説明

固体電解質

【課題】より高いイオン伝導度を発揮できる材料を提供する。
【解決手段】化学式(RM)(QO(ただし、RはZr及びHfの少なくとも1種、MはMg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種、QはW及びMoの少なくとも1種を示す。)で表される結晶体から実質的に構成される固体電解質に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池、ガスセンサー、イオン濃度センサーなどの電気化学デバイスに利用可能な固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性のポリマー又は酸素イオン伝導体(ZrO、CeOなど)の固体電解質は、電池、ガスセンサー、イオン濃度センサーなどの電気化学デバイスへの利用を目的として古くから行われている。近年、燃料電池用にプロトン伝導体や酸素イオン伝導体が多数研究されているが、高い酸素イオン伝導度を有するペロブカイト型酸化物(LaGaO、LaSrGaCoOなど)が開示され注目されている。(特許文献1、2)
酸素イオン以外の固体電解質では、1価の金属イオンを稼動種とする固体電解質が一般に高いイオン伝導性を有し、ナトリウムイオン伝導体であるベータアルミナやリチウムイオン伝導性の硫化物ガラスなどが開示されている。(特許文献3、4)
近年、3価又は4価の金属イオンの固体電解質としてタングステン酸複合酸化物、リン酸複合酸化物が種々開示されている。(特許文献5、6、 非特許文献1、2)これらのうちA(WO、A(MoO(Aは3価の金属元素)で示される固体電解質は、3価の金属イオン伝導体として詳細な特性が開示されている。
【0003】
これらの固体電解質は多価イオン伝導体であり高密度の電荷移動が可能であることから、電気化学デバイスへの応用が期待されており、一部ガスセンサーや固体二次電池へ応用についても開示されている。(特許文献7、8)
また、化学式(R4+2+)(QO(ただし、RはZr、Hfまたはこれらの混合系で示される4価の金属元素、MはMg、Ca、Sr、Ba、Raまたはこれらの混合系で示される二価金属元素、QはW、Moから選択される6価の金属元素またはこれらの混合系で示される金属元素)で示されるタングステン酸化物が負の熱膨張材料として開示されている。(特許文献9)
特許文献10には、リン酸マグネシウムジルコニウム多結晶体にリン酸酸化ジルコニウムを分散させて得られた固体電解質コンポジット試料が、高い2価のマグネシウムイオン伝導を示すことが開示されている。
【0004】
特許文献11には、Mg1−2x(Zr1−xNb24からなり、2価カチオンであるMg2+を伝導種とする固体電解質が開示されている。
【0005】
特許文献12、13、および14には、セラミックからなる固体電解質が開示されている。
【特許文献1】特開2000−113898号公報
【特許文献2】特開平11−335164号公報
【特許文献3】特公平7−106938号公報
【特許文献4】特許第3433173号公報
【特許文献5】特開平7−249416号公報
【特許文献6】特開平11−203935号公報
【特許文献7】特開2001−174433号公報
【特許文献8】特開平10−255822号公報
【特許文献9】特開2003−324423号公報
【特許文献10】特開2000−082327号公報
【特許文献11】特開2001−076533号公報
【特許文献12】特開昭59−182271号公報
【特許文献13】特開昭55−071670号公報
【特許文献14】特開昭55−071669号公報
【非特許文献1】Chem. Mater. , Vol. 12, No. 7, 2000
【非特許文献2】Solid State Communications, 123 (2002) 411-415
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(WO、A(MoO(Aは3価の金属元素)で示されるタングステン酸複合酸化物は3価の金属イオン(A3+)が移動するため高密度に電荷の移動が可能である。
【0007】
しかしながら、イオン伝導は固体電解質中で結晶の格子点や格子間をイオンが移動する現象であって、3価の金属イオンは結晶格子を形成するイオンとの結合が強く、高いイオン伝導度が得られないという問題がある。
【0008】
また、いずれの文献も、Mg2+に代表される2価カチオンが伝導するタングステン酸塩からなる固体電解質を開示していない。
【0009】
