説明

周波数特性補償装置

【課題】簡易な手法により前置増幅器を制御する方法とそれを具現化してなる装置とを提供すること。
【解決手段】周波数特性補償装置の備える統計情報計算回路50は、A/D変換器20から適応ディジタルフィルタ30に入力されるディジタル入力信号をモニタして、その信号レベル等に関する統計をとり、統計情報を生成する。制御回路60は、統計情報計算回路50から受けた統計情報に基づいて前置増幅器10の入力オフセット調整及び利得調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応ディジタルフィルタを有する周波数特性補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、センサにて信号源の変化を計測し、伝送路を通して計測結果を端末機器に伝達して端末機器から信号源の制御を行うシステムにおいては、伝送路における減衰やセンサの感度のような特性変動等を周波数毎に補償して信号源における信号を復元した状態で端末機器に渡したいといった要望がある。また補償と同様の手段により、センサの製造ばらつきなどを吸収することも応用例として期待されている。かかる変動等の補償に使用される周波数特性補償装置として、前置増幅器と、AD変換器と、適応ディジタルフィルタとを備えるものがある。アナログ入力信号は前置増幅器で増幅された後、AD変換器でAD変換され、ディジタル入力信号として適応ディジタルフィルタに入力される。適応ディジタルフィルタは、ディジタル入力信号に対して周波数特性補償を行い、制御システムに対してディジタル出力信号として出力する。
【0003】
一般に、通信分野においては情報伝達経路に増幅器が含まれており、その増幅器の利得を制御するということが広く行われている。例えば、特許文献1記載のシステムにおいては、適応フィルタを用いて増幅器の利得制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−110385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
適応ディジタルフィルタに入力される信号(ディジタル入力信号)の状態によっては、適切なフィルタリング動作を行えず、前置増幅器やAD変換器を制御してディジタル入力信号の状態を調整したいという場合がある。この場合、適応フィルタの入力制御を適応フィルタで行うことは不可能であるため、上述した特許文献1の技術を適用することはできない。
【0006】
そこで、本発明は、既存の手法とは異なる簡易な手法により前置増幅器を制御する方法とそれを具現化してなる装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
適応ディジタルフィルタに適切なフィルタリング動作を行わせるには、ディジタル入力信号の状態のうち特にオフセットを好ましくはゼロにして且つAD変換器におけるオーバーフローを避けなければならないことから、前置増幅器における入力オフセット調整と利得調整とを適切に行わなければならない。これに関して、本実施の形態においては、ディジタル入力信号をモニタしてディジタル入力信号の信号レベル又はその平均値、分散、確率分布等の統計情報を生成し、その統計情報に基づいて前置増幅器の入力オフセット調整と利得調整を行うこととした。具体的には、本発明は以下に掲げる手段を提供する。
【0008】
即ち、本発明によれば、第1の周波数特性補償装置として、
入力オフセット調整機能及び利得可変機能を有する前置増幅器であってアナログ信号を増幅してアナログ増幅信号を出力する前置増幅器と、
前記アナログ増幅信号をA/D変換してディジタル入力信号を生成するA/D変換器と、
前記ディジタル入力信号に対して周波数特性補償を行い、ディジタル出力信号を出力する適応ディジタルフィルタと、
前記ディジタル入力信号をモニタして統計をとり、統計情報を生成する統計情報計算回路と、
前記統計情報に基づいて前記前置増幅器の入力オフセット調整及び利得調整を行う制御回路と
を備える周波数特性補償装置が得られる。
【0009】
また、本発明によれば、第2の周波数特性補償装置として、第1の周波数特性補償装置であって、
前記統計情報は、前記ディジタル入力信号の信号レベル又はその平均値、前記ディジタル入力信号の分散に関する情報及び前記ディジタル入力信号の確率分布に関する情報の少なくともいずれか一つである
周波数特性補償装置が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、第3の周波数特性補償装置として、第2の周波数特性補償装置であって、
前記制御回路は、前記統計情報に前記ディジタル入力信号の信号レベルが含まれる場合、当該信号レベルを積分した結果からオフセット量を算出し、算出したオフセット量に基づいて前記前置増幅器の入力オフセット調整を行う
