説明

回転軸受付き直動案内装置

【課題】支持軸の高精度での滑動及び/又は回転を安定に実現可能な回転軸受付き直動案内装置を提供すること。
【解決手段】ねじ軸及びその周囲に嵌め合わされたナットからなる送りねじ(13)と、ねじ軸の一方の端部の延長部として形成されている、外周面上に複数本の溝を持つ支持軸(21)と、支持軸をその各溝に係合する複数の転動体を介して非回転にて滑動可能に収容支持している外筒を持つ直動軸受(23)とを備える直動案内装置、および上記外筒の周囲に装着された二以上の回転軸受(33)からなり、各回転軸受が、上記外筒の外周面に形成された周溝(22a)と、この周溝に配置された複数の転動体(34)と、各転動体を回転可能に保持している環状保持器(35)と、環状保持器の外周側に突き出された各転動体部分を収容する周溝を内周面に備える環状体(36)とから構成されている回転軸受付き直動案内装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸受を備える直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子部品をプリント配線板の表面に装着する際には、下端に電子部品の吸着ノズルを持つ軸体を長さ方向に移動(昇降)させ、そして電子部品が所定の角度で配置されるように軸体を回転させる機能を持つ電子部品装着装置が用いられている。このように、軸体を昇降及び/又は回転させるため、回転軸受を備えた直動案内装置が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、外筒(スプラインナット)の内部に軸体(スプライン軸)を非回転にて滑動(長さ方向に移動)可能に収容してなる直動軸受、前記の外筒の周囲に固定された筒体、そして筒体の周囲に配設された回転軸受(アンギュラ球軸受)からなる回転軸受付き直動案内装置が開示されている。
【0004】
同文献の回転軸受付き直動案内装置の軸体の下端には、吸着ノズルを持つロータが接続され、そして上端には回転駆動装置(モータ)が接続されている。そして前記回転モータを駆動することにより、軸体が吸着ノズルと共に回転する。その一方で、この直動案内装置の筒体には上記回転軸受を介して直動駆動用のシャフトモータが接続されている。そして前記シャフトモータを駆動することにより、前記筒体が吸着ノズルと共に昇降する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−305887号公報(第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の回転軸受付き直動案内装置は、組み立ての際に直動軸受と回転軸受とを両者の中心軸が正確に一致するように固定しないと、軸体が偏心した状態にて回転する。また、同文献の回転軸受付き直動案内装置は、使用の際に直動案内装置の軸体を回転駆動装置の回転軸に両者の中心軸が正確に一致するように固定しないと、軸体が偏心した状態にて回転する。すなわち、この回転軸受付き直動案内装置は、組み立ての精度、あるいは回転駆動装置への取り付けの精度の影響を受けて、軸体の回転精度が変動し易い。
【0007】
本発明の課題は、組み立ての精度、そしてあるいは回転駆動装置への取り付けの精度を考慮することなく、軸体の高精度での滑動及び/又は回転を安定に実現することができる回転軸受付き直動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ねじ軸及びその周囲に嵌め合わされたナットからなる送りねじと、前記ねじ軸の一方の端部の延長部として形成されている、外周面上に長さ方向に沿って形成された複数本の溝を持つ支持軸と、この支持軸をその各溝に係合する複数の転動体を介して非回転にて滑動可能に収容支持している外筒を持つ直動軸受とを備える直動案内装置、および上記外筒の周囲に装着された二以上の回転軸受からなり、上記の各回転軸受が、上記外筒の外周面に形成された周溝と、この周溝に配置された複数の転動体と、各転動体を内周側及び外周側に部分的に突き出させた状態で回転可能に保持している環状保持器と、環状保持器の外周側に突き出された各転動体部分を収容する周溝を内周面に備える環状体とから構成されている回転軸受付き直動案内装置にある。
【0009】
本発明の回転軸受付き直動案内装置の好ましい態様は、次の通りである。
(1)外筒の外周面の直径が外筒の長さ方向に一定である。
