説明

回転電機および回転電機の製造方法

【課題】装置全体が大きくなるのを抑制しながら高出力化を図ることが可能な回転電機を提供する。
【解決手段】この回転電機100は、外周を有する回転子2と、ギャップGを介して回転子2の外周を取り囲む固定子1とを備える。また、回転子2は、回転子2の内部に周方向に所定の間隔を隔てて設けられた複数の第1永久磁石22と、複数の第1永久磁石22の間にそれぞれ設けられて外周側に磁極が形成された複数の回転子コア積層片241とを有し、複数の第1永久磁石22の磁化方向は、回転子2の半径方向に対して略垂直な方向であり、隣接する第1永久磁石22の磁化方向は、互いに反対であり、複数の回転子コア積層片241の各々は、第1永久磁石22から発生する磁束を磁極の中心Pに集中させるように設定された磁化容易方向を有する磁性材料を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転電機および回転電機の製造方法に関し、特に、永久磁石を備える回転電機および回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石を備える回転電機および回転電機の製造方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、固定子と回転子との間に介在するギャップ中の磁束密度(ギャップ磁束密度)の最大値を増加させる永久磁石可動電機(回転電機)が開示されている。この永久磁石可動電機では、回転子に用いられる永久磁石がMFCSPM(Magnetic Flux Concentrated Surface Permanent Magnet)配列と称される配列方法により配列されている。
【0004】
上記特許文献1に記載されたMFCSPM配列の永久磁石可動電機は、回転子と、回転子の外周を取り囲むように設けられた固定子とを備えている。回転子は、シャフト、回転子コア、第1永久磁石および第2永久磁石を備えている。シャフトの外周には、回転子コア(回転子鉄心)が設けられている。第2永久磁石は、回転子コアの外周に回転子コアの周方向に沿って複数設けられている。第1永久磁石は、第2永久磁石の外周側の端部に回転子コアの周方向に沿って所定の間隔を隔てて複数配置されている。なお、回転子コアの周方向に隣り合う第1永久磁石の間には、それぞれ、間隙部(空気の層)が形成されている。この永久磁石可動電機では、第2永久磁石のみを用いるRSPM(Ring−shaped Surface Permanent Magnet)配列と比べて、第1永久磁石を用いる分、ギャップ磁束密度の最大値を増加させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−217771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の永久磁石可動電機では、回転子コアの周方向に隣り合う第1永久磁石の間には、間隙部(空気などの透磁率の低い物質)が形成されているため、隣り合う第1永久磁石の間の間隙部におけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅を増加させることが困難であるという不都合がある。このため、回転電機の高出力化を図ることが困難である。また、たとえば、ギャップ磁束密度の最大値を増加させて高出力化を図るために第1永久磁石および第2永久磁石の大きさを大きくした場合には、装置全体が大きくなるという不都合がある。このため、装置全体が大きくなるのを抑制しながら回転電機の高出力化を図ることが困難であるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、装置全体が大きくなるのを抑制しながら高出力化を図ることが可能な回転電機および回転電機の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による回転電機は、外周を有する回転子と、ギャップを介して回転子の外周を取り囲む固定子とを備え、回転子は、回転子の内部に周方向に所定の間隔を隔てて設けられた複数の第1永久磁石と、複数の第1永久磁石の間にそれぞれ設けられて外周側に磁極が形成された複数のコア片とを有し、複数の第1永久磁石の磁化方向は、回転子の半径方向に対して略垂直な方向であり、隣接する第1永久磁石の磁化方向は、互いに反対となっており、複数のコア片の各々は、第1永久磁石から発生する磁束を磁極に集中させるように設定された磁化容易方向を有する磁性材料を含む。
【0009】
この第1の局面による回転電機では、上記のように、回転子が複数の第1永久磁石の間にそれぞれ設けられた複数のコア片を有することによって、複数の第1永久磁石の間に空気などの透磁率の低い物質(間隙部)が形成されている場合と異なり、複数の第1永久磁石の間の間隙部に配置された複数のコア片を介して第1永久磁石から発生する磁束が固定子側に通り易くなる。これにより、回転子と固定子との間のギャップにおけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅が増加するので、装置全体が大きくなるのを抑制しながら高出力化を図ることができる。また、複数のコア片の各々が第1永久磁石から発生する磁束を磁極に集中させるように設定された磁化容易方向を有する磁性材料を含むことによって、第1永久磁石から発生する磁束が磁化容易方向に沿って磁極に集中し易くなるので、回転子と固定子との間のギャップにおけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をより確実に増加させることができる。これにより、装置全体が大きくなるのを抑制しながらより確実に高出力化を図ることができる。
【0010】
この発明の第2の局面による回転電機の製造方法は、複数の第1永久磁石の各々から発生する磁束を外周側に形成された磁極に集中させるように設定された磁化容易方向を有する磁性材料を含み、円周状に所定の間隔を隔てて内部に設けられた磁性材料を含む複数のコア片の所定の間隔に複数の第1永久磁石の各々を設けることにより、回転子を形成する工程と、ギャップを介して回転子の外周を取り囲むように固定子を形成する工程とを備える。
【0011】
