説明

圧電体又は誘電体磁器組成物並びに圧電体デバイス及び誘電体デバイス

【課題】誘電特性及び圧電特性の良好な圧電体又は誘電体磁器組成物を得ることで、多岐に渡る圧電体デバイス及び誘電体デバイス開発の要望に答え、延いてはPZTを主成分とする圧電体又は誘電体磁器組成物を代替し、環境負荷を低減する。
【解決手段】主成分が組成式(1−x)KNbO+xKMeOで表される圧電体又は誘電体磁器組成物あって、0<x≦0.05であり、Meが、4価のTi、3価のMn、2価のMn及び2価のZnから選ばれるいずれかの金属元素と、6価のWとの組み合わせであり、組み合わせたときの総価数が5価であることを特徴とする。前記主成分を100molとしたときに、副成分としてMnをMnO換算で1.0〜2.0mol含有していることが好ましい。また、前記圧電体磁器組成物を用いた圧電体デバイス及び前記誘電体磁器組成物を用いた誘電体デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体又は誘電体磁器組成物、特に、鉛を含有しないアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電体又は誘電体磁器組成物、並びに、その圧電体又は誘電体磁器組成物を用いた圧電体デバイス及び誘電体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体磁器組成物の電気エネルギーを機械エネルギーへ、もしくは機械エネルギーを電気エネルギーへ変換する原理(圧電効果)を用いた、多くの圧電体デバイスの精力的な開発、応用がなされている。
【0003】
これらの圧電効果を用いた圧電体デバイスを構成する圧電体磁器組成物は、例えばPbTiO−PbZrOの2成分よりなる鉛を含有した圧電体磁器組成物(以下、PZTとする。)や、このPZTに対してさらにPb(Mg1/3Nb2/3)OやPb(Zn1/3Nb2/3)Oなどの圧電体磁器組成物を第3成分とした圧電体磁器組成物が存在する。
これらのPZTを主成分とする圧電体磁器組成物は、高い圧電特性を誇り、現在実用化されている圧電効果を用いた圧電体デバイスのほとんどに使用されている。
しかしながら、前記PZTを主成分とする圧電体磁器組成物はPbを含むために、生産工程時におけるPbOの揮発など、環境負荷が高いことが問題となっている。
【0004】
このために鉛を含有しない、もしくは低鉛である圧電体磁器組成物が求められてきた。このような社会的な要請のもと、鉛を含有しない圧電体磁器組成物は、近年、さかんに研究が行われている。
鉛を含有しない圧電体磁器組成物として期待される磁器組成物の一つとして、KNbOがある。このKNbOの単結晶については、大きな電気機械結合定数を持つことが報告されており(非特許文献1、2および特許文献1参照)、高性能圧電体デバイスへの応用が期待されている。
【0005】
また、KNbOに対して、3価の陽イオンとなる希土類金属元素と遷移金属元素、もしくはアルミニウムからなるペロブスカイト型化合物を導入することによって、焼結性を改善したり(特許文献2)、BiやMnを含有させることによって潮解性を抑制したり(特許文献3)することが発明されている。
【0006】
さらに、特許文献4では、一般式{Li(K1−yNa1−x}(Nb1−z−nTa(Mn0.50.5)Oで表され、且つx,y,z,nがそれぞれ0≦x≦0.2、0≦y≦1.0、0≦z≦0.4、0<n≦0.1の組成範囲にあることを特徴とする圧電体磁器組成物が提示されている。
【0007】
また、特許文献5に記載された発明は、(1−n)(Ag1-a-b-cLiaNabc)(Nb1-x-y-zTaxSbyz)O3+nM1M2O(但し、0≦a≦0.2、0≦b≦0.95、0≦c≦0.95、0<(1−a−b−c)≦1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.2、0≦z≦0.2、0≦(y+z)≦0.3、0≦n≦0.2)で示される2元系固溶体を主成分とする圧電/電歪磁器組成物であり、M1とM2は、所定の条件を満たす金属元素であり、そして、所定の条件として様々な複合型ペロブスカイト化合物との固溶組成物が挙げられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K.Yamanouchi,H.Odagawa,T.Kojima and T.Matsumura. Electron.Lett.,33(1997),193.