(2)外筒の周囲に装着された各回転軸受の環状体の内周面の直径と外筒の外周面の直径との差が、転動体の直径の1.2〜1.95倍の範囲内の長さにある。
(3)外筒の周囲に装着された各回転軸受の環状保持器が、上記各転動体を保持する複数の透孔が形成された上記外筒と同軸に配置された周壁を備えていて、一方の回転軸受の環状保持器の周壁には、その各透孔から他方の回転軸受の側の端面に到達する複数のスリットが形成されていて、前記他方の回転軸受の環状保持器の周壁には、その各透孔から前記一方の回転軸受の側の端面に到達する複数のスリットが形成されていて、そして各環状保持器の各スリットの幅が転動体の直径の0.7〜0.95倍の範囲内の長さにある。
【0010】
(4)送りねじのナットの周囲に二以上の回転軸受が装着され、そして前記の各回転軸受が、前記ナットの外周面に形成された周溝と、この周溝に配置された複数の転動体と、各転動体を内周側及び外周側に部分的に突き出させた状態で回転可能に保持している環状保持器と、環状保持器の外周側に突き出された各転動体部分を収容する周溝を内周面に備える環状体とから構成されている。更に好ましくは、ナットの外周面の直径が該ナットの長さ方向に一定である。
(5)ナットの周囲に装着された各回転軸受の環状体の内周面の直径とナットの外周面の直径との差が、転動体の直径の1.2〜1.95倍の範囲内の長さにある。
(6)ナットの周囲に装着された各回転軸受の環状保持器が、上記各転動体を保持する複数の透孔が形成された上記ナットと同軸に配置された周壁を備えていて、一方の回転軸受の環状保持器の周壁には、その各透孔から他方の回転軸受の側の端面に到達する複数のスリットが形成されていて、前記他方の回転軸受の環状保持器の周壁には、その各透孔から前記一方の回転軸受の側の端面に到達する複数のスリットが形成されていて、そして各環状保持器の各スリットの幅が転動体の直径の0.7〜0.95倍の範囲内の長さにある。
【0011】
(7)ねじ軸及び支持軸の中心軸上に透孔が形成されている。
(8)外筒の内側に、この外筒と支持軸との間に介在させた複数の転動体を各転動体が内周側に突き出された状態で回転可能に保持し、そして前記複数の転動体を含む転動体群を外筒と支持軸との間で循環させる転動体循環路を持つ筒状保持器が固定されている。
(9)外筒と支持軸との間に介在させた複数の転動体を各転動体が内周側及び外周側の各々に部分的に突き出された状態で回転可能に保持する筒状保持器が備えられ、そして前記外筒の内周面上に、前記の筒状保持器の外周側に突き出された各転動体部分を収容する、外筒の長さ方向に沿って形成された複数本の溝が備えられている。
【0012】
なお、本明細書で云う前記「外筒の外周面の直径が外筒の長さ方向に一定である」とは、例えば、安全性の確保のために行なわれる外筒の端部の面取りにより生じる外筒の外周面の直径の変動、外筒を製造する際の機械加工により必然的に生じる微細な凹凸に基づく外筒の外周面の直径の変動、外筒の通常の製造誤差(外筒の外周面の直径の±1%以下)に基づく外筒の外周面の直径の変動、あるいは回転軸受付き直動案内装置の機能とは無関係に外筒の外周面に形成した凹凸に基づく外筒の外周面の直径の変動を排除することを意味するものではない。
【0013】
同様に前記「ナットの外周面の直径がナットの長さ方向に一定である」とは、例えば、安全性の確保のために行なわれるナットの端部の面取りにより生じるナットの外周面の直径の変動、ナットを製造する際の機械加工により必然的に生じる微細な凹凸に基づくナットの外周面の直径の変動、ナットの通常の製造誤差(ナットの外周面の直径の±1%以下)に基づくナットの外周面の直径の変動、あるいは回転軸受付き直動案内装置の機能とは無関係にナットの外周面に形成した凹凸に基づくナットの外周面の直径の変動を排除することを意味するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の回転軸受付き直動案内装置は、組み立ての精度、そして回転駆動装置への取り付けの精度を考慮することなく、軸体(後述の支持軸)の高精度での滑動及び/又は回転を安定に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の回転軸受付き直動案内装置の構成例を示す一部切り欠き正面図である。
【図2】図1の直動軸受23の近傍の部位の拡大図である。
【図3】図2に記入した切断線III−III線に沿って切断した直動軸受23の断面図である。
【図4】図2の環状保持器35の平面図である。
【図5】図4に記入した切断線V−V線に沿って切断した環状保持器35の断面図である。
