説明

圧力制御装置及び圧力制御方法

【課題】サーボモータにより動力伝達手段を介して作動体を動作させて受圧体に与える力を、ロードセル等を使わずに正確に制御し、機械の構成を簡単にし、信頼性を得る。
【解決手段】サーボモータ11により射出圧力を制御する電動射出成形機1の制御装置15は、電動射出成形機1の制御モデルに対して構築され射出スクリュー5が発生する力を推定するオブザーバ19と、サーボモータ11に対する電流指令値Iとパルスエンコーダ14の回転位置θとによりオブザーバ19が推定した力を入力して射出スクリュー5に作用させる力をフィードバック制御する射出圧力フィードバック制御部20とを備え、オブザーバ19は、電流指令として重畳させた振動に応じて生じる抗力が、機械インピーダンス要素を介して被駆動部に作用する力を外乱として同定した制御モデルに基づいて構成される外乱オブザーバ部を備え、被駆動部に作用する力を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータにより動力伝達手段を介して作動体を動作させて受圧体に力を作用させる機械において、受圧体に作用する力をロードセル等の力検出器を使わずに制御する圧力制御装置及び圧力制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動射出成形機の圧力制御装置として、射出圧力の閉ループ制御部と、射出速度の閉ループ制御部と、外乱オブザーバ演算部と、射出圧力を検出するロードセルと、射出速度を検出するエンコーダとを備え、前記射出圧力の閉ループ制御部で圧力設定値とロードセルで検出された圧力検出値とから得られる動作信号を制御器で調節して射出速度指令値を出力し、この射出速度指令値と外乱オブザーバ演算部で推定した無効速度推定値とから得られる動作信号により、射出軸用の電動モータに入力するトルクを演算して、射出軸の圧力を圧力設定値と一致させるべくフィードバック制御するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、ロードセルは、電動モータから射出スクリューに至る射出軸系において機械に組み込むための構造が複雑になると共に、検出器自体が高価であるうえに、歪みゲージを検出部に貼り付ける構造のために、検出器不良が発生するおそれがある。
【0003】
そこで、ロードセルに係る問題を回避するために、ロードセルを必要としないオブザーバを構成することにより、ロードセル(力覚センサ)を用いずに圧力制御を行うようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、電動射出成形機では、射出して金型を充填した後、所定の圧力を保持して加圧を続ける工程(保圧工程)を必要とする。保圧工程において、電動モータを用いて一定の圧力を保持するように印加する場合、電動モータが過負荷状態となる恐れがある。その問題を回避するために、必要とされる目標圧力に振動成分を重畳して圧力制御を行うことにより、電動モータ(サーボモータ)の実効負荷率を低下させるようにしたものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−44206号公報
【特許文献2】特許第4022626号公報
【特許文献3】特開2004−114427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の電動射出成形機の制御装置において、特許文献3に記載の圧力制御方法を適用すると、ロードセルによって検出された圧力では検出されない偽信号がオブザーバで推定された圧力では検出される場合がある。電動射出成形機において、そのような偽信号が重畳した推定圧力の値ではフィードバック制御の帰還信号とすることができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電動射出成形機等のように、サーボモータにより動力伝達手段を介して作動体を動作させて受圧体に力を作用させる機械において、受圧体に作用する力をロードセル等の力検出器を使わずに正確に制御するサーボモータを用いた圧力制御方法装置及び圧力制御方法を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、機械の構成を簡単にすることができ、信頼性が得られるサーボモータを用いた圧力制御装置及び圧力制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の点を特徴としている。
すなわち、請求項1に係るサーボモータを用いた圧力制御装置は、サーボモータにより動力伝達手段を介して作動体を作動させ、該作動体によって受圧体に力を作用させる機械において、前記受圧体に作用させる力の制御を、制御手段により前記サーボモータの出力トルク又は回転速度を制御して行う圧力制御装置であって、前記制御手段は、駆動部と動力伝達部と被駆動部とから構築された前記機械の制御モデルに対して構築され、かつ前記駆動部への電流指令と前記駆動部からの回転情報とに基づいて前記被駆動部が受ける力を推定するオブザーバと、前記駆動部に対する電流指令と前記駆動部の回転情報とにより前記オブザーバが推定した力に基づいて、前記作動体が受圧体に作用させる力をフィードバック制御するフィードバック制御部と、を備え、前記オブザーバは、前記電流指令として重畳させた振動に応じて生じる抗力が、機械インピーダンス要素を介して前記被駆動部に作用する力を外乱として同定した前記制御モデルに基づいて構成される外乱オブザーバ部を備え、前記外乱オブザーバ部から出力される状態量に基づいて、前記機械インピーダンス要素の特性に応じて前記電流指令に重畳する振動の影響を低減し、前記被駆動部に作用する力を推定することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係るサーボモータを用いた圧力制御装置は、請求項1に記載の圧力制御装置において、前記外乱オブザーバ部は、前記電流指令と前記回転情報とに基づいて、前記作用する力の変化量と、前記力の変化量の高次成分とからなる状態量を推定することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係るサーボモータを用いた圧力制御装置は、請求項1又は請求項2に記載の圧力制御装置において、前記回転情報に基づいて、前記機械において生じる摩擦の影響を前記電流指令に対して補償する摩擦補償部を備え、前記オブザーバは、前記補償された電流指令と、前記回転情報とに基づいて、前記作用する力の変化量と、前記力の変化量の高次成分とからなる状態量を推定することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係るサーボモータを用いた圧力制御装置は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の圧力制御装置において、前記外乱オブザーバ部は、前記外乱を、前記電流指令として重畳させた振動と同じ周波数の固有振動数の前記機械インピーダンス要素を経て前記被駆動部に作用するとみなした前記制御モデルに基づいて構成されることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係るサーボモータを用いた圧力制御方法は、サーボモータにより動力伝達手段を介して作動体を作動させ、該作動体によって受圧体に力を作用させる機械において、前記受圧体に作用させる力の制御を、前記サーボモータの出力トルク又は回転速度を制御して行う圧力制御方法であって、前記機械を駆動部と動力伝達部と被駆動部とからなる制御モデルとして構築し、該制御モデルに対して、前記駆動部への電流指令と駆動部からの回転情報とに基づいて前記被駆動部が受ける力を推定するオブザーバを構築し、前記駆動部に対する電流指令と前記駆動部の回転情報とにより前記オブザーバが推定した力に基づいて、前記作動体が受圧体に作用させる力をフィードバック制御する際に、前記オブザーバは、前記電流指令として重畳させた振動に応じて生じる抗力が、機械インピーダンス要素を介して前記被駆動部に作用する力を外乱として同定した前記制御モデルに基づいて構成される外乱オブザーバ部から出力される状態量に基づいて、前記機械インピーダンス要素の特性に応じて前記電流指令に重畳する振動の影響を低減させて前記被駆動部に作用する力を推定することを特徴とする。
