説明

回転検出装置および回転検出装置付き軸受

【課題】 余分な動作や手続きを要することなく、ABZ相信号を用いて絶対角度情報を出力できる回転検出装置、およびこの回転検出装置を組み込んだ回転検出装置付き軸受を提供する。
【解決手段】 回転する部材の回転角度を絶対角度で検出する絶対角度検出センサ3と、この絶対角度検出センサ3が検出した絶対角度に基づき、前記絶対角度検出センサ3の零相であるインデックス信号、および一定間隔のパルス信号を含む回転パルス信号を生成する回転パルス信号生成手段7とを設ける。絶対角度出力モード実行手段8により、前記回転パルス信号を、前記インデックス信号を出力してから現在の絶対角度まで出力するモードである絶対角度出力モードで出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種の機器における回転角度検出、例えば小型モータの回転制御のための回転角度検出等に用いられる回転検出装置、およびその回転検出装置を組み込んだ検出装置付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の機器に組み込み可能で、かつ高精度の回転角度検出が可能な回転検出装置として、磁気センサアレイを用いるものが提案されている(例えば特許文献1)。これは、図11のように、磁気センサ素子(MAGFET)を多数並べて構成した磁気センサアレイ45を、信号増幅回路、AD変換回路、デジタル信号処理回路などの回路46とともにセンサチップ42に集積し、このセンサチップ42を、回転側部材41に配置される磁石44に対向配置したものである。この場合、磁石44は回転中心O回りの円周方向異方性を有するものとされ、前記センサチップ42上では、仮想の矩形の4辺における各辺に沿って磁気センサアレイ45が配置される。
このように構成された回転検出装置43では、各辺の磁気センサアレイ45の出力を信号増幅回路、AD変換回路で読み出して前記磁石44の磁界分布を検出し、その検出結果に基づき磁石44の回転角度をデジタル信号処理回路により算出する。
【0003】
特許文献1に開示の回転検出装置43と検出方法は異なるものの、ホール素子などの磁気センサ素子を複数使用し、それらの出力信号を演算することによって、回転体に固定された磁石の位置や動きを検出する回転検出装置(例えばAMS社のロータリエンコーダLSI)なども提案されている。
【特許文献1】特開2003−37133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの回転検出装置では、検出された絶対角度情報をいくつかの形態で出力することができる。角度情報あるいは回転情報の出力方式としては、シリアル通信やアナログ電圧出力、パラレル信号伝送、ABZ相パルス出力など、用途によって適したものが選択されている。
しかし、シリアル通信の場合は、情報取得にある程度の時間が必要になり、リアルタイムな回転検出には不都合な場合がある。また、パラレル信号伝送の場合は、高速ではあるが必要な配線が増えてしまうという欠点がある。また、アナログ電圧の場合は、ノイズにより信号の伝達精度が制限されてしまう。ABZ相パルス出力の場合は、以下の理由により絶対角度情報を伝達できない。
【0005】
一般的なインクリメンタル型の回転検出装置では、出力信号として互いに位相の異なるA相およびB相の2つのパルス信号が使用されているが、これら2つのパルス信号にインデックス信号であるZ相信号を組み合わせることで、AB相信号のZ相信号からの相対変化量によって角度位置を算出するABZ相パルス出力を出力方式として採用するのが通例である。
しかし、このABZ相パルス出力の場合、回転部材をZ相信号が出力されるまで回転させないと回転原点位置がわからないので、回転検出装置に電源投入した直後などにイニシャライズ動作を実行しないと、現在角度を知ることができない。
【0006】
この発明の目的は、余分な動作や手続きを要することなく、ABZ相信号を用いて絶対角度情報を出力できる回転検出装置、およびこの回転検出装置を組み込んだ回転検出装置付き軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の回転検出装置を、実施形態に対応する図1と共に説明する。この回転検出装置は、回転する部材の回転角度を絶対角度で検出する絶対角度検出センサ3と、この絶対角度検出センサ3が検出した絶対角度に基づき、前記絶対角度検出センサ3の零相であるインデックス信号、および一定間隔のパルス信号を含む回転パルス信号を生成する回転パルス信号生成手段7と、前記回転パルス信号を、前記インデックス信号を出力してから現在の絶対角度まで出力するモードである絶対角度出力モードで出力する絶対角度出力モード実行手段8とを備えたものである。
