説明

回折格子、光ピックアップ装置及び光ディスク装置

【課題】
安定したトラッキング制御を行えるようにする。
【解決手段】
回折格子において、格子面を第1の方向と平行な分割線を境として2分割することにより形成された第1及び第2の格子領域と、第1の格子領域内に形成された第3の格子領域と、第2の格子領域内に形成された第4の格子領域とを備え、格子面の中央付近において、第3の格子領域、第1の格子領域、第2の格子領域及び第4の格子領域が第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、かつ第1の格子領域、第2の格子領域が格子面の中央付近以外において第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、第1乃至第4の格子領域の溝方向及び溝周期は同じであり、第1の格子領域の格子パターンは第2の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有し、第3の格子領域の格子パターンは第4の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子、光ピックアップ装置及び光ディスク装置に関し、特に、トラッキングエラー信号の検出方式としてインラインDPP(Differential Push Pull)方式が適用された光ディスク装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ディスク装置におけるトラッキングエラー信号の検出方式として、差動プッシュプル方式(以下、これをDPP方式と呼ぶ)が広く知られている。
【0003】
DPP方式は、所定のトラックピッチで記録トラックが形成された光ディスクに対して3つの光束を照射し、これら3つの光束の光ディスクにおける反射光に基づいてトラッキングエラー信号を生成する方式である。このDPP方式では、各光束がそれぞれ光ディスク上に形成する3つのスポットを、光ディスクの径方向にトラックピッチの半分ずつ順次ずらして位置させることで、対物レンズの変位や光ディスクの傾きなどに伴って発生するオフセットを抑制している。
【0004】
しかしながら、DPP方式では、上述のように光ディスク上に形成する3つのスポットを当該光ディスクの径方向にトラックピッチの半分ずつ順次ずらして位置させる必要があるため、トラックピッチの異なる光ディスクに関しては、安定したトラッキングエラー信号を検出できないという問題がある。ところが、近年では、トラックピッチが異なる複数種類の光ディスクが多く登場しており、これら複数種類の光ディスクに対応できる光ピックアップ装置の実用化が強く望まれている。
【0005】
そこで、かかるDPP方式の問題点を解決するための手段として、近年、インラインDPP方式と呼ばれるトラッキングエラー信号検出方式が提案され、広く用いられている(特許文献1及び特許文献2参照)。インラインDPP方式は、半導体レーザから発射された光束を上述の3つの光束に分離する回折格子の構造を工夫することで、光ディスク上の3つのスポットが同じ記録トラック上に位置する状態でもDPP方式と同様の方法によりトラッキングエラー信号を検出できることを利用した方式である。
【0006】
このインラインDPP方式を利用することによって、トラックピッチが異なる光ディスクについてもトラッキングエラー信号を検出することができ、これによりトラックピッチが異なる複数種類の光ディスクに対応可能な光ピックアップ装置を構築できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−81942号公報
【特許文献2】特開2004−145915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、かかるインラインDPP方式では、利用される回折格子の格子構造により発生する特有の問題として、DVD(Digital Versatile Disc)±RW(ReWritable)等の記録型光ディスクにおいて、データが記録された領域(以下、これを記録領域と呼ぶ)と、データが未記録の領域(以下、これを未記録領域と呼ぶ)との境界(以下、これを記録未記録境界と呼ぶ)をスポットが通過する際にトラッキングエラー信号にオフセット(以下、これを記録未記録境界オフセットと呼ぶ)が発生し、安定したトラッキング制御を行い難い問題があった。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、安定したトラッキング制御を行い得る回折格子、光ピックアップ装置及び光ディスク装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明においては、入射するレーザ光を、少なくとも3つの光束に分離する回折格子において、格子面を第1の方向と平行な分割線を境として2分割することにより形成された第1及び第2の格子領域と、前記第1の格子領域内に形成された第3の格子領域と、前記第2の格子領域内に形成された第4の格子領域とを備え、前記格子面の中央付近において、前記第3の格子領域、前記第1の格子領域、前記第2の格子領域及び前記第4の格子領域が前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、かつ前記第1の格子領域、前記第2の格子領域が前記格子面の中央付近以外において前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、前記第1乃至第4の格子領域の溝方向及び溝周期は同じであり、前記第1の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有し、前記第3の格子領域の格子パターンは前記第4の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有するようにした。
【0011】
また格子領域の格子パターンの位相差は、前記第1の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有し、前記第3の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して90度の位相差を有し、前記第4の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して−90度の位相差を有するものでも同じとなる。
【0012】