周波数特性補償装置が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、第4の周波数特性補償装置として、第2の周波数特性補償装置であって、
前記制御回路は、前記統計情報に前記ディジタル入力信号の信号レベルの平均値が含まれる場合、当該平均値からオフセット量を算出し、算出したオフセット量に基づいて前記前置増幅器の入力オフセット調整を行う
周波数特性補償装置が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、第5の周波数特性補償装置として、第2の周波数特性補償装置であって、
前記制御回路は、前記統計情報に前記ディジタル入力信号の信号レベルが含まれる場合、当該信号レベルの絶対値の最大値に基づいて前記前置増幅器の利得調整を行う
周波数特性補償装置が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、第6の周波数特性補償装置として、第2の周波数特性補償装置であって、
前記制御回路は、前記統計情報に前記ディジタル入力信号の分散に関する情報が含まれる場合、当該分散に関する情報に基づいて前記前置増幅器の利得調整を行う
周波数特性補償装置が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、第7の周波数特性補償装置として、第1乃至第6のいずれかの周波数特性補償装置であって、
前記適応ディジタルフィルタは、理想的なフィルタ出力である所望信号を受けて、該所望信号と前記ディジタル出力信号との誤差を誤差信号として算出し、算出した誤差信号を最小化するようなフィルタ係数を推定して、推定したフィルタ係数を用いてフィルタを構成し、当該フィルタにて前記ディジタル入力信号を処理して前記ディジタル出力信号を生成するものであり、
前記制御回路は、前記誤差信号をモニタしており、当該誤差信号の値が予め設定された所定値を超えた場合に、前記利得調整及び前記入力オフセット調整を開始する
周波数特性補償装置が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、第8の周波数特性補償装置として、第7の周波数特性補償装置であって、
前記前置増幅器は、リセット機能をも有しており、
前記制御回路は、前記フィルタ係数をモニタしており、当該フィルタ係数に基づいて前記適応ディジタルフィルタが発散していることを検知した場合に前記前置増幅器のリセットを行う
周波数特性補償装置が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、A/D変換器から適応ディジタルフィルタに対して入力されるディジタル入力信号をモニタして、信号レベルの統計結果等の情報(統計情報)に基づいて前置増幅器の利得調整や入力オフセット調整を行うこととしていることから、複雑な計算をする必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態による周波数特性補償装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の適応ディジタルフィルタの構成を示すブロック図である。
【図3】図1の出力インタフェース回路の構成を示すブロック図である。
【図4】図1の周波数特性補償装置の動作を示すモード遷移図である。
【図5】図4の変形例を示すモード遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照すると、本発明の実施の形態による周波数特性補償装置は、前置増幅器10と、A/D変換器20と、適応ディジタルフィルタ30と、出力インタフェース回路40と、統計情報計算回路50と制御回路60とを備えている。ここで、本実施の形態による周波数特性補償装置の処理対象となる信号は、理想状態における挙動が知られており(推定可能なものであり)、且つ、周期的なものであり、伝送路の周波数特性の影響等により周波数特性補償を必要とするものであるものとする。かかる信号の処理のため、本実施の形態による周波数特性補償装置は、制御回路60の制御の下、初期設定モード、トレーニングモード及び補償動作モードの3つのモードをとるように構成されている(後述)。以下、周波数特性補償装置を構成する各要素について詳細に説明する。
【0019】
前置増幅器10は、アナログ信号を受けて増幅しアナログ増幅信号を出力するものである。本実施の形態による前置増幅器10は、入力オフセットの調整を行うための入力オフセット調整機能、前置増幅器10における利得の調整を行うための利得可変機能を有している。具体的には、本実施の形態による前置増幅器10は、その入力端子を短絡することにより、入力オフセット調整を行うことができる。また、前置増幅器10は、ローパス特性やバンドパス特性といった複数のフィルタリング特性を有しており、選択されたフィルタリング特性に基づいてフィルタリングするフィルタ機能も有している。更に、前置増幅器10は、すべての設定値・選択値等を初期状態にリセットするリセット機能を有している。これら入力オフセット調整機能、利得可変機能、フィルタ機能及びリセット機能は、制御回路60からの制御により実行される。
