説明

同期モータ制御装置および制御方法

【課題】安価な構成で、モータ出力容量が大きく、かつ低振動、低騒音で同期モータを駆動する制御装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】同期モータを駆動するための可変電圧・可変周波数の3相交流電圧を出力する3相インバータと、それを制御するモータ制御手段と、を備えた同期モータ制御装置であって、さらに前記同期モータに含まれる5次高調波の含有率を設定する高調波設定回路を有し、前記モータ制御手段は、前記3相インバータの出力電圧演算部と、高調波含有率を検出し設定する高調波含有率設定部と、前記高調波含有率設定部で設定された高調波含有率と前記出力電圧とから5次高調波電圧指令を演算する高調波信号形成部と、前記出力電圧と前記5次高調波電圧指令とから5次高調波を重畳させた出力電圧指令を演算する信号波形成部と、前記出力電圧指令に従い前記3相インバータの駆動信号を生成する駆動信号形成部と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコンや給湯器などに用いられる同期モータの制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エアコンや給湯器などのファンモータは、広範囲の可変速制御や電力消費量の節約のため、同期モータが採用されており、これを低騒音、低振動駆動するために正弦波駆動することが行われている。
また、通常、ファンモータは、低騒音、低振動化のために、正弦波状の誘起電圧波形になるように設計されているが、モータ出力容量を大きくするために意図的に誘起電圧に高調波を重畳させることがある。
特許文献1において、電源電圧利用率を高めて、モータ最大出力を増やすために、モータの誘起電圧に含まれる高調波成分に関わらず、奇数の高次高調波を重畳する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−20381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータを正弦波駆動のみで駆動する場合は、低騒音、低振動であるものの、モータ出力容量が不充分であるという課題がある。
また、特許文献1のようにモータの誘起電圧に含まれる高調波成分に関わらず、奇数次の高次高調波を重畳する方法は、最大出力は増加する利点はあるが、モータに見合った奇数次の高次高調波ではないため、トルク脈動が増加し、振動、騒音につながるという課題がある。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点を解決するもので、その目的とするところは、モータ出力容量が大きく、かつ低振動、低騒音で同期モータを駆動する制御装置およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決して、本発明の目的を達成するために、以下のように構成した。
すなわち、同期モータを駆動するための可変電圧・可変周波数の3相交流電圧を出力する3相インバータと、前記3相インバータを制御するモータ制御手段と、を備えた同期モータ制御装置であって、さらに前記同期モータの誘起電圧に含まれる5次高調波の含有率を設定する高調波設定回路を有し、前記モータ制御手段は、前記3相インバータの出力電圧を演算する出力電圧演算部と、前記高調波設定回路で設定された高調波含有率を検出し設定する高調波含有率設定部と、前記高調波含有率設定部で設定された高調波含有率と前記出力電圧とから5次高調波電圧指令を演算する高調波信号形成部と、前記出力電圧と前記5次高調波電圧指令とから5次高調波を重畳させた出力電圧指令を演算する信号波形成部と、前記出力電圧指令に従い前記3相インバータの駆動信号を生成する駆動信号形成部と、を備えた。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モータ出力容量が大きく、かつ低振動、低騒音で同期モータを駆動する制御装置およびその制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態である同期モータ制御装置2の構成と、この同期モータ制御装置2が備えられた同期モータ5との全体の構成を示すブロック図である。
【図2】5次高調波含有率とAD入力電圧の関係を示す特性図である。
【図3】7次高調波含有率とAD入力電圧の関係を示す特性図である。
【図4】各電圧指令の一例を示す波形図であり、(a)が各相電圧指令、(b)が各線間電圧指令を示している。
【図5】U相電圧指令とU相5次高調波電圧指令の一例を示す波形図である。
【図6】U相電圧指令とU相7次高調波電圧指令の一例を示す波形図である。
【図7】高調波重畳後の各相電圧指令の一例を示す波形図である。
【図8】高調波重畳後の線間電圧指令の一例を示す波形図である。
【図9】本発明の第1実施形態の同期モータ制御装置の制御方法の処理フローを示すフローチャートである。
【図10】ファンモータの線間電圧の誘起電圧実測波形の一例を示す波形図である。
【図11】図10のファンモータの周波数解析結果の一例を示す解析図である。
【図12】Y結線とΔ結線の結線を示す構成図であり、(a)がY結線、(b)がΔ結線の構成を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による同期モータの全体構成を示すブロック図である。この第1実施形態のモータ制御装置は、エアコンの室内機および室外機,給湯器、または空気清浄機などに用いられるファンモータの制御装置として、好適な構成をとっている。
【0011】
<同期モータ5の全体構成と直流電源1について>
図1において、同期モータ5は、モータ制御装置(同期モータ制御装置)2とモータ巻線8を備えて構成される。
また、直流電源1は、モータ制御装置2に電力を供給する。例えば、約141[V]〜約450[V]の高圧電圧である。直流電源1の直流電力は、例えば、商用電源(不図示)からの交流電力を整流・平滑するコンバータ(不図示)や、バッテリ(不図示)から得られる。
この直流電源1の高圧電圧は、インバータ主回路3には直流正電位線101と直流負電位線102間から供給される。
【0012】
<モータ制御装置2の構成>
モータ制御装置2は、インバータ主回路(3相インバータ)3とモータ制御手段4と高調波設定回路7と位置センサ9とゲート駆動回路11を備えて構成される。
