説明

地上デジタルテレビジョン放送における緊急速報を受信する受信装置、及び緊急速報を送信する送信装置

【課題】緊急速報の起動信号を低消費電力で待ち受け、緊急速報を、迅速、且つ、確実に受信する受信装置、及び緊急速報を伝送する送信装置を提供する。
【解決手段】地上デジタルテレビジョン放送波から伝送制御信号(AC信号)を受信する受信装置であって、緊急速報の有無を識別する起動フラグ信号と、起動フラグ信号の隣接する前後のシンボルに位置する既知信号とを含む電文情報が送信側から前記伝送制御信号にて伝送されるように予め規定されており、伝送制御信号のキャリアを受信するAC抽出部12と、伝送制御信号のフレームを検出して伝送制御信号のフレーム同期を行うフレーム同期部14と、フレーム同期したタイミングに従い、既知信号を検出し、送信側から起動フラグを受信するまでの伝搬路特性を推定する伝搬路推定部23と、推定した伝搬路特性に基づいて起動フラグ信号の復調を行う起動フラグ復調部13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上デジタルテレビジョン放送において緊急速報を送受信する技術に関し、特に、緊急警報放送や緊急地震速報といった緊急速報を迅速、且つ、確実に受信する受信装置、及び、受信装置のユーザに確実に伝達するための送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気象庁は、平成19年10月1日から緊急地震速報(例えば、非特許文献1参照)の一般への提供を開始した。これに伴い、テレビジョン並びにラジオの各放送局も前記速報が発表される際には、チャイム音とともにテレビジョン画面に表示または音声で伝えるなどの放送を実施している。尚、緊急地震速報のラジオ放送の一部は、平成20年4月1日から開始している。
【0003】
地上デジタルテレビジョン放送、特に部分受信のいわゆるワンセグサービス(以下、単にワンセグと称する)の場合は、無線周波数(RF)信号の復調、誤り訂正、映像等のコーデックなどの信号処理に要する遅延のため、緊急地震速報がテレビジョン画面に表示されるまでに何秒かの遅延が発生する。また、受信装置の通常動作時の電源が供給されていなければ、緊急地震速報を受信することもできない。
【0004】
緊急警報放送の場合に、待機消費電力を抑えて動作し、受信装置の電源が入っていない受信装置を起動して受信装置に知らせる仕組みが知られている。例えば、ISDB−T(Integrated Services Digital Broadcasting−Terrestrial、ARIB規格STD‐B31)方式の地上デジタルテレビジョンの受信装置は、受信装置の通常動作時の電源が供給されていない場合に、TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control: 伝送制御)キャリアに格納される緊急警報放送用起動フラグを検出する伝送制御信号用の受信機能を備えることにより、緊急警報放送用起動フラグが1(緊急警報放送あり)のとき、受信装置の電源を投入し、受信装置に緊急警報放送の視聴を促すことができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このとき、該受信装置において、伝送制御信号の受信部は、TMCC信号のフレーム同期信号に基づく同期保持部を備え、前記同期保持部によるカウント値の示すタイミングで、フレーム内及びフレーム単位(フレーム外)の間欠動作を行い、消費電力を節約できる。フレーム内の電源投入タイミングは、例えば、同期信号から緊急警報放送用起動フラグまでの約30msecである。
【0006】
また、伝送制御信号の受信部の構成を簡略化することにより、より低消費電力化を図った受信装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。該受信装置において、さらに、ダイバーシティ合成を部分受信セグメント内の4本全てのTMCC信号に適用している。
【0007】
また、緊急地震速報を含む災害、防災情報等の地上デジタルテレビジョン放送における伝送のため、TMCC信号による起動フラグの受信に加え、AC(Auxiliary Channel)キャリアを利用する技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。該技術において、TMCCキャリアの緊急警報放送用起動フラグと、例えば部分受信セグメント内の特定のACキャリアに置かれた信号種別ビットとの組み合わせにより、緊急放送の種別及び開始または終了を提示する。その他ARIB規格STD‐B10の緊急情報記述子及び緊急放送の映像・音声を、ACキャリアを用いて伝送する。この緊急情報記述子は、信号種別ビットを含み部分受信セグメントのAC信号に、前記映像・音声は他のセグメントのAC信号に格納して伝送される。
【0008】
さらに、受信装置の電源が入っていない場合、あるいは他のチャンネルを受信している場合に備え、電源投入あるいはチャンネル切り替えを促すことが開示されており、この制御のため部分受信セグメント内のTMCC信号及びAC信号を受信し、電源投入後あるいはチャンネル切り替え後に、その他の災害・防災情報並びに映像・音声の再生を行う技術が提示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−319771号公報
【特許文献2】特開2007−104221号公報
【特許文献3】特開2007−243936号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“緊急地震速報の概要や処理手法に関する技術的参考資料”、気象庁地震火山部、[平成20年1月31日検索]、インターネット〈URL:http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/EEW/kaisetsu/Whats_EEW/reference.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の技術はいずれも、地上デジタルテレビジョン放送の受信装置に関し、前記放送を視聴していない受信者の受信装置を迅速に立ち上げることを目的とする点で同一の技術である。しかしながら、緊急速報の起動信号を低消費電力で待ち受け、緊急速報が発せられると、迅速、且つ、確実に、緊急速報を伝達することを目的とした場合、受信装置技術の観点からは、受信装置を起動する信号の伝送方法には改善の余地がある。
【0012】
例えば、現在の規格(ARIB規格STD−B31)では、TMCC信号とAC信号のいずれもDBPSK変調波を想定しているため、復調の際には、差動検波を行うことになる。この場合、例えば部分受信セグメント(ワンセグ、セグメント番号#0)においても、それぞれ4本と8本のキャリアがあるので、同一の情報を送信して、周波数方向の送信ダイバーシティとすることができるが、差動検波とすることにより、そのダイバーシティ利得を減じてしまうことになる。
【0013】
送信規格をBPSK変調波とし、同期検波とすればダイバーシティ利得を向上できるが、そのためには、4シンボルで送信されるSP(Scattered Pilot)信号を別途受信し、FIR内挿補間などの処理によりTMCC信号又はAC信号のキャリア位置での伝搬路の伝達関数を算出する必要がある。低消費電力動作の観点で、より簡易な手法による前記伝搬路の伝達関数の算出が望まれる。
【0014】
特に、特許文献3に記載の技術は、TMCC信号とAC信号の双方を受信するため、特許文献1及び2に記載の技術に比べ、受信装置の構成がさらに複雑になる。
【0015】
本発明の目的は、地上デジタルテレビジョン放送の受信者へ、前記受信者が前記放送を受信していない場合においても、緊急速報の起動信号を低消費電力で待ち受け、緊急速報が発せられると、迅速、且つ確実に、前記速報を伝達することを可能とする、受信装置及び送信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち、本発明による受信装置は、地上デジタルテレビジョン放送波から伝送制御信号を受信する受信装置であって、緊急速報の有無を識別するための起動フラグ信号と、前記起動フラグ信号の隣接する前後のシンボルに位置する振幅と位相の情報が予め定められた既知信号とを含む電文情報が送信側から前記伝送制御信号にて伝送されるように予め規定されており、前記伝送制御信号のキャリアを受信するキャリア受信手段と、前記伝送制御信号のフレームを検出して前記伝送制御信号のフレーム同期を行うフレーム同期手段と、前記フレーム同期手段によって取得されたタイミングに従い、前記既知信号を検出し、送信側から前記起動フラグ信号を受信するまでの伝搬路特性を推定する伝搬路推定手段と、前記伝搬路特性に基づいて前記起動フラグ信号の復調を行う起動フラグ復調手段と、前記起動フラグ復調手段によって復調された前記起動フラグ信号の値を監視して、緊急速報の有無を判別する起動フラグ監視手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明による受信装置において、前記電文情報は、前記起動フラグ信号及び前記既知信号とともに、前記伝送制御信号のフレーム長を認識してフレーム同期を行うための同期信号を格納しており、前記フレーム同期手段は、前記伝送制御信号に含まれる前記同期信号に基づいて前記伝送制御信号のフレーム同期を行うことを特徴とする。