【0020】
A/D変換器20は、外部から供給されるクロック信号CLKを用いてA/D変換を行うものである。具体的には、A/D変換器20は、前置増幅器10から入力されたアナログ増幅信号をサンプリングし、所定の語長を有するディジタル入力信号を生成する。
【0021】
適応ディジタルフィルタ30は、A/D変換器20からディジタル入力信号を受けて、周波数特性補償(補正処理)を行い、ディジタル出力信号を出力するものである。
【0022】
詳しくは、本実施の形態による適応ディジタルフィルタ30は、図2に示されるように、平均値分散補正回路31と、フィルタ主部32とを備えている。このうちフィルタ主部32は、一般的な適応ディジタルフィルタと同様の機能を主として提供するものであるのに対して、平均値分散補正回路31は、本実施の形態による適応ディジタルフィルタ30に特有の回路であり、制御回路60の制御の下、フィルタ主部32に入力される信号に対してオフセット調整等の前処理を施して、補正された入力ディジタル信号を出力するものである。
【0023】
フィルタ主部32は、FIRフィルタ35と、誤差計算回路36と、適応アルゴリズム部37とを備えている。FIRフィルタ35は、平均値分散補正回路31から補正されたディジタル入力信号を受けると、設定されたフィルタ係数を用いた処理を施してディジタル出力信号を生成する。誤差計算回路36は、制御回路60から理想的なフィルタ出力である所望信号を受けて、FIRフィルタ35の出力であるディジタル出力信号と所望信号との誤差を誤差信号として算出するものである。この誤差信号は、適応アルゴリズム部37に入力されると共に制御回路60にも伝達される。本実施の形態による適応アルゴリズム部37は、制御回路60により設定されたパラメータに基づいて機能するものであり、誤差信号を最小化する(即ち、誤差を所定値以下とする)ようなフィルタ係数を推定し、その推定したフィルタ係数をFIRフィルタ35に設定するものである。なお、推定されたフィルタ係数は制御回路60にも伝達される。
【0024】
図1に示される出力インタフェース回路40は、適応ディジタルフィルタ30から出力されたディジタル出力信号を受けて、周波数特性補償装置の後段に接続されたシステム・回路などにて要求される信号に変換し、出力信号として出力するものである。本実施の形態による出力インタフェース回路40は、後段にアナログ系統のシステムとディジタル系統のシステムの2系統のシステムを接続可能なものであり、アナログ系統用の出力信号とディジタル系統用の出力信号とを出力する。
【0025】
詳しくは、図3に示されるように、出力インタフェース回路40は、D/A変換器41と、ローパスフィルタ42と、アナログ信号変換器43と、ディジタル信号変換器44とを備えている。D/A変換器41は、外部から供給されるクロック信号(図示せず)を用いてディジタル出力信号をアナログ信号に変換するものである。ローパスフィルタ42は、D/A変換器41から出力されるアナログ信号に含まれている高調波成分を除去するためのものである。このローパスフィルタ42には、設定可能なカットオフ周波数が複数用意されており、制御回路60の制御によりサンプリング周波数に対応する適切なカットオフ周波数が選択され、フィルタ処理に用いられる。アナログ信号変換器43は、ローパスフィルタ42からの出力を受けて、後段のアナログ系統のシステムにて要求される信号のレベル及びフォーマットに変換するものである。ディジタル信号変換器44は、適応ディジタルフィルタ30から出力されたディジタル出力信号を受けて、後段のディジタル系統のシステムにて要求される信号のレベル及びフォーマットに変換するものである。
【0026】
図1に示される統計情報計算回路50は、適応ディジタルフィルタ30への入力、即ち、A/D変換器20から出力されたディジタル出力信号をモニタして統計をとり、統計情報を生成し、制御回路60に伝達するためのものである。ここで、統計情報としては、例えば、ディジタル入力信号の信号レベル又はその平均値、ディジタル入力信号の分散に関する情報及びディジタル入力信号の確率分布に関する情報などがある。
【0027】
