説明

含フッ素重合体溶液組成物

【課題】含フッ素重合体溶液組成物を提供する。
【解決手段】側鎖に含フッ素脂環式炭化水素基を有する繰り返し単位(A)を含む含フッ素重合体(F)と、フッ素系有機溶媒(S)とを含む含フッ素重合体溶液組成物。たとえば、繰り返し単位(A)は、下式(1)、下式(2)、下式(3)、下式(4)および下式(5)で表される化合物からなる群から選ばれる環式飽和炭化水素化合物の水素原子を1個除いたn価の基(ただし、nは1〜4の整数を示す。)であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された基(G)を有する繰り返し単位である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体溶液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素多環式脂肪族炭化水素基を有する重合性化合物としては、ポリフルオロアダマンチル基を有する化合物(たとえば、下式で表される化合物。)が知られている(特許文献1および2参照。)。
【0003】
【化1】

【0004】
前記化合物の重合により形成された繰り返し単位を含む重合体は、短波長光に対する耐光性と透明性に優れるため、Fレーザー光を光源とするフォトリソグラフィー法に用いられるレジスト等として有用である(特許文献1および3参照。)。
【0005】
前記重合体をレジスト等の用途に用いる場合には、通常、前記重合体は溶媒に溶解されて重合体溶液組成物に調製される。前記溶媒として、特許文献3には炭化水素系溶媒(ケトン類、エステル類、エーテル類またはアルコール類。)が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−131879号公報
【特許文献2】特開2004−123687号公報
【特許文献3】特開2004−182796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検討によれば、前記繰り返し単位を含む重合体(特に前記繰り返し単位の含有率が高い重合体。)は、前記炭化水素系溶媒に対する相溶性が低く、安定な重合体溶液組成物を形成しなかった。そのため、前記重合体溶液組成物を基材上に塗布した後に乾燥して、前記重合体の薄膜を形成するのは容易ではなかった。また、前記重合体と他の成分とが相溶した均一な重合体溶液組成物を調製するのは容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、含フッ素脂環式炭化水素基を有する重合性化合物の重合により形成された繰り返し単位を含む重合体(特に前記繰り返し単位の含有率が高い重合体。)と特定のフッ素系溶媒とを含む、安定な重合体溶液組成物を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は下記は発明を提供する。
<1> 側鎖に含フッ素脂環式飽和炭化水素基を有する繰り返し単位(A)を含む含フッ素重合体(F)と、フッ素系有機溶媒(S)とを含む含フッ素重合体溶液組成物。
【0010】
<2> 繰り返し単位(A)が、下式(1)、下式(2)、下式(3)、下式(4)および下式(5)で表される化合物からなる群から選ばれる脂環式飽和炭化水素化合物の水素原子を1個除いたn価の基(ただし、nは1〜4の整数を示す。)であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された基(G)を有する繰り返し単位である<1>に記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【0011】
【化2】

【0012】
基(G)にフッ素原子に置換されない残余の水素原子が存在する場合、該残余の水素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【0013】
<3> nが1である<2>に記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【0014】
<4> 繰り返し単位(A)が、下式(11)、下式(12)、下式(21)および下式(41)からなる群から選ばれる基(G1)を有する繰り返し単位である<1>〜<3>のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【0015】
【化3】

【0016】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
およびR:それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
また、基(G1)中のフッ素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【0017】
<5> 繰り返し単位(A)が、下式(a11)、下式(a12)、下式(a2)および下式(a4)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物(a)の重合により形成された繰り返し単位である<1>〜<4>のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【0018】
【化4】

【0019】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Y:水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基。
Q:単結合または2価連結基。
:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
およびR:それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
また、化合物(a)中のフッ素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【0020】
<6> 含フッ素重合体(F)が、繰り返し単位(A)を全繰り返し単位に対して25モル%以上含む含フッ素重合体である<1>〜<5>のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【0021】
<7> フッ素系有機溶媒(S)が、フルオロカーボン系溶媒、フルオロエーテル系溶媒、クロロフルオロカーボン系溶媒およびハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒からなる群から選ばれるフッ素系有機溶媒(S1)である<1>〜<6>のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【0022】
<8> フッ素系有機溶媒(S)が、ハイドロフルオロカーボン系溶媒、ハイドロフルオロエーテル系溶媒およびハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒からなる群から選ばれるフッ素系有機溶媒(S11)である<1>〜<7>のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【0023】
<9> 含フッ素重合体(F)とフッ素系有機溶媒(S)の総量に対して含フッ素重合体(F)を0.05〜25質量%含む<1>〜<8>のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、含フッ素多環式脂肪族炭化水素基を有する重合性化合物の重合により形成された繰り返し単位を含む重合体(特に前記繰り返し単位の含有率が高い重合体。)を含む、安定な含フッ素重合体溶液組成物が提供される。本発明の含フッ素重合体溶液組成物を用いることにより、透明性、撥水性、撥油性、耐熱性、離型性、耐薬品性、特に動的撥水撥油性に優れた薄膜を効率よく形成できる。また、本発明の含フッ素重合体溶液組成物に他の材料を溶解または分散させることにより、種々の機能性材料を容易に調製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本明細書において、式(a)で表される化合物を化合物(a)と、式(1)で表される基を基(1)と記す。他の式で表される化合物と他の式で表される基も同様に記す。また、基中の記号は特に記載しない限り前記と同義である。
【0026】
本発明における含フッ素重合体(F)は、側鎖に含フッ素脂環式炭化水素基を有する繰り返し単位(A)を含む。
【0027】
含フッ素脂環式炭化水素基とは、環を構成する炭素原子にフッ素原子が直接結合している基である。含フッ素脂環式炭化水素基は、飽和の基が好ましい。含フッ素脂環式炭化水素基は、環式飽和炭化水素化合物の水素原子をm個除いたm価の基(ただし、mは1〜4の整数を示す。mは1であるのが好ましい。)であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された含フッ素脂環式炭化水素基であるのが好ましい。
【0028】
含フッ素脂環式炭化水素基中の残余の水素原子は、80%以上がフッ素原子に置換されているのが好ましく、すべてがフッ素原子に置換されているのが特に好ましい。前記基にフッ素原子に置換されない残余の水素原子が存在する場合、該残余の水素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。また、該残余の水素原子は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、または、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルコキシカルボニル基およびアルキルカルボニル基からなる群から選ばれる基であって炭素数1〜10の基が結合していてもよい。
【0029】
含フッ素重合体(F)の主鎖は、炭素原子−炭素原子結合から形成されているか、シロキサン結合から形成されているのが好ましく、炭素原子−炭素原子結合から形成されているのか特に好ましい。含フッ素重合体(F)の主鎖は、さらに炭素原子−酸素原子結合を含んでいてもよい。
【0030】
繰り返し単位(A)は、下式(1)、下式(2)、下式(3)、下式(4)および下式(5)で表される化合物からなる群から選ばれる脂環式飽和炭化水素化合物の水素原子をn個除いたn価の基(nは前記と同じ意味を示す。以下同様。)であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された基(G)を有する繰り返し単位であるのが好ましい。
【0031】
【化5】