この構成によると、絶対角度検出センサ3で検出した絶対角度情報を、余分な動作や手続きを要することなく、また特別なハードウェアの追加なしに、従来のインクリメンタル・エンコーダと同様なABZ相パルス信号を利用して出力することができ、回路接続も簡単でコストもかからない。その出力を受信する受信側でも、特別に絶対角度を記憶するなどの手段を用意することなく、常に絶対角度を検出することができる。
【0008】
この発明において、前記回転パルス信号が、互いに90°位相の異なるA相およびB相の2つのパルス信号と、前記インデックス信号とでなるものであっても良い。
【0009】
この発明において、前記絶対角度出力モード実行手段8は、前記絶対角度検出センサ3の電源オンの直後、およびこの回転検出装置に対する外部からの要求信号に応じて前記絶対角度出力モードによる出力を実行するものとしても良い。
この構成の場合、絶対角度検出センサ3が電源オンとなったとき、初期化動作の一部として絶対角度出力モード実行手段8が絶対角度出力モードとされて現在の絶対角度が出力されるので、回転検出装置に電源投入した直後にイニシャライズ動作を実行することなく、簡単に現在角度を知ることができる。また、回転検出装置に対する外部からの要求信号に応じて、絶対角度出力モード実行手段8が絶対角度出力モードによる出力を実行するので、要求信号を送信する外部の状態に応じて絶対角度情報を出力することができ、各種の制御回路・計数回路に接続して利用することが可能となる。
【0010】
この発明において、前記絶対角度出力モード実行手段8が絶対角度出力モードを実行していることを示す信号を出力するモード実行信号生成手段9を設けたものであっても良い。この構成の場合、絶対角度出力モード動作中を示す信号線を備えておれば、回転検出装置に対する外部の回路において、回転検出装置から送信されて来る回転パルス信号がどのような状態で出力されているかを判別することができ、機器の制御状態などを乱すことなく角度情報を伝達することもできる。
【0011】
この発明において、前記絶対角度検出センサ3が、前記回転する部材に設けられた磁気発生体の磁界を検出する磁気式の絶対角度検出センサであっても良い。
【0012】
この発明において、前記回転パルス信号生成手段7および絶対角度出力モード実行手段7が同じ半導体上に集積された回路からなるものであっても良い。この構成の場合、小型で高精度な回転検出装置を実現できる。
【0013】
この発明の検出装置付き軸受は、この発明の上記いずれかの構成の回転検出装置を軸受に組み込んだものである。
この構成によると、軸受使用機器の部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化が図れる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の回転検出装置は、回転する部材の回転角度を絶対角度で検出する絶対角度検出センサと、この絶対角度検出センサが検出した絶対角度に基づき、前記絶対角度検出センサの零相であるインデックル信号、および一定間隔のパルス信号を含む回転パルス信号を生成する回転パルス信号生成手段と、前記回転パルス信号を、前記インデックス信号を出力してから現在の絶対角度まで出力するモードである絶対角度出力モードで出力する絶対角度出力モード実行手段とを備えたため、余分な動作や手続きを要することなく、ABZ相信号を用いて絶対角度情報を出力できる。
この発明の検出装置付き軸受は、この発明の回転検出装置を軸受に組み込んだものであるため、軸受使用機器の部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。図1は、この実施形態の回転検出装置の概略構成をブロック図で示す。この回転検出装置1は、図示しない回転部材の軸心位置に設けられた磁気発生体である磁石2と、この磁石2の磁界変化を計測することで前記回転部材の回転角度を絶対角度で検出する絶対角度検出センサ3と、この絶対角度検出センサ3が検出した絶対角度の情報をABZ信号として受信側の回路30に出力する出力手段4とを備える。
【0016】