【非特許文献2】K.Nakamura and Y.Kawamura. IEEE Trans.Ultrason.Ferroelectr.Feq.Control.,47(2000),450.
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−17981公報
【特許文献2】特開2004−359539公報
【特許文献3】特開2005−281013公報
【特許文献4】特開2003−342071公報
【特許文献5】特開2006−124271公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記の通り、KNbOは焼結性を改善したり、潮解性を抑制したりすることによって、また、Aサイトを1価のアルカリ金属元素もしくはAgで置換し、Bサイトを5価の金属元素もしくは総価数で5価とした金属元素で置換することによって、圧電体デバイスへの応用が期待されている。
しかしながら、例えば、特許文献4の発明においては、4価の金属元素のMnと6価の金属元素のWを組み合わせただけであり、他の複合型ペロブスカイト化合物を固溶させる試みは、記載されておらず、他に取り得る、Bサイト組成を総価数5価とする組み合わせに関しては、まったく未知である。
【0011】
さらに数多くの複合型ペロブスカイト化合物との固溶組成物の電気特性、圧電特性を評価して、高い特性を持つKNbOを主成分とした無鉛の圧電体磁器組成物の開発が必要である。
特許文献5に記載された組成物は、数多くの複合型ペロブスカイト化合物を固溶させる取り組みがなされているが、Agを必須の元素としている。AサイトにAgが配座するA1+5+となる圧電体磁器組成物は、Agを含まない場合に比べて、比抵抗率が総じて低くなり、信頼性が低く、実用的な圧電体磁器組成物とするのは極めて難しく、また、電歪磁器組成物としてしまっては、圧電効果が得られず、圧電体デバイスとして使用することができない。
【0012】
本発明の課題は、上記した問題点を解決し、主成分としてKNbOを含有するA1+5+で表される圧電体又は誘電体磁器組成物において、新規性のある複合ペロブスカイト型化合物を固溶せしめることにより、誘電特性及び圧電特性の良好な圧電体又は誘電体磁器組成物を得ることで、多岐に渡る圧電体デバイス及び誘電体デバイス開発の要望に答え、延いてはPZTを主成分とする圧電体又は誘電体磁器組成物を代替し、環境負荷を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)主成分が組成式(1−x)KNbO+xKMeOで表される圧電体又は誘電体磁器組成物であって、0<x≦0.05であり、Meが、4価のTi、3価のMn、2価のMn及び2価のZnから選ばれるいずれかの金属元素と、6価のWとの組み合わせであり、組み合わせたときの総価数が5価であることを特徴とする圧電体又は誘電体磁器組成物である。
このように、主成分としてKNbOを含有する圧電体又は誘電体磁器組成物に対して、Aサイトは1価の金属元素、Bサイトは総価数が5価の金属元素からなるA1+5+型ペロブスカイトを固溶せしめることによって、従来のKNbOを含有する圧電体又は誘電体磁器組成物よりも、比誘電率を高めることが可能となる。
【0014】
(2)前記主成分を100molとしたときに、副成分としてMnをMnO換算で1.0〜2.0mol含有していることを特徴とする前記(1)の圧電体又は誘電体磁器組成物である。
副成分としてMnを所定の量、主成分に混合し、焼成した磁器組成物は、Mnを混合しない圧電体又は誘電体磁器組成物と比較して、誘電損失を抑えることができる。
【0015】
(3)前記組成式が(1−x)KNbO+xK(Zn1/43/4)Oであることを特徴とする前記(2)の圧電体又は誘電体磁器組成物である。
主成分が(1−x)KNbO+xK(Zn1/43/4)Oであり、0<x≦0.05の範囲を満たし、且つ前記主成分を100molとしたときに、副成分としてMnをMnO換算で1.0〜2.0mol含有している圧電体磁器組成物は、特に0<x≦0.03の場合に、KNbOを大きく上回る圧電特性を得ることが可能となる。また、圧電特性がKNbOを上回らない場合であっても、KNbOよりも、比誘電率が高く、誘電損失が安定しているため、誘電体磁器組成物として優れている。
