説明

圧電振動デバイス

【課題】 安定した空間電圧印加を行うことができ、電気的特性が良好な圧電振動デバイスを提供する。
【解決手段】
水晶振動板1の表裏面の外周近傍には金属微粒子ペースト接合材が外周に沿って塗布されている。水晶振動板1の上面に接合される上板2は平板で矩形状の水晶板からなり、前記水晶振動板1との対向面の中心部分においては金属膜からなる矩形状の励振電極21が形成されている。また水晶振動板1の下面に接合される下板3も基本的には前記上板2と同じ構成であり、平板で矩形状の水晶板からなり、前記水晶振動板1との対向面の中心部分においては金属膜からなる矩形状の励振電極31が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動体無線機器等に用いられる水晶振動子等の圧電振動デバイスに関し、特に高周波および超小型に対応した圧電振動デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在汎用されている圧電振動子は圧電振動板の表裏面に励振電極が形成された構成であり、例えばATカット水晶振動板を用いた厚みすべり振動子がよく用いられている。周知のとおり、ATカット水晶振動板は高周波数に対応させることができ、その板厚で共振周波数が決定され、板厚と共振周波数は反比例する。従って、近年の移動体無線機器等において要求される高周波数化に対応するにあたっては、高度な研磨技術を駆使した超薄板加工技術が要求されていた。
【0003】
ところが例えば基本波周波数が300MHz以上の水晶振動板においては、当該水晶振動板に振動エネルギーを供給する励振電極の重さが振動を阻害する要因となっていた。すなわち、通常励振電極はクロム等の下地金属上に金あるいは銀等の金属材料を積層形成している。このような金属材料の重さは超薄型化された水晶振動板においては負荷となって、振動損失の問題が顕在化するようになり、振動子としての良好なQ値を得ることは困難になる傾向があった。
【0004】
このような振動損失の問題を解決するために、励振電極を直接水晶振動板には形成せずに、水晶振動板から微少ギャップをもって形成された電極を介して振動エネルギーを供給する空間電圧印加方式による圧電振動デバイスが考えられていた。特開平6−291587(特許文献1)はこのような空間電圧印加方式を提案した圧電振動子に関するもので、交流電界印加により振動する部分を有する圧電振動板と、一部に凹部を有し該凹部内に交流電界印加励振用電極を有する保持部からなり、前記励振用電極が前記振動部近傍にあってかつ振動時にも前記振動部に直接触れないだけの空隙を有するように振動板と保持部を固定している構成が開示されている。
【0005】
ところで特許文献1には圧電振動板とこれを保持する保持板をどのように接合するかについては詳細な説明はなされておらず、単に接着剤やガラスを使用するという開示しかない。実際の製品においては実装基板への電気的接続を行う場合、一方の保持板に形成された電極を他方の保持板側に引き出す検討が必要な場合がある。例えば、異方性導電シート(接着剤)等を用いることにより、電極引き出しを行う等の様々な工夫が必要であった。
【0006】
またこのような構成において、圧電振動板と保持板の接合を如何に行うかは、空間電圧印加方式による振動エネルギー供給には極めて重要になる。すなわち、圧電振動板と微少ギャップを持って形成される保持板側の励振電極との間隔は圧電振動デバイスの直列共振抵抗値に大きく影響する。例えば、従来の銀等の導電フィラーを分散させたエポキシ系樹脂接着剤により接合を行った場合、ギャップ間隔が30〜40μmとなり、直列共振抵抗値が実用に供することができない程度に悪化するという問題があった。このようなギャップを小さくする対策として圧電振動板側あるいは保持板側に凸部(厚肉部)を設け、圧電振動板と励振電極とのギャップ寸法を極力小さくする構成が考えられるが、どうしても接着剤の厚さばらつきが大きくなり、ギャップが確保できなくなったり、ギャップが大きくなりすぎることがあった。これは導電フィラー自体のサイズが直径10数μm〜30μm程度あり、接着剤中における導電フィラーの分散状態によっては大きなばらつきが生じるためである。
【0007】
ところで近年金属微粒子の低温焼結(融着)性および焼結後の緻密性(導電性)に着目して、当該金属微粒子を用いた導電性ペーストが開発されている。例えば特開2001−225180(特許文献2)には、金属の接合方法として表面に有機系の物質が被覆された金属微粒子を有機溶媒中に分散させたペーストを用いて導電接合する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平6−291587号
【特許文献2】特開2001−225180号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは安定した空間電圧印加を行うことができ、電気的特性が良好な圧電振動デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前述した空間電圧印加方式における圧電振動板と励振電極とのギャップを微少かつばらつきを抑制して設定することのできる構成について鋭意検討した結果、上述のような金属微粒子を用いた導電ペーストを圧電振動デバイスの気密封止に適用することを発意したものであり、次の構成により上記問題点を解決した。
【0010】
すなわち、請求項1に示すように、圧電振動板の少なくとも一表面に励振電極を形成した平板を近接させて配置し、微少ギャップによる空間電圧印加方式にて圧電振動板に対して電圧を印加する圧電振動デバイスであって、前記圧電振動板と平板とを、平均粒径が1〜100nmで、表面には有機系被膜により被覆され、加熱により当該有機系被膜が除去される金属微粒子を有機溶媒中に分散させた金属微粒子ペースト接合材により接合したことを特徴とする圧電振動デバイスである。
【0011】