従って、本発明の主な目的は、より高いイオン伝導度を発揮できる材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記の従来技術の問題点に鑑みて研究を重ねた結果、特定の組成を有する材料が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の固体電解質に係る。
1. 化学式(RM)(QO(ただし、RはZr及びHfの少なくとも1種、MはMg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種、QはW及びMoの少なくとも1種を示す。)で表される結晶体から実質的に構成される固体電解質。
2. Mが、少なくともMgを含む、前記項1に記載の固体電解質。
3. Mが、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種とMgとの混合系である、前記項1に記載の固体電解質。
4. 結晶体の結晶系が斜方晶系である、前記項1に記載の固体電解質。
5. 600℃における導電率が、8×10−5Ω−1・cm−1以上である、前記項1に記載の固体電解質。
6. 1)アノード、2)カソード及び3)前記アノードと前記カソードに挟まれた固体電解質を含む積層体であって、前記固体電解質が前記項1に記載の固体電解質であることを特徴とする積層体。
7. 前記アノードが、a)Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属又はb)これら二価金属の少なくとも1種を含む合金である、前記項6に記載の積層体。
8. 前記カソードが、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属の少なくとも1種を含む合金である、前記項6に記載の積層体。
9. Mが、少なくともMgを含む、前記項6に記載の積層体。
10. Mが、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種とMgとの混合系である、前記項6に記載の積層体。
11. 結晶体の結晶系が斜方晶系である、前記項6に記載の積層体。
12. 固体電解質の600℃における導電率が、8×10−5Ω−1・cm−1以上である、前記項6に記載の積層体。
13. 1)アノード、2)カソード及び3)前記アノードと前記カソードに挟まれた固体電解質を含む積層体を有し、前記固体電解質が前記項1に記載の固体電解質であることを特徴とする二次電池。
14. 前記アノードが、a)Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属又はb)これら二価金属の少なくとも1種を含む合金である、前記項13に記載の二次電池。
15. 前記カソードが、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属の少なくとも1種を含む合金である、前記項13に記載の二次電池。
16. Mが、少なくともMgを含む、前記項13に記載の二次電池。
17. Mが、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種とMgとの混合系である、前記項13に記載の二次電池。
18. 結晶体の結晶系が斜方晶系である、前記項13に記載の二次電池。
19. 固体電解質の600℃における導電率が、8×10−5Ω−1・cm−1以上である、前記項13に記載の二次電池。
20. (a)前記アノードが、a)Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属又はb)これら二価金属の少なくとも1種を含む合金であり、(b)前記カソードが、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属の少なくとも1種を含む合金であって、(c)前記アノードと前記カソードにおける二価金属の含有量に差が設けられている、前記項13に記載の二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高いイオン伝導度と多価イオンの高密度な電荷移動との両立を図ることが可能である。これにより、電池、ガスセンサー、イオン濃度センサーなどの電気化学デバイスに好適な固体電解質を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
固体電解質
本発明の固体電解質は、化学式(RM)(QO(ただし、RはZr及びHfの少なくとも1種、MはMg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種、QはW及びMoの少なくとも1種を示す。)で表される結晶体から実質的に構成されることを特徴とする。
