説明

圧電アクチュエータの製造方法及び液体移送装置の製造方法

【課題】基材の原子が、圧電層の駆動部分に拡散するのを抑制する、圧電アクチュエータを有する液体移送装置の製造方法を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッドを製造するためには、圧力室10が形成される前のキャビティプレート21にAD法により振動層41を形成し、振動層41の上面に共通電極43を形成した後、共通電極43が形成された振動層41の上面にAD法により圧電層42を形成する。次に、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10となる貫通孔を形成してから、圧電層42の上面の圧力室10と対向する部分に個別電極44を形成する。次に、キャビティプレート21、振動層41、共通電極43、圧電層42及び個別電極44の積層体を850℃程度で加熱することによって、圧電層42に圧電特性を持たせるためのアニールと、個別電極44及び共通電極42の焼成とを同時に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電層を有する圧電アクチュエータ、及び、このような圧電アクチュエータを有する液体移送装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のインクジェットヘッドにおいては、圧力室内のインクに圧力を付与するための圧電アクチュエータを製造する際に、圧力室を覆うように流路ユニットの上面にステンレス材料等からなる振動板を接合し、その振動板の上面に、拡散防止層となる下部電極を形成し、その上からエアロゾルデポジション法(AD法)により圧電層を形成している。さらに、AD法により形成した圧電層に圧電特性を持たせるために圧電層を高温で加熱するアニールを行っている。このとき、圧電層とともに加熱される振動板の構成原子が拡散することになるが、この原子の拡散は拡散防止層としての下部電極で止まり、振動板の構成原子が圧電層まで拡散してしまうのが防止されている。これにより、振動板の構成原子が圧電層に拡散することによって圧電層の圧電特性が低下してしまうのが抑制されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−54442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に記載の圧電アクチュエータにおいては、圧電層の圧力室と対向する部分(駆動部分)が変形することによって圧力室内のインクに圧力を付与する、すなわち、圧電層の圧力室に対向する部分の圧電特性が、圧電アクチュエータの駆動に影響を与える。しかしながら、特許文献1に記載のインクジェットヘッドでは、圧電層の圧力室と対向する部分にステンレス材料等からなる振動板が配置されているので、両者の間に拡散防止層としての下部電極が配置されていたとしても、下部電極により振動板の構成原子の拡散を十分に止めることができず、振動板の構成原子が下部電極を通り抜けて圧電層の圧力室と対向する部分まで拡散してしまい、圧電層のこの部分圧電特性が低下し、その結果圧電アクチュエータを駆動したときの圧電層及び振動板の変形量が低下してしまう虞がある。
【0005】
本発明の目的は、圧電層及び振動層の変形量が低下してしまうのを極力抑制することが可能な圧電アクチュエータの製造方法、及び、このような圧電アクチュエータを有する液体移送装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法は、金属又はシリコンからなる基材の一表面に、セラミックス材料からなる振動層を成膜する振動層成膜工程と、前記振動層の前記基材と反対側に、圧電層を成膜する圧電層成膜工程と、前記圧電層成膜工程よりも後に行われる工程であって、前記基材の一部を除去することで、前記基材の前記振動層とは反対側から前記振動層を臨むことのできる貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、前記圧電層の少なくとも前記貫通孔と対向する部分に電極を形成する電極形成工程と、前記貫通孔形成工程よりも後に行われる工程であって、前記圧電層を加熱する加熱工程とを備えている(請求項1)。
【0007】
圧電アクチュエータにおいては、電極の電位を変化させることにより、圧電層及び振動層の貫通孔と対向する部分が変形する。一方、圧電層を加熱する際には、圧電層と積層されている基材も加熱されることになり、金属又はシリコンからなる基材は高温で加熱されると、その構成原子が圧電層などに拡散する。そして、基材の構成原子が圧電層の貫通孔と対向する部分(駆動部分)に拡散すると、圧電層のこの駆動部分における圧電特性が低下して、電極の電位を変化させたときの圧電層及び振動層の変形量が低下してしまう。
【0008】
しかしながら、本発明では、圧電層を加熱する前に、基材に貫通孔を形成しているため、圧電層の貫通孔に対向する部分には、基材の構成原子が拡散しにくい。したがって、圧電層の駆動部分の圧電特性が低下しにくく、電極の電位を変化させたときの圧電層及び振動層の変形量が低下してしまうのを抑制することができる。
【0009】
また、振動層を十分に変形させるためには、振動層の厚みが大きいほど、基材の面方向に関する貫通孔の長さを大きくする必要があるが、基材の一表面に振動層を成膜する場合には、基材の一表面に振動層となるシートを接合する場合など比較して、振動層の厚みを薄くすることができるため、基材の面方向に関する貫通孔の長さが小さくても、振動層は十分に変形する。したがって、基材の面方向に関する貫通孔の長さを小さくすることが可能となり、圧電アクチュエータにおいて、駆動部分の高集積化が可能となる。
【0010】
また、本発明の圧電アクチュエータの製造方法においては、前記圧電層成膜工程において、前記圧電層はエアロゾルデポジション法によって成膜されることが好ましい(請求項2)。
【0011】
