説明

四輪操舵装置

【課題】 後輪のキャンバー角を制御するようにして構造を簡単にできる四輪操舵装置を提供する。
【解決手段】 車速センサ7およびステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ8からの信号に応じて、後輪1L,1Rを操舵する四輪操舵装置において、後輪1L,1Rには両後輪1L,1Rに同一方向のキャンバー角を付与するキャンバー角制御機構2L,2Rを連係し、このキャンバー角制御機構2L,2Rで、後輪1L,1Rに同一方向のキャンバー角を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングホイールの操舵角や車速等の走行状況に応じて後輪を操舵する四輪操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の前輪および後輪を操舵する四輪操舵装置が普及している。四輪操舵には、後輪を前輪と同じ方向に転舵する同位相操舵や、後輪を前輪と反対方向に転舵する逆位相操舵がある。前者の同位相操舵は、主に高速走行時に大きくなる横加速度の遅れを減少させるとともに、ヨーイング運動のゲインを下げて操舵時の安定性を向上させることができる。
一方、後者の逆位相操舵は、最小旋回半径や内輪差を小さくして、主に低速走行時における小回り性や機動性を向上させることができる。
四輪操舵装置は、以上のような操舵を、ステアリングホイールの操舵状況や車速に応じて行い、操縦性の向上と安定性の向上とを両立している。
【特許文献1】特開2007−112197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来知られている四輪操舵装置は、後輪の転舵角を制御しなければならないが、後輪の転舵角を制御する機構は非常に複雑になる。そのため、こうした複雑な機構を後輪に設けるとなれば、装置全体が極めて複雑になってしまい、非常に高コストになってしまうという問題があった。
【0004】
この発明の目的は、後輪のキャンバー角を制御するようにして構造を簡単にできる四輪操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、車速およびステアリングホイールの操舵角に応じて後輪を操舵する四輪操舵装置に係る。
そして、第1の発明は、両後輪に同一方向のキャンバー角を付与するキャンバー角制御機構を連係し、このキャンバー角制御機構で後輪のキャンバー角を制御して、後輪を操舵する点に特徴を有する。
第2の発明は、キャンバー角制御機構を、左右の後輪に個別に設けた点に特徴を有する。
第3の発明は、車速を検出する車速センサと、この車速センサが検出する車速に基づいて上記キャンバー角制御機構を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、車速が所定速度以上になったときキャンバー角制御機構を制御して、前輪の転舵方向と同一方向にキャンバースラストを発生させ、前輪と後輪とが同位相に操舵される点に特徴を有する。
第4の発明は、上記制御手段が、車速が所定速度以下のとき、キャンバー角制御機構を制御して、前輪の転舵方向と逆方向にキャンバースラストを発生させ、前輪と後輪とが逆位相に操舵される点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0006】
第1の発明によれば、後輪にキャンバースラストを発生させるとともに、このキャンバースラストを利用して後輪を操舵するので、後輪の転舵角を制御する必要がない。
このように、後輪のキャンバー角を制御するだけでよいので、極めて簡単な構造で四輪操舵を実現することができる。したがって、コストを大幅に低減することができる。
第2の発明によれば、キャンバー角制御機構を左右に個別に設けたので、左右両輪を連結する必要がない。このように、左右両輪を連結する必要がないので、装置の取り付けスペースを削減し、設計の自由度が増す。
第3の発明によれば、簡単な構造でありながら、高速走行時における操舵の安定性を向上させることができる。
第4の発明によれば、簡単な構造でありながら、低速走行時における小回り性や機動性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1〜図5を用いて、この発明の最良の実施形態について説明する。
図1は、左右の後輪を車両の後方から見た図である。この図からも明らかなように、左後輪1Lおよび右後輪1Rのそれぞれに、一対のキャンバー角制御機構2L,2Rを連係している。これら一対のキャンバー角制御機構2L,2Rは、互いに独立しているが、左右後輪1L,1Rのキャンバー角を常に同一方向に発生させるように、相互に同期させている。
【0008】
ここで、キャンバー角制御機構2L,2Rの構成について説明する。なお、一対のキャンバー角制御機構2L,2Rは同一の構成なので、ここではキャンバー角制御機構2Lについて説明する。