なお、上記のサーボモータを用いた圧力制御装置及び圧力制御方法において、前記機械は、前記サーボモータによりプーリとベルトを介してボールねじ軸またはボールナットを回転させ、これらに螺合するボールナットまたはボールねじ軸を介して射出機構の射出スクリューを作動させて、型締機構によって型締めされた金型に溶融樹脂を圧力を制御しながら射出して成形を行う電動射出成形機としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以下の優れた効果を奏する。
すなわち、請求項1に係るサーボモータを用いた圧力制御装置及び請求項5に係る圧力制御方法によれば、サーボモータにより動力伝達手段を介して作動体を作動させ、該作動体によって受圧体に力を作用させる機械において、前記受圧体に作用させる力の制御を、制御手段により前記サーボモータの出力トルク又は回転速度を制御して行う圧力制御装置であって、制御手段は、駆動部と動力伝達部と被駆動部とから構築された機械の制御モデルに対して構築され、かつ駆動部への電流指令と駆動部からの回転情報とに基づいて被駆動部が受ける力を推定するオブザーバと、駆動部に対する電流指令と駆動部の回転情報とによりオブザーバが推定した力に基づいて、作動体が受圧体に作用させる力をフィードバック制御するフィードバック制御部と、を備える。また、オブザーバは、電流指令として重畳させた振動に応じて生じる抗力が、機械インピーダンス要素を介して被駆動部に作用する力を外乱として同定した制御モデルに基づいて構成される外乱オブザーバ部を備える。そして、オブザーバは、外乱オブザーバ部から出力される状態量に基づいて、機械インピーダンス要素の特性に応じて電流指令に重畳する振動の影響を低減し、被駆動部に作用する力を推定することができるので、その力に基づいてサーボモータの動作をフィードバック制御することにより、作動体が受圧体に作用させる力をロードセル等の力検出器を使わずに正確に制御することができる。
これにより、機械にロードセルを組み込む格別の手段が不要となるので、機械の構成を簡単にすることができると共に、サーボモータを用いた圧力制御装置の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係るサーボモータを用いた圧力制御装置を適用した電動射出成形機の制御装置を示すブロック図である。
【図2】射出圧力設定部の構成を示すブロック図である。
【図3】圧力制御の指令値について示す図である。
【図4】本実施形態の制御モデルを示す図である。
【図5】制御対象を二慣性系制御モデルとして構成する場合の構成図である。
【図6】本実施形態における制御モデルについて示す図である。
【図7】同じく制御モデルについて示す図である。
【図8】同じく制御モデルの状態変数線図である。
【図9】同じく制御モデルを他の形式で示した状態変数線図である。
【図10】同じく外乱オブザーバ部を付加した制御モデルの状態変数線図である。
【図11】本実施形態の射出制御装置におけるオブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)を示す図である。
【図12】一般的なオブザーバ方式による推定結果を示す図である。
【図13】本発明の一実施の形態に係るサーボモータを用いた圧力制御装置を、電動射出成形機の射出圧力を制御する制御装置に適用した他の形態を示すブロック図である。
【図14】線形摩擦補償部とオブザーバの関係を示す図である。
【図15】クーロン摩擦補償特性の一例を示す図である。
【図16】本実施形態の射出制御装置において、オブザーバに供給する制御指令値にクーロン摩擦補償を施して推定した結果を示す図である。
【図17】一般的なオブザーバ方式による推定結果を示す図である。
【図18】第1実施形態に示した構成のオブザーバ方式による推定結果を示す図である。
【図19】本実施形態を適用した射出制御装置を用いた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の一実施の形態に係るサーボモータを用いた圧力制御装置を、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るサーボモータを用いた圧力制御装置を、電動射出成形機の射出圧力を制御する制御装置に適用した一例を示す。図1において、1は電動射出成形機(機械)であり、支持盤2に取り付けられた先端にノズル3を有する加熱筒4と、該加熱筒4内に軸回りに回転自在にかつ軸方向に移動自在に挿入された射出スクリュー(受圧体)5と、該射出スクリュー5の外端を回転自在に支持する支持台6とを有する。また、前記支持台6は、前記支持盤2とこれに対向配置した他の支持盤7に対して回転自在に支承された一対のボールねじ軸8に、該ボールねじ軸8に螺合されたボールナット9を介して2箇所で支持されている。
【0015】
また、各ボールねじ軸8の一端にはプーリ10がそれぞれ取り付けられ、これらのプーリ10とサーボモータ11の出力軸に取り付けられたプーリ12との間に、タイミングベルト(ベルト)13が張設され、前記サーボモータ11の回転により、タイミングベルト13と各プーリ10,12を介して各ボールねじ軸8が回転され、これらに螺合されたボールナット9を介して前記支持台6が往復移動し、これにより、前記射出スクリュー5がその軸方向に移動して、射出スクリュー5の回転で加熱筒4内の先端部に計量された溶融樹脂を、型締機構によって型締めされた金型(図示せず)内に射出するようになっている。また、14はサーボモータ11の回転位置に応じたパルスを発生するパルスエンコーダである(位置検出器)。
【0016】
一方、前記金型に溶融樹脂を射出する射出圧力を制御する制御装置(制御手段)15は、オペレータが射出速度設定値VSVを設定する射出速度設定部16と、射出圧力設定値を設定する射出圧力設定部17と、前記パルスエンコーダ14が検出したサーボモータ11の現在の回転位置θに基づいて導かれる回転角速度(回転情報)ω(図4参照)及び電流検出器18が検出するサーボモータ11に対する現在の電流値(電流指令)Iから射出圧力フィードバック値を推定するオブザーバ19と、射出圧力フィードバック制御部20とを備えている。該射出圧力フィードバック制御部20は、前記オブザーバ19が推定した射出圧力フィードバック値と前記射出圧力設定部17による射出圧力設定値との偏差値を求める加算器21と、その偏差値に対しPID演算を実行する第1のPID演算器22と、このPID演算器22の出力値MV と前記射出速度設定部16による射出速度設定値VSVとを比較する比較器23と、該比較器23でMV >VSVのときPID演算器22の積分要素22aを回路から切り離すスイッチ25とから構成されている。
【0017】
さらに、前記制御装置15は、前記出力値MV から速度指令値SV を得る射出速度指令部26と、該射出速度指令部26から入力された速度指令値SV を射出速度設定値VSVによってクランプ(制限)して出力値VLIN(VSV>SV のときVLIN=SV 、VSV≦SV のときVLIN=VSVとなる)を出力する射出速度制限部27と、前記パルスエンコーダ14からの回転位置θに基づいて回転角速度(回転情報)ωに変換する射出速度フィードバック入力回路28と、加算器29によって前記射出速度制限部27の出力値VLINと射出速度フィードバック入力回路28から出力された回転角速度ωとの偏差値を求め、該偏差値に対し第2のPID演算器30によってPID演算を実行する射出速度フィードバック制御部31と、前記電流検出器18からのフィードバック電流と前記第2のPID演算器30の演算出力との偏差値を求める加算器32と、該加算器32が求めた偏差値のPID演算を行う電流制御用のPID演算器33とを備えている。該電流制御用のPID演算器33の出力電流が最終的にサーボモータ11への電流指令値(電流指令)Iとなる。なお、前記各PID演算器22,30は可変できる制御定数である。
