説明

含フッ素化合物、含フッ素ポリマーとその製造方法

官能基の濃度が高く充分な官能基の特性を得ることができ、幅広い波長領域で高い透明性を有する含フッ素化合物、含フッ素ポリマーおよびその製造方法を提供する 下記式(1)で表される含フッ素ジエンを提供する。 CF=CFCHCH(C(R)(R)(OH))CHCH=CH (1) ただし、RとRは、それぞれ独立にフッ素原子、あるいは炭素数5以下のフルオロアルキル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な含フッ素化合物、含フッ素ポリマーならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
官能基を有する含フッ素ポリマーとして、フッ素系イオン交換膜や硬化性フッ素樹脂塗料などに使用されている官能基含有含フッ素ポリマーが知られているが、これらはすべて基本骨格が直鎖状ポリマーであり、テトラフルオロエチレンに代表されるフルオロオレフィンと官能基を有するモノマーとの共重合により得られる。
【0003】
また、官能基を含有しかつ主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するポリマーも知られており、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するポリマーに官能基を導入する方法としては、重合で得られたポリマーの末端基を利用する方法、ポリマーを高温処理してポリマーの側鎖、または末端を酸化分解せしめて官能基を形成する方法、官能基を有するモノマーを共重合させ、必要に応じて加水分解などの処理を加えることによって導入する方法などが知られている(例えば特許文献1,2,3,4参照。)。
【0004】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するポリマーに官能基を導入する方法としては前述した方法があるが、ポリマーの末端基を処理することにより官能基を導入する方法では官能基濃度が低く、充分な官能基の特性が得られないという欠点がある。また官能基を有するモノマーを共重合させて導入する方法では、官能基濃度を高くするとガラス転移温度(Tg)の低下による機械特性の低下などの問題が生じる。
【0005】
【特許文献1】特開平4−189880号公報
【特許文献2】特開平4−226177号公報
【特許文献3】特開平6−220232号公報
【特許文献4】国際公開第02/064648号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、官能基の濃度が高く充分な官能基の特性を得ることができ、幅広い波長領域において高い透明性を有する含フッ素化合物、含フッ素ポリマーおよびその製造方法を提供することにある。また、化学増幅型レジストとして特にKrF,ArFエキシマレーザー等の遠紫外線やFエキシマレーザー等の真空紫外線に対する透明性、ドライエッチング性に優れ、さらに感度、解像度溶解速度、平坦性、などに優れたレジストパターンを与えるレジスト組成物を提供することにある。さらには、液浸リソグラフィ工程にてレジスト膜を液浸溶媒から保護する保護膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前述の課題を解決すべくなされた以下の発明である。
本発明は、下記式(1)で表される含フッ素ジエンを提供する。
CF=CFCHCH(C(R)(R)(OH))CHCH=CH (1) ただし、RとRは、それぞれ独立にフッ素原子、あるいは炭素数5以下のフルオロアルキル基を表す。
本発明は、上記式(1)で表される含フッ素ジエンが環化重合したモノマー単位を有する含フッ素ポリマー(A)およびその製造方法を提供する。
さらに本発明は、含フッ素ポリマー(A)と、含フッ素ポリマー(A)を溶解または分散する溶媒と、を含むことを特徴とするレジスト保護膜組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、主鎖に脂肪族環構造を有し、側鎖に水酸基を有する含フッ素ポリマーが製造できる。本発明で得られる含フッ素ポリマーは高い化学安定性や耐熱性を備えている。しかも側鎖に水酸基が導入されているため、従来の含フッ素ポリマーでは達成困難であった、Tgの低下をおこさずに、充分な水酸基特性の発現が可能である。特に、環側鎖に酸性度の高い水酸基を有するため、アルカリ水溶液に対する溶解性が向上する。さらに幅広い波長領域において高い透明性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明によって、下記一般式(1)で表される含フッ素ジエン(以下、含フッ素ジエン(1)という。)、含フッ素ジエン(1)が環化重合したモノマー単位を有する含フッ素ポリマー(A)およびその製造方法を提供できる。
CF=CFCHCH(C(R)(R)(OH))CHCH=CH (1) 式(1)において、RとRは、それぞれ独立にフッ素原子、あるいは炭素数5以下のフルオロアルキル基を表す。特にRおよび/またはRは、トリフルオロメチル基であることが好ましく、同時にトリフルオロメチル基であることが最も好ましい。
