説明

圧縮機及び圧縮機を搭載した車両用空調装置

【課題】車両が坂道走行した時に圧縮機の姿勢が上下左右に傾いても、圧縮機構部へのオイル供給が途絶えること無く、安定した潤滑状態を保つようにする。
【解決手段】圧縮機の上部吐出室15と下部貯油室9とを区画分離する区画壁8aを備え、仕切り板22の上部に吐出室へ連通するガス連通穴23を、仕切り板の下端には冷凍機油が貯油室へ流入するオイル連通穴24を設けた構成としてあり、コンプケース下部に溜まっている冷凍機油が吐出ガス冷媒の動圧で押されて貯油室へ流入し、かつ貯油室が他の空間と区画壁で区画分離されているので、冷凍機油が貯油室から出て行き難くなってそのまま溜まり、貯油室のオイルレベルを給油口より高く維持することができ、安定して給油口より圧縮機構部へオイル供給することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス冷媒の吸入、圧縮および吐出を行う圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動するモータとを密閉容器内に収納し、前記モータをモータ駆動回路により駆動する圧縮機に関するもので、特に電気自動車やハイブリッド車向け等の横置型の空調用圧縮機に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に冷凍サイクルに用いられる圧縮機には、摺動部の信頼性を確保するため冷凍機油が封入されている。冷凍機油と吐出ガス冷媒とは互いに混ざり合うため、吐出ガス冷媒と供に冷凍機油が冷凍サイクルに送出してしまわないよう、圧縮機内で冷凍機油と吐出ガス冷媒を効率よく分離し、冷凍機油を摺動部に安定的に供給するための様々な方法が考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1で開示されている圧縮機では、吐出パイプを備えた吐出空間部分とモータを収納する部分とを、上部及び下部に開口を設けた仕切り部材により仕切り、モータを収納する部分の油面を低下させ、モータの回転子により冷凍機油が攪拌され冷媒ガスと共に吐出されることを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3124335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成では、回転子下端近傍まで冷凍機油を多量に封入しているが、これでは冷凍サイクル中へ吐出される冷凍機油が多くなり過ぎて空調装置の冷凍能力や冷凍サイクルの効率を下げてしまう。
【0006】
これを解決するには信頼性を損なわない程度に冷凍機油封入量を減らすのが一般的な手法であるが、そうすると密閉容器側の油面が支持板切欠きより下回ってしまう。このような状態になると、吐出ガス冷媒が支持板と分離板の間を抜けて下部に溜まっている冷凍機油を上方へ巻き上げてしまい、吐出パイプから冷凍サイクル中へ吐き出してしまう冷凍機油量が増加し、給油管部近傍の油面が低下してしまうとともに、下部に溜まっている冷凍機油にも吐出ガス冷媒が流入し多くの吐出ガス冷媒が混入している状態となるため、ガス成分が多い冷凍機油が給油管を介して圧縮機構部へ供給されることになり、潤滑性が悪化して、圧縮機の信頼性を低下させるという課題を有していた。
【0007】
また、前記従来の圧縮機を車両に搭載した場合に、車両は坂道走行をするので、圧縮機の搭載姿勢は常に上下左右に傾き、圧縮機下部に溜まっている冷凍機油の液面も車両の動きに連動して上下左右に傾いてしまう。
【0008】
例えば、特許文献1の圧縮機が、圧縮機構部側が下に、吐出空間部分側が上に傾いた場合には、冷凍機油が圧縮機構部側へ偏って、給油管近傍には冷凍機油が溜まらない状態となってしまう。このような状態になると、給油管から冷凍機油が吸込まれず、圧縮機構部へ冷凍機油が供給されず、圧縮機構部が焼き付いたりする不具合を発生するなど耐久性を損なうという課題を有していた。更に冷凍機油を貯めるために支持板と分離板の2枚で構成しているので、部材が増えてコストアップとなるという課題も有していた。
【0009】