【0032】
基(G)中の残余の水素原子は、80%以上がフッ素原子に置換されているのが好ましく、すべてがフッ素原子に置換されているのが特に好ましい。基(G)にフッ素原子に置換されない残余の水素原子が存在する場合、該残余の水素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【0033】
nは、1であるのが好ましい。
【0034】
繰り返し単位(A)は、下記基(11)、下式基(12)、下記基(21)および下記基(41)からなる群から選ばれる基(G1)を有する繰り返し単位であるのがより好ましい(式中の記号は前記と同じ意味を示す。以下同様。)。
【0035】
【化6】

【0036】
基(G1)中のフッ素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
は、メチル基またはトリフルオロメチル基が好ましい。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基が好ましい。
【0037】
繰り返し単位(A)は、下記化合物(a11)、下記化合物(a12)、下記化合物(a2)および下記化合物(a4)からなる群から選ばれる化合物(a)の重合により形成された繰り返し単位であるのが特に好ましい(YおよびQは前記と同じ意味を示す。以下同様。)。
【0038】
【化7】

【0039】
化合物(a)中のフッ素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【0040】
Yは、水素原子またはメチル基が好ましい。
Qは、2価連結基が好ましく、−C(O)−、−SO−、−C(O)O−、−C(O)S−、−OC(O)NH−、−C(O)NH−および−PO(O)−からなる群から選ばれる基を含む2価連結基がより好ましく、−C(O)O−、−C(O)OCH−、−C(O)NHCH−または−OC(O)NH−が特に好ましく、−C(O)O−または−C(O)OCH−が最も好ましい。Qが前記2価連結基である含フッ素重合体(F)においては、含フッ素環式飽和炭化水素基がより最外表面に配向しやすいと考えられ、動的撥水性に優れた材料を調製しやすいだけではなく、含フッ素重合体(F)と被処理物との密着性が高くなるという効果がある。
【0041】
化合物(a11)は、下記化合物(a111)または下記化合物(a112)が好ましい。
【0042】
【化8】

【0043】
化合物(a112)は、新規な化合物である。化合物(a112)の製造方法は、後述する。
【0044】
化合物(a12)は、下記化合物(a121)(ただし、R11はメチル基またはトリフルオロメチル基を示す。)が好ましい。
【0045】
【化9】

【0046】
化合物(a2)は、下記化合物(a21)または下記化合物(a22)が好ましい。
【0047】
【化10】

【0048】
化合物(a21)は、新規な化合物である。化合物(a21)は、下記化合物(ma21)と式R−COF(ただし、Rはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基を示す。)で表される化合物とをエステル化して下記化合物(na21)を得て、つぎに化合物(na21)を液相フッ素化して下記化合物(oa21)を得て、つぎにKF存在下に化合物(oa21)を分解して下記化合物(pa21)を得て、つぎに化合物(pa21)と還元剤(NaBH、LiAlH等。)を反応させて下記化合物(qa21)を得て、つぎに化合物(qa21)と式CH=CY−C(O)Clで表される化合物とを反応させて製造するのが好ましい。
【0049】
【化11】

【0050】
化合物(a22)は、新規な化合物である。化合物(a22)は、化合物(ma21)のかわりに下記化合物(ma22)を用いる以外は同様にして製造するのが好ましい。
【0051】
【化12】

