説明

圧縮機および冷凍装置

【課題】本発明に係る圧縮機は、油上がりの発生を効果的に抑えることができる。
【解決手段】スクロール圧縮機101は、ケーシング10と、圧縮機構15と、クランク軸17と、ハウジング23と、主給油路61と、エゼクタ機構91とを備える。ハウジング23は、上部軸受32を有し、第2圧縮冷媒流路48が形成されている。第2圧縮冷媒流路48は、圧縮機構15から吐出された圧縮冷媒をケーシング10の内部の高圧空間S1に導く。主給油路61は、油貯留部Pに貯留される潤滑油を上部軸受32に供給する。第2圧縮冷媒流路48は、端部に狭窄部94を有する。ハウジング23には、円周溝34と、油戻し流路35とが形成されている。円周溝34は、上部軸受32に供給された潤滑油を貯留する。油戻し流路35は、円周溝34と連通し、狭窄部94の近傍の空間に開口する。エゼクタ機構91は、冷媒加速流路95aと、油吸引流路95bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機および冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和装置などに使用される圧縮機では、圧縮機内部の軸受部の潤滑性を高めるために潤滑油が用いられている。このような圧縮機は、圧縮機内部の潤滑油を効率的に循環させる機構を有するが、長時間の運転により油上がりが発生することがある。油上がりとは、圧縮機内部の潤滑油が、圧縮冷媒の流れに巻き込まれることなどによって、圧縮機外部の冷媒回路へ吐出される現象である。油上がりによって圧縮機内部の潤滑油が不足すると、圧縮機内部の軸受部に摩擦熱が発生して、軸受部の焼き付きなどの問題が生じる。また、油上がりによって圧縮機外部へ潤滑油が吐出されて、熱交換器や凝縮機などに潤滑油が流入すると、これらの装置の性能低下および故障などの問題が生じる。
【0003】
そこで、特許文献1(特開2003−293954号公報)に開示されるスクロール圧縮機は、油上がりの発生を抑える機構を有している。この圧縮機は、ハウジングの軸受部とクランク軸との間の摺動面を潤滑した潤滑油が、ハウジングの下端から漏れ出すことを抑える構造を有している。ハウジングの下端から潤滑油が漏れ出すと、圧縮冷媒の吐出管と連通する高圧空間に潤滑油が供給されるので、油上がりの原因となりやすい。そこで、この圧縮機のハウジングは、摺動面を潤滑した潤滑油を、ハウジングの軸受部の上方の空間であるクランク室に導く給油路を備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような圧縮機では、モータの運転周波数および運転差圧が増加して摺動面への給油量が増加すると、クランク室へ潤滑油が過剰に流入してしまう。そして、クランク室への流入量がクランク室からの排油量を上回ると、クランク室に潤滑油が充満し、クランク室内の圧力が上昇するため、ハウジング下端からの潤滑油の漏れ量が増え、油上がりが増加する。
【0005】
本発明の目的は、油上がりの発生を効果的に抑えることができる圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る圧縮機は、ケーシングと、圧縮機構と、クランク軸と、ハウジングと、給油機構と、エゼクタ機構とを備える。ケーシングは、潤滑油を貯留する油貯留部を底部に有する。圧縮機構は、ケーシングの内部に収容される。圧縮機構は、冷媒を圧縮する。クランク軸は、ケーシングの内部に収容される。クランク軸は、圧縮機構を駆動する。ハウジングは、ケーシングの内部に収容される。ハウジングは、軸受部を有する。軸受部は、クランク軸を回転自在に支持する。ハウジングは、圧縮冷媒流路が形成されている。圧縮冷媒流路は、圧縮機構から吐出された圧縮冷媒をケーシングの内部の高圧空間に導く。給油機構は、油貯留部に貯留される潤滑油を軸受部に供給する。圧縮冷媒流路は、端部に狭窄部を有する。ハウジングには、油貯留空間と、油戻し流路とがさらに形成されている。油貯留空間は、軸受部に供給された潤滑油を貯留する。油戻し流路は、油貯留空間と連通し狭窄部の近傍の空間に開口する。エゼクタ機構は、冷媒加速流路と、油吸引流路とを有する。冷媒加速流路は、圧縮冷媒が狭窄部を流れることにより圧縮冷媒の流速を増大させる。油吸引流路は、油戻し流路から潤滑油を吸引し冷媒加速流路と合流する。
【0007】