【0014】
Rは4価の金属であり、Mは2価の金属である。固体電解質中では、MとしてM2+が伝導する。
【0015】
上記Rは、Zr及びHfの少なくとも1種の4価の金属元素(すなわち、 R(IV))である。また、上記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の2価の金属元素(すなわち、M(II) )である。Qは、W及びMoの少なくとも1種の6価の金属元素(すなわち、Q(VI))である。これらは、本発明材料の用途、使用方法等に応じて適宜組み合わせることができる。
【0016】
より具体的には、例えば(HfMg)(WO、(ZrMg)(WO、(HfCa)(WO、(ZrCa)(WO、(HfMg)(MoO、(ZrMg)(MoO、(ZrHf1−xMg)(WO(0<x<1)、(ZrHf1−xCa)(WO(0<x<1)、(ZrMgCa1−x)(WO(0<x<1)、(HfMgCa1−x)(WO(0<x<1)、(HfMg)(WMo1−y(0<y<1)、(ZrMg)(WMo1−y(0<y<1)、などが挙げられる。上記化学式で示される複合酸化物であれば、これらの複合酸化物に限定されない。
【0017】
本発明では、このうち、2価の金属としてはイオン半径が最も小さいマグネシウムを用いるとより高いイオン伝導が得られるので好ましい。すなわち、少なくともMgを含むことが好ましい。
【0018】
本発明の固体電解質は、実質的に上記組成をもつ結晶体から構成される。従って、本発明の所定の効果が妨げられない限り、少量の非晶質、不純物等が含まれていても良い。本発明の結晶体は、基本的には多結晶体である。また、上記結晶体の結晶系は、特に斜方晶系であることが望ましい。かかる結晶構造をとることにより、よりいっそう優れたイオン伝導性を発揮することができる。
【0019】
本発明に係る結晶体の平均結晶粒径は、本発明材料の用途、使用目的等に応じて決定できるが、通常は2〜10μm程度の範囲内とすれば良い。
【0020】
本発明の固体電解質の導電率(600℃)は、所定の目的、物性等に応じて組成を代えることにより適宜設定することができるが、通常は8×10−5Ω−1・cm−1以上、好ましくは1×10−4Ω−1・cm−1以上、より好ましくは5×10−4Ω−1・cm−1以上という導電率を発揮することができる。
【0021】
固体電解質の製造方法
本発明の固体電解質は、上記のような組成もつ結晶体が得られる限りは、液相法、気相法又は固相法で製造しても良い。固相法としては固相反応法;液相法としては共沈法、ゾルゲル法、水熱反応法;気相法としてはスパッタリング法、CVD法等;がそれぞれ適用できる。
【0022】
より具体的には、本発明の固体電解質は、例えば次のような固相法で好適に製造できる。一般的な混合酸化物は、原料である金属酸化物をボールミルなどの装置を用いて混合粉砕又は混錬した後、仮焼、粗粉砕、成型及び焼成の順で作製することができる。基本的には、本発明材料もこれら一般的な製造方法により作製可能である。この場合、混合粉砕工程で十分に微粒子化を行えば、仮焼せずに所望の材料を作製することも可能である。
【0023】
出発原料としては、各元素R、M及びQそのものを使用できるほか、これらの供給源となり得る化合物(R、M及びQの少なくとも1種を含む化合物)をそれぞれ用いることができる。上記化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、シュウ酸塩、金属アルコキシド、金属アセチルアセトナート、酢酸金属塩、メタクリル酸金属塩、アクリル酸金属塩等が挙げられる。また、これらの元素を2つ以上含む化合物を使用することもできる。
【0024】
Rの化合物としては、例えば酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム等を用いることができる。
【0025】
Mの化合物としては、例えば酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0026】
Qの化合物としては、例えば酸化タングステン、酸化モリブデンなどを用いることができる。
【0027】
上記元素を2つ以上含む化合物としては、例えばMgWO、CaWO、SrWO、HfW、ZrW等を挙げることができる。
【0028】
本発明では、これらの出発原料のほか、通常の焼結体の製造に使用される添加剤(バインダー、焼結助剤等)を必要に応じて配合することもできる。
【0029】