この第2の局面による回転電機の製造方法では、上記のように、円周状に所定の間隔を隔てて内部に設けられた磁性材料を含む複数のコア片の所定の間隔に複数の第1永久磁石の各々を設けることにより、回転子を形成する工程と、ギャップを介して回転子の外周を取り囲むように固定子を形成する工程とを備えることによって、複数の第1永久磁石の間に空気などの透磁率の低い物質(間隙部)が形成されている場合と異なり、複数の第1永久磁石の間の間隙部に配置された複数のコア片を介して第1永久磁石から発生する磁束が固定子側に通り易くなる。これにより、回転子と固定子との間のギャップにおけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅が増加するので、装置全体が大きくなるのを抑制しながら高出力化を図ることが可能な回転電機を製造することができる。また、複数の第1永久磁石の各々から発生する磁束を外周側に形成された磁極に集中させるように設定された磁化容易方向を有する磁性材料を含む複数のコア片の所定の間隔に複数の第1永久磁石の各々を設けることにより、回転子を形成する工程を備えることによって、第1永久磁石から発生する磁束が磁化容易方向に沿って磁極に集中し易くなるので、回転子と固定子との間のギャップにおけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をより確実に増加させることができる。これにより、装置全体が大きくなるのを抑制しながらより確実に高出力化を図ることが可能な回転電機を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態による回転電機の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による回転子コアを示した図である。
【図3】本発明の第1実施形態による回転子コア積層片を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態による回転子コア積層片が積層された状態を示す図である。
【図5】図1の400−400線に沿った断面図である。
【図6】従来のMFCSPM配列における磁気回路を示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態による回転電機の拡大断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態による回転子の磁極数が6の場合における磁界解析結果を示す等高線図である。
【図9】本発明の第1実施形態による回転子の磁極数が8の場合における磁界解析結果を示す等高線図である。
【図10】本発明の第1実施形態による回転子の磁極数が10の場合における磁界解析結果を示す等高線図である。
【図11】本発明の第1実施形態による回転子の磁極数が12の場合における磁界解析結果を示す等高線図である。
【図12】本発明の第1実施形態による第2永久磁石の厚みLが3mmの場合における磁界解析結果を示す等高線図である。
【図13】本発明の第1実施形態による第2永久磁石の厚みLが6mmの場合における磁界解析結果を示す等高線図である。
【図14】本発明の第1実施形態による第2永久磁石の厚みLが9mmの場合における磁界解析結果を示す等高線図である。
【図15】本発明の第1実施形態による回転子の磁極数が10の場合における割合ηに対するギャップ磁束密度の基本波成分の振幅[T]の変化を示す折れ線グラフである。
【図16】図15の折れ線グラフの近似曲線および近似曲線のそれぞれのピーク値を結んだグラフである。
【図17】割合ηと割合ζとの関係を示す図である。
【図18】本発明の第2実施形態による回転電機の回転子コアを示す斜視図である。
【図19】本発明の第3実施形態による回転電機の断面図である。
【図20】本発明の第3実施形態による回転子コアの断面図である。
【図21】図19の500−500線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(第1実施形態)
まず、図1〜図5を参照して、本発明の第1実施形態による回転電機100の構成について説明する。
【0015】
本発明の第1実施形態による回転電機100では、回転子に用いる永久磁石は、MMASPM(Magnetic Material Attached Surface Permanent Magnet)配列により配列されており、電動機(モータ)として機能するものとする。この回転電機100は、図1に示すように、固定子1および回転子2を備えている。固定子1は、固定子1と回転子2との間に存在するギャップGを介して、略円筒状の回転子2の外周を取り囲むように形成されている。固定子1は、固定子コア11および固定子巻線12を備えている。固定子巻線12は、固定子コア11のティース部11aに巻回されている。固定子コア11は、12個のティース部11aを有している。また、回転電機100では、固定子1の固定子巻線12に電流を流すことにより回転磁界が発生し、回転磁界により回転子2が周方向に回転するように構成されている。
【0016】
回転子2は、シャフト21、第1永久磁石22、第2永久磁石23および回転子コア24を備えている。第2永久磁石23は、略円柱状のシャフト21の外周に沿って10個設けられている。
【0017】
10個の第2永久磁石23の各々は、シャフト21の外周に形成されたスプライン溝21aに配置されている。また、第2永久磁石23は、図5に示すように、シャフト21の延びる方向に延びるように形成されている。また、第2永久磁石23は、図1に示すように、磁化方向がシャフト21の外側と内側とに交互に向くように、シャフト21(回転子2)の周方向に沿って等角度間隔(36度間隔)で配置されている。これにより、第2永久磁石23のそれぞれの磁化方向D0方向は、シャフト21の半径方向と略平行な方向となり、シャフト21の周方向に隣り合う第2永久磁石23の磁化方向は、互いに反対となる。また、周方向に隣り合う第2永久磁石23の間には、空間23aが形成されている。
【0018】
第1永久磁石22は、略平板形状を有し、回転子2の内部に所定の間隔を隔てて設けられている。なお、第1永久磁石22は、第2永久磁石23と同じ個数(10個)設けられている。また、第1永久磁石22は、隣り合う第2永久磁石23の間で、かつ、第2永久磁石23の配置される位置よりも固定子1側(外側)に配置されている。また、第1永久磁石22は、隣り合う回転子コア24に挟まれるように配置されている。第1永久磁石22の磁化方向D1は、シャフト21(回転子2)の半径方向とは略垂直な方向である。また、シャフト21の周方向に隣り合う第1永久磁石22の磁化方向は、互いに反対となる。
【0019】
第1永久磁石22は、シャフト21の延びる方向に垂直な断面形状における短手方向に磁化方向が向くように着磁されている。着磁された第1永久磁石22は、回転子コア24に設けられた空隙部24a(図2参照)に挿入され、回転子コア24と接着されている。空隙部24aは、第2永久磁石23と同じ個数形成されている。なお、第1永久磁石22は、空隙部24aに挿入されて回転子コア24と接着された後に、磁化方向を有するように着磁されてもよい。
【0020】