また本発明においては、光ピックアップ装置において、レーザ光を発射する半導体レーザと、前記半導体レーザから発射されたレーザ光を、少なくとも3つの光束に分離する回折格子と、前記回折格子により分離された前記3つの光束を光ディスクの記録面上に集光する対物レンズと、前記光ディスクの記録面において反射された前記3つの光束を受光する受光素子とを備え、前記回折格子は、格子面が第1の方向と平行な分割線を境として全体として第1及び第2の格子領域の2つの領域に分割され、前記第1の格子領域内には第3の格子領域が形成されると共に、前記第2の格子領域内には第4の格子領域が形成され、前記格子面の中央付近において、前記第3の格子領域、前記第1の格子領域、前記第2の格子領域及び前記第4の格子領域が前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、かつ前記第1の格子領域、前記第2の格子領域が前記格子面の中央付近以外において前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、前記第1乃至第4の格子領域の溝方向及び溝周期は同じであり、前記第1の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有し、前記第3の格子領域の格子パターンは前記第4の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有するようにした。
【0013】
さらに本発明においては、光ディスクに対してレーザ光を照射し、当該レーザ光の前記光ディスクにおける反射光を受光し、受光した前記反射光を光電変換することにより得られた検出信号を出力する光ピックアップと、前記光ピックアップから出力される前記検出信号に基づくトラッキングエラー信号を生成するサーボ信号生成部と、前記サーボ信号生成部から与えられる前記トラッキングエラー信号に基づいてトラッキング制御を行うトラッキング制御部とを有し、前記光ピックアップは、レーザ光を発射する半導体レーザと、前記半導体レーザから発射されたレーザ光を、少なくとも3つの光束に分離する回折格子と、前記回折格子により分離された前記3つの光束を光ディスクの記録面上に集光する対物レンズと、前記光ディスクの記録面において反射された前記3つの光束を受光する受光素子とを備え、前記回折格子は、格子面が第1の方向と平行な分割線を境として全体として第1及び第2の格子領域の2つの領域に分割され、前記第1の格子領域内には第3の格子領域が形成されると共に、前記第2の格子領域内には第4の格子領域が形成され、前記格子面の中央付近において、前記第3の格子領域、前記第1の格子領域、前記第2の格子領域及び前記第4の格子領域が前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、かつ前記第1の格子領域、前記第2の格子領域が前記格子面の中央付近以外において前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、前記第1乃至第4の格子領域の溝方向及び溝周期は同じであり、前記第1の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有し、前記第3の格子領域の格子パターンは前記第4の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有するようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、記録未記録境界オフセットのオフセット量を低減することができ、記録未記録境界におけるトラッキングエラー信号の乱れを有効に防止できる。かくするにつき、安定したトラッキング制御を行い得る信頼性の高い光ピックアップ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来型インラインDPP方式を適用した光ピックアップ装置の構成例を示す略線図である。
【図2】(A)及び(B)は、従来型インラインDPP方式に使用される従来型回折格子の構成例を示す概念図である。
【図3】従来型インラインDPP方式を適用した光ピックアップ装置の一部構成の構成例を示す概念図である。
【図4】従来型インラインDPP方式の原理説明に供する概念図である。
【図5】記録未記録境界オフセットの説明に供する特性曲線図である。
【図6】記録未記録境界オフセットの説明に供する特性曲線図である。
【図7】(A)及び(B)は、記録未記録境界オフセットの発生原因の説明に供する概念図である。
【図8】(A)及び(B)は、記録未記録境界オフセットの発生原因の説明に供する概念図である。
【図9】記録未記録境界オフセットの発生原因の説明に供する概念図である。
【図10】記録未記録境界オフセットの発生原因の説明に供する概念図である。
【図11】記録未記録境界オフセットの発生原因の説明に供する概念図である。
【図12】従来型インラインDPP方式の原理説明に供するグラフである。
【図13】本実施の形態によるインラインDPP方式を適用した光ピックアップ装置の構成例を示す略線図である。
【図14】(A)〜(C)は、本実施の形態によるインラインDPP方式に使用される本実施の形態による回折格子の構成例を示す概念図である。
【図15】本実施の形態によるインラインDPP方式の原理説明に供する概念図である。
【図16】本実施の形態によるインラインDPP方式の原理説明に供する概念図である。
【図17】本実施の形態によるインラインDPP方式の原理説明に供するグラフである。
【図18】(A)及び(B)は、本実施の形態によるインラインDPP方式により得られる効果の説明に供するグラフである。
【図19】(A)は本実施の形態による回折格子を示す概念図であり、(B)は第1及び第2の分割幅の決定手法の説明に供するグラフである。
【図20】本実施の形態によるインラインDPP方式を適用した光ディスク装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0017】
(1)従来のインラインDPP方式
本実施の形態によるインラインDPP方式を説明するに際して、まず、従来のインラインDPP方式(以下、これを従来型インラインDPP方式と呼ぶ)について説明する。
【0018】
図1は、トラッキングエラー信号の検出方式として従来型インラインDPP方式が適用された光ピックアップ装置1の構成例を示す。この光ピックアップ装置1では、半導体レーザ2から所定波長のレーザ光が発散光として発射され、このレーザ光が回折格子3に照射される。
【0019】
回折格子3は、例えば図2(A)に示すように、格子面が矢印xで示す横方向(光ディスクの径方向に相当)に第1〜第4の格子領域3A〜3Dの4つに分割された格子構造を有する。この場合、図2(B)に示すように、第1の格子領域3Aには、第3の格子領域3Cの格子パターンに対して90度の位相差を有する格子パターンが形成されると共に、第2の格子領域3Bには、第3の格子領域3Cの格子パターンに対して180度の位相差を有する格子パターンが形成され、かつ、第4の格子領域3Dには、第3の格子領域3Cの格子パターンに対して−90の位相差を有する格子パターンが形成されている。