【0010】
本発明の含フッ素ジエンは、既知の方法で合成することができる。例えば、CH=CHC(R)(R)OHを出発物質として、ラジカル開始剤存在下、二重結合にCFClCFClIを付加させて、CFClCFClCHCHIC(R)(R)OHとした後、CH=CHCHMgClを反応させて、CFClCFClCHCH(C(R)(R)OH)CHCH=CHとした後、脱塩素することにより得ることができる。R、Rを変えることにより、下記の通り種々の含フッ素ジエン(1)を得ることができる。
【0011】
本発明の含フッ素ジエン(1)の具体例として下記が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
【化1】

【0013】
含フッ素ジエン(1)は比較的温和な条件下で環化重合し、環側鎖に水酸基を有する環化ポリマーが得られる。
【0014】
含フッ素ジエン(1)の環化重合により、以下の(a)〜(c)のモノマー単位が生成すると考えられる。分光学的分析の結果等より含フッ素ポリマー(A)は、モノマー単位(a)、モノマー単位(b)及びモノマー単位(c)からなる群から選ばれる1種類以上のモノマー単位を含む構造を有する重合体と考えられる。
【0015】
【化2】

【0016】
含フッ素ポリマー(A)は、含フッ素ジエン(1)が環化重合したモノマー単位(以下、モノマー単位(1)と記す。)以外にさらにモノマー単位(1)の水酸基がブロック化されたモノマー単位(以下、ブロック化モノマー単位(1)と記す。)を有することが好ましい。ブロック化モノマー単位(1)の割合は、モノマー単位(1)とブロック化モノマー単位(1)との合計に対して、50モル%以下が好ましく、特に15〜40モル%が好ましい。ブロック化とは、水酸基の水素原子をブロック化基により置換することをいう。具体的なブロック化された水酸基の例としては、−OCH、−OCF、−O(t−C)、−OCHOCH、−OCHOC、−OCHOCHOCH、−OCHOCHCF、−OCOO(t−C)、−OCH(CH)OC、2−テトラヒドロピラニルオキシ基および下記に示すものが挙げられる。
【0017】
【化3】

【0018】
モノマー単位(1)およびブロック化モノマー単位(1)を有する含フッ素ポリマー(A)は、含フッ素ジエン(1)の水酸基をブロック化して得たブロック化含フッ素ジエンと、含フッ素ジエン(1)とを共重合させて得ることができる。また、モノマー単位(1)を有する含フッ素ポリマー(A)の、モノマー単位(1)の水酸基の一部をブロック化することにより得ることもできる。
【0019】
含フッ素ポリマー(A)は、モノマー単位(1)以外に、その特性を損なわない範囲でその他のラジカル重合性モノマーに由来するモノマー単位(但し、ブロック化モノマー単位(1)を除く。)を含んでいてもよい。その他のラジカル重合性モノマーに由来するモノマー単位の全モノマー単位に対する割合は、50モル%以下が好ましく、特に15モル%以下が好ましい。
【0020】
例示しうるその他のラジカル重合性モノマーとして、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン類、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等の含フッ素オレフィン類、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソールなどの含フッ素環状モノマー類、パーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)などの環化重合しうるパーフルオロジエン類、1,1,2,3,3−ペンタフルオロ−4−トリフルオロメチル−4−ヒドロキシ−1,6−ヘプタジエン、1,1,2−トリフルオロ−4−[3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−トリフルオロメチルプロピル]−1,6−ヘプタジエンなどの環化重合しうるハイドロフルオロジエン類、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のアクリルエステル類、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、アダマンチル酸ビニル等のビニルエステル類、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類、シクロヘキセン、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の環状オレフィン類、無水マレイン酸、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0021】