回転子2は、第1永久磁石22を保持する外側構造体51および第2永久磁石23を保持する内側構造体52の2つの構造体を含む。内側構造体52は、外側構造体51の内周側に配置されている。外側構造体51は、第1永久磁石22および回転子コア24を含む。回転子コア24は、図2に示すように、回転子2の周方向に所定の間隔を隔てて配置された複数の回転子コア積層片241により構成されている。また、複数の回転子コア積層片241の各々は、図5に示すように、シャフト21の延びる方向(軸方向)に積層されている。回転子コア積層片241は、図2に示すように、第2永久磁石23の固定子1側であって、シャフト21の周方向に隣り合う第1永久磁石22の間に第2永久磁石23と同じ個数(10個)設けられている。なお、複数の回転子コア積層片241の間の空隙部24aには、第1永久磁石22が配置されている。
【0021】
ここで、第1実施形態では、回転子コア積層片241は、回転子2の周方向に2分割された回転子コア積層片241aおよび回転子コア積層片241bを含んでいる。なお、回転子コア積層片241aおよび回転子コア積層片241bは、それぞれ、本発明の「第1コア片」および「第2コア片」の一例である。2つの回転子コア積層片241aおよび241bは、磁化容易方向(D2方向)を有する方向性電磁鋼板などの磁性材料(軟磁性体)からなる。また、2つの回転子コア積層片241aおよび241bの磁化容易方向(D2方向)は、回転子2の回転中心Oと回転子2の外周に現れる磁極の中心Pとを結ぶ直線に対して所定の角度φ傾斜している。これにより、第1永久磁石22および第2永久磁石23から発生した磁束は、2つの回転子コア積層片241aおよび241bの磁化容易方向(D2方向)に沿って、回転子2の外周に現れる磁極の中心Pに集中するように構成されている。
【0022】
また、回転子コア積層片241の内周に隣接する第2永久磁石23と、回転子コア積層片241の周方向(両側方)に隣接する2つの第1永久磁石22とは、回転子コア積層片241側の磁極が相互に同一極となっている。
【0023】
また、図1に示すように、回転子コア積層片241の開角は、角度αである。また、回転子2の周方向に隣り合う1つの第1永久磁石22と1つの回転子コア積層片241との合計の開角は、角度θである。なお、開角の定義については、後述する。
【0024】
また、回転子コア積層片241aおよび241bは、図3に示すように、方向性電磁鋼板240から、磁化容易方向(D2方向)が回転子コア積層片241aおよび241bに対して所望の角度φだけ傾くように、ワイヤカットやプレス加工により切り出されることによって形成されている。そして、図4に示すように、切り出された回転子コア積層片241aおよび241bを順次積層することによって、回転子コア積層片241が形成されている。
【0025】
また、回転子コア積層片241aおよび241bの各々には、半円形の貫通穴244が設けられている。この貫通穴244は、図2に示すように、回転子コア24(回転子コア積層片241aと回転子コア積層片241bとが連結された状態)においては、円形の貫通穴245となるように構成されている。また、回転子コア積層片241は、図1に示すように、貫通穴245に円筒形の支持部材25が取り付けられている。支持部材25は、鉄またはセラミックなどの材料からなる。
【0026】
内側構造体52および外側構造体51は、図5に示すように、シャフト21の延びる方向の両端に配置されたブラケット26およびブラケット27により固定されている。なお、ブラケット26およびブラケット27は、本発明の「第1ブラケット」および「第2ブラケット」の一例である。
【0027】
また、ブラケット26および27は、丸棒状(円柱状)の支持部材25が係合される係合部である丸穴26aおよび27aを有する。ブラケット26のシャフト21側でかつ第2永久磁石23側には、シャフト21のスプライン溝21aの一方端部と係合可能な形状を有する係合部26bが形成されている。また、ブラケット27のシャフト21側でかつ第2永久磁石23側には、シャフト21のスプライン溝21aの他方端部と係合可能な形状を有する係合部27bが形成されている。なお、丸穴26aおよび27aは、本発明の「第2係合部」の一例である。なお、係合部26bおよび27bは、本発明の「第1係合部」の一例である。
【0028】
また、ブラケット26は、シャフト21の一方端部から挿入可能に構成されている。これにより、シャフト21のスプライン溝21aの一方端部とブラケット26の係合部26bとが係合され、ブラケット26の丸穴26aに支持部材25が圧入または接着されるように構成されている。同様に、ブラケット27は、シャフト21の他方端部から挿入可能に構成されている。これにより、シャフト21のスプライン溝21aの他方端部とブラケット27の係合部27bとが係合され、ブラケット27の丸穴27aに支持部材25が圧入または接着されるように構成されている。
【0029】
また、シャフト21の外周面に形成されたスプライン溝21aのシャフト21の延びる方向の長さは、第2永久磁石23のシャフト21の延びる方向の長さよりも大きく形成されている。
【0030】
次に、図6を参照して、第1実施形態で用いるMMASPM配列が、従来のMFCSPM配列よりもギャップ磁束密度の基本波成分の振幅を増加させ易い原理について説明する。なお、MMASPM配列とは、図1に示すように、シャフト21のスプライン溝21aに隣り合うように配置された第1永久磁石22の間に回転子コア積層片241を配置する配列のことをいい、MFCSPM配列とは、シャフトのスプライン溝に隣り合うように配置された第1永久磁石の間に間隙部(空隙部)が形成された従来の配列のことをいう。また、図6に示す従来のMFCSPM配列では、第1永久磁石および第2永久磁石の起磁力をFm、固定子と回転子との間のギャップGの磁気抵抗をRm1、回転子の周方向に隣り合う第1永久磁石の間の磁気抵抗をRm2とする。また、従来のMFCSPM配列における磁気回路を構成する要素には、上記要素以外に第2永久磁石の内周に設けられた回転子コアも含まれるが、回転子コアの磁気抵抗は空気に比べて十分小さいので、ここでは無視する。
【0031】
従来のMFCSPM配列では、図6に示すように、磁気回路において発生する磁束Φは、起磁力Fmを磁気抵抗の総和(Rm1+Rm2)で除算した値となる。したがって、固定子と回転子との間のギャップGの磁気抵抗Rm1と、隣り合う第1永久磁石の間の磁気抵抗Rm2との総和を小さくすることにより、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅を増加させることができる。ここで、固定子と回転子との間のギャップG長が一定ならギャップの磁気抵抗Rm1は一定とみなせるので、隣り合う第1永久磁石の間の磁気抵抗Rm2を小さくすれば、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅を増加させることができる。
【0032】