【0018】
次に、前記オブザーバ19は、前記電動射出成形機1を駆動部と動力伝達部と被駆動部とからなる制御モデルに基づいて構築して、該制御モデルの駆動部に対する動作指令と、射出速度フィードバック入力回路28によって変換された駆動部の回転角速度(回転情報)から被駆動部に作用する力を推定する推定器として構築されている。例えば、本実施形態では2慣性系制御モデルを示す。
すなわち、前記電動射出成形機1の制御モデル(制御モデル)38は、図4に示すように、前記サーボモータ11が、トルク定数Kを有するトルク定数要素35aと、加え合わせ点35bを介して前記トルク定数要素35aに結合されたトルク/回転要素35cとを含む伝達要素からなる駆動部35として構成される。なお、トルク/回転要素35cには、パルスエンコーダ(位置検出器)14及び射出速度フィードバック入力回路28を含むこととし、駆動部35の出力として前記サーボモータ11の回転角速度ωを得るものとして以下、説明する。
【0019】
また、制御モデル38は、プーリ10,12およびタイミングベルト13が、前記駆動部35の加え合わせ点35bと引き出し点35dにそれぞれ結合されたギヤ比(回転比)Rを有する一対の回転角速度変換要素36a,36bと、一方の回転角速度変換要素36aと結合された前記タイミングベルト13のバネ定数Kを有するバネ定数要素36cと、該バネ定数要素36cに結合されると共に加え合わせ点36dを介して他方の回転角速度変換要素36bと結合された変換要素36eとを含む伝達要素からなる動力伝達部36として構成される。
【0020】
また、制御モデル38は、前記ボールねじ軸8、ボールナット9,支持台6等が、加え合わせ点37aを介して前記バネ定数要素36cに結合されると共に引き出し点37bから加え合わせ点36dを経て前記変換要素36eに結合された従動側要素37cとを含む伝達要素からなる被駆動部37として構成されて構築されている。
【0021】
なお、前記トルク/回転要素35cは一次側の等価慣性モーメントJと粘性係数Dを含んで構成され、前記従動側要素37cは二次側の等価慣性モーメントJと粘性係数Dを含んで構成されている。
そして、前記オブザーバ19は、前記駆動部35に対する電流指令値(電流指令)ICMDが引き出し点35fから供給されると共に、駆動部35からの出力である前記サーボモータ11の回転角速度(回転情報)ωが射出速度フィードバック入力回路28から供給され、推定されたトルク(力または圧力)である外力の直流成分の推定値τext_dc(ハット)を出力する。
また、前記オブザーバ19は、前記オブザーバ19に供給される電流指令値ICMDと回転角速度ωとに基づいて状態変数を導く外乱オブザーバ部19aと、外乱オブザーバ部19aによって導かれた状態変数、すなわち、外乱オブザーバ部19aによって推定された外乱の影響を低減させる振動除去部19bを備える。前記オブザーバ19に関する詳細な説明は、後述とする。
【0022】
図2と図3を参照し、射出制御装置における圧力制御の指令値について説明する。
図2は、射出圧力設定部17の構成を示すブロック図である。
また、図3は、圧力制御の指令値について示す図である。
射出圧力設定部17は、前記射出圧力P における保圧設定値Pi(P1〜P3)を、それぞれ、図3(a)に示すように、時間tに関して変化しない一定値として設定する一定値設定部17aと、この一定値設定部17aに設定された一定値の保圧設定値Piを加工し、図3(b)に示すように、所定の周波数f(周期ω)と振幅Aの圧力変動(振動)を伴った保圧指令値を出力する設定値加工部17bと、前記保圧指令値の周波数f(周期ω)を設定する周波数設定部17cと、前記保圧指令値の振幅Aを設定する振幅設定部17dと、前記一定値設定部17aと前記設定値加工部17bのいずれかを一方を前記射出圧力フィードバック制御部20 に切換え接続するための切換スイッチ(切換手段)17eとを備えている。
前記切換スイッチ17eは、前記一定値設定部17aからの一定の保圧設定値Piと前記設定値加工部17bからの保圧指令値Pcのいずれによって前記サーボモータ11を回転作動させるかの設定切り換えを行うものである。なお、前記一定値設定部17a、周波数設定部17c、振幅設定部17dはそれぞれ設定キー等によって適宜数値を入力するようになっている。
【0023】
前記設定値加工部17bは、前記一定値設定部17aから入力された図3(a)に示すような一定の保圧設定値Piを、前記周波数設定器17c、振幅設定器17dからそれぞれ入力された周波数f、振幅Aに基づいて所要の演算を行って、図3(b)に示すように、一定の保圧設定値Piを中心にしてその上下に、時間tの経過に従って圧力変化を繰り返す一定振幅A、一定周波数fのsin曲線、cos曲線、三角波、台形波、矩形等からなる振動を伴った保圧指令値Pcに加工し、この保圧指令値Pcに対応する制御データを、前記切換スイッチ17eを経て前記射出圧力フィードバック制御部20 の記憶領域に記憶させるようになっている。
【0024】
これにより、前記設定値加工部17bが一定値設定器17aから入力された保圧設定値Piを、周波数設定器17cと振幅設定器17dからそれぞれ入力された周波数f、振幅Aに基づいて、図3(b)に示すような振動を伴った保圧指令値Pcに加工する。この保圧指令値Pcは前記一定値設定器17aで設定された充填圧力設定値P0と共に切換スイッチ17eを介して前記射出圧力フィードバック制御部20の記憶領域に記憶される。
なお、射出制御装置における圧力制御の指令値の詳細な制御方法については、特許文献3などを参照する。
【0025】
図4は、本実施形態の制御モデルを示す図である。
図4に示される前記制御モデル38において、前記駆動部35(サーボモータ11)のトルク定数要素35aに電流指令値ICMDが入力されると、動力伝達部36を介して被駆動部37を作動させる。これにより、駆動部35の回転位置θが変化するとともに、出力としての回転角速度ωが変化する。そして、前記オブザーバ19が前記電流指令値ICMDと前記回転角速度ωとを取り込む。前記電流指令値ICMDによって本来発生されるべき回転角速度ωと前記取り込んだ実際の回転角速度ωとの偏差が生じる。
前記オブザーバ19は、導かれた回転角速度の偏差に基づいて駆動部35に加わった反抗トルクを推定する。その反抗トルクから被駆動部37が抵抗物モデル39から受ける力に対する反抗力(推定トルク(外力の直流成分の推定値τext_dc(ハット)))を推定する。この推定トルク(外力の直流成分の推定値τext_dc(ハット))が電動射出成形機1の射出圧力のフィードバック制御用の入力信号として使用されることとなる。
【0026】
図5は、制御対象を二慣性系制御モデルとして構成する場合の構成図である。
最初に、オブザーバを二慣性反力推定オブザーバとして構成する場合の各状態変数に関する微分方程式を順に示す。各式に示される変数は、ICMDがモータ電流指令値、Kがトルク定数、Rがギア比、Kがバネ定数、Jがモータ慣性モーメント、Dがモータ粘性係数、Jが負荷側慣性モーメント、Dが負荷側粘性係数である。
【0027】
また、図8に示すような状態変数線図38Aとして展開することができるので、負荷側(被駆動部37)の回転角速度(回転情報)ω 、サーボモータ側(駆動部35)と負荷側との回転位置の差(回転角度差)θ、サーボモータ側の回転角速度ω、樹脂圧力(オブザーバ19で推定する力)から射出スクリュー5が受ける負荷側トルクτ、負荷側トルクτの一次微分をτ(ドット)、負荷側トルクτの二次微分をτ(ツードット)として示す。式では、τ(ドット)は、τの上に点(ドット)を1つ附す。また、τ(ツードット)は、それぞれτの上に点(ドット)を2つ附す。
【0028】
サーボモータ側(駆動部35)と負荷側との回転位置の差(回転角度差)であるねじれ角θの微分方程式を、式(1)として示す。
【0029】
【数1】