本発明はこのような従来の課題を解決するもので、圧縮機の姿勢が上下左右に傾いても、圧縮機構部へのオイル供給が途絶えること無く、安定した潤滑状態を保つようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決するために本発明は、モータおよび圧縮機構部を収納するコンプケースと、前記圧縮機構部により圧縮された吐出ガス冷媒を冷凍サイクルに送出する吐出口を有するリアケースと、前記コンプケースと前記リアケースとの間を仕切る仕切り板とを備え、前記リアケース内の空間との間を仕切る仕切り板とを備え、前記仕切り板と前記リアケースとの間に形成される空間の上部を吐出室、下部を貯油室とし、該貯油室内に設けた給油口から前記貯油室内の冷凍機油を前記圧縮機構部に供給する圧縮機であって、前記リアケース内に前記吐出室と前記貯油室とを区画分離する区画壁を設けるとともに、前記仕切り板の上部には、前記コンプケース内部の空間と前記吐出室とを連通するガス連通穴を設け、前記仕切り板の下部には、前記コンプケース内部の空間と前記貯油室とを連通するオイル連通穴を設けた構成としてある。
【0011】
これによって、吐出ガス冷媒の主流がモータ上部から仕切り板上部のガス連通穴を通って吐出室へと流れる一方、コンプケース下部に溜まっている冷凍機油は吐出ガス冷媒の動圧で押されてオイル連通穴から貯油室へ流入し、かつ貯油室が他の空間と区画壁で区画分離されているので、冷凍機油が貯油室から出て行き難くなってそのまま貯油室に溜まり、貯油室のオイルレベルがコンプケース下部に溜まっている油面より高くなり、少ない冷凍機油であっても給油口よりも高く維持することが出来る。よって、冷凍機油を給油口から圧縮機構部へ安定して供給することができ、圧縮機の信頼性を向上することが出来る。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、車両が坂道走行するなどして圧縮機の姿勢が上下左右に傾いても、圧縮機構部への冷凍機油供給が途絶え難く、安定した潤滑状態を保てるため圧縮機の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1における圧縮機の断面図
【図2】図1のA−A矢視断面図
【図3】本発明の実施の形態1における圧縮機と従来品のオイルレベルを示すグラフ
【図4】本発明の実施の形態2における圧縮機の断面図
【図5】図4のA−A矢視断面図
【図6】本発明の実施の形態2における圧縮機と従来品のオイルレベルを示すグラフ
【図7】本発明の実施の形態3における圧縮機の断面図
【図8】図7のA−A矢視断面図
【図9】本発明の実施の形態4における圧縮機の断面図
【図10】本発明の実施の形態5における圧縮機の断面図
【図11】本発明の実施の形態6を示し、圧縮機を搭載した車両の概略図
【図12】本発明の実施の形態6における圧縮機を傾斜した時の圧縮機の断面図
【図13】本発明の実施の形態6における圧縮機と従来品のオイルレベルを示すグラフ
【図14】本発明実施形態品と比較するための比較従来品における圧縮機の断面図
【図15】図14の比較従来品における圧縮機を傾斜した時の圧縮機の断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の発明は、モータおよび圧縮機構部を収納するコンプケースと、該圧縮機構部によ
り圧縮された吐出ガス冷媒を冷凍サイクルに送出する吐出口を有するリアケースと、前記コンプケースとリアケースとの間を仕切る仕切り板とを備え、前記仕切り板とリアケースとの間の上部を吐出室、下部を貯油室とし、当該貯油室内に開口させた給油口から貯油室内の冷凍機油を前記圧縮機構部に供給する圧縮機であって、前記吐出室と貯油室との間にこれらを区画分離する区画壁を設けるとともに、前記仕切り板の上部には吐出室に連通するガス連通穴を、下部には貯油室に連通する貯油室に連通するオイル連通穴を設けた構成としてある。
【0015】
これにより、吐出ガス冷媒の主流がモータ上部から仕切り板上部のガス連通穴を通って吐出室へと流れ、コンプケース下部に溜まっている冷凍機油は吐出ガス冷媒の動圧で押されて貯油室へ流入し、かつ貯油室が他の空間と区画壁で区画分離されているので、冷凍機油が貯油室から出て行き難くなってそのまま貯油室に溜まるので、貯油室のオイルレベルをコンプケース下部に溜まっている油面より高く維持することが出来る。よって、冷凍機油を少なくしても冷凍機油を給油口から圧縮機構部へ安定して供給することができ圧縮機の信頼性を向上することが出来る。また、従来例に比べて冷凍機油を貯めるための構成が仕切り板一枚で済み、区画壁もリアケースに一体形成すれば構成が簡単となりコストダウンを図ることが出来る。