【0020】
そして回折格子3に照射されたレーザ光は、当該回折格子3によって0次光(以下、これをメインビームと呼ぶ)及び±1次光(以下、これらをサブビームと呼ぶ)の少なくとも3つのレーザ光に分離される。また、これらメインビーム及び各サブビームは、この後、それぞれダイクロイックミラー4を介してコリメートレンズ5に入射し、当該コリメートレンズ5によりほぼ平行光に変換される。
【0021】
このコリメートレンズ5を透過したメインビーム及び各サブビームは、1/4波長板6において直線偏光から円偏光に変換された後に全反射ミラー7を介して対物レンズ8に入射する。対物レンズ8は、図示しない2次元アクチュエータによりトラッキング方向(光ディスクの径方向)及びフォーカス方向(光ディスクに近接又は離反する方向)に移動自在に保持されており、入射するメインビーム及び各サブビームを光ディスクの記録面上に集光する。これにより光ディスクの記録面上には、メインビーム及び各サブビームによって3つの集光スポットが形成される。この際、これら3つの集光スポットが光ディスクの記録面上において当該光ディスクの径方向に対してずれがないように(つまり同一記録トラック上に位置するように)回折格子3の格子構造等が調整される。
【0022】
一方、光ディスクの記録面において反射したメインビーム及び各サブビームは、それぞれ対物レンズ8により平行光に変換された後に、全反射ミラー7を介して1/4波長板6に入射し、この1/4波長板6により元の偏光方向に対して垂直方向の偏光方向を有する直線偏光にそれぞれ変換される。また1/4波長板6を透過したメインビーム及び各サブビームは、それぞれコリメートレンズ5により収束光に変換された後に、ダイクロイックミラー4を介して検出レンズ9に入射し、この検出レンズ9によってそれぞれその軸方向に90度回転された光束に変換された後に受光素子10に入射する。
【0023】
受光素子10には、図3に示すように、メインビーム及び各サブビームの入射位置にそれぞれ対応させて、4分割された受光面10A〜10Cが3個設けられている。かくして、検出レンズ9を透過したメインビーム及び各サブビームは、それぞれ受光素子10の対応する受光面10A〜10Cに入射し、その受光面10A〜10C上に検出光スポットを形成する。なお、以下においては、メインビームが形成する検出光スポットをメイン光スポットMSPと呼び、各サブビームがそれぞれ形成する検出光スポットをサブ光スポットSSP1,SSP2と呼ぶものとする。
【0024】
そして、メインビームが入射した受光面10Aからの光電変換信号は減算器11Aによって減算処理されてプッシュプル信号(以下、これをメインプッシュプル信号と呼ぶ)MPPが生成される。またサブビームがそれぞれ入射した各受光面10B,10Cからの光電変換信号はそれぞれ異なる減算器11B,11Cによって減算処理されて2つのプッシュプル信号(以下、これらを第1及び第2のサブプッシュプル信号と呼ぶ)SPP1,SPP2が生成される。
【0025】
さらに第1及び第2のサブプッシュプル信号SPP1,SPP2が加算器12により加算処理され、かくして得られたサブプッシュプル信号SPPを、増幅器13においてメインビーム及びサブビーム間の光量比に応じた係数値(以下、これをk値と呼ぶ)倍したものが減算器14においてメインプッシュプル信号MPPから除算されてトラッキングエラー信号TES(差分プッシュプル信号DPP)が生成される。従って、トラッキングエラー信号TESは、次式以下の(1)式により表すことができる。
【0026】
(数1)
TES=MPP−k×(SPP1+SPP2) ……(1)
【0027】
この(1)式において、メインプッシュプル信号MPPのAC成分と、第1及び第2のサブプッシュプル信号SPP1,SPP2のAC成分とは、逆相(第1及び第2のサブプッシュプル信号SPP1,SPP2は同相)となっているため、(1)式の演算によって、信号成分が打ち消されることはない。
【0028】
ここで、上述のように光ディスクでメインビームのスポットと、2つのサブビームのスポットとの3つのスポットを同一記k1録トラック上に位置させるにも係わらず、メインプッシュプル信号MPPのAC成分と、第1及び第2のサブプッシュプル信号SPP1,SPP2のAC成分とが逆相になる理由について説明する。
【0029】
図4は、従来型インラインDPP方式において、図2について上述した従来の回折格子3を回折した後のメインビーム内及び各サブビーム内に発生する位相差と、光ディスクで回折した後にこれらメインビーム内及び各サブビーム内に発生する位相差とをそれぞれ示したものである。図中の分割線l1〜l3は、回折格子3の分割線L1〜L3に相当する。なお、図4では、メインビーム及び各サブビーム間の位相関係や、サブビーム同士間の位相関係については、何も示していない。また説明を簡略化するため、光ディスクを回折後のメインビーム及び各サブビームの位相差については、光ディスクの記録トラックによって発生する0次光と±1次光との間の位相差分は加味していない。
【0030】
この図4(B)の左欄からも明らかなように、図2の回折格子3を回折した後のメインビームは、分割線l1を基準として図4の左右部分の位相差が0となっている。つまりメインビームは分割線l1を基準として図4の左右部分に位相差がない。これに対して、回折格子3を回折した後の各サブビームは、分割線l1を基準として図4の左右部分間でほぼ180度の位相差が発生する。
【0031】
メインビームは、この後、図4(B)の右欄に示すように、光ディスク上で0次光及び±1次光に分離(回折)された後に、上述のように受光素子10の対応する受光面10Aに入射する。そして、メインビームが受光面10Aに形成するメイン光スポットMSPの位置に応じたメインプッシュプル信号MPPが減算器11Aから出力される。
【0032】
ここで、プッシュプル信号とは、光ディスクに入射したメインビームやサブビームが記録トラックで回折されることにより発生するそのメインビーム又はサブビームの0次光及び±1次光の干渉信号である。記録トラック上のスポット位置に依って0次光及び±1次光に所定の位相差が発生するため、スポット位置に応じた明暗がメインビーム及び各サブビーム内に発生し、これを検出器で検出することによりプッシュプル信号が得られる。
【0033】
メインビームの場合、図4(B)の右欄からも明らかなように、光ディスクの記録トラックで回折することにより得られる0次光及び+1次光の干渉領域の位相は、メインビームの他の領域と同相(位相0度)であり、0次光及び−1次光の干渉領域の位相も同様にメインビームの他の領域と同相(位相0度)となる。
【0034】
