説明

圧力容器及び圧力容器の製造方法

【課題】内殻の樹脂成形時でのヒケ発生による応力集中を抑制する。
【解決手段】圧力容器1は、樹脂成形品からなる内殻3と、内殻3の外周を覆うFRPからなる補強層となる外殻5と、軸方向端部に位置する口金11とを備えている。口金11は、内側口金部品7と外側口金部品9とを有し、内殻3のブロー成形時に、内側口金部品7を一体成形する。内側口金部品7は、小径部7c1と大径部7c2とを備える一方、内殻3は円筒形状の首部3aを備えている。首部3aは小径部7c1の外周部に位置し、首部3aの軸方向端部3a2は、大径部7c2の端面7eに当接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂で形成した内殻と該内殻の外側を覆うようにして設けた外殻とを備え、内殻の円筒形状とした首部に口金部品を備えた圧力容器及び圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の圧力容器としては、例えば下記特許文献1に記載されたものがある。この圧力容器は、ガスバリア層を有する内殻と、該内殻を覆うように設けた耐圧性の外殻と、内殻の首部に内装したノズル取付用口金を備えている。そして、ノズル取付用口金が、内殻の首部との結合面に凹凸や突条を備えることで、ノズル取付用口金と内殻の首部との結合強度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−219388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内殻を樹脂で成形する場合には、成形時にノズル取付用口金を一体的に結合できる。
【0005】
ところが、この場合、成形後の樹脂成形品にヒケが発生し、このヒケの発生によって凹凸や突条の角部に応力が集中して亀裂が発生してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、内殻の樹脂成形時でのヒケ発生による応力集中を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、樹脂製の内殻の首部に設けた口金部品は、内殻の首部内に一部が位置する口金本体を備え、この口金本体の首部から軸方向外側に突出している突出部に、内殻の首部の軸方向端部が当接する当接部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、口金部品を一体的に樹脂成形した後の内殻は、首部の軸方向端部が口金部品の突出部に設けた当接部に当接している。このため、成形後に樹脂成形品が収縮する際に、当接部がこの収縮による首部の軸方向への変位を抑えて該当接部と首部の軸方向端部との密着性が高まる。そして、内殻の首部内に凹凸や突条はないので応力集中を抑制できる。また、首部は、径方向内側に収縮変位することによって、径方向内側の口金本体の外周面に対する密着性も高まる。以上により、成形後の樹脂成形品である内殻にヒケが発生したとしても、内殻の首部における応力集中を抑制することができ、信頼性の高い圧力容器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係わる圧力容器全体の断面図である。
【図2】図1の圧力容器の口金部品周辺を拡大した断面図である。
【図3】図1の圧力容器の内殻をブロー成形した後の首部の変形による応力の作用方向を示す作用説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係わる図3に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0011】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係わる圧力容器1は、内殻3と、この内殻3の外側の外周部を覆うようにして設けた外殻5と、を備えている。内殻3は、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)などの樹脂製であってガスバリア性を有している。一方、外殻5は、例えばFRPで構成することができ、補強層として機能する。
【0012】
また、圧力容器1は、円筒形状の胴部Aと、胴部Aの軸方向(図1中で上下方向)両側に位置する鏡板部B、Cとを有し、図1中で上部に位置する一方の鏡板部Bの軸心部には、口金部品としての内側口金部品7と外側口金部品9とを備える口金11を設けている。この口金11の内側口金部品7には、圧力容器1の内部と外部とを連通する貫通孔7aを形成してあり、図示しないガス供給用のノズルが取り付けられる。
【0013】
図1中で下部に位置する他方の鏡板部Cの軸心部には、口金部品としてのボスで構成した内側口金部品13と外側口金部品15とを備える口金17を設けている。この口金17の内側口金部品13は、上記した内側口金部品7に設けてあるような貫通孔はなく、圧力容器1の内部と外部とを連通していない。外側口金部品15は、上記した外側口金部品9と同等の形状としている。
