説明

固体及び流体の物体の成分の測定において使用するためのインピーダンス検知システム及び方法

多重コイル開心又は空心インダクタである共振型インピーダンスセンサであって、少なくとも2つのコイルを含み、1つのコイルは、周波数掃引を行う少なくとも1つの別の電流源に接続可能な励振コイルであり、別のコイルは、少なくとも1つのデータ処理システムに接続可能な検知コイルであり、前記電流源に電気接続したとき、前記励振コイルは、エネルギーを前記検知コイルに伝播し、これによってプロービング電磁場が発生し、前記検知コイルのLCRパラメータが、所定の周波数における被試験物体のインピーダンスを測定するための共振条件を提供することができる共振型インピーダンスセンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本願は、2009年9月22日出願の「Impedance sensors and their use for analyzing object’s compositions」と題された米国仮出願第61/244,584号に対する優先権を主張する。上記仮出願は、参照によって全文を本明細書に援用する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
該当なし
【0003】
マイクロフィッシュ・アペンディクスへの引用
該当なし
【0004】
本発明は、固体、バルク材料、及び流体の成分の物理的性質測定、検出、及び定量を可能にする新規な非常に感度の高い電気センサに関する。より具体的には、この新規センサ技術は、インピーダンス共振分光法を適用する大部分の環境条件下における伝導率、透明度、及び反射率に関わらず、前記物質中の成分を測定、検出、及び定量する新規リアルタイム非接触法を可能にする。
【0005】
発明の簡単な説明
類似する設計のセンサのアレイにおいて用いることができる電気共振センサであって、各センサが2つのコイルを含み、そのうちの1つが励振コイルであり、他のコイルが検知コイルであり、無線周波数(RF)範囲において対象パラメータとセンサ表示とを強く関連付けるために選択された所定の共振周波数で動作する被試験物体と電磁結合する電気共振センサ;及び前記センサを用いて、リアルタイムで接触することなしに被試験対象の物理的性質及び組成を測定する方法。
【背景技術】
【0006】
人間社会は、多くの技術的プロセス、環境、食料生産、公衆安全、及び医学的手技をリアルタイムで接触することなしにモニターすることができる安価で汎用性のある技術を求め続けている。例えば、半導体及び太陽電池産業は、集積回路(IC)、フラットパネルディスプレイ、及びソーラーパネルの製造工程全体において優れたプロセスモニタリング装置を必要としている。ベアウエハ及び他の基材の性質測定から始まり、様々な蒸着及び研磨プロセス中の膜厚のモニタリング、並びに最終的なIC試験まで、プロセスモニタリング及び測定が常に必要である。農業、食品、化学、及び医薬品産業は、自然の限界の範囲内で有機及び無機物質、液体、及び組成物の多数の成分の様々な物理的特徴をモニターするための検知技術に興味を抱いている。本発明は、広範囲に亘る導体、半導体、及び絶縁体物質に適用可能な新規測定方法の核となる新規高感度センサシステムに関する。
【発明の概要】
【0007】
1つの態様では、本発明は、多重コイル開心又は空心インダクタである共振型インピーダンスセンサであって、少なくとも2つのコイルを含み、1つのコイルが周波数掃引を行う少なくとも1つの交流源に接続可能な励振コイルであり、別のコイルが少なくとも1つのデータ処理システムに接続可能な検知コイルであり、前記交流源に電気接続されたとき、前記励振コイルが前記検知コイルにエネルギーを伝播して探針電磁場を生じさせ、前記検知コイルのLCRパラメータが、所定の周波数で被試験物体のインピーダンスを測定するための共振条件を提供することができるセンサを提供する。様々な実施形態及び変形例が提供され、検討される。
【0008】
別の態様では、本発明は、気体、液体、及び固体の物体の標的とする化学的性質及び物理的性質を非接触的且つ非侵襲的に測定及び分析するためのインピーダンス検知システムであって、(A)上記少なくとも1つの共振型インピーダンスセンサと、(B)前記少なくとも1つの励振コイルに電気接続されている周波数掃引を伴う少なくとも1つの交流源と、(C)少なくとも1つの検知コイルと通信する少なくとも1つのデータ処理システムであって、前記検知コイルのLCRパラメータが、所定の周波数で被試験物体のインピーダンスを測定するための共振条件を提供するデータ処理システムと、(D)前記交流源及び前記データ処理システムと通信する制御システムとを含むインピーダンス検知システムを提供する。様々な実施形態及び変形例が提供される。
【0009】
更に別の態様では、本発明は、共振型インピーダンスセンサによって物体の化学的性質及び物理的性質を測定する方法であって、
(A)前記センサの自己共振周波数及び振幅を測定する工程と;
(B)少なくとも1つのアナライトを含む被試験物体を配置する工程と;
(C)前記物体の存在下で前記センサの共振周波数及び振幅を測定する工程と;
(D)前記センサと前記物体との間の電磁相互作用によって誘導される振幅及び共振周波数の変化を計算して、前記被試験物体のインピーダンスを求める工程と;
(E)所定の較正データを用いて前記インピーダンスを整合させて、前記被試験物体の化学的性質及び物理的性質を求める工程と
を含む方法を提供する。好ましいインピーダンスセンサは、本発明のセンサの態様に記載されるセンサである。
【0010】
様々な多組成流体(例えば、水、血液、スラリー、様々な溶媒等)の非破壊性非接触式その場測定及び/又は制御、並びにその金属、有機、及び無機の汚染物質のモニタリングが必要とされることが多い。これは、化学、半導体、医薬品、医療、農業、食品加工等を含む多くの産業の多くの技術的プロセスにおいて非常に一般的な作業である。本発明のシステム及び方法は、単組成構造及び流体だけではなく、多組成材料、多層構造、及び溶解及び/又はホモジナイズされた成分を含む液体の大部分においても非常に小さな変化を検出することができる。
【0011】
本発明は、主に被試験物体における調和高周波電磁場によって非接触探針を行い、センサの探針場に対する複雑な物体の応答を分析することができる1つのインピーダンス型センサ又はインピーダンス型センサのアレイ(クラスタ)を含む検知システム(装置)に関する。
