説明

基板収納容器

【課題】吸湿性や水分透過性を低減し、基板の有機汚染を抑制することのできる安価な基板収納容器を提供する。
【解決手段】複数枚の半導体ウェーハを整列収納するフロントオープンボックスタイプの容器本体1と、この容器本体1の開口した正面6にシール用のガスケットを介し着脱自在に嵌合される蓋体20とを備え、これら容器本体1と蓋体20とを、吸水率が0.1%以下、80℃で24時間加熱してダイナミックヘッドスペース法により測定した総アウトガス量が15ppm以下の合成樹脂を含有する成形材料でそれぞれ射出成形する。成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハやマスクガラス等からなる基板を収納、保管、搬送、輸送等する際に使用される基板収納容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の基板収納容器は、図示しないが、複数枚の半導体ウェーハを整列収納するフロントオープンボックスの容器本体と、この容器本体の開口した正面にシール用のガスケットを介し着脱自在に嵌合される蓋体とを備え、半導体加工装置等に搭載される。容器本体と蓋体とは、合成樹脂を含有する所定の成形材料によりそれぞれ射出成形されている。
【0003】
このような基板収納容器は、蓋体が蓋体開閉装置に取り外された後に容器本体から半導体ウェーハが専用のロボットにより取り出されたり、あるいは半導体ウェーハを収納した容器本体の開口した正面が蓋体により密閉された後、容器本体内の空気が不活性ガス等に置換される。
【0004】
ところで近年、半導体部品の微細化や配線の狭ピッチ化が進んでいるが、この動向を踏まえ、基板収納容器には、半導体ウェーハの汚染防止の観点から高い密閉性と取り扱いの自動化とが求められて来ている。また、容器本体や蓋体からアウトガスや溶出イオンが生じて悪影響を及ぼすのを可能な限り抑制するため、適切な成形材料が選択されたり、容器本体と蓋体とがガスパージ洗浄されている。
【0005】
上記に鑑み、容器本体の適切な成形材料として、添加物が低減された高純度のポリカーボネートが使用され、容器本体を構成する構成部品の成形材料として、ポリブチレンテレフタレートやポリエーテルエーテルケトンが用いられている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−211686号公報
【特許文献2】特開2004−146676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来における基板収納容器は、以上のように構成され、容器本体が高純度のポリカーボネートにより成形されているが、半導体チップの最小加工の線幅が45nm以下にされる場合には、半導体ウェーハの銅配線工程やアルミ蒸着工程において、ポリカーボネートの吸湿性に起因する銅配線の腐食が生じたり、有機物の加水分解により半導体ウェーハに塩基性の有機物が形成されてしまい、製品歩留まりが低下してしまうおそれがある。
【0008】
係る問題を解消する手段としては、基板収納容器の空気を不活性ガスやドライエアに置換する方法があげられるが、この方法の場合には、ポリカーボネートの吸水率が0.25%と大きいので、気体の置換に基づく低湿度状態を維持する時間が数十分程度と実に短く、効果の持続が期待できない。この点に鑑み、基板収納容器の保管エリアにおいて、基板収納容器に不活性ガスやドライエアを常時供給する方法が検討されているが、この方法の場合、高価な不活性ガスやドライエアを大量に使用するので、コスト高を招くという問題がある。
【0009】
さらに、基板収納容器の容器本体には、熱処理して冷却された半導体ウェーハが収納されることがあるが、この際、容器本体の半導体ウェーハと接触する接触部が変形したり、基板収納容器にこもった熱で容器本体の耐熱性の低い領域が変形し、容器本体の正面のシール性が低下するおそれがある。この結果、基板収納容器の空気を不活性ガスやドライエアに置換しても、効果を期待できない事態が予想される。
【0010】
本発明は上記に鑑みなされたもので、吸湿性や水分透過性を低減し、基板の有機汚染を抑制することのできる安価な基板収納容器を提供することを目的としている。また、気体置換の効果を長期に亘り維持することのできる基板収納容器の提供を他の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては上記課題を解決するため、基板を収納する容器本体と、この容器本体の開口部にガスケットを介して着脱自在に嵌め合わされる蓋体とを備え、これら容器本体と蓋体とを、吸水率が0.1%以下、80℃で24時間加熱してダイナミックヘッドスペース法により測定した総アウトガス量が15ppm以下の合成樹脂含有の成形材料でそれぞれ成形したものであって、