【0018】
また、本発明による受信装置において、前記起動フラグ信号は、前記同期信号の直後に隣接して前記電文情報に格納されており、且つ前記既知信号のうち前記起動フラグ信号の前のシンボルに位置する既知信号は、前記同期信号の最終ビットからなり、前記伝搬路推定手段は、該同期信号の最終ビットの値と前記既知信号のうち前記起動フラグ信号の後のシンボルに位置する既知信号とから、前記起動フラグ信号を受信するまでの伝搬路特性を推定することを特徴とする。
【0019】
また、本発明による受信装置において、前記起動フラグ信号は、緊急速報の有無を識別する値を冗長させるために連続したビット値の2ビットからなり、且つ2ビットの該起動フラグ信号は、送信側からDBPSK変調された前記伝送制御信号にて伝送されており、前記伝搬路推定手段は、前記2ビットの該起動フラグ信号のうちの2ビット目を前記既知信号のうち前記起動フラグ信号の後のシンボルに位置する既知信号として検出することを特徴とする。
【0020】
また、本発明による受信装置において、前記起動フラグ監視手段が取得する前記起動フラグ信号の値が緊急速報を含まない旨を示した場合に、前記キャリア受信手段と前記フレーム同期手段と前記伝搬路推定手段と前記起動フラグ復調手段に対して間欠受信用電源制御を行う電源制御手段を備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明による受信装置において、前記電源制御手段は、前記同期信号の受信タイミングと前記起動フラグ信号及び既知信号の連続した3シンボルの受信タイミングとに合わせて電源を供給することを特徴とする。
【0022】
また、本発明による受信装置において、前記電源制御手段は、前記同期信号の受信タイミングに対しては複数フレームごとに一回の周期で電源を供給し、且つ、前記起動フラグ信号及び既知信号の連続した3シンボルの受信タイミングに対してはフレームごとの周期で電源を供給することを特徴とする。
【0023】
また、本発明による受信装置において、前記伝送路推定手段は、前後に配置された前記既知信号の伝送路特性から内挿補間によって伝送路特性を推定することを特徴とする。
【0024】
また、本発明による受信装置において、前記起動フラグ復調手段は、前記伝送路推定手段によって推定された伝送路特性を用いて、前記起動フラグ信号を同期検波することを特徴とする。
【0025】
また、本発明による受信装置において、前記キャリアに含まれる電文情報を解析する電文情報解析部を更に備え、前記電源制御手段は、前記起動フラグ監視手段が取得する前記起動フラグ信号の値が緊急速報である旨を表す値を示した場合に、前記電文情報解析部への電源供給を行うことを特徴とする。
【0026】
また、本発明による受信装置において、前記電文情報解析部は、電文情報用の復調部と誤り訂正処理部を有し、前記電文情報は、予め定めた差集合巡回符号方式のパリティビットを含んで伝送されるように予め規定されており、前記起動フラグ信号の値が緊急速報である旨を表す値を取得した場合に、前記復調部は電文情報を復調し、前記誤り訂正処理部は前記電文情報を該差集合巡回符号方式に基づいて誤り訂正を行うことを特徴とする。
【0027】
また、本発明による受信装置において、前記誤り訂正処理部の出力に対して、前記起動フラグ信号の値が緊急速報である旨を表すか否かを再度確認し、確認できなかった場合には前記電源制御手段は再び間欠受信用電源制御を行うことを特徴とする。
【0028】
また、本発明による受信装置において、前記キャリアは、地上デジタルテレビジョンのISDB−T方式における4本のTMCCキャリアであり、前記起動フラグ監視手段は、ダイバーシティ利得を得るために該4本のTMCCキャリアから受信した前記起動フラグ信号を最大比合成して監視することを特徴とする。
【0029】
また、本発明による受信装置において、前記キャリアは、地上デジタルテレビジョンのISDB−T方式における8本のACキャリアであり、前記起動フラグ監視手段は、ダイバーシティ利得を得るために該8本のACキャリアから受信した前記起動フラグ信号を最大比合成して監視することを特徴とする。
【0030】
更に、本発明は、本発明の受信装置に、緊急速報の有無を識別するための起動フラグ信号と該起動フラグ信号に隣接した前後のシンボルに位置する前記既知信号とを含む前記伝送制御信号を送信する送信装置としても特徴付けられる。
【0031】
また、本発明の送信装置において、本発明の受信装置に、フレーム同期を行うための同期信号と緊急速報の有無を識別するための起動フラグ信号と該起動フラグ信号に隣接した前後のシンボルに位置する前記既知信号とを含む前記伝送制御信号を送信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、地上デジタルテレビジョン放送の受信者へ、前記受信者が前記放送を受信していない場合においても、緊急速報の起動信号を低消費電力で待ち受け、緊急速報が発せられると、迅速、且つ、確実に、前記速報を伝達することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による起動フラグの送信方法を説明する図である。
【図2】本発明による一実施例の電文情報のフォーマットとフレーム内間欠受信モードにおける受信装置の電源制御の動作事例を示す図である。
【図3】本発明による実施例1の受信装置のブロック図である。
【図4】本発明の実施例1の受信装置における起動フラグ信号監視のフレーム内間欠受信モードの省電力アルゴリズム事例を表すフローチャートである。
【図5】従来技術を用いて受信装置を構成する場合のブロック図である。
【図6】本発明による一実施例の電文情報のフォーマットとフレーム内間欠受信モードにおける受信装置の電源制御の動作事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、本発明による起動フラグ信号の送信方法並びに復調原理を説明する。
【0035】
図1は、緊急地震速報や緊急警報放送といった緊急速報(以下、両者をまとめて説明する際には、単に「緊急速報」という名称を用いる)の起動フラグ信号の送信方法を説明する図である。
【0036】
図1では、例としてモード3のISDB−T方式の地上デジタルテレビジョン放送における、OFDM方式の送信信号とその内部のAC信号を説明する。図1(A)に示されるように、モード3のISDB−T方式の送信信号は204個のシンボルから成るキャリアを432個備え、この中に8本のAC信号を含む。図1(B)は、本発明に係るAC信号で伝送される電文情報を概略的に説明したものである。
【0037】
本発明では、電文情報フォーマットにおいて、起動フラグ信号を‘1’か‘0’の1ビットで表す場合(‘1’のとき緊急速報があるとする)、前記起動フラグ信号の前後に既知信号1ビットずつを配置して伝送する。
【0038】
以下、説明のため、いくつかのパラメータを定義する。
【0039】
ISDB−T方式の地上デジタルテレビジョン放送の伝送においては、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式を用いている。よって、シンボルl、キャリアk(l,kは整数)の送信信号、伝搬路特性、受信信号ならびに雑音を、s(l,k),h(l,k),r(l,k),n(l,k)とおくと、これらには次式の関係がある。
r(l,k)=h(l,k)×s(l,k)+n(l,k) ・・・(1)
通常、これらのうち値が既知なのは、受信信号r(l,k)のみである。
【0040】
ARIB規格STD−B31において、TMCC信号やAC信号はDBPSK変調波にマッピングされて送信されることになっている。
【0041】
情報を前後する2シンボル間の位相変化に置き換えて伝送するこの変調波を用いると、連続する2シンボルl1とl2により情報d(dは‘−1’または‘1’とする)は送信されるため、情報dと送信信号s(l,k)及びs(l,k)との間には、次式の関係がある。
s(l,k)=d×s(l,k) ・・・(2)
(1)式において、シンボルlとlを代入すると、次式が得られる。
r(l,k)=h(l,k)×s(l,k)+n(l,k)・・・(3)
r(l,k)=h(l,k)×s(l,k)+n(l,k)・・・(4)
ここで、h(l,k)がシンボルlとlの間で変化がなく、雑音n(l,k)も他に比し無視できる程度に小さければ、(4)式を(3)式で除算することにより、次式のとおり情報dを復調できる。
r(l,k)/r(l,k)≒s(l,k)/s(l,k)=d
・・・(5)
【0042】
このため、信号を受信する際、何よりも先に復調される伝送制御に係る情報を伝送するTMCC信号やAC信号では、DBPSK変調波が用いられる。