【0012】
本発明は、主に、標的とする複合物体:固体、液体、気体、又はこれらの組み合わせの物理的パラメータ及び/又は化学的成分、並びにこれらの分布を測定するための多様なセンサシステム及び方法に関する。本発明は、公益事業、農業、食品、織物、医薬品、太陽電池、半導体、医療機器、化学、石油化学、冶金、国土安全保障を含む全ての産業において実用的に用いることができる。
【0013】
特に、本発明は、半導体、フラットパネル、太陽電池及びディスクドライブの産業、材料、科学等における多くの生産プロセス(例えば、PVD、CVD、ECD、CMP等)中に薄膜、厚膜、薄層、及び厚層を含む組成の異なる材料を非接触リアルタイム(その場)測定(分析)するための新規RFインピーダンス検知システム及びセンサの構造を開示する。また、本発明は、化学、食品加工、農業、及び他の産業の現場並びに試験機関において試験液体、溶媒、及び気体を分析するための新規方法及びデバイス(装置)について記載する。
【0014】
前記検知システムは、実際には、予め選択された周波数の近傍で掃引電圧を発生させることによって被試験物体を走査する。最大限の感度及び解像度を得るために、各インピーダンスセンサは、前記予め選択された周波数のうちの1つにおいて被試験物体の存在下で共振するよう設計される。
【0015】
インピーダンスセンサは、予め選択された周波数のセットにおける共振振幅(値)変化−dV、共振周波数偏位−dFr、及び場合によっては位相角変位−dφによって表される、センサの電磁場変動に対する物体の応答を測定することによって、前記物体の多数の標的パラメータ(特徴又は特性)をモニターすることができる。
【0016】
データ処理ユニットは、統計的に選別された物体の反応−インピーダンスセンサ出力に対するセンサの複雑性(V、dV、及びFr、dFr、及びφ、dφ)を比較し、分析することができる。データ処理ユニットは、レファレンスデータ及びそれを使用するためのアルゴリズムをメモリに保存する。レファレンスデータは、既知の性質を有する類似の物体を測定するプロセス(通常、較正と呼ばれる)において取得される。アルゴリズムは、標的とする性質の定量された特徴を用いてセンサの出力信号を補正し、補間、方程式系の解、ルックアップテーブルにおける検索等を含んでいてもよい。
【0017】
本発明によれば、その場インピーダンスセンサは、1つの群の実施形態においては空心円筒形又は平面インダクタとして設計されてもよく、別の群ではフェライトコアインダクタとして設計されてもよい。これらセンサは、各々、励振コイルと呼ばれる少なくとも1つの巻線と、検知コイルと呼ばれる少なくとも1つの巻線とを有する。励振コイルは、RF掃引発振器の出力に接続され(結合され)、検知コイルによって表される共振回路に電磁励起を提供する。検知コイルは、探針電磁場を発生させ、被試験物体の前記場に対する影響を知覚し、前記影響についての情報を多重チャンネル測定及びデータ処理(信号解析)システムに伝達する。
【0018】
インピーダンスセンサ、RF掃引発振器、及びデータ処理システムは、リアルタイム(オンライン)モードで物体の標的とするパラメータ及び特徴を計算し提示する、システムの(単一体)センサ−物体複合体の共振周波数を連続的に探索する高速閉ループ自己同調システムとして機能するよう設計される。
【0019】
本発明は、電気共振回路を用いるという高感度インピーダンス測定の利点と、インピーダンスを測定するための最適な動作周波数を規定する方法を提供するという電気化学インピーダンス分光法及び誘電緩和分光法の利点とを有すると考えられる。
【0020】
高感度インピーダンス測定は、コイルのみで構成される洗練された共振回路を用いることによって達成される。インピーダンス測定の標的とするパラメータは、被試験物体の能動容量及び容量リアクタンスであるので、検知コイルの自己抵抗及び自己容量をできる限り最小化することによって最高感度を達成することができる。別の改善点は、検知共振回路に対する発振源のインピーダンスの影響を除外することによって、検知コイルにエネルギーを伝達するために励振コイルを用いることである。
【0021】
当該技術分野における現状においては、物体の電気インピーダンス特性を測定することによって化学的性質及び物理的性質を求めるために複数の周波数を用いることが当然のように行われているが、如何にしてその周波数を選択するかについては言及されていない。本発明は、新規な先進的アプローチを開示する。検知システムの各インピーダンスセンサの動作周波数を求めるために、インピーダンス分光計を用いる。
【0022】
組成物の検知システムを構築するための手順を以下に記載する:
A)被試験物体について考えられる変動を網羅している既知の組成の標的成分を含むサンプルのセットを調製する;
B)広い周波数範囲に亘って走査することによって前記サンプルの各々について電気インピーダンススペクトルを求める;
C)前記スペクトルを分析して、前記スペクトル間の差が標的成分の部分の変化と相関し、前記成分が異なる比率でインピーダンスの一因となる周波数のセットを見出すが、選択する周波数の数は、調べる成分の数と少なくとも等しくなければならない;
D)工程Cの結果に基づき、動作周波数を有するセンサのセットを構築する;
E)被試験物体に近接して前記センサのセットを組み立てる;
F)工程Aで調製したサンプルのセットを用いて較正データを収集し、保存する;
G)データ処理アルゴリズムを推敲し、実行する。
【0023】
上記改善点によって、RFにおいてできる限り高感度である新規測定センサを構築することができる。図17及び23は、従来の方法及び本発明の方法の感度スケールを示す。本発明のセンサシステム及び測定方法は、全ての公知の電気的方法よりも著しく感度が高い。感度レベルの改善は、用途に依存して場合により異なる。一部の用途では、感度の改善は、百分率ではない係数によって測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
特定の実施形態を参照して本発明を説明する。本発明のこれら及び他の特徴及び利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な記載及び添付図面から当業者に明らかになるであろう。