なお、モータ制御手段4と高調波設定回路7と位置センサ9とゲート駆動回路11には、直流電源1の電力が、それぞれに適正な電圧に変換されて供給される。
【0013】
<インバータ主回路3について>
インバータ主回路3は、直流電源1の直流電力を3相(U相、V相、W相)の交流電力に変換する。
インバータ主回路3は、直流電源1の直流正電位線101と直流負電位線102間に、各相(U相、V相、W相)用として、それぞれにIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)からなる2個のスイッチング素子(T1、T4)、(T2、T5)、(T3、T6)を、それぞれ直列接続して備えている。また、それらの直列接続点がそれぞれ3相交流の出力端子となっている。
【0014】
より詳しくは、スイッチング素子T1がU相における上アームスイッチング素子(U相上アームスイッチング素子)であり、スイッチング素子T4がU相における下アームスイッチング素子(U相下アームスイッチング素子)であって、直流電源1の直流正電位線101と直流負電位線102間に直列に接続され、スイッチングアームを構成し、スイッチング素子T1とスイッチング素子T4の接続点がU相の交流出力端子となっている。
【0015】
また、スイッチング素子T2がV相における上アームスイッチング素子(V相上アームスイッチング素子)であり、スイッチング素子T5がV相における下アームスイッチング素子(V相下アームスイッチング素子)であって、直流電源1の直流正電位線101と直流負電位線102間に直列に接続され、スイッチングアームを構成し、スイッチング素子T2とスイッチング素子T5の接続点がV相の交流出力端子となっている。
【0016】
また、スイッチング素子T3がW相における上アームスイッチング素子(W相上アームスイッチング素子)であり、スイッチング素子T6がW相における下アームスイッチング素子(W相下アームスイッチング素子)であって、直流電源1の直流正電位線101と直流負電位線102間に直列に接続され、スイッチングアームを構成し、スイッチング素子T3とスイッチング素子T6の接続点がW相の交流出力端子となっている。
これらのU相、V相、W相の交流出力端子がモータ巻線8にそれぞれ接続されている。
【0017】
また、各スイッチング素子T1〜T6は、それぞれ、逆並列に還流ダイオードD1〜D6を備えている。このとき、還流ダイオードD1〜D6は、それぞれ、U相上アーム還流ダイオードD1、V相上アーム還流ダイオードD2、W相上アーム還流ダイオードD3、U相下アーム還流ダイオードD4、V相下アーム還流ダイオードD5、W相下アーム還流ダイオードD6である。
【0018】
このインバータ主回路3は、直流電源1から供給される電力と、ゲート駆動回路11からのゲート駆動信号に基づき、可変電圧・可変周波数の3相交流電力(電圧)を作り、同期モータ5のモータ巻線8へ供給する。なお、図1におけるVUM、VVM、VWMがインバータ主回路(3相インバータ)3のそれぞれU相インバータ出力、V相インバータ出力、W相インバータ出力となっている。
また、スイッチング素子T1〜T6のそれぞれのゲート駆動信号は、モータ制御手段4から出力された駆動信号に応じて形成される。
【0019】
<ゲート駆動回路11について>
ゲート駆動回路11は、後記するモータ制御手段4からPWM(Pulse Width Modulation、パルス幅制御)の駆動信号を受けるが、このモータ制御手段4からの駆動信号の出力としての駆動能力は、インバータ主回路3のスイッチング素子T1〜T6を直接駆動するには、電圧においても出力インピーダンスにおいても不充分である。そこで、ゲート駆動回路11で一旦、信号を受け、スイッチング素子T1〜T6を駆動できる出力電圧と出力インピーダンスに変換してから、インバータ主回路3(スイッチング素子T1〜T6のゲート駆動信号)にPWMの駆動信号を供給する。
【0020】
<位置センサ9について>
位置センサ9は磁極の位置を検出するものであり、同期モータ5のモータ巻線8に発生する誘起電圧と一定の位相関係をもつ位置センサ信号(VHu、VHv、VHw)を、モータ制御手段4へ出力する。
位置センサ9には、例えば、低価格なホールICなどが用いられる。また、ホールICの替わりに、より低コストであるホール素子を用いる場合もある。なお、図1では、3個のホールICを用いているが、位置センサは2個または1個でもよい。
【0021】
<高調波設定回路7について>
高調波設定回路(高調波設定手段)7は、5次高調波設定回路7Aと7次高調波設定回路7Bとを備えて構成されている。
5次高調波設定回路7Aは、抵抗R1と抵抗R2の抵抗分割からなる出力信号を形成している。また、7次高調波設定回路7Bは、抵抗R3と抵抗R4の抵抗分割からなる出力信号を形成している。
5次高調波設定回路7Aと7次高調波設定回路7Bのそれぞれの出力信号は、モータ制御手段4における高調波含有率設定部42に供給されている。後記するように、高調波含有率設定部42は、5次高調波設定回路7Aと7次高調波設定回路7Bのそれぞれの出力信号を参照して、5次と7次の高調波の含有率を設定する。
【0022】
<モータ制御手段4について>
次に、モータ制御手段4について説明する。
モータ制御手段4は、出力電圧演算部41、高調波含有率設定部42、高調波信号形成部43、信号波形成部44、駆動信号形成部45、搬送波出力部46と、を備えて構成されている。これらのモータ制御手段4を構成する各部(41〜46)の機能と動作については、後記する。
モータ制御手段4は、例えば、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと略す)、ディジタル・シグナル・プロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)などにより実現できる。モータ制御手段4の動作については、次に、マイコンを用いた場合で説明する。
【0023】
≪マイコンの処理内容≫
モータ制御手段4がマイコンで実現される場合において、出力電圧演算部41は、位置センサ9から得られる位置センサ信号(VHu〜VHw)のデータを用いてモータの回転速度を演算する。
さらに、回転速度の演算結果から得られる速度検出値ωrと、モータ制御手段4の外部から入力された速度指令情報Vspから求めた速度指令値ω*とが一致するように、速度制御に係る演算を行い、モータに出力する正弦波状の電圧および位相を演算する。