本発明の含フッ素ポリマー(A)は、含フッ素ジエン(1)を重合開始源の下で単独重合または共重合可能な他のモノマーと共重合させることにより得られる。重合開始源としては、重合反応をラジカル的に進行させるものであればなんら限定されないが、例えばラジカル発生剤、光、電離放射線などが挙げられる。特にラジカル発生剤が好ましく、ラジカル発生剤としては過酸化物、アゾ化合物、過硫酸塩などが例示される。ラジカル発生剤のなかでも過酸化物が好ましい。具体的な過酸化物としては以下の化合物が挙げられる。
−C(O)O−OC(O)−C
−C(O)O−OC(O)−C
−C(O)O−OC(O)−C
(CHC−C(O)O−OC(O)−C(CH
(CHCH−C(O)O−OC(O)−CH(CH
(CHC−C10−C(O)O−OC(O)−C10−C(CH
(CHC−O−C(O)O−OC(O)−O−C(CH
(CHCH−O−C(O)O−OC(O)−O−CH(CH
(CHC−C10−O−C(O)O−OC(O)−O−C10−C(CH
但し、−Cはフェニル基、−Cはヘプタフルオロフェニル基、−C10−はシクロヘキシレン基を表わす。
【0022】
重合の方法もまた特に限定されるものではなく、モノマーをそのまま重合に供するいわゆるバルク重合、含フッ素ジエン(1)および他のモノマーを溶解または分散できるフッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素、その他の有機溶剤中で行う溶液重合、水性媒体中で適当な有機溶剤存在下あるいは非存在下に行う懸濁重合、水性媒体に乳化剤を添加して行う乳化重合などが例示される。
【0023】
重合を行う温度や圧力も特に限定されるものではないが、モノマーの沸点、加熱源、重合熱の除去などの諸因子を考慮して適宜設定することが望ましい。例えば、0℃〜200℃の間で好適な温度の設定を行うことができ、室温〜100℃程度ならば実用的にも好適な温度設定を行うことができる。また重合圧力としては減圧下でも加圧下でもよく、実用的には常圧〜100気圧程度、さらには常圧〜10気圧程度でも好適な重合を実施できる。
【0024】
本発明の含フッ素ポリマー(A)の分子量は、後述する有機溶媒(C)に均一に溶解し、基材に均一に塗布できる限り特に限定されないが、通常そのポリスチレン換算数平均分子量は1,000〜10万が適当であり、好ましくは2,000〜3万である。数平均分子量を1,000以上とすることにより、得られるレジストパターンが不良になったり、現像後の残膜率が低下したり、パターン熱処理時の形状安定性が低下したりする不具合を生じる可能性が少ない。また数平均分子量を10万以下とすることにより、後述するレジスト組成物の塗布性を良好に保つことができ、良好な現像性を維持することができる。
【0025】
本発明の含フッ素ポリマー(A)は、フォトレジスト用ベースポリマーとして使用することができる。すなわち、含フッ素ポリマー(A)、光照射を受けて酸を発生する酸発生化合物(B)、および有機溶媒(C)を含む組成物とすることによりレジスト組成物として使用することができる。以下、含フッ素ポリマー(A)の好ましい態様である、モノマー単位(1)およびブロック化モノマー単位(1)を有する含フッ素ポリマー(A)を例として、含フッ素ポリマー(A)をベースポリマーとするレジスト組成物(以下、レジスト組成物(D)と記す。)について詳細に説明する。
【0026】
前記、光照射を受けて酸を発生する酸発生化合物(B)は露光により酸を発生する。この酸によって、含フッ素ポリマー(A)中のブロック化モノマー単位(1)のブロック化基の一部または全部が開裂(脱ブロック化)される。その結果、露光部がアルカリ性現像液に易溶性となり、アルカリ性現像液によってポジ型のレジストパターンを形成することができる。このような光照射を受けて酸を発生する酸発生化合物(B)としては、通常の化学増幅型レジスト材に使用されている酸発生化合物が採用可能であり、オニウム塩、ハロゲン含有化合物、ジアゾケトン化合物、スルホン化合物、スルホン酸化合物等を挙げることができる。これらの酸発生化合物(B)の例としては、下記のものを挙げることができる。
【0027】
オニウム塩としては、例えば、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、ピリジニウム塩等を挙げることができる。好ましいオニウム塩の具体例としては、ジフェニルヨードニウムトリフレート、ジフェニルヨードニウムピレンスルホネート、ジフェニルヨードニウムドデシルベンゼンスルホネート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフレート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムドデシルベンゼンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフレート、トリフェニルスルホニウムノナネート、トリフェニルスルホニウムパーフルオロオクタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−(ナフチルアセトメチル)チオラニウムトリフレート、シクロヘキシルメチル(2−オキソシクロヘキシル)スルホニウムトリフレート、ジシクロヘキシル(2−オキソシクロヘキシル)スルホニウムトリフレート、ジメチル(4−ヒドロキシナフチル)スルホニウムトシレート、ジメチル(4−ヒドロキシナフチル)スルホニウムドデシルベンゼンスルホネート、ジメチル(4−ヒドロキシナフチル)スルホニウムナフタレンスルホネート、トリフェニルスルホニウムカンファースルホネート、(4−ヒドロキシフェニル)ベンジルメチルスルホニウムトルエンスルホネート等を挙げられる。