磁石2は、その一対の磁極N,Sから発生する磁気が前記回転部材の軸心の回りの方向性を有するものであり、中心が回転部材の軸心と一致するように例えば回転部材の一端に固定される。磁石2が回転部材と一体に回転することによって、回転部材の軸心の回りをN磁極およびS磁極が旋回移動する。
【0017】
絶対角度検出センサ3は、磁気センサ5と角度算出手段6とでなる。磁気センサ5は、磁石2の磁気を感知して回転角度の情報を出力するセンサであり、前記回転部材の軸心の軸方向に向けて磁石2と対面するように、図示しない固定部材に固定される。この磁気センサ5は、例えば複数の磁気センサ素子(MAGEFT)を列状に並べたアレイ式センサあるいは2次元ベクトルセンサである。
角度算出手段6は、前記磁気センサ5を構成する各磁気センサ素子の出力から前記磁石2の磁界強度を計測し、その計測値を基に回転部材の回転角度を絶対角度として検出する手段である。
【0018】
出力手段4は、回転パルス信号生成手段7と、絶対角度出力モード実行手段8と、モード実行信号生成手段9とを有する。
回転パルス信号生成手段7は、前記絶対角度検出センサ3が検出した絶対角度θに基づき、絶対角度検出センサ3の零相であるインデックス信号(Z相信号)、および一定間隔のパルス信号(AB相信号)を含む回転パルス信号(ABZ相信号)を生成する手段である。図2(A),(B)には、回転パルス信号生成手段7が生成する2つのパルス信号(A相信号,B相信号)の波形図を示す。これらA相およびB相のパルス信号は、互いに90°位相を異ならせてある。図2(C)には、回転パルス信号生成手段7が生成するインデックス信号(Z相信号)の波形図を示す。
【0019】
絶対角度出力モード実行手段8は、前記回転パルス信号(AB相信号)を、前記インデックス信号(Z相信号)を出力してから現在の絶対角度θまで出力するモードである絶対角度出力モードで出力する手段である。前記回転パルス信号生成手段7により生成される回転パルス信号(AB相信号)は、前記絶対角度出力モードの場合とそのモードでない場合とで異なる。すなわち、絶対角度出力モードでない場合(通常時)の回転パルス信号(AB相信号)は、絶対角度検出センサ3が検出する絶対角度の変化に応じた速度のパルス信号として生成される。これに対して、絶対角度出力モードでの回転パルス信号(AB相信号)は、前記通常時のパルス信号に比べて十分高速なパルス信号として生成される。なお、インデックス信号(Z相信号)も、絶対角度出力モードでは高速なパルス信号とされる。
絶対角度出力モード実行手段8は、絶対角度検出センサ3の電源オンの直後、およびこの回転検出装置1の出力を受ける外部の受信側の回路30からの要求信号(requesut信号) に応じて前記絶対角度出力モードの出力動作を実行する。図2(F)には、外部の受信側回路30から出力される要求信号(requesut信号) の波形図を示す。絶対角度検出センサ3は、電源オンの直後に電源オン信号を出力し、この電源オン信号が絶対角度出力モード実行手段8に入力される。
【0020】
モード実行信号生成手段9は、前記絶対角度出力モード実行手段8が絶対角度出力モードの出力動作を実行していることを示す信号(ABS_mode信号)を出力する手段である。図2(D)には、モード実行信号生成手段9が出力するABS_mode信号の波形図を示す。
【0021】
次に、前記回転検出装置1が回転部材の回転角度を絶対角度で検出し、その絶対角度の情報を外部の受信側回路30に向けて出力する動作を、回転部材が停止している場合(図2)と回転している場合(図3)とに分けて説明する。
・回転部材が停止している場合
受信側回路30から回転検出装置1の出力手段4に、図2(F)のように絶対角度出力の要求信号(requesut)が入力されると、これに呼応して絶対角度出力モード実行手段8が動作可能となり、モード実行信号生成手段9から図2(D)のように絶対角度出力モード中であることを示すモード実行信号(ABS_mode)が生成され、回転パルス信号生成手段7から図2(A),(B),(C)のように各回転パルス信号(A,B,Z)が生成される。各信号の生成順序としては、先ずABS_mode信号が1となり、その後インデックス信号(Z相信号)が出力され、さらに遅れて2つの回転パルス信号(A相信号,B相信号)が出力される。この場合のインデックス信号(Z相信号)は、絶対角度検出センサ3の零相とは無関係に出力される。
【0022】