しかしながら、従来のMFCSPM配列では、隣り合う第1永久磁石の間には、間隙部が形成されている。つまり、隣り合う第1永久磁石の間には、空気という透磁率の低い物質が存在している。このため、隣り合う第1永久磁石の間の磁気抵抗Rm2を小さくしにくいため、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅を増加させることが困難である。
【0033】
これに対して、第1実施形態で用いているMMASPM配列では、隣り合う第1永久磁石の間には、透磁率の高い回転子コア積層片241を設けている。これにより、隣り合う第1永久磁石の間の磁気抵抗Rm2を従来のMFCSPM配列を用いた場合の磁気抵抗よりも小さくすることが可能である。その結果、磁気抵抗の総和(Rm1+Rm2)を従来のMFCSPM配列を用いた場合よりも小さくすることが可能であるので、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅を増加させることが可能である。
【0034】
次に、図7を参照して、第1実施形態で用いているMMASPM配列において、回転子コア積層片241の開角αの大きさによって、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅に最大値(ピーク値)が存在する理由について説明する。なお、説明を分かりやすくするために、以下では、回転子コア積層片241の開角αを変えても、第2永久磁石23により発生する磁束の量は一定であり、第2永久磁石23により発生する磁束の大きさは第1永久磁石22により発生する磁束の量に比べて十分小さいとみなす。この場合、固定子1と回転子2との間のギャップG中の磁束の総量は第1永久磁石22により発生する磁束の量と略等しくなる。
【0035】
なお、図1に示すように、回転子コア積層片241の周方向における一方端面であって径方向における中心点をZ1とし、回転子コア積層片241の周方向における他方端面であって半径方向における中心点をZ2とする。また、第1永久磁石22の周方向における他方端面であって径方向における中心点をZ3とする。なお、第1永久磁石22の周方向における一方端面であって径方向における中心点は、Z2となる。このとき、1磁極範囲を構成する1対の回転子コア積層片241aおよび241bのなす開角αは、中心点Z1と回転中心Oとを結ぶ直線と、中心点Z2と回転中心Oとを結ぶ直線とがなす鋭角に等しい。また、1磁極(隣り合う第1永久磁石22と回転子コア積層片241)の開角θは、中心点Z1と回転中心Oとを結ぶ直線と、中心点Z3と回転中心Oとを結ぶ直線とがなす鋭角に等しい。
【0036】
第1永久磁石22の形状が決定した場合には、第1永久磁石22から発生する磁束の量は、以下の式(1)〜式(3)により一意に定まる。式(1)は永久磁石のパーミアンスpを与える式であり、式(2)は第1永久磁石22の動作点における磁束密度Bdを与える式であり、式(3)は第1永久磁石22により発生する磁束Φ2を与える式である。なお、μは空気の透磁率、σおよびfは漏れ係数、Lmagは第1永久磁石22の磁路長、Amagは第1永久磁石22の磁路断面積、LgapはギャップG長、Agapはギャップの磁路断面積、Bは第1永久磁石22の残留磁束密度、は第1永久磁石22の保磁力である。
【0037】
【数1】

【0038】
【数2】

【0039】
【数3】

【0040】
ここで、ギャップ磁束密度の分布波形は一般的に台形波である。この分布波形の最大値Bgmは下記の式(4)で与えられる。なお、Acoreは、回転子コア積層片241のギャップG側の表面積である。
【0041】
【数4】

【0042】
式(1)〜式(4)から、第1永久磁石22が磁路方向に厚みの大きい形状になるほど、Lmag/Amagの値が大きくなるとともに、パーミアンスpが大きくなる。パーミアンスpが大きくなると、動作点における磁束密度Bが増加し、ギャップ磁束密度の最大値Bgmが増加し、ギャップ磁束密度の分布波形が台形波であるので、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅も増加する。
【0043】
ただし、第1永久磁石22が磁路方向に厚みの大きい形状になりすぎると、回転子コア積層片241の開角αが小さくなりすぎるため、ギャップ磁束密度の分布波形が鋭く尖ったピークをもつ三角波に変化する。その結果、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅Bg1が減少する。このことは、下記の式(5)により表現される。
【0044】
【数5】

【0045】
ここで、割合ηは、回転子コア積層片241の開角αと、1磁極(隣り合う第1永久磁石22と回転子コア積層片241)の開角θとを用いて下記の式(6)により定義される。式(6)において定義されるように、割合ηは、回転子2の周方向に隣り合う第1永久磁石22と回転子コア積層片241との両開角の合計角θに対して、回転子コア積層片241の開角αの占める割合を示すものである。なお、割合ηは、本発明の「第1割合」の一例である。
【0046】
【数6】

【0047】
このように、回転子コア積層片241の開角αに対し、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅にピーク値が存在することが判明した。
【0048】
次に、図1および図7〜図17を参照して、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅がピーク値になるときの回転子コア積層片241の開角αの値について磁界解析結果を用いて説明する。磁界解析では、図7に示すように、固定子1の固定子コア11を電磁鋼板からなる平滑円筒鉄心とした。また、ギャップG長を0.8mm、回転子2の外周半径R1を41.7mm、固定子1の内周半径R2を42.5mm、固定子1の外周半径R3を61mmとした。そして、式(6)により定義される割合ηと、下記の式(7)により定義される割合ζとを変化させた場合のギャップ磁束密度の基本波成分の振幅の変化を調べた。Rは、シャフト21の外周に設けられた第2永久磁石23の外周半径を示す。Lは、回転子2の径方向における第2永久磁石23の厚みを示す。下記の式(7)で定義されるように、割合ζは、回転子2の外周半径R1に対して回転子2の径方向における回転子コア積層片241の厚みの占める割合を示す。回転子コア積層片241の開角αと、1磁極の開角θとを上式(6)に代入して求められる割合をηとする。また、シャフト21の外周に設けられた第2永久磁石23の外周半径Rを下記の式(7)に代入して求められる割合をζとする。なお、割合ζは、本発明の「第2割合」の一例である。
【0049】
【数7】

【0050】