【0024】
≪モータへの出力電圧と位相の演算≫
前記の演算式は、本発明の要部ではないため、概略のみを以下に説明する。なお、参考文献1(わかりやすい小形モータの技術、オーム社出版、株式会社日立製作所総合教育センタ技術研修所編)の内容を主として用いる。
モータへの出力電圧の大きさV1は、以下の数式の(1)式に与えられる。
V1={(Vd*)+(Vq*)}1/2 ・・・・・・(1)
また、(1)のdq軸電圧指令は、以下の数式の(2)、(3)式に与えられる。
Vd*=r・Id*−ωr・L・Iq* ・・・・・・(2)
Vq*=r・Iq*+ωr・L・Id*+ωr・Ke ・・・・・・(3)
ここに、
Vd*:d軸電圧指令、Id*:d軸電流指令、Vq*:q軸電圧指令、Iq*:q軸電流指令、r:巻線抵抗、L:インダクタンス、Ke:発電定数、ωr:速度検出値、
である。
【0025】
次に、モータへの出力電圧の位相は、下記の数式の(4)、(5)式に従い、求める。
θu=δ+π/2+θd ・・・・・・(4)
ここに、
δ=tan-1(−Vd*/Vq*) ・・・・・・(5)
θd:d軸位相
である。
次に、下記の数式の(6)、(7)、(8)式を用いて、各相電圧指令に変換する。
Vu*=V1×cosθu ・・・・・・(6)
Vv*=V1×cos(θu−2π/3) ・・・・・・(7)
Vw*=V1×cos(θu+2π/3) ・・・・・・(8)
【0026】
なお、以上においては、モータを駆動する電圧や誘起電圧の基本波を、この分野の慣例にしたがって、「正弦(sin)波」と表現したが、数式の(6)、(7)、(8)式に示すように、時間や電気角の0に対して左右対称となる「余弦(cos)波」が、計算式においては、取り扱いが簡便である。したがって、以下の数式においても、「sin」ではなく「cos」で取り扱う。ただし、「正弦(sin)波」も「余弦(cos)波」も位相が90度(π/2)異なるだけで、電気的、物理的には本質的な差異はない。
【0027】
また、本実施形態では、位置センサ9から得られる速度情報に基づき、同期モータ5に出力する電圧および位相を演算したが、位置センサ9からの情報ではなく、モータの巻線電流の情報やインバータの入力電流の情報に基づき、モータへの出力電圧の大きさおよび位相を演算しても良い。
【0028】
≪5次、7次の各相高調波電圧指令の演算≫
高調波含有率設定部42は、図1に示す5次高調波設定回路7Aおよび7次高調波設定回路7Bなどの安価な抵抗回路で設定した電圧を入力とし、モータ出力電圧の基本波に対する高調波含有率を、高調波信号形成部43へ出力する。
なお、5次高調波設定回路7Aは抵抗R1と抵抗R2の直列回路を電源に挿入し、抵抗R1と抵抗R2の接続点から抵抗分割された電圧を出力している。この出力電圧は、AD入力電圧として、高調波含有率設定部42に入力されている。
また、7次高調波設定回路7Bは抵抗R3と抵抗R4の直列回路を電源に挿入し、抵抗R3と抵抗R4の接続点から抵抗分割された電圧を出力している。この出力電圧は、AD入力電圧として、高調波含有率設定部42に入力されている。
なお、前記したAD入力電圧とは、マイコンのAD端子(A/D変換端子:アナログ-ディジタル変換端子)に入力する電圧である。
【0029】
図2は、高調波含有率設定部42の入力電圧(AD入力電圧)と、5次高調波含有率(Bh_5)との関係の一例を示す特性図である。
図2において、横軸は高調波含有率設定部42の入力電圧(AD入力電圧[V])であり、0〜5Vの範囲である。また、縦軸は5次高調波含有率[%]のBh_5であり、±20%の範囲である。
AD入力電圧が抵抗R1(図1)と抵抗R2(図1)の抵抗分割によって、中間の値である2.5Vの値をとるときは、5次高調波含有率(Bh_5)が0%であって、5次高調波を含ませないように設定することに対応する。
【0030】
また、抵抗R1(図1)と抵抗R2(図1)のそれぞれの抵抗値をR1、R2として、R2≧R1でAD入力電圧がほぼ5Vの場合は、5次高調波含有率(Bh_5)が約+20%とする。
また、R1≧R2でAD入力電圧がほぼ0Vの場合は、5次高調波含有率(Bh_5)が約−20%とする。
以上によって、高調波含有率設定部42における5次高調波含有率[%]のBh_5を調整する。
【0031】
また、図3は、高調波含有率設定部42の入力電圧(AD入力電圧)と、7次高調波含有率(Bh_7)との関係の一例を示す特性図である。
図3において、横軸は高調波含有率設定部42の入力電圧(AD入力電圧[V])であり、0〜5Vの範囲である。また、縦軸は7次高調波含有率[%]のBh_7であり、±10%の範囲である。
AD入力電圧が抵抗R3(図1)と抵抗R4(図1)の抵抗分割によって、中間の値である2.5Vの値をとるときは、7次高調波含有率(Bh_7)が0%であって、7次高調波を含ませないように設定することに対応する。
【0032】
また、抵抗R3(図1)と抵抗R4(図1)のそれぞれの抵抗値をR3、R4として、R4≧R3でAD入力電圧がほぼ5Vの場合は、7次高調波含有率(Bh_7)が約+10%とする。
また、R3≧R4でAD入力電圧がほぼ0Vの場合は、7次高調波含有率(Bh_7)が約−10%とする。
以上によって、高調波含有率設定部42における7次高調波含有率[%]のBh_7を調整する。
なお、図2におけるBh_5が±20%であり、図3におけるBh_7が±10%であることは、5次高調波の含有率よりも、さらに高次となる7次高調波の含有率が、一般的には、低下することに対応して設定している。
【0033】
高調波信号形成部43では、出力電圧演算部41で算出した出力電圧の大きさV1とし、位相θuと高調波含有率設定部42で設定された5次高調波含有率(Bh_5)と7次の高調波含有率(Bh_7)を入力して、5次の各相高調波電圧指令(Vu_5次*、Vv_5次*、Vw_5次*)と、7次の各相高調波電圧指令(Vu_7次*、Vv_7次*、Vw_7次*)を、下記の数式の(9)〜(14)式より算出する。
Vu_5次*=V1×Bh_5×cos(5×θu) ・・・・・・(9)
Vv_5次*=V1×Bh_5×cos(5×(θu−2π/3)) ・・(10)
Vw_5次*=V1×Bh_5×cos(5×(θu+2π/3)) ・・(11)

Vu_7次*=V1×Bh_7×cos(7×θu) ・・・・・・(12)
Vv_7次*=V1×Bh_7×cos(7×(θu−2π/3)) ・・(13)