エアロゾルデポジション法(AD法)によって圧電層を成膜した場合には、圧電層に圧電特性を持たせるために、成膜した圧電層を高温で加熱するアニールを行う必要があり、この加熱によって基材の構成原子が拡散してしまうことになる。しかしながら、この場合でも、加熱工程よりも前に基材に貫通孔を形成しているため、圧電層の貫通孔に対向する部分には基材の構成原子が拡散しにくい。したがって、圧電層の駆動部分の圧電特性が低下しにくくなり、電極の電位を変化させたときの圧電層及び振動層の変形量が低下してしまうのを抑制することができる。
【0012】
また、本発明の圧電アクチュエータの製造方法においては、前記振動層成膜工程において、前記振動板はエアロゾルデポジション法によって成膜されることが好ましい(請求項3)。
【0013】
これによると、AD法により緻密な構成を有する振動層を高速に成膜することができる。そして、振動層が緻密な構造となることにより、加熱工程において拡散した基材の構成原子が振動層で止まり、圧電層には拡散しにくい。したがって、圧電層の圧電特性が低下してしまうのをさらに効果的に抑制することができる。
【0014】
また、圧電特性を持たせる必要のある圧電層とは異なり、AD法により形成した振動層にはアニールを行う必要がなく、AD法により形成した振動層は、常温で固化する。したがって、振動層を成膜する際に、振動層を高温で加熱する必要がなく、基材の構成原子が振動層の貫通孔に対向する部分に拡散して、その後の加熱工程において振動層の貫通孔に対向する部分に拡散した基材の構成原子がさらに圧電層に拡散することがない。
【0015】
また、本発明の圧電アクチュエータの製造方法においては、前記貫通孔形成工程において、前記貫通孔はエッチングにより形成されることが好ましい(請求項4)。これによると、エッチングにより、金属又はシリコンからなる基材に、貫通孔を容易に形成することができる。
【0016】
このとき、前記電極形成工程が、前記圧電層の前記振動層と反対側に露出する露出電極を形成する露出電極形成工程を含んでおり、この露出電極形成工程は、前記貫通孔形成工程よりも後に行われることが好ましい(請求項5)。
【0017】
露出電極は、圧電層の振動層と反対側に露出しているため、エッチングによって貫通孔を形成する場合には、露出電極を形成した後に貫通孔を形成すると、エッチング液によって露出電極が損傷しまう虞がある。また、これを防止するためには、エッチングにより貫通孔を形成する前に、露出電極にマスクをするなど余分な工程が必要となる。しかしながら、本発明では、貫通孔を形成した後に露出電極を形成しているため、上述したようにエッチング液によって露出電極が損傷してしまうことがなく、上述したマスクの処理などが不要となる。なお、本発明の露出電極は、本発明の圧電層における本発明の振動層と反対側に形成されるものであればよく、この条件を満たせば、本発明の構成要素ではない部材等によって被覆され露出していない態様も含むものである。
【0018】
また、本発明の圧電アクチュエータの製造方法においては、前記電極形成工程を、前記加熱工程よりも前に行うことが好ましい(請求項6)。
【0019】
スクリーン印刷やスパッタ法等によって電極を形成した場合などには、形成した電極を焼成する必要があるが、加熱工程よりも前に電極形成工程を行うことにより、加熱工程において、圧電層の加熱と同時に電極の焼成を行うことができる。
【0020】
本発明の液体移送装置の製造方法は、金属又はシリコンからなり、圧力室が形成される圧力室プレートの一表面に、セラミックス材料からなる振動層を成膜する振動層成膜工程と、前記振動層の前記圧力室プレートと反対側に、圧電層を成膜する圧電層成膜工程と、前記圧電層成膜工程よりも後に行われる工程であって、前記圧力室プレートの一部を除去することで、前記基材の前記振動板とは反対側から前記振動層を臨むことのできる圧力室を形成する圧力室形成工程と、前記圧電層の少なくとも圧力室と対向する部分に電極を形成する電極形成工程と、前記圧力室形成工程よりも後に行われる工程であって、前記圧電層を加熱する加熱工程とを備えている(請求項7)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0022】
図1は、本発明における実施の形態に係るプリンタの概略構成図である。図1に示すように、プリンタ1は、キャリッジ2、インクジェットヘッド3(液体移送装置)、搬送ローラ4などを備えている。キャリッジ2は、走査方向(図1の左右方向)に往復移動する。インクジェットヘッド3は、キャリッジ2の下面に取り付けられており、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動しつつ、その下面に形成された複数のノズル15(図2参照)からインクを吐出する。搬送ローラ4は記録用紙Pを紙送り方向(図1の手前方向)に搬送する。そして、プリンタ1においては、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド3から搬送ローラ4によって紙送り方向に搬送される記録用紙Pにインクを吐出することによって記録用紙Pに印刷を行う。
【0023】
次に、インクジェットヘッド3について説明する。図2は図1のインクジェットヘッド3の平面図である。図3は図2の部分拡大図である。図4は図3のIV−IV線断面図である。図5は図3のV−V線断面図である。図2〜図5に示すように、インクジェットヘッド3は、圧力室10を含むインク流路が形成された流路ユニット31と、圧力室10内のインクに圧力を付与するための圧電アクチュエータ32とを備えている。
【0024】
流路ユニット31は、キャビティプレート21(圧力室プレート、基材)、ベースプレート22、マニホールドプレート23及びノズルプレート24の4枚のプレートが互いに積層されることによって構成されている。これら4枚のプレート21〜24のうち、ノズルプレート24を除く3枚のプレート21〜23は、ステンレスなどの金属材料からなり、ノズルプレート24は、ポリイミドなどの合成樹脂からなる。あるいは、ノズルプレート24も他の3枚のプレート21〜23と同様、金属材料により構成されていてもよい。
【0025】