第1観点に係る圧縮機は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機などである。この圧縮機では、ケーシングの底部に貯留された潤滑油が、例えば、クランク軸に形成された鉛直方向の給油路を差圧により上昇して、ハウジングの軸受部に供給される。この軸受部では、ハウジングは、クランク軸と摺動する。軸受部を潤滑した潤滑油の一部は、ハウジングに形成された油貯留空間に貯留される。この油貯留空間は、ハウジングに形成された油戻し流路に連通する。一方、この圧縮機を備える冷媒回路を循環する冷媒は、圧縮機構によって圧縮された後、ハウジングに形成された圧縮冷媒流路を通過して、高圧空間に供給される。この圧縮冷媒流路には、高圧空間側の端部に狭窄部が形成されている。ハウジングの油戻し流路は、この狭窄部の近傍の高圧空間に連通する。
【0008】
この圧縮機では、圧縮機構から吐出された圧縮冷媒は、ハウジングの圧縮冷媒流路の狭窄部を通過することによって、流速が上昇する。加速された圧縮冷媒は、エゼクタ効果によって、ハウジングの油戻し流路内に負圧を発生させる。その結果、油戻し流路では、油貯留空間から高圧空間へ向かう吸引力が発生するので、油貯留空間に貯留された潤滑油は、油戻し流路を通って、高圧空間へ吸引される。吸引された潤滑油は、圧縮冷媒と合流した後、ケーシング底部の油貯留部に落下する。すなわち、この圧縮機のエゼクタ機構は、ハウジングの圧縮冷媒流路および高圧空間からなる冷媒加速流路と、ハウジングの油戻し流路からなる油吸引流路とから構成される。
【0009】
この圧縮機では、軸受部を潤滑した潤滑油は、ハウジングに形成された油貯留空間に貯留された後、エゼクタ機構によって直ちに高圧空間へ吸引される。そのため、軸受部を潤滑した潤滑油は、ハウジングの下端から高圧空間に漏れ出さない。ハウジングの下端から漏れ出した潤滑油は、圧縮冷媒をケーシング外部に吐出する吐出管に向かって飛散されるおそれがあり、油上がりの原因となりやすい。従って、第1観点に係る圧縮機は、油上がりの発生を効果的に抑えることができる。
【0010】
本発明の第2観点に係る圧縮機は、第1観点に係る圧縮機であって、油貯留空間は、軸受部の内周面に設けられる円周溝である。
【0011】
第2観点に係る圧縮機では、円周溝は、ハウジングの下端部に形成されている。ハウジングの軸受部を潤滑して流下した潤滑油は、ハウジングの下端から高圧空間に漏れ出すことなく、円周溝に貯留される。
【0012】
本発明の第3観点に係る圧縮機は、第1観点または第2観点に係る圧縮機であって、ハウジングは、ブッシュを有する。ブッシュは、油貯留空間より上方において、軸受部の内周面に取り付けられ、かつ、クランク軸と接触する。
【0013】
第3観点に係る圧縮機では、ハウジングとクランク軸との摺動性が、ブッシュによって向上される。ブッシュは、油貯留空間より下方のシール部には取り付けられていない。クランク軸とブッシュとの間を潤滑して流下し、油貯留空間に貯留された潤滑油は、ハウジングの下端から高圧空間に漏れ出さない。
【0014】
本発明の第4観点に係る圧縮機は、第1観点乃至第3観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、ハウジングは、軸受部に供給された潤滑油を、軸受部の上方の空間に導く油回収流路を有する。
【0015】
第4観点に係る圧縮機では、軸受部に供給された潤滑油の一部は、油回収流路を上昇して軸受部の上方の空間に供給される。軸受部の上方の空間とは、例えば、ハウジングの上端面に形成された凹状のクランク室である。クランク室に流入した潤滑油は、ハウジングに形成された排油路を通過して、ケーシング底部に落下する。
【0016】
この圧縮機では、モータの運転周波数および運転差圧が増加することにより摺動部への給油量が増加して、ハウジングの油貯留空間に許容量以上の潤滑油が供給されるおそれがある場合に、過剰分の潤滑油が、油回収流路を介してクランク室に供給される。これにより、油貯留空間に許容量以上の潤滑油が供給されることによって、潤滑油がハウジングの下端から高圧空間に漏れ出すことを抑えることができる。従って、第4観点に係る圧縮機は、油上がりの発生をより効果的に抑えることができる。
【0017】
本発明の第5観点に係る冷凍装置は、第1観点乃至第4観点のいずれか1つに係る圧縮機と、凝縮器と、膨張機構と、蒸発器と、を備える。
【0018】
第5観点に係る冷凍装置は、油上がりの発生を効果的に抑えることができる圧縮機を備える。従って、この冷凍装置は、圧縮機の冷凍能力および成績係数の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1観点乃至第4観点に係る圧縮機は、油上がりの発生を効果的に抑えることができる。
【0020】
本発明の第5観点に係る冷凍装置は、圧縮機の冷凍能力および成績係数の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機を備える冷媒回路の概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機のハウジングの外観図である。
