説明

噴霧乾燥造粒装置、それを用いた造粒体およびセラミック顆粒の製造方法

【課題】回転するディスク上にセラミックスラリーを供給して乾燥造粒を行う噴霧乾燥造粒装置において、ディスク上での乾燥物の固化やその剥離などに起因する製品であるセラミック顆粒中への粗粒の混入を抑制、防止して、微細で粒度分布がシャープな造粒体を効率よく製造することが可能な噴霧乾燥造粒装置およびそれを用いたセラミック造粒体の製造方法を提供する。
【解決手段】ディスクDの表面のスラリーと接触する領域に疎水性を持たせる。
ディスクDの表面のスラリーと接触する領域にフッ素樹脂コーティング、撥水めっき、フッ素樹脂シートの貼り付けのいずれかの処理を施して疎水性を付与する。
上述のディスクDを備えた噴霧乾燥造粒装置を用いてスラリーの乾燥造粒を行う。
上述のディスクDを備えた噴霧乾燥造粒装置を用いてセラミックスラリーの乾燥造粒を行い、セラミック顆粒を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーを乾燥して造粒体を製造するのに用いられる噴霧乾燥造粒装置、それを用いた造粒体およびセラミック顆粒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック材料は、電子部品の構成材料として広く用いられている。そして、例えば、フェライトコアなどのセラミック素体は、セラミック原料粉末にバインダーを加えて、所定の形状に成型した後、これを焼成することにより製造されている。
【0003】
このようなセラミック素体(セラミック成型体)を製造する方法としては、乾式の加圧成型法が広く行われている。この加圧成型法は、セラミック原料となる粉末にバインダーを加えたスラリーを噴霧乾燥することにより作製したセラミック顆粒(造粒物)を金型に充填して、加圧成型する方法である。
【0004】
そして、一般に、スラリーを噴霧乾燥する方法には、
(1)スラリーに圧力を加えてノズルから噴霧する方法、
(2)高速回転するディスクにスラリーを供給し、ディスクの回転による遠心力で液滴を形成し、噴霧する方法
がある。
上記(2)の方法は、(1)の方法に比べて、一般に造粒されたセラミック顆粒の粒度分布がシャープになるなどの特徴を有している。
【0005】
そして、上記(2)の方法は、通常、乾燥造粒用のチャンバーにディスクを配設し、チャンバーに所定温度(例えば、270〜290℃)に加熱された空気を供給しながら、ディスク上にスラリーを供給し、ディスクの回転による遠心力で、スラリーを所定の粒径の微細な液滴として噴霧することにより実施される。
【0006】
しかし、上述の方法では、チャンバー内でディスクが加熱されることにより、ディスク上で乾燥物が固化して詰まりが生じたり、固化物がディスクから剥離して固まり(粗粒)として製品中に混入したりするという問題がある。
【0007】
このような問題を解消する方法として、スラリー微細化用の、高速回転するディスクの上方および下方に設けた空気吹付管から冷却用空気を吹付けて、ディスクが過熱しスラリーがディスク上で固化することを防止するようにした噴霧乾燥装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭59−16482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1の噴霧乾燥装置の場合、スラリーの乾燥を行うために供給されるスプレードライヤの乾燥用熱風は、通常大きな風量に設定されており、冷却用空気を効果的に機能させるには、冷却用空気の風量も相当に大きな量であることが必要になる。
【0010】
しかしながら、冷却用空気の風量を大きくするためには冷却用空気の導入部を大きくしたり、空気吹付管を通過する冷却用空気の流速を速くしたりする必要があるが、いずれの場合も、ディスク上のスラリーの流れや、ディスク周端面での液滴の微細化に影響を及ぼし、得られる造粒体の粒度分布の悪化を招くという問題点がある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、多量の冷却用空気を供給したりすることを必要とせずに、ディスク上で乾燥物が固化して詰まりが生じたり、固化物がディスクから剥離して、粗粒として製品の中に混入したりすることを防止して、ディスク上のスラリーの流れや、ディスク周端面での液滴の微細化に問題を引き起こしたりせずに、効率よく、微細で特性の良好な造粒体を得ることが可能な噴霧乾燥造粒装置、および、それを用いたセラミック造粒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の噴霧乾燥造粒装置は、