【0030】
負荷側(被駆動部37)の回転角速度(回転情報)ωの微分方程式を、式(2)として示す。
【0031】
【数2】

【0032】
サーボモータ側(駆動部35)の回転角速度ωの微分方程式を、式(3)として示す。
【0033】
【数3】

【0034】
図6は、本実施形態における外乱の定義を示す図である。
図6に示されるサーボモータ側から供給されるトルクτに応じて慣性モーメントJの駆動対象を駆動し回転角速度ωを得る。ただし、回転角速度ωは、供給されるトルクτに対して、負荷側からの負荷側トルクτの影響を受け変化する。
本実施形態では、電動射出成形機1の射出スクリュー(受圧体)5(以下、「射出軸」という。)を駆動する力指令値にあたる外力の直流成分τext_dcに外力の高調波成分τext_acを重畳させて、静止摩擦力が電動射出成形機1の射出軸に影響しない様に制御する。その外力の高調波成分τext_acの基本周波数をωとして示す。
外力の高調波成分τext_acが重畳された指令値によって、電動射出成形機1の射出軸が駆動される。射出軸が駆動され、溶融樹脂(射出対象物)を加圧した際に反力の高調波成分を生じる。
その反力の高調波成分は、指令値に基づいて駆動された外力の高調波成分τext_acによって生じることから、同じ周波数成分、つまり基本周波数ωに生じる。
【0035】
通常のオブザーバでは、入力信号に重畳された高調波入力成分だけであれば、その高調波の影響を受けずに、外乱入力を推定することができる。しかしながら、電動射出成形機1の場合、この外乱入力は、射出軸が溶融樹脂を押した際の反力であるため、重畳した高調波の力と同じ周波数の反力も、射出軸の射出による反力と同時に、外乱入力として、電動射出成形機1に加わることとなる。
その高調波の反力は、重畳した高調波と同じ周波数であるが、溶融樹脂は機械インピーダンスを持つので同じ周波数の反力でも、重畳した高調波の力の位相と反力の位相が異なり、位相の値は未知となる。それゆえ、どのような波形の反力が加わるかを予測できないため、モデル化することができない。
したがって、この高調波成分の影響について、通常のオブザーバによる推定方法では完全に排除することができない。通常のオブザーバとは、状態オブザーバ及び外乱オブザーバの双方のことである。
【0036】
図7は、本実施形態における制御モデルを示す図である。
そこで、図7に示すように、射出軸が受ける外力の直流成分τext_dcは、射出圧による反力が重畳する外力の高調波成分τext_acと同じ周波数の固有振動数の機械インピーダンス要素90を通過して、射出軸に加わる負荷側トルクτとみなし、この固有振動数ωの影響を受けない高次外乱オブザーバを構成する。
つまり、この高次外乱オブザーバは、射出軸に加わる負荷側トルクτを外乱入力とする外乱オブザーバ部19aを構築し、その推定出力とする状態量に負荷側トルクτの推定値を含めて構成する。
なお、射出軸に作用する負荷側トルクτは、外力τextによって変化する。その、外力τextは、外力の直流成分τext_dcと、重畳された外力の高調波成分τext_acとの加算値であり、式(4)として示される。
【0037】
【数4】

