説明

固体有機金属化合物の供給方法

【課題】常温で固体の有機金属化合物をより安定した濃度で供給でき、充填した固体有機金属化合物の使用率をより高くすることができる固体有機金属化合物を供給する方法を提供する。
【解決手段】充填容器内に常温で固体の有機金属化合物を充填し、キャリアガスを導入して該有機金属化合物を含有するガスを取り出して固体有機金属化合物を供給する方法において、不活性担体を含有する固体有機金属化合物のペレットを該充填容器内に充填して行うことを特徴とし、使用するペレットは、成形プレート上に設けた複数のペレット形状の凹部に不活性担体および固体有機金属化合物を充填し、固体有機金属化合物を加熱溶融後、冷却固化して予め成形したものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で固体の有機金属化合物の供給方法に関する。詳しくはより安定した濃度で、使用率をより高くすることができる固体有機金属化合物を供給する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリメチルインジウムなどの有機金属化合物は、例えば化合物半導体の原料として有用である。化合物半導体の製造装置には、通常、有機金属化合物を充填した充填容器を所定温度にした冷熱媒体中に配置し、水素などのキャリアガスを容器内の有機金属化合物と接触するように導入し、容器から所定濃度の有機金属化合物を含有するガスを取り出し、供給される。
充填容器としては、通常、ステンレス製で円筒状のものが使用され、熱効率、有機金属化合物の濃度の制御性、使用率などを向上させるために、底部の構造、キャリアガスの導入管、ガスの導出管などに種々特徴を有する充填容器が知られている。また、生産性向上の観点から、より大型の充填容器が使用されるようになってきている。
【0003】
有機金属化合物が常温で固体の場合には、小さな粒状の形として充填容器に充填して、あるいは不活性担体と溶融有機金属化合物を回転させて得られる有機金属化合物を不活性担体に担持させた形として充填して行われる。
【0004】
小さな粒状の形として充填容器に充填した場合には、気化により更に小粒径となって、充填容器の底部に堆積したり、キャリアガスが通過する流路が形成されたりして接触状態を均一に保つことが難しいため、一定濃度の供給ができなくなるという問題を有している。
また、不活性担体に担持させた形として充填した場合には、担持が均一に十分なされないためか、一定濃度の供給が続けられなくなり、使用率が低くなる場合がある。
担持法の例として、充填容器内に50〜80体積%の気孔率を有する充填物を容器容量に対して50〜80体積%を充填し、更に有機金属化合物の粒状の固形物を充填して溶融、回転させて充填容器内で担持させる方法が知られている(特許文献1参照。)。
しかしながら、この方法でも必ずしも十分でなく、常温で固体の有機金属化合物をより安定した濃度で供給でき、充填した固体有機金属化合物の使用率をより高くすることができる固体有機金属化合物の供給方法が望まれている。
【特許文献1】特開平8−299778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、常温で固体の有機金属化合物をより安定した濃度で供給でき、充填した固体有機金属化合物の使用率をより高くすることができる固体有機金属化合物を供給する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、常温で固体の有機金属化合物をより安定した濃度で供給でき、使用率をより高くできる固体有機金属化合物の供給方法について鋭意検討した結果、不活性担体を含有する固体有機金属化合物のペレットを該充填容器内に充填して行うことによって、常温で固体の有機金属化合物をより安定した濃度で供給でき、使用率が高くできることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、充填容器内に常温で固体の有機金属化合物を充填し、キャリアガスを導入して該有機金属化合物を含有するガスを取り出して固体有機金属化合物を供給する方法において、不活性担体を含有する有機金属化合物のペレットを該充填容器内に充填して行うことを特徴とする固体有機金属化合物の供給方法である。