一方、各サブビームは、回折格子3から出射後、図4(A)の右欄及び図4(C)の右欄にそれぞれ示すように、光ディスク上でそれぞれ0次光及び±1次光に分離(回折)される。この場合、各サブビームには上述のように分割線l1を基準として左右部分でほぼ180度の位相差が生じているため、サブビームが光ディスク上で回折することにより得られる0次光及び+1次光の干渉領域の位相と、0次光及び−1次光の干渉領域の位相とは、いずれもメインビームの位相に対して180度反転した位相となる。
【0035】
このため干渉信号であるプッシュプル信号は、スポット位置に対して反転した信号(逆相の信号)となる。簡単に説明すると、プッシュプル信号のAC成分は干渉信号であるから、メインプッシュプル信号MPPと、第1及び第2のサブプッシュプル信号SPP1,SPP2とが逆相(第1及び第2のサブプッシュプル信号PP1,SPP2同士は同相)となる。
【0036】
これに対して対物レンズ8の変位や光ディスクの傾きなどにより生じるDCオフセット成分は干渉信号でないため、メインプッシュプル信号MPPと、第1及び第2のサブプッシュプル信号SPP1,SPP2とは同相になる。このため上述の(1)式の演算を行うことによって、安定したトラッキングエラー信号を得ることができる。
【0037】
以上のような従来型インラインDPP方式の利点としては、光ディスク上の同一記録トラック上に3つのスポットを配置してもトラッキングエラー信号を検出できるため、トラックピッチの異なる複数種類の光ディスクに対応できることである。
【0038】
ところが、かかる従来型インラインDPP方式には、DVD±RW等の記録型光ディスクにおいて、記録未記録境界をスポットが横切る際にトラッキングエラー信号に記録未記録境界オフセットが発生し、安定したトラッキング制御を行い難いという問題があった。以下、この事象について説明する。
【0039】
図5は、記録型光ディスクの記録未記録境界をスポットが横切る際のメインプッシュプル信号MPPの信号波形のシミュレーション結果を示す。この図5からも明らかなように、スポットが光ディスクの未記録部を移動する際に得られるトラッキングエラー信号TESの振幅よりも、スポットが光ディスクの記録部を移動する際に得られるトラッキングエラー信号TESの振幅の方が小さい。これとは別に矢印で示すように、光ディスクの記録未記録境界を横切る瞬間にトラッキングエラー信号TESにオフセットが発生していることが分かる。通常、トラッキング制御はトラッキングエラー信号TESのゼロクロス点でサーボ制御しているため、このようなオフセットが発生すると、単純に光ディスク上の記録トラックからスポットが外れるだけでなく、トラッキング制御自体を行えなくなる問題が発生する。このため、安定したトラッキング制御を行うためにはこの記録未記録境界オフセットを抑制する必要がある。
【0040】
また図6に示すように、対物レンズ8の変位量が大きければ大きいほど記録未記録境界オフセットも大きくなる傾向にある。よって、図中の矢印のように記録未記録境界オフセットが大きくなると、トラッキング制御を安定して行うことができなくなるという問題がある。以下、この原因を簡単に説明する。
【0041】
図7(B)は、図7(A)のようにメインビームが光ディスク上に形成するスポットが当該光ディスクの径方向に移動する際に、記録トラック上又は記録トラック間の溝部において発生するメインビームの0次光及び±1次光の位置関係を示す。この図7(B)からも明らかなように、メインビームが光ディスクにおいて回折することにより得られる0次光及び+1次光の干渉領域は0次光の分割線l1を超えない範囲であり、これと同様に、かかる0次光及び−1次光の干渉領域も、0次光の分割線l1を超えない範囲となっている。
【0042】
一方、図8(B)は、かかるスポットが図8(A)のように光ディスクの記録未記録境界を横切る際に発生するメインビームの0次光及び±1次光の位置関係を示す。この図8(B)からも明らかなように、スポットが光ディスクの記録未記録境界を横切る場合、かかる0次光及び+1次光の干渉領域がメインビームの分割線l1を越えて発生し、0次光及び−1次光の干渉領域もメインビームの分割線1を越えて発生する。つまり、スポットが光ディスクの記録未記録境界を横切る際に、0次光及び+1次光の干渉領域と、0次光及び−1次光の干渉領域とが重複した領域が発生することになる。
【0043】
図9は、メイン光スポットが光ディスクの記録未記録境界を横切る際における、メインビームの0次光の領域分布を示す。この図9において、領域Cはプッシュプル信号が発生する領域、領域Bは、記録未記録境界のオフセットが発生する領域であり、領域Aは、0次光及び+1次光の干渉領域と、0次光及び−1次光の干渉領域とが重複した領域である。この記録未記録境界オフセットは、プッシュプル信号と同様に干渉信号である。なお、記録未記録境界オフセットについての詳細は、電子通信学会CPM2005−149において説明されているので、ここでの説明は省略する。
【0044】
図10は、従来型インラインDPP方式における記録未記録境界オフセットを発生する干渉領域のみを模式的に示した図である。実際には記録未記録境界のオフセットを発生する干渉領域のみだけでは発生しないが説明を簡単にするため記載した。さらに、図10では、説明を簡略化するため光ディスクの記録未記録境界で発生する0次光と±1次光との間の位相差分は加味されていない。
【0045】
まず図10(B)で示されるメインプッシュプル信号MPPに関しては図4(B)と同じ記録未記録境界信号が検出される。これに対して、図10(A)及び図10(C)で示される第1及び第2のサブプッシュプル信号SPP1,SPP2に関しては、位相差が180度となっているため、干渉信号である記録未記録境界オフセットはメインプッシュプル信号MPPに対して反転することになる。このためメインプッシュプル信号MPPの記録未記録境界オフセットと、第1及び第2のサブプッシュプル信号の記録未記録境界オフセットとは反転する。よって、(1)式によりトラッキングエラー信号を検出すると、記録未記録境界オフセットは抑制できない。
【0046】
図6について上述したように、この問題は、対物レンズ8の変位量が大きければ大きい程顕著となる。その理由を、図11を参照して説明する。図11において、図11(B)は、対物レンズがシフトしていない状態、図11(A)は、対物レンズ8が外周側に所定量(例えば0.2mm)変位した状態、図11(C)は、対物レンズ8が内側に所定量(例えば0.2mm)変位した状態をそれぞれ示す。
【0047】
図11(B)に示すように、サブビームのスポットが光ディスクの記録未記録境界を横切る際に、対物レンズ8が光ディスクの外周側及び内周側のいずれにもシフトしていない場合、サブビームにおける光量分布は分割線l1を中心として左右対称となっている為、記録未記録境界オフセットは小さい。