図8に示すように、磁極数が6の場合、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅がピーク値となるときの割合ηの値は、約0.5以上約0.7以下の範囲に存在することが判明した。このことは、図9〜図11に示すように、磁極数8、10、12の場合でもピーク値となるときの割合ηの値は0.5以上0.7以下の範囲に存在しており、図12〜図14に示すように、第2永久磁石23の厚みLが3mm、6mm、9mmの場合でもピーク値となるときの割合ηの値は0.5以上0.7以下の範囲に存在している。また、図8〜図14に示すように、割合ζが変化してもピーク値となるときの割合ηの値は0.5以上0.7以下の範囲に存在している。また、R1〜R3が変化しても、ピーク値となるときの割合ηの値は0.5以上0.7以下の範囲に存在している。
【0051】
以上のことより、割合ηを0.5以上0.7以下の範囲内の値に設定することにより、任意の割合ζ、磁極数、R1〜R3、Lに対して、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をピーク値付近の値に設定することが可能であることがわかった。
【0052】
また、図8に示すように、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅がピーク値となるときの割合ηの値は、上記0.5以上0.7以下の範囲内で、割合ζの値に応じて変化することがわかった。また、図8〜図11に示すように、磁極数が変化してもギャップ磁束密度の分布はほとんど変化しないことがわかった。同様に、図12〜図14に示すように、Lが変化してもギャップ磁束密度の分布はほとんど変化しないことがわかった。つまり、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅がピーク値となるときの割合ηの値は、磁極数やLにはあまり依存しないことがわかった。なお、R1〜R3が変化しても、ギャップ磁束密度の分布はほとんど変化しないことがわかった。
【0053】
次に、図15〜図17を参照して、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅がピーク値となるときの割合ηの値と、割合ζの値との関係について説明する。なお、一例として、磁極数が10、Lが3mmの場合の磁界解析結果に基づいて説明する。また、図16は、図15に示したそれぞれの折れ線の近似曲線である。
【0054】
図16に示すように、割合ζの大きさ(0.6、0.64、0.68、0.71、0.75、0.78)に関わらず、割合ηが略0.6の場合に、ピーク位置が得られることがわかった。また、ピーク位置を結ぶ曲線の近似式は、グラフの縦軸であるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をBg1で表すと下記の式(8)で表現される。
【0055】
【数8】

【0056】
また、図17に示すように、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅がピーク値の割合ηと割合ζとの関係を示す結果より、割合ηを略0.6に設定することにより、任意の割合ζ、磁極数、R1〜R3、Lに対して、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をピーク値に近づけることが可能であることがわかった。
【0057】
なお、2つの割合ηと割合ζとは、図17に示す折れ線グラフの近似式である下記の式(9)によって表現される。下記の式(9)に従って割合ηおよび割合ζを設定することにより、任意の磁極数、R1〜R3、Lに対し、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をピーク値にすることが可能である。
【0058】
【数9】

【0059】
上記のように、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅を最大(ピーク値)にするための2つの割合η、割合ζを決定する手順としては次のとおりである。まず、第2永久磁石23の外周半径Rと回転子2の外周半径R1より、上式(7)に従い割合ζを計算する。次に、上式(9)に従い割合ηを計算する。これらの結果から、割合ζの値に対する割合ηの最適な値が定まる。最後に、求めた割合ηの値を上式(8)に代入することにより、割合ζの値に対するギャップ磁束密度の基本波成分の振幅のピーク値が求まる。
【0060】
第1実施形態では、上記のように、回転子2が複数の第1永久磁石22の間にそれぞれ設けられた複数の回転子コア積層片241を有することによって、複数の第1永久磁石22の間に空気などの透磁率の低い物質(間隙部)が形成されている場合と異なり、複数の第1永久磁石22の間の間隙部に配置された複数の回転子コア積層片241を介して第1永久磁石22から発生する磁束が固定子1側に通り易くなる。これにより、固定子1と回転子2との間のギャップGにおけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅が増加するので、装置全体が大きくなるのを抑制しながら高出力化を図ることができる。また、複数の回転子コア積層片241(241a、241b)の各々が、第1永久磁石22から発生する磁束を磁極に集中させるように設定された磁化容易方向を有する方向性電磁鋼板(磁性材料)を含むことによって、第1永久磁石22から発生する磁束が方向性電磁鋼板の磁化容易方向に沿って磁極に集中し易くなるので、固定子1と回転子2との間のギャップGにおけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をより確実に増加させることができる。これにより、より確実に装置全体が大きくなるのを抑制しながら高出力化を図ることができる。
【0061】
また、第1実施形態では、上記のように、複数の回転子コア積層片241の各々を、回転子2の軸方向に積層することによって、1つの回転子コア積層片241のみを設ける場合と比べて、複数の回転子コア積層片241を設ける分、第1永久磁石22および第2永久磁石23から発生する磁束をより確実に磁化容易方向へ導くことができる。
【0062】
また、第1実施形態では、上記のように、回転子コア積層片241aおよび241bの各々の磁化容易方向を磁化方向が集中するように回転子2の回転中心Oから半径方向に延びる直線に対して所定の角度φ傾斜させることによって、第1永久磁石22および第2永久磁石23から発生する磁束が回転子2の外周に現れる磁極の中心Pに向かって集中し易くなるとともに、磁極の中心P以外の方向へ向かう磁束の量が減るので、固定子1と回転子2との間のギャップGにおけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をより確実に増加させることができる。これにより、回転子コア積層片241の回転子2の外周側における境界部での漏れ磁束の割合を低減することができる。その結果、回転子2の外周から固定子1の内周へ進む磁束の割合が増加することにより、固定子巻線12と鎖交する磁束が増加するので、より回転電機100の高出力化を図ることができる。
