説明

回転電機

【課題】 ティース片の移動量に対し、誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減の効果が大きく、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供する。
【解決手段】 回転自在に支持された回転子と、ステータコアとコイルを備えた固定子とを有する回転電機において、ステータコアは、個々に分割されたティース片とヨーク片を有し、かつ、ティース片とヨーク片は、径方向に対して斜めに分割されており、ティース片は、径方向に移動可能である構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転自在に支持された概円筒形の回転子と、ステータコアとコイルが設置された固定子を有する回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電気自動車や風力発電装置に用いられる回転電機は、より高速回転域までの運転を求められてきた。しかし、前記回転電機が有する固定された誘起電圧定数やコイルのインダクタンスによる電圧飽和のため、高速回転化には比較的低い限界があった。この課題を解決するために、従来の回転電機には、ステータコアを分割し、ティース部を構成するティース片を径方向に移動させることで、回転子との空隙を変化させ、誘起電圧定数やコイルのインダクタンスを可変できるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図15は、第1の従来技術における回転電機を示す説明図であり、特許文献1の図9に示されているものである。
図において、前記回転電機は、マグネット3aが設置され、回転自在に支持された概円筒形の回転子3と、ティース片2とヨーク片1よりなるステータコアとコイル4が設置された固定子を有する。
ステータコアは、個々に分割されたティース片とヨーク片とからなり、ティース片2とヨーク片1は、ティース片の巾が径方向に対して平行になるように分割され、ティース片を径方向に移動させることにより、ティース片と回転子3との間の空隙を変化させる。
図15(a)に示すように、ティース片が内側にある時、空隙G1は小さく、図15(b)に示すように、ティース片が外側にある時、空隙G2は大きくなるため、ティース片を径方向外側に移動することで、回転子のマグネットより発し、コイル4に鎖交する磁束量を減じることができ、誘起電圧定数やコイルのインダクタンスを低減できる。
このような回転電機は、回転速度が小さい時には空隙を小さくし、回転速度が大きい時には空隙を大きくすることで、低速回転域での高トルクと、高速回転域までの高出力化を両立できる。
【0004】
従来の、回転電機には、特許文献1に示したように、ティース部全てをティース片として移動するのではなく、ティース部をさらにティース片とティース頭部片とに分割し、ティース頭部片を固定したままティース片のみを径方向に移動させるものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
図16は、第2の従来技術における回転電機を示す説明図であり、特許文献2の図2に示されているものである。
図において、前記回転電機は、マグネット9が設置され、回転自在に支持された概円筒形の回転子8と、ヨーク片5とティース片6ティース頭部片7とよりなるステータコアとコイル9が設置された固定子10を有する。
ステータコアは、個々に分割されたティース片とヨーク片とティース頭部片とからなり、ティース片2とヨーク片1は、ティース片の巾が径方向に対して平行になるように分割され、ティース頭部片を固定したままティース片のみを径方向に移動させることにより、ティース片とティース頭部片との間の空隙を変化させる。
ティース片を径方向外側に移動することで、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路を切断し、空隙を増大し、コイル9に鎖交する磁束量を減じることができる。
回転速度が小さい時には空隙を小さくし、回転速度が大きい時には空隙を大きくすることで、低速回転域での高トルクと、高速回転域までの高出力化を両立できることは、特許文献1と同様である。
このように、従来の、回転電機は、1つのティース片の移動に対し、1ヶ所の空隙を変化させているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−057941号公報(図9)
【特許文献2】特許第4082182号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示した、従来の回転電機は、低速回転域での高トルクと、高速回転域までの高出力化を両立するため、ティース部を構成するティース片を径方向に移動させることで、1つのティース片の移動に対し、1ヶ所の空隙を変化させている。