【図4】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機のハウジングの縦断面を含む外観図である。
【図5】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機のクランク軸の上部の外観図である。
【図6】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機のエゼクタ機構の近傍の縦断面図である。
【図7】本発明の変形例Cに係るスクロール圧縮機のハウジングの縦断面を含む外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係る圧縮機について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る圧縮機は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機である。スクロール圧縮機は、互いに噛合する2つのスクロールの一方のスクロールが自転することなく他方のスクロールに対して公転することにより、冷媒を圧縮する圧縮機である。
【0023】
(1)圧縮機の構成
スクロール圧縮機101は、主に、ケーシング10と、圧縮機構15と、モータ16と、クランク軸17と、ハウジング23と、エゼクタ機構91とから構成される。スクロール圧縮機101は、冷媒を循環する冷凍サイクルを繰り返す冷媒回路において、冷媒ガスを圧縮する役割を担う。図1は、スクロール圧縮機101の縦断面図である。図2は、スクロール圧縮機101、凝縮器103、膨張機構104および蒸発器105を備える冷媒回路の概略図である。
【0024】
(1−1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とから構成される。ケーシング10は、ケーシング10の内部および外部において圧力や温度が変化した場合に、変形および破損が起こりにくい剛性部材で成型されている。ケーシング10は、胴部ケーシング部11の略円筒状の軸方向が鉛直方向に沿うように設置される。
【0025】
ケーシング10の内部には、圧縮機構15と、圧縮機構15の下方に配置されるハウジング23と、ハウジング23の下方に配置されるモータ16と、鉛直方向に延びるように配設されるクランク軸17などが収容されている。ケーシング10の壁部には、吸入管19および吐出管20が気密状に溶接されている。
【0026】
ケーシング10の底部には、潤滑油を貯留するための空間である油貯留部Pが形成されている。潤滑油は、スクロール圧縮機101の運転中において、圧縮機構15などの摺動部の潤滑性を良好に保つために使用される。
【0027】
(1−2)圧縮機構
圧縮機構15は、ケーシング10の内部に収容され、低温低圧の冷媒ガスを吸引し、圧縮し、高温高圧の冷媒ガス(以下、「圧縮冷媒」という。)を吐出する。圧縮機構15は、主に、固定スクロール部品24と、旋回スクロール部品26とから構成される。
【0028】
固定スクロール24は、第1鏡板24aと、第1鏡板24aに直立して形成される渦巻形状(インボリュート状)の第1ラップ24bとを有する。固定スクロール24には、主吸入孔(図示せず)と、主吸入孔に隣接する補助吸入孔(図示せず)とが形成されている。主吸入孔は、吸入管19と、後述する圧縮室40とを連通する。補助吸入孔は、後述する低圧空間S2と、圧縮室40とを連通する。また、第1鏡板24aの中央部には、吐出孔41が形成され、第1鏡板24aの上面には、吐出孔41と連通する拡大凹部42が形成されている。この拡大凹部42は、第1鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる空間である。固定スクロール24の上面には、この拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aにより固定されている。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることにより圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24と蓋体44とは、ガスケット(図示せず)を介して密着させることによりシールされている。また、固定スクロール24には、マフラー空間45と連通し、固定スクロール24の下面に開口する第1圧縮冷媒流路46が形成されている。
【0029】