【0048】
一方、サブビームのスポットが光ディスクの記録未記録境界を横切る際、図11(A)又は図11(C)のように対物レンズ8が光ディスクの外周側又は内周側に変位している場合には、サブビームにおける光量分布のバランスが崩れ、分割線l1を中心として左右部分のいずれか一方の光量が大きくなる。この結果、メインプッシュプル信号MPPのDC成分の絶対値に対してサブプッシュプル信号SPPのDC成分の絶対値が大きくなり、(1)式の演算結果が「0」にならないため、記録未記録境界オフセットが発生することになる。よって、記録未記録領域オフセットを小さくする為には、サブプッシュプル信号SPPのDC成分の影響を小さくする必要がある。
【0049】
サブプッシュプル信号SPPのDC成分を小さくするにはk値を小さくすればよいが、
メインプッシュプル信号MPPとサブプッシュプル信号SPPの信号が同じとなるように設定するk値に対して小さくすると、トラッキング制御に影響がある。図12に対物レンズ8の変位量に対するメインプッシュプル信号MPPのDC成分及びk倍したサブプッシュプル信号SPPのDC成分と、(1)式により算出される差分プッシュプル信号DPP(トラッキングエラー信号TES)のDC成分との関係を示す。メインプッシュプル信号MPPとサブプッシュプル信号SPPの信号が同じとなるk値を1.0と設定した場合、k値を0.9(10パーセント低減)にするとメインプッシュプル信号MPPのDC成分とサブプッシュプル信号SPPのDC成分に隔離が発生し、差分プッシュプル信号DPPのDC成分が残ることになり、トラッキング制御が悪くなる。
【0050】
そこで、本実施の形態のインラインDPP方式は、従来型インライン方式よりも設定するk値が小さくなるように、回折格子の格子構造を工夫した点を特徴としている。以下、トラッキングエラー信号の検出方式としてこのような本実施の形態によるインラインDPP方式を適用した本実施の形態による光ピックアップ装置について説明する。
【0051】
(2)本実施の形態による光ピックアップ装置の概略構成
図13は、本実施の形態による光ピックアップ装置20の概略構成を示す。この光ピックアップ装置20は、回折格子21の格子構造図1の回折格子3の格子構造と異なる点を除いて図1について上述した光ピックアップ装置1と同様に構成されている。
【0052】
実際上、本実施の形態による回折格子21は、図14(A)に示すように、全体として正方形状の単板構造を有し、格子ピッチが同じで格子溝の位相が互いに異なる第1〜第4の格子領域21A〜21Dから構成される。具体的に、回折格子21は、矢印xで示す横方向(光ディスクの径方向に相当)のほぼ中央付近に設定された分割線L10を境として、格子面が第1及び第2の格子領域21A,21Bの2つの領域に大きく分割されている。また第1の格子領域21A内には、矢印yで示す縦方向(横方向と直交する方向であり、光ディスクの接線方向に相当)の中央付近に矩形形状の第3の格子領域21Cが形成されると共に、第2の格子領域21Bには、縦方向の中央付近に矩形形状の第4の格子領域21Dが形成されている。
【0053】
この場合、第3及び第4の格子領域21C,21Dは、分割線L10を間に挟んで所定距離だけ離反するように形成されており、これにより、回折格子21の縦方向の中央付近に第3の格子領域21C、第1の格子領域21A、第2の格子領域21B及び第4の格子領域21Dが横方向に順番に並ぶように配置されている。
【0054】
図14(B)に示すように、第1の格子領域21Aには、第2の格子領域21Bの格子パターンに対して溝方向及び溝周期が同一で180度の位相差を有する格子パターンが形成されると共に、第3の格子領域21Cには、第2の格子領域21Bの格子パターンに対して溝方向及び溝周期が同一で−90度の位相差を有する格子パターンが形成され、第4の格子領域21Dには、第2の格子領域21Bの格子パターンに対して溝方向及び溝周期が同一で90度の位相差を有する格子パターンが形成されている。
【0055】
また、図14(C)に示すように、第1の格子領域21Aには、第2の格子領域21Bの格子パターンに対して溝方向及び溝周期が同一で180度の位相差を有する格子パターンが形成されると共に、第3の格子領域21Cは第2の格子領域21Bの格子パターンに対して、溝方向及び溝周期が同一で90度の位相差を有する格子パターンが形成されると共に、第4の格子領域21Dには第2の格子領域21Bの格子パターンに対して、溝方向及び溝周期が同一で−90度の位相差を有する格子パターンを形成されているものでも同じである。
【0056】
図15は、上述した本実施の形態による回折格子21を利用した本実施の形態によるインラインDPP方式において、回折格子21を回折した後のメインビーム内及び各サブビーム内に発生する位相差と、光ディスクで回折した後にこれらメインビーム内及び各サブビーム内に発生する位相差とをそれぞれ示している。図中の分割線l10は、回折格子21の分割線L10(図14)に相当する。なお、図15では、メインビーム及び各サブビーム間の位相関係や、サブビーム同士間の位相関係については、何も示していない。また説明を簡略化するため、光ディスクを回折後のメインビーム及び各サブビームの位相差については、光ディスクの記録トラックによって発生する0次光と±1次光との間の位相差分は加味していない。
【0057】
この図15(B)からも明らかなように、本実施の形態による回折格子21(図14)を回折した後のメインビームは、分割線l10を基準として図15(B)の左右部分の位相差が0となっている。つまりメインビームは分割線l10を基準として図15(B)の左右部分に位相差がない。これに対して、回折格子21を回折した後の各サブビームは、分割線l10を基準として図15(B)の左右部分間でほぼ180度の位相差が発生する。
【0058】
メインビームは、この後、光ディスク上で0次光及び±1次光に分離(回折)された後に、上述のように受光素子10(図13)の対応する受光面10A〜10C(図3)に入射する。そして、メインビームが受光面10Aに形成するメイン光スポットMSP(図3)の位置に応じたプッシュプル信号が減算器11A(図3)から出力される。
【0059】
メインビームの場合、図15(B)からも明らかなように、光ディスクの記録トラックで回折することにより得られる0次光及び+1次光の干渉領域の位相は、メインビームの他の領域と同相(位相0度)であり、0次光及び−1次光の干渉領域の位相も同様にメインビームの他の領域と同相(位相0度)となる。
【0060】