【図6】図1の回転軸受付き直動案内装置10の使用の態様を示す図である。
【図7】本発明の回転軸受付き直動案内装置の別の構成例とその使用の態様とを示す一部切り欠き正面図である。
【図8】図7の直動軸受83の近傍の部位の拡大図である。
【図9】図8に記入した切断線IX−IX線に沿って切断した直動軸受83の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の回転軸受付き直動案内装置を添付の図面を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明の回転軸受付き直動案内装置の構成例を示す一部切り欠き正面図である。但し、回転軸受33の転動体34が外筒22の周溝22aに配置されていることの理解を容易とするため、外筒22の左右の各々に転動体34を記入してある(以下の図に示す回転軸受も同様である)。回転軸受33では、各転動体は図4の環状保持器35の各透孔35aに保持されるため、実際には外筒22の左右の各々に転動体34が同時に配置されることはない。なお、直径方向に互いに対向する透孔を持つ環状保持器を用いれば、外筒の左右の各々に転動体が同時に配置される。
【0018】
図2は、図1の直動軸受23の近傍の部位の拡大図である。但し、転動体循環路26の図の上下の各端部近傍の位置に配置される転動体は記入していない。図3は、図2に記入した切断線III−III線に沿って切断した直動軸受23の断面図である。図4は、図2の環状保持器35の平面図である。そして図5は、図4に記入した切断線V−V線に沿って切断した環状保持器35の断面図である。
【0019】
図1〜図5に示す回転軸受付き直動案内装置10は、ねじ軸11及びその周囲に嵌め合わされたナット12からなる送りねじ13と、ねじ軸11の一方の端部の延長部として形成されている、外周面上に長さ方向に沿って形成された複数本の溝21aを持つ支持軸21と、支持軸21をその各溝21aに係合する複数の転動体24を介して非回転にて滑動可能に収容支持している外筒22を持つ直動軸受23とを備える直動案内装置29、および外筒22の周囲に装着された二個の回転軸受33、33などから構成されている。そして、この回転軸受付き直動案内装置10は、上記の各回転軸受33が、外筒22の外周面に形成された周溝22aと、周溝22aに配置された複数の転動体34と、各転動体34を内周側及び外周側に部分的に突き出させた状態で回転可能に保持している環状保持器35と、環状保持器35の外周側に突き出された各転動体部分を収容する周溝36aを内周面に備える環状体36とから構成されていることに主な特徴がある。
【0020】
送りねじ13としては、公知のもの、例えば、ねじ軸11の周囲に、ねじ軸11のねじ溝に収容された複数の転動体を介してナットが嵌め合わされた構成のボールねじが用いられている。
【0021】
この送りねじ13のねじ軸11の一方の端部の延長部として、複数本の溝21aを持つ支持軸21が形成されている。支持軸21と上記のねじ軸11とは、例えば、鋼に代表される金属材料から形成される。
【0022】
支持軸21は、各溝21aに係合する複数の転動体24を介して、直動軸受23の外筒22の内部に非回転にて滑動可能に収容支持されている。
【0023】
外筒22の外周面の直径は外筒22の長さ方向に一定であることが好ましい。これにより周溝22aを備える外筒22の製造が極めて容易になる。転動体24としては、球体が用いられている。球体に代えてころ(ローラ)を用いてもよい。外筒22及び各転動体24は、例えば、鋼に代表される金属材料から形成される。
【0024】
直動軸受23の外筒22の内側には、外筒22と支持軸21との間に介在させた複数の転動体24を各転動体24が内周側に突き出された状態で回転可能に保持し、そして前記複数の転動体24を含む転動体群を外筒22と支持軸21との間で循環させる転動体循環路26を持つ筒状保持器25が固定されていることが好ましい。
【0025】
筒状保持器25は、前記の複数の転動体24を含む転動体群を外筒22と支持軸21との間で循環させる複数(例えば、四個)の転動体循環路26を備えている。各転動体循環路26は、各々筒状保持器25の外周面に形成されている、転動体24の一部分を内周側に突き出させる細長い開口部27を備える転動体突き出し溝26aと、転動体突き出し溝26aの両端を結ぶ連結溝26bとから構成されている。
【0026】