これらの信号を受信して動作する受信側回路30では、インデックス信号(Z相信号)を受信することで絶対角度値を示すポジションカウンタ31が0にリセットされる。Z相信号に続いて出力されるA相信号およびB相信号を、前記ポジションカウンタ31が図2(E)のように計数する。A相信号およびB相信号のポジションカウンタ31での扱いは、これら各信号のエッジ部で計数するもの(4逓倍)とされる。回転検出装置1が検出している現在の回転角度の絶対値をQnとすると、回転パルス信号生成手段7からは、A相信号およびB相信号としてポジションカウンタ31での計数値が合計Qnとなるパルス数が出力される。
また、回転パルス信号生成手段7が、A相信号およびB相信号として合計Qnカウント分のパルス数を出力すると、モード実行信号生成手段9の生成するABS_mode信号が0となり、絶対角度出力モードが終了する。その結果、受信側回路30のポジションカウンタ31の計数値は、絶対角度出力モードが終了すると、回転検出装置1の検出している現在の回転角度の絶対値Qnを示す。
したがって、絶対角度出力モード動作中(ABS_mode=1)に回転パルス信号生成手段7から出力されるA相信号およびB相信号を計数することにより、受信側回路30のポジションカウンタ31に絶対角度データQnが転送されることになり、別途シリアル通信手段を設けることなく、ABZ相信号を用いて絶対角度情報を受信側回路30に向けて出力することができる。
【0023】
上記説明では、受信側の回路30から絶対角度出力モードの要求信号(requesut)を回転検出装置1の出力手段4に入力することによって、絶対角度出力モード実行手段8を絶対角度出力モードとする場合を示したが、回転角度検出装置1の絶対角度検出センサ3が電源オンとなったときにも、初期化動作の一部として絶対角度出力モード実行手段8が絶対角度出力モードとされる。この場合、絶対角度検出センサ3から出力される電源オン信号が前記要求信号(requesut)に代わって、絶対角度出力モードのタイミング信号となる。
この場合にも、絶対角度検出センサ3の電源がオンになると、絶対角度検出センサ3の検出する現在の絶対角度に相当するパルス数のAB相信号が出力されるため、この信号を受信する受信側の回路30に現在の絶対角度が伝えられることになる。受信側の回路30がリセットされた場合や、受信側の回路30の起動時間が長くかかり電源オン直後のAB相信号を正確に受信できない場合には、受信側の回路30から絶対角度の出力を要求する要求信号(requesut)を改めて回転角度検出装置1の出力手段4に入力し、再度絶対角度検出モードを実行させることにより、現在の絶対角度を受信側の回路30に転送することが可能になる。
【0024】
なお、絶対角度出力モードにおいては、上記したようにA,B,Zの各相信号はできるかぎり高速なパルス信号の形態で出力される。その結果、絶対角度情報を受信側の回路30に転送するために必要な時間を最低限にすることができる。
【0025】
・回転部材が回転している場合
この場合も、受信側回路30から回転検出装置1の出力手段4に、図3(F)のように絶対角度出力の要求信号(requesut)が入力されると、これに呼応して絶対角度出力モード実行手段8が動作可能となり、モード実行信号生成手段9から図3(E)のように絶対角度出力モード中であることを示すモード実行信号(ABS_mode=1)が生成され、回転パルス信号生成手段7から図2(B),(C),(D)のように各回転パルス信号(A,B,Z相信号)が生成される。
受信側回路30では、Z相信号を受信することで絶対角度値を示すポジションカウンタ31が0にリセットされ、Z相信号に続いて出力されるA相信号およびB相信号を、前記ポジションカウンタ31が計数する。A相信号およびB相信号のパルス出力が、図3(A)のように一旦現在の絶対角度値に達すると、そこで絶対角度出力モード動作が終了する(ABS_mode=0)。その後は、回転部材の回転に伴い絶対角度検出センサ3で検出される絶対角度の変化に応じた回転パルス信号(ABZ相信号)が出力される。これにより、パルスを計数することで絶対角度を知る受信側の回路30では、絶対角度出力モード動作が終了(ABS_mode=0)となった後は実際の絶対角度情報を常に取得している状態となる。
【0026】
このように、この実施形態の回転検出装置1では、絶対角度検出センサ3で検出した絶対角度情報を、特別なハードウェアの追加なしに、従来のインクリメンタル・エンコーダと同様なABZ相パルス信号を利用して出力することができ、回路接続も簡単でコストもかからない。その出力を受信する受信側でも、特別に絶対角度を記憶するなどの手段を用意することなく、常に絶対角度を検出することができる。
