分離されて沈殿が除去された溶液をデカントして捨て、沈殿をトルエンに分散させた後、光励起発光スペクトル(PL(PhotoLuminescence)スペクトル)を測定した。
【0051】
前記PLスペクトルの測定結果から、発光波長は約580nmと示され、FWHMは約30nmと示された。
【0052】
図1は、前記方法によって得られたCdSeSナノ結晶の高解像度の透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)の写真を示したものである。これを参照すれば、ナノ結晶が均一な形態及びサイズに成長していることが分かる。
【0053】
図2は、前記方法によって得られたCdSeSナノ結晶のSTEM(Scanning TEM;走査透過型電子顕微鏡)/EDS(Energy Dispersive Spectrometer;エネルギー分散型X線分光)イメージ(スケールバー=50nm)を示したものである。これを参照すれば、ナノ結晶の組成及びサイズ分布が均一であることが分かる。
【0054】
図3は、前記方法によって得られたCdSeSナノ結晶のX線回折スペクトルを示したものである。これを参照すれば、CdSeまたはCdSの結晶による回折パターンが得られたことが分かる。
【0055】
図4は、前記方法によって得られたCdSeSナノ結晶の紫外線分光器の吸収スペクトルを示したものである。これを参照すれば、特定のエネルギーによって励起される均一なナノ結晶が生成されていることが分かる。
【実施例2】
【0056】
[ZnCdSeナノ結晶の合成]
TOA16gとオレイン酸0.5g、アセチルアセトン酸亜鉛0.2mmolと酸化カドミウム0.2mmolを同時に還流コンデンサーが設置された100mlのフラスコに入れ、これを攪拌しながら反応温度を300℃に調節して亜鉛とカドミウムとの前駆体溶液を作った。
【0057】
これと別途に、Se粉末をTOPに溶かしてSe濃度が約0.25MであるSe−TOP錯体溶液を作った。このSe−TOP溶液1mlを、前述した亜鉛とカドミウムとの前駆体溶液に迅速に注入して攪拌し、約2分間維持した。
【0058】
反応混合物の反応が終了した後に、反応混合物の温度を可能な限り速く常温に下げ、非溶媒のエタノールを添加して遠心分離を実施した。遠心分離されて沈殿が除去された溶液はデカントして捨て、沈殿をトルエンに分散させた後、PLスペクトルを測定した。
【0059】
PLスペクトルの測定結果から、発光波長は約456nmと示され、FWHMは約26nmと示された。
【実施例3】
【0060】
[CdSe/CdSナノ結晶の合成]
TOA16gとオレイン酸0.5g、酢酸カドミウム0.4mmolを同時に還流コンデンサーが設置された100mlのフラスコに入れ、これを攪拌しながら反応温度を300℃に調節してカドミウム前駆体溶液を作った。
【0061】
これと別途に、Se粉末をTOPに溶かしてSe濃度が約0.25MであるSe−TOP錯体溶液を作った。このSe−TOP錯体溶液1mlを、前述したカドミウム前駆体溶液に迅速に注入して攪拌し、約4分間維持した。
【0062】
S粉末はTOPに溶かしてS濃度が約2MであるS−TOP錯体溶液を準備し、S−TOP錯体溶液1mlを前記過程によって反応混合物に滴下した後に攪拌した。
【0063】
前記反応混合物の反応が終了した後に、反応混合物の反応温度を可能な限り速く常温に下げ、非溶媒としてエタノールを添加して遠心分離を実施した。遠心分離されて沈殿が除去された溶液をデカントして捨て、沈殿をトルエンに分散させた後、PLスペクトルを測定した。
【0064】
前記PLスペクトルの測定結果から、発光波長は約520nmと示され、FWHMは約30nmと示された。
【0065】
図5は、本発明の実施例1、2、3によって得られたCdSeSナノ結晶、ZnCdSeナノ結晶、及びCdSe/CdSナノ結晶のPLスペクトルを表したものである。これを参照すれば、結晶のエネルギー準位及びサイズ分布が分かり、発光効率も把握できる。
【実施例4】
【0066】
[CdSeSナノ結晶を利用したOLEDの製作]
この実施例は、前記実施例1で得たCdSeSナノ結晶をEL(Electroluminescence;電界発光)素子の発光素材として採用した有機EL素子の製作を示すものである。
【0067】
パターニングされているITO基板の上部にCdSeSナノ結晶と、1wt%のTPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン)のクロロホルム溶液を1:1重量比で混合したものをスピンコーティングした後、これを乾燥して厚さ40nmの発光層を形成した。
【0068】
前記発光層の上部にAlq(トリス−(8ヒドロキシキノリン)アルミニウム)を蒸着して、厚さ40nmほどの電子輸送層を形成し、この上部にMgとAgとを10:1の元素比率で厚さ75nmに同時に蒸着して陰極を形成して、有機EL素子を完成した。
【0069】
前記有機EL素子において、ELスペクトルを照射した結果、発光波長は約580nm、FWHMは約40nmであり、輝度は15cd/m、装置の効率は約0.5%であることが分かった。図6には、本実施例4によって製作された有機EL素子のELスペクトルが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の半導体ナノ結晶は、ディスプレイ、センサー、エネルギー分野のような分野に多様に応用され、特に、有機電界発光素子の有機膜、特に発光層の形成時に有用に適用されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1種以上の12族金属前駆体を分散剤及び溶媒と混合し、これを加熱して12族金属前駆体溶液を得る段階と、
(b)1種以上の16族元素前駆体をこれと配位可能な溶媒に溶解して16族元素前駆体溶液を得る段階と、
(c)前記1種以上の12族金属前駆体溶液と1種以上の16族元素前駆体溶液とを混合して反応させた後、結晶を成長させる段階と、を含み、
前記(a)12族金属前駆体溶液を得る段階において1種の12族金属前駆体を分散剤及び溶媒と混合した場合には、前記(b)段階で少なくとも2種以上の16族元素前駆体をこれと配位可能な溶媒に溶解して少なくとも2種以上の16族元素前駆体溶液を得て、