旋回スクロール26は、第2鏡板26aと、第2鏡板26aに直立して形成される渦巻形状(インボリュート状)の第2ラップ26bとを有する。第2鏡板26aの下面中央部には、上端軸受26cが形成されている。第2鏡板26aの内部には、給油細孔63が形成されている。給油細孔63は、第2鏡板26aの上面外周部と、上端軸受26cの内側の空間とを連通する。
【0030】
固定スクロール24および旋回スクロール26は、第1ラップ24bと第2ラップ26bとが噛合することにより、第1鏡板24aと、第1ラップ24bと、第2鏡板26aと、第2ラップ26bとによって囲まれる空間である圧縮室40を形成する。この圧縮室40の体積は、旋回スクロール26の公転運動によって増減する。
【0031】
(1−3)ハウジング
図3は、ハウジング23の外観図である。図4は、ハウジング23の縦断面を含む外観図である。ハウジング23は、圧縮機構15の下方に配置され、その外周面がケーシング10の内壁に気密状に接合されている。このため、ケーシング10の内部は、ハウジング23の下方の高圧空間S1と、ハウジング23の上方の低圧区間S2とに区画されている。ハウジング23は、ボルトなどで固定することによって固定スクロール24を載置し、後述するオルダム継手39を介して、固定スクロール24とともに旋回スクロール26を挟持している。ハウジング23の外周部には、鉛直方向に第2圧縮冷媒流路48が貫通して形成されている。この第2圧縮冷媒流路48は、ハウジング23の上端面において第1圧縮冷媒流路46と連通し、ハウジング23の下端面において吐出口49を介して高圧空間S1と連通する。第2圧縮冷媒流路48は、高圧空間S1側の端部において、上方から下方に向かって、水平方向の断面積が徐々に小さくなる狭窄部94を有する。
【0032】
ハウジング23の上面には、クランク室S3が凹設されている。また、ハウジング23には、ハウジング貫通孔31が形成されている。ハウジング貫通孔31は、クランク室S3の底面中央部から、ハウジング23の下端面中央部まで、ハウジング23を鉛直方向に貫通して形成される空間である。以下、ハウジング23の一部であり、かつ、ハウジング貫通孔31が形成されている部分を、上部軸受32という。上部軸受32は、クランク軸17を回転自在に支持する。上部軸受32の内周面には、ブッシュ33が取り付けられている。ブッシュ33は、内面をすべり面とする円筒状の部材である。なお、クランク室S3には、旋回スクロール26の上端軸受26cが配置されている。
【0033】
本実施形態では、ハウジング23には、さらに、円周溝34、油戻し流路35および油回収流路36が形成されている。円周溝34は、図4に示されるように、ハウジング23の下端面の近傍の高さ位置において、上部軸受32の内周面に形成される環状の溝である。油戻し流路35は、円周溝34が形成されている高さ位置において、水平方向に形成される通路である。油戻し流路35の一方の端部は、円周溝34と連通し、他方の端部は、ハウジング23の外周面に開口して高圧空間S1と連通する。油回収流路36は、上部軸受32の内周面の近傍において、鉛直方向に形成される通路である。油回収流路36は、その上端がクランク室S3に開口し、その下端が円周溝34よりも上方に位置している。油回収流路36の下端部は、後述するように、クランク軸17の外周面に形成される環状の溝である外周溝17aと連通している。
【0034】
(1−4)オルダム継手
オルダム継手39は、旋回スクロール26の自転運動を防止するための環状の部材である。オルダム継手39は、ハウジング23に形成されている長円形状のオルダム溝23aに嵌め込まれている。
【0035】
(1−5)モータ
モータ16は、ケーシング10の内部に収容され、ハウジング23の下方に配設されるブラシレスDCモータである。モータ16は、主に、ケーシング10の内壁に固定されるステータ51と、このステータ51の内側に僅かな間隙(エアギャップ)を設けて回転自在に収容されるロータ52とから構成される。
【0036】
ステータ51は、導線が巻き付けられているコイル部と、電磁鋼板を溶接またはかしめによって積層した積層部とからなり、コイル部の上方および下方に形成されているコイルエンド53とを有する。また、ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り、かつ、周方向に所定間隔をおいて、切欠形成されている複数のコアカット部(図示せず)が設けられている。このコアカット部は、胴部ケーシング部11とステータ51との間を鉛直方向に延びるモータ冷却通路55を形成する。
【0037】