【0016】
(4)前記組成式において、KがLi及びNaから選ばれる少なくとも1種によって、一部置換されていることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項の圧電体又は誘電体磁器組成物である。
(5)前記組成式において、NbがTaによって、一部置換されていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項の圧電体又は誘電体磁器組成物である。
前記のようにABO型ペロブスカイト化合物をなす、本発明の圧電体又は誘電体磁器組成物は、Aサイトに1価の金属元素を、Bサイトに5価の金属元素をとることが可能であり、AサイトのKを一部、Na,Liによって置換することが可能であり、BサイトのNbを一部、Taによって置換することが可能である。
【0017】
(6)第一の電極と第二の電極とが圧電セラミック層を介して対向する圧電体デバイスにおいて、前記圧電セラミック層が前記(1)〜(5)のいずれか一項の圧電体磁器組成物で形成されていることを特徴とする圧電体デバイスである。
(7)前記第一の電極と前記第二の電極とが前記圧電セラミック層を介して交互に複数層積み重ねられており、前記第一の電極と電気的に接続する第一の端子電極と、前記第二の電極と電気的に接続する第二の端子電極と、を有することを特徴とする前記(6)の圧電体デバイスである。
(8)複数の誘電セラミック層と、前記誘電セラミック層間に形成された内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備えた誘電体デバイスにおいて、前記誘電セラミック層が、前記(1)〜(5)のいずれか一項の誘電体磁器組成物で形成されていることを特徴とする誘電体デバイスである。
特に、本発明の圧電体磁器組成物は様々な圧電体デバイス、例えば、圧電発音体、圧電センサ、圧電アクチュエータ、圧電トランス、圧電超音波モータなどに用いることが可能である。
現在、これらの圧電体デバイスにはPZTが用いられており、これを本発明の圧電体磁器組成物で代替することで、酸性雨等によって、PZTからPbが溶出し、環境へ拡散することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、主成分としてKNbOを含有する圧電体又は誘電体磁器組成物に対して、Aサイトを1価の金属元素、Bサイトを総価数が5価の金属元素からなるA1+5+型ペロブスカイトを固溶せしめることによって、従来のKNbOを含有する圧電体磁器組成物よりも、比誘電率を高めることが可能となる。
前記主成分に、副成分としてMnを所定の量、混合したものは、誘電損失を抑えることができる。誘電損失を抑えることは、さまざまな電子デバイスに前記圧電体又は誘電体磁器組成物を用いるとき、電界強度を高めた場合においても、発熱を抑えることが可能であり、例えば圧電体磁器組成物よりなるセラミックスに、高い電界強度を印加することができるのであれば、大きな変位量を得ることが可能であり、例えば誘電体磁器組成物よりなるセラミックスでは、交流電流を印加した場合に発熱を抑え、発熱によって素子が破壊されるのを防ぐことが可能となる。
また、主成分が(1−x)KNbO+xK(Zn1/43/4)Oであり、0<x≦0.05の範囲を満たし、且つ前記主成分を100molとしたときに、副成分としてMnをMnO換算で1.0〜2.0mol含有している圧電体磁器組成物は、KNbOを大きく上回る圧電特性を得ることが可能となる。
さらに、製造工程においても、PbOの揮発等を考慮することなく製造することが可能であることから、PbOを揮発を管理せずとも量産することが可能であり、環境負荷を低減できる圧電体又は誘電体磁器組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】0.99KNbO−0.01K(Zn1/43/4)Oを100molとしたときにMnをMnO換算で1.0mol含有させた圧電体磁器組成物のP−Eヒステリシス曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、主成分が組成式(1−x)KNbO+xKMeOで表される圧電体又は誘電体磁器組成物であって、0<x≦0.05であり、Meが、4価のTi、3価のMn、2価のMn及び2価のZnから選ばれるいずれかの金属元素と、6価のWとの組み合わせであり、組み合わせたときの総価数が5価であることを特徴とする圧電体又は誘電体磁器組成物である。