さらに、ち密性の向上、材料物性の再現性向上等を目的として、各種の添加剤を用いることも可能である。添加剤としては、Mg、Ca、Ba、Al、Y、Sc、Lu、Zr、Hf、W、Mo、Fe、Mn、Ni、Siの酸化物又は化合物を用いることができる。より具体的には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化鉄、二酸化マンガン、二酸化珪素、酸化ニッケル、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タングステンなどの酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩などを用いることができる。これら添加剤は、複数を組み合わせて用いても良い。これらの添加剤は、主原料となる前記の酸化物100重量%に対して5重量%以下の添加量で用いるのが好ましく、0.1〜2重量%の添加量が特に好ましい。添加量が少ないと効果が十分に得られず、添加量が5%以上になると融点降下によって融解したり、主原料の一部もしくは主原料そのものと反応したりして、イオン伝導特性に影響するおそれがある。
【0030】
これらの出発原料を本発明材料の組成となるように秤量し、これらを混合する。混合方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、ライカイ機、ボールミル、遊星ミル、媒体ミル(例えばアトライター、振動ミル)等の混合粉砕できる装置を用いて好適に実施することができる。混合粉砕は、湿式又は乾式のいずれであっても良い。混合粉末の平均粒径は、一般的には約0.1〜2μmの範囲内に制御すれば良い。
【0031】
得られた混合粉末は、必要に応じて仮焼することもできる。仮焼条件は、一般的には酸化性雰囲気又は大気中で650〜1000℃程度とすれば良い。仮焼時間は、仮焼温度等に応じて適宜決定することができる。
【0032】
次いで、上記の混合粉末を成形する。成形方法は限定的でなく、例えば加圧成型、鋳込み成形、ドクタブレード法、押し出し成形等のいずれであっても良い。また、各種シート塗布装置を用いたグリーンシートを用いる方法も採用することができる。本発明では、いずれの成形方法でも同様の効果が得られる。成形体の密度は、特に限定されず、所望の特性等に応じて適宜設定すれば良い。
【0033】
次に、成形体の焼成を行う。焼成温度は、本発明の固体電解質の組成等に応じて650〜1300℃の範囲内で適宜設定することができる。例えば、タングステン複合酸化物は900℃〜1100℃が好ましく、モリブデン酸化物は700℃〜900℃が好ましい。焼成温度が低すぎる場合には、酸化物の反応が十分でなく、所望の化合物を得られなくなるおそれがある。また、焼成温度が高すぎる場合には、化合物が溶融したり、化合物中の酸化タングステンや酸化モリブデンが昇華したりする傾向が見られる。焼成雰囲気は、一般的には酸化性雰囲気又は大気中とすれば良い。焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜設定することができる。
【0034】
積層体
本発明は、1)アノード、2)カソード及び3)前記アノードと前記カソードに挟まれた固体電解質を含む積層体であって、前記固体電解質が本発明の固体電解質であることを特徴とする積層体を包含する。
【0035】
上記積層体の実施の形態を図1に示す。図1に示すように、本発明の固体電解質が電極(アノード2)と電極(カソード3)に挟まれた構成をとり、電極間に電圧を印加することによりイオン伝導が発現する。これらの電極は、導電性を有する材料であれば限定されない。特に、金属電極は高い伝導度を有するので好適に用いることができる。金属電極としては、例えばAu、Pt、Al、Ag、Cu、Mg、Ni、Ti、Fe等の通常用いられる金属又はこれらの少なくとも1種を含む合金からなる電極材料を採用することができる。
【0036】
本発明の(R4+2+)(QOを固体電解質として用いる場合、結晶格子中を移動する金属イオンの種類によってアノード2の材料を選択することが好ましい。アノード2の近傍では、電解質中のM2+イオンがカソード3へ移動するので固体電解質中のM2+が減少し、固体電解質の結晶構造及びイオン伝導度が徐々に変化する。このとき、アノード2としてM(金属)又はMを含む合金を用いると、アノード2近傍でMが電子を放出しM2+が生成され、固体電解質へM2+を取り込むことができるので、固体電解質の変化を効果的に防ぐことができる。アノード2の材料としてMg、Ca、Sr、Ba、Raのうちから選択される少なくとも1種の金属又はこれらのうちから選択される少なくとも1種の金属を含む合金を用いことが望ましい。前記合金としては、Au−Mg合金、Ca−Mg合金、Mg−Ni合金、Ca−Ni合金、Mg−Zn合金、Al−Mg合金等の少なくとも1種を挙げることができる。ここで示した金属又は合金のうち、Mg以外の金属は大気中の水と反応して水酸化物又は酸化物を形成しやすいので、電極としては、Mg又はMgを含む合金を用いることがより好ましい。
