説明

合金組成物及びこの合金組成物を含む機器

合金組成物と、この合金組成物を含む機器及び器具とを開示する。この合金組成物の硬度、強度、耐腐食性及び生体適合性は高い。この合金組成物を用いて、例えば、医療用機器及び医療用製品を製造することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合金組成物と、この合金組成物を含む医療用インプラント、医療用器具並びに非医療産業用製品及び商業製品などの機器とに関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、鉄と、クロム、ニッケル及びモリブデンなど他の元素とを含む合金である。この合金は高硬度、高引張強度及び高耐腐食性を示し得る。
結果として、ステンレス鋼を用いて種々の製品を製造することが可能である。例えば、ステンレス鋼を用いて、医療用機器(ステント及び整形外科用インプラントなど)及び医療用器具(メスなど)を作製し得る。ステンレス鋼により、不具合を生じ得る摩耗及び変形に抵抗するための硬度及び強度が、それらの医療用機器及び医療用器具に付与され得る。同時に、それらの医療用機器又は医療用器具が、例えば、腐食を促進し得る反復的な蒸気オートクレーブ滅菌又は体内の電解質条件に暴露されるとき、ステンレス鋼により良好な耐腐食性が付与され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0003】
本発明は合金組成物と、この合金組成物を含む機器とに関する。
一態様では、本発明は約22重量%未満のクロムと、約4重量%未満のモリブデンと、約50重量%より多くの白金と、鉄とを含有する合金からなる医療用機器を特徴とする。
【0004】
実施形態には、次の特徴のうちの1つ以上が含まれてよい。合金は約3〜約22重量%のクロムを含有する。合金は約1〜約4重量%のモリブデンを含有する。合金は約55重量%より多くの白金、例えば、約60重量%より多くの白金、約65重量%より多くの白金、約70重量%より多くの白金、約75重量%より多くの白金、約80重量%より多くの白金、約90重量%より多くの白金を含有する。合金はニッケル、例えば、約6重量%未満のニッケルを含有する。合金は、銅、マンガン、ニッケル、リン、ケイ素、窒素、硫黄及び炭素を含有する。合金は約25重量%未満の鉄を含有する。
【0005】
この合金は次の特性のうちの1つ以上を有し得る。合金はほぼ完全にマルテンサイトであるか、合金の約50%以上、例えば、約70%以上、約90%以上がマルテンサイトである。合金の耐孔食性指数は約26より大きい。合金の硬度は約24HRCより大きい。合金の引張強度は最大引張強度で約965MPa(140ksi)より大きい。合金の密度は約11g/cmより大きい。
【0006】
この医療用機器の実施形態は種々の形態を有し得る。この医療用機器は身体にインプラントされるように適合され得る。この医療用機器は、固定用機器、補綴具、股関節(hip stem)、膝蓋(knee tray)又は歯科補綴具の形態であり得る。この医療用機器は外科用器具に対し適合され得る。この外科用器具は鉗子(forcep)、クランプ、針、鋏又はメスの形態であり得る。この医療用機器は、本発明の合金からなる切断エレメントを備えるバルーンカテーテルの形態であり得る。
【0007】
別の態様では、本発明は、ステンレス鋼と、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、金、銀又は鉛のうちから選択される約50重量%より多くの1つ以上の第1の元素とを含有する合金からなる医療用機器を特徴とする。
【0008】
実施形態は次の特性のうちの1つ以上を有し得る。ステンレス鋼は316ステンレス鋼など300系のステンレス鋼である。合金は約60重量%より多くの第1の元素、例えば
、約70重量%より多くの第1の元素を含有する。合金はクロム及びモリブデンを含有する。合金の約50%以上はマルテンサイトである。第1の元素は白金である。合金はステンレス鋼、1つ以上の第1の元素、クロム及びモリブデンから本質的になる。ステンレス鋼は300系のステンレス鋼であり、第1の元素は白金であり、かつ、合金は約22重量%未満のクロムと、約4重量%未満のモリブデンとを含有する。
【0009】
別の態様では、本発明は、硬度が約24HRCより大きく、耐孔食性指数が約26より大きい合金からなる医療用機器を特徴とする。この合金の約50%以上はマルテンサイトである。
【0010】
実施形態は次の特性のうちの1つ以上を有してよい。合金の最大引張強度は約965MPa(140ksi)より大きい。合金の密度は約11g/cmより大きい。合金の放射線不透過性は316Lステンレス鋼の放射線不透過性より高い。
