説明

吐出ヘッド装置、流体吐出装置、及び流体吐出方法

【課題】 流体吐出装置において、吐出ヘッドとサブタンクとが連通された状態でサブタンクを減圧して吐出ヘッドに負圧を印加するにあたり、サブタンクにおける急激な圧力変動に起因する吐出ヘッドのノズル表面に形成されたメニスカスの破壊を回避する。
【解決手段】 サブタンク13とサブタンク13を減圧する負圧発生部19との間に、サブタンク13を規定負圧へ到達させる際の速度を制御する負圧到達速度調整部20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタやインクジェット技術を応用した大型生産装置等の、媒体に対して流体の吐出材料を吐出して描画を行う流体吐出装置に関する。より詳細には、流体を吐出する吐出ヘッドからの吐出材料漏れを防止するために吐出ヘッドに負圧を与える負圧発生システムを採用した吐出ヘッド装置、該吐出ヘッドを搭載した流体吐出装置、及び流体吐出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、吐出ヘッドからの吐出材料の漏れを防止するために、吐出ヘッドを負圧に制御することが行われている。このように吐出ヘッドを負圧にするための負圧発生システムとしては、多孔質スポンジに吐出材料を含浸させたタンクを吐出ヘッドの直上に直結し、毛細管現象を利用して負圧を発生させる方法や、例えば特許文献1に開示されているように、収縮性を有したインク袋に引っ張りバネを取り付け、該バネがインク袋を膨張させる力を利用して負圧を発生させる方式が主流とされてきた。
【0003】
また、大型の流体吐出装置では、吐出材料のタンクを吐出ヘッドを移動自在に搭載するキャリッジの外に設置し、吐出ヘッドと該タンクとの水頭差を利用して負圧を発生させる方式も広く用いられている。
【特許文献1】特開2003−266734公報(公開日:平成15年9月24日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、大型の流体吐出装置への適用を考えた場合、毛細管現象を利用した方式では、タンク内の吐出材料の残量の大小により吐出ヘッドに対する水頭差が大きく変動するため、吐出ヘッドに対して安定した負圧が確保できない。例えば、吐出材料の残量が多すぎると、吐出ヘッドに過剰な正圧が印加されて吐出ヘッドから吐出材料が漏洩する惧れがある。また、逆に吐出材料の残量が少なすぎると、吐出ヘッドに過剰な負圧が印加されて吐出ヘッドにおけるノズル(吐出孔)表面に形成されたメニスカスが破壊され、ノズルからエアが混入して不吐出が発生する惧れがある。
【0005】
また、上記特許文献1に記載の技術では、サブタンクに取り付けられたバネがキャリッジの移動の際に振動し、適正な負圧を維持できなくなる危険性がある。また、経時的なばね定数の低下が予想され、その結果、適正な負圧を長期にわたって維持できなくなり、定期的な部品交換が必要となる可能性がある。さらに、サブタンク内のインク残量が極端に減少した場合には、サブタンクの内圧は過剰な負圧となり、吐出ヘッドからエアが吸い込まれる結果、不吐出が発生する惧れもある。
【0006】
また、大型の流体吐出装置で採用されている、タンクをキャリッジ外に設置する方式では、タンクから吐出ヘッドまでの吐出材料の供給系のチューブ配管が複雑となり、さらに該チューブにも吐出材料が満たされている必要があり、吐出ヘッド近傍にタンクを設置する場合に比べ、吐出材料の消費量が増すという問題がある。
【0007】
そこで、吐出ヘッドに対して描画に必要となる吐出材料を供給する小容量で袋状のサブタンクと、該サブタンク内の吐出材料の残量が不足した際にサブタンクに吐出材料を供給する大容量のメインタンクとで構成された吐出材料の供給系において、サブタンクとメインタンクとは通常連通していない状態であり、サブタンクは吐出ヘッドとの水頭差の影響を受けないよう、タンクフル時とタンクエンプティ時での液面高さの差異をできるだけ小さくできる構成とし、サブタンクに取り付けられた負圧発生手段によりサブタンクの内圧を負圧に設定することで、常時安定した負圧を吐出ヘッドに対して確保できる構成が考えられる。
【0008】
しかしながら、このような構成のインク供給系としても、サブタンクに対して上記負圧発生手段以外に別の系統の圧力発生系が接続されている場合、該別系統の圧力発生系により設定されていた圧力から上記負圧発生系による設定圧力へと吐出ヘッドに印加される圧力を切り替える際に、急激な圧力変動が生じることにより、吐出ヘッドのノズル表面に形成されたメニスカスが破壊され、結果としてノズルからエアを吸引し、インクの不吐出を招く可能性がある。
