説明

含フッ素エラストマー組成物

【課題】含フッ素エラストマーとして耐熱性にすぐれるシアノ基含有パーフルオロエラストマーを用い、シリカのみを添加することによって耐プラズマ性にすぐれ、かつ加硫後製品表面に析出物を生じないシール材を提供し得る含フッ素エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)(a)テトラフルオロエチレン、(b)パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)および(c)シアノ基含有パーフルオロビニルエーテルを含有する共重合体からなる含フッ素エラストマー、(B)架橋剤および(C)一次粒径6〜8nmのシリカ75〜50重量%と一次粒径10〜15nmのシリカ25〜50重量%とのシリカ混合物よりなる含フッ素エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマー組成物に関する。さらに詳しくは耐プラズマ性に優れる含フッ素エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置用シールは、半導体の基板であるシリコンウェハー等の表面にエッチングあるいは薄膜を形成させるなどの処理をするための加工室等に用いられるシールとして適用されるものであり、耐熱性、低ガス透過性、低発塵性(シールからの塵の発生が少ないこと)などが要求される。
【0003】
シリコンウェハーエッチング処理時などには、酸素あるいはCF4雰囲気下などでプラズマ照射されるため、酸素あるいはハロゲン等のガスが励起された状態となり、その結果、半導体製造装置用シールは劣化しやすく、またその表面が脆くなり、劣化物あるいは脆化物が飛散してシリコンウェハー上に付着するなどの不具合がある。したがって、半導体製造装置用シール材料としては、耐熱性など上記特性に加えて耐プラズマ性も要求される。
【0004】
ここで半導体装置において、300℃といった高温での使用要求に対しては、高耐熱性に優れるシアノ基含有パーフルオロエラストマーなどが使用されている。一方、耐プラズマ性の要望に対しては、架橋性フッ素系エラストマー成分と平均粒子径0.5μm以下の酸化アルミニウム微粒子を含む架橋性フッ素系エラストマー組成物、あるいは補強用金属含有充填材および二酸化チタンを含んでいて実質的に元素状炭素を含まないパーフルオロエラストマー組成物など種々の提案がなされている。
【特許文献1】WO01/32782号公報
【特許文献2】特表2000−502122号公報
【特許文献3】USP5,696,189
【0005】
このように、シリカ、硫酸バリウム、アルミナ、ケイ酸アルミニウムなどの充填材の添加は、プラズマ照射環境下での重量減少に効果があり、かつ超微粒化することで半導体に形成される微細パターンの線間距離よりも小さく、線間を埋めるため結線をおこさせないといった効果を奏する。
【0006】
しかるに、チタン、バリウム、アルミニウムといった元素自身が半導体業界で嫌われるケースがあり、シリカのみでの材料要求があるのが現状である。これに対して、フッ素系エラストマー100重量部に対して、シリカ1〜50重量部、金属元素1重量部以下、カーボンブラック1重量部以下および有機過酸化物1〜10重量部からなる組成物が提案されている。
【特許文献4】特許第2,858,198号公報
【0007】
ここでシリカの粒径とプラズマ重量減少においても相関がみられ、粒径が細かいほうが優位であるものの、上記した耐熱性にすぐれるシアノ基含有パーフルオロエラストマーへに使用にあっては、使用される加硫剤との相溶性が悪いため、加硫後製品表面に析出物がでるといった不具合を生ずる。従って、上記特許文献4記載の発明において、フッ素系エラストマーとして、シアノ基含有パーフルオロエラストマーを用いた場合には、プラズマ重量減少と加硫剤の相溶性とのバランスを満足させるといったことが困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、含フッ素エラストマーとして耐熱性にすぐれるシアノ基含有パーフルオロエラストマーを用い、シリカのみを添加することによって耐プラズマ性にすぐれ、かつ加硫後製品表面に析出物を生じないシール材を提供し得る含フッ素エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、(A)(a)テトラフルオロエチレン、(b)パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)および(c)シアノ基含有パーフルオロビニルエーテルを含有する共重合体からなる含フッ素エラストマー、(B)架橋剤および(C)一次粒径6〜8nmのシリカ75〜50重量%と一次粒径10〜15nmのシリカ25〜50重量%とのシリカ混合物よりなる含フッ素エラストマー組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
耐熱性にすぐれるシアノ基含有パーフルオロエラストマーに、一次粒径6〜8nm、好ましくは7nmのシリカ75〜50重量%および一次粒径10〜15nm、好ましくは12nmのシリカ25〜50重量%からなるシリカ混合物を用いることにより、耐プラズマ性にすぐれ、かつ加硫後製品表面に析出物を生じないシール材が得られるといった優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る含フッ素エラストマーについて具体的に説明する。
【0012】
本発明の含フッ素エラストマーは、)(a)テトラフルオロエチレン、(b)パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)および(c)シアノ基含有パーフルオロビニルエーテルの三元共重合体であり、テトラフルオロエチレンが50〜74.8モル%、好ましくは60〜74.5モル%、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)が49.8〜25モル%、好ましくは39.5〜25モル%、シアノ基含有パーフルオロビニルエーテルが0.2〜5モル%、好ましくは0.5〜2モル%の割合で共重合させたものが用いられる。一般には、ムーニー粘度(ML1+10(150℃)が20〜150pts、好ましくは60〜100ptsのものが用いられる。
【0013】
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、アルキル基として炭素数1〜5のものが用いられ、具体的にはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)などが、好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)が用いられる。
【0014】
パーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)としては、ビニルエーテル基(CF2=CFO)に結合する基の炭素数が3〜11のものが用いられ、具体的には
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCnF2n+1(n:1〜5)
CF2=CFO(CF2)3OCnF2n+1(n:1〜5)
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mCnF2n+1(n:1〜5、m:1〜3)
CF2=CFO(CF2)2OCnF2n+1(n:1〜5)
などが用いられる。
【0015】
シアノ基含有パーフルオロビニルエーテルは、架橋部位単位を提供するものであって、例えば以下の如き化合物が用いられる。
CF2=CFO(CF2)nOCF(CF3)CN(n:2〜4)
【0016】
また、下記の各特許文献に記載された各化合物を用いることもできる。
CF2=CFO(CF2)nCN(n:2〜12)
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]m(CF2)nCN(n:2、m:1〜5)
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]m(CF2)nCN(n:1〜4、m:1〜2)
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]nCF2CF(CF3)CN (n:0〜4)
【特許文献5】USP3,546,186
【特許文献6】USP4,138,426
【特許文献7】USP4,281,092
【特許文献8】USP3,852,326
【特許文献9】USP3,933,767
【0017】
架橋剤としては、下記一般式[I]〜[IV]で表わされる化合物のいずれかが含フッ素エラストマー100重量部当り0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部の割合で用いられる。