【0011】
別の態様では、本発明は、約22重量%未満のクロムと、約4重量%未満のモリブデンと、約50重量%より多くの白金と、鉄とを含有する組成物を特徴とする。
実施形態には、次の特徴のうちの1つ以上が含まれてよい。組成物は約3〜約22重量%のクロムを含有する。組成物は約1〜約4重量%のモリブデンを含有する。組成物は約55重量%より多くの白金を含有する。組成物はニッケル、例えば、約6重量%未満のニッケルを含有する。組成物は、銅、マンガン、ニッケル、リン、ケイ素、窒素、硫黄及び炭素を含有する。組成物は約25重量%未満の鉄を含有する。組成物はほぼ完全にマルテンサイトであり、例えば、組成物の約50%以上、約70%以上、約90%以上がマルテンサイトである。組成物の耐孔食性指数は約26より大きい。組成物の硬度が約24HRCより大きいか、若しくは、組成物の最大引張強度が約965MPa(140ksi)より大きいか、又はその両方である。組成物の密度は約11g/cmより大きい。
【0012】
実施形態は次の利点のうちの1つ以上を有してよい。合金組成物は高硬度(例えば、工具鋼と同様)及び高耐腐食性を有し得る。組成物の放射線不透過性は高く、結果として、X線透視法を用いて組成物を観察可能である。一部の実施形態では、組成物のニッケル濃度は比較的低く(例えば、外科用鋼の316L又は304Lと比較して)、組成物の生体適合性を増大し得る。合金組成物を用いて、医療用機器、医療用器具、地質掘穿機材及び石油採掘機材、海洋(例えば、水中)機材並びに建築構造物を含む種々の製品を作製することが可能である。
【0013】
本明細書では、「合金」は、例えば、共に溶融されること及び溶融時に相互に溶解することにより密に結合した、2以上の金属から又は金属及び非金属から構成される物質を意味する。
【0014】
本発明の他の態様、特徴及び利点は、好適な実施形態の説明及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
本発明は、合金組成物と、この合金組成物を含む製品とを特徴とする。この合金組成物は、医療用途又は非医療用途に適切な放射線不透過性、硬度、強度、伸び及び耐腐食性など、1つ以上の物理的特性若しくは機械的特性又はその両方を有する。一部の実施形態では、この合金組成物はステンレス鋼(316Lステンレス鋼など)をステンレス鋼の硬度などを強化することが可能な1つ以上の元素(Ptなど)と組み合わせること(例えば、溶解すること)により、生成される。結果として、この合金組成物は、ステンレス鋼と同様の耐腐食性若しくは生体適合性又はその両方と、工具鋼の高硬度とを有し得る。続いて、この合金組成物から、そうした特性の組み合わせによる利益を受ける製品(インプラント可能な補綴具など)を作製し得る。
【0015】
以下のテーブル1には、特に、クロム、モリブデン、鉄及び元素Xを含む合金を示す。
【0016】
【表1】

元素Xは、原子量が約180〜約210の元素など、原子量が約100〜約239の元素のうちの1つ以上(例えば、2,3,4,5,6以上)を含み得る。幾つかの実施形態では、元素Xの結晶格子パラメータ「a」は、約3.80以上など、約2.86以上である。元素Xの例には、白金、イリジウム、ロジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、金、パラジウム、銀及び鉛が含まれる。これに加えて、合金には、炭素、窒素、マンガン、銅、亜鉛、ケイ素、リン及びニッケルのうちの1つ以上の元素が含まれてもよい。
【0017】
理論に拘束されようとするものではないが、クロムは、例えば、合金の耐孔食性を増すことにより、合金の耐腐食性を高め得ると考えられる。例えば、一定のステンレス鋼では、12重量%以上にて、クロムが鋼表面に薄酸化膜を形成し、腐食攻撃に対する鋼の耐性を高め得る。耐腐食性の程度は鋼中のクロム濃度と、他の元素の濃度との関数であり得る。この合金は約3〜約22重量%のクロムを含み得る。この合金は、約3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21重量%以上のクロムを含むか、若しくは、22,21,20,19,18,17,16,15,14,13,12,11,10,9,8,7,6,5,4重量%以下のクロムを含むか、又はその両方であり得る。
【0018】
また、腐食、例えば、孔食及び間隙腐食に対する合金の耐性を高めるために、合金にモリブデンを添加できる。一部の実施形態では、この合金は約1〜約4重量%のモリブデンを含む。例えば、この合金は、約1,1.25,1.5,1.75,2,2.25,2.5,2.75,3,3.25,3.5,3.75重量%以上のモリブデンを含むか、若しくは、4,3.75,3.5,3.25,3,2.75,2.5,2.25,2,1.75,1.5,1.25重量%以上のモリブデンを含むか、又はその両方であり得る。