筒状保持器25は、例えば、金属材料や樹脂材料から形成される。金属材料としては、機械加工が容易な金属材料、例えば、真鍮やステンレス鋼を用いることが好ましい。樹脂材料としては、機械的強度の大きな樹脂材料、例えば、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、あるいはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
直動軸受23では、外筒22の内側に固定された筒状保持器25の開口部27から突き出された各転動体24が、支持軸21の各溝21aと係合している。このため、直動軸受23の外筒22の内部には、上記支持軸21が周方向には非回転の状態で、長さ方向には滑動可能な状態で収容支持される。
【0028】
直動軸受23としては、このように支持軸の溝と転動体との係合により前記支持軸を非回転にて滑動可能に収容支持する外筒を持つ公知の直動軸受を用いることができる。
【0029】
筒状保持器25の軸方向の両外側には、外筒22の内周面に形成された環状溝22bに嵌め合わされた止め輪(スナップリング)28、28が備えられている。止め輪28は、例えば、金属材料や樹脂材料などの弾性を示す材料から形成されており、周方向の一部分が切り欠かれたC字状の形状を有している。止め輪28は、外周縁部に力を加えて外径が小さくなるように弾性変形させた状態にて、外筒22の端部の開口から内部に挿入される。この止め輪28は、外筒22の環状溝22bに到達すると元の形状に復帰して、環状溝22bの内部に収容配置される。止め輪28、28により、筒状保持器25の軸方向への移動が防止される。筒状保持器を、例えば、外筒の内周面に接着するなどして、その軸方向への移動を防止することもできる。
【0030】
前記のように、直動軸受23の外筒22の周囲には、二個の回転軸受33、33が装着されている。各回転軸受は、外筒22の外周面に形成された周溝22aと、周溝22aに配置された複数の転動体34と、各転動体34を内周側及び外周側に部分的に突き出させた状態で回転可能に保持している環状保持器35と、環状保持器35の外周側に突き出された各転動体部分を収容する周溝36aを内周面に備える環状体36とから構成されている。
【0031】
環状体36及び転動体34は、例えば、鋼に代表される金属材料から形成される。環状保持器35は、筒状保持器25の場合と同様に金属材料や樹脂材料から形成される。転動体34としては、球体が用いられている。球体に代えてころ(ローラ)を用いてもよい。
【0032】
環状保持器35により、互いに隣接する転動体34、34の接触(衝突)が防止される。従って、転動体34の摩耗が抑制され、直動軸受23の外筒22が複数の転動体34を介して環状体36に緊密に支持されるため、この外筒22に収容された支持軸21の高精度での回転移動が実現される。更には、環状体36と外筒22との軸方向への相対的な微動の発生が抑制されるため、この外筒22に収容された支持軸21の高精度での直線移動が実現される。
【0033】
これらの回転軸受33、33に支持された直動軸受23を周方向に回転させると、各回転軸受33の複数の転動体34が外筒22の周溝22aに沿って転動する。このため、直動軸受23は、回転軸受33、33に支持された状態で、その周方向に円滑に回転することができる。
【0034】
このように、本発明の回転軸受付き直動案内装置10では、回転軸受33の複数の転動体34の軌道として、直動軸受23の外筒22の外周面に形成された周溝22aを利用している。このような周溝22aは、例えば、旋盤や円筒研削盤などを用いた機械加工により、周溝22aの中心軸(すなわち回転軸受33の中心軸)と、外筒22の中心軸(すなわち直動軸受23の中心軸)とを正確に一致させた状態で形成することが容易である。そして、この外筒22の外周面の周溝22aに複数の転動体34を配置して回転軸受33を組み立てることにより、回転軸受33の中心軸を直動軸受23の中心軸と容易に一致させることができる。このため、本発明の回転軸受付き直動案内装置10は、組み立ての精度を考慮することなく、支持軸21の高精度での回転を安定に実現することができる。
【0035】
直動軸受23の外筒22の周囲に装着する回転軸受の数は、二個以上である限り特に制限はないが、組み立てが容易であることから二〜四個の範囲内にあることが好ましく、二個であることが特に好ましい。
【0036】