圧電振動板は平板あるいは一部凹凸部を有する平板構成であり、その表面あるいは表裏面には励振電極が形成されていない。圧電振動板の振動エネルギーは圧電振動板に近接させて配置した平板に形成された励振電極から供給される。また金属微粒子ペースト接合材に含有される金属微粒子は例えば、金、銀、銅、ニッケル、チタン、錫等の金属材料を例示することができるが、その微細形状が球状やだ円形状または多角形状等の多面あるいは曲率面を有する構成であると好ましい。これは多面または曲率を持った表面であると原始的な拡散すなわち融着が各方向に均一に生じるためであり、接合時において好ましい融着状態を得ることができる。
【0012】
なお、特許文献2にも開示されているように、当該金属微粒子の直径は小さいほうが融着が進みやすいが、金属微粒子表面への有機系被膜の形成作業を考慮すると必要以上に微粒子化する必要はなく、1〜100nmの直径を有するもので有ればよい。1nm以下であると金属微粒子間の融着が激しいため取り扱いが難しくなり、また100nm以上であると金属微粒子間の融着性が低下する。なお、金属および有機系被膜の種類にもよるが、平均粒径が2〜30nmの金属微粒子であると有機系被膜を形成した金属微粒子の取り扱いと加熱時の接合性のバランスがとれ好ましい。
【0013】
本発明に用いる金属微粒子ペースト接合材は、金属微粒子の表面に有機系被膜が形成され、当該有機系皮膜は金属微粒子の融着を抑制する分散剤としての役割を担っており、当該分散剤が金属微粒子を被覆している状態となっている。また当該有機系被膜は所定の温度環境下におくことで蒸散等により除去される構成であり、当該有機系被膜が除去されることにより、抑制されていた金属微粒子同士の融着が起こり、これが加速される。また金属微粒子の融着は前記圧電振動板の引出電極と前記接続電極との間でも起こり、最終的には両電極が融着し凝集した金属微粒子により金属間接合がなされる。
【0014】
当該金属微粒子ペースト接合材は、有機溶媒の粘度やチクソ性等を選択することによりペーストのぬれ性を調整することができる。また前記有機系被膜は加熱により蒸散等により除去されるとともに、当該有機溶媒についても加熱により除去される材料を用いることにより良好な金属間接合状態を得ることができる。また後述するように、前記有機溶媒に代えてあるいは有機溶媒に加えてバインダ樹脂を添加することにより、硬化後該バインダ樹脂が接合材として残ることにより、樹脂が介在することによる緩衝性能を向上させる構成としてもよい。
【0015】
金属微粒子ペースト接合材は、融着した後は金属微粒子による金属間接合を得ることができるので、従来の導電フィラーを添加した樹脂接合材を用いた樹脂による機械的接合に比べて接合材の占める厚さを極めて薄くすることができ、またその厚さの制御も比較的容易である。従って上記構成によれば、金属微粒子ペースト接合材により圧電振動板と励振電極の形成された平板間の微少ギャップを意図した寸法でつくり出すことができる。
【0016】
なお、微少ギャップ寸法は小さいほうが好ましく、ギャップ寸法を小さくすることにより水晶振動板への電圧印加を効率よく行うことができ、圧電振動デバイスの特性を良好にすることができる。従来においては、従来の導電フィラーを分散させたエポキシ系樹脂接着剤を用いた場合はギャップ寸法が大きく、直列抵抗値が大きくなり実用的な特性を得ることができなかった。例えば、外形寸法が1.7mm×2.8mmで周波数が60MHzで駆動するATカット水晶振動板に対し空間電圧印加方式により駆動した場合、ギャップ寸法が約30μm程度の厚肉状態になり、直列共振抵抗値が157Ωと悪化するため実用に供することができなかった。
【0017】
本発明のように、平均粒径が1〜100nmの金属微粒子ペースト接合材を用いた場合は、導電フィラーによる厚さ制限をなくし、微少ギャップ寸法を1μm以下にすることができ、上述のような問題を解決することができる。実用上は励振電極の厚さの誤差や接合材の供給ばらつき等により、微少ギャップが1μm以下の場合は圧電振動板と上下板とが接触する可能性がある。接触した場合は直列抵抗値の急激な悪化や発振停止を招くことになるので、このような接触事故防止を確保するために1μm程度、あるいは圧電振動板の特性が実用可能範囲から外れない程度でそれ以上のギャップ寸法に設定することが好ましい。
【0018】
またより具体的な構成として請求項2に示すように、平板状の圧電振動板と、当該圧電振動板の上面に微少ギャップを保持した状態で接合され、かつ励振電極の形成された平板状の上板と、前記圧電振動板の下面に微少ギャップを保持した状態で接合され、かつ励振電極の形成された平板状の下板と、からなり、これら上板、下板それぞれと圧電振動板とを、平均粒径が1〜100nmで、表面には有機系被膜により被覆され、加熱により当該有機系被膜が除去される金属微粒子を有機溶媒中に分散させた金属微粒子ペースト接合材により接合したことを特徴とする構成としてもよい。
【0019】
圧電振動板は平板状であり、この上下に配置される上板、下板も平板状である。上板および下板は例えば絶縁材料からなり、圧電振動板と同じ材料を用いてもよいし、ガラスやセラミック等の材料を用いてもよい。また圧電振動板と同じ材料を用いることにより、各構成部材の熱膨張係数等の特性を一致させることができるため好ましい。なお、微少ギャップは金属微粒子ペースト接合材により調整するが、上記圧電振動板あるいは上板下板の表裏面に微少な厚肉部や薄肉部を設けることにより、微少ギャップの調整を行ってもよい。
【0020】
請求項2によれば、各平板構成を金属微粒子ペースト接合材により接合するので微少ギャップ寸法を意図した寸法でつくり出すことができ、例えば圧電振動板と上板および下板に形成された圧電振動板の近接寸法を1μm程度にまで近接させることができ、それ以上の近接寸法に設定した場合でも微少ギャップの微調整が可能になる。
【0021】
請求項3は圧電振動板や上板および下板の一部厚みを変えて微少ギャップを調整したり、圧電振動板と上下各板との接合性を向上させる構成を示したものである。具体的には薄肉部を有し、その周囲に厚肉部を形成した圧電振動板と、当該圧電振動板の上面に微少ギャップを保持した状態で接合され、前記薄肉部の少なくとも一部に対応して当該薄肉部に近接した凸部を有するとともに、当該凸部の上面に励振電極を形成した上板と、前記圧電振動板の下面に微少ギャップを保持した状態で接合され、前記薄肉部の少なくとも一部に対応して当該薄肉部に近接した凸部を有するとともに、当該凸部の上面に励振電極を形成した下板と、からなり、これらを接合した圧電振動デバイスであって、これら上板、下板それぞれと圧電振動板とを、平均粒径が1〜100nmで、表面には有機系被膜により被覆され、加熱により当該有機系被膜が除去される金属微粒子を有機溶媒中に分散させた金属微粒子ペースト接合材により接合したことを特徴とする構成である。