【0014】
口金11と口金17との違いは、口金11の内側口金部品7に貫通孔7aを設けた点だけであり、その他の形状や構造は同等であって、以後の説明は、口金11についてのみ行うが、その形状や構造は、口金17についても同様に適用することができる。
【0015】
口金11の内側口金部品7は、図2に拡大して示すように、鏡板部Bにおける内殻3の内部にてその内面に沿って拡がるフランジ部7bと口金本体としての円筒部7cとを備え、これらフランジ部7bと円筒部7cとにわたり前記した貫通孔7aが形成されている。
【0016】
内側口金部品7のフランジ部7bは、図1中で下部の口金17に対向する面7b1をほぼ平面状に形成してあり、平面状に形成した面7b1と反対側の面7b2が内殻3の内面に密着している。また、内側口金部品7の円筒部7cは、フランジ部7b側の小径部7c1と、小径部7c1よりも大径の突出部としての大径部7c2と、大径部7c2の小径部7c1と反対側に位置するノズル取付部7c3とを備えている。
【0017】
ノズル取付部7c3は、大径部7c2より小径で小径部7c1とほぼ同等の外径としてあり、先端側の端部を除く外周部に、ナット19を締結する雄ねじ7dを形成している。
【0018】
そして、大径部7c2の小径部7c1側の端部には、軸方向に対向する当接部としての環状の端面7eを形成している。
【0019】
一方、内殻3は、円筒形状の首部3aを備えており、この首部3aを、内側口金部品7の小径部7c1の外側に整合させて入り込ませた状態としている。このとき、首部3aの外周面3a1と大径部7c2の外周面7c2aとは、軸方向に沿って互いに同一面となるよう形成している。つまり、首部3aの外径と大径部7c2の外径とは互いに同等としている。
【0020】
そして、これら首部3a及び大径部7c2の外周側には、前記した外側口金部品9を嵌め込んでいる。外側口金部品9は大略円筒形状を呈し、首部3a及び大径部7c2を覆う外側円筒部9aと、外側円筒部9aの前記した雄ねじ7dと反対側の基端側にて径方向外側に拡がる外側フランジ部9bとを備えている。
【0021】
外側円筒部9aと、首部3a及び大径部7c2に対応する部分との間には、Oリングなどからなるシール材21及び23を設けている。
【0022】
内殻3は、ブロー成形によって内側口金部品7を一体化する。この一体化した内側口金部品7と内殻3の首部3aに外側口金部品9を嵌め込んだ状態で、ナット19を雄ねじ7dに締結することで、外側口金部品9を内殻3及び内側口金部品7に固定することができる。
【0023】
そして、これら内殻3の外周部及び外側口金部品9の基端部側の外周部を、図1に示す外殻5で覆っている。外殻5は、例えば樹脂を含浸させたFRP繊維を巻き付けるフィラメントワインディング法により形成することができる。
【0024】
このような構成の圧力容器は、前述したように、内殻3をブロー成形する際に内側口金部品7が内殻3に一体化する。この一体成形によって、図3に示すように、内殻3の首部3aが内側口金部品7の小径部7c1の外周部を覆う状態となる。このとき、首部3aの軸方向端部3a2が大径部7c2の端面7eに接触するとともに、首部3aの内周面3a3が小径部7c1の外周面7c1aに接触した状態となる。
【0025】
そして、上記した一体成形後に樹脂成形品(内殻3)を図示しない成形型から取り外し、冷却すると、樹脂成形品(内殻3)全体が温度低下により収縮する。その際、本実施形態では、図3に示すように、首部3aが、上記した全体の収縮によって、矢印Pで示す径方向内側に収縮しようとして、小径部7c1の外周面7c1aを押し付けるように作用する。これにより、首部3aの小径部7c1の外周面7c1aに対する密着性を高めることができる。
【0026】
また、上記した樹脂成形品(内殻3)全体の収縮によって、首部3aが矢印Qで示す軸方向外側に向けて変位しようとし、これにより首部3aの軸方向端部3a2が大径部7c2の端面7eを押し付けることになる。換言すれば、首部3aが矢印Qで示す軸方向外側に向けて変位しようとする際に、大径部7c2の端面7eが首部3aの軸方向端部3a2を押さえ付けることになる。これにより、首部3aにおける軸方向端部3a2の大径部7c2における端面7eに対する密着性を高めることができる。
【0027】
したがって、成形後の樹脂成形品である内殻3にヒケが発生したとしても、口金部品である内側口金部品7と内殻3の首部3aとの間の密着性を高めてこれら両者間の結合強度も向上し、信頼性の高い圧力容器1とすることができる。そして、内殻3の首部3aの内周面3a3や軸方向端部3a2には凹凸や突条がないので内殻3の首部3aにおける応力集中を抑制できる。
【0028】