固形分を含むスラリーおよび乾燥用加熱気体が供給される乾燥造粒室と、前記乾燥造粒室内に回転可能に配設されたスラリー微細化用のディスクとを備え、回転している前記ディスク上に前記スラリーを連続的に供給し、前記スラリーを、前記ディスクの回転による遠心力を利用して前記ディスク上を移動させつつ微細化し、前記乾燥造粒室内に噴霧することにより、前記スラリーを乾燥させて造粒する噴霧乾燥造粒装置であって、
前記ディスクの表面の前記スラリーと接触する領域に疎水性を持たせたこと
を特徴としている。
【0013】
本発明の噴霧乾燥造粒装置においては、前記ディスクの表面の前記スラリーと接触する領域にフッ素樹脂コーティング、撥水めっき、およびフッ素樹脂シートの貼り付けのいずれかの処理を施すことにより、前記疎水性を付与することが好ましい。
【0014】
また、本発明の噴霧乾燥造粒装置は、前記スラリーに含まれる固形分がセラミック原料粉末であり、前記スラリーを乾燥させて造粒することにより得られる造粒体がセラミック顆粒であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の造粒体の製造方法は、請求項1または2記載の噴霧乾燥造粒装置を用いて、スラリーの乾燥造粒を行うことにより、造粒体を得ることを特徴としている。
【0016】
また、請求項3記載の噴霧乾燥造粒装置を用いて、セラミックスラリーの乾燥造粒を行うことによりセラミック顆粒を得ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の噴霧乾燥造粒装置は、乾燥造粒室内に配設されたスラリー微細化用のディスクの表面のスラリーと接触する領域に疎水性を持たせ、このディスク上にスラリーを連続的に供給し、ディスクの回転による遠心力を利用してディスク上を移動させつつ微細化し、乾燥造粒室内に噴霧することにより、スラリーの乾燥造粒を行うようにしているので、ディスクへのスラリー付着や、付着したスラリーの固化を抑制することが可能になる。
【0018】
すなわち、噴霧乾燥造粒することにより得られる顆粒中の粗粒は、主としてディスクに付着した乾燥原料の落下、さらには乾燥造粒室の内壁に付着した乾燥原料の剥離、落下により生じる。ただし、乾燥造粒の過程で液滴の衝突などによっても粗粒は生じるが、衝突による粗粒の生成の確率は、上述のディスクや乾燥造粒室の内壁からの乾燥原料の落下による粗粒の生成に比べて著しく低い。
【0019】
また、上述のようにして生成し、製品に混入する粗粒は、金型充填性を悪化させるばかりでなく、通常の乾燥造粒体(顆粒)とは嵩密度が異なることから、成形体における密度ばらつきをもたらし、成形体を焼結させた後の焼結体に変形を生じさせる要因となる。
【0020】
また、ディスクへの乾燥原料の付着は、ディスク上に供給(滴下)されたスラリーが、ディスクの周端面に達するまでに加熱されて分散媒(例えば水)が蒸発し、スラリーの流動性が低下することが主たる原因であるが、ディスクの、スラリーと接触する部分を疎水性とすることにより、ディスク表面へのスラリーの付着を抑制し、ひいては、スラリー中の分散媒(例えば水)が蒸発した後の乾燥原料の付着を抑制することが可能になり、得られる乾燥造粒体(顆粒)中の粗粒を少なくすることができる。
【0021】
したがって、本発明によれば、ディスクに付着したスラリーが乾燥して固化することにより詰まりが生じたり、固化したものがディスクから剥離し、粗粒として製品の中に混入したりすることを防止することが可能になる。その結果、従来の噴霧乾燥装置では問題となるような、ディスク上のスラリーの流れや、ディスクの周端面での液滴の微細化に問題を生じさせたりすることなく、微細で粒度分布がシャープな造粒体を効率よく製造することができる。
【0022】
また、ディスクの表面のスラリーと接触する領域にフッ素樹脂コーティング、撥水めっき、フッ素樹脂シートの貼り付けのいずれかの処理を施すことにより、ディスクの表面のスラリーとの接触部分を確実に疎水性とすることが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0023】
