回転式ポンプ及びその回転式ポンプを備えたブレーキ装置
【課題】インナーロータ及びアウターロータとサイドプレート端面との接触による損失トルクを低減する。
【解決手段】アウターロータと第2のサイドプレート72との間の如くメカニカルシールされる部位において、油溝72cを形成することにより、油溝72cの面積分、アウターロータの軸方向端面と第2のサイドプレート72の接触面積を減少させ、接触抵抗を低減する。また、油溝72cに吐出圧を導入し、油溝72c内の吐出圧によってアウターロータを第1のサイドプレート側に押し返し、アウターロータが第2のサイドプレート72に押し付けられる力を低減し、損失トルクを低減する。
【解決手段】アウターロータと第2のサイドプレート72との間の如くメカニカルシールされる部位において、油溝72cを形成することにより、油溝72cの面積分、アウターロータの軸方向端面と第2のサイドプレート72の接触面積を減少させ、接触抵抗を低減する。また、油溝72cに吐出圧を導入し、油溝72c内の吐出圧によってアウターロータを第1のサイドプレート側に押し返し、アウターロータが第2のサイドプレート72に押し付けられる力を低減し、損失トルクを低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を吸入・吐出する回転式ポンプ及び回転式ポンプを用いたブレーキ装置に関し、特にトロコイドポンプ等の内接歯車ポンプに適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、トロコイドポンプ等の内接歯車型の回転式ポンプとして、特許文献1に示されるものがある。この回転式ポンプは、外周に外歯部を備えたインナーロータ、内周に内歯部を備えたアウターロータ、及びこれらアウターロータとインナーロータを収納するケーシング等から構成されている。インナーロータ及びアウターロータは、内歯部と外歯部とが互いに噛み合わさり、これら互いの歯によって複数の空隙部を形成した状態でケーシング内に配置されている。
【0003】
インナーロータとアウターロータの両中心軸を通る線をポンプの中心線とすると、この中心線を挟んだ両側には、上記複数の空隙部と連通する吸入口や吐出口が備えられている。ポンプ駆動時には、インナーロータの中心軸を駆動軸として、この駆動軸を介してインナーロータが回転運動し、それに伴って外歯部と内歯部の噛合によりアウターロータも同方向へ回転する。このときに、それぞれの空隙部の容積がアウターロータ及びインナーロータが1回転する間に大小に変化して吸入口からオイルを吸入し、吐出口でオイルを吐き出すようになっている。
【0004】
そして、この回転式ポンプにおける軸方向端面のシールは、両面ともに、樹脂からなる樹脂部材で行われており、この樹脂部材がゴムなどの弾性体からなる弾性部材によって押圧されてシール機構を果たす機構となっている。
【特許文献1】特開平2000−179466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報のように、軸方向の両端面共に樹脂製のシール手段を用いたシール方法を採用することはコストアップの要因となる。このため、一端面側のみを樹脂製のシール手段にてシールし、他端面側はインナーロータ及びアウターロータを第2のサイドプレートヘ直接押し当てるメカニカルシールとすることで、コスト削減を図ることが考えられる。
【0006】
このメカニカルシールは金属製のインナーロータ及びアウターロータを金属製のサイドプレートにシール材の弾性力等により強く押し当ててシールする構造である。よって、アウターロータ、インナーロータ、およびサイドプレートの摺動面の損失トルクが大きいとポンプ吐出能力に影響を与え、モータ体格を大きくしなければならない等の弊害を生じる。
【0007】
また、アウターロータ、インナーロータとサイドプレート間の摺動面において回転の損失トルクが大きい部分と小さい部分とが生じる場合、ポンプの高速あるいは長時間の回転に伴って損失トルクが大きい部分で発熱を生じ、この発熱部分が膨張することによるポンプ吐出能力への弊害も考えられる。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みて成され、インナーロータ及びアウターロータとケーシング(サイドプレート)端面との接触による損失トルクを低減した、あるいは/および損失トルクを均一化した回転式ポンプ及びそれを用いたブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記目的を達成するため、以下の技術的手段を採用する。請求項1に記載の発明では、内周に内歯部(51a)を有するアウターロータと、外周に外歯部(52a)を有すると共に駆動軸(54)を軸として回転運動するインナーロータ(52)とを備え、前記内歯部と外歯部との噛み合いの間に複数の空隙部(53)が形成された回転部と、前記回転部の一方の軸方向端面側に配置された第1のサイドプレート(71)と、前記回転部の他方の軸方向端面側に配置され、前記アウターロータおよびインナーロータの軸方向端面との接触面がメカニカルシールを行う第2のサイドプレート(72)と、を含み、前記回転部を覆うように形成されたケーシング(50)と、前記ケーシングに設けられ、前記回転部に流体を吸引する吸入口(60)と前記回転部から流体を吐出する吐出口(61)と、前記ケーシングの内部の前記回転部が内包される空間を、前記吸入口と接続された低圧側の空間と前記吐出口と接続された高圧側の空間とに分割するシール手段と、前記アウターロータの軸方向端面と対向する前記第2のサイドプレートの部位の前記内歯部に重ならない部位に設けられ、前記高圧側の空間に跨り前記低圧側の空間には跨ることなく形成された油溝(72c)と、を備えることを特徴としている。
【0010】
すなわちこの発明では、アウターロータと第2のサイドプレートとの間の如くメカニカルシールされる部位において、油溝をアウターロータあるいは第2のサイドプレートの少なくとも一方に形成することにより、油溝の面積分、アウターロータの軸方向端面と第2のサイドプレートの接触面積を減少させる。したがって、アウターロータと第2のサイドプレートとの間の接触抵抗を低減できる。
【0011】
なお、請求項2に記載の如く、高圧側空間と低圧側の空間は、複数の空隙部の部分とアウターロータの外円周とケーシングとの間の部分との双方に設けられ、複数の空隙部の高圧側の空間の部位と、アウターロータの外円周とケーシングとの間の高圧側の空間の部位とが回転部の半径方向で重なる範囲において、油溝が形成されるようにしてもよい。
【0012】
メカニカルシールされるアウターロータと第2のサイドプレートとの間の流体の流動は、複数の空隙部の部位の流体圧と、アウターロータの外円周とケーシングとの間の部位の流体圧との差圧がない部分では、研磨筋に沿う流体の移動あるいは回転体の遠心力による流体の移動による潤滑以外は存在しない。逆に、複数の空隙部の部位の流体圧と、アウターロータの外円周とケーシングとの間の部位の流体圧との差圧が存在する部分、すなわち高圧側の空間と低圧側の空間との半径方向の位置が重なる場合には、この差圧により高圧側から低圧側にメカニカルシールされている部位を流体が移動する。よって、複数の空隙部の部位の流体圧と、アウターロータの外円周とケーシングとの間の部位の流体圧との差圧がない部分が最も潤滑が悪いと考えられ、この部位に油溝を設ければ、いっそう効果的にアウターロータと第2のサイドプレートとの間の接触抵抗を低減できる。
【0013】
なお、本発明における回転式ポンプは、請求項3に示すように、踏力に基づいてブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段(1〜3)と、ブレーキ液圧に基づいて車輪に制動力を発生させる制動力発生手段(4、5)と、ブレーキ液圧発生手段に接続され、制動力発生手段にブレーキ液圧を伝達する主管路(A)と、ブレーキ液圧発生手段に接続され、制動力発生手段が発生させる制動力を高めるために、主管路側にブレーキ液を供給する補助管路(D)とを有するブレーキ装置において、吸入口が補助管路を通じてブレーキ液圧発生手段側のブレーキ液を吸入でき、吐出口が主管路を通じて制動力発生手段に向けてブレーキ液を吐出できるように配置される。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、第1実施形態は参考例であり、第2〜第4実施形態が特許請求の範囲に記載した発明の実施形態に相当する。
【0016】
(第1実施形態)
以下、図に示す実施形態について説明する。図1に、回転式ポンプとしてトロコイドポンプを適用したブレーキ装置のブレーキ配管概略図を示す。以下、ブレーキ装置の基本構成を、図1に基づいて説明する。本実施形態では、前輪駆動の4輪車において、右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管の油圧回路を構成する車両に、本発明によるブレーキ装置を適用した例について説明する。
【0017】
図1に示すように、ブレーキペダル1は倍力装置2と接続されており、この倍力装置2によりブレーキ踏力等が倍力される。そして、倍力装置2は、倍力された踏力をマスタシリンダ3に伝達するプッシュロッド等を有しており、このプッシュロッドがマスタシリンダ3に配設されたマスタピストンを押圧することによりマスタシリンダ圧が発生する。なお、これらブレーキペダル1、倍力装置2及びマスタシリンダ3がブレーキ液圧発生手段に相当する。
【0018】
また、このマスタシリンダ3には、マスタシリンダ3内にブレーキ液を供給したり、マスタシリンダ3内の余剰ブレーキ液を貯留するマスタリザーバ3aが接続されている。
【0019】
そして、マスタシリンダ圧は、アンチロックブレーキ装置(以下、ABSという)を介して右前輪FR用のホイールシリンダ4及び左後輪RL用のホイールシリンダ5へ伝達されている。以下の説明は、右前輪FR及び左後輪RL側について説明するが、第2の配管系統である左前輪FL及び右後輪RR側についても全く同様であるため、説明は省略する。
【0020】
そして、このブレーキ装置はマスタシリンダ3に接続する管路(主管路)Aを備えており、この管路Aには比例制御弁(PV:プロポーショニングバルブ)22が備えられている。そして、この比例制御弁22によって管路Aは2部位に分けられている。すなわち管路Aは、マスタシリンダ3から比例制御弁22までの間においてマスタシリンダ圧を受ける管路A1と、比例制御弁22から各ホイールシリンダ4、5までの間の管路A2に分けられる。
【0021】
この比例制御弁22は、通常、正方向にブレーキ液が流動する際には、ブレーキ液の基準圧を所定の減衰比率をもって下流側に伝達する作用を有している。そして、図1に示すように、比例制御弁22を逆接続することにより、管路A2側が基準圧となる。
【0022】
また、管路A2において、管路Aは2つに分岐しており、一方にはホイールシリンダ4へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁30が備えられ、他方にはホイールシリンダ5へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁31が備えられている。
【0023】