【0052】
含フッ素重合体(F)は、繰り返し単位(A)を全繰り返し単位に対して、25モル%以上含むのが好ましく、75モル%以上含むのが好ましく、繰り返し単位(A)のみからなる(すなわち、繰り返し単位(A)を全繰り返し単位に対して100モル%含む。)のが特に好ましい。繰り返し単位(A)は、1種からなっていてもよく2種以上からなっていてもよい。
【0053】
含フッ素重合体(F)が繰り返し単位(A)以外の繰り返し単位(以下、他の単位ともいう。)を含む場合、含フッ素重合体(F)は、他の単位を全繰り返し単位に対して75モル%以下含むのが好ましく、25モル%以下含むのが特に好ましい。他の単位は、他の単位を形成しうる重合性化合物(以下、化合物(ot)ともいう。)の重合により形成された繰り返し単位であるのが好ましい。
【0054】
化合物(ot)は、本発明の含フッ素重合体溶液組成物(以下、本発明の組成物ともいう。)の用途に応じて適宜選択される。化合物(ot)は、ビニル性単量体が好ましい。ビニル性単量体は、極性基またはハロゲン原子を含んでいてもよい。
極性基の具体例としては、−C(O)−、−SO−、−C(O)O−、−C(O)S−、−OC(O)NH−、−C(O)NH−および−PO(O)−からなる群から選ばれる基を含む2価極性基、−OH、−SH、−COOH、−CONH、−NH、−CN、−NCO、−POH、−SOHおよび−SONHからなる群から選ばれる1価極性基が挙げられる。
【0055】
ビニル性単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、ハロゲン化ビニル(塩化ビニル等。)、ハロゲン化ビニリデン(塩化ビニリデン等。)、スチレン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクレートが挙げられる。ただし、(メタ)アクリルアミドはアクリルアミドとメタクリルアミドの総称を意味し、(メタ)アクリル酸はアクリル酸とメタクリル酸の総称を意味し、(メタ)アクリレートはアクリレートとメタクリレートの総称を意味する(以下同様。)。メタアクリレートの炭素数は、4〜22が好ましい。
【0056】
メタアクリレートの具体例としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、3,3−ジメチルブチル(メタ)アクリレート、(2,2−ジメチル−1−メチル)プロピル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクレート;グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0057】
含フッ素重合体(F)の重量平均分子量は、1000〜1000000が好ましく、フッ素系溶媒(S)に対する溶解性の観点から、1000〜30000がより好ましく、1000〜15000が特に好ましい。
【0058】
含フッ素重合体(F)の好ましい態様としては、繰り返し単位(A)のみからなる重量平均分子量1000〜30000の重合体が挙げられる。前記態様における繰り返し単位(A)は、化合物(a)の重合により形成された繰り返し単位が好ましい。
【0059】
本発明におけるフッ素系有機溶媒(S)は、フルオロカーボン系溶媒、フルオロエーテル系溶媒、クロロフルオロカーボン系溶媒およびハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒からなる群から選ばれるフッ素系有機溶媒(S1)であるのが好ましく、含フッ素重合体(F)に対する相溶性が高く、取扱性がよい観点から、ハイドロフルオロカーボン系溶媒、ハイドロフルオロエーテル系溶媒およびハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒からなる群から選ばれるフッ素系有機溶媒(S11)であるのが特に好ましい。
【0060】
本明細書においてフルオロカーボン系溶媒とは、フッ素原子と炭素原子のみ、または、水素原子とフッ素原子と炭素原子のみからなる、25℃にて液体であって沸点が40℃以上である含フッ素化合物である。フッ素原子と炭素原子のみからなるフルオロカーボン系溶媒をペルフルオロフルオロカーボン系溶媒といい、水素原子とフッ素原子と炭素原子のみからなるフルオロカーボン系溶媒をハイドロフルオロカーボン系溶媒という。炭素原子は脂環または芳香環を形成していてもよい。
【0061】
ペルフルオロカーボン系溶媒の具体例としては、CF(CFCF、CF(CFCF、CFCF(CF)CF(CF)CFCF(CF)CFCF、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロデカリン、ペルフルオロベンゼンが挙げられる。
ハイドロフルオロカーボン系溶媒の具体例としては、CFCHFCHFCFCF、CF(CFH、CF(CFCHCH、CF(CFCHCH、CF(CFCHCH、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンが挙げられる。
【0062】
本明細書においてフルオロエーテル系溶媒とは、エーテル性酸素原子とフッ素原子と炭素原子のみ、または、エーテル性酸素原子と水素原子とフッ素原子と炭素原子のみからなる、25℃にて液体であって沸点が40℃以上である含フッ素化合物である。エーテル性酸素原子とフッ素原子と炭素原子のみからなるフルオロエーテル系溶媒をペルフルオロエーテル系溶媒といい、エーテル性酸素原子と水素原子とフッ素原子と炭素原子のみからなるフルオロエーテル系溶媒をハイドロフルオロエーテル系溶媒という。炭素原子は脂環または芳香環を形成していてもよく、エーテル性酸素原子と炭素原子は複素環を形成していてもよい。なお、エーテル性酸素原子は2個以上存在していてもよい。
【0063】
ペルフルオロエーテル系溶媒の具体例としては、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)が挙げられる。
ハイドロフルオロエーテル系溶媒の具体例としては、CFCFCFCFOCH、(CFCFCF(CF)CFOCH、CFCHOCFCHF、CHFCFOCHが挙げられる。
【0064】
本明細書においてクロロフルオロカーボン系溶媒とは、塩素原子とフッ素原子と炭素原子のみからなる、25℃にて液体であって沸点が40℃以上である含フッ素化合物である。炭素原子は脂環または芳香環を形成していてもよい。