【図1】図1は、本発明のインピーダンスセンサの等価回路及び被試験物体の応答の概略を示す。
【図2】図2は、センサの外側に位置する物体について、螺旋電場に対する絶縁性被試験物体の応答を示す。
【図3】図3は、センサの内側に位置する物体について、螺旋電場に対する絶縁性被試験物体の応答を示す。
【図4】図4は、センサの外側に位置する物体について、螺旋電場に対する伝導性物体の応答を示す。
【図5】図5は、センサの内側に位置する物体について、線形電場に対する絶縁性物体の応答を示す。
【図6】図6は、本発明のインピーダンスセンサの1つの実施形態(円筒形)の断面図を示す。
【図7】図7は、本発明のインピーダンスセンサの別の実施形態(ボビン形)の断面図を示す。
【図8】図8は、パイプ内の液体の流れを試験するための、3つの異なる周波数を有するインピーダンスセンサのアレイを含む本発明の別の実施形態を示す。
【図9】図9は、2つのバイパス部分を含む本発明のインピーダンスセンサアレイであって、幾つかの異なるインピーダンスセンサによって被試験流体の性質をモニターすることができる別の実施形態の一般図である(バイパス部分は、壁への付着物についての較正及び補正を行うために定期的に空にしてもよい)。
【図10】図10は、固体の物体を測定するための本発明のインピーダンスセンサの別の実施形態(フェライトポット形)の断面図を示す。
【図11】図11は、液体及びバルク材料を測定するための本発明のインピーダンスセンサの別の実施形態(フェライトポット形)の断面図を示す。
【図12】図12は、被試験物体を取り囲む励振コイル及び検知コイルを備える液体及びバルク材料を測定するための本発明の非接触センサ装置の実施形態を示す。
【図13】図13は、本発明の平面センサの実施形態の一般図を示す。
【図14】図14は、本発明に係る検知システムのブロック図を示す。
【図15】図15は、ベアシリコンウエハ及び厚み5,000Åのアルミニウム膜によって被覆されている同じシリコンウエハについての、本発明のインピーダンス検知システムの出力信号のスコープスクリーンショットを示す。
【図16】図16は、蒸留水及び水道水のサンプルについての、本発明の検知システムの試験結果を表すグラフを示す。
【図17】図17は、17MHz〜20MHzの周波数範囲における蒸留水及び様々な濃度の塩化ナトリウム(NaCl)を有する水のサンプルについての、本発明の検知システムの試験結果を表すグラフを示す。
【図18】図18は、17MHz〜20MHzの周波数範囲における蒸留水及び様々な濃度の塩化ナトリウム(NaCl)を有する水のサンプルについての、本発明の検知システムの試験結果を表すグラフを示す。
【図19】図19は、17MHz〜20MHzの周波数範囲における蒸留水及び様々な濃度の塩化ナトリウム(NaCl)を有する水のサンプルについての、本発明の検知システムの試験結果を表すグラフを示す。
【図20】図20は、様々な厚みのアルミニウム膜を有するシリコンウエハについての、本発明の検知システムによる測定試験結果を表すグラフを示す。
【図21】図21は、様々な厚みのアルミニウム膜を有するシリコンウエハについての、本発明の検知システムによる測定試験結果を表すグラフを示す。
【図22】図22は、水中の水銀汚染物質の測定についての本発明の検知システムの試験結果を表すグラフを示す。
【図23】図23は、20pFのキャパシタを備える本発明のセンサについて、17MHz〜20MHzの周波数範囲における様々な濃度のNaClを含有する水溶液についての振幅/周波数応答曲線のグラフを示す。
【図24】図24は、20pFのキャパシタを備える本発明の実施形態及び追加のキャパシタを有しないセンサシステムについて、水中のNaCl濃度の関数としての最大値の振幅/周波数応答曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
電気共振回路を用いて流体の成分を測定する装置及び方法が、特定の特許に開示されている。米国特許第7,219,024号明細書には、電磁探針を用いる密度及び水分含量の測定について記載されている。米国特許第6,511,851号明細書には、共振周波数回路を用いる液体の組成変化を同定する方法について開示されている。国際公開第2008/076453号パンフレットには、自動車エンジン燃料のエタノール/アルコール含量をモニターするための、インダクタ及びキャパシタを用いるセンサが開示されている。米国特許出願公開第2008/0143345号には、選択的触媒還元自動車の尿素タンクと共に配置される自動車用尿素溶液モニタリング装置用の誘導センサが開示されている。
【0026】
他の特許には、電気化学インピーダンス分光法(EIS)及び誘電緩和分光法(DRS)を用いて物理的特徴、化学的特徴、及びこれらの分布を測定する装置及び方法が開示されている。米国特許出願公開第2009/0027070号明細書には、二重電池電気化学インピーダンス分光法(EIS)試験装置、及び様々な基材におけるコーティングの完全性を測定する方法が開示されている。米国特許第4,433,286号明細書には、材料の複雑な誘電応答を用いる前記材料の同定について開示されている。米国特許第7,514,938号明細書には、サンプル中のアナライトの存在又は濃度を非侵襲的に測定するために使用する誘電緩和分光装置及び方法が開示されている。
【0027】
薄層及び厚層の厚み、均一性、組成、及び混入について測定するために多くの測定技術が提案されている。半導体産業においては、偏光解析法等の光学的方法が一般的である。光学的方法は、大部分が透明な層の測定に用いられている。X線技術は、高価であり、安全上の問題を伴い、また、生産ラインへの適用が限定されている。
【0028】
他の方法としては、AC及びDC点探針、容量センサ(米国特許第7,332,902号明細書)、誘導渦電流技術(米国特許出願公開第2005/01566042号明細書及び同第2009/0079424号明細書)が挙げられるが、これら他の方法は、制御が困難である様々な要因に依存している。誘電及びRFインピーダンス分析方法の改良については、幾つかの特許に開示されている(例えば、米国特許第6,593,738号明細書及び同第6,891,380号明細書)。電気に基づく方法は、非接触的であったり、測定される物体に影響を与えることが多い、測定される薄層への電気接続を必要としたりするが、測定に時間がかかり且つ感度が低い。
