説明

圧縮装置及びその制御方法

【課題】立上げ時に大きな動力を必要とせず、定常運転時に高効率で駆動することができる圧縮装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】圧縮装置において、IGVを最小開度に、ASVを全開開度に設定して、駆動機を始動させ(ラインC1)、供給ガスの分子量及び温度に基づいて、IGVのバイアス開度を求めると共に、最小開度にバイアス開度を加算し、加算した開度にIGVを制御し(ラインC2)、IGVの開度を一定にしたまま、ASVの開度を閉じていくことにより、圧縮機からの吐出圧力を上昇させ(ラインC3)、その後、所望の圧力となるように、IGV、ASVの開度を交互に制御する(ラインC4〜C7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント等においては、使用するガスを圧縮するために圧縮装置を用いており、圧縮されたガスの使用量が変動しても、サージングの発生を防止して、圧縮装置が安定して運転できるように制御されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−316759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化学プラント等に用いられる圧縮装置においては、圧縮するガスの分子量が変動する場合がある。例えば、LNG(液化天然ガス)等を圧縮する場合、LNGの流れが止まっていると、比重の違いによりガスが分離することがあり、その状態から圧縮を開始すると、開始直後から定常運転状態に至るまで、圧縮するガスの分子量が変動することになり、分子量が変動するガスの圧縮を行うことになる。又、可燃性、爆発性があるガスを圧縮する場合、その圧縮の停止時には、安全性を確保するため、圧縮装置内をN2等の不活性ガスで置換することがあり、その状態から圧縮を再開すると、開始直後から定常運転状態に至るまで、圧縮するガスの分子量が変動することになり、やはり、分子量が変動するガスの圧縮を行うことになる。このような場合においても、サージングの発生を防止し、安定して運転できるような圧縮装置が提案されている(特許文献1)。
【0005】
上記圧縮装置においては、圧縮するガスの分子量が変動することを考慮して、負荷が最大となる、ガスの分子量が重い場合に基づいて、圧縮装置の圧縮機に必要な動力を求め、そのような動力を有する駆動機(例えば、電動モータ、蒸気タービン等)を導入することになる。特に、圧縮装置の圧縮機に必要な動力は、立上げ時に最大となるため、駆動機に要求される最大の動力(定格)は、分子量が重いガスを用いて立上げを行うときに必要な動力により決定されることになる。しかしながら、操業状態の殆どを占める定常運転状態においては、その動力の100%を必要とすることはなく、又、そのような定格の駆動機では、高効率で駆動できる範囲に定常運転状態がないことが多い(図6参照)。
【0006】
このように、従来の圧縮装置においては、立上げ時の最大の負荷を考慮して、駆動機が導入されているため、駆動機のコストが高くなってしまい、又、その定常運転状態において、高効率で駆動機を駆動させることもできなかった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、立上げ時に大きな動力を必要とせず、定常運転時に高効率で駆動することができる圧縮装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する第1の発明に係る圧縮装置は、
供給ラインから供給されるガスを圧縮して吐出ラインへ吐出する圧縮機と、
前記圧縮機を駆動する駆動機と、
前記供給ラインに設けられ、前記圧縮機へ供給するガスの流量を制御する第1制御弁と、
前記供給ラインと前記吐出ラインとを接続する再循環ラインに設けられ、前記圧縮機から吐出されて再循環させられるガスの流量を制御する第2制御弁と、
前記供給ラインに設けられ、供給されるガスの分子量を測定する分子量測定手段と、
前記供給ラインに設けられ、供給されるガスの温度を測定する温度測定手段と、
前記吐出ラインに設けられ、吐出されるガスの圧力を測定する圧力測定手段と、
前記分子量測定手段、前記温度測定手段及び前記圧力測定手段の測定値に基づいて、前記第1制御弁及び前記第2制御弁の開度を制御する制御手段とを有する圧縮装置において、
前記制御手段は、
前記第1制御弁を最小開度に、前記第2制御弁を全開開度に設定して、前記駆動機を始動させる第1工程と、
前記分子量測定手段及び前記温度測定手段により計測した供給ガスの分子量及び温度に基づいて、前記第1制御弁のバイアス開度を求めると共に、前記最小開度に前記バイアス開度を加算し、前記第1制御弁を加算した開度に制御する第2工程と、