【0038】
この高次外乱オブザーバは、固有振動数を持つ機械インピーダンス要素90を通過する前の外乱入力(外力の直流成分τext_dc)を、外力の高調波成分τext_acの反力の位相に影響を受けずに推定することができる。
結果的に、電動射出成形機1が押す力の高調波も、溶融樹脂が環境から受ける高調波も影響を受けないで、外乱入力(反力)を推定することが可能となる。
【0039】
外乱オブザーバ部19aは、未知の外乱入力を状態変数と見なして、状態方程式を加えて、外乱入力を推定する。
本実施形態による2慣性系でモデル化される射出成型機において、負荷側トルクτは、機械インピーダンス要素90の影響を受けトルクτに影響を与える。
また、外乱オブザーバ部19aの状態変数に関する微分方程式を、式(5)として示す。
【0040】
【数5】

【0041】
図9は、電動射出成形機1の制御モデル38を他の形式で示した状態変数線図である。
図9に示される電動射出成形機1の制御モデル38Bは、式(6)として示す状態方程式と、式(7)として示す出力方程式とによって示すことができる。
【0042】
【数6】

【0043】
【数7】

【0044】
式(6)と式(7)において、Aがシステム行列を示し、Bが制御行列を示し、xが状態変数を示し、uが入力変数を示し、yが出力変数を示し、Cが出力行列を示す。
高次外乱オブザーバを反力推定オブザーバに適用するために、モデルパラメータを当てはめ、各状態変数の微分式を導いて、式(8)として示す。
【0045】
【数8】

【0046】
式(8)に示された微分方程式において、負荷側(被駆動部37)の回転速度(回転情報)ω 、サーボモータ側(駆動部35)と負荷側との回転位置の差(回転角度差)θ、サーボモータ側の回転速度ω、樹脂圧力(オブザーバ19で推定する力)から射出スクリュー5が受ける負荷側トルクτ、負荷側トルクτの一次微分であるτ(ドット)、及び、負荷側トルクτの2次微分であるτ(ツードット)を、状態変数xとして与えると、式(9)として状態方程式と、式(10)として出力方程式が得られる。
【0047】
【数9】

【0048】
【数10】

【0049】
図10は、電動射出成形機1の制御モデル38を他の形式で示し外乱オブザーバ部を付加した制御モデルの状態変数線図である。
図10に示した構成に基づいて、オブザーバ19における外乱オブザーバ部19aを同定することができる。
そして、式(9)として示した状態方程式に基づいて、例えば、「ゴピナスの設計法」を用いて高次外乱を考慮した反力推定オブザーバを設計する。
設計した反力推定オブザーバを式(11)に示す。
【0050】
【数11】

【0051】
式(11)において、wは、状態変数を変換した変換状態変数を示し、ζは減衰係数を示す。また、a,b,c,d,eは、式(12)に示す。ただし、式を簡略化するためL=1/Jとする。
【0052】
【数12】

【0053】
式(11)を整理して、外乱オブザーバ部19aの出力として式(13)を得る。
【0054】
【数13】

【0055】
式(13)において、θ(ハット)、ω(ハット)、τ(ハット)、τ(ドットハット)、τ(ツードットハット)は、外乱オブザーバ部19aで推定された状態変数である。式中で示す推定値は、記号の上に「^」(ハット)を附す。
θ(ハット)は、ねじり角θの推定値である。ω(ハット)は、負荷側回転角速度ωの推定値である。τ(ハット)、τ(ドットハット)、τ(ツードットハット)は、それぞれ推定された負荷側トルクτの推定値、τの一次微分の推定値、τの二次微分の推定値である。
【0056】
外力の直流成分τext_dcが機械インピーダンス要素90(共振要素)によって影響を受けた負荷側トルクτが制御モデル38に作用するとみなした制御モデル(図6参照)によって示される、外力τextと負荷側トルクτの関係に基づいて、式(13)によって導かれたτ(ハット)、τ(ドットハット)、τ(ツードットハット)を用いて、式(14)を得る。
【0057】
【数14】