【0027】
また、この実施形態では、出力手段4の絶対角度出力モード実行手段8が絶対角度出力モードを実行していることを示す信号(ABS_mode)を出力するモード実行信号生成手段9を設けているので、絶対角度出力モード動作中を示す信号線を備えておれば、受信側の回路30において、回転検出装置1から送信されてくる回転パルス信号(ABZ相信号)がどのような状態で出力されているかを判別することができ、機器の制御状態などを乱すことなく角度情報を伝達することもできる。例えば受信側の回路30が、モータ制御などを実行している場合であっても、異常な動作をしないようにすることが可能になる。
【0028】
また、この実施形態では、回転検出装置1に対する外部(受信側の回路30)からの要求信号(requesut)に応じて、絶対角度出力モード実行手段8が絶対角度出力モードによる出力を実行するものとしているので、受信側の回路30の状態に応じて絶対角度情報を出力することができ、各種の制御回路・計数回路に接続して利用することが可能となる。
【0029】
図4は、この実施形態と略同等の回転検出装置を組み込んだ軸受の断面図を示す。この回転検出装置付き軸受20は、内輪21と外輪22の転走面間に、保持器23に保持された転動体24を介在させた転がり軸受である。転動体24はボールからなり、この転がり軸受20は単列の深溝玉軸受とされている。内輪21には回転部材である回転軸10が圧入状態に嵌合しており、外輪22は軸受使用機器のハウジング(図示せず)に設置されている。
【0030】
転がり軸受20に組み込まれる回転検出装置1は、転がり軸受20の内輪21側に配置された磁石2と、外輪22側に配置された回転センサ13とを備える。具体的には、内輪21と共に回転する回転軸10に、一対の磁極N,Sが形成された永久磁石2が配置され、外輪22と固定関係にあるセンサ取付部材27に回転センサ13が配置される。
磁石2は、図5に示すように、その一対の磁極N,Sから発生する磁気が転がり軸受20の軸心Oの回りの方向性を有するものである。この磁石2は、転がり軸受20の軸心Oが磁石2の中心と一致するように、回転軸10の一端の中央に固定される。磁石2が回転軸10と一体に回転することによって、上記軸受軸心Oの回りをN磁極およびS磁極が旋回移動する。
【0031】
回転センサ13は磁石2の磁気を感知して回転角度の情報を出力するセンサである。回転センサ13は、転がり軸受20の軸心Oの軸方向に向けて磁石2と対面するように、センサ取付部材27を介して外輪22側に取付けられる。具体的には、外輪22に前記センサ取付部材27が取付けられ、このセンサ取付部材27に回転センサ13が固定されている。センサ取付部材27は、外周部の先端円筒部27aを外輪22の内径面に嵌合させ、この先端円筒部27aの近傍に形成した鍔部27bを外輪22の幅面に係合させて軸方向に位置決めがなされている。また、センサ取付部材27には、回転センサ13の出力を取り出すための出力ケーブル29も取付けられている。
【0032】
回転センサ13は、図6に平面図で示すように、1つの半導体チップ14上に大規模集積回路(LSI)を集積して構成される。その大規模集積回路は、磁気センサ5を構成する複数の磁気センサ素子5aと、その磁気センサ素子5aの出力から前記磁石2の磁界強度を計測し、その計測値に基づき回転側部材である回転軸10の回転角度を絶対角度で検出する角度算出手段6と、遅延時間補正手段17と、補間手段18と、出力手段4とからなる。ここでは、磁気センサ5、角度算出手段6、遅延時間補正手段17および補完手段18で、図1における絶対角度検出センサ3が構成され、この絶対角度検出センサ3と出力手段4が1つの半導体チップ14上に集積して回転センサ13が構成される。なお、出力手段4は、半導体チップ14とは別の場所に設置しても良い。
【0033】
半導体チップ14上において、磁気センサ素子5aは、仮想の矩形上の4辺における各辺に沿って配置されて、4辺の磁気センサアレイ5A〜5Dとされる。この場合、前記矩形の中心O’は、転がり軸受20の軸心Oに一致する。4辺の磁気センサアレイ5A〜5Dは、同図の例ではセンサ素子5aが一列に並んだものとしているが、センサ素子5aが複列に平行に並んだものであっても良い。前記角度算出手段6、遅延時間補正手段17、補間手段18、出力手段4などからなる演算回路部は、磁気センサアレイ5A〜5Dの矩形配置の内部に配置される。半導体チップ14は、その素子形成面が前記磁石2と対向するように前記センサ取付部材27に固定される。