【0043】
(5)式あるいは(5)式の変形である2シンボル間の位相共役による乗算は、非同期検波あるいは遅延検波の代表的な手法である。
【0044】
しかしながら、遅延検波は、同期検波に比べて同じビット誤り率(BER)を得るために必要なC/Nが1dB程度大きくなってしまうので、受信装置がポケットやカバンの中にあっても、緊急速報の起動フラグ信号を高感度に受信しようとする場合に課題となる。
【0045】
ダイバーシティ受信(ワンセグの場合)についても、TMCC信号の4本、AC信号の8本を有効に利用できない。理論的には、それぞれ6dBと9dBの改善が期待されるところであるが、雑音n(l,k)が無視できない、伝搬路特性h(l,k)の変化が無視できないなどにより劣化する。
【0046】
そこで、BPSK変調波により送信することとし、同期検波により受信する。
【0047】
このため、(1)式において、伝搬路特性h(l,k)を近似的に既知のものとする。
【0048】
従来からのISDB−T方式の地上デジタルテレビジョン放送では、この伝搬路特性h(l,k)を取得できるように、振幅と位相の値が既知のSP信号p(l,k)をデータとともに伝送している。ここでも雑音n(l,k)が無視できることを前提に、SP信号が送信されるシンボルlとキャリアkにおいて、(1)式から伝搬路特性h(l,k)を算出できるので、この値をh(l,k)の推定値として、ISDB−T方式の規格で定められているDBPSK変調波を用いるTMCC信号やAC信号のキャリア位置での伝搬路特性h(l,k),h(l,k)を内挿補間により求め、送信信号s(l,k),s(l,k)の推定値を計算する。
【0049】
SP信号は4シンボル周期でキャリア位置を変えて送信されており、また、TMCC信号やAC信号のキャリア位置で送信されることはないため、伝搬路特性h(l,k)を算出する処理部(例えば、処理回路)が複雑であることは、容易に推測できる。
【0050】
よって、本発明では、TMCC信号あるいはAC信号のみを受信して、起動フラグ信号の伝送されるタイミングでの伝搬路特性h(l,k)を求めることができるように、起動フラグ信号のシンボル方向に前後するビットで既知信号を送るフォーマットとした(図1)。
【0051】
この場合も内挿補間は必要だが、得られた2シンボル分の伝搬路特性を単純に加算して1ビット分ビットシフトをすればよく、簡単に求められる。
該当するシンボルをl、l、lとすると、
h(l,k)=(h(l,k)+h(l,k))/2
=(h(l,k)+h(l,k))>>1 ・・・(6)
(「>>1」は1ビットの右シフトとする)と表せる。
【0052】
また、本発明の内挿補間では起動フラグ信号と同一キャリア且つ隣接したシンボルの伝送路特性を用いるので、従来型のSP信号を用いる方法よりも精度良く伝搬路特性を推定することができる。
【0053】
次に、本発明による一実施例の送信装置及び受信装置について説明する。
【実施例1】
【0054】
先ず、本発明による一実施例の送信装置及び受信装置に係る電文情報フォーマット例を図2(A)に示す。
【0055】
本発明による送信装置は、図2(A)に示す実施例1の電文情報のフォーマットに基づく緊急速報を、ISDB−T方式の地上デジタルテレビジョン放送のOFDM方式に多重される各副搬送波のうちACキャリアを用いて伝送する。ISDB−T方式の地上デジタルテレビジョン放送に係る送信装置のハードウェア構成は既知であり、図示しない。しかしながら、伝送制御情報(TMCC又はAC)を用いて電文情報を伝送する送信装置、及びこの電文情報を受信して特有の動作を行う受信装置、並びにこれらの送信装置及び受信装置から構成される伝送システムは、以下に説明するように、特有の機能を発揮する。
【0056】
フレーム長は、TMCC信号と同一であり、OFDM信号の204シンボルで構成され、シンボル毎に1ビットが送信される。
【0057】
初めの17ビットには、TMCC信号と同一の「差動復調の基準」及びDBPSK変調波の「同期信号」が格納されている。
【0058】
ここで、「差動復調の基準」は、TMCC信号と同様に、キャリア番号kのSP信号に割り当てられるBPSK信号の値Wと同じ生成多項式(x11+x+1)に基づく値であり、例えば、ISDB−T方式の地上デジタルテレビジョン放送波の部分受信セグメント(セグメント番号#0)におけるACキャリア(モード3の同期変調部)の場合、キャリア番号#7,#89,#206,#209,#226,#244,#377及び#407の8箇所に対し割り当てられる値である。この8箇所のACキャリアが運ぶAC情報に記述の差動復調の基準として格納されるWは、各々0,0,0,0,0,1,1及び0である。
【0059】
「同期信号」は、16ビットの同期信号「0011010111101110」(奇数フレーム)及びその反転(偶数フレーム)に基づき、奇数フレームと偶数フレームで異なる値をとり、Wが0の場合、奇数フレームが「1,1,−1,1,1,−1,−1,1,−1,1,−1,−1,1,−1,1,1」であり、偶数フレームが「−1,1,1,1,−1,−1,1,1,1,1,1,−1,−1,−1,−1,1」である。そして、Wが1の場合、これらの反転となる。
【0060】
本実施例では、この「同期信号」のうち、最後のビットを前付きの「既知信号」として用いる。すなわち、上述の説明のように同期信号は振幅及び位相が既知である信号であるので、この最終ビットを起動フラグの前に配置する既知信号として利用する。
【0061】
緊急速報の有無を識別する1ビットの「起動フラグ信号」は、「同期信号」につづき、これ以降はBPSK変調波とする。「起動フラグ信号」の値は、緊急速報がある場合には、‘1’のビットを表す値としてWの値(厳密には、Wの値によるBPSK変調波。以下、同様な意味で「Wの値」を使用する)を入力し、緊急速報がない場合にはその反転とする。これは、8本のACキャリアで伝送する際、各キャリアでの起動フラグの値をWの値で割った値が全キャリアで同じとなるようにするためである。
【0062】
本実施例では、後付きの「既知信号」として、前付きの「既知信号」と同じ値1ビット(BPSK変調波としてみた値)を割り当てる。
【0063】
尚、本発明の理解を容易とするために、ISDB−T方式の地上デジタルテレビジョン放送におけるモード3の部分受信セグメント(セグメント番号#0)内のACキャリアが運ぶAC情報の全てを用いる場合について説明するが、他のモードにおいても適用可能であることに留意する。
【0064】
「緊急速報識別信号」は、緊急速報の種別を示す信号である。緊急速報が緊急地震速報を表すのか、緊急警報放送を表すのかといった情報を提供する。例えば、3ビットとし、「000」を緊急地震速報、「001」を緊急警報放送、「010」を緊急地震速報のテスト信号、「011」を緊急警報放送のテスト信号とする。尚、「起動フラグ信号」と同様に、各3ビットの値はBPSK変調された値として伝送される。つまり、‘0’は「1」であり、‘1’は「−1」である。これにWの値を乗算する。
【0065】
「起動フラグ信号」がWの値を示した時に、「緊急速報識別信号」の値を読み、緊急速報の種別、つまり、緊急速報が何であるのかを識別する。
【0066】
「各種識別信号」は、「速報ID」(12ビット)や「情報番号」(4ビット)、「電文種別」(2ビット)といった緊急速報に付随する情報信号や、放送事業者識別などの信号が該当する。
【0067】
「速報ID」は、緊急速報の識別番号(ID番号)として挿入する。例えば、気象庁が発表する緊急地震速報には、“ND”で始まり、(西暦)年、月、日、時、分、秒を並べて作成される地震識別番号が付されている。この番号の下位12ビットを割り当てて利用する。緊急警報放送など他の場合にも、同様な考えで識別番号を割り当てる。
【0068】
この「速報ID」により、同一の緊急速報に、続報やキャンセル報が発生しても、当該速報と他の速報を区別することができるようになる。
【0069】
「情報番号」は、続報が出た場合に、その速報が発表される度に1ずつ加算される番号である。先に出た緊急速報と一連の情報である旨を受信装置が認識するために付与される。「情報番号」は、0〜15の範囲で繰り返して用いることができる。
【0070】
「電文種別」は、緊急速報が発報される通常の伝送か、先に出された緊急速報が取り消し(キャンセル報)となるかを示すために用いる。緊急速報の誤報が発生した場合に取り消しが可能なように格納する。2ビットを用いて、例えば「00」ならば、緊急警報放送あるいは一般向け緊急地震速報である旨を示し、「01」であればキャンセル報であることを示す。緊急速報のない場合には「11」を送信し、「起動フラグ信号」の判定に対する保険とすることもできる。
【0071】
放送事業者識別は、ARIB規格STD−B14に準拠した識別信号が利用できる。この場合には、「放送地域識別」(6ビット)、「県複フラグ」(1ビット)、「地域事業者識別」(4ビット)が格納される。
【0072】
「各識別信号」も同様に、BPSK変調後、Wの値を乗算したものが格納される。
【0073】