ところで、高速回転域までの高出力化を可能にするには、2つのことが必要である。誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減である。誘起電圧定数の低減は、高速回転域までの駆動を可能とし、コイルのインダクタンスの低減は、負荷電流を増大し、高出力化を可能とする。前記回転電機は、ティース部を構成するティース片を径方向に移動させることで、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路を切断し、空隙を増大することで、誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減を実現している。
しかしながら、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路の、1つの空隙を増大して、例えば回転電機の誘起電圧定数を1/3以下とするには、ティース片の移動量を比較的大きくする必要がある。そのため、回転電機の外形状は、相当に大きくなるという課題がある。
また、ティース片を移動する機構については示されていないため、実際に製作しようとした場合、実用的なサイズでの製作が、可能か否かは不明である。
【0008】
特許文献2に示した、従来の別の回転電機も、ティース部を構成するティース片を径方向に移動させることで、1つのティース片の移動に対し、1ヶ所の空隙を変化させている。そのため、回転電機の外形状は、相当に大きくなるという課題がある。
また、ティース片を移動する機構については、ラックとピニオンを用いる構成図が示されているものの、ティース毎に説明されているような複雑な移動機構を有する回転電機を、実際に製作しようとした場合、実用的なサイズでの製作が、可能か否かは不明である。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、ティース片の移動量に対し、誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減の効果が大きく、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、
回転自在に支持された概円筒形の回転子と、ステータコアとコイルが設置された固定子を有する回転電機において、
ステータコアは、個々に分割されたティース片とヨーク片からなり、
ティース片とヨーク片は、径方向に対して斜めに分割され、ティース片を径方向に移動させることにより、ティース片の両側において、ヨーク片との間の空隙を変化させることを特徴とするものである。
また、請求項2に記載の発明は、
前記ティース片は、ティース片を貫くピンをリング形状部品のカム溝に取り付け、リング形状部品を回動させることにより、ティース片を径方向に移動させることを特徴とするものである。
また、請求項3に記載の発明は、
前記ティース片は、負荷側ブラケットに固定されたコイルの内側に、径方向に移動自在に装着することを特徴とするものである。
また、請求項4に記載の発明は、
前記リング形状部品は、固定されたコイルの、コイルエンド部の外側に、周方向に回転自在に装着することを特徴とするものである。
また、請求項5に記載の発明は、
前記リング形状部品は、ティース片の軸方向両側に装着することを特徴とするものである。
また、請求項6に記載の発明は、
前記リング形状部品を、任意に回動する手段を設けることを特徴とするものである。
また、請求項7に記載の発明は、
前記リング形状部品を回動する手段として、制御モータを用いることを特徴とするものである。
また、請求項8に記載の発明は、
前記ティース片を貫くピンは、非導電性材料よりなることを特徴とするものである。
また、請求項9に記載の発明は、
前記ティース片を径方向外側に移動することで、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路を、1つのティース片の移動に対し、2ヶ所以上切断し、空隙を増大することを特徴とするものである。
また、請求項10に記載の発明は、
請求項1記載のティース片の内側であり、回転子の外側に、ギャップを介して固定されたリング状の電磁鋼板積層部品を設けることを特徴とするものである。
また、請求項11に記載の発明は、
請求項1記載のティース片が最も内側に位置するとき、ティース片の内側が上記電磁鋼板積層部品に接することを特徴とする回転電機とするものである。
また、請求項12に記載の発明は、
前記回転電機は、回転子にマグネットを有する永久磁石式同期機であることを特徴とするものである。
また、請求項13に記載の発明は、
前記回転電機は、回転子に磁気的な突極性を有するリラクタンス電動機であることを特徴とするものである。
また、請求項14に記載の発明は、
前記回転電機は、回転子に2次導体を有する誘導電動機であることを特徴とするものである。
また、請求項15に記載の発明は、
請求項1記載の回転電機を有する車両とするものである。
また、請求項16に記載の発明は、
請求項1記載の回転電機を有する風力発電装置とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果がある。
請求項1に記載の発明によると、
ティース片の両側において、ヨーク片との間の空隙を変化させるため、ティース片の移動量に対し、誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減の効果が大きく、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供できる。