【0029】
光学的方法は、透明な層の積層体及び不透明な層を測定するとき、信頼性が低い場合が多いと考えられている。測定される層の光学的性質(屈折率、減衰係数等)によって、また、測定される層及び/又は下層の表面粗度によって問題は更に複雑になる。
【0030】
更に、当該技術分野において公知である技術では、高精度で複合多層物体の内側に存在する標的となる個々の層の厚みを測定することができない。これら公知技術の大部分は、測定速度、光学的性質、及び材料の伝導性等の問題点のうちの1つ又は組み合わせによって制限を受ける。更に、これら技術のうちの幾つかは、破壊検査であるか、又は直接接触を必要とするかの少なくともいずれかであり、非常に望ましくない。
【0031】
光学的インピーダンス分光法、X線インピーダンス分光法、及び既存のインピーダンス分光法は、大きなスペースを必要とし、非常に高価であり、且つその場型の測定に対応していない。
【0032】
本発明はいずれの特定の理論にも限定されるものではないが、従来より、高感度共振回路は、少なくとも2つの要素:互いに電気接続されているインダクタ及びキャパシタで構成される電気回路である。被試験物体の電気インピーダンスに対する共振回路の感度を最大化するために、共振回路の容量及び抵抗を最小化する必要があると考えられていた。本発明者らは、予想外にも、インダクタ及びキャパシタで構成される従来の電気回路をインダクタのみに置き換えることが可能であることを見出した。前記インダクタ(誘導コイル)は、検知要素として機能するために無心又は開心型でなければならない。検知コイルは、インダクタの主な部分であり、そのパラメータが本発明のセンサの動作周波数を規定する。検知コイルの自己容量を減少させるために、ターン間に実質的なステップを有する単層コイルを用いたりバスケット巻線を用いたりすることによって、センサの感度を更に高めることができる。
【0033】
本発明はいずれの特定の理論にも限定されるものではないが、本発明のセンサが高感度であることに寄与していると考えられる別の重要な特徴は、AC電流源を検知コイルから電気的に分離していることであり、これは、センサの感度に対する電源のインピーダンスの影響を取り除くか又は最小化するためである。これは、AC電流源から検知コイルに電磁的にエネルギーを移動させるための励振コイルを用いることによって達成される。
【0034】
先行技術には導入されていない本発明のセンサの設計の別の重要な態様は、データ処理モジュールの高入力インピーダンスに必要なものである。高いセンサ感度を得るためには、入力インピーダンスが極めて高くなければならない(例えば、本発明のデータ収集ユニットは、10GΩの入力抵抗を有する)。かかる要件の正当性は、以下の式によって証明することができる:
W=V/R
(式中、Wは、データ収集の入力抵抗において消失するエネルギーであり、Vは、有用な信号の電圧であり(本発明のDAQでは、0.5V〜11Vである)Rは、検知コイルに接続される機器(例えば、DAQ)の入力抵抗である)。
【0035】
上記式から、高入力抵抗を用いたときにエネルギーの消失が少なくなることは明らかである。例えば、10GΩのDAQを標準的なオシロスコープに置き換えると(10MΩの減衰器を備えていたとしても)、センサ感度の著しい低下がみられる。
【0036】
幾つかの特許(米国特許第4,058,766号明細書、同第4,433,286号明細書、同第6,669,557号明細書、同第7,219,024号明細書)には、電気インピーダンスの測定を通して様々な物体の様々な化学的性質及び物理的性質を求めるために複数の周波数を使用することについて言及されているが、使用する周波数を規定するための基準はいずれの特許にも記載されていない。本発明では、組成の検知システムのセンサにとって最適な動作周波数を探すために、周波数の変化と共にインピーダンスの性質も変化するという現象を用いる。インピーダンス分光法を用いて見出された周波数における物体のインピーダンスに関する情報によって、本発明のインピーダンスセンサのシステムを構築して、液体溶液、気体混合物、固体複合物体、多層物体の組成を求めたり、かかる物体の組成の変化をモニターしたりすることが可能となる。
【0037】
図1は、本発明のインピーダンスセンサの等価回路及び被試験物体の応答の概略を示す。インピーダンスセンサを実線で示す。インピーダンスセンサは、周波数掃引11、励振コイル12、検知コイル13、及びデータ処理システム14を備える交流源で構成されている。
【0038】
励振コイルの機能は、電磁エネルギーを検知コイルに送り込み、交流源のインピーダンスから検知共振回路を分離することにある。
【0039】
本発明の検知共振回路は、検知コイルのみからなり、このコイルのパラメータ:インダクタンス、ターン間容量、及び能動的抵抗によって記載することができる。
【0040】
本発明の態様に係るインピーダンスセンサの設計は、低い容量値を提供することができる。容量をできる限り低い実用値に低下させることが好ましい場合がある。
【0041】
検知コイルは、高インピーダンス入力(好ましくは、約10Ω〜約1015Ω)のデータ処理システムと接続されている。
【0042】
本発明のインピーダンスセンサの等価回路の分析は、検知コイルからの出力電流が、通常、非常に小さい(10−6A〜10−14A)ことを示す。
【0043】
被試験物体の応答を点線で示す。物体の反応は、3つの等価電気回路15、16、及び17によって表すことができる。
【0044】
検知コイルの交流磁場は、螺旋電場Eを発生させ、この電場は、そのターンにおいて、様々な種類の螺旋電流を誘導する。
【0045】
検知コイルが絶縁性固体物体に近接して配置される場合、等価回路15は、得られるパラメータL、R、及びCからなる。回路15のインピーダンスは、螺旋電場Eによって発生する螺旋変位電流に対する抵抗及び交流誘電分極によって生じるエネルギーの消失を反映している(図2)。
【0046】
同じ得られるパラメータは、誘電流体が充填されている管内の螺旋変位電流によって生じる応答を反映する。この実施形態では、物体は、検知コイルに取り囲まれているように描かれている(図3)。
【0047】