Vw_7次*=V1×Bh_7×cos(7×(θu+2π/3)) ・・(14)
【0034】
≪高調波重畳後の各相電圧指令≫
信号波形成部44は、出力電圧演算部41で算出した各相電圧指令と、高調波信号形成部43で算出した各相高調波電圧指令を入力とし、モータに出力する高調波重畳後の各相電圧指令を、下記の数式の(15)〜(17)式より求め、駆動信号形成部45へ出力する。
Vu*’=Vu*+Vu_5次*+Vu_7次* ・・・・・・(15)
Vv*’=Vv*+Vv_5次*+Vv_7次* ・・・・・・(16)
Vw*’=Vw*+Vw_5次*+Vw_7次* ・・・・・・(17)
【0035】
ここで、一例として、図4から図8を参照して、出力電圧の大きさV1=10Vの場合の電圧指令を説明する。
図4は、出力電圧演算部41の出力電圧指令の波形図であり、図4(a)は各相の電圧指令を示し、図4(b)は各線間の電圧指令を示している。図4(a)、(b)ともに、縦軸は電圧[V]、横軸は電気角[°](度)を表している。
図4(a)において、出力電圧指令の3相の各相(U相、V相、W相)とも正弦波状の電圧指令(Vu*、Vv*、Vw*)である。
また、図4(b)において、出力電圧指令の3相の各線間(U−V、V−W、W−U)とも正弦波状の電圧指令(UV、VW、WU)である。
【0036】
なお、図4に出力電圧指令の波形を示したときのモータの巻線は、Y結線(モータ巻線8、図1、図12(a))であるので、図4(a)における各相(U相、V相、W相)の電圧指令(Vu*、Vv*、Vw*)の最大値が、約10Vであるのに対し、図4(b)における各線間(U−V、V−W、W−U)の電圧指令(UV、VW、WU)の最大値が、約17.3Vとなっている。
これは、Y結線の場合には、後記するように相電圧と線間電圧は異なり、線間電圧は二つの相のベクトル差となるので、最大値で比較すると(3)1/2倍(ルート3≒1.73)の相違があることに対応している。
【0037】
≪モータ巻線8の相電圧波形、線間電圧波形≫
次に、モータ巻線8の線間電圧に高調波を加える場合のモータ線間電圧波形を、図4〜図8を参照して説明する。
図5は、図4(a)の相電圧の基本波の電圧指令(Vu*)に対し、5次高調波(Vu_5次*)を含有率Bh_5として−4.6%を重畳する場合の、基本波と5次高調波の波形を示した図である。なお、重畳した後の波形は示していない。
なお、図5において、縦軸は電圧[V]、横軸は電気角[°](度)を表している。
【0038】
図6は、図4(a)の相電圧の基本波の電圧指令(Vu*)に対し、7次高調波(Vu_7次*)を含有率Bh_7として−0.3%を重畳する場合の、基本波と7次高調波の波形を示した図である。なお、重畳した後の波形は示していない。
なお、図6において、縦軸は電圧[V]、横軸は電気角[°](度)を表している。
【0039】
図7は、基本波の各相の電圧指令(Vu*、Vv*、Vw*)と、5次および7次高調波電圧指令を加算した信号波形成部44の出力である各相の電圧指令(Vu*’、Vv*’、Vw*’)を示す波形図である。なお、図7においては、5次高調波の含有率Bh_5は−4.6%であり、7次高調波の含有率Bh_7は−0.3%である。
なお、以上の例において、5次高調波の含有率Bh_5と7次高調波の含有率Bh_7は共に負(マイナス)値であったが、一般的には正値も負値も共にとりうる。
また、図5、図6ではU相の1相分しか示していないが、図7ではU相、V相、W相の3相分を示している。
なお、図7において、縦軸は電圧[V]、横軸は電気角[°](度)を表している。
【0040】
図8は、図7の各相電圧指令から線間電圧を算出した波形を示す波形図である。なお、前記したようにY結線における線間電圧は二つの相電圧のベクトル差となるので、図7に示された各相電圧指令(Vu*’、Vv*’、Vw*’)から、二つの相電圧のベクトル差として、図8の各線間電圧の電圧指令(UV’、VW’、WU’)が得られる。
図8の各線間電圧の電圧指令(UV’、VW’、WU’)は、図10の実測のモータ線間電圧波形と略一致している。このように、モータの誘起電圧に合った電圧(相似の電圧波形)を印加することが特性上(効率、低騒音、低振動)において望ましく、本実施形態によって、可能となる。
なお、図10については後記する。
また、図8において、縦軸は電圧[V]、横軸は電気角[°](度)を表している。
【0041】
≪PWM信号形成≫
図1において、搬送波出力部46は、PWM(Pulse Width Modulation)信号を発生するための搬送波(三角波)を発生する。
駆動信号形成部45では、各相の印加電圧指令Vu*’、Vv*’、Vw*’と搬送波との振幅レベルの比較を行い、インバータ主回路3(スイッチング素子T1〜T6)を駆動するための駆動信号(パルス幅制御信号、PWM制御信号)を出力する。
なお、本部分(PWM信号形成)は、本発明の要部ではないため、詳細な説明は省略する。
【0042】
≪ソフト処理フローについて≫
モータ制御手段4を実現したマイコン内部のソフト処理のうち、本発明の実施形態の説明に必要な部分のフローをフローチャートにて説明する。
図9は、本発明の第1実施形態の同期モータ制御装置の制御方法の処理フローを示すフローチャートである。
【0043】
まず、マイコンの電源を投入する(ステップS1100)
【0044】
次にマイコンの電源確立後、端子設定や変数初期化などの初期設定を行う(ステップS1101)。
【0045】
次に、高調波含有率設定端子として割付られた5次と7次高調波設定用のマイコンのAD端子(A/D変換端子:アナログ-ディジタル変換端子)からAD入力値の読込みを行う(ステップS1102)。
なお、この読込みは、1回でも構わないが、複数回読込むことが望ましい。これは読み込みの際のノイズの影響を回避するためである。
【0046】
次に、ステップS1102で読み込んだAD入力値に対し平均化処理を実施し、その値を用いて、5次と7次の高調波含有率を設定する(ステップS1103)。
【0047】
次に、以上の電源投入後の処理(ステップS1101〜S1103)を終えた後、インバータ(インバータ主回路3、図1)停止状態へと移行する(ステップS1104)。
【0048】
次に、インバータ起動条件が成立したか否かを判定する(ステップS1105)。
なお、インバータ起動条件としては、速度指令情報Vspが規定値を超えた場合や、マイコンの特定端子の電位が条件を満たした場合などがある。ただし、このインバータ起動条件は、用途に応じて異なる。インバータ起動条件については、本発明の要部ではないため、詳細は省略する。