【0019】
元素X(例えば、Pt,Ta,Hf,W,Pd,Ir,Rh,Pb,Ag及びAu)は、例えば、合金の強度、硬度及び放射線不透過性のうちの1つ以上など、合金を高めることが可能な元素の群から選択される。理論に拘束されようとするものではないが、元素Xは、合金の構造の格子にひずみを与え格子を変形させて合金を強化することにより、固溶体に合金を強化させ得ると考えられる。例えば、元素Xの格子パラメータ「a」は、鉄の格子パラメータ「a」(Fe=2.866)より大きい。結果として、元素Xの原子が結晶格子に組み込まれると、ひずみ(変形)が生じ、材料が強化される。一部の実施形態では、元素Xの密度は鉄の密度(7.87g/cm)以上である。高密度の元素Xは、例えば、従来の市販の鉄系ステンレス鋼合金(316L,304L,410など)と比較して、合金組成物の放射線不透過性(即ち、X線に対する可視性)を増大し得る。これにより、これらの合金から作製された一定の製品(医療用インプラントなど)をX線により観察することが可能となる。また、高濃度の元素Xは合金の密度を増大し得る。一部の実施形態では、この合金の密度は約11g/cmより大きく、例えば、約11.5,12.
0,12.5,13.0g/cmより大きい。この高密度の合金により、例えば、効果的なアンカー又はバラストが可能となる。
【0020】
合金は、全体で約50〜約90重量%の1つ以上の元素Xを含み得る。この合金は、約50,55,60,65,70,75,80,85重量%以上の元素Xを含むか、若しくは、90,85,80,75,70,65,60,55重量%以下の元素Xを含むか、又はその両方であり得る。
【0021】
一部の実施形態では、合金はニッケルを含む。この合金は、約5.5重量%未満のニッケルを含み得る。例えば、合金は、約5.5,5,4.5,4,3.5,3,2.5,2,1.5重量%以下のニッケルを含むか、若しくは、1,1.5,2,2.5,3,3.5,4,4.5重量%以上のニッケルを含むか、又はその両方であり得る。一部の実施形態では、この合金は実質的にニッケルを含まない、即ち、1重量%以下(例えば、0.05重量%以下、0.03重量%以下)のニッケルしか含まない。ニッケルは、一部の患者にアレルギー性作用若しくは細胞毒性作用又はその両方を引き起こし得ると考えられる。したがって、合金中のニッケル量を減少させることにより、それらの作用の発生を減少(最小化又は除去)し得る。
【0022】
この合金は、マイクロアロイ化元素又は微量(residual amount)の不純物元素を含み得る。例えば、合金は、リン(例えば、最大で0.025重量%)、ケイ素(例えば、最大で0.75重量%)、硫黄(例えば、最大で0.010重量%)、ニオブ(例えば、約0.013重量%)、バナジウム(例えば、約0.07重量%)、チタン(例えば、0.002重量%)、銅(例えば、約0.2重量%)、セレン(例えば、約0.2重量%)及びアルミニウム(例えば、約0.009重量%)のうちの1つ以上を含んでよい。材料の素性に応じて、他のマイクロアロイ化元素及び微量元素の場合もある。
【0023】
鉄は、例えば、上述の合金の他の元素を集計した後の、合金の残部を組成する。一部の実施形態では、合金は、0重量%より多く約25重量%未満の鉄を含む。例えば、合金は、約25,23,21,19,17,15,13,11,9,7,5,3重量%以下の鉄を含み得る。
【0024】
合金は、合金の成分を密に組み合わせることにより合成され得る。一部の実施形態では、合金組成物の標本は、仕込みの合金成分を溶解することにより作製される。例えば、50重量%以上(例えば、>60重量%、>70重量%)の白金を316Lステンレス鋼と、追加のクロム金属及び追加のモリブデン金属(耐腐食性のため)のうちの1つ以上と共に溶解し、目標の合金組成物を生成し得る。これに代えて、適切な濃度の元素の粉体を溶解することにより、目標の合金組成物を生成し得る。溶解には、真空誘導溶解(VIM)、真空アーク再溶解(VAR)、電子ビーム溶解(EBM)、プラズマ溶解、真空又は不活性ガスプラズマ蒸着、熱間等方圧加圧並びに冷間加圧及び焼結のうちの1つ以上を用いることができる。標本は、インゴット、圧粉体又は堆積物の形態であり得る。
【0025】