【0028】
ハロゲン含有化合物としては、例えば、ハロアルキル基含有炭化水素化合物、ハロアルキル基含有複素環式化合物等を挙げることができる。具体例としては、フェニル−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、メトキシフェニル−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、ナフチル−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等の(トリクロロメチル)−s−トリアジン誘導体や、1,1−ビス(4−クロロフェニル)−2,2,2−トリクロロエタン等を挙げられる。
【0029】
スルホン化合物としては、例えば、β−ケトスルホン、β−スルホニルスルホンや、これらの化合物のα−ジアゾ化合物等を挙げることができる。具体例としては、4−トリスフェナシルスルホン、メシチルフェナシルスルホン、ビス(フェニルスルホニル)メタン等を挙げることができる。スルホン酸化合物としては、例えば、アルキルスルホン酸エステル、アルキルスルホン酸イミド、ハロアルキルスルホン酸エステル、アリールスルホン酸エステル、イミノスルホネート等を挙げることができる。具体例としては、ベンゾイントシレート、1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトリフレート等を挙げることができる。酸発生化合物(B)は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
前記有機溶媒(C)は、含フッ素ポリマー(A)および酸発生化合物(B)の両成分を溶解するものであれば特に限定されるものではない。メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等のグリコールモノアルキルエーテルエステル類などが挙げられる。
【0031】
レジスト組成物(D)における各成分の割合は、通常含フッ素ポリマー(A)の100質量部に対し酸発生化合物(B)0.1〜20質量部および有機溶媒(C)50〜2000質量部が適当である。好ましくは、含フッ素ポリマー(A)の100質量部に対し酸発生化合物(B)0.1〜10質量部および有機溶媒(C)100〜1000質量部である。
【0032】
酸発生化合物(B)の使用量を0.1質量部以上とすることで、充分な感度および現像性を与えることができ、また10質量部以下とすることで、放射線に対する透明性が充分に保たれ、より正確なレジストパターンを得ることができる。
【0033】
レジスト組成物(D)にはパターンコントラスト向上のための酸開裂性添加剤、塗布性の改善のために界面活性剤、酸発生パターンの調整のために含窒素塩基性化合物、基材との密着性を向上させるために接着助剤、組成物の保存性を高めるために保存安定剤等を目的に応じ適宜配合できる。また本発明のレジスト組成物は、各成分を均一に混合した後0.1〜2μmのフィルターによってろ過して用いることが好ましい。
【0034】
レジスト組成物(D)をシリコーンウエハなどの基板上に塗布乾燥することによりレジスト膜が形成される。塗布方法には回転塗布、流し塗布、ロール塗布等が採用される。形成されたレジスト膜上にパターンが描かれたマスクを介して光照射が行われ、その後現像処理がなされパターンが形成される。
【0035】
照射される光としては、波長436nmのg線、波長365nmのi線等の紫外線、波長248nmのKrFエキシマレーザー、波長193nmのArFエキシマレーザー、波長157nmのFエキシマレーザー等の遠紫外線や真空紫外線が挙げられる。レジスト組成物(D)は、波長250nm以下の紫外線、特に波長200nm以下の紫外線(ArFエキシマレーザー光やFエキシマレーザー光)が光源として使用される用途に有用なレジスト組成物である。
【0036】
現像処理液としては、各種アルカリ水溶液が適用される。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリエチルアミン等が例示可能である。
【0037】
さらに、本発明の含フッ素ポリマー(A)は、水に不溶で、かつ、現像液に溶解することから、レジスト保護膜用ベースポリマーとしても用いることができる。含フッ素ポリマー(A)を溶解または分散する溶媒(E)と含フッ素ポリマー(A)とを混合し、レジスト膜上に塗布乾燥することによりレジスト保護膜が形成される。塗布方法には回転塗布、流し塗布、ロール塗布等が採用される。形成されたレジスト保護膜上にパターンが描かれたマスクを介して光照射が行われ、その後現像処理がなされ、レジスト保護膜の除去およびレジスト膜のパターンが形成される。
【0038】