成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂としたことを特徴としている。
【0012】
なお、開口部に蓋体が嵌め合わされた容器本体内の気体を置換してその相対湿度を5%以下とする場合に、この相対湿度が5%以下の状態を2時間以上保持可能とすることが好ましい。
また、成形材料の合成樹脂の荷重撓み温度を120℃以上とすることが好ましい。
【0013】
また、容器本体内に基板支持用の支持体を備え、この支持体を、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とすることが好ましい。
【0014】
また、容器本体の底部にボトムプレートを取り付け、このボトムプレートを、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、若しくはポリフェニレンサルファイドから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とすることができる。
【0015】
また、容器本体に気体置換用の開閉バルブを取り付け、この開閉バルブの一部を、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、若しくはポリフェニレンサルファイドから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とすることができる。
【0016】
さらに、蓋体に基板支持用のリテーナを取り付け、このリテーナを、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂としても良い。
【0017】
ここで、特許請求の範囲における基板には、少なくとも各種大きさ(例えば、φ200、300、450mm等)の半導体ウェーハ、液晶基板、マスクガラス等が含まれる。この基板は、単数でも良いし、複数でも良い。また、容器本体は、フロントオープンボックスタイプ、トップオープンボックスタイプ、ボトムオープンボックスタイプのいずれでも良い。成形材料には、合成樹脂の他、剛性、導電性、難燃性等を向上させる各種のフィラーが適宜添加される。
【0018】
本発明に係る基板収納容器は、基板にパーティクルや有機物が付着するのを防止する観点から、合成樹脂材料のペレットが80℃で60分加熱された場合に発生するトータルアウトガス量をダイナミックヘッドスペース法により測定した場合に、トータルアウトガス量が15ppm以下、好ましくは10ppm以下が良い。さらに、本発明に係る基板収納容器のシール性については、密封チャンバに基板収納容器をセットしてこれらを−30kPa、−0.3kPaにそれぞれ減圧して放置する際、減圧状態を2時間以上保持可能な性能が良い。
【0019】
本発明によれば、基板収納容器の成形材料の合成樹脂を吸水率が0.1%以下、80℃で24時間加熱してダイナミックヘッドスペース法により測定した総アウトガス量が15ppm以下のシクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とするので、基板収納容器内の湿度を低くすることができる。
したがって、容器本体に収納された基板の汚染を抑制し、基板の回路パターン等の腐食を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、吸湿性や水分透過性を低減し、基板の有機汚染を抑制できる基板収納容器を安価に提供することができるという効果がある。
また、成形材料の合成樹脂の荷重撓み温度を120℃以上とすれば、容器本体のシール性の低下を抑制することができるので、基板収納容器の気体置換の効果を長期に亘り維持することができる。
【0021】
また、基板支持用の支持体を、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とすれば、支持体に基板を安全に支持させることができるので、基板の位置ずれを防いだり、基板に悪影響を及ぼす塵埃の発生を防止することができる。また、基板収納容器内の相対湿度を5%以下に低くした状態を1時間以上維持することができる。
【0022】