【0022】
上記構成によれば、圧電振動板に形成された周状の厚肉部と上下板に形成された周状の薄肉部とが嵌め合い構成により接合され、また圧電振動板の前記厚肉部と上下板の前記薄肉部の両接合面には金属微粒子ペースト接合材が形成される。以上の構成により、厚肉部あるいは薄肉部の厚さを調整することにより、圧電振動板と上下板間に形成される微少ギャップ寸法を微調整することができる。また嵌め合い構成により両者の接合性や気密性も向上させることができる。
【0023】
なお、請求項4に示すように、前記圧電振動板と上板および下板のそれぞれの接合面には金属膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の圧電振動デバイスであってもよい。
【0024】
上記構成により、前記圧電振動板の表裏面にはそれぞれ金属膜が形成されて、また上板および下板にはそれぞれ圧電振動板に形成された前記金属膜に対応して金属膜が形成される。これら金属膜は励振電極として機能せず、接合用として用いる。金属膜は各板の外周近傍に周状に形成されていることが好ましく、例えば圧電振動板の外周近傍の主面に周状に形成される。なお、微少ギャップ調整のために圧電振動板あるいは上板や下板に厚さを調整する微少な厚肉部や微少な薄肉部を設けてもよい。
【0025】
上記構成によれば、金属微粒子ペースト接合材に含有される金属微粒子は加熱接合時に相互に融着するとともに、接合面に形成された金属膜とも融着、接合が起こり各接合面は金属間接合により強固な接合を行うことができる。
【0026】
また請求項5示すように、圧電振動板または/および上板と下板に形成された金属膜は複数の金属膜に分割され、分割による無電極部の少なくとも一部には絶縁性ペースト接合材が形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれかに記載の圧電振動デバイスであってもよい。
【0027】
通常金属微粒子ペースト接合材は、上下板それぞれと圧電振動板との対向面の外周近傍に形成された周状に形成される。金属微粒子ペースト接合材は、異方導電性を有するものがあり、これを用いると所定の方向には電極分割を行うことができる。例えば金属微粒子に磁性体を用い、所定方向の磁界中で加熱を行うことにより金属微粒子が一定の方向に配向した鎖状状態で融着が進む。このような鎖状金属微粒子が配向した状態により一定方向に導電性を有する異方性導電構成を得ることができる。しかしながら圧電振動デバイスの使用環境、要求される仕様によっては電極分割が確実には行われない場合がある。本請求項においては励振電極の各極間の絶縁を確実に行うために、一部に絶縁性ペースト接合材を形成している。この絶縁性ペースト接合材は少なくとも2カ所に形成することにより、励振電極の各極間の絶縁を確実にすることができる。またこのとき圧電振動板または/および上板と下板に形成された金属膜は複数の金属膜に分割され、分割による無電極部の少なくとも一部には絶縁性ペースト接合材が形成される構成としている。
【0028】
請求項5によれば、上記各作用に加えて、励振電極間の電極分割を確実に行うことができる圧電振動デバイスを得ることができる。
【0029】
また請求項6に示すように、金属微粒子ペーストによる接合を行う金属膜は、その平均表面粗さが、1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の圧電振動デバイスであってもよい。金属膜はメッキや真空蒸着等による薄膜形成方法により形成するが、その表面粗さはその下面の圧電振動板や上下板の表面粗さに強く依存する。従って、圧電振動板や上下板の表面粗さを1μm以下にすることにより、表面粗さ1μm以下の金属膜を効率よく形成できる。このような圧電振動板や上下板の良好な表面粗さ(平滑面)はポリッシュ研磨加工等による表面研磨等により得ることができる。
【0030】
金属膜の表面粗さが1μm以下であると平均粒径が1〜100nmの金属微粒子ペースト接合材を用いた場合、圧電振動板と上板下板の接合時において微少ギャップ寸法が小さくかつそのばらつきも抑制することができ、安定した特性の圧電振動デバイスを得ることができる。
【0031】
さらに請求項7に示すように、金属微粒子ペースト接合材の金属微粒子と接合面の金属膜とが同種金属であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の圧電振動デバイスであってもよい。
【0032】
金属微粒子を接合面の金属膜材料と同種金属とすることにより、加熱接合時に両者の融着性を促進することができ、両者の接合性を向上させることができる。また、接合後も両者の熱膨張係数が等しいために、接合後の環境温度変動による接合領域の損傷事故をなくすることができる。
【0033】
また金属微粒子ペースト接合材は複数の金属微粒子を有する構成としてもよい。これは金属微粒子を最初から混在させてもよいし、金属微粒子ペースト接合材を多層構成とし、一部の層に熱緩衝性の高い金属微粒子を適用してもよい。請求項8は、金属微粒子ペースト接合材は複数種の金属微粒子を有し、当該金属微粒子の一部が銅からなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の圧電振動デバイスについて開示している。
【0034】
銅は延性に優れ熱緩衝性能が高い。従って金属微粒子の一部に熱緩衝性が高い銅を用いることにより、接合後の雰囲気温度が変動しても、銅による緩衝性能により接合領域の損傷事故をなくすることができる。
【0035】
さらに請求項9に示すように、前記金属微粒子ペースト接合材の有機溶媒には、加熱接合後に圧電振動板と上板または下板間に介在するバインダ樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の圧電振動デバイスであってもよい。
【0036】