【0009】
また、上記別系統の圧力発生系による圧力設定に関わり無く、電源遮断状態から電源を投入し、該負圧発生系により負圧を発生させる際にも、同様の不具合が発生する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の吐出ヘッド装置は、上記課題を解決するために、媒体に対して吐出材料を吐出する吐出ヘッドと、上記吐出ヘッドに供給する吐出材料を貯留するサブタンクと、上記サブタンクに供給する吐出材料を貯留するメインタンクと、上記サブタンクに接続され、上記サブタンクを減圧することにより上記吐出ヘッドの圧力を定められた負圧とする負圧発生手段と、上記負圧発生手段が上記吐出ヘッドの圧力を上記定められた負圧に到達させるまでの到達速度を制御する負圧到達速度調整手段とを有することを特徴としている。
【0011】
この構成によれば、吐出ヘッドの圧力を負圧発生手段にてインク吐出に必要な定める負圧に移行させるにおいて、負圧到達速度調整部が、吐出ヘッドの圧力が定める負圧へと到達するまでの到達速度を制御するので、吐出ヘッドの圧力が急激に変化するようなことがなく、吐出ヘッドのノズル表面に形成されているメニスカスが破壊されず、インク吐出が可能な状態を作り出すことができる。
【0012】
また、本発明の吐出ヘッド装置では、上記サブタンクに、上記サブタンクの圧力を上記負圧発生手段とは異なる圧力にする圧力発生手段が接続されている構成としてもよい。サブタンクに別の圧力発生手段が接続されている構成、特に、吐出ヘッドに対して正圧を発生させるもの接続されている場合など、吐出ヘッドの圧力を負圧発生手段にてインク吐出に必要な定める負圧に移行させるにおいて、吐出ヘッドの圧力の急激な変化が非常に起こりやすくなり、上記メニスカスの破壊が起こりやすいが、本発明の構成を採用することで、インク吐出が可能な状態を作り出すことができる。
【0013】
また、負圧発生手段としては、負圧発生源として真空ポンプを備え、該真空ポンプにより発生した負圧を定められた負圧に調整するレギュレータを有する構成や、負圧発生源として負圧発生器を備え、該負圧発生器により発生した負圧を定められた負圧に調整するレギュレータとを有する構成等がある。
【0014】
負圧発生源として真空ポンプを用いることにより、真空発生器を利用した場合と比べて外部入力を必要とせず、比較的簡便な構成で負圧を発生することができる。その一方で、負圧発生源として電磁切替弁を内蔵した真空発生器を用いた場合は、真空発生ポンプを使用した場合と比べて省スペース化が図れ、かつ負圧発生制御用の切替弁を途中経路に設ける必要が無いため、コストダウンおよび省スペース化が図れる。
【0015】
また、本発明の吐出ヘッド装置では、上記負圧到達速度調整手段がスピードコントローラからなり、上記サブタンクと上記負圧発生手段との間に配置されている構成とすることができる。
【0016】
定められた負圧への到達速度を制御する負圧到達速度調整手段としてスピードコントローラを用いることにより、比較的簡単かつ安価な構成で、複雑な制御を必要とすることなく到達速度を制御性よく調整できる。
【0017】
また、本発明の吐出ヘッド装置では、上記負圧到達速度調整手段が電空レギュレータからなり、上記サブタンクと上記負圧発生手段との間に配置され、上記定められた負圧を複数の設定圧力に分割し、段階的に設定圧力を増加させることで上記定められた負圧への到達速度を調整する構成、さらには、上記負圧到達速度調整手段がマスフローコントローラからなり、上記サブタンクと上記負圧発生手段との間に配置されている構成とすることもできる。
【0018】
本発明の流体吐出装置は、上記課題を解決するために、上記本発明の吐出ヘッド装置を備えていることを特徴としているので、吐出ヘッドにおけるメニスカスが破壊されず、インク吐出が可能な状態を安定して作り出すことがで、ひいては安定した描画が可能な流体吐出装置を実現することができる。
【0019】
本発明の流体吐出方法は、上記課題を解決するために、媒体に対して吐出材料を吐出する吐出ヘッドの圧力を、上記吐出ヘッドに吐出材料を供給するタンクを負圧発生手段にて減圧することで定められた負圧に制御する流体吐出方法において、吐出ヘッドの圧力を上記定められた負圧とは異なる圧力から上記定められた負圧へと到達させるにあたり、その到達速度を制御することを特徴としている。
【0020】