ロータ52は、その回転中心を鉛直方向に貫通するクランク軸17に連結されている。ロータ52は、クランク軸17を介して、圧縮機構15と接続されている。ロータ52は、その下端面に、下部バランスウェイト54が取り付けられている。下部バランスウェイト54の下面および側面は、下部バランスカバー54aによって覆われている。
【0038】
(1−6)下部軸受
下部軸受60は、モータ16の下方に配置され、その外周面においてケーシング10の内壁に気密状に接合されている部材である。下部軸受60は、クランク軸17を回転自在に支持する。
【0039】
(1−7)油分離板
油分離板73は、ケーシング10の内部に収容される平板状の部材である。油分離板73は、下部軸受60の上端面に固定されている。
【0040】
(1−8)クランク軸
図5は、クランク軸17の上部の外観図である。クランク軸17は、ケーシング10の内部に収容され、その軸方向が鉛直方向に沿うように配設されている。クランク軸17は、図1に示されるように、その上端部の軸心が上端部を除く部分の軸心に対してわずかに偏心している形状を有している。クランク軸17は、ハウジング23の下方かつモータ16の上方の高さ位置における外周面において、上部バランスウェイト18が密着して固定されている。上部バランスウェイト18の上面および側面は、上部バランスカバー18aによって覆われている。
【0041】
クランク軸17は、ロータ52の回転中心を鉛直方向に貫通してロータ52に連結されている。クランク軸17は、その上端部が上端軸受26cに嵌入することで、旋回スクロール26と接続されている。また、クランク軸17は、上部軸受32および下部軸受60によって支持されている。すなわち、クランク軸17の外周面は、上端軸受26cと、上部軸受32と、下部軸受60と摺動する。
【0042】
クランク軸17は、軸方向に延びている主給油路61を内部に有する。主給油路61の上端は、クランク軸17の上端面と第2鏡板26aの下面とによって形成される油室83と連通している。この油室83は、第2鏡板26aの給油細孔63を介して、固定スクロール24と旋回スクロール26との摺動部(以下、「圧縮機構15の摺動部」という)に連通し、最終的に低圧空間S2に連通する。また、主給油路61の下端は、高圧空間S1の油貯留部Pに連通する。
【0043】
クランク軸17は、主給油路61から分岐する第1副給油路61a、第2副給油路61bおよび第3副給油路61cを有する。第1副給油路61a、第2副給油路61bおよび第3副給油路61cは、それぞれ、主給油路61に対して直交して形成されている。第1副給油路61aは、上端軸受26cと摺動するクランク軸17の外周面に開口する。第2副給油路61bは、上部軸受32と摺動するクランク軸17の外周面に開口する。第3副給油路61cは、下部軸受60と摺動するクランク軸17の外周面に開口する。
【0044】
クランク軸17は、上部軸受32と摺動する外周面に形成される環状の溝である外周溝17aを有する。外周溝17aは、ハウジング23の円周溝34より上方、かつ、第2副給油路61bより下方の高さ位置に形成される。外周溝17aは、ハウジング23の油回収流路36の下端部と連通する。
【0045】
(1−9)エゼクタ機構
エゼクタ機構91は、ハウジング23の第2圧縮冷媒流路48の下端の近傍に位置する。図6は、エゼクタ機構91の近傍における、スクロール圧縮機101の縦断面図である。エゼクタ機構91は、冷媒加速流路95aと、油吸引流路95bとから構成される。
【0046】
冷媒加速流路95aは、狭窄部94を有する第2圧縮冷媒流路48、および、第2圧縮冷媒流路48の下方の高圧空間S1に存在する流路である。第2圧縮冷媒流路48の下方の高圧空間S1には、ガスガイド92が配置されている。ガスガイド92は、ケーシング10の内壁面に密着して固定される板状の部材である。ガスガイド92とケーシング10の内壁面との間の空間は、上端および下端が開口し、かつ、上方から下方に向かって徐々に狭くなっている。冷媒加速流路95aにおいて、圧縮機構15によって圧縮された冷媒は、第2圧縮冷媒流路48を通過して高圧空間S1に流入し、ガスガイド92とケーシング10の内壁面との間の空間を下方に向かって流れる。
【0047】
油吸引流路95bは、油戻し流路35、および、第2圧縮冷媒流路48の下方の高圧空間S1に存在する流路である。油吸引流路95bは、高圧空間S1において冷媒加速流路95aと合流する。油吸引流路95bにおいて、円周溝34に貯留された潤滑油は、油戻し流路35を通過して高圧空間S1に流入し、高圧空間S1において冷媒加速流路95aを流れる圧縮冷媒と合流する。
【0048】
(1−10)吸入管