これら増圧制御弁30、31は、ABS用の電子制御装置(以下、ECUという)により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。そして、この2位置弁が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ圧あるいはポンプのブレーキ液の吐出によるブレーキ液圧を各ホイールシリンダ4、5に加えられるようになっている。これら増圧制御弁30、31は、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキ時には、常時連通状態に制御されている。
【0024】
なお、増圧制御弁30、31には、それぞれ安全弁30a、31aが並列に設けられており、ブレーキ踏み込みを止めてABS制御が終了したときにホイールシリンダ4、5側からブレーキ液を排除するようになっている。
【0025】
また、第1、第2の増圧制御弁30、31と各ホイールシリンダ4、5との間における管路Aとリザーバ20のリザーバ孔20aとを結ぶ管路Bには、ABS用のECUにより連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁32、33がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁32、33はノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では、常時遮断状態とされている。
【0026】
管路Aの比例制御弁22と増圧制御弁30、31とリザーバ20のリザーバ孔20aとを結ぶ管路Cには回転式ポンプ10が安全弁10a、10bに挟まれて配設されている。この回転式ポンプ10にはモータ11が接続されており、このモータ11によって回転式ポンプ10が駆動されるようになっている。なお、この回転式ポンプ10についての詳細な説明は後述する。
【0027】
また、回転式ポンプ10が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、管路Cのうち回転式ポンプ10の吐出側にはダンパ12が配設されている。そして、リザーバ20と回転式ポンプ10の間と、マスタシリンダ3とを接続するように管路(補助管路)Dが設けられており、回転式ポンプ10はこの管路Dを介して管路A1のブレーキ液を吸入し、管路A2へ吐出することによってホイールシリンダ4、5におけるホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧よりも高くして車輪制動力を高める。なお、比例制御弁22は、この際のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧を保持する。
【0028】
この管路Dには制御弁34が設けられており、この制御弁34はノーマルブレーキ時には常時遮断状態とされている。
【0029】
なお、このときの管路Dから伝えられる液圧により、管路Cからリザーバ20へ逆流しないように管路C及び管路Dの接続部とリザーバ20の間には逆止弁21が配設されている。
【0030】
さらに、管路Aのうち、管路Dとの接続点と比例制御弁22との間には、制御弁40が備えられている。この制御弁40は、通常は連通状態にされている2位置弁であり、マスタシリンダ圧が所定圧よりも低いときにホイールシリンダ4、5に急ブレーキをかける時、或いはTRC時に遮断され、マスタシリンダ側とホイールシリンダ側との差圧を保つようになっている。
【0031】
次に、図2(a)に回転式ポンプ10の模式図を示し、また図2(b)に図2(a)のA−A矢視断面図を示す。まず、図2(a)、(b)に基づき回転式ポンプ10の構造について説明する。
【0032】
この回転式ポンプ10におけるケーシング50のロータ室50a内には、アウターロータ51及びインナーロータ52がそれぞれの中心軸(図中の点Xと点Y)が偏心した状態で組付けられて収納されている。アウターロータ51は内周に内歯部51aを備えており、インナーロータ52は外周に外歯部52aを備えている。そして、これらアウターロータ51とインナーロータ52とが互いの歯部51a、52aによって複数の空隙部53を形成して噛み合わさっている。なお、図2(a)からも判るように、本実施形態の回転式ポンプ10は、アウターロータ51の内歯部51aとインナーロータ52の外歯部52aとで空隙部53を形成する、仕切り板(クレセント)なしの多数歯トロコイドタイプのポンプである。また、インナーロータ52の回転トルクを伝えるために、インナーロータ52とアウターロータ51とは複数の接触点を有している。
【0033】
図2(b)に示されるように、ケーシング50は、両ロータ51、52を両側から挟むように配置される第1のサイドプレート部71及び第2のサイドプレート部72と、これら第1、第2のサイドプレート部71、72間に配設され、アウターロータ51及びインナーロータ52を収容する孔が設けられた中央プレート部73とから構成されており、これらによってロータ室50aが形成されている。
【0034】
また、第1、第2のサイドプレート71、72の中心部には、ロータ室50a内と連通する中心孔71a、72aが形成されており、これら中心孔71aには駆動軸54が嵌入されている。そして、アウターロータ51及びインナーロータ52は、中央プレート部73の孔内において回転自在に配設される。つまり、アウターロータ51及びインナーロータ52で構成される回転部は、ケーシング50のロータ室50a内を回転自在に組み込まれ、アウターロータ51は点Xを軸として回転し、インナーロータ52は点Yを軸として回転することになる。
【0035】
さらに、アウターロータ51及びインナーロータ52のそれぞれの回転軸となる点Xと点Yを通る線を回転式ポンプ10の中心線Zとすると、第1のサイドプレート部71のうち中心線Zを挟んだ左右には、ロータ室50aへ連通する吸入口60と吐出口61が形成されている。この吸入口60及び吐出口61は、複数の空隙部53と連通する位置に配設されている。そして、吸入口60を介して外部からのブレーキ液を空隙部53内に吸入して、吐出口61を介して空隙部53内のブレーキ液を外部へ吐出することができるようになっている。
【0036】
複数の空隙部53のうち、体積が最大となる閉じ込み部53a、及び体積が最小となる閉じ込み部53bは、吸入口60及び吐出口61のいずれにも連通しないようになっており、この閉じ込み部53a、53bによって吸入口60における吸入圧と吐出口61における吐出圧との差圧を保持している。
【0037】
第1のサイドプレート部71には、アウターロータ51の外周と吸入口60とを連通する導通経路73a、さらにアウターロータ51の外周と吐出口61とを連通する導通経路73b、73cが設けられている。導通経路73aは、アウターロータ51の回転軸となる点Xを中心として中心線Zから吸入口60方向へ約90度の位置に配設されている。また、導通経路73bは、吐出口61と連通する複数の空隙部53のうち、最も、閉じ込み部53aに近い空隙部53とアウターロータ51の外周とを連通するように形成されており、また、導通経路73cは、吐出口61と連通する複数の空隙部53のうち、最も閉じ込み部53bに近い空隙部53とアウターロータ51の外周とを連通するように形成されている。そして、これら導通経路73bと導通経路73cは、それぞれ点Xを中心として中心線Zから吐出口61方向へ約22.5度の位置に配設されている。
【0038】
また、中央プレート73の孔を形成する中央プレート73の壁面であって、アウターロータ51の回転軸となる点Xを中心として中心線Zから吸引口60方向へ約45度の位置には、それぞれ凹部73dと凹部73eが形成されており、これら凹部73d、73e内にアウターロータ51の外周におけるブレーキ液の流動を抑制するためのシール部材80、81が備えられている。具体的には、シール部材80、81は、導通経路71bと導通経路71dの間に配設されており、アウターロータ51の外周において、ブレーキ液圧が低圧になる部分と高圧になる部分をシールするようになっている。
【0039】
シール部材80は、略円筒状をしたゴム部材80aと、直方体形状をしたテフロン(登録商標)製の樹脂部材80bとから構成されている。そして、樹脂部材80bはゴム部材80aによって押されて、アウターロータ51に接するようになっている。すなわち、製造誤差等によってアウターロータ51の大きさに若干の誤差分が生じるため、この誤差分を弾性力の有るゴム部材80aによって吸収できるようにしている。
【0040】
さらに、図2(b)に示されるように、第1サイドプレート部71には溝部71bが形成されている。この溝部71bは、図2(a)の二点鎖線で示されるように、駆動軸54を囲む円環状で構成されていると共に、所定領域において溝幅が広げられた構成となっている。具体的には、溝部71bの中心は、駆動軸54の軸中心に対して吸入口60側(紙面左側)に偏心した状態となっている。
【0041】
これにより、溝部71bは、吐出口61と駆動軸54の間を通って、閉じ込み部53a、53b、シール部材80、81がアウターロータ51をシールしている部分を通過するような配置となる。そして、溝部71bは、駆動軸54の軸と溝部71bの中心とを結んだ線を想定した時に、その線が吸入口60又は吐出口61と交差する位置において、インナーロータ51とアウターロータ52の両方とオーバラップするように溝幅が大きくされている。また、溝部71bは、閉じ込み部53a、53bとオーバラップする部分においても溝部71b、72bの溝幅が大きくされている。
【0042】
このような構成の溝部71bの中には、それぞれ溝部71bの形状と同様の形状を成すシール部材100が配置されている。これらシール部材100の模式図を図3に示す。この図に示されるように、シール部材100は、円環状の部材の所定領域が幅広に形成されて構成されている。
【0043】
幅広に形成された幅広部100Cと幅広部100Dは、それぞれ閉じ込み部53aと閉じ込み部53bを全面的に覆えるような幅で構成されており、主として閉じ込み部53a、53b内のブレーキ液の洩れを防止するシールとしての役割を果たす。また、これら幅広部100C及び幅広部100Dはアウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向のずれをなくす役割も果たす。
【0044】
これらシール部材100は、ゴム等の弾性体からなる弾性部材100aと、樹脂からなる樹脂部材100bとによって構成されている。樹脂部材100bは、インナーロータ52、アウターロータ51及び中央プレート73に接するように配置され、樹脂部材100bよりも溝部71bの底側に配置された弾性部材100aと溝部71bに導入された吐出圧のブレーキ液により押圧されてシール機能を果たすように構成されている。なお、弾性部材100aおよび樹脂部材100bは、アウターロータ51を図2(a)紙面上方向に弾性力により押庄してアウタロータ51およびインナーロータ52をサイドプレート72に密着させている。
【0045】
このように配置されたシール部材100によって、インナーロータ52及びアウターロータ51の軸方向紙面下側端面と第1のサイドプレート部71の間における隙間において、高圧な吐出口61と、低圧な駆動軸54とインナーロータ52との間の間隙部及び吸入口60とをシールすることができる。