【0065】
本明細書においてハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒とは、水素原子と塩素原子とフッ素原子と炭素原子のみからなる、25℃にて液体であって沸点が40℃以上である含フッ素化合物である。炭素原子は脂環または芳香環を形成していてもよい。
ハイドロクロロフルオロカーボンの具体例としては、CClFCH、CClFCFCHClF、CHClCFCFが挙げられる。
【0066】
フッ素系有機溶媒(S)は、1種を用いてもよく2種以上を用いてもよく、通常は1種が用いられる。
【0067】
フッ素系有機溶媒(S)の比重は、本発明の含フッ素重合体溶液組成物(以下、本発明の組成物ともいう。)の取扱の観点から、25℃にて、1.8g/cm以下が好ましく、1.6g/cm以下が特に好ましい。比重の下限は、通常、25℃にて1.3g/cm以上である。また、本発明の組成物の沸点は、重合体溶液組成物の取扱の観点から、60〜200℃が好ましい。
【0068】
また、その他のフッ素系有機溶媒としては、フルオロアルコール系溶媒が挙げられる。本明細書においてフルオロアルコール系溶媒とは、25℃にて液体であって沸点が40℃以上である水酸基を有する含フッ素化合物をいう。
フルオロアルコール系溶媒の具体例としては、CHFCFCHOH、CFCFCFCHFCFCHOHCHFCFCFCFCHOH、CFCHOH、CFCH(OH)CFが挙げられる。
【0069】
本発明の組成物は、含フッ素重合体(F)とフッ素系有機溶媒(S)の総量に対して、含フッ素重合体(F)を、0.05〜25質量%含むのが好ましく、0.1〜20質量%含むのが特に好ましい。
【0070】
本発明の組成物の製造方法としては、含フッ素重合体(F)とフッ素系有機溶媒(S)を混合して、含フッ素重合体(F)をフッ素系有機溶媒(S)に溶解させる方法がある。
【0071】
本発明の組成物は、透明性、撥水性、撥油性、耐熱性、離型性、耐薬品性に優れ、特に動的撥水撥油性に優れた含フッ素重合体(F)を含む安定な溶液組成物である。本発明の組成物は、所望の基材の表面に含フッ素重合体(F)の膜を形成するために用いられるコーティング剤、または、他の材料に添加されて他の材料と含フッ素重合体(F)の複合材料を形成するために用いられる添加剤として有用である。
【0072】
本発明の組成物をコーティング剤として用いる場合の好ましい態様としては、本発明の組成物を所望の基材の表面に塗布し、つぎに該基材を乾燥してフッ素系有機溶媒(S)を留去して、該基材の表面に含フッ素重合体(F)の膜を形成する態様が挙げられる。また、本発明の組成物を所望の基材の表面に噴霧して該基材の表面に含フッ素重合体(F)の膜を形成する態様、所望の基材を本発明の組成物に浸漬させた後に乾燥することにより該基材の表面に含フッ素重合体(F)の膜を形成する態様も挙げられる。
【0073】
基材は、特に限定されず、レンズ(眼鏡レンズ、光学レンズ等。)、発光ダイオード、ディスプレイ(たとえば、PDP、LCD、FED、有機EL等。)、半導体素子等が挙げられる。
【0074】
塗布方法は、特に限定されず、ロールコート法、キャスト法、ディップ法、スピンコート法、水上キャスト法、ダイコート法、およびラングミュア・ブロジェット法等が挙げられる。
基材の乾燥は、フッ素系溶媒(S)の沸点以上にて行うのが好ましい。
基材の表面に形成される含フッ素重合体(F)の膜の膜厚は、特に限定されず、通常は0.01μm〜1000μmである。本発明の組成物は、含フッ素重合体(F)の濃度が高くても安定な溶液組成物であるため、高膜厚で優れた薄膜物性(表面平坦度等。)の含フッ素重合体(F)の膜を形成できる。
【0075】
本発明の組成物を添加剤として用いる場合の好ましい態様としては、本発明の組成物と他の材料を混合して混合物を得て、つぎに該混合物を乾燥してフッ素系溶媒(S)を留去することにより、含フッ素重合体(F)と他の材料の複合材料を形成する態様が挙げられる。前記複合材料は、含フッ素重合体(F)を含むため、透明性、撥水性、撥油性、耐熱性、離型性、耐薬品性、特に動的撥水撥油性に優れている。
他の材料は特に限定されず、無機材料であってもよく有機材料であってもよい。有機材料は、非重合体であってもよく重合体であってもよい。重合体は、樹脂であってもよくゴムであってもよい。
【0076】
本発明の具体的な態様の一つとしては、含フッ素多環式脂肪族炭化水素基を有する重合性化合物(a)の重合により形成された繰り返し単位(A)を全繰り返し単位に対して25モル%以上含む重合体(A)と、フッ素系溶媒(S)とを含み、かつ、重合体(A)とフッ素系溶媒(S)の総量に対して重合体(A)を0.05〜25質量%含む重合体溶液組成物(以下、本発明の組成物(p)ともいう。)が挙げられる。
【0077】
重合性化合物(a)は、重合性基と含フッ素多環式脂肪族炭化水素基とを有する化合物であれば特に限定されない。含フッ素多環式脂肪族炭化水素基とは、環を構成する炭素原子にフッ素原子が直接結合している基をいう。また、重合性基と含フッ素多環式脂肪族炭化水素基とは、直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。
重合性化合物(a)のフッ素含有量は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上が特に好ましい。前記フッ素含有量は、76質量%以下が好ましい。
【0078】
重合性基は、付加重合性基または開環重合性基が好ましく、重合性の炭素原子−炭素原子2重結合を含む基またはエポキシ基を含む基が特に好ましい。
含フッ素多環式脂肪族炭化水素基は、環を構成する炭素原子に結合したフッ素原子を有する含フッ素多環式脂肪族炭化水素基であれば特に限定されず、含フッ素縮合多環式炭化水素基が好ましく、含フッ素橋かけ環炭化水素基が好ましく、ポリフルオロアダマンチル基が特に好ましい。含フッ素多環式脂肪族炭化水素基の炭素数は、5〜20が好ましい。また、含フッ素多環式脂肪族炭化水素基中の炭素原子には、ヒドロキシ基、カルボキシ基、または、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルコキシカルボニル基およびアルキルカルボニル基からなる群から選ばれる基であって炭素数1〜10の基が結合していてもよい。
【0079】
重合性化合物(a)は、下記化合物(a1)であるのが好ましい。
【0080】
【化13】