キャビティプレート21には、複数の圧力室10(貫通孔)が形成されている。複数の圧力室10は、走査方向(図2の左右方向)を長手方向とする略楕円の平面形状を有しており、キャビティプレート21をその厚み方向に貫通している。また、複数の圧力室10は、紙送り方向(図2の上下方向)に2列に配列されている。ベースプレート22には、平面視で圧力室10の長手方向に関する両端部と重なる位置に、それぞれ、略円形の貫通孔12、13が形成されている。
【0026】
マニホールドプレート23には、圧力室10の列に沿って紙送り方向に2列に延びているとともに、図2における下端部において、これら紙送り方向に延びた部分同士を接続するように走査方向に延びたマニホールド流路11が形成されている。マニホールド流路11は、上記紙送り方向に2列に延びた部分において、平面視で図2の右側に配列された複数の圧力室10の略右半分、及び、図2の左側に配列された複数の圧力室10の略左半分と重なるように配置されている。マニホールド流路11には、図2における下端部に形成されたインク供給口9からインクが供給される。また、マニホールドプレート23には、平面視で貫通孔13と重なる部分に略円形の貫通孔14が形成されている。ノズルプレート24には、平面視で貫通孔14と重なる部分に、ノズル15が形成されている。
【0027】
そして、マニホールド流路11が貫通孔12を介して圧力室10と連通しており、圧力室10が貫通孔13、14を介してノズル15に連通している。このように、流路ユニット31には、マニホールド流路11の出口から圧力室10を経てノズル15に至る複数の個別インク流路が形成されている。
【0028】
圧電アクチュエータ32は、振動層41、圧電層(圧電材料を含む層)42、共通電極43及び複数の個別電極44を備えている。振動層41はアルミナ、ジルコニアなどのセラミックス材料からなり、複数の圧力室10を覆うように、キャビティプレート21の上面に配置されている。
【0029】
圧電層42は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料を含む層であり、振動層41の上面(キャビティプレート21と反対側)に複数の圧力室10にまたがって連続的に配置されている。また、圧電層42は、予めその厚み方向に分極されている。
【0030】
共通電極43は、白金、パラジウム、金、銀などからなり、振動層41と圧電層42との間のほぼ全域にわたって配置されている。共通電極43は、図示しないフレキシブル配線基板(FPC)を介して図示しないドライバICに接続されており、ドライバICにより常にグランド電位に保持されている。
【0031】
複数の個別電極44(露出電極)は、共通電極43と同様の材料からなり、圧電層42の上面(振動層41と反対側)に複数の圧力室10に対応して配置されており、圧電層42の上面に露出している。個別電極44は、圧力室10よりも一回り小さい略楕円の平面形状を有しており、平面視で、圧力室10の略中央部と対向する部分に配置されている。また、個別電極44は、その長手方向に関するノズル15と反対側の端部が走査方向に圧力室10と対向しない部分まで延びており、その先端部が図示しないFPCに接続される接続端子44aとなっている。そして、複数の個別電極44には、FPCを介して、図示しないドライバICにより駆動電位が選択的に付与される。
【0032】
ここで、圧電アクチュエータ32の駆動方法について説明する。圧電アクチュエータ32においては、複数の個別電極32は、予めグランド電位に保持されている。そして、圧電アクチュエータ32を駆動する際には、複数の個別電極44のいずれかに駆動電位を選択的に付与する。すると、圧電層42の駆動電位が付与された個別電極44とグランド電位に保持された共通電極43との間に電位差が生じ、圧電層42のこれらの電極に挟まれた部分には厚み方向の電界が発生する。
【0033】
この電界の方向は、圧電層42の分極方向と一致するので、圧電層42の圧力室10と対向する部分は、この電界の方向と直交する水平方向に収縮する。これに伴って、圧電層42及び振動層41の圧力室10と対向する部分が、全体として圧力室10側に凸となるように変形する。これにより、圧力室10の容積が低下して圧力室10内のインクの圧力が上昇し(圧力室10内のインクに圧力が付与され)、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。
【0034】
次に、インクジェットヘッド3(圧電アクチュエータ32)の製造方法について説明する。図6はインクジェットヘッド3の製造工程を示すフローチャートである。図7は製造の各工程におけるインクジェットヘッド3の状態を示す工程図である。
【0035】
インクジェットヘッド3(圧電アクチュエータ32)を製造する際には、まず、図6、図7(a)に示すように、圧力室10が形成される前のキャビティプレート21(基材)の上面(一表面)に、セラミックス材料の微粒子を含むエアロゾルを噴き付けて成膜を行うエアロゾルデポジション法(AD法)により振動層41を成膜する(ステップS101、以下、単にS101などとする、振動層成膜工程)。このように、AD法で振動層41を形成することにより、振動層41が緻密な構造となるとともに、その厚みを薄くすることができる。
【0036】
ここで、前述したように圧電アクチュエータ32を駆動したとき、振動層41を十分に変形させるためには、振動層41の厚みが大きいほど、走査方向及び紙送り方向(キャビティプレート21の面方向)に関する圧力室10の長さを大きくする必要がある。
【0037】
したがって、本実施の形態のように、AD法により薄い振動層41を成膜した場合には、走査方向及び紙送り方向に関する圧力室10の長さが小さくても、圧電アクチュエータ32を駆動したときに、振動層41は十分に変形する。したがって、圧力室10、及び、圧電アクチュエータ32の駆動部分(圧力室10と対向する部分)を高集積化できる。
【0038】
次に、スクリーン印刷、スパッタ法などにより、図6、図7(b)に示すように、振動層41の上面に、共通電極43を形成し(S102)。続いて、圧電材料の微粒子を含むエアロゾルを噴き付けて成膜を行うAD法により、図6、図7(c)に示すように、共通電極43が形成された振動層41の上面(キャビティプレート21と反対側)に、圧電層42を成膜する(S103、圧電層成膜工程)。