前記第1制御弁の開度を前記第2工程で設定した開度に制御したまま、全開状態の前記第2制御弁の開度を、サージングが発生する開度に対してマージンをとった開度まで閉じていくことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を上昇させる第3工程と、
前記分子量測定手段及び前記温度測定手段により計測した現在の供給ガスの分子量及び温度に基づいて、前記第1制御弁のバイアス開度を新たに求めると共に、前記第1制御弁の現在の開度に新たに求めた前記バイアス開度を加算し、前記第2制御弁を現在の開度に維持したまま、前記第1制御弁を加算した開度に制御する第4工程と、
前記第1制御弁を現在の開度に維持したまま、前記第2制御弁の開度を、サージングが発生する開度に対してマージンをとった開度まで閉じていくことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を上昇させる第5工程とを有し、
前記第4工程及び前記第5工程を交互に繰り返すことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を所望の圧力に制御することを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する第2の発明に係る圧縮装置は、
上記第1の発明に記載の圧縮装置において、
供給ガスの分子量が小さくなる方向に変化する場合には、前記第4工程において、前記第1制御弁の開度を、分子量が変化しない場合より開く方向に制御することを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する第3の発明に係る圧縮装置は、
上記第1の発明に記載の圧縮装置において、
供給ガスの分子量が大きくなる方向に変化する場合には、前記第4工程において、前記第1制御弁の開度を、分子量が変化しない場合より閉じる方向に制御することを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第4の発明に係る圧縮装置の制御方法は、
供給ラインから供給されるガスを圧縮して吐出ラインへ吐出する圧縮機と、
前記圧縮機を駆動する駆動機と、
前記供給ラインに設けられ、前記圧縮機へ供給するガスの流量を制御する第1制御弁と、
前記供給ラインと前記吐出ラインとを接続する再循環ラインに設けられ、前記圧縮機から吐出されて再循環させられるガスの流量を制御する第2制御弁と、
前記供給ラインに設けられ、供給されるガスの分子量を測定する分子量測定手段と、
前記供給ラインに設けられ、供給されるガスの温度を測定する温度測定手段と、
前記吐出ラインに設けられ、吐出されるガスの圧力を測定する圧力測定手段とを有する圧縮装置の制御方法において、
前記第1制御弁を最小開度に、前記第2制御弁を全開開度に設定して、前記駆動機を始動させる第1工程と、
前記分子量測定手段及び前記温度測定手段により計測した供給ガスの分子量及び温度に基づいて、前記第1制御弁のバイアス開度を求めると共に、前記最小開度に前記バイアス開度を加算し、前記第1制御弁を加算した開度に制御する第2工程と、
前記第1制御弁の開度を前記第2工程で設定した開度に制御したまま、全開状態の前記第2制御弁の開度を、サージングが発生する開度に対してマージンをとった開度まで閉じていくことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を上昇させる第3工程と、
前記分子量測定手段及び前記温度測定手段により計測した現在の供給ガスの分子量及び温度に基づいて、前記第1制御弁のバイアス開度を新たに求めると共に、前記第1制御弁の現在の開度に新たに求めた前記バイアス開度を加算し、前記第2制御弁を現在の開度に維持したまま、前記第1制御弁を加算した開度に制御する第4工程と、
前記第1制御弁を現在の開度に維持したまま、前記第2制御弁の開度を、サージングが発生する開度に対してマージンをとった開度まで閉じていくことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を上昇させる第5工程とを有し、
前記第4工程及び前記第5工程を交互に繰り返すことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を所望の圧力に制御することを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第5の発明に係る圧縮装置の制御方法は、
上記第4の発明に記載の圧縮装置の制御方法において、