【0046】
また、インナーロータ52及びアウターロータ51の軸方向端面と第1のサイドプレート部71の間における隙間において、高圧な部分と低圧な部分とをシールするためには、シール部材100が、吐出口61と駆動軸54との間、及び吐出口61と吸入口60との間を通過し、アウターロータ51の外周まで達していることが必要とされる。これに対して、本実施形態においては、シール部材100のうち、シール部材80から駆動軸54と吐出口61との間を通過してシール部材81に至るまでの領域が、高圧な部分と低圧な部分とをシールするために必要とされる領域になる。よって、軸方向端面側において、閉じ込み部53a、53bおよびシール部材80、81の存在する部位が最もシール性を必要とされる部位であり、この部位において樹脂部材100bがサイドプレート72およびアウターロータ51、インナーロータ52に最も強く接触するように構成されている。言い換えれば、シールが必要とされないその他の領域でインナーロータ52及びアウターロータ51に接している部分は無視できる程度に少ない。このようにシール部材100により接触抵抗を少なくして、第1のサイドプレート71と両ロータ51、52との間の機械損失を低減している。
【0047】
一方、図2(b)に示すように、アウターロータ51及びインナーロータ52のうち、紙面上側に位置する軸方向端面51b、52bについては、これら各端面51b、52bが第2のサイドプレートの軸方向端面72bに逆サイドのシール部材100の弾性力等で高圧で押し付けられた状態で摺動し、高圧と低圧をシールするメカニカルシール構造となっている。
【0048】
このメカニカルシール機能を担うアウターロータ51、インナーロータ52および第2のサイドプレート72の各端面51b、52b、72bの加工面は、図4に示すような通常の直線状の研磨筋あるいは円周状の研磨筋ではなく、図5に示すような放射状の研磨筋が施されている。なお、この実施例では第2のサイドプレート72、アウターロータ51およびインナーロータ52における研磨筋は軸中心からのびる湾曲した曲線状の放射状筋とされている。
【0049】
ここで示した研磨筋は、砥石を用いて形成されるものであり、円形状の研磨面を有する砥石を回転させ、同時にワーク側も回転させることで得られる。なお、研磨筋の湾曲は砥石の外周の曲率に応じて形成されるものであり、砥石の曲率を小さくすれば小さくなる。
【0050】
なお、アウターロータ51およびインナーロータ52の研磨は、アウターロータ51とインナーロータ52とを組み合わせた一体化した状態で実施しても良いし、別々に実施しても良い。
【0051】
次に、このように構成されたブレーキ装置及び回転式ポンプ10の作動について説明する。
【0052】
ブレーキ装置に備えられた制御弁34は、大きな制動力を必要とする場合、例えばブレーキ踏力に対応した制動力が得られない場合やブレーキペダル1の操作量が大きいとき等に適宜連通状態にされる。そして、管路Dを通じてブレーキペダル1の踏み込みによって発生している高圧なマスタシリンダ圧が回転式ポンプ10にかかる。
【0053】
回転式ポンプ10は、モータ11の駆動により駆動軸54の回転に応じてインナーロータ52が回転運動し、それに伴って内歯部51aと外歯部52aの噛合によりアウターロータ51も同方向へ回転する。このとき、アウターロータ51及びインナーロータ52が1回転する間にそれぞれの空隙部53の容積が大小に変化するため、吸入口60からブレーキ液を吸入し、吐出口61から管路A2に向けてブレーキ液を吐き出す。
【0054】
このように、本回転式ポンプ10は、ロータ51、52が回転することによって吸入口60からブレーキ液を吸入し、吐出口61からブレーキ液を吐出するという基本的なポンプ動作を行い、この回転式ポンプ10によって吐出されたブレーキ液によってホイールシリンダ圧の増圧が成される。
【0055】
このポンプ動作において、アウターロータ51の外周のうち吸入口60側は導通経路73aを通じて吸入されるブレーキ液によって吸入圧とされ、アウターロータ51の外周のうち吐出口61側は導通経路73b、73cを通じて吸入されるブレーキ液によって吐出圧とされる。このため、アウターロータ51の外周において低圧な部分と高圧な部分が生じる。そして、インナーロータ52及びアウターロータ51の軸方向端面と第1、第2のサイドプレート部71、72との間の隙間においても、低圧な吐出口60及び駆動軸54とインナーロータ52との間の間隙と、高圧な吐出口61とによって、低圧な部分と高圧な部分が生じる。
【0056】
これに対し、シール部材80、81やシール部材100が備えられているため、アウターロータ51の外周、もしくはアウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向端面と第1のサイドプレート71との間の隙間を通じて、高圧側から低圧側にオイル洩れが発生することを防止できる。なお、図2ではシール部材100はアウターロータ51及びインナーロータ52と接しないようにも見えるが吐出口61が高圧になるにつれてシール部材100がたわみ、アウターロータ51及びインナーロータ52に完全に接してシール機能を果たす。
【0057】
そして、アウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向端面が第2のサイドプレート72へ直接押し当てられることで、メカニカルシール機構が構成される。このため、アウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向端面が第2のサイドプレート2との間の隙間を通じて高圧側から低圧側にオイル洩れが発生することを防止できる。
【0058】
また、シール部材80、81により、アウターロータ51の外周のうちの吸入口60側は低圧となって、吸入口60と連通する空隙部53と同様の圧力となり、アウターロータ51の外周のうちの吐出口61側は高圧となって、吐出口61と連通する空隙部53と同様の圧力となる。このため、アウターロータ51の内外における圧力バランスが保持され、ポンプ駆動を安定して行うようにすることができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、メカニカルシール機能を担うアウターロータ51、インナーロータ52、第2のサイドプレート72の各端面51b、52b、72bの仕上げ加工面に、通常の直線状あるいは円周状の研磨筋ではなく、放射状の研磨筋を施してある。
【0060】
このようにインナーロータ52、アウターロータ51の軸方向端面の研磨筋も放射状にすることで、中央プレート73の孔とアウターロータ51外周とで形成される空隙部50aとアウターロータ51とインナーロータ52により形成される空隙部53が研磨筋で形成される微小な溝で連通され、また、空隙部53とインナーロータ52のシャフト穴52bもまた微小な溝で連通される。このため、アウターロータ51及びインナーロータ52と第2のサイドプレート72との摺動面に油が供給・保持され、損失トルクが小さくなるようにできる。特に、本回転式ポンプ10の圧力分布が図7で表されることから、本回転式ポンプの構成では、微小な放射状の溝の両端部で圧力差が生じることになり、摺動面上で空隙部間を連通する微小な溝の存在効果が増幅される。
【0061】
さらに、研磨筋の微小な溝部に存在するブレーキ液には、ギヤが回転することによって半径方向に遠心力が働くので、研磨筋を放射状にすることで遠心力の方向と微小な溝の方向とが一致し、微小な溝に沿って油が摺動面に供給され易くなる。
【0062】
以上説明したように、メカニカルシール機能を担うアウターロータ51、インナーロータ52、第2のサイドプレート72の各端面51b、52b、72bに放射状の研磨筋を施すことで、摺動面への油の供給を促進させることができ、したがって摺動面の摩擦係数を減少させられ、回転式ポンプ10の損失トルクを低減することが可能となる。
【0063】
(第2の実施形態)
図8(a)に、本発明の第2実施形態における回転式ポンプの正面図を示し、図8(b)に図8(a)のA−A矢視断面図を示す。第1実施形態では、アウターロータ51、インナーロータ52及び第2のサイドプレート72の軸方向端面の仕上げ面に放射状の研磨筋を形成していた。これに対し、本実施形態では、図8(a)中の矢印で示すように、第2のサイドプレートの軸方向端面の仕上げ面を吐出口と吸入口とを結ぶ方向の通常の直線状研磨筋とし、第2のサイドプレートのうち、アウターロータ51及びインナーロータ52の研磨筋が第2のサイドプレート72の研磨筋に沿う位置に油溝72cを設置している。なお、この直線状の研磨筋はアウターロータ51、インナーロータ52では全面に至って一直線状に形成されており、また第2のサイドプレート72側でも、アウターロータ51が対向する部分を含み、この部分よりも広い範囲に全面に至って一直線状に形成されている。
【0064】
なお、第2のサイドプレート72においてアウターロータと対面する部分のうち油溝72Cが設けられる部位は、アウターロータ52の研磨筋と第2のサイドプレートの研磨筋とが同方向となる回転状態において、アウターロータ52の外周から外周を空隙部により途切らされることなく一直線にアウターロータ52に研磨筋が残る部分と対向する部位である。この部分は空隙部からの油の供給が少なくなるため最も損失トルクが高くなる部分である。よって、本実施形態の如くこの損失トルクが最も高くなる部分においてアウターロータ51と第2のサイドプレート72との接触面積が小さくなるように油溝72Cを設けると、接触摩擦抵抗を低減することができ、損失トルクを低減することが可能である。なお、この油溝72cを設けたことによって接触面積が小さくなるだけでなく、油溝72cに溜まった油が近傍の摺動面に供給されることにより損失トルクを低減する効果も奏する。
【0065】
なお、本実施例では第2のサイドプレート72における研磨筋が図8(a)の紙面左右方向を例としたが、第2のサイドプレート72における研磨筋が紙面縦方向等どのように可変しても油溝を設けるべき部位は特定できる。すなわち、アウターロータにおいて最も損失トルクが大きくなる部位の研磨筋方向と第2のサイドプレートにおける研磨筋方向とが一致する際に、この損失トルクが最大の部位と対向する第2のサイドプレートの部位が油溝を設けるべき部位である。
【0066】
また、油溝はアウターロータ51側に設けるようにしてもよい。この場合には第2のサイドプレートにおける研磨筋方向がどのようであっても、アウターロータ51において外周から外周を空隙部により途切らされることなく一直線に研磨筋が残る部位が最も損失トルクを生むところであるので、この部位に油溝を設けるようにすればよい。
【0067】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第2のサイドプレート72の端面の仕上げ面を放射状の研磨筋に、アウターロータ51、インナーロータ52の各端面の仕上げ面を円周状の研磨筋にしている。
【0068】