各回転軸受33の環状保持器35は、各転動体34を保持する複数の透孔35aが形成された上記外筒22と同軸に配置された周壁35bを備えていて、一方(図2にて上側)の回転軸受33の環状保持器35の周壁35bには、その各透孔35aから他方(図2にて下側)の回転軸受33の側の端面に到達する複数のスリット35cが形成されていて、前記他方(下側)の回転軸受33の環状保持器35の周壁35bには、その各透孔35aから前記一方(上側)の回転軸受33の側の端面に到達する複数のスリット35cが形成されていて、そして各環状保持器35の各スリット35cの幅(W1)が転動体34の直径の0.7〜0.95倍の範囲内の長さにあることが好ましい。なお、転動体として、ころ(ローラー)を用いる場合、前記の「転動体の直径」とは、ころの中心軸に垂直な断面における直径(但し、ころの直径が軸方向に変動する場合には最大の直径)を意味する。
【0037】
環状保持器35は、環状体36の周溝36aと外筒22の周溝22aとの間に複数の転動体34を配置したのち、環状体36の一方の端部の側から環状体36と外筒22との間に挿入される。環状保持器35を環状体36と外筒22との間に挿入する際に、各々の転動体34がスリット35cを通って透孔35aの内部に収容される。
【0038】
図4及び図5に示すように、環状保持器35の各スリット35cの透孔35aの側とは逆側の端部の幅(W2)は、前記の幅(W1)よりも拡大されていることが好ましい。これにより、前記端部から転動体34がスリット35cに進入し易くなるため、環状保持器35の透孔35aの内部に転動体34を収容することが更に容易になる。スリット35cの透孔35aの側とは逆側の端部の幅(W2)は、前記の幅(W1)の1.05〜2倍(特に、1.05〜1.5倍)の範囲内にあることが好ましい。
【0039】
環状保持器35の周壁35bのスリット35cが形成されている側とは逆側の端部には、この端部周縁から内周側に延びる環状の突出部35dが備えられていることが好ましい。これにより、環状保持器35の機械的強度が大きくなる。
【0040】
環状体36の内周面の直径(図2:D1)と外筒22の外周面の直径(図2:D2)との差は、転動体34の直径の1.2〜1.95倍の範囲内の長さにあることが好ましい。これにより、環状体36を外筒22の径方向に移動させることによって、環状体36と外筒22との間に大きな隙間が形成される。この隙間から、上記複数の転動体34を環状体36と外筒22の周溝22aとの間に容易に挿入することが可能になる。
【0041】
環状体36の内周面の直径と外筒22の外周面の直径との差が転動体34の直径の1.2倍以上の長さであると、上記隙間が大きくなるため転動体34の挿入が容易である。その一方で、環状体36の内周面の直径と外筒22の外周面の直径との差が転動体34の直径の1.95倍以下であると、環状体36及び外筒22の各周溝22aの深さを十分に大きくすることができるため、各周溝22aの間からの転動体34の脱落の発生が抑制される。
【0042】
環状体36の内周面の直径と外筒22の外周面の直径との差は、転動体34の直径の1.3〜1.8倍の範囲内の長さにあることが好ましく、1.3〜1.7倍の範囲内にあることが更に好ましく、1.3〜1.6倍の範囲内にあることが特に好ましい。
【0043】
なお、回転軸受付き直動案内装置10の径方向のサイズの小型化を実現する場合、回転軸受33の外径、従って環状体36の径方向のサイズ、転動体34の直径、そして環状保持器35の径方向のサイズを小さくすることが必要である。回転軸受33の外径を小さくすると、環状体36と外筒22との間隔が小さくなり、従って環状保持器35の厚みも小さくなる。このため、環状保持器35の機械的強度が低下する。
【0044】
この環状保持器35の機械的強度の低下を抑制するため、外筒22の外周面の直径を、外筒22の各端部からこの端部に隣接して配置された周溝22aまでの領域において一定とすることが好ましく、前記のように外筒22の外周面の直径を外筒22の長さ方向の全長において一定とすることが特に好ましい。
【0045】
これにより環状保持器35の内径を環状保持器35が外筒22の外周面に接触しない範囲にて小さくした場合であっても、すなわち環状保持器35の厚みを大きくしてその機械的強度を増大させた場合であっても、この環状保持器35を外筒22の端部の周囲に配置して、これを外筒22の長さ方向に沿って移動させて環状体36と外筒22の周溝22aとの間に挿入することが可能になる。
【0046】
次に、回転軸受付き直動案内装置10の動作について、添付の図6を参照しながら説明する。
【0047】