また、本発明の噴霧乾燥造粒装置を用いることにより、固形分としてセラミック原料粉末を含むセラミックスラリーを乾燥させて造粒することにより、微細で粒度分布がシャープなセラミック顆粒を効率よく製造することができる。
【0024】
また、本発明の造粒体の製造方法は、上述の請求項1または2記載の噴霧乾燥造粒装置を用いて、スラリーの乾燥造粒を行うようにしているので、ディスクへのスラリー付着や、付着したスラリーの固化、さらには、固化物がディスクから剥離し、粗粒として製品の中に混入することを防止して、微細で粒度分布がシャープな造粒体を効率よく製造することができる。
【0025】
また、本発明の造粒体の製造方法によれば、固形分としてセラミック原料粉末を含むセラミックスラリーを効率よく乾燥させて、微細で粒度分布がシャープなセラミック顆粒を効率よく製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例(実施例1)にかかる噴霧乾燥造粒装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1にかかる噴霧乾燥造粒装置において用いたディスクの構成を示す正面断面図である。
【図3】図2に示したディスクの平面図である。
【図4】図2のディスクを構成する上側ディスクを示す平面図である。
【図5】図2のディスクを構成する下側ディスクを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0028】
図1は、セラミックスラリーを乾燥造粒して造粒体(セラミック顆粒)を製造するために用いられる、本発明の一実施例(実施例1)にかかる噴霧乾燥造粒装置の概略構成を示す図である。
【0029】
図1に示すように、この実施例1の噴霧乾燥造粒装置は、スラリー供給機構1、熱風供給機構2、噴霧乾燥機本体3、排気機構4を備えている。
【0030】
スラリー供給機構1は、原料タンク11、原料供給ポンプ12などからなる構成とされている。
また、熱風供給機構2は、送風機21、熱風発生装置22などからなる構成とされている。
【0031】
そして、噴霧乾燥機本体3は、セラミックスラリーの乾燥造粒を行う乾燥造粒室(チャンバー)31、上記の熱風供給機構2からの熱風を供給するための供給口(入口)32、排気口(出口)33、製品排出口34、ディスクDを備えるアトマイザ35などからなる構成とされている。
【0032】
また、排気機構4は、サイクロン41、バグフィルタ42などの集塵手段、排風機43などからなる構成とされている。
【0033】
そして、この噴霧乾燥造粒装置を用いてスラリー(セラミックスラリー)の乾燥造粒を行う場合、熱風供給機構2から所定温度(例えば、270〜290℃)に加熱された空気が噴霧乾燥機本体3の熱風供給口32に送られる一方、スラリー供給機構1からセラミックスラリーが、乾燥造粒室31に供給され、ディスクDを備えるアトマイザ35により所定の粒径を有する微細な液滴として水平円周方向に噴霧される。
【0034】
このとき、セラミックスラリーの液滴は、図1に点線Lで示すように、ディスクDから重力により下方向に落下する。
【0035】
そして、乾燥造粒室31内は、供給された所定温度(例えば、270〜290℃)の空気により加温されているので、噴霧されたスラリーは乾燥して顆粒として乾燥造粒室31の最下方の製品排出口34へと蓄積される。
一方、微粉末を含む熱風は排気口33を介して排気機構4へと放出される。
【0036】
そして、この実施例1の噴霧乾燥造粒装置において、アトマイザ35を構成するディスクDは、図2〜5に示すように、平面形状が円形で、中央にセラミックスラリーの供給口となる円形の開口部51b(図2〜図3参照)が形成された上側ディスク51と、上側ディスク51と所定の間隔をおいて対向するように配設され、平面形状が円形で、上面側中央部分に円錐状の盛り上がり部(傾斜部)55が形成され、その中心に、下記の回転シャフト54を挿通させる貫通孔56が設けられた下側ディスク52(図2,3および5参照)と、上側ディスク51と下側ディスク52を所定の間隔をおいて結合させるように、周方向に所定の間隔をおいて配設された円柱状の複数のピン53(図2および3参照)とを備えている。
【0037】
なお、上側ディスク51の円錐状の盛り上がり部(傾斜部)55は、供給されるセラミックスラリーが偏りや滞流などを生じないように、円滑に流れるようにするために設けられたものであり、その形状に特別の制約はなく、場合によっては特に設ける必要がないこともある。
【0038】