一方、各サブビームは、回折格子21から出射後、光ディスク上でそれぞれ0次光及び±1次光に分離(回折)される。この場合、各サブビームには上述のように分割線l10を基準として左右部分でほぼ180度の位相差が生じているため、サブビームが光ディスク上で回折することにより得られる0次光及び+1次光の干渉領域の位相と、0次光及び−1次光の干渉領域の位相とは、いずれもメインビームの位相に対して180度反転した位相となる。
【0061】
このため干渉信号であるプッシュプル信号は、図4について上述した従来型インラインDPP方式の場合と同様に、スポット位置に対して反転した信号(逆相の信号)となる。つまりプッシュプル信号のAC成分は干渉信号であるから、メインプッシュプル信号MPPと、第1及び第2のサブプッシュプル信号SPP1,SPP2とが逆相(第1及び第2のサブプッシュプル信号PP1,SPP2同士は同相)となる。よって、本実施の形態による回折格子21を用いた本実施の形態によるインラインDPP方式の場合においても、従来型インラインDPP方式と同様の方法によりトラッキングエラー信号TESを検出することができる。
【0062】
ここで、図16は図2について上述した従来の回折格子(以下、これを従来型回折格子と呼ぶ)3により回折されたサブビームが光ディスク上に形成するスポットの光量分布と、図13について上述した本実施の形態による回折格子21により回折されたサブビームが光ディスク上に形成するスポットの光量分布とを示す。
【0063】
従来型回折格子3により回折されたサブビームが光ディスク上に形成するスポットは、図16(A−1)に示すように、当該スポットにおける光ディスクの径方向の両端部に光量が集中しており、対物レンズ8が基準位置に位置している状態では、これら両端部における光量はほぼ同じである。よって、サブビームの光ディスクにおける反射光が受光素子10の対応する受光面10B,10Cに形成するサブ光スポットSSP1,SSP2のスポット径中心と、サブ光スポットSSP1,SSP2の光量中心とが同じとなる。
【0064】
また従来型回折格子3により回折されたサブビームが光ディスク上に形成するスポットにおいては、図16(A−2)に示すように、対物レンズ8が基準位置から0.2mmシフトした場合においても、当該スポットにおける光ディスクの径方向の両端部における光量はほぼ同じであるため、受光素子10の対応する受光面10B,10Cに形成するサブ光スポットSSP1,SSP2は、当該サブ光スポットSSP1,SSP2のスポット径中心と、サブ光スポットSSP1,SSP2の光量中心とがほぼ同じとなる。
【0065】
一方、本実施の形態による回折格子21により回折されたサブビームが光ディスク上に形成するスポットは、図16(B−1)に示すように、従来型回折格子3と同様に、当該スポットにおける光ディスクの径方向の両端部に光量が集中しており、対物レンズ8が基準位置に位置している状態では、これら両端部における光量はほぼ同じである。よって、受光素子10の対応する受光面10B,10Cに形成するサブ光スポットSSP1,SSP2のスポット中心と、サブ光スポットSSP1,SSP2の光量中心とが同じとなる
【0066】
これに対して、対物レンズ8が基準位置から±0.2mmシフトした場合、回折格子21により回折されたサブビームが光ディスク上に形成するスポットは、図16(B−2)に示すように、両端部の光量がアンバランスとなる。この結果、受光素子10の対応する受光面10B,10Cに形成するサブ光スポットSSP1,SSP2の光量中心がスポット径中心に対してずれる。これは対物レンズがシフトした時に受光面上ではメインプッシュプル信号MPPに対してサブプッシュプル信号SPPの移動量(DC成分)が従来型インラインDPP方式よりも大きくなる。
【0067】
図17は、図14について上述した本実施の形態の回折格子21を利用した本実施の形態のインラインDPP方式における、対物レンズ8の変位量に対するメインプッシュプル信号MPPのDC成分と、サブプッシュプル信号SPPのDC成分と、差分プッシュプル信号DPPのDC成分との関係を示す。
【0068】
本実施の形態のインラインDPP方式ではk値の設定値1.0(従来型インラインDPP方式)に対して、0.9(10パーセント低減)がメインプッシュプル信号MPPのDC成分とサブプッシュプル信号SPPのDC成分が一致する。よってk値を従来型インラインDPP方式よりも小さく設定できる。
【0069】
図18(A)は、トラッキングエラー信号の検出方式として従来型インラインDPP方式を採用した場合における、記録未記録境界オフセットのオフセット量と、対物レンズの変位量との関係を示す。また図18(B)は、トラッキングエラー信号の検出方式として本実施の形態によるインラインDPP方式を採用した場合における、記録未記録境界オフセットのオフセット量(パーセント)と、対物レンズ8の変位量との関係を示す。
【0070】
ここでは、記録未記録境界におけるトラッキングエラー信号の最大値をa(図5参照)とし、最小値をb(図5参照)として、記録未記録境界オフセットのオフセット量OSを次式
(数2)
OS=(a+b)/2(a−b) ……(2)
により算出するものとしている。
【0071】
この図18(A)及び図18(B)からも明らかなように、本実施の形態のインラインDPP方式では、オフセット量OSが従来型インラインDPP方式よりも、対物レンズ変位量±0.3mm付近で、10パーセント低減することが分かる。
【0072】
図19(B)は、図19(A)に示すように、半導体レーザ2から発射されて回折格子21に入射するレーザ光のビーム径に対する第3及び第4の格子領域間の幅の割合(以下、これを第1の分割幅割合と呼ぶ)をWAとし、当該ビーム径に対する第3及び第4の格子領域の縦方向(矢印y方向)の幅の割合(以下、これを第2の分割幅割合と呼ぶ)をWBとしたときの第1及び第2の分割幅割合WA,WBと、k値との関係を示す。
【0073】
この図19(B)からも明らかなように、第1の分割幅割合WAを一定にした場合、第2の分割幅割合WBが小さいほど記録未記録境界オフセットの改善効果として同じ効果を得るためのk値が小さくなる。また、第2の分割幅割合WBを一定にした場合、第1の分割幅割合WAを大きくするほど、記録未記録境界オフセットの改善効果として同じ効果を得るためのk値が小さくなる。
【0074】
従って、かかる回折格子21を利用した本実施の形態によるインラインDPP方式の場合、第1の分割幅割合WAをなるべく大きくし、かつ第2の分割幅割合WBをなるべく小さくすることによって(1)式のk値を小さくすることができることが分かる。つまり本実施の形態によるインラインDPP方式では、このようにすることによって記録未記録境界オフセットのオフセット量を小さくすることができ、これにより記録未記録境界におけるトラッキングエラー信号TESの特性を改善することができる。
【0075】