これにより、吐出ヘッドの圧力を負圧発生手段にてインク吐出に必要な定める負圧に移行させるにおいて、吐出ヘッドの圧力が定める負圧へと到達するまでの到達速度が制御されるので、吐出ヘッドの圧力が急激に変化するようなことがなく、吐出ヘッドのノズル表面に形成されているメニスカスが破壊されず、インク吐出が可能な状態を作り出すことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の吐出ヘッド装置、或いは流体吐出装置は、以上のように、負圧発生手段が上記吐出ヘッドの圧力を上記定められた負圧に到達させるまでの到達速度を制御する負圧到達速度調整手段を有しているので、吐出ヘッドの圧力が急激に変化するようなことがなく、吐出ヘッドのノズル表面に形成されているメニスカスが破壊されず、インク吐出が可能な状態を作り出すことができ、ひいては安定した描画が可能な流体吐出装置を実現することができる。
【0022】
本発明の流体吐出方法は、以上のように、媒体に対して吐出材料を吐出する吐出ヘッドの圧力を、上記吐出ヘッドに吐出材料を供給するタンクを負圧発生手段にて減圧することで定められた負圧に制御する流体吐出方法において、吐出ヘッドの圧力を上記定められた負圧とは異なる圧力から上記定められた負圧へと到達させるにあたり、その到達速度を制御するので、吐出ヘッドの圧力が急激に変化するようなことがなく、吐出ヘッドのノズル表面に形成されているメニスカスが破壊されず、インク吐出が可能な状態を作り出すことができ、ひいては安定した描画を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の一形態について、図1ないし図8に基づいて説明すると以下の通りである。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態の一つであるインクジェット装置等の流体吐出装置に搭載される吐出ヘッド装置1の主要な構成の概要を示す模式図である。
【0025】
吐出ヘッド装置1では、吐出ヘッド11が、記録媒体の記録面に対して往復移動するキャリッジ16に搭載されている。吐出ヘッド11は、キャリッジ16の移動に伴って、記録媒体10の記録面を平行に走査し、走査中に吐出材料であるインク12の量を調節しつつ、記録媒体10に吐出して描画を行うものである。
【0026】
該吐出ヘッド11には、後述するインク管24を介してサブタンク13が接続されている。サブタンク13は、吐出ヘッド11に供給するインク12を貯留するもので、ここでは、サブタンク13は、伸縮性を有する袋状の部材から形成されており、気密性が高く、膨張及び収縮しない構成のタンクボックス17に格納されている。詳細については後述するが、該タンクボックス17内の気圧が制御されることで、サブタンク13に、吐出ヘッド11に対する負圧を発生させたり、メインタンク14に対する正圧を発生させたりする。また、上述したように、サブタンク13は吐出ヘッド11との水頭差の影響を受けないよう、タンクフル時とタンクエンプティ時での液面高さの差異をできるだけ小さくできる構成とすることが好ましい。そこで、ここでは、上記サブタンク13の容量は小さく、メインタンク14の容量はこれよりも大きく形成されている
サブタンク13には、インク管24を介してメインタンク14が接続されている。メインタンク14は、サブタンク13に供給するインク12を貯留したものである。これらサブタンク13とメインタンク14とは(正確にはタンクボックス17に格納された状態のサブタンク13とメインタンク14とは)、吐出ヘッド11と共に上記キャリッジ16に搭載されており、吐出ヘッド11と共に移動する構成となっている。
【0027】
キャリッジ16上においては、サブタンク13は吐出ヘッド11よりも高い位置に設置され、メインタンク14はサブタンク13よりも高い位置に設置されている。このような設置位置とすることで、メインタンク14からサブタンク13へのインク12の供給、並びにサブタンク13から吐出ヘッド11へのインク12の供給は、何れも水頭差を利用して行われる。
【0028】
吐出ヘッド11、サブタンク13、及びメインタンク14を繋ぐ上記インク管24は、三方に分岐された分岐管24a・24b・24cからなり、分岐点には三方切替弁15が配設されている。三方切替弁15は、コモンポートCOM、ノーマリーオープンポートNO、及びノーマリークローズポートNCを備えた電磁弁であり、電圧力未印加時はコモンポートCOMポートとノーマリーオープンポートNOとが連通し、所定の電圧力(例えば24V)印加時には、コモンポートCOMとノーマリークローズポートNCとが連通する。