【0081】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:重合性基を有する炭素数2〜10の1価有機基。
:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
:水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基またはヒドロキシアルキル基であって、3個のYは同一であっても異なっていてもよい。
【0082】
は、重合性の炭素原子−炭素原子2重結合を含む炭素数2〜10の1価有機基またはエポキシ基を含む炭素数2〜10の1価有機基が好ましく、式CGp1p2=CTC(O)O−で表される炭素数3〜10の1価有機基(ただし、Gp1およびGp2はそれぞれ独立に水素原子またはフッ素原子を、Tは水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のフルオロアルキル基を、示す。)が特に好ましい。Gp1およびGp2は、水素原子が好ましい。
【0083】
6個のQは、少なくとも4個のQがジフルオロメチレン基であるのが好ましく、6個のQの全てがジフルオロメチレン基であるのが特に好ましい。
3個のYは、2個のYがフッ素原子であり、かつ残余の1個のYがフッ素原子、ヒドロキシ基またはヒドロキシアルキル基であるのが好ましい。
【0084】
重合性化合物(a)は、下記化合物(a11)であるのがより好ましく、下記化合物(a110)または下記化合物(a111)であるのが特に好ましい。
【0085】
【化14】

【0086】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3の含フッ素アルキル基。
pp:0または1。
:pが0である場合はフッ素原子またはヒドロキシ基であり、pが1である場合はフッ素原子またはヒドロキシメチル基である。
p10:フッ素原子またはヒドロキシ基。
p11:フッ素原子またはヒドロキシメチル基。
それぞれの化合物におけるRは、水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基であるのが好ましく、水素原子またはメチル基であるのが特に好ましい。
【0087】
化合物(a111)は、下記化合物(a111−3)と水を反応させて下記化合物(a111−2)を得て、つぎに化合物(a111−2)とH−CHOを反応させて下記化合物(a111−1)を得て、つぎに化合物(a111−1)と式CH=CRC(O)Clで表される化合物を反応させることにより製造できる。
【0088】
【化15】

【0089】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
p111:フッ素原子またはヒドロキシメチル基。
p112:Zp111に対応する基であって、フッ素原子であるZp111に対応するZp112はフッ素原子、ヒドロキシメチル基であるZp111に対応するZp112は水素原子。
p113:Zp112に対応する基であって、フッ素原子であるZp112に対応するZp113はフッ素原子、水素原子であるZp112に対応するZp113はフルオロカルボニル基。
【0090】
重合性化合物(a)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0091】
【化16】