伝導性物体については、固体であっても流体であっても、等価電気回路16は、得られるパラメータL及びRを2つしか有することができない。これらパラメータは、抵抗を、渦電場Eによって引き起こされる螺旋伝導性及びイオン性電流と、渦電流によって生じるエネルギーの消失との両方であるとみなす(図4)。
【0048】
また、検知コイルの別の線形電場Eも、異なる種類の線形電流を誘導する。伝導性及び絶縁性の物体は、センサと物体とを容量結合させ、この関係は、等価電気回路17によって表される。インピーダンスは、検知コイルの電位勾配(図5)又はコイルと被試験物体との間の電位差(図示せず)によって生じる線形伝導性電流、変位電流、又はイオン性電流に物体の抵抗を反映する。
【0049】
実施形態の説明
次に図6を参照して、ボビンを有しなくてもよく、又はフルオロポリマー等の高RF周波数で電気透過率が最低(ε約2)になる非伝導性材料で作製される短い管として一般的に形成される支持部材63を有していてもよい本発明の1つの実施形態の断面図を示す。支持部材63は、センサ容量を更に最小化するために壁が薄くなければならない。
【0050】
支持部材63の第1の(上方の)部分は、1ターンのみ又は数ターンの比較的太い銅線を有していてもよい励振コイル61を有する。励振コイルの一端は、接地され、もう一端は、低インピーダンス出力のRF掃引発振器(図示せず)に接続される。
【0051】
支持部材の第2の部分は、検知コイル62を有する。このコイルには、励振コイルよりも細い銅線が巻き付いている。また、このコイルのターン間距離は、可変的にすることができるので、コイルの容量及びインダクタンスを機械的に調整する(変化させる)ことができる。このように、インピーダンスセンサの動作周波数を調節することができる。
【0052】
検知コイル62の第1の末端は、励振コイル61の近傍に示されており、また、接地されている。検知コイルの第2の末端は、高インピーダンス入力の多重チャンネル測定及びデータ処理システムに結合されている。検知コイル62の末端部分は、被試験物体64に近接して配置され、前記被試験物体64は、固体であっても流体であってもよい。励振コイルから検知コイルにエネルギーが移動している間両方のコイルについて同方向の磁場が得られ、且つ励振コイルと検知コイルとが電気的に分離されるように、励振コイルと検知コイルとは逆方向に巻き付けられる。
【0053】
コイルの直径及び検知コイルのターン数に依存して、この実施形態は、広範囲に亘る動作周波数を有することができる。この範囲は、以下の2つのディアパソンに分割することができる:a.伝導性物体を測定するために用いられる50MGz未満の動作周波数、及びb.絶縁性及び半導性の物体を測定するために用いられる50MHz〜1GHzの動作周波数。
【0054】
インピーダンスセンサの別の支持部材の設計を図7に示す。「ボビン形」支持部材73によって、検知コイル72のターン数を増加させ、より細い線をこのコイルに使用することが可能となる。励振コイル71は、1ターンしか有しない。ボビンの中央の穴は、光学的変位(近接)センサ74と共にこのセンサを用いて、コイルから基材75に蒸着している膜76までの距離を制御するために設計される。
【0055】
本発明は、ウエハ、フラットパネルディスプレイ、ソーラーパネル等の絶縁性、伝導性、及び半導性の薄層の厚み測定に関連する多くの用途で用いることができる。インピーダンスセンサと標的とする被試験物体の層との距離(即ち、ギャップ)は、これら用途において重要な要因である。
【0056】
図8は、アレイが異なる周波数で動作する3つのインピーダンスセンサ81〜83を含む本発明の別の実施形態の一般図を示す。この実施形態のセンサアレイは、対象液体中の少なくとも3つの成分を同時にモニターすることができる。
【0057】
インピーダンスセンサのコイルを備えるボビン形の実施形態は、被試験液体(気体又はバルク材料)を運搬するパイプ84の部分に設置される。センサは、実質的な相互干渉又は漏話を防ぐのに十分な程度離れた距離に配置することができる。また、センサは、交互に動作することができる。幾つかの実施形態では、前記距離は、近接するボビンの大きい方の半径と少なくとも等しいか又はそれ以上であってよい。
【0058】
この実施形態のアレイにおけるインピーダンスセンサは、各々、各標的成分に特異的な固有の(個々の)動作周波数を有する。センサアレイは、インピーダンスセンサシステム(図示せず)のコントローラに接続される。
【0059】
図9は、対象成分を含む流動流体(例えば、液体)をセンサアレイがモニターする本発明の別の実施形態の断面図を示す。流体は、大きな直径(例えば、3”以上)の絶縁性パイプ又は任意の直径の伝導性パイプ97を通して流れる。インピーダンスセンサ93、94、95、及び96は、用途によって直径を設定することができる2つのより小さなバイパスパイプ91及び92(バイパス数は変化させることができる)に実装される。センサは、各々、対象の各標的成分に特異的な固有の共振周波数を有する。
【0060】
この実施形態は、標的成分を測定するのに必要なインピーダンスセンサコイル(インダクタンス/動作周波数)の最適な直径と同じ直径を有するバイパス管を用いることの利点を示す。また、バイパス管は、近接する共振周波数範囲で動作するセンサ間の好適な距離を提供するのに役立つ。この実施形態では、幾つかのインピーダンスセンサ間の漏話及び相互作用を最小化することができる。
【0061】
バイパスは、較正及び壁への付着物の洗浄を含む定期的なメンテナンスを行うことができるように開閉弁を組み込まれていてもよい。
【0062】
図10は、励振コイル101及び検知コイル102の両方がフェライトハーフポット103の内側に配置されている本発明の別の実施形態の断面図を示す。この実施形態では、インピーダンスセンサは、被試験物体104(例えば、金属層105が付着している基材等)に近接して配置してもよい。この実施形態におけるフェライトポットは、物体に向かって開かれており、被試験物体に高磁束を提供する。
【0063】
更なる実施形態では、用途の要件によって、1つの「I」、「C」、「U」、又は「E」字形等の他の形状のフェライトコアを用いてもよい。いずれの場合も、フェライトコアは、特に、伝導性且つ低抵抗率の物体と共に動作するインピーダンスセンサの感度を高めることができる。
【0064】