【0063】
また、第1実施形態では、上記のように、複数の第2永久磁石23の磁化方向が回転子2の半径方向に対して略平行な方向であり、隣接する第2永久磁石23の磁化方向が互いに反対であり、回転子コア積層片241に隣接する第1永久磁石22と2つの第2永久磁石23のそれぞれが有する回転子コア積層片241側の磁極が相互に同一極であることによって、第1永久磁石22と2つの第2永久磁石23との両方から発生する磁束を回転子コア積層片241側に導くことができる。
【0064】
また、第1実施形態では、上記のように、シャフト21の外周に設けられたスプライン溝21aに第2永久磁石23が配置されることによりシャフト21と第2永久磁石23とを連結するとともに、回転子コア積層片241が第1永久磁石22を保持することにより回転子コア積層片241と第1永久磁石22とを連結することによって、シャフト21と第2永久磁石23とを容易に固定することができるとともに、回転子コア積層片241と第1永久磁石22とを容易に固定することができる。
【0065】
また、第1実施形態では、上記のように、シャフト21の延びる方向における回転子コア積層片241の一方端部と第1永久磁石22の一方端部とに固定されたブラケット26と、シャフト21の延びる方向における回転子コア積層片241の他方端部と第1永久磁石22の他方端部とに固定されたブラケット27とを有することによって、ブラケット26とブラケット27とにより回転子2を強固に保持することができる。
【0066】
また、第1実施形態では、上記のように、ブラケット26およびブラケット27に、シャフト21の外周に設けられたスプライン溝21aと係合する係合部26bおよび27bを設けることによって、係合部26bおよび27bにおいて、容易に、ブラケット26およびブラケット27とシャフト21とを係合させることができる。
【0067】
また、第1実施形態では、上記のように、ブラケット26およびブラケット27に、支持部材25と係合する丸孔36aおよび27aを設けることによって、容易に、ブラケット26およびブラケット27と支持部材25とを係合させることができる。
【0068】
また、第1実施形態では、上記のように、周方向に所定の間隔を隔てて設けられた回転子コア積層片241と、第1永久磁石22との両開角の合計角θに対して回転子コア積層片241の開角αの占める割合ηを0.5以上0.7以下にすることによって、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をピーク値付近の値に近づけることができる。
【0069】
また、第1実施形態では、上記のように、周方向に所定の間隔を隔てて設けられた回転子コア積層片241と、第1永久磁石22との両開角の合計角θに対して回転子コア積層片241の開角αの占める割合ηを略0.6にすることによって、ギャップ磁束密度の基本波成分の振幅をピーク値付近の値により近づけることができる。
【0070】
また、第1実施形態では、上記のように、周方向に所定の間隔を隔てて設けられた回転子コア積層片241と第1永久磁石22との両開角の合計角θに対して回転子コア積層片241の開角αの占める割合ηと、回転子2の半径に対して回転子2の径方向における回転子コア積層片241の厚みの占める割合ζとをギャップG中の磁束密度の基本波振幅が最大となるように設定することによって、固定子1と回転子2との間のギャップGにおけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅が増加するので、容易に、回転電機100の高出力化を図ることができる。
【0071】
また、第1実施形態では、上記のように、回転子2の周方向に隣り合う第1永久磁石22と回転子コア積層片241との両開角の合計角θに対して、回転子コア積層片241の開角αの占める割合をηとするとともに、回転子2の外周半径R1に対して回転子2の径方向における回転子コア積層片241の厚みの占める割合をζとした場合に、割合ηと割合ζとをη=−3.5188×ζ+3.3628×ζ+0.8094×ζ−0.3794の関係式を満たすように設定することによって、関係式を満たすように割合ηと割合ζとを設定するだけで容易にギャップ磁束密度の基本波の振幅をピーク値付近の値により確実に近づけることができる。
【0072】
(第2実施形態)
次に、図18を参照して、本発明の第2実施形態による回転電機200について説明する。この第2実施形態では、複数の回転子コア積層片241が所定の間隔を隔てて分離して配置された第1実施形態とは異なり、複数の回転子コア積層片241が回転子コア34によって互いに接続された例について説明する。
【0073】
この第2実施形態では、図18に示すように、回転電機200の回転子コア44は、回転子コア24および回転子コア34を含んでいる。回転子コア34は、無方向性電磁鋼板をワイヤカットやプレス加工などを行うことにより形成されている。回転子コア34は、隣接する回転子コア片341どうしが連結部342により互いに連結するように構成されている。また、回転子コア24は、方向性電磁鋼板をワイヤカットやプレス加工により形成されている。
【0074】
また、回転子コア34の外形形状は、回転子コア積層片241を周方向に一定間隔で精度良く並べるための位置基準として利用することが可能である。これにより、回転子コア積層片241の貫通穴245の形状のみを位置基準として利用する上記第1実施形態の回転子2に比べて、回転子の組み立て精度を向上させることが可能である。
【0075】
また、回転子コア34の1磁極を構成する回転子コア片341と、回転子コア24の1磁極を構成する回転子コア積層片241とは、互いの磁極中心が一致するように構成されている。具体的には、丸棒状(円柱状)の支持部材25が貫通する穴35aと穴245とが一致するするとともに、第1永久磁石22を保持する凹部34aと凹部24aとが一致し、かつ、回転子コア34と回転子コア24との内周および外周が一致するように積層されるように構成されている。また、回転子コア44の回転子コア24の合計厚みと、回転子コア34の厚みとの比は、1:3になるように構成されている。
【0076】
なお、第2実施形態のその他の構成および効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0077】
(第3実施形態)
次に、図19〜図21を参照して、本発明の第3実施形態による回転電機300について説明する。この第3実施形態では、回転子コア積層片の磁化容易方向が回転子の回転中心から半径方向に延びる直線に対して所定の角度傾斜するように構成された第1実施形態とは異なり、回転子コア積層片の磁化容易方向が回転子の半径方向と略平行方向の場合について説明する。