【0021】
前記組成式を満たす圧電体磁器組成物は、非鉛圧電体磁器組成物として有望とされるKNbOの比誘電率を高めることが可能となる。
したがって、これらの組成は圧電体磁器組成物として、比誘電率を高め変位量を高めたい圧電体デバイス、例えば、圧電発音体、圧電アクチュエータなどに有用に用いることができる。
また、比誘電率を高めることによって圧電体磁器組成物としてのみならず、誘電体としても有用に用いることができるようになる。
したがって、これらの組成はコンデンサなどの誘電体デバイスに有用に用いることが可能となる。
【0022】
比誘電率を高めることは、前記組成式よりなる圧電体磁器組成物又は誘電体磁器組成物のMeを総価数として5価となるように組み合わせた場合に可能となる。
すなわち、4価の金属元素であるTiと6価の金属元素であるWとの組み合わせでは、(Ti1/21/2)であり、3価の金属元素であるMnと6価の金属元素であるWとの組み合わせでは、(Mn1/32/3)であり、2価の金属元素であるMnと6価の金属元素であるWとの組み合わせでは、(Mn1/43/4)であり、2価の金属元素であるZnと6価の金属元素であるWとの組み合わせでは、(Zn1/43/4)である。
前記組み合わせは、少なくとも1つの組み合わせによって、前述した誘電率を高める効果を得ることが可能となる。
ただし、0.05<xとしてしまうと、絶縁性が極端に保てずに、信頼性を保った圧電体磁器組成物及び誘電体磁器組成物とすることができなかった。
【0023】
さらに、前記主成分を100molとした場合において、副成分としてMnをMnO換算で1.0〜2.0mol含有させることによって、Mnを混合しない圧電体磁器組成物又は誘電体磁器組成物と比較して、誘電損失を抑えることができる。これによって、分極処理時の絶縁破壊を防ぐことが可能であり、圧電体又は誘電体の作製を容易に行うことが可能となる。
このMnによる効果を得るためには、Mnは本発明の圧電体磁器組成物又は誘電体磁器組成物であるセラミックスの多結晶構造の粒界に存在していても、多結晶の内部に固溶していても、同等の効果を得ることが可能である。
1.0molより少ない含有量であると、Mnを含有させた効果が得られず、2.0molよりも多い含有量であると、比抵抗率が逆に低下してしまい、十分な分極処理を行うことができない。
【0024】
また、本発明は、ABO型ペロブスカイト化合物をなす、前記組成式において、AサイトのKがLi及びNaから選ばれる少なくとも1種によって、一部置換され、又は、BサイトのNbがTaによって、一部置換されている圧電体磁器組成物及び誘電体磁器組成物を含む。
このようにAサイトに配座する元素、Bサイトに配座する元素を調整することで、例えば、KNbOの200℃から220℃に存在している、斜方晶から正方晶への結晶相転移を、室温以下へ制御したり、400℃程度に存在している正方晶から立方晶への結晶相転移、すなわちキュリー温度をさらに高めたり、逆に低めたりすることが可能である。
【0025】
本発明における圧電体又は誘電体磁器組成物には、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znを少なくとも1種類一定量混入させることによって、焼結温度を制御したり粒子の成長を制御したり、高電界化における寿命を延ばしたりすることが可能であるが、これらの元素は、用いても、用いなくてもよい。
【0026】
また、本発明における圧電体又は誘電体磁器組成物には、第二遷移元素であるY、Zr、Mo、Ru、Rh、Pd、Agを少なくとも1種類一定量混入させることによって、焼結温度を制御したり粒子の成長を制御したり、高電界化における寿命を延ばしたりすることが可能であるが、これらの元素は、用いても、用いなくてもよい。
【0027】