使用するペレットは、成形プレート上に設けた複数のペレット形状の凹部に不活性担体および固体有機金属化合物を充填し、固体有機金属化合物を加熱溶融後、冷却固化して予め成形したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、常温で固体の有機金属化合物をより安定した濃度で供給でき、充填した固体有機金属化合物の使用率をより高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における固体の有機金属化合物は、例えば、気相成長法による化合物半導体の原料などとして有用なものであって、具体的にはトリメチルインジウム、ジメチルクロルインジウム、シクロペンタジエニルインジウム、トリメチルインジウム・トリメチルアルシンアダクト、トリメチルインジウム・トリメチルホスフィンアダクト等のインジウム化合物、エチル沃化亜鉛、エチルシクロペンタジエニル亜鉛、シクロペンタジエニル亜鉛等の亜鉛化合物、メチルジクロルアルミニウム等のアルミニウム化合物、メチルジクロルガリウム、ジメチルクロルガリウム、ジメチルブロモガリウム等のガリウム化合物、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム等が挙げられる。
【0010】
また、不活性担体としては、アルミナ、シリカ、ムライト、グラッシーカーボン、グラファイト、チタン酸カリ、石英、窒化珪素、窒化硼素、炭化珪素等のセラミックス類、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、タングステン等の金属類等が使用される。
担体の形状は特に限定されるものではなく、不定形状、球状、繊維状、網状、コイル状、円柱状、円筒状等各種形状のものが使用される。
担体の表面は、平滑なもの、微細な凹凸を有するもの、あるいは担体自身に多数の気孔(空隙)を有するものが挙げられる。このような担体としてはアルミナボール、ラシヒリング、ヘリパック、ディクソンパッキング、ステンレス焼結エレメント、メタルウール等が挙げられる。
【0011】
ペレットの形状は、特に限定されるものではなく、球体状、半球体状、台形体状、楕円体状、円柱状、角柱状等が挙げられる。
【0012】
不活性担体を含有する有機金属化合物のペレットの大きさは、約3〜20mm、好ましくは約5〜10mmである。この大きさは、ペレットの形状を代表する長さのうち最大の長さを表す。例えば、球体状の場合には直径の長さ、楕円体状の場合には長径の長さ、台形体状の場合には下面の直径または高さのうちで長い方、円柱状の場合には円の直径または柱の長さのうちで長い方である。
【0013】
ペレットは、成形プレート上に設けた複数のペレット形状の凹部に不活性担体および固体有機金属化合物を充填し、固体有機金属化合物を加熱溶融後、冷却固化して成形する。 複数のペレット形状の凹部に、ペレット形状より小さい不活性担体を充填し、次いで固体有機金属化合物の小さい粒体または粉砕体を充填する。この際に固体有機金属化合物を充填した後に不活性担体を充填しても良い。
不活性担体および固体有機金属化合物を充填した上に上蓋を配置し、押し付けて固定する。固定はクランプ等によって行う。
また、凹部に不活性担体および固体有機金属化合物を充填した成形プレートと凹部に固体有機金属化合物を充填した成形プレートを、互いに凹部位置が合致するように重ね合わせ、固定しても良い。
次に不活性担体および固体有機金属化合物を充填し、その上に上蓋をした成形プレートを加熱、冷却用容器に入れ、容器を密閉する。
【0014】
成形プレートの凹部への不活性担体および固体有機金属化合物の充填から、成形プレートを加熱、冷却用容器に入れ、密閉するまでは、例えば、グローブボックス内などで、窒素、アルゴン、ネオンなどの不活性ガス雰囲気下にて行い、固体有機金属化合物が酸素や水分に触れるのを防止する。
雰囲気内の酸素濃度は、約1ppm(容積)以下、好ましくは約0.1ppm(容積)以下とし、酸素濃度を酸素計で常時監視しておくのが望ましい。酸素計は市販のものが使用できる。
なお、不活性担体や使用する機器、工具などは、酸素や湿分、その他の揮発性不純物を十分に除去しておくことが重要であり、許容される範囲の温度で加熱しつつ真空脱気を行い、然る後に窒素やアルゴン等の不活性ガスで空隙部を置換しておくことが望ましい。
【0015】
成形プレートを入れて密封した加熱、冷却用容器を加熱炉に入れ、内部の固体有機金属化合物を加熱して溶融させる。加熱炉の温度は、有機金属化合物の融点以上、通常、融点より約10〜25℃、好ましくは約15〜20℃とし、この温度で、約1〜5時間、好ましくは約2〜3時間保持し、有機金属化合物を完全に溶融させ、不活性担体に密着させると共にペレットの形状を形成させる。
次いで固体有機金属化合物が入った加熱、冷却用容器を加熱炉から取り出し、冷却媒体(通常、水が使用される)に浸し、内部の固体有機金属化合物を冷却、固化させる。
【0016】
その後、固体有機金属化合物が入った加熱、冷却用容器を、グローブボックス内などの不活性ガス雰囲気中に入れ、加熱、冷却用容器から成形プレートを取り出し、上蓋を取り外し、成形プレートを振動させるなどして、凹部から不活性担体を含有する固体有機金属化合物のペレットを取り出す。得られた不活性担体を含有する固体有機金属化合物のペレットは、通常、保管容器に入れ保管しておく。