【0016】
第2の発明は、特に第1の発明のオイル連通穴の開口部の上部を前記給油口よりも高い位置に設け、且つ前記モータのステータ・インシュレータ下端よりも低い位置に設けた構成としてあり、モータのロータとステータとの隙間やステータ内の巻き線間の隙間から吐出ガス冷媒が吐き出されても、直接吐出ガス冷媒がオイル通路に流入しないので、ガス冷媒成分が少ない冷凍機油が貯油室内に溜まることになり、ガス冷媒成分の少ない冷凍機油を圧縮機構部へ供給できて、圧縮機構部の潤滑性が良化し圧縮機の信頼性を向上することが出来る。
【0017】
第3の発明は、特に第1または第2の発明のガス連通穴は複数の穴からなり、そのうち少なくともひとつは前記区画壁近傍上部に設けた構成としてあり、吐出ガス冷媒より分離した冷凍機油が区画壁上部に溜まっても区画壁近傍上部のガス連通穴よりコンプケース内に戻るので、冷凍機油が吐出室下端に溜まり難い。そのため、吐出ガス冷媒が吐出室内の冷凍機油を巻き上げて吐出口から吐出ガス冷媒と一緒に冷凍サイクル中へ吐き出す冷凍機油をより低減することが出来、冷凍サイクルの冷凍能力や効率を向上することが出来る。
【0018】
第4の発明は、特に第1〜第3の発明において、前記貯油室の下端及び前記給油口は、前記オイル連通穴下端より低くした構成としてあり、給油口下端の油面レベルに必要な冷凍機油量が低減できる。従って、市場で冷凍機油が漏れて圧縮機に戻る冷凍機油量が減っても、従来に比べて確実に圧縮機構部へ給油できるようになるので、圧縮機の耐久性を向上することができる。
【0019】
第5の発明は、特に第4の発明において、前記給油口の下端と前記オイル連通穴の下端を結んだ角度θは水平線から45度以上となるように構成したものであり、車両が急加減速や旋回しても冷凍機油が貯油室から飛び出ずに残留するので、給油口から圧縮機構部へ冷凍機油を供給し続けるけることができて摺動部の潤滑を保つことができ、圧縮機の耐久性をより確実に向上することができる。
【0020】
第6の発明は、特に第1〜5のいずれかの発明の圧縮機を車両に搭載して構成した車両用空調装置であり、圧縮機の姿勢が上下左右に傾いて、特に圧縮機構部側が下に、リアケース側が上に傾いた場合でも、コンプケース下部に溜まっている冷凍機油は吐出ガス冷媒の動圧で押されて貯油室に流入し、貯油室が区画壁によって区画分離され、かつオイル通路がステータ・インシュレータ下端より低くオイル連通穴の面積が小さいので、吐出ガス
冷媒の動圧に押されて貯油室に流入した冷凍機油が貯油室から抜け難くなって溜まりやすくなり、貯油室のオイルレベルを給油口より上方に維持することが出来る。よって、圧縮機構部へのオイル供給が途絶えることは無く、安定した潤滑状態を保て、圧縮機の信頼性をより向上することができる。
【0021】
また、第4、第5の発明の圧縮機を用いたものにあっては、更に車両が急加減速や旋回しても冷凍機油が貯油室から飛び出ずに残留するので、給油口から圧縮部へ冷凍機油を供給し続けるけることができて摺動部の潤滑を保つことができ、圧縮機の耐久性を更に向上することができる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図13を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態における圧縮機の断面図である。この図1に示す圧縮機1はその胴部の周りにある取付け脚2によって横向きに設置される構成としてあり、密閉容器内に、モータ3と該モータ3からの駆動軸4によって駆動される圧縮機構部5とを収納し、駆動軸4がほぼ水平になるように設置されている。密閉容器は、モータ3および圧縮機構部5を収納するコンプケース6と、圧縮された吐出ガス冷媒を冷凍サイクルに送出する吐出口7を有するリアケース8とを備え、モータ3はコンプケース6に取り付けたインバータケース13内のモータ駆動回路部50によって駆動するようにしている。