「緊急速報情報」は、例えば、緊急地震速報のように放送とは別に伝達すべき情報があるものについて必要な情報を格納する部分である。
【0074】
緊急速報の対象が緊急地震速報と緊急警報放送である場合を事例に具体例を示すと、緊急地震速報のときにのみ情報が格納され、緊急警報放送のときには固定ビット(例えばすべて‘1’)が置かれる。
【0075】
緊急地震速報の情報のうち、放送とは別に伝達すべき情報としては、緊急地震速報が発せられたときに、受信者にとり最小限必要な情報であり、的確に、且つ、迅速、確実に伝送されるべき情報である。すなわち、受信者がいる地域において、どれぐらいの規模/震度の地震がどれぐらいの時間の後に起こるか、を受信者に認知させることができる情報である。
【0076】
具体的には、2つの方法事例を示す。
【0077】
一般向けの緊急地震速報は、強い揺れ(震度5弱以上)が推定される場合に、その規模及び震度4以上が推定される地域に関する情報を発信することが所望される。
【0078】
1つ目の方法事例は、強い揺れが予想される地域を直接的に伝えるものである。
【0079】
つまり、全国放送であれば「震度4以上の強震地域(都道府県単位)」(56ビット)であり、県域或いは広域の放送であれば「震度4以上の強震地域(地域単位)」(38ビット)を格納する。一般向け緊急地震速報で用いる“強い揺れが推定される地域”であり、この各地域に1ビットを割り当て、対象となるか否かを1又は0で示す。「震度4以上の強震地域(都道府県単位)」の地域は、都道府県を単位とし、北海道を4分割するなど全国で現在56地域である。「震度4以上の強震地域(地域単位)」は、気象庁が地域コードを割り当てている最小の地域単位である。広域放送のエリアに分割した場合、最大は北海道で38地域である。
【0080】
例えば、東京、神奈川、伊豆諸島が震度4以上を予測された場合、この3つの地域に割り当てるビットを1とし、その他は0とする。よって、送信側では、この値に基づくデータが送信され、受信側ではこの値をもとに「緊急地震速報(気象庁):地震発生。次の地域で強い揺れに警戒: 東京都、神奈川県、伊豆諸島」というメッセージを提示する。
【0081】
尚、全国放送と県域或いは広域の放送を区別するため、全国県域識別フラグ信号を2ビット伝送し、全国放送時には「01」、県域放送或いは広域放送時には「00」、不使用時には「11」を伝送するものとする。
【0082】
この他、必要により、「最大予測震度」(4ビット)が格納される。
【0083】
「最大予測震度」は、震度4以上の4、5弱、5強、6弱、6強、7が相当する。「強」、「弱」を各々1、0と数値で区別する。よって、「0100」、「0101」、「1101」、「0110」、「1110」、「0111」で区別して表記できる。ただし、この最大予測震度は、特定の地域ごとではなく、全国放送ならば、当該地震による日本全国のいずれかの地域で観測が予測される最大予測震度であり、広域或いは県域放送であれば、当該地域内で観測が予測される最大予測震度である。日本全国のいずれかの地域で観測が予測される最大予測震度の値が震度5弱以上のとき、緊急地震速報が出される。
【0084】
2つめの方法事例は、発生時刻、震源の緯度、経度、深さ、マグニチュードなど地震の詳細情報を伝送し、情報を受信した受信装置において予測震度や予測到達時間などを計算する間接的な手法である。受信者の希望に基づく地域ごとのより詳細な警告が可能となる。
【0085】
非特許文献1によると、取得した地震源の位置情報(緯度経度、深さ)と地震の規模(マグニチュード)並びに地盤増幅度から、予測震度及び強震動(主要動)の予測到達時刻を算出できる。
【0086】
まず、予測震度は、計測震度IINSTRとして次式の計算式により算出される。
IINSTR=2.68+1.72 log(PGV)±0.21 ・・・(7)
ここで、PGVは地表面での各地点の最大速度[cm/s]であり、最大速度減衰式で計算される基準基盤(硬質基盤、S波速度600m/s)での最大速度PGV600と国土数値情報にある各対象となる地点での地盤増幅度ARViとの乗算で求められる値である。
PGV=1.31 PGV600×ARVi ・・・(8)
【0087】
尚、最大速度減衰式は、(9)式で表され、PGV600[cm/s]の算出に必要となる情報は、マグニチュードM、震源の深さD[km]と断層最短距離x[km]のみである。
log(PGV600)=0.58 (M−0.171)+0.0038 D−1.29
−log(x+0.028×100.50(M−0.171))−0.002x ・・・(9)
【0088】
受信装置がその位置情報を取得する処理部を有し、現在受信装置が存在する地点が分かっているとすると、震源の位置情報と受信装置の位置情報によりxを容易に算出することができる。
【0089】
また、ARViは地点に依存する値であるので、予め受信装置に記憶されていることで、位置情報に基づき選択利用することができる。
【0090】
よって、計測震度IINSTRは、受信装置において未知数である震源の位置情報とマグニチュードを送信側から取得することにより、当該受信装置において容易に算出できる。
【0091】
尚、計測震度IINSTRは小数点を含む数値として計算されるので、震度階級における最大予測震度は、その値をもとに次表に示す両者の関係に基づいて判定される。
【0092】
【表1】

【0093】
一方、受信装置のいる地点への地震の発生時刻からの予測到達時刻(到達所要時刻)は、震央距離Δ[km]と震源の深さD[km]をもとに気象庁が示す走時表(例えばJMA2001)を用いて算出することができる。震央距離Δは震源の位置情報(緯度経度)と当該受信装置の位置情報から算出することができる値である。
【0094】
よって、この場合「緊急速報情報」には、上記の計算に必要となる「地震発生時刻」(17ビット)、「震源の緯度」(11ビット)、「震源の経度」(12ビット)、「震源の深さ」(10ビット)、並びに「マグニチュード」(7ビット)が格納される。
【0095】
「地震発生時刻」は、P波の観測後推定され、一般向けの緊急地震速報により放送局向けに伝えられた、地震が発生した時刻である。
【0096】
「地震発生時刻」の時刻は24時間の範囲での表示とし、時の表示は5ビット、分及び秒の表示は6ビットの数値として、例えば、13時25分37秒は「01101|011001|100101」(合計17ビット)と、各々時、分、秒の単位で2進数表示する。尚、「|」は時、分、秒の区別を見やすくするために、ここでの表記のみとして挿入しており、実際の伝送には挿入されない。
【0097】
「震源の緯度」及び「震源の経度」は、震源の地表面上の位置を表し、例えば、北緯36.3度、東経136.5度といったように、1/10度精度で表記した緯度及び経度である。これらを、北緯及び東経を正の値、南緯及び西経を負の値とし、且つ、小数点を除いた10倍の数値で表記する。
【0098】
つまり、「震源の緯度」及び「震源の経度」はそれぞれ363と1365となり、各々11ビットと12ビットを割り当てて「00101101011」と「010101010101」のように2進数で表す。尚、南緯または西経の負の値は、1の補数とし、例えば、南緯36.3度は、「11010010100」と表記する。
【0099】
「震源の深さ」は、震源の地表面からの深さであり、単位を[km]とした数値で表す。例えば、30kmの場合、30であり、10ビットの2進数「0000011110」で表記する。
【0100】
「マグニチュード」は、地震の規模を表すマグニチュードの値であり、小数点以下1桁の数値、例えば、3.5といった値である。これを10倍の数値で表記する。つまり、35であり、7ビットの2進数「0010011」とする。
【0101】
以上の2つの方法に基づく情報の他、「緊急速報情報」には、「ページ番号」(2ビット)などの情報を付加して伝送する。「ページ番号」は、上記2つの手法による「緊急速報情報」を2フレームにわたって伝送し、受信者の利便性を向上する場合に両手法に基づく情報を区別するために用いる。
【0102】
尚、ISDB−T方式の地上デジタルテレビジョン放送波の部分受信セグメント(セグメント番号#0)におけるACキャリア、例えば、モード3の同期変調部の場合、204シンボル、つまり、1フレーム伝送するのに必要な時間は、0.231秒である。上記2つの手法による「緊急速報情報」を2フレームにわたって伝送する場合、1フレーム情報を見るために要する時間が増えるが、警報そのものはいずれのフレームを検知した時点でも出すことが可能である。
【0103】
「緊急速報情報」も同様に、BPSK変調後、Wの値を乗算したものが格納される。
【0104】
「パリティビット」は、誤り訂正に用いるパリティビットである。「差動復調の基準」及び「同期信号」を合わせた17ビットを除く18ビット目から「パリティビット」の直前の122ビット目までの105ビットを対象に、誤り訂正を可能とするパリティビットが82ビット格納される。例えば、ISDB−T方式のTMCC信号と同様に、差集合巡回符号(273、191)の短縮符号(187、105)を用いて誤り訂正符号化する。8ビット程度の誤り訂正が可能となるので、情報の信頼度を高め、より確実な伝送を可能とすることができる。