本実施の形態による制御回路60は、他の構成要素を制御して、上述したように周波数特性補償装置のモード設定制御を行う。このモード設定制御により、周波数特性補償装置は、図4に示されるように、初期設定モードM101、トレーニングモードM102及び補償動作モードM103の3つのモードを遷移する。ここで、トレーニングモードとは、適応ディジタルフィルタ30の適応アルゴリズム部37を稼働させ、それによって適切なフィルタ係数の推定を行うモードである。これに対して、初期設定モードとは、トレーニングモードにおいて適応ディジタルフィルタ30が最適な状態でフィルタ係数の推定を行えるように前置増幅器10等の機能調整を図るモードであり、また、補償動作モードとは、トレーニングモードにおいて推定されたフィルタ係数を用いて周波数特性補償動作(補正動作)を行うモードである。以下、各モードにおける制御回路60の動作について、他の構成要素の動作についても言及しながら説明する。
【0028】
初期設定モードにおいて、制御回路60は、統計情報計算回路50から得た統計情報に基づいて前置増幅器10の入力オフセット調整の制御や利得調整の制御等を行うと共に適応ディジタルフィルタ30のパラメータ制御等を行う。特に、本実施の形態においては、消費電力を低減するため、初期設定モード中においては適応アルゴリズム部37の動作を停止するよう、制御回路60によって制御する。即ち、初期設定モード中におけるFIRフィルタ35はその時点で設定されているフィルタ係数を用いたフィルタ処理を行う。
【0029】
まず、制御回路60は、前置増幅器10のフィルタ機能におけるフィルタ特性の選択を行う。例えば、エリアシング防止を目的とする場合、ローパス特性を選択する。また、直流成分が不要な場合にはバンドパス特性を選択する。
【0030】
次いで、制御回路60は、前置増幅器10の利得調整を行いながら、A/D変換器20の入力レベルに応じた利得設定を行う。ここで最適な利得は、前置増幅器10の利得を低い利得から高い利得へと切り替えつつ、A/D変換器20の出力(即ち、ディジタル入力信号)をモニタすることにより、決定される。例えば、A/D変換器20のダイナミックレンジをフル活用したい場合、信号レベルの絶対値の最大値に基づいて前置増幅器10の利得調整を行えばよいし、ある程度のロスを許容するのであれば、信号レベルの分散に基づいて前置増幅器10の利得調整を行えばよい。
【0031】
更に、制御回路60は、前置増幅器10の入力オフセット調整を行う。詳しくは、制御回路60は前置増幅器10を制御して前置増幅器10の入力端子間を短絡させる。その状態において統計情報計算回路50がディジタル入力信号を一定期間モニタして得られた統計情報に基づいて、制御回路60は前置増幅器10の更なる調整を行う。例えば、周期的に変化する信号の場合、信号レベルを一周期にわたって積分すると交流成分はゼロになるため積分結果は直流成分のみを一周期にわたって積算したものになる。同様に、信号レベルの平均値をとると、直流成分のみが現れることとなる。この直流成分はオフセット量であり、適応ディジタルフィルタ30における処理を考慮すると、可能な限り小さいことが(できればゼロであることが)好ましい。そこで、制御回路60は、上述したようにディジタル入力信号の信号レベル又はその平均値のような統計情報に基づいてオフセット量を推定し、そのオフセット量に基づいて前置増幅器10を制御して入力オフセット調整を行わせることとしている。
【0032】
前置増幅器10の入力端子間の短絡とその後の調整処理などは、統計情報計算回路50においてモニタした観測値が所定の値以内に収束するまで繰り返される。予め設定された数を繰り返した後で観測値が所定の値以内に収束していない場合には、制御回路60は、周波数特性補償装置全体の処理を停止させる(図4:T106)。
【0033】
上述したようにして、入力オフセット調整が適切に行われた後、統計情報計算回路50がディジタル入力信号を一定期間モニタして、ディジタル入力信号の信号レベルの平均値と分散を含む統計情報を制御回路60に伝達すると、制御回路60は、統計情報に含まれる平均値及び分散とに基づいて平均値分散補正回路31の制御を行ってFIRフィルタ35へ入力される信号の平均値及び分散を所望の値に変換する。一方、制御回路60は、統計情報に含まれる分散に基づいて、パラメータを決定し、適応アルゴリズム部37に設定する。このようにして、初期設定モードを終えると周波数特性補償装置は、トレーニングモードM102へと移行する(T102)。
【0034】
トレーニングモードM102においては、適応アルゴリズム部37が稼働してディジタル出力信号と所望信号との誤差が所定値以下になるまでトレーニングが行われる。このトレーニングの間も統計情報計算回路50によるディジタル入力信号のモニタは行われており、統計情報は随時制御回路60へ伝達され続けている。それにより、制御回路60は、上述したような前置増幅器10の入力オフセット調整を必要に応じて行うことができる。また、制御回路60は、統計情報に基づいてA/D変換器20においてオーバーフローが生じていると判断した場合、前置増幅器10をリセットして初期設定モードM101へと移行させる(T103)。
【0035】