【0092】
重合体(A)は、繰り返し単位(A)を全繰り返し単位に対して75モル%以上含む重合体であるのが好ましく、繰り返し単位(A)のみからなる重合体(すなわち、繰り返し単位(A)を全繰り返し単位に対して100モル%含む重合体。)であるのが特に好ましい。また、繰り返し単位(A)は、1種の重合性化合物(a)の重合により形成されていてもよく2種以上の重合性化合物(a)の重合により形成されていてもよい。
【0093】
重合体(A)が重合性化合物(a)以外の重合性化合物(以下、他の重合性化合物ともいう。)の重合により形成された繰り返し単位(以下、単に他の単位ともいう。)を含む場合、重合体(A)は、全繰り返し単位に対して他の繰り返し単位を75モル%以下含むのが好ましく、25モル%以下含むのが特に好ましい。
他の重合性化合物は、特に限定されず、化合物(ot)が挙げられる。
【0094】
重合体(A)の重量平均分子量は、1000〜1000000が好ましく、フッ素系溶媒(S)に対する溶解性の観点から、1000〜30000がより好ましく、1000〜15000が特に好ましい。
【0095】
重合体(A)の好ましい態様としては、繰り返し単位(A)のみからなる重量平均分子量1000〜30000の重合体が挙げられる。前記好ましい態様における繰り返し単位(A)は、化合物(a11)の重合により形成された繰り返し単位が好ましい。
【0096】
重合体(A)は、重合性化合物(a)を重合開始剤の存在下に重合させて製造するのが好ましい。
重合開始剤は、特に限定されず、ベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジt−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、ペルフルオロブチリルパーオキシド、ペルフルオロベンゾイルパーオキシド等の過酸化物;アゾイソビスブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸塩等が挙げられる。
重合の方法は、特に限定されず、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法を用いることができる。
重合性化合物(a)は、溶媒の存在下に重合させてもよい。溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、フッ素系溶媒(S)等が挙げられる。
重合における反応温度と反応圧力は、特に限定されない。
【0097】
フッ素系溶媒(S)の定義、好ましい態様、および具体例は、フッ素系溶媒(S)と同じである。
【0098】
本発明の組成物(p)は、重合体(A)とフッ素系溶媒(S)の総量に対して、重合体(A)を、0.1〜20質量%含むのが好ましい。
本発明の組成物(p)の製造方法は、特に限定されず、重合体(A)とフッ素系溶媒(S)を混合して、重合体(A)をフッ素系溶媒(S)に溶解させる方法が挙げられる。
【0099】
本発明の組成物(p)は、透明性、撥水性、撥油性、耐熱性、離型性、耐薬品性に優れ、特に動的撥水撥油性に優れた重合体(A)を含む安定な溶液組成物であり、所望の基材の表面に重合体(A)の膜を形成するために用いられるコーティング剤、または、他の材料に添加されて他の材料と重合体(A)の複合材料を形成するために用いられる添加剤として有用である。
【0100】
本発明の組成物(p)をコーティング剤として用いる場合の好ましい態様としては、本発明の組成物(p)を所望の基材の表面に塗布し、つぎに該基材を乾燥してフッ素系溶媒(S)を留去して、該基材の表面に重合体(A)の膜を形成する態様が挙げられる。また、本発明の組成物(p)を所望の基材の表面に噴霧して該基材の表面に重合体(A)の膜を形成する態様、所望の基材を本発明の組成物(p)に浸漬させた後に乾燥することにより該基材の表面に重合体(A)の膜を形成する態様も挙げられる。
【0101】
基材は、特に限定されず、レンズ(眼鏡レンズ、光学レンズ等。)、発光ダイオード、ディスプレイ(たとえば、PDP、LCD、FED、有機EL等。)、半導体素子等が挙げられる。
【0102】
塗布方法は、特に限定されず、ロールコート法、キャスト法、ディップ法、スピンコート法、水上キャスト法、ダイコート法、およびラングミュア・ブロジェット法等が挙げられる。
基材の乾燥は、フッ素系溶媒(S)の沸点以上にて行うのが好ましい。
基材の表面に形成される重合体(A)の膜の膜厚は、特に限定されず、通常は0.01μm〜1000μmである。本発明の組成物(p)は、重合体(A)の濃度が高くても安定な溶液組成物であるため、高膜厚で優れた薄膜物性(表面平坦度等。)の重合体(A)の膜を形成できる。
【0103】
本発明の組成物(p)を添加剤として用いる場合の好ましい態様としては、本発明の組成物(p)と他の材料を混合して混合物を得て、つぎに該混合物を乾燥してフッ素系溶媒(S)を留去することにより、重合体(A)と他の材料の複合材料を形成する態様が挙げられる。前記複合材料は、重合体(A)を含むため、透明性、撥水性、撥油性、耐熱性、離型性、耐薬品性、特に動的撥水撥油性に優れている。
他の材料は特に限定されず、無機材料であってもよく有機材料であってもよい。有機材料は、非重合体であってもよく重合体であってもよい。重合体は、樹脂であってもよくゴムであってもよい。
【実施例】
【0104】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。重量平均分子量をMwと、数平均分子量をMnと、記す。
含フッ素重合体(F)を製造するために、下記化合物(a1)、下記化合物(a1)、下記化合物(a2)、下記化合物(a4)または下記化合物(ot)を用いた。
【0105】
【化17】

【0106】
[例1−1(参考合成例)]化合物(a1)の製造例
0℃に保持したフラスコに、下記化合物(a111−31)(27.46g)、NaF(3.78)およびアセトン(100mL)を入れ撹拌した。つぎにフラスコに水(1.14g)を滴下し、フラスコ内を充分に撹拌した。フラスコ内容液を昇華精製して下記化合物(a111−21)(22.01g)を得た。
化合物(a111−21)(2.03g)およびジメチルスルホキシド(50mL)の混合物に、水酸化カリウム(1.00g)とホルマリン水溶液(20mL)を加え、そのまま75℃にて反応させた。反応終了後、反応液をジクロロペンタフルオロプロパンに抽出して下記化合物(a111−11)(1.58g)を得た。
【0107】
同様にして得られた化合物(a111−11)(6.01g)とジクロロペンタフルオロプロパン(103g)とをフラスコに加え、つぎにトリエチルアミン(1.68g)とCH=C(CH)COCl(1.58g)とを加え、25℃にてフラスコ内を2時間撹拌した。フラスコ内溶液を回収し精製して、化合物(a1)を得た。
【0108】
【化18】

【0109】
化合物(a1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz,CDCl,Si(CH)δ(ppm):1.96(s,3H),5.06(s,2H),5.71(s,1H),6.19(s,1H)。
19F−NMR(282.7MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−113.6(6F),−121.1(6F),−219.4(3F)。
【0110】
[例1−2(参考合成例)]化合物(a2)の製造例
下式の製造ルートにしたがって、下記化合物(ma21)から化合物(a2)を製造した。ただし、RF1はF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)−を示す。
【0111】
【化19】