また、下側ディスク52の貫通孔56を貫通して、回転シャフト54が配設され、ナットなどにより下側ディスク52に固定されており、回転シャフト54を回転させることにより、ディスクDが高速で回転するように構成されている。
【0039】
上述のディスクDは、通常、ステンレス鋼やセラミック材料などから形成されるが、この実施例1ではステンレス鋼から形成されたものが用いられている。
【0040】
このように構成されたディスクDは、回転シャフト54により高速で回転され、スラリー供給機構1から、上側ディスク51の開口部51bを経て供給されたセラミックスラリーが、ディスク54の回転による遠心力によってディスクD上を流動しつつ微細化され、各ピン53の間から乾燥造粒室(チャンバー)31に噴霧される。
【0041】
なお、ピン53はそれぞれ、ナットなどにより上側ディスク51および下側ディスク52に固定されている。このピン53の長さにより上側ディスク51と下側ディスク52との間隔が定まる。ピン53の周方向における配設間隔に特別の制約はなく、セラミックスラリーの性状などを考慮して定められる。
【0042】
そして、この実施例1の噴霧乾燥造粒装置において用いられているディスクDにおいては、セラミックスラリーと接触する領域に、疎水性を持たせるためのフッ素樹脂コーティングの処理が施されている。
【0043】
具体的には、図2に示すように、ディスクDとして、上側ディスク51の下面51a、下側ディスク52の上面52aおよび下側ディスク52の円錐状の盛り上がり部(傾斜部)55の表面(傾斜面)55a、複数のピン53の外周面53aに、フッ素樹脂コーティングが施されたディスクが用いられている。なお、図2には、フッ素樹脂コーティング層Cが、セラミックスラリーと接触する領域に配設された状態を示している。
【0044】
なお、本発明において、ディスクとは、文字通りのディスク状の部材のみに限られるものではなく、この実施例1において用いられているように、上側ディスク51、円錐状の盛り上がり部(傾斜部)55を有する下側ディスク52、複数のピン53などを備えた構成のものなどを含む広い概念のものである。
また、上側ディスク51が円錐状の盛り上がり部(傾斜部)55を備えていない場合には、回転シャフト54の外周面のセラミックスラリーが接する領域にも疎水性を持たせる処理を施すことが好ましい。
【0045】
上述のように構成された実施例1の噴霧乾燥造粒装置を用いることにより、ディスクDに付着したスラリーが乾燥して固化することにより詰まりが生じたり、固化したものがディスクDから剥離し、粗粒として製品の中に混入したりすることを防止することが可能になる。その結果、従来の噴霧乾燥装置では問題となるような、ディスクD上のスラリーの流れや、液滴の微細化が妨げられたりすることなく、粒度分布がシャープで微細なセラミック顆粒(造粒体)を効率よく製造することができる。
【実施例2】
【0046】
この実施例2では、上記実施例1の噴霧乾燥造粒装置を構成するディスクDとして、実施例1で用いたディスクDと同じ構造を有し、セラミックスラリーと接触する領域に疎水性を持たせた、表1の試験番号1,2および3のディスク(本発明の実施例にかかるディスク)と、実施例1で用いたディスクDと同じ構造を有し、セラミックスラリーと接触する領域に疎水性を持たせる処理をしていない、表1の試験番号4および5のディスク(比較例としてのディスク)を作製した。
【0047】
なお、表1における試験番号1〜3のディスク(セラミックスラリーと接触する領域に疎水性を持たせた本発明の実施例にかかるディスク)は、以下に説明する方法により作製した。
【0048】
(1)試験番号1のディスクの作製
まず、ステンレス鋼からなる、実施例1で用いたディスクDと同じ構造を有するディスクを準備した。それから、次に、ディスクの表面全体にフッ素樹脂をコートすることにより試験番号1のディスクを作製した。
なお、フッ素樹脂コーティングは、公知の通常のコート方法を用いて、ディスクへのフッ素系樹脂の塗装、乾燥、焼き付けの工程を経て実施した。
【0049】
また、ディスクの表面にフッ素樹脂をコートする場合、ディスクの表面全体にフッ素系樹脂を塗布して、乾燥、焼き付けの工程を経てコートしてもよいが、所定の領域にのみフッ素樹脂コーティングが行われるように、その領域にだけフッ素系樹脂を塗装して、乾燥、焼き付けを行い、意図する領域(例えば、上記実施例1のようにディスクのセラミックスラリーと接触する領域)にのみフッ素樹脂コーティングを行うようにしてもよい。