供給ガスの分子量が小さくなる方向に変化する場合には、前記第4工程において、前記第1制御弁の開度を、分子量が変化しない場合より開く方向に制御することを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第6の発明に係る圧縮装置の制御方法は、
上記第4の発明に記載の圧縮装置の制御方法において、
供給ガスの分子量が大きくなる方向に変化する場合には、前記第4工程において、前記第1制御弁の開度を、分子量が変化しない場合より閉じる方向に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧縮装置の設備費を低減できると共に、高効率となる最適な設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る圧縮装置及びその制御方法について、図1〜図5を参照しながら、その実施形態例を説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明に係る圧縮装置の実施形態の一例を示す模式図である。
圧縮機1は、駆動機2により駆動され、吸入したガスを圧縮して、吐出するものである。圧縮機としては、例えば、遠心式圧縮機が好適であり、そのロータ軸に駆動機となる電動モータが、クラッチ、ギア等を介して接続される。なお、駆動機としては、蒸気タービン等も適用可能である。
【0017】
ガスは、供給ライン3、4を経由して、圧縮機1へ供給される。圧縮機1直前の供給ライン4には、圧縮機1へ供給するガスの流量を調整するインレットガイドベーン5(第1制御弁。以降、IGVと呼ぶ。)が設けられている。圧縮機1で圧縮されたガスは、吐出ライン6、7を経由して、化学プラントのリアクタやガスタービン等へ供給される。供給ライン4と吐出ライン6は、再循環ライン8により接続されており、再循環ライン8に設けられたアンチサージバルブ9(第2制御弁。以降、ASVと呼ぶ。)により、供給ライン4側へ再循環するガスの流量を調整している。
【0018】
供給ライン3には、供給するガスの分子量MW(例えば、平均分子量)を測定するガス分析計12(分子量測定手段)が設けられており、供給ライン4には、供給するガスの温度Tiを測定する温度計13(温度測定手段)、供給するガスの圧力Piを測定する圧力計14が設けられている。これらは、圧縮機1に供給するガスの性状(特に、分子量、温度等)を把握するためのものである。又、吐出ライン6には、吐出するガスの流量Qを測定する流量計15、吐出するガスの圧力Pdを測定する圧力計16(圧力測定手段)、吐出するガスの温度Tdを測定する温度計17が設けられている。ガス分析計12、温度計13、圧力計14、流量計15、圧力計16、温度計17の測定値は、制御装置18(制御手段)に入力され、その測定値に応じて、IGV5、ASV9が適宜に制御される。なお、ガス分析計12に換えて、比重計等を用いて、供給するガスの分子量MWを測定するようにしてもよい。
【0019】
図2は、図1で示した制御装置18のブロック図である。まず、図2を用いて、本発明に係る圧縮装置の制御装置18の概略を説明した後、図3〜図5を用いて、立上げ時における制御方法を説明する。
【0020】
図1でも示したように、圧縮装置の制御装置18には、ガス分析計12、温度計13、圧力計14、流量計15、圧力計16、温度計17の測定値が入力され、その測定値に応じて、IGV5、ASV9が制御されるが、図2では、圧縮装置の立上げ時の制御を説明するため、一部の計測器の図示を省略している。
【0021】
制御装置18において、設定吐出圧力Psetは、供給対象となる化学プラント等の要求に基づいて、設定器23により予め設定される。又、設定流量Qsetは、設定吐出圧力Psetと後述する図4のアンチサージラインL2、定格動力ラインL3等に基づいて、設定器21により設定される。
【0022】
アンチサージ制御器22には、流量計15により計測された測定流量Qと、設定器21により設定された設定流量Qsetが入力され、その差分をPI制御(比例・積分制御)することにより、操作量MV1が出力される。同様に、吐出圧力制御器24には、圧力計16により計測された測定吐出圧力Pdと、設定器23により設定された設定吐出圧力Psetが入力され、その差分をPI制御(比例・積分制御)することにより、操作量MV2が出力される。
【0023】