【0039】
次に、キャビティプレート21の一部分を除去することで、図6、図7(d)に示すように、キャビティプレート21に、キャビティプレート21をその厚み方向に貫通しており、下方から(キャビティプレート21の振動層41と反対側から)振動層41を臨むことのできる圧力室10(貫通孔)を形成する(S104、貫通孔形成工程、圧力室形成工程)。ここで、キャビティプレート21はステンレスなどの金属材料からなるため、エッチングにより圧力室10を容易に形成することができる。
【0040】
次に、図6、図7(e)に示すように、圧電層42の上面に、スクリーン印刷、スパッタ法等により複数の個別電極44を形成する(S105、露出電極形成工程)。
【0041】
ここで、本実施の形態とは逆に、圧電層42の上面に複数の個別電極44を形成した後、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10を形成することも可能である。しかしながら、この場合には、個別電極44は、振動層42の上面に露出しているため、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10を形成する際に、エッチング液が個別電極44に付着してしまい、個別電極44が損傷してしまう虞がある。また、これを防止するためには、エッチングにより圧力室10を形成する前に、個別電極44にマスクをするなど余分な工程が必要となってしまう。
【0042】
これに対して、本実施の形態では、圧力室10を形成した後に個別電極44を形成している(露出電極形成工程が、貫通孔形成工程よりも後に行われている)ため、エッチング液により個別電極44が損傷してしまうことはなく、個別電極44にマスクをする必要などもないので、その分、製造工程が簡単になる。なお、上述した共通電極を形成する工程と、この個別電極44を形成する工程とを合わせたものが、本発明に係る、圧電層42の少なくとも圧力室10と対向する部分に電極を形成する電極形成工程に相当する。
【0043】
次に、キャビティプレート21、振動層41、共通電極43、圧電層42及び複数の個別電極44の積層体を高温(例えば、850℃程度)で加熱する(S106、加熱工程)。これにより、AD法により形成された圧電層42に圧電特性を持たせるために高温で加熱するアニールが行われるとともに、共通電極43及び個別電極44の焼成が行われる。
【0044】
このとき、上記加熱によって、キャビティプレート21の構成原子(例えば、キャビティプレート21がステンレスからなる場合にはCrの原子)が振動層41及び圧電層42に拡散する。そして、キャビティプレート21の構成原子が圧電層42の圧力室10と対向する部分に拡散すると、圧電層42のこの部分における圧電特性が低下してしまい、その結果、圧電アクチュエータ32を駆動したときの圧電層42及び振動板41の変形量が低下して、ノズル15からのインクの吐出特性が低下してしまう。
【0045】
しかしながら、本実施の形態では、加熱を行う前に、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10を形成しているので、キャビティプレート21の構成原子が振動層41及び圧電層42に拡散したとしても、圧電層42の圧力室10と対向する部分には拡散しにくい。したがって、圧電層42の圧力室10に対向する部分の圧電特性が低下してしまうのが抑制され、圧電アクチュエータ32を駆動したときの圧電層42及び振動層41の変形量が低下してしまうのを抑制することができる。
【0046】
さらに、上述したように、AD法によりセラミックス材料の振動層41を形成しているため、振動層41は緻密な構造になっており、キャビティプレート21から拡散したその構成原子は、振動層41によって止められ、圧電層42までは拡散しにくい。これにより、圧電層42のこの部分の圧電特性が低下してしまうのがさらに抑制される。
【0047】
ここで、本実施の形態とは逆に、上記加熱の後、圧電層42の上面に個別電極44を形成することも可能であるが、この場合には、上記加熱によって、圧電層42のアニール、及び、共通電極43の焼成のみが行われるだけであり、この後に形成した個別電極44を焼成するために、上記加熱とは別に個別電極44を加熱する必要がある。
【0048】
これに対して、本実施の形態では、この加熱を行う前に、共通電極43及び複数の個別電極44を形成している(電極形成工程を加熱工程よりも前に行っている)ため、圧電層42のアニールと共通電極43及び個別電極44の焼成を同時に行うことができる。
【0049】
この後、キャビティプレート21と、予め作製しておいた、ベースプレート22、マニホールドプレート23及びノズルプレート24とを互いに接合する(S107)。これにより、インクジェットヘッド3が完成する。なお、加熱工程(S106)の後には、圧電層を分極する分極工程を行う必要があり、例えば、共通電極43をグランド電位に保持し個別電極44を駆動電位よりも高い電位にすることで、圧電層の厚み方向に分極が施される。
【0050】
以上に説明した実施の形態によると、AD法により圧電層42を形成した場合には、圧電層42に圧電特性をもたせるために圧電層42を高温で加熱するアニールが必要となり、このとき、圧電層42とともに加熱されるキャビティプレート21の構成原子が振動層41及び圧電層42に拡散してしまう。
【0051】
しかしながら、本実施の形態では、キャビティプレート21、振動層41、共通電極43、振動層42及び個別電極44の積層体を加熱する前に、キャビティプレート21の一部を除去して圧力室10を形成しているので、その後の加熱によりキャビティプレート21の構成原子が拡散したとしても、キャビティプレート21の構成原子が圧電層42の圧力室10と対向する部分には拡散しにくい。これにより、圧電層42のこの部分の圧電特性が低下してしまうのを抑制することができる。
【0052】