この場合、第2のサイドプレート72の研磨筋とアウターロータ51、インナーロータ52の研磨筋は、回転中、全ての領域で略直角に交わることとなる。よって、研磨筋が交わることによって、第2のサイドプレート72の表面とアウターロータ51、インナーロータ52の表面との実際の接触面積は、研磨筋の凹凸により非異常に小さくなる。なお、この実施形態において、アウターロータ51の対向する面は、第2の実施形態における油溝72Cを設けた損失トルクが最大の部位の接触抵抗よりも必ず小さい。すなわち本実施形態の接触抵抗は、第2の実施形態における第2のサイドプレート72の研磨筋方向と回転したアウターロータ51の研磨筋方向が沿わない場合と同等である。なお、本実施形態における接触抵抗は、第2の実施形態において最も損失トルクが高いとして油溝72Cを形成した部分を除く部分と同等であるが、研磨による抵抗を鑑みた際に全面に至って同等の接触抵抗とできるというメリットを備えている。すなわち、研磨筋による抵抗が全面に至って同等の接触抵抗となると、回転に伴い接触抵抗が大きい部分すなわち余分な負荷がかかる部分がなくなり、摩擦による接触面の削れ等を抑えることができ、また摩擦熱による金属の膨張による性能低下を抑えることができ、ポンプ性能上有利である。
【0069】
なお、これとは反対に、第2のサイドプレート72の端面の仕上げ面を円周状の研磨筋にし、アウターロータ51及びインナーロータ52の各端面の仕上げ面を放射状の研磨筋にしても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(第4の実施形態)
上記各実施形態について、第2のサイドプレート72の軸方向端面72bのうち、閉じ込み部53a、53bと対向する部位(シール部材100の幅広部100C、100Dに相当する部位)に、油溝を設けるようにしても良い。この部位は、シール部材100がアウターロータ51及びインナーロータ52に直接接触してシールしており、第2のサイドプレート72側の摺動も厳しくなる。このため、油溝を設置することで、潤滑を助けることができ、損失トルクを低減することができる。
【0071】
また、上記各実施形態に限らず、アウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向端面51b、52bや第2のサイドプレート72の軸方向端面72bの研磨筋が直線状又は円周状とされた回転式ポンプ10に対しても、本実施形態のような油溝を設ければ、損失トルク低減の効果を得ることが可能である。
【0072】
また、第1の実施形態において、第2のサイドプレート72、アウターロータ51、インナーロータ52の軸方向端面に形成される研磨筋は湾曲した形状をしていたが、図9(a)(b)に示すように軸中心位置から直線で伸びる放射状としてもよい。この際には第1の実施の形態における遠心力による作用効果と同様の作用効果を発揮することができる。
【0073】
また、図10の(a)(b)に示すように、第2のサイドプレート72と、アウターロータ51、およびインナーロータ52のどちらか一方の軸方向端面を曲線の放射状研磨筋とし、他方を直線の放射状研磨筋とすることも可能である。この際にも第1の実施の形態と同等の作用効果を得ることができる。また第1の実施の形態の作用効果に加えて、第2のサイドプレート72の研磨筋とアウターロータ51およびインナーロータ52の研磨筋とが重なることが無く、必ず交差するため、軸方向端面同士の接触面積が研磨筋の凹凸により低減され、接触抵抗、損失トルクが低減される。また、図11に示すように第2のサイドプレート72における摺動面の曲線の放射状研磨筋と、アウターロータ51およびインナーロータ52の摺動面の曲線の放射状研磨筋とにおいて、曲線の曲率が逆方向を向くようにしても同様の作用効果を得ることができる。なお、図11における実線はアウターロータ51およびインナーロータ52における研磨筋を示し、点線は第2のサイドプレートにおける研磨筋を示す。また、図12に示すように、第2のサイドプレート72の摺動面における曲線の放射状研磨筋と、アウターロータ51およびインナーロータ52の摺動面における曲線の放射状研磨筋とにおいて、双方の放射状研磨筋の中心位置が重ならないようにずらすことによっても、同様の作用効果を得ることができる。なお、図12における実線はアウターロータ51およびインナーロータ52における研磨筋を示し、点線は第2のサイドプレートにおける研磨筋を示す。
【0074】
また、前述の実施例では油溝72cを、第2のサイドプレート72に施された直線状の研磨筋を鑑みて図8(a)にて示した位置等に形成したが、これに関わらず単に以下のようにアウターロータ51の軸方向端面と第2のサイドプレート72との間のメカニカルシール面における接触面積を低減することを目的として油溝72cを形成するようにしてもよい。
【0075】
すなわち、第2のサイドプレート72においてアウターロータ51の軸方向端面において内歯部51aと干渉しない部位が対向する第2のサイドプレート72の部位に油溝72cを設ける。この際、図7に示されるアウターロータの外円周に関する圧力分布において高圧部と低圧部とが存在するが、油溝72cはこの高圧部と低圧部とに跨らないように形成される。すなわち、この油溝72cを通って圧力差が解消されてしまわないようにするためである。
【0076】
なお、油溝72cは、第2のサイドプレート72側において、図7のアウタロータ外円周の高圧部に接する部位に設けることが好ましい。すなわち、低圧部側はたとえシール部材100、80、81でシールしたとしても100%完全シールすることはできず多少なりとも高圧部側から低圧部側へ油が流動し、これにより低圧部のメカニカルシール部分の潤滑が行われる可能性があるが、高圧部へは圧力差によるメカニカルシール部分への油の流動は期待できないからである。油溝72cをこのようにアウターロータの外円周の高圧部に対応して設ける際に、空隙部の高圧部の部位と半径方向で一致している範囲に設けてもよいし、空隙部は低圧部であり同半径方向のアウターロータ外円周部位は高圧部となっている範囲に設けるようにしても良い。前者のように油溝72cを設けた場合、メカニカルシール部分において圧力差により潤滑する率が最も小さい部位が、この油溝72cの面積分、接触面積が減少する。よって、減少した接触面積分、摩擦抵抗が減少できる。また、後者のように油溝72cを設けた場合、油溝72c分の接触面積を減少させるだけでなく、差圧作用によりメカニカルシール部分において最も潤滑が行われる部位に対し、油溝72cに溜まる油をもって油の流動をいっそう多くすることができ、全体の潤滑を高めることができる。
【0077】
なお、前述までの実施形態において、第1の閉じ込み部(53a)は、複数の空隙部のうち体積が最大となると規定しているが、ポンプの設計上、厳密には最大ではない場合もある。同様に第2の閉じ込み部(53b)は複数の空隙部のうち体積が最小となると規定しているが、ポンプの設計上、厳密には最小ではない場合もある。しかしながら、本発明においては、複数の空隙部を吸入側と吐出側とを分けるための空隙部が少なくとも2箇所あって、体積が最大となる付近の閉じ込み部を第1の閉じ込み部、体積が最小となる付近の閉じ込み部を第2の閉じ込み部と定義するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】第1実施形態における回転式ポンプを備えたブレーキ装置の管路構成図である。
【図2】図1における回転式ポンプ10の具体的構成を示す図である。
【図3】図2に示すシール部材100の模式図である。
【図4】直線状の研磨筋を示した図である。
【図5】図1における回転式ポンプ10のアウターロータ51及びインナーロータ52、第2のサイドプレート72の軸方向端面に施された研磨筋を示す図である。
【図6】アウターロータ51及びインナーロータ52と第2のサイドプレート72との摺動面を拡大した図である。
【図7】図1における回転式ポンプ10の圧力分布を示した図である。
【図8】本発明の第2実施形態における回転式ポンプ10の具体的構成を示す図である。
【図9】 その他の実施形態におけるアウターロータ、インナーロータ、および第2のサイドプレートに施される研磨筋の概略図である。
【図10】 その他の実施形態におけるアウターロータ、インナーロータ、および第2のサイドプレートに施される研磨筋の概略図である。
【図11】 その他の実施形態におけるアウターロータ、インナーロータ、および第2のサイドプレートに施される研磨筋の概略図である。
【図12】 その他の実施形態におけるアウターロータ、インナーロータ、および第2のサイドプレートに施される研磨筋の概略図である。
【符号の説明】
【0079】
50…ケーシング、51…アウターロータ、51a…内歯部、52…インナーロータ、52a…外歯部、53…空隙部、53a、53b…閉じ込み部、54…駆動軸、60…吸入口、61…吐出口、71、72…第1、第2のサイドプレート、72c…油溝、80…シール部材(シール手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を吸入・吐出する回転式ポンプ及び回転式ポンプを用いたブレーキ装置に関し、特にトロコイドポンプ等の内接歯車ポンプに適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、トロコイドポンプ等の内接歯車型の回転式ポンプとして、特許文献1に示されるものがある。この回転式ポンプは、外周に外歯部を備えたインナーロータ、内周に内歯部を備えたアウターロータ、及びこれらアウターロータとインナーロータを収納するケーシング等から構成されている。インナーロータ及びアウターロータは、内歯部と外歯部とが互いに噛み合わさり、これら互いの歯によって複数の空隙部を形成した状態でケーシング内に配置されている。
【0003】
インナーロータとアウターロータの両中心軸を通る線をポンプの中心線とすると、この中心線を挟んだ両側には、上記複数の空隙部と連通する吸入口や吐出口が備えられている。ポンプ駆動時には、インナーロータの中心軸を駆動軸として、この駆動軸を介してインナーロータが回転運動し、それに伴って外歯部と内歯部の噛合によりアウターロータも同方向へ回転する。このときに、それぞれの空隙部の容積がアウターロータ及びインナーロータが1回転する間に大小に変化して吸入口からオイルを吸入し、吐出口でオイルを吐き出すようになっている。
【0004】
そして、この回転式ポンプにおける軸方向端面のシールは、両面ともに、樹脂からなる樹脂部材で行われており、この樹脂部材がゴムなどの弾性体からなる弾性部材によって押圧されてシール機構を果たす機構となっている。
【特許文献1】特開平2000−179466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報のように、軸方向の両端面共に樹脂製のシール手段を用いたシール方法を採用することはコストアップの要因となる。このため、一端面側のみを樹脂製のシール手段にてシールし、他端面側はインナーロータ及びアウターロータを第2のサイドプレートヘ直接押し当てるメカニカルシールとすることで、コスト削減を図ることが考えられる。
【0006】
このメカニカルシールは金属製のインナーロータ及びアウターロータを金属製のサイドプレートにシール材の弾性力等により強く押し当ててシールする構造である。よって、アウターロータ、インナーロータ、およびサイドプレートの摺動面の損失トルクが大きいとポンプ吐出能力に影響を与え、モータ体格を大きくしなければならない等の弊害を生じる。