また、請求項2に記載の発明によると、
リング形状部品を回動させることにより、ティース片を径方向に移動させるため、ティース片を移動する機構が簡素であり、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供できる。
また、請求項3に記載の発明によると、
前記ティース片は、負荷側ブラケットに固定されたコイルの内側に、径方向に移動自在に装着するため、コイルで発生した熱の負荷側ブラケットへの放熱が良好で、組立が容易な回転電機を提供できる。
また、請求項4に記載の発明によると、
前記リング形状部品は、ティース片を移動する機構として大きなスペースを必要とせず、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供できる。
また、請求項5に記載の発明によると、
前記リング形状部品は、ティース片の軸方向両側に装着するため、ティース片の移動が滑らかな回転電機を提供できる。
また、請求項6に記載の発明によると、
コイルに鎖交する磁束量を所望の値とするために、前記リング形状部品を、任意に回動する手段を設けるため、制御性の良い回転電機を提供できる。
また、請求項7に記載の発明によると、
前記リング形状部品を回動する手段として、制御モータを用いるため、電気的に制御性の良い回転電機を提供できる。
また、請求項8に記載の発明によると、
前記ティース片を貫くピンは、非導電性材料よりなるため、ティース片を軸方向に流れる渦電流の発生がなく、効率の良い回転電機を提供できる。
また、請求項9に記載の発明によると、
ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路を、1つのティース片の移動に対し、2ヶ所以上切断し、空隙を増大するため、コイルに鎖交する磁束量を大きく変化させることができ、ティース片の移動量を大きくする必要がなく、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供できる。
また、請求項10に記載の発明によると、
リング状の電磁鋼板積層部品を設けるため、コギングトルクの低減が容易な回転電機を提供できる。
また、請求項11に記載の発明によると、
ティース片が最も内側に位置するとき、ティース片の内側が上記電磁鋼板積層部品に接するため、コギングトルクの低減が容易な回転電機を提供できる。
また、請求項12に記載の発明によると、
誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減の効果が大きいため、高速回転域までの高出力化を可能とする永久磁石式同期機を提供できる。
また、請求項13に記載の発明によると、
コイルのインダクタンスの低減の効果が大きいため、高速回転域までの高出力化を可能とするリラクタンス電動機を提供できる。
また、請求項14に記載の発明によると、
コイルのインダクタンスの低減の効果が大きいため、高速回転域までの高出力化を可能とする誘導電動機を提供できる。
また、請求項15に記載の発明によると、
実用的なサイズの回転電機を有するため、電気消費量が少なく、搭載の自由度が高い電気自動車などの車両を提供できる。
また、請求項16に記載の発明によると、
実用的なサイズの回転電機を有するため、変化の大きい風力を効率よく電力に変換し、搭載の自由度が高い風力発電装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例を示す回転電機の正断面図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す回転電機の正断面図である。
【図3】ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路の説明図である。
【図4】ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路の説明図である。
【図5】ティース片を径方向に移動させる構造の説明図である。
【図6】ティース片を径方向に移動させる構造の拡大図である。
【図7】回転電機システムの構成図である。
【図8】回転電機の磁界解析図である。
【図9】本発明の第2実施例を示す回転電機のステータコアが構成するコイル周りの磁気回路の説明図である。
【図10】ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路の説明図である。
【図11】回転電機を、電気自動車用電動機または発電機に供する場合の構成図である。
【図12】回転電機を、風力発電装置に供する場合の構成図である。
【図13】本発明の第3実施例における回転電機の、電磁部の構造を示す説明図である。
【図14】本発明の第4実施例における回転電機の、電磁部の構造を示す説明図である。
【図15】第1の従来技術における回転電機を示す説明図である。
【図16】第2の従来技術における回転電機を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、電気自動車用電動機または発電機に供する、本発明の第1実施例を示す回転電機の正断面図である。