上記溶媒(E)は含フッ素ポリマー(A)を溶解または分散できるものであれば特に限定されるものではない。溶解できるものであることが好ましい。さらに、レジスト膜上に塗布することから、レジスト材料への影響が少ない溶媒であることが好ましい。溶媒(E)としては、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等のグリコールモノアルキルエーテルエステル類、フッ素系溶媒類などが挙げられる。上記溶媒の混合物でも構わないし、水溶性有機溶媒である場合は、水との混合物でもよい。
【0039】
通常含フッ素ポリマー(A)100質量部に対し溶媒(E)50〜2000質量部が適当である。好ましくは、含フッ素ポリマー(A)100質量部に対し、溶媒(E)100〜1000質量部である。含フッ素ポリマー(A)と溶媒(E)を均一に混合した後、0.1〜2μmのフィルターによってろ過して用いることが好ましい。
【0040】
含フッ素ポリマー(A)と溶媒(E)以外の他の成分が含まれていても構わない。かかるレジスト保護膜は、解像性を向上させるために用いる液浸リソグラフィ工程で使用されることが好ましい。さらには、水を用いる液浸リソグラフィ工程で使用されることが最も好ましい。
【0041】
照射される光としては、波長436nmのg線、波長365nmのi線等の紫外線、波長248nmのKrFエキシマレーザー、波長193nmのArFエキシマレーザー、波長157nmのFエキシマレーザー等の遠紫外線や真空紫外線が挙げられる。本発明の含フッ素ポリマー(A)は、波長250nm以下の紫外線、特に波長200nm以下の紫外線(ArFエキシマレーザー光やFエキシマレーザー光)が光源として使用される用途に有用なレジスト保護膜用ベースポリマーに用いることができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
下記例に用いられた略称は以下のとおりである。
THF;テトラヒドロフラン、BPO;ベンゾイルパーオキシド、PFBPO;パーフルオロベンゾイルパーオキシド、PFB;パーフルオロブチリルパーオキシド、PSt;ポリスチレン、R225;ジクロロペンタフルオロプロパン(溶媒)。
【0043】
(実施例1)
[CF=CFCHCH(C(CFOH)CHCH=CHの合成]
1L(リットル)のガラス反応器にCFClCFClIの500g、CH=CHC(CFOHの344gおよびBPOの32.6gを入れ、95℃で71時間加熱した。反応粗液を減圧蒸留して、544gのCFClCFClCHCHI(C(CFOH)(55−58℃/0.2kPa)を得た。
【0044】
5Lのガラス反応器に上記で合成したCFClCFClCHCHI(C(CFOH)の344gと脱水THFの1.7Lとを入れ、−70℃に冷却した。そこにCH=CHCHMgClの2M−THF溶液1.8Lを4時間かけて滴下した。
【0045】
0℃まで昇温し、16時間撹拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液1.6Lを添加して室温まで昇温した。反応液を分液し、有機層をエバポレーターで濃縮し、次いで減圧蒸留して287gのCFClCFClCHCH(C(CFOH)CHCH=CH(62−66℃/0.2kPa)を得た。1Lのガラス反応器に亜鉛97gと水300gとを入れ、90℃に加熱した。そこに上記で合成したCFClCFClCHCH(C(CFOH)CHCH=CHの287gを滴下し、24時間撹拌した。反応液に塩酸70mLを滴下して2時間撹拌した後、ろ過して分液し、減圧蒸留して115gのCF=CFCHCH(C(CFOH)CHCH=CH(53−54℃/1kPa)を得た。
【0046】
NMRスペクトル
H−NMR(399.8MHz、溶媒:CDCl、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):2.53(m,5H),3.49(m,1H),5.15(m,2H),5.79(m,2H)。
【0047】
19F−NMR(376.2MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−73.6(m,6F),−104.1(m,1F),−123.1(m,1F),−175.4(m,1F)。
【0048】
(実施例2)
実施例1で得たモノマーの5gを内容積30mLのガラス製耐圧反応器に仕込んだ。次に、重合開始剤としてPFBPOの0.13gを添加した。系内を凍結脱気した後、封管し、恒温振とう槽内(70℃)で19時間重合させた。重合後、反応溶液をR225で希釈してヘキサン中に滴下して、ポリマーを再沈させた後、115℃で18時間真空乾燥を実施した。その結果、主鎖に含フッ素環構造を有する非結晶性ポリマー(以下、重合体1Aという。)3.32gを得た。THFを溶媒として用いてGPCにより測定したPSt換算分子量は、数平均分子量(Mn)26300、重量平均分子量(Mw)56300であり、Mw/Mn=2.14であった。示差走査熱分析(DSC)により測定したTgは124℃であり、室温で白色粉末状のポリマーであった。得られたポリマーはアセトン、THF、酢酸エチル、メタノール、R225には可溶であり、ヘキサンには不溶であった。