また、気体置換用の開閉バルブの一部を、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、若しくはポリフェニレンサルファイドから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とすれば、基板収納容器内の相対湿度を5%以下に低くした状態を1時間以上維持することが可能になる。
【0023】
さらに、基板支持用のリテーナを、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とすれば、基板収納容器内の相対湿度を5%以下の低い値で1時間以上保つことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る基板収納容器の実施形態を模式的に示す斜視説明図である。
【図2】本発明に係る基板収納容器の実施形態を模式的に示す底面側から見た斜視説明図である。
【図3】本発明に係る基板収納容器の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図4】本発明に係る基板収納容器の実施形態における蓋体を模式的に示す平面説明図である。
【図5】本発明に係る基板収納容器の実施形態における蓋体を模式的に示す側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における基板収納容器は、図1ないし図5に示すように、複数枚の半導体ウェーハWを整列収納可能な容器本体1と、この容器本体1の開口した正面6にシール用のガスケットを介し嵌合される蓋体20とを備え、これら容器本体1と蓋体20とを、吸水率が0.1%以下で総アウトガス量が15ppm以下の合成樹脂を含有する成形材料でそれぞれ射出成形しており、開口した正面6に蓋体20が嵌合された容器本体1内を窒素ガス等の不活性ガスに置換してその相対湿度を5%以下とする際、相対湿度5%以下の状態を2時間以上保持可能とするようにしている。
【0026】
半導体ウェーハWは、例えば薄くスライスされたφ300mmの丸いシリコンウェーハからなり、表面に回路パターンが形成される。この半導体ウェーハWは、半導体パッケージの薄型化に資するため、裏面がバックグラインドされる。
【0027】
容器本体1は、図1ないし図3に示すように、半導体ウェーハWよりも大きい底板2と、この底板2に半導体ウェーハWの収納空間をおいて上方から対向する天板3と、これら底板2と天板3の後部間を上下に連結する背面壁4と、底板2と天板3の左右両側部間を上下に連結する左右一対の側壁5とを備えたフロントオープンボックスタイプに成形され、開口した横長の正面6を水平横方向に向けた状態で半導体加工装置上に位置決めして搭載される。
【0028】
容器本体1の内部両側、換言すれば、両側壁5の内面には、半導体ウェーハWを水平に支持する支持体である左右一対の支持片7がそれぞれ対設され、この一対の支持片7が上下方向に所定のピッチで複数配列される。容器本体1の底板2の前後部には、半導体加工装置の位置決めピンに対する位置決め用の位置決め具8がそれぞれ装着され、底板2の四隅部付近には丸い貫通孔がそれぞれ穿孔されており、各貫通孔には、内部の空気を不活性ガス等に置換する開閉バルブ9がOリングを介し着脱自在に嵌着される。
【0029】
開閉バルブ9は、底板2の貫通孔に嵌着される円筒形のバルブ本体を備え、このバルブ本体の内部には、流路を開閉する弁体がコイルバネ等の弾性部材を介して上下動可能に挿入支持されており、バルブ本体の開口した上面あるいは下面には、気体をろ過するフィルタが覆着される。このような開閉バルブ9は、底板2後部の貫通孔に給気用フィルタとして嵌着されるとともに、底板2前部の貫通孔に排気用フィルタとして嵌着され、気体置換装置等に接続されて容器本体1内の空気を窒素ガスに置換し、半導体ウェーハWの表面酸化等を防止するよう機能する。
【0030】
容器本体1の底板2には、底板2を被覆して複数の位置決め具8と開閉バルブ9とをそれぞれ露出させるボトムプレート10が締結ビスを介し選択的に螺着される。このボトムプレート10は、底板2よりも一回り小さい類似の形に形成され、周縁部が起立して補強されており、左右両側部に搬送用のコンベヤレールがそれぞれ選択的に形成される。
【0031】
容器本体1の天板3中央部付近には、把持して自動搬送するためのロボティックフランジ11が着脱自在に装着される。また、容器本体1の正面6は、周縁に外方向に張り出すリムフランジ12が膨出形成され、このリムフランジ12内に着脱自在の蓋体20が蓋体開閉装置により嵌合される。また、容器本体1の背面壁4中央部には透明の覗き窓が選択的に形成され、この覗き窓により、容器本体1の内部が外部から視覚的に観察・把握される。
【0032】