図において、前記回転電機は、マグネット13が設置され、回転自在に支持された概円筒形の回転子11と、ステータコア34aとコイル29が設置された固定子34を有する。
回転子11は、ロータコア14に1極あたり2枚のマグネットをV字に装着し、8極の磁極を構成した埋込み磁石型構造である。
ステータコア34aは、各々12個に分割されたティース片28とヨーク片27からなり、ティース片とヨーク片は、径方向に対して斜めに分割されている。ティース片には、ティース片を貫くようにセラミック製のピン26が取り付けられている。ティース片の軸方向両側には、想像線で示すように、リング形状部品である負荷側制御リング24と反負荷側制御リング25が、コイルの外側に、周方向に回転自在に装着され、前記ピンを、負荷側制御リングのカム溝24aと反負荷側制御リングのカム溝25aに取り付け、前記制御リングを回動させることにより、ティース片を径方向に移動させる構造となっている。負荷側制御リングと反負荷側制御リングの外周の一部には、各々負荷側制御リングのギヤ部24bと反負荷側制御リングのギヤ部25bが設けられ、想像線で示すように、ギヤ部に係合する制御シャフト23を回転させることにより、制御リングを回動させ、ティース片を径方向に移動させることができる。
フレーム33の内側には、コイル29とヨーク片27が円周状に配置固定されている。コイルの周りは絶縁材30で覆われ、ティース片は絶縁材を介して、コイルの内側に、径方向に移動自在に装着されている。
【0015】
図2は、前記回転電機の軸方向断面図である。
図において、前記回転電機の回転子11は、マグネット13がロータコア14に設置され、ロータコアは負荷側側板15と反負荷側側板16とでシャフト12に固定され、負荷側軸受17と反負荷側軸受18を介して、負荷側ブラケット31と反負荷側ブラケット32に回転自在に支持されている。
シャフト12の反負荷側端部には、回転子の回転位置を検出するためのエンコーダ部20が設置されている。
前記ステータコア34a、負荷側制御リング24と反負荷側制御リング25、及び制御シャフト23は、反負荷側ブラケット32、フレーム33及び負荷側ブラケット31により保持されている。
反負荷側ブラケットは、フレームとともに、図示しないボルトで、負荷側ブラケットに締結されている。
制御シャフト23は、反負荷側ブラケット32の外側に設けられた制御モータ22により回転させる。
【0016】
コイル29への通電は、外部より、図示しないリード線を介してコイルのリード部21より供給される。コイル29はエナメル線を巻回し融着して成形した空芯コイルであり、コイル外形状は、加圧成形により精度よく製作されている。そのため、負荷側ブラケットに絶縁材30を介して密着して固定でき、コイルで発生した熱の負荷側ブラケットへの放熱が良好である。コイルの内側も加圧成形により精度よく製作されているため、ティース片は、コイルの内側をガイドとして、精度よく径方向に移動自在に装着できる。また、その他の固定子を構成する部品の組立も容易である。
ティース片の径方向の移動によるコイル内側の絶縁材の磨耗が心配される場合には、耐磨耗性の強い材質で製作されたボビンに巻いたコイルとし、ボビンの内側をガイドとして、ティース片を装着してもよく、コイルを直接負荷側ブラケットに固定せず、ボビンを負荷側ブラケットに固定してもよい。
【0017】
図3は、前記回転電機のティース片28が最も外側にある状態でのステータコアが構成するコイル周りの磁気回路の説明図である。
図において、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路を通る、コイル29に鎖交する磁束とその量を、磁束のイメージBo として矢印で示している。
各々のティース片が最も外側にある状態では、回転子との空隙が大きく、ティース片の両側において、ヨーク片27との間の空隙も大きい。そのため、回転子11のマグネット13より発し、コイルに鎖交する磁束量が小さいため、誘起電圧は低減された状態となり、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路は4ヶ所で切断されているため、コイルのインダクタンスも低減された状態となる。
【0018】
一方、図4は、前記回転電機のティース片28が最も内側にある状態でのステータコアが構成するコイル周りの磁気回路の説明図である。
図において、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路を通る、コイル29に鎖交する磁束とその量を、磁束のイメージBi として矢印で示している。
各々のティース片が最も内側にある状態では、回転子との空隙が小さく、ティース片の両側において、ティース片はヨーク片27と密着している。そのため、回転子11のマグネット13より発し、コイルに鎖交する磁束量が大きいため、誘起電圧は通常の磁束可変でない回転電機と同じく増大された状態となり、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路も通常の状態となるため、コイルのインダクタンスも通常の増大された状態となる。
