説明

圧電磁器およびそれを用いた圧電素子

【課題】比較的低い温度での焼成でも安定して焼成可能な大きな結晶粒子を含む圧電磁器およびそれを用いた圧電素子を提供する。
【解決手段】組成式を(1−α){(K1−xNa1−yLi}NbO+αBi(Mg2/3Nb1/3)Oと表したとき、0.46≦x≦0.56、0.03≦y≦0.06、0.0045≦α≦0.0055である成分100質量部に対して、MnをMnO換算で0.0〜0.5質量部含有することを特徴とする圧電磁器1を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電磁器に関し、例えば、位置決め、光学装置の光路長制御、流量制御用バルブ、ポンプ、超音波モータ、エンジンの燃料噴射装置、自動車等のブレーキ装置、インクジェットプリンターのインク吐出ヘッド等に使用されるアクチュエータなどに好適に用いられる圧電磁器および圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電磁器を利用した製品としては、例えば、フィルタ、位置決め、光学装置の光路長制御、流量制御用バルブ、超音波モータあるいは自動車のブレーキ装置等に使用されるアクチュエータなどがある。
【0003】
従来、アクチュエータとしては、圧電性の高い、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系材料やPT(チタン酸鉛)系材料が使用されていた。しかしながら、PZT系材料やPT系材料は、鉛を約60質量%の割合で含有しているため、酸性雨により鉛の溶出が起こり、環境汚染を招く危険性が指摘されている。そこで、鉛を主成分としない圧電材料へ高い期待が寄せられている。
【0004】
鉛を含有しない圧電磁器としてはニオブ酸アルカリ系ペロブスカイトが知られている。{Lix(K1−yNay)1−x}(Nb1−z−wTazSbw)O3、ただし、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0、で表される一般式1molに対して周期律表における2〜15族に属する金属元素、半金属元素、遷移金属元素、貴金属元素、及びアルカリ土類金属元素から選ばれるいずれか一種以上の添加元素を0.0001〜0.15mol含有する多結晶体のセラミックスであって、該多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面が配向していることを特徴とする結晶配向セラミックスが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。この結晶配向セラミックスでは、板状や柱状などの異方形状粒子を配向させて成形した後、焼成することにより結晶が配向させられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−28001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の圧電磁器は、変位特性を向上させるため前述のような複雑な作製プロセスを用いなければならず、安定して製造できないという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みて、比較的低い温度での焼成でも安定して焼成可能な大きな結晶粒子を含む圧電磁器およびそれを用いた圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧電磁器は、組成式を(1−α){(K1−xNa1−yLi}NbO+αBi(Mg2/3Nb1/3)Oと表したとき、0.46≦x≦0.56、0.03≦y≦0.06、0.0045≦α≦0.0055である成分100質量部に対して、MnをMnO換算で0.0〜0.5質量部含有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の圧電素子は、前記圧電磁器が対向面を有し、該対向面に、互いを対向させて配置した一対の電極を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧電磁器によれば、組成式を(1−α){(K1−xNa1−yLi}NbO+αBi(Mg2/3Nb1/3)Oと表したとき、0.46≦x≦0.56、0.03≦y≦0.06、0.0045≦α≦0.0055である成分100質量部に対して、MnをMnO換算で0.0〜0.5質量部含有することにより、通常の焼成プロセスにより粒子径の大きな結晶粒子が得られ、安定して製造することができる。
【0011】
また、本発明の圧電素子は、前記圧電磁器が対向面を有し、該対向面に、互いを対向させて配置した一対の電極を備えることにより、高性能なアクチュエータやセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明の圧電素子の実施形態の一例であるアクチュエータの概略縦断面図であり、(b)は、本発明の圧電素子の実施形態の一例である圧力センサ素子の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の圧電磁器は、組成式を(1−α){(K1−xNa1−yLi}NbO+αBi(Mg2/3Nb1/3)Oと表したとき、0.46≦x≦0.56、0.03≦y≦0.06、0.0045≦α≦0.0055である成分100質量部に対して、MnをMnO換算で0.0〜0.5質量部含有している。
【0014】
本発明の圧電磁器は、このような組成であることにより、比較的低い温度での焼成でも安定して焼成可能な大きな結晶粒子を含む圧電磁器が得られ、安定して安定して製造することができる。
【0015】