さらに、本発明における圧電体又は誘電体磁器組成物には、第三遷移元素であるLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、W、Re、Os、Ir、Pt、Auを少なくとも1種類一定量混入させることによって、焼結温度を制御したり粒子の成長を制御したり、高電界化における寿命を延ばしたりすることが可能であるが、これらの元素は、用いても、用いなくてもよい。
【0028】
そして、上記に示した第一遷移元素、第二遷移元素、第三遷移元素の内、少なくとも1種類一定量混入させることによって、焼結温度を制御したり粒子の成長を制御したり、高電界化における寿命を延ばしたりすることが可能であるが、これらを複合させても、させなくても同様の効果が得られる。
【0029】
本発明の圧電体又は誘電体磁器組成物を実現するための原料(材料)には、カリウムを含有する材料としては、KCOないし、KHCOであり、ナトリウムを含有する材料としては、NaCOないしNaHCOであり、リチウムを含有する材料としては、LiCOであり、ニオブを含有する材料としては、Nbであり、タンタルを含有する材料としては、Taであり、タングステンを含有する材料としては、WOないしKWOないしNaWOであり、チタンを含有する材料としては、TiOないし、KTi13であり、Mnを含有する元素としては、MnOないし、Mnないし、Mnないし、MnOないし、MnCOないし、KMnOないし、MnNbであり、亜鉛を含有する元素としては、ZnOないし、ZnNbなどを用いることができる。
【0030】
このような原材料を用いることによって、容易な配合、攪拌、仮焼などの工程とすることができ、製造に負荷を与えることなく合成を行うことが可能となる。
本発明において、仮焼は、700〜900℃で行うことが好ましく、焼成は、900〜1100℃で行うことが好ましい。
【0031】
本発明の圧電体又は誘電体磁器組成物は、一般的にABOとして示されるペロブスカイト構造を有する。ここにおいてAに配座する元素はK、Na、Liであり、Bに配座する元素はNb、Taである。化学量論がA:B=1:1となるときに、理想的には完全に全てのサイト位置に元素が配座し、安定な構造となる。しかしながら、組成物の構成元素を鑑みると明らかなように、水分によるK、Na、Liの溶出や、仮焼工程においてのK、Na、Liの揮発、焼成工程においてのK、Na、Liの揮発などによって最終的には数%程度、具体的には2%以下の組成の変動が起こる。これらの構成元素の変動は、その原材料、合成時期、合成工程の変化によって起こりうる。
これらの変動に対応するために、例えば初期配合におけるK、Na、Li源となる原材料を意図的に多めに含有させ、最終的な工程すなわち焼成工程以後にA:B=1:1の理想的な状態に近づけることなどが手法としてとられる。
【0032】
高い圧電効果を有するセラミックスを得るためには、最終的なAサイトとBサイトの比率を0.96<A/B<1.002の範囲内に置くことが望ましい。
このような意図的に初期配合における元素量を適宜調整することは、ほとんどのセラミックスの合成において行われる、一般的な手法である。
【0033】
本発明によって得られる圧電体又は誘電体磁器組成物であるセラミックスは、焼結体の相対密度が95%以上であることが望ましい。そのように調整することによって、時間が経ることによる特性の劣化を防ぐことができる。
【0034】
本発明の圧電体磁器組成物を用いて、第一の電極と第二の電極とが圧電セラミック層を介して対向する圧電体デバイスにおける圧電セラミック層を形成することができる。圧電体デバイスは、前記第一の電極と前記第二の電極とが前記圧電セラミック層を介して交互に複数層積み重ねられており、前記第一の電極と電気的に接続する第一の端子電極と、前記第二の電極と電気的に接続する第二の端子電極と、を有することが好ましい。
【0035】
圧電体デバイスの作製は、常法により行えばよい。すなわち、まず、本発明の圧電体磁器組成物を形成するセラミックスラリーを用いてドクターブレード法によりセラミックグリーンシートを形成する。次に、このグリーンシートの上面に第一の電極及び第二の電極を形成するAg/Pdなどを含む導体ペーストを印刷する。この後、導体ペーストを印刷したグリーンシートを積層し、さらに上下層に導体ペーストを印刷していないグリーンシートを積層して、これらを圧着する。次いで、この積層体を焼成して素体を得た後、素体の所定側面にAgなどを蒸着して第一の端子電極及び第二の端子電極を形成することにより圧電体デバイスを得る。