続いて、合金標本は加工されて(例えば、熱処理により)、選択された構造及び特性を有する材料を生成する。好適な実施形態では、合金のミクロ構造はマルテンサイトが優勢(50%より多い)である、即ち、この合金は主にマルテンサイト相からなる。マルテンサイトミクロ構造により、この合金には高引張強度及び高硬度が付与されると考えられる。一部の場合には、合金の約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%以上がマルテンサイトであり得る。好適には、合金はほぼ完全にマルテンサイトである。
【0026】
一部の実施形態では、合金は高耐腐食性を有する。耐腐食性特性は耐孔食性指数(PR
E;pitting resistance equivalent)として特徴付けられ、PRE=%Cr+3.3(%)Mo+30Nとして算出され得る。ここで、Cr,Mo,Nは、それぞれ、合金中のクロム、モリブデン、窒素の重量%濃度である。PREについてのさらなる情報は、エス.ディ.カイザー(S.D.Kiser)、「溶接腐食の防止(Preventing Weld Corrosion)」、アドバンスド・マテリアルズ・アンド・プロセシーズ(Advanced Materials&Processes)、2002年3月、p.32−35に見ることができる。好適な実施形態では、合金の耐孔食性指数は約26以上である。
【0027】
合金は高硬度及び高強度のうちの1つ以上も有し得る。一部の実施形態では、この合金のロックウェル硬度は約24HRCより大きく、例えば、約30,35,40,45,55HRCより大きい。合金は、約965MPa(140ksi)より大きい最大引張強度(UTS)、例えば、約1241MPa(180ksi),約1379MPa(200ksi),約1517MPa(220ksi)より大きい最大引張強度を有し得る。
【0028】
図1には、この合金から製品を製造する方法を示す。最初に、合金の標本を合成し(例えば、合金の成分を溶解することにより)(工程20)、続いて、標本を熱処理する(工程22)。熱処理において、溶解及び凝固のために生じる元素の偏析による標本中の不均一性が低減(例えば、除去)されることにより、標本が均一化される。また、熱処理により、合金中にマルテンサイト構造が形成される。一部の実施形態では、この標本を約1300℃で約6時間に渡って加熱し、緩やかに冷却する。
【0029】
続いて、熱処理した標本を、さらなる加工に適切な寸法及び形状に成形する(工程24)。例えば、標本を熱間加工して、ビレット、棒、板、ストリップ(strip)、箔又は管を作製し得る。これに代えて、又は、これに加えて、中間焼なまし工程若しくは熱間焼戻し工程と共に標本を冷間加工し、所望の形状及び寸法を得ることが可能である。
【0030】
続いて、この標本を、製造手法を用いて製品に成形する(工程26)。例えば、標本を鍛造すること若しくは機械加工すること又はその両方により、製品を作製し得る。一部の場合には、目的の用途に適合した強度、硬度及び延性の調和した、焼戻しされたマルテンサイトミクロ構造を生成する最終の熱処理により、この製品を仕上げる(工程28)。
【0031】
高硬度、高強度及び高耐腐食性の組み合わせにより、この合金から種々の製品を作製することが可能となる。例えば、この合金を用いて、医療用製品を作製し得る。この合金を用いて、高強度及び高硬度のうちの1つ以上を有することによる利益を受ける鉗子、クランプ、針、鋏及びメスなどの医療用器具を作製することが可能である。また、この合金を用いて、2003年1月2日に出願の米国特許出願第10/335,604号明細書並びに米国特許第5,209,799号明細書及び米国特許第5,336,234号明細書に記載の医療用バルーンカテーテルに装備されているような、切断エレメントを製造し得る。合金の硬度及び強度により、刃が丸まること(これにより鋭利さが減少し得る)及び製品形状の変形が減少され得る。また、一部の場合、合金の耐腐食性が比較的高いため、器具を反復的な蒸気オートクレーブ滅菌サイクルに暴露することが可能となる。結果として、この器具はさらに再使用され得るので、交換のコストが減少される。
【0032】
この合金を用いて、過負荷及び破損に対する高強度、高耐腐食性及び生体適合性(例えば、長期に渡り(10年間より長くなど)身体にインプラントされていることが可能)のうちの1つ以上を有することによる利益を受ける医療用機器を作製することが可能である。適切な医療用機器の例には、内部及び外部の固定用機器、股関節、膝蓋及び歯科補綴具が含まれる。
【0033】
この合金を用いて、他の内補綴具も製造し得る。例えば、この合金は、キム(Kim)らによる米国特許第6,146,404号明細書に記載の着脱可能な血栓フィルタなどのフィルタ、ダニエル(Daniel)らによる米国特許第6,171,327号明細書に記載のものなど血管内フィルタ、及び、ソーン(Soon)らによる米国特許第6,342,062号明細書に記載のものなど大静脈フィルタに用いられ得る。これらの明細書を引用により本願に援用する。