さらに、本実施の形態では、振動層41をAD法により成膜しているため、緻密な構造の振動層41を高速に成膜することができる。また、キャビティプレート21と圧電層42と間に配置される振動層41が緻密な構造を有していることにより、加熱の際に拡散したキャビティプレート21の構成原子が振動層41で止まり、圧電層42までは拡散しにくい。したがって、圧電層42の圧力室10と対向する部分の圧電特性が低下してしまうのをさらに効果的に抑制することができる。
【0053】
また、圧電アクチュエータ32を駆動したときに振動層41を十分に変形させるためには、振動層41の厚みが大きいほど、走査方向及び紙送り方向に関する圧力室10の長さを大きくする必要がある。しかしながら、本実施の形態では、AD法により振動層41を成膜しているので、振動層41を薄くすることができ、これにより、走査方向及び紙送り方向に関する圧力室10の長さが小さくても、振動層41を十分に変形させることができる。したがって、圧力室10及び圧電アクチュエータ32の圧力室10と対向する駆動部分を高集積化することができる。
【0054】
また、キャビティプレート21がステンレスなどの金属材料からなるため、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10を容易に形成することができる。
【0055】
また、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10を形成した後に、圧電層42の上面に個別電極44を形成しているため、圧力室10を形成する際に、エッチング液が個別電極44に付着して個別電極44が損傷してしまうことがない。これにより、エッチングを行う前に個別電極44にマスクをするなどの工程が不要となる。
【0056】
また、本実施の形態では、個別電極44を形成した後、キャビティプレート21、振動層41、共通電極43、圧電層42及び個別電極44の積層体を加熱することにより、圧電層42のアニールと、個別電極44及び共通電極43の焼成とを同時に行うことができる。
【0057】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成を有するものについては同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0058】
本実施の形態では、圧電層42をAD法によって成膜したが、圧電層42を他の方法によって成膜することも可能である。具体的には、例えば、圧電材料とガラスなどの焼結助剤とからなる原料粉末、有機バインダー及び可塑剤を溶剤と混合することによって作られる液状のスラリーを共通電極43が形成された振動層41の上面に塗布することによって圧電層42を成膜してもよい。
【0059】
この場合には、スラリーを塗布した後、圧電層42の焼成(固化)、及び、圧電層42のアニールのために、キャビティプレート21、振動層41、共通電極43、圧電層42及び個別電極44の積層体を高温(例えば、850℃以上)で加熱する。このため、圧電層42の焼成の際に、キャビティプレート21の構成原子が拡散する。しかしながら、この場合でも、実施の形態と同様、キャビティプレート21に圧力室10を形成した後で、圧電層42の加熱を行っているため、キャビティプレート21の構成原子が、圧電層42の圧力室10と対向する部分には拡散しにくい。
【0060】
また、本実施の形態では、振動層41をAD法によって成膜したが、振動層41を他の方法によって成膜することも可能である。具体的には、ゾルゲル法、スパッタ法、CVD法(化学気相成長法)、水熱合成法など、キャビティプレート21からその構成原子が拡散しない程度の低温で成膜した振動層41を固化させることができる方法によって振動層41を成膜することも可能である。
【0061】
なお、本実施の形態では、AD法により圧電層42を形成した後、圧電層42を高温で加熱するアニールを行っているが、これは、前述したように、圧電層42に圧電特性を持たせるための処理であり、圧電層42を固化させるための処理ではない。そして、AD法で成膜した振動層41及び圧電層42は常温で固化する。すなわち、上記実施の形態のように、AD法により振動層41を形成した場合にも、成膜された振動層41を、基材21からその構成原子が拡散しない常温で固化させることができる。
【0062】
ここで、振動層41を形成した後、その上面に共通電極43などを形成するためには、振動層41を固化させる必要があるが、この固化のために、キャビティプレート21と振動層41との積層体を、キャビティプレート21の構成原子が拡散してしまう程の高温で加熱することになると、この加熱の際に、キャビティプレート21の構成原子が圧力室10と対向する部分を含む振動層41の全域に拡散してしまう。したがって、この後、キャビティプレート21に圧力室10を形成してから、圧電層42にアニールを行うために加熱を行ったとしても、振動層41の圧力室10と対向する部分に拡散していたキャビティプレート21の構成原子が、振動層41からさらに圧電層42の圧力室10と対向する部分に拡散して、圧電層42のこの部分における圧電特性が低下してしまう虞がある。
【0063】
そのため、振動層41は、上述したような、キャビティプレート21の構成原子が拡散しない程度の低温で固化させることができるような方法を用いて成膜することが好ましい。
【0064】
また、本実施の形態では、キャビティプレート21に圧力室10を形成した後、圧電層42の上面に個別電極44を形成していたが、圧電層42の上面に個別電極44を形成した後に、キャビティプレート21に圧力室10を形成してもよい。この場合には、エッチング液による個別電極44の損傷を防止するために、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10を形成する前に、個別電極44にマスクをしておけばよい。
【0065】
また、本実施の形態では、個別電極44を形成した後、キャビティプレート21、振動層41、共通電極43、圧電層42及び個別電極44の積層体を加熱して、圧電層42のアニールと、個別電極44及び共通電極43の焼成とを行っていたが、これには限られない。例えば、キャビティプレート21に圧力室10を形成した後、個別電極44を形成する前に、キャビティプレート21、振動層41、共通電極43及び圧電層42の積層体を加熱して、圧電層42のアニール及び共通電極43の焼成を行い、その後、圧電層42の上面に個別電極44を形成し、形成した個別電極44を焼成するために、上述したのとは別に個別電極44が積層された積層体を加熱してもよい。