【0112】
窒素ガス雰囲気下のフラスコに化合物(ma21)(15g)、クロロホルム(100g)およびNaF(7.02g)を入れ、フラスコ内を氷冷撹拌しながらF(CFOCF(CF)COF(79g)を滴下し、さらにフラスコ内を撹拌した。フラスコ内容物の不溶固形物を加圧ろ過により除去した後に、フラスコに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(103g)を入れ、有機層を回収濃縮して化合物(na21)(74g)を得た。
【0113】
ガス出口にNaFペレット充填層を設置したオートクレーブにR113(313g)を加え、25℃にてオートクレーブ内を撹拌しながら、オートクレーブに窒素ガスを1時間吹き込んだ後に、窒素ガスで20%体積に希釈したフッ素ガスを吹き込んだ。そのまま該フッ素ガスを吹き込みつつ、0.1MPaの圧力下にて、オートクレーブに化合物(na21)(67g)をR113(299g)に溶解させた溶液を導入した。導入終了後、オートクレーブ内容物を回収濃縮して化合物(oa21)を得た。
窒素ガス雰囲気下のフラスコに、化合物(oa21)(80g)と粉末状KF(0.7g)を入れ、フラスコ内を6時間加熱した後に、フラスコ内容物を精製して化合物(pa21)(38g)を得た。
【0114】
窒素ガス雰囲気下の丸底フラスコに、NaBH(1.1g)とテトラヒドロフラン(30g)を入れた。フラスコを氷冷撹拌しながら、フラスコに化合物(pa21)を22質量%含むジクロロペンタフルオロプロパン溶液(48g)を滴下した。滴下終了後、フラスコ内をさらに撹拌した後に、フラスコ内容液を塩酸水溶液(150mL)で中和して得られた溶液を、水洗してから蒸留精製することにより化合物(qa21)を得た。
【0115】
フラスコに、化合物(qa21)(2.2g)、テトラヒドロフラン(10g)、N−ニトロソフェニルヒドロキシアミンのアルミニウム塩(2mg)およびトリエチルアミン(1.2g)を入れた。フラスコを氷冷、撹拌しながら、フラスコにCH=C(CH)C(O)Cl(1.2g)をテトラヒドロフラン(7.3g)に溶解させて得られた溶液を滴下した。滴下終了後、さらにフラスコ内を撹拌した後に、炭酸水素ナトリウム水溶液を入れた。フラスコ内溶液をジクロロペンタフルオロプロパンで抽出して得られた抽出液を乾燥濃縮して得られた濃縮液を、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して化合物(a2)(2.7g)を得た。
【0116】
化合物(a2)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):6.31(1H),5.88(1H),5.84(1H),2.01(3H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−104.6(1F),−120.5(1F),−122.4(1F),−124.2(1F),−124.6(1F),−126.5(1F),−132.7〜−132.8(2F),−214.8(1F),−223.2(1F)。
【0117】
[例2]含フッ素重合体溶液組成物の製造例
[例2−1]組成物1〜11の製造例
化合物(a1)を単独重合させて得られた含フッ素重合体(Mw6200、Mn4000)(以下、重合体(A1)という。)の0.5部と1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの9.5部とを混合して、重合体(A1)が1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに溶解してなる、重合体(A1)と1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの総質量に対して重合体(A1)を5.0質量%含む溶液組成物(以下、組成物1という。)を得た。
【0118】
含フッ素重合体(F)として重合体(A1)または化合物(a1)を単独重合させて得られた含フッ素重合体(Mw6000、Mn2700)(以下、重合体(A2)という。)を用い、フッ素系有機溶媒として1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、F(CFOCH、F(CFOCH、ジクロロペンタフルオロプロパン(CClFCFCHClFとCHClCFCFの混合物。)、F(CFCHCHまたはCFCHOCFCHFを用い、含フッ素重合体(F)とフッ素系有機溶媒を適宜選択して、複数の含フッ素重合体溶液組成物(組成物2〜組成物11。)を得た。それぞれの含フッ素重合体溶液組成物の組成を下記表1にまとめて示す。ただし、表中の重合体量とは、含フッ素重合体溶液組成物中の含フッ素重合体(F)とフッ素系溶有機媒の総質量に対する含フッ素重合体(F)の質量%を意味する値である。
【0119】
【表1】