吐出圧力制御器24から出力された操作量MV2は、関数発生器27、28に各々入力される。関数発生器27は、ASV9への操作量MV3を出力するものであり、その関数F1は、操作量MV2が0%のとき、操作量MV3が100%であり、操作量MV2の大きさに反比例して単調減少していき、操作量MV2が50%のとき、操作量MV3が0%となるものである。一方、関数発生器28は、IGV5への操作量MV4を出力するものであり、その関数F2は、操作量MV2が0%〜50%のとき、操作量MV4が一定値X0%であり、操作量MV2の大きさが50%を越えると、その大きさに比例して単調増加していき、操作量MV2が100%のとき、操作量MV4が100%となるものである。
【0024】
IGV5は、スロットル式の制御弁であり、その構造に起因して、ある開度以下での制御精度が低くなる。従って、その開度を最小開度θ0と設定し、全閉状態とはせず、最小開度θ0〜全開開度に制御して使用するものである。そして、制御する際には、最小開度θ0に該当する操作量をX0%とし、全開状態に該当する操作量を100%としている。一方、ASV9は、その応答性が速く、全閉/全開可能なバルブであり、制御する際には、全閉状態に該当する操作量を0%とし、全開状態に該当する操作量を100%としている。
【0025】
又、関数発生器25には、ガス分析計12により計測された供給ガスの分子量MWが入力され、関数発生器25では、分子量MWを用いた関数F3に基づいて、操作量MV5が出力される。同様に、関数発生器26には、温度計13により計測された供給ガスの温度Tiが入力され、関数発生器26では、温度Tiを用いた関数F4に基づいて、操作量MV6が出力される。そして、関数発生器25から出力された操作量MV5と、関数発生器26から出力された操作量MV6は、演算器30に入力され、演算器30において積算されて、操作量MV7として出力される。
【0026】
アンチサージ制御器22から出力された操作量MV1と、関数発生器27から出力された操作量MV3は、ハイセレクター29(以降、H/Sと呼ぶ。)に入力され、H/S29では、操作量が大きい方が選択されて、操作量MV8として出力され、この操作量MV8を用いて、ASV9の開度が制御される。これは、大きい操作量を用いて、ASV9の開度を大きい方に制御することにより、サージングに対してより安全な方向に制御するためである。
【0027】
又、関数発生器28から出力された操作量MV4と、演算器30から出力された操作量MV7は、演算器31に入力され、演算器31において加算され、操作量MV9として出力されて、この操作量MV9を用いて、IGV5の開度が制御される。なお、演算器31では、符号32中に示す関数F5に基づいて、操作量MV9が出力されることになる。これは、関数発生器28に示す関数F2に、操作量MV7の大きさの下駄を履かせたものである。
【0028】
ここで、図2を参照しながら、図3〜図5を用いて、立上げ時における本発明に係る圧縮装置の制御方法を説明する。なお、図3は、立上げ時における本発明に係る圧縮装置の制御方法を示すフローチャートであり、図4(a)、(b)、図5は、立上げ時における本発明に係る圧縮装置の制御動作を説明するグラフである。
【0029】
本発明における圧縮装置は、その立上げ時の制御方法に特徴があり、以下に示す制御方法を用いるため、圧縮装置の駆動機2の定格が大きくなくても、駆動機2がトリップすることなく、立上げ動作が可能なものであり、又、高効率での定常運転を可能とするものである。具体的には、以下の手順により、立上げ動作を行っている。
【0030】
最初に、ステップS1においては、圧縮装置を起動する際、ASV9を全開開度、IGV5を最小開度θ0に設定して、駆動機2を始動させ、その回転数を上げていく。これは、図4(a)、(b)、図5のグラフにおいては、原点から位置P1までの制御ラインC1に該当する。
【0031】
なお、図4(a)、(b)のグラフにおいて、ラインA1、A2、A3、A4は、IGV5の各開度における圧力−流量曲線であり、特に、ラインA1は、IGV5が最小開度θ0のときの圧力−流量曲線であり、ラインA4は、IGV5が最大開度(全開)のときの圧力−流量曲線である。又、ラインL1は、サージラインであり、これより左側の領域は、サージングが発生する領域となる。そのため、通常、サージラインL1に対して10%程のマージンをとったサージコントロールラインL2を設け、このサージコントロールラインL2より右側の領域において、圧縮機1の吐出圧力、吐出流量が制御される。更に、ラインL3は、駆動機2の定格動力ラインを示し、この定格動力ラインL3より左側の領域において、圧縮機1の吐出圧力、吐出流量が制御される。つまり、圧縮装置の立上げ時、定常運転時及び停止時において、サージコントロールラインL2と定格動力ラインL3の間の領域において、圧縮機1の吐出圧力、吐出流量が制御されることになる。なお、図4(a)における制御ラインC1〜C7を、吐出圧力と動力の関係に書き直したものが、図5のグラフとなる。