【0105】
「パリティビット」も、BPSK変調後、Wの値を乗算したものが格納される。
【0106】
「リザーブビット」は、将来の拡張に向けた予備のビットである。通常‘1’を格納しておく。「緊急速報情報」が手法1の情報を全国の都道府県に向けて伝送し、「最大予測震度」、「ページ番号」を送信すると、「リザーブビット」には9ビット残る。手法2では同様に12ビットとなる。
【0107】
ここでは、リザーブビットをまとめて置いたが、必要な情報の単位で付加する構成とする方が運用の途中での変更に対応しやすい場合がある。
【0108】
「リザーブビット」も、BPSK変調後、Wの値を乗算したものが格納される。
【0109】
本実施例において、放送事業者は、例えば気象庁から緊急地震速報を受信した場合、送信装置によって、図2(A)に記載の電文情報のフォーマット例に基づいて、例えば、ISDB−T方式の地上デジタルテレビジョン放送波の部分受信セグメント(セグメント番号#0)におけるACキャリア(モード3の同期変調部)の場合を考えると、8本のACキャリアがあるが、この全てに同じ情報を格納して送信する。その際、受信段でダイバーシティ受信処理が可能なように、1ビット目のWの値に基づき、‘1’においてWの値を有するようにBPSK変調して伝送するようにした。
【0110】
この例では、セグメント番号#0内の全てのACキャリアを使う場合について説明しているが、別の伝送の目的などで使用するACキャリア数が制限される場合には、その最大数(例えば4)とすることもできる。
【0111】
上記の実施例の受信装置においては、より確実に緊急速報を受信するために、その受信感度改善を図ることを目的としている。そのため、ACキャリアをBPSK変調波とし、同期検波による受信を可能とした。また、本実施例の受信装置は、伝搬路推定を行い、さらには8本のACキャリアを受信し、最大比合成によりダイバーシティ受信処理に適した仕組みを提供している。
【0112】
これに対し、図6を参照して、変調を現在のARIB規格と同じDBPSK変調としたままで、同様な同期検波を可能とする事例を以下に説明する。図6(A)は、本発明による別の電文情報のフォーマット例を示し、図6(B)は、この別の電文情報のフォーマット例に基づくフレーム内間欠受信モードにおける受信装置の電源制御の動作事例を示す図である。この場合は、復調後に差動符号化を戻す(差動復号)必要があるため誤りの値は先のBPSK変調波の2倍となるが、所要C/Nでの比較でみれば1dB未満の劣化である。
【0113】
この電文情報フォーマット例(図6(B))のように、前付きの「既知信号」及び「起動フラグ信号」を「同期信号」に続く形で配置すると、DBPSK変調後においても少なくとも「起動フラグ信号」までの位相は、受信段においても既知とすることができる。更に、「起動フラグ信号」と同じ値を後付きの「既知信号」にも割り当てると、最初の「起動フラグ信号」では、DBPSK変調後の位相がそのフラグの値に基づき変化する一方、続く2シンボル目の「起動フラグ信号」は、その位相変化により「起動フラグ信号」の値によらず(「起動フラグ信号」前の)前付きの「既知信号」のシンボルと同じ位相となる。
【0114】
表2及び表3は、前述した電文情報フォーマット例(図2(A))に対応するDBPSK変調波の位相の変化の事例を示している。ここで、「差動復調の基準」はWに基づくもの、「同期信号」はTMCC信号の同期信号と同じものが割り当てられている。よって、Wが0か1により両者の値は位相反転し、奇数番目のフレームと偶数番目のフレームで異なる値となるようにしている。また、前付きの「既知信号」を「同期信号」の最終ビットとしている。
【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【0117】
表2及び表3によると、「起動フラグ信号」が‘1’(即ち、‘11’)のときと、‘0’ (即ち、‘00’)のときとで、2ビット目の「起動フラグ信号」のシンボルをDBPSK変調波での位相の値は、常に前付きの「既知信号」と同じとなる。よって、「起動フラグ信号」を2ビットとし、同じ値とすることにより、2ビット目に後付きの「既知信号」を割り当てているのと同じとなり、「起動フラグ信号」が緊急情報の有無を表す役割と既知信号としての役割とを併用することができるようになる。
【0118】
次に、本発明による実施例1の受信装置について説明する。
【0119】
前述したように、送信側では、緊急速報を含む電文情報(前述した電文情報のフォーマット)として、例えば地上デジタルテレビジョン放送の部分受信セグメント内の8本のACキャリアに、同期信号とともに、緊急速報を識別する起動フラグ信号、既知信号、緊急速報識別信号、各種識別信号、緊急速報情報、及びリザーブビットに誤り訂正符号のパリティビットを伝送する。
【0120】
本発明による実施例1の受信装置は、前述した電文情報のフォーマットを受信する。ここで、受信装置は、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、腕時計、置時計、パーソナルコンピュータ又は家電製品など、あらゆる機器に具備させることができるものである。
【0121】
図3は、実施例1の受信装置のブロック図を示す。実施例1の受信装置は、アンテナ1と、AC受信・同期確立部2と、AC情報解析部3と、同期保持・電源制御部4と、警告発生部5と、電源部6と、AC受信・同期確立部2への電源供給の切り替えを行う第1の電源スイッチ7と、AC情報解析部3への電源供給の切り替えを行う第2の電源スイッチ8とを備える。
【0122】
また、AC受信・同期確立部2はAC受信処理部と同期確立処理部を備え、AC受信処理部は周波数変換部9と、AD変換部10と、FFT処理部11と、AC抽出部12と、伝搬路推定部23と、起動フラグ復調部13とで構成され、同期確立処理部は、フレーム同期検出部14と図示しないシンボル同期部とで構成されている。
【0123】
更に、AC情報解析部3は、AC復調部15と、誤り訂正部16と、AC復号部17と、情報処理部18とを備える。情報処理部18は、位置検出処理部及び現在時刻検出処理部を備える。
【0124】
そして、同期保持・電源制御部4は、フレーム同期保持部19と、タイミング制御部20と、起動フラグ監視部21と、電源制御部22とを備える。
【0125】
以下、図3に示す受信装置の各構成要素の機能を説明する。
【0126】
周波数変換部9は、アンテナ1から入力された地上デジタルテレビジョン放送波の受信信号のうち、所定のフィルタにより不要な周波数成分を除去した後、指定されたチャンネルを選択し、中間周波信号に周波数変換するとともに適宜増幅して出力する。このチャネル選択は、受信装置にて予め定めておくこともできる。
【0127】
AD変換部10は、周波数変換部9から出力される受信信号の中間周波信号をデジタルに変換し、デジタルベースバンド信号を送出する。
【0128】
FFT処理部11は、OFDMシンボルの有効シンボル期間についてFFT(Fast Fourier Transform)演算を行い、受信信号のデジタルベースバンド信号をOFDM形式のストリームに復調する。尚、有効シンボル期間は、図示しないシンボル同期部においてガードインターバル相関などによりシンボル同期を行って規定することができ、予め定めた伝送モードに従ったFFTサンプル周波数でFFT演算を行う。
【0129】
AC抽出部12は、受信信号のOFDM形式のストリームから部分受信セグメント(セグメント番号#0)内の8箇所のACキャリアのみを抽出する。ここで抽出されたACキャリアは、まずフレーム同期検出部14、伝搬路推定部23及び起動フラグ復調部13に供給される。
【0130】
フレーム同期検出部14は、AC抽出部12により抽出された受信信号のACキャリアと、AC信号に「同期信号」として格納されて送信されるものと同じBPSK変調波の、予め定めた、例えばモード3の、パターンとの一致検出を行って、両者が一致したときAC信号の先頭のタイミングでフレーム同期信号(リセットパルス)を発生する。また、フレーム同期信号に基づいて緊急速報のフレーム同期確立の有無を示す緊急速報同期確立情報を生成する。
【0131】
伝搬路推定部23は、AC抽出部で抽出された受信信号の8箇所のACキャリアのストリームから各フレームの第16シンボルと第18シンボル(フレームの先頭シンボルを第0シンボルとする。フレームの先頭から17シンボル目と19シンボル目に対応する)を抜き出し、AC信号に「既知信号」として格納されて送信されるものと同じBPSK変調波(「同期信号」の最終ビットと同じ)との、(1)式と(6)式とに基づく演算により8箇所の各ACキャリアの起動フラグ信号位置における伝搬路特性を算出して出力する。換言すれば、従来SP信号を用いて行っていた伝搬路特性の推定を、起動フラグの前後の既知信号を用いて行う。
【0132】
尚、(1)式の原理に従えば、伝搬路特性は、受信信号の各ACキャリアと既知信号の除算により算出されるが、本実施例はBPSK変調波であるため位相変化のみに着目し、乗算に置き換えることができる。