【0034】
また、この合金は、米国特許第4,958,625号明細書、米国特許第5,368,045号明細書及び米国特許第5,090,419号明細書に記載のマイヤー・ステアラブル・ガイドワイヤ(Meier Steerable Guide Wire)(AAAステント処置用)及びASAP(商標)オートメイテッド・バイオサイ・システム(Automated Biopsy System)などのガイドワイヤに用いられ得る。これらの明細書を引用により本願に援用する。
【0035】
この合金は、非医療目的においても用いられ得る。例えば、この合金を用いて、過酷な負荷及び環境条件に対抗する高強度及び高耐腐食性を有することによる利益を受ける製品を作製することが可能である。この合金は、地質掘穿若しくは石油採掘又はその両方、過酷な腐食条件に暴露される海洋機材又は海洋構造物並びに構造部品における成分として、用いられ得る。この合金は、その高密度により、海洋アンカー及びバラスト棒、バランスビーム部材、兵器の投射体並びに、高い密度、強度、硬度及び耐腐食性が所望される他の用途において有用となり得る。この合金の高い硬度及び耐腐食性は、剃刀刃、ナイフの刃及び鋏などの切断刃を作製する際に有用である。
【0036】
以下の実施例は例示であって、限定を意図するものではない。
[実施例]
以下の実施例では3つの合金組成物の特徴を示す。316Lステンレス鋼(カーペンター(Carpenter)社により市販されているBioDur(登録商標))を50,60,70重量%の白金金属と組み合わせることにより、これらの合金組成物を合成した。これらの実施例では、追加のクロム金属及びモリブデン金属を添加して、公称Cr濃度を17.83重量%、公称Mo濃度を2.65重量%とした(耐孔食性及び自己不動態化のため)。以下に示すように、白金濃度の増大につれ、鉄及びニッケル濃度は減少する。
【0037】
【表2】

テーブル2には、3つの合金組成物の組成及び特徴を示す。化学分析には、誘導結合プラズマ(ICP)手法を用いた。トリエーテッドタングステンチップ及び三重溶解手法を用い、実験室の真空アーク溶解炉にて、これらの合金の小さなインゴットを調整した。鋳造したままのインゴットに対し、約1289〜1300℃で約6時間(約1時間の昇温時間を含む)に渡り、均一化熱処理サイクルを実行した。続いて、この標本を炉内で700℃まで冷却し、その後、空冷した。50重量%のPtの標本では、据込み鍛造及び冷間圧延により、最終厚さが約1.52mm(約0.060インチ)の圧延されたストリップを各インゴットから作製した。このストリップを約1040℃で約20分間に渡り焼なまし、空冷した。60重量%のPtの標本は最初の冷間圧延中に割れを生じ、70重量%のPtの標本は据込み鍛造より前の粗機械加工中に割れを生じた。圧延により、鋳造したままの樹枝状又は柱状の結晶粒が微細な等軸の結晶粒に微細化され、最終の熱処理により合金の特性を生成すると考えられる。
【0038】
耐孔食性指数(PRE)は、上述のように算出した。
密度測定には、マイクロメトリクス(Micrometrics)社の気相置換密度測定装置を用いた。ストリップの断片を秤量し、密度測定装置のチャンバー内に配置した。気体ヘリウムを用いてチャンバーの容積を測定し、標本の密度を算出した。テーブル2に示す結果は、各標本に対する3回の試験の平均の密度である。
【0039】
走査型電子顕微鏡(SEM)分析により、有意な白金の偏析のないことが明らかとなった。
ミクロ構造を明らかにするため、標本を研磨し、30mLの水、35mLのHCl及び5mLのHNOからなるエッチング液に浸漬し、50〜70℃まで加熱してエッチングした。50重量%のPtの標本の長さ方向の断面を500倍に拡大した光学顕微鏡写真では、わずか2つの縞(band)しかない等軸のオーステナイト結晶粒を有するミクロ構造が明らかとなった。60重量%のPtの標本の長さ方向の断面を50倍に拡大した光学顕微鏡写真では、組織化された、延伸した結晶粒を有するミクロ構造が明らかとなった。70重量%のPtの標本の長さ方向の断面を50倍に拡大した光学顕微鏡写真では、結晶粒内にマルテンサイト構造のある等軸のオーステナイト結晶粒を有するミクロ構造が明らかとなった。
【0040】
標本の硬度の測定には、約4.90N(500グラム重)のビッカース押し込みによる金属組織断面のミクロ硬度試験(ASTM E384)を用いた。続いて、ビッカース硬度をスケールCのロックウェル硬度の値に変換した。テーブル2に示すように、白金濃度の増大とともに標本の硬度は増大し、70重量%の白金の標本の硬度は工具鋼の硬度と同様であった。テーブル2に示す硬度の値は、各標本に対する5回の測定値の平均である。