【0029】
ノーマリークローズポートNCは、一端が吐出ヘッド11に接続された分岐管24aの他端と接続され、コモンポートCOMは、一端がサブタンク13に接続された分岐管24bの他端と接続されている。また、ノーマリーオープンポートNOは、一端がメインタンク14に接続された分岐管24cの他端と接続されている。
【0030】
電源が遮断されている場合、或いは切替弁15に所定の電圧力が印加されていない場合サブタンク13とメインタンク14とが連通してサブタンク13へとインク12が供給される。一方、切替弁15に所定の電圧力が印加されている場合は、吐出ヘッド11とサブタンク13とが連通して、吐出ヘッド11にインクが供給される。いずれにしても、分岐点にこのようなサブタンク13との接続先を択一的に切り替える切替弁15を設けたことで、吐出ヘッド11とメインタンク14とが連通することはなく、吐出ヘッド11とメインタンク14との水頭差がもたらす加圧成分にて吐出ヘッド11からインク漏れが発生するようなことはない。
【0031】
なお、上記三方切替弁15としては、薬液用のもの用い、接液部分や、インク管24との接続部分は、耐薬品性の高いテフロン(登録商標)樹脂で形成されていることが好ましい。また、インク管24は、テフロン(登録商標)チューブ及び/又はカルレッツチューブで形成されていることが好ましい。
【0032】
一方、サブタンク13を格納する上記タンクボックス17には、キャリッジ16外に設けられた正圧発生部(正圧発生手段)18と負圧発生部(負圧発生手段)19とが、別々のたわみ管26・27を介して接続されている。正圧発生部18は、たわみ管26を介してタンクボックス17内を加圧することによって、メインタンク14に対する正圧をサブタンク13に発生させる。一方、負圧発生部19は、たわみ管27を介してタンクボックス17内を減圧することによって、吐出ヘッド11に対する負圧をサブタンク13に発生させる。これら正圧発生部18と負圧発生部19とは、同時に作動することは無い。
【0033】
そして、負圧発生部19とタンクボックス17とを繋ぐたわみ管27には、タンクボックス17内が規定圧力へとなるまでの速度を調整するための負圧到達速度調整部(負圧到達速度調整手段)20が配設されている。詳細には後述するが、このような負圧到達速度調整部20にてタンクボックス17内の圧力変化の速度を調整することで、吐出ヘッド11における急激な圧力変動を抑えて、エアの吸い込みによるインク不吐出の不具合を効果的に回避できる。
【0034】
そして、このような負圧到達速度調整部20、正圧発生部18、負圧発生部19、及び三方切替弁15は、CPU等からなる制御部25によって制御され、負圧到達速度調整部20と該制御部25とで負圧到達速度調整手段が構成され、正圧発生部18と該制御部25とで正圧発生手段が構成され、負圧発生部19と該制御部25とで負圧発生手段が構成されている。
【0035】
上記負圧発生部19は、上述したように、吐出ヘッド11に対して負圧を発生させるものであるが、制御部25は、吐出ヘッド11からインク12を吐出させる際など、吐出ヘッド11に対するメンテナンスシーケンスの一部作業時を除いては、切替弁15に所定の電圧力を印加して吐出ヘッド11とサブタンク13とを連結させている間、負圧発生部19を作動させてタンクボックス17内を減圧する。これにより、サブタンク13に、吐出ヘッド11とサブタンク13との水頭差に起因する吐出ヘッド11からのインク漏れを防止し得るだけの負圧が発生し、吐出ヘッド11にこの負圧が付与されることで、インク漏れは起こらない。
【0036】
この負圧についてより詳細に説明する。本実施の形態の吐出ヘッド装置1において、吐出ヘッド11とサブタンク13との間の水頭差は10cmである。水頭差10cmは1kPaの圧力を発生させるので、仮にサブタンク13にかかる圧力、すなわちタンクボックス17内の圧力が大気圧と等しく、キャリッジ16が静止している状態であれば、吐出ヘッド11には、大気圧よりも1kPa大きい圧力がかかることになる。すなわち、吐出ヘッド11は、外部に対して1kPa正圧になる。この1kPaがインク漏れの原因となる。また、キャリッジ16が移動している間は、キャリッジ16の加減速によって吐出ヘッド11がさらに大きい正圧となる場合もある。
【0037】