【0066】
また、キャビティプレートはステンレスなどの金属材料であることには限られず、キャビティプレートが、シリコンからなるものであってもよい。シリコンの原子が圧電層42に拡散した場合にも、圧電層42の圧電特性が低下してしまうが、この場合でも、加熱を行う前に、キャビティプレート21の一部を除去して圧力室10を形成しているため、実施の形態と同様、シリコンの原子が圧電層42の圧力室10と対向する部分には拡散しにくい。さらに、キャビティプレートとなる基材がシリコンからなる場合にも、エッチングにより基材に圧力室を容易に形成することができる。
【0067】
また、本実施の形態では、振動層41の上面に圧電層42が1層だけ形成されていたが、これには限られない。一変形例では、図8に示すように、圧電層42の上面に、さらに圧電層71、72が配置されており、圧電層71と圧電層72との間に、そのほぼ全域にわたって共通電極74が配置されているとともに、圧電層72の上面(振動層41と反対側)の圧力室10と対向する部分に、個別電極44と同様の形状を有する個別電極74(露出電極)が配置されている(変形例1)。なお、この場合には、圧電層42、71、72を合わせたものが本発明に係る圧電層に相当する。また、この場合には、上記実施の形態とは異なり、個別電極44は、本発明に係る露出電極に相当するものではない。
【0068】
このようなインクジェットヘッドを製造する際には、本実施の形態と同様、図7(a)〜(c)に示すように、圧力室10が形成される前のキャビティプレート21の上面に、振動層41、共通電極43及び圧電層42を形成した後、図9(a)に示すように、圧電層42の上面に個別電極44を形成し、次に、図9(b)に示すように、圧電層42の上面に圧電層71を成膜する。続いて、図9(c)に示すように、圧電層71の上面に共通電極73を形成し、次に、図9(d)に示すように、圧電層71の上面に圧電層72を形成する。なお、圧電層71、72は、圧電層42と同様、AD法によって成膜し、共通電極73は、共通電極43と同様、スクリーン印刷やスパッタ法等によって形成する。
【0069】
次に、本実施の形態と同様、図9(e)に示すように、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10を形成し(貫通孔形成工程、圧力室形成工程)、次に、図9(f)に示すように、圧電層72の上面にスクリーン印刷やスパッタ法等によって個別電極74を形成する(露出電極形成工程)。そして、この後、キャビティプレート21、振動層41、圧電層41、42、71、72、共通電極43、73及び個別電極44、74の積層体を加熱して、圧電層42、71、72のアニールと、共通電極43、73及び個別電極44、74の焼成とを行う(加熱工程)。
【0070】
なお、この場合には、圧電層42、71、72を成膜する工程を合わせたものが、本発明に係る圧電層成膜工程に相当し、共通電極43、73及び個別電極44、74を形成する工程を合わせたものが、本発明に係る電極形成工程に相当する。
【0071】
この場合でも、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10を形成した後、個別電極74を形成しているので、エッチング液によって個別電極74が損傷してしまうことがない。さらに、個別電極74を形成した後、加熱工程を行っているので、圧電層42、71、72のアニール、並びに、共通電極43、73及び個別電極44の焼成と同時に、個別電極74の焼成を行うことができる。
【0072】
また、本実施の形態では、圧電アクチュエータ32において、圧電層42の下面に共通電極43が配置されているとともに、圧電層42の上面に複数の個別電極44が配置されていたが、圧電アクチュエータは、圧電層42の上面あるいは下面にのみ電極が配置されたものであってもよい。
【0073】
例えば、別の一変形例では、図10〜13に示すように、圧電層42の下面には電極が形成されておらず、圧電層42の上面に個別電極132及び共通電極134が形成されている(変形例2)。
【0074】
複数の個別電極132は、複数の圧力室10とそれぞれ対向する複数の内側領域140の上面に形成されている。各個別電極132のパターンは、圧力室10(内側領域140)の長手方向に延在した3つの長手方向突起145と、圧力室10の幅方向外側に位置する2つの長手方向突起145からそれぞれ幅方向外側へ延在した複数の幅方向突起146とを含んでいる。3つの長手方向突起145は、略楕円形の内側領域140の中心を含み、その長手方向(図10の左右方向)に細長い第1区域142の上面に、幅方向に等間隔空けて配置されている。一方、複数の幅方向突起146は、その長手方向に平行に延びる圧力室10の2本の縁(内側領域140と外側領域141との境界)と第1区域142の外縁との間に位置して圧力室10の縁の近傍部と対向する第2区域143の上面に、長手方向に等間隔空けて配置されている。
【0075】
3つの長手方向突起145はそれらの一端部(図10の右端部)において互いに導通しており、この導通部からは外側領域141へ接点部135が引き出されている。複数の個別電極132にそれぞれ対応する複数の接点部135は、走査方向に関する両端部においてそれぞれ紙送り方向に配列されている。さらに、複数の接点部135には、図示しないFPCが接合され、この配線部材を介して接点部135は図示しないドライバICと電気的に接続されている。そして、第1区域142の3つの長手方向突起145、第2区域143の複数の幅方向突起146、及び、接点部135は互いに導通していることから、ドライバICからFPC及び接点部135を介して3つの長手方向突起145及び複数の幅方向突起146に同時に駆動電圧が印加されるようになっている。
【0076】