圧電磁器の主な成分である{(K1−xNa1−yLi}NbOは、ペロブスカイト構造をもつものである。また、その組成で作製した圧電磁器は、0.46≦x≦0.56、0.04≦y≦0.06の範囲で圧電定数の高くなり、この比率はいわゆるMPB(Morphotoropic Phase Boundary)領域となる比率である。ただし、まだ正方晶が主体の結晶相であり、この系にBi(Mg2/3Nb1/3)Oを導入することに結晶相は立方晶に近づいていく。その間の導入量では、混合相の結晶相を示し、MPBを形成している。
【0016】
また、上述の組成式でyが0.04以上であることにより、圧電磁器の焼結性が高くなり、圧電定数を高くすることができる。また、yが0.06以下であることにより圧電定数を高くすることができる。
【0017】
この主な成分であるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイトに対して、様々な組成を置換・添加する検討をした結果、焼結体の粒子が大きく成長する組成があることを見出した。このような組成では、安定した焼成が可能であり、また焼成温度も低くできる。
【0018】
通常、セラミックスでは結晶粒子が物質拡散により粒成長し焼結している。結晶粒子の径は、通常の圧電セラミックスで10μm以下である。特許文献1に記載されているように、たとえ粒子径を数十μmオーダーへ粒成長させることができても粒子間に大きな10〜20μmの以上の空孔が形成され、緻密体を作製することができなかった。これに対して、本発明の圧電磁器では、吸水率0.1%以下の緻密体が作成でき、上述のような大き
な空孔も見られない。
【0019】
ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイトの粒子成長には、主成分のアルカリ金属元素、特に焼成時のLiの挙動が大きく影響している。このことは、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト中のLi量を増加させることにより粒成長を促進させることからも分かる。しかし、Liの比率を増やすだけでは、粒子径はあまり大きくならず、緻密な焼結体も得られなかった。
【0020】
しかし、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイトにBi(Mg2/3Nb1/3)Oで表せる複合ペロブスカイトを添加することで平均粒子径が90μmを超える粒子成長を発生させることができる。このような効果を得られる理由は以下のように考えられる。まず、焼成において、上述の組成で作製した合成粉末中に含まれるアルカリ金属元素のLiが低温で液相を生成するが、その際にMgが存在するため、より低温で液相が生成される。この液相が成形体中で局所的に発生し、その中で結晶核が形成される。また、この組成では物質拡散が非常に早く、形成された結晶核を元にして結晶粒子が急激に成長する。その際、成長を始めた粒子の外周部にLiや遷移元素の液相成分が偏在し、粒子外周部の液相を介して周囲の小粒子を取り込み大きな粒子が形成されると考えられる。また、大きな粒子周辺部の液相部で小粒子を取り込み、非常に急激な粒子成長を起こすため一気に大きな粒子が生成されるため粒子間に空隙が発生しないと考えられる。このような粒子は90μm以上の大きさになる。
【0021】
上述の組成で、0.0045≦α≦0.0055であることにより、上述の液相生成による粒子成長の機構が適切に起こり、90μm以上の大きな粒子が生成される。0.0030以下、あるいは0.0060以上の量では、結晶粒子は10μm程度、あるいはそれ以下の粒径となる。
【0022】
また、上述の組成式(1−α){(K1−xNa1−yLi}NbO+αBi(Mg2/3Nb1/3)Oの成分100質量部に対して、MnOを0.01〜0.50質量部含有すると圧電磁器が緻密になり、圧電定数も高くなるためより好ましい。ただし、含有する量が1質量部を超えると、粒子径が小さくなり、圧電定数も低くなる。
【0023】
本発明の圧電磁器は、粉砕時のZrOボールからZr等が混入する場合もあるが、微量であれば特性上問題ない。本発明の圧電磁器は、組成式(1−α){(K1−xNa1−yLi}NbO+αBi(Mg2/3Nb1/3)Oと表わされる成分100質量部に対して、MnをMnO換算で0.0〜0.5質量部加えた組成が99質量%以上を占め、それ以外の組成は1%質量未満、より好ましくは0.5%質量未満である。
【0024】
本発明の組成を有する圧電磁器は、例えば、原料として、NaCO、KCO、LiCO、Nb、MgCOおよびMnOからなる各種酸化物あるいは塩を用いることができる。原料はこれに限定されず、焼成により酸化物を生成する炭酸塩、硝酸塩等の金属塩を用いても良い。
【0025】
これらの原料を{(1−α){(K1−xNa1−yLi}NbO+αBi(Mg2/3Nb1/3)Oと表したとき、0.46≦x≦0.56、0.03≦y≦0.06、0.0045≦α≦0.0055である成分100質量部に対して、MnをMnO換算で0.0〜0.5質量部となるように秤量し、混合後の平均粒度分布(D50)が0.3〜1μmの範囲になるように粉砕する。この混合物を850〜1000℃で仮焼し、仮焼後の平均粒度分布(D50)が0.3〜1μmの範囲になるように粉砕し、再度所定の有機バインダを加え湿式混合し造粒する。
【0026】
このようにして得られた粉体を、公知のプレス成形等により所定形状に成形し、大気中等の酸化性雰囲気において950〜1050℃の温度範囲で2〜5時間焼成し、本発明の組成を有する圧電磁器が得られる。
【0027】