【0036】
上記のような構成よりなる圧電体デバイスは、第一の端子電極、第二の端子電極間に交流電圧を印加すると、圧電効果により第一の電極と第二の電極との間に存在する圧電セラミック層に分極が生じて、電圧極性の変化に同期して強い機械的な振動を生ずる。ここで、圧電セラミック板の振動方向は、圧電セラミック板の面に平行で、複数層積み重ねられている第一の電極と第二の電極に直交する方向となる。即ち、圧電定数d33による振動を発生する。
【0037】
本発明の誘電体磁器組成物を用いて、複数の誘電セラミック層と、前記誘電セラミック層間に形成された内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備えた誘電体デバイスにおける誘電セラミック層を形成することができる。
上記のような誘電体デバイスの作製は、常法により行えばよい。すなわち、まず、本発明の誘電体磁器組成物を形成するセラミックスラリーを用いてドクターブレード法によりセラミックグリーンシートを形成する。次に、グリーンシートにNiなどを含む内部電極用ペーストを印刷し、積層・圧着後、所定の形状に切り出す。その後、不活性雰囲気下で脱バインダ処理を行い、所定側面にNiなどを含む外部電極用ペーストを塗布した後に、還元雰囲気下で焼成を行い、再酸化処理を行うことにより誘電体デバイス(積層セラミックコンデンサ)を得る。
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例によって明らかになるであろう。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
本発明の圧電体又は誘電体磁器組成物を効果を検証するために、まず、表1に示すとおりの組成についての評価を行った。
試料No.1については、比較のためにKNbOの評価を行った。試料No.2〜5については、組成式におけるBサイト金属元素を、総価数5価となるように様々に調整した試料について、評価を行った。
試料No.1は、本発明の範囲外の組成であり、試料No.2〜5については、本発明の範囲内の組成である。
【0039】
【表1】

【0040】
試料No.1〜5に示した圧電体又は誘電体磁器組成物は、以下のような方法で作製し、電気物性を測定した。
原料として、純度が99%以上のKCO(ないしKHCO)、Nb、ZnO、MnO、Mn、TiO、及びWOを準備し、これらの原料を表1の試料No.に示す化学量論比を満たす組成となるように秤量し、湿式ボールミル混合後に、直径20mmの円柱状試料に成型した。
そして、この円柱状試料とした本試料を温度700〜900℃で、保持時間2から4時間の条件で適宜仮焼成した。仮焼成した円柱状試料を解砕した後、再度、湿式ボールミルで解砕を行った。
【0041】
解砕粉末を乾燥した後、アルミナ乳鉢を用いて1時間粉砕混合した。混合粉末を目開き150μmのふるいにかけ、分級した粉末試料をペレット1個に対して約2.0gずつ秤量し、直径15mmのスパークプラズマ焼結法(SPS法:Spark Plasma Sintering Method)用カーボンダイスに充填した。焼成はSPS法を用いて、焼成条件は温度800〜975℃、昇降温速度50℃/min、圧力30MPaおよび保持時間10分と設定して焼結を行った。
SPS法で作製した試料を厚さが約1.0mmとなるまで自動精密切断・研磨装置を用いて研磨を行った。研磨した試料は研磨に用いたワックスの油分を除去した後、再酸化処理として大気中で800℃、4時間の熱処理を行った。
【0042】
以上の工程によって作製された試料について、電気物性測定のために高温用Agペーストを試料表面に700℃で焼き付けた後、比誘電率(ε)と誘電損失(tanδ)を30℃および100℃で測定した。
表2に測定結果を示した。
【0043】
【表2】

【0044】
表2の試料No.1の比較例及び、試料No.4に関しては、30℃において、誘電損失(tanδ)が異常に発散してしまい、正しく比誘電率を測定することができなかった。