吸入管19は、ケーシング10の外部から圧縮機構15へ、冷媒回路の冷媒を導入するための管状部材である。吸入管19は、ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。吸入管19は、低圧空間S2を鉛直方向に貫通するとともに、内端部が固定スクロール24に嵌入されている。
【0049】
(1−11)吐出管
吐出管20は、高圧空間S1からケーシング10の外部へ、圧縮冷媒を吐出するための管状部材である。吐出管20は、ケーシング10の胴部ケーシング部11に気密状に嵌入されている。吐出管20は、高圧空間S1を水平方向に貫通するとともに、ケーシング10内にある開口部20aが、ハウジング23の近傍に位置している。
【0050】
(2)圧縮機の動作
本実施形態におけるスクロール圧縮機101の動作について説明する。最初に、スクロール圧縮機101を備える冷媒回路を循環する冷媒の流れについて説明する。次に、スクロール圧縮機101内部における潤滑油の流れについて説明する。
【0051】
(2−1)冷媒の流れ
最初に、モータ16が駆動することによって、ロータ52が回転する。これにより、ロータ52に固定されているクランク軸17が、軸回転運動を行う。クランク軸17の軸回転運動は、上端軸受26cを介して旋回スクロール26に伝達される。クランク軸17の上端部の軸心は、クランク軸17の軸回転運動の軸心に対して偏心している。また、旋回スクロール26は、オルダム継手39によって自転が防止される。これにより、旋回スクロール26は、自転することなく、固定スクロール24に対して公転運動を行う。
【0052】
圧縮前の低温低圧の冷媒は、吸入管19から主吸入孔を経由して、又は、低圧空間S2から補助吸入孔を経由して、圧縮機構15の圧縮室40に吸引される。旋回スクロール26の旋回運動により、圧縮室40は体積を徐々に減少させながら固定スクロール24の外周部から中心部へ向かって移動する。その結果、圧縮室40の冷媒は圧縮されて圧縮冷媒となる。圧縮冷媒は、吐出孔41からマフラー空間45へ吐出された後、第1圧縮冷媒流路46および第2圧縮冷媒流路48を経由して、吐出口49から高圧空間S1へ供給される。そして、圧縮冷媒は、ガスガイド92と胴部ケーシング部11との間の空間を下方に向かって流れた後、モータ冷却通路55を下降して、モータ16の下方の高圧空間S1に到達する。そして、圧縮冷媒は、流れの向きを反転させて、他のモータ冷却通路55およびエアギャップを上昇する。最終的に、圧縮冷媒は、吐出管20からスクロール圧縮機101の外部に吐出される。
【0053】
(2−2)潤滑油の流れ
最初に、モータ16が駆動することによって、ロータ52が回転する。これにより、ロータ52に固定されているクランク軸17が、軸回転運動を行う。クランク軸17の軸回転運動によって圧縮機構15が駆動し、高圧空間S1に圧縮冷媒が吐出されると、高圧空間S1の圧力が上昇する。一方、主給油路61の上端は、油室83および給油細孔63を介して低圧空間S2に連通している。これにより、主給油路61の上端と下端との間において圧力差が発生する。その結果、主給油路61が、差圧ポンプによる給油機構として作用するので、高圧空間S1側の油貯留部Pに貯留される潤滑油は、主給油路61を上昇して、低圧空間S2側の油室83に向かって吸引される。
【0054】
主給油路61を上昇して油室83まで到達した潤滑油は、給油細孔63を経由して、圧縮機構15の摺動部に供給される。圧縮機構15の摺動部を潤滑した潤滑油は、低圧空間S2および圧縮室40に漏れ出す。このとき、高温高圧である潤滑油は、低圧空間S2および圧縮室40に存在する圧縮される前の冷媒を加熱する。また、潤滑油は、油滴の状態で圧縮冷媒に含有される。圧縮冷媒に含有される潤滑油は、圧縮冷媒と同じ経路を通って、圧縮室40から高圧空間S1へ吐出される。そして、潤滑油は、圧縮冷媒とともにモータ冷却通路55を下降した後、一部が油分離板73に衝突する。このとき、油分離板73に付着した潤滑油は、高圧空間S1を落下して油貯留部Pに貯留される。
【0055】
一方、主給油路61を上昇する潤滑油の多くは、第1副給油路61a、第2副給油路61bおよび第3副給油路61cに供給される。第1副給油路61aを流れる潤滑油の内、クランク軸17と上端軸受26cとの摺動部を潤滑した後、上端軸受26cの下端側に流れた潤滑油は、クランク室S3に流入し、一方、上端軸受26cの上端側に流れた潤滑油は、油室83に漏れ、主給油路61を直接上昇した潤滑油と合流する。第2副給油路61bを流れる潤滑油は、クランク軸17と上部軸受32との摺動部であるブッシュ33を潤滑した後、油回収流路36および円周溝34に流出する。油回収流路36に流出した潤滑油は、油回収流路36を上昇して、クランク室S3に流れる。円周溝34に流出した潤滑油は、後述するように、エゼクタ機構91によって油戻し流路35を介して高圧空間S1に吸引される。第3副給油路61cを流れる潤滑油は、クランク軸17と下部軸受60との摺動部を潤滑して高圧空間S1に漏れ出した後、高圧空間S1を落下して油貯留部Pに貯留される。