図11は、センサは図10と同じであるが、液体状態又はバルク材料の被試験物体115を収容することができる容器の壁114に実装されている本発明の別の実施形態の断面図を示す。センサは、励振コイル111及び検知コイル112を含み、フェライトハーフポット113の内側に配置される。
【0065】
図12は、液体、気体、及びバルク材料を測定するための(被試験物体を取り囲む励振コイル及び検知コイルを備える)本発明の容器形非接触センサ装置の実施形態を示す。この装置は、制御可能なRF掃引発振器121、励振コイル122、検知コイル123、データ収集124、及びデータ処理システムを備えるコントローラ125からなる。
【0066】
図13は、インピーダンスセンサが2つの平面同心インダクタとして形成される本発明の別の実施形態の一般図を示す。内側のインダクタは、一端131が接地され、もう一端132がコントローラ(図示せず)に接続可能である多くのターンを有する検知コイルである。外側のインダクタは、片側131が接地され、周波数掃引を行う交流源に他の側133が接続されている。
【0067】
平面インピーダンスセンサは、固体の剛性又は可撓性の分離性基材に両方のインダクタが配置されるリソグラフィー法によって作製することができる。このセンサ設計は、サイズが小さい、パイプ等の物体に簡単に実装(取り付け)できる、及び低コストである等の幾つかの利点を有する。
【0068】
図14は、N個のインピーダンスセンサのアレイがシステムコントローラに接続されている本発明の別の実施形態を示す。図14は、本発明のコントローラを含む検知システムの概略ブロック図を示す。
【0069】
各インピーダンスセンサの励振コイル(図示せず)は、必要な数のRF掃引発振器(RFG)の出力に接続される。各センサの検知コイルは、コントローラにおける高インピーダンス入力の多重チャンネルデータ処理システム(MDS)に接続される。
【0070】
RFG及びMDSは両方とも、情報交換、走査、試験を管理する制御システムに接続され、結果の提示の測定及び他の機能を担う。制御システムは、(例えば、周囲空気及び/又は流体温度、湿度等をモニターするために用いられる)幾つかの任意の補正センサを有していてもよい。また、コントローラは、より高いレベルのツールコントローラ、機械、又は生産フロアシステムから信号(情報)を送受信するためのインターフェースモジュールを有していてもよい。
【0071】
リアルタイム測定結果は、コントローラによって表示することができる、又は自動閉ループツール又は機械制御システムのためのフィードバック信号として使用することができる、又はコントローラによって表示することができ且つ自動閉ループツール又は機械制御システムのためのフィードバック信号として使用することができる。この方法は、被試験物体の標的パラメータを自動的に制御し、技術的に必要な限度内に維持することができる。
【0072】
RFGの電圧/電流出力は、被試験物体の電気的性質及び物理的性質に依存して調節することができる。例えば、伝導性金属膜の厚みを測定する場合、励振コイルの電流/電圧が高いほど、検知システムの感度及び解像度が上昇する。
【0073】
データ処理システムは、RFG、センサS1〜SN、及び制御システムへの情報を分析することができる。その結果によって、各「物体−センサ」システムに特異的な共振周波数Fro及び電圧振幅Uoが規定される。この情報及び較正アルゴリズムに基づいて、MDS(多重チャンネルデータ処理システム)は、Fro及びVoの値を、膜厚、液体成分の濃度、層の透過率等の標的とする物理的又は化学的パラメータの測定値単位に変換する。2つのパラメータについての変換は、以下の方程式系によって表すことができる:
【数1】

(式中、Xは、第1の標的パラメータ(膜厚等)であり、Yは、第2のパラメータ(ウエハのバルク伝導率等)、k11及びk12は、周波数の重み係数であり、k21及びk22は、出力電圧の重み係数である)。
【0074】
係数k11、k21、k12、及びk22は、通常、較正方法を用いて見出され、次いで、定期的に保存されるMDSメモリから回収することができる。較正手順は、既知の値の標的パラメータを有するレファレンスサンプルを測定し、得られたデータを用いて統計的に有意な重み係数を計算することを含む。
【実施例】
【0075】
以下の実施例は、本発明の様々な用途を例証することを意図し、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者は、本願の開示及び教示を用いて、過度の実験を行うことなしに別の実施形態を生み出すことができる。これら実施形態は、各々、本発明の一部であるとみなされる。
【0076】
実施例1:ベアシリコンウエハ及び厚み5,000Åのアルミニウム膜によって被覆されている同じウエハに対する試験
図15は、ベアシリコンウエハの存在下で32MHz〜43MHzの周波数範囲に亘るインダクタンスセンサの出力信号151のスコープスクリーンショットを示す。共振周波数は、33.8MHzであり、共振振幅は、10,067mVである。線152は、厚み5,000Åのアルミニウム膜によって被覆されている同じシリコンウエハの存在下における、同じインピーダンスセンサについての振幅周波数曲線である。この場合、共振周波数は、41MHzであり、共振振幅は、1,673mVである。線151及び152の比較によって、共振周波数及び特に電圧振幅が大きく異なることが分かる。この実施例は、本発明に係る高感度の新規インピーダンス検知システムを例証している。
【0077】
実施例2:蒸留水及び水道水のサンプルに対する試験
液体(例として水)中における可変濃度の様々な成分の較正及び測定のための試験取付品を図14に示し、ここでは、インピーダンスセンサが、テフロン(登録商標)で製造されることが好ましい小さな容器、即ち、サンプラーを取り囲んでいる。
【0078】
図16は、以下の異なる条件における結果のグラフを示す:161−サンプラー内に液体が存在しない場合、162−サンプラーに蒸留水が充填されている場合、及び163−サンプラーに水道水が充填されている場合。蒸留水は、空のサンプラーと比べてセンサの出力振幅が比較的少ししか変化しなかった。共振周波数は、蒸留水の11MHzに比べて空の容器では12.5MHzと大きく変化した。しかし、水道水は、振幅及び共振周波数の両方が著しく変化した。この結果は、25℃における蒸留水の抵抗が約18.2MΩ・cm〜約40MΩ・cmであるのに対し、水道水は通常0.1MΩ・cm未満であるためであると理解できる。