R:炭素数1〜6のアルキリデン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキリデン基、-SO2-基、-O-基、-C(=O)-基または2つのベンゼン環を直接結合させる炭素−炭素結合
X:水酸基またはアミノ基


n:1〜10の整数


R2:H、NH2
n:1〜10の整数
好ましくは、

n:1〜10の整数


n:1〜10の整数


R3:H、OH
R4:H、NH2
好ましくは、



【0018】
シリカとしては、公知の湿式シリカ、乾式シリカのいずれをも用いることができ、また両者を併用することも可能であるが、湿式シリカは水分を含んでおり、またNa2Oなどの不純物が乾式シリカより多いため、好ましくは乾式シリカが用いられ、一次粒径6〜8nm、好ましくは7nmのシリカ75〜50重量%、好ましくは75〜65重量%に対して一次粒径10〜15nm、好ましくは12nmのシリカ25〜50重量%、好ましくは25〜35重量%を混合したものが用いられる。プラズマ重量減少といった観点からは、粒径が細かいシリカを用いた方が優位であるものの、粒径が細かい一次粒径6〜8nmのシリカがこれ以上の割合で用いられると、上記架橋剤との相溶性が悪化し、加硫後製品表面に析出物がでるといった不具合を生ずるので好ましくない。一方、一次粒径10〜15nmのシリカがこれ以上の割合で用いられると、十分なプラズマ重量減少を図ることができなくなる。ここで、一次粒径とは粉体の単位粒径を指している。
【0019】
シリカは、上記含フッ素エラストマー100重量部当り、シリカ混合物として15〜40重量部、好ましくは20〜30重量部の割合で用いられる。シリカがこれより多い割合で用いられると、加硫後製品が弾性を失い、許容されない硬度上昇および伸びの低下を生じるようになり、一方これより少ない割合で用いられると、耐プラズマ性が低下するようになる。
【0020】
以上の各成分よりなる組成物の調製は、2本ロールミルなどを用いて、例えば20〜100℃、好ましくは30〜80℃で各配合剤を混合することにより行われる。組成物は、圧縮成形機等によりO-リング等の所望する形状に成形することができる。成形温度は150〜250℃、好ましくは170〜220℃、成形時間は5〜60分、好ましくは5〜30分程度で行われる。
【0021】
さらに成形品の特性を向上させるために、当該組成物成形物を不活性雰囲気下で150〜320℃、好ましくは200〜300℃で10〜50時間オーブン加硫するのがよい。オーブン加硫は、下記実施例に示されるように、その温度を段階的に上げて行うことが好ましい。
【実施例】
【0022】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0023】
実施例1
下記共重合組成を有する含フッ素エラストマーA
テトラフルオロエチレン 68.4モル%
パーフルオロ(メチルビニルエーテル) 30.5モル%
パーフルオロ(2-シアノ-3,7-ジオキサ-8-ノネン) 1.1モル%
ポリマームーニー粘度@121℃ 80pts
100重量部に対して、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.4重量部、一次粒径7nmのシリカ(デグサ製品AEROSIL 300V)15重量部および一次粒径12nmのシリカ(同社製品AEROSIL 200V)5重量部を、2本ロールミルを用いて40〜60℃で混練してコンパウンドを得た。
【0024】
このようにして得られたコンパウンドを圧縮成形して所望の架橋物を得、さらに窒素雰囲気下、(1)90℃で4時間保持、(2)90℃から204℃まで6時間かけて昇温、(3)204℃で18時間保持、(4)204℃から288℃まで6時間かけて昇温、(5)288℃で18時間保持といった条件下でオーブン加硫した。
【0025】
得られたポリマー架橋物について、常態値、圧縮永久歪、製品表面状態および酸素またはテトラフルオロメタン雰囲気下におけるプラズマ重量減少量の測定が行われた。
常態値:DIN53505(硬度)、DIN53503(引張試験)準拠
圧縮永久歪:ASTM D 395 Method B(214 O-リング)準拠;275℃、70時間
製品表面状態:製品表面に析出物が確認されないものを「無」、確認されたものを
「有」として評価
プラズマ試験:ULVAC RBH3030(reactive ion etching)により、O2またはCF4雰囲気中、
RF出力 500W、照射時間6時間、真空0.1Paの条件下での重量減少率
(重量%)を測定
【0026】
実施例2
実施例1において、含フッ素エラストマーAの代わりに、下記共重合組成を有する含フッ素エラストマーB
テトラフルオロエチレン 71.5モル%
パーフルオロ(メチルビニルエーテル) 27.7モル%
パーフルオロ(1-シアノ-6-オキサ-7-オクテン) 0.8モル%
ポリマームーニー粘度@121℃ 90pts
が同量用いられ、また2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−ヘキサンジアミドキシム1重量部がさらに用いられた。