このように、本実施例の回転電機は、回転速度が小さい時には空隙を小さくし、回転速度が大きい時には空隙を大きくすることで、誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減の効果が大きく、低速回転域での高トルクと、高速回転域までの高出力化を両立できる。ティース片とヨーク片は、径方向に対して斜めに分割され、ティース片を径方向に移動させることにより、回転子との空隙を変化させるとともに、ティース片の両側において、ヨーク片との間の空隙を変化させるため、ティース片の移動量に対し、誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減の効果が大きく、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供できる。
【0019】
図5は、前記回転電機のティース片を径方向に移動させる構造の説明図である。
図において、ティース片28を貫くピン26を、負荷側制御リングのカム溝24aと反負荷側制御リングのカム溝25aに取り付け、前記制御リングを回動させることにより、ティース片を径方向に移動させる構造となっている。負荷側制御リングと反負荷側制御リングの外周の一部には、各々負荷側制御リングのギヤ部24bと反負荷側制御リングのギヤ部25bが設けられ、制御シャフトの負荷側ギヤ部23aと反負荷側ギヤ部23bとに係合している。
負荷側制御リングのカム溝24aと反負荷側制御リングのカム溝25aは、円周方向に対し斜めに設けられており、ティース片は円周方向には移動できないため、制御リングを回転させると、ティース片はピンを介してを径方向に移動させることができる。
前記制御リングは、ティース片の軸方向両側に装着するため、ティース片の移動が滑らかな回転電機を提供できる。ティース片を最も外側から内側に至る任意の位置に移動させ、コイルに鎖交する磁束量を所望の値とするために、前記リング形状部品を、任意に回動する手段として、制御モータを用いるため、電気的に制御性の良い回転電機を提供できる。また、12個に分割されたティース片を、前記制御リングで一体に移動できる構造であるため、ティース片を移動する機構が簡素であり、大きなスペースを必要とせず、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供できる。
【0020】
図6は、前記回転電機のティース片を径方向に移動させる構造の拡大図である。
図6(a)に示すように、想像線で示す負荷側制御リング24と反負荷側制御リング25が反時計方向に回動した状態では、ティース片28が最も外側にある状態であり、図6(b)に示すように、負荷側制御リングと反負荷側制御リングが時計方向に回動した状態では、ティース片が最も内側にある状態となり、各々のティース片とヨーク片27は密着する。
ステータコアを構成する個々に分割されたティース片とヨーク片は、電磁鋼板を積層してなり、磁束の変化に伴う渦電流の低減につとめている。ティース片を貫くピン26をセラミック製とする理由も同じであり、渦電流の発生が比較的小さい場合は、鉄製としても良い。負荷側と反負荷側の制御リングは通常鉄製であるが、渦電流の発生が比較的大きい場合は電磁鋼板を積層して製作する。
【0021】
図7は、回転電機システムの構成図である。
回転電機システムは、回転電機とコントローラCとで構成される。コントローラは、内部にインバータ回路を有し、前記回転電機のエンコーダ信号Pを得て、電源からの電力Eを、前記回転電機の駆動電流U,V,Wに変換して、前記回転電機を駆動する。コントローラは、回転電機に取り付けられた制御モータ22を駆動して、運転中のあらゆる状態において、磁束を適切に制御するとともに、モータを最適なベクトル制御で駆動する。本実施例では、制御モータとして減速機付きパルスモータを用いており、パルスモータは、各回転速度と負荷トルク毎に予め設定された指令の通りの位置に、フィードバック信号なしに、制御モータへの制御信号Aにより回転する。
【0022】
図8は、前記回転電機の磁界解析図であり、ティース片とヨーク片が径方向に対して斜めに分割され、ティース片の両側において、ヨーク片との間の空隙を変化させる効果を示すものである。
図8(a)に示すように、ティース片28が最も内側にある状態では、回転子11との空隙が小さく、ティース片8の両側において、ティース片8はヨーク片27と密着している。そのため、回転子11のマグネット13より発し、コイル29に鎖交する磁束量が大きいため、誘起電圧は、通常の移動部分のないステータコアを有する回転電機と同じく、大きい状態となり、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路も通常の状態となるため、コイルのインダクタンスも通常の、大きい状態となる。
図8(b)に示すように、ティース片28が最も外側にある状態では、回転子11との空隙が大きく、ティース片28の両側において、ヨーク片27との間の空隙も大きい。そのため、回転子11のマグネットより発し、コイル29に鎖交する磁束量が小さいため、誘起電圧は低減された状態となり、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路は、4ヶ所で大きな空隙を有するため、コイルのインダクタンスも低減された状態となる。