【0133】
ただし、前述したように、「差動復調の基準」、「同期信号」、前付きの「既知信号」(「同期信号」に含むこともでき、その場合には、この既知信号は同期信号の最終ビットとなる)、「起動フラグ信号」、後付きの「既知信号」(「起動フラグ信号」のコピー)を続けて送信するDBPSK変調波を送信する場合、DBPSK変調波であっても同様な演算に基づく同期検波を行うことができる。
【0134】
起動フラグ復調部13は、AC抽出部12で抽出された受信信号の8箇所のACキャリアのストリームから各フレームの起動フラグ信号(第17シンボル。フレームの18シンボル目)を抜き出し、伝搬路推定部23が出力する伝搬路特性を用いて、(1)式に基づく演算を行い、送信された起動フラグ信号のBPSK変調波を推定して、起動フラグ信号を復調する。
【0135】
尚、(1)式の原理に従えば、送信された信号の復調は、算出された伝搬路特性の推定値により受信信号が除算されて算出されるが、伝搬路特性の位相共役との乗算に置き換え、その後、伝搬路特性の振幅の絶対値を別途算出して除算するものとする。
【0136】
8箇所(8本)のACキャリアに基づくダイバーシティ合成は、受信信号と伝搬路特性の位相共役との積を8本のキャリアについて積算し、同様に別途算出する伝搬路特性の電力値の積との除算を行うことで、最大比合成によるダイバーシティ受信とする。
【0137】
尚、セグメント番号#0内の全てのACキャリアを使う場合で説明しているが、別の伝送の目的などで使用するACキャリア数が制限される場合には、その最大数(例えば4)によりダイバーシティ合成を行う。
【0138】
同期保持・電源制御部4におけるフレーム同期保持部19とタイミング制御部20、起動フラグ監視部21と電源制御部22は、常時、電源6から給電されている。
【0139】
フレーム同期保持部19は、例えばクロック発生器とカウンタで構成され、フレーム同期検出部14が出力するフレーム同期信号に基づき制御される、クロック発生器で発生したクロックをカウンタでカウントし、カウント値が所定値となる毎にフレームパルスを発生すると共にカウント値をフレーム同期信号(リセットパルス)に従ってリセットし、このフレームパルスをタイミング制御部20に供給する。これにより、フレーム同期保持部19は自己保持したフレームパルスを発生することができる。
【0140】
タイミング制御部20は、フレーム同期保持部19からのフレームパルスと、フレーム同期検出部14からの緊急速報同期確立情報から、後述するフレーム間間欠受信モードか、又はフレーム内間欠受信モード、或いはこれらの組み合わせの間欠受信モードを決定し、各間欠受信モードのタイミングでオン/オフ(0又は1の値)の制御信号を送出する。
【0141】
起動フラグ監視部21は、起動フラグ復調部13が出力する起動フラグ信号の値を取得して、その値をサンプル&ホールドするとともに、電源制御部22にその値を出力する。
【0142】
尚、図示していないが、起動フラグ監視部21が起動フラグ信号13を検出するタイミングもフレーム同期保持部14が出力するフレームパルスを基準に制御されている。
【0143】
電源制御部22は、起動フラグ監視部21の出力値が起動フラグ信号の‘0’(緊急速報が無い通常の状態であること)を検出している場合には、AC受信・同期確立部2の電源供給を制御するように第1の電源スイッチ7を制御する。一方で、起動フラグ監視部21が、起動フラグ信号の‘1’(緊急速報が発報された状態であること)を出力した場合には、AC受信・同期確立部2への電源供給を継続して行うように第1の電源スイッチ7の切り替えを行うとともに、AC情報解析部3への電源供給を開始するように第2の電源スイッチ8の切り替えを行う。
【0144】
それとは逆に、電源制御部22は、緊急速報がある旨を示す起動フラグ信号値‘1’から、平常時の‘0’の状態に変更されるのを判別した場合には、タイミング制御部20からの制御信号のタイミングで、起動フラグ信号の値のみを常時監視するように、AC受信・同期確立部2への電源供給を第1の電源スイッチ7によって制御するとともに、AC情報解析部3への電源供給を遮断するように第2の電源スイッチ8の切り替えを行う。
【0145】
これにより、極めて消費電力を節約しながら、緊急速報の情報を確実に、且つ即時に取得できるようにする。
【0146】
AC情報解析部3への電源供給が為された場合には、AC復調部15、誤り訂正部16、並びにAC復号部17が順次起動する。フレーム同期検出部14によって生成されたフレーム同期信号に同期して、まずAC復調部15は、受信信号のOFDM形式のストリームから抽出された部分受信セグメント(セグメント番号#0)内の8箇所全てのACキャリア上のBPSK変調波を同期検波した後、最大比合成によるダイバーシティ合成を実施し、得られた結果から0又は1のレベル判定を行い、AC信号のビットストリームを得る。
【0147】
続いて誤り訂正部16は、受信したAC信号のビットストリームをパリティビットの値に基づき例えば差集合巡回符号方式を用いて誤り訂正する。
【0148】
このとき、誤り訂正部16は、AC信号のビットストリームの誤り訂正の可否を確認し、訂正できない誤りがあった場合には、信号を出力せず、AC復号部17に向けて受信誤りがあった旨の制御信号を出力し、起動フラグ信号の監視を継続する。
【0149】
そして、AC復号部17は、送信側の符号化方式に対応する復号形式で各信号の内容、即ち「起動フラグ信号」、「緊急速報識別信号」、「各種識別信号」並びに「緊急速報情報」の内容を復号する。
【0150】
尚、電源制御部22は、緊急速報の全ての情報のみを取得するように、フレーム内間欠受信動作又はフレーム間間欠受信動作で、AC情報解析部3に電源供給するように制御することもできる。特に、フレーム間間欠受信動作で動作する場合に、起動フラグ復調部13及びAC復調部15にて、複数のフレーム間で多数決判定した結果を送出するように動作させることもできる。
【0151】
本発明に係る受信装置においては、AC情報の誤りを検出又は訂正し、復号する様々な態様が考えられることに留意する。
【0152】
情報処理部18は、AC復号部17が出力する各信号の内容を受信し、「起動フラグ信号」が確かに「緊急速報」のあることを示すのを確認するとともに、「緊急速報識別信号」により緊急速報が緊急地震速報であるのか緊急警報放送であるのかを分類する。
【0153】
「起動フラグ信号」が‘1’である(緊急速報がある)ことを確認できなかった場合には、以後の処理を保留し、起動フラグの監視を継続する。
【0154】
続いて情報処理部18は、緊急速報が緊急警報放送である場合には、地上デジタルテレビジョン放送の全受信装置が機能するように、ワンセグ受信装置は部分受信セグメント内の全信号、固定向けの受信装置は全セグメントの信号を受信する動作を開始させる制御信号を出力する。一方、情報処理部18は、緊急速報が緊急地震速報である場合には、AC復号部17により復号される全情報を読み出し、読み出した情報に基づき、警告発生部5に必要な警告を発するための制御信号を出力する。
【0155】
情報処理部18は、復号した「緊急速報情報」から、例えば、「震度4以上の強震地域」を読み出し、位置検出処理部によって検出した位置情報と当該「震度4以上の強震地域」が一致する場合、警告発生部5に向けてその旨の制御信号を出力する。
【0156】
情報処理部18は、復号した「緊急速報情報」から、例えば、「地震発生時刻」、「震源の緯度」、「震源の経度」、「震源の深さ」、並びに「マグニチュード」を読み出し、位置検出処理部によって検出した位置情報を参照して、(7)式に基づく演算を実施して計測震度の予測値を算出する。また、位置検出処理部によって検出した位置情報と、現在時刻検出処理部によって検出した現在時刻情報とを参照して、例えばJMA2001などの走時表を用いて主要動の予測到達時間を算出する。
【0157】
位置検出処理部は、当該受信装置の地域的な位置を表す位置情報を検出する。好適に、位置検出処理部は、電文情報に記載の「各種識別信号」内の放送事業者識別により県域或いは広域の地域を把握する。より詳細には、固定受信においては設置時の受信装置による入力或いはGPS(Global Positioning System)による位置検出、移動又は携帯受信においては、GPSによる位置検出或いは携帯電話の場合基地局情報、無線LANの場合ホットスポット情報(場所を認識可能な場合、場所の手入力も含む)などにより自身の位置を検出することができる。
【0158】
現在時刻検出処理部は、当該受信装置の現在時刻を表す現在時刻情報を検出する。好適に、現在時刻検出処理部は、受信装置の入力による時刻設定、標準電波(電波時計、JJY)、GPS、或いは受信している地上デジタル放送波の受信信号に含まれるTDT(Time Date Table)などから現在時刻情報を検出することができる。或いは、現在時刻検出処理部は、受信装置が携帯電話に具備される場合、基地局からの信号により現在の時刻を検出することができる。
【0159】