また、本実施形態では、内殻3の首部3a内に位置する内側口金部品7の円筒部7cの一部(小径部7c1)は、円筒部7cの突出部である大径部7c2よりも小径とし、この小径部分の大径部7c2側に当接部となる端面7eを備えている。このため、円筒部7cに、単に小径部7c1と大径部7c2とを形成するだけで、首部3aが矢印Qで示す軸方向外側に向けて変位してその軸方向端部3a2が当接する当接部(端面7e)を内側口金部品7に容易に形成することができる。
【0029】
また、本実施形態では、内殻3の首部3aの外周面3a1と内側口金部品7の大径部7c2の外周面7c2aとを、軸方向に沿って互いに同一面に形成している。これにより、図2に示すように、外側口金部品9を内側口金部品7及び首部3aの外周部に取り付けたときに、シール材21,23によるシール面を、軸心ずれを抑えて同一面とすることができ、シール性の向上に寄与することができる。
【0030】
また、本実施形態では、内殻3をブロー成形した後に、首部3aの外周面3a1及び首部3a近傍の内殻3の外周面を機械加工により研削することで、図3で示したような形状にする。このとき、特に、首部3aの軸方向端部3a2付近や、首部3aの基端部3e周辺を、そのそれぞれの全周にわたり研削加工することで、成形後の残留応力発生部を除去することができ、より信頼性の高い圧力容器1とすることができる。
【0031】
図4に示す他の実施形態は、図3の実施形態に対し、内殻3の首部3aの外径を大きくしている。したがって、ここでの首部3aの外径は、内側口金部品7の大径部7c2の外径より大きくなっている。この際、首部3aにおける軸方向端部3a2の外周側の角部がテーパ面3a4となるよう面取り加工している。
【0032】
テーパ面3a4を形成することで、首部3aの軸方向端部3a2の全域が大径部7c2の端面7eに当接することになり、成形後に樹脂成形品が収縮する際には、図3の例と同様の作用効果が得られる。
【0033】
すなわち、首部3aにおける軸方向端部3a2と端面7eとの密着性及び、首部3aにおける内周面3a3と内側口金部品7の小径部7c1との密着性をそれぞれ高めることができる。その際、本実施形態では、首部3aの外径を、内側口金部品7の大径部7c2の外径より大きくしていても、テーパ面3a4を形成することで、端面7e付近での応力集中を抑えることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 圧力容器
3 内殻
3a 内殻の首部
3a1 首部の外周面
3a2 首部の軸方向端部
5 外殻
7,13 内側口金部品(口金部品)
7c 内側口金部品の円筒部(口金本体)
7c1 円筒部の小径部(内殻の首部内に位置する口金本体の一部)
7c2 円筒部の大径部(突出部)
7c2a 大径部の外周面
7e 大径部の端面(当接部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂で形成した内殻と該内殻の外側を覆うようにして設けた外殻とを備え、前記内殻の円筒形状の首部に口金部品を備えた圧力容器であって、前記口金部品は、前記内殻の首部内に一部が位置する口金本体を備え、この口金本体の前記首部から軸方向外側に突出している突出部に、前記内殻の首部の軸方向端部が当接する当接部を設けたことを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記内殻の首部内に位置する前記口金本体の一部は、前記口金本体の突出部よりも小径とし、この小径部分の前記突出部側に前記当接部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記内殻の首部の外周面と前記口金本体の突出部の外周面とを、軸方向に沿って互いに同一面に形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の圧力容器。
【請求項4】
樹脂で形成した内殻と該内殻の外側を覆うようにして設けた外殻とを備え、前記内殻の円筒形状の首部に口金部品を備えた圧力容器の製造方法であって、前記口金部品は、前記内殻の首部内に一部が位置する口金本体を備え、この口金本体の前記首部から軸方向外側に突出している突出部に、成形時の樹脂が前記内殻の首部となって該首部の軸方向端部が当接する当接部を備えた状態で、前記内殻を前記口金部品と一体成形することを特徴とする圧力容器の製造方法。
【請求項5】
前記内殻を前記口金部品と一体成形した後に、前記内殻の首部の外周面及び該首部近傍の内殻の外周面を機械加工により研削することを特徴とする請求項4に記載の圧力容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2493(P2013−2493A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131891(P2011−131891)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】