【0017】
予め成形した不活性担体を含有する固体有機金属化合物のペレットを充填容器に充填し、キャリアガスを導入し、容器から所定濃度の有機金属化合物を含有するガスを取り出し、供給される。
【0018】
図1にペレットを充填した充填容器の一例の断面模式図を示す。
充填容器1は通常、湾曲状の底部を有する円筒状のものが用いられる。充填容器1の上部にキャリアガス導入管2およびキャリアガス導出管3が取り付けられており、キャリアガス導入管の先端部6が水平方向に対して斜め下方に約20〜50°、好ましくは約25〜45°傾斜して配設されている。キャリアガス導出管の先端部7は充填容器の底部に配設されている。充填容器内には、不活性担体を含有する固体有機金属化合物のペレット5が、ペレット充填口4から充填されている。
【0019】
キャリアガス導入管2およびキャリアガス導出管3は、図1では容器の上部に取り付けられているが、キャリアガス導入管の先端部6が容器の上部に、キャリアガス導出管の先端部7が容器の底部に配設されれば、容器の側部でも構わない。
キャリアガス導入管の先端部6は、水平方向に対して斜め下方に約20〜50°傾斜していると共に、容器の中心軸から離れた位置から容器の側壁に対して傾斜して配設されていることが好ましい。
【0020】
不活性担体を含有する固体有機金属化合物のペレット5の充填容器1への充填量は、通常、キャリアガス導入管の先端部より下部を目処とするが、充填容器の約50〜90容積%程度である。
【0021】
底部が湾曲状の充填容器を示したが、特にこれに限られるものではなく、円錐状等の充填容器も使用可能である。製作の簡易さおよび一定濃度のガスを安定にしかも高効率で供給できる点から、湾曲状の底部を有する充填容器が好ましく用いられる。
充填容器の底部とキャリアガス導出管の先端部7との間隔は約2〜15mm、好ましくは約2〜10mm、さらに好ましくは2〜5mmである。約15mmより大きくなると有機金属化合物の使用率が低下するので好ましくない。
【0022】
不活性担体を含有する固体有機金属化合物のペレット5が充填された充填容器1は使用場所に搬送され、キャリアガス導出管3が気相成長装置等(図示していない)に接続され、また、キャリアガス導入管2が流量計(図示していない)を介して水素ガス等のキャリアガスの供給源に接続される。
充填容器を熱媒体等によって一定温度に保持し、一定流量のキャリアガスを供給し、固体有機金属化合物のペレットの間隙をぬいながら充填容器の上部から下部にキャリアガスを移行せしめることによって、該温度での一定濃度の有機金属化合物を含むキャリアガスが、キャリアガス導出管3を経て気相成長装置等に供給される。
上記した本発明の方法よって、常温で固体の有機金属化合物でより安定した濃度で供給でき、充填した固体有機金属化合物の使用率がより高くすることができる。本発明の方法は、大型容器でも有効である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
実施例1
(ペレットの作製)
台形体状(上面(プレート表面):5mmφ、下面(プレート内部):4mmφ、高さ:5mm)の凹部を349個所有する外径150mmφ×厚さ8mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の成形プレートを用い、それぞれの凹部にディクソンパッキング(3mmφ×3mm、0.022g/個)を入れ、次に固体のトリメチルインジウム(以下、TMIと称することがある。)を粉砕して得た粉砕体を平均で0.158gを満遍なく充填した。その上に外径144mmφ×厚さ3mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の上蓋をし、加熱、冷却用容器(ステンレス製)に入れ、容器を密閉した。
【0025】
次に、加熱、冷却用容器を加熱炉に入れ、加熱温度を106℃に設定し、昇温を開始した。設定温度に到達後、約2.5時間保持し、TMIを完全に溶融させ、ディクソンパッキングの内部に侵入させると共に密着させた。加熱、冷却用容器を加熱炉から取り出し、水に浸漬し、約2時間かけて室温まで冷却し、内部のTMIを冷却、固化させた。
【0026】
加熱、冷却用容器から成形プレートを取り出し、上蓋を外し、成形プレートに振動を加えて、凹部から成形されたTMIペレットの離型を行った。得られたTMIペレットを保管容器に入れた。
【0027】