【0049】
ステップS1105でインバータ起動条件が不成立(No)の場合は、インバータ停止処理(もしくはインバータ停止状態を継続)を実施する(ステップS1106)。
なお、ステップS1106では、スイッチング素子(T1〜T6)を全てOFF固定状態とする。また、本処理(ステップS1106)は、本発明の要部ではないため、詳細な説明は省略する。
【0050】
また、ステップS1105でインバータ起動条件が成立(Yes)した場合は、ステップS1107の処理に移行する。
【0051】
ステップS1107で出力電圧演算をする。つまり、速度指令情報Vspや速度指令検出値などを用いて、数式で示す(1)〜(6)式の演算を行い、出力電圧の大きさV1、位相θu、各相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を算出する(ステップS1107)。
【0052】
次に、高調波電圧指令演算を行う。つまり、ステップS1107で算出した出力電圧の大きさV1と、ステップS1103で設定した5次と7次の高調波含有率設定値Bh_5、Bh_7とを用いて、数式で示す(9)〜(14)式の演算を行い、各相高調波電圧指令を算出する(ステップS1108)。
【0053】
次に、高調波重畳後の出力電圧指令演算を行う。つまり、ステップS1107とステップS1108で求めた電圧指令値を加算し、高調波重畳後の各相電圧指令Vu*’、Vv*’、Vw*’を算出する(ステップS1109)。
【0054】
次に、PWM出力処理を行う。つまり、ステップS1109で算出した高調波重畳後の各相の印加電圧指令と搬送波とを比較し、インバータ主回路3を駆動する信号を形成する(ステップS1110)。
【0055】
以降は、ステップS1110で得られた駆動信号(PWM制御信号)によって、ゲート駆動回路11を経て、インバータ主回路3を駆動する。
また、インバータ起動条件(用途によって異なる)を判定する必要のある状態に到ったときは、フローチャートのステップS1100、もしくはステップS1105から前記ソフト処理フローにしたがって、演算処理が行われる。
【0056】
なお、本処理フローのステップS1101〜ステップS1103において、電源投入後に1回のみ高調波含有率読込み、設定する処理フローとしているが、1回のみでなく、インバータ停止処理後に毎回読込み、設定しても良いし、またインバータ駆動中に読込み、設定しても良い。ただし、外来ノイズの影響を考慮すると、電源投入時、あるいはインバータ停止処理時に端子情報を読込み、設定することが望ましい。
【0057】
(第1実施形態の補足)
以上、本発明の第1実施形態の高調波成分を重畳する方法について述べたが、この方法に係る事象について以下に補足して述べる。
<ファンモータの線間電圧実測波形例>
図10は、ファンモータの線間電圧の誘起電圧実測波形の一例を示す波形図である。3相同期モータは3相の正弦波で動作するのが基本的な原理ではあるが、実際にはモータ(ファンモータ)の構造上の理由から、必ずしも理想的な正弦波で動作する訳ではない。構造的に不規則性や非対称性があれば、正弦波の基本波に対して、その高調波成分となって現れる。
図10の誘起電圧実測波形例では、明らかに正確な正弦波形ではない。これは高調波成分が含まれて歪んだ波形例である。
【0058】
<誘起電圧実測波形例の周波数解析結果>
図11は、図10に示した誘起電圧実測波形例の周波数解析(FFT:Fast Fourier Transform)結果の解析図である。また、横軸は周波数[Hz]、縦軸は周波数成分の基本波に対する割合(百分率)[%]である。
図11において、基本波は47Hzであり、この周波数で大きなピークを示しているが、それ以外の周波数も含まれていることが解る。その中で、5次高調波成分にあたる235Hzに僅かなピークが観察され、FFT結果で4.6%と算出されている。また、その他の高調波成分がさらに微小に含まれていることが観察されるが、7次高調波成分にあたる329Hzは0.3%と算出されている。
なお、図11のFFT結果では、基本波、5次高調波、7次高調波のみではなく、その他の周波数成分もある程度は含まれることが示されている。
【0059】
以上のように、モータの線間電圧の誘起電圧波形は、それぞれのモータ固有の高調波成分を既に含んでいる。したがって、モータにさらに高調波成分を印加する場合には、それぞれのモータの特性を見極めることが重要である。
なお、前記した図7に示す基本波の各相の電圧指令(Vu*、Vv*、Vw*)と、5次および7次高調波電圧指令を加算した信号波形成部44の出力の各相電圧指令(Vu*’、Vv*’、Vw*’)を示す波形と、図10のモータの線間電圧の誘起電圧実測波形とが、なるべく相似形であることが、電力効率や低騒音、低振動の観点からは望ましい。
【0060】
<高調波成分の望ましい重畳の仕方>
以上、本発明の第1実施形態によれば、モータの誘起電圧波形に含まれる高調波成分をマイコン外部より設定し、モータに出力する電圧に前記高調波成分を重畳することで、モータの誘起電圧波形とモータへ出力する電圧波形が略一致し、トルク脈動の少ない、低騒音、低振動な同期モータを実現できる。
また、意図的にモータの誘起電圧に5次、7次高調波成分を重畳させ、モータ最大出力を増やしたモータに対しても、モータに見合った印加電圧波形とすることで、トルク脈動を抑えられるため、モータ出力容量を高めたモータを高電力効率、低騒音、低振動で駆動することができる。
【0061】
(第2実施形態)
次に第2実施形態について説明する。
第2実施形態は、5次高調波と7次高調波のみならず、さらに9次、11次などの高次の奇数次の高調波の演算を併せて備えるものである。
第1実施形態においては、モータの誘起電圧に印加する高調波成分を5次高調波と7次高調波について説明したが、高調波成分についてはこれらに限らない。
モータの最大出力を増やすという観点からは、正弦波(もしくは余弦波)よりも台形波により近い方が、大きなモータ出力が得られる。この観点からも、より台形波に近づけるために、5次、7次に加え、9次、11次などの、高次の奇数次の高調波を重畳する方法がある。
したがって、第1実施形態の図1のモータ制御手段4における高調波含有率設定部42、高調波信号形成部43、信号波形成部44においては、5次高調波と7次高調波のみ演算であったが、さらに9次、11次などの高次の奇数次の高調波の演算を併せて備えるのが第2実施形態である。