本発明の回転軸受付き直動案内装置10は、例えば、電子部品装着装置に用いられる。電子部品を支持軸21の下端部にて吸着するため、ねじ軸11及び支持軸21の中心軸上には透孔18が形成されている。一方、ねじ軸11の上端部には、排気管51を前記透孔18に接続する接続部材52が固定されている。排気管51及び接続部材52の気体通路52aを介して、透孔18の内部をポンプなどで排気することにより、支持軸21の下端部に電子部品を吸着させることができる。この支持軸21の下端部には、電子部品の吸着に適したノズルを付設することもできる。なお、ノズルに排気管が接続され、ノズル単独で電子部品の吸着が可能である場合には、ねじ軸11及び支持軸21に透孔18を設ける必要はない。
【0048】
送りねじ13は、ナット12の周囲に装着された二個の回転軸受63、63を介して筒状の容器53に収容固定されている。この容器53は、電子部品装着装置が備える支柱59に固定されている。各回転軸受63としては、外周面に周溝67aが形成された内側環状体67と、周溝67aに配置された複数の転動体64と、各転動体64を内周側及び外周側に部分的に突き出させた状態で回転可能に保持している環状保持器65と、環状保持器65の外周側に突き出された各転動体部分を収容する周溝66aを内周面に備える外側環状体66とを備える公知の回転軸受が用いられている。
【0049】
送りねじ13のナット12は、支柱59に固定された回転駆動装置55の回転軸55aにベルト57を介して接続されている。回転駆動装置55を作動させ、回転軸55aにベルト57を介して接続されたナット12を回転させると、ナット12に嵌め合わされたねじ軸11を支持軸21と共に上下に滑動(昇降)することができる。なお、ナット12を回転させる駆動装置としては、公知の駆動装置、例えば、ナットと回転駆動装置の回転軸とを歯車を介して接続したものなどを用いることができる。
【0050】
一方、直動軸受23は、外筒22の周囲に装着された二個の回転軸受33、33を介して筒状の容器54に収容固定されている。この容器54は、前記の支柱59に固定されている。
【0051】
直動軸受23の外筒22は、支柱59に固定された回転駆動装置56の回転軸56aにベルト58を介して接続されている。回転駆動装置56を作動させ、回転軸56aにベルト58を介して接続された外筒22を回転させると、外筒22を外筒22に非回転に収容支持された支持軸21と共に、すなわち直動軸受23の全体を支持軸21と共に円滑に回転することができる。この際に、送りねじ13のナット12は、ねじ軸11が支持軸21と共に回転することで生じる上下方向への移動を防止するため、回転駆動装置55を用いてねじ軸11との相対位置が変動しないように回転駆動される。なお、外筒22を回転させる駆動装置としては、上記ナットを回転させる駆動装置の場合と同様に公知の駆動装置を用いることができる。
【0052】
前記のように、本発明の回転軸受付き直動案内装置10を用いると、直動軸受23の中心軸と、各回転軸受33の中心軸とが正確に一致しているため、支持軸21の高精度での回転が安定に実現される。
【0053】
更に、本発明の回転軸受付き直動案内装置10では、直動軸受23によって支持される支持軸21が、送りねじ13のねじ軸11の延長部として一体に形成されている。前記の特許文献1の回転軸受付き直動案内装置では、支持軸(軸体)を回転させるために、軸体の端部に回転駆動装置(モータ)の回転軸が接続される。このような回転軸受付き直動案内装置を用いると、これを電子部品装着装置等の機械装置に組み込む際に、直動案内装置の支持軸(軸体)を回転駆動装置の回転軸に両者の中心軸が正確に一致するように固定しないと、支持軸が偏心して回転するため、支持軸を安定した高い精度で回転させることが難しい。本発明の回転軸受付き直動案内装置10を用いると、上記のような接続は不要であるため、支持軸21を安定した高い精度で回転させることが可能になる。
【0054】
図7は、本発明の回転軸受付き直動案内装置の別の構成例を示す一部切り欠き正面図である。図8は、図7の直動軸受83の近傍の部位の拡大図である。そして図9は、図8に記入した切断線IX−IX線に沿って切断した直動軸受83の断面図である。
【0055】
図7〜図9に示す回転軸受付き直動案内装置70の構成は、送りねじ73のナット72の周囲に、図6に示す回転軸受33と同様の構成を有する二個の回転軸受93、93が備えられていること、そして使用する直動軸受83の構成が異なること以外は図6の回転軸受付き直動案内装置10と同様である。
【0056】