【0058】
式(14)において、τext_dc(ハット)が外力の直流成分τext_dcの推定値である。
上記に示した手順により、外乱オブザーバ部19aを要素とするオブザーバ19を構成することができる。
また、外乱オブザーバ部19aから状態変数が供給される振動除去部19bは、先に示した機械インピーダンス要素90と逆の特性を有するものとする。オブザーバ19によって外力の直流成分τext_dcの推定値が導かれる。
【0059】
図11と図12を参照し、本実施形態の効果を示す。
図11は、本実施形態の射出制御装置におけるオブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)を示す図である。
この図の縦軸は、射出軸の反抗トルク(圧力推定値、MPa(メガパスカル))を示し、横軸は時間(秒)の経過を示す。
波形G11は、オブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)を示すグラフである。また、波形G12は、ロードセルによって検出された圧力を示すグラフである。
【0060】
時刻t1から、射出工程が開始され、射出圧力設定部17から供給される制御指令値ICMDに従って、射出軸が押し出される。それに伴って圧力が単調に上昇する。時刻t2において、所定量の射出を終えると、射出圧力設定部17は、射出軸の押し出しを停止させ、所定の圧力を維持しながら加圧する保圧工程としての制御指令値ICMDに変更する。この保圧工程は、時刻t3まで継続する。時刻t3を経過すると、射出圧力設定部17は、保圧工程を終了させ、保圧工程の加圧状態を解除する。そして、射出圧力設定部17は、次の射出工程の準備を行う背圧工程としての制御指令値ICMDに変更する。背圧工程では、射出軸の位置を次の射出工程の初期状態の位置まで後退させながら、溶融樹脂を加熱筒4内に充填する。射出軸は加熱筒4内にムラ無く溶融樹脂を充填させるため、所定の圧力を維持し、負圧状態が生じないように加圧しながら後退する。
図に示したグラフでは、時刻t2から時刻t3の保圧工程において、ロードセルで検出された圧力と推定圧力に一致が見られる。
【0061】
また、図11に示した本実施形態の効果と比較するため従来の一般的なオブザーバ方式による推定結果を示す。
図12は、一般的なオブザーバ方式による推定結果を示す図である。
この図では、本実施形態と制御方式が異なる構成を用いた結果を示し、また、印加する指令値も高調波成分を重畳した場合の結果が示される。
波形G31は、オブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)である。また、波形G32は、ロードセルによって検出された圧力である。
時刻t2から時刻t3の保圧工程では、重畳した高調波と同じ周波数成分の変動が、推定圧力の波形G31に生じている。
本実施形態による図11の結果と比較すると、指令値に高調波成分を重畳させたことによる推定圧力の振動性の誤差が低減できていることが示される。
【0062】
(第2実施形態)
以下、本発明の一実施の形態に係るサーボモータを用いた圧力制御装置を、添付図面を参照して説明する。
図13は、本発明の一実施の形態に係るサーボモータを用いた圧力制御装置を、電動射出成形機の射出圧力を制御する制御装置に適用した他の形態を示す。図1、図4と同じ構成には、同じ符号を附す。
この図13に示される電動射出成形機(機械)1は、図4に示された制御モデル38とオブザーバ19に加え、線形摩擦補償部40を備える。
線形摩擦補償部40は、クーロン摩擦補間演算を行うクーロン摩擦補間部41と、クーロン摩擦補間部41によって変換された補償値に、予め定められる比例係数を乗算する係数演算子42とを備える。
線形摩擦補償部40は、サーボモータ11が反転するときにクーロン摩擦が変化するため、その影響を低減させる。線形摩擦補償部40は、回転方向が変化する変化点において発生する急峻な変化を低減させるため、変化点付近の特性を補間することにより、摩擦力の影響を低減させることができる。
【0063】
図14は、線形摩擦補償部とオブザーバの関係を示す図である。
線形摩擦補償部40は、分岐点35dから分岐されるサーボモータ11の回転角速度ωに基づいて、摩擦力の変化によるモータトルクの補償量を生成する。生成されたモータトルクの補償量は、加算器43において、モータトルクに加算される。これにより、補償されたモータトルクが、オブザーバ19に供給される。
つまり、オブザーバ19として構成した制御モデルでは、クーロン摩擦力を補償する構成としていないものである。しかし、入力される制御指令値ICMDと発生させるモータトルクとが対応するため、上記の補償方法で静止摩擦力の影響を低減させることができる。
【0064】
図15は、クーロン摩擦補償特性の一例を示す図である。
図15に示されるグラフは、クーロン摩擦補間部41が有する変換特性を示す。
縦軸は、回転角速度に応じて補償された摩擦力を示し、横軸が回転角速度を示す。
モータ速度の値が、−v0から+v0までの範囲をsin特性で補間する。
具体的な補間特性を、式(15)として示す。
【0065】
【数15】

【0066】
式(15)において、クーロン摩擦補間速度v0の設定範囲として、例えば、1(回転/分)から15(回転/分)を範囲として、1(回転/分)刻みで設定可能とする。その際の標準値としては、10(回転/分)とする。
【0067】
図16から図18を参照し、本実施形態の効果をシミュレーション結果に基づいて説明する。
このシミュレーションでは、保圧振動10Hz、オブザーバ極70rad/sの条件で構成された制御系を用いて、シミュレーションに用いる実験値を取得した。取得された実験値(モータトルク、モータ回転数)に基づいて、オブザーバの構成を変えて、異なる構成のオブザーバによる推定値の違いを比較する。制御対象とする2慣性系制御モデルのパラメータは、式(16)に示す値を用いる。
【0068】
【数16】