【0079】
この実施例は、非常に高感度の新規インピーダンス検知システムを表し、液体物体中の非常に少量の汚染物質でさえも検出及び定量できることを示す。
【0080】
実施例3:様々な濃度のNaCl水溶液の測定
塩化ナトリウム(NaCl)水溶液の適切な動作周波数を求めるために、広範囲の動作周波数:20MHz、70MHz、370MHz、及び480MHzに亘って調和電磁場を探針することによって予備実験を行った。20MHz付近の周波数が最も優れた結果を示した。
【0081】
インピーダンスセンサのために17MHz〜20MHzの周波数を選択した。次の実施例では、様々な濃度のNaClについて振幅−周波数応答を測定した。
【0082】
図17は、これら測定結果のグラフを示す。振幅−周波数曲線のグラフから分かるように、異なる濃度のNaClを含有する溶液は、互いに明らかに識別することができる。蒸留水(黒い菱形)では、約19.6MHzの周波数で最高振幅が生じ、最低濃度のNaClでは、蒸留水よりも小さい振幅が生じ、NaClの濃度が上昇すると共に振幅は減少し、最大振幅の周波数は、濃度が0.1%に達するまで減少した。また、NaClの1%溶液では、次に低い濃度でみられるよりも大きな振幅が生じるという知見が明らかに示されている。これら結果は、新規インピーダンス検知システムが、高解像度で広範囲に亘る濃度の液体成分を測定する能力を示す。
【0083】
図18は、NaClの濃度を測定したときのインピーダンスセンサの共振振幅への依存性を示す。図19は、NaCl濃度を対数目盛で表したときの前記依存性を示す。
【0084】
実施例4:シリコンウエハ上のアルミニウム薄膜の厚み測定
図20は、アルミニウム膜厚測定の試験結果を表す(オングストローム範囲で示す)。検知システムは、図7に示すセンサに類似する開心共振センサを用いた。周波数範囲は、34MHz〜43MHzに設定した。プロットにおける出発点は、アルミニウム膜を有しないベアシリコンウエハに対応する。
【0085】
図21は、アルミニウム膜厚を対数目盛で表した場合の結果を示す。
【0086】
実施例5:水中の水銀の測定
水銀は、飲料水において最も危険な汚染物質のうちの1つである。この汚染物質は、非常に低い濃度ではあっても高度に局在する。したがって、水中の水銀(Hg)濃度を測定するために一連の実験を実施した。
【0087】
1つの実験群では、蒸留水中の水銀イオン(Hg)の濃度が振幅−周波数特性を著しく変化させる周波数範囲が見出された。この周波数は、コイル設計のためのL、C、及びRレファレンス値を規定する。測定コイルは、特定のレイアウトの濃度を用いて周知の設計ルールに従って構築することができる。また、最高の感度を達成するために、測定回路について自己容量Cを最低限に維持することが好ましい場合がある。次の実験は、上述のセンサを用いて実施した。
【0088】
図22は、蒸留水中の様々なHg濃度のサンプルについての振幅−周波数特性(AFC)を示すグラフである。この試験結果は、本発明のインピーダンス検知システムが1ppb(十億分率)もの低濃度の蒸留水中のHg濃度を測定する能力を明らかに示す。
【0089】
実施例6:共振回路がキャパシタを含む場合のIRT−センサの感度低下
本発明の実施形態の振幅−周波数相互作用の調節におけるインピーダンス共振装置のキャパシタの役割について本発明者らが導いた上記結論を確認するために、前記装置の共振回路がキャパシタを含むことを除いて実施例3に記載の通りNaCl溶液を用いて一連の実験を実施した。
【0090】
図23は、実施例3におけるセンサよりも約4倍巻き数が少なく、20pFのキャパシタが追加されているIRT−センサを用いて得られた振幅周波数応答(AFR)のグラフを示す。キャパシタの追加されているこの改変センサを用いて、本発明者らは、概ね予想通りではあったが、NaCl溶液の各々についての振幅−周波数相互作用が殆ど同一であり、振幅又は最大振幅がみられる周波数のいずれかにも顕著な変化がみられないことを見出した。
【0091】
図24は、キャパシタを追加したセンサ及び追加しなかったセンサについての振幅周波数応答曲線の最大値を示す。明らかに分かるように、キャパシタの追加された実施形態(白丸)は、キャパシタの追加されていないセンサと比べて有用な信号(共振周波数及び振幅の変化)の範囲が実質的に狭い。対照的に、理論通り、キャパシタを追加しなかったインピーダンス共振センサシステムは、非常に広範囲に亘る有用な信号を示すことが見出された。
【0092】
この実施例は、本発明のシステム及び方法が、先行技術の検知システムよりも実質的に優れた感度を有することを示す。したがって、本発明のシステム及び方法を使用すると、望ましくない汚染物質を含まない製品の維持に寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重コイルの開心型又は空心型インダクタである共振型インピーダンスセンサであって、少なくとも2つのコイルを含み、1つのコイルが、周波数掃引を行う少なくとも1つの交流源に接続可能な励振コイルであり、別のコイルが、少なくとも1つのデータ処理システムに接続可能な検知コイルであり、前記交流源に電気接続したとき、前記励振コイルが前記検知コイルにエネルギーを伝播し、前記検知コイルが探針電磁場を生じさせ、前記検知コイルのLCRパラメータが、所定の周波数において被試験物体のインピーダンスを測定するための共振条件を提供可能であることを特徴とする共振型インピーダンスセンサ。
【請求項2】
少なくとも1つの励振コイルに電気的に接続されている、周波数掃引を行う少なくとも1つの交流源を更に含む請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
少なくとも1つの検知コイルと通信する少なくとも1つのデータ処理システムを更に含み、前記検知コイルのLCRパラメータが、所定の周波数において被試験物体のインピーダンスを測定するための共振条件を提供する請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
気体、流体及び固体の物体の標的とする化学的性質及び物理的性質を非接触的且つ非侵襲的に測定及び分析するためのインピーダンス検知システムであって、
(A)請求項1に記載の少なくとも1つの共振型インピーダンスセンサと、