蓋体20は、図1、図4、図5に示すように、容器本体1の開口した正面6に着脱自在に嵌合する正面視横長の筐体21と、この筐体21の開口した正面6を被覆する表面プレート22と、これら筐体21と表面プレート22との間に介在する施錠機構23とを備えて構成される。
【0033】
筐体21は、基本的には枠形の周壁を備えた浅底の断面略皿形に形成され、中央部が裏面側から表面側に向け正面略箱形に突出形成されており、この中央部と周壁の左右両側部との間に複数の螺子ボスと共に施錠機構23用の設置空間がそれぞれ区画形成される。この筐体21の周壁の上下両側部には、施錠機構23用の貫通孔24がそれぞれ穿孔され、各貫通孔24がリムフランジ12の内周面に穿孔された係止穴に対向する。
【0034】
筐体21の裏面には、半導体ウェーハWを弾発的に保持するフロントリテーナ25が着脱自在に装着される。このフロントリテーナ25は、筐体21の裏面両側部にそれぞれ着脱自在に装着される縦長の枠体を備え、各枠体の縦桟部には、筐体21の裏面中央部方向に傾斜しながら伸びる複数の弾性片26が上下に並べて一体形成されており、各弾性片26の先端部には、半導体ウェーハWの周縁部前方をV溝により保持する小さな保持ブロック27が一体形成される。
【0035】
筐体21の裏面周縁部には枠形の嵌合溝が形成され、この嵌合溝には、弾性変形可能なリップタイプのガスケットが密嵌されており、このガスケットが容器本体1のリムフランジ12内に圧接する。このガスケットは、容器本体1のリムフランジ12内に密接する枠形の基材と、この基材から伸びてリムフランジ12に圧接するエンドレスのシール片と、基材に突出形成されて嵌合溝内に圧接する基材用の位置決め嵌合突起とを備え、所定の成形材料により成形される。
【0036】
ガスケットのシール片は、基材から斜めに伸びてリムフランジ12の内周面に適度に撓みながら屈曲圧接し、基板収納容器の外部から内部に気体が侵入するのを防止して半導体ウェーハWの汚染を防ぐとともに、基板収納容器の内部を不活性ガスで置換した場合の酸素濃度や相対湿度を長期に亘って維持するよう機能する。ガスケットの成形材料としては、例えばJIS K7202により測定するスプリング硬さ(JIS A硬度)が80Hs以下のポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系等の熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム、IRゴム等があげられる。
【0037】
表面プレート22は、筐体21の開口した表面に対応するよう横長の平板に形成され、左右両側部には、施錠機構23用の操作口28と共に複数の取付孔がそれぞれ穿孔されており、この複数の取付孔を貫通した締結ビスが筐体21の螺子ボスに螺挿されることにより、筐体21の表面に位置決め固定される。
【0038】
施錠機構23は、表面プレート22の操作口28を貫通した蓋体開閉装置の操作ピンに回転操作される左右一対の回転プレートと、各回転プレートの回転に伴い上下方向にスライドする複数のスライドプレートと、各スライドプレートのスライドに伴い筐体21から突出してリムフランジ12の係止穴に係止する複数の係止爪29とを備えて構成され、フロントリテーナ25の前方に位置する。
【0039】
さて、基板収納容器の容器本体1と蓋体20とを成形する成形材料の合成樹脂は、吸水率が0.1%以下、荷重撓み温度が120℃以上、かつ80℃で24時間加熱してダイナミックヘッドスペース法により測定した総アウトガス量が15ppm以下のタイプが選択される。具体的には、シクロオレフィンポリマー(COP)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、若しくはポリエチレンテレフタレート(PET)から選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂が選択される。
【0040】
合成樹脂の吸水率が0.1%以下なのは、吸水率が0.1%以下の場合には、基板収納容器内の相対湿度を5%以下に低くした状態を1時間以上維持することができるからであり、逆に吸水率が0.1%を超える場合には、基板収納容器内の相対湿度を5%以下に低くしたとしても、基板収納容器の表面から水分が放出されるので、長時間に亘り相対湿度を5%以下に抑えることができないからである。
【0041】
係る吸水率の観点からすると、容器本体1と蓋体20の合成樹脂は、吸水率を0.02%以下にできるシクロオレフィンポリマーや液晶ポリマーが最適である。これらを選択すれば、開口した正面6に蓋体20が嵌合された容器本体1内の空気を窒素ガス等に置換してその相対湿度を5%以下とする際、相対湿度5%以下の状態を2時間以上保つことが可能となる。