本実施の形態のインラインDPP方式のk値を設定値1.0(従来型インラインDPP方式)に対して、0.9(10パーセント低減)以下とする為の第1の分割幅割合WA及び第2分割幅割合WBの条件は、図19(B)より、回折格子に入射する前記レーザ光のビーム径の第2の分割幅がほぼ50パーセントの場合は、第1の分割幅割合WAは、ほぼ17.5パーセント以上、回折格子に入射する前記レーザ光のビーム径の第2の分割幅がほぼ40パーセントの場合は、第1の分割幅割合WAはほぼ15パーセント以上となる。
【0076】
回折格子に入射する前記レーザ光のビーム径の第2の分割幅がほぼ40パーセント以下の場合は、記録未記録境界における改善効果が40パーセントとほぼ同じ為、第1の分割幅割合WAが、15パーセント以上と規定できる。
【0077】
(3)本実施の形態による光ディスク装置の構成
図20は、図13について上述した本実施の形態による光ピックアップ装置20が搭載された本実施の形態による光ディスク装置30の概略構成を示す。
【0078】
この図20において、光ピックアップ装置20は、図示しない駆動機構により光ディスク31の径方向にスライド自在に保持されており、この駆動機構をアクセス制御回路32が駆動制御することにより、光ディスク31に対する光ピックアップ装置20のアクセス位置が制御される。
【0079】
レーザ点灯回路33からは所定のレーザ駆動電流が光ピックアップ装置20内の半導体レーザ2(図13)に供給され、所定の光量で光束が発射される。また光ピックアップ装置20内の受光素子10(図13)から出力される光電変換信号に基づいて生成された各種検出信号(例えば図3のメインプッシュプル信号MPPや第1及び第2のサブプッシュプル信号SPP1,SPP2)は、サーボ信号生成回路34及び情報信号再生回路35に与えられる。
【0080】
サーボ信号生成回路34は、光ピックアップ装置20から与えられる各種検出信号に基づいてフォーカスエラー信号や上述のトラッキングエラー信号TESを生成し、生成したこれらフォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号TESをアクチュエータ駆動回路36に送信する。かくしてアクチュエータ駆動回路36は、サーボ信号生成回路34から与えられるフォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号TESに基づいて、光ピックアップ装置20内の対物レンズ8を保持する2次元アクチュエータを駆動することにより、対物レンズ8(図13)の位置制御を行う。また情報信号再生回路35は、光ピックアップ装置20から与えられる検出信号(RF信号)に基づいて光ディスク31に記録された情報信号を再生する。
【0081】
なおサーボ信号生成回路34及び情報信号再生回路35で得られた信号の一部はコントロール回路37に送られる。このコントロール回路37には、レーザ点灯回路33やアクセス制御回路32、スピンドルモータ駆動回路38など接続されており、それぞれ光ピックアップ装置20内の半導体レーザ2に対する発光光量の制御、アクセス方向及び位置の制御、光ディスク31を回転させるスピンドルモータ39の回転制御等が行われる。また、コントロール回路37の内部にはサーボ信号生成回路34及び情報信号再生回路35で得られた信号から光ディスク31の種類を判別するディスク判別回路(図示せず)が設けられており、その判別結果から例えばサーボ信号生成回路34の内部に備えられた上述の増幅器13(図3)の増幅ゲイン(上述したk値に相当)等が自動的にコントロールされる。
【0082】
(4)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態による光ピックアップ装置によれば、(1)式のk値の値を低減することができるため、記録未記録境界オフセットのオフセット量を低減することができる。かくするにつき、記録未記録境界におけるトラッキングエラー信号の乱れを有効に防止し得、かくして安定したトラッキング制御を行い得る信頼性の高い光ピックアップ装置を実現できる。
【0083】
(5)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、本発明を図13のように構成された光ピックアップ装置20に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々の構成の光ピックアップ装置に広く適用することができる。
【0084】
また上述の実施の形態においては、本実施の形態による回折格子21を図14のように構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、要は、格子面が第1の方向と平行な分割線を境として全体として第1及び第2の格子領域の2つの領域に分割され、第1の格子領域内には第3の格子領域が形成されると共に、第2の格子領域内には第4の格子領域が形成され、第1乃至第4の格子領域が、格子面における第1の方向の中央付近に、第3の格子領域、第1の格子領域、第2の格子領域及び第4の格子領域が第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置、及び前記第1の格子領域、前記第2の格子領域が中央付近以外に前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、第1乃至第4の格子領域の溝方向及び溝周期は同じであり、第1の格子領域の格子パターンは第2の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有し、第3の格子領域の格子パターンは第2の格子領域の格子パターンに対して−90度の位相差を有し、第4の格子領域の格子パターンは第2の格子領域の格子パターンに対して90度の位相差を有するように構成するのであれば、回折格子21の構成としては、この他種々の構成を広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明はトラッキングエラー信号の検出方式としてインラインDPP方式が適用された光ピックアップ装置及び光ディスク装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1,20……光ピックアップ装置、2……半導体レーザ、3,21……回折格子、3A〜3D,21A〜21D……格子領域、8……対物レンズ、10……受光素子、10A〜10C……受光面、30……光ディスク装置、MPP……メインプッシュプル信号、MSP……メイン光スポット、SPP,SPP1,SPP2……サブプッシュプル信号、SSP1,SSP2……サブ光スポット、TES……トラッキングエラー信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射するレーザ光を、少なくとも3つの光束に分離する回折格子において、