【0062】
また、モータの誘起電圧波形は、正弦波よりも台形波により近い方が、より大きなモータ出力が得られると述べたが、正弦波から台形波により近くなるにつれ、騒音、振動は大きくなる。
また、高調波を印加する前のモータの誘起電圧の実測波形においては、5次、7次の高調波成分のみならず、9次、11次などの高次の奇数次の高調波も含まれているのが一般的であるので、それらのモータ特性に見合った9次、11次などの、高次の奇数次の高調波を5次、7次に併せて重畳することにより、モータを低騒音、低振動とすることができる。
なお、以上において奇数次の高調波について述べたが、偶数次の高調波は、基本波の半周期(180度、π)における波形において、非対称性をもたらすこと、また、より大きな出力を得る台形波に近づかせるという目的にも合わないので、偶数次の高調波が使用されることは一般的にはない。
【0063】
(第3実施形態)
次に第3実施形態について述べる。
第3実施形態は、モータの巻線(コイル)がΔ結線であって、その際に巻線に3次高調波を重畳させる演算と方法を備えるものである。
第1実施形態、第2実施形態においては、5次以上の奇数次の高調波を重畳される方法について述べたが、第3実施形態においては、モータの巻線がΔ結線であって、その際に巻線に3次高調波を重畳させる方法であり、以下に述べる。
【0064】
第1実施形態において、図1に示したモータ巻線8は、3相が共通の接続点(共通接続点124、図1)を持つY結線であった。しかし、巻線の3相の各相を正三角形状に接続するΔ結線もモータには使用されることがある。このモータの巻線が3相のΔ結線をされる場合において、3次高調波を重畳させる方法について以下に示す。
【0065】
<Y結線とΔ結線について>
まず、簡単にY結線とΔ結線の構造(構成)について、図12を参照して述べる。
図12はY結線とΔ結線のそれぞれの結線を示す構成図であり、図12(a)はY結線、図12(b)はΔ結線を示している。
図12(a)は3相をY結線に接続した構成図である。巻線(コイル)125、126、127のそれぞれの一端の端子はそれぞれ端子121、122、123に接続され、巻線125、126、127のそれぞれの他端は、共通接続点124に共通に接続されている。巻線125、126、127には、それぞれ(2/3π、120度)ずつの位相が異なる相電圧が3相交流として印加、もしくは誘起される。
【0066】
また、端子121、122、123において、端子121と端子122との間の線間電圧は巻線125と巻線126の相電圧のベクトル演算による差の電圧となる。
また、端子122と端子123との間の線間電圧は、巻線126と巻線127の相電圧のベクトル演算による差の電圧となる。
また、端子123と端子121との間の線間電圧は、巻線127と巻線125の相電圧のベクトル演算による差の電圧となる。
このように、図12(a)に示したY結線においては、相電圧と線間電圧は異なる。
【0067】
次に、図12(b)は3相をΔ結線に接続した構成図である。巻線135は端子131と端子132の間に接続されている。巻線136は端子132と端子133の間に接続されている。巻線137は端子133と端子131の間に接続されている。巻線135、136、137には、それぞれ(2/3π)ずつの位相が異なる相電圧が3相交流として印加、もしくは誘起される。
図12(b)におけるΔ結線では、巻線135、136、137のそれぞれの相電圧は、それぞれ端子131、132間、端子132、133間、端子133、131間の線間でもある。
このように、図12(b)に示したΔ結線においては、相電圧と線間電圧は等しい。
【0068】
以上のY結線とΔ結線において、3次高調波を重畳させる場合の相違について以下に述べる。
まず、基本波の各相電圧をそれぞれVu#、Vv#、Vw#として、各相電圧を、下記の数式の(18)〜(20)式として、
Vu#=V1×cosθu ・・・(18)
Vv#=V1×cos(θu−2π/3) ・・・(19)
Vw#=V1×cos(θu+2π/3) ・・・(20)
と表すと、それぞれに3次高調波を重畳させる場合は、次に示す通りとなる。
なお、ここではY結線とΔ結線の相違を示すことだけが目的であるので、基本波のV1、θuは前記した定義(数式の(4)式)をそのまま準用するものとする。
【0069】
ここで、3次高調波含有率を(Bh_3)として、基本波の各相電圧にそれぞれ3次高調波(3θu)を重畳させた各相電圧を、それぞれ、Vu##、Vv##、Vw##と表記すれば、各相電圧Vu##、Vv##、Vw##は下記の数式の(21A)〜(23A)式となる。
Vu##=V1×cosθu
+V1×Bh_3×cos(3θu) ・・・(21A)
Vv##=V1×cos(θu−2π/3)
+V1×Bh_3×cos(3(θu−2π/3)) ・・・(22A)
Vw##=V1×cos(θu+2π/3)
+V1×Bh_3×cos(3(θu+2π/3)) ・・・(23A)
なお、ここで(21A)、(22A)、(23A)の各式は前記したように相電圧を意味する。
【0070】
ここで、数式の(21A)、(22A)、(23A)式は次の(21B)、(22B)、(23B)式のように変形できる。
Vu##=V1×cosθu
+V1×Bh_3×cos(3θu) ・・・(21B)
Vv##=V1×cos(θu−2π/3)
+V1×Bh_3×cos(3θu) ・・・(22B)
Vw##=V1×cos(θu+2π/3)
+V1×Bh_3×cos(3θu) ・・・(23B)
また、(21B)、(22B)、(23B)式は余弦関数(cos)の周期性に基づいて変形しただけであるので、数式の各式(21B)、(22B)、(23B)は相電圧を意味する。
【0071】
≪Δ結線の場合≫
Δ結線の場合には相電圧と線間電圧は等しいので、数式の(21B)、(22B)、(23B)式は、相電圧と同時に線間電圧でもある。そして、数式の(21B)、(22B)、(23B)式は、基本波(θu)に3次高調波(3θu)が重畳していることを示している。
したがって、相電圧と線間電圧が等しいΔ結線においては、3次高調波を重畳させることは電気的にも実際の動作においても意味を持つことを示している。
【0072】
≪Y結線の場合≫
モータの巻線がY結線の場合には、相電圧に高調波を重畳し、線間電圧でモータは動作することになるので、数式の(21B)、(22B)、(23B)式から3相の各線間電圧を導くと以下のようになる。