当該バインダ樹脂は圧電振動板と上板下板との機械的接合を行うものであり、当該バインダ樹脂の中に前述の金属微粒子の結合体が存在することにより、圧電振動板と上板下板との電気的機械的接合を行うことができる。また当該バインダ樹脂は硬化後柔軟性を有する材料を選択することにより圧電振動板と上板下板の接合部分の緩衝性を得ることもできる。
【0037】
なお、バインダ樹脂は圧電振動板、上板下板の素板を直接接合することができるので、接合面に金属膜の形成されていない構成であっても接合することができる。また金属膜の形成されている接合面においては電気的機械的接合を行うことができるので、様々な電極構成、金属膜構成の接合に適用することができる。
【0038】
本発明は金属微粒子ペースト接合材の形成等にかかる製造方法についても提案している。すなわち請求項10に示すように、請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の圧電振動デバイスを製造するにあたり、前記金属微粒子ペースト接合材の形成、および絶縁性ペースト接合材の形成をインクジェット印刷法で行ったことを特徴とする圧電振動デバイスの製造方法である。
【0039】
インクジェット印刷法はプリンタ等で汎用されているが、例えば圧電素子による機械的な振動によりノズル内のインクを微少吐出させ、所定のパターンを描画する印刷方法である。このような手法はインクに含まれる粒子サイズを小さくすることが必要であるが、本発明による金属微粒子ペースト接合材は粒子サイズが小さいため、当該印刷法の適用が比較的容易である。請求項10によれば、微少領域に微細なパターンで接合材を形成できるので、電極間の短絡を防止する等圧電振動デバイスの小型化に寄与することができる。
【0040】
また請求項11に示すように、請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の圧電振動デバイスを製造するにあたり、金属微粒子ペースト接合材により前記圧電振動板を前記平板または上板と下板とで貼り合わせた後、加熱により前記金属微粒子表面の有機系被膜と有機溶媒とを除去したことを特徴とする圧電振動デバイスの製造方法であってもよい。
【0041】
本製造方法によれば、加熱することにより有機系被膜や有機溶媒を蒸散等により除去するものであり、圧電振動板と平板等の接合を金属微粒子の融着による金属間接合部分のみにすることができるので、経時的な有機溶媒等からのガスの発生をなくすることができ良好な特性の圧電振動デバイスを得ることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、電気的特性が良好でかつ安定した空間電圧印加構成による圧電振動デバイスおよび圧電振動デバイスの製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明による好ましい実施の形態について図面に基づいて説明する。
本発明による第1の実施の形態を表面実装型の水晶振動子を例にとり図1および図2とともに説明する。図1は本実施の形態を示す分解斜視図、図2は図1を組み込んだ場合のA−A線に沿った断面図である。表面実装型水晶振動子は、水晶振動板(圧電振動板)1と、当該水晶振動板の上面に配置接続される上板2と、水晶振動板1の下面に配置接続される下板3と、からなる。
【0044】
水晶振動板1は平板で矩形状のATカット水晶振動板であり、その共振周波数は300MHzに設定されている。当該水晶振動板は大きなウェハを所定の厚さまで研磨し、その後多数個に分割したり、あるいは多数個の個片に分割した後、個々に研磨を行ってもよい。ウェハからの分割、切り出しはワイヤーソーによる切断やダイシング法あるいはレーザービームによる切断を行ってもよい。
【0045】
水晶振動板1の表裏面の外周近傍には金属微粒子ペースト接合材が外周に沿って塗布されている。当該接合材に用いる金属微粒子は銀を用いており、当該銀の金属微粒子の表面には例えば約200℃で蒸散し除去される有機系被膜(分散剤)が形成されている。当該金属微粒子ペースト接合材はこれら有機系被膜を有する金属微粒子が有機溶媒中に分散された構成である。当該有機溶媒は例えばエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂(バインダ樹脂)を含んでいるので、硬化後は水晶振動板と上板下板との機械的接合の役割を担っている。なお、当該バインダ樹脂を別の有機溶剤により分散させた構成であってもよい。
【0046】
水晶振動板1の上面に接合される上板2は平板で矩形状の水晶板からなり、前記水晶振動板1との対向面の中心部分においては金属膜からなる矩形状の励振電極21が形成されており、この励振電極21は引出電極21aにより長辺方向の一端に引き出され、反対面すなわち水晶振動板と非対向面に接続電極21bとして延出されている。なお、励振電極は例えば水晶振動板に接してクロム層が形成され、その上面に銀あるいは金が形成された構成である。なお、この電極構成はアルミニウム等の他の電極材料を用いてもよい。
【0047】
また水晶振動板1の下面に接合される下板3も基本的には前記上板2と同じ構成であり、平板で矩形状の水晶板からなり、前記水晶振動板1との対向面の中心部分においては金属膜からなる矩形状の励振電極31が形成されており、この励振電極31は引出電極31aにより長辺方向の一端に引き出され、反対面すなわち水晶振動板と非対向面に接続電極31bとして延出されている。なお、励振電極は例えば水晶振動板に接してクロム層が形成され、その上面に銀あるいは金が形成された構成である。
【0048】
これら水晶振動板と上板および下板とを真空雰囲気あるいは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で約200℃に加熱する。これにより前述の金属微粒子表面に形成された有機系被膜は溶融し、隣接する金属微粒子との相互融着(焼結)が起こり、これが加速することにより、金属微粒子間および励振電極に用いられる金属膜間で金属間結合が行われる。本実施の形態においては、バインダ樹脂が熱硬化し、またバインダ樹脂内に金属間接合領域が形成されることにより、良好な電気的機械的接合を行うことができ、また樹脂による緩衝性も期待できる。なお、より良好な緩衝性を得る場合は、バインダ樹脂にウレタン樹脂やシリコーン樹脂のより柔軟な樹脂を用いてもよい。また、水晶振動板の上下に配置される上板と下板は、水晶板に代えて例えばガラス、ガラスセラミックス、アルミナ等のセラミックスを用いてもよい。