(B)少なくとも1つの励振コイルに電気的に接続されている、周波数掃引を行う少なくとも1つの交流源と、
(C)前記少なくとも1つの検知コイルと通信する少なくとも1つのデータ処理システムであって、前記検知コイルのLCRパラメータが、所定の周波数において被試験物体のインピーダンスを測定するための共振条件を提供するデータ処理システムと、
(D)前記交流源及び前記データ処理システムと通信する制御システムと
を含むことを特徴とするインピーダンス検知システム。
【請求項5】
検知コイルによって誘導される電磁場が被試験物体を透過することができるように、被試験物体をセンサに近接して配置させる固定具を更に含む請求項4に記載のインピーダンス検知システム。
【請求項6】
共振型インピーダンスセンサによって物体の化学的性質及び物理的性質を測定する方法であって、
(A)前記センサの自己共振周波数及び振幅を測定する工程と、
(B)少なくとも1つのアナライトを含む被試験物体を配置する工程と、
(C)前記物体の存在下で前記センサの共振周波数及び振幅を測定する工程と、
(D)前記センサと前記物体との間の電磁相互作用によって誘導される振幅及び共振周波数の変化を計算して、前記被試験物体のインピーダンスを求める工程と、
(E)前記インピーダンスを所定の較正データと整合させて、前記被試験物体の化学的性質及び物理的性質を求める工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
センサが、請求項1に記載のセンサである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
データ処理システムが、高いインピーダンス入力を有する請求項3に記載のセンサ。
【請求項9】
インピーダンス入力が、10MΩよりも高い請求項8に記載のセンサ。
【請求項10】
交流源が、調整可能な電流出力を有する請求項2に記載のセンサ。
【請求項11】
センサが、円筒形多重コイルインダクタとして形成される請求項1に記載のセンサ。
【請求項12】
円筒形多重コイルインダクタが、強磁性開心を有する請求項11に記載のセンサ。
【請求項13】
強磁性開心が、ハーフポットコアとして形成される請求項12に記載のセンサ。
【請求項14】
円筒形多重コイルインダクタが、調整可能な強磁性開心を有する請求項12に記載のセンサ。
【請求項15】
支持要素を更に含み、コイルが前記支持要素に実装される請求項1に記載のセンサ。
【請求項16】
多重コイルインダクタが、平面状である請求項15に記載のセンサ。
【請求項17】
支持要素が、PCB型又は可撓性の支持要素である請求項15に記載のセンサ。
【請求項18】
支持要素を更に含み、多重コイルインダクタとして形成されるコイルが前記支持要素に実装される請求項11に記載のセンサ。
【請求項19】
支持要素が、低い誘電係数を有する請求項18に記載のセンサ。
【請求項20】
支持要素が、実装された多重コイルインダクタと接触しているフッ素化ポリマーを含む請求項19に記載のセンサ。
【請求項21】
センサの動作周波数を調整する手段を更に含む請求項11に記載のセンサ。
【請求項22】
調整手段が、調整可能なターン間ステップである請求項21に記載のセンサ。
【請求項23】
気体、液体、又はバルク材料の被試験物体を収容するための容器を更に含む請求項4に記載の検知システム。
【請求項24】
少なくとも1つのセンサが、容器を取り囲むようになっており、前記センサが、円筒形多重コイルインダクタとして形成される請求項23に記載の検知システム。
【請求項25】
少なくとも1つのセンサが、容器の外壁又は内壁に実装される請求項23に記載の検知システム。
【請求項26】
パイプ部分を含み、センサが、前記パイプ部分に設置される請求項24又は25に記載の検知システム。
【請求項27】
少なくとも1つのバイパス管又はチャンネル群を更に含み、センサが、前記少なくとも1つのバイパス管又はチャンネル群に設置される請求項24又は25に記載の検知システム。
【請求項28】
測定誤差の補正に使用可能なレファレンス情報を提供するために被試験物体の外側の環境条件を測定する手段を更に含む請求項4に記載の検知システム。
【請求項29】
環境条件を測定する手段が、少なくとも1つの更なるインピーダンスセンサを含む請求項28に記載の検知システム。
【請求項30】
時間に関連するインピーダンスの変化をモニターする工程と、被試験物体の化学的性質及び物理的性質を前記時間に関連するインピーダンスの変化に関連付ける工程とを更に含む請求項7に記載の方法。
【請求項31】
交流源及びデータ処理システムと通信する位相検出機を更に含む請求項1に記載のセンサ。
【請求項32】
請求項23に記載のセンサを提供する工程と、前記センサの共振周波数近傍の固定周波数において振幅及び位相変位を測定する工程とを更に含む請求項6に記載の方法。
【請求項33】
検知システムの感度を高めるために被試験物体に更なる外部影響を与える工程を更に含む請求項7に記載の方法。
【請求項34】
更なる外部影響が、UV、IR、磁場、静電場、及び音波(超音波)からなる群より選択される請求項33に記載の方法。
【請求項35】
検知コイル及び励振コイルが、互いに空間的に分離されている請求項1に記載のセンサ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図22】
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【図1】
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【図6】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2013−512414(P2013−512414A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530993(P2012−530993)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/049824
【国際公開番号】WO2011/038003
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(512073655)
【Fターム(参考)】