【0042】
なお、液晶ポリマーを使用する場合には、異方性の問題が生じるので、対策として、導電カーボン繊維等のフィラーを10〜40wt%添加することが好ましい。また、一般的に液晶ポリマーは、サーモトロピック型とリオトロピック型の二種類に分類されるが、ここでは成形材料として使用されているサーモトロピック型のことであり、溶融状態で分子の直鎖が高度に配向して規則正しく並んだ液晶様性質を示す合成樹脂と定義される。こうした液晶ポリマーは、成形性が良好なので、基板収納容器の肉厚を4mm未満、好ましくは2〜3mmに抑制することができ、このような抑制により、基板収納容器の重量を10%以上軽量にすることができる。
【0043】
また、液晶ポリマーは、成形時に十分配向して強度の高い表面層と、配向が不十分で強度が低く、スキン層に包まれたコア層との2層構造となる。このため、薄肉にするほど、スキン層の比率が増し、単位面積当たりの強度が大きくなり、例え基板収納容器を薄肉にしても、かえって強度を向上させることができる。さらに、液晶化の温度が250℃以上のタイプを用いて成形し、その後、アニール処理を施せば、使用時に基板収納容器から発生するアウトガスを著しく低減することができる。
【0044】
合成樹脂の荷重撓み温度は120℃以上が要求されるが、これは、荷重撓み温度が120℃以上の場合には、容器本体1のシール性の低下を防止したり、基板収納容器の空気を不活性ガス等に置換した際の効果が期待できるからである。
【0045】
すなわち、半導体ウェーハWは、高温状態で熱処理されて80〜100℃に冷却され、基板収納容器に挿入して保管されることがある。この際、合成樹脂の荷重撓み温度が120℃以上であれば、容器本体1の半導体ウェーハWと接触する接触部が変形したり、基板収納容器にこもった熱で容器本体1が変形し、容器本体1の正面6のシール性が低下するおそれを払拭することが可能となる。この結果、ガスケットにより高い密封性が維持できるので、例え基板収納容器の空気を不活性ガスやドライエアに置換しても、優れた効果が期待できる。
【0046】
以上の点に鑑み、容器本体1の各支持片7は、熱処理された半導体ウェーハWとの接触に伴う変形を抑制防止するため、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形される。この成形材料の合成樹脂としては、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂があげられる。これらの中でも、剛性に優れる液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0047】
このような合成樹脂で各支持片7を成形すれば、支持片7に半導体ウェーハWを安全に保持することができるので、半導体ウェーハWの位置ずれを防止したり、半導体ウェーハWに悪影響を及ぼすパーティクルの発生を防ぐことができる。特に、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、あるいはポリブチレンテレフタレートは、耐熱性に優れるので、これらを選択的に採用して支持片7を成形すれば、熱処理された半導体ウェーハWとの接触に伴う有機物の発生を低減したり、この半導体ウェーハWに有機物が付着するのを防止できる。
【0048】
容器本体1の各開閉バルブ9も、コイルバネやフィルタを除き、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形される。この合成樹脂としては、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、若しくはポリフェニレンサルファイド(PPS)から選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂が該当する。
【0049】
このような合成樹脂を含有した成形材料で開閉バルブ9を成形すれば、気体の置換時に気体に水分を放出したり、気体置換後の放置状態において、基板収納容器の内部に水分を放出することがなく、基板収納容器の相対湿度を5%以下の低い値に維持することができる。
【0050】