【0037】
カソード3近傍では、M2+が電子を受け取って、Mが析出又はカソード3に使用した金属との合金を形成する。カソード3は、固体電解質への影響がなく、本実施の形態において特に限定されない。例えば、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属の少なくとも1種を含む合金をカソードとして好適に用いることができる。
【0038】
電極(アノード及びカソード)の形成方法は、固体電解質を挟む構成となるようにすれば良く、特に限定されない。特に、1)Pt、Au、Ag等のペーストを用いる塗膜形成方法、2)スパッタ、蒸着等の気相法によれば、固体電解質と電極間で十分な電気的接触を確保することができるので、これらの方法を好ましく採用することができる。
【0039】
二次電池
本発明は、さらに、1)アノード、2)カソード及び3)前記アノードと前記カソードに挟まれた固体電解質を含む積層体を1又は2以上有し、前記固体電解質が本発明の固体電解質であることを特徴とする二次電池を包含する。
【0040】
積層体としては、前記で示した積層体を用いることができる。本発明の二次電池では、この積層体を単位セルとして複数個設置することもできる。なお、その他の構成要素については、公知の二次電池と同様にすることができる。
【0041】
本発明の二次電池としては、例えばアノード及びカソードとして2価の金属イオンの濃度差を設けるような材料(電極)をそれぞれ選択することにより、容易に濃淡電池を形成することができる。すなわち、(a)前記アノードが、a)Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属又はb)これら二価金属の少なくとも1種を含む合金であり、(b)前記カソードが、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属の少なくとも1種を含む合金であって、(c)前記アノードと前記カソードにおける二価金属の含有量に差が設けられている二次電池を好適に用いることができる。上記の濃度差は、所望の起電力等に応じて適宜設定すれば良い。

次に、図2を用いて濃淡電池の説明する。図2では、固体電解質1がアノード2及びカソード3に挟持されている。アノード2及びカソード3は、負荷を介して電気的に接続されている。例えば、固体電解質1として(HfMg)(WOを用い、アノード2としてMg含有量の多い金属Au−Mg合金、カソード3としてMg含有量の少ないAu−Mg合金を用いると、アノード2とカソード3との間でMgの濃度差をつくりだすことができ、ネルンストの式によってアノード2とカソード3との間のMg濃度の差から起電力が発生する。本実施の形態に示した濃淡電池は、逆電圧を印加することにより前記(図1)で示した形態で再度Mg濃度差を設けることができ、電池として充電が可能であるため、本実施の形態の固体電池は二次電池として応用することができる。なお、電極材料としてはMgと合金を形成する金属材料であれば、アノード2とカソード3との間に容易に濃度差を設けることができるので、好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例の範囲に限定されない。
【0043】
(実施例1)
(HfMg)(WO43を作製し、700℃までのイオン伝導度の測定を行った。
【0044】
出発原料として、HfO(関東化学製、純度99.5%)とMgO(キシダ化学製)とWO(高純度化学製、純度4N)をモル比1:1:3で正確に秤量し、純水を溶媒とした湿式ボールミルにより144hの混合粉砕を行った。一昼夜乾燥して水分を除いた後、得られた原料紛を1050℃で仮焼成を行い、仮焼成粉を作製した。ライカイキによる粗粉砕を行った後、加圧成型して、1100℃4時間の本焼成を行った。試料は4つ作製し、うち1つは粉砕して粉末X線回折を用いて、(HfMg)(WOが合成されていることを確認した。
【0045】
イオン伝導度測定用の試料は焼成後□5mm×高さ10mmになるように成型し焼成した。電極は金ペースト(田中貴金属製)を塗布乾燥後700℃で焼付けを行って形成した。
【0046】
イオン伝導度は交流インピーダンス法を用いて測定を行い、大気中で300℃から700℃までの導電率を算出した。
【0047】