【0050】
(2)試験番号2のディスクの作製
上記試験番号1のディスクの場合と同じステンレス鋼からなるディスクを準備した。
それから、ディスクの表面全体に撥水めっきを施すことにより、試験番号2のディスクを作製した。
【0051】
なお、撥水めっきは、例えば、フッ素系高分子のエマルジョンとNiを含むめっき液にディスクを浸漬し、電解めっきを施すなど公知の方法で実施することができる。なお、撥水めっきの場合も、ディスクの全面に施してもよく、また、意図する領域にだけ撥水めっきを行うように構成することも可能である。
【0052】
また、上記(1)のフッ素樹脂コーティングに用いるフッ素樹脂、および(2)の撥水めっきに用いるフッ素系高分子材料としては、公知の種々のフッ素樹脂を用いることが可能であるが、その中でもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることが特に好ましい。
【0053】
(3)試験番号3のディスクの作製
上記試験番号1のディスクの場合と同じステンレス鋼からなるディスクを準備した。そして、ディスクのセラミックスラリーと接触する領域にフッ素樹脂シートを張り付けることにより、試験番号3のディスクを作製した。なお、上側ディスクと下側ディスクの表面には、平らなフッ素樹脂シートを張り付けることにより、表面をフッ素樹脂シートにより被覆し、また、ディスクを構成するピンについては、フッ素樹脂チューブを外挿することにより、ピンの表面をフッ素樹脂シートにより被覆した。
【0054】
また、比較例のディスクのうち、試験番号4のディスクは、実施例1で用いたディスクDと同じ構造を有する、ステンレス鋼から形成されたディスクで、セラミックスラリーと接触する領域に疎水性を持たせるための処理を施していないディスクである。
【0055】
また、試験番号5のディスクは、実施例1で用いたディスクDと同じ構造を有する、ジルコニアから形成されたディスクで、セラミックスラリーと接触する領域に疎水性を付与するための処理を行っていないディスクである。
【0056】
そして、実施例1で用いた噴霧乾燥造粒装置(図1参照)に、ディスクDとして、この実施例2で作製した、本発明の要件を備えたディスク(表1の試験番号1〜3のディスク)と、本発明の要件を備えていない比較例のディスク(試験番号4および5のディスク)を用いて、以下の方法でセラミックスラリーの乾燥造粒を行った。
【0057】
ここでは、Fe23、NiO、CuO、ZnOからなるフェライト粉末(仮焼物)100重量部に対し、水を50重量部、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を2.5重量部、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を0.25重量部、可塑剤としてのグリセリンを0.25重量部添加し、撹拌分散処理を行って作製したセラミックスラリーを準備した。
【0058】
そして、実施例1で用いた噴霧乾燥造粒装置に、ディスクDとして上記の試験番号1〜5の各ディスクを取り付け、上記セラミックスラリーの乾燥造粒を行った。
【0059】
乾燥造粒を行うにあたっては、ディスクの回転数は10000rpmとし、熱風の供給口32の温度を180〜210℃、排気口33の温度を100〜120℃に設定して造粒乾燥を行い、造粒体(セラミック顆粒)を得た。
【0060】
そして、得られた造粒体(セラミック顆粒)について、300μm以上の粗粒の比率を調べた。表1に、粗粒の比率を併せて示す。
粗粒の比率は、目開き300μmのふるいを用い、振動ふるい機にて各試料(セラミック顆粒)をふるい分けし、ふるい上に残ったセラミック顆粒の量から、セラミック顆粒中における300μm以上の粗粒の比率(重量%)を算出したものである。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、ステンレス鋼からなり、表面処理(疎水化処理)を施していないディスクを用いた試験番号4(比較例)の場合、および、ジルコニア製で表面処理(疎水化処理)を施していないディスクを用いた試験番号5(比較例)の場合、造粒体(セラミック顆粒)中における300μm以上の粗粒の比率が、それぞれ1.5重量%(試験番号4)および1.3重量%(試験番号5)であった。
【0063】