仮に、図8(c)に示すように、ティース片28とヨーク片27が径方向に対して平行に切断され、ティース片28を径方向に移動させてもティース片27の両側においてヨーク片27との間の空隙が生じないような構造であれば、ティース片28が最も外側にある状態でも、図8(b)に示したほどには、コイル29に鎖交する磁束量は小さくならず、誘起電圧定数の低減も不十分である。ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路は、2ヶ所でのみ大きな空隙を有するため、コイル29のインダクタンスの低減も不十分であり、十分な高出力化もなし得ない。
このように、特許文献1に示された構造の回転電機で、誘起電圧の充分な低減とコイルのインダクタンスの充分な低減を行うには、本発明の構造より、ティース片の移動量を大きくする必要があり、回転電機の外形状は、相当に大きくなるという課題があった。
【0023】
以上のように、本実施例の回転電機によれば、ティース片の移動量に対し、誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減の効果が大きく、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供することができるようになる。
本発明が特許文献1と異なる部分は、ティース片を径方向に移動させることにより、回転子との空隙を変化させたのみでなく、ティース片の両側において、ヨーク片との間の空隙を変化させる構造とし、ティース片を径方向に移動させる具体的な構造を示した部分である。
本発明が特許文献2と異なる部分は、ティース片を径方向に移動させることにより、回転子との空隙を変化させたのみでなく、ティース片の両側において、ヨーク片との間の空隙を変化させる構造とし、リング形状部品をもって、全てのティース片を径方向に移動させる簡易な構造を示した部分である。
【実施例2】
【0024】
図9は、電気自動車用電動機または発電機に供する、第2実施例を示す回転電機の、ティース片が最も外側にある状態でのステータコアが構成するコイル周りの磁気回路の説明図である。
図において、前記回転電機は、マグネット43が設置され、回転自在に支持された概円筒形の回転子41と、ステータコア44aとコイル49が設置された固定子44を有する。
回転子41は、ロータコア44に1極あたり2枚のマグネットをV字に装着し、8極の磁極を構成した埋込み磁石型構造であり、第1実施例と同じである。
前記回転電機の全体的な構造、及びティース片を径方向に移動させる構造も、第1実施例と同じであるため、以下、第1実施例と異なる部分のみ説明する。
【0025】
ティース片48の内側であり、回転子41の外側には、ギャップを介して、コイル49とともに、図示しない負荷側ブラケットに固定されたリング状の電磁鋼板積層部品45が設けられている。ティース片が最も内側に位置するとき、ティース片の内側が前記リング状の電磁鋼板積層部品に接し、ティース片が最も外側に位置するときには、図に示すように、前記リング状の電磁鋼板積層部品との空隙50を増大させたのみでなく、ティース片の両側において、ヨーク片との間の空隙を増大する。そのため、回転子のマグネットより発し、コイルに鎖交する磁束量が小さいため、誘起電圧は低減された状態となり、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路は4ヶ所で切断されているため、コイルのインダクタンスも低減された状態となる。ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路を、1つのティース片の移動に対し、2ヶ所以上切断し、空隙を増大するため、コイルに鎖交する磁束量を大きく変化させることができ、ティース片の移動量を大きくする必要がなく、実用的なサイズで製作できる回転電機を提供できる。
【0026】
図において、回転子のマグネットより発しステータコアに至る磁束とその量を、磁束のイメージFo として矢印で示している。
ティースが外側に位置し、磁気回路は4ヶ所で切断されているため、磁束はコイルを鎖交せず、リング状の電磁鋼板積層部品をショートカットするようになる。本発明の実施例1に示したように、磁気回路の磁路抵抗をあげて通りにくくするのではなく、磁路をショートカットさせ、コイルに鎖交する磁束量をより大きく低減させることができる。
【0027】
一方、図10は、前記回転電機のティース片48が最も内側にある状態でのステータコアが構成するコイル周りの磁気回路の説明図である。
図において、回転子41のマグネット43より発しステータコアに至る磁束とその量を、磁束のイメージFi として矢印で示している。
各々のティース片が最も内側にある状態では、ティース片の内側が前記リング状の電磁鋼板積層部品に接し、ティース片の両側において、ティース片はヨーク片47と密着している。そのため、回転子のマグネットより発し、コイルに鎖交する磁束量が大きいため、誘起電圧は通常の磁束可変でない回転電機と同じく増大された状態となり、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路も通常の状態となるため、コイルのインダクタンスも通常の増大された状態となる。