警告発生部5は、当該受信装置が備える表示器に文字で表示するか、当該受信装置が備えるスピーカーから音で発生させるか、当該受信装置が備えるバイブレータによる振動警告を発するか、又は通常動作時とは異なる動作で知覚的に警告を発生する。或いは又、当該受信装置が携帯電話、携帯情報端末(PDA)、腕時計、置時計、パーソナルコンピュータ等の何らかの機器に具備される場合には、これらの機器の機能を用いて、スピーカーから音で発生させるか、バイブレータによる振動警告を発するか、又は通常動作時とは異なる動作で知覚的に警告を発生するようにすることもできる。
【0160】
ここで、フレーム間間欠受信モードとフレーム内間欠受信モードについて説明する。
【0161】
本発明によるAC信号と受信装置では、フレーム内間欠受信モードとフレーム間間欠受信モードとを好適に用いることができる。受信信号の信頼性を高める場合はフレーム間間欠受信モードがより好適に機能し、AC信号の同期確立の信頼性を高める場合にはフレーム内間欠受信モードがより好適に機能する。また、フレーム間間欠受信モードとフレーム内間欠受信モードを併用することも可能である。これらの間欠受信モードを利用することにより、本発明の受信装置は消費電力を大幅に低減することができる。
【0162】
フレーム間間欠受信モードは、例えば、AC信号の同期が未確立を示す緊急速報同期確立情報を供給されている場合に決定される。この場合、第1の電源スイッチ7又は第2の電源スイッチ8のオン継続時間は、最低1フレーム以上とする。例えば、1フレームのみを用いる場合には、受信装置の消費電力を大幅に低減することができる。更に、例えば2フレームを用いる場合には、偶数パリティを利用して、受信信号の信頼性を高めることができる。或いは又、例えば3フレームを用いる場合には、多数決判定して、受信信号の信頼性を高めることができる。
【0163】
尚、地上デジタルテレビジョン放送の送信モードがモード3でガードインターバル比(GI比)1/8の場合、1フレームは231.336msecである。また、フレーム間間欠受信モードではAC受信・同期確立部2の電源投入タイミングの制約はなく、例えばオン/オフ間隔は所定値(例えば10秒間隔)とする。
【0164】
このように、AC信号の同期未確立時のAC受信・同期確立部2への電源供給時間を1フレーム以上とすることで、AC信号の取りこぼしを防止することができ、更には、AC情報解析部3における受信信号の信頼性を高めることができる。また、オン/オフ間隔を長くすることで待機消費電力を低減することができる。
【0165】
また、フレーム内間欠受信モードは、例えば、AC信号の同期が確立していることを示す緊急速報同期確立情報を供給されている場合に決定される。この場合、第1の電源スイッチ7又は第2の電源スイッチ8のオン継続時間は、図2(A)の電文情報フォーマットと合わせて示すように、例えば21.546msec=(19/204)フレームとし、AC信号の前のフレームの最後のシンボルから電源を投入し、所要のビット、例えば既知信号の受信が終了した時点で電源を遮断する。あるいは、フレーム同期保持部19がある程度高い精度を保てる状態であるならば、「同期信号」の一致を検出する周期を伸ばして、その他のフレームでは電源供給をする時間を「同期信号」の最後のビット、「起動フラグ信号」及びそれに続く「既知信号」のビットの3.402msec=(3/204)フレームとすることができる。
【0166】
このように、AC信号の同期確立時のAC受信・同期確立部2への電源供給時間を19シンボルあるいは3シンボルとすることで、待機消費電力を低減することができる。
【0167】
尚、図3には記載しないAGC(Auto Gain Control)などの立ち上がり動作を考慮する必要のある場合には、該当する時間分早く電源を投入する。また、FFT処理部11及び起動フラグ復調部13の動作において、一定シンボル分メモリ等に保持する必要がある場合、周波数変換部9やAD変換部10とそれ以降の処理部との間で電源投入、電源遮断のタイミングをずらすことにより、消費電力の大きい前段の処理部の動作を節約することができる。
【0168】
ここで、起動フラグ信号監視の待機消費電力を低減するフレーム内間欠受信モードの省電力アルゴリズムについてより詳細に説明する。
【0169】
図4は、本発明の実施例1の受信装置における起動フラグ信号監視のフレーム内間欠受信モードの省電力アルゴリズム事例である。
【0170】
本発明の実施例1の受信装置は、電源の投入後、受信する地上デジタルテレビジョン放送波の周波数を設定する(S1)。これに伴い、周波数変換部9の局部発振周波数が変更され、所要の中間周波信号がAD変換部10に入力される。
【0171】
そして、FFT処理部11並びにAC抽出部12を経て、AC信号に多重された同期信号との一致検出により、フレーム同期が確立する(S2)。
【0172】
その後、起動フラグ信号を監視するステップ(S3)になり、指定するNfフレーム(Nfは整数)ごとに同期信号を含んで検出する電源のオン/オフと、その間の起動フラグ信号と既知信号のみを検出する電源のオン/オフとを繰り返して以下動作する(図2(B)を参照)。
【0173】
起動フラグ監視部21は起動フラグ信号が示す緊急速報の有無を毎フレームにおいて監視し(S4)、通常の状態(緊急速報が出ていない状態が継続)の場合には、フレーム毎に図3に図示しないフレームカウンタがフレームの値を計数(n++、整数nの値を1ずつ加算)し、Nfに達する度に、n=0に戻す一方、電源制御部22は同期信号を再検出するようにAC受信・同期確立部2への電源供給の切り替えを行う第1の電源スイッチ7をオン/オフする(S5)。
【0174】
起動フラグ監視部21は起動フラグ信号の値が緊急速報であることを検知すると、電源制御部22は第1の電源スイッチを常時オンとする一方、AC情報解析部3への電源供給の切り替えを行う第2の電源スイッチ8もオンとし、電文情報を全文読み出し、パリティビットに基づき誤り訂正を行う(S6)。
【0175】
その結果、読み出された起動フラグ信号の値が再度緊急速報を示すと(S7)、緊急速報が緊急地震速報(EEW)であるか緊急警報放送(EWS)であるかを識別し(S8)、緊急警報放送の場合には、前述するように、地上デジタルテレビジョン放送の全受信装置が機能するように、情報処理部18は、図示しない別の制御部を経て、ワンセグ受信装置は部分受信セグメント内の全信号、固定向けの受信装置は全セグメントの信号を受信する動作を開始させる(S9)。
【0176】
一方、緊急地震速報の場合には、情報処理部18は、警告発生部5に当該情報を速やかに表示させる(S10)。
【0177】
読み出された起動フラグ信号の値が緊急速報のあることを再現しなかった場合には(S7)、フレーム内間欠受信モードによる起動フラグ信号の監視状態に復帰する(S13)。尚、ユーザによって視聴継続するか否かを監視し(S11)、視聴が完全にオフされる場合には、起動フラグ信号の一連の監視動作を終了し、視聴が完全にオフされない場合には、起動フラグ信号の一連の監視動作を継続又は再開する(S12)。
【0178】
図2(B)は、上述の省電力アルゴリズムを実施した場合の電源動作例である。上述のアルゴリズムでは、毎フレームで起動フラグを監視する一方で、同期信号はNfフレームごとにしか監視しない。従って同期信号の監視にかかわる消費電力を大幅に節約できていることが解る。さらに、同期信号と起動フラグ信号を隣接配置していることにより、電源の立ち上がりのロスも少なく押さえられる。
【0179】
このように、本発明によれば、受信装置の消費電力を節約しながら起動フラグ信号を監視でき、且つ、より高感度で受信可能であり、緊急速報が出て、放送局が電波に載せる時間並びに送信と受信のタイミングのずれを考慮しても、1〜2秒程度の短時間での速やかな緊急速報の伝送が可能となる。
【0180】
尚、参考として、ACキャリアの同期検波を、通常のデータ部分の復調と同様な形態を用いて行う場合の事例を、図5に示した。
【0181】
図3と異なる部分は、FFT処理部11の後段に各シンボルにて3キャリアずつずらしてシンボル毎12キャリア間隔で多重されたSP信号を抽出するSP抽出部25が設けられている点、伝搬路推定部23がこのSP抽出部25に続いている点、及びSP信号を用いて伝搬路を推定する際に内挿補間する内挿補間フィルタ処理部24とを備えている点である。
【0182】
本発明を用いない通常の伝送では、例え起動フラグ信号のみを受信する場合においても、ACキャリアをBPSK変調波として同期検波するためには、各シンボルにて3キャリアずつずらしてシンボル毎12キャリア間隔で多重されたSP信号を用いて伝搬路を推定する必要がある。正確な伝搬路推定のためには4シンボルが必要とされ、加えて、ACキャリア位置には推定値がないため、内挿補間が必要とされる。
【0183】
本発明では、低消費電力動作を必要とする起動フラグ信号の監視においては、ACキャリアにのみ限定して動作できるようにすることで、処理部を簡略化できる点に特徴がある。
【0184】