比較例としてAl(WOのイオン伝導度を測定した。出発原料として、Al(OH)(関東化学製、純度99.5%)とWO3(高純度化学製、純度4N)をモル比2:3で秤量し、(実施例1)と同様に湿式ボールミル、乾燥を行った後、900℃で仮焼成を行い、ライカイキによる粗粉砕を行って仮焼成粉を作製した。仮焼成粉を加圧成型して、1100℃4時間の本焼成を行って試料とした。実施例1と同様に粉砕して粉末X線回折により、結晶系を確認した。
【0048】
比較例のAl(WOの試料も焼成後□5mm×高さ10mmになるように作製し、金ペースト(田中貴金属製)により焼付け電極を形成した。
【0049】
結果を図3及び表1に示す。なお、表1には後述する実施例2〜実施例4の結果も併せて示す。
【0050】
【表1】

【0051】
600℃での導電率は、(HfMg)(WOが3〜10×10−4Ω−1・cm−1、Al(WOは4×10−6Ω−1・cm−1であり、2桁程度高い導電率が得られた。Al3+のイオン半径は0.5Å、Mg2+のイオン半径は0.7Åであり、Al3+の方が小さいイオン半径であるにもかかわらず、(HfMg)(WOの方が高い導電率が得られている。これは3価のイオンの方が結晶格子間の結合が強くイオンが動きにくいためで本発明の固体電解質は、良好なイオン伝導率を有することがわかった。
【0052】
一般に、無機の固体電解質では、可動イオンより価数の大きいイオンが格子中に存在すると可動イオンの伝導度に対して良い影響を与えると言われている。本発明の固体電解質は、結晶格子中に4価のイオン(Hf4+)が存在しており、WO2−正四面体と強いイオン結合をすることで2価イオンの伝導率に対してより動きやすい結晶状態を形成していると推測している。
【0053】
Mg2+イオンが移動していることを確認するために実施例1と同様に作製した試料を2つ準備し、1つはそのまま断面の元素分析を行った。他方の試料は600℃で直流電圧10Vを10h通電し、断面の元素分析を行った。結果を表2に示す。Mg/Hfの比について、電圧印加側の電極と0V側の電極の近傍で比較したところ、通電後の試料では、通電前の試料と比較して両電極間にMgの濃度差ができていることがわかった。電圧印加側の電極の近傍では、明らかにMg/Hfの比が小さくなっており、固体電解質中のMgが直流電圧の印加によって移動したことがわかった。この結果、本発明の固体電解質はMg2+イオンが可動イオンであることが確認された。
【0054】
【表2】

【0055】
(実施例2)
(ZrMg)(WOを作製し、700℃までのイオン伝導度の測定を行った。
【0056】
出発原料として、ZrO(第一稀元素化学工業製、純度99.5%)とMgO(キシダ化学製)とWO(高純度化学製、純度4N)をモル比1:1:3で正確に秤量し、純水を溶媒とした湿式ボールミルにより144hの混合粉砕を行った。一昼夜乾燥して水分を除いた後、得られた原料紛を1000℃で仮焼成を行い、仮焼成粉を作製した。ライカイキによる粗粉砕を行った後、加圧成型して、1050℃4時間の本焼成を行った。試料は2つ作製し、うち1つは粉砕して粉末X線回折により、(ZrMg)(WOが合成されていることを確認した。
【0057】
イオン伝導度測定用の試料は焼成後□5mm×高さ10mmになるように作製した。実施例1と同様に金ペースト(田中貴金属製)により焼付け電極を形成した。
【0058】
イオン伝導度は交流インピーダンス法を用いて測定を行い、大気中で300℃から700℃までの導電率を算出した。その結果を実施例3とともに、図4及び表1に示す。これらの結果からも明らかなように、実施例2においても、比較例より2桁以上高い導電率が得られた。
【0059】
(実施例3)
[(Hf0.5Zr0.5)Mg](WOを作製し、700℃までのイオン伝導度の測定を行った。
【0060】
出発原料として、HfO(関東化学製、純度99.5%)とZrO(第一稀元素化学工業製、純度99.5%)とMgO(キシダ化学製)とWO(高純度化学製、純度4N)をモル比1:1:2:6で正確に秤量し、実施例1と同様に湿式ボールミル、乾燥を行った後、900℃で仮焼成を行い、ライカイキによる粗粉砕を行って仮焼成粉を作製した。仮焼成粉を加圧成型して、1100℃4時間の本焼成を行って試料とした。実施例1と同様に、粉砕して粉末X線回折により、結晶系を確認した。
【0061】
イオン伝導度測定用の試料は焼成後□5mm×高さ10mmになるように作製した。実施例1と同様に金ペースト(田中貴金属製)により焼付け電極を形成した。
【0062】
イオン伝導度は交流インピーダンス法を用いて測定を行い、大気中で300℃から700℃までの導電率を算出した。その結果を実施例2とともに、図4及び表1に示す。これらの結果からも明らかなように、比較例よりも、2桁程度の高い導電率が得られた。
【0063】
(実施例4)
実施例4では、次に示す本発明の材料を作製し、600℃での導電率を測定した結果を示す。