【0032】
次に、ステップS2においては、ガス分析計12、温度計13により計測した供給ガスの現在の分子量MW及び温度Tiに基づいて、IGVバイアス開度B0を計算する。そして、IGV5の最小開度θ0にIGVバイアス開度B0を加算し、駆動機2の回転数を上げながら、加算した開度[θ0+B0]にIGV5を制御する。これは、図4(a)、(b)、図5のグラフにおいては、位置P1から位置P2までの制御ラインC2に該当する。
【0033】
図2を参照して、このステップS2の制御を説明する。起動当初、操作量MV7=0であるが、ガス分析計12により計測した供給ガスの現在の分子量MWに基づいて、関数発生器25により操作量MV5を求め、温度計13により計測した供給ガスの現在の温度Tiに基づいて、関数発生器26により操作量MV6を求め、操作量MV5、MV6に基づいて、演算器30により新たな操作量MV7を求める。この操作量MV7が、上述したIGVバイアス開度B0に該当する。又、IGV5は、起動当初、最小開度θ0で制御されており、操作量MV2=0、MV4=X0であり、その操作量MV9はMV4と等しくなっている。演算器31においては、この操作量MV4と、先ほど求めた新たな操作量MV7とを加算することにより、新たな操作量MV9を求め、この操作量MV9によりIGV5の開度を制御している。この操作量MV9が、上述した加算開度[θ0+B0]に該当する。
【0034】
次に、ステップS3においては、ステップS2で設定したIGV5の開度を一定に制御したまま、全開状態のASV9の開度を、サージコントロールラインL2の開度まで、望ましくは、サージコントロールラインL2に対して更にマージンをとった開度まで閉じていくことにより、吐出圧力Pdを上昇させていく。これは、図4(a)、(b)、図5のグラフにおいては、位置P2から位置P3までの制御ラインC3に該当する。
【0035】
図2を参照して、このステップS3の制御を説明する。流量計15により計測した現在の測定流量Qと設定器21により設定された設定流量Qsetに基づいて、アンチサージ制御器22により操作量MV1を求め、圧力計16により計測した現在の測定吐出圧力Pdと設定器23により設定された設定吐出圧力Psetに基づいて、吐出圧力制御器24により新たな操作量MV2を求め、この操作量MV2に基づいて、関数発生器27により新たな操作量MV3を求め、操作量MV1、MV3に基づいて、H/S29により操作量MV8を求める。ASV9は、起動当初、全開開度で制御されており、操作量MV2=0、MV3=100であり、その操作量MV8はMV3と等しくなっている。関数発生器27においては、新たな操作量MV2に基づいて、新たな操作量MV3を求めており、H/S29においては、操作量MV1と操作量MV3とを比較することにより、新たな操作量MV8を求め、この操作量MV8によりASV9の開度を制御している。この操作量MV8が、新たなASV9の開度に該当するものであり、起動当初より閉じた開度となるが、サージコントロールラインL2の開度よりは開いた開度となる。
【0036】
以降のステップS4〜S6では、供給されるガスの分子量MWが変化した場合でも、その変化に対応して、IGV5、ASV9の開度を制御することにより、駆動機2をトリップ、オーバロードさせることなく、アンチサージ制御、吐出圧力制御を行って、圧縮機1からの吐出圧力を所望の圧力に制御している。まず、説明をわかりやすくするため、分子量が変化しない場合の制御について、図4(a)を用いて説明する。
【0037】
具体的には、ステップS4においては、ガス分析計12、温度計13により計測した供給ガスの現在の分子量MW及び温度Tiに基づいて、IGVバイアス開度Bを計算する。供給ガスの分子量MWが変動する場合には、当然ながら、その分子量に応じたIGVバイアス開度Bが計算されることになる。そして、IGV5の現在の開度θに、新たに求めたIGVバイアス開度Bを加算し、ASV9を現在の開度に維持したまま、IGV5を徐々に開けていき、加算した開度[θ+B]に制御する。これは、図4(a)、図5のグラフにおいては、位置P3から位置P4までの制御ラインC4に該当する。
【0038】
図2を参照して、このステップS4の制御を説明する。ガス分析計12により計測した供給ガスの現在の分子量MWに基づいて、関数発生器25により操作量MV5を求め、温度計13により計測した供給ガスの現在の温度Tiに基づいて、関数発生器26により操作量MV6を求め、操作量MV5、MV6に基づいて、演算器30により新たな操作量MV7、即ち、上述したIGVバイアス開度Bを求める。演算器31においては、現在の操作量MV4と、先ほど求めた新たな操作量MV7とを加算することにより、新たな操作量MV9、即ち、加算開度[θ+B]を求め、ASV9の開度は現在の開度に維持したまま、この操作量MV9によりIGV5の開度を制御する。