【0049】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、圧電振動板あるいは上板下板に様々な変形例を適用することができる。図3、図4は本発明による第2の実施形態を示す図であり、図3は本実施の形態を示す分解斜視図、図4は図3を組み込んだ場合のB−B線に沿った断面図である。表面実装型水晶振動子は、水晶振動板(圧電振動板)4と当該水晶振動板4の上面に配置接続される上板5と、水晶振動板4の下面に配置接続される下板6とからなる。
【0050】
第2の実施形態においては、水晶振動板、上板下板にそれぞれ嵌合する凹凸構成を有している。水晶振動板4は全体として矩形形状で、励振に寄与する中央部分が薄肉化された薄肉部4aを形成している。また、薄肉部4aの周囲には表裏両面が厚さ方向に伸長した厚肉部4bが周状に形成され、当該厚肉部4bの表裏上面には周状に接合用金属膜41、42が形成されている。
【0051】
水晶振動板4の上面に接合される上板5は矩形状のガラス板からなり、前記水晶振動板との対向面においてはその外周部分が薄肉加工された薄肉部5aを有している。また周状の薄肉部5aの内方には厚肉部5bが形成されており、当該厚肉部5bの上面の中央部分には金属膜からなる矩形状の励振電極51が形成されている。なお、当該厚肉部5bは前述の水晶振動板の薄肉部4aとちょうど嵌め合うようなサイズに形成されている。この励振電極51は引出電極51aにより長辺方向の一端に引き出され、反対面すなわち水晶振動板と非対向面に接続電極51bとして延出されている。また当該引出電極51aは薄肉部5aに周状に形成された接合電極(金属膜)51cに電気的に接続されている。なお、長辺方向の他端において接合電極51cは端面にまでは延出していない。これにより他極の励振電極との短絡を防止している。なお、これら励振電極等は例えば水晶振動板4に接してクロム層が形成され、その上面に銀あるいは金が形成された構成である。
【0052】
水晶振動板4の下面に接合される下板6も基本的には上板5と同様の構成であり、矩形状のガラス板からなり、前記水晶振動板との対向面においてはその外周部分が薄肉加工された薄肉部6aを有している。また周状の薄肉部の内方には厚肉部6bが形成されており、当該厚肉部6bの上面の中央部分には金属膜からなる矩形状の励振電極61が形成されている。当該厚肉部6bは前述の水晶振動板の薄肉部4aとちょうど嵌め合うようなサイズに形成されている。この励振電極61は引出電極61aにより長辺方向の一端に引き出され、反対面すなわち水晶振動板と非対向面に接続電極61bとして延出されている。また当該引出電極61aは薄肉部6aに周状に形成された接合電極(金属膜)61cに電気的に接続されている。なお、長辺方向の他端において接合電極61cは端面にまでは延出していない。なお、励振電極は例えば水晶振動板に接してクロム層が形成され、その上面に銀あるいは金が形成された構成である。
【0053】
水晶振動板の接合用金属膜41,42と上板5、下板6の接合電極51c、61cとは金属微粒子ペースト接合材Sで接合する。当該金属微粒子ペースト接合材Sは水晶振動板側に塗布してもよいし、上板、下板に塗布してもよいし、あるいは両者に塗布してもよい。これら金属微粒子ペースト接合材Sは複数の積層構成としてもよい。なお、本実施の形態においては当該金属微粒子ペースト接合材Sに、ハリマ化成社製ナノペースト(商品名)を用いている。当該接合材に用いる金属微粒子は銀の金属微粒子を用いており、その粒径分布は概ね3〜7μm、平均粒径5μmのものを用いている。有機溶媒は加熱により蒸散する材料を用いているため、基本的には有機系被膜および有機溶媒は加熱融着後これらが残ることはなく、金属微粒子間および金属微粒子と金属膜間の金属間接合が行われる。
【0054】
また、第2の実施形態においては、厚肉部や薄肉部の形成により表面張力が機能するため、その粘度、チクソ性については自由度が広がり、取り扱いが容易になる。なお、金属微粒子ペースト接合材をシート状に成形し、下板、シート状接合材、水晶振動板、シート状接合材、上板の順に積層してもよい。
【0055】
ところで、接合用金属膜および接合電極の表面金属に銀を用いた場合、金属微粒子に銀を用いることにより、同種金属による融着効果が作用し、効率的な接合を行うことができる。また表面金属に金を用いた場合、金属微粒子に金を用いるとよい。すなわち、金属微粒子を接合面の金属膜材料と同種金属とすることにより、加熱接合時に両者の融着性を促進することができ、両者の接合性を向上させることができる。また、接合後も両者の熱膨張係数が等しいために、接合後の環境温度変動による接合領域の損傷事故をなくすることができるという、実用的な効果を得ることができる。なお、同種金属は銀、銅あるいはニッケル等を採用することができる。
【0056】
また、当該金属微粒子ペースト接合材の塗布は多層構成にすることもでき、多層構成内に緩衝層を構成してもよい。例えば金属微粒子ペースト接合材Sが複数層からなる場合、金属微粒子に銅を用いた金属微粒子ペースト接合材による層を挿入してもよい。銅は延性に優れ熱緩衝性能が高いので、接合後の雰囲気温度が変動しても、銅による緩衝性能により接合領域の損傷事故をなくすることができる。
【0057】
本実施の形態においては、水晶振動板の厚肉部と薄肉部の厚さの差を2μm、上板下板それぞれの厚肉部と薄肉部の厚さの差を3μm、金属微粒子ペースト接合材の厚さ約5μmとし、設計上約4μmのギャップ寸法を得ている。
【0058】
これら水晶振動板と上板下板とを真空雰囲気あるいは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で加熱する。これにより前述の金属微粒子表面に形成された有機系被膜は溶融し、隣接する金属微粒子との相互融着(焼結)が起こり、これが加速することにより、金属微粒子間および励振電極に用いられる金属膜間で金属間結合が行われる。なお、有機系被膜、有機溶媒を加熱により蒸散するような材料を用いることにより、上記金属間結合が主となる接合をすることができる。この場合。経時的な有機ガスの発生を抑制し、微少ギャップ内の雰囲気を安定させることができる。