そこで、吐出ヘッド装置1では、負圧発生部19がサブタンク13に負圧を発生させることにより、この水頭差及びキャリッジ16の加減速による正圧を打ち消している。具体的には、負圧発生部19は、気密性の高いタンクボックス17内を減圧している。減圧の際の圧力は、サブタンク13と吐出ヘッド11との間の水頭差によって発生する圧力及びキャリッジ16の走査時の加減速に伴う圧力を考慮した圧力である。吐出ヘッド装置1では、水頭差による圧力が1kPaであるので、キャリッジ16の移動に伴う圧力変化を考慮して、さらに1kPa加えた2kPaで減圧している。これにより、吐出ヘッド11は、サブタンク13との間の水頭差や、キャリッジ16の加減速に伴う圧力変化に打ち勝し、吐出ヘッドを安定的に負圧に保つことができる。
【0038】
上記負圧発生部19の一構成例を図2に示す。図2に示す負圧発生部19Aは、負圧発生源としての真空ポンプ21により負圧を発生させ、発生した負圧を、真空ポンプ21とサブタンク13が格納されたタンクボックス17との間に接続されたレギュレータ22により所望の圧力に調整するようになっている。また、真空ポンプ21とタンクボックス17との間には、タンクボックス17を減圧するか否かを制御する二方の切替弁23が配設されている。切替弁23は制御部25の制御のもと、電源遮断時、もしくは所定の電圧力が印加されていない状態では、タンクボックス17を減圧せず、所定の電圧力が印加されると、タンクボックス17を減圧する。なお、図では、切替弁23をレギュレータ22とタンクボックス17との間に配しているが、もちろん、レギュレータ22と真空ポンプ21との間に切替弁23を設けてもよい。
【0039】
また、図3に、上記負圧発生部19の別の一構成例を示す。負圧発生部19Bは、負圧発生源として圧力縮空気の供給により真空を生成する真空発生器30を用いて負圧を発生させ、発生した負圧を、真空ポンプ21とサブタンク13が格納されたタンクボックス17との間に接続されたレギュレータ22により所望の圧力に調整するようになっている。制御部25によるタンクボックス17を減圧するか否かの制御は、真空発生器30に内蔵された電磁切替弁により行うものであり、電源遮断時、もしくは所定の電圧力が印加されていない状態では、タンクボックス17を減圧せず、所定の電圧力が印加されると、タンクボックス17を減圧する。なお、真空発生器30に内蔵された電磁切替弁によりタンクボックス17を減圧するか否かの制御を行う代わりに、真空発生器30の電磁切替弁は機能させず(常時開の設定とし)、レギュレータ22とタンクボックス17との間に、或いはレギュレータ22と真空発生器30との間に、図2の負圧発生部19Aと同様に、二方の切替弁を接続してもよい。
【0040】
負圧発生源として真空ポンプ21を用いることにより、真空発生器30を利用した場合と比べて外部入力を必要とせず、比較的簡便な構成で負圧を発生することができる。一方で、負圧発生源として電磁切替弁を内蔵した真空発生器30を用いた場合は、真空ポンプ21を使用した場合と比べて省スペース化が図れ、かつ負圧発生制御用の切替弁23を途中経路に設ける必要が無いため、コストダウンおよび省スペース化が図れる。
【0041】
一方、正圧発生部18は、サブタンク13内の過剰なインクをメインタンク14に戻すために用いられる。切替弁15の印加電圧力が遮断されてサブタンク13とメインタンク14とが連通すると、メインタンク14からサブタンク13ヘと水頭差によりインク12が供給され、サブタンク13が満たされる。しかしながら、このとき、サブタンク13内のインク量が過剰なまま、吐出ヘッド11とサブタンク13とを連通すると、吐出ヘッド11に対して過剰な正圧が印加されてしまい、吐出ヘッド11のノズル面からのインク漏れや異常なインク吐出が起こる。
【0042】
そこで、制御部25は、サブタンク13が満杯となった状態で、正圧発生部18を作動させてサブタンク13を加圧することにより、サブタンク13内のインク12をメインタンク14に一部(所定量)戻す。これにより、サブタンク13内のインク量が過剰であるがための吐出ヘッド11のノズル面からのインク漏れや異常なインク吐出を回避することができる。
【0043】
また、正圧発生部18は、吐出ヘッド11のノズル面からインク12を排出するために用いられる。吐出ヘッド11のノズル内にエアやダストがつまると、インク12の不吐出や記録媒体10に対する着弾ずれが発生する。このような不具合を回避するためには、吐出ヘッド11のノズル内のエアやダストを排出する回復作業が必要である。回復作業にあたり、制御部25は、負圧発生部19によるサブタンク13の減圧作業を停止し、切替弁15は電圧力を印加したままとして吐出ヘッド11とサブタンク13とを連結させた状態を保ち、ここで正圧発生部18によりサブタンク13を加圧する。これにより、吐出ヘッド11のノズルよりインクが排出され、ノズル内のエアやダストを同時に排出することができる。