【0069】
図16は、本実施形態の射出制御装置において、オブザーバに供給する制御指令値にクーロン摩擦補償を施して推定した結果を示す図である。
図16(a)は、本実施形態の射出制御装置において、オブザーバに供給する指令値にクーロン摩擦補償を施して推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)を示す図である。
この図の縦軸は、射出軸の反抗トルク(圧力推定値、MPa(メガパスカル))を示し、横軸は時間(秒)の経過を示す。
波形G41は、クーロン摩擦補償を施して、オブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)を示すグラフである。また、波形G42は、ロードセルによって検出された圧力を示すグラフである。
【0070】
本実施形態の構成としたことにより、時刻t3以降の背圧工程においても、2つの波形がよく一致していることが示されている。
図16(b)は、図16(a)の一部を拡大して示した図である。
波形G51は、波形G41の一部を示す。波形G52は、波形G42の一部を示す。
抽出した範囲は、時刻4秒から5秒までの1秒間であり、保圧工程(図16(a)参照)にあたる。
波形G51の変動と、波形G52の変動を比べると、波形G51の方が少ない。また、平均値の圧力差が約0.7(MPa)であり、波形G52を基準として平均値を比べても102%であり、推定値として十分な値が示された。
【0071】
また、図16に示した本実施形態の効果と比較するため従来の一般的なオブザーバ方式による推定結果を示す。
図17は、一般的なオブザーバ方式による推定結果を示す図である。
図17(a)では、一般的なオブザーバを用いて、クーロン摩擦補間処理を行わないで比較した結果を示す。
波形G61は、オブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)である。また、波形G62は、ロードセルによって検出された圧力である。
時刻t2から時刻t3の保圧工程では、重畳した高調波と同じ周波数成分の変動が、主意定圧力の波形G61に生じている。また、時刻t3以降の背圧工程においても差が生じている。
【0072】
図17(b)は、図17(a)の一部を拡大して示した図である。
波形G71は、波形G51の一部を示す。波形G72は、波形G52の一部を示す。
抽出した範囲は、時刻4秒から5秒までの1秒間であり、保圧工程(図17(a)参照)にあたる。
波形G71が示す推定圧力の振動成分の振幅は、約7(MPa)にも達する。
【0073】
図18は、第1実施形態に示した構成のオブザーバ方式による推定結果を示す図である。すなわち、図18は、第2実施形態として示したクーロン摩擦補間処理を行わないで比較した結果を示す。
図18(a)では、第1実施形態による構成に基づいて比較した結果を示す。
波形G81は、オブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)である。また、波形G82は、ロードセルによって検出された圧力である。
時刻t2から時刻t3の保圧工程では、重畳した高調波と同じ周波数成分の変動が、推定圧力の波形G81に生じている。また、時刻t3以降の背圧工程においても差が生じている。
【0074】
図18(b)は、図18(a)の一部を拡大して示した図である。
波形G91は、波形G81の一部を示す。波形G92は、波形G82の一部を示す。
抽出した範囲は、時刻4秒から5秒までの1秒間であり、保圧工程(図18(a)参照)にあたる。
波形G91が示す振動成分の振幅は、図16(b)と同じ程度であるが、平均値の差は図16(b)に比べて大きな値が示される。
このように、図16から図18に示した結果から、図16に示した、クーロン摩擦補償処理を本実施形態に示すオブザーバ19に供給する制御指令値に対して補償することにより、推定精度を高めることができる。
【0075】
さらに、図19を参照し、本実施形態の効果を実際の射出制御装置に適用した場合の結果について説明する。
図19は、本実施形態を適用した射出制御装置を用いた結果を示す図である。
実際の射出制御装置(ニイガタマシンテクノ社のモデルMD75X)の圧力制御装置(モーションコントローラ)に、本実施形態として示した圧力制御方法を適用し比較を行った。
図19(a)は、本実施形態に示したようにオブザーバの入力側でクーロン摩擦補償を施して、本実施形態のオブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)を示すグラフである。
この図の縦軸は、射出軸の反抗トルク(圧力推定値、MPa(メガパスカル))を示し、横軸は時間(秒)の経過を示す。
波形G101は、クーロン摩擦補償を施して、本実施形態のオブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)を示すグラフである。また、波形G102は、ロードセルによって検出された圧力を示すグラフである。
本実施形態の構成としたことにより、時刻t2から時刻t3にかけての保圧工程における振動成分も観測されず、時刻t3から時刻t4にかけての背圧工程においても、2つの波形の一致性が高いことが示されている。
【0076】
図19(b)は、本実施形態に示したようにオブザーバの入力側でクーロン摩擦補償を施しているが、用いたオブザーバは、従来方式のオブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)を示すグラフである。
この図の縦軸は、射出軸の反抗トルク(圧力推定値、MPa(メガパスカル))を示し、横軸は時間(秒)の経過を示す。
波形G111は、クーロン摩擦補償を施して、従来方式のオブザーバを用いて推定した射出軸の反抗トルク(圧力推定値)を示すグラフである。また、波形G112は、ロードセルによって検出された圧力を示すグラフである。
【0077】
本実施形態の構成としたことにより、時刻t3から時刻t4にかけての背圧工程では、2つの波形の一致性が高いことが示されている。しかしながら、時刻t2から時刻t3にかけての保圧工程に振動成分が生じることが観測された。
これにより、シミュレーションで観測された現象を実際の射出制御装置を用いた場合でも再現することができ、本実施形態として示した構成を用いたシミュレーション結果についても妥当性を示された。
【0078】
なお、本発明の実施形態と示した構成は、一実施態様を示したものであり、本発明の要旨を変えない範囲で、構成、容量、数量などを変更することができる。
例えば、本実施形態では、外乱を生じる機械インピーダンス要素90の特性を二次系として示したが、必要とされる次数を選択することができる。選択した機械インピーダンス要素の次数に応じて、外乱オブザーバ部19aが推定する負荷側トルクτの次数を合わせて定め、さらに、その後段の振動除去部19bの特性も、機械インピーダンス要素90(共振系)に対応した逆の特性(減衰系)の特性に変更する。
【0079】
また、摩擦補償の手段として示したクーロン摩擦補償において、補間関数をsin関数として示したが、単調に変化する他の関数(折れ線近似、台形補間など)を用いることができる。
また、その摩擦補償の補償量については、構成する制御系の構成に依存することから適用する制御系に応じて適宜定めることとする。
また、オブザーバが参照するサーボモータの回転情報は、回転角度として検出される位置情報、又は、回転角速度情報とすることができる。
【0080】
なお、前記においては、本発明に係るサーボモータを用いた圧力制御装置を、電動射出成形機1の射出機構において射出スクリューによって射出圧力を制御する場合に適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、計量時に射出スクリューに付加する背圧の制御に適用したり、サーボモータによりボールねじ軸にボールナットを螺合してなる直線移動機構を介して可動盤を直接または間接に移動させ、可動盤と固定盤との間で金型を型締めする型締機構において金型の型締め圧力を制御する場合や、エジェクタの突き出し圧力を制御する場合にも適用することができる。