なお、TMIを含有する加熱、冷却用容器の加熱、冷却操作以外は、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。グローブボックス内を真空、アルゴンガス置換を繰り返し、酸素濃度を1ppm(容積)以下とし、常時アルゴンガスを流しながら操作を行った。
また、ディクソンパッキング、成形プレート、上蓋、加熱、冷却用容器、保管容器等の使用する機器類などは、酸素や湿分などを十分に除去しておくために、加熱しつつ真空脱気を行い、アルゴンで空隙部を置換しておいて使用した。
【0028】
(TMIの供給)
アルゴンガス置換したグローブボックス内で、図1に示す充填容器と同様の充填容器(外径:60.5mm、高さ:120mm、容積:230ml、キャリアガス導入管の先端部の傾斜角度:中心軸方向に50°)に、成形して得られた上記のTMIペレット103.8g(TMI含量:88.4g)を入れた。
グローブボックスから充填容器を取り出し、水素ボンベ、流量制御装置を順にキャリアガス導入管側に、キャリアガス導出管側に順にガス濃度計、TMI捕集用深冷トラップ、圧力制御装置および真空ポンプを接続した。
充填容器を恒温槽に入れ、25℃に保持した。ガス濃度計としてエピソン濃度計(トー
マス スワン サイエンティフィック イクイップメント社製)を用いた。
【0029】
キャリアガスとして水素ボンベから水素ガスを略一定の約400ml/分(大気圧換算)で供給し、TMIを気化させ、ガス濃度計で水素ガス中のTMI濃度を定期的に測定した。水素ガス流量およびTMI濃度から、TMIの使用率(%)を求めた。結果を図2に示す。
TMI濃度が低下することなく略一定の0.234容積%で使用率が約85%まで供給することができた。
【0030】
比較例1
アルゴンガス置換したグローブボックス内で、実施例1で用いたものと同様の充填容器に、不活性担体として4mmφのアルミナボール(株式会社 フジミ イン コーポレーテッド製)120.2gとTMIの粉砕体86.1gを充填した。
この充填容器を加熱オーブン内で水平にし、回転させながら加熱し、106℃にした。この温度で約2時間保持した後、加熱を停止し、そのまま回転させながら徐々に冷却し、約5時間かけて室温まで冷却し、TMIをアルミナボールの表面に固化、担持させた。
【0031】
このアルミナボールに担持したTMIを含有する充填容器に、実施例1と同様に、水素ボンベ、流量制御装置を順にキャリアガス導入管側に、キャリアガス導出管側に順にガス濃度計、TMI捕集用深冷トラップ、圧力制御装置および真空ポンプを接続し、水素ガスを略一定の約400ml/分(大気圧換算)で供給し、TMIを気化させ、ガス濃度計で水素ガス中のTMI濃度を定期的に測定した。結果を図2に示す。
僅かづつであるが、TMI濃度が低下してゆき、使用率約80%から急激に低下している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ペレットを充填した充填容器の一例の断面模式図である。
【図2】実施例1、比較例1における結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 充填容器
2 キャリアガス導入管
3 キャリアガス導出管
4 ペレット充填口
5 ペレット
6 キャリアガス導入管の先端部
7 キャリアガス導出管の先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填容器内に常温で固体の有機金属化合物を充填し、キャリアガスを導入して該有機金属化合物を含有するガスを取り出して固体有機金属化合物を供給する方法において、不活性担体を含有する固体有機金属化合物のペレットを該充填容器内に充填して行うことを特徴とする固体有機金属化合物の供給方法。
【請求項2】
該ペレットが、成形プレート上に設けた複数のペレット形状の凹部に不活性担体および固体有機金属化合物を充填し、固体有機金属化合物を加熱溶融後、冷却固化して予め成形したものであることを特徴とする請求項1記載の固体有機金属化合物の供給方法。
【請求項3】
ペレットの大きさが、ペレットの形状を代表する長さのうち最大の長さで表して3〜20mmであることを特徴とする請求項1記載の固体有機金属化合物の供給方法。
【請求項4】
固体有機金属化合物がトリメチルインジウムであることを特徴とする請求項1記載の固体有機金属化合物の供給方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−111147(P2008−111147A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293711(P2006−293711)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】