No.2〜5の試料に関して、少なくとも30℃もしくは100℃のいずれかの場合において、比較例であるNo.1の試料に比較して、比誘電率が高まっているか、もしくは、容易に比誘電率が計測できる状態に改善していることがわかった。
また、これら試料No.2〜5における効果は、試料No.2〜5の組成を少なくとも1つ組み合わせることによっても、同様の効果を得ることができる。
さらに、これらの試料No.2〜5以外の本発明における組成の範囲内にある圧電体又は誘電体磁器組成物について、同様の方法で、比誘電率、誘電損失を確認したところ、同様の効果が得られることを確認した。
【0045】
(実施例2)
また、以上で示した圧電体又は誘電体磁器組成物について、Mnを副成分として混合した場合の効果を検証するために、以下の実験を行った。
実施例1にて得られた仮焼成後の解砕粉100molに対して、1.0molMnOを加えて、湿式ボールミルにより混合を行った後、乾燥をおこなって、目的となる圧電体又は誘電体磁器組成物の混合粉を得た。
得られた混合粉の組成を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
実施例1と同様に、混合分を2.0gずつ秤量し、直径15mmのSPS法用のカーボンダイスに充填して、SPS法で焼成を行い、さらに厚さ1.0mmに研磨加工し、Agペーストを焼き付けて、評価する試料を得た。
得られた試料No.6〜9について、比誘電率(ε)と誘電損失(tanδ)を測定した。
表4に測定結果を示した。
【0048】
【表4】

【0049】
表4の結果によれば、それぞれMnOを副成分として導入していない、No.2〜5の試料と比較して、No.6〜9の試料は誘電損失を低く抑えられていることがわかった。
したがって、副成分としてMnOを、主成分100molに対して、1.0mol導入することは、圧電体又は誘電体磁器組成物を圧電体デバイスないし誘電体デバイスとして用いた際に、駆動時の発熱を押さえたり、高い電圧化での絶縁性劣化を防ぐことが可能となり、電子デバイスとして、有益である。
さらに、これらの試料No.6〜9以外の本発明における組成の範囲内にある圧電体又は誘電体磁器組成物を同様の方法によって、Mnを副成分として導入する際の比誘電率、誘電損失を確認したところ、同等の効果があることを確認した。
【0050】
(実施例3)
以上の知見から、もっとも比誘電率が高く、且つ誘電損失が低いために、良好な信頼性が得られていると判断された、0.95KNbO−0.05K(Zn1/43/4)O100molに対して、MnOを1.0mol副成分として含有させた試料No.9の試料は、容易に分極することが可能であった。そこで、以下のとおり、表5の組成に従って、実施例1、実施例2で示したのと同様に実験を進めた。
【0051】
【表5】

【0052】
実施例1、実施例2と同様の工程によって作製された試料について、電気物性測定のために高温用Agペーストを試料表面に700℃で焼き付けた。その後、比誘電率(ε)と誘電損失(tanδ)を30℃で計測した。
そして、得られた試料の強誘電体P−Eヒステリシスを測定し、強誘電性を評価した。さらに、150℃のシリコンオイル中で直流電圧を3kV/mmで10分間印加することによって分極処理した後、d33メータを用いて圧電定数d33値を測定し、室温30℃における圧電特性を評価した。
図1に、試料No.11の試料におけるP−Eヒステリシス曲線を示した。
表6に、試料No.10〜15における、30℃における比誘電率(ε)、誘電損失(tanδ)、圧電特性d33の値を示す。
【0053】
【表6】

【0054】
試料No.10においては、高い比誘電率とd33特性を得ることができた。比誘電率が1180と高いため、誘電体磁器組成物としても優秀である。
試料No.11においては、高い比誘電率と低い誘電損失と、高いd33特性を得ることができた。一般にKNbOのd33特性は90〜95pC/N程度であり、それよりもはるかに高い圧電特性を有する圧電体磁器組成物を得ることができた。

また、図1に見られるとおり、試料No.11の磁器組成物は、良好なP−Eヒステリシスを描いており、本圧電体磁器組成物が優秀な圧電体であることがわかる。