【0041】
標本の強度の測定には、ASTM E8による引張試験を用いた。
他の実施形態では、他のステンレス鋼を1つ以上の元素Xと組み合わせ得る。このステンレス鋼は、200系(例えば、201,202)及び300系(例えば、304L,302,308,309,310)などオーステナイト系ステンレス鋼の要素、フェライト系ステンレス鋼(例えば、18−2FM,405,409,429,430,442)の要素、並びにマルテンサイト系ステンレス鋼(403,410,416,420,440C,502,503,504など)の要素であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】製品の製造方法を示すフローチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約22重量%未満のクロムと、約4重量%未満のモリブデンと、約50重量%より多くの白金と、鉄とを含有する合金からなる医療用機器。
【請求項2】
合金は約3〜約22重量%のクロムを含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項3】
合金は約1〜約4重量%のモリブデンを含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項4】
合金は約55重量%より多くの白金を含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項5】
合金は約60重量%より多くの白金を含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項6】
合金は約65重量%より多くの白金を含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項7】
合金は約70重量%より多くの白金を含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項8】
合金は約80重量%より多くの白金を含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項9】
合金は約90重量%より多くの白金を含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項10】
合金はニッケルを含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項11】
合金は約6重量%未満のニッケルを含有する請求項10に記載の医療用機器。
【請求項12】
合金は、銅、マンガン、ニッケル、リン、ケイ素、窒素、硫黄及び炭素を含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項13】
合金は約25重量%未満の鉄を含有する請求項1に記載の医療用機器。
【請求項14】
合金はほぼ完全にマルテンサイトである請求項1に記載の医療用機器。
【請求項15】
合金の約50%以上はマルテンサイトである請求項1に記載の医療用機器。
【請求項16】
合金の約70%以上はマルテンサイトである請求項1に記載の医療用機器。
【請求項17】
合金の約90%以上はマルテンサイトである請求項1に記載の医療用機器。
【請求項18】
合金の耐孔食性指数は約26より大きい請求項1に記載の医療用機器。
【請求項19】
合金の硬度は約24HRCより大きい請求項1に記載の医療用機器。
【請求項20】
合金の引張強度は最大引張強度で約965MPa(140ksi)より大きい請求項1に記載の医療用機器。
【請求項21】
合金の密度は約11g/cmより大きい請求項1に記載の医療用機器。
【請求項22】
身体にインプラントされるように適合されている請求項1に記載の医療用機器。
【請求項23】
固定用機器、補綴具、股関節、膝蓋又は歯科補綴具の形態である請求項22に記載の医
療用機器。
【請求項24】
外科用器具に対し適合されている請求項1に記載の医療用機器。
【請求項25】
外科用器具は鉗子、クランプ、針、鋏又はメスの形態である請求項24に記載の医療用機器。
【請求項26】
前記合金からなる切断エレメントを備えるバルーンカテーテルの形態である請求項1に記載の医療用機器。
【請求項27】
ステンレス鋼と、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、金、銀及び鉛のうちから選択される約50重量%より多くの1つ以上の第1の元素とを含有する合金からなる医療用機器。