【0044】
ところで、上記構成においては、描画工程や、その他の各工程に応じて正圧発生部18及び負圧発生部19によりサブタンク13の内圧を変化させるが、ここで、吐出ヘッド11の圧力を、インク吐出時、その他待機時に設定する定められた負圧である規定負圧にその他の圧力から復帰させる際、その到達速度を制御することが、吐出ヘッド11からインク12を正常かつ安定して吐出させる上で非常に重要となることが判明した。これは、負圧発生部19によりサブタンク13を規定負圧に復帰させる際に、到達速度を制御する手段を導入せずに流量が過剰となった場合、メニスカスに急激な圧力変動が生じ、これによりメニスカスが瞬間的に破壊されるため、ノズルよりエアが混入する恐れがあるためである。
【0045】
そのため、上記吐出ヘッド装置1では、負圧発生部19により発生する規定負圧への到達速度を制御する負圧到達速度調整部20が設けられており、以下、この負圧到達速度調整部20について詳細に説明する。
【0046】
図4に、タンクボックス17と負圧発生部19との間に、規定負圧への到達速度を制御する負圧到達速度調整部20としてニードル弁タイプのスピードコントローラ40が接続されているインク供給系の概要を示す。スピードコントローラ40は、図5に示すように、ニードルの回転数に応じて気体流量がリニアに変化する特性を有しており、規定圧力への到達速度を制御性良く調整できるものである。なおスピードコントローラ40は、同一ニードル回転数でも到達圧力によって気体流量が異なる特性を有しており、到達圧力が高くなるほど同一回転数における流量は多くなる。従って、図5における複数ラインは複数の到達圧力におけるニードル回転数と気体流量との相関を示している。
【0047】
ここで、制御部25の制御の下に行われる実際の到達速度の制御シーケンスについて説明する。制御部25は、吐出ヘッド11とサブタンク13とが連通されている状態で、正圧発生部18にてサブタンク13が加圧されている状態から(例えばノズルの清掃)、サブタンク13が負圧発生部19にて減圧されている状態へと移行(復帰)する際には、正圧発生部18によるサブタンク13の加圧作業を停止し、次に負圧発生部19により発生した負圧に対し、スピードコントローラ40を用いて気体流量を調整し、サブタンク13に印加される規定負圧への到達速度を抑える。これにより、吐出ヘッド11に対して急激な負圧がかかることを抑え、吐出ヘッド11のノズル表面に形成されているメニスカスを破壊することなく、インク吐出が可能な状態を作り出すことができる。
【0048】
また、図6に、タンクボックス17と負圧発生部19との間に、規定負圧への到達速度を制御する負圧到達速度調整部20として電空レギュレータ60を組み込んだ吐出ヘッド装置1のインク供給系の概要を示す。電空レギュレータ60は、図7に示すように、入力信号電圧力に応じて制御圧力がリニアに変化する特性を有している。ここでは、入力信号を256段階で制御できるシステムを適用しており、予め、規定圧力を発生させるのに必要となる電空レギュレータ60の入力信号に対して設定値を多段階に分割しておき、複数の設定値を準備しておく。
【0049】
制御部25の制御の下に行われる実際の到達速度の制御シーケンスについて説明する。制御部25は、吐出ヘッド11とサブタンク13とが連通されている状態で、正圧発生部18によるサブタンク13が加圧されている状態から(例えばノズルの清掃)、サブタンク13が負圧発生部19にて減圧されている状態へと移行(復帰)する際には、正圧発生部18によるサブタンク13の加圧作業を停止する。次に負圧発生部19により発生した負圧に対し、電空レギュレータ60を用いて図8に示すように、予め分割しておいた設定値を分割番号1で設定された信号から順次入力していく。分割番号10で設定された信号が入力された時点で、サブタンク13が規定の圧力まで減圧される。これにより、急激な負圧の発生を抑え、吐出ヘッド11のノズル表面に形成されているメニスカスを破壊することなく、インク吐出が可能な状態を作り出すことができる。
【0050】
また、スピードコントローラ40や電空レギュレータ60の替わりに、流量制御に広く用いられている図示しないマスフローコントローラを使用することでも、同様の効果を得ることができる。マスフローコントローラとは、小型の熱式質量流量計をコントローラおよび制御弁と一体化し、それ自体で流量を一定の値に制御する制御機器である。ここで熱式質量流量計とは、金属細管にヒータを巻きつけ、その両側に温度センサを配置したもので、流体が流れていないときはヒータの熱が両側に均等に伝わり、両方のセンサの出力はバランスが取れるが、流体が流れると上流側センサは冷えて出力が下がり、下流側は逆に上がって、出力バランスが崩れることから、この崩れる度合いを流体の流量に換算するものである。