【0007】
また、アウターロータ、インナーロータとサイドプレート間の摺動面において回転の損失トルクが大きい部分と小さい部分とが生じる場合、ポンプの高速あるいは長時間の回転に伴って損失トルクが大きい部分で発熱を生じ、この発熱部分が膨張することによるポンプ吐出能力への弊害も考えられる。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みて成され、インナーロータ及びアウターロータとケーシング(サイドプレート)端面との接触による損失トルクを低減した、あるいは/および損失トルクを均一化した回転式ポンプ及びそれを用いたブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記目的を達成するため、以下の技術的手段を採用する。請求項1に記載の発明では、内周に内歯部(51a)を有するアウターロータと、外周に外歯部(52a)を有すると共に駆動軸(54)を軸として回転運動するインナーロータ(52)とを備え、前記内歯部と外歯部との噛み合いの間に複数の空隙部(53)が形成された回転部と、前記回転部の一方の軸方向端面側に配置された第1のサイドプレート(71)と、前記回転部の他方の軸方向端面側に配置され、前記アウターロータおよびインナーロータの軸方向端面との接触面がメカニカルシールを行う第2のサイドプレート(72)と、を含み、前記回転部を覆うように形成されたケーシング(50)と、前記ケーシングに設けられ、前記回転部に流体を吸引する吸入口(60)と前記回転部から流体を吐出する吐出口(61)と、前記ケーシングの内部の前記回転部が内包される空間を、前記吸入口と接続された低圧側の空間と前記吐出口と接続された高圧側の空間とに分割するシール手段と、前記アウターロータの軸方向端面と対向する前記第2のサイドプレートの部位の前記内歯部に重ならない部位に設けられ、前記高圧側の空間に跨り前記低圧側の空間には跨ることなく形成された油溝(72c)と、を備えることを特徴としている。
【0010】
すなわちこの発明では、アウターロータと第2のサイドプレートとの間の如くメカニカルシールされる部位において、油溝をアウターロータあるいは第2のサイドプレートの少なくとも一方に形成することにより、油溝の面積分、アウターロータの軸方向端面と第2のサイドプレートの接触面積を減少させる。したがって、アウターロータと第2のサイドプレートとの間の接触抵抗を低減できる。
【0011】
なお、請求項2に記載の如く、高圧側空間と低圧側の空間は、複数の空隙部の部分とアウターロータの外円周とケーシングとの間の部分との双方に設けられ、複数の空隙部の高圧側の空間の部位と、アウターロータの外円周とケーシングとの間の高圧側の空間の部位とが回転部の半径方向で重なる範囲において、油溝が形成されるようにしてもよい。
【0012】
メカニカルシールされるアウターロータと第2のサイドプレートとの間の流体の流動は、複数の空隙部の部位の流体圧と、アウターロータの外円周とケーシングとの間の部位の流体圧との差圧がない部分では、研磨筋に沿う流体の移動あるいは回転体の遠心力による流体の移動による潤滑以外は存在しない。逆に、複数の空隙部の部位の流体圧と、アウターロータの外円周とケーシングとの間の部位の流体圧との差圧が存在する部分、すなわち高圧側の空間と低圧側の空間との半径方向の位置が重なる場合には、この差圧により高圧側から低圧側にメカニカルシールされている部位を流体が移動する。よって、複数の空隙部の部位の流体圧と、アウターロータの外円周とケーシングとの間の部位の流体圧との差圧がない部分が最も潤滑が悪いと考えられ、この部位に油溝を設ければ、いっそう効果的にアウターロータと第2のサイドプレートとの間の接触抵抗を低減できる。
【0013】
なお、本発明における回転式ポンプは、請求項3に示すように、踏力に基づいてブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段(1〜3)と、ブレーキ液圧に基づいて車輪に制動力を発生させる制動力発生手段(4、5)と、ブレーキ液圧発生手段に接続され、制動力発生手段にブレーキ液圧を伝達する主管路(A)と、ブレーキ液圧発生手段に接続され、制動力発生手段が発生させる制動力を高めるために、主管路側にブレーキ液を供給する補助管路(D)とを有するブレーキ装置において、吸入口が補助管路を通じてブレーキ液圧発生手段側のブレーキ液を吸入でき、吐出口が主管路を通じて制動力発生手段に向けてブレーキ液を吐出できるように配置される。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、第1実施形態は参考例であり、第2〜第4実施形態が特許請求の範囲に記載した発明の実施形態に相当する。
【0016】
(第1実施形態)
以下、図に示す実施形態について説明する。図1に、回転式ポンプとしてトロコイドポンプを適用したブレーキ装置のブレーキ配管概略図を示す。以下、ブレーキ装置の基本構成を、図1に基づいて説明する。本実施形態では、前輪駆動の4輪車において、右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管の油圧回路を構成する車両に、本発明によるブレーキ装置を適用した例について説明する。
【0017】
図1に示すように、ブレーキペダル1は倍力装置2と接続されており、この倍力装置2によりブレーキ踏力等が倍力される。そして、倍力装置2は、倍力された踏力をマスタシリンダ3に伝達するプッシュロッド等を有しており、このプッシュロッドがマスタシリンダ3に配設されたマスタピストンを押圧することによりマスタシリンダ圧が発生する。なお、これらブレーキペダル1、倍力装置2及びマスタシリンダ3がブレーキ液圧発生手段に相当する。
【0018】
また、このマスタシリンダ3には、マスタシリンダ3内にブレーキ液を供給したり、マスタシリンダ3内の余剰ブレーキ液を貯留するマスタリザーバ3aが接続されている。
【0019】
そして、マスタシリンダ圧は、アンチロックブレーキ装置(以下、ABSという)を介して右前輪FR用のホイールシリンダ4及び左後輪RL用のホイールシリンダ5へ伝達されている。以下の説明は、右前輪FR及び左後輪RL側について説明するが、第2の配管系統である左前輪FL及び右後輪RR側についても全く同様であるため、説明は省略する。
【0020】
そして、このブレーキ装置はマスタシリンダ3に接続する管路(主管路)Aを備えており、この管路Aには比例制御弁(PV:プロポーショニングバルブ)22が備えられている。そして、この比例制御弁22によって管路Aは2部位に分けられている。すなわち管路Aは、マスタシリンダ3から比例制御弁22までの間においてマスタシリンダ圧を受ける管路A1と、比例制御弁22から各ホイールシリンダ4、5までの間の管路A2に分けられる。
【0021】
この比例制御弁22は、通常、正方向にブレーキ液が流動する際には、ブレーキ液の基準圧を所定の減衰比率をもって下流側に伝達する作用を有している。そして、図1に示すように、比例制御弁22を逆接続することにより、管路A2側が基準圧となる。
【0022】
また、管路A2において、管路Aは2つに分岐しており、一方にはホイールシリンダ4へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁30が備えられ、他方にはホイールシリンダ5へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁31が備えられている。
【0023】
これら増圧制御弁30、31は、ABS用の電子制御装置(以下、ECUという)により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。そして、この2位置弁が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ圧あるいはポンプのブレーキ液の吐出によるブレーキ液圧を各ホイールシリンダ4、5に加えられるようになっている。これら増圧制御弁30、31は、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキ時には、常時連通状態に制御されている。
【0024】
なお、増圧制御弁30、31には、それぞれ安全弁30a、31aが並列に設けられており、ブレーキ踏み込みを止めてABS制御が終了したときにホイールシリンダ4、5側からブレーキ液を排除するようになっている。
【0025】
また、第1、第2の増圧制御弁30、31と各ホイールシリンダ4、5との間における管路Aとリザーバ20のリザーバ孔20aとを結ぶ管路Bには、ABS用のECUにより連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁32、33がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁32、33はノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では、常時遮断状態とされている。
【0026】
管路Aの比例制御弁22と増圧制御弁30、31とリザーバ20のリザーバ孔20aとを結ぶ管路Cには回転式ポンプ10が安全弁10a、10bに挟まれて配設されている。この回転式ポンプ10にはモータ11が接続されており、このモータ11によって回転式ポンプ10が駆動されるようになっている。なお、この回転式ポンプ10についての詳細な説明は後述する。
【0027】
また、回転式ポンプ10が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、管路Cのうち回転式ポンプ10の吐出側にはダンパ12が配設されている。そして、リザーバ20と回転式ポンプ10の間と、マスタシリンダ3とを接続するように管路(補助管路)Dが設けられており、回転式ポンプ10はこの管路Dを介して管路A1のブレーキ液を吸入し、管路A2へ吐出することによってホイールシリンダ4、5におけるホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧よりも高くして車輪制動力を高める。なお、比例制御弁22は、この際のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧を保持する。
【0028】
この管路Dには制御弁34が設けられており、この制御弁34はノーマルブレーキ時には常時遮断状態とされている。
【0029】
なお、このときの管路Dから伝えられる液圧により、管路Cからリザーバ20へ逆流しないように管路C及び管路Dの接続部とリザーバ20の間には逆止弁21が配設されている。
【0030】
さらに、管路Aのうち、管路Dとの接続点と比例制御弁22との間には、制御弁40が備えられている。この制御弁40は、通常は連通状態にされている2位置弁であり、マスタシリンダ圧が所定圧よりも低いときにホイールシリンダ4、5に急ブレーキをかける時、或いはTRC時に遮断され、マスタシリンダ側とホイールシリンダ側との差圧を保つようになっている。
【0031】
次に、図2(a)に回転式ポンプ10の模式図を示し、また図2(b)に図2(a)のA−A矢視断面図を示す。まず、図2(a)、(b)に基づき回転式ポンプ10の構造について説明する。