【請求項28】
ステンレス鋼は300系のステンレス鋼である請求項27に記載の医療用機器。
【請求項29】
ステンレス鋼は316ステンレス鋼である請求項28に記載の医療用機器。
【請求項30】
合金は約60重量%より多くの第1の元素を含有する請求項27に記載の医療用機器。
【請求項31】
合金は約70重量%より多くの第1の元素を含有する請求項27に記載の医療用機器。
【請求項32】
合金はクロム及びモリブデンを含有する請求項27に記載の医療用機器。
【請求項33】
合金の約50%以上はマルテンサイトである請求項27に記載の医療用機器。
【請求項34】
第1の元素は白金である請求項27に記載の医療用機器。
【請求項35】
合金はステンレス鋼、1つ以上の第1の元素、クロム及びモリブデンから本質的になる請求項27に記載の医療用機器。
【請求項36】
ステンレス鋼は300系のステンレス鋼であり、第1の元素は白金であり、かつ、合金は約22重量%未満のクロムと、約4重量%未満のモリブデンとを含有する請求項35に記載の医療用機器。
【請求項37】
硬度は約24HRCより大きく、耐孔食性指数は約26より大きく、かつ、約50%以上はマルテンサイトである合金からなる医療用機器。
【請求項38】
合金の最大引張強度は約965MPa(140ksi)より大きい請求項37に記載の医療用機器。
【請求項39】
合金の密度は約11g/cmより大きい請求項37に記載の医療用機器。
【請求項40】
合金の放射線不透過性は316Lステンレス鋼の放射線不透過性より高い請求項37に記載の医療用機器。
【請求項41】
約22重量%未満のクロムと、約4重量%未満のモリブデンと、約50重量%より多くの白金と、鉄とを含有する組成物。
【請求項42】
約3〜約22重量%のクロムを含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
約1〜約4重量%のモリブデンを含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項44】
約55重量%より多くの白金を含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項45】
約60重量%より多くの白金を含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項46】
約65重量%より多くの白金を含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項47】
約70重量%より多くの白金を含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項48】
ニッケルを含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項49】
約6重量%未満のニッケルを含有する請求項48に記載の組成物。
【請求項50】
銅、マンガン、ニッケル、リン、ケイ素、窒素、硫黄及び炭素を含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項51】
約25重量%未満の鉄を含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項52】
ほぼ完全にマルテンサイトである請求項41に記載の組成物。
【請求項53】
約50%以上はマルテンサイトである請求項41に記載の組成物。
【請求項54】
約70%以上はマルテンサイトである請求項41に記載の組成物。
【請求項55】
約90%以上はマルテンサイトである請求項41に記載の組成物。
【請求項56】
耐孔食性指数は約26より大きい請求項41に記載の組成物。
【請求項57】
硬度は約24HRCより大きい請求項41に記載の組成物。
【請求項58】
最大引張強度は約965MPa(140ksi)より大きい請求項41に記載の組成物。
【請求項59】
密度は約11g/cmより大きい請求項41に記載の組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2007−516021(P2007−516021A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536718(P2006−536718)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/034580
【国際公開番号】WO2005/039663
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】