【0049】
19F−NMRおよびH−NMRにより以下の(d)、(e)および(f)のモノマー単位を有する環化ポリマーであることを確認した。
【0050】
【化4】

【0051】
(実施例3)
実施例1で得たモノマーの4g、および酢酸エチルの2.2gを内容積30mLのガラス製耐圧反応器に仕込んだ。次に、重合開始剤としてPFBの3wt%R225溶液6.23gを添加した。系内を凍結脱気した後、封管し、恒温振とう槽内(20℃)で41時間重合させた。重合後、反応溶液をヘキサン中に滴下して、ポリマーを再沈させた後、90℃で21時間真空乾燥を実施した。その結果、主鎖に含フッ素環構造を有する非結晶性ポリマー(以下、重合体2Aという。)1.33gを得た。THFを溶媒として用いてGPCにより測定したPSt換算分子量は、数平均分子量(Mn)15600、重量平均分子量(Mw)25100であり、Mw/Mn=1.61であった。示差走査熱分析(DSC)により測定したTgは118℃であり、室温で白色粉末状のポリマーであった。得られたポリマーはアセトン、THF、メタノール、R225に可溶であった。
【0052】
(実施例4)
実施例1で得たモノマーの10gを内容積50mLのガラス製耐圧反応器に仕込んだ。次に、重合開始剤としてPFBの3wt%R225溶液40.6gを添加した。系内を凍結脱気した後、封管し、恒温振とう槽内(20℃)で18.5時間重合させた。重合後、反応溶液をR225で希釈しヘキサン中に滴下して、ポリマーを再沈させた後、120℃で15時間真空乾燥を実施した。その結果、主鎖に含フッ素環構造を有する非結晶性ポリマー(以下、重合体3Aという。)8.5gを得た。THFを溶媒として用いてGPCにより測定したPSt換算分子量は、数平均分子量(Mn)15500、重量平均分子量(Mw)26000であり、Mw/Mn=1.69であった。示差走査熱分析(DSC)により測定したTgは117℃であり、室温で白色粉末状のポリマーであった。得られたポリマーはアセトン、THF、メタノール、R225に可溶であった。
【0053】
(実施例5)
実施例1で得たモノマーの2g、およびジオキサンの1.6gを内容積30mLのガラス製耐圧反応器に仕込んだ。次に、重合開始剤としてPFBの3wt%R225溶液9.14gを添加した。系内を凍結脱気した後、封管し、恒温振とう槽内(20℃)で18時間重合させた。重合後、反応溶液をR225で希釈してヘキサン中に滴下して、ポリマーを再沈させた後、100℃で16時間真空乾燥を実施した。その結果、主鎖に含フッ素環構造を有する非結晶性ポリマー(以下、重合体4Aという。)1.65gを得た。THFを溶媒として用いてGPCにより測定したPSt換算分子量は、数平均分子量(Mn)8800、重量平均分子量(Mw)13400であり、Mw/Mn=1.53であった。示差走査熱分析(DSC)により測定したTgは115℃であり、室温で白色粉末状のポリマーであった。得られたポリマーはアセトン、THF、メタノール、R225に可溶であった。
【0054】
(実施例6)
200mlのガラス反応器に実施例4で得たポリマーの4g、水酸化ナトリウムの6.6wt%メタノール溶液2.7gおよびメタノールの80gを入れ、室温で20時間撹拌した。反応液をエバポレーターで濃縮した後、脱水THFの120gに溶解した。次いでクロロメチルメチルエーテルの0.38gを添加し室温で90時間撹拌した。反応液をセライトでろ過し、エバポレーターで濃縮した。濃縮物をR225に溶解し、水洗、分液した。R225層をヘキサン中に滴下して、ポリマーを再沈させた後、110℃で16時間真空乾燥を実施した。その結果、主鎖に含フッ素環構造を有する非結晶性ポリマー(以下、重合体5Aという。)3.3gを得た。19F−NMR、H−NMR分析によりこの重合体のメトキシメチル化率は32モル%であった。THFを溶媒として用いてGPCにより測定したPSt換算分子量は、数平均分子量(Mn)15800、重量平均分子量(Mw)25900であり、Mw/Mn=1.64であった。示差走査熱分析(DSC)により測定したTgは111℃であり、室温で白色粉末状のポリマーであった。得られたポリマーはアセトン、THF、メタノール、R225に可溶であった。
【0055】
(実施例7〜11)真空紫外領域157nmの透明性の測定
実施例2〜6で合成した重合体1Aから5Aの1gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの10gに溶解させ、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過した。CaF基板上に、上記で調整した溶液をスピンコーターを用い、室温で1000回転でコートした。塗布後、100℃で15分間焼成し、膜厚0.15μmの被膜を作成した。これらのサンプルの157nmの透過スペクトルを測定した。157nmにおける透過率(%)を表1に示した。なお、用いた測定装置は以下のものである。
KV−201AD型極紫外分光システム(分光計器)
波長範囲 120〜300nm