【0032】
この回転式ポンプ10におけるケーシング50のロータ室50a内には、アウターロータ51及びインナーロータ52がそれぞれの中心軸(図中の点Xと点Y)が偏心した状態で組付けられて収納されている。アウターロータ51は内周に内歯部51aを備えており、インナーロータ52は外周に外歯部52aを備えている。そして、これらアウターロータ51とインナーロータ52とが互いの歯部51a、52aによって複数の空隙部53を形成して噛み合わさっている。なお、図2(a)からも判るように、本実施形態の回転式ポンプ10は、アウターロータ51の内歯部51aとインナーロータ52の外歯部52aとで空隙部53を形成する、仕切り板(クレセント)なしの多数歯トロコイドタイプのポンプである。また、インナーロータ52の回転トルクを伝えるために、インナーロータ52とアウターロータ51とは複数の接触点を有している。
【0033】
図2(b)に示されるように、ケーシング50は、両ロータ51、52を両側から挟むように配置される第1のサイドプレート部71及び第2のサイドプレート部72と、これら第1、第2のサイドプレート部71、72間に配設され、アウターロータ51及びインナーロータ52を収容する孔が設けられた中央プレート部73とから構成されており、これらによってロータ室50aが形成されている。
【0034】
また、第1、第2のサイドプレート71、72の中心部には、ロータ室50a内と連通する中心孔71a、72aが形成されており、これら中心孔71aには駆動軸54が嵌入されている。そして、アウターロータ51及びインナーロータ52は、中央プレート部73の孔内において回転自在に配設される。つまり、アウターロータ51及びインナーロータ52で構成される回転部は、ケーシング50のロータ室50a内を回転自在に組み込まれ、アウターロータ51は点Xを軸として回転し、インナーロータ52は点Yを軸として回転することになる。
【0035】
さらに、アウターロータ51及びインナーロータ52のそれぞれの回転軸となる点Xと点Yを通る線を回転式ポンプ10の中心線Zとすると、第1のサイドプレート部71のうち中心線Zを挟んだ左右には、ロータ室50aへ連通する吸入口60と吐出口61が形成されている。この吸入口60及び吐出口61は、複数の空隙部53と連通する位置に配設されている。そして、吸入口60を介して外部からのブレーキ液を空隙部53内に吸入して、吐出口61を介して空隙部53内のブレーキ液を外部へ吐出することができるようになっている。
【0036】
複数の空隙部53のうち、体積が最大となる閉じ込み部53a、及び体積が最小となる閉じ込み部53bは、吸入口60及び吐出口61のいずれにも連通しないようになっており、この閉じ込み部53a、53bによって吸入口60における吸入圧と吐出口61における吐出圧との差圧を保持している。
【0037】
第1のサイドプレート部71には、アウターロータ51の外周と吸入口60とを連通する導通経路73a、さらにアウターロータ51の外周と吐出口61とを連通する導通経路73b、73cが設けられている。導通経路73aは、アウターロータ51の回転軸となる点Xを中心として中心線Zから吸入口60方向へ約90度の位置に配設されている。また、導通経路73bは、吐出口61と連通する複数の空隙部53のうち、最も、閉じ込み部53aに近い空隙部53とアウターロータ51の外周とを連通するように形成されており、また、導通経路73cは、吐出口61と連通する複数の空隙部53のうち、最も閉じ込み部53bに近い空隙部53とアウターロータ51の外周とを連通するように形成されている。そして、これら導通経路73bと導通経路73cは、それぞれ点Xを中心として中心線Zから吐出口61方向へ約22.5度の位置に配設されている。
【0038】
また、中央プレート73の孔を形成する中央プレート73の壁面であって、アウターロータ51の回転軸となる点Xを中心として中心線Zから吸引口60方向へ約45度の位置には、それぞれ凹部73dと凹部73eが形成されており、これら凹部73d、73e内にアウターロータ51の外周におけるブレーキ液の流動を抑制するためのシール部材80、81が備えられている。具体的には、シール部材80、81は、導通経路71bと導通経路71dの間に配設されており、アウターロータ51の外周において、ブレーキ液圧が低圧になる部分と高圧になる部分をシールするようになっている。
【0039】
シール部材80は、略円筒状をしたゴム部材80aと、直方体形状をしたテフロン(登録商標)製の樹脂部材80bとから構成されている。そして、樹脂部材80bはゴム部材80aによって押されて、アウターロータ51に接するようになっている。すなわち、製造誤差等によってアウターロータ51の大きさに若干の誤差分が生じるため、この誤差分を弾性力の有るゴム部材80aによって吸収できるようにしている。
【0040】
さらに、図2(b)に示されるように、第1サイドプレート部71には溝部71bが形成されている。この溝部71bは、図2(a)の二点鎖線で示されるように、駆動軸54を囲む円環状で構成されていると共に、所定領域において溝幅が広げられた構成となっている。具体的には、溝部71bの中心は、駆動軸54の軸中心に対して吸入口60側(紙面左側)に偏心した状態となっている。
【0041】
これにより、溝部71bは、吐出口61と駆動軸54の間を通って、閉じ込み部53a、53b、シール部材80、81がアウターロータ51をシールしている部分を通過するような配置となる。そして、溝部71bは、駆動軸54の軸と溝部71bの中心とを結んだ線を想定した時に、その線が吸入口60又は吐出口61と交差する位置において、インナーロータ51とアウターロータ52の両方とオーバラップするように溝幅が大きくされている。また、溝部71bは、閉じ込み部53a、53bとオーバラップする部分においても溝部71b、72bの溝幅が大きくされている。
【0042】
このような構成の溝部71bの中には、それぞれ溝部71bの形状と同様の形状を成すシール部材100が配置されている。これらシール部材100の模式図を図3に示す。この図に示されるように、シール部材100は、円環状の部材の所定領域が幅広に形成されて構成されている。
【0043】
幅広に形成された幅広部100Cと幅広部100Dは、それぞれ閉じ込み部53aと閉じ込み部53bを全面的に覆えるような幅で構成されており、主として閉じ込み部53a、53b内のブレーキ液の洩れを防止するシールとしての役割を果たす。また、これら幅広部100C及び幅広部100Dはアウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向のずれをなくす役割も果たす。
【0044】
これらシール部材100は、ゴム等の弾性体からなる弾性部材100aと、樹脂からなる樹脂部材100bとによって構成されている。樹脂部材100bは、インナーロータ52、アウターロータ51及び中央プレート73に接するように配置され、樹脂部材100bよりも溝部71bの底側に配置された弾性部材100aと溝部71bに導入された吐出圧のブレーキ液により押圧されてシール機能を果たすように構成されている。なお、弾性部材100aおよび樹脂部材100bは、アウターロータ51を図2(a)紙面上方向に弾性力により押庄してアウタロータ51およびインナーロータ52をサイドプレート72に密着させている。
【0045】
このように配置されたシール部材100によって、インナーロータ52及びアウターロータ51の軸方向紙面下側端面と第1のサイドプレート部71の間における隙間において、高圧な吐出口61と、低圧な駆動軸54とインナーロータ52との間の間隙部及び吸入口60とをシールすることができる。
【0046】
また、インナーロータ52及びアウターロータ51の軸方向端面と第1のサイドプレート部71の間における隙間において、高圧な部分と低圧な部分とをシールするためには、シール部材100が、吐出口61と駆動軸54との間、及び吐出口61と吸入口60との間を通過し、アウターロータ51の外周まで達していることが必要とされる。これに対して、本実施形態においては、シール部材100のうち、シール部材80から駆動軸54と吐出口61との間を通過してシール部材81に至るまでの領域が、高圧な部分と低圧な部分とをシールするために必要とされる領域になる。よって、軸方向端面側において、閉じ込み部53a、53bおよびシール部材80、81の存在する部位が最もシール性を必要とされる部位であり、この部位において樹脂部材100bがサイドプレート72およびアウターロータ51、インナーロータ52に最も強く接触するように構成されている。言い換えれば、シールが必要とされないその他の領域でインナーロータ52及びアウターロータ51に接している部分は無視できる程度に少ない。このようにシール部材100により接触抵抗を少なくして、第1のサイドプレート71と両ロータ51、52との間の機械損失を低減している。
【0047】
一方、図2(b)に示すように、アウターロータ51及びインナーロータ52のうち、紙面上側に位置する軸方向端面51b、52bについては、これら各端面51b、52bが第2のサイドプレートの軸方向端面72bに逆サイドのシール部材100の弾性力等で高圧で押し付けられた状態で摺動し、高圧と低圧をシールするメカニカルシール構造となっている。
【0048】
このメカニカルシール機能を担うアウターロータ51、インナーロータ52および第2のサイドプレート72の各端面51b、52b、72bの加工面は、図4に示すような通常の直線状の研磨筋あるいは円周状の研磨筋ではなく、図5に示すような放射状の研磨筋が施されている。なお、この実施例では第2のサイドプレート72、アウターロータ51およびインナーロータ52における研磨筋は軸中心からのびる湾曲した曲線状の放射状筋とされている。
【0049】
ここで示した研磨筋は、砥石を用いて形成されるものであり、円形状の研磨面を有する砥石を回転させ、同時にワーク側も回転させることで得られる。なお、研磨筋の湾曲は砥石の外周の曲率に応じて形成されるものであり、砥石の曲率を小さくすれば小さくなる。
【0050】
なお、アウターロータ51およびインナーロータ52の研磨は、アウターロータ51とインナーロータ52とを組み合わせた一体化した状態で実施しても良いし、別々に実施しても良い。
【0051】
次に、このように構成されたブレーキ装置及び回転式ポンプ10の作動について説明する。
【0052】
ブレーキ装置に備えられた制御弁34は、大きな制動力を必要とする場合、例えばブレーキ踏力に対応した制動力が得られない場合やブレーキペダル1の操作量が大きいとき等に適宜連通状態にされる。そして、管路Dを通じてブレーキペダル1の踏み込みによって発生している高圧なマスタシリンダ圧が回転式ポンプ10にかかる。
【0053】
回転式ポンプ10は、モータ11の駆動により駆動軸54の回転に応じてインナーロータ52が回転運動し、それに伴って内歯部51aと外歯部52aの噛合によりアウターロータ51も同方向へ回転する。このとき、アウターロータ51及びインナーロータ52が1回転する間にそれぞれの空隙部53の容積が大小に変化するため、吸入口60からブレーキ液を吸入し、吐出口61から管路A2に向けてブレーキ液を吐き出す。
【0054】