【0056】
次に、エゼクタ機構91によって、クランク軸17と上部軸受32との摺動部を潤滑した潤滑油が、油戻し流路35を介して高圧空間S1に吸引される機構について説明する。圧縮機構15から吐出された圧縮冷媒は、エゼクタ機構91を通過する際に、冷媒加速流路95aを流れる。このとき、圧縮冷媒は、第2圧縮冷媒流路48の狭窄部94で流路を絞られるので、流速が増大される。冷媒加速流路95aは、圧縮冷媒が狭窄部94を通過した先の高圧空間S1で油吸引流路95bと合流するので、エゼクタ効果によって、油吸引流路95bを構成する油戻し流路35に負圧が発生する。これにより、油戻し流路35と連通する円周溝34の潤滑油が、油戻し流路35を介して高圧空間S1に吸引される。高圧空間S1に吸引された潤滑油は、冷媒加速流路95aにおける圧縮冷媒の流れと合流した後、高圧空間S1を落下して油貯留部Pに貯留される。
【0057】
(3)圧縮機の特徴
(3−1)
本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、ケーシング10底部の油貯留部Pに貯留された潤滑油は、クランク軸17の主給油路61を上昇して、ケーシング10内の摺動部に供給される。主給油路61を上昇する潤滑油の一部は、第2副給油路61bを経由して、クランク軸17と上部軸受32との摺動部に供給され、ブッシュ33を潤滑する。ブッシュ33を潤滑して流下した潤滑油は、円周溝34に貯留され、エゼクタ機構91によって、直ちに油戻し流路35を介して高圧空間S1に吸引される。その後、潤滑油は、圧縮冷媒の流れに合流して、高圧空間S1を落下して油貯留部Pに回収される。
【0058】
本実施形態では、ハウジング23の上部軸受32の内周面に円周溝34を設けることによって、ブッシュ33を潤滑した潤滑油を円周溝34に一時的に貯留して、ハウジング23の下端(すなわち、クランク軸17と上部軸受32との摺動部の下端)から高圧空間S1に潤滑油が漏れ出すことを抑えることができる。ハウジング23の下端から漏れ出した潤滑油は、上部バランスウエイト18を覆う上部バランスカバー18aの上端面に付着して、クランク軸17に作用する遠心力によって、吐出管20の開口部20aに向かって飛散するおそれがある。そのため、ハウジング23の下端から潤滑油が漏れ出すと、油上がりが発生しやすい。従って、本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、ハウジング23の上部軸受32の内周面に円周溝34を設けることによって、油上がりの発生を効果的に抑えることができる。
【0059】
(3−2)
本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、ハウジング23には、油回収流路36が形成されている。油回収流路36は、ブッシュ33を潤滑した潤滑油の内、下端側に漏れ出した潤滑油をクランク室S3に戻す通路である。
【0060】
ハウジング23に油回収流路36が形成されていないスクロール圧縮機では、モータ16の運転周波数および運転差圧が増加してブッシュ33への給油量が増加すると、円周溝34に許容量以上の潤滑油が流出するおそれがある。この場合、円周溝34に過剰に貯留された潤滑油は、円周溝34内の圧力を上昇させるため、ハウジング23の下端から漏れ出してしまう可能性がある。本実施形態では、ブッシュ33を潤滑した潤滑油の一部は、油回収流路36を介してクランク室S3に戻される。クランク室S3に戻された潤滑油は、ハウジング23に形成された排油路(図示せず)を介して、高圧空間S1に流れ、高圧空間S1を落下して油貯留部Pに貯留される。従って、本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、円周溝34に潤滑油が過剰に流れ込むことがないため、油上がりの発生を効果的に抑えることができる。
【0061】
(3−3)
本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、ブッシュ33を潤滑して円周溝34に貯留された潤滑油を高圧空間S1に吸引するためのエゼクタ機構91は、主に、ハウジング23に形成された第2圧縮冷媒流路48および油戻し流路35から構成され、可動部を有さない。従って、本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、エゼクタ機構91の据付および保守が簡便である。