この状態において、リング状の電磁鋼板積層部品45は、コギングトルクを低減する目的で設けている。
【0028】
このように、本実施例の回転電機は、回転速度が小さい時には、ステータコアが構成するコイル周りの磁気回路を切断する空隙を小さくし、回転速度が大きい時には、前記空隙を大きくすることで、誘起電圧定数の低減とコイルのインダクタンスの低減の効果が大きく、低速回転域での高トルクと、高速回転域までの高出力化を両立できる。
本発明が第1実施例と異なる部分は、ティース片の内側であり、回転子の外側に、ギャップを介して固定されたリング状の電磁鋼板積層部品を設けた部分である。各々のティース片が最も内側にある状態では、コギングトルクの低減が容易な回転電機を提供できる。一方、各々のティース片が最も外側にある状態では、磁束はコイルを鎖交せず、リング状の電磁鋼板積層部品をショートカットするため、第1実施例に比較して、鉄損が増加する。
【0029】
図11は、第1実施例、または第2実施例の回転電機を、電気自動車用電動機または発電機に供する場合の構成図を示すものである。
図において、車両64上には、前記回転電機61、コントローラ62、及びバッテリ63が搭載され、電気的に接続されている。コントローラは、ドライバの操作を反映し、運転中のあらゆる状態において、磁束を適切に制御するとともに、モータを最適なベクトル制御で駆動する。
実用的なサイズの回転電機を有するため、電気消費量が少なく、搭載の自由度が高い車両(電気自動車を含む)を提供できる。
【0030】
図12は、第1実施例、または第2実施例の回転電機を、風力発電装置に供する場合の、構成図を示すものである。
図において、支柱74上には、前記回転電機71、及びコントローラ72が一体的に搭載され、前記回転電機のシャフトには、風車73が直接、または間接に連結されている。
コントローラは、風速と風向を反映し、運転中のあらゆる状態において、磁束を適切に制御するとともに、モータを最適なベクトル制御で駆動する。
実用的なサイズの回転電機を有するため、変化の大きい風力を効率よく電力に変換し、搭載の自由度が高い風力発電装置を提供できる。
【実施例3】
【0031】
図13は、第3実施例を示す回転電機の、ティース片が最も内側にある状態で電磁部の構造を示す説明図である。
前記回転電機の全体的な構造、及びティース片88を径方向に移動させる構造も、本発明の第1実施例と同じである。本実施例の回転電機が第1実施例と異なる部分は、回転子にマグネットを有する永久磁石式でなく、回転子に磁気的な突極性を有し、マグネットを有しないリラクタンス電動機である部分である。
以下、第1実施例と異なる部分のみ説明する。
回転子81は、シャフト82にロータコア84を固定してなる。ロータコアにはフラックスバリア84aとなる空隙が多数設けられており、回転子は、磁気的な突極性を有している。固定子を構成するコイル89に、通電することにより、リラクタンストルクを発生する回転電機である。
【0032】
リラクタンス電動機は、本来、高速回転域までの駆動を行い易い電動機である。第1実施例と同様に、ティース片とヨーク片は、径方向に対して斜めに分割され、ティース片を径方向に移動させることにより、ティース片の両側において、ヨーク片との間の空隙を変化させるため、ティース片の移動量に対し、コイルのインダクタンスの低減の効果が大きくなり、リアクタンス電圧が低減することで、負荷電流をより増大することが可能となる。そのため、より高出力化を可能とする実用的なサイズで製作できるリラクタンス電動機を提供することができる。
【実施例4】
【0033】
図14は、第4実施例を示す回転電機の、ティース片が最も内側にある状態で電磁部の構造を示す説明図である。
前記回転電機の全体的な構造、及びティース片98を径方向に移動させる構造も、本発明の第1実施例と同じである。本実施例の回転電機が第1実施例と異なる部分は、回転子にマグネットを有する永久磁石式でなく、回転子に2次導体を有し、マグネットを有しない誘導電動機である部分である。
以下、第1実施例と異なる部分のみ説明する。
回転子91は、シャフト92にロータコア94を固定してなる。ロータコアには2次導体93が多数設けられており、固定子を構成するコイル99への通電による回転磁界に対し、回転子の回転が遅れると、2次導体に2次電流が誘導され、駆動トルクを発生する回転電機である。
【0034】
誘導電動機は、本来、高速回転域までの駆動を行い易い電動機である。第1実施例と同様に、ティース片とヨーク片は、径方向に対して斜めに分割され、ティース片を径方向に移動させることにより、ティース片の両側において、ヨーク片との間の空隙を変化させるため、ティース片の移動量に対し、コイルのインダクタンスの低減の効果が大きくなり、リアクタンス電圧が低減することで、負荷電流をより増大することが可能となる。そのため、より高出力化を可能とする実用的なサイズで製作できる誘導電動機を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の回転電機は、高回転域までの広い範囲を効率良く運転できるため、工作機用主軸モータや、掃除機等の家電製品用モータ、電機カンナ等の工具用モータ等、低速回転域での高トルクと、高速回転域までの高出力化が要求される全ての回転電機に、広く適用できる。