図1(a)に、本発明の圧電素子の実施形態の一例であるアクチュエータの概略縦断面図を示す。このアクチュエータは、上述の組成の圧電磁器からなる2つの圧電基体1が積層されている。各圧電基体1の一方の主面に電極2が形成され、他方の主面には電極3が形成されている。アクチュエータ内で電極2、3は積層方向に交互に形成されている。分極は各圧電基体1の主面に垂直に電極3から電極2の方向に施してある。
【0028】
このようなアクチュエータは、上述のように作製した単結晶体の圧電磁器の結晶配向を調べて、その方向に合わせて単結晶体を切断し、分極を施して圧電基体1を作製し、電極2、3と接着して積層することにより作製できる。このようなアクチュエータは、電極2と電極3との間に電圧を加えることにより圧電基体1がd33方向に変位する、すなわち、厚みが増える方向に変形し、アクチュエータとして働く。
【0029】
図1(b)に、本発明の圧電素子の実施形態の一例である圧力センサ素子の概略斜視図を示す。この圧力センサは、上述の組成の圧電磁器からなる圧電基体11の対向する一対の主面に、それぞれに電極12、13を形成され、互いに対向させた一対の電極12、13を備えている。また、分極は主面と垂直な方向に施してある。このような圧力センサでは、主面間に加わる圧力により、各主面に電荷が生じるため、この電荷を測定することにより、主面間に加わっている圧力を測定することができる。
【実施例】
【0030】
出発原料として純度99.9%のNaCO粉末、KCO粉末、LiCO粉末、Nb粉末、MgCO粉末およびMnO粉末を準備した。これらの粉末を、(1−α){(K1−xNa1−yLi}NbO+αBi(Mg2/3Nb1/3)Oのx、yおよびαを表1に示す量にした成分100質量部に対して、MnをMnO換算で表1に示す量になるように秤量混合した。
【0031】
秤量した原料粉末を、純度99.9%のZrOボール、イオン交換水と共に500mlポリポットに投入し、16時間回転ミルで混合した。
【0032】
混合後のスラリーを大気中で乾燥し、#40メッシュを通し、その後、大気中で950℃、3時間保持して仮焼し、この合成粉末を純度99.9%のZrOボールとイオン交換水と共に500mlポリポットに投入し、20時間粉砕して粉末を得た。
【0033】
この粉末に適量の有機バインダを添加して造粒し、金型プレスで150MPaの圧力で成形し、大気中において、表1に記載の温度でのキープ時間を3時間とし、その前後の昇温温度・降温速度を300℃/時間とするプロファイルで本焼成し、直径10mm、厚み3mmの円柱状の圧電磁器を得た。
【0034】
粒子径は、断面を鏡面研磨加工して、その後、塩酸と硝酸との混合酸溶液でエッティング処理を行なった後、走査型電子顕微鏡の観察で粒子径を測定した。
【0035】
次に、圧電磁器を厚み2mmに研磨した後、両主面(円柱の上下面)にAg電極を形成して、200℃で分極処理を行い、圧電素子を作製した。得られた圧電素子はd33メーターで圧電d33定数を測定した。さらに、圧電素子を恒温槽に入れ、温度を変化させながら静電容量を測定し、静電容量が極大かつ最大となる温度をキュリー温度Tcとした。
【0036】
【表1】

【0037】
圧電特性は、{(K1−xNa1−yLi}NbO組成のxの値はx=0.50の試料No.3の圧電定数が最も高く、x=0.50から外れるにしたがって、圧電定数は小さくなっていった。これは、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト単体の組成の場合と同様に、この組成領域でMPBとなっていることによる。また、0.046≦x≦0.056の範囲では、粒子の生成状態に差はなかった。
【0038】
yについてもy=0.05の試料No.3の圧電定数が最も高く、y=0.05から外れるにしたがって、圧電定数は小さくなっていった。これは、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト単体の組成の場合と同様に、この組成領域でMPBとなっていることによる。
【0039】
また、0.046≦x≦0.056、y≧0.03、0.0045≦α≦0.0055、およびMnO換算のMn添加量が0.50質量部以下の試料では90μm以上の粒径となり、圧電定数d33も105以上と高くなった。
【0040】
さらに、0.046≦x≦0.056、y≧0.04、0.0045≦α≦0.0055、およびMnO換算のMn添加量が0.50質量部以下の試料では焼成温度を1000℃以下と低くすることができた。
【0041】
また、実施例で作製した試料を、蛍光X線分析装置で組成分析した。その結果、各試料の磁器の組成は、調合した原料組成と同じであった。
【符号の説明】
【0042】
1、11・・・圧電基体(圧電磁器)
2、3、12、13・・・電極
P・・・分極方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式を(1−α){(K1−xNa1−yLi}NbO+αBi(Mg2/3Nb1/3)Oと表したとき、0.46≦x≦0.56、0.03≦y≦0.06、0.0045≦α≦0.0055である成分100質量部に対して、MnをMnO換算で0.0〜0.5質量部含有することを特徴とする圧電磁器。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電磁器が対向面を有し、該対向面に、互いを対向させて配置した一対の電極を備えることを特徴とする圧電素子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−195382(P2011−195382A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64268(P2010−64268)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】