【0078】
この第3実施形態では、図19に示すように、回転電機300の外側構造体61は、第1永久磁石22および回転子コア54を含む。回転子コア54は、図20に示すように、複数の回転子コア積層片541と円筒状部材542とを含む。なお、回転子コア積層片541は、本発明の「コア片」の一例である。また、回転子コア積層片541の各々は、図19に示すように、回転子3の周方向に一定の間隔を隔てて配置されている。また、回転子コア積層片541を構成する方向性電磁鋼板の磁化容易方向は、回転子3の半径方向と略平行な方向(D3方向)である。また、回転子コア積層片541の断面形状は、略台形形状である。
【0079】
また、回転子コア積層片541は、複数枚の方向性電磁鋼板の磁化容易方向を一致させながら積層した後に、積層された方向性電磁鋼板をワイヤカットやプレス機によって加工することにより、断面形状が略台形状となるように形成されている。なお、回転子コア積層片541の積層方向は、回転子3の周方向であってもよいし、回転子3の軸方向であってもよい。
【0080】
円筒状部材542は、回転子コア積層片541の外周に設けられている。回転子コア積層片541の各々は、円筒状部材542により互いに連結されるように構成されている。円筒状部材542は、肉厚の薄い略円筒形状からなるとともに、ステンレス系の鋼管のように機械強度が高い部材などからなる。また、円筒状部材542をアモルファス箔帯を円筒状に巻いて半径方向に積層してもよいし、圧粉磁心により構成してもよい。
【0081】
また、図21に示すように、回転子コア積層片541、第1永久磁石22および第2永久磁石23のシャフト21の延びる方向の両端部には、ブラケット36およびブラケット37が設けられている。なお、ブラケット36およびブラケット37は、本発明の「第1ブラケット」および「第2ブラケット」の一例である。
【0082】
また、ブラケット36は、シャフト21のスプライン溝21aの一方端部から挿入されることにより、ブラケット36の係合部36bにおいて、ブラケット36と、回転子コア積層片541の一方端部、第1永久磁石22および第2永久磁石23の一方端部とが係合されるように構成されている。また、ブラケット37は、シャフト21のスプライン溝21aの他方端部から挿入されることにより、ブラケット37の係合部37bにおいて、ブラケット37と、回転子コア積層片541の他方端部、第1永久磁石22および第2永久磁石23の他方端部とが係合されるように構成されている。なお、係合部36bおよび係合部37bは、本発明の「第1係合部」の一例である。
【0083】
なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0084】
第3実施形態では、上記のように、複数の回転子コア積層片541の各々の磁化容易方向が回転子3の半径方向と略平行な方向へ向かう方向を有することによって、第1永久磁石22および第2永久磁石23から発生する磁束が回転子3の半径方向と略平行な方向へ通り易くなるので、固定子1と回転子3との間のギャップGにおけるギャップ磁束密度の基本波成分の振幅を増加させることができる。これにより、回転子3の外周から固定子1の内周へ進む磁束の割合が増加することにより、固定子巻線12と鎖交する磁束が増加するので、より回転電機300の高出力化を図ることができる。
【0085】
また、第3実施形態では、上記のように、円筒状部材542が鋼管を含むことによって、鋼管を含む円筒状部材542により回転子2の回転方向(周方向)に対する機械的強度を向上させることができる。また、回転子3が回転駆動する際に、回転子コア積層片541の各々が遠心力またはトルクにより飛散する危険度を低減することができる。
【0086】
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0087】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0088】
たとえば、上記第1〜第3実施形態では、本発明の回転電機をモータとして機能させる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、回転電機を発電機として機能させてもよい。
【0089】
また、上記第1〜第3実施形態では、磁化容易方向を有する磁性材料の一例として方向性電磁鋼板を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、磁化容易方向を有する磁性材料であれば、方向性電磁鋼板以外の磁性材料でもよい。
【0090】
また、上記第1〜第3実施形態では、回転子コア積層片を2分割する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、回転子コア積層片を3分割以上に分割してもよい。
【0091】
また、上記第1〜第3実施形態では、回転子コア積層片を回転子の周方向に沿って分割する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、回転子コア積層片を回転子の半径方向に沿って分割してもよい。
【0092】
また、上記第1〜第3実施形態では、回転子コア積層片を回転子の軸方向に積層する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、回転子コア積層片を積層せずに1つの回転子コア積層片のみを設けてもよい。
【0093】
また、第1〜第3実施形態では、10個の回転子コア積層片を配置する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、本発明では、10個以外の個数の回転子コア積層片を配置してもよい。
【0094】
また、第1および第2実施形態では、磁化容易方向を有する回転子コア積層片に貫通穴を設けて、貫通穴に丸棒状(円柱状)の支持部材を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、回転子コア積層片に貫通穴を設けなくてもよい。
【0095】
また、第1実施形態では、回転子コア積層片の各々が非接触の状態になるように所定の間隔を隔てて配置される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、回転子コア積層片の各々を接続するように構成してもよい。
【0096】
また、上記第2実施形態では、回転子コア24の厚みと、回転子コア34の厚みとの比が1:3になるように構成される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、回転子コア24の厚みと、回転子コア34の厚みとの比が1:3以外の比になるように構成してもよい。また、回転子コア44を単位構造として、任意の数の回転子コア44を積層してもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 固定子