【0059】
本実施の形態によれば、周状に形成された接合用金属膜と接合電極(金属膜)を金属微粒子ペースト接合材により接合するので、金属微粒子の融着により接合用金属膜と接合電極を金属間接合することができ、厚肉部と薄肉部を有する構成とも相まって微少ギャップ間の気密性を高めることができる。
【0060】
なお、微少ギャップの調整は、前記金属微粒子ペースト接合材の量により微調整できるとともに、水晶振動板側の薄肉部と上板や下板の厚肉部との相互の高さ調整により実施することができる。
【0061】
本発明による第3の実施の形態について表面実装型の水晶振動子を例にとり図面とともに説明する。図5、図6は本発明による第3の実施形態を示す図であり、図5は本実施の形態を示す分解斜視図、図6は図5を組み込んだ場合のC−C線に沿った断面図である。なお、第2の実施形態と同じ構成部分については同番号を付して説明する。
【0062】
第3の実施形態においては、水晶振動板と上板および下板にそれぞれ凹凸構成を有しているとともに、一部に絶縁性接合材を用いている。水晶振動板4は全体として矩形形状で、励振に寄与する中央部分が薄肉化された薄肉部4aを形成している。また、薄肉部の周囲には表裏が厚さ方向に伸長した厚肉部4bが周状に形成され、当該厚肉部の表裏上面には周状に接合用金属膜41、42が形成されている。当該接合用金属膜41、42上には、励振電極の引出に寄与する短辺側においては金属微粒子ペースト接合材S1が塗布され、励振電極の引出に寄与しない長辺側においては絶縁性ペースト接合材S2が塗布されている。この場合、金属微粒子ペースト接合材と絶縁性ペースト接合材S2の有機溶媒(バインダ樹脂)を同種のものを用い、例えばエポキシ系樹脂をバインダ樹脂とすればよい。なお、当該絶縁性ペースト接合材部分においては、前記接合用金属膜41,42を形成していなくてもよい。
【0063】
水晶振動板4の上面に接合される上板5は矩形状のガラスセラミックス板からなり、前記水晶振動板4との対向面においてはその外周部分が薄肉加工された薄肉部53を有している。また周状の薄肉部の内方には厚肉部54が形成されており、当該厚肉部は第2の実施形態に開示した厚肉部よりも小さく、上板の中央部分に形成されている。また当該厚肉部54の上面のほぼ全面には金属膜からなる矩形状の励振電極55が形成されている。この励振電極55は引出電極55aにより長辺方向の一端に引き出され、反対面すなわち水晶振動板と非対向面に接続電極55bとして延出されている。なお、厚肉部54の一部には薄肉部53につながる傾斜面54aが形成されており、引出電極55aは当該傾斜面54aを介して引き出されている。
【0064】
水晶振動板4の上面に接合される下板6も基本的には上板5と同様の構成であり、矩形状のガラスセラミックス板からなり、前記水晶振動板4との対向面においてはその外周部分が薄肉加工された薄肉部63を有している。また周状の薄肉部の内方には厚肉部64が形成されており、当該厚肉部は第2の実施形態に開示した厚肉部よりも小さく、下板の中央部分に形成されている。また当該厚肉部64の上面全面には金属膜からなる矩形状の励振電極65が形成されている。この励振電極65は引出電極65aにより長辺方向の一端に引き出され、反対面すなわち水晶振動板と非対向面に接続電極65bとして延出されている。なお、厚肉部64の一部には薄肉部につながる傾斜面64aが形成されており、引出電極65aは当該傾斜面64aを介して引き出されている。
【0065】
上記水晶振動板4と上板、下板とを貼り合わせ一体化し、接合を行う。加熱接合は上述のとおり、水晶振動板と上板下板とを真空雰囲気あるいは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で行う。これにより前述の金属微粒子表面に形成された有機系被膜は溶融し、隣接する金属微粒子との相互融着(焼結)が起こり、これが加速することにより、金属微粒子間および励振電極に用いられる金属膜間で金属間結合が行われる。なお、例えば接合材に熱硬化性のエポキシ系樹脂を用いた場合は、加熱により金属微粒子ペースト接合材による電気的機械的接合と絶縁性ペースト接合材の機械的接合を同時進行して進めることができる。
【0066】
本実施の形態によれば、一部に絶縁性ペースト接合材を用いているので、電極間の確実な電気的分離を行うことができ、電気的特性の信頼性を高めることができる。なお、微少ギャップの調整は、前記金属微粒子ペースト接合材の量により微調整できるとともに、水晶振動板側の薄肉部と上板や下板の厚肉部との相互の高さ調整により実施することができる。なお、図6に示す外部接続電極E1,E2を形成することにより長辺方向の両端から電極を取り出すことができる。
【0067】
本発明による第4の実施の形態について表面実装型の水晶振動子を例にとり図面とともに説明する。図7、図8は本発明による第4の実施形態を示す図であり、図7は本実施の形態を示す分解斜視図、図8は図7を組み込んだ場合のD−D線に沿った断面図である。なお、図7の上板8は裏面を表示しており、アッセンブリ時には矢印で示すように、180度反転して接合される。
【0068】
第4の実施形態においては、水晶振動板には平板構成を用いているが、励振領域の外周に周状の溝を設けるとともに、上板、下板に形成されたそれぞれの接合用金属膜を電気的に分離した構成を採用している。
【0069】
水晶振動板7は全体として矩形形状で、励振に寄与する中央部70の周囲には周状の溝71が形成されている。また、当該溝71の表裏外周には周状に接合用金属膜72、73が形成されている。
【0070】
水晶振動板7の上面に接合される上板8は平板で矩形状の水晶板からなり、当該水晶振動板の中央部70に対向する領域には励振電極81が形成され、引出電極81aにより接合用金属膜83に導電接合されている。また、前記水晶振動板との対向面の外周近傍においては接合用金属膜82,83が形成されている。これら接合用金属膜は長辺のほぼ中央部分で電極分割部84、84により電気的に分離されている。この電極分割部84,84は接合用金属膜82,83が相互に近接した構成で、本実施の形態においては接合用金属膜の一部が長辺方向に平行して伸長する構成をとっている。