回転軸受付き直動案内装置70では、送りねじ73のナット72の周囲に二個の回転軸受93、93が装着され、そして各回転軸受93が、ナット72の外周面に形成された周溝72aと、周溝72aに配置された複数の転動体94と、各転動体94を内周側及び外周側に部分的に突き出させた状態で回転可能に保持している環状保持器95と、環状保持器95の外周側に突き出された各転動体部分を収容する周溝96aを内周面に備える環状体96とから構成されている。
【0057】
回転軸受付き直動案内装置70では、回転軸受93の複数の転動体94の軌道として、送りねじ73のナット72の外周面に形成された周溝72aを利用している。このような周溝72aは、図6に示す直動軸受23の外筒22の周溝22aと同様に、例えば、旋盤や円筒研削盤などを用いた機械加工により、周溝72aの中心軸(すなわち回転軸受93の中心軸)と、ナット72の中心軸(すなわち送りねじ73及び支持軸21の中心軸)とを正確に一致させた状態で形成することが容易である。そして、このナット72の外周面の周溝72aに複数の転動体94を配置して回転軸受93を組み立てることにより、回転軸受93の中心軸を送りねじ73及び支持軸21の中心軸と容易に一致させることができる。このため、本発明の回転軸受付き直動案内装置70は、組み立ての精度を考慮することなく、支持軸21の高精度での滑動を安定に実現することができる。なお、回転軸受93の中心軸と送りねじ73の中心軸とが正確に一致していないと、ナット72が偏心して回転するため、支持軸21の直進性が低下する。
【0058】
図1に示す直動軸受23の場合と同様の理由により、図7に示す送りねじ73のナット72の外周面の直径はナット72の長さ方向に一定であることが好ましい。また、回転軸受93の環状体96の内周面の直径(図7:D3)とナット72の外周面の直径(図7:D4)との差が、転動体94の直径の1.2〜1.95倍の範囲内の長さにあることが好ましい。環状保持器95の好ましい態様は、図4及び図5に示す環状保持器35の場合と同様である。
【0059】
直動軸受83の構成は、外筒82と支持軸21との間に介在させた複数の転動体24を各転動体24が内周側及び外周側の各々に部分的に突き出された状態で回転可能に保持する筒状保持器85が備えられ、そして前記外筒82の内周面上に、筒状保持器85の外周側に突き出された各転動体部分を収容する、外筒82の長さ方向に沿って形成された複数本の溝82aが備えられていること以外は図2に示す直動軸受23と同様である。
【0060】
直動軸受83では、筒状保持器85の内周面側に突き出された各転動体24が支持軸21の各溝21aと係合し、そして筒状保持器85の外周面側に突き出された各転動体24が外筒82の溝82aと係合している。このため、直動軸受83の外筒82の内部には、支持軸21が周方向には非回転の状態で、長さ方向には滑動可能な状態で収容支持される。
【符号の説明】
【0061】
10 回転軸受付き直動案内装置
11 ねじ軸
12 ナット
12a 周溝
13 送りねじ
18 透孔
21 支持軸
21a 溝
22 外筒
22a 周溝
22b 環状溝
23 直動軸受
24 転動体
25 筒状保持器
26 転動体循環路
26a 転動体突き出し溝
26b 連結溝
27 開口部
28 止め輪
29 直動案内装置
33 回転軸受
34 転動体
35 環状保持器
35a 透孔
35b 周壁
35c スリット
35d 環状の突出部
36 環状体
36a 周溝
43 回転軸受
44 転動体
45 環状保持器
46 環状体
46a 周溝
51 排気管
52 接続部材
52a 気体通路
53、54 容器
55、56 回転駆動装置
55a、56a 回転軸
57、58 ベルト
59 支柱
63 回転軸受
64 転動体
65 環状保持器
66 外側環状体
66a 周溝
67 内側環状体
67a 周溝
70 回転軸受付き直動案内装置
72 ナット
72a 周溝
73 送りねじ
82 外筒
82a 溝
83 直動軸受
85 筒状保持器
93 回転軸受
94 転動体
95 環状保持器
96 環状体
96a 周溝
1 環状体36の内周面の直径
2 外筒22の外周面の直径
3 環状体96の内周面の直径
4 ナット72の外周面の直径
1 スリット35cの幅