【0023】
取り扱う流体はガス冷媒であり、冷凍機油は冷媒に対して相溶性のあるものである。しかし、本発明はこれらに限られることはない。基本的には、ガス冷媒の吸入、圧縮および吐出を行う圧縮機構部5と、この圧縮機構部5を駆動するモータ3と、圧縮機構部5を含む各摺動部の潤滑に供する冷凍機油を貯留する貯油室9と、吐出口7を備え、モータ3をモータ駆動回路部50により駆動する横置型圧縮機であればよく、以下の説明は特許請求の範囲の記載を限定するものではない。
【0024】
本実施の形態の横置型の圧縮機1の圧縮機構部5は、一つの例としてスクロール方式のものであって、図1に示すように固定スクロール10と旋回スクロール11を噛み合わせて圧縮空間12を形成し、前記旋回スクロール11をモータ3により駆動軸4を介して固定スクロール10に対し旋回運動をさせたときに、前記圧縮空間12が移動を伴い容積を変化させることにより外部サイクルから帰還する冷媒の吸入、圧縮および外部サイクルへの吐出を行う。この冷媒の吸入、圧縮および外部サイクルへの吐出は、インバータケース13に設けた吸入口14およびリアケース8に設けた吐出口7を通じて行う。リアケース8は上部が吐出室15、下部が貯油室9となっている。貯油室9の中にはポンプケース17の給油通路18からの給油口16が開口しており、ポンプ室19内の容積型ポンプ20などを駆動軸4にて駆動するか、コンプケース6内の差圧を利用するなどして、吸引するようになっている。吸引された冷凍機油は駆動軸4内の給油通路21を通じて圧縮機構部5へ給油している。
【0025】
リアケース8とコンプケース6との間は仕切り板22にて仕切り、当該仕切り板22とリアケース8との間を区画壁8aによって区画することにより吐出室15と貯油室9とを区画形成してある。図2に示すように仕切り板22の上部には複数のガス連通穴23が開けてあり、圧縮機構部5からの吐出ガス冷媒(白抜き矢印で表示)がガス連通穴23を通って吐出室15へ流入する。圧縮機構部5からの吐出ガス冷媒はコンプケース6内のモータ3などやリアケース8の壁に衝突することにより冷凍機油を分離する。また、仕切り板22の下端にはオイル連通穴24が設けてあり、コンプケース6下部に溜まっている冷凍機油は吐出ガス冷媒の動圧に押されてコンプケース6下部からオイル連通穴24を介して貯油室9に流入し、給油口16よりオイルレベルを高く維持される。このことにより冷凍
機油を少なくしていても冷凍機油を給油口16より安定的に吸入できることになる。
【0026】
一方、前記駆動軸4の給油路21を通じ圧縮機構部5へ供給された冷凍機油は、旋回スクロール11の旋回駆動に伴い旋回スクロール11の背面の液溜り25に供給する。この液溜り25に供給した冷凍機油の一部は旋回スクロール11の外周部のラップ反対面の背圧室26に、旋回スクロール鏡板11aを通じ、絞り27などによる所定の制限の基に供給し、固定スクロール10に設けた図示しない弁装置によりここに導いた背圧を所定量に調整し、旋回スクロール11を押圧しバックアップする。
【0027】
さらに、冷凍機油は旋回スクロール11を通じ固定スクロール10と旋回スクロール11との間のシールおよび潤滑剤として作用する。また、液溜り25に供給した冷凍機油の別の一部は、偏心ベアリング28、主ベアリング29を経ながら、それらベアリング28、29を潤滑した後、モータ3側に流出し、貯油室9へと回収される。
【0028】
なお、この圧縮機の容積型ポンプ20は仕切り板22とポンプケース17との間に保持し、駆動軸を支持する副ベアリング30は仕切り板22で支持している。また、ポンプケース17の内側に貯油室9に通じるポンプ室19を形成して給油通路18を介して貯油室9に通じるようにしてある。さらにモータ3はステータ3aをコンプケース6の内周に焼き嵌めなどして固定し、駆動軸4の途中まわりに固定したロータ3bとによって駆動軸4を回転駆動できるようにしている。主軸受部31は主ベアリング29を保持しており、駆動軸4の圧縮機構部5側を主ベアリング29により軸受している。
【0029】