【0051】
なお、ここでは、サブタンク13を加圧状態から負圧状態へと移行させる際の圧力切替えについてのみ説明してきたが、例えば、電源遮断状態から電源を投入し、サブタンク13に対して負圧を発生させる際にも同様の段階的に圧力が変化していくような制御を行うようになっており、これにより、常圧のサブタンク13が負圧状態へと移行される際にも、上記した急激な負圧による吐出ヘッド11のメニスカス破壊を回避することができる。
【0052】
なお、本発明は、換言すれば以下のように表現することもできる。つまり、本発明は、インクジェット装置であって、記録媒体に対してインクを吐出する吐出ヘッドと、所定容量のインクを貯留し、上記吐出ヘッドに印字に使用するインクを供給する小容量のサブタンクと、上記サブタンクにインクを充填する大容量のメインタンクと、上記サブタンクに接続され、少なくとも二種類以上の異なる設定圧力を印加する上記吐出ヘッドの圧力発生機構とを有したインクジェット記録装置において、上記複数の圧力発生機構のうち少なくとも一つは上記サブタンクに接続され、上記サブタンクを減圧することにより上記吐出ヘッドに対して規定の負圧を発生させる負圧発生手段であり、上記負圧発生手段以外の上記圧力発生機構により上記吐出ヘッドに印加されていた或る設定圧力から上記規定の負圧に変化させる際に、上記負圧発生手段と上記サブタンクとの間に設けられた調整機構により規定圧力への到達速度を制御することを特徴としている。
【0053】
上記構成において、上記負圧発生手段には、負圧発生源として真空ポンプと、上記真空ポンプにより発生した負圧を規定の圧力に調整するレギュレータとを有することを特徴とすることもできる。
【0054】
或いは、上記構成において、上記負圧発生手段には、負圧発生源として負圧発生器と、上記負圧発生器により発生した負圧を規定の圧力に調整するレギュレータとを有することを特徴とすることもできる。
【0055】
また、上記構成において、上記負圧発生手段と上記サブタンクとの間に設けられた上記調整機構としてスピードコントローラを用い、上記スピードコントローラは上記インクタンクと上記レギュレータとの間に配置することを特徴とすることもできる。
【0056】
また、上記構成において、上記負圧発生手段と上記サブタンクとの間に設けられた上記調整機構として電空レギュレータを用い、上記電空レギュレータは上記インクタンクと上記レギュレータとの間に配置し、上記規定の負圧を複数設定圧力に分割し、段階的に圧力を増加させることを特徴とすることもできる。
【0057】
また、上記構成において、上記負圧発生手段と上記サブタンクとの間に設けられた上記調整機構としてマスフローコントローラを用い、上記マスフローコントローラは上記インクタンクと上記レギュレータとの間に配置することを特徴とすることもできる。
【0058】
また、本発明は、インクジェット記録装置の負圧調整機構であって、記録媒体に対してインクを吐出する吐出ヘッドと、所定容量のインクを貯留し、上記吐出ヘッドに印字に使用するインクを供給する小容量のサブタンクと、上記サブタンクにインクを充填する大容量のメインタンクと、上記サブタンクに接続され、少なくとも二種類以上の異なる設定圧力を印加する上記吐出ヘッドの圧力発生機構とを有し、上記複数の圧力発生機構のうち少なくとも一つは上記サブタンクに接続され、上記サブタンクを減圧することにより上記吐出ヘッドに対して規定の負圧を発生させる負圧発生手段であり、上記規定の負圧を発生させる際に、到達速度を制御できるインクジェット記録装置の負圧調整機構であって、上記負圧発生手段以外の上記圧力発生機構により上記吐出ヘッドに印加されていた或る設定圧力から上記規定の負圧に変化させる際に、上記負圧発生手段と上記サブタンクとの間に設けられた調整機構により規定圧力への到達速度を制御することを特徴としている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、紙等の記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置や、流体吐出方式の生産装置等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の一形態に係る流体吐出装置に搭載された吐出ヘッド装置の構成を示す模式図である。