このように、本回転式ポンプ10は、ロータ51、52が回転することによって吸入口60からブレーキ液を吸入し、吐出口61からブレーキ液を吐出するという基本的なポンプ動作を行い、この回転式ポンプ10によって吐出されたブレーキ液によってホイールシリンダ圧の増圧が成される。
【0055】
このポンプ動作において、アウターロータ51の外周のうち吸入口60側は導通経路73aを通じて吸入されるブレーキ液によって吸入圧とされ、アウターロータ51の外周のうち吐出口61側は導通経路73b、73cを通じて吸入されるブレーキ液によって吐出圧とされる。このため、アウターロータ51の外周において低圧な部分と高圧な部分が生じる。そして、インナーロータ52及びアウターロータ51の軸方向端面と第1、第2のサイドプレート部71、72との間の隙間においても、低圧な吐出口60及び駆動軸54とインナーロータ52との間の間隙と、高圧な吐出口61とによって、低圧な部分と高圧な部分が生じる。
【0056】
これに対し、シール部材80、81やシール部材100が備えられているため、アウターロータ51の外周、もしくはアウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向端面と第1のサイドプレート71との間の隙間を通じて、高圧側から低圧側にオイル洩れが発生することを防止できる。なお、図2ではシール部材100はアウターロータ51及びインナーロータ52と接しないようにも見えるが吐出口61が高圧になるにつれてシール部材100がたわみ、アウターロータ51及びインナーロータ52に完全に接してシール機能を果たす。
【0057】
そして、アウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向端面が第2のサイドプレート72へ直接押し当てられることで、メカニカルシール機構が構成される。このため、アウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向端面が第2のサイドプレート2との間の隙間を通じて高圧側から低圧側にオイル洩れが発生することを防止できる。
【0058】
また、シール部材80、81により、アウターロータ51の外周のうちの吸入口60側は低圧となって、吸入口60と連通する空隙部53と同様の圧力となり、アウターロータ51の外周のうちの吐出口61側は高圧となって、吐出口61と連通する空隙部53と同様の圧力となる。このため、アウターロータ51の内外における圧力バランスが保持され、ポンプ駆動を安定して行うようにすることができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、メカニカルシール機能を担うアウターロータ51、インナーロータ52、第2のサイドプレート72の各端面51b、52b、72bの仕上げ加工面に、通常の直線状あるいは円周状の研磨筋ではなく、放射状の研磨筋を施してある。
【0060】
このようにインナーロータ52、アウターロータ51の軸方向端面の研磨筋も放射状にすることで、中央プレート73の孔とアウターロータ51外周とで形成される空隙部50aとアウターロータ51とインナーロータ52により形成される空隙部53が研磨筋で形成される微小な溝で連通され、また、空隙部53とインナーロータ52のシャフト穴52bもまた微小な溝で連通される。このため、アウターロータ51及びインナーロータ52と第2のサイドプレート72との摺動面に油が供給・保持され、損失トルクが小さくなるようにできる。特に、本回転式ポンプ10の圧力分布が図7で表されることから、本回転式ポンプの構成では、微小な放射状の溝の両端部で圧力差が生じることになり、摺動面上で空隙部間を連通する微小な溝の存在効果が増幅される。
【0061】
さらに、研磨筋の微小な溝部に存在するブレーキ液には、ギヤが回転することによって半径方向に遠心力が働くので、研磨筋を放射状にすることで遠心力の方向と微小な溝の方向とが一致し、微小な溝に沿って油が摺動面に供給され易くなる。
【0062】
以上説明したように、メカニカルシール機能を担うアウターロータ51、インナーロータ52、第2のサイドプレート72の各端面51b、52b、72bに放射状の研磨筋を施すことで、摺動面への油の供給を促進させることができ、したがって摺動面の摩擦係数を減少させられ、回転式ポンプ10の損失トルクを低減することが可能となる。
【0063】
(第2の実施形態)
図8(a)に、本発明の第2実施形態における回転式ポンプの正面図を示し、図8(b)に図8(a)のA−A矢視断面図を示す。第1実施形態では、アウターロータ51、インナーロータ52及び第2のサイドプレート72の軸方向端面の仕上げ面に放射状の研磨筋を形成していた。これに対し、本実施形態では、図8(a)中の矢印で示すように、第2のサイドプレートの軸方向端面の仕上げ面を吐出口と吸入口とを結ぶ方向の通常の直線状研磨筋とし、第2のサイドプレートのうち、アウターロータ51及びインナーロータ52の研磨筋が第2のサイドプレート72の研磨筋に沿う位置に油溝72cを設置している。なお、この直線状の研磨筋はアウターロータ51、インナーロータ52では全面に至って一直線状に形成されており、また第2のサイドプレート72側でも、アウターロータ51が対向する部分を含み、この部分よりも広い範囲に全面に至って一直線状に形成されている。
【0064】
なお、第2のサイドプレート72においてアウターロータと対面する部分のうち油溝72Cが設けられる部位は、アウターロータ52の研磨筋と第2のサイドプレートの研磨筋とが同方向となる回転状態において、アウターロータ52の外周から外周を空隙部により途切らされることなく一直線にアウターロータ52に研磨筋が残る部分と対向する部位である。この部分は空隙部からの油の供給が少なくなるため最も損失トルクが高くなる部分である。よって、本実施形態の如くこの損失トルクが最も高くなる部分においてアウターロータ51と第2のサイドプレート72との接触面積が小さくなるように油溝72Cを設けると、接触摩擦抵抗を低減することができ、損失トルクを低減することが可能である。なお、この油溝72cを設けたことによって接触面積が小さくなるだけでなく、油溝72cに溜まった油が近傍の摺動面に供給されることにより損失トルクを低減する効果も奏する。
【0065】
なお、本実施例では第2のサイドプレート72における研磨筋が図8(a)の紙面左右方向を例としたが、第2のサイドプレート72における研磨筋が紙面縦方向等どのように可変しても油溝を設けるべき部位は特定できる。すなわち、アウターロータにおいて最も損失トルクが大きくなる部位の研磨筋方向と第2のサイドプレートにおける研磨筋方向とが一致する際に、この損失トルクが最大の部位と対向する第2のサイドプレートの部位が油溝を設けるべき部位である。
【0066】
また、油溝はアウターロータ51側に設けるようにしてもよい。この場合には第2のサイドプレートにおける研磨筋方向がどのようであっても、アウターロータ51において外周から外周を空隙部により途切らされることなく一直線に研磨筋が残る部位が最も損失トルクを生むところであるので、この部位に油溝を設けるようにすればよい。
【0067】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第2のサイドプレート72の端面の仕上げ面を放射状の研磨筋に、アウターロータ51、インナーロータ52の各端面の仕上げ面を円周状の研磨筋にしている。
【0068】
この場合、第2のサイドプレート72の研磨筋とアウターロータ51、インナーロータ52の研磨筋は、回転中、全ての領域で略直角に交わることとなる。よって、研磨筋が交わることによって、第2のサイドプレート72の表面とアウターロータ51、インナーロータ52の表面との実際の接触面積は、研磨筋の凹凸により非異常に小さくなる。なお、この実施形態において、アウターロータ51の対向する面は、第2の実施形態における油溝72Cを設けた損失トルクが最大の部位の接触抵抗よりも必ず小さい。すなわち本実施形態の接触抵抗は、第2の実施形態における第2のサイドプレート72の研磨筋方向と回転したアウターロータ51の研磨筋方向が沿わない場合と同等である。なお、本実施形態における接触抵抗は、第2の実施形態において最も損失トルクが高いとして油溝72Cを形成した部分を除く部分と同等であるが、研磨による抵抗を鑑みた際に全面に至って同等の接触抵抗とできるというメリットを備えている。すなわち、研磨筋による抵抗が全面に至って同等の接触抵抗となると、回転に伴い接触抵抗が大きい部分すなわち余分な負荷がかかる部分がなくなり、摩擦による接触面の削れ等を抑えることができ、また摩擦熱による金属の膨張による性能低下を抑えることができ、ポンプ性能上有利である。
【0069】
なお、これとは反対に、第2のサイドプレート72の端面の仕上げ面を円周状の研磨筋にし、アウターロータ51及びインナーロータ52の各端面の仕上げ面を放射状の研磨筋にしても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(第4の実施形態)
上記各実施形態について、第2のサイドプレート72の軸方向端面72bのうち、閉じ込み部53a、53bと対向する部位(シール部材100の幅広部100C、100Dに相当する部位)に、油溝を設けるようにしても良い。この部位は、シール部材100がアウターロータ51及びインナーロータ52に直接接触してシールしており、第2のサイドプレート72側の摺動も厳しくなる。このため、油溝を設置することで、潤滑を助けることができ、損失トルクを低減することができる。
【0071】
また、上記各実施形態に限らず、アウターロータ51及びインナーロータ52の軸方向端面51b、52bや第2のサイドプレート72の軸方向端面72bの研磨筋が直線状又は円周状とされた回転式ポンプ10に対しても、本実施形態のような油溝を設ければ、損失トルク低減の効果を得ることが可能である。
【0072】
また、第1の実施形態において、第2のサイドプレート72、アウターロータ51、インナーロータ52の軸方向端面に形成される研磨筋は湾曲した形状をしていたが、図9(a)(b)に示すように軸中心位置から直線で伸びる放射状としてもよい。この際には第1の実施の形態における遠心力による作用効果と同様の作用効果を発揮することができる。
【0073】
また、図10の(a)(b)に示すように、第2のサイドプレート72と、アウターロータ51、およびインナーロータ52のどちらか一方の軸方向端面を曲線の放射状研磨筋とし、他方を直線の放射状研磨筋とすることも可能である。この際にも第1の実施の形態と同等の作用効果を得ることができる。また第1の実施の形態の作用効果に加えて、第2のサイドプレート72の研磨筋とアウターロータ51およびインナーロータ52の研磨筋とが重なることが無く、必ず交差するため、軸方向端面同士の接触面積が研磨筋の凹凸により低減され、接触抵抗、損失トルクが低減される。また、図11に示すように第2のサイドプレート72における摺動面の曲線の放射状研磨筋と、アウターロータ51およびインナーロータ52の摺動面の曲線の放射状研磨筋とにおいて、曲線の曲率が逆方向を向くようにしても同様の作用効果を得ることができる。なお、図11における実線はアウターロータ51およびインナーロータ52における研磨筋を示し、点線は第2のサイドプレートにおける研磨筋を示す。また、図12に示すように、第2のサイドプレート72の摺動面における曲線の放射状研磨筋と、アウターロータ51およびインナーロータ52の摺動面における曲線の放射状研磨筋とにおいて、双方の放射状研磨筋の中心位置が重ならないようにずらすことによっても、同様の作用効果を得ることができる。なお、図12における実線はアウターロータ51およびインナーロータ52における研磨筋を示し、点線は第2のサイドプレートにおける研磨筋を示す。