主軸受部31には固定スクロール10を図示しないボルトなどによって取付け、これら主軸受部31と固定スクロール10との間に旋回スクロール11を挟み込んで圧縮機構部5を構成している。主軸受部31と旋回スクロール11の間には、旋回スクロール11の自転を防止して旋回運動させるためのオルダムリング32が設けられている。駆動軸4の端面には偏心軸4aが一体形成されており、偏心軸4aにはブッシュ33が嵌合して支持されている。
【0030】
ブッシュ33には旋回スクロール11が固定スクロール10と対向するように偏心ベアリング28を介して旋回運動可能に支持されている。旋回スクロール11の旋回スクロール鏡板11aの背面には筒部11bが突設されており、偏心ベアリング28は筒部11b内に収容されている。偏心ベアリング28の内輪は、ブッシュ33に嵌合されており、偏心ベアリング28の外輪は、筒部11bに嵌合されている。
【0031】
圧縮機構部5の外面は、インバータケース13で覆い、インバータケース13はボルトにてコンプケース6に固定し、リアケース8と軸線方向に反対側の端部壁13aを形成している。圧縮機構部5はインバータケース13の吸入口14とリアケース8の吐出口7との間に位置し、図示していない圧縮機構部5の吸入孔がインバータケース13の吸入口14と接続され、圧縮機構部5の吐出孔34がリード弁35を介して吐出室蓋36の側に開口して相互間を吐出弁室37としている。吐出弁室37は固定スクロール10および主軸受部31に形成した連絡通路38を通じて圧縮機構部5と仕切り板22との間の、モータ3側に通じている。連絡通路38は、吸入口14およびリード弁35などの構成上の制約から、モータ3の回転中心より下部に設けられている。
【0032】
モータ3のリード線3cは、インバータケース13に貫装された図示しない密封端子に接続され、さらに密封端子はモータ駆動回路50と接続されている。
【0033】
このようにして構成した圧縮機は、そのモータ3がモータ駆動回路部50により駆動され、駆動軸4を介して圧縮機構部5を旋回運動させるとともに、容積型ポンプ20を駆動
する。このとき圧縮機構部5は容積型ポンプ20により貯油室9の冷凍機油を供給されて潤滑、シールおよび押圧作用を受けながら、インバータケース13の吸入口14さらに圧縮機構部5の固定スクロール10に設けた図示しない吸入口を通じ冷凍サイクルからの帰還冷媒を吸入して、圧縮し、圧縮機構部5の吐出孔34から吐出弁室37に吐出する。吐出弁室37に吐出された冷媒は連絡通路38を通じてモータ3側に入り、モータ3を冷却しながら仕切り板22のガス連通穴23を通じてリアケース8の吐出室15を介し吐出口7から吐出されるまでの過程で、冷媒は衝突、絞りなどの気液分離を図って冷凍機油の分離をしながら、随伴している一部冷凍機油によって副ベアリング30の潤滑も行う。
【0034】
ここで、本実施の形態の圧縮機は、図1および図1のA−A矢視断面図である図2に示すように、特に、リアケース8には区画壁8aを設け、この区画壁8aによって吐出室15と貯油室9とを区画分離している。そして、仕切り板22の上部に吐出ガス冷媒が吐出室15へ流入するガス連通穴23を、また仕切り板22の下端に冷凍機油が貯油室9へ流入するオイル連通穴24を設けてある。具体的には仕切り板22の直径は112mm、ガス連通穴23は直径10mmで仕切り板上部に3箇所開けてある。また、オイル連通穴24は高さ22mm、幅30mmの穴としてある。
【0035】
以上の構成により、吐出ガス冷媒の主流はモータ3上部から仕切り板22上部のガス連通穴23を通り、またコンプケース6下部に溜まっている冷凍機油は吐出ガス冷媒の動圧で押されて貯油室9へ流入し、かつ貯油室9が他の空間と区画壁8aで区画分離されているので、冷凍機油が貯油室9から出て行き難くなってそのまま貯油室9に溜まることになり、貯油室9のオイルレベルをコンプケース6下部に溜まっている油面より高く維持することが出来る。そのため、圧縮機が前後方向で多少傾斜しても冷凍機油を給油口16から圧縮機構部5へ安定して供給することができ圧縮機の信頼性を向上することが出来る。
【0036】
次に、これを図3のオイルレベル特性を示すグラフで説明する。まず本発明と比較するため、本発明の基本構成を入れない場合の従来技術で製作した圧縮機の構成を図14、図15で説明する。なお、本実施形態品と同一部分には同一番号を付記して説明は省略する。
【0037】