分解能 1〜4nm
【0056】
【表1】

【0057】
(実施例12〜13)アルカリ現像液に対する溶解性測定
実施例4と6で合成した重合体3A、5Aの1gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの10gに溶解させ、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過し、シリコン基板上へ塗布した。2.38%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液をポリマーを塗布したシリコン基板上に滴下して、溶解性を評価した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
(実施例14)
実施例1で得たモノマーの2g、および酢酸エチルの2.67gを内容積30mLのガラス製耐圧反応器に仕込んだ。次に、重合開始剤としてIPP(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)0.076gを添加した。系内を凍結脱気した後、封管し、恒温振とう槽内(40℃)で19時間重合させた。重合後、反応溶液をヘキサン中に滴下して、ポリマーを再沈させた後、100℃で21時間真空乾燥を実施した。その結果、主鎖に含フッ素環構造を有する非結晶性ポリマー(以下、重合体6Aという)1.37gを得た。THFを溶媒として用いてGPCにより測定したPSt換算分子量は、数平均分子量(Mn)5700、重量平均分子量(Mw)10500であり、Mw/Mn=1.84であり、室温で白色粉末状のポリマーであった。得られたポリマーはアセトン、THF、メタノール、R225には可溶であった。
【0060】
(実施例15、16)
実施例4と14で合成したポリマー3A、6Aのそれぞれ1gをPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)の9gに溶解させ、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過し、レジスト保護膜用組成物を得た。
シリコン基板上に、上記のレジスト保護膜用組成物を回転塗布し、塗布後100℃で90秒加熱処理して、膜厚0.21μmのレジスト保護膜を形成した。このようにして得られたレジスト保護膜の光線透過率および水に対する接触角を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
(実施例17、18)アルカリ現像液に対する溶解性測定
実施例4と14で合成した重合体3A、6Aのそれぞれ1gをPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)の9gに溶解させ、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過し、シリコン基板上へ塗布した。2.38%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液および超純水にポリマーを塗布したシリコン基板を30秒間浸漬させ、溶解性を評価した。結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の含フッ素ポリマーは、フォトレジスト用ベースポリマーおよびレジスト保護膜用ベースポリマーとしての用途の他に、例えばイオン交換樹脂、イオン交換膜、燃料電池、各種電池材料、光ファイバー、電子用部材、透明フィルム材、農ビ用フィルム、接着剤、繊維材、耐候性塗料などに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される含フッ素ジエン。
CF=CFCHCH(C(R)(R)(OH))CHCH=CH (1)
ただし、RとRは、それぞれ独立にフッ素原子、あるいは炭素数5以下のフルオロアルキル基を表す。
【請求項2】
およびRがトリフルオロメチル基である請求項1に記載の含フッ素ジエン。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載された含フッ素ジエンが環化重合したモノマー単位を有する含フッ素ポリマー(A)。
【請求項4】
請求項1または2のいずれかに記載された含フッ素ジエンを環化重合することを特徴とする含フッ素ポリマー(A)の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載された含フッ素ポリマー(A)と、含フッ素ポリマー(A)を溶解または分散する溶媒と、を含むことを特徴とするレジスト保護膜組成物。

【国際公開番号】WO2005/042453
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515188(P2005−515188)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016160
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】