【0039】
次に、ステップS5においては、IGV5を現在の開度に維持したまま、ASV9の開度を、サージコントロールラインL2の開度まで、望ましくは、サージコントロールラインL2に対して更にマージンをとった開度まで閉じていくことにより、吐出圧力Pdを上昇させていく。これは、図4(a)、図5のグラフにおいては、位置P4から位置P5までの制御ラインC5に該当する。
【0040】
図2を参照して、このステップS5の制御を説明する。流量計15により計測した現在の測定流量Qと設定器21により設定された設定流量Qsetに基づいて、アンチサージ制御器22により新たな操作量MV1を求め、圧力計16により計測した現在の測定吐出圧力Pdと設定器23により設定された設定吐出圧力Psetに基づいて、吐出圧力制御器24により新たな操作量MV2を求め、この操作量MV2に基づいて、関数発生器27により新たな操作量MV3を求め、操作量MV1、MV3に基づいて、H/S29により操作量MV8を求め、IGV5の開度は現在の開度に維持したまま、この操作量MV8によりASV9の開度を制御する。
【0041】
そして、ステップS6において、圧縮機1からの吐出圧力Pdが設定器23で設定された所望の設定吐出圧力Pset(=運転点P7)に到達するまで、上記ステップS4及びステップS5を交互に繰り返して、IGV5、ASV9の開度制御を交互に行う。そして、以上の手順の後、定常運転に移行することになる。これは、図4(a)、図5のグラフにおいては、位置P5→P6→P7までの制御ラインC6→C7に該当する。つまり、ステップS4〜S6においては、運転点P7に到達するまで、一方の開度を一定に維持した状態で、他方の開度制御のみを行っており、このように、数段階に分けて交互に開度制御を行うことにより、図4(a)に示すように、圧縮装置の立上げ時において、サージコントロールラインL2と定格動力ラインL3の間の領域に、圧縮機1の吐出圧力、吐出流量を制御している。
【0042】
一方、立ち上げ時に、供給されるガスの分子量MWが変化する場合には、上記ステップS4における制御、特に、IGV5の開度制御が影響を受けることになる。これを、図4(b)を用いて説明する。
【0043】
供給されるガスの分子量MWが変化する場合、IGV5の各開度における圧力−流量曲線であるラインA1、A2、A3、A4が上下にシフトし、シフトしたラインA1、A2、A3、A4を用いて、ステップS4以降は、シフトしたラインA3、A4を用いて、IGV5の開度制御を行うことになる。
【0044】
例えば、ステップS3までのガスの分子量MWに比較して、ステップS4以降におけるガスの分子量MWが小さくなる場合、ラインA3は下方にシフトするため、新たなラインA3aが設定される。そして、このラインA3aと制御ラインC4との交点に新しい位置P4aが設定されて、IGV5の開度が制御されることになる。これは、ラインA4でも同様であり、必要に応じて、新たなラインが追加設定される。従って、ステップS4、S5においては、ラインA3a等を用いて、IGV5、ASV9の制御が行われて、圧縮機1からの吐出圧力を所望の圧力(運転点P7)まで昇圧している。ガスの分子量MWが小さくなる場合には、分子量MWが変化しない場合と比較して、運転点P7におけるIGV5の開度が、より開方向の開度で制御されることになる。
【0045】
一方、ステップS3までのガスの分子量MWに比較して、ステップS4以降におけるガスの分子量MWが大きくなる場合、ラインA3は上方にシフトするため、新たなラインA3bが設定される。そして、このラインA3bと制御ラインC4との交点に新しい位置P4bが設定されて、IGV5の開度が制御されることになる。これは、ラインA4でも同様であり、必要に応じて、新たなラインが追加設定される。従って、ステップS4、S5においては、ラインA3b等を用いて、IGV5、ASV9の制御が行われて、圧縮機1からの吐出圧力を所望の圧力(運転点P7)まで昇圧している。ガスの分子量MWが大きくなる場合には、分子量MWが変化しない場合と比較して、運転点P7におけるIGV5の開度が、より閉方向の開度で制御されることになる。
【0046】
なお、運転点P7に至る各位置P1〜P6は、サージコントロールラインL2と定格動力ラインL3の間となるように、始動時に予め設定しておくと、制御性良くIGV5、ASV9を制御することができる。そして、供給されるガスの分子量MWが、立ち上げ中に変化する場合には、上述したように、その変化に応じて、各位置P4〜P6を適切に変更することで、駆動機2をトリップ、オーバロードさせることなく、吐出圧力Pdを運転点P7まで昇圧することができる。