【0064】
[Zr(Mg0.5Ca0.5)](WO、[Hf(Mg0.7Sr0.3)](WO、[Zr(Mg0.7Ba0.3)](WO、[Hf(Mg0.5Ca0.3Sr0.5)](WOで示されるタングステン酸化物と、(ZrMg)(MoO、[Hf(Mg0.8Ca0.2)](MoOで示されるモリブデン酸化物、さらに(HfMg)[(WO0.5(MoO0.5で示されるタングステンモリブデン複合酸化物を測定試料とした。
【0065】
HfO、ZrO、MgO、CaCO、SrCO、BaCO、WO、MoOを出発原料として、所望の酸化物が得られるようにそれぞれの原料を正確に秤量し、実施例1と同様にボールミル、乾燥、仮焼成、粗粉砕を行って7種類の仮焼成粉を作製した。仮焼成はタングステン酸化物900−1000℃、モリブデン酸化物700−800℃、タングステンモリブデン複合酸化物は850℃でそれぞれ実施し、粉末X線回折を用いて結晶系の確認を行った。
【0066】
イオン伝導度測定用に焼成後□5mm×高さ10mmになるように加圧成型し、本焼成を行い7種類の試料を得た。本焼成温度はタングステン酸化物1050―1100℃、モリブデン酸化物850−900℃、タングステンモリブデン複合酸化物は900℃で実施した。焼成後、実施例1と同様に金ペーストを用いて焼付け電極を形成した。
【0067】
イオン伝導度は交流インピーダンス法を用いて大気中600℃での導電率を算出した。その結果を表1に示す。この結果からも明らかなように、比較例よりも高い導電率が得られた。
【0068】
(実施例5)
濃淡電池の起電力測定
実施例2で作製した(ZrMg)(WOを用い、濃淡電池を作製し、その起電力の測定を行った。
【0069】
電極として、2元スパッタリング装置を使用し、Mg、Auをターゲットとして同時成膜することによりAu−Mg合金電極を形成した。Mg−Auの含有量は、それぞれの成膜速度を変えて制御した。
【0070】
(ZrMg)(WOは、焼成後の寸法がφ20mm、厚さ2mmになるように加圧成型し、本焼成を行った。その後、厚さ0.6mmまで両面を研磨して試料を作製した。アノードはAu10−Mg90(体積比)、カソードはAu90−Mg10(体積比)になるようにスパッタリング装置の成膜速度を制御して、試料の両面に電極を形成した。
【0071】
作製した固体二次電池のアノードカソードに白金線を金ペーストにより焼付け、試料を電気炉に投入した後、電気炉を600℃まで加熱した。白金線により電気炉外でポテンショ/ガルバノスタットを使用して起電力の測定を行った。
【0072】
起電力は測定初期に0.7Vが得られたあと徐々に減少し、数時間後0.1V程度で変化が小さくなりほぼ安定した。
【0073】
電池放電後、600℃を維持したまま、アノード、カソード間に逆電圧5Vを印加した状態で10時間放置し濃淡電池の充電を行った。充電後、再度起電力を測定したところ、0.75Vの起電力が得られ、本発明の固体電池が充放電可能な二次電池であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、高いイオン伝導度と高密度な電荷移動を有する固体電解質が得られ、電池、ガスセンサー、イオン濃度センサーなどの電気化学デバイスに広く応用することが可能となる。
【0075】
図5に固体電解質型ガスセンサーの概略図を示す。COガスと反応する炭酸ナトリウム(NaCO)を補助物質に使った例で、COガスは炭酸ナトリウムと反応して、ガス検知極中のナトリウムイオンの濃度がCO濃度によって変化する。これによりガス検知極と参照極に挟まれて配置された固体電解質中にはナトリウムイオンの濃度分布が発生する。ヒータによりセンサーを加熱することにより、固体電解質中のイオンの移動が可能となるため、ガス検知極、参照極間で濃淡電池が形成され起電力が発生する。この起電力の変化量を検知することにより、CO濃度を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施の形態による固体電解質の導電率測定を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態による固体二次電池を示す図である。
【図3】実施例1の導電率測定結果を示す図である。
【図4】実施例2及び実施例3の導電率測定結果を示す図である。
【図5】固体電解質型COガスセンサーを示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1 本発明の固体電解質
2 アノード
3 カソード
4 ガス検知極
5 金属イオン固体電解質
6 参照極