共通電極134のパターンは、各第1区域142の個別電極132の3つの長手方向突起145の間において圧力室10の長手方向にそれぞれ延在した2つの長手方向突起147と、各第2区域143の個別電極132の複数の幅方向突起146の間において圧力室10の幅方向(短手方向)にそれぞれ延在した複数の幅方向突起148を含んでいる。図10に示すように、第1区域142において、個別電極132の3つの長手方向突起145と共通電極134の2つの長手方向突起147は、等間隔空けて交互に配置されている。また、第2区域143において、個別電極132の複数の幅方向突起146と共通電極134の複数の幅方向突起148は等間隔空けて交互に配置されている。
【0077】
また、図10に示すように、左右2列の圧力室10の列にそれぞれ対応する第1区域142の長手方向突起147は、接点部135と反対側の端部(図10の左端部)において、圧力室10の配列方向(図10の上下方向)に延びる導電部149により全て導通している。また、第2区域143の幅方向突起148は、隣接する2つの圧力室10の間において、その長手方向(図10の左右方向)に延びる導電部150により接続され、導電部150は導電部149に接続されている。つまり、導電部149,150を介して、共通電極134の長手方向突起147と幅方向突起148とが互いに導通している。また、幅方向突起148は、導電部150から圧力室10の幅方向一方側(図10の上側)に向けて延在する第1幅方向突起148aと、幅方向他方側(図10の下側)へ向けて延在する第2幅方向突起148bとを有しており、第1幅方向突起148aと第2幅方向突起148bは、隣接する2つの圧力室10を駆動するための共通電極134としてそれぞれ作用している。つまり、異なる圧力室10の駆動にそれぞれ寄与する第1幅方向突起148aと第2幅方向突起148bが1つの導電部150から派生した構造となっており、共通電極134が、限られたスペースに効率よく配されたパターンとなっている。さらに、図10に示すように、左右2つの導電部149からは走査方向に関する両端部(走査方向に関して個別電極132の接点部135と同じ位置)までそれぞれ2つの接点部136が引き出され、これら2つの接点部136には、個別電極132の接点部135と同様に、FPCが接合されている。そして、共通電極134の全ての長手方向突起147と幅方向突起148は、接点部136及び配線部材を介して常にグランド電位に保持されている。
【0078】
このように、個別電極132のパターンと共通電極134のパターンが共に圧電層42の上面に形成されているため、ある個別電極132に駆動電圧が印加されたときには、内側領域140の圧電層42(特に、上面部)にはその表面に平行な方向(以下、面方向と記載する場合もある)に向いた電界が生じる。図10に示すように、第1区域142においては、個別電極132の長手方向突起145と共通電極134の長手方向突起147との間には、矢印で示すように、圧力室10の幅方向に向いた面内成分からなる第1電界E1が生じる。一方、第2区域143においては、個別電極132の幅方向突起146と共通電極134の幅方向突起148との間に、矢印で示すように、第1電界E1と直交する圧力室10の長手方向に向いた面内成分からなる第2電界E2が生じる。
【0079】
さらに、圧電層42の内側領域140は、予め個別電極132に前述の駆動電圧よりも高い分極用の電圧を印加して高い電界が作用させることにより、その表面に平行な方向に分極処理されている。そして、第1区域142においては第1電界E1と同じ方向(圧力室10の幅方向)に分極され、第2区域143においては第2電界E2と同じ方向(圧力室10の長手方向)に分極されている。したがって、圧電層42の分極方向は、個別電極132に電圧が印加されたときに生じる電界の方向と同じである。
【0080】
そして、変形例2の圧電アクチュエータにおいては、ドライバICから複数の個別電極132に対して選択的に駆動電圧が印加されると、個別電極132と共通電極134が互いに異なる電位となる。すると、図10に示すように、駆動電圧が印加された個別電極132の下側の圧電層131の内側領域140において、第1区域142の圧電層42に圧力室10の幅方向に向かう第1電界E1が生じるとともに、第2区域143の圧電層42に圧力室10の長手方向に向かう第2電界E2が生じる。
【0081】
ここで、前述したように、圧電層42は、第1区域142においては第1電界E1と同じ方向に分極され、第2区域143においては第2電界E2と同じ方向に分極されている。したがって、図11、図13に矢印で示すように、第1区域142においては、圧電層42は第1電界E1の方向である圧力室10の幅方向に伸びて、圧力室10の長手方向に縮む。一方、第2区域143においては、圧電層42は第2電界E2の方向である圧力室10の長手方向に伸びて、圧力室10の幅方向に縮む。即ち、図13に示すように、圧力室10の幅方向に見ると、圧電層42は、第1区域142においては伸長し、その両側の第2区域143においては収縮する。このとき、内側領域140の圧電層42の下側に位置する振動板41は面方向に伸縮せず、内側領域140の圧電層42が面方向に伸縮変形するのに抵抗する。さらに、内側領域140を包囲する外側領域141の圧電層42及びその下側の振動板41は厚み方向の変形が規制されている。そのため、図12、図13の破線で示すように、圧電層42と振動板41は、上方(圧力室10と反対側)に凸となるように大きく湾曲変形する。このように振動板41が湾曲すると、圧力室10の容積が増大して圧力室10内に負の圧力波が発生し、マニホールド流路13から圧力室10内にインクが流入する。
【0082】
その後、圧力室10内で生じた負の圧力波が正に反転するタイミングで、個別電極132への駆動電圧の印加を停止する。すると、圧電層42及び振動板41が元の水平な形状に戻り、圧力室10の容積が減少するが、このとき、前述の圧力室10の容積増大に伴う圧力波と、振動板41の復元に伴い生じる圧力波とが合成されるため、インクに大きな圧力が付与され、ノズル15からインクが吐出される。
【0083】