これに対し、ステンレス鋼からなり、表面にフッ素樹脂コーティングを行った試験番号1、表面に撥水めっきを行った試験番号2、および、フッ素樹脂シートの貼り付けを行った試験番号3の各ディスク(本発明の実施例にかかるディスク)を用いた場合、造粒体(セラミック顆粒)中における300μm以上の粗粒の比率が、それぞれ0.3重量%(試験番号1)、0.4重量%(試験番号2)、および0.3重量%(試験番号3)で、表面処理をしていない上記比較例のディスクを用いた場合に比べて、粗粒の比率が大幅に低下することが確認された。
【0064】
また、表1には示していないが、ジルコニア製のディスクの場合にも、セラミックスラリーと接触する領域に、フッ素樹脂コーティング、撥水めっき、フッ素樹脂シートの貼り付けのいずれかを行った場合、上記試験番号1,2および3の場合と同様に、粗粒の比率が低く抑えられることが確認されている。
【0065】
なお、本発明において、フッ素樹脂コーティングに用いるフッ素樹脂の種類やコート方法、撥水めっきに用いるフッ素系高分子材料の種類やめっき方法、フッ素樹脂シートを構成するフッ素樹脂の種類や厚みなどに特別の制約はなく、セラミックスラリーやそれを乾燥造粒する際の条件などを考慮して、公知の材料や方法から適切なものを選択して用いることが可能である。
【0066】
本発明は、さらにその他の点においても、上記の実施例に限定されるものではなく、乾燥造粒室やディスクの具体的な構造、ディスクの回転数、造粒対象となるセラミックスラリーの条件、セラミックスラリーを構成するセラミックの種類などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 スラリー供給機構
2 熱風供給機構
3 噴霧乾燥機本体
4 排気機構
11 原料タンク
12 原料供給ポンプ
21 送風機
22 熱風発生装置
31 乾燥造粒室(チャンバー)
32 熱風を供給するための供給口(入口)
33 排気口(出口)
34 製品排出口
35 ディスクを備えるアトマイザ
41 サイクロン
42 バグフィルタ
43 排風機
51 上側ディスク
51a 上側ディスクの下面
51b 開口部
52 下側ディスク
52a 下側ディスクの上面
53 ピン
53a ピンの外周面
54 回転シャフト
55 円錐状の盛り上がり部(傾斜部)
55a 円錐状の盛り上がり部(傾斜部)の表面(傾斜面)
56 貫通孔
C フッ素樹脂コーティング層
D ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分を含むスラリーおよび乾燥用加熱気体が供給される乾燥造粒室と、前記乾燥造粒室内に回転可能に配設されたスラリー微細化用のディスクとを備え、回転している前記ディスク上に前記スラリーを連続的に供給し、前記スラリーを、前記ディスクの回転による遠心力を利用して前記ディスク上を移動させつつ微細化し、前記乾燥造粒室内に噴霧することにより、前記スラリーを乾燥させて造粒する噴霧乾燥造粒装置であって、
前記ディスクの表面の前記スラリーと接触する領域に疎水性を持たせたこと
を特徴とする噴霧乾燥造粒装置。
【請求項2】
前記ディスクの表面の前記スラリーと接触する領域にフッ素樹脂コーティング、撥水めっき、およびフッ素樹脂シートの貼り付けのいずれかの処理を施すことにより、前記疎水性を付与したことを特徴とする請求項1記載の噴霧乾燥造粒装置。
【請求項3】
前記スラリーに含まれる固形分がセラミック原料粉末であり、前記スラリーを乾燥させて造粒することにより得られる造粒体がセラミック顆粒であることを特徴とする請求項1または2記載の噴霧乾燥造粒装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の噴霧乾燥造粒装置を用いて、スラリーの乾燥造粒を行うことにより、造粒体を得ることを特徴とする造粒体の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の噴霧乾燥造粒装置を用いて、セラミックスラリーの乾燥造粒を行うことによりセラミック顆粒を得ることを特徴とするセラミック顆粒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−143983(P2012−143983A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4640(P2011−4640)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】