前記(a)12族金属前駆体溶液を得る段階において2種の12族金属前駆体を分散剤及び溶媒と混合した場合には、前記(b)段階で少なくとも1種以上の16族元素前駆体をこれと配位可能な溶媒に溶解して少なくとも1種以上の16族元素前駆体溶液を得て、
前記(c)段階において、成長する前記結晶が1種以上の12族金属と1種以上の16族元素とより構成される3成分系以上の合金形態を有し、前記結晶のサイズ分布を表す光励起発光スペクトルの半値幅が50nm以下、かつ、発光効率が30%以上であり、
前記12族金属前駆体溶液の濃度は0.001Mないし2Mであり、
前記16族元素前駆体溶液の濃度は0.001Mないし2Mであり、
前記(a)段階において、加熱が100ないし400℃であり、
前記(c)段階において、反応温度は50℃ないし400℃である
ことを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記(b)段階の前駆体として2種以上の16族元素前駆体を使用する場合、
前記(c)段階において、前記12族金属前駆体溶液に前記2種以上の16族元素前駆体溶液を同時に添加するか、または順次に添加することを特徴とする請求項1に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記12族金属前駆体は、酢酸亜鉛、アセチルアセトン酸亜鉛、ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、炭酸亜鉛、シアン化亜鉛、硝酸亜鉛、酸化亜鉛、過酸化亜鉛、過塩素酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸カドミウム、アセチルアセトン酸カドミウム、ヨウ化カドミウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、フッ化カドミウム、炭酸カドミウム、硝酸カドミウム、酸化カドミウム、過塩素酸カドミウム、リン化カドミウム、硫酸カドミウム、またはその混合物であることを特徴とする請求項1に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記16族元素前駆体は、硫黄粉末、セレン粉末、トリメチルシリル硫黄、トリメチルシリル(TMS)、またはトリメチルシリルセレンであることを特徴とする請求項1に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記12族金属前駆体と前記分散剤の混合モル比は1:0.1ないし1:100モル比であることを特徴とする請求項1に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記16族元素前駆体と前記溶媒の混合モル比は0.1:1ないし1:100モル比であることを特徴とする請求項1に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記分散剤は、ステアリン酸、パルミチン酸、ヘキシルホスホン酸、n−オクチルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、n−オクチルアミン及びヘキシルデシルアミンよりなる群から選択されたいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載に半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒は、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、オクタデセンよりなる群から選択された何れか1つ以上であることを特徴とする請求項に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項9】
前記分散剤は、ステアリン酸またはパルミチン酸であることを特徴とする請求項に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒は、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミンまたはジメチルドデシルアミンであることを特徴とする請求項に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項11】
前記結晶成長させる時間が1秒ないし10時間であることを特徴とする請求項1に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載の半導体結晶の製造方法によって製造され、1種以上の12族金属と、1種以上の16族元素とより構成される3成分系以上の合金形態の半導体結晶。
【請求項13】
前記半導体結晶がZnSSe、CdSSe、ZnCdS、ZnCdSe、またはZnCdSSeであることを特徴とする請求項12に記載の半導体結晶。
【請求項14】
前記半導体結晶が球型、棒型または立方体型であることを特徴とする請求項12に記載の半導体結晶。
【請求項15】
一対の電極間に有機膜を含む有機電界発光素子において、
前記有機膜が請求項12に記載の半導体結晶を含むことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項16】
前記半導体結晶がZnSSe、CdSSe、ZnCdS、ZnCdSe、またはZnCdSSeであることを特徴とする請求項15に記載の有機電界発光素子。
【請求項17】
前記半導体結晶が球型、棒型、または立方体型であることを特徴とする請求項15に記載の有機電界発光素子。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−131701(P2012−131701A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−1577(P2012−1577)
【出願日】平成24年1月6日(2012.1.6)
【分割の表示】特願2004−206818(P2004−206818)の分割
【原出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung−ro,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】