キャンバー角制御機構2Lは、車両に固定したモータ3Lのモータ軸に、ピニオン3aを固定するとともに、このピニオン3aを、ラック体4の円弧状ラック面4aに噛み合わせている。上記ラック体4は、円弧状の金属製部材であり、回転支持軸4bを車両に固定している。そして、ピニオン3aが回転することによって、ラック体4が回転支持軸4bを中心にして回転するようにしている。
【0009】
また、上記ラック体4には、一対の連結部材5,5の一端を接続するとともに、これら一対の連結部材5,5の他端を、左後輪1Lの図示しないホイールに接続している。したがって、ラック体4は連結部材5,5を介して左後輪1Lのホイールに連結保持することとなる。
そして、上記ラック体4が回転支持軸4bを中心に回転すると、その回転力によっていずれか一方の連結部材5が左後輪1Lを押し出し、いずれか他方の連結部材5が左後輪1Lを引き寄せるように作用して、キャンバー角を制御することとなる。
なお、詳細な説明は省略するが、上記連結部材5,5は、左後輪1Lやそのホイールに対して相対回転可能に接続されているので、左後輪1Lが回転しても、連結部材5,5やラック体4が回転してしまうことはない。
【0010】
このように、この実施形態においては、キャンバー角制御機構2Lは、モータ3L、ピニオン3a、ラック体4、および連結部材5,5によって構成されており、モータ3Lを駆動することによって、左後輪1Lのキャンバー角を制御することとなる。
なお、キャンバー角制御機構2Rも、上記と同様の構成であるが、ステアリングホイールを操舵したとき、両キャンバー角制御機構2L,2Rは、必ず同一方向のキャンバー角を付与する。この点については、作用の説明において詳細に説明することとする。
【0011】
そして、上記モータ3L,3Rは制御手段6からの制御信号に基づいて駆動するようにしている。この制御手段6は、車両の速度を検出する車速センサ7、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ8、および前輪の転舵角を検出する前輪転舵角センサ9に電気的に接続している。そして、制御手段6は、上記各センサ7〜9の検出信号に基づいて、モータ3L,3Rを駆動するようにしている。
【0012】
次に、この実施形態の四輪操舵装置の作用を説明する。
いま、車両の走行中にドライバーがステアリングホイールを右方向に操舵したとする。すると、図2の(a)に示すように、ステアリングホイールの操舵角に応じて前輪10L,10Rの転舵角θ,θが制御される。
このとき、車速センサ7および操舵角センサ8によって、車速およびステアリングホイールの操舵角が検出されており、これら車速と操舵角に応じて、制御手段6がモータ3L,3Rを駆動し、両後輪1L,1Rのキャンバー角を制御する。
【0013】
具体的には、高速走行時にステアリングホイールを右方向に操舵した場合には、図2の(b)に示すように、両後輪1L,1Rのキャンバー角θ,θを右方向にとる。このときのキャンバー角θ,θの大きさは、ステアリングホイールの操舵角と車速に基づいて制御される。
両後輪1L,1Rのキャンバー角θ,θを右方向にとると、図2の(b)に示す矢印方向にキャンバースラストが生じる。
このように、前輪10L,10Rと後輪1L,1Rとに生じる矢印方向のトルクによって、車両は図3に示す実線のとおりに走行することとなる。
【0014】
なお、車速および操舵角が同一条件である場合に、後輪のキャンバー角θ,θを制御せずに、前輪の転舵角のみで操舵を行った場合、つまり、二輪操舵を行った場合には、図3の点線で示すように車両は操舵される。このことからも明らかなように、上記のとおりに両後輪1L,1Rのキャンバー角θ,θを制御することによって、高速走行時に大きくなる横加速度の遅れを減少させるとともに、ヨーイング運動のゲインを下げて操舵時の安定性を向上させることができる。つまり、通常の四輪操舵において、前輪と後輪を同一方向に転舵させて同位相操舵を行うのと同様の効果を得ることができる。
【0015】
一方、低速走行時にステアリングホイールを右方向に操舵した場合には、図4の(b)に示すように、両後輪1L,1Rのキャンバー角θ,θを左方向にとる。このときのキャンバー角θ,θの大きさも、上記と同様、ステアリングホイールの操舵角や車速に応じて制御される。
両後輪1L,1Rのキャンバー角θ,θを左方向にとると、図4の(b)に示す矢印方向にキャンバースラストが生じる。
このように、前輪10L,10Rと後輪1L,1Rとに生じる矢印方向のトルクによって、車両は図5に示す実線のとおりに操舵されることとなる。
【0016】
なお、車速および操舵角が同一条件である場合に、後輪のキャンバー角θ,θを制御せずに、前輪の転舵角のみで操舵を行った場合、つまり、二輪操舵を行った場合には、図5の点線で示すとおりに車両は操舵される。このことからも明らかなように、上記のとおりに両後輪1L,1Rのキャンバー角θ,θを制御することによって、低速走行時に最小旋回半径や内輪差を小さくして、小回り性や機動性を向上させることができる。つまり、通常の四輪操舵において前輪と後輪を逆方向に転舵させて、逆位相操舵を行うのと同様の効果を得ることができる。
【0017】