尚、以上の説明においては、ACキャリアを用いて行う、緊急速報の情報を含めた伝送事例を紹介したが、警報のみを主眼においてTMCC信号のリザーブビットなどに適用することも可能である。
【0185】
上述の実施例については特定の符号化方式を代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変形及び置換をすることができることは当業者に明らかである。例えば、上述した実施例では、本発明の理解を容易にするために、本発明に係る受信装置を、例えば携帯電話に具備させることが可能であるとして説明したが、当該携帯電話が予め有する復調及び復号機能に本発明に係る受信装置の機能を統合させることもできる。例えば、当該携帯電話が待機モードである場合には、上述の実施例と同様に動作させることができ、或いは又、当該携帯電話が通常動作モードである場合には、電文情報におけるフラグの値の判定に応じて、電源供給制御を行うことなく、緊急速報を復号し、当該携帯電話の位置する地域の震度及び到達時間の予測情報を計算し、警告を発するようにしてもよい。従って、本発明は、上述の実施例によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明による受信装置及び送信装置は、迅速、且つ、確実な緊急地震速報の伝達を可能とするので、所定の伝送制御信号を用いる伝送方式の用途に有用である。
【符号の説明】
【0187】
1 アンテナ
2 AC受信・同期確立部
3 AC情報解析部
4 同期保持・電源制御部
5 警報発生部
6 電源
7 第1のスイッチ
8 第2のスイッチ
9 周波数変換部
10 AD変換部
11 FFT処理部
12 AC抽出部
13 起動フラグ復調部
14 フレーム同期検出部
15 AC復調部
16 誤り訂正部
17 AC復号部
18 情報処理部
19 フレーム同期保持部
20 タイミング制御部
21 起動フラグ監視部
22 電源制御部
23 伝搬路推定部
24 内挿補間フィルタ処理部
25 SP抽出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上デジタルテレビジョン放送波から伝送制御信号を受信する受信装置であって、
緊急速報の有無を識別するための起動フラグ信号と、前記起動フラグ信号の隣接する前後のシンボルに位置する振幅と位相の情報が予め定められた既知信号とを含む電文情報が送信側から前記伝送制御信号にて伝送されるように予め規定されており、
前記伝送制御信号のキャリアを受信するキャリア受信手段と、
前記伝送制御信号のフレームを検出して前記伝送制御信号のフレーム同期を行うフレーム同期手段と、
前記フレーム同期手段によって取得されたタイミングに従い、前記既知信号を検出し、送信側から前記起動フラグ信号を受信するまでの伝搬路特性を推定する伝搬路推定手段と、
前記伝搬路特性に基づいて前記起動フラグ信号の復調を行う起動フラグ復調手段と、
前記起動フラグ復調手段によって復調された前記起動フラグ信号の値を監視して、緊急速報の有無を判別する起動フラグ監視手段と、
を備えることを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記電文情報は、前記起動フラグ信号及び前記既知信号とともに、前記伝送制御信号のフレーム長を認識してフレーム同期を行うための同期信号を格納しており、
前記フレーム同期手段は、前記伝送制御信号に含まれる前記同期信号に基づいて前記伝送制御信号のフレーム同期を行うことを特徴とする、請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記起動フラグ信号は、前記同期信号の直後に隣接して前記電文情報に格納されており、且つ前記既知信号のうち前記起動フラグ信号の前のシンボルに位置する既知信号は、前記同期信号の最終ビットからなり、
前記伝搬路推定手段は、該同期信号の最終ビットの値と前記既知信号のうち前記起動フラグ信号の後のシンボルに位置する既知信号とから、前記起動フラグ信号を受信するまでの伝搬路特性を推定することを特徴とする、請求項2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記起動フラグ信号は、緊急速報の有無を識別する値を冗長させるために連続したビット値の2ビットからなり、且つ2ビットの該起動フラグ信号は、送信側からDBPSK変調された前記伝送制御信号にて伝送されており、
前記伝搬路推定手段は、前記2ビットの該起動フラグ信号のうちの2ビット目を前記既知信号のうち前記起動フラグ信号の後のシンボルに位置する既知信号として検出することを特徴とする、請求項3に記載の受信装置。
【請求項5】
前記起動フラグ監視手段が取得する前記起動フラグ信号の値が緊急速報を含まない旨を示した場合に、前記キャリア受信手段と前記フレーム同期手段と前記伝搬路推定手段と前記起動フラグ復調手段に対して間欠受信用電源制御を行う電源制御手段を備えることを特徴とする、請求項2ないし請求項4のいずれか一項に記載の受信装置。
【請求項6】
前記電源制御手段は、前記同期信号の受信タイミングと前記起動フラグ信号及び既知信号の連続した3シンボルの受信タイミングとに合わせて電源を供給することを特徴とする、請求項5に記載の受信装置。
【請求項7】
前記電源制御手段は、前記同期信号の受信タイミングに対しては複数フレームごとに一回の周期で電源を供給し、且つ、前記起動フラグ信号及び既知信号の連続した3シンボルの受信タイミングに対してはフレームごとの周期で電源を供給することを特徴とする、請求項5に記載の受信装置。
【請求項8】
前記伝送路推定手段は、前後に配置された前記既知信号の伝送路特性から内挿補間によって伝送路特性を推定することを特徴とする、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の受信装置。
【請求項9】
前記起動フラグ復調手段は、前記伝送路推定手段によって推定された伝送路特性を用いて、前記起動フラグ信号を同期検波することを特徴とする、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の受信装置。
【請求項10】
前記キャリアに含まれる電文情報を解析する電文情報解析部を更に備え、前記電源制御手段は、前記起動フラグ監視手段が取得する前記起動フラグ信号の値が緊急速報である旨を表す値を示した場合に、前記電文情報解析部への電源供給を行うことを特徴とする、請求項5ないし請求項9のいずれか一項に記載の受信装置。
【請求項11】
前記電文情報解析部は、電文情報用の復調部と誤り訂正処理部を有し、前記電文情報は、予め定めた差集合巡回符号方式のパリティビットを含んで伝送されるように予め規定されており、前記起動フラグ信号の値が緊急速報である旨を表す値を取得した場合に、前記復調部は電文情報を復調し、前記誤り訂正処理部は前記電文情報を該差集合巡回符号方式に基づいて誤り訂正を行うことを特徴とする、請求項10に記載の受信装置。
【請求項12】
前記誤り訂正処理部の出力に対して、前記起動フラグ信号の値が緊急速報である旨を表すか否かを再度確認し、確認できなかった場合には前記電源制御手段は再び間欠受信用電源制御を行うことを特徴とする、請求項11に記載の受信装置。
【請求項13】
前記キャリアは、地上デジタルテレビジョンのISDB−T方式における4本のTMCCキャリアであり、前記起動フラグ監視手段は、ダイバーシティ利得を得るために該4本のTMCCキャリアから受信した前記起動フラグ信号を最大比合成して監視することを特徴とする、請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載の受信装置。
【請求項14】
前記キャリアは、地上デジタルテレビジョンのISDB−T方式における8本のACキャリアであり、前記起動フラグ監視手段は、ダイバーシティ利得を得るために該8本のACキャリアから受信した前記起動フラグ信号を最大比合成して監視することを特徴とする、請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載の受信装置。
【請求項15】
請求項1又は請求項5ないし請求項14のいずれか一項に記載の受信装置に、
緊急速報の有無を識別するための起動フラグ信号と該起動フラグ信号に隣接した前後のシンボルに位置する前記既知信号とを含む前記伝送制御信号を送信する送信装置。
【請求項16】
請求項2ないし請求項14のいずれか一項に記載の受信装置に、
フレーム同期を行うための同期信号と緊急速報の有無を識別するための起動フラグ信号と該起動フラグ信号に隣接した前後のシンボルに位置する前記既知信号とを含む前記伝送制御信号を送信することを特徴とする送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−136316(P2010−136316A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58295(P2009−58295)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【Fターム(参考)】