【符号の説明】
【0036】
11 回転子
12 シャフト
13 マグネット
14 ロータコア
15 負荷側側板
16 反負荷側側板
17 負荷側軸受
18 反負荷側軸受
19 オイルシール
20 エンコーダ部
21 コイルのリード部
22 制御モータ
23 制御シャフト
24 負荷側制御リング
24a 負荷側制御リングのカム溝
24b 負荷側制御リングのギヤ部
25 反負荷側制御リング
25a 負荷側制御リングのカム溝
25b 負荷側制御リングのギヤ部
26 ピン
27 ヨーク片
28 ティース片
29 コイル
30 絶縁材
31 負荷側ブラケット
32 反負荷側ブラケット
33 フレーム
34 固定子
34a ステータコア
45 リング状の電磁鋼板積層部品
61 回転電機
62 コントローラ
63 バッテリ
64 車両
73 風車
74 支柱
84a フラックスバリア
93 2次導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持された回転子と、ステータコアとコイルを備えた固定子とを有する回転電機において、
前記ステータコアは、個々に分割されたティース片とヨーク片を有し、
かつ、前記ティース片とヨーク片は、径方向に対して斜めに分割されており、
前記ティース片は、径方向に移動可能であることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記ティース片は、ティース片を貫くピンをリング形状部品のカム溝に取り付け、前記リング形状部品が回動することにより、前記ティース片が径方向に移動することを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記ティース片は、負荷側ブラケットに固定されたコイルの内側に、径方向に移動自在に装着することを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項4】
前記リング形状部品は、固定されたコイルの、コイルエンド部の外側に、周方向に回転自在に装着することを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項5】
前記リング形状部品は、ティース片の軸方向両側に装着することを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項6】
前記リング形状部品を、任意に回動する手段を設けることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項7】
前記リング形状部品を回動する手段として、制御モータを用いることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項8】
前記ティース片を貫くピンは、非導電性材料よりなることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項9】
前記ティース片を径方向外側に移動することで、ステータコアが構成する磁気回路を、1つのティース片の移動に対し、2ヶ所以上切断し、空隙を増大することを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項10】
請求項1記載のティース片の内側であり、回転子の外側に、ギャップを介して固定されたリング状の電磁鋼板積層部品を設けることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項11】
請求項1記載のティース片が最も内側に位置するとき、ティース片の内側が上記電磁鋼板積層部品に接することを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項12】
前記回転電機は、回転子にマグネットを有する永久磁石式同期機であることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項13】
前記回転電機は、回転子に磁気的な突極性を有するリラクタンス電動機であることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項14】
前記回転電機は、回転子に2次導体を有する誘導電動機であることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項15】
請求項1記載の回転電機を有する車両。
【請求項16】
請求項1記載の回転電機を有する風力発電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2013−66251(P2013−66251A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22593(P2010−22593)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】