U−V間の線間電圧は、
Vu##−Vv##=
[V1×cosθu+V1×Bh_3×cos(3θu)]
−[V1×cos(θu−2π/3)+V1×Bh_3×cos(3θu)]
=V1×cosθu−V1×cos(θu−2π/3) ・・・(24)
【0073】
V−W間の線間電圧は、
Vv##−Vw##=
[V1×cos(θu−2π/3)+V1×Bh_3×cos(3θu)]
−[V1×cos(θu+2π/3)+V1×Bh_3×cos(3θu)]
=V1×cos(θu−2π/3)−V1×cos(θu+2π/3)
・・・(25)
【0074】
W−U間の線間電圧は、
Vw##−Vu##=
[V1×cos(θu+2π/3)+V1×Bh_3×cos(3θu)]
−[V1×cosθu+V1×Bh_3×cos(3θu)]
=V1×cos(θu+2π/3)−V1×cosθu ・・・(26)
となる。
【0075】
ここで、数式の各式(24)、(25)、(26)からは3次高調波を表すcos(3θu)の項が無い。これは相間で重畳した筈の3次高調波が線間では相殺されて消えてしまっていることを意味している。
これは、3相では一周期(2π、360度)を3等分した[0、(2/3)π、(4/3)π]、もしくは[−(2/3)π、0、(2/3)π]毎に各相を配置しており、このとき3次高調波においては、3×0=0、3×(2/3)π=2π、3×(4/3)π=4π、からいずれの場合も一周期(2π)の整数倍となっている。したがって、余弦(cos)の性質から実質的に等しくなり、線間電圧を形成する過程で2つの相電圧を引き算した場合には、各相に印加した3次高調波が互いに相殺されてしまうからである。数式の各式(24)、(25)、(26)からは3次高調波の項が無いのは、このことに起因する。
なお、5次、7次の高調波の場合には、3相の一周期(2π)の整数倍にはならないので、相殺(キャンセル)されない。
【0076】
以上のように、第1実施形態と第2実施形態では、Y結線を含むことを念頭においた方式であるので、3次高調波がY結線では重畳しても相殺されてしまうことを考慮して、重畳する高調波は5次以上の奇数の高調波とした。また、第1実施形態と第2実施形態のように、5次以上の奇数の高調波を重畳する方式は、Y結線とΔ結線が共に使用できる方式である。
しかし、相電圧と線間電圧が等しいΔ結線においては、3次高調波も意味あるものとして使用できる。また、3の倍数であって奇数次の高調波である9次高調波や15次高調波もΔ結線においては、有用となることがある。
【0077】
(その他の実施形態)
以上において、第1〜第3実施形態について述べたが、以上の形態には必ずしも限定されない。
モータ制御手段4(図1)は、アナログ回路でもディジタル回路でも、またそれらが混載された回路でもよい。またハードによる手段でもソフトによる演算手段でもよい。また、前記したようにマイコン以外のDSP等による手段でもよい。
【0078】
図1において、高調波設定回路(高調波設定手段)7が、モータ制御手段4の外部に備えられた場合を図示したが、モータ制御手段4の内部に備えられてもよい。
【0079】
インバータ主回路3(図1)のスイッチング素子T1〜T6(図1)は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)で説明したが、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor、金属−酸化物−半導体電界効果型トランジスタ、絶縁ゲート電界効果型トランジスタ)や、BJT(Bipolar Junction Transistor、バイポーラ接合型トランジスタ)、あるいは、他の適切なスイッチング素子を用いても良い。
【0080】
また、以上において、5次以上の奇数の高調波による複数の回路による重畳について述べたが、これらは一般的には高次になるほど含有率は低くなるものの、必ずしも低次から順に使用する必要はない。また、複数の高調波を重畳する回路を用意したときにどの高調波を割り当てるかを選択する手段をハードまたはソフトの手段で備えてもよい。
【0081】
また、第1実施形態と第2実施形態においては、3次の高調波を重畳することは前提としていなかったが、制御手段がソフトによって演算を選択できる場合には、3次の高調波についても重畳する制御手段にソフトで対応できる。
また、モータについてもΔ結線とY結線においては、演算過程は異なるが、ソフトでどちらにも対応、変更可能である。
このときには、Δ結線とY結線のモータをともに対象とし、かつ、3次以上の奇数次の高調波を重畳する複数の回路、手段を備えた同期モータ制御装置、および同期モータ制御装置となる。
【0082】
また、以上は同期モータ制御装置として説明をしたが、同期モータ制御装置の制御方法としての説明も兼ねており、同期モータ制御装置の制御方法の実施形態でもある。
【0083】
(本発明、本実施形態の補足)
従来から、モータの出力を高めるためにモータの高調波を重畳させる手法があったが、モータの特性に見合っていない、つまり、同期モータの誘起電圧波形に含まれる高調波成分を無視して、印加する方式であった。したがって、トルク脈動や振動、騒音が問題であった。
また、モータの誘起電圧波形は、正弦波よりも台形波により近い方が、より大きなモータ出力が得られると述べたが、正弦波から台形波により近くなるにつれ、騒音、振動は大きくなるという問題があった。
【0084】
本実施形態においては、同期モータの誘起電圧に含まれる高調波成分を読み込み、その相似形となるように高調波を重畳する方式であるので、モータの誘起電圧波形とモータへ出力する電圧波形が略一致し、トルク脈動を抑え、低振動、低騒音でモータを駆動することが出来る。
また、意図的にモータの誘起電圧に5次、7次高調波成分を重畳させ、モータ最大出力を増やしたモータに対してもモータに見合った印加電圧波形とすることで、トルク脈動を抑えられるため、モータ出力容量を高めたモータを低騒音で駆動することができる。
また、Δ結線においては、3次以上の奇数次の高調波成分を併せて重畳させ、よりモータ出力容量を高めたモータを低騒音で駆動することができる。
また、その手法が安価かつ汎用性に優れた手法であるので適用範囲が広いという効果がある。
【符号の説明】
【0085】
1 直流電源
2 モータ制御装置(同期モータ制御装置)
3 インバータ主回路(3相インバータ)
4 モータ制御手段
5 同期モータ