2 スリット35cの透孔35aの側とは逆側の端部の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸及びその周囲に嵌め合わされたナットからなる送りねじと、前記ねじ軸の一方の端部の延長部として形成されている、外周面上に長さ方向に沿って形成された複数本の溝を持つ支持軸と、該支持軸をその各溝に係合する複数の転動体を介して非回転にて滑動可能に収容支持している外筒を持つ直動軸受とを備える直動案内装置、および上記外筒の周囲に装着された二以上の回転軸受からなり、
上記の各回転軸受が、上記外筒の外周面に形成された周溝と、該周溝に配置された複数の転動体と、各転動体を内周側及び外周側に部分的に突き出させた状態で回転可能に保持している環状保持器と、環状保持器の外周側に突き出された各転動体部分を収容する周溝を内周面に備える環状体とから構成されている回転軸受付き直動案内装置。
【請求項2】
外筒の外周面の直径が該外筒の長さ方向に一定である請求項1に記載の装置。
【請求項3】
外筒の周囲に装着された各回転軸受の環状体の内周面の直径と外筒の外周面の直径との差が、転動体の直径の1.2〜1.95倍の範囲内の長さにある請求項1もしくは2に記載の装置。
【請求項4】
外筒の周囲に装着された各回転軸受の環状保持器が、上記各転動体を保持する複数の透孔が形成された上記外筒と同軸に配置された周壁を備えていて、一方の回転軸受の環状保持器の周壁には、その各透孔から他方の回転軸受の側の端面に到達する複数のスリットが形成されていて、前記他方の回転軸受の環状保持器の周壁には、その各透孔から前記一方の回転軸受の側の端面に到達する複数のスリットが形成されていて、そして各環状保持器の各スリットの幅が転動体の直径の0.7〜0.95倍の範囲内の長さにある請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の装置。
【請求項5】
送りねじのナットの周囲に二以上の回転軸受が装着され、そして前記の各回転軸受が、該ナットの外周面に形成された周溝と、該周溝に配置された複数の転動体と、各転動体を内周側及び外周側に部分的に突き出させた状態で回転可能に保持している環状保持器と、環状保持器の外周側に突き出された各転動体部分を収容する周溝を内周面に備える環状体とから構成されている請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の装置。
【請求項6】
ナットの外周面の直径が該ナットの長さ方向に一定である請求項5に記載の装置。
【請求項7】
ナットの周囲に装着された各回転軸受の環状体の内周面の直径とナットの外周面の直径との差が、転動体の直径の1.2〜1.95倍の範囲内の長さにある請求項5もしくは6に記載の装置。
【請求項8】
ナットの周囲に装着された各回転軸受の環状保持器が、上記各転動体を保持する複数の透孔が形成された上記ナットと同軸に配置された周壁を備えていて、一方の回転軸受の環状保持器の周壁には、その各透孔から他方の回転軸受の側の端面に到達する複数のスリットが形成されていて、前記他方の回転軸受の環状保持器の周壁には、その各透孔から前記一方の回転軸受の側の端面に到達する複数のスリットが形成されていて、そして各環状保持器の各スリットの幅が転動体の直径の0.7〜0.95倍の範囲内の長さにある請求項5乃至7のうちのいずれかの項に記載の装置。
【請求項9】
ねじ軸及び支持軸の中心軸上に透孔が形成されている請求項1乃至8のうちの何れかの項に記載の装置。
【請求項10】
外筒の内側に、該外筒と支持軸との間に介在させた複数の転動体を各転動体が内周側に突き出された状態で回転可能に保持し、そして前記複数の転動体を含む転動体群を外筒と支持軸との間で循環させる転動体循環路を持つ筒状保持器が固定されている請求項1乃至9のうちのいずれかの項に記載の装置。
【請求項11】
外筒と支持軸との間に介在させた複数の転動体を各転動体が内周側及び外周側の各々に部分的に突き出された状態で回転可能に保持する筒状保持器が備えられ、そして前記外筒の内周面上に、前記の筒状保持器の外周側に突き出された各転動体部分を収容する、外筒の長さ方向に沿って形成された複数本の溝が備えられている請求項1乃至10のうちのいずれかの項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−169254(P2010−169254A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284128(P2009−284128)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(394000493)ヒーハイスト精工株式会社 (76)
【Fターム(参考)】