【0071】
水晶振動板7の下面に接合される下板9は平板で矩形状の水晶板からなり、当該水晶振動板の中央部70に対向する領域には励振電極91が形成され、引出電極91aにより接合用金属膜92に導電接合されている。また、前記水晶振動板との対向面の外周近傍においては接合用金属膜92,93が形成されている。これら接合用金属膜は長辺のほぼ中央部分で電極分割部94、94により電気的に分離されている。この電極分割部94,94も接合用金属膜92,93が相互に近接した構成で、本実施の形態においては接合用金属膜の一部が長辺方向に平行して伸長する構成をとっている。
【0072】
水晶振動板7と上板8、水晶振動板7と下板9間にはそれぞれ金属微粒子ペースト接合材が介在し、この状態で加熱接合される。加熱接合は上述のとおり、水晶振動板と上板下板とを真空雰囲気あるいは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で行う。これにより前述の金属微粒子表面に形成された有機系被膜は溶融し、隣接する金属微粒子との相互融着(焼結)が起こり、これが加速することにより、金属微粒子間および励振電極に用いられる金属膜間で金属間結合が行われる。なお、本実施の形態において、金属微粒子ペースト接合材は金属微粒子としてニッケルからなる磁性体を用い、厚さ方向に磁力を与えた状態で加熱を行うことにより、金属微粒子は鎖状に結合しかつ厚さ方向に配向した状態となる。このような構成により厚さ方向に異方性を有し、前述の電極分割部84,94により長辺方向の一端と他端に電極を分割することができるので、両端から電極を取り出すことができる。
【0073】
本実施の形態によれば、水晶振動板の中央部、すなわち振動領域の周囲に設けられた溝部により、接合材が振動領域に流入することを抑止し、また上下板の接合による振動阻害を抑制することができ、電気的特性および信頼性を向上させることができる。なお当該溝は1つのみならず複数設けてもよいし、また中央部の厚さがその端部(溝近傍)において漸次薄くなる構成とすることにより、振動エネルギーを中央部分に閉じ込める構成としてもよい。
【0074】
本発明による第5の実施の形態について表面実装型の水晶振動子を例にとり図面とともに説明する。図9は本発明による第5の実施形態を示す図であり、図9は本実施の形態を示す分解斜視図である。
【0075】
第5の実施形態においては、水晶振動板には平板構成を用いており、かつ水晶振動板表裏面の外周近傍には、数10オングストロームの厚さの極薄金属74が周状に形成されている。
【0076】
水晶振動板7は全体として矩形形状で、表裏の外周には極薄金属74としてクロムが約20オングストロームの厚さで形成されている。このような厚さであると微視的に見てまだ金属膜が形成されていない島状構造であり、横方向の導通はほとんど無い状態となっている。
【0077】
水晶振動板7の上面に接合される上板8は平板で矩形状の水晶板からなり、当該水晶振動板の中央部分に対向する領域には励振電極85(図示せず)が形成され、引出電極85a(図示せず)により接合用金属膜86(図示せず)に導電接合されている。当該接合用電極86は水晶振動板7との対向面の外周近傍において前記周状の極薄金属74に対応した構成である。また水晶振動板7の下面に接合される下板9は平板で矩形状の水晶板からなり、当該水晶振動板の中央部分70に対向する領域には励振電極95が形成され、引出電極95aにより接合用金属膜96に導電接合されている。当該接合用電極96は水晶振動板7との対向面の外周近傍において周状の極薄金属に対応した構成である。
【0078】
水晶振動板7と上板8、水晶振動板7と下板9間にはそれぞれ金属微粒子ペースト接合材が介在し、この状態で加熱接合される。加熱接合は上述のとおり、水晶振動板と上板下板とを真空雰囲気あるいは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で行う。これにより前述の金属微粒子表面に形成された有機系被膜は溶融し、隣接する金属微粒子との相互融着(焼結)が起こり、これが加速することにより、金属微粒子間および金属微粒子と極薄金属間で金属間結合が行われる。また極薄金属74によって生じるアンカー効果により金属微粒子ペースト接合材による接合が強固になる。なお、金属微粒子ペースト接合材は前述のように厚さ方向に異方性を有する構成とすることにより、前述の電極分割部83,93により長辺方向の一端と他端に電極を分割することができる。これにより長辺方向の両端から電極を取り出すことができる。
【0079】
なお、金属微粒子ペースト接合材や絶縁性ペースト接合材の水晶振動板や上板、下板への塗布をインクジェット印刷法により行ってもよい。前述のとおり、インクジェット印刷法は例えば圧電素子による機械的な振動によりノズル内のインクを微少吐出させ、所定のパターンを描画する印刷方法であるが、接合材の粘度を低くする等、微少吐出に適した液状に特性調整する必要がある。本実施の形態においては、5〜10mPa・S程度の粘度に調整したものを用いている。
【0080】
インクジェット印刷法を用いると所望の塗布パターンを微細にし、かつ高速に塗布することができる利点を有しているが、複数のノズルを持つことにより複数の接合材を塗布形成する場合にも適している。例えば、上述の金属微粒子ペースト接合材と絶縁性ペースト接合材の複数ノズルにより、適宜吐出を使い分けたり、あるいは金の金属微粒子ペースト接合材と銅の金属微粒子ペースト接合材とを順次または同時に吐出する等の使い分けを行ってもよい。
【0081】
なお、上記各実施形態の例示においては、ATカット水晶振動板を用いた表面実装型の水晶振動子を例示したが、水晶フィルタ素子に適用することが可能である。また圧電振動板もATカット水晶振動板以外にSCカット水晶振動板や圧電セラミック振動板等、他の圧電材料を用いてもよい。また一面に複数極の電圧を印加する構成であってもよい。
【0082】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形