【0120】
[例2−2]組成物12の製造例
化合物(a2)を単独重合させて得られた含フッ素重合体(Mw7400)(以下、重合体(A3)という。)を1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに溶解させて調製した溶液を、さらにフィルター(ポリテトラフルオロエチレン製。以下同様。)に通し濾過して、重合体(A3)と1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの総質量に対して重合体(A3)を3.8質量%含む含フッ素重合体溶液組成物(組成物12)を製造した。
【0121】
[例2−3]組成物13の製造例
化合物(a4)を単独重合させて得られた含フッ素重合体(Mw8000)(以下、重合体(A4)という。)を1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに溶解させて調製した溶液を、さらにフィルターに通し濾過して、重合体(A4)と1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンとの総質量に対して重合体(A4)を3.8質量%含む含フッ素重合体溶液組成物(組成物13)を製造した。
【0122】
[例2−4]組成物14の製造例
化合物(a1)と化合物(ot)とをラジカル共重合させて、全繰り返し単位に対して化合物(a1)の繰り返し単位を88モル%含み化合物(ot)の繰り返し単位を12モル%含む含フッ素重合体(Mw9600)(以下、重合体(A5)。)を製造した。重合体(A5)を1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに溶解させて得た溶液をフィルターに通し濾過して、重合体(A5)と1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの総質量に対して重合体(A5)を5.7質量%含む含フッ素重合体溶液組成物(組成物14)を製造した。
【0123】
[例2−5(比較例)]含フッ素重合体(F)を非フッ素系有機溶媒に溶解させた例
重合体(A2)の0.5部とシクロペンタノンの9.5部とを混合しようと試みたが、 重合体(A2)はシクロペンタノンに溶解しなかった。
シクロペンタノンのかわりにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチルおよびメチルアミルケトンから選ばれる非フッ素系溶媒を用い重合体溶液組成物の調製を試みたが、重合体(A2)は前記非フッ素系溶媒に溶解しなかった。
【0124】
また、重合体(A4)を、シクロペンタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、イソブチルアルコールおよびメチルアミルケトンから選ばれる1種の非フッ素系有機溶媒に溶解させようと試みたが、重合体(A4)は前記非フッ素系有機溶媒に充分に溶解しなかった。
【0125】
[例3]含フッ素重合体溶液組成物を用いたコーティング例(その1)
[例3−1]
組成物1をスピンコート法を用いて、シリコン基板上に塗布した後に、シリコン基板を100℃にて90秒間加熱処理して、表面に重合体(A1)の薄膜(膜厚0.21μm)が形成されたシリコン基板を得た。該薄膜のデカリンに対する接触角は46°であった。
【0126】
[例3−2]
組成物7をスピンコート法を用いて、シリコン基板上に塗布した後に、シリコン基板を100℃にて90秒間加熱処理して、表面に重合体(A2)の薄膜(膜厚0.20μm)が形成されたシリコン基板を得た。該薄膜のデカリンに対する接触角は49°であった。
【0127】
[例4]含フッ素重合体溶液組成物を用いたコーティング例(その2)
シリコン基板の表面に組成物12をスピンコーティング法にて塗布した後に、シリコン基板を130℃にて1分間加熱して1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを留去し、シリコン基板の表面に重合体(A3)の膜を形成し、組成物12によって表面がコーティングされたシリコン基板を製造した。前記シリコン基板の表面に形成された膜の接触角、転落角および後退角の測定結果を、表2に示す。また、組成物13または14を用いて形成した重合体(A4)または(A5)の膜の接触角、転落角および後退角の測定結果も、まとめて表2に示す。
【0128】
測定に際しては、接触角計(協和界面科学製、商品名DropMaster700。)を用いた。ただし、接触角とは膜の表面に水滴(2μL)を形成し、基板を水平に保持した際の膜に対する水滴の接触角をいう。また、転落角とは膜の表面に水滴(50μL)を形成し、基板を傾斜させた際の水滴が転落する寸前の基板の傾斜角である。また、後退角とはその際の転落方向の反対側の水滴の膜に対する接触角である。
【0129】
【表2】

【0130】
[例5]含フッ素重合体(F)を他の樹脂材料に添加した例
組成物8(1.3g)と、メタクリレート系重合体(Mw6600、Mn2900)を8質量%含むシクロペンタノン溶液(3.3g)とを混合して均一な溶液組成物を得た。該溶液組成物をスピンコート法を用いて、シリコン基板上に塗布した後に、シリコン基板を100℃にて90秒間加熱処理して、表面に樹脂薄膜(膜厚0.22μm)が形成されたシリコン基板を得た。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によれば、透明性、撥水性、撥油性、耐熱性、離型性、耐薬品性、特に動的な撥水撥油性に優れた含フッ素重合体を含む含フッ素重合体溶液組成物が提供される。本発明の含フッ素重合体溶液組成物を用いることにより、所望の基材の表面に透明性、撥水撥油性(特に動的撥水撥油性。)、耐熱性、離型性、耐薬品性等の物性を付与できる。さらに、前記物性を有する複合材料を容易に調製できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に含フッ素脂環式飽和炭化水素基を有する繰り返し単位(A)を含む含フッ素重合体(F)と、フッ素系有機溶媒(S)とを含む含フッ素重合体溶液組成物。
【請求項2】
繰り返し単位(A)が、下式(1)、下式(2)、下式(3)、下式(4)および下式(5)で表される化合物からなる群から選ばれる脂環式飽和炭化水素化合物の水素原子を1個除いたn価の基(ただし、nは1〜4の整数を示す。)であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された基(G)を有する繰り返し単位である請求項1に記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【化1】

基(G)にフッ素原子に置換されない残余の水素原子が存在する場合、該残余の水素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【請求項3】
nが1である請求項2に記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【請求項4】
繰り返し単位(A)が、下式(11)、下式(12)、下式(21)および下式(41)からなる群から選ばれる基(G1)を有する繰り返し単位である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【化2】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
およびR:それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
また、基(G1)中のフッ素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【請求項5】
繰り返し単位(A)が、下式(a11)、下式(a12)、下式(a2)および下式(a4)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物(a)の重合により形成された繰り返し単位である請求項1〜4のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【化3】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Y:水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基。
Q:単結合または2価連結基。
:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
およびR:それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
また、化合物(a)中のフッ素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【請求項6】
含フッ素重合体(F)が、繰り返し単位(A)を全繰り返し単位に対して25モル%以上含む含フッ素重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【請求項7】
フッ素系有機溶媒(S)が、フルオロカーボン系溶媒、フルオロエーテル系溶媒、クロロフルオロカーボン系溶媒およびハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒からなる群から選ばれるフッ素系有機溶媒(S1)である請求項1〜6のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【請求項8】
フッ素系有機溶媒(S)が、ハイドロフルオロカーボン系溶媒、ハイドロフルオロエーテル系溶媒およびハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒からなる群から選ばれるフッ素系有機溶媒(S11)である請求項1〜7のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。
【請求項9】
含フッ素重合体(F)とフッ素系有機溶媒(S)の総量に対して含フッ素重合体(F)を0.05〜25質量%含む請求項1〜8のいずれかに記載の含フッ素重合体溶液組成物。

【公開番号】特開2009−203247(P2009−203247A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39816(P2007−39816)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】