トレーニングモードT102が終了した後は、周波数特性補償装置本来の動作である補正動作を行うため、補償動作モードM103に移行する(T104)。この補償動作モードM103においては、省電力化のため、適応アルゴリズム部37を停止し、トレーニングモードT102において決定されたフィルタ係数を用いて補正動作を行う。但し、誤差計算回路36の機能は停止しておらず、従って、制御回路60は誤差信号をモニタすることができる。誤差信号が許容範囲を超えて増大した場合には、補償動作モードM103からトレーニングモードM102に移行し(T105)、再度、適応ディジタルフィルタ30のトレーニングを行う。また、補償動作モードM103においても統計情報計算回路50によるディジタル入力信号のモニタは行われており、統計情報は随時制御回路60へ伝達され続けている。それにより、制御回路60は、統計情報に基づいてA/D変換器20においてオーバーフローが生じていると判断した場合、前置増幅器10をリセットして初期設定モードM101へと移行させることもできる(T106)。
【0036】
上述した実施の形態による周波数特性補償装置によれば、A/D変換器20の出力(即ち、ディジタル入力信号)をモニタして、その統計量に基づいて前置増幅器10の入力オフセット調整等を図ることとしていることから、その調整にかかる計算量等を抑えることができる。
【0037】
上述した実施の形態による周波数特性補償装置については、種々の変形が可能である。例えば、周波数特性補償装置の処理対象となる信号は、上述したようなものには限られない。例えば、処理対象となる信号に対して、所定のトレーニング信号を一定間隔で含ませることとし、そのトレーニング信号を用いてトレーニングを行うこととしてもよい。かかる処理の例を図5に示す。図5における初期設定モードM201は、図4における初期設定モードM101と同じであるので、以下においては説明を省略する。また、図5におけるトレーニングモードM203は、図4におけるトレーニングモードM102とほぼ同様であるので、これについても説明を省略する。図5におけるトレーニングモードM203及び補償動作モードM204は、図4におけるトレーニングモードM102及び補償動作モードM103と似ているものであるので、異なる点のみ説明することとする。
【0038】
図5に示される例において、概略、トレーニング信号を受けている間は適応ディジタルフィルタ30のトレーニングを行い、先のトレーニング信号と後のトレーニング信号との間においては、先のトレーニング信号に基づいて決定されたフィルタ係数を用いて補正動作を行う。そのため、周波数特性補償装置は、まず、トレーニング信号との同期をとらなければならない。そのためのモードが同期モードM202である。なお、同期モードM202の前には、図4の例と同様にして初期設定モードM201が行われる。
【0039】
同期モードM202においては、適応アルゴリズム部37の動作を停止し、フィルタ係数としてトレーニング信号に応じた値を設定する。フィルタ係数とトレーニング信号のパターンとが一致したときディジタル出力信号は最大になる。即ち、ディジタル出力信号が最大になったときに、トレーニング信号が周波数特性補償装置に到達していると理解される。
【0040】
但し、ディジタル出力信号が最大になることをもってトレーニング信号との同期を図ることとすると、少なくともトレーニング信号が挿入されている期間に亘りディジタル出力信号の観測をしなければならず、同期確立まで時間を要することとなる。
【0041】
そのため、図示された例においては、ディジタル出力信号が所定の閾値を超えた場合にディジタル出力信号のピーク値を求め、その位置を同期位置とすることとしている。この同期位置の検出後、周波数特性補償装置は、トレーニングモードM203に移行する(T201)。なお、上述した同期モードにおいては、ディジタル出力信号を監視する必要があるが、このディジタル出力信号の監視は、例えば統計情報計算回路50に行わせて、それに基づいて制御回路60が制御することとしてもよいし、制御回路60がディジタル出力信号の監視を直接行うこととしてもよい。
【0042】
トレーニングモードM203においては、適応アルゴリズム部37が稼働してディジタル出力信号と所望信号との誤差が所定値以下になるまでトレーニングが行われる。このトレーニングの間も統計情報計算回路50によるディジタル入力信号のモニタは行われており、統計情報は制御回路60へ伝達され続けている。それにより、制御回路60は、上述したような前置増幅器10の入力オフセット調整を必要に応じて行うことができる。また、制御回路60は、統計情報に基づいてA/D変換器20においてオーバーフローが生じていると判断した場合、前置増幅器10をリセットして初期設定モードM101へと移行させる(T202)。
【0043】