【0047】
上記手順を用い、圧縮装置の立上げ時の制御ラインC1〜C7が、サージコントロールラインL2と定格動力ラインL3の間に領域に収まるように、圧縮装置を立上げることにより、供給されるガスの分子量MWが立上げ時に変化した場合でも、比較的小さい定格の駆動機2をトリップ、オーバロードさせることなく、圧縮装置を立上げることができる。なお、圧縮装置の停止時においては、上記手順と逆の手順、つまり、図4(a)において、運転点P7から、位置P6→P5→P4→P3→P2→P1を順に経て、原点へ戻るような制御を行えばよい。
【0048】
又、駆動機2の定格を求める際には、使用するガスの最大の分子量MWを用いて、図5における位置P2を求めることにより、容易に駆動機2の定格を求めることができる。この位置P2は、従来の圧縮装置の駆動機における立上げ時の最大使用動力より小さいものであり、本発明では、定格の小さい駆動機2の選択を可能としている。その結果、本発明では、図5における位置P3〜P7を、選択した駆動機2における高効率点付近の動力範囲に設定することも容易となり、定常運転時に効率よくガスの圧縮を行うことも可能となる。
【0049】
従来は、圧縮装置の立上げ時に必要な最大の動力を考慮して、定常運転時の動力に対しては過大となる定格の駆動機を選択せざるを得なかったが(図6参照)、上記手順を用いることにより、従来と比較して、より小さい定格の駆動機を選択することが可能となり、圧縮装置の設備費を低減することができると共に動力の節減も可能としている。又、高効率点付近の動力の範囲内で定常運転ができるように駆動機を選定可能としているため、高効率となる最適な設計も容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、圧縮するガスの分子量が変動する圧縮装置に好適なものであり、例えば、LNGのパイプライン等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る圧縮装置の実施形態の一例を示す模式図である。
【図2】図1で示した圧縮装置の制御装置のブロック図である。
【図3】立上げ時における本発明に係る圧縮装置の制御方法を示すフローチャートである。
【図4】立上げ時における本発明に係る圧縮装置の制御動作を説明するグラフであり、(a)は、分子量変化が無い場合、(b)は、分子量変化がある場合を示す。
【図5】立上げ時における本発明に係る圧縮装置の消費動力の変化を示すグラフである。
【図6】立上げ時における従来の圧縮装置の消費動力の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1 圧縮機
2 駆動機
3、4 供給ライン
5 インレットガイドバルブ(IGV)
6、7 吐出ライン
8 再循環ライン
9 アンチサージバルブ(ASV)
12 ガス分析器
13 温度計
16 圧力計
18 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給ラインから供給されるガスを圧縮して吐出ラインへ吐出する圧縮機と、
前記圧縮機を駆動する駆動機と、
前記供給ラインに設けられ、前記圧縮機へ供給するガスの流量を制御する第1制御弁と、
前記供給ラインと前記吐出ラインとを接続する再循環ラインに設けられ、前記圧縮機から吐出されて再循環させられるガスの流量を制御する第2制御弁と、
前記供給ラインに設けられ、供給されるガスの分子量を測定する分子量測定手段と、
前記供給ラインに設けられ、供給されるガスの温度を測定する温度測定手段と、
前記吐出ラインに設けられ、吐出されるガスの圧力を測定する圧力測定手段と、
前記分子量測定手段、前記温度測定手段及び前記圧力測定手段の測定値に基づいて、前記第1制御弁及び前記第2制御弁の開度を制御する制御手段とを有する圧縮装置において、
前記制御手段は、
前記第1制御弁を最小開度に、前記第2制御弁を全開開度に設定して、前記駆動機を始動させる第1工程と、
前記分子量測定手段及び前記温度測定手段により計測した供給ガスの分子量及び温度に基づいて、前記第1制御弁のバイアス開度を求めると共に、前記最小開度に前記バイアス開度を加算し、前記第1制御弁を加算した開度に制御する第2工程と、
前記第1制御弁の開度を前記第2工程で設定した開度に制御したまま、全開状態の前記第2制御弁の開度を、サージングが発生する開度に対してマージンをとった開度まで閉じていくことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を上昇させる第3工程と、