【0062】
(4)変形例
(4−1)変形例A
本実施形態では、圧縮機として、固定スクロール部品24と旋回スクロール部品26とから構成される圧縮機構15を備えるスクロール圧縮機101が用いられているが、他のタイプの圧縮機構を備える圧縮機が用いられてもよい。例えば、ロータリー式の圧縮機やスクリュー式の圧縮機が用いられてもよい。
【0063】
(4−2)変形例B
本実施形態では、ハウジング23には、油回収流路36が形成されているが、油回収流路36が形成されていなくてもよい。
【0064】
(4−3)変形例C
本実施形態では、ハウジング23に形成される第2圧縮冷媒流路48の狭窄部94は、図6に示されるように、第2圧縮冷媒流路48の高圧空間S1側の端部に形成されている。しかし、図7に示されるように、ハウジング23に形成される第2圧縮冷媒流路148の狭窄部194が、第2圧縮冷媒流路148の両端部の間の高さ位置に形成されてもよい。本変形例に係るスクロール圧縮機201でも、第2圧縮冷媒流路148を通過する圧縮冷媒の流速が増大されるので、円周溝34に貯留された潤滑油は、エゼクタ効果によって油戻し流路35を介して高圧空間S1に吸引される。従って、本変形例に係るスクロール圧縮機201では、油上がりの発生を効果的に抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る圧縮機は、油上がりの発生を効果的に抑えることができる。
【符号の説明】
【0066】
10 ケーシング
15 圧縮機構
17 クランク軸
23 ハウジング
32 上部軸受(軸受部)
33 ブッシュ
34 円周溝(油貯留空間)
35 油戻し流路
36 油回収流路
48 第2圧縮冷媒流路(圧縮冷媒流路)
61 主給油路(給油機構)
91 エゼクタ機構
94 狭窄部
95a 冷媒加速流路
95b 油吸引流路
101 スクロール圧縮機(圧縮機)
103 凝縮器
104 膨張機構
105 蒸発器
P 油貯留部
S1 高圧空間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0067】
【特許文献1】特開2003−293954号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を貯留する油貯留部(P)を底部に有するケーシング(10)と、
前記ケーシングの内部に収容され、冷媒を圧縮する圧縮機構(15)と、
前記ケーシングの内部に収容され、前記圧縮機構を駆動するクランク軸(17)と、
前記ケーシングの内部に収容され、前記クランク軸を回転自在に支持する軸受部(32)を有し、前記圧縮機構から吐出された圧縮冷媒を前記ケーシングの内部の高圧空間(S1)に導く圧縮冷媒流路(48)が形成されているハウジング(23)と、
前記油貯留部に貯留される潤滑油を前記軸受部に供給する給油機構(61)と、
エゼクタ機構(91)と、
を備え、
前記圧縮冷媒流路は、端部に狭窄部(94)を有し、
前記ハウジングには、前記軸受部に供給された潤滑油を貯留する油貯留空間(34)と、前記油貯留空間と連通し前記狭窄部の近傍の空間に開口する油戻し流路(35)とがさらに形成されており、
前記エゼクタ機構は、前記圧縮冷媒が前記狭窄部を流れることにより前記圧縮冷媒の流速を増大させる冷媒加速流路(95a)と、前記油戻し流路から潤滑油を吸引し前記冷媒加速流路と合流する油吸引流路(95b)とを有する、
圧縮機(101)。
【請求項2】
前記油貯留空間は、前記軸受部の内周面に設けられる円周溝(34)である、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記油貯留空間より上方において、前記軸受部の内周面に取り付けられ、かつ、前記クランク軸と接触するブッシュ(33)を有する、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記軸受部に供給された潤滑油を、前記軸受部の上方の空間に導く油回収流路(36)を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の圧縮機と、凝縮器(103)と、膨張機構(104)と、蒸発器(105)と、を備える、
冷凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108389(P2013−108389A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252800(P2011−252800)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】