トレーニングモードM203における適応ディジタルフィルタ30のトレーニングの後、周波数特性補償装置本来の動作である補正動作を行うため、補償動作モードM204に移行する(T203)。この補償動作モードM204においては、省電力化のため、適応アルゴリズム部37を停止し、トレーニングモードM203において決定されたフィルタ係数を用いて補正動作を行う。この補償動作モードM204は、次のトレーニング信号が入力するタイミングまで継続され、次のトレーニング信号が入力するタイミングになるとトレーニングモードM203に移行する(T204)。以降、トレーニングモードM203と補償動作モードM204とを繰り返す。
【0044】
上述したようなトレーニング信号を用いたトレーニングによれば、信号源で発生する信号が既知のものでなくとも、本実施の形態による周波数特性補償装置を用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
10 前置増幅器
20 A/D変換器
30 適応ディジタルフィルタ
31 平均値分散補正回路
32 フィルタ主部
35 FIRフィルタ
36 誤差計算回路
37 適応アルゴリズム部
40 出力インタフェース回路
41 D/A変換器
42 ローパスフィルタ
43 アナログ信号変換器
44 ディジタル信号変換器
50 統計情報計算回路
60 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力オフセット調整機能及び利得可変機能を有する前置増幅器であってアナログ信号を増幅してアナログ増幅信号を出力する前置増幅器と、
前記アナログ増幅信号をA/D変換してディジタル入力信号を生成するA/D変換器と、
前記ディジタル入力信号に対して周波数特性補償を行い、ディジタル出力信号を出力する適応ディジタルフィルタと、
前記ディジタル入力信号をモニタして統計をとり、統計情報を生成する統計情報計算回路と、
前記統計情報に基づいて前記前置増幅器の入力オフセット調整及び利得調整を行う制御回路と
を備える周波数特性補償装置。
【請求項2】
請求項1記載の周波数特性補償装置であって、
前記統計情報は、前記ディジタル入力信号の信号レベル又はその平均値、前記ディジタル入力信号の分散に関する情報及び前記ディジタル入力信号の確率分布に関する情報の少なくともいずれか一つである
周波数特性補償装置。
【請求項3】
請求項2記載の周波数特性補償装置であって、
前記制御回路は、前記統計情報に前記ディジタル入力信号の信号レベルが含まれる場合、当該信号レベルを積分した結果からオフセット量を算出し、算出したオフセット量に基づいて前記前置増幅器の入力オフセット調整を行う
周波数特性補償装置。
【請求項4】
請求項2記載の周波数特性補償装置であって、
前記制御回路は、前記統計情報に前記ディジタル入力信号の信号レベルの平均値が含まれる場合、当該平均値からオフセット量を算出し、算出したオフセット量に基づいて前記前置増幅器の入力オフセット調整を行う
周波数特性補償装置。
【請求項5】
請求項2記載の周波数特性補償装置であって、
前記制御回路は、前記統計情報に前記ディジタル入力信号の信号レベルが含まれる場合、当該信号レベルの絶対値の最大値に基づいて前記前置増幅器の利得調整を行う
周波数特性補償装置。
【請求項6】
請求項2記載の周波数特性補償装置であって、
前記制御回路は、前記統計情報に前記ディジタル入力信号の分散に関する情報が含まれる場合、当該分散に関する情報に基づいて前記前置増幅器の利得調整を行う
周波数特性補償装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の周波数特性補償装置であって、
前記適応ディジタルフィルタは、理想的なフィルタ出力である所望信号を受けて、該所望信号と前記ディジタル出力信号との誤差を誤差信号として算出し、算出した誤差信号を所定値以下とするようなフィルタ係数を推定して、推定したフィルタ係数を用いてフィルタを構成し、当該フィルタにて前記ディジタル入力信号を処理して前記ディジタル出力信号を生成するものであり、
前記制御回路は、前記誤差信号をモニタしており、当該誤差信号の値が予め設定された所定値を超えた場合に、前記利得調整及び前記入力オフセット調整を開始する
周波数特性補償装置。
【請求項8】
請求項7記載の周波数特性補償装置であって、
前記前置増幅器は、リセット機能をも有しており、
前記制御回路は、前記フィルタ係数をモニタしており、当該フィルタ係数に基づいて前記適応ディジタルフィルタが発散していることを検知した場合に前記前置増幅器のリセットを行う
周波数特性補償装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−216955(P2011−216955A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80435(P2010−80435)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【Fターム(参考)】