変形例2のインクジェットヘッド(圧電アクチュエータ)を製造する際には、キャビティプレート21の上面に振動層41を成膜した後、直ちに振動層41の上面に圧電層42を成膜する。また、実施の形態における個別電極44を形成する工程において、個別電極132及び共通電極134を形成する。それ以外の製造工程については、上述の実施の形態と同様であるので、ここでは、その詳細を省略する。
【0084】
そして、変形例2においても、上述したようにしてインクジェットヘッドを製造することにより、上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0085】
また、本実施の形態では、エッチングによりキャビティプレート21に圧力室10を形成したが、レーザ加工など、他の方法によって圧力室10を形成してもよい。
【0086】
また、以上では、圧力室内のノズルからインクを吐出するインクジェットヘッド及びこれに用いられる圧電アクチュエータの製造に本発明を適用した例について説明したが、これには限られない。例えば、ノズルからインク以外の液体を吐出する液体吐出ヘッド及びこれに用いられる圧電アクチュエータの製造に本発明を適用することも可能であり、圧力室内の液体に圧力を付与することによって圧力室を含む液体移送流路内の液体を移送する液体移送装置及びこれに用いられる圧電アクチュエータの製造に本発明を適用することも可能である。
【0087】
さらには、所定の駆動対象を駆動させるための圧電アクチュエータの製造に本発明を適用することも可能である。この場合には、振動層41の下面の、基材に形成した貫通孔に露出している部分に駆動対象を取り付ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明における実施の形態に係るプリンタの概略構成図である。
【図2】図1のインクジェットヘッドの平面図である。
【図3】図2の部分拡大図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】インクジェットヘッド(圧電アクチュエータ)の製造過程を示すフローチャートである。
【図7】製造の各工程におけるインクジェットヘッドの状態を示す図である。
【図8】変形例1の図5相当の図である。
【図9】変形例1におけるインクジェットヘッドの製造の各工程におけるインクジェットヘッドの状態を示す図である。
【図10】変形例2におけるインクジェットヘッドの一部分、及び、圧電層に作用する電界の方向を示す平面図である。
【図11】変形例2におけるインクジェットヘッドの一部分、及び、圧電層の変形の方向を示す平面図である。
【図12】図11のA−A線断面図である。
【図13】図11のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0089】
3 インクジェットヘッド
10 圧力室
21 キャビティプレート
32 圧電アクチュエータ
41 振動層
42 圧電層
43 共通電極
44 個別電極
71 圧電層
72 圧電層
73 共通電極
74 個別電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属又はシリコンからなる基材の一表面に、セラミックス材料からなる振動層を成膜する振動層成膜工程と、
前記振動層の前記基材と反対側に、圧電層を成膜する圧電層成膜工程と、
前記圧電層成膜工程よりも後に行われる工程であって、前記基材の一部を除去することで、前記基材の前記振動層とは反対側から前記振動層を臨むことのできる貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記圧電層の少なくとも前記貫通孔と対向する部分に電極を形成する電極形成工程と、
前記貫通孔形成工程よりも後に行われる工程であって、前記圧電層を加熱する加熱工程とを備えていることを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
前記圧電層成膜工程において、前記圧電層はエアロゾルデポジション法によって成膜されることを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
前記振動層成膜工程において、前記振動板はエアロゾルデポジション法によって成膜されることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記貫通孔形成工程において、前記貫通孔はエッチングにより形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
前記電極形成工程が、前記圧電層の前記振動層と反対側に露出する露出電極を形成する露出電極形成工程を含んでおり、
この露出電極形成工程は、前記貫通孔形成工程よりも後に行われることを特徴とする請求項4に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
前記電極形成工程を、前記加熱工程よりも前に行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
金属又はシリコンからなり、圧力室が形成される圧力室プレートの一表面に、セラミックス材料からなる振動層を成膜する振動層成膜工程と、
前記振動層の前記圧力室プレートと反対側に、圧電層を成膜する圧電層成膜工程と、
前記圧電層成膜工程よりも後に行われる工程であって、前記圧力室プレートの一部を除去することで、前記基材の前記振動板とは反対側から前記振動層を臨むことのできる圧力室を形成する圧力室形成工程と、
前記圧電層の少なくとも圧力室と対向する部分に電極を形成する電極形成工程と、
前記圧力室形成工程よりも後に行われる工程であって、前記圧電層を加熱する加熱工程とを備えていることを特徴とする液体移送装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−182195(P2009−182195A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20567(P2008−20567)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】