この比較従来品は当然区画壁がなく、リアケース上部と下部は連通していて、仕切り板22上部のガス連通穴は直径10mmの穴が3箇所、仕切り板下部のオイル連通穴は高さ22mm、幅30mmの穴となっている。
【0038】
さて、図3において、本実施形態品は黒丸(●)の実線、比較従来品は菱形(◆)の破線で示す。オイルレベルHは本実施形態品および比較従来品ともリアケースの貯油室下端にサイトグラスを付けて目視により油面の高さを測定している。冷凍機油の量は、オイルレベル20mmで封入量150g(100%)である。また給油口16は貯油室底面から2mmの高さ位置で開口している。
【0039】
実験の結果では、比較従来品は吐出ガス冷媒の動圧でコンプケース6下部に溜まった冷凍機油をリアケース8下部に押し込むが、モータ3のロータ3bとステータ3aとの隙間やステータ3a内の巻き線間の隙間から吐出ガス冷媒が吐き出されて、吐出ガス冷媒が直接にオイル連通穴24内に流入してリアケース8下部からリアケース8上部へ吹き上がって吐出口7から吐き出されるので、リアケース8下部に押し込まれてきた冷凍機油も吐出ガス冷媒と一緒に巻き上げられてしまい、高速運転になるに従いリアケース8下部に溜まる冷凍機油量が減少してしまう。したがって、圧縮機のオイルレベルHは菱形(◆)の破線で示すように、高速回転になるとオイルレベルHがかなり低下する。高回転数の8300r/minではオイルレベルHは2mmとなり給油口16とほぼ同じレベルで、ミスト状の潤滑油状態となってしまう。よって、給油口16から圧縮機構部5へ供給されている
冷凍機油中にはかなりガス成分を含み、圧縮機構部の潤滑状態は低下する。
【0040】
これに対し、黒丸(●)の実線で示す本実施形態品では、3000r/min以上の領域では比較従来品よりオイルレベルHは高く維持できている。特に高速回転の8300r/minでは給油口よりかなり高い5mmのレベルを維持しており、給油口16近傍の冷凍機油中のガス成分は少なくなっている。よって、給油口16から圧縮機構部5へ供給される冷凍機油はオイルリッチな状態となっており、圧縮機構部の潤滑状態は良好となり、圧縮機の信頼性を向上することができる。
【0041】
また、従来品に比べて冷凍機油を貯めるための構成が仕切り板22一枚で済み、区画壁8aもリアケース8一体で形成すれば構成が簡単となりコストダウンを図ることが出来る。
(実施の形態2)
図4及び図5は本発明の第2の実施形態を示す図である。この実施の形態ではオイル連通穴24の開口部の上部を給油口16よりも高い位置に設け、且つモータのステータ・インシュレータ39下端よりも低い位置に設けている。具体的にはオイル連通穴24の直径を5mmとし開口部の高さもコンプケース6下端から5mmとしている。すなわち、給油口16の高さ2mmよりも高く、ステータ・インシュレータ39下端の高さ10mmよりも低くなる位置に設けてある。
【0042】
以上のように構成された圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。モータ3のステータ3aとロータ3bとの隙間やステータ3a内の巻き線間の隙間から吐出ガス冷媒が吐き出されても、吐出ガス冷媒が仕切り板22に衝突して、直接にオイル連通穴24に流入しないので、ガス冷媒成分が少ない冷凍機油が貯油室9内に溜まる。また、オイル連通穴24の面積が小さいので、吐出ガス冷媒の動圧に押されて貯油室9に流入した冷凍機油が貯油室9から抜け難くなって溜まりやすくなり、貯油室9のオイルレベルを第1の実施形態よりも高く維持することが出来る。
【0043】
これを図6のオイルレベルの特性を示すグラフで説明する。黒丸(●)の実線が第1の実施形態のオイルレベル特性を表しており、低速回転800r/minでオイルレベルHは10mm、高速回転8300r/minで5mmとなっている。それに対し、四角は第2の実施形態のオイルレベル特性を示しており、低速800r/minで13mm、高速8300r/minで7mmとオイルレベルが高くなっている。
【0044】
従って、ガス冷媒成分がより少ない冷凍機油を給油口16から圧縮機構部5へ供給できて、圧縮機構部5の潤滑性が良化し圧縮機の信頼性を向上することが出来る。
(実施の形態3)