なお、上記実施形態においては、車速に基づいて、後輪1L,1Rのキャンバー角θ,θをとる方向が決定される。つまり、高速走行時には、前輪10L,10Rの転舵方向(ステアリングホイールの操舵方向)と同一方向にキャンバー角θ,θをとり、低速走行時には、前輪10L,10Rの転舵方向(ステアリングホイールの操舵方向)と逆方向にキャンバー角θ,θをとるようにしている。
ただし、キャンバー角θ,θをとる方向は、上記実施形態に限らない。後輪1L,1Rのキャンバー角θ,θをとる方向は、ステア特性や走行状況に応じて適宜決定することができる。
【0018】
また、上記実施形態においては、車速とステアリングホイールの操舵角とに応じて、キャンバー角θ,θの大きさを決定しているが、ステアリングホイールの操舵角の代わりに、例えば前輪10L,10Rの転舵角(前輪転舵角センサ9の検出信号)に基づいてキャンバー角θ,θを制御してもよい。あるいは、各センサ7〜9の検出信号を複合的に計算して、キャンバー角θ,θを制御しても構わない。
さらに、キャンバー角制御機構2L,2Rの構成は、上記実施形態に限らず、どのような構成としてもよいこと当然である。いずれにしても、後輪1L,1Rのキャンバー角θ,θを制御して、同一方向のキャンバースラストを生じさせ、このキャンバースラストと前輪10L,10Rの転舵角とによって操舵を行えば、具体的な構造等は特に限定されるものではない。
【0019】
なお、前輪や後輪のキャンバー角制御は、一般的に広く行われており、その構造や制御方法についても種々開発されている。
しかし、一般的にキャンバー角を制御する目的は、車両の収れん性を向上させることにあり、その制御方法は左右両輪のキャンバー角を、対称方向に制御するものである。つまり、左の車輪のキャンバー角を左方向(外側)にとった場合には、右の車輪のキャンバー角を右方向(外側)にとる。
この点、キャンバー角を制御して四輪操舵を行う本発明にあっては、ステアリングホイールの操舵にともなって、左右両輪が同一方向にキャンバー角を発生させることを特徴とする。したがって、従来のキャンバー角制御とは目的も制御方法も全く異なるものである。
【0020】
ただし、本発明の目的を達成するためには、ステアリングホイールを操舵したときに両後輪のキャンバー角を同一方向にとればよく、常に両後輪のキャンバー角を同一方向にとらなければならないわけではない。
例えば、直進走行時や、ステアリングホイールを操舵してから中立に戻す時等に、両後輪のキャンバー角を逆方向にとるようにしても構わない。このようにすれば、四輪操舵特有の操舵性を有しながらも、直進走行時やステアリングホイールの戻り時における収れん性の向上をも両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】車両の後方からキャンバー角制御機構を見た図である。
【図2】高速走行時の前輪転舵角および後輪キャンバー角を示し、(a)は前輪の上面図であり(b)は後輪を後方から見た図である。
【図3】高速走行時の操舵特性を示す図である。
【図4】低速走行時の前輪転舵角および後輪キャンバー角を示し、(a)は前輪の上面図であり(b)は後輪を後方から見た図である。
【図5】低速走行時の操舵特性を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1L,1R 後輪
2L,2R キャンバー角制御機構
6 制御手段
7 車速センサ
θ,θ 後輪キャンバー角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速およびステアリングホイールの操舵角に応じて後輪を操舵する四輪操舵装置において、後輪には両後輪に同一方向のキャンバー角を付与するキャンバー角制御機構を連係し、このキャンバー角制御機構で後輪のキャンバー角を制御して、後輪を操舵する構成にした四輪操舵装置。
【請求項2】
上記キャンバー角制御機構は、左右の後輪に個別に設けた請求項1記載の四輪操舵装置。
【請求項3】
車速を検出する車速センサと、この車速センサが検出する車速に基づいて上記キャンバー角制御機構を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、車速が所定速度以上になったときキャンバー角制御機構を制御して、前輪の転舵方向と同一方向にキャンバースラストを発生させ、前輪と後輪とが同位相に操舵される構成にした請求項1または2記載の四輪操舵装置。
【請求項4】
上記制御手段は、車速が所定速度以下のとき、キャンバー角制御機構を制御して、前輪の転舵方向と逆方向にキャンバースラストを発生させ、前輪と後輪とが逆位相に操舵される構成にした請求項1〜3のいずれかに記載の四輪操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−149244(P2009−149244A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330545(P2007−330545)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】