さらに、電動モータにより伝動機構を介してねじ軸にナットを螺合してなる直線移動機構を作動させ、該直線移動機構に連結された加圧盤を移動させて、該加圧盤と固定盤との間でワークを加圧成形するプレス機械において、加圧盤に加える圧力(力)を制御する場合、その他の産業機械において圧力(力)の制御を行う場合にも適用することができる。
【0081】
なお、本実施形態のサーボモータ11により動力伝達手段を介して作動体を作動させ、該作動体によって射出スクリュー5(受圧体)に力を作用させる機械において、射出スクリュー5に作用させる力の制御を、制御手段によりサーボモータ11の出力トルク又は回転速度を制御して行う圧力制御装置であって、制御手段15は、駆動部と動力伝達部と被駆動部とから構築された前記機械の制御モデルに対して構築され、かつ前記駆動部への電流指令と駆動部からの回転情報とに基づいて前記被駆動部が受ける力を推定するオブザーバ19と、駆動部に対する電流指令と駆動部の回転情報とにより前記オブザーバ19が推定した力に基づいて、前記作動体が受圧体に作用させる力をフィードバック制御するフィードバック制御部と、を備える。そして、オブザーバ19は、電流指令値ICMDとして重畳させた振動に応じて生じる抗力が、機械インピーダンス要素90を介して被駆動部に作用する力を外乱として同定した制御モデルに基づいて構成される外乱オブザーバ部19aと、外乱オブザーバ部19aから出力される状態量に基づいて、機械インピーダンス要素90の特性に応じて電流指令に重畳する振動の影響を低減し、被駆動部(37)に作用する力を推定する。
これにより、外乱オブザーバ部19aの特性を容易に定めることができる。
【0082】
また、本実施形態の外乱オブザーバ部19aは、電流指令と回転情報とに基づいて、作用する力の変化量と、前記力の変化量の高次成分とからなる状態量を推定する。
これにより、作用する力の変化量を高次成分まで推定することができ、推定された情報から影響を低減することができる。
【0083】
また、本実施形態の回転情報に基づいて、機械(1)において生じる摩擦の影響を前記電流指令に対して補償する摩擦補償部を備え、オブザーバ19は、補償された電流指令と、回転情報とに基づいて、作用する力の変化量と、作用する力の変化量の高次成分とからなる状態量を推定する。
これにより、作用する力の変化量を高次成分まで推定することができ、推定された情報から影響を低減することができる。
【0084】
また、本実施形態の外乱オブザーバ部19aは、外乱を、電流指令として重畳させた振動と同じ周波数の固有振動数の機械インピーダンス要素90を経て被駆動部(37)に作用するとみなした制御モデルに基づいて構成される。
これにより、外乱オブザーバ部19aによって推定された状態変数から、容易に外乱として検出される電流指令(制御指令値)に重畳させた振動の影響を容易に低減することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 電動射出成形機(機械)
4 加熱筒
5 射出スクリュー(受圧体)
6 支持台
8 ボールねじ軸
9 ボールナット
10,12 プーリ
13 タイミングベルト(ベルト)
14 パルスエンコーダ(位置検出器)
15 制御装置
16 射出速度設定部
17 射出圧力設定部
18 電流検出器
19 オブザーバ
20 射出圧力フィードバック制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータにより動力伝達手段を介して作動体を作動させ、該作動体によって受圧体に力を作用させる機械において、前記受圧体に作用させる力の制御を、制御手段により前記サーボモータの出力トルク又は回転速度を制御して行う圧力制御装置であって、
前記制御手段は、駆動部と動力伝達部と被駆動部とから構築された前記機械の制御モデルに対して構築され、かつ前記駆動部への電流指令と前記駆動部からの回転情報とに基づいて前記被駆動部が受ける力を推定するオブザーバと、
前記駆動部に対する電流指令と前記駆動部の回転情報とにより前記オブザーバが推定した力に基づいて、前記作動体が受圧体に作用させる力をフィードバック制御するフィードバック制御部と、
を備え、
前記オブザーバは、
前記電流指令として重畳させた振動に応じて生じる抗力が、機械インピーダンス要素を介して前記被駆動部に作用する力を外乱として同定した前記制御モデルに基づいて構成される外乱オブザーバ部を備え、
前記外乱オブザーバ部から出力される状態量に基づいて、前記機械インピーダンス要素の特性に応じて前記電流指令に重畳する振動の影響を低減し、前記被駆動部に作用する力を推定する
ことを特徴とするサーボモータを用いた圧力制御装置。
【請求項2】
前記外乱オブザーバ部は、
前記電流指令と前記回転情報とに基づいて、前記作用する力の変化量と、前記力の変化量の高次成分とからなる状態量を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載のサーボモータを用いた圧力制御装置。
【請求項3】
前記回転情報に基づいて、前記機械において生じる摩擦の影響を前記電流指令に対して補償する摩擦補償部を備え、
前記オブザーバは、
前記補償された電流指令と、前記回転情報とに基づいて、前記作用する力の変化量と、前記力の変化量の高次成分とからなる状態量を推定する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサーボモータを用いた圧力制御装置。
【請求項4】
前記外乱オブザーバ部は、
前記外乱を、前記電流指令として重畳させた振動と同じ周波数の固有振動数の前記機械インピーダンス要素を経て前記被駆動部に作用するとみなした前記制御モデルに基づいて構成される
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のサーボモータを用いた圧力制御装置。
【請求項5】
サーボモータにより動力伝達手段を介して作動体を作動させ、該作動体によって受圧体に力を作用させる機械において、前記受圧体に作用させる力の制御を、前記サーボモータの出力トルク又は回転速度を制御して行う圧力制御方法であって、
前記機械を駆動部と動力伝達部と被駆動部とからなる制御モデルとして構築し、
該制御モデルに対して、前記駆動部への電流指令と駆動部からの回転情報とに基づいて前記被駆動部が受ける力を推定するオブザーバを構築し、
前記駆動部に対する電流指令と前記駆動部の回転情報とにより前記オブザーバが推定した力に基づいて、前記作動体が受圧体に作用させる力をフィードバック制御する際に、
前記オブザーバは、
前記電流指令として重畳させた振動に応じて生じる抗力が、機械インピーダンス要素を介して前記被駆動部に作用する力を外乱として同定した前記制御モデルに基づいて構成される外乱オブザーバ部から出力される状態量に基づいて、前記機械インピーダンス要素の特性に応じて前記電流指令に重畳する振動の影響を低減させて前記被駆動部に作用する力を推定する
ことを特徴とするサーボモータを用いた圧力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−186669(P2011−186669A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49861(P2010−49861)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(303024138)株式会社ニイガタマシンテクノ (78)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】