で実施することができる。そのため、上述の実施の形態はあらゆる点で単なる例示にすぎ
ず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであ
って、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属す
る変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
水晶振動子、水晶フィルタ等の圧電振動デバイスの量産に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明による実施の形態を示す分解斜視図。
【図2】図1を組み立てた状態のA−A断面図。
【図3】本発明による第2の実施形態を示す分解斜視図。
【図4】図3を組み立てた状態のB−B断面図。
【図5】本発明による第3の実施形態を示す分解斜視図。
【図6】図5を組み立てた状態のC−C断面図。
【図7】本発明による第4の実施形態を示す分解斜視図。
【図8】図7を組み立てた状態のD−D断面図。
【図9】本発明による第5の実施形態を示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0085】
1、4,7 水晶振動板(圧電振動板)
2,5,8 上板
3,6,9 下板
S、S1 金属微粒子ペースト接合材
S2 絶縁性ペースト接合材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動板の少なくとも一表面に励振電極を形成した平板を近接させて配置し、微少ギャップによる空間電圧印加方式にて圧電振動板に対して電圧を印加する圧電振動デバイスであって、前記圧電振動板と平板とを、平均粒径が1〜100nmで、表面には有機系被膜により被覆され、加熱により当該有機系被膜が除去される金属微粒子を有機溶媒中に分散させた金属微粒子ペースト接合材により接合したことを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項2】
平板状の圧電振動板と、当該圧電振動板の上面に微少ギャップを保持した状態で接合され、かつ励振電極の形成された平板状の上板と、前記圧電振動板の下面に微少ギャップを保持した状態で接合され、かつ励振電極の形成された平板状の下板と、からなる圧電振動デバイスであって、これら上板、下板それぞれと圧電振動板とを、平均粒径が1〜100nmで、表面には有機系被膜により被覆され、加熱により当該有機系被膜が除去される金属微粒子を有機溶媒中に分散させた金属微粒子ペースト接合材により接合したことを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項3】
薄肉部を有し、その周囲に厚肉部を形成した圧電振動板と、当該圧電振動板の上面に微少ギャップを保持した状態で接合され、前記薄肉部の少なくとも一部に対応して当該薄肉部に近接した凸部を有するとともに、当該凸部の上面に励振電極を形成した上板と、前記圧電振動板の下面に微少ギャップを保持した状態で接合され、前記薄肉部の少なくとも一部に対応して当該薄肉部に近接した凸部を有するとともに、当該凸部の上面に励振電極を形成した下板と、からなる圧電振動デバイスであって、これら上板、下板それぞれと圧電振動板とを、平均粒径が1〜100nmで、表面には有機系被膜により被覆され、加熱により当該有機系被膜が除去される金属微粒子を有機溶媒中に分散させた金属微粒子ペースト接合材により接合したことを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項4】
前記圧電振動板と上板および下板のそれぞれの接合面には金属膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の圧電振動デバイス。
【請求項5】
圧電振動板または/および上板と下板に形成された金属膜は複数の金属膜に分割され、分割による無電極部の少なくとも一部には絶縁性ペースト接合材が形成されることを特徴とするにより、請求項4に記載の圧電振動デバイス。
【請求項6】
金属微粒子ペーストによる接合を行う金属膜は、その平均表面粗さが、1μm以下であることを特徴とする請求項4乃至請求項5のいずれかに記載の圧電振動デバイス。
【請求項7】
金属微粒子ペースト接合材の金属微粒子と接合面の金属膜とが同種金属であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の圧電振動デバイス。
【請求項8】
金属微粒子ペースト接合材は複数種の金属微粒子を有し、当該金属微粒子の一部が銅からなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の圧電振動デバイス。
【請求項9】
前記金属微粒子ペースト接合材の有機溶媒には、加熱接合後に圧電振動板と上板または下板間に介在するバインダ樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の圧電振動デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の圧電振動デバイスを製造するにあたり、前記金属微粒子ペースト接合材の形成、および絶縁性ペースト接合材の形成をインクジェット印刷法で行ったことを特徴とする圧電振動デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の圧電振動デバイスを製造するにあたり、金属微粒子ペースト接合材により前記圧電振動板を前記平板または上板と下板とで貼り合わせた後、加熱により前記金属微粒子表面の有機系被膜と有機溶媒とを除去したことを特徴とする圧電振動デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−186748(P2006−186748A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379045(P2004−379045)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】