2、3 回転子
21 シャフト(回転軸)
22 第1永久磁石
23 第2永久磁石
25 支持部材
26、36 ブラケット(第1ブラケット)
26a、27a 丸穴(第2係合部)
26b、27b、36b、37b 係合部(第1係合部)
27、37 ブラケット(第2ブラケット)
100、200、300 回転電機
241、541 回転子コア積層片(コア片)
241a 回転子コア積層片(第1コア片)
241b 回転子コア積層片(第2コア片)
542 円筒状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周を有する回転子と、
ギャップを介して前記回転子の外周を取り囲む固定子とを備え、
前記回転子は、前記回転子の内部に周方向に所定の間隔を隔てて設けられた複数の第1永久磁石と、前記複数の第1永久磁石の間にそれぞれ設けられて外周側に磁極が形成された複数のコア片とを有し、
前記複数の第1永久磁石の磁化方向は、前記回転子の半径方向に対して略垂直な方向であり、
隣接する前記第1永久磁石の磁化方向は、互いに反対であり、
前記複数のコア片の各々は、前記第1永久磁石から発生する磁束を前記磁極に集中させるように設定された磁化容易方向を有する磁性材料を含む、回転電機。
【請求項2】
前記磁性材料を含むコア片の各々は、前記磁化容易方向を有する方向性電磁鋼板を含む、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記磁化容易方向を有するコア片は、前記回転子の軸方向に複数積層されるように構成されている、請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記複数のコア片の各々は、前記回転子の周方向に分割された第1コア片および第2コア片を含み、
前記第1コア片および前記第2コア片の各々の磁化容易方向は、磁化方向が集中するように設定された方向を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記第1コア片および前記第2コア片の各々の磁化容易方向は、磁化方向が集中するように前記回転子の回転中心から半径方向に延びる直線に対して所定の角度傾斜した方向を有する、請求項4に記載の回転電機。
【請求項6】
前記複数のコア片の各々の磁化容易方向は、前記回転子の半径方向と略平行な方向へ向かう方向を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項7】
前記回転子は、前記複数のコア片の回転中心側にそれぞれ配置され、周方向に所定の間隔を隔てて設けられた複数の第2永久磁石を含み、
前記複数の第2永久磁石の磁化方向は、前記回転子の半径方向に対して略平行な方向であり、
隣接する前記第2永久磁石の磁化方向は、互いに反対であり、
前記コア片に隣接する前記第1永久磁石と2つの前記第2永久磁石のそれぞれが有する前記コア片側の磁極は、相互に同一極である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項8】
前記回転子は、前記第2永久磁石の固定子とは反対側に設けられ、外周を有するシャフトを有し、
前記シャフトの外周に設けられた溝に前記第2永久磁石が配置されることにより、前記シャフトと前記第2永久磁石とは、連結されており、
前記コア片が前記第1永久磁石を保持することにより、前記コア片と前記第1永久磁石とは、連結されている、請求項7に記載の回転電機。
【請求項9】
前記回転子は、前記回転子の回転軸方向における前記シャフトの一方端部から挿入され、前記回転軸方向における前記コア片の一方端部と前記第1永久磁石の一方端部とに固定された第1ブラケットと、前記回転軸方向における前記シャフトの他方端部から挿入され、前記回転軸方向における前記コア片の他方端部と前記第1永久磁石の他方端部とに固定された第2ブラケットとを有する、請求項8に記載の回転電機。
【請求項10】
前記第1ブラケットおよび前記第2ブラケットには、前記シャフトの外周に設けられた溝と係合する第1係合部が設けられている、請求項9に記載の回転電機。
【請求項11】
前記回転子は、前記コア片の前記回転軸方向に貫通するように設けられた支持部材を有し、
前記第1ブラケットおよび前記第2ブラケットには、前記支持部材と係合する第2係合部が設けられている、請求項9または10に記載の回転電機。
【請求項12】
前記回転子は、前記コア片の前記固定子側に設けられた円筒状部材を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項13】
前記円筒状部材は、鋼管を含む、請求項12に記載の回転電機。
【請求項14】
前記周方向に所定の間隔を隔てて設けられた前記コア片と、前記第1永久磁石との両開角の合計角に対して前記コア片の開角の占める割合が0.5以上0.7以下である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項15】
前記周方向に所定の間隔を隔てて設けられた前記コア片と、前記第1永久磁石との両開角の合計角に対して前記コア片の開角の占める割合が、略0.6である、請求項14に記載の回転電機。
【請求項16】
前記周方向に所定の間隔を隔てて設けられた前記コア片と前記第1永久磁石との両開角の合計角に対して前記コア片の開角の占める第1割合と、前記回転子の半径に対して前記回転子の径方向における前記コア片の厚みの占める第2割合とは、前記ギャップ中の磁束密度の基本波振幅が最大となるように設定されている、請求項14または15に記載の回転電機。
【請求項17】
前記第1割合をηとするとともに、前記第2割合をζとした場合に、前記第1割合ηと前記第2割合ζとは、η=−3.5188×ζ+3.3628×ζ+0.8094×ζ−0.3794の関係式を満たすように設定されている、請求項16に記載の回転電機。
【請求項18】
複数の第1永久磁石の各々から発生する磁束を外周側に形成された磁極に集中させるように設定された磁化容易方向を有する磁性材料を含み、円周状に所定の間隔を隔てて内部に設けられた前記磁性材料を含む複数のコア片の前記所定の間隔に前記複数の第1永久磁石の各々を設けることにより、回転子を形成する工程と、
ギャップを介して前記回転子の外周を取り囲むように固定子を形成する工程とを備える、回転電機の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−165576(P2012−165576A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24581(P2011−24581)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】