【0034】
図7および図8は、前記角度算出手段6による回転角度算出処理の説明図である。図8(A)〜(D)は、回転軸10が回転している時の磁気センサアレイ5A〜5Dによる出力波形図を示し、それらの横軸は各磁気センサアレイ5A〜5Dにおける磁気センサ素子5aを、縦軸は検出磁界の強度をそれぞれ示す。
いま、図7に示す位置X1とX2に磁気センサアレイ5A〜5Dの検出磁界のN磁極とS磁極の境界であるゼロクロス位置があるとする。この状態で、各磁気センサアレイ5A〜5Dの出力は、図8(A)〜(D)に示す信号波形となる。したがって、ゼロクロス位置X1,X2は、磁気センサアレイ5A,5Cの出力から直線近似することで算出できる。
角度計算は、次式(1)で行うことができる。
θ=tan-1(2L/b) ……(1)
ここでθは、磁石2の回転角度を絶対角度(アブソリュート値)で示した値である。2Lは、矩形に並べられる各磁気センサアレイ5A〜5Dより構成される四角形の1辺の長さである。bは、ゼロクロス位置X1,X2間の横方向長さである。
ゼロクロス位置X1,X2が磁気センサアレイ5B,5Dにある場合には、それらの出力から得られるゼロクロス位置データにより、上記と同様にして回転角度θが算出される。
【0035】
ところで、角度算出手段6が上記した演算を行って回転角度θを出力するまでに時間遅れが発生する。したがって、高速回転状態では検出された回転角度位置は実際の回転角度位置とは異なっていることがある。図10には、時刻tn-1 ,tn ,tn+1 において角度算出手段6で演算出力される各検出角度θn-1 ,θn ,θn+1 と実際の角度との関係を示している。これら検出角度θn-1 ,θn ,θn+1 と実際の角度との角度差が上記遅延によるものである。
【0036】
図9において、遅延時間補正手段17は、角度算出手段6から出力される検出角度θを前記時間遅れ分だけ補正する手段である。その補正処理は以下の手順で行われる。
(1)時刻tn に角度算出手段6から出力される検出角度θn と、時刻tn-1 に角度算出手段6から出力される検出角度θn-1 の差分Δθn (=θn −θn-1 )を回転速度として計算する。この差分値Δθn は、1回の磁界サンプリング間隔Tで回転した角度を示している。
(2)このようにして検出された回転速度(差分値Δθn )を用いて、次のサンプリング時刻(次に角度算出手段6が検出角度θn+1 を出力する時刻)tn+1 に到達すべき回転角度位置Pn+1 を計算する。ここでは、検出角度出力までの遅延時間を補償する。その補償の計算方法として、例えば一次近似を用いると、tn+1 に到達すべき回転角度位置Pn+1 は、
Pn+1 =θn +α・Δθn ……(2)
となる。ここでαは遅延時間を補償する係数で、遅延時間の大きさによって設定され、図10の場合ではα=2に設定される。このようにして求められた次回の予想検出角度Pn+1 が目標値となる。このように遅延時間補償を行った場合、Pn+1 は図10に示す位置となり、実際の回転角度位置に近接した値が目標値となる。このとき、図示しないメモリには、前回計算した目標値Pn が記憶されている。
【0037】
補間手段18は、磁界のサンプリング間隔Tを補間して回転角度の変化分を演算する手段である。その補間処理は、以下の手順で行われる。
(1)遅延時間補正手段17で求まった目標値Pn+1 と、メモリに記憶された前回の目標値Pn とを用いて、次回サンプリング時刻tn+1 までに変化すべきカウント量Cn を、 Cn =Pn+1 −Pn ……(3)
として求める。
(2)前記カウント量Cn を計算後、現在位置AをPn としてメモリに再記憶する。すると、図示しないカウンタにCn 個のクロックが順次入力され、これによりカウンタのカウント値が変化し、補正角度出力(遅延時間補償+補間)Aが得られる。
出力手段4での処理は図1の実施形態の場合と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0038】
この場合の回転検出装置1では、角度算出手段6から出力される検出角度θを、磁石2の磁界が磁気センサ素子5aで検出されてから角度算出手段6で検出角度θが出力されるまでの時間遅れ分だけ遅延時間補正手段17で補正するようにしているので、絶対角度検出センサ3から出力される絶対角度情報が実際の回転側部材(回転軸10)の回転角度にごく近い値になり、正確な角度情報をリアルタイムで得ることができる。