蓋体20のフロントリテーナ25についても、熱処理された半導体ウェーハWとの接触に伴う変形を抑制するため、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形される。合成樹脂としては、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂があげられ、好ましくは剛性に優れる液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレートが良い。
【0051】
成形材料は、上記した合成樹脂のみでも良いが、基板収納容器が工程内用として使用される場合には、半導体ウェーハWにパーティクルが付着したり、静電気の放電に伴う半導体ウェーハWの損傷を防止する観点から、導電性フィラーを適量添加して調製されることが好ましい。導電性フィラーとしては、導電性カーボンブラック、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維、金属酸化物、導電性ポリマー等があげられる。また、これらの材料の1種類と他の材料のアロイ、これらの組み合わせでも良い。
【0052】
例えば、先に示した合成樹脂群から選択された合成樹脂にカーボン繊維を10〜30wt%添加すれば、基板収納容器の体積抵抗値を10Ω以下、好ましくは10Ωとすることができる。このように基板収納容器の体積抵抗値を10Ω以下とすれば、基板収納容器に収納された半導体ウェーハWにパーティクルが付着したり、静電気の放電に伴う半導体ウェーハWの損傷を防止することが可能になる。
【0053】
上記構成によれば、基板収納容器の成形材料中の合成樹脂を低水分率の合成樹脂とするので、基板収納容器の内部を窒素ガス(純度99.999%)で置換して基板収納容器内の相対湿度を1%と低くし、気体の置換を停止して基板収納容器を放置し、この基板収納容器内に予め設置した湿度計により相対湿度を測定した場合に、この湿度を1時間以上保持することができる。したがって、基板収納容器内の湿度を低く維持することができるので、半導体ウェーハWの汚染を防止し、例え半導体ウェーハWの表面に回路パターンを形成して保管した後でも、回路パターンの腐食防止を図ることができる。
【0054】
また、基板収納容器の外表面から内表面へと連通する部分を有する容器本体1と蓋体20、あるいは開閉バルブ9とを、吸水率が0.1%以下、80℃で24時間加熱してダイナミックヘッドスペース法により測定した総アウトガス量が15ppm以下の成形材料で成形するとともに、半導体ウェーハWと接触する複数の支持片7とフロントリテーナ25とを、吸水率が0.1%以下、80℃で24時間加熱してダイナミックヘッドスペース法により測定した総アウトガス量が15ppm以下の成形材料で成形するので、基板収納容器内の相対湿度を5%以下の低い状態に長期に亘り維持することができる。
【0055】
さらに、これらの成形材料として、上記特徴の他、荷重撓み温度が120℃以上の成形材料を選択すれば、基板収納容器のシール性を損なうのを有効に抑制防止し、より長期に亘り基板収納容器内の相対湿度を低く維持することが可能となる。
【0056】
なお、基板収納容器の密封性が十分でない場合、基板収納容器の内部に外部の空気が侵入してしまうので、基板収納容器内の相対湿度を低く維持することが困難になる。そこで、密封チャンバに基板収納容器をセットしてこれらを−30kPa、−0.3kPaにそれぞれ減圧し、基板収納容器の内部圧力の推移を観察したとき、基板収納容器を減圧状態で密封維持できることが好ましい。
【0057】
また、上記実施形態では容器本体1の両側壁5に複数の支持片7を並設したが、容器本体1の両側壁5に複数の支持片7を一体成形しても良いし、成形した容器本体1の両側壁5に別体の支持片7を後から取り付けても良い。また、容器本体1のボトムプレート10は、開閉バルブ9と同様の成形材料で成形しても良いし、省略しても良い。
【0058】
さらに、上記実施形態のフロントリテーナ25を、筐体21の裏面中央部に着脱自在に装着される縦長の枠体と、この枠体の一対の縦桟部間に架設されて上下方向に並ぶ複数の弾性片26と、各弾性片26に形成されて半導体ウェーハWの周縁部前方をV溝により保持する保持ブロック27とから構成しても良い。
【0059】
次に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例〕
・基板収納容器内の相対湿度の測定
図1や図2に示す容器本体、支持片、開閉バルブ、蓋体、及びフロントリテーナを表1に示す成形材料によりそれぞれ成形し、実施例1、2、3の基板収納容器をそれぞれ製造した。
【0060】
実施例1、2、3の基板収納容器をそれぞれ製造したら、密閉した基板収納容器の内部を純度99.999%の窒素ガスで置換して基板収納容器内の相対湿度を1%まで低下させ、気体の置換を停止して基板収納容器を放置し、その後、基板収納容器内に予め設置した湿度センサにより湿度を測定することにより、基板収納容器内の相対湿度が5%を超える時間を計測し、計測値を表2にまとめた。