図7及び図8は本発明の第3の実施形態を示す図である。この実施の形態では、ガス連通穴23は複数の穴からなり、そのうち少なくともひとつは区画壁8a近傍上部に設けてある。具体的には。ガス連通穴の直径は10mmで仕切り板22上部に3個、区画壁8a近傍上部に2個設けている。
【0045】
以上の構成としたことにより、吐出ガス冷媒より分離した冷凍機油が区画壁8a上部に溜まっても、区画壁8a近傍上部のガス連通穴23よりコンプケース6内に戻るので、冷凍機油が吐出室15下端に溜まり難い。そのため、吐出ガス冷媒が吐出室15内の冷凍機油を巻き上げて吐出口7から吐出ガス冷媒と一緒に冷凍サイクル中へ吐き出す冷凍機油をより確実に低減することができ、冷凍サイクルの冷凍能力や効率を向上することが出来る。
【0046】
(実施の形態4)
図9は本発明の第4の実施形態を示す図である。この実施形態では貯油室9の下端9a及び給油口16は、オイル連通穴24下端より低く構成されている。具体的にはオイル連通穴24下端より給油口16は5mm低く設けている。
【0047】
以上の構成としたことにより、従来構成では給油口16が冷凍機油中に浸って圧縮部へ給油可能となるためには約20cm必要であったが、本実施形態の例では約2cmの冷凍機油でよくなるので、市場で冷凍機油が漏れて圧縮機に戻る冷凍機油量が減っても、従来構成に比べると確実に給油できるようになり、圧縮機の耐久性を向上することができる。
【0048】
(実施の形態5)
図10は本発明の第5の実施形態を示す図である。この実施形態では給油口16の下端とオイル連通穴24の下端を結んだ角度θが水平線から45度以上となるように構成している。車両の急加減速や旋回時に慣性力や遠心力を受けると貯油室9に溜まっている冷凍機油が貯油室9から飛び出るが、実験によると少なくとも30度以上好ましくは45度以上傾ければ飛び出なくなることが確認できた。そこでこの実施形態では、オイル連通穴24下端より給油口16は10mm低く設け、給油口16の下端とオイル連通穴24の下端を結んだ角度θを水平線から46度としている。
【0049】
以上の構成としたことにより、車両が急加減速や旋回しても冷凍機油が貯油室から飛び出ずに残留するので給油口16から圧縮部へ冷凍機油を供給し続けるけることができて摺動部の潤滑を保つことができ、圧縮機の耐久性を一段と向上することができる。
【0050】
(実施の形態6)
図11は本発明の実施形態1〜5のいずれかの圧縮機を車両に搭載した一例を示す図である。圧縮機1は車両の駆動モータ40(またはエンジン)に水平に取り付けられており、インバータケース13側が車両前方、リアケース8側が車両後方に向いて取り付けてある。
【0051】
図12は本実施の形態の圧縮機1を駆動モータ40に取り付けた車両が坂道を下る時の状態を示した図で、インバータケース13側が下がり、リアケース8側が上がる状態となる。坂道の傾斜は道路最大勾配を想定して、圧縮機の傾きを10度傾けている。
【0052】
コンプケース6下部に溜まっている冷凍機油が吐出ガス冷媒の動圧で押されて貯油室9に流入し、貯油室9が区画壁8aによって区画分離され、かつオイル連通穴24がステータ・インシュレータ39下端より低くオイル連通穴24の面積が小さいので、吐出ガス冷媒の動圧に押されて貯油室9に流入した冷凍機油が貯油室9から抜け難くなって溜まりやすくなり、貯油室9のオイルレベルを給油口16より上方に維持することが出来る。
【0053】
実験の結果では図13の四角実線で示すように、高速運転の8300r/minでは給油口16より高い5mmのオイルレベルを維持できているので、圧縮機構部5へのオイル供給が途絶えることは無く、安定した潤滑状態を保てるため圧縮機の信頼性を向上することができた。これに対し比較従来品の場合は図15に示すように10度傾けると主軸受部31側に冷凍機油が溜まり、吐出冷媒の動圧で冷凍機油が貯油室9側に押されても、オイル連通穴24の上部が冷凍機油で塞がれないので、吐出ガス冷媒がリアケース8下部から上部へ吹き上がり、冷凍機油もそれと一緒に巻き上げられて吐出口7から冷凍サイクル中へ送出されてしまい、リアケース8下部の給油口16近傍には溜まらない。そのため菱形(◆)破線で示すとおり、オイルレベルHは4000r/min以下ではゼロmm、高速側の8300r/minでも1mmであり、給油口16の高さより低くなるので、圧縮機構部5へ供給する冷凍機油が途切れてしまうことがあり、圧縮機の信頼性を低下させてし