【0027】
比較例1
実施例1において、一次粒径7nmのシリカ(AEROSIL 300V)量が20重量部に変更されて用いられ、一次粒径12nmのシリカ(AEROSIL 200V)は用いられなかった。
【0028】
比較例2
実施例1において、一次粒径12nmのシリカ(AEROSIL 200V)量が20重量部に変更されて用いられ、一次粒径7nmのシリカ(AEROSIL 300V)は用いられなかった。
【0029】
比較例3
実施例1において、一次粒径7nmのシリカ(AEROSIL 300V)および一次粒径12nmのシリカ(AEROSIL 200V)の代わりに、一次粒径16nmのシリカ(デグサ製品AEROSIL R972)20重量部が用いられた。
【0030】
比較例4
実施例1において、一次粒径7nmのシリカ(AEROSIL 300V)量が18重量部に、また一次粒径12nmのシリカ(AEROSIL 200V)量が2重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0031】
比較例5
実施例1において、一次粒径7nmのシリカ(AEROSIL 300V)量が2重量部に、また一次粒径12nmのシリカ(AEROSIL 200V)量が18重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0032】
比較例6
比較例1において、含フッ素エラストマーAの代わりに、実施例2記載の含フッ素エラストマーBが同量用いられ、また2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−ヘキサンジアミドキシム1重量部がさらに用いられた。
【0033】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。

測定・評価項目 実1 実2 比1 比2 比3 比4 比5 比6
常態値
硬度 (shore-A) 79 81 80 79 77 79 79 81
破断強度 (MPa) 18.3 19.8 18.2 18.5 18.0 17.9 18.5 19.5
破断伸び (%) 130 140 130 140 140 130 140 140
圧縮永久歪 (%) 29 34 30 29 27 29 29 36
製品表面析出状態 無 無 有 無 無 有 無 有
O2プラズマ重量減少率 (重量%) 0.37 0.37 0.35 0.43 0.50 0.37 0.41 0.37
CF4プラズマ重量減少率(重量%) 0.20 0.20 0.19 0.21 0.25 0.19 0.22 0.19
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明にかかる含フッ素エラストマー組成物から得られるシール材は、耐熱性および耐プラズマ性にすぐれているため、半導体製造装置用シールとして有効に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)テトラフルオロエチレン、(b)パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)および(c)シアノ基含有パーフルオロビニルエーテルを含有する共重合体からなる含フッ素エラストマー、(B)架橋剤および(C)一次粒径6〜8nmのシリカ75〜50重量%と一次粒径10〜15nmのシリカ25〜50重量%とのシリカ混合物よりなる含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
(B)架橋剤が、下記一般式[I]〜[IV]

(ここで、Rは炭素数1〜6のアルキリデン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキリデン基、-SO2-基、-O-基、-C(=O)-基または2つのベンゼン環を直接結合させる炭素−炭素結合であり、Xは水酸基またはアミノ基である)


(ここで、nは1〜10の整数である)


(ここで、R2は水素原子またはアミノ基であり、nは1〜10の整数である)


(ここで、R3は水素原子または水酸基であり、R4は水素原子またはアミノ基である)
で表わされるいずれかの化合物である請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項3】
シール材の成形材料として用いられる請求項1または2記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項3記載の含フッ素エラストマー組成物を加硫成形して得られたシール材。
【請求項5】
半導体製造装置用シールとして用いられる請求項4記載のシール材。

【公開番号】特開2007−126568(P2007−126568A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320748(P2005−320748)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】