【図2】上記吐出ヘッド装置における負圧発生部の一構成例を示す模式図である。
【図3】上記吐出ヘッド装置における負圧発生部の他の構成例を示す模式図である。
【図4】上記吐出ヘッド装置における負圧到達速度を調整する調整部としてスピードコントローラを使用したインク供給系の構成を示す模式図である。
【図5】上記スピードコントローラの流量特性を示す図である。
【図6】上記吐出ヘッド装置における負圧到達速度を調整する調整部として、電空レギュレータを使用したインク供給系の構成を示す模式図である。
【図7】上記電空レギュレータの入力信号と制御圧力との相関を示す図である。
【図8】本実施例に用いた電空レギュレータによる多段階圧力制御方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
1 吐出ヘッド装置
11 吐出ヘッド
12 インク(吐出材料)
13 サブタンク
14 メインタンク
15 三方切替弁
18 正圧発生部
19 負圧発生部
19A 負圧発生部
19B 負圧発生部
20 負圧到達速度調整部
21 真空ポンプ
22 レギュレータ
30 真空発生器
40 スピードコントローラ
60 電空レギュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に対して吐出材料を吐出する吐出ヘッドと、
上記吐出ヘッドに供給する吐出材料を貯留するサブタンクと、
上記サブタンクに供給する吐出材料を貯留するメインタンクと、
上記サブタンクに接続され、上記サブタンクを減圧することにより上記吐出ヘッドの圧力を定められた負圧とする負圧発生手段と、
上記負圧発生手段が上記吐出ヘッドの圧力を上記定められた負圧に到達させるまでの到達速度を制御する負圧到達速度調整手段とを有することを特徴とする吐出ヘッド装置。
【請求項2】
上記サブタンクに、上記サブタンクの圧力を上記負圧発生手段とは異なる圧力とする圧力発生手段が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の吐出ヘッド装置。
【請求項3】
上記負圧発生手段は、負圧発生源としての真空ポンプと、上記真空ポンプにより発生した負圧を上記定められた負圧に調整するレギュレータとを有することを特徴とする請求項1に記載の吐出ヘッド装置。
【請求項4】
上記負圧発生手段は、負圧発生源としての負圧発生器と、上記負圧発生器により発生した負圧を上記定められた負圧に調整するレギュレータとを有することを特徴とする請求項1に記載の吐出ヘッド装置。
【請求項5】
上記負圧到達速度調整手段がスピードコントローラからなり、上記サブタンクと上記負圧発生手段との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の吐出ヘッド装置。
【請求項6】
上記負圧到達速度調整手段が電空レギュレータからなり、上記サブタンクと上記負圧発生手段との間に配置され、上記定められた負圧を複数の設定圧力に分割し、段階的に設定圧力を増加させることで上記定められた負圧への到達速度を調整することを特徴とする請求項1に記載の吐出ヘッド装置。
【請求項7】
上記負圧到達速度調整手段がマスフローコントローラからなり、上記サブタンクと上記負圧発生手段との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の吐出ヘッド装置。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか1項に記載の吐出ヘッド装置を備えていることを特徴とする流体吐出装置。
【請求項9】
媒体に対して吐出材料を吐出する吐出ヘッドの圧力を、上記吐出ヘッドに吐出材料を供給するタンクを負圧発生手段にて減圧することで定められた負圧に制御する流体吐出方法において、
吐出ヘッドの圧力を上記定められた負圧とは異なる圧力から上記定められた負圧へと到達させるにあたり、その到達速度を制御することを特徴とする流体吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−62330(P2006−62330A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−251068(P2004−251068)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】