格子面を第1の方向と平行な分割線を境として2分割することにより形成された第1及び第2の格子領域と、
前記第1の格子領域内に形成された第3の格子領域と、
前記第2の格子領域内に形成された第4の格子領域とを備え、
前記格子面の中央付近において、前記第3の格子領域、前記第1の格子領域、前記第2の格子領域及び前記第4の格子領域が前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、かつ前記第1の格子領域、前記第2の格子領域が前記格子面の中央付近以外において前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、
前記第1乃至第4の格子領域の溝方向及び溝周期は同じであり、
前記第1の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有し、前記第3の格子領域の格子パターンは前記第4の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有する
ことを特徴とする回折格子。
【請求項2】
前記第3の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して−90度の位相差を有し、前記第4の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して90度の位相差を有し、
又は、前記第3の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して90度の位相差を有し、前記第4の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して−90度の位相差を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の回折格子。
【請求項3】
前記第3及び第4の格子領域の前記第1の方向の幅が、前記回折格子に入射する前記レーザ光のビーム径のほぼ50パーセント以下の大きさに選定された
ことを特徴とする請求項1に記載の回折格子。
【請求項4】
前記第3及び第4の格子領域の前記第2の方向の幅が、前記回折格子に入射する前記レーザ光のビーム径のほぼ15パーセント以上の大きさに選定された
ことを特徴とする請求項1に記載の回折格子。
【請求項5】
レーザ光を発射する半導体レーザと、
前記半導体レーザから発射されたレーザ光を、少なくとも3つの光束に分離する回折格子と、
前記回折格子により分離された前記3つの光束を光ディスクの記録面上に集光する対物レンズと、
前記光ディスクの記録面において反射された前記3つの光束を受光する受光素子と
を備え、
前記回折格子は、
格子面が第1の方向と平行な分割線を境として全体として第1及び第2の格子領域の2つの領域に分割され、前記第1の格子領域内には第3の格子領域が形成されると共に、前記第2の格子領域内には第4の格子領域が形成され、前記格子面の中央付近において、前記第3の格子領域、前記第1の格子領域、前記第2の格子領域及び前記第4の格子領域が前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、かつ前記第1の格子領域、前記第2の格子領域が前記格子面の中央付近以外において前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、
前記第1乃至第4の格子領域の溝方向及び溝周期は同じであり、
前記第1の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有し、前記第3の格子領域の格子パターンは前記第4の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有する
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項6】
光ディスクに対してレーザ光を照射し、当該レーザ光の前記光ディスクにおける反射光を受光し、受光した前記反射光を光電変換することにより得られた検出信号を出力する光ピックアップと、
前記光ピックアップから出力される前記検出信号に基づくトラッキングエラー信号を生成するサーボ信号生成部と、
前記サーボ信号生成部から与えられる前記トラッキングエラー信号に基づいてトラッキング制御を行うトラッキング制御部と
を有し、
前記光ピックアップは、
レーザ光を発射する半導体レーザと、
前記半導体レーザから発射されたレーザ光を、少なくとも3つの光束に分離する回折格子と、
前記回折格子により分離された前記3つの光束を光ディスクの記録面上に集光する対物レンズと、
前記光ディスクの記録面において反射された前記3つの光束を受光する受光素子と
を備え、
前記回折格子は、
格子面が第1の方向と平行な分割線を境として全体として第1及び第2の格子領域の2つの領域に分割され、前記第1の格子領域内には第3の格子領域が形成されると共に、前記第2の格子領域内には第4の格子領域が形成され、前記格子面の中央付近において、前記第3の格子領域、前記第1の格子領域、前記第2の格子領域及び前記第4の格子領域が前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、かつ前記第1の格子領域、前記第2の格子領域が前記格子面の中央付近以外において前記第1の方向と直交する第2の方向に順番に並ぶように配置され、
前記第1乃至第4の格子領域の溝方向及び溝周期は同じであり、
前記第1の格子領域の格子パターンは前記第2の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有し、前記第3の格子領域の格子パターンは前記第4の格子領域の格子パターンに対して180度の位相差を有する
ことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項7】
前記光ピックアップ内の前記回折格子における前記第3及び第4の格子領域の前記第1の方向の幅が、前記回折格子に入射する前記レーザ光のビーム径の略50パーセント以下の大きさに及び、前記第3及び第4の格子領域の前記第2の方向の幅が、前記回折格子に入射する前記レーザ光のビーム径の15パーセント以上の大きさに選定された
ことを特徴とする請求項6に記載の光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−234587(P2012−234587A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100602(P2011−100602)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】