前記分子量測定手段及び前記温度測定手段により計測した現在の供給ガスの分子量及び温度に基づいて、前記第1制御弁のバイアス開度を新たに求めると共に、前記第1制御弁の現在の開度に新たに求めた前記バイアス開度を加算し、前記第2制御弁を現在の開度に維持したまま、前記第1制御弁を加算した開度に制御する第4工程と、
前記第1制御弁を現在の開度に維持したまま、前記第2制御弁の開度を、サージングが発生する開度に対してマージンをとった開度まで閉じていくことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を上昇させる第5工程とを有し、
前記第4工程及び前記第5工程を交互に繰り返すことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を所望の圧力に制御することを特徴とする圧縮装置。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮装置において、
供給ガスの分子量が小さくなる方向に変化する場合には、前記第4工程において、前記第1制御弁の開度を、分子量が変化しない場合より開く方向に制御することを特徴とする圧縮装置。
【請求項3】
請求項1に記載の圧縮装置において、
供給ガスの分子量が大きくなる方向に変化する場合には、前記第4工程において、前記第1制御弁の開度を、分子量が変化しない場合より閉じる方向に制御することを特徴とする圧縮装置。
【請求項4】
供給ラインから供給されるガスを圧縮して吐出ラインへ吐出する圧縮機と、
前記圧縮機を駆動する駆動機と、
前記供給ラインに設けられ、前記圧縮機へ供給するガスの流量を制御する第1制御弁と、
前記供給ラインと前記吐出ラインとを接続する再循環ラインに設けられ、前記圧縮機から吐出されて再循環させられるガスの流量を制御する第2制御弁と、
前記供給ラインに設けられ、供給されるガスの分子量を測定する分子量測定手段と、
前記供給ラインに設けられ、供給されるガスの温度を測定する温度測定手段と、
前記吐出ラインに設けられ、吐出されるガスの圧力を測定する圧力測定手段とを有する圧縮装置の制御方法において、
前記第1制御弁を最小開度に、前記第2制御弁を全開開度に設定して、前記駆動機を始動させる第1工程と、
前記分子量測定手段及び前記温度測定手段により計測した供給ガスの分子量及び温度に基づいて、前記第1制御弁のバイアス開度を求めると共に、前記最小開度に前記バイアス開度を加算し、前記第1制御弁を加算した開度に制御する第2工程と、
前記第1制御弁の開度を前記第2工程で設定した開度に制御したまま、全開状態の前記第2制御弁の開度を、サージングが発生する開度に対してマージンをとった開度まで閉じていくことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を上昇させる第3工程と、
前記分子量測定手段及び前記温度測定手段により計測した現在の供給ガスの分子量及び温度に基づいて、前記第1制御弁のバイアス開度を新たに求めると共に、前記第1制御弁の現在の開度に新たに求めた前記バイアス開度を加算し、前記第2制御弁を現在の開度に維持したまま、前記第1制御弁を加算した開度に制御する第4工程と、
前記第1制御弁を現在の開度に維持したまま、前記第2制御弁の開度を、サージングが発生する開度に対してマージンをとった開度まで閉じていくことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を上昇させる第5工程とを有し、
前記第4工程及び前記第5工程を交互に繰り返すことにより、前記圧縮機からの吐出圧力を所望の圧力に制御することを特徴とする圧縮装置の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の圧縮装置の制御方法において、
供給ガスの分子量が小さくなる方向に変化する場合には、前記第4工程において、前記第1制御弁の開度を、分子量が変化しない場合より開く方向に制御することを特徴とする圧縮装置の制御方法。
【請求項6】
請求項4に記載の圧縮装置の制御方法において、
供給ガスの分子量が大きくなる方向に変化する場合には、前記第4工程において、前記第1制御弁の開度を、分子量が変化しない場合より閉じる方向に制御することを特徴とする圧縮装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−85047(P2009−85047A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253103(P2007−253103)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】