7 高調波設定回路(高調波設定手段)
7A 5次高調波設定回路
7B 7次高調波設定回路
8 モータ巻線
9 位置センサ
11 ゲート駆動回路
41 出力電圧演算部
42 高調波含有率設定部
43 高調波信号形成部
44 信号波形成部
45 駆動信号形成部
46 搬送波出力部
101 直流正電位線
102 直流負電位線
121、122、123、131、132、133 端子
124 共通接続点
125、126、127、135、136、137 巻線(コイル)
Bh_5 5次高調波含有率
Bh_7 7次高調波含有率
D1 還流ダイオード、U相上アーム還流ダイオード
D2 還流ダイオード、V相上アーム還流ダイオード
D3 還流ダイオード、W相上アーム還流ダイオード
D4 還流ダイオード、U相下アーム還流ダイオード
D5 還流ダイオード、V相下アーム還流ダイオード
D6 還流ダイオード、W相下アーム還流ダイオード
R1〜R4 抵抗、抵抗値
S1100〜S1110 ステップ
T1 スイッチング素子、U相上アームスイッチング素子
T2 スイッチング素子、V相上アームスイッチング素子
T3 スイッチング素子、W相上アームスイッチング素子
T4 スイッチング素子、U相下アームスイッチング素子
T5 スイッチング素子、V相下アームスイッチング素子
T6 スイッチング素子、W相下アームスイッチング素子
VHu U相位置センサ信号
VHv V相位置センサ信号
VHw W相位置センサ信号
Vu* U相電圧指令(基本波)
Vv* V相電圧指令(基本波)
Vw* W相電圧指令(基本波)
Vu*’ 高調波重畳後のU相電圧指令
Vv*’ 高調波重畳後のV相電圧指令
Vw*’ 高調波重畳後のW相電圧指令
VUM U相インバータ出力電圧
VVM V相インバータ出力電圧
VWM W相インバータ出力電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期モータを駆動するための可変電圧・可変周波数の3相交流電圧を出力する3相インバータと、前記3相インバータを制御するモータ制御手段と、を備えた同期モータ制御装置であって、
さらに前記同期モータの誘起電圧に含まれる5次高調波の含有率を設定する高調波設定回路を有し、
前記モータ制御手段は、
前記3相インバータの出力電圧を演算する出力電圧演算部と、
前記高調波設定回路で設定された高調波含有率を検出し設定する高調波含有率設定部と、
前記高調波含有率設定部で設定された高調波含有率と前記出力電圧とから5次高調波電圧指令を演算する高調波信号形成部と、
前記出力電圧と前記5次高調波電圧指令とから5次高調波を重畳させた出力電圧指令を演算する信号波形成部と、
前記出力電圧指令に従い前記3相インバータの駆動信号を生成する駆動信号形成部と、
を備えたことを特徴とする同期モータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の同期モータ制御装置において、
前記高調波設定回路は、5次高調波とともに7次高調波以上の高調波の含有率を設定する回路を2回路以上備えたことを特徴とした同期モータ制御装置。
【請求項3】
Δ結線の同期モータを駆動するための可変電圧・可変周波数の3相交流電圧を出力する3相インバータと、前記3相インバータを制御するモータ制御手段と、を備えた同期モータ制御装置であって、
さらに前記同期モータの誘起電圧に含まれる3次高調波の含有率を設定する高調波設定回路を有し、
前記モータ制御手段は、
前記3相インバータの出力電圧を演算する出力電圧演算部と、
前記高調波設定回路で設定された高調波含有率を検出し設定する高調波含有率設定部と、
前記高調波含有率設定部で設定された高調波含有率と前記出力電圧とから3次高調波電圧指令を演算する高調波信号形成部と、
前記出力電圧と前記3次高調波電圧指令とから3次高調波を重畳させた出力電圧指令を演算する信号波形成部と、
前記出力電圧指令に従い前記3相インバータの駆動信号を生成する駆動信号形成部と、
を備えたことを特徴とする同期モータ制御装置。
【請求項4】
同期モータを駆動するための可変電圧・可変周波数の3相交流電圧を出力する3相インバータと、前記3相インバータを制御するモータ制御手段と、を備えた同期モータ制御装置の制御方法であって、
さらに前記同期モータの誘起電圧に含まれる5次高調波の含有率を設定する高調波設定手段を有し、
前記モータ制御手段は、
前記3相インバータの出力電圧を演算する出力電圧演算部と、
前記高調波設定手段で設定された高調波含有率を検出し設定する高調波含有率設定部と、
前記高調波含有率設定部で設定された高調波含有率と前記出力電圧とから5次高調波電圧指令を演算する高調波信号形成部と、
前記出力電圧と前記5次高調波電圧指令とから5次高調波を重畳させた出力電圧指令を演算する信号波形成部と、
前記出力電圧指令に従い前記3相インバータの駆動信号を生成する駆動信号形成部と、
を備えたことを特徴とする同期モータ制御装置の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の同期モータ制御装置の制御方法において、
端子設定や変数初期化などの初期設定を行うステップと、
高調波含有率設定端子として割り付けられた5次以上の奇数次高調波設定用端子の読み込みを行うステップと、
読み込んだ入力値に対し平均化処理を実施し、その値を用いて、5次以上の奇数次高調波の高調波含有率を設定するステップと、
インバータ起動条件が成立したか否かを判定するステップと、
入力情報に基づき出力電圧の大きさ、位相、各相電圧指令の出力電圧を演算するステップと、
前記出力電圧の大きさと前記高調波含有率の設定値を用いて、各相高調波電圧指令を演算するステップと、
前記各相電圧指令と前記各相高調波電圧指令とを加算し、高調波重畳後の各相電圧指令を演算するステップと、
算出した前記高調波重畳後の各相電圧指令の印加電圧指令と搬送波を比較し、前記3相インバータ主回路を駆動する信号を形成するステップと、
を備えたことを特徴とする同期モータ制御装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−135100(P2012−135100A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283998(P2010−283998)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】