まうのであるが、本発明に示す構成によればこのようなことはなくなる。
【0054】
更に、第4、第5の実施形態の圧縮機を搭載した場合では、給油口16の下端とオイル連通穴24の下端を結んだ角度θが45度以上となるように構成しているので、車両の急加減速や旋回時に慣性力や遠心力を受けても冷凍機油が貯油室9から飛び出なくなり、常に貯油室9のオイルレベルを給油口16よりも高く維持することが出来る。
【0055】
従って、車両が急加減速や旋回をしても、常に圧縮機構部5へ冷凍機油を供給し続けるけることができて摺動部の潤滑を保つことができるので、圧縮機の耐久性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明は圧縮機の姿勢が上下左右に傾いても、圧縮機構部へのオイル供給が途絶えることは無く、安定した潤滑状態を保てるため圧縮機構部の信頼性を向上することができ、また、冷凍サイクル中へ吐き出す冷凍機油を低減することができ、車両用空調装置の冷凍能力や冷凍サイクルの効率を向上することができる。よって、車両に限らず電車や重機などの輸送機器向けの圧縮機などにも適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 圧縮機
4 駆動軸
5 圧縮機構部
6 コンプケース
7 吐出口
8 リアケース
8a 区画壁
9 貯油室
10 固定スクロール
11 旋回スクロール
13 インバータケース
14 吸入口
15 吐出室
16 給油口
22 仕切り板
23 ガス連通穴
24 オイル連通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータおよび圧縮機構部を収納するコンプケースと、前記圧縮機構部により圧縮された吐出ガス冷媒を冷凍サイクルに送出する吐出口を有するリアケースと、前記モータの収納される空間と前記リアケース内の空間との間を仕切る仕切り板とを備え、前記仕切り板と前記リアケースとの間に形成される空間の上部を吐出室、下部を貯油室とし、該貯油室内に設けた給油口から前記貯油室内の冷凍機油を前記圧縮機構部に供給する圧縮機であって、前記リアケース内に前記吐出室と前記貯油室とを区画分離する区画壁を設けるとともに、前記仕切り板の上部には、前記コンプケース内部の空間と前記吐出室とを連通するガス連通穴を設け、前記仕切り板の下部には、前記コンプケース内部の空間と前記貯油室とを連通するオイル連通穴を設けたことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記オイル連通穴の開口部の上部を、前記給油口よりも高い位置であって且つ前記モータのステータ・インシュレータ下端よりも低い位置に設けたことを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記ガス連通穴は複数の穴からなり、そのうち少なくともひとつは前記区画壁近傍上部に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記貯油室の下端及び前記給油口は、前記オイル連通穴下端より低くしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記給油口の下端と前記オイル連通穴の下端を結んだ角度θが水平線から45度以上であることを特徴とする請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の圧縮機を車両に搭載して構成した車両用空調装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2013−100810(P2013−100810A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172623(P2012−172623)
【出願日】平成24年8月3日(2012.8.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】