【0061】
・抵抗率の測定
実施例1、2、3の基板収納容器の表面抵抗値を抵抗値測定器(三和MIテクノス社製:モデル5501DM)によりそれぞれ測定し、表2にまとめた。基板収納容器の表面抵抗値は、ASTM D257に準拠し、温度24℃、湿度50%の環境下で測定した。
【0062】
・アウトガス総量の測定
実施例1、2、3の基板収納容器の成形材料のアウトガス量を測定するため、材料ペレット0.1gにつき、ヘッドスペース法により、高純度ヘリウム流通下で80℃、60分の条件で加熱した場合に発生するアウトガスを捕集してガスクロマトグラフで分析した後、n‐デカンを標準物質としてアウトガスの総量を計測・定量し、その結果を表2にまとめた。
【0063】
〔比較例〕
図1や図2に示す容器本体、支持片、開閉バルブ、蓋体、及びフロントリテーナを表1に示す成形材料によりそれぞれ成形し、比較例の基板収納容器を製造した。こうして比較例の基板収納容器を製造したら、実施例同様、基板収納容器内の相対湿度の測定、抵抗率の測定、アウトガス総量を測定して表2にまとめた。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
実施例1、2、3の基板収納容器は、相対湿度の測定、抵抗率の測定、アウトガス総量の測定に関し、実に良好な結果を得ることができた。これに対し、比較例の基板収納容器は、良好な結果を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0067】
1 容器本体
2 底板
3 天板
4 背面壁
5 側壁
6 正面
7 支持片(支持体)
9 開閉バルブ
12 リムフランジ
20 蓋体
21 筐体
22 表面プレート
23 施錠機構
25 フロントリテーナ(リテーナ)
W 半導体ウェーハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収納する容器本体と、この容器本体の開口部にガスケットを介して着脱自在に嵌め合わされる蓋体とを備え、これら容器本体と蓋体とを、吸水率が0.1%以下、80℃で24時間加熱してダイナミックヘッドスペース法により測定した総アウトガス量が15ppm以下の合成樹脂含有の成形材料でそれぞれ成形した基板収納容器であって、
成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂としたことを特徴とする基板収納容器。
【請求項2】
開口部に蓋体が嵌め合わされた容器本体内の気体を置換してその相対湿度を5%以下とする場合に、この相対湿度が5%以下の状態を2時間以上保持可能とした請求項1記載の基板収納容器。
【請求項3】
成形材料の合成樹脂の荷重撓み温度を120℃以上とした請求項1又は2記載の基板収納容器。
【請求項4】
容器本体内に基板支持用の支持体を備え、この支持体を、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とした請求項1、2、又は3記載の基板収納容器。
【請求項5】
容器本体に気体置換用の開閉バルブを取り付け、この開閉バルブの一部を、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、若しくはポリフェニレンサルファイドから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とした請求項1ないし4いずれかに記載の基板収納容器。
【請求項6】
蓋体に基板支持用のリテーナを取り付け、このリテーナを、荷重撓み温度が120℃以上、吸水率が0.1%以下の合成樹脂含有の成形材料で成形するとともに、この成形材料の合成樹脂を、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、若しくはポリエチレンテレフタレートから選択された少なくとも一種、又はこれらのアロイ樹脂とした請求項1ないし5いずれかに記載の基板収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−18771(P2011−18771A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162359(P2009−162359)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】