【0074】
また、前述の実施例では油溝72cを、第2のサイドプレート72に施された直線状の研磨筋を鑑みて図8(a)にて示した位置等に形成したが、これに関わらず単に以下のようにアウターロータ51の軸方向端面と第2のサイドプレート72との間のメカニカルシール面における接触面積を低減することを目的として油溝72cを形成するようにしてもよい。
【0075】
すなわち、第2のサイドプレート72においてアウターロータ51の軸方向端面において内歯部51aと干渉しない部位が対向する第2のサイドプレート72の部位に油溝72cを設ける。この際、図7に示されるアウターロータの外円周に関する圧力分布において高圧部と低圧部とが存在するが、油溝72cはこの高圧部と低圧部とに跨らないように形成される。すなわち、この油溝72cを通って圧力差が解消されてしまわないようにするためである。
【0076】
なお、油溝72cは、第2のサイドプレート72側において、図7のアウタロータ外円周の高圧部に接する部位に設けることが好ましい。すなわち、低圧部側はたとえシール部材100、80、81でシールしたとしても100%完全シールすることはできず多少なりとも高圧部側から低圧部側へ油が流動し、これにより低圧部のメカニカルシール部分の潤滑が行われる可能性があるが、高圧部へは圧力差によるメカニカルシール部分への油の流動は期待できないからである。油溝72cをこのようにアウターロータの外円周の高圧部に対応して設ける際に、空隙部の高圧部の部位と半径方向で一致している範囲に設けてもよいし、空隙部は低圧部であり同半径方向のアウターロータ外円周部位は高圧部となっている範囲に設けるようにしても良い。前者のように油溝72cを設けた場合、メカニカルシール部分において圧力差により潤滑する率が最も小さい部位が、この油溝72cの面積分、接触面積が減少する。よって、減少した接触面積分、摩擦抵抗が減少できる。また、後者のように油溝72cを設けた場合、油溝72c分の接触面積を減少させるだけでなく、差圧作用によりメカニカルシール部分において最も潤滑が行われる部位に対し、油溝72cに溜まる油をもって油の流動をいっそう多くすることができ、全体の潤滑を高めることができる。
【0077】
なお、前述までの実施形態において、第1の閉じ込み部(53a)は、複数の空隙部のうち体積が最大となると規定しているが、ポンプの設計上、厳密には最大ではない場合もある。同様に第2の閉じ込み部(53b)は複数の空隙部のうち体積が最小となると規定しているが、ポンプの設計上、厳密には最小ではない場合もある。しかしながら、本発明においては、複数の空隙部を吸入側と吐出側とを分けるための空隙部が少なくとも2箇所あって、体積が最大となる付近の閉じ込み部を第1の閉じ込み部、体積が最小となる付近の閉じ込み部を第2の閉じ込み部と定義するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】第1実施形態における回転式ポンプを備えたブレーキ装置の管路構成図である。
【図2】図1における回転式ポンプ10の具体的構成を示す図である。
【図3】図2に示すシール部材100の模式図である。
【図4】直線状の研磨筋を示した図である。
【図5】図1における回転式ポンプ10のアウターロータ51及びインナーロータ52、第2のサイドプレート72の軸方向端面に施された研磨筋を示す図である。
【図6】アウターロータ51及びインナーロータ52と第2のサイドプレート72との摺動面を拡大した図である。
【図7】図1における回転式ポンプ10の圧力分布を示した図である。
【図8】本発明の第2実施形態における回転式ポンプ10の具体的構成を示す図である。
【図9】 その他の実施形態におけるアウターロータ、インナーロータ、および第2のサイドプレートに施される研磨筋の概略図である。
【図10】 その他の実施形態におけるアウターロータ、インナーロータ、および第2のサイドプレートに施される研磨筋の概略図である。
【図11】 その他の実施形態におけるアウターロータ、インナーロータ、および第2のサイドプレートに施される研磨筋の概略図である。
【図12】 その他の実施形態におけるアウターロータ、インナーロータ、および第2のサイドプレートに施される研磨筋の概略図である。
【符号の説明】
【0079】
50…ケーシング、51…アウターロータ、51a…内歯部、52…インナーロータ、52a…外歯部、53…空隙部、53a、53b…閉じ込み部、54…駆動軸、60…吸入口、61…吐出口、71、72…第1、第2のサイドプレート、72c…油溝、80…シール部材(シール手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に内歯部(51a)を有するアウターロータと、外周に外歯部(52a)を有すると共に駆動軸(54)を軸として回転運動するインナーロータ(52)とを備え、前記内歯部と外歯部との噛み合いの間に複数の空隙部(53)が形成された回転部と、
前記回転部の一方の軸方向端面側に配置された第1のサイドプレート(71)と、前記回転部の他方の軸方向端面側に配置され、前記アウターロータおよびインナーロータの軸方向端面との接触面がメカニカルシールを行う第2のサイドプレート(72)と、を含み、前記回転部を覆うように形成されたケーシング(50)と、
前記ケーシングに設けられ、前記回転部に流体を吸引する吸入口(60)と前記回転部から流体を吐出する吐出口(61)と、
前記ケーシングの内部の前記回転部が内包される空間を、前記吸入口と接続された低圧側の空間と前記吐出口と接続された高圧側の空間とに分割するシール手段と、前記アウターロータの軸方向端面と対向する前記第2のサイドプレートの部位の前記内歯部に重ならない部位に設けられ、前記高圧側の空間に跨り前記低圧側の空間には跨ることなく形成された油溝(72c)と、
を備えることを特徴とする回転式ポンプ。
【請求項2】
前記高圧側空間と低圧側の空間は、前記複数の空隙部の部分と前記アウターロータの外円周と前記ケーシングとの間の部分との双方に設けられ、前記複数の空隙部の高圧側の空間の部位と、前記アウターロータの外円周と前記ケーシングとの間の高圧側の空間の部位とが前記回転部の半径方向で重なる範囲において、前記油溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転式ポンプ。
【請求項3】
踏力に基づいてブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段(1〜3)と、
前記ブレーキ液圧に基づいて車輪に制動力を発生させる制動力発生手段(4、5)と、
前記ブレーキ液圧発生手段に接続され、前記制動力発生手段に前記ブレーキ液圧を伝達する主管路(A)と、
前記ブレーキ液圧発生手段に接続され、前記制動力発生手段が発生させる制動力を高めるために、前記主管路側にブレーキ液を供給する補助管路(D)と、を有するブレーキ装置において、
請求項1または2に記載の回転式ポンプは、前記吸入口が前記補助管路を通じて前記ブレーキ液圧発生手段側のブレーキ液を吸入でき、前記吐出口が前記主管路を通じて前記制動力発生手段に向けてブレーキ液を吐出できるように配置されていることを特徴とする回転式ポンプを備えたブレーキ装置。
【請求項1】
内周に内歯部(51a)を有するアウターロータと、外周に外歯部(52a)を有すると共に駆動軸(54)を軸として回転運動するインナーロータ(52)とを備え、前記内歯部と外歯部との噛み合いの間に複数の空隙部(53)が形成された回転部と、
前記回転部の一方の軸方向端面側に配置された第1のサイドプレート(71)と、前記回転部の他方の軸方向端面側に配置され、前記アウターロータおよびインナーロータの軸方向端面との接触面がメカニカルシールを行う第2のサイドプレート(72)と、を含み、前記回転部を覆うように形成されたケーシング(50)と、
前記ケーシングに設けられ、前記回転部に流体を吸引する吸入口(60)と前記回転部から流体を吐出する吐出口(61)と、
前記ケーシングの内部の前記回転部が内包される空間を、前記吸入口と接続された低圧側の空間と前記吐出口と接続された高圧側の空間とに分割するシール手段と、前記アウターロータの軸方向端面と対向する前記第2のサイドプレートの部位の前記内歯部に重ならない部位に設けられ、前記高圧側の空間に跨り前記低圧側の空間には跨ることなく形成された油溝(72c)と、
を備えることを特徴とする回転式ポンプ。
【請求項2】
前記高圧側空間と低圧側の空間は、前記複数の空隙部の部分と前記アウターロータの外円周と前記ケーシングとの間の部分との双方に設けられ、前記複数の空隙部の高圧側の空間の部位と、前記アウターロータの外円周と前記ケーシングとの間の高圧側の空間の部位とが前記回転部の半径方向で重なる範囲において、前記油溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転式ポンプ。
【請求項3】
踏力に基づいてブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段(1〜3)と、
前記ブレーキ液圧に基づいて車輪に制動力を発生させる制動力発生手段(4、5)と、
前記ブレーキ液圧発生手段に接続され、前記制動力発生手段に前記ブレーキ液圧を伝達する主管路(A)と、
前記ブレーキ液圧発生手段に接続され、前記制動力発生手段が発生させる制動力を高めるために、前記主管路側にブレーキ液を供給する補助管路(D)と、を有するブレーキ装置において、
請求項1または2に記載の回転式ポンプは、前記吸入口が前記補助管路を通じて前記ブレーキ液圧発生手段側のブレーキ液を吸入でき、前記吐出口が前記主管路を通じて前記制動力発生手段に向けてブレーキ液を吐出できるように配置されていることを特徴とする回転式ポンプを備えたブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−263116(P2007−263116A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104913(P2007−104913)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【分割の表示】特願2002−227718(P2002−227718)の分割
【原出願日】平成14年8月5日(2002.8.5)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【分割の表示】特願2002−227718(P2002−227718)の分割
【原出願日】平成14年8月5日(2002.8.5)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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