そして、同様に試料No.12においても、優良な圧電特性を得ることができている。
試料No.13では、比誘電率が885と高いため、誘電体磁器組成物として優秀である。
さらに、試料No.13からMnOの含有量を増やした試料No.14,No.15の組成でも、比誘電率は総じてKNbOよりも高く、さらに誘電損失も比較試料であるNo.1の試料よりも安定しているため、信頼性が高く、優秀な圧電体磁器組成物又は誘電体磁器組成物であることが明らかとなった。
また、本実施例における試料は、すべて主成分が(1−x)KNbO−xK(Zn1/43/4)Oであり、0<x≦0.05の範囲を満たし、且つ主成分を100molとしたときに、副成分としてMnをMnO換算で1.0〜2.0mol含有させた圧電体磁器組成物又は誘電体磁器組成物の範囲内にある。
さらに、これらの試料No.10〜15以外の本発明における組成の範囲内にある圧電体磁器組成物又は誘電体磁器組成物を同様の方法によって、圧電特性及び誘電特性を計測したところ、同様の効果があることを確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が組成式(1−x)KNbO+xKMeOで表される圧電体又は誘電体磁器組成物であって、0<x≦0.05であり、Meが、4価のTi、3価のMn、2価のMn及び2価のZnから選ばれるいずれかの金属元素と、6価のWとの組み合わせであり、組み合わせたときの総価数が5価であることを特徴とする圧電体又は誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記主成分を100molとしたときに、副成分としてMnをMnO換算で1.0〜2.0mol含有していることを特徴とする請求項1に記載の圧電体又は誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記組成式が(1−x)KNbO+xK(Zn1/43/4)Oであることを特徴とする請求項2に記載の圧電体又は誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記組成式において、KがLi及びNaから選ばれる少なくとも1種によって、一部置換されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の圧電体又は誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記組成式において、NbがTaによって、一部置換されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の圧電体又は誘電体磁器組成物。
【請求項6】
第一の電極と第二の電極とが圧電セラミック層を介して対向する圧電体デバイスにおいて、前記圧電セラミック層が請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の圧電体磁器組成物で形成されていることを特徴とする圧電体デバイス。
【請求項7】
前記第一の電極と前記第二の電極とが前記圧電セラミック層を介して交互に複数層積み重ねられており、前記第一の電極と電気的に接続する第一の端子電極と、前記第二の電極と電気的に接続する第二の端子電極と、を有することを特徴とする請求項6に記載の圧電体デバイス。
【請求項8】
複数の誘電セラミック層と、前記誘電セラミック層間に形成された内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備えた誘電体デバイスにおいて、前記誘電セラミック層が、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物で形成されていることを特徴とする誘電体デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2010−215423(P2010−215423A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60878(P2009−60878)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】