また、補間手段18により、磁界のサンプリング間隔Tを補間して回転角度の変化分を演算するようにしているので、回転側部材(回転軸10)の高速回転動作を、サンプリング時間間隔Tよりも細かく検出することができる。
【0039】
また、図4の回転検出装置付き軸受20では、上記回転検出装置1を転がり軸受20に組み込んでいるので、軸受使用機器の部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の一実施形態に係る回転検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】回転部材停止時の回転検出装置における出力手段の絶対角度出力モードでの出力動作を説明する波形図である。
【図3】回転部材回転時の回転検出装置における出力手段の絶対角度モードでの出力動作を説明する波形図である。
【図4】同回転検出装置と略同等の回転検出装置を組み込んだ回転検出装置付き軸受の断面図である。
【図5】同軸受における回転検出装置設置部を示す拡大側面図である。
【図6】同軸受における回転センサの一例を構成する半導体チップの平面図である。
【図7】同回転センサの角度算出手段による角度算出処理の説明図である。
【図8】同回転センサにおける磁気センサアレイの出力を示す波形図である。
【図9】前記回転検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図10】同回転検出装置における遅延時間補正手段の処理動作を示す説明図である。
【図11】従来例の斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1…回転検出装置
2…磁石
3…絶対角度検出センサ
4…出力手段
5…磁気センサ
6…角度算出手段
7…回転パルス信号生成手段
8…絶対角度出力モード実行手段
9…モード実行信号生成手段
20…回転検出装置付き軸受


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する部材の回転角度を絶対角度で検出する絶対角度検出センサと、この絶対角度検出センサが検出した絶対角度に基づき、前記絶対角度検出センサの零相であるインデックス信号、および一定間隔のパルス信号を含む回転パルス信号を生成する回転パルス信号生成手段と、前記回転パルス信号を、前記インデックス信号を出力してから現在の絶対角度まで出力するモードである絶対角度出力モードで出力する絶対角度出力モード実行手段とを備えた回転検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記回転パルス信号が、互いに90°位相の異なるA相およびB相の2つのパルス信号と、前記インデックス信号とでなる回転検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記絶対角度出力モード実行手段は、前記絶対角度検出センサの電源オンの直後、およびこの回転検出装置に対する外部からの要求信号に応じて前記絶対角度出力モードによる出力を実行するものとした回転検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記絶対角度出力モード実行手段が絶対角度出力モードを実行していることを示す信号を出力するモード実行信号生成手段を設けた回転検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記絶対角度検出センサが、前記回転する部材に設けられた磁気発生体の磁界を検出する磁気式の絶対角度検出センサである回転検出装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記回転パルス信号生成手段および絶対角度出力モード実行手段が同じ半導体上に集積された回路からなる回転検出装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の回転検出装置を軸受に組み込んだ回転検出装置付き軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−116291(P2008−116291A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299017(P2006−299017)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】