7 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(RM)(QO(ただし、RはZr及びHfの少なくとも1種、MはMg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種、QはW及びMoの少なくとも1種を示す。)で表される結晶体から実質的に構成される固体電解質。
【請求項2】
Mが、少なくともMgを含む、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
Mが、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種とMgとの混合系である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項4】
結晶体の結晶系が斜方晶系である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項5】
600℃における導電率が、8×10−5Ω−1・cm−1以上である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項6】
1)アノード、2)カソード及び3)前記アノードと前記カソードに挟まれた固体電解質を含む積層体であって、前記固体電解質が請求項1に記載の固体電解質であることを特徴とする積層体。
【請求項7】
前記アノードが、a)Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属又はb)これら二価金属の少なくとも1種を含む合金である、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記カソードが、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属の少なくとも1種を含む合金である、請求項6に記載の積層体。
【請求項9】
Mが、少なくともMgを含む、請求項6に記載の積層体。
【請求項10】
Mが、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種とMgとの混合系である、請求項6に記載の積層体。
【請求項11】
結晶体の結晶系が斜方晶系である、請求項6に記載の積層体。
【請求項12】
固体電解質の600℃における導電率が、8×10−5Ω−1・cm−1以上である、請求項6に記載の積層体。
【請求項13】
1)アノード、2)カソード及び3)前記アノードと前記カソードに挟まれた固体電解質を含む積層体を有し、前記固体電解質が請求項1に記載の固体電解質であることを特徴とする二次電池。
【請求項14】
前記アノードが、a)Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属又はb)これら二価金属の少なくとも1種を含む合金である、請求項13に記載の二次電池。
【請求項15】
前記カソードが、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属の少なくとも1種を含む合金である、請求項13に記載の二次電池。
【請求項16】
Mが、少なくともMgを含む、請求項13に記載の二次電池。
【請求項17】
Mが、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種とMgとの混合系である、請求項13に記載の二次電池。
【請求項18】
結晶体の結晶系が斜方晶系である、請求項13に記載の二次電池。
【請求項19】
固体電解質の600℃における導電率が、8×10−5Ω−1・cm−1以上である、請求項13に記載の二次電池。
【請求項20】
(a)前記アノードが、a)Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属又はb)これら二価金属の少なくとも1種を含む合金であり、(b)前記カソードが、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaの少なくとも1種の二価金属の少なくとも1種を含む合金であって、(c)前記アノードと前記カソードにおける二価金属の含有量に差が設けられている、請求項13に記載の二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−134871(P2006−134871A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292623(P2005−292623)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】